ただただシロナさんとまったり過ごすだけの話   作:職業病

44 / 68
わかってる人もいると思いますが、このダークライ編はポケマスにかなり影響受けてます。


7/24 日間ランキング83位
UA60万

ありがとうございます。


六 万 字

お待たせしました。
34話です


34話 戻りの洞窟

幼い頃から、機械が好きだった。

 

 

 

計算した通りに動く機械は、とても美しく完全なものに思えたからだ。

 

 

 

機械は移ろわない。

機械は変わらない。

機械は矛盾しない。

 

 

 

私にはそれが完全で尊いものに思えてならなかった。

 

 

 

だが私の考えを理解できる者はいなかった。

機械ばかり見る私を、誰もが気味悪がった。

 

 

 

親でさえも。

 

 

 

唯一理解を示してくれた存在(ポケモン)も、いなくなった。

 

 

 

いや、あの存在(ポケモン)が本当に私を理解していたかどうかは今となってはわからない。

 

 

 

ただからかっていただけなのかもしれない。

 

 

 

それならそれで構わない。

 

 

 

心などという不完全で曖昧なものを消し去れば、この思いもまた消え去る。

 

 

 

あのポケモンと過ごした記憶。

記憶の中の私は、確かに楽しかったのだと思う。

だがこれから私が創る世界が実現すれば、それもただの記録になる。

 

 

 

それが私が望んだ世界。

 

 

 

争いも対立も貧富の差も悪意も醜悪さも…何もかもが平等で機械のように動いていく世界が、もうすぐ実現する。

 

 

 

一つ心残りがあるとすれば、あのポケモンは今どこにいるのかが気になるくらいだろうか。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

穏やかな寝息を立てるカイムの顔を見ながら、シロナはヒカリに昨日あった出来事を話していた。

 

「そんな…じゃあカイムさんは今…」

「ええ。ダークライの悪夢の中にいるわ」

 

カイムが自分で言った通り、やはりカイムは目覚めなかった。その元凶である強い悪夢の気配をたぎらせたメンバーズカードは今もカイムの手の中にある。

 

「カイムが持ってるメンバーズカードなら、クレセリアの力でダークライの力を中和している今の状況でも悪夢の中にダイブできるわ。それを利用してカイムは悪夢の中にダイブし、ダークライのバディを止めるって」

「悪夢の中にダークライがいるのはわかりますけど、ダークライのバディもいるんですか?」

「わからない。でもカイムはいるっていう確信を持ってたみたい。だから信じることにしたの」

 

細かい話は聞いていない。それどころの話ではなかったからだ。今でこそ落ち着いているが、カイムがいなくなるかもしれないという話を本人から聞かされ、冷静に話を分析できる精神状況ではなかった。

 

「カイムさん…」

 

ヒカリは穏やかな寝息を立てるカイムに視線を向ける。

初めて会った時は少し近寄りづらそうな印象だったが、今では兄のように慕える人となった。会うたびに気にかけてくれるし、美味しいご飯も出してくれる。それに本人は不器用ながらも優しくしてくれるし、ポケモンにもとても優しい。ヒカリとしても大事な人に思える人だった。

そんな人がこの事態を止めるために自ら危ない場所に身を投じた。ヒカリとしても心が痛む思いに駆られるには充分だった。

 

「カイムは、カイムなりにできることをやろうとしてる。だから私たちもやれることをやりましょう」

「あたし達にやれることって…」

「眠りに落ちた人たちはカイムが必ず解放してくれる。だから私たちは眠りに落ちた人たちのアフターケアね。公共機関の方はジムがやってくれてるから、私たちはポケモンリーグとの連携をやっていきましょう」

「で、でもカイムさんは…」

 

カイムは今もなお悪夢の中にいる。もしかしたらダークライとそのバディと戦っているかもしれない。そんな状況におかれているカイムを放置することはヒカリにはできない。

そしてシロナはヒカリ以上にカイムのことを心配しているはずだ。そのシロナがカイムのためになにもしないとは考えづらい。

 

「わかってるわ。カイムは今も一人で戦っている。だから私もカイムに託されたもののために戦う。それに、カイムをこのままにしているつもりはないわ。必ずカイムを連れ戻すために、私はできることをやる」

 

当然シロナ自身、カイムをこのままにしておくつもりはない。カイムを連れ戻すために全力を尽くすつもりだが、カイムに託されている人たちのことも考えている。彼らのことも託された以上守る責務があるため、色々と手を回すつもりだった。

 

「そうですよね。カイムさんは必ずあたし達で助けましょう!」

「ええ。手伝ってくれる?」

「はい!」

 

ヒカリの言葉にシロナは微笑むと、カイムが眠るベッドのすぐそばにある椅子に腰掛けた。変わらず穏やかな寝息を立てるカイムの頬を優しく撫で、少しだけ伸びた黒髪を撫でる。

 

「…こうしてみると、普通に眠っているだけみたいね。私たちがこんなに心配してるのに」

「本当ですね。いつもこんな静かに眠っているんですか?」

「そうよ。とても静かに寝るの。寝返りもあまりしないし、一度寝ると全然起きないくらい眠りが深いわ」

「眠りが深い…」

「もしかしたら、ダークライの眠りの深淵に干渉できたのも元々眠りの深さがすごい深いからかもしれないわね」

 

実際カイムが悪夢の中に自主的に潜れた理由はわからない。ただヒカリがクレセリアに選ばれたように、カイムも何かしら理由があって選ばれたのだろう。

 

「きっちり早い時間に起きるけど、寝てる時はどんなことしてもほぼ起きない。でもね、私が起こすと必ず起きるの。だから、カイムを連れ戻す(起こす)のは私じゃないと」

 

何があっても必ず連れ戻す。そう約束した。

その決意を胸に、シロナは立ち上がる。

 

「さあ、行きましょう。私たちにできることをやりに」

「はい!」

 

カイムが悪夢に囚われたことでシロナは意気消沈しているのではないか、とヒカリは心配していたが、どうやら杞憂だったらしい。シロナの目には強い光と固い決意が宿っている。ヒカリが憧れたシロナのままだった。

 

ヒカリはシロナと共に部屋を出る。部屋にはカイムの穏やかな寝息だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シロナは自室で調べ物をしていた。

 

「…神話には、夢に関することはほとんどないわね」

 

現在シロナはダークライの見せる夢について調べていた。カイムを悪夢から連れ戻す、と約束したのはいいが、今のままでは悪夢に潜る方法がわからない。まずは夢の中に潜る方法を探らなければならないためシロナはその方法を調べていたが、今のところほとんど手がかりはない。

 

カイムのもつメンバーズカードの力で悪夢に潜れないか、とも考えたのだが、それではカイムと同じことをしているだけで夢から覚めることはできない。あくまで一方通行の方法でしかないことに加え、そもそもシロナはダークライの力と親和性がない。メンバーズカードに残された力ではシロナは悪夢に潜ることはできない。そのため保管してある資料だけでなく、シロナがアクセスできるあらゆるデータベースを漁っていた。

 

「んー…難しいわね」

 

しかし元々記録がほとんどないダークライの悪夢に潜る方法など簡単に出てくるはずもなく、かれこれ帰宅してから数時間ずっと調査を続けているのにも関わらず成果は得られていない。

一休みしようとブルーライトカットのメガネを外して伸びをすると、シロナの部屋の扉がコンコンと叩かれる音がした。

 

「どうぞ」

 

シロナの声を受け、扉が開く。そこには寝巻き姿に着替えたヒカリがマグカップを持って立っていた。

 

「あらヒカリ。こんな夜更けにどうしたの?」

「夜遅くにすみません。そろそろ一息、入れませんか?」

 

えへへと笑いながらヒカリはヨノワールに持ってもらっていた二つのマグカップを見せる。そのマグカップからはほかほかと湯気が立ち上っていた。

 

「ホットミルクです。良ければ一緒にどうですか?」

「あら、ありがとう。いただくわ」

 

シロナはヒカリとヨノワールを部屋に招き入れる。椅子を出してヒカリに座るように促した。

マグカップを受け取ったシロナは口をつける。暖かいミルクが喉を通り、シロナの心を落ち着けていく。日中ずっと気を張っていたため、全身の力が抜けていくような感覚がした。

 

「ふう…落ち着くわね」

「昼間もずっと動いてましたし、帰ってきてからも調べ物を続けてたから少し休まないと」

「そうね。ちょっと根詰め過ぎてるかもしれないわね」

「そうですよ。シロナさんが倒れたりしたら、あたしがカイムさんに怒られちゃうんですから」

「ふふ、そうね。ごめんなさい」

 

ジト目を向けてくるヒカリに柔らかい笑みを浮かべながらシロナは笑う。確かにヒカリの言うようにやりすぎていたし、ここで倒れたらカイムが小言を言ってくるだろう。

 

「それで、どうですか?悪夢に潜って、また上がってくる方法は見つかりましたか?」

「簡単にはいかないわね。やっぱり、記録のないポケモンのことだしすぐには見つからないと思うの」

「そうですよね…クレセリアは悪夢を祓うことはできても、潜ることはできませんから…」

 

クレセリアの力はあくまで悪夢を祓い、良い夢にするというもの。故に悪夢を祓うことはできても悪夢に潜ることはできない。

 

「…ねえヒカリ。クレセリアの力って夢にどこまで干渉できるの?」

「え?」

「悪夢を祓うことができるなら、悪夢に入ることはできなくても悪夢に干渉することができるんじゃないかなって」

 

クレセリアとダークライ。どのような形であれ、共に夢に干渉する力を持っている。その力がどこまで干渉するものなのかをシロナは知らない。だからそれを把握することができれば、何かに繋がるのではないかとシロナは考えた。

 

「あたしが把握しているのは、悪夢にクレセリアの力を当てて祓うってところまでです」

「悪夢に力を当てる?」

「はい。ポケモン達の力がぶつかり合うように、クレセリア達は夢の世界で自分の力をぶつけるんです」

「夢に力を…?」

「クレセリアの夢の世界とダークライの悪夢の世界は『夢』という大きな世界の中に隣り合わせで存在するんです。二つの世界がぶつかり合うと力が強い方が夢を支配して、眠っている人やポケモン達に影響を与えます」

 

シロナはヒカリの例えを頭の中で分析する。ヒカリの言う『夢』そのものは宇宙、そしてクレセリアとダークライの力は惑星のようなものだろうと判断した。

 

「ぶつかり合う時、二つの世界は接触しますけど悪夢の中に潜るのとは違います。意識を悪夢の中に潜らせるのではなく、力を祓うだけです。少しくらいなら潜れるかもしれませんけど、クレセリアの力では悪夢の底にはたどり着けません」

 

やはりクレセリアの力だけではカイムがいる悪夢の底には辿り着けないらしい。しかし悪夢に干渉することはできるという。つまりこれは夢の世界への干渉だけならクレセリアの力でできるということだ。

 

「じゃあ夢の世界に干渉するだけなら、クレセリアでもできるのね」

「はい。でもクレセリアの力で夢の世界に入っても、悪夢には潜れません。カイムさんのいる場所に行くには、クレセリア以外の力も必要になります」

 

なるほど、とシロナは顎に手を当てて思考する。ヒカリの話の通りなら、夢の世界に入るだけなら大した問題ではないのだろう。

だがそこからダークライの力である悪夢に潜ることが最も重要であると同時に困難な障壁となるということだ。しかし悪夢に関係するポケモンなどそういない。スリーパーなどは夢を見せるポケモンは存在するが、悪夢に潜るとなるとまた別。悪夢に潜るために必要な要素を探すことがシロナが探すべきものだと定まった。

 

「夢から悪夢に潜る…これが必要になるってことね」

「そうなります。でも悪夢に関係するポケモンなんて…」

「そうね、私も知らないわ。だからもっとたくさん調べないと」

「さっきも言いましたけど、無理しないでくださいね。倒れたら元も子もないですよ」

「わかってるわ。他にもやらなきゃいけないことはあるし、今日はもうこれ以上やらないことにする」

 

日中色々と奔走し、さらに調査までしていたこともあってか、それなりに疲労が溜まっている。集中している時は気づかなかったが、それもあくまで集中していたから気づかなかったにすぎない。

普段ならカイムがそのあたりをコントロールしてくれるが、今はいない。その事実を少しだけシロナは寂しく思うが、その思いを流し込むようにマグカップの中身を飲み干した。

 

「じゃあそろそろ寝ましょ。明日も忙しいわよ」

「はい。行こう、ヨノワール」

 

ヒカリもホットミルクを飲み干し、ヨノワールと共に部屋を出ようと立ち上がる。その背中にシロナは声をかけた。

 

「ヒカリ」

「はい?」

「…ホットミルク、ありがとう」

「いえ。あたしもお世話になってますから。それじゃあおやすみなさい」

「ええ、おやすみ」 

 

ヒカリを見送り、残されたシロナは大きく息を吐く。オフィスチェアから立ち上がりクローゼットを開いて着替える。就寝用のシャツとハーフパンツ姿に着替えたシロナは誰もいないベッドへと潜り込んだ。

 

(…少し寂しいわね)

 

普段なら隣に最愛の人がいた。仕事の関係上寝る時間がズレることもあったが、目覚める時には必ず隣にいたはずの人が、今はいない。悪夢の中に潜っている間は不測の事態を避けるために念のためシロナは別部屋で寝ることにした。シロナとしてもそれに納得しているし、自分から提案したことではある。だがそれでも寂しいということに変わりはない。

 

(…貴方は今も一人で戦っているの?)

 

今カイムがどんな状況かはわからない。だがカイムはカイムでやるべきことを果たしているはずだ。

 

(必ず連れ戻す)

 

新たに決意を固めたシロナは目を閉じる。

 

程なくしてその意識は微睡みの中に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

悪夢の深淵で二人の男が向き合っていた。

 

「わざわざここまで来るとは…貴様はよほどもの好きのようだな」

 

皮肉を言うアカギに対して、カイムは一切表情を動かすことなく答える。

 

「そうだな。もの好きなのは否定しねえ。尤も、自分からこんなとこに引きこもるお前も大概だけどな」

「ふん…その減らず口、変わらんな」

 

赤いマフラーを巻き直しながらアカギはカイムを冷たく見つめる。

 

「何故ここに来た。ここに来たところで貴様にできることなど何もない。クレセリアの力も持たないお前に何ができる」

「何ができる、ね…さて、なんだろうな」

 

表情を変えることなく言うカイムにアカギは目を細める。意識だけの存在となっている現在でもわかるほど、最後に会った時よりもさらに洗練された覇気を纏っている。ただ無策でここまで来たとは考えづらい。加えてカイムはシロナのパートナーということもあり、邪魔をしにきたのは間違いないだろうとアカギは考えた。

 

「まさかとは思うが、何も考えずにここに来たわけではあるまい」

「そりゃあな。考えはあるさ」

「何が目的だ」

「端的に言えば、悪夢に囚われた人を解放する」

 

それを聞いたアカギは嘲笑するように口元を歪めた。

 

「クレセリアの力ですら祓うことができなかった悪夢を、お前が祓うというのか?」

(やっぱ把握してんのか。そりゃそうか)

 

悪夢の底にいる以上、バディであるアカギもダークライの悪夢の状態を把握している。悪夢に囚われた人々が悪夢から抜け出し、クレセリアとダークライの力の狭間で漂っていることも知っていた。

 

「ま、俺ができることなんぞたかが知れてる。そんな警戒しなくていい」

「これで警戒するなと言う方が無理だろう。この悪夢の底にまで辿り着くことができる人間などそういない。何故貴様はここまで潜ってこられたのだ」

 

悪夢の底など普通なら潜ってこられる者などいない。仮にダークライの悪夢であることを意識することができたとしても、さらにそれより深く潜ることなどそうできない。

 

「知るか。俺は呼ばれただけだ」

「呼ばれただと?この悪夢にお前を呼ぶ者がいるというのか?」

「実際呼ばれたんだし、しゃーねえだろ」

「誰が呼んだというのだ」

 

アカギが睨みつけてくるが、カイムは相変わらず表情を変えない。僅かに苛立ちを含む声をアカギはぶつける。

 

「誰がお前を呼んだのだ。言え」

「言わなかったらどうなる」

「消すまでだ。ポケモンもいないお前を消すなど、造作もないことだ」

 

その瞬間、アカギの背後にいたダークライがカイムに目を向ける。ダークライは感情の籠らない目でカイムを見つめると、悪タイプの力を放ってきた。

 

「あくのはどうか…!」

 

直接ぶつけられることはなかったが、余波でさえ人の身体には大きなダメージが入る。咄嗟に回避行動に入ったためほぼダメージはないが、直撃すればダメージは大きい。ここでのダメージが肉体にどのような影響を与えるかはわからないが、いい影響は間違いなくないのはわかる。

 

「おお…やべえな」

「どうする?」

「わーった降参降参。言うから」

 

無表情のまま両手をぷらぷらとあげるカイムにアカギは苛立つ。おちょくっているようには見えないが、どことなく危機感を感じない声にからは降参の意思は感じられない。

 

「俺を呼んだのはダークライだ」

「…何?」

 

アカギはダークライに目を向ける。目を向けられたダークライは相変わらず感情のこもらない視線をアカギに向けた。

 

「ダークライの真意は知らん。だがこいつは二回俺に接触してきた」

 

一度目は微睡みの夢の中。

二度目はメンバーズカードの力に引き寄せられた結果見ていた夢の中。

二度の接触を通してカイムはダークライから呼ばれていることを察した。それと同時に、呼ばれた理由もカイムはなんとなく察していたが、あくまで予想。しかも確証も何もないただの直感だ。理解できているとは言い難いため、『真意はわからない』と言った。

 

「ほう…」

 

だがアカギは動じない。まるで予期していたかのような反応を示した。その反応にカイムは目を僅かに細める。

 

「そうか。お前が呼び込んだのか」

「予想してたのか?」

「あり得ん話ではない。私はあくまで、こいつの力を利用しているにすぎん」

「へえ」

 

アカギとダークライの関係がどんなものかはわからないが、少なくとも友好な関係ではないらしい。アカギとダークライの意思…二つはどうやら同一のものではないようだとカイムは予想した。

 

「まあそんなことはどうだっていい。貴様がここに来たとしても、できることは何もない」

「…かもな」

 

今度はアカギが反応する。

 

「ほう?何もできないと分かった上で、ここに来たというのか?」

「さあ?何もできないかどうかはやってみなけりゃわからんだろ」

「何をするつもりだ?」

「そうだな…じゃあまずは」

 

カイムは突然その場に腰を下ろす。何が目的かわからないアカギは表情を歪めた。

 

「どういうつもりだ?」

「どうもこうもねえ。話をするなら、まずは互いに腰を据えねえとな」

 

予想外の言葉にアカギは目を見開く。それを見たカイムは珍しく表情を楽しそうに歪めた。

 

「へえ、お前そんな表情もできたんだな」

「話をするだと?貴様と話すことなど何もない。私は私の理想の世界を創るだけだ」

「勘違いしてるようだが、俺がしたい話はお前を止めるためのものじゃねえ。お前が心を否定するようになったきっかけが、動機が知りたいってだけだ」

 

カイムの言葉を聞いたアカギは睨みつけるような視線をカイムに向ける。

 

「……それを知ってどうなる」

「どうもしない。お前という人間を、ダークライというポケモンを知るだけだ」

 

カイムの言葉を聞いたアカギはぴくりと眉間を動かす。明らかに無策で飛び込んで来たとは思えない表情。何よりあの女(シロナ)のパートナーであるカイムが何も考えていないはずがない。そんな直感がアカギの中にはあった。

アカギは僅かに思案する。その刹那に脳裏に過るのは、かつての記憶。心を否定し、完全を求めるようになった日々。

 

(…やっぱ無理かねえ)

 

何も言わないアカギにカイムはそう考えながらため息を吐く。カイムがアカギについて知りたい、と考えたのにも無論理由はあるのだが、そもそもこの思惑にアカギが乗ってこなければ意味がない。

諦めかけたその時、アカギはカイムの目の前に腰を下ろした。

 

「貴様の思惑は知らん。だがここでは何をしても無駄だ。だからお前の口車に乗ってやろう」

「へえ?」

「語ってやろう。心というものの不完全さを…醜悪さをな」

 

どことなく怒りを滲ませた声を聞きながら、アカギは目を閉じる。

 

「時間は、いくらでもある」

 

向かい合う二人を見ながら、ダークライは悪夢の世界を見上げる。

悪夢に浮かぶ人々の意識を見つめ、カイムの思惑を理解するとゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

カイムが眠りに落ちてから三日

 

街の面倒を見つつ、カイムがいる悪夢の世界へいく方法を見つけようと睡眠時間を限界まで削って調べているが、未だに見つからない。

 

「……これもダメか」

 

ミオ図書館にあった資料を大量に借りてきたが、結果は全て空振り。夢、悪夢、眠りに関する資料を全て漁ったが、悪夢の世界に行く方法は記されていなかった。

 

「…どうすれば」

 

カイムが眠りに落ちて三日。うなされている様子はないが、このままでは徐々に衰弱してしまう。点滴によって栄養は補給されているし、関節もバシャーモとルカリオの献身によって動かされている。少しの間は大丈夫だろうが、素人の介護ではいつかは衰弱していくだろう。

 

対して、ここ数日で悪夢にうなされ続けていた人々の眠りが穏やかになった。今保護されている人々は未だ目覚めないものの、悪夢にうなされている人は完全にいなくなった。これなら衰弱していく速度もかなり緩やかになるため、シロナ達はだいぶ時間に余裕ができるようになっていた。

 

しかし、その時間を全て費やしても悪夢に潜る方法は見つからないし、閃かない。焦りがシロナの胸中をじわじわと侵食していく。

 

「シロナさん」

 

いつの間にかヒカリがシロナの傍らに来ていた。集中しすぎて気配に気づかなかったらしい。

 

「…ヒカリ」

「もう休んでください。ここ二日、ろくに寝てないでしょ?」

「大丈夫よ。もう少し…もう少しだけ」

 

タブレットに手を伸ばそうとするシロナの手をヒカリは止める。その表情は悲痛に歪んでいた。

 

「カイムさんを助けたい気持ちはわかります。でもこのままじゃもちません。休まないと…」

「でも…」

「だめです」

 

ヒカリはタブレットを奪い、怒ったように腰に手を当てた。

 

「これ以上はもうだめです。明日も一日お休みです。ミオシティにはあたしが行ってきますから」

「ヒカリ…」

「カイムさんが心配なのはわかりますけど、シロナさんのことも心配なんです。シロナさんが倒れたら元も子も…って、この話二回目ですよね⁈」

「…ふふ、そうね」

 

シロナは疲れたように息を吐き出す。こんな一回り以上歳下の女の子に心配されては大人失格だと内心で苦笑した。

 

「何笑ってるんですか⁈」

 

ぷんぷんと怒るヒカリをシロナはどうどうと宥める。いつも面倒を見てもらってばかりなチャンピオンであり、こんな様をカイムに見られたら小言を言われるんだろうなとシロナは考えた。

 

「ごめんごめん。もう休むわ」

 

シロナはそう言って立ち上がる。

その時、シロナの手が本の山に当たった。本が崩れ落ち、床に転がる。

 

「あ…」

 

シロナは床に転がった本を集める。疲れていることを実感しながら本を集めていると、本棚から落ちた一冊の本が目に留まる。借りてきた本ではなく、シロナが自分で持っている本だった。

 

(この資料…確かシンオウ神話の)

 

手にとってパラパラとめくる。自分で所有しているというのもあり、シロナはこの資料の中身を大体覚えていた。神話研究者であるシロナにとってこの資料に書かれていることは重要であり、今後の研究にも役立つと思えるものが多かったからだ。

 

「その本、シンオウ地方の神話についてですか?」

 

本を眺めていたシロナの背後からヒカリがひょっこり顔を出して聞いてくる。ヒカリの問いにシロナは頷いた。

 

「そうよ。貴女も知ってるディアルガ、パルキア、ギラティナに関する資料ね」

「あの槍の柱で会ったポケモン達ですね!」

「そうよ。それぞれ時間、空間、反物質を司る神と呼ばれるポケモン達ね」

 

あくまで司ると言われているだけではあるが、実際に神たるポケモン達は『時の咆哮』、『亜空切断』、『シャドーダイブ』といった司るものと同じような力を扱う。昔の人々にとっては本当に時間、空間、反物質の象徴に見えただろう。

 

「神様かあ…すごい力だったし、本当に神様みたいでした」

「私たちが神扱いしてるだけだけど、実際彼らはこれらの概念を支えているの」

 

シロナはそう言って視線を移す。シロナの視線の先にはアラモスタウンで撮った写真があった。ギラティナを象徴するものは無いが、あの街にはディアルガとパルキアを象徴する『時空の塔』がある。このような塔がある以上、彼らが神として信仰があることがわかる。

 

「そういえば…ギラティナの反物質ってなんですか?」

「反物質は、ある物質と比べて質量とスピンが全く同じだけど、構成する素粒子の電荷が真逆の性質を有する反粒子によってできている物質のことよ。物質と反物質が出会うと、互いに…」

「?????????」

「あー…」

 

学者として思わず語ってしまうところだったが、相手はスクールを卒業していくばくもない少女。決して頭は悪くないヒカリだが、学者であるシロナと知識レベルに大きく差があったとしても仕方ない…というか、当たり前のことである。

 

「えーっと、要するに出会うと互いに打ち消し合う物質のことよ。お互いに弱点を突き合って、消滅しちゃうものってこと」

「なるほど…ドラゴンタイプ同士みたいな感じですね」

「イメージとしてはそれでいいわ」

 

反物質のことなど知っていたとしてもヒカリの今後の人生で役に立つことはないだろう。少なくとも普通に生きている限り聞くことはほぼない。

シロナはページをめくるとギラティナについて話を続けた。

 

「ギラティナは破れた世界…反転世界を支える存在よ。反転世界は私たちの住むこの世界を裏側から支えているの。二つの世界は付かず離れず隣り合って存在しているけど、決して触れ合うことはないわ」

「じゃああたし達はギラティナが支えてくれているから普通に生きていけるんですね」

「その通りよ」

「でもギラティナって、あんまり神話で出てきませんよね。なんでですか?」

 

シンオウ地方に伝わる神話にはディアルガとパルキアが主に出てくる。しかしシンオウ地方に伝わる神は二柱ではなく、三柱。

そのもう一体がギラティナである。ギラティナはかつて三柱の神を生み出した大いなる存在…アルセウスに歯向かい表舞台から追放されてしまった。そのためかシンオウ神話にはほとんど姿を現さない。

 

「ギラティナはかつて、ディアルガ達を生み出した存在に歯向かったらしいの。その結果、表舞台から消されてしまったらしいわ」

「それで裏側…反転世界にギラティナは追放されてしまったんですね」

 

だがそこでヒカリは一つの疑問が生じる。

 

「あれ?じゃあギラティナの伝承ってなんで残っているんですか?ただでさえ見れる機会なんて少ないのに、反対世界なんていたら余計伝承に残らないと思うんですけど…」

「それは、ギラティナはこちらの世界に出てくる力があるからよ。相反する反転世界とこちらの世界を繋ぐ力を持っていて…」

 

シロナはそこで言葉を止めた。なにかあったのかとヒカリは首を傾げてシロナに問いかけた。

 

「シロナさん?どうしました?」

「…ねえヒカリ。クレセリアの力で夢の世界に行くのって、ポケモンも可能?」

「えっ?あ、はい。可能だったと思います」

 

優しい表情から一転、シロナの表情が真剣になる。どういった意図なのかはわからないが、ヒカリは驚きながらもちゃんとシロナの問いに答えた。

シロナはヒカリの答えを聞いて顎に手を当ててしばし思案する。

 

「………」

「シロナさん?」

「ヒカリ、もしかしたらカイムを連れ戻す方法がわかったかもしれない」

「えっ?」

「難易度は高いし、関門も多い。でもこのまま無為に過ごすよりは試すべきだわ」

 

シロナはどこか納得したような様子だが、ヒカリは何がなんだかわかっていない。

 

「えっと…どういうことですか?」

「ああごめんなさい。詳しく話すわ」

 

シロナは椅子を持ってきてヒカリに座るように促す。ヒカリは促された通りに座り、シロナは対面に腰を下ろした。

 

「それで、悪夢の世界にはどうやって行くんですか?」

「さっきヒカリはクレセリアの力で夢の世界に行くまでは可能だって言ってたわよね」

「はい」

「それでクレセリアの力でいける夢の世界とダークライの悪夢の世界は隣り合わせで存在しているのよね。でもこの二つは互いに行き来できない。ならその二つの世界を繋ぐ力を持つ存在がいれば、悪夢の世界に潜ることができるんじゃない?」

「でもそんな世界を繋ぐ力なんて…」

 

だがそこでヒカリはハッとする。先ほどシロナが見ていた本で世界を繋ぐ力を持つ存在が出てきた。その存在の力ならば確かに夢と悪夢を繋ぐことができるかもしれない。

 

「まさかシロナさん…」

「そうよ。ギラティナの力を借りる」

 

ヒカリはシロナの言葉に目を見開く。ギラティナは反転世界からこちらの現実世界を繋ぐ力を持つ。故に、夢の世界にギラティナと共に行くことができれば夢から悪夢の世界に行き、そのまま悪夢の底までいけるのではないかとシロナは考えた。

 

「確かに…ギラティナの力を借りればできるかもしれません!」

「でしょ?このまま何もしないよりははるかにいい賭けだと思うの」

「あたしもそう思います!でも…どうやってギラティナに会うんですか?」

 

ギラティナはシンオウ神話にあまり出てこないが、間違いなく神の一柱。簡単に遭遇することなどできない。

 

「…アテがあるわ」

「アテ?」

「ええ。ギラティナはね、古代の墓場に現れるという伝承が残されてるの。だから古代の墓場に行けばギラティナと遭遇できるかもしれないわ」

「古代の墓場って…どこにあるんですか?」

「…シンオウ地方には、三つの湖がある。リッシ湖、エイチ湖、シンジ湖。でも、この三つ以外にももう一つ湖があるの」

 

シロナは立ち上がり、本棚から古い本を取り出した。

 

「これは?」

「これはシンオウ地方がシンオウ地方という名前になる前の記録…ヒスイ地方の地図よ」

 

シンオウ地方はかつてヒスイ地方という名前だった。いつ頃からシンオウ地方という名前になったのかシロナも把握してないが、人々が開拓を進め、ポケモンに対して理解が深まった頃だと言われている。

シロナが広げた地図には今のシンオウ地方とあまり変わらない地形が記されていた。その中に先程の三つの湖もある。

 

「これが昔のシンオウ地方なんですね。黒曜の原野…今のコトブキシティの近くはこんな名前だったんだ」

「昔のシンオウ地方は全然開拓が進んでなくて、大自然が広がっていたの。当時はポケモン達への理解が浅かったから、ポケモンは怖い生き物って呼ばれていたらしいわ」

「そう…ですよね。今のあたし達は昔の人たちが積み上げてきてくれたものがあったから、こうしてポケモン達と仲良くできるんですよね」

 

ポケモン達と分かり合えない世界。今のヒカリには想像もできないような世界だった。互いに恐れ、憎み合う世界がどんなものなのかをヒカリは想像できないが、そういった世界に生きた人たちがいたからこういう世界に生きられる。その事実をヒカリは不思議な気持ちで実感していた。

 

「それで話を戻すけど、この地図によると今で言う214番道路のあたりにも湖…というより泉があるの」

「えーっと…あ、本当だ。小さいけど確かにありますね」

「この泉は『送りの泉』…死者をあの世に送る場所だと記されているわ」

 

今は記録でしか残されておらず、シロナも場所をぼんやりと知っているだけで詳しいことは何も知らない。だが現代まで詳しく残されていないという事実がギラティナと共通する部分でもあるため、賭けてみる価値はあるだろう。

 

「この泉に、ギラティナが…」

「いるかも、だけどね。さっきも言った通りギラティナ自体は基本的に反転世界でこちらの世界を見守っている存在だからね」

「でも、他に選択肢は無いんですよね?なら行きましょう!」

 

ヒカリの力強い言葉にシロナは頷き、手に持った本を机に置いた。

 

「できることなら今からでも行きたいけど、さすがに無理ね」

 

時計の針は既に深夜二時を示している。本来なら眠る時間だし、未成年のヒカリが起きているのも問題だ。これ以上起きているのは良くない。

 

「そうですね。今日はもう寝て、明日にしましょう」

「明日は少し寝坊していく?」

「えへへ、そうしましょう。もっとお寝坊なカイムさんを起こすためにね」

「うふふ、そうね。珍しくお寝坊さんな人を起こしに行きましょう」

 

ギラティナに会える保証はないし、出会えたとしても協力してくれる確証もない。だがそれでも、二人はなぜか会えるような気がしていた。無論根拠はない。ただの直感だが、今の二人にはそれで十分だった。

 

二人の笑い声が静かな夜に響いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

二人は昼間にミオシティで被害者達のケアを終えた後、214番道路に向かった。送りの泉を探して214番道路を二人で道路を歩き回っていた…のだが、なかなか見つからずに苦戦していた。

 

「もー!どこにあるのー!」

 

あまりに見つからずにヒカリは頭を抱える。かれこれ二時間以上探しているのにも関わらず、影も形も見つかる様子がなかった。

 

「こんなに見つからないとはね…」

 

だが考えてみれば当然でもある。ヒスイ地方の頃から今までほぼ誰も見つけられなかった泉だ。簡単に見つかるわけがない。

シロナが空を見上げると、ちょうどカイムのムクホークが降りてきた。

 

「ムクホーク。どうだった?」

 

シロナの問いにムクホークは首を振る。やはりか、とシロナは息を吐きスマートフォンで時刻を確認した。時刻はそろそろ日没であり、日が更に落ちれば捜索はより困難になる。

 

(どうすれば…)

 

ルカリオ達の気配感知やムクホークの空からの捜索をしているのに未だに見つからない。焦りの感情がシロナの胸中に渦巻いていく。一刻も早くカイムを連れ戻したいのに足踏みをさせられている現状に追い詰められていっている。

 

「どこにあるの…!」

 

シロナは歯噛みした瞬間、日が地平線から消える。

 

 

 

ざわ

 

 

 

突如背筋に寒気が走る。

何が起こったのかわからずシロナは周囲を見渡した。何も変化がないように見えるが、僅かに空気が変わったのをシロナだけでなくポケモン達も気がついたようだった。

 

「シロナさん…!」

「ええ。空気が変わったわ」

 

ミオシティを包んでいた悪夢の気配とは違う。もっと異質な…通常の空気とは『真逆』ともいえるような雰囲気に包まれている。

 

「夜に214番道路を通ったことはあるけど、こんな空気ではなかったです!」

「そうね。私も通ったことあるけど、こんな空気じゃなかったわ」

「何が…」

 

要石を中心に捜索に出ていたミカルゲがシロナに向けて『おんみょーん』と鳴く。シロナはミカルゲの意図が理解できず首を傾げた。

その瞬間、シロナのコートにつけられたムーンボールが開いた。中から現れたブラッキーがシロナのコートの裾を引っ張る。

 

「ブラッキー?どうしたの?」

 

ブラッキーはシロナ達を連れて214番道路の森の中に歩いていく。その様子は『着いてこい』とでも言うような雰囲気だった。

 

「着いてこいってことかしら」

「みたいですね。行ってみましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくブラッキーに着いていく。

ブラッキーが進む道はギリギリ道として成り立っている道だったが、普段人やポケモンが通っている様子は見えない。また、それなりに森に入って進まないとこの道には辿り着けないだけでなく、木によって上からも見つけられないような構図になっていたため、見つけられないのも無理はない。

 

「こんな道、見つけられなくても仕方ないわね」

「ですね。こんな奥に道があるなんて思いませんでした」

 

そのまましばらく歩いていくと、開けた場所に出た。霧に包まれており、周囲の様子はわからないが、先程感じた異様な雰囲気がより濃くなった気がする。

しばらく進むと大きな丘が目の前に聳え立っていた。

 

「こんな丘…あったかしら」

「あったとは思いますけど…こんな大きかったとは思えないです」

「何にしても気づかないわけないわよね…どうして誰も気づかなかったのかしら」

 

これほどの丘であれば誰も気づかないはずがない。だと言うのに誰もこの丘に気づかなかった。もしかしたら何か不思議な力によって隠されているのかもしれないとシロナは考えた。

 

「とりあえず登ってみましょう。ムクホーク、ヒカリをお願い」

「お願いね、ムクホーク」

 

ヒカリはカイムのムクホークに、シロナはトゲキッスに掴まって丘を登った。丘の上はさらに霧が濃くなっており、一寸先すらもまともに見えないほど濃い霧に包まれていた。

 

「ここは…?」

「霧が濃すぎて何も見えません!これじゃ進めないですよ」

「そうね。暗くなってきてるし、霧を払いましょう。ムクホーク、『きりばらい』」

 

カイムのムクホークが『きりばらい』で周辺の濃霧を払った。僅かな日光と月明かりによってシロナ達がいる場所が照らされる。草むらがある中、大きなクレーターのような場所があり、底には水が溜まっていた。

 

「もしかしてこれが…送りの泉ですか?」

「多分そうね。他の湖と比べて規模は小さいけど、水面近くの場所に遺跡の残骸があるわ。ほぼ決まりね」

 

立地条件や遺跡の残骸があることを見ると、ここが送りの泉であることは恐らく間違いない。そしてその遺跡の残骸がある場所に洞窟の入り口のような穴がある。

 

「あそこが恐らくギラティナがいる場所ね」

「…あそこに、ギラティナが」

「いるかも、だけどね。でもきっといるわ。そんな気がする」

 

なんとなく気配がするし、何より『見られている』気がしてならない。この泉への道に足を踏み入れた時からずっと見られている感覚がしていたが、その感覚がここに来て強くなった。

 

「…でもブラッキー。貴女、どうしてここがわかったの?」

 

ここまではブラッキーが連れてきてくれた。だがルカリオやムクホークですら見つけられなかったというのに、突如ここまでの道を見つけてここまで案内してくれた。

問いかけられたブラッキーはすっと視線を移す。その視線の先には、泉。ブラッキーの視線が持つ意味はわからないが、ここを知る要因があの先にいるということだろう。

 

二人は泉を覗き込める桟橋のような場所に立つ。泉を覗き込むと、思いの外泉は深いのがわかる。

 

「思ったより深い場所にあるから…『ロッククライム』の方がいいかしら」

「そうですね。あの岩肌なら多分『ロッククライム』できますよ」

 

ヒカリが指差した先にはゴツゴツとした岩肌があった。確かにヒカリの言うようにあの岩肌ならば『ロッククライム』で降りることができるだろう。

二人は件の岩肌付近まで移動する。ヒカリはそこでモンスターボールを取り出した。

 

「ビーダル、お願い」

 

ボールから出てきたビーダルにヒカリとシロナは跨る。ビーダルはゴツゴツした岩肌を『ロッククライム』で下り、洞窟の目の前までたどり着いた。ビーダルから降りてヒカリはボールに戻すと、目の前の洞窟に視線を向ける。中から出てくる冷たい空気が肌に張り付くような感覚がした。

 

「…なんか、異様ですね」

「そうね。でも異様だからこそ、ギラティナがいる可能性が高いわ」

「ですね!じゃあギラティナに会いに行きましょう!」

 

二人は洞窟へと足を踏み入れた。

中は暗く、霧に包まれていた。冷たい空気とじめっとした空気が二人を包み込んだ。洞窟の内部には柱が立っており、何か文字が記されているが、霧と暗さで良く見えない。

 

「ごめんねムクホーク。もう一度『きりばらい』をお願い」

 

シロナは懐中電灯を取り出しながらムクホークに頼む。再びムクホークが『きりばらい』で濃霧を晴らし、視界を広げた。

 

「この柱…なんだろう」

 

二人は洞窟中央にある柱に歩み寄り、そこに記されていた文字を読む。

 

「『三本の柱を抜けて…微睡む……のもとへ。……が三十を超える前に』。どういう意味かしら」

「これじゃない柱を見つけろってことですかね?でも三十を超える前にって…どういうことなんだろ」

「入り口以外に進める道が三つ…」

 

気配はどの方向からも変わらない。シロナ達はここに訪れたのは初めてである以上、直感で進むしか術がない。

 

「ここで考えてもわからないわ。とりあえず適度に進みましょ」

「そうですね。じゃああっち行ってみましょう!」

 

ヒカリが指差した方向に二人は進んでいく。

進んだ先にあったのは、先程の柱があった空間とにているが柱のない空間が広がっていた。

 

「なにもありませんね」

「ハズレね。じゃあ別の道にいきましょ」

「はい」

 

何もなかったことを確認した二人は先程の柱がある場所に戻ろうときた道を戻る…つもりだった。しかしきた道を戻ったはずなのに、二人の前に現れたのは柱がない空間があった。

 

「あれ⁈さっききた道戻りましたよね⁈」

「間違いないわ。でも、これって…」

 

明らかに最初に来た場所とは異なる空間を前に二人は驚愕の声を上げる。

 

(どうなっているの?きた道を戻ったはずなのに最初に来た場所とは違う場所…それにこんな広い場所が複数できるほどの余裕があるようには見えなかったわ)

 

この洞窟があった丘にこんな広い空間が複数できるほどの体積を持つとは思えない。最初の柱がある空間だけならばギリギリわかるが、複数できるとは考えづらい。

そうなると、この洞窟は何か特殊な理由があるのだろうとシロナは考えた。

 

「この洞窟…空間が歪んでいるのかも。だから戻った道の先で別の空間が広がっているし、丘の体積と比べて大きすぎるのも辻褄が合うわ」

「確かに…あっ!空間が歪むってことは、破れた世界の空間!」

「そうね。ギラティナがいる可能性が高くなってきたわ」

「で、でもどうやって出ればいいんですか?」

「………こういう時に限って穴抜けの紐を持ってないのよね」

 

シロナは頭を抱える。こういうときは大体カイムが色々持っていたりするのだが、そのカイムは今は眠ってしまっている。

 

「…とにかく進みましょう。進めばギラティナに会えるかもしれない」

「そうですね。まずは捜索から」

 

気丈に振る舞うヒカリにシロナは聞いた。

 

「ヒカリは、不安じゃない?」

「え?」

「出られないかもしれない場所に来て、不安じゃない?」

 

ヒカリは確かに強い。だがそれでもまだスクールを卒業して二年も経過していない少女だ。恐怖心がないわけではない。

ヒカリは『うーん』と少しだけ考えるが、すぐに笑顔になって応えた。

 

「怖くないって言ったら嘘になりますけど、今はポケモン達もシロナさんもいますから平気です。それに、カイムさんを起こすためですからダイジョーブ!」

「ふふ、そうね。貴女はそういう子だものね」

 

ヒカリは自分よりも他人やポケモンのために頑張れる少女だ。だから自分の恐怖心よりも遥かに強い決意がある。だから不安になることはあっても、それに屈することはない。

 

「…貴女の光は強いわね」

「え?」

「…なんでもないわ。さあ、進みましょう」

 

ヒカリが選ばれた理由。それはヒカリの心の強さに起因するものなのかもしれない。

 

そんなことを考えながらシロナはヒカリと共に洞窟を進んでいった。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

いくつか同じような空間を抜けたところで、二人は柱がある空間に出てきた。

 

「あ、シロナさん!見てください!何か違う場所です!」

「柱…ね。でも最初にあった柱とは少し様子が違うみたい」

 

最初にこの洞窟に入った時と比較して今目の前にある柱は簡素な造りをしている。ギラティナに遭遇するにしてもここから出るにしても何かしらの手がかりがあるかもしれないと考えたシロナは考え、柱に歩み寄った。柱には小さく文字が刻まれている。懐中電灯で照らして二人は文字を覗き込んだ。

 

1

5

 

柱には縦向きに数字が記されていた。

 

「1と5…ですよね?どういうことなんだろう」

 

ヒカリは数字を見て首を傾げた。

シロナは顎に手を当てて思考の海に潜る。

 

(数字…この数字が示すものは何?きっと意味があるはず。柱…といえば確か最初の柱に文が書かれていたわね。三本の柱を越えて…三十を超える前に、とかだったかしら。この柱と、三十という数字…それにここに記された1と5…1は多分、『三本の柱』の一本目っていうのはわかるけど、この5は?5…5……まさか)

 

シロナはここまで移動してきた空間の数を思い返す。シロナの記憶が正しければ、通過してきた空間は五つ。柱に記されている数字はもしかしたら通過してきた空間の数なのかもしれないとシロナは考えた。

 

「もしかしてこの数字…柱の数と通ってきた空間の数を示しているんじゃないかしら」

「柱の数と、通ってきた空間?」

「ええ。最初の柱を除いて、今目の前にある柱は私たちが通ってきた道の中で最初の柱。だから『1』。それで『5』は、最初の空間を除いて私たちが通ってきたこの空間の数じゃないかしら。正確に数えていたわけじゃないけど、確かちょうど五つくらい通ってきたはずよ」

「確かにそうかもしれません…でも、柱の数はともかく通ってきた空間の数はどういう意味があるんですか?」

「最初の柱に記されていた言葉を思い出して。『三本の柱を抜けて…微睡む……のもとへ。……が三十を超える前に』。つまりこれは『微睡む何かのもとへ三本の柱を見つけてたどり着け』という意味なのよ。それで『三十を超える前に』は、私たちが通った空間が三十を超える前に三本の柱を見つけなければいけないって意味じゃないかしら」

 

シロナの言葉にヒカリは納得する。確かにシロナの推測であれば筋も通っているし、説得力もある。

 

「なるほど…確かにそれなら納得できますね!」

「問題は、三十を超える前に私たちが柱を見つけられなかった場合ね。どうなるのかわからないけど、良い予感はしないし、何もなかったとしても時間の浪費に繋がるわ」

 

『だからといって見つける方法があるわけでもないんだけど』とシロナは苦笑する。

それを見たヒカリは小さく微笑むと、拳を握って力強く言った。

 

「大丈夫!なんとかなりますよ!ここが見つかったってことはあと二本ってことですよね!じゃあすぐに見つかりますよ!」

「…そうね。きっと大丈夫」

 

まるで自分に言い聞かせるような言葉だったが、それでもシロナには心強い言葉だった。歳下の女の子に心配をかけさせっぱなしな自分に少々呆れてしまうが、その気持ちをすぐに振り払い前を見据える。

 

「さ、行きましょう。ギラティナに会いに」

「はい!」

 

二人は頷いて暗い洞窟をさらに進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

しばらく探索を続け、とうとう二人は三本目の柱にたどり着いた。

 

「あっ!シロナさん見て見て!三本目の柱です!」

 

柱を見つけたヒカリは柱に駆け寄る。シロナもヒカリに続いて柱に寄ると、今までの柱同様に数字が記されていた。

 

3

14

 

懐中電灯に照らされた数字を見てヒカリは声を上げる。

 

「やっぱり、下の数字もシロナさんの予想通りでしたね」

 

一本目の柱を見つけてから通った空間の数を数えながら進んできたが、やはりシロナの予想した通り下の数字は通過してきた空間の数だった。

 

「みたいね。予想通りでよかったわ」

「すごい洞察力ですね。やっぱり学者さんだからそういう考える力もつくんですか?」

「そうね。普段から考えることをやめないようにしてるからかしらね」

「わあ…かっこいいです!あたしにもできるかな」

「できるわよ。普段から色々とちゃんと考えることを諦めなければね」

 

ヒカリの頭を撫でながらシロナは言う。撫でられたヒカリは少しだけ恥ずかしそうに笑い、頷いた。

 

「それで、柱を三本見つけたけど…なにも起こらないわね」

「そうですね。特に空気も変わらないし」

 

三本の柱を見つけたが、特別何も起きない。空気に変化もないし、何も変化がない。

 

「…何も起きないわね」

「でもこれ、三本目ですよね」

「そのはずよ。数字も『3』だし」

 

しかし何も起きない以上、ここに留まる理由がない。もしかしたら外に続く道がでているかもしれないと考えたシロナは、ヒカリの肩に手を置いた。

 

「何も起きないなら仕方ないわ。一度ここを出ましょう」

「でも、ギラティナは…」

「大丈夫。また探しましょう」

 

だがカイムのことを誰よりも大切に思っているシロナが、カイムを連れ戻すことを諦めるはずがない。そう考えたヒカリはシロナの言葉に頷いた。

 

「…わかりました。行きましょう」

「ええ」

 

そう言って二人は柱の北方向に進む。

 

先ほどまでと同じように出口を抜ける。その瞬間、二人は泉に足を踏み入れた時と同じ空気を感じ取った。目の前には洞窟に足を踏み入れて最初にあった柱と酷似した柱がある。そしてその柱の前には、ひび割れた空間があった。

 

「これは…!」

「この覇気…破れた世界で!」

 

二人が声を上げた瞬間、ひび割れた空間に爪のようなものが飛び出してくる。そしてひび割れた空間を破り、異様な覇気を纏う巨体が飛び出してきて、ゆっくりと二人の前に着地した。

 

「…ギラティナ」

 

現れた存在…ギラティナは破れた世界での姿から変わり、ボロボロの翼を持つ龍へと姿を変える。そしてゆっくりと目を開いてこちらを見つめてきた。

 

「やっぱり、ここにいたのね」

 

シロナはそう呟くと、一歩前に出る。そしてギラティナに会いに来た理由を話し始めた。

 

「ギラティナ、貴方にお願いがあってきたの。私の話を聞いてくれる?」

 

ギラティナはゆっくりとシロナに視線を向け、そしてシロナと目が合うと僅かに目を見開いた。

 

「…?」

 

シロナはそれに気づくが、何故ギラティナがそのような反応をしたのかはわからない。

 

対してギラティナはシロナの顔を見て驚愕していた。遥か昔、このシンオウ地方がまだヒスイ地方と呼ばれていた頃、ある男と共謀してギラティナは自身を生み出した存在…アルセウスに歯向かおうとしていた。それも『とある人物』によって防がれ、ギラティナが歯向かうことは二度と考えなくなったのだが、その時に共謀した存在にシロナの顔があまりにも似ていたからだ。

あの男があれからどうなったのかはわからない。しかしどこかで子孫を残していたのなら、その子孫が目の前にいる女性がその子孫なのかもしれない。いや、あの男の親族が残した子孫の可能性もある。何にしても、あまりにも似ているため何かしら関連はあるのだろうが、今ここにいる人物と自身の過去は関係ないと考えたギラティナは、シロナに視線を向ける。

 

シロナはそんなギラティナの考えなど知る由もないが、話を聞いてくれそうな態度を見せるギラティナに対して訳を話し始めた。

 

「ギラティナ、貴方には世界を繋ぐ力があるわよね。反転世界とこちらの世界を繋げることができる力…その力を貸してほしいの。貴方も気づいているかもしれないけど、今悪夢の力が私たちの街を覆っているの。それで、事態の解決のために私の大切な人が悪夢の世界に潜っている。だけど…事態を解決しても彼がこの世界に自力で戻ってくることは、多分できない。だから貴方の世界を繋ぐ力で、私たちを彼の所まで連れて行ってほしいの」

 

シロナはギラティナにカイムを連れ戻すための手助けをしてほしいと懇願する。

ギラティナはそんなシロナの姿を見つめ、再びあの男の存在のことを思い出す。あの男と瓜二つな顔をしているが、目に宿る光が違う。明らかにシロナの方が優しい光を宿していた。

そんなシロナを見てギラティナは咆哮を上げる。

 

「っ⁈」

 

拒否されたのかとシロナは身構え、モンスターボールを手に取ろうとしたが、シロナの目の前に小さな光が現れる。その光はゆっくりと降りてきてシロナの手に収まった。

 

「これは…白金珠?」

 

シロナの手には白金珠があった。白金珠はギラティナを象徴するシンオウ地方で採れる鉱石だが、何故ここで出てきたのかわからない。

しかしこの白金珠からはギラティナの強い気配を感じる。シロナはギラティナを見ると、ギラティナはじっと見つめ返してくる。

 

「…貴方が必要な時は、これで呼べってこと?」

 

シロナの言葉にギラティナは頷く。ギラティナの反応にシロナはパッと表情を明るくした。ギラティナの協力が得られるとなると、カイムを連れ戻せる可能性がかなり上がる。

 

「ありがとう、ギラティナ」

 

ギラティナは頷くと闇の中に溶けるように姿を消した。それと同時にシロナ達の背後にある出口からわずかに光が漏れてくる。どうやら空間が正常に戻り、外と繋がったらしい。

 

シロナは白金珠を大切にしまうとヒカリに向き直った。

 

「ありがとうヒカリ。貴女のおかげでギラティナからの協力が得られたわ」

「あたしは何もしてませんよ!シロナさんの『カイムさんを助けたい』って心が伝わったから協力してくれたんです!」

「だとしてもよ。私一人だったら、きっと無理を重ねてしまっていて、もしかしたら途中で倒れてたかもしれない。貴女が隣にいてくれたからここまで来られたの。カイムを連れ戻すまでもう少し、手伝ってくれる?」

「もちろんです!じゃあカイムさんを連れ戻すために、今日は早く休みましょうね!」

「ええ」

 

シロナは笑うと、ギラティナが先程までいた柱に歩み寄る。やはり柱には文字が記されていた。

 

「『ここは…命輝く者、命喪った者…二つの世界が交わる場所』…やっぱり、この洞窟は私たちの世界と反転世界が交わる場所なんだわ」

「どういうことですか?」

「反転世界と私たちの世界…それは隣り合わせに存在しているけど決して交わることがない。だけど、空間に歪みが生じやすい場所だと部分的に交わることがあるの。多分、ここは空間があまり安定してないのよ」

「…なるほど?」

「端的に言えば、反転世界への出入り口ができやすい場所ってことよ」

 

とはいっても、ヒカリにそれを理解させる必要はない。シロナは笑うとヒカリを先導して洞窟を出るように促す。

 

「さ、帰りましょう。ちゃんと休んでからカイムを迎えに行かないと」

「疲れた身体でいったらカイムさんに小言言われちゃいますからね」

「うふふ、その通りね。さあ、戻りましょう」

「はい!」

 

二人はこうして不思議な洞窟…『戻りの洞窟』を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

早朝にシロナ達はシロナ宅の庭にいた。カイムはバシャーモとルカリオによって眠ったままソファに座らされている。

そんな中、シロナは昨日ギラティナにもらった白金珠を取り出す。

 

「ギラティナ…私たちに力を貸して」

 

シロナは白金珠を握り、祈りを込めた。その様子をヒカリとクレセリア、そしてシロナとカイムのポケモン達が見つめていた。

すると白金珠が僅かに輝く。次の瞬間、空間が歪み、そこからギラティナが姿を現した。

 

「ギラティナ…!」

 

ギラティナはシロナの側に着地し、小さく声を上げる。『約束通り来たぞ』と言っているような声にシロナは笑いかけた。

 

「来てくれましたね」

「ええ。しかし…壮観な光景ね」

 

シロナの自宅の庭に伝説のポケモンであるギラティナとクレセリアがいる。そしてその二匹にガブリアスやブラッキー達がわちゃわちゃと触れ合っている。冷静に考えるとすごい現状であったし、いつの間にかブラッキーはギラティナの頭に乗っているしバシャーモも背中にしがみついていた。

 

「伝説のポケモンが自分の家の庭にいる光景、どうですか?」

「現実味がないわね…伝説のポケモンは何回か遭遇したけど、自分の家にいるのは初めてだから」

 

シロナは世界中を飛び回っていることが多かったため、道中で伝説のポケモンに遭遇することはあった。それこそカイムと共に色々見てきた中でもラティ兄妹やセレビィ、ゼクロムなどと出会ったため、遭遇率は高い方だろう。

しかし出会った場所は全て彼らの領域。シロナ個人の領域に伝説のポケモンが足を踏み入れたことなど当然無い。だから今こうしてギラティナがシロナ宅の庭にいることにシロナは苦笑せざるを得なかった。

 

「そうですよね。普通、自宅に伝説のポケモンなんて来ませんから」

「色々経験してきたけど、まだまだ経験してないこともあるものね」

 

『さてと』と言ってシロナはギラティナに歩み寄る。

 

「ギラティナ。来てくれてありがとう。早速だけど、力を貸してもらえるかしら」

 

シロナの言葉にギラティナはすっと視線を移すとゆっくり頷いた。そして頭にブラッキー、背中にバシャーモを乗せたまま近づいてくる。

 

「ありがとう、ギラティナ」

「じゃあクレセリア。あたしたちの力でみんなを夢の中に」

 

クレセリアは頷くと、目を閉じる。そしてヒカリを通して力を増幅させていき、シロナ達を包み込んだ。

クレセリアから出る光の強さにシロナは思わず目を閉じる。意識が宙に浮くような感覚がし、何もわからなくなった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

光が収まり、目を開く。

 

「…ここは」

 

目の前に広がる光景は、フタバタウンの町並みだった。のどかで静かな綺麗な光景の中、シロナは一人佇んでいた。

 

「シロナさん」

 

名前を呼ばれて振り返ると、そこにはヒカリが立っていた。側にはクレセリアもいる。

 

「ヒカリ。ここは…」

「ここはあたしの夢…というか、心の風景です。クレセリアの力を通して見る夢はその人の心に一番焼きついた光景が出てくるみたいで」

「そっか。ヒカリはフタバタウン出身だったわね」

 

つまりヒカリの中で最も強く残っている風景は故郷の景色なのだろう。その夢の中にシロナ達はいる。

 

「綺麗な場所ね」

「えへへ…ありがとうございます」

「静かで綺麗な町…いいわね。こういう場所、好きよ」

 

自分の置かれた状況を理解したシロナは一つ気がかりなことをヒカリに問いかける。

 

「ところでヒカリ。ここが貴女の夢の中なのはわかったけど、貴女のその服は?」

 

ヒカリは夢に潜る前とは異なる服を着ていた。ヒカリが身を包む服は、ファンタジー世界の魔法騎士のような服装であり、色合いはクレセリアをモチーフにしたものとなっている。

 

「ああ、これはクレセリアと心が繋がった影響です。より強く力を引き出すためのものらしくて」

「へえ…夢の中だからこそなのかしら」

「心を一つにした結果ってことですかね」

 

えへへと笑いながらヒカリはくるりとその場で一回転する。確かによく似合っているし、ヒカリとクレセリアから感じられる力はより大きくなっているように感じる。

そこでシロナは周囲を見渡す。

 

「…ギラティナは?」

「ギラティナもいるはずですよ。気配を感じます」

 

実際ヒカリの言うようにギラティナの気配を感じる。名前を呼ばれたことを認識したギラティナはすうっとシロナの側に姿を現した。

 

「ギラティナ…よかった。貴方も夢に入れたのね」

 

あとはギラティナの力で悪夢の世界に入るだけ…と思ったところで、ギラティナの頭からブラッキーとバシャーモがひょっこり顔を出した。

 

「えっ⁈ブラッキー⁈バシャーモまで…どうしてここに?」

「あ…そういえば夢に潜る時、二人ともギラティナに触れてました。だから一緒に入ってきちゃったんでしょうね」

 

確かにヒカリの言う通り、ブラッキーとバシャーモはギラティナの身体に触れていたし、なんなら乗っていた。それが巻き込まれた理由なのだとしたら、納得である。ブラッキーとバシャーモのコミュ力の高さに苦笑するが、この二匹が内に抱える『カイムを連れ戻したい』という心はポケモン達の中ではトップクラスだ。その思いの強さをシロナは理解しているからわざわざ二匹を帰そうとは思わなかった。

 

「…そう。じゃあ、一緒にカイムを起こしに行きましょ」

 

シロナの言葉に二匹は同意するように鳴き声を上げる。頷いたシロナはギラティナに視線を向けた。

 

「ギラティナ、お願い」

 

ギラティナは咆哮を上げると世界を繋げる力で悪夢の世界への道を開こうとした。最初は徐々に空間に穴が空いていったが、徐々にその空間が閉じてくる。ギラティナはなんとか開こうとするが、やはり専門外の世界故か空間が開かない。

 

「これは…力が足りない?」

「そう、みたいね。元々私たちの現実世界と反転世界をつなぐための力だから、夢と悪夢をつなぐための力として使うには少し力不足なのかも。それにもしかしたら向こう側から拒絶されている可能性もあるわ」

 

だが繋がってはいる。もう少し力があれば、道は開くということだ。

ならば、とシロナはヒカリの姿を見る。ヒカリはクレセリアと心を繋げることでクレセリアの力をより引き出した。恐らくダークライのバディもそうなのだろう。つまり自分もギラティナと心を繋げることができれば、ギラティナの力をより引き出すことができるということだ。

 

(…でも、心を繋げるって具体的にどうすれば?)

 

ガブリアスのように手持ちのポケモンであれば、長い時間を共に過ごしたポケモンならば心が繋がっていることがわかる。しかしギラティナのように出会ったばかりのポケモン(しかも神)と心を簡単に繋げられるかと言われれば、正直自信がなかった。

 

(でもやらないと…カイムは)

 

悪夢の世界に行けなければ、カイムを連れ戻すことはできない。諦めるという選択肢は最初から存在していない。それだけでなく、カイムと交わした約束がシロナを後押しした。

 

『必ず連れて帰る』

 

約束がシロナの思いを強くする。

『守りたい』という思いが、シロナの心を満たしていくのを感じた。

 

そしてその思いがギラティナの心と共鳴する。悪夢が蔓延したことで、世界は一部歪みを見せていた。しかしギラティナではこの歪みの原因を正すことはできない。

かつて己を打ち負かした『とある人物』。その人物が己の恐怖に打ち勝ってまでして守ろうとした世界を、ギラティナは守りたかった。

 

形は違えど、二人の『守りたい』という思いが共鳴し、二人はそれを感じ取る。

 

「ギラティナ!」

 

シロナの言葉にギラティナは頷く。そして互いに心を共鳴させ、想いと力をシンクロさせていった。

 

二人の心がシンクロしたと同時に、ギラティナは黒い力を纏い、『オリジンフォルム』へと姿を変えた。

そしてシロナもギラティナと同じように黒いオーラを纏うと、次の瞬間には普段の黒コートではなく、ギラティナをモチーフにしたと思われるドレスへと姿を変えた。

 

「…これが、ギラティナの心と力」

 

ドレスから伝わるギラティナの心と力をシロナは強く感じていた。言葉に言い表すことはできないが、この世界を『守りたい』という強い思いと、そしてなぜか少しだけ『懐かしさ』の感情が伝わってくる。この感情の原因が何なのかはわからないが、ギラティナがこの世界を守りたいということだけはシロナにも理解できた。

 

互いに心の一端を知り、形は違えど『守りたい』という心が共鳴し合う。それに比例し、シロナを通してギラティナに力が漲った。増幅した力を引き出し、ギラティナは悪夢の世界へのゲートを開いた。

 

ゲートの先は暗く黒い世界が広がっている。強い悪夢の気配にシロナは思わず顔を顰めた。

 

(…カイムは、一人でこんな世界に…)

 

ミオシティを覆っていた悪夢の気配よりも遥かに濃く、強い悪夢の気配。こんな世界にカイムが一人でいることを考えると、シロナの胸は張り裂けそうなほど苦しくなる。

だからこそ、一刻も早くここからカイムを連れ戻さなければならない。そう決意を再び固めると、シロナはゲートに一歩近づいた。

 

しかしシロナの横をブラッキーとバシャーモは駆け抜け、二匹は同時にゲートに飛び込んだ。早くカイムに会いたいという気持ちと、シロナと同じカイムをこの世界に一人でいさせたくないという心が二匹の体を動かした。

 

「あ!ブラッキー!バシャーモ!」

「…いっちゃいましたね」

「ええ。私たちも行きましょう」

「はい!」

 

ヒカリは頷くと、クレセリアと共にゲートに飛び込んだ。シロナもそれに続き、ギラティナと共にゲートへと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

悪夢の世界は完全なる闇の世界だった。黒一色の世界であり、何も見えない。

 

「ここが、悪夢の世界」

 

声が聞こえた方を向くと、クレセリアと共にヒカリが側に立っていた。クレセリアの力を纏い、光の球体の中にシロナ達も包み込んでいる。

 

「暗くて冷たい世界ね」

「はい…それに、この世界はそのまま来ると簡単には戻れないんです。目覚めるためにはクレセリアの力が必要になります」

「そう。だから今私たちのことをクレセリアは守ってくれてるのね」

「はい」

 

クレセリアの力に守られたシロナ達は悪夢に飲み込まれることなく悪夢の世界に存在することができる。本来悪夢の世界は訪れた者を悪夢で飲み込み、悪夢の中に留めようとさせてくる。今ミオシティで眠っている人々もダークライの力で意識を悪夢の世界に引き摺り込まれ、ずっと悪夢に囚われた状態になっていた。

しかしクレセリアの力がシロナ達を守ることで悪夢の留めようとする作用を中和し、悪夢に降りていき例え底にたどり着いたとしても浮き上がることが可能となる。

 

「ごめんなさい。貴女達に頼り切りになって」

「これがあたしにできることです。だから気にしないでください。あたしも、カイムさんのことを助けたいから」

「ありがとう」

 

そこでシロナは周辺を見渡すが、先に入っていたはずのブラッキーとバシャーモの姿がない。

 

「…ブラッキー達がいないわ」

「多分、先に潜っています。ダークライの悪夢はポケモンには効きづらいみたいなので」

 

無論効きづらいというだけで効かないわけではない。長時間クレセリアの加護無しで留まれば悪夢から抜け出せなくなる。

 

「じゃあ早く私たちも」

「はい!」

 

ヒカリは力強く頷くと、目の前に広がる悪夢の底へ続く穴に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

悪夢を通して見せられたアカギという人物の過去は、決して幸福なものではなかった。

 

 

両親から過度な期待をかけられて育った少年時代だった。

親に望まれた通りに生き、望まれたものを実現する。そんな生き方をしていた。

望まれた通りにやればやるほど期待は大きくなっていく。

 

キリがなかった。

 

加えてなによりも不幸だったのは、アカギがそれに応えられるほどの器を持っていたことだろう。優秀なアカギはあらゆる期待に応えられてしまった。どこかで限界がきていれば、ここまではならなかっただろう。

 

 

言うなれば、『悪意なき地獄』だろうか。

 

 

そんなアカギにも心の拠り所があった。

それは『機械いじり』と、それを通して出会ったとあるポケモン。

少年のアカギはそのポケモンを『モーター』にちなんで『ロトム』と名付けた。

 

アカギ少年は機械とロトムを心の拠り所として生きてきた。

しかしある時、ロトムはアカギの前から姿を消した。

 

何故姿を消したのかはわからない。しかし少年であるアカギにとってロトムがいなくなったことは大きな変化だった。

大きな心の拠り所を無くした少年は徐々に感情の起伏が小さくなり、やがて全く笑わない少年となってしまった。

 

そしてロトムを失った喪失感を感じてしまうような感情の要因…心に疑問を持つようになっていった。

 

 

 

 

「…これがお前の過去か」

 

アカギの少年時代を見たカイムは一人呟く。

ある意味カイムとは真逆の生き方だった。アカギはかけられた期待に応え続ける生き方をしてきたが、カイムは姉のように期待されたくて足掻いた生き方をしていた。

 

「これがきっかけでお前は心を否定するようになったのか?」

 

確かにアカギの過去は幸福とは言えない。しかしこれが心を否定するようになった要因だとするなら、弱い気がした。

アカギの心に対する憎しみは並ではない。過去を見ていた中でも、ここまで憎しみを抱くような描写はなかった。故にこれが…これだけが原因ではないような気がしていた。

 

カイムの問いに対して、夢を見せていたアカギはカイムに目を向ける。

 

「いいや。これは私が心の存在について疑問を持った要因にすぎん」

「……じゃあ、心を否定するようになったのは何故だ。それを見せてくれんじゃねえの?」

「それはこれからだ」

 

アカギはカイムから視線を外す。

再び悪夢の世界に映像が流れ出した。

 

「私は、私なりに世界を見てきた。そしてたどり着いた答えがある」

 

アカギに見せられた映像では、醜悪な人間の悪意が流れていた。薄汚く、狡猾な人々。

 

「…この世界を見てきて、私は己の存在意義を感じた」

「いい意味でではなさそうだな」

「無論、悪い意味でだ」

 

アカギはカイムに視線を移す。

 

「この世界は、歪な形で成り立っている。たくさんの人間が良き隣人を演じているが、所詮表面上のものだ。誰もが心に悪意を抱えている」

「……性悪説か」

「そうだ。人の根源は悪だ。それが表面に出ているのではなく、歪な善意で隠しているにすぎん。不完全で、醜悪な世界だ」

「だから心を消すのか?」

「ああ。この世界に存在する歪な心を消して、完全な世界を創るために」

 

カイムは再びアカギの記憶に目を向ける。

見える世界はアカギの言うように醜悪で歪な心が写されている。確かにこうしてみると、世界は酷く歪にできている。ヒカリのように心が綺麗な者がいるのは確かだが、同時に悪意に満ちた心を持つ者がいるのも確か。光があれば影ができるように、誰しも心には悪意…闇を抱えている。

それはカイムとて例外ではない。かつて姉に抱いていた感情…『嫉妬』の感情も、言うなれば悪意の一つだろう。あのシロナですら心に闇を抱えている。誰もが持つ心の闇を、アカギは醜悪だと感じた。

 

「かつて私は時と空間を歪め、世界を一から創り直そうとした。しかし、私の…人間の力では世界を創り直すことはできないことをお前たちによって思い知らされた」

「そいつは悪いことをしたな」

「ふん。認めよう…私の早計であったことを。だが同時に、新たな方法に気づくこともできた」

「…それが、この悪夢の力か」

「そうだ。この暗く冷たい世界こそ、私の思い描いた世界。全ての悪意…心が消えた完全なる世界だ。不確かで曖昧なものに振り回されることのない、美しく完全な世界」

 

カイムは悪夢の世界を見渡す。

暗く冷たい不変の世界。これこそがアカギの求めた世界なのかとカイムは理解した。

 

「…お前の言う通り、この世界は完全なのかもな」

「ほう?」

 

意外な反応にアカギは目を見開く。まさかカイムが己の言葉に同意してくるとは思いもしなかったからだ。

 

「お前が言うように、この世界に悪意はない。心がない世界だ。だから理不尽な差も無いし、悪意によって誰かが傷つくこともない」

「この世界を肯定するか」

「確かにこの世界は完全なんだろうよ。心に宿った悪意によって振り回されることのない、完全な世界。悪夢によって創る世界か…なるほど、心なき世界にするには秀逸な方法だ」

 

カイムは一度言葉を切る。

 

「…では、私に協力するか?世界を完全にするために」

 

アカギはカイムに手を差し出す。

誰にも理解されないと思っていたし、理解を求めてもいなかった。だがこの世界を完全なものにするためには、アカギ一人の力では時間がかかる。協力者がいればより早く世界を完全にすることができると考え、カイムに手を差し出した。

 

思えば、本当の意味でアカギがやろうとしてきたことに理解を示そうとしてきたのはカイムが初めてだった。ギンガ団のメンバーは、アカギに対して盲目的に付いてきただけだ。アカギの本当の目的を知ろうともしなかった。

だが、カイムは『アカギのことを知りたい』といってきた。今までアカギという人間に対して理解を示そうとしてきたのは、両親を含めてカイム以外存在しなかった。

そんなカイムという人物と共にこの完全な世界を創るのも悪くないかもしれない。そうアカギは考えた。

 

だが、カイムは首を横に振る。

 

「いいや。わかってんだろ?俺はお前を止めに来たんだ」

「ほう」

「お前の目指すこの世界は確かに完全だ。だけど、俺はこの世界で生きていたくない。何もないこの世界は、生きていても楽しくねえ」

「その感情が世界を歪めると何故わからん」

「知らねえよ。それが世界だ。どうこう言ったところでどうしよもねえ」

 

アカギは視線を鋭くし、カイムを見つめた。

 

「…なるほど。だがどうする?貴様がどうやって私を止める」

 

カイムはここに来ただけ。ダークライに逆らう力はないし、クレセリアとの繋がりもない。カイムが悪夢の底にたどり着いたことは予想外だったが、それ以上どうすることもできない。

そうアカギは考えていたが、カイムは無表情を崩さない。そこに違和感を感じたアカギは悪夢の世界に意識を向けた。

 

「…っ⁈」

 

だがそこで違和感の正体に気づいた。悪夢の世界に囚われていた人々の意識が、悪夢の世界から消えている。そしてこの悪夢の世界が小さく、そして濃くなっていることを察知した。

 

「悪夢の世界が、小さくなっているだと?それに悪夢に捉えた人間も…」

 

アカギはカイムに視線を向けた。

 

「貴様、何をした!」

「ん?ああ…悪夢を俺に集めた」

「何?」

「人を捉えている悪夢の力を俺に集めただけだ。俺に力を集めりゃ、囚われている人を目覚めさせられなくても悪夢を祓うだけならできるからな」

 

カイムは、自分がダークライの力と親和性が高いことを理解した時から、これで悪夢に囚われた人を救おうと考えていた。クレセリアの力がダークライと拮抗し、眠っている人々は悪夢を見なくなった。しかしクレセリアの力と相性が悪かった人は悪夢に取り残され、今もなお悪夢にうなされている。だがカイムが自身に悪夢の力を集めてしまえば、その人たちを捕える悪夢の力はなくなる。こうすることで完全に救うことはできずとも、悪夢による衰弱は防げる。

加えて、自分に悪夢の力を集めることでクレセリアが悪夢に干渉しやすくなる。止めるためには、ベストとは言えずともベターな策略であるだろう。

 

「バカな!そんなことできるはずが…」

「ダークライの悪夢の力。その力と俺の相性がたまたまめっちゃ良かったみたいでな。ダークライとお前がバディを組んでいる以上、ダークライの力の放出は止められんが…俺自身に集めることは可能だ」

「だが、私に気づかれずにそんなことを行うなど…」

 

そこでアカギは気づく。

カイムが何故わざわざアカギに過去を語らせたのか。それはカイムが自分の狙いに気づかせないためだった。自分にとって重要な過去に思いを馳せさせることで意識を割かせる。そうすることで少しずつ自分に悪夢の力を己に集めていることにギリギリまで気づかせないようにしていた。

 

「貴様…!」

「勘違いすんなよ。俺は、本当にお前のことを知りたいと思っている。お前を理解できれば、止める方法も見つかるかもって思ったから」

「だが、自分に悪夢の力を集める行為がどう言う意味を持つかわかっているのか⁈」

「ああ」

 

悪夢の力を己に集めるということは、自分の心を、精神を悪夢に明け渡すのと同義。アカギのようにこの世界にいたい人物ならともかく、カイムのようにこの世界に留まりたいと考えていない人間にとっては自殺行為だった。力を集め過ぎれば、カイムの心は悪夢から抜け出せなくなり、かつての波止場の宿と同じ事態になるということだ。

仮にアカギがこの場で新たな世界創造を諦めたとしても、もうカイムの心が悪夢から抜けられない可能性すらある。多数の人を悪夢に囚えることができるほどの力を一人に集めているのだ。どうなるかなど想像に難くない。

 

「他者を助けるために己を犠牲にするというのか?見ず知らずの誰かのために?」

「いや?」

「では何故わかっていながらそこまでのことをする!そのまま闇に落ち、二度と戻れない可能性すらあるのだぞ!」

 

カイムはその場に腰を下ろすと、口角を僅かに上げて言った。

 

「約束したから」

 

カイムの脳裏にシロナの言葉が過ぎる。

 

『貴方がどこに行ったって、私が何度でも連れて帰る』

 

シロナは約束した。必ずカイムを連れて帰ると。だからカイムは信じてシロナを待ち、自分ができることをしようとここに来た時から決意していた。

 

「これが今の俺にできる最善だ。あとは、信じて待つだけだ」

「なるほど…だがいつまで保つ。これだけの悪夢を取り込んで、意識を保っているのもやっとだろう」

 

アカギの言うように、今カイムには眠気が襲ってきている。恐らくこの眠気に負けて眠ってしまえば、二度と目覚めないだろう。

 

「まーな。だがこちとら徹夜は得意でね。いくらでも起きてられんぜ」

「…なるほど。ならばこちらもより多くの力で人々を取り込むとしよう」

「はっ!上等だ。好きなだけやれ。だが多くの力を使うのはお前にも負担がかかる」

 

珍しくカイムは楽しそうに笑いながらアカギに目を向けた。

 

「アカギ、我慢比べといこうぜ」

 

アカギはカイムの言葉に視線を鋭くするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数日。

 

カイムはまだ意識を保ち続けていた。

 

(バカな…ダークライの力を数日間ほぼ最大出力で出していたが、それを一人で取り込み続けただけでなく、意識を保ち続けているだと⁈まともな人間の精神では取り込んだ時点で眠りに落ちる!どんな精神だ!)

 

カイムが取り込み、抑え込んだ力の量は既に計り知れない。クレセリアの力を纏うことなく、一人で取り込む。力の本質をよく理解するアカギからしたら考えられない事態に思わず目を見張る。

 

「…お前、本当に人間か?」

「ひでぇ言い草。ごく普通の一般人だっての」

「ダークライの力を取り込み、ここまで意識を保っていられる人間が普通なはずないだろう」

「言ったろ?徹夜は得意なんだ」

 

いつも通りの無表情のカイムにアカギは苛立ちを募らせる。

 

対してカイムは余裕の表情をしているが、内心では表情を歪めていた。

 

(うーん、ここまでやられるとは。そろそろきついな)

 

睡魔は限界まで来ている。精神力のみで耐えるのはそろそろ限界に近かった。肉体のない精神のみの状態だからここまで耐えられたが、それにも限度がある。これ以上長引けば、カイムも耐えられない。

 

だがそれはアカギも同じだった。長時間、力を放出したツケがここに来て回ってきたのか、大きな虚脱感に襲われていた。

 

加えて、先程感じた違和感。誰かがこの悪夢の世界に干渉してきた感覚。

 

(…まさかこれほどまで時間がかかるとは)

 

カイムという、何の光るものを持たない青年一人にここまで手こずるとは思いもしなかった。これ以上干渉される前に、手を打たなければとアカギは考え、強硬手段に出ることにした。

 

「できることなら、やりたくなかったが…仕方ない」

 

アカギは呟くと、カイムに鋭い視線を向ける。すると、突如としてダークライがアカギのすぐそばに姿を現した。

 

「ダークライ、あくのはどう」

 

ダークライの放った『あくのはどう』がカイムに向けて放たれる。

 

「やっべ」

 

咄嗟に転がるように回避したが、眠気のせいでうまく体が動かない。ふらふらと立ち上がるが、そこにすぐさま追撃が加えられる。

 

「シャドーボール」

「ぶっ!」

 

身体がうまく動かずカイムの左足に『シャドーボール』を受けてしまう。肉体は無いが、ダメージは反映されるらしい。

 

(身体ねえのにちゃんと痛えのかよ…ざけんなよマジで)

 

ダメージを受けた左足がちゃんと痛むことにカイムは内心で苦言を呈しながら、目を上げる。目の前には死神のような姿をしたポケモン。

 

「散々手こずらせてくれたが、これで終わりだ」

 

アカギが顎をしゃくると、ダークライが力を溜める。今のカイムでは避けられない。

 

「あくのはどう」

 

ダークライの『あくのはどう』が、カイムに向けて放たれる。

避けることができないカイムはそれを見ることしかできない。

 

「くそが…」

 

そう呟いた瞬間、黒い影がカイムを庇った。そして続け様に赤い影がダークライに反撃を加える。

 

「何っ⁈」

 

突然の横槍にアカギが狼狽える。

二つの影がカイムの前に着地する。

 

「ブラッキー…バシャーモまで」

 

カイムを守ったのはブラッキーとバシャーモだった。シロナが来るとは思っていたが、まさかこの二匹まで来ることはカイムにとっても予想外であり、苦笑せざるを得なかった。

 

「…似なくていいとこが似ちまって」

「お前のポケモン達か…!」

「はは…」

 

カイムはバシャーモの手を借りて立ち上がる。そしてカイムは一人で立つと、アカギに目を向けた。

 

「…もうちょい、付き合ってもらうぞ」

 

いくらポケモンには効きにくいとは言っても、長時間この世界に留まれるわけではない。

だがアカギは、こちらに近づいてきている存在が非常に厄介であることを理解していた。ここは悪夢の底に辿り着けないように工作する必要があると考えたアカギは早急にカイム達を排除する方針を立てる。

 

「…いいだろう。だがこの世界で、お前達に勝ち目があると思うな!」

 

アカギの気迫と共に、ダークライの全身から強烈な悪夢の力が湧き上がった。

 

「ダークライ!ダークホール!」

「ブラッキー!まもる!」

 

ダークライの悪夢の力…『ダークホール』をブラッキーが防いだ。その瞬間、背後からバシャーモが飛び出してくる。

 

「インファイト!」

 

バシャーモの攻撃がダークライに突き刺さる。しかし悪夢の世界の主であるダークライは、空間を歪めて攻撃の衝撃を緩和させた。効果抜群の技かつ、長時間の力の放出によって疲弊していたダークライは衝撃を緩和しきれず僅かに顔を顰めた。

 

そして反撃の『シャドーボール』がバシャーモに直撃した。普段のならば回避できた程度の速度だったが、悪夢の世界の影響で身体がうまく動かない。

そこにダークライが追撃の『サイコキネシス』を放とうとするが、そこにブラッキーが肉薄してくる。

 

「ブラッキー!ふいうち!」

 

ブラッキーの攻撃がダークライの追撃を打ち消す。しかしブラッキーの攻撃はほとんどダークライには効いておらず、ブラッキーはダークライに顔を掴まれた。

 

「消せ」

「バシャーモ!フレアドライブ!」

 

炎を纏ったバシャーモがダークライに突っ込む。炎がダークライにぶつかるが、その炎はすぐに空間ごと切り離されてダークライには届かない。

 

「無駄だ」

「だろうな。でもここでは、お前を倒すことが勝利条件じゃねえからな」

「何?」

「ブラッキー!しっぺがえし!」

 

解放されたブラッキーが再びダークライに攻撃を仕掛ける。しかしやはり攻撃は通らない。ダークライによって防がれてしまう。

 

「バシャーモ!つばめがえし!」

 

バシャーモの二連撃がダークライに直撃する。だがダークライには大したダメージになっておらず、平然としていた。

 

「ダークホール」

 

悪夢の力がブラッキーとバシャーモを拘束する。あまりにも強烈な力で締め付けられ、ブラッキー達は完全に動きを封じられてしまった。振り解こうにも悪夢の世界で弱体化したブラッキー達ではうまく振り解くことができない。

 

「ここまでだ。あくのはどう!」

 

効果今一つの攻撃だというのに、この攻撃だけでブラッキーとバシャーモは瀕死手前まで追い込まれてしまう。耐久力の高いブラッキーはまだどうにか戦えそうだが、バシャーモはほとんど動けなくなってしまった。

 

「ブラッキー!バシャーモ!」

 

二匹を庇うようにカイムは立ち塞がる。

 

「…あとはお前を消すだけだ」

「……くそ」

 

そう言ってダークライは再び『あくのはどう』を放った。ブラッキー達を守るように構える。

 

しかしダークライの攻撃がカイム達に届くことはなかった。

 

「クレセリア!まもる!」

「ギラティナ、シャドーダイブ」

 

目の前に複数の影が突如現れ、ダークライの攻撃をクレセリアが防ぎ、巨大な影がダークライに直撃した。

しかしダメージはない。ダークライはギリギリで避けた。

 

「間一髪ね」

「…やはり、貴様らか」

 

影の姿を見てアカギは呟く。

カイムはその姿を見て、口元を歪めた。

 

「無事ですかカイムさん?」

「早かったな」

「…遅いくらいよ」

 

影の主はそう呟きながらアカギに向き直る。

 

「…やはりお前は私の前に立ち塞がるのだな、シロナ」

「そのために来たのよ、アカギ」

 

因縁のある者同士が向き合い、静かに覇気をぶつけ合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ここまで来る者がこんなにいるとは」

 

悪夢の底に沢山の人とポケモンが集まったことにアカギは苦言を吐いた。

そしてシロナからヒカリへと目を向ける。

 

「…君も、私を阻むのか」

「はい。あたしは、今の世界を守りたいんです」

「そうか。では…言葉は不要だな」

 

ダークライから大きな力が漲る。凄まじい力にカイムとヒカリは僅かに顔を顰めるが、シロナは動じることなく二人に声をかけた。

 

「この世界ではダークライの力はギラティナを上回る。クレセリアの力でパフォーマンスが落ちることはないけど、長く戦える余裕は私たちにはないわ」

 

ダークライの領域(テリトリー)ということもあり、ダークライの力は大幅に強化されている。加えてこちらを弱体化させる能力もあるが、それはクレセリアの力で中和されているため問題ない。

しかし弱体化を受けていない状態でもこの世界でのダークライの力は、神であるギラティナすら上回るほどだ。長時間戦えば間違いなくジリ貧になる。

 

「はい。クレセリアが悪夢の領域(ナイトメアフィールド)を中和してるのも限度があります。決めるなら、短期決戦しかありません」

「そうね。カイム、いける(・・・)?」

 

シロナは横目でカイムを見る。その視線の意味を即座に理解したカイムは頷いた。

 

「ならいくわよ二人とも!シャドーボール!」

「はい!クレセリア!ムーンフォース!」

 

ギラティナとクレセリアの攻撃が同時にダークライに向けて放たれる。しかしダークライは微動だにせず二つの攻撃を『ダークホール』に落として消した。

それと同時にギラティナはダークライに追撃を加える。

 

「はどうだん!」

「サイコキネシス」

 

ギラティナの波導が凝縮された弾丸をダークライは念力で逸らした。

 

「あくのはどう」

「ムーンフォース!」

 

放たれた『あくのはどう』がギラティナに迫るが、それをクレセリアの『ムーンフォース』が相殺する。

 

(ムーンフォースとあくのはどうじゃタイプ相性的にこっちが有利。なのに相殺だなんて…)

 

フェアリータイプと悪タイプでは、フェアリータイプが有利。だというのに相殺されたという事実は、ヒカリに内心で冷や汗をかかせた。クレセリアが悪夢の領域を中和するのに力を使っていることを考慮しても、ダークライの力が増幅していることがわかる。

 

「あくのはどう」

「シャドーダイブ!」

「ブラッキー!クレセリアを守れ!」

 

再び放たれた『あくのはどう』をギラティナは姿を眩ませることで回避し、復帰したブラッキーはクレセリアの前に立ち塞がり『まもる』でクレセリアを守った。

 

「ブラッキー、ふるいたてる」

 

ブラッキーは全身に力を込め、攻撃力と特攻を上昇させた。

何かある、と瞬時に察したアカギはブラッキーの動きを止めようとダークライに指示を出す。

 

「ダークホ…」

「ギラティナ!」

 

しかしそれを姿を消していたギラティナは空間を突き破りダークライに突撃することで防いだ。突如現れたギラティナに反応が僅かに遅れたが、ダークライはブラッキーを拘束するための力でギラティナを止めた。しかし僅かに反応が遅れたことによりそれで手一杯になる。

それをカイムは見逃さなかった。

 

「ふいうち!」

 

ブラッキーの攻撃に咄嗟に気づいたダークライは床に溶けるように消える。そしてブラッキーの背後に現れると、ブラッキーに向けて『あくのはどう』を放とうと構えた。

しかしそこに向けてクレセリアの攻撃が飛んできて、今度は回避できずに直撃する。ダメージはあるが、倒せるには至らない。

 

「畳み掛けて!はどうだん!」

「ブラッキー、バークアウト!」

 

二匹の攻撃が同時に放たれる。効果抜群の『はどうだん』はダークライの攻撃により相殺されたが、『バークアウト』は直撃し特攻が下がる。

ダークライはこの空間で強化はされるが、回復はできない。強化されていても、伝説のポケモン二匹とブラッキーの攻撃を掻い潜るのは至難。空間の力を使って攻撃を緩和させるのも限界がある。あまり長くは保たないと判断したアカギは一気に決めることを決意した。

 

「ダークライ、ダークホール!」

 

出力を最大まで上げたダークライの『ダークホール』がブラッキー達を捉える。あまりの速度と範囲に反応できずブラッキー達は回避できず、動きが止められてしまう。

 

「なっ⁈」

「クソが…範囲が広すぎる!」

 

あまりの広大な範囲に広げられた力がブラッキー達を拘束する。その強さは伝説のポケモンであるギラティナですら振り解けない強さで、技を出すどころか、もがくことすらままならない強さにブラッキー達は表情を歪める。

 

だが、空間を跳躍できるギラティナには関係ない。

 

「ギラティナ!」

 

ギラティナの姿が一瞬で消え、『ダークホール』から抜け出す。

 

「何っ⁈」

 

唐突にギラティナの姿が消え、『ダークホール』から消える。ここまで締め付けてなお抜け出せるギラティナにアカギは驚愕を禁じ得ない。

だがギラティナとて神として崇められるポケモン。故にどんなに相手が強化されてたとしても、耐久力は一級品だ。ダークライの力でも抜け出すくらいならわけない。

 

「ギラティナ!打ち破って!」

 

シロナの掛け声と共にギラティナが空間を突き破ってダークライに突撃した。『ダークホール』に渾身の力を使っていたダークライは回避しきれずギラティナの攻撃を受けてしまった。

 

そしてその刹那、ギラティナの脳裏に記憶が過ぎる。

 

 

 

『ギラティナ!打破せよ!』

 

 

 

かつて協力した男の言葉。それとほぼ同じ言葉を、瓜二つの人物が言い放つ。あの男と何か関連があるのかもしれないが、彼の雰囲気とは似ても似つかない。今は関係ないことだとギラティナは即座に体勢を立て直しながら思考を振り払う。

 

攻撃を受けたダークライは『ダークホール』を緩めてしまう。その瞬間にブラッキーとクレセリアは『ダークホール』を抜け出し、ダークライへと向かっていった。

 

「クレセリア!ムーンフォース!」

 

クレセリアの『ムーンフォース』がダークライに迫る。ダークライは咄嗟に『サイコキネシス』で軌道を逸らすが、『ムーンフォース』の影に隠れて迫っていたブラッキーが攻撃を仕掛ける。

 

「甘い!」

 

読んでいたブラッキーに向けて『ダークホール』を放つ。体力がもう限界のブラッキーでは次拘束されては抜け出せず、そのまま眠りに落とされて瀕死になってしまう。ギラティナの『シャドーダイブ』も警戒されている以上、不意打ちも効かないだろう。

 

だがそれもカイムは読んでいた。

 

「バトンタッチ!」

 

ブラッキーが即座に入れ替わる。入れ替わった相手は、バシャーモ。特性『加速』により上昇した素早さ、ブラッキーから引き継いだ攻撃力を使ってダークライに肉薄する。

ブラッキーの速度に合わせて『ダークホール』を展開しようとしていたダークライに対して、バシャーモの上がった速度が一歩先をいった。

 

「ダークホ…」

「インファイト!」

 

バシャーモの連撃がダークライに突き刺さる。咄嗟にダークライは空間を歪めてダメージを軽減する。しかし大きなダメージが入ったことに変わりはない。

 

「くそ!サイコキネシス!」

 

ダークライの念力がバシャーモを襲う。効果抜群の技を受けてバシャーモは今度こそダウンしてしまった。

すぐに次だと思考を切り替えたアカギだが、目の前の空間を引き裂いてギラティナが突撃してきた。

 

「シャドーダイブ!」

 

ギラティナの攻撃を受け、ダークライは吹き飛ぶ。元々耐久力の高くないダークライだが、悪夢の領域によるバフでどうにか耐えた。

 

「ヒカリ!今よ!」

 

シロナの声にアカギがバッと視線を向けるが、その時にはクレセリアが力を既に溜めきっていた。

 

「クレセリア!ムーンフォース!」

 

クレセリアの攻撃がダークライを貫く。能力が上昇していたとしても、数々の攻撃を受けたダークライは既に限界だった。ふらふらと浮き上がろうとするが、力尽き地面落ちる。

そのダークライを見て、アカギは天を仰いだ。

 

「…ここまでか」

 

アカギはそう呟き、大きく息を吐いた。

 

「私は、またしても失敗したのだな。この世界のように」

 

アカギの言葉にシロナは問いかける。

 

「世界が失敗した?どういうこと?」

 

シロナの問いにアカギは鋭い視線を向けながら答えた。

 

「この世界は、無から生まれた。その無の中に出現した卵から、この世界の創造主…アルセウスが生まれた。アルセウスはディアルガ、パルキア、ギラティナを生み出すことで時間、空間、反転世界を制御させることで、我々の住む世界が生まれた。そして湖の三匹のポケモンにより、生命に…人々に心が芽生えたのだ」

 

アカギの話はシンオウ地方に伝わる神話だ。学者であるシロナとカイムはもちろん、ヒカリですらその話は認識している(アルセウスの名はそこまで伝わっていないが)。

アカギの過去を聞いていないシロナとヒカリはアカギが心に対して憎しみを抱く理由を知らない。黙ってアカギの話に耳を傾けていた。

 

「人々には同時に知恵も宿った。しかしこの知恵は、我々に芽生えた心に悪意を宿してしまった。人の悪意は、他者に悪意を植え付け、さらに広まっていく。そして、その悪意はあらゆるものを傷つける。互いに傷つけ合い、潰し合う。それが人の本質なのだ。人のみでその諍いが起こるならばまだいい。だが、この悪意は人だけでなく、ポケモンや国、世界までも傷つける」

 

アカギの言っていることは、残念ながら事実だ。争いや諍いは、人の悪意…心が要因となっているものが多い。シロナが身を置くバトルと考古学の世界にも少なからず悪意は存在する。

アカギはその悪意は心から来ており、心はあらゆるものを傷つける。そう言った。

 

「それらは全て心が起因している。心によって、世界は振り回され、不完全なままだ。互いに足を引っ張り合い、潰し合うからだ。そしてその要因である心がある限り世界が完全になることはない。心がある限り、完全になることはできない。この世界はもう駄目だ…失敗したのだ」

「だから心を消すの?」

「そうだ。悪夢によって人々の心を消し、世界をリセットする。そうすれば心のない完全な世界が創造できる!あらゆる差別と苦痛が消えた完全なる世界だ!」

 

アカギの話をシロナは到底理解できなかった。悪夢によって人々の心を消せたとしても、そこにいるのは人ではなくただの抜け殻。その人々が目覚めることがない以上、波止場の宿で起きたことが世界規模で起こるだけだ。世界のリセットとはとても言えない。

それになにより、シロナは心があることを非常に重要視している。この感情の起源である心がない世界など、シロナにとっては無価値な世界に等しい。

 

「世界が失敗した、か」

 

倒れたバシャーモを背負ったカイムがぽつりと呟く。

 

「なんだ。理解できないか?」

「お前が言いたいことは理解できる。でも納得はしてない。だって世界はそういう風にできてんだろ?それに苦言を呈して、何になる」

「それは弱者の理論だ。強者とは、世界がどういうものかではなく、どうあるべきかについて語らねばならん」

「……どうあるべきか」

「ふん。貴様が納得しているかなど、どうでもいい話だ。私は必ず世界の謎を解き明かし、心のない完全な世界を創る。失敗した不完全な世界など、私には無価値だ」

 

アカギの言葉にヒカリは僅かに反応する。そして強い心を持ってアカギに向けてヒカリは一歩踏み出し、アカギに向けて言った。

 

「失敗したかどうかを決めるのは貴方じゃないわ、アカギ」

 

ヒカリの言葉にアカギは視線を鋭くする。そしてヒカリに冷たく言い放った。

 

「では、誰が決める?力ある強者が決めるしかあるまい。弱者は、悪意を悪戯に世界に振りまき、あらゆるものを傷つけいく。ならば力を持つ強者が弱者を統治し、世界をあるべき姿にするしかない」

 

アカギの言葉にヒカリは首を振る。そして胸に手を当ててアカギに向き合う。

 

「違う。本当の強者は世界の命運を握らない。そんな力は持たないわ」

 

ヒカリとアカギの視線がぶつかり合う。

しばしの沈黙の後、アカギは目を閉じ、目を閉じて小さく言った。

 

「…皆が、お前のような人間であれば世界は違ったのかもしれんな」

「え?」

 

ヒカリの疑問の声に応えることなく、アカギは背を向けた。

 

「…心の繋がりか。お前達に見せつけられたその力は、私の引き出したダークライの力を上回った。悪夢の領域でダークライを打ち破ったのが、その証拠だ」

 

バシャーモを背負い、ブラッキーを撫でるカイムにちらりと視線を移しながらアカギは言う。ここまで強化されたダークライを打ち破れたのも、心の繋がりによって力を引き出したことに起因する。その有用性だけは、アカギも認めざるを得なかった。

 

「心は確かに、貴方の言うように完全なものではない。心があるせいで、痛みや悲しみを感じる。でも、その痛みが私たちを先に進めてくれる。人との繋がりの大切さを実感させてくれるの。それは貴方も同じはずよ。傷つけたくない人がいるから、痛みを感じる。それが心よ」

 

心は確かに痛みも悲しみも感じる。しかし同時にそんなマイナスの感情があるから、喜びをより強く感じられる。そんなたくさんの感情の起源である心が、シロナには酷く大切なものだと考えていたからこその言葉だった。

シロナの言葉にアカギは答える。

 

「それは、お前達が心によってもたらされる本当の悲劇を知らないからだ。同じ経験をして、お前達はまだ心が大切だと言えるとは思えんがな」

「心の繋がりは貴方の言うように悲劇を生むこともある。私も経験したら、貴方みたいになるかもしれない。だとしても、私はこの世界を守りたい。世界のあるべき姿がどんなものかはわからないけど…この世界が好きだから」

「……そうか」

 

アカギは大きく息を吐くと、自身の目の前に黒い空間を開いた。

 

「私の計画は潰えた。もうお前達の前に姿を見せることもないだろう」

「諦めたの?」

「いいや。私は今も心は消すべきものだと考えている。なにか妙案が思いつけば、私は心を消すために動く」

「何度やっても、私たちが何度でも止める」

「だろうな。そして恐らく、私の力ではお前達には敵わない」

 

そこで一度言葉を切ると、アカギは肩越しにシロナ達を鋭い目で見つめた。

 

「だからせいぜい、私に失望させるな。この世界が失敗していないと、存続するに値するものだと証明し続けてみろ」

「上等よ。貴方こそちゃんと見ていなさい。私たちの生きているこの世界の醜さと、美しさを」

 

シロナの言葉に答えることなく、アカギは視線を外すと黒い空間に足を踏み入れ、姿を消した。

 

アカギが姿を消したことで終わったことを悟ったシロナ達は一息つこうとするが、その瞬間足元に振動を感じる。周囲を見渡すと、悪夢の底が少しずつ狭まってきていた。

 

「アカギがこの世界からいなくなったことで、悪夢の世界が閉じようとしてます!早くここから出ないと!」

「ええ、早く行きましょう」

「クレセリア!お願い!」

 

クレセリアの力がシロナ達を包む。そして悪夢の底から浮き上がるように上昇していった。

だが浮き上がる人物の中に、カイムの姿がない。ブラッキーとバシャーモはシロナ達に続いているのに、カイムの姿は悪夢の底に留まったままでいる。

 

「カイム⁈」

「どうして⁈クレセリアの力はカイムさんにも働いているのに⁈」

 

焦るシロナとヒカリを他所にカイムは妙に落ち着いている。そして浮いていくシロナ達を見て言った、

 

「悪夢の力を取り込みすぎたみたいだ。悪夢との親和性が高くなりすぎて、クレセリアの力でも引っ張り上げられないんだろうよ」

「そんな…カイムさん!」

「先に戻っててくれ。いつになるかはわからんが…できるだけ早めに戻る。戻れるかはわからんけどな」

 

そのひと言を聞いた瞬間、シロナは浮上するクレセリアの力から抜け出していた。浮力を失ったシロナはそのままカイムに向けて飛び降りていく。

 

「シロナさん⁈」

「ギラティナ!みんなをお願い!」

 

ギラティナにそう言い残し、シロナはカイムの元へ落ちていく。カイムは床から迫り上がってきた悪夢の波に飲み込まれようとしている。

 

「カイム!」

 

シロナが手を伸ばす。

その声に応えるようにカイムもシロナに向けて手を伸ばした。

 

カイムの全身が飲み込まれる瞬間、二人は確かに互いの手を掴む。

その感覚を実感しながら、二人の意識はブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「ん…」

 

光によって意識を覚醒させられたシロナはゆっくりと目を開く。目が光に慣れてきたところでシロナは立ち上がり、周囲を見渡した。

 

「ここは、ミナモシティ?」

 

シロナにも見覚えのある土地、ミナモシティ。

ホウエン地方の中でも都会に類する都市であり、同時にカイムの生まれ故郷でもある。

シロナはミナモシティの砂浜で目を覚ました。非常に穏やかで優しい光景だが、何故こんな場所にいるのかとシロナは混乱する。

 

(私は…悪夢の中で戦っていた。それで悪夢の世界が崩壊してきて…カイムが残る雰囲気だったからカイムの手を掴んだ…そうよ、私はカイムの手を取ったわ)

 

悪夢の世界での最後の記憶を思い出す。崩壊し始めた世界でシロナは確かにカイムの手を取った。

そこまで思い出してシロナは自分の服装に目を落とす。服はギラティナをモチーフとしたドレスのままであり、普段の黒いコートではなかった。

 

(服はそのまま…つまり、ここはまだ夢の中ということ。ならカイムがいるはず)

 

そう考えて再び周囲を見渡す。だが周囲にカイムの姿はない。カイムを探しに行こうと駆け出しかけたところで、砂を踏む足音が聞こえてきた。

 

シロナがそちらを振り返ると、一人の男性がこちらに歩いてきているのが見えた。

 

「ダイゴ、君?」

 

その姿は、ホウエン地方チャンピオンのダイゴだった。何故ここにいるのか、そもそもここはどこなのか色々と聞きたいことがありすぎてシロナはうまく言葉が出ない。

そんなシロナを他所に、ダイゴは言葉を発した。

 

「…まさかここに人が訪れるとはな」

「え?」

 

確かに声はダイゴだ。しかし喋り方や雰囲気が明らかにダイゴとは異なるものだった。

 

「貴方は、誰?」

「………」

 

ダイゴ(?)は答えない。

だが振り返ると、歩きながら言った。

 

「ついて来い」

「どこへ行くの?」

「この夢の出口だ」

 

 

 

 

 

 

ダイゴの姿をした誰かに着いてミナモシティを歩く。

ダイゴは何も話さず、ただひたすら歩いていき、シロナはその背中を追った。

 

(…誰もいない。このミナモシティは何?)

 

先ほどからへと向かう道を歩いているが、人が誰もいない。別に荒れていたりしないほど綺麗で、つい先ほどまで人がいたかのような光景なのに人の気配は全くしなかった。

そんな街をダイゴは歩いていく。色々と理解できないシロナはその背中に疑問を投げかけた。

 

「聞いてもいい?」

「……好きにしろ」

「じゃあ、聞かせてもらうわ。ここはどこなの?悪夢の世界じゃ無さそうだけど…」

 

シロナはヒカリの夢を通して夢の世界へ足を踏み入れた。だから仮にカイムを連れて帰れたのなら、ヒカリの夢にいるはずだと考えたが、ここはどう考えてもヒカリの夢とは思えない。

その問いかけにダイゴは足を止めて振り返る。

 

「…無意識なのか?」

「どういうこと?」

「……そうか、無意識か。お前達の心の繋がりは、よほど深いらしい」

 

ダイゴの言葉にシロナは首をかしげる。ダイゴは再び前を向くと歩きながら言った。

 

「あまりゆっくりしている時間はない。歩きながらお前の疑問に応えよう。こちらとしても、お前たち…いや、奴に借りがある」

 

ダイゴの『借り』という言葉にシロナは再び首をかしげる。そんなシロナのことなど知らないと言わんばかりに、ダイゴは語り始める。

 

「ここはあの男の夢だ」

「あの男って…カイム?」

「そうだ。お前は今、カイムという男の夢の中にいる」

 

どうりで、とシロナは納得する。ここがカイムの夢であるのなら、ミナモシティの風景なのも理解できる。

 

「お前は悪夢の領域が崩壊する時、カイムの腕を掴んだ。あの瞬間、お前はカイムの夢にダイブし、今ここにいる。本来クレセリアか『私』の力でもなければ他者の夢に干渉することなどできないのだが、どうやらカイムが取り込んだ『私』の力とお前が心をつなげたギラティナの力、そして何よりお前達の心の繋がりがこの状況を作り出した」

(…『私』ってことは、このダイゴ君は…)

 

ダイゴの言葉を聞いてシロナは目の前のダイゴが誰なのか、そして何故自分がここにいるのかを理解した。

敵意はない。それにこのダイゴが今、アカギとは違う目的で動いているのとをシロナはなんとなく察した。そのためダイゴの言葉の続きを無言で聞いていた。

 

「お前がこの夢にダイブした影響でカイムの意識は悪夢から逃れ、半覚醒状態になった。だがお前がこの夢にいる状態では目覚めることができない。だから私はお前がこの世界から出て行ける道に連れていくだけだ」

「私がカイムの夢にダイブしたから、カイムは悪夢から逃れられたのね」

 

自分がカイムを救えた。そう考えたシロナは少しだけ嬉しくなるが、その考えを見透かしたようにダイゴは『緑色の瞳』をシロナに向けた。

 

「勘違いするな。お前が来なければ、私はカイムを悪夢から吐き出して意識を覚醒させていた。お前がやったことは私の仕事を増やすだけだ」

「あ…そうなんだ」

「……ふん。だが、かなり力を取り込んだカイムを悪夢から吐き出すとなると、悪夢に引き寄せられる力が大きくなる。だから私にもカイムにも大きな負荷がかかる。それが軽減されたことは間違いないがな」

 

何にしても、シロナがあの時カイムの手を取ったことは間違いではなかったらしい。

 

「カイムは今、眠っているのね。夢の世界にいるわけでもなく、普通に眠っているのに等しい状態だと」

「そうだ。お前がいる限り、奴は目覚めない」

「そっか。じゃあ早く出ないとね」

 

シロナはそこで一度言葉を切ると、再びダイゴに問いかけた。

 

「ねえ、もう一つ聞いてもいい?」

「好きにしろと言ったはずだが?」

「ありがとう。じゃあ聞かせてもらうけど、カイムが『(ダークライ)』に選ばれた理由は?」

 

シロナの問いに、ダイゴは足を止める。

そう、カイムはダークライに選ばれていた。ヒカリがクレセリアに選ばれたのとはまた違う。カイムはバディとしてではなく、特定の人物として選ばれていた。だから波止場の宿に残っていたダークライの力の残滓に気づくことができたし、ダークライも夢から接触できた。アカギとは違う意味でダークライに選ばれたのがカイムだった。

だがアカギというバディがいるのに何故カイムがダークライに選ばれたのか。シロナはそれが気がかりだった。

 

ダイゴは少しだけ沈黙した後、海に視線を向けた。

 

「…美しい場所だ」

「そうね。私も、この街が好きだわ」

「この風景は、奴の心象風景そのもの。静かな波と穏やかな風…時に荒々しくも深い海。私の知る海とは、かけ離れている。波は荒く、風は冷たい。そして何人も拒絶する。それが私の知る海だった」

 

脳裏に映る海と、今目の前にある海はかけ離れていた。

何故そんなことを言ったのかをシロナはわからないが、そのまま言葉の続きを待った。

 

「…あの男の心は海のようだ。時に優しく、時に厳しい。そんな海のような心を持つ男は、悪夢すら受け入れる」

「カイムが、悪夢を?」

「ああ。あの男の眠りは実に深い。常人では到達しえないほど深く眠りに落ちる。それ故に、悪夢の領域に接触しやすい。それと同時に奴の心が悪夢すら受け入れる強さを持っていた。だから私が接触できた」

 

ダイゴの言うように、カイムの眠りは非常に深い。故に接触できたらしい。

 

「はじめの接触はただの偶然だ。だが奴は悪夢と力を受け入れる度量と素質があった。だから私は奴を選んだ」

「度量と、素質」

「素質は生まれついてのものだろう。度量は…恐らく奴の人生に影響を与えた者達のおかげだろうな」

「人生に影響を与えた?」

「ああ。特に影響を与えたのは奴の姉、この姿の者、そしてお前だ」

 

カイムの人生に影響を大きく与えた人物。それは姉であるイサナ、親友であるダイゴ、そしてシロナだった。この三人は形こそ違えど大きな影響をカイムに与え、その結果今のカイムの人格を形成させた。

カイムという男の人格は確かに度量が深い。他者を受け入れる、という意味を彼なりに理解しているからだろう。そしてそれが目の前の存在を受け入れるに至り、選ばれる理由となったのだが、当の本人はそれを自覚していない。

 

「悪夢を受け入れることなど誰にでもできることではない。アカギは別の意味で受け入れていたが、奴は否定する方向だった」

「それがアカギに仕方なく従っていた理由?」

 

ダイゴは答えないが、それが真実だとわかる沈黙だった。

悪夢の世界での戦いの時、『彼』の動きは消極的だった。自らの判断で動くことはほとんどなく、アカギの指示以外で動くことがほぼなかった。

そして何より、カイムを選ぶという行為がアカギへの反発精神の現れだと言っていい。

 

「いいや。奴は私の共鳴者であったのは確かだ。私の力を最も引き出せる存在だったが、同時に支配力も凄まじかった。故に奴は私の力を限界以上に引き出し、私を操った。初めから私の意思など、アカギは考えていない」

「心を否定したアカギらしいわね」

 

ダイゴの口からはアカギについて語られ、その内容は少しトゲがある。しかし口調は決してアカギに対する憎しみはなく、どこか穏やかだった。

 

「貴方は、アカギの望む世界を実現させたかったの?」

「…どうだろうな。私の力を使えば、確かにアカギの望む世界は実現可能だろう。悪夢に心はない。悪夢で世界を満たせば間違いなく奴の望んだ世界になっただろう。ただ私個人としてそういう世界を望んでいたかを考えると、なんとも言えない」

「そう」

「私は、自分の意思に関わらず他者に悪夢を見せてしまう。アカギの望む世界を創る上では都合が良かった。そしてたまたま私の共鳴者だった。それだけだ」

 

皮肉げに言うダイゴはどこか悲しげだった。

 

(…もしかして、彼は悪夢を見せることを…)

 

そう考えてシロナは頭を振る。仮にそうだとしても、それを受け入れて生きている彼の生き方を侮辱してしまうような気がしたからだ。

 

「…無駄話が過ぎたな。行くぞ」

 

ダイゴは再び歩き出し、シロナもそれに続いた。

 

 

 

 

 

 

しばらく歩いて港を抜けると、その先に灯台が見えて来た。

 

(あの灯台…)

 

シロナはその灯台に見覚えがあった。かつてシロナがミナモシティを訪れた際にカイムと話をした灯台だった。

 

「あそこから現実に戻れる」

「灯台から?」

「そうだ。扉に入ればそれでいい」

「………」

「何だ」

 

現実に戻れると聞いてもシロナは表情を明るくしない。何か不満があるのかとダイゴは聞き返してくるが、『なんでもない』とでも言うようにシロナは首を横に振るとダイゴの隣をすれ違い、灯台に向かう。

 

「案内してくれてありがとう」

「さっさといけ」

 

普段のダイゴなら考えられないような言葉遣いをし、ダイゴはシロナに背を向けて立ち去ろうとする。

だがシロナは振り返り、最後にダイゴに向けて声をかけた。

 

「…ねえ、最後に聞かせてくれる?」

 

シロナの言葉にダイゴは足を止める。ダイゴは答えないが、その場から動く様子もない。その様子を見たシロナは、その背中に再び問いかける。

 

「さっき言ってた借りって?」

 

先ほどダイゴはカイムに対して『借りがある』と言った。しかしカイムがやったことと言えば、アカギの足止めくらいだ。その中で『(ダークライ)』がわざわざシロナの面倒を見にくるほどの『借り』とはなんなのか。シロナは最後にそれを聞いておきたかった。

 

「…………」

「良ければ、私からカイムに貴方からのお礼を伝えておくわ。だから聞かせてくれない?」

「…お人好し共め」

 

ダイゴは小さく息を吐くと、シロナに向き直る。

 

「奴は、私の呼びかけに応えた。どうしたいのかもわからない私の呼びかけに応え、私の元まできた。今まで接触した人物の中で、奴は私に唯一歩み寄る姿勢を見せたのだ。私にとって、それは大きなことだった」

 

自分の意思に関わらず悪夢を見せてしまう存在であるため、常に新月島で一人で生きていた。孤独にいることは全く苦しくない。しかし存在を否定され続けることは、わかっていても少しずつ己の心を蝕んでいく。恐らく、心のどこかでアカギが望んだ世界を実現したいと思っていた己がいたのもそれが起因していたのだろう。

だがそんな中、カイムだけは否定せずに歩み寄ってきた。アカギのことも、自分のことも『知りたい』と言った。そのたった一言が、彼の心を決めた。世界に心を残したい。そう思わせた。

尤も、そう思ったところで支配力はアカギが圧倒的に強いため、反発することなどできない。せめてシロナ達が自分を倒してくれるようにアカギの指示以外動かなかった。

 

「私の呼びかけに応え、悪夢の底にまで来た。利用するためではなく理解するために」

「…そう、カイムらしいわね」

 

普段は無表情で近寄りがたい雰囲気だが、相手がどんな存在なのかを知ろうとする。それは相手が害意のある存在であっても変わらない。アカギのことも、そしてダークライのことも(策略でもあったが)悪夢の世界で知ろうと歩み寄ってきた。

それがどんなに大きなことなのか。シロナもヒカリも、そしてカイム本人も恐らくダークライの感情はわからない。しかしそれが大きなものなのだと、シロナは理解できた。

 

「…奴に伝えてくれ。あまり簡単に他者に踏み込みすぎないことだと」

「伝えておくわ。貴方の感謝の言葉と一緒にね」

「…好きにしろ」

 

ダイゴは振り返る。すると、その姿が少しずつブレていき、ダイゴの姿が消えて死神のような姿のポケモンが姿を現した。

そこにあったのは、悪夢の世界で戦ったダークライの姿だった。ダークライは姿を誤魔化せなくなったのを見ると、シロナに視線を向けて言う。

 

「…姿が元に戻った。あまり時間はない」

「わかったわ」

 

シロナは灯台の扉に手をかける。

その瞬間、目の前のポケモンがシロナに問いかけてきた。

 

「最後に、私から聞かせろ」

「何?」

「お前の名前は、何という」

 

ポケモン…ダークライの問いにシロナは笑いながら答え、扉を開いた。

 

「シロナよ」

「…シロナか。覚えておく」

「ありがとう、ダークライ。私も貴方のこと、忘れない」

 

そう言ってシロナは灯台の中へと足を踏み入れた。

 

残されたダークライはカイムの心象風景である海を眺める。夕陽が沈んでいく水平線を暫し見つめると、目を閉じた。

そしてダークライの姿は風景に溶けるように消え、カイムの夢から己の悪夢の世界へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

微睡みの中で目を開く。

水の中にいるような浮遊感の中、カイムはぼんやりとした意識の中で周囲を見渡す。

 

(…ここは?)

 

海の中に潜っているような世界。

意識がはっきりしない。そんな中で最後の記憶を思い出す。

 

(確か…悪夢の世界で……シロナの手を…)

 

自分がシロナの手を取ったところまでは覚えている。そこからは記憶がなく、気づいたらここにいた。

 

視線を上げる。

水面から光が差し込んでいた。太陽のようだが、金色に輝く光は太陽とは異なる。

 

逆に見下ろすと、白く光る空間と黒く澱んだ空間があった。

何かはわからないが、自分が戻るべき場所ではないことは理解できる。

 

再び視線を上げると、水面から差し込んでくる光がとても温かく、美しい。理由はわからないが、差し込んでくる光にカイムは惹きつけられた。

透明よりも美しく力強い光。まるで呼ばれるかのように差し込んでくる光に手を伸ばす。

 

 

 

カイム!

 

 

 

光の中から確かに聞こえた声。その声に向けてカイムは手を伸ばす。

カイムの手に応えるように、光の中から手が伸ばされてくる。

 

 

 

カイム、こっちよ!

 

 

 

確かに呼ばれた。

光が差す方向。そこが自分の行く場所だとわかる。

 

 

 

 

 

カイム!

 

 

 

 

呼ばれている。

光に向けて手を伸ばしていく。

 

「シロナ」

 

伸ばされた手を取る。

勢いよく引き上げられ、カイムは水面から顔を出した。

 

 

その瞬間、カイムの視界は金色の光に覆われる。

 

 

あまりの眩しさに、カイムは目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が浮上してくる。

目蓋越しに差し込んでくる光がとても眩しい。

 

「カイム!」

 

自分の名を呼ぶ声が聞こえてくる。声に応えるようにゆっくりと目を開いていくと、光で視界が白く塗りつぶされる。

徐々に光に慣れてきた目が映したのな、最愛の人の顔だった。

 

「カイム!」

「…シロナ」

 

『はー』と大きく息を吐くと、カイムはシロナを寝転んだまま抱き寄せた。シロナの体温や心音が自分の身体を通して伝わってくる。その事実に心底安心感を覚えていた。

シロナもそんなカイムのことを抱きしめ返し、呟いた。

 

「おかえりなさい、カイム」

「…ただいま。シロナ」

 

そう言ってカイムがシロナを離した瞬間、ブラッキーをはじめとしたポケモン達がカイムに飛びついていく。ポケモン達にもみくちゃにされたカイムは苦笑しながらポケモン達を受け止めた。

 

「すまん。心配かけた」

 

ブラッキーやトリトドンはともかく、あのバシャーモまで涙を流しながらカイムに抱きついている。余程心配をかけたことを自覚したカイムは苦笑しながらポケモン達をぽんぽんと軽く撫でた。

 

(…あとでボコボコにされても文句は言えんな)

 

それと同時にポケモン達に相談せず、勝手に決めて勝手に動いたことは恐らくポケモン達からしても度し難い事実。無事に帰って来れたからいいが、帰れなかった場合はポケモン達を路頭に迷わせることになってしまうだけでなく、ポケモン達の心に大きな傷を残すことになる。ボコボコにされたとしても文句は言えない。

 

「ヒカリ…お前にも世話かけたな」

 

ポケモン達の後ろで滝のように涙を流していたヒカリにカイムはそう声をかけた。ヒカリは涙を拭おうともせずぐちゃぐちゃの顔で泣いていた。

 

「カイムざん〜!よがっだでず〜!」

「色々とすまん。お前のおかげで助かった」

 

ヒカリがクレセリアのバディだった。それがこの一件の解決で最も大きな鍵だった。彼女がいなければ、確実にアカギの狙い通りになっていただろう。

 

無論、カイムがダークライの力を取り込んだこと、シロナがカイムを迎えに行くためにヒカリと共に悪夢の世界へとダイブしたこと…どれも欠けてはならない鍵だった。ヒカリがいなければそもそもミオシティは全滅していたし、シロナがいなければ悪夢の世界へ夢を繋ぐこともできなかったし、カイムがいなければシロナが悪夢の世界への道を開くことも出来なかった。

 

「はあ〜…」

 

ポケモン達に押しつぶされながらカイムは空を見上げる。数日間悪夢の世界にいたせいで、青い空が久しぶりに見るように感じられた。

 

(アカギは今、どこにいるんかね)

 

アカギは、恐らくもう二度と姿を見せないだろう。だがこの世界のどこかにはいる。最後まで友好的な関係は築くことは出来なかったが、ほんの少しだけアカギのやりたかったことを理解できた気がした。

無論アカギの野望に対して納得はしていないし、理解できたのももしかしたらただの錯覚かもしれない。だとしても、カイムはもう少しアカギのことを知りたかったと考えていた。

 

ぼんやりと考えながら空を見上げるカイムの頭を、シロナは優しく微笑みながら撫でる。カイムがシロナに視線を向けると、安心したような笑みを向けながら言った。

 

「おはよう、カイム」

「おはよう、シロナ」

 

カイムも珍しく安心したような笑顔をシロナに向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エピローグ

 

 

 

 

『ニュース見たよシロナちゃん。大変だったみたいね』

 

画面に映るカイムと同じ青みがかった瞳を持つ女性、イサナはそうシロナに言った。

 

今回の一件はシンオウ地方だけでなく、ガラル地方やイッシュ地方といった隣接していない地方にも大いに取り上げられた。何せ街一つが原因不明な眠りによって機能を停止させられたのだ。他地方としても、異常な事態であることに変わりはない。故に、ガラル地方に住むイサナも今回の一件がどのようなものであり、解決のためにシロナとカイムが奔走したことを知っていた。

 

「ええ…大変でしたよ色々」

 

画面に映るイサナに向けてシロナは苦笑しながら言った。

 

カイムが目覚めてすぐ、眠りに囚われていた人々も目覚めた。幸いなことに死傷者もなく、後遺症が残るような人もいなかったが、一時的とはいえ街の七割ほどの機能が停止していたため復旧には少し時間がかかった。また、復旧だけでなく眠っていた人々の検査やら何やらでも時間がかかったため、そこでも目覚めたばかりのカイムが奔走したのは言うまでもない。結果として、検査だけでも半月以上かかるような事態だったが、シロナの助力によってポケモンリーグから再び援助が受けられたため、数日程度で検査は終了し、現在では街の機能も九割は復旧することができた。

 

ただ、ジムリーダーであるカイムだけでなく、最後まで起きていた数人のジムトレーナーとマネージャー達も一週間近く事態収束のために奔走したため、体力が限界だった。街の機能がある程度回復したところで、ミオジムは二週間完全に停止させることをカイムは決めた。この現状でチャレンジャーが来たとしても、まともに相手することはできない。そう考えた結果の休暇だった。

 

そして後処理のためにジムが停止中にもかかわらずまた仕事をやろうとするカイムがバシャーモにシバかれたのは言うまでもない。

 

「どうにか街全体は復旧できて、今ではほとんど元通りになりました。ヒカリにも色々手伝ってもらっちゃって、申し訳なかったです」

『ヒカリってあの子よね。去年のリーグ決勝で戦った子。クレセリアのことを連れてきてくれたなんてすごいよね!』

 

街の復旧にはヒカリも手を貸してくれた。秘密裏にクレセリアと共にダークライの力の残滓がないかを調べたり、物を運ぶなどの雑務までこなしてくれた。何から何までまだ子供のヒカリに手伝わせてしまい、シロナとしては申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

無論、ヒカリはそのことに対して全く気にしていない。むしろ役に立ててよかった程度の気持ちでいるため、なんならヒカリはシロナとカイムに感謝すらしていた。

 

『そっか。本当にいい子なのね』

「はい。とっても助けられました」

『そのヒカリちゃんは今どうしているの?もう帰っちゃった?』

「いえ、明日まではうちに滞在するみたいです。さすがに疲れちゃったみたいで」

 

ヒカリは、全てが片付いた後にシロナとカイムと共に満月島まで向かい、クレセリアを送り届けた。クレセリアには夢の均衡を保つという役目があるため、ヒカリ個人で共にいていいポケモンではないとヒカリ本人がそう判断した。僅かな期間とはいえ、共に死線をくぐり抜けたクレセリアと別れるのは寂しいが、今生の別れではない。また夢で会おうと約束をして、満月島を去った。

そこまでしてミオシティに戻ってくると、緊張の糸が切れたのか熱を出してしまった。いくら旅をしてきたといっても、ヒカリはまだスクールを卒業してからあまり時間が経っていない子供。体力に限界が来てもおかしくない。

 

『あらあらそうなの?大丈夫?』

「大丈夫です。カイムが看病してましたし、今ではもう体調も戻ったので」

『さすがね〜あの子。家事はなんでもできるし、看病くらいお手のものか。それで?カイムは今何してるの?』

「カイムは…」

 

シロナはそこで視線を窓の外に移す。ちょうどその瞬間、カイムがルカリオに巴投げでぶん投げられた。

 

「ポケモン達に投げ飛ばされてます」

『え?なんで?』

「今回の件で、カイムはポケモン達にほとんど何も言わないで悪夢に潜りました。それでとても心配かけたことで怒りを買ったんです」

『あー、そういうことね。そりゃシバかれても文句言えないわ』

 

イサナがそう苦笑していると、メタグロスにどつかれてているカイムが目に入る。

 

メンバーズカードを回収した時点で、ブラッキーとルカリオは多少察してはいたかもしれない。しかし実際に潜る時、カイムはポケモン達に何も告げることなく勝手に悪夢にダイブした。かろうじてシロナとガブリアスには知らせたが、もしガブリアスが気づかなかったらカイムは置き手紙だけをして悪夢に潜るつもりだったが、それをシロナ達には伝えていない。

 

「だからカイムも大人しくされるがままになってます」

『自業自得ね。しっかり反省しなさいな』

 

今度は倒れているカイムの頭をムクホークが嘴で突いたり髪を引っ張ったりしている。

 

『あの子は昔っから言葉が足りないのよね〜。お父さんそっくり』

「ナダさんも口が足りないってタキさんが言ってましたね」

『そうなの!まあお父さんの場合、口が足りないというより無口なだけかもしれないけどね。カイムは無口じゃないでしょ?だからちょっと違うかもしれないわね』

 

カイムの姿がトリトドンのだくりゅうに押し流される。

 

『でもあの子なりにみんなを助けようとしてくれたのよね。ニュースで見たもん。《新人ジムリーダー、事態収束のために奔走。死傷者ゼロに貢献》だって。それにシロナちゃんのことも出てるわよ。ポケモンリーグとの連携に注力したんだって?』

「私は今回、ほとんどカイムの言うことに従っただけです。それも含めて、カイムのおかげです」

 

キリキザンが少し遠慮がちにカイムのことをシバく。

 

実際、カイムの采配は初めてとは思えないほどスムーズだった。非常に迅速な対応をし、ジムトレーナーや公共機関に対しても素早い指示を出していた。

無論今までカイムにそういう経験はない。ただこれまでのポケモントレーナーとしての経験とシロナの助手としての経験、そして異変を察知した時から何かあった時にどうするかを予めシミュレーションしていたからこそここまでやることができた。

 

『へえ…あの子、意外と指導者として資質があるのね。子供の頃は自分から表に出て何かするタイプじゃなかったんだけど…成長してるのね』

「一人でできるだけやろうとするのが玉に瑕ですけどね」

『そーね。あとはもー少しだけ助けてって言えるようになれれば完璧ね』

 

バシャーモがカイムのことを背負い投げで投げ飛ばすのが見える。

 

イサナは『それにしても』と続けた。

 

『あの子が指導者…ジムリーダーか。アタシは人に教えるのさっぱり向いてないからなぁ。なんでそんなにうまく教えられるのか、アタシが指導してほしいくらいよ』

「本人曰く、昔から感覚では何一つうまく行かなかった。だから理詰めで考え抜いた結果だろうって言ってました」

 

姉のように何かを感覚だけで成せたことはなかった。

だから考え抜いた。何が足りないのか、何が必要なのかを。最初はその考えることもうまくできずに迷走したこともあったが、今ではシロナの指導によって鍛えられた。元の素質の良さも相まって相当考えることに対しては能力が上昇した。

それにより、カイムは指導力も上昇したのではないかとシロナは考えていた。できなかった理由、できるようになった理由…その両方を経験、実感し、己の力に昇華させてきたカイムだからできることなのではないかと。

 

『考える、か。ある意味アタシに一番足りなかった力ね。やっぱ頭良くないと指導者にはなれないのかなぁ?今でこそ店の子達に色々教えたりはできるようになってきたけど、独立したばかりの頃はまぁ苦労したから』

「人に教えるためには、自分でどれだけ多くのものを理解できているかが大事ですからね。あとはできない人の気持ちを汲んであげられるかも」

『あっ!シロナちゃん!それアタシに刺さるんだけど⁈』

「そう思って言いました」

『ひっどーい!』

 

そう言って二人は笑い合った。

 

そんな中、カイムはバシャーモにヘッドロックをかけられながらブラッキーにビンタされていた。

 

二人で笑い合っていると、一人の男性の声が聞こえてきた。

 

『イサナ、グウラ寝たよ』

『あ、ありがとう。お疲れ様』

 

声の主人である男性は画面を覗き込んでくる。初めて見る顔だが、状況からしてイサナの夫だろうとシロナは判断した。

 

『あ、どうもはじめまして。イサナの夫、ミナトです。イサナが世話になってます』

「はじめまして。シロナです」

『いやあ存じてますよ。なにせあのシンオウ地方チャンピオンですからね。それに、色々とイサナから聞いてますんで』

『もーミナト。そんな他人行儀にしなくていいって』

『それはイサナだからだろう?僕は初対面なんだから。この前、ミナモシティに行った時は急遽僕だけ帰っちゃって弟君にも会えなかったんだから』

 

以前ミナモシティに訪れた時、イサナと夫は急な仕事で帰らざるを得なかったらしくシロナは会うことができなかった。

イサナの夫であるミナトは、非常に落ち着いた声で話す人だった。明るいイサナと落ち着いたミナト。なるほど、いい夫婦なのだろうとシロナは目の前の二人を見てそう思った。

 

『だって遠くない未来には家族になるのよ?そこまで固くならなくていいじゃない』

「家ぞっ⁈」

『おや?そうなのかい?』

「えっ⁈ああいや…その、えっと……わ、私は…そうなれたらって思ってますけど…」

 

顔を赤くするシロナをニマニマと見つめながらイサナは胸を張った。

 

『ほら。あとはカイムの時間と決意次第よ』

『そうなのか…まあ、だとしても第一印象は大事だ。礼節を込めて接することになんの問題もないはずだよ?』

『むう…そうね。アタシがだいぶ仲良くなってたから違和感があったのよ』

『ははは、イサナはコミュ力高いからね』

 

やいのやいのと夫婦漫才を始めた二人にシロナは思わず苦笑するが、シロナはそれ以上に糖度の高いやりとりをヒカリの前でやっていることに気づいていない。

 

『さて、未来の義妹に軽く挨拶できたことだし、そろそろ僕は寝るよ。明日の朝早いんだ』

『カイムに会わなくていいの?』

『遠くない未来に家族になるんだろう?なら、今ここで焦って会う必要もないさ。それにこの前の事件で彼はきっと疲れてるだろうし、そもそも取り込み中みたいだ。今じゃなくていいよ』

 

ここに来ない、ということは恐らくなにか取り込み中なのだろうとミナトは判断した。ミナトの中では何かしら仕事があるのでは、と予想していたが、実際はポケモン達にシバかれているだけである。呼びつけようと思えばつれてこられるが、さすがに初対面であのボロボロの姿を見せるのも忍びないと判断したシロナはミナトを引き止めることはしなかった。

 

『それもそうね。じゃあシロナちゃん、ありがとうね』

「こちらこそ、わざわざ連絡してもらって…ありがとうございました」

『いーのいーの!アタシが話したかっただけだから。じゃ、またね!』

『カイム君によろしくね』

「はい。失礼します」

 

そう言ってシロナは通話を切り、パソコンの電源を落とした。

そのまま庭に出ると、ボコボコにされたカイムが庭に転がっており、ブラッキーがその背中で丸くなっているのが見えた。そしてその姿をヒカリは苦笑しながら眺めている。

 

「かなり徹底的にやられたみたいね」

「あ、あはは…かなり怒ってたみたいです」

「ま、仕方ないわね。勝手に決めるだけならまだしも、何も告げないでダイブしたんだから」

 

ガブリアスが気づいたからよかったものの、気づかれなかったらあのまま潜っていた。それを考えると、カイムのやろうとしたことの罪は重い。シロナとしてもしっかり反省してほしい限りだった。

ただこれだけやられればカイムも反省しただろうと考えたシロナは、未だに倒れ伏しているカイムに歩み寄る。

 

「お疲れ様」

「ひでえ目にあった」

 

ブラッキーの座布団にされながらカイムは呟く。散々シバかれたため見た目こそボロボロだが、カイム本人は割と大丈夫そうだった。単に頑丈なのか、ポケモン達の加減が上手かったのか、それとも両方なのかはわからないが。

 

「反省した?」

「心から」

「それは何より」

 

シロナはカイムの背中を座布団にするブラッキーを抱き抱える。ブラッキーはそのままシロナに甘えるように頭をシロナに擦り付けた。

ブラッキーを撫で、シロナはカイムに向けて手を差し出した。

 

「ちゃんと相談して決める。これから守ってね?前にも言ったけど、貴方がいなくなったら悲しむ人もポケモンもたくさんいるんだから。貴方が身体を張って解決することができても、残された私たちがどんな思いをするか…それもちゃんと考えてね」

「…ああ。そうだな」

 

シロナから差し出された手を取り、カイムは立ち上がる。

 

(残される側か…確かに考えてなかった)

 

シロナの指摘通り、カイムは残される側の心情を考慮していなかった。緊急事態で時間もなかったとはいえ、事前に伝えるくらいのことはできたはずだ。

なのにしなかった。それは、止められることが目に見えていたからだ。止められると、決心が揺らいでしまう。そんな気がしていたからカイムは伝えようとしなかった。

だがこれにより、シロナだけでなくポケモン達にも余計な心の傷を負わせてしまった。頼られない、相談されないことの無力感。それが今回の一件でポケモン達がカイムに向けて報復をした1番の理由だった。

 

大切だから巻き込みたくない。その気持ちはわかるが、相手のことを大切に思うなら、大切だからこそ共に乗り切ろうとするべきだった。

 

「わかったのならいいわ」

「ああ、覚えておく」

「次同じことしたら、待ってるって約束無しにして私から言っちゃうわよ?」

「そいつは勘弁してほしい。わかった、二度とせん」

「よろしい。あ、あと伝言があるわ」

「伝言?」

 

いきなり伝言と言われてカイムは起き上がるとシロナに目を向ける。

 

「あまり簡単に他者に踏み込みすぎないことだって、ダークライが」

「…なら、踏み込んで欲しそうにこっちを見るなってんだ」

 

そう呟いたカイムの言葉にシロナは笑う。あんな見た目をしており、悪夢を見せるダークライだが、カイムから見たら寂しがり屋なポケモンにしか見えなかったらしい。

 

「少しだけ、ダークライのことをわかれた気がするわ」

「かもな」

「じゃあカイム。貴方は私たちのこともわかってくれるわよね?」

 

シロナの言葉がわからず、カイムは頭に疑問符を浮かべた。

カイムが理解していないことを察したシロナはヒカリを呼びつけ、カイムに対して満面の笑みで言う。

 

「私たちにも散々心配かけたんだもの。何かお詫びがあってもいいわよね?」

「…ああ、そういうことね。何すりゃあいい?できることならなんでもやってやらあ」

「言ったわね。じゃあヒカリ、何かカイムにしてほしいことはある?」

 

シロナにそう聞かれ、呼びつけられたヒカリは目を輝かせた。

 

「なんでもいいんですか⁈」

「もちろんよ」

「なんでシロナが応えるんだよ…」

 

カイムは小さく突っ込むが、誰にもその言葉が届くことはない。

対してヒカリは勢いよく手を上げると、とても楽しそうに言った。

 

「あたし、カイムさんのご飯が食べたい!」

 

ここ数日、簡単な食事で済ませてしまい、体調を崩したヒカリは看病用の消化のいい食事しか摂れていなかった。だから好きなものを思いっきり食べたいという思いが燻っていたため、そのようなリクエストが出てきた。

 

「飯、か。いいだろう、なんでも作ってやる。リクエストは?」

 

カイムはルカリオにスマートフォンを持ってきてもらうと、メモ帳を起動させてヒカリのリクエストを聞く準備を整えた。

 

「えーっとね…まずはコロッケ!あとはハンバーグと、唐揚げ!お刺身も食べたい!」

 

楽しそうに告げるヒカリの言葉をスマートフォンのメモ帳にメモしていく。

 

「コロッケ、ハンバーグ、唐揚げ、刺身…他には?」

「あとは…蒲焼とアヒージョ!」

「蒲焼とアヒージョね…栄養バランスが悪いな。ここにサラダときんぴらを追加して、あとは野菜スープ系の汁物だな。とても食い切れるとは思えんが、まあ刺身以外は多少保つし明日以降の飯にすりゃいいか。シロナはなんかあるか?」

「そうね…揚げ出し豆腐と、ピリ辛きゅうり、あとは魚の塩焼きなんてどう?」

「居酒屋メニューかよ」

 

シロナのリクエストに思わず苦笑する。確かにうまいが、シロナのリクエストはヒカリと比べて居酒屋にあるようなものだ。ヒカリがいる前で酒は飲まないだろうしヒカリがおかずとなるものはほとんど出しているためわざわざここに追加するのもどうかとは思うが、あまりにもチョイスが大人寄りであった。

 

「なによ。美味しいじゃない」

「まーな。ただ、メニューとしては酒飲む時に食うのが多いものってだけだ。とりあえずこんなもんか?随分と多いが…まあなんとかなるだろ」

 

恐らくミカンがいれば、これだけの品数を揃えても食べ切るのだろうなとぼんやり考えながらカイムはスマートフォンをしまう。

そしてシロナからブラッキーを受け取ると、ポケモン達を呼び寄せた。

 

「じゃ、買い物行ってくる。留守番、頼んだ」

「ええ。いってらっしゃい」

「楽しみにしてます!」

「へーへー。んじゃ、行くか」

 

そう言ってカイムはポケモン達を引き連れて買い物へと向かっていく。

その背中を見てシロナとヒカリは目を見合わせ、日常が戻ってきたことを実感して笑顔になるのだった。

 

 

その後、カイムとルカリオ、そしてバシャーモがキッチンで忙しなく動き、日が沈んだ頃には食卓にごちそうが並んでいた。それらのごちそうをヒカリは満面の笑みで頬張り、シロナはそれを見て楽しそうに食事をした。カイムは自身のポケモンだけでなく、シロナとヒカリのポケモン達にも食事を与え、ポケモン達とシロナ達が楽しそうに食事をするのを見て、少しだけ頬を緩ませた。

 

こんな日々がずっと続きますように、と願いを込めて。

 

肝心の食事だが、さすがに大量の品数があったこともあり三人では食べ切れなかった。残ったものはまた旅に出るヒカリの弁当にしたりシロナ達の昼食になったりとした。

 

 

そして調理の間、ブラッキーはずっとカイムの頭にへばりついて離れようとしなかったのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒカリが再び旅に出て、自宅にはシロナとカイムの二人だけになった。

 

そしてその二人だけの空間では、シロナがカイムの膝に顔を埋めて既に一時間が経過していた。

 

「お姉さん。そろそろ一時間経過するんですけど」

「…………ん」

 

その一時間、シロナはほとんど何も喋らずひたすらカイムの腰にしがみついていた。どうしたものか、とカイムは頭を捻らせるが、結局気が済むまでこうしていればいいだろうという結論に至り、今はただシロナの髪を優しく撫でるだけだった。

相変わらず頭にしがみついているブラッキーはいつの間にか静かな寝息を立てており、カイムと背中合わせになり互いに背もたれになっているバシャーモもうとうとし始めている。あれからこの二匹は特にカイムの側を離れようとしない。

 

(一週間くらいはこの調子かねえ)

 

当分はこの調子なのだろうと諦め、カイムは頭にへばりついているブラッキーを撫でる。撫でられたブラッキーはぴこぴこと耳を動かし、喉を鳴らした。

 

ヒカリがいる時は普段通りに振る舞っていたが、ヒカリが帰ったとたんにこの態度。どれほど心配をかけてしまったのか、カイムとて理解しているつもりだった。だが、この態度を見て自分の認識がいかに甘かったのかを理解した。

 

(逆の立場なら…俺も同じか)

 

もしシロナが同じことをしたら自分はどうなるだろう。恐らく、なにも顧みずにシロナを取り戻すために死力を尽くす。シロナか自分を連れ戻すためにしたことと、なんらかわらないことだ。

今回はこれしか術がなかった。とはいえ、シロナに多大な心配をかけてしまったことに変わりはない。しばらくシロナの好きにさせようと考え、シロナの髪を再び撫でたたところで、シロナは口を開いた。

 

「…私、こんなに弱かったのね」

 

シロナの言葉にカイムは思わず手を止める。

 

「どういうことだ?」

「貴方がいないこの数日間、不安でたまらなかった。貴方が一人で戦っているのに、私は何もできない。その事実に心が何度も折れそうになってた。もし、帰って来れなかったら…そんなふうに考えてしまったの」

「でも俺は戻ってきた。シロナが連れ戻してくれてんだ」

「…そうね。でも、貴方がいない間に私の心はとても消耗してた。連れ戻すって約束したのにね」

 

カイムがいるから、シロナはこうしていられる。しかしカイムと出会う前は、ポケモン達さえいればシロナの心は強くあれた。だがカイムという存在と出会い、想いを通わせてからはカイムがいなければ生きていけない。そう考えてしまうほど、カイムという存在に依存してしまっている感覚かあった。

 

「私にとって貴方の存在がどれだけ大きいものなのか…今回の一件でよくわかったわ。大切な人がいると強くなれる人もいるけど、弱くなる場合もあるのね」

「結局、心の持ち様なのかもな。失う恐怖を原動力にするか、それとも恐怖に負けて折れるか。そいつの心の強さ次第だ」

「…そうね。私は、弱かった。ヒカリがいなければ、恐怖に心が折られていたかもしれない」

「それは違えな」

 

シロナの珍しく弱気な言葉をカイムは否定した。

 

「誰に支えられようが、折れる時は折れる。でもシロナは折れなかった。俺を連れ戻すために、世界を救うために最後まで折れなかった。結果論かもしれねえが、そこはちゃんと胸張るべきところなんじゃねえの?」

 

カイムは、親友であるダイゴや大切なポケモンがいても一度はバトルに対して完全に心が折れてしまった。この時、もしシロナがそばにいたとしてもきっと彼はバトルに対して心は折れていた。完全に心の芯から折れてしまっていたから、バトルを諦めたのだ。

だがシロナは折れなかった。ヒカリがいなければ負けていたかもしれないが、それでもヒカリがいて持ち直せたということは心の芯は折れなかったということだ。どんな形でも、最後までやり遂げた自分を誇るべきなのではないかと、カイムは言った。

 

「…そうね、その通りだわ。あまり卑下すると、支えてくれたヒカリにも失礼だものね」

 

シロナは一度言葉を切ると起き上がり、カイムの膝に乗ってカイムの顔を正面から見つめる。

 

「ねえカイム、一つ聞いていい?」

「ああ」

「カイムは、どうしてそこまで周囲のために動けるの?」

 

カイムは今回、自分を犠牲にしていると言われても仕方ないほど動いた。起きている間はほとんど休まず被害者の保護に奔走し、悪夢の世界では自分がもとの世界に戻れない可能性を理解したうえでダークライの力を取り込んだ。そこまで他者のために動くことができる原動力はシロナにはないため、どういった感情がカイムを動かしているのか気になった。

カイムはシロナの手を撫でると、シロナに問い返した。

 

「シロナは、『世界』って言葉を聞いてどういうものを思い浮かべる?」

「え?……世界地図、とか?」

 

シロナはカイムの問いかけの意味がわからずとりあえず思いついたことをそのまま言った。だろうな、と内心で苦笑しながらカイムは答える。

 

「俺はさ、世界って地図みたいなイメージじゃないんだ」

「どんなイメージなの?」

「俺が世界ってものをイメージすると、シロナやブラッキー、バシャーモ達やダイゴ、トウガンさん、ヒョウタみたいに俺の近くにいてくれる人の顔が浮かぶ。大事な人やポケモン達、仲間が俺にとって『世界』だから」

 

そこでカイムはシロナから視線を逸らし、自嘲するように苦笑した。

 

「ひでえ奴だろ?本当の世界より、自分の周りの奴らが大事なんだ」

「それは…」

「俺は自分が優しい人間だとは思ってない。俺は、目に見えない誰かのためよりも、身近なやつらのために動きたい。それが俺にとっての世界だから。結果としてこうなっただけで、俺は不特定多数の誰かのために動いたわけじゃねえんだ」

「…そう」

 

なんとなく、シロナはカイムの言葉が腑に落ちた。

以前からカイムは自分のことを軽視する傾向があった。それは彼自身の過去が起因しており、似たようなことは何度かあったためシロナ自身このカイムの答えはあまり驚くものでもなかった。

 

『自分は運がいい』

 

周りが支えてくれるから今の自分がある。日頃からそう言って周囲に尽くそうとする姿。それは彼の持つ『世界観』からくるものだったのだと、すぐに納得できた。

悪夢の世界で見たカイムの心象世界。とても穏やかで優しい海。カイムにとっての世界は、この心が起因しているのかもしれない。

 

そしてそれを語るカイムの目が、とても優しいものだった。その目を見たシロナは溢れてくる気持ちを抑えられなくなる。

 

「ねえ、カイム」

「ん?」

「少し耳を塞いでてもらっていい?」

「はあ?」

 

突然の申し出に意味がわからずカイムは表情を顰めた。

当然の反応だな、と苦笑したシロナは自分の手をカイムの耳に当て、カイムの耳を塞ぐ。何がなんだかわからず首を傾げるカイムにシロナは語り始める。

 

「ごめんね。これはまだ、貴方に伝えちゃいけない約束だからこうさせてもらうわ」

 

カイムの耳には何も届いていない。いや、正確には何かを言っていることはわかるのだが、何を言っているのかまではわからない程度だった。当然カイムは口の動きから言葉を予想することなどできないため、シロナが何を言っているのかはわからない。

 

「やっぱり、私は貴方といたい。いつか死ぬその日まで、貴方と最期まで添い遂げたい。この先貴方以上にこんな思いを私に抱かせてくれる人なんていないわ」

 

見方によっては…というかほぼ完全にプロポーズの言葉。二人の関係を考えればわざわざ耳を塞ぐ必要はないのかもしれないが、シロナはカイムとの約束を守るために耳を塞いだ。

実際これによりカイムには何も伝わっていない。シロナの感情、カイムとの約束を両立させるための行動の真意をカイムは理解していない。それでいいとシロナは思った。

 

そこでシロナはカイムの耳から手を離す。そして穏やかな笑みを浮かべながら言った。

 

「ずっと、そばにいてね」

「ああ」

 

そう言って二人は口づけを交わす。互いの体温を感じながら触れ合い、そしてもう離れないようにと願いを込めるように抱きしめ合った。

それから二人は朝日が昇るまで片時も離れることなく過ごした。

 

 

空に浮かぶ満月が、再会できた二人を祝福するように輝いていた。

 

 

 

 

 

そしてイチャつく二人を邪魔しないように静かにしているブラッキーとバシャーモなのであった。

 

 

 

 




バシャーモ(またイチャついてる…寝たふりしとこ)
ブラッキー(はやくくっつかないかなぁ)


ダークライ編、これにて完結です。
ポケモンとは少し離れた雰囲気でしたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
本編はまだ続きますので、よければこれからもよろしくお願いします。

みなさんはポケモン映画を見てきましたか?私は友人に誘われて行きましたが、私と同じくらいの年齢層が映画館にいっぱいいてビビりました。そしてやはり水の都、よかった。アルトマーレにまた行ってほしい。

閑話的なものを一度挟もうと思ってます。アンケート出してるので良ければお応えください。

次回はゆるい話です。石の御仁が出てきます。
そろそろルギア更新しないと…


シロナ
マジコス(アナザー)を出したくて夢の世界で着替えてもらった。最後の悪夢の世界でカイムに手を伸ばしたシーンはゼルダの伝説の某作品のとあるシーンをモチーフにしてます。

ヒカリ
こっちもマジコス。事件解決という意味では多分一番貢献した。ミカンほどではないが、同年代の中では食べる方なためそれなりにカイム飯を結構食べた。体調は一日休んだらほぼ全快した。若いね。

カイム
数日間ずっと寝てた男。ブラッキーが戻りの洞窟までの道を知ってたのはギラティナがブラッキーを呼んでいたから。ちなみにカイムが自分に力を集めていなければ悪夢の力が濃すぎてギラティナの力でも悪夢の世界に道を繋げなかったため、なんだかんだいなければならない存在だった。君にマジコスはない。

アカギ
しばらく悪夢の中でインキャしてた奴。カイムを直接消すことに抵抗感を覚えていたのは、アカギの美学に反することと、なんだかんだで初めて理解を示そうとしてきた人物を消すことを躊躇っていた(無意識)から。その後の足取りは不明。ダークライとの契約は切れている模様。

イサナ
姉貴。旦那初登場。

ミナト
イサナの旦那。名前の由来はそのまんま『港』。相棒はパルシェン。


『とある人物』
詳細不明。過去にヒスイ地方にいた人物。ギラティナもその存在をはっきりと記憶しているにもかかわらず、顔が一切思い出せない。この人物のそばにもう一人誰かいたような気もするが、そちらも思い出せない。




シロナさんが荒廃した未来の世界で世界をやり直すためにポケモンしかいない世界を旅する話が見たいです。ポケダンの未来の世界みたいな感じのやつ。誰か書いて。


感想・評価は励みになるので良ければお願いします。
また、リクエストなどがありましたらメッセージからお願いします。

みなさんの推しタイプは?

  • ノーマル
  • ほのお
  • みず
  • でんき
  • くさ
  • こおり
  • かくとう
  • どく
  • じめん
  • ひこう
  • エスパー
  • むし
  • いわ
  • ゴースト
  • ドラゴン
  • あく
  • はがね
  • フェアリー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。