ただただシロナさんとまったり過ごすだけの話   作:職業病

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32話です。


32話 ミオシティ

いつも通りの朝。だというのに、カイムの表情は晴れない。顔色は昨日同様悪いままだった。

 

「カイム、大丈夫?」

「…ああ」

 

心配そうに聞いてくるシロナにカイムは努めて平然と答えようとしたが、明らかに調子が悪い。隠しきれない消耗が声から感じ取れる。

 

「…今日は休みだから、洗い物済ませたら休むよ」

「大丈夫?私がやっておいておくわよ?」

「お前に任せてられるか。俺が…」

 

『俺が済ませる』と言い終わらないうちに、カイムの手が滑りコップを落としてしまった。幸いすぐそばにいたバシャーモが地面につく前に受け止めたため割れはしなかった。しかしシロナが見てきた中でカイムが手を滑らせて食器を落とすことなどなかったため、どう考えてもカイムは限界だった。

 

「ほら、駄目でしょ?」

「……ああ、予想以上に駄目そうだ」

「じゃあ大人しく寝ることね」

 

そう言ってシロナはカイムの手を引っ張って寝室へと引っ張っていった。カイムを着替えさせると、そのまま布団に寝かせる。

その様子をカイムのポケモン達が不安そうに見守っており、カイムはそれを見て力なく笑う。

 

「心配かけて悪いな。すぐに、良くなるから」

「なら今は休んで。家事はやれるだけやっておくわ」

「悪いな」

「いいのよ。おやすみ」

 

シロナはカイムに口づけを落とすと、寝室を出て行った。

それを見送ったカイムは大きく息を吐くと、ポケモン達に目を向ける。

 

「すまん。トレーナーがこれじゃあ、格好つかんな」

 

カイムはそこでルカリオに目を向ける。

 

「ルカリオ、シロナの手伝いをしてやってくれ。あいつだけだと、空き巣もびっくりな事態になりかねん」

 

ルカリオは頷くと寝室を出て、シロナの元へと向かった。残されたポケモン達も各々でシロナの手伝いなり自分でできることなりをしに動いていった。

だがブラッキーだけはカイムのそばを離れようとしなかった。不安そうにカイムの顔を舐める。カイムはそんなブラッキーを優しく撫で、力なく笑う。

 

「…悪いな」

 

小さくつぶやいてカイムは目を閉じる。

いつの日か感じた落ちていくような感覚を感じながら、カイムの意識は溶けていった。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「やるとは言ったものの…」

 

リビングでシロナは一人頭を抱えていた。

 

「何からやればいいのかしら」

 

家事全般をカイムに任せてしまっているシロナは家事をどうやればいいのかほとんど理解していなかった。掃除・洗濯・炊事という分野をやればいいのはわかるが、どうやればいいのかがわからない。

 

「とりあえず、洗い物よね」

 

朝食の洗い物がまだ終わっていない。何にしてもこれを終わらせなければならないことはシロナでもわかる。

早速取り掛かろうと袖を捲ると、カイムのルカリオがシロナの側に歩み寄った。普段から手伝いをしているルカリオならばシロナの補助は完璧にこなせるだろう。シロナとしてもルカリオの補助はありがたいと思った。

 

「ありがとうルカリオ。手伝ってくれる?」

 

シロナの言葉にルカリオは無言で頷く。

それを見たシロナはルカリオの頭を優しく撫で、洗い物を始める。辿々しい手つきではあるが、少しずつ洗い物をこなしていく。だがやはり家事の個体値はコイキング以下とカイムに言われたシロナ。何事もなく終わることなどあるはずがなかった。

 

「じゃああとはゆすいで…」

 

そう言ってシロナは蛇口を限界まで開き、勢いよく水を出した。水が洗われた皿に当たって水がはねる。それを見たルカリオが蛇口を少し閉じて水の勢いを弱めた。

 

「あら、ありがとうルカリオ」

 

シロナはなんとも無さそうに言うが、ルカリオは内心で冷や汗をかく。このままシロナに任せていいのかという思いに駆られた。

とりあえず問題なく皿をゆすぎ、そのまま台所に置く。それ自体は全く問題ないのだが、なぜかシロナは明らかにバランスが悪い状態で皿を重ねていく。お椀を1番下に、そしてその上に小さめの皿、なぜか1番上に大きな皿を乗せた。ルカリオはあまりに悪いバランスであるのにも関わらず絶妙なバランスで立っている皿の山から慎重に皿を取り、布巾で拭いて食器棚に戻していく。

 

そうして何事もなく洗い物を済ませていたが、やはりシロナ。まだ終わらなかった。

シロナが再びゆすいだ皿を乗せた瞬間、皿の山が崩れた。

 

「あ」

 

スローモーションで落ちていく食器達。ルカリオは咄嗟に支えようとしたが、間に合わない。落ちる、とルカリオが戦慄した瞬間、食器が空中で静止した。ルカリオがバッと視線を向けると、いつの間にか側にいたミカルゲが『おんみょーん』と鳴きながら食器を『サイコキネシス』で止めていた。

 

「ありがとう、ミカルゲ」

 

シロナはミカルゲの要石を優しく撫でて再び洗い物に戻る。その後ろ姿を見てルカリオは『本当に大丈夫なのか?』と内心で戦々恐々とするのだった。

 

 

 

 

 

その後、何度かヒヤリとすることはあったが、ルカリオとミカルゲの手助けによって事なきを得た。

タオルで手を拭いてルカリオとミカルゲを撫でる。

 

「ありがとうルカリオ、ミカルゲ。手伝ってくれて。カイムの様子を見てくるわね」

 

シロナはそう告げてキッチンを出て行った。

ルカリオはその後ろ姿を見つめながら、シロナに撫でられた場所を少しだけ嬉しそうに撫でた。そしてそんなルカリオを見て、ミカルゲはまた『おんみょーん』と鳴くのだった。

 

 

 

 

 

 

シロナが寝室に戻って来た時、カイムは既に眠っていた。

しかしシロナが寝室に入る気配によってカイムは目覚める。薄らと目を開け、シロナに視線を移した。

 

「あ、ごめん。起こしちゃった」

「…いや、意識は落ちてなかった。起こされたわけじゃねえ」

 

上体を起こそうとするカイムの肩を手で抑え、寝るように促す。カイムは大人しくベッドに沈み、傍にいるブラッキーを撫でた。

 

「…悪い」

「いいのよ。体調はどう?」

「良くは、ない」

 

顔色は依然として悪い。眠れていないため良くなるはずもないのだが、ここまで弱っているカイムははじめてであるためシロナとしても心配の度合いは強い。

 

「熱はどう?」

「…わからん」

 

シロナがカイムの額に自分の額を合わせると、ほんのりと熱い。恐らく自覚できるほどではないが、熱はあるのだろう。

 

「ちょっとだけ熱いわね。熱測ってみて」

「…ああ」

 

渡された体温計をカイムは脇に挟む。しばらくして電子音が鳴り響き、表示された温度を見るとわずかだが熱があった。

 

「微熱だけど、熱があるわね。念のため冷やしておこっか」

「…世話をかける」

「いいのよ。恋人でしょ?」

 

そう言って笑うシロナにカイムは安心したように息を吐く。

シロナはカイムの髪を優しく撫でると立ち上がった。

 

「少し待ってて。冷やすもの持ってくるわ」

 

カイムの頭を冷やすためのものを取りに行こうとシロナが立ち上がると、カイムはシロナの手を緩く掴んだ。何事かとシロナが振り返ると、カイムは弱々しい表情でシロナに言う。

 

「……もう少し、側にいてくれ」

 

予想外の言葉にシロナは一瞬言葉を失う。今までここまで弱々しいカイムは見たことがなかった。これほどまで弱っているということは、相当参っているのかもしれない。

そしてシロナとしても断る理由はない。シロナは優しく笑うとベッドの側に丸椅子を持ってきてそこに腰掛けた。

 

「大丈夫。貴方が眠るまで側にいるわ」

「…ごめん。ありがとう」

 

そう呟くカイムの頬をシロナは優しく撫でる。その手にカイムは自分の頬を擦り付けた。その様子が普段カイムに甘えるブラッキーそっくりだった。

 

(ブラッキーそっくりね)

 

珍しく甘えるような仕草をするカイムにシロナは少しだけ嬉しくなる。普段はドライであまり甘えてくることはしないのだが、弱っているが故か非常に甘えてくる。意外な一面に嬉しく思いつつも、ここまで弱々しくなっていることに心配の気持ちが大きくなった。

 

「側にいるわ」

「……ありがとう」

 

カイムはシロナの手を弱々しく握る。

その姿に愛おしさを感じたシロナはカイムの唇に自身の唇を落とした。優しく触れるだけのキス。だがそれだけでシロナの存在を強く感じられたカイムは心に暖かいものを感じて眠気が襲ってくる。

 

「…風邪、移るぞ」

「風邪かどうかはわからない程度の熱よ。それに、私が熱出したらカイムが看病してくれるんでしょ?」

「…阿呆」

 

苦笑しながらカイムはシロナの手を放す。そしてゆっくりと目を閉じ、しばらくしたら静かな寝息が響くようになった。

 

「………」

 

完全ではないかもしれないが、カイムはようやく眠った。これによって少しでも回復できればいいのだが、今までの様子からすると完全に回復することは厳しいだろう。

 

(眠りが浅い…ストレスが要因で不眠症になる事例は多くあるけど、そこまでのストレスがあったとは思えないわ。忙しくはあったけど、カイムなりに日々成長を実感しながら取り組んでいた。ストレスによる不眠症とは考えにくいわね)

 

忙しくあっても、カイムはジムリーダーと執筆を楽しんでいた。それ故にストレスによる不眠症とは考えにくい。

ならば他の要因がある。そうでなければ、眠りの深さにおいては海溝すらも凌駕するカイムが不眠症になるはずがないとシロナは考えていた。

 

(別の要因があるのは間違いないんだけど…)

 

その要因がわからないためシロナはお手上げだった。思い当たる節もないし、カイム自身も理由がわからないと言っていた。

しかしそこでシロナは一つの可能性に辿り着く。

 

(……内的要因、ではない?)

 

カイム自身に身に覚えがない。シロナも思い当たる節が全くないとなると、内的要因ではないのではないかとシロナは考えた。

一見ありえないようにも思える可能性であるが、以前あった悪夢から目覚めない少年の事例を考えればあり得ない話ではない。

 

(…眠りと夢…繋がりがあるかはわからないけど、調べてみる価値はありそうね)

 

そう考えたシロナは眠ったカイムの髪を優しく撫で、カイムの側から離れようとしないブラッキーを抱き抱えて寝室を出た。

カイムの側にいようとするブラッキーにシロナは優しく撫でながら言う。

 

「心配なのはわかるわ。私もカイムが心配。でもね、ちゃんとご飯たべないと今度はブラッキーが体調崩しちゃうわ。だからみんなとご飯食べて、一緒にカイムの看病しましょ」

 

シロナの言葉に納得したブラッキーは小さく頷き、シロナの胸元に顔を埋めるのだった。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

調べる、とは言ったが、家事をしないわけにはいかない。普段からカイムがきちんとしているため、一日二日程度なら掃除も洗濯もやらなくても全く問題ないのだが、食事はどうにかせねばならない。

 

「うーん…」

 

ポケモン達の食事はカイムが作り溜めておいてくれてるため二、三日は問題ない。しかしシロナの食事はそうもいかないし、カイムも体調を崩しているとはいえ何かしら食べなければ体調は改善されない。

そのためどうにかして用意せねばならないのだが、シロナの家事スキルは相変わらず酷い。料理は多少マシになったとはいえ、まだ一人でキッチンに立つことは許されていないレベルだ。シロナとしても下手なことをしてカイムの仕事を増やすようなことはしたくない。

 

「お昼は…買ってくるとして、夜はどうしようかしら」

 

庶民派であるシロナは惣菜を買ってくることについては特別抵抗などない。カイムと同棲する前は惣菜を食べてばかりいたが、カイムがシンオウ地方に来てからはほとんど食べることはなくなった。

しかしカイムの食事に慣れたシロナは二食連続で惣菜を食べるのはどうなのだろうと考えてしまう。

 

「…まあ、キッチンに立って下手なことするよりはいいか」

 

そう納得したシロナはカイムの食事をどうしようと考え始めた。病気とは言い難いが、体力を回復するためには食べなければならない。ただ疲労で内臓が弱っていることを考えると、胃に優しく消化にいいものでなければならないだろう。

 

「お粥…とかかしら?」

 

病人への食事というと、やはりお粥やうどんといった消化にいいものが思いつく。実際シロナも幼少期に風邪をひいた時に祖母にそのあたりの食べ物を食べさせてもらった記憶がある。そういったものがいいのだろうと結論付けたが、シロナに作ることができるのかはわからない。

 

「……作ってみたいけど」

 

恋人として、カイムに食事を提供したい気持ちはある。しかしシロナとて、己の料理スキルの低さを自覚している。以前よりはマシになったとはいえ、まだ一人でどうこうできるレベルではない。

 

「…でも、このままやらなきゃいつまで経ってもこのままよね」

 

カイムはしばらく忙しい。料理を教わっている暇はないだろう。

ならばここで簡単なものでも挑戦することが、己の料理スキルを伸ばすためになるのではないかとシロナは考えた。

 

「やってみよう。カイムのためだもの」

 

そう言ってシロナは冷蔵庫を開き、今現在ある材料を確認する。

その後ろ姿をポケモン達はハラハラしながら見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし…」

 

シロナは材料を目の前に並べて『カイムの』エプロンをつけると、袖を捲った。

そしてタブレットをとりだすと、卵粥のレシピが映った画面を呼び出して良く見える場所に立てかけて調理を始める。考えた末、シロナはカイムの食事を自分で作ることにした。無論シロナとて自分の料理スキルのは低さはわかっているため、カイムに良く言われている『レシピ通りにやる』ことを徹底してやると決めているのだが、それでも見守るポケモン達からしたら不安しかない。手伝いのルカリオをはじめとして、たくさんのポケモン達が何か起こる前に対処できるようにスタンバイしているあたり、家事におけるシロナの信用の無さがわかる。

 

「まずは…溶き卵をつくる」

 

手順通りにシロナは調理を進めていく。

卵に軽くヒビを入れ、ボウルに二つ割り入れる。

 

「あ…殻が…」

 

しかしうまく割れずに小さな殻が入ってしまう。

 

(カイムみたいにうまくはいかないわね…)

 

殻を菜箸で取り除きながらシロナは内心で苦笑する。このわずかな工程でもカイムが如何に料理慣れしているのかを実感してしまう。

殻を取り除くと、卵をかき混ぜて溶き卵にすると次の工程に移る。

 

「えーっと…白だし、醤油、みりん、水を鍋に入れて沸騰させる…」

 

調味料を並べるとシロナはボトルを掴んで鍋に適当にぶち込もうとしたが、その瞬間カイムの言葉が脳裏を過ぎる。

 

『マニュアル通りにやれ』

 

その言葉を思い出し、シロナは思い留まる。

そして適量を測ると鍋に調味料を入れた。水を計量カップで測って鍋に入れると火をつけて加熱を始めた。当初はシロナは火の強さを気にせず強火で加熱していたが、レシピを把握していたルカリオはシロナに気づかれないように火を弱めて中火にする。

 

少しすると鍋の中身が沸騰する。ぐつぐつと煮える鍋を見てシロナは予め炊いておいた白米を炊飯器からよそった。丼に盛られた白米をシロナは鍋の中に投入する。

 

「次は…また沸騰したら弱火で5分ね」

 

次の工程を確認したところで、先程の工程が中火で行うことにシロナは気がつく。ハッとして鍋の火を見るが、火の強さは既に中火に調整されていた。

 

「あ…もしかして、ルカリオ?」

 

シロナの言葉に対してルカリオは反応しない。しかしカイムに似て嘘が下手なルカリオは視線を逸らす。その仕草でルカリオが手助けをしてくれたことに気づいたシロナはルカリオの頭を優しく撫でた。

 

「ありがとう」

 

シロナに撫でられたルカリオは反応を示さないが、少しだけ嬉しそうに撫でられた場所をさする。

一方シロナは、鍋に視線を戻す。加熱された米は少しずつ柔らかくなり、数分もしないうちにお粥と言える柔らかさになった。

 

「次は…溶き卵を入れて混ぜる。卵が固まったら火を止めて完成、ね」

 

シロナは先程作った溶き卵を鍋に加える。本来なら全体に広がるように流し込むのだが、慣れていないシロナは卵が一箇所に偏って流し込まれてしまう。シロナもそれに気がついたが、入れてしまった以上どうすることもできないため、とりあえずかき混ぜることにした。

 

「…こんな感じかしら」

 

見た目は多少不恰好であるが、全てマニュアル通りに作り切ることはできた。とりあえずシロナは器に移すことにしようと食器棚に目を向けたところ、ルカリオが既にお粥に合う器を運んできていた。

 

「あ、ありがとうルカリオ」

 

シロナはお礼を言って器を受け取る。そして鍋にあるお粥を器に移して予め切られていたパックに入っている小ネギを散らした。

 

「…できた。一人でできたわ!」

 

味はわからないが、少なくとも食べられない味はしていないはずだとシロナは考える。カイムの言いつけ通りマニュアル通りに最後までやり通すことはできたため、恐らく問題ないだろう。

 

「……うん、美味しい」

 

軽く味見をしたが、問題ない味をしている。少なくともカイムの料理と比べたら味は劣るが、それでもちゃんと食べられる味だろう。

そう考えたシロナは器をお盆に乗せると、寝室へと運びに行った。

 

 

 

その間に転びかけてミカルゲにサイコキネシスで助けてもらったのは別の話。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

目を開くと、見渡す限りの闇だった。

 

「ここは…?」

 

何も聞こえず、何も見えない。

感覚もはっきりしない。まるで微睡の中にいるような感覚のまま歩いていくが、何もない。

 

「……俺、は」

 

意識がはっきりしない状態で記憶を遡るが、何も思い出せない。意識にもやがかかったような感覚から抜け出せない状態で視線を上げると、闇の中に一つの光が見えた。

その光は緑色に鈍く輝いており、その光からは視線を感じた。

 

「……お前は?」

 

視線を向ける緑色の光は答えない。

 

「…ここはなんだ?」

 

やはり答えはない。

だがその視線は何かを見定めるかのようにこちらを見つめてくる。

 

『     』

 

視線を向けてくる存在は何かを言う。

しかしその言葉を聞き取ることができない。

 

(…こいつは……いや、俺はこいつを知ってる?)

 

何かはわからない。だが、なぜかこの目の前にいる存在のことを知っているような感覚が自分の中にあった。

 

「お前は…」

 

もう一度聞こうとするが、その存在が再び言葉を発する前に背後から別の気配を感じた。

 

振り返ると、そこには金色の光が溢れていた。

とても暖かく、優しい光。

 

そちらに手を伸ばすと、視界は眩い光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「カイム、カイム」

 

自分を呼ぶ声にカイムはゆっくりと目を開く。一瞬視界がぼやけるが、徐々に光に慣れた視界にはシロナの顔が映された。

 

「起きた?体調はどう?」

「…ああ、マシになったよ」

 

シロナの問いにそう答えると、カイムは上体を起こす。そこでカイムの側でブラッキーがすやすやと寝息を立てていることに気づいた。どうやらずっとそばにいてくれたらしい。

 

「ブラッキー、ずっと側にいてくれたのよ。貴方のことが心配だったのね」

「…トレーナーがポケモンに心配されてちゃいけねえな」

「気にしすぎちゃダメよ。身体に障るわ。それでカイム、そろそろお昼の時間だけど、食欲はある?お粥、作ってきたわ」

 

そう言ってシロナはお粥の入った器をカイムに見せる。それを見たカイムは驚いたように目を見開いた。

 

「…作ってきた?シロナが、一人でか?」

「…まあ、ちょっとポケモン達に手伝ってもらったけど」

「そうか…シロナが一人で…」

「信じる?」

 

シロナの問いにカイムは頷く。

 

「ああ。シロナは変な見栄張らねえだろ」

 

迷いなく放たれた言葉に今度はシロナが目を見開く。シロナに対する全幅の信頼。それが唐突に言われたことによって一瞬驚くが、すぐにクスクスと笑う。

 

「あら、随分と信頼されたわね」

「料理の腕はともかく、人間性は信頼してる」

「む。料理の腕については余計よ」

 

だが事実であることは間違いない。シロナは小さく息を吐きながらカイムに器の蓋を開けた。中には卵粥があり、温かいお粥からもくもくと湯気が立ち上った。

 

「それだけ言えるならご飯も食べられるわね」

「おお…思った以上にいい出来だな」

「でしょ?食べられそう?」

「ああ、いただくよ」

 

カイムはシロナから器を受け取ろうと手を差し出すが、シロナは何かを思いついたように匙を手に取った。何をしているのかわからずカイムが首を傾げると、シロナは匙にお粥を掬ってカイムに差し出した。

 

「?」

「はい、あーん」

「⁈」

 

予想外すぎる行動にカイムは驚愕してしまう。まさか食べさせにくるとは思わなかったため、一気に顔に熱が集まる感覚がした。

対してシロナは心底楽しそうにカイムに匙を差し出してくる。

 

「どうしたの?食べないの?」

「………んのやろう」

「ほら、あーん」

 

ずいっとシロナは更に匙を差し出してくる。正直、自分で食べるくらいの体力はあるためわざわざ食べさせてもらう必要など微塵もないのだが、心配をかけてしまったということでカイムは大人しく口を開いた。

 

「はい」

「………」

 

シロナはカイムが口を開けたことに満足したように笑い、カイムの口に匙を差し出した。カイムは大人しく匙に口をつけ、掬われたお粥を口に含み、飲み込む。

 

「どう?」

「…悪くない」

 

正直、ちゃんと食べられる味なのかどうか半信半疑だった。しかしカイムの口には普通の卵粥の味が広がり、内心驚いた。

しかし素直に『美味しい』と言うのも負けっぱなしな気がしてカイムはそう言葉にする。美味しい、と一言言えばいいし勝ち負けも何もないものなのだが、カイムは素直に言うことができなかった。

 

「でしょ?まだまだ貴方には敵わないけど、ちゃんと食べられるものにはできたと思ったの」

 

一方シロナは、カイムの素直ではない物言いに気を悪くする様子はない。むしろ機嫌が良くなるようにすら見えた。

シロナはカイムが素直になれない性格であることくらい理解している。故に今言った『悪くない』という言葉の真意も当然のように理解していた。この言葉の中に込められた意味がどんなものかを理解しているシロナにとって、褒め言葉以外の何者でもなかった。そのため機嫌が良くなるのも自明とも言えるだろう。

 

「じゃあ、はい。あーん」

「…………」

 

続けて差し出された匙を苦い顔をしながらもカイムは口に含む。

 

 

諦めたカイムは、大人しく残りの卵粥を全て食べさせてもらうのだった。

 

 

 

 

 

 

「ご馳走さん」

「はい、お粗末さまでした」

 

お粥を食べ終えて一息ついたカイムは上体を起こしたままブラッキーを抱き上げる。抱き上げられたブラッキーは甘えるように顔をカイムに擦り付け、前脚でカイムの腕を抱きしめた。

 

「ブラッキー、ずっと貴方から離れようとしなかったのよ。ご飯の時以外ずっと側で貴方のことを見ててくれたの」

「…そうか。ありがとうな」

 

カイムが優しくブラッキーを撫でると、ブラッキーは小さく鳴いた。

二人のそんな優しいやりとりを見ながらシロナは器を机に置いてカイムの側に座る。

 

「体調はどう?」

「飯食ったらマシになった。まだだるいけど、この調子なら明日には回復するだろうよ」

「無理は禁物よ。回復したとしても、まだこの忙しい生活は終わらないんだから」

 

たとえ回復したとしても、忙しい生活が続く以上また同じことになりかねない。一度やらかしたことは反省し、二度とやらないように心がけるカイムだが、今回の件に関してはかなり熱意がこもっている。熱中しすぎて同じことになりかねない。

 

「…ああ、そうだな」

 

カイム自身、自覚があるのかシロナの言葉に素直に頷いた。

その様子を見たシロナは頷いてカイムの頬に手を添える。

 

「無理はしないで。私も、手伝えることは手伝うから」

「…ああ」

 

頷いたカイムはブラッキーに目線を向ける。ブラッキーの黒い色を見ていると、カイムはふと見ていた夢のことを思い出した。

 

「……黒い」

「え?」

「ああ、いや…寝てる間になんか夢を見てた気がするんだが…」

「どんな夢?」

 

シロナの問いにカイムは顔を歪める。どんな夢だったのか思い出そうとするが、記憶に靄がかかったような感覚に陥ってうまく思い出せない。ただ思い出せるのは、闇の中のような世界と、声。

 

「よくわからない…真っ暗な夢と、声。他は何も」

「声?」

「…ああ。でも、どんな声なのかは…」

 

思い出そうとしても、記憶が掘り起こされない。夢などあまり思い出せるものではないのかもしれないが、夢を見ていたことは思い出せるのに、それ以上何も思い出せない。

シロナはカイムの言葉を聞いて表情を歪める。

 

「夢…もしかして、この前の男の子の件と同じ…」

 

以前ヒカリが解決してくれた悪夢に囚われる事件。それと同じものなのではないかとシロナは危機感を覚える。もし同じ事件なら、シロナに解決することはできない。

 

「…でも、あれは悪夢なのか?それに俺は戻ってきたから同じかどうかはわからんだろ」

「…そうね。簡単に紐付けることはできないわ」

 

実際カイムの言う通り以前の少年の事態とは相違点が多い。少年はある日突然目覚めなくなり、悪夢に魘されるようになったという。

だがカイムは魘されてはいなかった。加えてシロナの呼びかけに応じて眠りから醒めた。以前の少年の事件と比較したら、カイムの事例はただの疲労からくる悪夢だと考えることもできる。そもそも悪夢なのかどうかも判別がつかない夢だ。関連付けるにしてはあまりにも弱い。

 

「……何もねえよ。きっと」

「だといいんだけどね。貴方が無事ならいいけど、そうじゃない可能性があるなら私はなんでもやるわ」

「…次はお前がぶっ倒れたりすんなよ」

 

苦笑しながらカイムはシロナの手を優しく取る。そしてシロナを見据えて言った。

 

「大丈夫。何があってもお前のいるところに、俺はちゃんと戻ってくる」

「…ええ、約束よ」

 

シロナはカイムの手を握った。

そしてシロナは立ち上がると、器を手に取る。

 

「じゃあ、まずは体調を戻してね」

「ああ。大人しくしてる」

 

カイムの言葉を聞いたシロナは微笑んで部屋を出ようとドアに手をかける。

 

「シロナ」

 

シロナの背中にカイムは声をかける。部屋を出ようとしていたシロナは足を止めてカイムに視線を移した。

 

「…お粥、美味かった。ありがとう」

「よかった」

 

シロナはカイムの額にキスすると部屋を出た。

残されたカイムは息を吐くと、倒れるようにベッドに沈み込み再び目を閉じた。

 

意識が少しずつ微睡に落ちていく感覚がし、最後に目に映ったのはブラッキーの赤い瞳だった。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

「夢、か」

 

洗い物をルカリオと共に済ませ、トレーニングを行うポケモン達を見ながらそう呟いた。カイムの言っていた夢が以前の少年の事件と関与しているのかはわからない。カイムの事例と少年の事例は多くの相違点を有するため、関与しているという確証はない。だがシロナにはカイムの夢が少年の事件と関与している気がしてならなかった。

 

(カイムの夢は、悪夢とは言えないものかもしれない。でも…この言い表せない感じは何?)

 

シロナはカイムが夢を見たと言った時から胸の奥に何か不安のような感覚が生まれ、それがずっと燻っていた。何も確証はない。いわゆる直感でしかない。

 

『人の洞察力というのは、我々が思っているよりもはるかに鋭い。論理的な確証が無いからといって、直感したことを切り捨ててはいけない』

 

かつてナナカマド博士がシロナに言った言葉を思い出す。似たようなことをカイムにも言ったし、シロナ自身直感の有用性は感じている。確実に当たるものではないが、時には必要となってくることを今までの生活で実感している。

 

「…少し、調べておいた方がいいかもしれないわね」

 

分析はともかく、情報収集についてはカイムの方が得意だ。本来ならカイムに任せた方が遥かに多くの情報を集められるのだろうが、カイム自身があの状態である以上任せることはできない。

 

「キーワードは、夢ね」

 

シロナはタブレット端末を手に取ると、夢というキーワードを基に情報収集を始めた。

 

 

 

 

 

 

しばらく情報を集めた後、ポケモン達に休憩を与えながらシロナは集めた情報を整理していた…のだが

 

「…思ったより集まらないわねぇ」

 

思った以上に情報が集まらなかった。

『夢』というキーワードをもとに『悪夢』や『眠り』など様々なキーワードについて調べたのだが、有用な情報はほとんどないに等しかった。

 

(一体カイムはどうやって情報を集めるのかしら…)

 

今までカイムは様々な情報について調べて、とても有用な情報を持ってくる。情報収集のコツでもあるのかと聞いたことがあるのだが、本人は『無い』とのことだったため聞いたところで無駄なのかもしれないが。

 

だが全くの無駄だったわけではない。一つだけそれらしい情報は得ることができた。

それは50年以上前に、悪夢に囚われる事件があったことを記録した記事だった。この事件は先日の少年の事件と酷似している。50年以上前はこの記録の事件の他にも悪夢に囚われる事件があったらしいが、今はもう他の記録を辿ることはできなかった。

 

「この事件は…ミオシティの港にあった『波止場の宿』で起こった事件なのね」

 

この波止場の宿は、ミオシティの港にある宿屋のことを言っているらしい。現在ではその宿は閉鎖されており、この記録を見てもどこにその宿があったのかはわからない。

だがシロナはこの波止場の宿がどこにあるのか推測できていた。

 

(この宿があったのは、恐らく港の側にある空き家。ずっと無人で空き家だって聞いてたし、誰に聞いてもあの空き家がなんだったのかわからないって言う。50年も前に無くなった宿なら誰も知らなくても仕方ないわね)

 

これほど古い記録ならば、誰も知らなくても仕方ないだろう。現にこの記録を探し出すために相当な時間を費やした。

 

(50年前、波止場の宿は普通の宿屋だった。でもある日を境にその宿屋に泊まる人達が次々と悪夢に囚われて目覚めなくなり、宿屋のオーナーでさえも悪夢に囚われてしまう。悪夢に囚われた人々はそのまま覚めることはなく、そのまま衰弱して……)

 

痛ましい事件にシロナは表情を歪める。

それと同時にシロナはこの事件の分析を始めた。

 

(悪夢に囚われたのは、ある日突然。この波止場の宿に泊まった人達だけ悪夢に囚われたのか、それともこの時期でミオシティ全体に悪夢が広まったのか…それによってこの事件の根幹が変わってくるわ)

 

この記事に残された記録だけではその部分は定かにはならない。考えても仕方ないことを一度保留にし、シロナはさらに分析を進める。

 

(…当時、クレセリアに選ばれた存在はいなかった。だからこの悪夢を祓うことができなかった。でもこの時、既に満月島はあったからクレセリアの存在はあったはず…それでもこの悪夢を止めることができなかったってことは、クレセリアよりも強い力を持った存在ってこと?いや…でもこの一件以来ミオシティで悪夢の事件はなかった。何かがきっかけで、力が強くなったとかかしら)

 

この波止場の宿の事件以来、先日の少年まで悪夢の事件は発生しなかった。その間にこの元凶の存在がクレセリアの力を上回る力を身につけたため、少年の事件が起こった。それは間違いない。

しかし、わからないことは何故力を増したのかということ。ヒカリの存在がなければ、悪夢を祓うことができないほどの力。それが何故急に台頭してきたのか。

 

「…きっかけがあるはず。それほど大きな力、何もなく得られるはずがない」

 

恐らくだが、この悪夢の元凶となる存在はクレセリアと対になる存在。今まではクレセリアと力が拮抗していたから何も起こらなかったのかもしれない。

 

(クレセリアの対、か)

 

クレセリアのいる島は満月島。もしかしたら、この満月島と対になる土地がシンオウ地方のどこかにあるのかもしれない。それについて調べることが、恐らくこの事件を解決する鍵になるとシロナは考えた。

 

「…満月の対か。新月とか、かしら?」

 

シロナの側に寄ってきたウォーグルを撫でながらシロナは冗談めかしに呟く。そしてタブレットを置くと、ポケモン達のもとへ歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕刻

 

日が沈み始めた頃、カイムは目覚めた。

 

「…ん」

 

目を開くと、目の前には黒い影と綺麗な赤い瞳。

 

「ブラッキー…」

 

ブラッキーはカイムが目覚めたのを確認すると、自身の顔をカイムの顔に擦り付けた。それを受け、カイムは小さく笑いながらブラッキーを撫でる。

 

「おはよう」

 

嬉しそうにブラッキーはカイムに甘える。この様子から見るに、カイムが眠っている間ずっと見ていたらしい。

起き上がり、ブラッキーを抱き上げると同時に寝室の扉が開く。

 

「あ、起きたのね」

「ああ」

「体調はどう?」

「絶好調。今ここで逆立ちしてやろうか?」

 

軽口を叩きながらベッドから抜け出すカイムの様子を見る限り、嘘では無さそうだ。無論本調子とは言えなさそうではあるが、本当に逆立ちくらいならできそうだとシロナは内心で苦笑する。

 

「その様子だと、問題無さそうね」

「ああ」

 

ブラッキーを抱いたままカイムは首を鳴らす。そのまま時計に視線を移した。

 

「結構寝たな」

「顔色、良くなったわね。食欲はある?」

「ああ。晩飯作るか」

「駄目。今日は休むの」

 

それを聞いたカイムは表情を歪める。正直体力は回復しているため軽い料理程度なら全く問題ない。しかしシロナは今日なにかをさせることは決して容認しないだろう。そう思わせるような雰囲気を放っていた。

 

「晩飯はどうすんだよ」

「んー…外に食べに行くか、出前ね」

「なら出前にしよう。外行くの、面倒くせえ」

 

軽くあくびをしながらカイムは言った。実際まだまだ本調子とは言えないカイムを外に連れ出すのにシロナも抵抗があった。そのため出前という判断は妥当だと言える。

シロナはタブレットをカイムに差し出して言った。

 

「じゃあ好きなの頼んで」

「んー…出前ってほとんど食ったことねえんだよな。何頼むか…」

 

カイムに抱っこされたブラッキーはカイムの操作するタブレット画面を覗き込む。そしてその中でブラッキーは一つを前足でタップした。

 

「ん、ブラッキーはこれがいいのか?」

「あら、ブラッキーは何を選んだの?」

 

シロナが画面を覗き込むと、そこに表示されていたのはピザセットだった。ピザとサイドメニュー、飲み物がセットになっているものらしい。

 

「ピザか。カイムが食べるものにしては珍しいわね」

「ま、たまにはいいんじゃね?病み上がりでピザってのもどうかと思うが、ブラッキーが選んだんだし食欲もあるからいいだろ」

「相変わらずポケモンに甘いわね」

「さて、なんの話だ?」

 

自覚があるのかカイムは肩を竦める。実際にポケモン達が食べるわけでもないのにポケモンが選んだものにするあたり、本人としても甘いという感覚はあった。

だがカイムも別段何が食べたいとかはない。故に選んでくれるのならそれでいい程度の感覚だった。病み上がりにピザとは重いような気もするが、空腹ではあるため大丈夫だろうと気楽な考えをしながらスマートフォンで電話をかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

「満月島について?」

 

ピザを口に入れつつポケモンに食事を与えながらカイムはシロナの言葉をそのまま返した。

シロナは頷きながら言葉を続ける。

 

「カイムは、満月島についてどれだけ知ってる?」

「満月島って、ヒカリがクレセリアと出会った島だよな?それがなんだ?」

「貴方の悪夢について少し気になってね。悪夢から少年を解放したのって、クレセリアじゃない?もし貴方が見た夢が少年の事件と同じ事例なら、クレセリアについて知ることが鍵になるんじゃないかって思ったの」

 

クレセリアは満月島にいるとされる伝説のポケモン。そのクレセリアが悪夢から少年を救ったのであれば、クレセリアについて知ることができれば悪夢の元凶について知ることができるのではないかとシロナは考えた。

 

「満月島か…ミオシティからほぼ真北にある島だな。基本何もない島らしいが…さて、何かあったかな」

 

手についた油を拭き取ると、カイムはタブレット端末を開く。その画面をシロナとブラッキー、そしてガブリアスが覗き込む。

カイムが開いた画面はワールドマップだった。ワールドマップを拡大し、シンオウ地方周辺を画面に映す。

 

「満月島は、これか。島内部はヒカリが言ったように何も無さそうだな。インターネットで載ってる情報はほとんど無いみたいだが…前からクレセリア関連の噂話くらいはあるみたいだ」

 

目まぐるしく画面を移し替えながらカイムはそう呟く。色々と見ていくが、真新しい情報はなかった。

 

「…満月島は島か。シンオウ地方の島について少し調べてみるか」

 

そこでカイムは調べる方針を少し変え、島について調べることにした。シンオウ地方にある全ての島をリストアップされた表を呼び出す。いくつか見ていく中で、カイムは一つ気になる島を見つけた。

 

「…この島…」

「何か見つけたの?」

「……新月島」

「えっ?」

 

カイムは最初のワールドマップに戻ってきて、少しだけ見える範囲を増やす。その中で満月島と同じくらい小さい島が少し離れた場所にあるのを見つけた。

 

「…この島が、新月島か」

(まさか本当にあるなんて)

 

冗談めかしに呟いた新月が本当にあるとは思いもしなかったシロナは内心で苦笑する。

カイムはそんなシロナの考えなどカケラも理解せず、新月島について情報を集めようとタブレットを操作していく。しかし、何故かはわからないがどんなに調べても新月島に関する情報はでてこなかった。

 

「…ちっ、全然出てこねえな」

「カイムでも調べきれないなんて…」

「なんもねえ島なのか?ここまで出てこないってことは、記録する必要もないってことだし…」

「いいえ、逆よ」

 

シロナの言葉にカイムはタブレットから顔を上げる。

 

「何かがあるから、記録が出てこないのよ」

「どういうことだ?」

「私たち一般人には、知られてはいけない『ナニカ』があるか、その『ナニカ』に関するものがあるのよ。そうでなければここまで何も出てこないのは変よ」

 

今調べた『新月島』は名前で調べてみても、何も出てこなかった。満月島に関連して色々と調べてみたが、結果的に名前以外は何もわからなかった。

ここまで記録が出てこない、ということはかつて何かがあった、または何かがあるからではないかとシロナは考えた。そうでなければここまで出てこない理由がない。

 

「…新月島。何があるんだ」

「わからない。でも、きっと何かあるのよ。誰にも知られてはいけない何かが」

「…かもな」

 

そういってカイムはタブレット端末を置き、ピザを一切れ掴む。そして耳の部分を少し千切ると、足元に寄ってきたトリトドンに与える。トリトドンは頭をゆらゆらしながらその切れ端をもぐもぐと食べた。その様子が面白くてカイムはトリトドンの頭を優しく撫でる。

 

「とりあえず、もう少し調べてみる。何が出てくるかはわからんが、なんかあった時情報は役に立つからな」

「ええ。私の方でも色々聞いてみるわ。だからとりあえず今は休んで」

 

シロナはカイムの肩に頭を乗せながら言う。

カイムはシロナにピザを差し出すと、シロナは口を小さく開いた。シロナが言いたいことを察したカイムはピザをシロナの口に入れる。シロナは差し出されたピザを口に含み、咀嚼した。

 

「餌付けしてる気分だ」

「お昼の時とは逆ね」

「全くだ」

 

昼間はカイムが食べさせてもらっていた。シロナの言う通り、昼間とは立場が逆だった。

だが二人とも、この事実が嫌だとは思っていない。むしろ役得くらいに考えているあたり、この二人が如何に想いあっているのかがよくわかる。

 

「昼間のお粥、一人で作ったって言ってたな」

「ええ、そうよ」

「…そうか、もう一人でできんのな」

「なーに?ちょっと寂しいとか?」

 

どことなくしみじみした様子のカイムを見て、シロナはカイムの頬を指で突いた。突かれたカイムは苦笑する。

 

「違えよ。成長が早くてビビってんだ」

「いいことじゃない。私が料理できるようになれば、カイムの負担が減るでしょ?」

「それはそうだが、まだ致命的な部分が多い。お粥程度でドヤ顔してんじゃねえ」

 

そう言ってカイムはシロナの額を指で小突く。それを受けてシロナは小さく笑った。いつもの様子のカイムに戻ったことで胸中に嬉しさが込み上げてくる。

 

「カイム」

「ん?」

 

カイムを抱き寄せ、唇を重ねた。

シロナは唇を離すと、言う。

 

「本当はね、レトルトにするかどうかちょっと悩んだの。でもね、ここで逃げたらきっと私はきっと成長できる機会を今後も逃すって思ったんだ」

「そうか。ありがとうな、俺のために」

 

カイムとしてもシロナになにかしてもらったという事実が非常に嬉しく感じていた。加えて苦手であるとわかっている料理を自分から動いてくれた事実が、非常に嬉しかった。

 

「ふふ。今のところ、私の手料理は貴方以外には出したことないんだし、光栄に思ってね」

「ああ」

 

そう言って今度はカイムがシロナに口づけをした。口を離すと、シロナは顔を赤くしながらも嬉しそうに笑った。

 

「今後も指導、よろしくね」

「こっちのセリフだ」

 

二人は額を合わせ、幸せそうに笑った。

 

 

そんな二人を見て、ポケモン達(ブラッキー以外)は『またやってるよ』というような表情をしながら呆れたように息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

顔色も戻り、体調も回復したカイムを見て、シロナは頷いた。

 

「うん、もう問題無さそうね」

「ああ。世話かけたな」

 

首を鳴らしながらカイムは言う。そして傍にいたバシャーモが差し出してきた拳に自分の拳を合わせた。

 

「お前らにも世話かけた。悪いな」

 

バシャーモは『問題ない』と言うように首を振ると、外に出る。そして挑発するように手のひらを向けてくるバシャーモにカイムは口元を歪めた。

 

「へえ?早速手合わせか?病み上がりだと思って手ェ抜くんじゃねえぞ」

 

カイムもバシャーモに続いて外に出ると、上着を畳んでウッドデッキにおく。そしてバシャーモの前に行きながら軽く準備運動を済ませると、バシャーモの前で構えた。

 

「行くぞ」

 

カイムの掌底をバシャーモが受けると同時に、組み手が始まった。その様子をニコニコしながら見守るシロナはカイムに声をかける。

 

「あんまり無理しないようにね」

「ああ!わかって、る!」

 

バシャーモと拳のやり取りをしながらも答えるカイムにシロナは優しく微笑む。

他に視線を移すと、メタグロスが歩き回っており、その頭の上にはトリトドン、ムクホーク、ロズレイドがいた。また、キリキザンはガブリアスに稽古をつけてもらっており、ルカリオはカイムとバシャーモの組み手を見守っている。

そしてブラッキーはシロナの側で少し眠そうに目をしぱしぱさせていた。ブラッキーはカイムの体調が完全に回復するまでずっと見守り続けてきた。それ故に少し寝不足になっているのか、眠そうにしている。

 

「お疲れ様、ブラッキー」

 

シロナが撫でると、ブラッキーはその場に座り、シロナの足を枕にして寝転がった。そしてほどなくしてすやすやと穏やかな寝息を立て始めたのを見て、シロナは笑う。

 

「…ありがとう」

 

そしてシロナは表情を引き締める。その要因は、カイムが体調を崩したここ数日感じる不穏な気配だった。この気配は少し前にミカンが訪問してきた際に感じた気配と酷似している。

 

(…この気配、普通じゃない。何かが近いうちに起こると見て間違いないわ)

 

危機感は感じている。しかしこの気配がどこから来ているのかがわからないためどうすることもできない状態だった。

 

「……楽しいことではないわね」

 

最初から後手に回ることになってしまうが、どうすることもできない。せめてなにか起きてもすぐに動けるようにしておこうと決意を固めるのだった。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

体調も戻ったということで、カイムは数日ぶりにジムへと赴いていた。

だがその道中、街全体にどこか異様な雰囲気を感じ取る。どことなく重い空気がずっと漂っていた。

 

(…なんだ、この空気)

 

街行く人もこの空気を感じているのか、どことなく顔色が暗い。

 

(……でもこの感じ…どこかで…?)

 

だがこの空気をカイムはどこかで感じたことがあるような気がしてならない。この違和感が最初に空気を感じた時からずっと知っているような気がしてならなかったのだが、どうしてもどこで知ったのかが思い出せない。

 

「…さっさと行こう」

 

嫌な気配を振り払うかのように、カイムは足速に歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

ミオジムに到着すると、ジムトレーナー達がカイムを出迎えた。

 

「カイムさん!もう大丈夫なんですか?」

「ああ。就任早々こんなことになってすまない」

「気にすんな!ジムリーダー以外にも色々とやってんだろ?まだ慣れてないし仕方ねえよ」

 

年配のジムトレーナーにそう言われてカイムは苦笑しながら頭を下げる。就任して一月程度しか経っていないのに体調を崩してしまい、カイムとしては不甲斐なさを感じるばかりだった。

 

だがそれより、カイムは気になることがあった。

 

「なあ、ここ数日変なことは起こらなかったか?街全体に変な空気が漂っている。何か異様なことが起きたとしか思えん」

「ああ、やっぱカイムさんも気づきましたか。確かに街全体で異様な空気が流れています。でも今のところジム内では何も起きてないし、ジムにも報告は来ていません」

 

ジムトレーナーが言うように、まだ街では何も起きていない。明らかに異様な空気ではあるが、まだ報告が来ていないためジムとしては特別することはないだろう。

 

「…そうか。ならとりあえずいいか」

 

少しだけ安心したような表情をするカイムを見てマネージャーは『心配しすぎだ』とでも言うように笑う。

 

「はい。それに、何かあれば報告だけはカイムさんにしてますよ。一応警察の調査では有害物質とかがでているわけでもないらしいです。変な空気ではありますけど、とりあえず害は今のところないらしいなら大丈夫じゃないですか?」

 

そう言うジムトレーナーの言葉は正しい。実際実害が出ていないのなら、わざわざ何かをする必要は無い。無駄骨になる可能性の方が遥かに高くなるため、少なくとも今は静観をしても問題ないだろう。

だがどうしてもカイムにはこれで終わるように思えなかった。正直、ここまで異様な雰囲気を感じていながらも『放置』という選択肢しか取れない自分に不甲斐なさを感じているのだが、それを表にだすことはない。

 

そんなカイムの心情を察したわけではないが、年配のジムトレーナーは豪快に笑いながらカイムの肩を叩く。

 

「そーそー。それに前もなんだかんだカイムが解決したじゃねえか。大丈夫だって」

「ありゃあ俺じゃない。俺がしたことは呼ぶことだけだ」

「何にしても今はどうしよもないです。とりあえず今日の予定を消化してからにしましょう」

 

マネージャーにそう言われカイムは小さく息を吐く。確かにマネージャーの言う通り今はどうすることもできない。ならまずは目の前にあることをやるべきだと思考を切り替える。

 

「…ああ、わかった。ただ何かあったらすぐに知らせてほしい」

「はい。じゃあ今日の予定ですが…」

 

マネージャーから今日の予定を聞きながらカイムは胸の奥で引っかかるなにか得体の知れない感覚を燻らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食と入浴を済ませ、シロナとカイムは同じベッドに横たわっていた。

カイムに体を寄せながら、シロナはカイムが操作するタブレットを覗き込んだ。

 

「お仕事?」

「ん、ああ…姉貴からちょいとな」

「イサナさん?なんで?」

 

カイムの姉であるイサナはスタイリストであり、カイムの仕事である考古学にもジムリーダーにも関連はない。仕事関連でわざわざ姉であるイサナに連絡する理由をシロナは見つけられなかった。

 

「ガラル地方に、ちと面白い記録があってな。俺達が知ってるレジ系のポケモン以外にも別の種類のレジ系ポケモンがいるらしい」

「そうなの?それは初耳ね」

「見つかったのはつい最近だしな。つっても、いるかも程度だがな」

 

ガラル地方で見つかったのは、ホウエン地方にあったおふれの石室と似た構造をしている遺跡郡だった。

 

「なんでも、巨人の寝床って呼ばれてるんだとか。巨人はレジ系ポケモンの別称でもある。まだ調査が進んでないが、ほぼ間違いないだろう」

「じゃあ、ガラル地方に調査しに行くの?」

「いや、それはちと厳しい。調査は向こうにいる知り合いに頼むことにした」

「知り合い?」

「ソニア」

 

ああ、とシロナは納得する。

以前開催されたチャンピオンズトーナメント。その際にシロナがバトルしたダンデのサポーターとして知り合い、ミュウツーの一件で共に解決に尽力したソニアは、カイムと同じ研究者見習いであり、カイムにとって良き友人だった。

そんなソニアにカイムは遺跡の調査を依頼した。これによってソニアに大きな借りができてしまったが、それを考慮しても調査してもらえることは大きい。

 

「そっか。ソニアさんに依頼したのね」

「ああ。まあとりあえず、任せておけばいい。だが依頼した本人がこの遺跡のこと何も知りませんじゃ笑い話にもならん。だからこうして予習しておいてんだ」

「殊勝な心がけね」

 

そう言ってシロナはカイムにさらに身を寄せる。体調を崩して以来、シロナはここ数日カイムにくっつくようになった。元々いつでもベタベタしているバカップルではあるのだが、そのくっつき度合いがここ数日更に増している。

カイムとしては心から愛するシロナにくっつかれることは嬉しさ意外何もないのだが、それでもどことなくシロナの様子が異なることに気づいていた。

 

「…シロナ」

「ん?」

「なんかあったか?」

 

カイムの言葉にシロナは僅かに反応する。

数瞬間の沈黙の後、シロナは諦めたようにため息を吐いて言った。

 

「…カイムは、誤魔化せないわね」

「ああ。どんだけの時間お前といると思ってる」

「…そうね」

 

シロナはカイムの頬に手を添えて語り始めた。

 

「カイムも気づいていると思うけど、貴方が寝込んだ日あたりから異様な雰囲気がこの周辺を覆っているわ。この空気がどこからきているか、何故今世界を覆ったのかはわからない。でも、ここ数日で絶対に何かがあったのよ」

「だろうな」

「この空気が何かの前触れ…そう思えて仕方ないのよ」

 

シロナの表情か曇る。その表情を見て、カイムはシロナを抱き寄せた。

 

「…怖いの。貴方が体調を崩したのは、この前触れに起因しているんじゃないか、これを放置したら…貴方が傷つくんじゃないかって考えてしまう」

「………」

「貴方のことは、私が守る。でも、私も万能じゃない。できないこともある。だから…もしかしたら私でも守れないんじゃないかって、考えちゃうの」

 

以前の少年の事件。あの事件とカイムの体調不良が同じ原因である可能性を考えた時からずっと、この恐怖が心の底で燻っていた。

少年の時はヒカリがクレセリアの協力を得ることで解決することができたが、ヒカリの力を借りることができない状態だった場合、シロナにはどうすることもできない。少なくともシロナは自分がクレセリアと心を繋げることはできても、クレセリアから認められた存在ではないことを自覚している。そのため何かあった時、シロナはカイムを救うことができない。

 

「私は…貴方が傷つくことが、私の前からいなくなることが怖いの。貴方が大切だから、怖い」

 

シロナの表情が悲痛に歪む。嫌な予感がずっと離れない。今まで体調を崩すことなどなかったカイムが倒れる姿を見たことに加え、あの悪夢の事件。この二つが重なり悪い想像ばかりしてしまい、シロナは不安で仕方ない状態にまでなってしまっていた。

 

そんなシロナの胸中を察したカイムはシロナを抱き寄せ、シロナの頭がカイムの胸板の上に来るように乗せた。

 

「それは俺も同じだ。シロナが傷つくことは怖い。心配するな、とは言えない。突然俺がいなくなる可能性だって、無いとは言えねえんだ」

 

どんな形であれ、全ての存在と関係に終わりはくる。それが寿命などの大往生なのか、はたまた不慮の事故などによる不本意なものなのかはわからないが、これは間違いないことだ。

 

「でも、俺はいつ終わるかわからない時間をシロナと多く過ごしたいと思ってる。最後のその瞬間まで、俺はシロナのことを愛し続けたい」

「…私も」

 

カイムの言葉にシロナは表情を緩め、カイムの胸板に顔を埋める。とくん、とくんと一定のリズムで聴こえてくる心音がどこか心地よい。

 

「…だめね。カイムも人間なんだし、体調を崩すことくらいあるはずなのに…それくらいのことで、こんなにも怖くなる」

「ま、俺は自己管理ができてるからな。昔のオーバーワークで身体壊して以来、病気はやってねえ」

 

『小さい怪我はやったけどな』と付け加え、シロナの頭をポンポンと優しく撫でる。

 

「…シロナ」

 

未だに不安そうな顔でカイムの胸板に顔を埋めるシロナに、カイムは告げた。

 

「俺は何があってもシロナの元へ戻ってくる。シロナのいる場所が、俺の帰る場所だ。お前の目に映る景色に、俺はいたいから」

「ありがとう、カイム。私も貴方のいる場所がここだって、貴方を呼ぶ。貴方がどこにいっても、私が必ず連れて帰る」

 

シロナはカイムの手を握り、そう決意するように言う。そしてシロナの言葉を受けたカイムは口元をわずかに歪めると、小さく息を吐いた。

 

「…期待してる」

 

背筋を抜ける嫌な感覚。それを受けながらカイムはシロナの背中を優しくさすった。シロナはカイムの首に腕を回し、優しく抱きしめた。

そしてカイムはシロナの頬をむにーっと引っ張る。

 

「いひゃい〜」

「相変わらずやわこいな」

「む〜!」

 

そこで反撃と言わんばかりにシロナはカイムの頬をむにっと抑えた。

 

「むごっ」

「おひゃえひよ」

「ひゃんとひたことびゃでひゃべれ」

 

互いにまともに喋ることができていない現状に思わず噴き出し、二人とも笑った。その笑い声に反応し、カイムのすぐそばで眠っていたムクホークとブラッキーが薄らと目を開く。

 

「あ、悪い。起こしたか?」

「ごめんね」

 

ムクホークは気にせず再び目を閉じて眠る。ブラッキーはカイムの顔の側にずりずりと這いながら動くと、『自分も混ぜろ』と言わんばかりにカイムの首筋に顔を這わせた。

 

「甘えん坊さんね」

「誰に似たんだか」

「カイムじゃない?」

「はあ?」

 

シロナの言葉にカイムは不本意そうな表情をするが、実際午前中のカイムはブラッキーのような甘え方をしていた。それをあまり覚えてないカイムは不本意だと考えたが、シロナからしたらそのままとしか言えなかった。

 

「だって、午前中のカイムは…」

「え、なんかしたか?」

「覚えてないならいいわ」

「いや待て、俺なにした」

 

焦るカイムが面白くて、シロナは笑う。

 

「んー?なにもしてないわよ?」

「あの時疲れと眠気で記憶が曖昧なんだよ…なあ、俺なにした?」

「かわいい甘え方をしただけ」

「は?どんな?」

「秘密!」

 

それだけ言ってシロナはカイムとブラッキーを抱きしめて目を閉じた。

 

「あ、おい!」

 

自分が何をしたのか自覚がないため、なにをしたのか聞き出そうとするがシロナは狸寝入りを決め込んでしまい、応えるようには見えない。

これはダメだなと諦めたカイムはシロナを抱き寄せる。そこで視線を移すと、ガブリアス、トリトドン二匹、そしてキリキザンが寄り添い合うようにして眠っているのが見える。カイムがガブリアスに視線を向けると、その視線に気づいたガブリアスは薄らと目を開けてカイムを見つめた。

 

「…いざというときは、頼む」

「え?」

 

小声で呟いた言葉をシロナは上手く聞き取ることができず、狸寝入りを決め込んでいたにも関わらず思わず聞き返してしまった。

しかしカイムは小さく首を振ると、シロナの額に口づけを落とした。

 

「何でもない。おやすみ」

 

シロナの不思議そう顔を見ながら、カイムは目を閉じた。シロナもカイムが言う気がないことを理解し、目を閉じる。しばらくして二人は穏やかな寝息を立て始めた。

 

 

 

 

眠るカイムを、ガブリアスは鋭い目つきで見つめていた。

 

 

 

 

 

 




イベント始動。

執筆がどんどん遅くなる。申し訳ないです。
エタっているのではなく、単に死ぬほど時間がないだけなんで。


シロナ
はじめてのお料理をした人(なおポケモンがいなければ大惨事になっていた模様)。結局イチャイチャしてたため、ポケモン達に呆れられた。

カイム
久々に体調を崩したあげく、なんか意味わからない夢を見たためシロナを不安にさせた男。今作最大のデレを見せたらしいが、成人済み一般男性のデレはシロナにしか需要はない。

謎の声
詳細不明。


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