ただただシロナさんとまったり過ごすだけの話   作:職業病

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女主人公一部集結

短め(2万5千字)

遅れてすみません。
31話です。


31話 トバリシティ

人々で賑わう街を歩きながらシロナは一人目的地に向けて歩いていた。

シンオウ地方チャンピオンであるシロナは当然有名であり、視線を多く引き付けている。多くの視線を受けながらもシロナは優雅に歩いていった。

 

「あ、シロナさーん!」

 

シロナを呼ぶ声を聞き、シロナはそちらに視線を向ける。視線の先には白いニット帽を被った一人の少女がいた。

 

「ヒカリ、お待たせ」

 

今日シロナは、ヒカリと会う約束をしてトバリシティまで来た。元々二人は連絡先を交換しており、時折連絡を取り合っていた。そこで以前、ミオシティで起きた悪夢の事件を解決したお礼をということで会う約束を取り付けたのだった。

 

「いえ、時間5分前です!」

「ふふ、よかった」

 

ヒカリはシロナの横を見て、もう一人来るかもしれなかった人物の人影がないことを確認すると、少しだけ寂しそうに眉を下げた。

 

「…カイムさんは、やっぱり来れなかったんですね」

 

できることならカイムもここに、という話ではあった。しかし残念なことに、今日はジムチャレンジの予約で埋まってしまい、ここに赴くことは出来なかった。

 

「ええ。残念がってたわよ。よろしく伝えるように言われてきたわ」

「あたしも残念です。カイムさんともまたお会いしたかったので。前に会った時はバタバタしてたから…」

 

ヒカリがカイムと最後に会ったのは比較的最近で、例の悪夢の事件以来だった。あの時は解決に奔走し、そしてそのままヒカリは戻ってしまったため、あまりカイムと話す時間もなかった。

新たにジムリーダーに就任したカイムと色々話してみたかったのだが、残念ながらその機会はまた今度らしい。

 

「立ち話もあれだし、移動しましょ。いい喫茶店知ってるの」

「はい!行きましょう!」

 

シロナはヒカリと共に歩いていく。その際にシロナはもちろんだが、シンオウリーグ決勝戦でシロナとバトルしたヒカリもそれなりに有名人であるため視線を大いに引き付けていたのだが、二人とも気にすることなく、普段通りの姿で雑談を続けていた。

 

 

 

 

 

「じゃあ、あれ以来満月島には行ってないのね」

 

喫茶店に入り、シロナはコーヒーを飲みながらヒカリにそう問いかける。ヒカリもシロナの問いに紅茶を置きながら答えた。

 

「はい。あの時だけです。特別いく理由もありませんし、何より道中かなり険しい道なんです」

「絶海の孤島だものね…ポケモンのなみのりでも到達できない距離だし、わざわざいくものでもないわね」

 

ヒカリが訪れた満月島はミオシティの港から船を出してかなりの距離を行ったところにある島だ。距離が非常に長く波も荒いため、簡単に訪れることはできない地理であり、相当なみのり慣れしたポケモンでも人を乗せて到達することはほぼ不可能な距離だった。

直線距離ならばキッサキシティからの方が僅かに近いが、あの土地はバトルフロンティアのある島行きの船しか出ていないし、出せない地理的条件だった。故にミオシティからしか出発することはできない。

 

「満月島にいたクレセリアってポケモンが、三日月型の羽を残してくれたんです。その羽の力で男の子を悪夢から目覚めさせることができたんですけど…」

「肝心の悪夢に囚われた原因がわからないのよね」

 

ヒカリの言うクレセリアは時折シンオウ地方の伝承に名前の出るポケモンだ。なんでもその羽は悪夢を祓う力があるのだとかなんとか。伝承の通りクレセリアの羽は悪夢を祓うことができたが、一番問題である何故悪夢に囚われたのかという部分が今のところ何もわかっていない。実際に事件を解決したヒカリならば何か手がかりを掴んでいるかもしれないとシロナは考えていたが、どうやらヒカリでもまだわからないらしい。

 

「とりあえずクレセリアの残した三日月の羽は大事にとってあります。また同じことが起こったらあたしを呼んでください」

「ええ。助かるわ」

 

また同じことが起きた場合、カイムはもちろんシロナでもどうすることもできない。そのためヒカリに頼るしかないというのが、二人にとって心苦しい現状ではあった。

 

ヒカリは一度紅茶を口にすると表情を明るくしてシロナに語り始めた。

 

「そうだシロナさん!聞いてください!」

「どうしたの?」

 

真剣な表情から一転、年相応の少女のような表情を見せるヒカリに対してシロナは優しく笑いかける。そんなシロナの表情に笑顔を向けながらヒカリは話し始めた。

 

「この前、ジュンと一緒にバトルタワーに挑戦したんです!それで連勝して、タワータイクーンとバトルできたんですけど、そのタワータイクーンがジュンのお父さんだったんです!」

「タワータイクーンっていうと、クロツグさんね。それでジュン君はリーグ決勝トーナメントに出てた子よね。親子だったのね」

 

シロナもクロツグとは何度か会ったことがあり、バトルもしたことがある。あの伝説のポケモン、ヒードランを従えることが可能なほどの腕を持つトレーナーであり、シロナも負けたことがあるほどの腕前を持つ。

 

「これ、バトルタワーで撮った写真です」

 

そう言ってヒカリが差し出して来たスマートフォンに映った写真には、ヒカリと金髪の少年、そしてその少年の面影がある一人の男性が写っていた。クロツグとジュンはやはり親子と言うべきか、非常に似通った顔立ちをしていた。

 

「あら、いい写真ね」

「ジュンとクロツグさんと撮ったんです。クロツグさん、本当に強くて…あたしとジュンの二人がかりでも押し切られそうになっちゃうくらいでした。ジュンとのコンビネーションがうまくいったから勝てましたけど、あの時の機転がなければ負けてました」

「クロツグさんは強いわよ。私がチャンピオンになる前にバトルした時は、全然歯が立たなかったわ」

 

まだシロナがチャンピオンになる前、当時チャンピオンだったクロツグとバトルしたことがあった。その時までほとんど負けることがなかったシロナもバトルしたのだが、ほとんどなにもさせてもらえず負けてしまった。当時のシロナはまだバッジ集めの最中だったとはいえ、それなりに強くなっていた。なのに一方的にやられてしまうという経験をしてしまったが、この負けた経験がシロナをさらに強くしたきっかけになったことを懐かしく感じながら思い出した。

 

「今なら、どちらが強いですか?」

「どうかしら。一概には言えないけど、負ける気はしないわね」

「あはは!さすがシロナさんです!でも、次バトルする時は負けませんよ」

「あら、私も負けないわ」

 

互いに挑発するような覇気をぶつけ合い、そして数瞬の後笑った。

 

「バトルはまた今度ね」

「はい!今日はショッピングですもんね!」

「うふふ、そうよ。じゃ、行きましょうか」

 

残ってるコーヒーを飲み干し、シロナは立ち上がる。そして二人分の代金を支払って店を出る。ヒカリもそれに続いて店を出た。

 

 

 

 

 

 

シロナとヒカリはブティック『ゆびをふる』に来ていた。

服を専門的に取り扱っており、シンオウ地方の中では非常に有名な店だった。シロナも何度か世話になったことがある。

そしてその店で、シロナはノリノリでヒカリの服を物色していた。

 

「せっかく春だし、ちょっと大人っぽくしてみる?」

 

シロナは取った服をヒカリに当ててみながら言う。今シロナが手に取っているのは、紺色のトップスと白いインナー、そしてベージュのロングスカートだった。

 

「わあ…こんな大人っぽいの着たことないです!」

「どう?悪くないと思うんだけど」

「に、似合います?あたしにはまだ早いんじゃ…」

 

ヒカリとしてもこういう少し大人っぽい服装に興味が出てくる年頃ではあるが、まだまだ自分が子供であるという自覚もあるため、まだ早いのではないかという思いが強かった。

しかし鏡で見た限り、シロナの目にはよく似合っているように見えた。

 

「あら、ヒカリもそれなりに旅をしてきたでしょ?もう立派なレディよ。それに、私にはちゃんと似合っているように見えるわ」

「じゃ、じゃあ…とりあえず試着してみます」

 

ヒカリ自身興味があるだけでなく、シロナの勧めもありとりあえず試着することとした。シロナから服を受け取り、試着室へと入っていった。

 

ヒカリが着替えている間に、シロナも自分の服を軽く物色してみた。

 

(うーん、カイムが好きそうな服は…確か前デートした時に、カトレアみたいな服装を選んでくれたのよね。カイムはああいうのが好き…なのかしら?)

 

シロナはカイムが好きそうな服という判断基準で服を選んでいた。以前服を選んでもらった際の服は、カトレアが着そうなものだった。ただあの時はマネキンが着ていた服をそのまま選んだに過ぎないため、判断基準としていいのか微妙なラインである。

 

(こういうことに関しては、イマイチ好みがわからないのよね。本人も理解してない感じあるし…今度デートした時にはっきりさせようかしら)

 

判断基準がカイムの好みになっていることに一切疑問を持たないシロナだった。

 

シロナがそう悩んでいるうちに、ヒカリは試着を終えて試着室のカーテンを開いた。普段の服装とは打って変わり、落ち着いた雰囲気のある服装であるため、ヒカリ自身の雰囲気も随分と変わって見えるものになっていた。

 

「ど、どうですか?」

「あら、似合うじゃない!とっても素敵よ」

「そ、そうですか?」

 

ヒカリとしても鏡に映る自分の姿は今までにない感じで、悪くないようにも見えた。大人っぽい服装ではあるが、自分が着ても違和感がないくらいの大人っぽさであるため思いの外似合っているような感じはあった。

 

「へ、変じゃないですよね?」

「変じゃないわよ。よく似合っているわ」

「ありがとうございます」

「んー…でも、もうちょっと何か付け加えればもっと素敵になる気がするのよね。今のもよく似合っているんだけど、もうワンポイント欲しい感じがするわ」

 

今の服装だけでもヒカリの魅力を十分に引き出せているような感じはするのだが、シロナとしてはもう一歩うまくできそうな感覚があった。

 

「んー…なんだろ。何か足りない感じが…」

「この帽子なんてどうですか?」

 

突如、知らない声が聞こえる。声がした方を見ると、黒い帽子とサングラスが特徴的な服装の少女が帽子を持って立っていた。

 

「勝手にお話に割り込んですみません。お悩みみたいだったので、これが合っているんじゃないかなって思いまして」

 

店員、では無さそうだが、確かに少女が差し出してきた帽子は今のヒカリの服装に非常によく合っていた。シロナとしても足りなかったものがこれだと確信できるほどの組み合わせになった。

 

「あら、すごくいい。貴女、いいセンスしてるわね」

「この服に合ってる…この一瞬で見極めるなんてすごいね」

「えへへ。おしゃれにはちょっと自信あるんです」

 

そこで少女は自分が名乗っていないことを思い出し、軽く服を整えるとシロナとヒカリに向き直った。

 

「申し遅れました。あたし、カロス地方出身のセレナっていいます。突然すみませんでした」

「あ、あたしヒカリ!よろしくね!」

「シロナよ。よろしく」

 

セレナと名乗った少女はにこりと笑うと二人に向けて話し始めた。

 

「シンオウ地方チャンピオンのシロナさんと、前回のリーグでシロナさんとバトルしてたヒカリさんよね?」

「あら、知ってくれてるのね」

「あ、あたしのことも知ってるの?」

 

シロナはともかく、まさか自分が他の地方出身の人に知られているとは思わなかったヒカリは思わず声を上げた。そんなヒカリの様子を見てセレナは楽しそうに笑う。

 

「もっちろん!同い年であんなに活躍しているんだもの!」

「う、嬉しいような、恥ずかしいような…でもありがとう。知ってもらえたのは素直に嬉しいよ」

「あたしも有名な人に会えて嬉しいわ。まさかこんなところで会えるなんて思いもしなかったもの」

 

セレナとしても服屋に服を見に来たらチャンピオンと最強のチャレンジャーがいるとは思わなかったため、シロナがいた時は思わず声を上げそうになってしまったほどだった。

 

「この前のリーグの中継を見て、二人のファンになっちゃってね…だから思わず声をかけちゃったんです」

「あら嬉しい。私たちのバトルが心に残ったみたいよ、ヒカリ」

「えへへ…あたしはただ全力でバトルしただけなんだけど…でも嬉しいわ。ありがとう」

 

そこで一度話は途切れたため、シロナは気になっていたことを問いかける。

 

「セレナ、貴女はもしかしてコンテストに?」

「あ、はい。よくわかりましたね」

「コンテストリボンがバッグに着いてたからもしかしてって思ったの」

 

確かにセレナのバッグにはコンテストで優秀な成績を残した者に与えられるリボンが着いていた。それを見てシロナはセレナがコンテストのパフォーマーなのではないかと予測し、そして見事的中させた。

 

「そっか。それでファッションにも精通しているのね」

「はい。元々オシャレは趣味だったので!」

「この帽子、とってもこの服に合ってる!ありがとう…えっと、セレナって呼んでもいい?」

「もちろん!あたしもヒカリって呼ぶね!」

「うん!ありがとうセレナ!」

 

早速仲良くなった二人の少女を微笑ましく思いながらシロナは見つめる。そこで話の途中だったことをヒカリは思い出し、話を先に進めた。

 

「それでセレナはコンテストに出てるんだよね?もしかしてシンオウ地方に来たのもそれが理由?」

「そうなの。今度シンオウ地方のヨスガシティで開かれるコンテストにダリアさんが出るって話があってね。パフォーマーとしてもバトルの腕も高いダリアさんと同じステージに立ちたくてシンオウ地方に来たんだ」

 

ダリアというのは、シンオウ地方のバトルフロンティアにてルーレットゴッデスという通り名でフロンティアブレーンを務める女性のことだ。世界的に有名なダンサーであり、メリッサが非常に尊敬しているらしい。

そのダリアは本来パフォーマーではない。しかし今回、メリッサの誘いもあってか、エキシビションとしてダリアがコンテストに参加するということで界隈では騒ぎになっているらしい。

 

「そういう事情なんだ。セレナってすごいのね!」

「あら、ヒカリだってバトルすごいじゃない。シロナさんとあんなにすごいバトル、あたしにはできないもの」

「うえっ⁈そ、そう?」

「そうよ!自分にしかできないことをしてるんだから、もっと自信持って!」

 

ヒカリとセレナの会話を聞いて、シロナはカイムと出会ったばかりの時のことを少し思い出した。

当時のカイムは己への評価が著しく低く、自分の何もかもを低く見積もっていた。今でこそそれなりに自分を認めるようになったものの、かつての自己評価の低さは相当なものであり、それまでに何も成せなかった無力感が彼の大半を占めていたのだろう。

無論ヒカリはカイムほど自己評価は低く無い。だがヒカリは『自分がやりたいことをやっているだけ』という認識が強く、すごいことを成した自覚が無いのだろう。故にこのように自分が成したことを自覚しない傾向があるのかもしれないとシロナは考えた。

 

「う、うん!ありがとう!」

「うふふ、その意気よ!」

 

なんとなく意気投合(?)した二人を微笑ましくみていると、セレナはシロナに視線を向けてきた。

 

「シロナさんもお洋服選びですか?」

「そうよ。春物と、あと少し暑い日にも着れる服を新調しようと思って」

「そうなんですね!じゃあ、あたしとヒカリも一緒にシロナさんの服を選んでみたいんですけど、いいですか?」

 

シロナは少し驚いたように目を見開くが、すぐに優しくセレナに微笑みかけて頷いた。

 

「ええ。二人のセンス、期待してるわ」

「ふふ、チャンピオンの服を選べるなんてパフォーマーとして光栄ね!頑張ろう!ヒカリ!」

「うん!ついでに、あたしにもおしゃれのこと色々教えてくれる?」

「もっちろん!いっぱい教えてあげる!」

「じゃあシロナさん、どんな服がお望みですか?」

 

セレナに聞かれてシロナは腕を組んで考える。

 

(どんな服、ね。いつも通りの服じゃやっぱり面白味がないし、私が選ぶと似たようなものになっちゃうし…やっぱり必要なのは『いつ着ていく』かが大事よね)

 

いつ着ていくか。そこを考えていなかったため、シロナはそこについて少しだけ思考する。数瞬の思考ののちに出た答えをシロナは口にした。

 

「じゃあ、お出かけ用の洋服を頼もうかしら」

「お出かけ用の…春物と暑い日にも着れる服ですね。わかりました!ヒカリ、行きましょう!」

「うん!ほら、シロナさんも!」

「ふふ、ええ。今行くわ」

 

仲良く店の中を回る二人に手を引かれ、シロナも二人に続くのだった。

 

 

 

 

 

 

しばらく店内を見て周り、着せ替え人形になった結果、最終的にグレーのスキニー、白のトップスにブラウンのベストという組み合わせが最も似合うとわかったため、シロナは選んでもらった服一式をそのまま購入した。

 

「選んでくれてありがとうセレナ!」

「いいのいいの!半分はあたしの趣味だから。シロナさんみたいな大人の女の人の服はあんまりまだ見たことなかったけど、今日シロナさんが色々試してくれたおかげで理解が深まったわ!」

「散々着せ替え人形にしてくれたものね?」

「わわわ!す、すみません!」

 

慌てた様子を見せるセレナの髪を優しく撫でながらシロナは楽しそうに笑う。

 

「気にしないで。私も楽しかったし、おかげで普段とは違ういい雰囲気の服が買えたわ」

「ならよかったです。熱中しちゃって、失礼じゃなかったか少し心配してたので…」

「失礼なんてことないわ。私も楽しかったから心配しなくていいのよ」

 

照れたように笑うセレナにシロナは優しくそう言った。セレナはシロナが本当にそう思っていることを感じ取り、これ以上気にしなくていいと理解した。

 

三人はそのまま雑談しながら店を出る。その際シロナの視界の隅にトバリジムが映り込み、シロナは思わず足を止めた。

 

「シロナさん?」

 

足を止めたシロナをヒカリとセレナは不思議そうに見る。その二人の視線に気づいたシロナはなんでもないと言うように首を振り、二人の後に続く。

 

「ごめんなさい、なんでもないわ」

 

そう言ったシロナの視線の先をヒカリは追う。視線の先には、シロナが見ていたトバリジムがあり、それを見たヒカリは納得した。

 

「ああ、トバリジムを見てたんですね」

「ええ、そうよ」

「トバリジムってことは、シンオウ地方のポケモンジムですよね?」

 

セレナもコンテストメインでやってるとはいえ、カロス地方のジムバッジを全て制覇しているそれなりに腕のあるトレーナー。シンオウ地方に来る前に多少予習はしてあるため、シンオウ地方のジムについてもある程度は把握していた。

 

「そうよ。格闘タイプ専門のジムなの」

「ですよね。確かジムリーダーの方があたし達と同じくらいの年齢だったはず…」

「あら、詳しいわね。そうよ、トバリジムリーダーはスモモっていう女の子なの。少し縁があってね」

 

正確には縁があるのはシロナというよりもカイムなのだが、セレナはカイムのことを知らない。わざわざ説明するものでもないかと少し悩んでいる間に、ヒカリがカイムのことを思い出して口に出した。

 

「あ、縁ってもしかしてカイムさんのことですか?」

「カイムさん?」

「うん。今はミオシティのジムリーダーやってる人よ」

「そういえば、ミオシティのジムリーダーが最近変わったってリーグからのお知らせであった気がする。その人のこと?」

「そうなの。カイムさんは、元々トバリジムのジムトレーナーだったの」

 

そのカイムという人物については納得したが、そのミオシティのジムリーダーとシロナにどういう繋がりがあるのかとセレナは首を傾げた。

それを見たシロナはカイムのことを話し始める。

 

「カイムは私の助手兼弟子なの。トバリジムを紹介したのも私でね。その時のことを少し思い出してたのよ」

 

カイムをトバリジムへ連れて行った日のことは今でも思い出せる。当時、ジムリーダーになったばかりのスモモのもとへカイムを連れて行き、修行のために入会させた。あの時のカイムはまだ今以上に卑屈で、己の実力に懐疑的だった。しかしシロナが指導したことで多少実力をつけられ、もっと上を目指したいという意欲が湧いたこともあり、不安に思いながらも入会したのだった。

 

「シロナさんの弟子かあ…じゃあ、とっても強いんですね」

「ふふ、そうね。でもまだまだ強くなれるわ。カイム自身、まだ気づいていない自分の素質があるもの。それに、私の弟子ならあの程度で満足してもらっちゃ困るわ」

 

楽しそうに話すシロナを見て、セレナはそのカイムという人物がシロナにとって大切な人なんだということを悟った。

 

「大切な人なんですね」

「…ええ。とても大切な人」

 

優しく微笑むシロナの表情を見て、セレナはなんとなくそのカイムという人物がシロナにとってどういう存在なのかを察した。先程までヒカリやセレナに見せていた優しい表情とはまた異なる表情…いや、素顔というべき顔がそう物語っていたからだ。

 

「あたしも会ってみたかったな。そのカイムって人に」

「すごくいい人だよ!本当は今日来るかもしれなかったんだけど、ジムリーダーは忙しいみたい」

「そうだったんだ。残念」

 

大人の女性であるシロナを夢中にさせる人。まだシロナとは会ったばかりだが、やはり経験を積んできた大人としての余裕があるように感じる。

だがそのシロナがカイムの話になった瞬間、表情をパッと明るくした。恐らく無意識なのだろうが、それほどまでそのカイムという人物のことが大切なのだとわかるものでもあった。

それと同時に、クールな大人に見えるシロナにもまた違った一面があるのなだなとセレナは内心で考える。ブティックではクールで、大人らしい姿を見たが、今カイムという人物について話すシロナの姿は恋する乙女以外の何者でもない。だがセレナにとってはそういう一面がある人の方が魅力的に見えた。世間でのシロナのイメージは、クールで完璧なポケモントレーナー兼学者。そんなシロナを称賛する人は多くいるが、完璧でなく、自分の好きな人の話を楽しそうにするシロナの方が遥かに好ましく思えた。

 

「ねえシロナさん。カイムさんの写真ってないの?どんな人か見てみたいわ」

「あるわよ。少し待ってね…あ、これ」

 

セレナの要望に応えてシロナはスマートフォンに保存しているカイムとポケモン達の写真を見せた。ジムリーダーに就任した最初の日に撮った写真であり、新入りのキリキザンも映っている。カイム自身はやはり無表情だが、カイムを囲うポケモン達の表情は明るい。

 

「この人がカイムさん…優しそうな人ですね!」

「でしょ?いつもは無表情で近寄りがたい雰囲気に思われがちなんだけど、とっても世話焼きで優しい人なの」

「そうなんだよ!カイムさん、いつも気にかけてくれるしとっても美味しいごはんも作ってくれるの!」

「え?料理?」

「そう!とっても面倒見がよくてね、すっごくいいお兄ちゃんみたいな人なんだ!」

 

テンガン山での出来事や以前ミオシティであった悪夢の事件の時もカイムはヒカリのことを気にかけてくれた。これらの時間を含めてもヒカリがカイムと関わった回数はあまり多くないが、その数回の関わりでカイムがとても良くしてくれたことは記憶によく残っていた。

 

「いつか、会ってみたいです」

「会えるわよ。きっとね」

 

そう言ってシロナはセレナの髪を優しく撫で、セレナは少しだけ照れ臭そうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

しばし3人で歩き、トバリデパートの方面へ向かっていく。

歩いていると、街中で一部人だかりができているのが見えた。

 

「あれ…なにかしら」

「なんか騒がしいですね。何かあったのかしら」

「うーん…とりあえず行ってみません?」

「そうね。見るだけ見てみましょうか」

 

何があるのかはわからないが、とりあえず行くだけいってみようと意見が固まったため、3人は人だかりができている場所へと向かう。

人混みの隙間から何があるのかを見てみると、中心では二人の少女がポケモンバトルをしていた。

 

「いくよラグラージ!だいちのちから!」

 

リボンをつけた少女のラグラージが『だいちのちから』を相手に向けて放つ。

 

「エンブオー!フレアドライブで受けて!」

 

対してキャップを被った目つきの鋭い少女のエンブオーが強烈な炎を纏い、効果抜群の『だいちのちから』を受けきる。そして受けた勢いをそのまま利用し、エンブオーは加速した。

 

「これで最後よ!アームハンマー!」

 

エンブオーの剛腕がラグラージに叩きつけられる。強烈な攻撃はラグラージの残り体力を吹き飛ばした。

 

「ラグラージ!」

 

ラグラージがダウンしたことで勝負が決した。

 

「やったあ!ありがとうエンブオー!」

「あちゃー…ごめんねラグラージ。頑張ってくれてありがとう」

 

バトルに勝った少女はエンブオーに抱きつき、負けた少女はラグラージを労ってボールに戻す。周囲のギャラリーも二人のバトルを讃えて拍手を送っていた。

 

(あら?あのキャップの子、どこかで…)

 

シロナは今バトルしていたキャップを被った少女に見覚えがあったが、どこで見たのかが思い出せない。そんな前ではないはずだが、なかなか思い出せずにいると、セレナが人混みをかき分けて二人の少女に歩み寄っていく。

 

「ハルカ?ハルカよね?」

「あっ!もしかしてセレナ⁈」

「やっぱり!久しぶりハルカ!」

 

仲良さげに話す二人を見て、シロナとヒカリ、そしてハルカと呼ばれた少女とバトルしていた少女は彼女達が知り合いなのだと察する。

ギャラリー達が戻っていくのとは逆方向にシロナとヒカリは歩いていき、セレナと仲良さげに話す少女のもとへと向かった。

 

「あ、シロナさん!紹介しますね!この子はハルカ。前にあたしとコンテストに出場したことがあるの!」

「えっ⁈し、シロナさん⁈」

「嘘っ⁈あのシンオウ地方チャンピオンの⁈」

 

ハルカと呼ばれた少女と、ハルカとバトルしていた少女がシロナにバッと視線を向ける。どうやら二人はシロナのことを認知しているトレーナーらしい。

 

「はじめまして。シンオウ地方チャンピオンのシロナよ。遺跡の研究をしている物好きなトレーナーでもあるわ」

「あたしはヒカリ。シロナさんの友達!」

「さっきの貴女達のバトルを見せてもらったわ。最後の方しか見れなかったけど、気持ちのこもったとてもいいバトルだったわね」

「ありがとうございます!あ、あたしはハルカです。コンテストパフォーマーで、ホウエン地方から来ました」

 

ホウエン地方、コンテストと聞いてシロナはルチアの姿が脳裏によぎった。見たところハルカとルチアは同年代くらいだろう。もしかしたら二人はどこかで繋がりがあるのかもしれないとシロナは内心で考える。また、コンテストパフォーマーということでカロス地方出身のセレナとの繋がりも不自然ではない。

 

「よろしくね、ハルカちゃん。それで貴女は?」

 

シロナはハルカに自己紹介を終えると、ハルカとバトルしていた少女へと視線を向けた。視線を向けられた少女は快活に笑うと、腰に手を当てて名乗る。

 

「わたし、トウコっていいます。イッシュ地方から来ました!」

「トウコ…あ、もしかして貴女、以前イッシュリーグ出てた?」

 

トウコ、という名前を聞いてシロナがこの少女をどこで見たのか思い出す。それは前々回イッシュリーグにトウヤと共に出場していたまだ年若いトレーナーとしてバトルしていた場面だった。

 

「えっ⁈み、見てたんですか⁈」

「ええ。イッシュ地方の四天王、カトレアとは親交があってね。カトレアが出るから中継を見ていたの」

 

その大会自体はプラズマ団の介入によって崩壊、というか趣旨が変わってしまったが、その時の大会でベスト8まで残っていた記憶がある。

 

「そうだったんですね。でもまさかこんなところでシロナさんと出会えるなんてラッキーね!」

「うふふ、ありがとう。でもどうしてイッシュ地方からシンオウ地方に?」

 

ハルカはコンテストパフォーマーということで、多分セレナと同じでダリアが出場するコンテストに出ることが目的なのだろうと考えたが、トウコはそうではないらしい。ならばトウコの来訪目的はなんだろうと気になり、シロナは聞いた。

 

「端的に言えば修行です。次回のポケモンリーグでアイリスに勝てるようにするために、色んなトレーナーを見て、バトルして、わたしなりにやれることを探すために色んな場所を巡っているんです」

 

ポケモンリーグベスト8というと、その地方の中でも指折りの実力者だ。だがそれに満足することなく、己を鍛えるためにここまで来る気概は先日会ったミカンを彷彿とさせる。

少なくともジムリーダー並みかそれ以上の実力があるトウコだが、その大会で四天王であるギーマに敗れた。その時に四天王との圧倒的な実力差を実感し、修行に来たのだという。

 

「そう。それでシンオウ地方まで来たのね」

「はい!もっともっと強くなって、いつかチャンピオンになります!だから…」

 

そこで一度トウコは言葉を切ると、シロナに強い覇気をぶつける。

 

「シロナさん、わたしとバトルしてください!」

 

シロナは一瞬だけ驚いたように目を見開くが、すぐに不敵な笑みを浮かべてトウコに負けないくらいの覇気を纏った。

 

「ええ、いいわよ。ヒカリ、セレナ。少しだけいい?」

「はい!あたしもシロナさんのバトル、見たいです!」

「バトルは専門外だけど、是非みたいです!」

「え⁈シロナさんとトウコがバトル⁈見たい見たい!」

 

ヒカリ、セレナ、ハルカが二人のバトルを見たいと言う。そして相手のトウコも今にもバトルし始めそうな表情をしていた。

 

「ふふ、ありがとう。じゃあ1 on 1で良ければバトルしましょう」

「はい!ありがとうございます」

 

トウコは一度そこで息を吐くと、キャップを軽く上げて真剣な表情でシロナを見据えた。鋭い視線がシロナを貫き、ビリビリと発せられる覇気はカトレアやゴヨウ並みに鍛えぬかれた努力を感じられる。

 

「この勝負、わたしが勝つ!」

「貴女のことを教えてもらうために、全力でぶつかるわ。でも簡単に越えられると思わないことね!」

 

トウコの鋭い視線に対抗してシロナは獰猛な笑みを浮かべた。そしてシロナから発せられる覇気の強さは、トウコがリーグで敗北したギーマの覇気よりもさらに強い。シロナのチャンピオンとしての強さの一端をトウコは肌で感じ取り、冷や汗を流した。

そして互いにモンスターボールを構え、同時に投げた。

 

「お願い、ロズレイド!」

「いって!エンブオー!」

 

シロナはロズレイド、トウコはエースであるエンブオーを繰り出した。タイプ的にはシロナは出し負けた形になるが、タイプ相性だけでバトルは決まらないということをシロナだけでなく、トウコもよく理解している。トウコが油断する理由にはならない。

 

「エンブオー!ニトロチャージ!」

 

エンブオーは炎を纏って突撃してくる。ロズレイドは特防は高いが物理防御は低い。威力の低い『ニトロチャージ』といえども、まともに受ければ大きなダメージになるだろう。

 

「ロズレイド、ヘドロばくだん」

 

エンブオーの顔面に向けてロズレイドは『ヘドロばくだん』を放ち、一瞬視界を塞ぐ。エンブオーにほとんどダメージはないが、その視界を塞がれた一瞬でロズレイドはエンブオーの頭上を飛び越え、攻撃体勢に入った。

 

「エンブオー!上よ!」

「マジカルシャイン!」

 

フェアリータイプの『マジカルシャイン』がエンブオーを貫く。炎・格闘タイプを持つエンブオーにフェアリータイプの技は等倍だが、特防が高くないエンブオーには大きなダメージになった。

だがシロナが想定していたよりもダメージが少ない。エンブオーの特防はそう高くないはずだが、ここまでダメージが抑えられているのは恐らく持ち物の影響だろう。

 

(とつげきチョッキ、かしらね)

 

特防を上昇させる『とつげきチョッキ』であれば、ダメージが少ないこともわかる。

ならそう考えた上で動くだけだとシロナは即座に脳内でどうバトルを進めるか組み立てた。

 

「フレアドライブ!」

「ヘドロばくだん!」

 

『ニトロチャージ』とは比べものにならないほどの炎がエンブオーの全身を包みこむ。そして己への反動も顧みないほどの勢いで突進してきたところに、ロズレイドは再び毒の塊をぶつけた。

 

「それはもう見たわ!」

 

先ほどのロズレイドの行動からトウコとエンブオーは即座に『ヘドロばくだん』の対応を行う。炎を纏ったままエンブオーの剛腕は毒の塊を弾く。そしてそのままロズレイドへと突っ込んできた。

 

「もう一度ヘドロばくだん!」

 

ロズレイドはシロナの意図を瞬時に汲み取り、毒の塊を目前まで迫ってきたエンブオーに向けてほぼゼロ距離でぶつけた。ぶつけられた毒の塊は爆弾と称された通りに爆発し、ロズレイドの身体もろとも吹き飛ばした。

 

(ヘドロばくだんの爆発を利用した⁈)

 

ロズレイドは自身の技の勢いを利用し、エンブオーの攻撃から逃れた。ただの偶然にも思えるが、実際それによってほとんどダメージを受けることなくエンブオーの『フレアドライブ』から逃れている。それだけでなく、至近距離の攻撃によってエンブオーの身体は毒に蝕まれてしまった。

 

(毒をもらった!なら一気に決める!)

 

毒を受けた以上、長期戦は不可能。できることは速攻で決めることだとトウコは判断した。

 

「ならこうよ!もう一度ニトロチャージ!」

 

再びエンブオーは炎を纏い、ロズレイドに肉薄する。素早さが一段階上昇した身体能力でロズレイドに突撃してくるが、ロズレイドの素の素早さはそれなりに高い。加えて鍛え上げた身のこなしを利用することでエンブオーの攻撃を回避した。

 

だがその瞬間、ロズレイドは己の失策を悟った。

 

「そこからしねんのずつき!」

 

敢えて威力を抑えた『ニトロチャージ』だが、追加効果である素早さの上昇は当然存在する。素早さを上昇させ、その素早さを使い『しねんのずつき』をロズレイドにぶつけた。

 

(これは早業!使い所がうまい!)

 

ロズレイドは回避することができず、エンブオーの『しねんのずつき』を受けてしまう。この早業を習得していること以上に、使い所の良さにシロナは内心で賞賛を送る。

 

「よしっ!」

 

そしてトウコは物理防御の低いロズレイドであれば、タイプ不一致の技であっても削りきれるとトウコは判断した。

だが、シロナの目はまだ負けていない。それどころか『こうなることを待っていた』かのような表情をしている。

 

「マジカルシャイン!」

「っ⁈」

 

完全に決まったと思っていたトウコは反撃された事実に一瞬体が固まり、『マジカルシャイン』の直撃を受けてしまう。不十分な体勢で受けたためエンブオーはロズレイドの攻撃に膝をついてしまう。その隙を突いてロズレイドはエンブオーに追撃を加えた。

 

「ヘドロばくだん!」

 

追撃の攻撃がエンブオーに迫りくるが、エンブオーもただで受けることはしない。

 

「アイアンヘッド!」

 

毒タイプを無効にできる鋼タイプの力を頭に纏い、『ヘドロばくだん』を受ける。ダメージは最小限に抑えられ、それによって体勢を立て直す時間を得た。

エンブオーが体勢を立て直すと、ロズレイドは毒の力を地面に向けて走らせる。その毒の力はエンブオーの身体に巻き付いたが、ダメージはない。

 

「これは…ベノムトラップ!」

「正解。素早さがこれでマシになったかしら?」

「まだまだこんなもんじゃないわ!フレアドライブ!」

「あまごい」

 

エンブオーが炎を纏うが、ロズレイドは空に向けて両手を掲げると雨が降り始めた。降り注ぐ雨はエンブオーの炎の勢いを抑える。

 

「ダメージは入ってる!威力半減でもこれだけダメージを与えてれば倒せるわ!いって!」

 

雨の中でも負けない炎の勢いは、トウコの闘志の熱さを表現しているようだとシロナは内心で考える。目に宿る意志の強さ、鍛えられたポケモン…これらからトウコが如何に強く、才能に溢れたトレーナーなのかがよくわかる。

 

(…それに、誰かに似てる?)

 

同時にシロナは僅かに違和感を感じた。バトルではなく、トウコの容姿がどこかで見た誰かと似ているような感覚がしたのだ。

 

しかしバトルには関係ない、と即座にその思考を振り払う。

迫り来るエンブオーに対してロズレイドにどう動くか指示を出した。

 

「ギリギリまで引きつけて!確かに今受けたら間違いなく倒れるけど、貴方ならできるわ!ロズレイド!」

 

ロズレイドはシロナの言葉に頷く。

そして眼前までエンブオーが迫った瞬間、シロナの指示を瞬時にロズレイドは遂行した。

 

「3歩右よ!」

 

ロズレイドはギリギリでエンブオーの攻撃を回避すると、その手をエンブオーに向けて掲げた。

 

「マジカルシャイン」

 

フェアリータイプの光がエンブオーを貫く。大きなダメージを受けたエンブオーはギリギリ体力が残ったが、毒が全身に回ってしまい力尽きてしまう。

 

「エンブオー!」

「勝負ありね」

「負けた…本気だったのに」

 

トウコも、ポケモンリーグ本戦に出られるくらいの腕を持つトレーナー。バトルの腕には自信があったのだが、ほぼ一方的にやられてしまった。

 

「これが、チャンピオン…!」

「ふふ、少しは私のことを理解してくれた?」

 

そう言いながらシロナはトウコに手を差し出した。

シロナの言葉にトウコは満面の笑みで答えながら、その手を取る。

 

「バトル、楽しかったわ」

「わたしもです!次は負けませんから、絶対、ぜーったいまたバトルしてくださいね!」

 

バトル中とは打って変わり年相応の少女のような笑みを浮かべるトウコに、シロナは優しく微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、トバリデパートのカフェで5人は仲睦まじく女子トークをしていた。

 

「じゃあハルカもコンテストに出場しに来たのね」

「はい!あたしはルチアに誘われてここまで来ました」

 

トウコの来訪目的は修行だったが、ハルカの来訪目的はやはりコンテストだった。ハルカはホウエン地方出身であり、ルチアにスカウトされる形でコンテストの世界に足を踏み入れたらしい。現在はコンテストで実力を伸ばしており、年若いこともあって界隈では有名だとか。

 

「ダリアさんって、フロンティアブレーンよね?その人がコンテスト出るの?」

「そうよ!まあ今回は競技としてのコンテストっていうより、エキシビションに近いけどね」

 

ハルカの話によると、そのコンテストの出場者としてルチアにオファーが来たらしい。そしてルチアがハルカに声をかける形で今回シンオウ地方に来たのだという。

 

「そう、ルチアちゃんが誘ってくれたのね。あの子、やっぱり行動力あるわね」

「シロナさんは、ルチアと知り合いなんですか?」

「ええ。実は前にちょっとした用事があってホウエン地方に行ったことがあったの。その時にたまたま出会って、仲良くなったのよ」

 

そう言ってシロナはハルカ達にスマートフォンの写真を見せた。スマートフォンにはシロナ、ルチア、カイム、イサナで撮った写真が映されていた。

 

「わあ、良い写真!この写真、船で撮ったんですか?」

「そうよ。このイサナさんって方が船を出してくれて、離島まで行ってきたの」

「離島?調査か何かですか?」

「そんなところね」

 

本当は色々と複雑な事情があるのだが、それを詳しく説明するわけにも行かないためシロナはヒカリの問いを軽く流すように答えた。

 

「ルチア、私服もかわいいのね」

「そうなの!顔がいいし、ファッションセンスもいいから映えるんだよね!」

「この服装、ルチアの魅力をうまく出している服装ね。さすがホウエン地方のトップコーディネーター!あたしも見習わないと!」

 

やはりコンテストのコーディネーターとしては見る場所が違う。ハルカ、セレナの視点はコーディネーターとして当然のものであり、トップコーディネーターとして名を馳せるルチアの私服には何かしら学ぶものがあるらしい。

 

「ねえねえシロナさん。この一緒に写っている男の人は誰?」

 

まだカイムのことを知らないトウコはカイムについてシロナに聞いてくる。シロナは少し嬉しそうに笑いながらトウコの問いに答えた。

 

「この人はカイム。今はミオシティのジムリーダーを務めているわ」

「あ、ジムリーダーなんだ!じゃあバトルも強いの?」

「それなりってところかしら?強くはなったけど、まだ伸ばせるわね」

 

カイムの数値としての実力は正直そろそろ頭打ちな部分もある。ブラッキーやバシャーモという古参組はレベルがそろそろ止まるだろうが、技術に関してはまだまだ伸ばせる部分がある。同時にシロナに弟子入りしてから加入したルカリオやムクホーク以降のポケモンもまだ伸ばせる。ジムリーダーとしての経験を積めば、まだ強くなれるだろうとシロナは考えていた。

 

「へえ…もしかして、このカイムさんってシロナさんの弟子か何か?」

 

そしてそんなシロナの口調から、なんとなく教え子らしい口ぶりをトウコは感じ取った。

 

「そうよ。学者としては助手でもあるわ」

「へえ…ジムリーダーだし、強いんだ」

 

ジムリーダー、という単語を聞いてトウコは幼馴染の姿を脳裏に思い浮かべる。数ヶ月前に新たなジムリーダーとして就任した幼馴染、チェレン。彼も旅を経て成長し、今ではトレーナーズスクールの講師を務めながらジムリーダーを兼業しているのだとか。修行の旅であちこちに行っているためジムリーダーとして就任した姿は見てたないが、きっと彼なら立派にやり遂げているだろうとトウコは考え、少しだけ頬を緩めた。

 

「それにね!カイムさんってとってもポケモンに好かれるんだよ!カイムさんの手持ちの子、すごく幸せそうだもん!」

「ポケモンに好かれるかぁ…じゃあ、すっごく良い人なんだね」

「ポケモンのことが好きって人は多いけど、ポケモンに好かれるって人は案外いないよね。ポケモン達から見て『一緒にいたい』って思われる人ってことだから、やっぱトウコさんが言うように優しい人なんだろうね」

 

ヒカリの言葉からこのカイムという人物がとても心優しい人物なのだろうと、カイムのことを知らないトウコとハルカはカイムの人物像についてそう予想した。写真に写るカイムは、無表情ではあるが決して嫌な感じはしない。写真からもわかる人の良さが共に写るブラッキーとバシャーモの姿からも読み取ることができる。

 

「ええ。無愛想で不器用だけど、人にもポケモンにも真摯に接する。そんな人よ」

「大事な人なんですよね」

「そうね、大切。誰よりも大事な人だわ」

 

そう言って右手の薬指につけられた指輪をシロナは優しく撫でる。その姿は普段のミステリアスでクールなシロナとは異なり、優しくて暖かい雰囲気を纏っていた。

 

「大事な人って…もしかして、この人って…」

「そう。シロナさんの恋人よ」

 

ヒカリの言葉にハルカとトウコは思わず声を上げてしまう。まさか恋人だとは思っていなかったため、二人は驚愕の声を抑えることができなかった。

 

「えっ⁈そうなの⁈」

「へえ〜…セレナは知ってたの?」

 

トウコの問いかけにセレナは首を横に振る。

 

「ううん。あたしはさっき知ったばかり。このカイムさんにも会ったことないんだけど、二人と出会う前に軽くシロナさんとヒカリから聞いてたんだ。でもあたしも驚いたよ。シロナさんのプライベートって全然知らないから」

「そうよね…シロナさんって、プライベートがすごい謎に包まれてる感じがするからすっごくびっくりした」

「それ良く言われるんだけど、そんなにミステリアスかしら?」

 

確かに大っぴらにはしていないが、それでもひた隠しにしてはいない。彼氏…カイムの存在は公言していないしインタビューでもプライベートのことはほとんど言わないためそういうイメージがついてもおかしくはないのだが、シロナにその自覚はない。実際年齢も公開していないため、そう思われても仕方ないのかも、と話しながらシロナは内心で考えた。

 

「シロナさん、あんまり自分のこと話さないから」

「そうかもしれないわね。言われてみればあんまり話してないと思う」

 

必要ないから、というのが一番大きいが、シロナ的には自分のことは大切な人たちが知っていればそれで良い。だからわざわざ話そうとしないだけだった。

 

「ねえねえシロナさん!そのカイムさんのこと、もっと教えてくれませんか?」

「あたしも知りたい!」

 

セレナとハルカがカイムのことについて知りたいと申し出てきた。純粋にシロナの助手という存在に興味があるのもあるが、やはり年頃の女の子として色恋沙汰に興味があるのだろう。どことなくその目には興味の光が宿っていた。

 

「いいわよ。じゃあついでに去年行ったいろんな場所のことも話してあげるわ」

「やったー!ありがとうシロナさん!」

「じゃあまずシント遺跡についてね」

 

そう言ってシロナは少女達に写真を見せながら昨年訪れた色々な場所について話し始めた。

 

アルトマーレの写真はシロナ、カイムと共にラティアス、ラティオスが仲睦まじく触れ合っている写真だった。

 

「ここはアルトマーレ。一緒に写っているのはラティアスとラティオスっていう伝説のポケモンよ。アルトマーレの護神って言われているわ」

「伝説のポケモン⁈すごい…そんなポケモンと出会えたなんて…」

 

ハテノ森はシロナとカイムがトワの家族とセレビィと共に食卓を囲んでいる写真。

 

「この森にはセレビィがいてね。時渡りは悪意によって起こった偶然だったけど、とってもいい経験だったわ」

「時渡りを経験したってことですよね?過去にいくなんてすごい経験ですね」

「ディアルガみたいな力を持ったポケモンなんだね」

 

エンジュシティの写真はシロナとカイムが着物姿で鈴音の小道を歩いている姿の写真。

 

「エンジュシティで着た着物はとっても良いものだったわ。それにこのつけている簪もカイムが贈ってくれたものよ」

「わあ!素敵な着物!こういうの着てコンテスト出るのもいいと思わない?セレナ!」

「確かに!今度の衣装とダンス、着物に合わせたものにしてみようかしら。どうハルカ。一緒に考えてみない?」

「うん!やろやろ!絶対すごいステージになるよ!」

(楽しそう)

 

次に見せたのはポケモンリーグスタジアム屋上で肩を寄せ合い、幸せそうな表情をするシロナと優しい表情をするカイムが写った写真だった。

 

「あ、これは前回のリーグの後夜祭ね」

「前回のリーグですね!あたし、あのバトル今でも思い出せます!すっごい楽しいバトルだった!」

「リーグのバトルって最高にアガるよね!わたしもリーグ予選も本戦もとっても楽しかったわ!」

 

バトルガチ勢のヒカリ、トウコはバトルに関するところで話しているが、セレナとハルカはこの写真が付き合った直後なのではないかと直感した。

 

次の写真はサザナミタウンでシロナとカトレア、シキミ、アイリスが水着姿で写っている写真だった。

 

「これはサザナミタウンに行った時ね。カトレアの別荘でみんなで過ごしたのよ」

「わあ!みんな綺麗!」

「アイリスもいたんだ!それに四天王の二人も!シロナさん、二人と知り合いなんですか?」

「そうよ。カトレアとはもう結構長い付き合いになるわ。トウコはイッシュ地方出身よね?今度機会があれば一緒にどうかしら!」

「え⁈いいんですか⁈いくいく!」

 

シロナが写真をスクロールすると、そこに写っていた人物にトウコは思わず声を上げた。

 

「えっ⁈この人…」

「あ、トウコは知っててもおかしくないわね」

「この人のことを知ってるの?トウコ」

 

ハルカの問いにトウコは頷く。

 

「この人は、前にイッシュリーグを襲ってきたプラズマ団の王…N。行方不明って聞いてたけど…どこで会ったの?」

「リュウラセンの塔よ。偶然…ではないけど、カイムがちょっと縁があったみたい」

「トウヤ…あ、わたしのいとこがNのこと探してたの。このこと後で教えてあげないと」

 

どうやらトウコはトウヤのいとことのことだった。それを聞いてシロナはトウコが誰に似ているのかようやく気づくことができた。実際、トウコとトウヤはどことなく顔つきが似ている。いとことのことだったが、確かに少し似ているのがわかった。

 

「トウコはトウヤのいとこだったのね。でも大丈夫よ。トウヤはNの気配に気づいてすぐに来たから。会うことは出来なかったけど、手がかりくらいにはなったんじゃないかしら」

「そうなんですね。じゃあ、わたしが言うことは無いか」

 

トウコはそう言ってライブキャスターをしまった。

それを見たシロナは写真をさらにスクロールしていく。

 

「これはカイムがジムリーダーの代理に就任したときの写真ね。それでこっちはカイムの故郷、ミナモシティに行った時の写真よ」

 

ヒカリ達は続け様にカイムとの写真を見せられる。どの写真もシロナはとても幸せそうな表情をしており、隣に写るカイムも表情の動きは小さいが幸せなのがよくわかる。

 

「シロナさん、ホウエン地方にも来たことがあるんですね!」

「ええ。ホウエン地方にはこの写真の時に初めていったの。カイムの故郷がホウエン地方っていうこともあるけど、他にも予定があったのよ。この時はバトルフロンティアとかも行ったわ」

「え⁈ホウエン地方のバトルフロンティア⁈一回行ってみたかったんです!」

「ヒカリとトウコはリーグ本戦に出られるくらいだし、銀シンボルを埋めるくらいはできると思うわ。金シンボルは私でも苦戦するくらいだし、二人でも簡単にはいかないはずよ」

「望むところです!そうでなくっちゃ修行にならないわ!」

「あたしはまずシンオウ地方のバトルフロンティアからいく!絶対次はシロナさんに負けないもん!」

 

バトルフロンティアに対して燃える二人を見て、シロナは不敵な笑みを浮かべる。いつかシロナもチャンピオンの座を明け渡すことになる。きっとその明け渡す相手は、ヒカリやトウコのように才能と気力に溢れたトレーナーだろうと考えた。

 

「バトルフロンティアかあ…コンテストメインでやってるあたし達にはちょっと厳しいかしら」

「あら、二人のポケモンもなかなか強そうじゃない。さすがに金シンボルは厳しいと思うけど、銀シンボルまでなら頑張ればゲットできるかもしれないわよ」

「そうかなあ…コンテストも楽しいけど、バトルも楽しいからちょっとバトルも頑張ってみようかな。セレナも一緒にどう?」

「うん!カロスにもバトルハウスっていうのがあるし、あたしも頑張ってみる!」

 

ハルカとセレナはコンテストメインで活動しているトレーナー。故にバトルはそこまで得意ではない。

しかし二人ともバッジをそれなりの速度で集めたトレーナーだ。故に、ある程度ちゃんと特訓すればいいバトルができるようになれるだろうとシロナは考えた。それこそカイムに師事してもらうのはどうか、と提案しようか考えたが、二人とも長期間シンオウ地方にいるわけではないことを思い出し、口を閉じる。そして写真をさらにスクロールした。

 

「他にもキッサキシティに調査に行った時とか家での写真もあるわ」

「一緒に写っているの、キッサキシティのスズナさんですね!でも調査ってなんの調査ですか?」

「キッサキ神殿よ。カイムがレジ系の神話の研究をしてるから、それで」

「レジ系って言うと…レジアイスとかそのあたりの?」

「そうよ。ホウエン地方にも確か遺跡があったわね」

 

先日カイムがプラターヌ博士と共有した資料に記されていた『おふれの石室』。それはレジ系のポケモンに関係する遺跡として有名だが、その調査は一切進んでいない(レジ系神話がほとんど調査されていないともいう)。そのため現在、カイムとプラターヌ博士が調査を進めているところだった。

 

「へえ…学者さんって、すごいんですね。色んなところに調査行って、分析したりって、あたしじゃ考えられない」

「そんなことないわよ。セレナだって、コンテストのためにわざわざシンオウ地方まで来てるでしょ?それと同じようなことよ」

「あっ、そっか」

「どんな分野でも、打ち込んでいることに変わりはないわ。他の分野の人も自分みたいに努力していることを認識してみると、きっと世界が広がるわ」

「はい!ありがとうございます!」

 

そこでシロナは表示されている写真に目を落とした。そこに写されていたのはシロナとカイム、そしてポケモン達が共に写っているものだった。ポケモン達の表情は誰もが楽しそうであり、カイムはいつも通り無表情に近いが僅かに緩んでいる。そんなところも愛おしく思えてしまい、シロナは表情を緩めた。

 

「シロナさん、今すっごくいい表情してる」

「えっ⁈」

 

ヒカリの指摘にシロナは思わず頬に手を当てた。それを見て少女達は冷やかすような笑顔をシロナに向ける。

 

「へえ〜カイムさんのこと、大好きなんだね〜シロナさん」

「こんなにたくさん写真撮ってることがもう大好きって言ってるようなものよね〜。ルチアも知ってるみたいだしどんなだったか後で聞いてみようかな」

「え、えっと…」

「ジムリーダーと熱愛かぁ…同じジムリーダーとしてチェレンの話を聞いてみたいところね」

「カルネさんとも知り合いなんですよね?会った時、カイムさんとシロナさんがどんな感じだったか聞いてみますね〜?」

「…………許して」

 

まさか年下の女の子達からこんなにも冷やかされると思っていなかったシロナは思わず顔を手で覆う。顔から火が出そうなほど熱くなっているが、シロナ自身軽く(・・)惚気てしまったという自覚はある。ある意味当然といえば当然の反応かもしれない。

 

「シロナさん!もっとカイムさんとカイムさんのポケモンについて教えてくれますか?」

「…わかったわ。こうなったらなんでも答えてあげるわよ」

 

ハルカの申し出にシロナは諦めたようにため息を吐いて頷いた。自分で蒔いた種である以上、その責任は取らねばならない。そうシロナは腹を括るのだった。

 

 

 

その後、少女達がこぞってブラックコーヒーを追加注文したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

談笑を続けていると、いつの間にか日が落ち初める時刻になっていた。

 

「あ、もうこんな時間」

「えっ⁈ほんとだ!もう日が落ちてきてる!」

 

ハルカの声に一同が窓の外を見ると、ハルカの言葉通り空は夕焼けで赤く染まっていた。

 

「トウコ達は、この後どうするの?」

「わたしは…修行の旅だからまだしばらくシンオウ地方にいます。この後はバトルフロンティアに行こうかなって。セレナとハルカは?」

「あたしは今日はトバリシティに滞在します。せっかく来たんだし、もうちょっと見てみたいんで」

「あ、ハルカ。ならあたしも一緒にいい?その後ヨスガシティに行くなら目的地は同じだし、どうかしら」

「いいね!一緒に行こう!」

 

楽しそうに話す二人を見ながらシロナは傍にいるヒカリに声をかけた。

 

「ヒカリはどうするの?」

「あたしは、またバトルフロンティアに行きます。前のチャンピオンズトーナメントを見て、そう思って修行してきたけど、さっきのバトルを見てやっぱりまだまだあたしじゃシロナさんには敵わないから」

 

ヒカリはもちろんのこと、トウコやハルカ、セレナもチャンピオンズトーナメントは中継では見ていた。特にバトルをメインに鍛えているヒカリとトウコは、あのトーナメントは非常に心に残るものだった。鍛えられたポケモン達、経験を重ねた強者達がぶつかり合う戦いの祭典。

この大会を見てヒカリとトウコは自分の経験の少なさを実感した。確かに二人ともポケモンリーグ本戦に出られるくらいの強者ではある。ポケモン達もよく鍛えられ、技構成も相手に合わせて変えられる柔軟性も持ち合わせている。

 

しかし二人にはまだ圧倒的に足りていないものがある。

 

 

それは経験

 

 

経験を経た結果、凝縮された思考は直感というものへと昇華する。ヒカリやトウコのように天性の直感を持つトレーナーならばそれに張り合うことも可能だが、シロナやレッドのように安定した実力とは言えない。それを二人は自覚していた。

 

「わたしも同じ。アイリスは、わたしがバトルを知るよりもずっと前からポケモン達と心を通わせてた。だから、わたしよりも強い。負けないためにも、わたしはもっともっと強くなるの!」

 

そう言ってトウコは自分の手を見つめる。その目には強い決意がみなぎっているのがわかる。

 

「いつかきっと、アイリスもトウヤも超えてみせる!」

「あたしも、いつかシロナさんを越して見せます!」

「あたしだって!ルチアやミクリさんに負けないくらいすごいパフォーマーになる!」

「あたしはカロスで一番のパフォーマー、カロスクィーンになってみせる!」

 

トウコに触発され、少女達は自分達の目標を互い掲げ合った。どれも簡単に叶えられるような目標ではない。しかし少女達の目は金剛石のように固い決意と光が宿っていた。

少女達の決意を、シロナは優しく微笑みながら見ていた。

 

「貴女達には才能がある。それは間違いないわ。だからきっと正しい努力を積み上げていけば、きっとみんなの夢は叶うと思う」

 

シロナはそこで一度言葉を切ると、ヒカリ達の視線に合わせるように屈んだ。

 

「でもね、それと同じくらい遊んだり、色々なものを見ることも大切なの。修行に励むだけじゃなく、人生を楽しむことを忘れないで。まだ長い人生なんだもの。しっかり楽しむことが、トレーナーやパフォーマーとしての幅を広げてくれるものよ」

 

以前最果ての孤島に行った時、ルチアも同じことを言っていた。色々なものを知り、自分の幅を広げることは、最終的に自分が目指す目標に近づけてくれる。どんなに才能があっても、それのみに没頭することは自分の幅を狭めてしまう。シロナは色々なものを見て、知ることで自分をさらに高めてくれると実感しているだけでなく、カイムを教える過程でよりその考えが強固なものになっていた。

 

「はい!シロナさん、今日はありがとうございました!」

「セレナ、服を選んでくれてありがとう。また会いましょう」

「またお話したいです!お会いできてよかったです!」

「ハルカ、今度はルチアちゃんも一緒に会いましょ。ホウエン地方のいいところ、案内してね」

「次会うときは、今よりもっと強くなってますから!またバトルしてくださいね!」

「もちろんよトウコ。貴女の成長、楽しみにしてるわ。また会いましょうね」

 

そうして少女達は各々行くべき場所へと帰っていった。

残されたシロナとヒカリは目を見合わせる。

 

「同年代の友達が増えたわね」

「はい!意外な出会いでしたけど、会えてよかったです!みんなと連絡先も交換したし、これから連絡とってたまに会おうって話になったんです」

 

シロナもだが、ヒカリはハルカ、トウコ、セレナと連絡先を交換していた。歳が完全に同じではないが、ほぼ同年代の女の子同士やはり通ずるものがあったらしく、この短時間でかなり仲良くなっていた。特にバトルをメインに鍛えているトウコとは話が会う部分があるのか、今日は頻繁に話しているように思える。

 

「うふふ、みんないい子だったわね」

「みんな生まれの場所が違うからな〜。簡単には会えないけど、またどこかで会える…そんな気がするんです」

「ええ、きっと会えるわ」

 

ヒカリ達は何かはわからないが、何か強い縁で結ばれている。シロナ自身そう思えた。この縁は彼女達だけでなく、もっと他の子供達にも広がっていくのだが、それはまだ先の話。

 

シロナは小さく息を吐くとヒカリに向き直る。

 

「さて、晩御飯はどうする?この前のお礼、まだできてないから奢ってあげるわよ」

「ええ〜?カイムさんのご飯じゃなくていいんですか〜?」

「今日は夜も食べてくるって伝えてあるわよ。それに、カイムも今日は夜までやることあるみたいだから大丈夫」

 

同棲しており、財産もある程度共有していてここまで仲良しな恋人。もうなんで結婚してないのかとヒカリは疑問でならないが、大人には大人なりの事情があるのだろうと納得して何も言わなかった。

 

(結婚式、あるなら呼んでほしいなぁ)

 

そんなことを考えながらヒカリはシロナの手を取った。

 

「じゃあお寿司!お寿司食べたい!」

「いいわよ。じゃあいいとこのお寿司屋さん行きましょう」

 

そうして二人は高級な寿司を食べてご機嫌で別れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒカリと別れ、帰宅した時には時刻は10時を回っていた。

 

「ちょっと遅くなっちゃった」

 

鍵を開けて中に入ると、音を聞きつけたブラッキーがシロナを出迎えた。

 

「ただいまーブラッキー。カイムは?」

 

ブラッキーを抱き抱えて聞くと、ブラッキーはリビングの方に視線を向けた。その視線はどことなく不安げな雰囲気を漂わせている。

その視線の意味がよくわからかったシロナは、とりあえずリビングに向かう。リビングにはソファに力なく寄りかかるカイムがいた。

 

「カイム?」

 

シロナが声をかけると、カイムは薄らと目を開ける。寝起き故に普段からあまり良くない目つきが一際悪くなっていた。

 

「…ああ、おかえり」

「ただいま。大丈夫?顔色が悪いわ」

 

寝起きであることを考慮しても、今のカイムの顔色はかなり悪い。そもそもカイムは基本的にいつも寝起きはかなりいい。このような起き方はシロナもほとんど見たことがない。

 

「ん、ああ…問題ない」

「問題ないって顔色じゃないわ。相当疲れているんじゃない?」

「……さすがにシロナは誤魔化せんか。疲れていんのは確かだ」

 

ジムリーダーになりたてでまだ慣れない部分もあるだけでなく、新たに執筆までしている。疲れていたとしても不思議ではないだろう。

 

「執筆とジムリーダーやっているんだもの。疲れていても仕方ないわ。今日は早く休んで」

「………ああ」

 

どことなく反応の悪いカイムに、シロナは違和感を覚える。ただ疲れているにしては、明らかに何かおかしい。

 

「…どうしたの?ただ疲れているだけじゃ無さそうだけど」

「…ここ最近、寝付きが恐ろしく悪い。身体は疲れているし、意識も落ちるんだが…眠りがかなり浅い。寝れているのに、寝た気がしない」

「眠りが浅い…そういうことね」

 

端的に言えば、寝不足と疲労が蓄積した結果らしい。眠りの深さは誰よりも深いカイムだというのに、眠りが浅いというのはシロナも見たことがなかった。

 

「疲労が蓄積しすぎると、眠りが浅くなる事例もあるわ。ここ最近休日も色々仕事してたし、疲れすぎていたのかも」

「…かもな。明日は休日だし、休んでおく」

 

力なく言うカイムにブラッキーは不安そうにカイムの腕に頭を擦り付ける。それを見たカイムは小さく笑い、ブラッキーの頭を撫でた。

 

「心配かけて悪いな。明日はちゃんと休むよ」

 

そう言ってカイムはブラッキーを抱き抱え、リビングを出て行った。

 

「……大丈夫かしら」

 

今までシロナが体調を崩すことは二、三回ほどあったが、カイムが体調を崩すことはなかった。シロナから見れば、常日頃から体調管理を欠かさないカイムがここまで疲弊する事態は珍しいどころか異常に思える。

 

「…………」

 

シロナは空を見上げる。

雲に覆われた空は暗く、星の光も見えなかった。

 

 

 

月は見えない。

 

 

 




人多いと難しい。


シロナ
十代の女の子相手に惚気る重度のバカップル。結婚したら行ってらっしゃいのキスしてそう。

ヒカリ
シロナの惚気を惚気と感じなくなってきた特性『適応力』の持ち主。コンテストも多少やるしなんなら割といい成績を取っているが、シロナに勝つためにバトルを本気で修行中。既にカイムより強いのにさらに強くなる模様。

ハルカ
バトルよりもコンテストメインにやってるけど、バトルも結構に強い。カイムよりも少し弱いくらい。コンテストは発祥地であるホウエン地方でかなりいい成績を収めているため、ルチアの次くらいに注目されてる。映画はifルートなのでシロナとはここで初対面。

トウコ
バトルする時の表情がガチすぎて覇王色の覇気が使えそうな人。個人的に一番思い入れの強い女性主人公。前回のイッシュリーグでベスト8まで残り、準々決勝でギーマに敗北した。

セレナ
アニポケでは相当人気の主人公。ハルカ同様、コンテストメインでやってるがバトルも決して弱くない。ジムトレーナー時代のカイムくらいの腕前。オシャレとコンテストが好きで、向上心も高くカロスで実力を伸ばしているところ。実はレッドと面識があるのだが、別に恋愛感情は無い。


遅くなって申し訳ありません。
遅れている間にもちょいちょい感想くれる方がいて頑張れました。ありがとうございます。めっちゃ嬉しいです。
ちなみに遅れた理由は仕事。


Q.ブラッキーはいつ進化したんですか?
A.カイムがダイゴとホウエン地方を旅している時です。旅の中で野生のポケモンの不意打ちを身を挺して庇ってくれたカイムに対して心から信頼するようになりました。

Q.ブラッキーは元々人懐っこい性格ですか?それともカイム、シロナといった特定の人にだけですか?
A.元々人懐っこい性格である程度は誰にでもすぐ懐きます。ただそのぶん人の悪意には敏感なため、相手を選ぶ。

Q.バシャーモはシロナのことをどう思っているんですか?
A.尊敬できる主人の恋人。自分を強くしてくれたことに感謝しかないが、ところ構わずいちゃつく二人のラブラブっぷりには少し呆れてます。


書きたいシチュエーション
・レジェアルの世界で事件を解決し、コトブキ村のお祭りをカイムと回るシロナさん
・先祖と思われるウォロの野望を止め、複雑な表情をするシロナさんを何も言わず手を握り側にいてあげるカイム
・アルセウスと対峙し、アルセウスの攻撃からシロナさんを庇いカイムが瀕死になるが、カイムの一喝でアルセウスに立ち向かい、見事アルセウスを倒して二人で元の世界に戻る話。
・アローラでRR団関連のイベント
・水の都の守り神のEXエピソード

ポケモンの映画、皆さんは何に投票しますか?私はとりあえず水の都の護神いれます。
アニポケでもチャンピオンズトーナメント的なやつ始まってて『おお…』となってます。

次回からいつも戦わされる彼のイベントに入りますが、次回は普通にイチャコラしてるだけ。その後少しずつシリアス目になるので次回は砂糖マシです。


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