ただただシロナさんとまったり過ごすだけの話   作:職業病

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前回の更新に続き、波導関連。

パルデア地方に魂を売ってたので文字数(前回と比べれば)少なめかつ遅い更新。
許して。あんなオープンワールドでめっちゃいいストーリー作るゲーフリが悪いんですから。

毎度誤字報告、ありがとうございます。


36話


36話 鋼鉄島

ミオシティの北にある孤島。

 

そこで一人の男が汗を流していた。

男の名はトウガン。元ミオシティジムリーダーであり、現在は新たなバトルフロンティアの施設でフロンティアブレーンになるための修行に勤しんでいる。

 

「ふう…」

 

この鋼鉄島はトウガンにとって仕事場であると同時に修行場でもあった。鉱山の中に身を置くことで、岩や地面、そして鋼タイプのポケモン相手に修行をすることができる。トウガンの専門タイプである鋼タイプと戦うということは、自分自身を相手にしていることと少し似ている。他者に勝つよりも自身に打ち勝つ方が遥かに難しいため、そういう意味で鋼鉄島(ここ)はうってつけだった。

 

一通り仕事と修行を終えたトウガンは一息つき、汗を拭う。最近自分の実力が少し上がった実感はあるが、まだフロンティアブレーンになれるほどではない。そこに至るためには今年の年末にあるフロンティアブレーン選抜に向けて修行を積まなければならないが、さすがに歳もあり、昔ほどの無茶はできない。

三月頃に自分の後釜であるカイムとのバトルで、自身に足りないものをなんとなく見つけることはできた。しかし、その輪郭がまだ固まっていない以上、どこまで修行を詰めていけばいいのかがわかっていない。

 

「ふむ…」

 

端的に言えば、伸び悩んでいた。自分一人で修行することで実力を伸ばすのはそろそろ限界。そうなると、一度どこかで他者との修行をしたいところだが、カイムは学者としての執筆とジムリーダーで忙しいし、他のジムリーダー達にわざわざ来てもらうのも忍びない。時折自分で足を運ぶことはしているが、今必要なのは自分が戦うことではない(・・・・・・・・・・・)。それを理解しているが、己のみではどうすることもできないのもまた事実。

どうしたものかと考えていると、背後で土を踏む音が聞こえる。振り返ると、そこには珍しい形の帽子をかぶった男性がいた。

 

「精がでますね、トウガンさん」

「おお、久しぶりではないか」

「ご無沙汰しておりました」

 

男性は笑いながら軽く頭を下げる。トウガンも笑い返し、男性の肩を叩いた。

 

「しばらくぶりではないか!ここ一年以上姿を見なかったから心配していたぞ!」

「連絡は取っていたじゃないですか」

「だとしてもだ!まあ元気そうで何よりだ。外での用事は終わったのか?」

「用事、というほどのものでもありませんけどね。ただ私に縁のある土地を巡ってきただけです」

「確か…オルドラン城、だったか?あそこに縁があるのだったな」

 

オルドラン城。カントー地方の辺境ロータに存在する城であり、かなり古くから存在する城であり、男性にとって縁のある土地だという。

 

「ええ。そこにも、というべきですかね。いい旅でした」

「みたいだな。いい顔つきだ」

「トウガンさんも、いい出会いがあったようですね?」

 

男性の言葉にトウガンは不敵に笑う。男性はトウガンがジムリーダーを引き継いだことを知っている。トウガン自身は伝えてないが、ポケモンリーグの通知で知ることが可能。トウガンの名前があったからこそ、男性はよく覚えていた。

 

「そうだな。彼と出会っていなかったら、君をジムリーダーに推薦していたのだが」

「それは何度もお断りしたでしょう。それに、その代わり(・・・)はしていたじゃないですか」

「それはそうだがな。色々と見える君には向いていると思ったんだが」

「そのためのものではありませんよ。副次的な効果にすぎないものを使って、人の上に立つ気はないのでね。そういうのは、私には向いていない」

 

苦笑する男性に対して、トウガンは豪快に笑う。

 

「グハハハ!相変わらず謙虚だな、ゲン」

「はは、そんなことありませんよ。トウガンさん」

 

男性…ゲンは楽しそうに笑いながらトウガンに手に持ったモンスターボールを向ける。

 

「ところで、どうです?久々ということで、ひと勝負しませんか?」

「おっ、いいな!ちょうど実践したいことがあったんだ!」

 

ゲンの誘いにトウガンは乗り、自分のモンスターボールに手を取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイムはパソコンのモニターを前に、プラターヌ博士と共に執筆を進めていた。

 

「少し時間かかりましたが、前に見せた資料の点字…一部解読できました」

『おお!すごいじゃないか!』

「こっちの点字と比べて結構変わってましたけど、ベースは同じでしたからなんとか。まだ一部読み解けてない部分もありますがまあ、どうにかなると思います」

 

普段のジムリーダー業務に加え、ダークライ事件によって時間が削がれたりしていたが、いくつかの文章はどうにか解読に漕ぎつけた。まだ解読しきれていないものもあるが、ダイゴから送ってもらった資料については大体活用しきれたと言ってもいいだろう。

 

「お送りした資料に解読した文字と、解読できた文章を載せてます。確認お願いします」

『ふむ…【はじめにじーらんす おわりにほえるおー そしてすべてがひらかれる】。これは、どういう意味かな?』

「そこまではわかりません。ただ、ジーランスとホエルオーという明確なポケモンの名前が出てきている。レジ系のポケモンとこの二匹が何か関連があるのかもしれませんが…同時に何故この二匹なのか、はじめと終わりの意味はどういう意味かなど色々と謎が出てきます。文字の解読だけでなく、文字の意味の解読も必要となってきました」

『そうだね。この文字の意味がなんなのか…今の僕たちでは理解しきれない。これの意味は一度置いておこう』

 

プラターヌ博士は多数の疑問を一度置いておき、そのままカイムが解読した文字を読み進めていく。

 

『…【わたしたちは このあなで くらし せいかつし そしていきてきた】。【すべては ぽけもんの おかげだ】。【だが わたしたちは あのぽけもんを】…解読できたのはここまでか』

「はい。その文章の続きはまだ発掘が進んでいなくて…」

『十分だよ。素晴らしい進歩だ!このおふれの石室を作った人たちがポケモンのおかげで生活できていた、ということがわかった。つまり、レジポケモン達はかつて、人々と大きな関わりを持っていたということだね。これ自体は仮説があったけど、この文字解読によってその関わりは決定的になったと言える』

 

レジポケモンは世界の各地で発見されているポケモン。レジスチル、レジアイス、レジロックはもちろん、ガラル地方ではレジエレキ、レジドラゴといった種類も見つかっている。そしてレジポケモン達が存在する場所には大体『古代人』と呼称される存在が残した遺跡があるため、レジポケモン達と『古代人』は何か密接な関係があったのではないか、と言われていた。

しかしその決定的な証拠は今まで発見されていない。そのためあくまで仮説という扱いを受けていたが、今回のおふれの石室の文字を解読したことによってレジポケモンと古代人の関係は決定的になったと言えるだろう。

 

『いいねえ!この先がわかれば、さらにいい本になるよ!』

「…まあ、そうなんですけど…おふれの石室、簡単に行ける場所じゃないんすよね」

『ああ、そうだったね。それにそもそも場所もホウエン地方だ。なかなか行けないか』

 

おふれの石室はレジポケモン達に関わりのある遺跡だと判明しているが、ほかの詳細はほぼほぼわかっていない。加えて石室が存在する場所もダイビングをしていかなければならない非常に特殊な場所。故に簡単に発掘を進めることができないことに加え、行くことも困難となる。

そんな場所にわざわざ出向いてくれたダイゴには頭が上がらないのだが、そう何度もダイゴに調べてもらうわけにもいかない。

 

『それに、ジムリーダーも忙しいだろう?あまり急いで執筆することもないよ』

 

加えてカイムは現在ジムリーダーとしての立場がある。ジムリーダーは代理を立てることができれば長期間不在であっても問題ない。現にカイムは以前スモモの代理としてトバリジムのジムリーダーを務めたことがある。

ならばカイムも代理を立てることができればホウエン地方まで調査に出向く時間ができる。

しかしカイムはそれをしようとしない。その理由はまだ新任である自分が数ヶ月も経たないうちに代理を立ててジムを不在にすることなどあっていいのか、と考えているからだ。ジムトレーナー達はカイムがシロナの助手であり、考古学の研究をしていることも知っている。頼めば誰であっても快く受け入れるだろう。だがカイムはそれがわかっていてもそうしようとしない。

 

「…いえ、プラターヌ博士のお時間をいただいている以上、素早く、良いものをつくりたい。そのためにもペースは落としたくないです」

『うん、僕も君みたいな有望な人材とこうして執筆と議論ができることがとても嬉しい。しかも妹弟子の助手ときた。僕もよりいいものを作りたいよ。だが焦る必要はないんだ。出版社との打ち合わせもしないといけないからね。僕らだけで進めるものじゃない。だから時間は無駄にしないけど、焦る必要はないよ。じっくり練り上げていこう』

「…そうですね、すみません」

『ふふ、話が通じやすくて助かるよ。まあでも、何にしても一度君自身の目でこのおふれの石室は見ておくべきだと思う。実際に見ることで資料だけじゃ気づかなかったことに気づけるようになることもあるからね』

 

プラターヌ博士が言ったことはシロナにも言われていた。このおふれの石室はカイムの研究テーマであるレジポケモンに非常に密接な関係がある。その研究テーマに密接に関係する遺跡に対して一度も自分の目で見たことがない、というのはどうかとカイムも思っていたし、シロナにも同じことを言われていた。

 

「…そう、ですね。俺もそれは思っていました」

『さすがにわかってるね。でもジムリーダーになった以上、簡単に長期間空けることできないか…』

 

ジムリーダーはポケモンリーグ公認のトレーナーであり、ポケモンジムのトップ。連日訪れるチャレンジャーの相手をする必要がある。簡単に長期間不在にすることはできない。

無論以前のスモモのように代理を立てれば問題はない。それはカイムも理解しているが、真面目すぎるカイムの性格がそれに踏み切らせなかった。

 

「…任命されて数ヶ月のやつが、いきなり代理を立てていいもんですかね…?」

『…うん?もしかして、それを気にしているのかい?』

「ええ、まあ…」

『ははは!真面目な君らしいね。でも君のジムの人たちは、そのくらいで印象を悪くするような人たちではないんじゃないか?』

「それは、そうなんですけど…」

 

そう言った理由が一番ではあるが、それ以上の理由があった。

 

(…代理、誰にすりゃいいんだ?)

 

代理を誰にするか。それが最も大きな問題だった。ミオジムのトレーナー達は結構なハイレベルでまとまっているが、逆にいうと頭ひとつ抜けたトレーナーがいないとも言える。故にカイムにとってかわれる人物がいない。

 

『まだ何か心配事があるみたいだね?』

「ええ。でもこれ以上はここで話すことではないので、一旦置いておきます。先代にも相談してどうにかすることにしますよ」

『うん、それがいいよ。じゃあ話を戻す…前に』

 

執筆に関することに話を戻そうとしたところ、プラターヌ博士は最後にひとつだけと付け加えた。

 

『ずっとカイム君の頭にへばりついているブラッキーは、突っ込んだ方がいいのかな?』

 

プラターヌ博士は打ち合わせを始めた時からカイムの頭にへばりつくブラッキーに言及した。打ち合わせを始めた時からずっと頭にブラッキーがへばりついており、カイムは全く気にすることなく話を進めるためここまでスルーしていたが、とうとうプラターヌ博士はつっこんだ。あまりにも自然であるため一瞬自分がおかしいのかと思ったが、どう考えても普通ではない。むしろここまでよく一切ツッコミをいれることなく真面目な話ができたものだとプラターヌ博士は自分のことを褒めたかった。

 

「いや、スルーしていいです」

 

ダークライ事件以来、ブラッキーはこの体勢でいることが多い。さすがにジムではならないが、家にいる時は大体この体勢である。故に今更カイムはツッコミをいれてもらうようなものではないと考えていた。

だがブラッキーは違うのか、カイムの頭をてしてしと前脚でたたく。

 

『ブラッキーは構って欲しそうだけど?』

「こいつはいつもかまってちゃんですよ」

 

てしてしてし

 

『ははは!前に甘えん坊だとは言っていたけど、ここまでとはね!いやあ、ポケモン達から愛されている証拠だ』

「それはいいんですけど、この体勢首重いからやめてほしいんすけどね」

『でも下そうとはしないんだ?』

「………重くはあっても、嫌ではないんで」

 

目を逸らしながら言うカイムがおかしくてプラターヌ博士は思わず笑ってしまう。以前妹弟子であるシロナから素直になりきれないといったニュアンスの話は聞いていたが、全くもってその通りだった。真面目で少しいじっぱり。見た目とは裏腹に親しみやすい一面もあるのだな、とプラターヌ博士は内心で思う。

 

『じゃあブラッキーも一緒に打ち合わせしようか』

「ブラッキーいてもなんもできんでしょうに」

 

てしてしてしてしぎゅー

 

「ちょ、ブラッキーちゃん?前足で目を隠すのやめて?なんも見えないんだが」

 

カイムの言葉が不服だったブラッキーは前足でカイムの頭を叩くと目を塞いだ。その仲睦まじい姿を見てプラターヌ博士は声を上げて笑った。

 

『あっはっは!いいコンビじゃないか!』

「はあ…すんません」

『ふふふ、じゃあブラッキーも一緒に頑張ろうか』

 

プラターヌ博士の言葉にブラッキーは嬉しそうに鳴くと、尻尾をゆらゆらと揺らした。そんなブラッキーを見てカイムは苦笑しながら小さくため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『じゃあ今後の方針の通りに』

「はい、ありがとうございました」

『何かあったら、何でも相談して。力になるよ』

「助かります」

 

打ち合わせを終え、カイムは通話アプリを落とす。そして頭にへばりついたままのブラッキーを引っ剥がすと、膝に置いた。

 

「このやろう、最後まで頭にへばりつきやがって」

 

結局最後まで頭にへばりついていたブラッキーのことをむにむにといじくり回す。ひっくり返してブラッキーのお腹をわしゃわしゃと撫で回すと、ブラッキーはきゃっきゃっと笑い転げる。そんなブラッキーを見てカイムは珍しく小さく笑った。

 

と、そこで部屋の扉がノックされる。そこからシロナが顔を出した。

 

「打ち合わせ、終わったみたいね」

「ああ、なんとか」

「これからはどんな方針で進めるの?」

 

シロナの問いかけにカイムは少しだけ間を空けて答える。

 

「…今んとこ、進め方そのものはいい。だがどうしても、現物を目で見てないことが裏目に出ててな。どうしても詰めきれない」

「ああ、それは確かにきついわね。現物を目で見て、どこに着目するかってとても大事なことだし、なによりあなたの1番の強みである『視点』が活かせないから」

 

結局そこが執筆をする中で重要になっていた。ダイゴからの資料のおかげで十分執筆は進んでいるが、どこかで自分が現地に行く必要がある。おふれの石室について執筆していることに加え、また発掘が進んだとの情報を得た。ダイゴにいつも頼むことはできないし、できたとしてもあまりにも申し訳ないためすることはない。

 

「どこかで行く必要はある。ただそれをするとなると、ジムをしばらく空けることになる」

「そうなると…代理が必要になるわよね」

 

ジムはポケモンリーグ管轄の組織。故に長期間不在でいられない。

とはいってもジムリーダーを兼業している者も多くいる。そのため救済措置として代理を立てれば不在にしても問題ないようになっている。以前スモモもカイムを代理としてガラル地方へと留学していた。

 

「行くことはいい。ただ、代理が問題でな」

「何が問題なの?」

 

普通にジムトレーナーの中から選べばいいのでは?とシロナは考えたが、そう単純なものではない。もしそれで解決するならば、カイムが問題にするはずがない。

 

「いや…まあその…代理にできる人がいねえんだ」

「え?どういうこと?」

「いない、っていうか…前のトバリジムみたいにNo.2って言える人がいないんだ」

 

どのジムトレーナーも実力は申し分ない。ベテランのトレーナーもいるため、おそらくジムリーダーを任せてもジムチャレンジ程度ならどうにかなるのは間違いない。

しかし問題なのはジムチャレンジではなく、腕試しに来たトレーナーの相手だ。さすがにジムバッジを全て集め終わった程度のトレーナーに負けることはないだろうが、それなりに修練を積んだトレーナー相手となると少々力不足感は否めない。トレーナーを専門にしている者達ではないため致し方ないし、その在り方を批判する気は毛頭ないが、トウガンがわざわざカイムをスカウトした意味も納得がいく。

 

「そういうこと。確かにジムリーダーとなると、それなりの腕が求められるし仕方ないわね」

「あの人たち、元々ジムトレーナーが専門じゃないからな。そういう在り方もあることはよく知ってるし、両立してるのはいいことだと思う。だがジムリーダーを代理にするとなると、ちょっとな」

「そうね…そうなると、代理の選出が難しいかしら」

「先代のトウガンさんがどうしてたのか、今度聞いてみる」

 

先代のトウガンも何かしらの理由で代理を出していたという話は聞いたことがある。ここ一年以上はなかったらしいが、それ以前は時折あったとか。その時どうしていたのかを聞くことができれば、きっと解決の糸口を見つけられるだろう。

 

そうシロナと真面目な話をしている中、撫でる手が止まったことを不満に思ったのか、ブラッキーはむすっとしながらカイムの手に抱きつき甘噛みをする。そんな様子を見てカイムは苦笑した。

 

「ったく…こちとら真面目な話してんのに」

「ふふ、かわいいわね」

「…そうだな」

 

空気の読めないブラッキーに苦笑しながらも、心からの信頼と愛情を感じられる態度に少し嬉しくなりながら、シロナと共にブラッキーを撫で回すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

カイムが昼休みに昼食を取りながら仕事をしていると、スマートフォンが振動する。

 

「ん?」

 

箸を置いて画面を見ると、そこには『トウガン』の文字が記されていた。何の連絡も無しに電話が来たことを少し意外に思いつつもカイムは電話を取る。

 

「はい、カイムです」

『おおカイム君!今、大丈夫かね』

「問題ありません。どうしました?」

『実はな、君に会ってほしい人がいるんだ』

 

トウガンの言葉の意味がよくわからず、カイムは聞き返す。

 

「会ってほしい人、ですか?」

『うむ!私の友人でな』

「その人に、なんで俺を?」

『君は本職、学者だろう?それに今、本を執筆してる。どこかで取材のためにジムを空けなければならないんじゃないかね』

 

ちょうど昨日シロナと話したことを言われ、カイムは思わず声を詰まらせる。そのことについてトウガンに相談しようとしていた。なんとタイムリーなのかと思いつつ、カイムは話を進めていく。

 

「実はそのことについてトウガンさんに聞きたかったんです。どっかでジム空けたくて」

『うむ、だと思ったぞ。そこで私の友人に会ってほしいのだ』

 

会ってほしい友人と代理。もしかしたらその会ってほしい友人というのが、ミオジムの代理になる人なのかも、とカイムは予想した。

 

「その方が、代理をやってくれるということですか?」

『端的に言えばそうなる。とはいえ、代理を任せる以上予め会っておいた方がいいだろう』

「そうですね。その方がいいかと」

『そこでだ。今度の休みに鋼鉄島に来てほしい。私が今修行している場所だ』

 

鋼鉄島とは、ミオシティの北に位置する島であり、かつて炭鉱として機能していた島。トウガンはジムリーダーを退いた今、フロンティアブレーンになるために鋼鉄島で修行をしている。そこに来てほしいとトウガンは言った。

 

「それは構いませんが…俺、そこまでいく手段が…」

『問題ない。私の知人に頼んでおこう』

「ああ、それはどうも」

『それと、どうせならシロナさんもどうかね。シンオウチャンピオンということで、私の友人も興味があると思うのだが』

 

ここでシロナの名前が出てくると思っていなかったカイムは珍しく目を見開く。

 

「シロナを?一応聞くだけ聞いてみますが、シロナの予定次第です」

『まあできれば、だ。話だけでも通しておいてくれ。では、細かい部分は後ほどでいいかね』

「はい、構いません。ありがとうございます」

『うむ!ではまたな!』

 

そう言ってトウガンは電話を切った。

 

「ふむ」

 

まさか昨日話していた代理についての話が出てきたこともだが、シロナの名前が出てくるとは思っていなかった。トウガンの友人とは一体どんな人物なのだろう、と少しだけ楽しみにしながらカイムは弁当の残りをかき込んだ。

 

 

その後、次の休日にシロナと共に鋼鉄島へ赴くことが決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

潮風を感じながら、シロナとカイムは鋼鉄島へと降り立った。

 

「ここが鋼鉄島ね」

「ああ。かつては完全に炭鉱だったらしいが、今はトレーナー達の修行場になってる。今はトウガンさんを筆頭に、元々ここで働いていた人たちが管理してる。それにここは石炭だけでなく、青珠とかの地下資源はまだまだ獲れるらしい。採掘マニア達を含めたたくさんの人がまだ来る」

「相変わらずの情報収集能力ね」

 

鋼鉄島は地下資源が豊富なだけでなく、トレーナー達の修行場としても非常に優れていた。そこそこの険しさと強い野生のポケモンが出現するため修行するにはもってこいの場所だ。それよりも険しいシロガネ山で修行するトレーナーもいるが、そんなことができるのはレッドくらいだろう。

 

ざっとみたところ、かつて炭鉱として機能していた際の小屋がある程度で、他にはかつて炭鉱として機能していた時の施設がちらほらあるくらいだろうか。人が出入りしている形跡はあるが、寂れている印象が強い。

 

「それで?トウガンさんは?」

「迎えに来ると言っていたが…思いの外早く着いたし、まだ来てないかもな」

 

本来の予定ならあと十数分後に到着する予定だった。しかし海の波も低く、非常に落ち着いた気候のおかげか、予定よりも早く到着した。そのため迎えに来る予定のトウガンの姿はまだない。

 

「到着が早まることは伝えておいたからもう少ししたら…お、噂をすれば」

 

もう少ししたら来るだろう、と言い終わらないうちにトウガンが走ってくるのが見える。

 

「すまない!まさかこんなに早いとは」

「大丈夫です。こちらも少々早すぎました」

「いやいや、呼び出したのはこちらだ。待たせてすまなかったな」

 

苦笑しながら言うトウガンに対して、カイムは普段と変わらない無表情。しかしどことなく雰囲気が柔らかくなるのをシロナは感じた。

トウガンはカイムの隣に立つシロナに目を向ける。

 

「シロナさんもお久しぶりです。カイム君の承認試験以来ですな」

「お久しぶりです。また一段と腕を上げたみたいですね」

「ふふ、ここしばらくずっと修行していたのですからな!腕が上がってないと困りますわ!」

 

トウガンは一頻り笑うと、手招きして二人を誘導しようとする。

 

「行きましょう。ここで立ち話もなんですからな。会わせたかった友人にも会わせますよ」

「お願いします」

 

そう言ってトウガンについていき、たどり着いたのは鋼鉄島で唯一屋内となっている小屋。しかし近づいてみてみると、想像していたよりもはるかに大きい。小屋というよりも宿舎に近い構造をしていた。

 

「ここは炭鉱時代からある宿舎でしてな。最低限寝泊まりできる設備は揃っています。四年ほど前に一度鋼鉄島所有者が建て替え、今では修行するトレーナーの休憩所になっているんです」

「ここで修行するトレーナーは多いんですか?」

「まあそれなりに。ミオジムのジムトレーナーは七割位ここで修行してた者です」

 

実際、カイムがジムに来てからもジムトレーナーの口から鋼鉄島での話が出ることも少なくなかった。そのためそれなりにいることは予想していたが、まさかそれほど多くのトレーナーがここに来ているとは思いもしなかった。

 

トウガンに続いて宿舎に入る。中は四年前に建て替えたというだけあり、それなりに綺麗な状態だった。

ロビーに人はいないが、奥の食堂からは数人の声が聞こえる。どうやら今もこの鋼鉄島で修行してきたトレーナーがいるらしい。

トウガンに続いて食堂に入ると、数人のトレーナーと奥に変わった帽子を被っている男性の姿があった。トウガンはトレーナー達に軽く挨拶をすると、奥にいる男性の元へと歩み寄る。気配に気づいたのか、男性は振り返り、こちらを柔和な笑みで出迎えた。

 

「トウガンさん。先ほど話に出ていたのは、このお二人ですか?」

「うむ!紹介しよう。私の後任であるカイム君と、シンオウ地方チャンピオンのシロナさんだ!」

「あ、はじめまして。カイムです」

「シロナです。よろしくお願いします」

「これは丁寧にありがとうございます。ではこちらも名乗らせてもらいますね」

 

男性は帽子の位置を直すと、二人に向き直った。

 

「私はゲン。この鋼鉄島で修行するトレーナーの一人だ」

 

男性…ゲンは穏やかな笑みを浮かべながら言った。どことなく不思議な雰囲気を放つゲンだが、嫌な雰囲気はしない。ただこのゲンから溢れる不思議な気配が何なのかが気になっていた。

 

「ゲンは私の友人でな。色々な場所を旅しているのだが、先日シンオウ地方に戻ってきたのだ」

「旅のトレーナーなんですね」

「ええ」

「確か最近は…カントー地方に行ってたのだったか」

「はい。出身はシンオウですが、少し縁のある土地でして」

 

ゲンはシンオウ地方出身らしいが、少し前までカントー地方に縁があったらしい。カイムのようにホウエン地方出身だが、現在はシンオウ地方に居を移す者もいる。そう珍しいことでもないのかもしれない。

 

「さて、挨拶も済ませたので…トウガンさん、私と彼らを会わせた理由は?」

 

今回、シロナ達が鋼鉄島に来たのはトウガンの召集があったから。おそらくゲンも同様の理由なのだろう。

そうしてゲンに視線を向けられたトウガンは腕を組むと、頷いた。

 

「うむ。ゲン、君にはカイム君の代理をやって欲しいのだ」

「…なるほど、そういうことですか」

 

やはりか、とカイムは内心で考える。今回、カイムはトウガンにジムリーダー代理について相談し、ここに来るように伝えられ、そしてゲンと引き合わされた。そうなれば、ゲンがその代理となる人物になると予想するのは至極自然な流れだろう。

 

「ふふ、代理ですか。いいですね。最後に代理をやったのは…いつでしたっけね」

「かれこれ二年近く前かもしれんな。前にやってたから問題ないだろう?」

「ええ、貴方に頼まれてね」

「ゲンさんは、以前にも代理を?」

 

シロナの問いかけにゲンは頷く。

 

「トウガンさんとは古くからの友人でしてね。彼がジムリーダーになってから何度か代理を務めましたよ」

「ということは…ゲンさんはリーグ公認トレーナーなのですか?」

「はい。ジムには所属していませんが、公認IDも持っています」

 

そう言ってゲンはポケモンリーグ公認の印がついたIDを二人に見せる。そこには確かに公認マークが記されており、ゲンが公認トレーナーであることが本当であることが証明されていた。

 

「これなら確かに代理はできますね」

「うむ。私も何度か代理を頼んだんだ。なんならジムリーダーの後任もかつて頼んだんだが、それは断られてしまってな」

「一時的ならともかく、長期間やることはさすがに厳しい。私自身、向いているとも思えませんしね」

「そんなことないと思うがなぁ」

 

どうやら以前ジムリーダーの後任にするつもりだった人物はゲンだったらしい。代理はやるが何故ジムリーダーになることを拒否するのかはわからないが、代理だけでなく後任も提案されるあたりゲンの実力はジムリーダーレベル…つまりカイムと同等以上の実力を有することになる。

 

「と、いうことでだ。今の私はリーグ公認トレーナーから一時的に外れているから代理はできない。リーグとフロンティアは別組織だからな」

「あ、今は違うんですね」

「うむ。フロンティアブレーンになるためにはそうするしかなくてな。四天王とブレーンを兼任されないようにするための措置でもある」

「なるほど」

「それでゲン、どうだ?やってくれるか?」

 

トウガンの言葉にゲンは顎に手を当てて考える仕草を見せる。そして少しの間の後、ゲンはシロナとカイムを見定めるように視線を巡らせた。

 

(何を見ているのかしら…)

 

明らかにこちらを見ているが、何か違うものを見ているような…そんな視線だった。嫌な雰囲気はしないが、何を見られているのかがわからないシロナとカイムは不思議そうにゲンを見た。

わずかな時間の後、ゲンは腕を組んでカイムに視線を向ける。

 

「いいでしょう。あまり長期間はできませんが、暫しの間ミオジムのジムリーダーとして活動させてもらいます」

「あ、ありがとうござ…」

「しかし、一つ条件があります」

 

指を立てながらゲンはカイムを制した。

 

「条件…」

「ええ。私はまだ貴方のことを知らない。トウガンさんが認めた以上、十分な人格と実力を兼ね揃えていることはわかる。しかし、私はそれをまだ目の当たりにしていない。だから私に貴方の力を示してほしい」

「尤もな話ですね」

 

いくらトウガンがカイムのことを認めたといえど、ゲンはカイムのことを知らない。ジムリーダー代理を引き受けるにしても、カイムがそれに足る人物かどうかを見極めなければならない。

 

「話が早くて助かる。では、軽く手合わせをさせてもらってもいいかな?」

「構いません。頼む以上、そちらの要求は極力応えますよ」

「トウガンさんとシロナさんも構いませんか?」

「私は構わんぞ!」

「私も大丈夫です。カイムが決めることですから」

「では、早速始めましょう」

 

ゲンはカイムに視線を向け、カイムもそれを受けて頷いた。歩いていくゲンに続いてカイムは歩いていき、宿舎を出た。

二人の後ろ姿を見ながらトウガンは何か思うところがあるように顎に手を当てる。それを見たシロナがどうしたのだろうとトウガンに問いかけた。

 

「どうしました?トウガンさん」

「ああいや…ゲンもトレーナーである以上、バトルはするのだが…こうしてバトルによって人を試すことをするのは珍しい。鑑識眼は非常に高い彼がこうしてわざわざバトルするのは初めて見た」

「…カイムに、何か思うところでもあるのかもしれませんね」

「うむ。もしかしたら、カイム君に何か光るものでも見つけたのかもしれんな」

 

ジムリーダーに至るまで研鑽を積んだカイム。確かに一般的なトレーナーと比較したら強いだろうが、そんな一瞬で見抜けるものだろうか、とシロナは考えた。シロナは元々カイムの学術的視点に素質を見出してスカウトしたのだが、バトル視点で言えば彼の素質は凡庸としか言えない。それをここまで鍛え上げられたのは、シロナの手腕とカイムの根性のおかげだろう。

 

(…もしかして、ゲンさんは私たちには見えない何かが見えている?)

 

どう言った理由でゲンがバトルを仕掛けたのかはわからない。しかしそれを知るために、二人のバトルを見届けようとシロナとトウガンはカイム達を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鋼鉄島内部フィールド

かつて炭鉱として活躍していた広場をフィールドとして改装されたフィールドに二人は立っていた。

 

「バトルで、と言いましたが…ガチバトルでいいんすか?」

「いや、一体だけで。それで全てがわかります」

 

ゲンの口調からは冗談とは思えない気迫を感じる。どうやら本気で一体のみでカイムのことを見極めるつもりらしい。

カイムもシロナ同様、ゲンが自分の何を見ているのかはわからない。だが頼んでいる立場上、断る気はさらさらない。

 

「わかりました。では、一体を全力で」

「助かるよ。せめてこちらからポケモンを出そう」

 

そう言ってゲンが繰り出したのはルカリオ。シロナとカイムの手持ちにいるポケモン故に、どういったことができるのかはある程度予想ができる。

 

「ルカリオか…ミラーでもいいが、ここはお前だ。頼むぞバシャーモ」

 

ルカリオ相手に繰り出したのは、バシャーモ。その首には何かペンダントのようなものが下がっている。

 

「バシャーモか。いい波導(・・)だ」

(波導…?)

 

聞き慣れない言葉にカイムは一瞬だけ考えるが、すぐに思考を切り替えてバシャーモに指示を出す。

 

「バシャーモ、ブレイズキック」

「ルカリオ、回避だ」

 

高速で突っ込んでくるバシャーモの攻撃を、ルカリオは攻撃をいなしてダメージを抑えながら回避していく。高い先読み能力だが、このくらいであればカイムのルカリオも可能。

バシャーモの連撃が加えられていく中、ルカリオは僅かな攻撃の隙間を読み切り、反撃の肘撃ちをバシャーモに叩き込み怯ませる。その隙を利用してルカリオは距離を取ると、両手にエネルギーを凝縮させた。

 

「はどうだん」

「打ち破れ」

 

ルカリオの『はどうだん』をバシャーモは炎を纏った足で打ち破る。

 

「フレアドライブ」

「みずのはどう」

 

全身に強烈な炎を纏い、突撃してくるバシャーモに対してルカリオは『みずのはどう』で迎撃。『フレアドライブ』の威力は削がれたが、ルカリオに攻撃を加えることはできた。

しかし想定以上にダメージが少ない。いくら『みずのはどう』で威力が削られたとはいえ、効果抜群の炎技をここまでの威力で抑えられるとは考えづらい。特殊攻撃なら『突撃チョッキ』の可能性もあるが、今回は物理技。物理ダメージを抑える道具でも持っているのか、と考えたが、その様子もない。

 

「よくわかんねーが…そのままインファイト」

「受けきれルカリオ」

「⁈」

 

ルカリオの耐久力はそこまで高くない。耐久に力を割いていたとしても、タイプ一致高威力技である『インファイト』を受け切ることはできないはず。だというのにルカリオの受けるという選択にはカイムもバシャーモも動揺を隠せない。

 

ルカリオはバシャーモの連撃を受ける。受けるといっても、バシャーモの攻撃を流しつつ、捌くという形だった。本来ならこの威力の技では流したとしてもダメージはそれなりに通る。だというのに、ルカリオは僅かなダメージで『インファイト』をしのぎきっている。

 

(技量負け…ってほどの技量差じゃない。これは、シロナ並みの先読み能力か!)

 

トウガンのエンペルトほどの技量があるわけではない。しかしそれでいてなおここまで捌かれるということは、ルカリオの先読み能力が非常に高いことに他ならない。元々ルカリオは先読み能力が高いポケモンであるため、それを極限まで高めているのかもしれないとカイムは考えた。

 

(この速度で読まれるなら、速度を上げて読まれても受けきれない速度で攻撃する)

 

バシャーモも同じ考えに至ったのか、ルカリオを蹴ることで距離を取ると、再びルカリオに向けて肉薄した。

対してルカリオはバシャーモが再び突撃することを予期し、構える。それをバシャーモが見た瞬間、バシャーモは強く踏み込んだ。

 

「フレアドライブ」

 

速度が上がったバシャーモが全身に炎を纏い、ルカリオに突撃していく。安全性度外視の突撃はバシャーモにも反動ダメージを与えてしまうが、それでも与えるダメージの方が遥かに大きい。突如上昇した速度による突撃を完全に回避できたトレーナーは、現時点ではシロナ以外いない。

『入った』と確信する刹那の瞬間、ルカリオはそれすらも読み切っていたかのようにするりと回避した。

 

「は?」

「速く、鋭い。だが、あまりにも直線的すぎる。はどうだん!」

 

攻撃を回避されてガラ空きの胴体に、ルカリオは凝縮した波導をゼロ距離でぶつけた。炎のおかげで僅かに威力が軽減されたとはいえ、直撃によるダメージは少なくない。弾き飛ばされたバシャーモはフィールドを転がりながらも体勢を立て直した。

 

「バシャーモ、まだいけるか」

 

カイムの問いかけにバシャーモは咆哮によって応える。まだ体力に余裕があることを悟ったカイムは頷くが、苦い表情をしながらルカリオとゲンを見据えた。

 

(さて…どうするか)

 

特性『加速』を用いた不意打ちはバトル中一回しか通用しない一撃ではある。しかしその効果は絶大であり、シロナレベルのトレーナーですら初見での回避は困難。カイムのことをよく知るシロナだったからこそできた芸当だが、素早さの低いダイゴのポケモンは回避しきれなかった。ダイゴにすら通用する不意打ちを、このルカリオは読み切った。こと先読みにおいては、ゲンのルカリオは相当ハイレベルで確立されていることをカイムとバシャーモは感じ取る。

 

(一回目の加速不意打ちが読まれた以上、他の場面で使っても多分当たらん。速度で上回ることもこのまま加速していけば多分可能だが…そこまでどう繋ぐかが問題だな。それに限界まで加速しても読まれる可能性は高いな。そうなると、一撃の火力と速度を上げなきゃならんが…)

 

そこまで考えてカイムは腰につけているチェーンに触れる。先日手に入れた力だが、まだコントロールが全くできていない。暴走することはないのだが、バシャーモが力を制御しきれず継戦能力がまるでない。その短時間で仕留められなかった場合、バシャーモの体力切れで負けてしまう。

 

「さすがに強いですね。トウガンさんの後任なだけある」

 

どうするか悩んでいるカイムに向けてゲンはそう言葉を発する。その言葉を受けてカイムは苦笑した。

 

「どーも」

「攻撃の判断も一つ一つが正確で、バシャーモの速度もさることながら攻撃が非常に鋭い。相当修行したのでしょうね」

「厳しい師匠がいるんで」

「なるほど。とてもいい師匠に恵まれましたね」

 

柔和に笑うゲンだったが、そこで一度言葉を切ると表情を鋭くした。

 

「しかし、まだ全力ではありませんね?」

「!」

 

ゲンの言葉にカイムは目を見開く。その表情を見てゲンは自身の言葉が正しいことを悟った。

 

「無論手を抜いているとは思っていません。今出せる100%をだしていることは肌で感じます。そうでなければルカリオがここまで反撃せず防御に徹することなどありませんから」

「……」

「しかしそれはそれとして、お二人から感じる波導(・・)はまだ底が見えていない。全力を出すことを躊躇している…制御に不安でも?」

 

図星を突かれてカイムは思わず冷や汗を流す。鑑識眼が鋭い話は軽く聞いていたが、まさかここまでとはカイムも予想していなかった。

 

「私は君の全力が見たい。良ければ見せてほしい」

 

ゲンからは圧力とも取れるような覇気を感じる。覇気からゲンが本気でこちらを見極めにきていることを感じ取ったカイムは、息を小さく吐くと腰につけたチェーンを手に取った。

 

「…ここまで言われちゃ、応えなきゃなバシャーモ」

 

カイムの言葉にバシャーモは頷く。そして胸元の毛に埋まっていたペンダントを引っ張り出した。

 

「いくぞバシャーモ。俺たちの全力を見せよう」

 

カイムの手に取ったチェーンと、バシャーモのペンダントが共鳴し、眩い光がフィールドを包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや…これは凄まじい」

 

倒れ伏すルカリオと、膝を突いて大きく息を切らすバシャーモと疲弊したカイムを見てゲンは冷や汗をかきながら呟く。

たった今バシャーモ達が見せた力は、シンオウ地方ではあまり見られない力。ゲンは生で見るのは初めて見たが、ここまで強烈な力だとは思っていなかった。そのため回避しきれると思っていたバシャーモの攻撃だが、凌ぎきれずにルカリオは倒れてしまった。

 

しかしその代償として、バシャーモは体力が切れて膝を突いている。強烈な力をコントロールできず、必要以上に体力を消耗してしまった。そのため傷はあまり負っていないにも関わらず、バシャーモはこれ以上の戦闘はできない状態に陥っている。

 

「これが全力とは…初めて見ましたが、これは素晴らしい」

「はっ、はっ…そりゃ、どー、も」

「とはいえ、やはり制御はしきれていないようですね。バシャーモも貴方も消耗が激しすぎる」

 

ゲンの言う通り、バシャーモもカイムも非常に消耗している。バシャーモとカイムの心をシンクロさせ力を引き出す力を使っていたため、必要以上にバシャーモが力を引き出してしまうことで、カイムの体力も同時に消耗している現状だった。

シロナのように使いこなしているトレーナーであれば、ここまで消耗することはない。何ならトレーナーの消耗はほとんどないはずだが、使いこなせていないカイムは消耗してしまう。

 

「まだ手に入れて日が浅いのもありますけど、どーにも上手くコントロールできなくて…」

「確かに、力を発揮してからのお二人は必要以上に

波導(・・)が放出されていましたね」

「…すんません。さっきからちょくちょく話に出てくる波導って、ルカリオが使う波導のことですか?」

 

先ほどからゲンの口から何度か出ている『波導』という言葉。ルカリオが使う波導と同じものなのか、とカイムは問いかけた。

そしてそのカイムの問いかけにゲンではなく、側でシロナと見ていたトウガンが歩み寄りながら答えた。

 

「その通り。ゲンは、波導使いなんだ」

「波導…使い?」

「ええ。言葉の通り、人の身で波導を扱う者のことです」

「人でも、波導を使えるんですか?」

 

カイムの問いかけにゲンは頷く。

 

「波導とは、ポケモンだけでなく人や植物…大地にも宿る生命エネルギーだ。ポケモンや人はそこに自身の意思を合わせることで、波導として外に放出することが可能になる」

 

そう言ってゲンはカイムに向けて手をかざす。何も見えないはずだが、ゲン以外の三人は僅かに圧力のようなものを感じた。

 

「人の波導はポケモンのものと比べて薄い。故に、波導を覚醒させない限り見ることもできない。感じ取ることはできるが、能力を自覚したとしてもほとんどの者はうまく扱うこともできずに終わってしまうものさ」

「それを覚醒させたのが、波導使いと」

「ええ。うまく波導を使えれば、先程の私のルカリオのように高度な先読みもできます」

 

ルカリオの高い先読み能力は波導の扱いが十全だったからこそできるものだったらしい。それを聞いたシロナはゲンに問いかける。

 

「…ゲンさん。もしかして、波導をうまく扱えれば力のコントロールにも役立つとか?」

 

波導は生命と意思のエネルギー。ならばそれの扱いをうまくすることで、バシャーモ達の力のコントロールにも役立つのではないかとシロナは考えた。はっとしたような表情になるカイムの視線を受けたゲンは、柔和な笑みを浮かべながら頷く。

 

「断言はしかねますが、役にたつ可能性はあるかと」

 

それを聞いたカイムは僅かに回復したバシャーモと共にゲンに頭を下げた。

 

「え?」

「ゲンさん。代理を頼んでいる立場でありながらさらに頼み事をしてしまい申し訳ないんですけど、俺に波導の使い方を教え…」

「構わないよ」

「え」

 

まさかのノータイム快諾に、カイムは固まる。そんなカイムを見てゲンは楽しそうに笑いながら続けた。

 

「こちらとしても、未来ある若者の糧になれるのであれば瑣末な問題さ。いいもの(・・・・)も見せてもらったし、制御の役にたつと思われる基礎だけでも教えよう。最低限の基礎はできているみたいだしね」

「あ、ありがとうございます」

 

まさか快諾されるとは思っていなかったカイムは想定外の事態にわずかに逡巡したが、すぐにゲンの厚意を受け取った。

 

「では、早速修行に入ろう。せっかくだし、シロナさんもどうですか?」

「ええ、ゲンさんさえ良ければ。貴方のルカリオの先読み能力…とても興味深いわ」

「ふふ、そういうと思っていました。トウガンさんは…」

「私はかなり前に教わって、全くセンスがなくて辞めたことを忘れたか?」

「そうでした。では、始めましょう」

 

楽しそうに笑いながらゲンは帽子の位置を直すと、シロナとカイムに向き直るのだった。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

それからしばらく、三人(トウガンも時折巻き込まれながら)は波導の修行に勤しんだ。

そして修行の合間の休憩中、水分補給をしているゲンにシロナは歩み寄る。

 

「ゲンさん、少しいいですか?」

「ええ、構いませんよ」

 

シロナの言葉に了承したゲンは自身の隣を促し、シロナもそれに従った。ゲンの隣に腰掛けたシロナは、休憩中にも関わらずトウガンと軽く手合わせしているカイムに目を向ける。

 

「今回はありがとうございます。私とカイムに波導の使い方を教えてくれて」

「構いませんよ。私としても、お二人の波導に少々興味があったので」

「私たちの?」

 

二人はポケモントレーナーではあるが、波導使いではない。今日初めて波導という概念について知ったに等しい。だというのにゲンは二人の波導に興味があるのだという。どういうことなのだろうと、視線を向けるとゲンはその意図を読み取って語り始めた。

 

「波導とは、生命と意思のエネルギー。故に、波導そのものを鍛えなくとも、ある分野をそれなりに極めると同時に波導も鍛えられるのですよ」

 

波導は生命と意思のエネルギー。故にトレーナーやスポーツなど、それなりに鍛えると同時に波導も鍛えられていくものらしい。

 

「お二人の波導は、とてもよく似通っていた。波導の強さはシロナさんの方が圧倒的ですが、それでも波導の見た目が非常によく似ていました」

「波導が似る…よくあることなんですか?」

「いえ、滅多にありません。波導の形は十人十色ですので、双子ですら波導の形は異なります。なのにお二人の波導はよく似ている。そこが興味深い場所でした」

 

波導は人それぞれ大きく形を変える。炎のようにゆらめくような波導を持つ者もいれば、水のように液体のような見た目をした者、シロナとカイムのようにオーラのような形をする者もいる。加えて得意な波導も人によって千差万別。

その中でシロナとカイムの波導は形や色、得意な形が似通っているとのこと。ある程度似ている、ということはあるらしいが、それ以上に二人の波導が似ていたらしい。そこがゲンにとっては非常に興味深いものに映った。

 

「生まれた場所も育った環境も異なる他人の波導がここまで似るとは、何か理由があると思うのです。偶然ここまで似るとはとても思えなくて」

「そんなに似ているんですね」

 

シロナは波導のことをよく知らない。しかし最愛の人と波導が似通っているという事実は嬉しいものだった。どこかカイムと似ている場所があるのかもしれない、とシロナは考えた。

 

「それに単純に彼に興味がありました。なかなか面白い青年だとトウガンさんから聞いていましたので、どんな才能をもった青年なのかとも思ったので」

「それで、どうですか?数時間修行してますけど、カイムに何か光るものでも見つけましたか?」

 

それを聞いたゲンは苦笑しながら首を横に振る。

 

「シロナさんには申し訳ありませんが、彼からは何も感じませんでした。バトルはいい指示を出しますが、波導においては何も感じません。だというのに、お二人の波導はとても似通っている。それが不思議でなりません」

 

カイムという青年は、ゲンの言う通り何の才能も持たない凡庸な青年。しかし凡庸でありながらもジムリーダーに登り詰めただけでなく、シロナと似通った波導を有している。シロナが鍛えたから、といえばそれまでだが、ゲンはそれ以外にも何か理由がある気がしてならない。

そしてシロナには失礼を承知で言ったが、やはりカイムからは何も感じない。バトル方面ではそれなりに強いし、ポケモンからの信頼も非常に厚い。しかしそれらは全て凡人の域を出ないものだ。カイムの域に達することができる人は少ないが、それもカイムという人間がシロナという最高の相性を持つ師匠に巡り合うことができた幸運の上に成り立つもの。故に、彼だけの力ではない。

 

「ふふ、やっぱりね」

 

しかし、失礼を承知で言った言葉に対して、シロナは笑いながら応えた。反応が意外だったため、ゲンは不思議そうにシロナを見る。その視線に気づいたシロナは、ゲンの疑問に答えた。

 

「ゲンさんの言う通り、カイムは凡庸です。彼は才能で言えば、確かに凡人であり、特別なものは何も持っていないと言っても過言ではないと思います」

 

シロナの目から見ても、彼は平均の域を出ない才能だと今でも思っている。しかし諦めない意地と特異的な視点、そしてポケモン達と深く繋がる心は、かなりのものであり、誰にでもできるものではないとも同時に思っている。そんなカイムだからこそシロナはここ数年指導してきたし、カイムの波導が凡人でありながらも少し特殊であっても驚きはしなかった。

 

「でも、波導が意思のエネルギーでもあるのなら…きっと、彼の心が波導に影響を与えているんだと思います。すぐにはわからないかもしれませんけど、彼はとても深く、強い心を持ちますから」

「…貴女が言うのなら、間違いないんでしょうね」

 

トウガンに背中を叩かれ苦笑するカイムを見ながらゲンは呟く。そしてボトルのキャップを閉めると立ち上がり、帽子のつばを上げながらシロナに向き直った。

 

「再開しましょうか」

「ええ」

 

シロナも立ち上がり、ゲンに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕刻

 

鋼鉄島からの最終便に乗って四人はミオシティに戻ってきた。軽くミオジムにゲンが挨拶しに行くと、ジムトレーナー達はゲンを歓迎した。ゲンのことを知らないトレーナーも当然いたが、それ以上にゲンの知り合いだったトレーナーが多い。何ならカイムよりも付き合いが長いトレーナーの方が多いまであった。

 

そうこうしているうちに、日が沈んで夜になった。

 

「もうこんな時間か。そろそろ食事時だが、このあとシロナさん達はどうする?」

 

トウガンにそう聞かれた二人は目を見合わせる。ここで解散するなら普通に家で食べるつもりであったため、トウガンとゲンに合わせるとしか言えない。

 

「お二人に合わせます。ここで解散なら、家で食べるつもりです」

「そうか!ならどうだ。このままどこかで食べて帰らないか?」

「私は構いませんが…いいんですか?奥さん、待ってるんじゃ」

 

ゲンの言葉にトウガンは豪快に笑いながらゲンの肩を叩く。

 

「グハハハ!安心しろ!今日は外で食べてくると伝えておいた!伝えないと後でこっぴどく叱られてしまうのでな!」

「作った側からしたら、事前に伝えてくれないと作りすぎて余らせてしまうこともありますから。気持ちはわかります」

「やはり作る側の気持ちがわかるのだな君は!これは将来、小言を言われる人ができるやもしれぬな!」

 

豪快に笑うトウガンの言葉に、カイムは腕を組んで視線を逸らす。その耳は僅かに赤く染まっており、隣にいるシロナもその頬が僅かに赤く染まっている。

 

(……なるほど。この二人は師弟の関係だけでなく、そういう関係でしたか。波導が近いのもそれが関与しているのかもしれませんね)

 

二人の波導が近いのも、シロナとカイムの心がより密接に繋がっているからなのかも、とゲンは考えた。

 

トウガンから揶揄われながらも、カイムはトウガンの言葉から一つの案を思いつく。

 

「…あの、うちで食います?色々と世話になったんで、少しでも返せればと思ってんすけど…」

 

カイムの提案に、トウガンはおっと声をあげて楽しそうに答える。

 

「おっ!それはいいな!二人さえ良ければ、ぜひ食べてみたい!」

「ほう、お話に聞いてたカイム君の食事ですか。お二人さえ良ければ、是非」

 

思いの外好評な提案に少しだけ安堵しながら、カイムはシロナに視線を向ける。視線を受けたシロナは問題ないというように頷いた。

 

「カイムが良ければ問題ないわ」

「決まりだな。じゃ、行きますか」

 

一行はシロナ宅へと足を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰宅したシロナとカイムはゲンとトウガンを招き入れる。そしてカイムはすぐに調理に取り掛かった。

 

「ちょいとお待ち下さい」

「ああ、頼むぞ」

「楽しみにしてますよ」

 

ルカリオと共に調理を始めたカイムを見て、シロナ達は食卓に腰掛ける。シロナのルカリオが三人にお茶を出す。

 

「ありがとうルカリオ」

「いやあ、カイム君の食事を味わえるとはな!ゲンを紹介して良かった!」

「そんなにカイムの料理を楽しみにしてくれてるんですね」

「ああ。ヒョウタからよく聞いていたからな!」

 

そういえば以前、合同トレーニングでクロガネジムに行った時に料理を振る舞ったと言っていた。恐らくその時に食べたカイムの料理の話をヒョウタから聞いていたのだろう。

 

「彼は、料理が得意なのですね」

「うむ。なんでも、家事全般が得意だとか」

「シロナがやらねえしできねえだけっすよ」

「ちょっとカイム?」

 

ここでわざわざシロナが家事をできないことを言う必要はない。だというのにわざわざ調理をしながら口出しをしてきたカイムにシロナはむすっとした表情を向けた。だが向けられたカイムはどこ吹く風の表情だった。

 

「もう…」

「ははは!相変わらず仲が良いのですな」

「それはそうですけど…初対面の人に言わなくてもいいのに」

 

シロナとて最低限の羞恥心はある。初対面でいきなり家事ができないことを暴露されると、流石に恥ずかしい。

しかしゲンは口には出さないが好印象だった。鋼鉄島での波導の訓練も非常に高いセンスを発揮しただけでなく、学者やトレーナーとしても成功しているシロナは完璧なイメージがあった。しかしその中でも苦手なものがある、というのは印象として非常にいいものだった。

 

「シロナさんにも苦手なものがあるんですね」

「私も人間ですから。苦手なものの一つや二つありますよ」

「実は完璧なイメージが強くて、少し近寄りがたいイメージがありました。でも、ちょっと親近感が湧きました」

「少しくらい弱みが見えるほうが親しみやすいですからな!」

「それはそれでなんかモヤモヤします…」

 

むすっと表情を歪めつつカイムをじろりと見つめるが、カイムはその視線に気づきつつもスルーして調理を続けている。

拗ねてしまいそうなシロナに対して、ゲンは口を開いた。

 

「しかし、さすがチャンピオンとでも言うべきですかね。まさかここまで波導が鍛えられているとは思わなかった」

「えっと…私、まだ波導見えたりしないんですけど…私の波導ってそんなに鍛えられているんですか?」

 

波導のことなどほとんど知らないシロナは自身の波導がどんなに鍛えられているのかわかるはずもない。そのため全く自覚がないのだが、波導が見えるゲンからしたら驚異的な波導をシロナは纏っている。

 

「ええ。とても波導を知らない一般人とは思えないくらいには」

「そんなに…」

「トウガンさんやカイム君も、一般人の中ではかなりのものです。しかしシロナさんの波導はさらにその上をいく。バトルでチャンピオンになれるような人は誰しも強力な波導を持っているものですがね」

「他のチャンピオンも、強い波導を持っていると」

「はい。それこそ、シロナさんがチャンピオンズトーナメントで戦った少年…レッド。カントーを旅している時に出会ったのですが、彼の波導はもはや異次元だった。波導を鍛えた私よりもさらに鮮烈な波導を持っていました」

 

カントー地方で偶然出会った少年、レッド。軽くバトルを申し込まれたためバトルしたが、バトルになった瞬間レッドが放った波導は凄まじい圧力だった。肌を刺すような威圧感に思わず冷や汗が流れ落ちたあの時のことをゲンは忘れないだろう。

 

「彼の波導は異次元でした。そして、そのレッドとあそこまでのバトルをできる貴女の波導が強力なのも頷けます」

「自分じゃわからないものね」

「覚醒するまではそんなもんです。見えるようになれば、ある程度わかるようになるかと。とはいっても、見えるようになるためにもかなり時間がかかりますが」

 

ゲンの話だと、波導を見えるようにするだけでも早くて二月は必要らしい。シロナやトウガンのようにある程度波導が鍛えられている者であればもう少し早く目覚めるらしいが、トウガンは波導の修行が向いてなくて諦めたのだとか。

 

「まあ私は波導の訓練は断念したがな!」

「トウガンさんに繊細な修行は不向きですからね」

「グハハハ!細かいのは苦手でな!」

 

豪快に笑うトウガンにゲンもつられて笑う。

ゲンはお茶を一口飲み、再び口を開く。

 

「波導は、感覚を強化したり肉体を強化できる。そのため目覚めさせることができれば色々と役に立つことがある。例えば、相手の動きの先読みとかね」

「カイムとのバトルで見せてくれたあれよね」

「はい。相手の気配をより強く感知することで相手の動きを先読みしてました。また、波導を集中させることで肉体を強化し、耐久力を格段に上昇することができる」

「あの耐久力はそれが起因しているのね」

 

ゲンのルカリオはバシャーモ相手にかなりの耐久力を発揮していた。それも波導の扱いが非常に長けているルカリオだからできることらしい。

 

「そういえば、私たちはルカリオの波導が見えているわよね。ポケモン達と人の波導は何か違うの?」

「ポケモン達は皆波導をタイプエネルギーという形で使っています。加えてポケモン達の波導は人の波導と比較して絶対量と密度がはるかに高い。だから波導が扱えない一般人でも見ることができます」

「ポケモンは人と比べて身体能力が高い。生命と意思のエネルギーである波導が濃いのも辻褄が合うな」

「奥が深いんですね」

 

シロナの言葉にゲンは頷く。

 

「かつては波導を扱える者…波導使いが多くいました。しかし争いが減り、技術が発展するにつれて波導使いの必要性も減っていき、今ではごく僅かな波導使いしか残っていません。しかしその歴史と技術はとても長く積み上げられてきたものは、とても奥が深い。波導使いではない皆さんには本来無用の長物ですが」

「波導使いね。かつてはポケモンだけでなく、人自らも戦っていたということですか」

「そういうことです」

 

モンスターボールがまだ開発されていない時代、波導を使える存在がいた。彼らは波導使いと呼ばれ、国や地域、村など様々な場所で守護者や勇者として扱われるような存在だったという。

かつては多数存在していたらしいが、現在は数が減ってしまった。ゲンはその数少ない波導使いの末裔らしい。

 

「波導使いはもう現代では必要ありません。様々な技術の発展で、波導使いの必要性もなくなりましたから。でも、だからといって波導使いの技術や歴史を途絶えさせたくはない。だから私は、素質のある人に最低限でも波導の使い方を教えているんです。トウガンさんは断念しましたが…お二人に波導の使い方を教えるのはそのためです」

「どれだけものにできるかはわかりませんが、うまく使えるように努力しますね」

「シロナさんならできるでしょう。既に基礎ができ始めている」

 

シロナは既に波導を僅かながら扱えるようになっている。見えはまだしないものの、波導を強く感じることができており、このまま修練を積めば間違いなく波導を見ることができるようになるだろう。

 

(…しかし、彼は何故あんな波導を)

 

ゲンはルカリオと共に調理を進めるカイムに視線を向ける。

カイムは、お世辞にも高いセンスがあるわけではない。むしろセンスは無い方だろう。バトルにおいても非常に鋭い視点を持つが、それもチャンピオンや四天王のような極まったものではない。しかし彼の波導はシロナの纏う波導とよく似ている。強さはシロナのものよりも控えめだが、とても力強く、優しい波導。その強さはトウガンを凌駕する。どう考えてもトウガンよりカイムの方が凡庸で、修行を積んだトウガンよりも実力は下。だというのにこの強さはゲンが見てきた中では異常なものだった。

 

(…あと二週間弱。彼の波導について何かわかるかもしれない)

 

ゲンがカイムの代理を受けることは決まったが、しばらくジムから離れていたゲンがいきなり代理をやるのも厳しいだろうとカイムがゲン、トウガンと話し合った結果、二週間ジムに通いつつ慣れてから代理を任せることになった。

そもそもいきなりスケジュールを調整することもできない。シロナもカイムも既に色々と予定を入れているため、この二週間は必然的にできてしまう期間でもあった。

 

出来上がった料理をカイムがルカリオの運んできた皿に盛り付けている。皿を持ってきたルカリオの頭をカイムがわしわしと撫でており、撫でられたルカリオは表情をほとんど動かさないが、嬉しそうに耳をぴこぴこと動かし、波導が喜びに揺れる。

 

「………」

「…ん?なんすか?」

 

料理を運んできたカイムがゲンの視線に気づき、問いかける。

しかしゲンはなんでもない、とでも言うように首を振った。

 

「なんでもない。良い匂いがしたのでね」

「そすか。トウガンさんとゲンさんのリクエストで、今日は中華っす」

 

和食の多いカイムにしては珍しく、今日の料理は中華だった。家での食事ということでリクエストを聞いたところ、ゲンとトウガンは中華が好みとのことだったため、そのリクエストに応える料理にした。

 

「ほう!これは…回鍋肉か!」

「はい。野菜と肉、どっちもうまく取れるいい料理です」

「まるで主婦のような視点ですね」

「ちょっとゲンさん?」

「ふふふ、カイムはほぼ主婦です」

「やかましい」

 

微笑ましいやり取りをする二人を目の前に、ゲンは柔らかく笑いながら箸を手に取る。そして手を合わせ、食事を開始した。

 

「いただきます」

 

緩やかで、暖かい時間が流れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから二週間弱。

 

ゲンはミオジムでカイムと共にトレーニングを積みながらジムの運営をしていた。ミオジムは最後にゲンが訪れた時から変わっておらず、ゲンを知らないトレーナー達ともすぐに打ち解けられた。カイムが何もしなくても間違いなく打ち解けていただろうが、カイムのおかげでよりスムーズに打ち解けることができた。

 

そうして少しの間、ジムで共に過ごしていくうちに、ゲンはカイムという人物についてわかってきたような感覚があった。

 

「カイム君、少しいいかね」

 

ジムを閉め、帰りの準備をしているカイムに向けてゲンは呼び止める。

 

「どうしました?」

「いやなに。代理手続きも終え、今の運営についても問題なくできるようになったからね。少しばかり君に礼を、と思って」

「いやそんな…礼なら俺の方です。結構急な話だったのに引き受けてもらって。本当に助かりました」

 

ゲンに向き直りながらカイムは礼を言う。トウガンの紹介とはいえ、見ず知らずのカイムのお願いを聞いてくれたことには感謝しかない。

それはゲンも理解しているが、ゲンもゲンで思うところがあった。

 

「そうかもしれない。でも、私は君のおかげで波導についてまた少し知ることができた」

「俺のおかげ…?」

 

カイムは、波導についてゲンに何も伝えていない。むしろカイムが教わっていた方であり、カイムがゲンに対して新たに与えた知識などないのに、そう言われてカイムは首を傾げた。

ゲンは不思議そうな顔をするカイムを見て小さく笑う。そして腕時計を見て、親指で外を差し示した。

 

「少し、話さないかい?君の待ち人も一緒に」

「…はい。良ければ」

 

外で待つ金色の髪を携えた女性のためにも、二人は迅速に帰り支度を済ませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミオシティ

 

夜の港に三つの人影があった。波の音を聞きながらゲン、シロナ、カイムは港を歩いていく。

シロナは普段、わざわざカイムを迎えに来たりはしないが、今日はミオシティの図書館で一日中調べ物をしていたため、帰りの時間を合わせて共に帰る約束をしていた。無論ゲンがそれを知る由もないが、特徴的な波導を持つシロナの存在がジムの外にきた時にゲンはなんとなく二人の約束を悟り、今こうして二人と共に歩いている。

 

「いい夜だ。とても風が気持ちいい」

「そうですね。波の音も静かで心地いい」

 

ミナモシティ出身のカイムにとって、波の音はとても落ち着くものだった。特に今日のような静かな波は心地いい音として響く。

 

「カイム君は…確かミナモシティ出身でしたね」

「はい」

「なるほど…波導の波模様はそれも起因してるんですね」

「カイムの波導には、波模様があるんですか?」

 

シロナとカイムはまだ波導が見えない。そのためカイムの波導に波模様があることをたった今初めて知った。

 

「ええ。カイム君だけでなく、シロナさんにもありますね」

「私にも…?私は…ああでも、ミナモシティに住んでるからなのかしら」

「さて…どうですかね」

 

そこでゲンはカイムに目を向ける。

 

「カイム君。君のポケモン…ブラッキーとバシャーモを出してくれますか?」

「え、ああ…はい」

 

ゲンに言われるがまま、カイムはブラッキーとバシャーモを出す。突然出された二匹はわけがわからず、首を傾げていた。

そんな二匹をゲンはじっと見つめ、頭を優しく撫でる。撫でられた二匹は気持ちよさそうにしながらも、やはり何が何だかわからないため首を傾げた。

 

「…そうか、やはり君の強さは…」

「???」

「私はね、カイム君。君の強さがどういったものに起因するかわからなかったんだ」

 

ゲンの言葉を受けて、カイムは首を傾げるとシロナに目を向けた。シロナもよくわからず、シロナは首を振る。

よくわからずカイムはゲンの言葉を待つ。

 

「君の波導は、とても強い。それこそジムリーダーを僅かに凌駕するような強さだ」

「……俺の波導がそんなに強いとは思えないんすけど」

「だろうね。君は、どこにでもいる平凡な青年だ。私の目から見ても、君の才覚は平凡の域を出ない。そんな君が、そこまで強い波導を有する…私の目からしたら異常だ」

「そういうもんなんすか?」

「ええ」

 

波導のことに詳しく無いカイムからしたら、そういうものなんだろう、と思うしか無い。だがゲンの目からしたら、相当異常なものらしい。

 

「何故君がそんな波導を有するのか…この二週間、一緒に過ごすことでわかったよ」

「何か理由があったんすか…?」

「ええ。君の波導の強さ…それは…」

 

ゲンが言葉を言い終わらないうちに、カイムの足元にいたブラッキーが大きくあくびをしてバシャーモによじ登った。そして肩車状態になると、バシャーモに走り出すように鳴く。バシャーモもよくわからない話を聞いていて退屈だったのか、ブラッキーの声に従って走り出した。

 

「あ、おい!ブラッキー!バシャーモ!」

 

楽しげに笑いながら走り出すバシャーモ達をカイムは追う。

残されたシロナとゲンはそんなカイムの後ろ姿を見て目を見合わせると、思わず笑ってしまった。

 

「ふふふ、彼らの姿はとても微笑ましいですね」

「いつもあんな感じなんです。ポケモン達に振り回されながらも、とても楽しそうにしてるんです。カイムとポケモン達の信頼の証ですよ」

 

カイムとポケモン達は互いに心から信頼してる。その信頼の深さは、シロナとシロナのポケモン達の信頼関係に勝るとも劣らないものだ。

 

「誰にでも…それこそポケモンにも真摯に向き合うんです。だからポケモン達もそれに応えて真摯に応じる。それがカイムとポケモン達の心をつなげることに起因してるんです」

 

波導とは、生命と意思のエネルギー。故に強い心を持つ者は才能の有無に関わらずある程度強くなるものだ。当然それにも限度はある。才覚を持たないカイムではどんなに強い心を持とうと、ここまで強い波導を持つことは本来なら不可能のはずだった。

しかしカイムは、たくさんのポケモンや人と心を繋げる力があった。彼に連なるたくさんの心が彼に力を与え、カイムの波導をより強くした。それに共鳴するようにポケモン達やシロナの波導に影響を与え、今の波導の形になった。

 

「心とは、意思の根源。心の強さは波導の強さに関係するが、彼の才能ではあそこまでの強さは本来なら到達できない。しかし彼は、たくさんの心に向き合い、対話し、受け入れることで心を繋げる。繋がった心は彼に力を与え、繋がった心に良い影響を与えた」

「心を繋げること…確かに、カイムの得意分野ね。口下手なくせに真摯に向き合う姿は心に響くものがあるの。ポケモン達に好かれるのは、その真摯な心が伝わるからかしらね」

「ええ、きっとそうです。繋がる心が、彼の力です」

 

カイムに連なるたくさんの心。それらが互いに影響を与え、今の波導の形になった。シロナのように最初から波導が強い者ではない彼がここまでの力を手に入れられたのも、それが起因していたのだろう。

 

「繋がる心か…そうね、海のように深い心。全ての人やポケモンと繋がれる空にはなれない。でも、たくさんの心とは繋がれる()のことが、私は好きなの」

 

全てと繋がれるような心ではない。だが、あのアカギ相手にすら理解を示した深い心は、まさに海と形容するに相応しいのかもしれない。あのダークライの悪夢ですらも受け入れ、歩み寄ってきたカイムの心は確かに平凡とは言い難いだろう。

そんな心がシロナはとても好きだった。厳しさと優しさを併せ持ち、たくさんの心と繋がろうとする度量の深さ。側にいるだけで、シロナの心も温かくしてくれる。無論好きなところはたくさんあるが、その心がシロナはとても好きだった。初めてカイムのことを好きだと自覚したあの日からずっとそこは変わらない。

 

「繋がる心か…私には、なかったものだ」

 

若い頃からゲンはポケモンと共に旅をしてきた。人と深く関わることはなく、傍観者に近い立ち位置で人々を見てきた。それ故に、繋がりが波導を強くする事例を実体験することがなかったし、一般人でここまで繋がりによる波導の強化が起こった事例など見たことがなかった。そういう意味でもカイムは特異だった。

 

遠くでブラッキーがカイムの顔に飛びつき、バシャーモがカイムの肩を組む姿が見える。わいわいと騒ぐ彼らの姿はとても微笑ましく、心から互いに信頼していることがわかる。

 

「…ああいう強さも、あるのですね」

「ええ。彼だから持つ強さかもしれないわ」

「…私も、彼と心を繋げられただろうか」

「ええ、ゲンさんならきっと」

 

そうこうしているうちに、カイムがポケモン達を連れて戻ってくる。

 

「すんません…こいつらじっとしてられなくて。そんで、なんの話でしたっけ」

 

カイムは頭にブラッキーを乗せたまま、カイムがバシャーモを引きずって戻ってくる。頭にいるブラッキーも引きずられているバシャーモも何となく楽しそうにしており、心からの信頼がよくわかる。

そんなカイムとポケモンを見て、ゲンはふっと笑った。

 

「いいや、君はそのままでいいってことだ」

「…は?え?」

 

ゲンの言葉の意味がわからず、カイムは思わず聞き返す。しかしゲンは笑うだけで詳しいことは何も言おうとしない。そんな二人の様子を見て、シロナも楽しそうに笑った。

 

「そうね。貴方はそのままでいてね」

「え、いや…どういうこと?」

 

話を聞いていなかったカイムは訳が分からずシロナに助けを求めるように視線を向けるが、そのシロナもただ笑うだけで特に何も言わない。ポケモン達はなんとなくわかったのか、ブラッキーとバシャーモもけらけらと笑っている。

 

「???」

 

最後まで何もわからないカイムの言葉に、シロナとゲンは笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい」

 

ボラードに腰掛け、ぼんやり海を眺めるカイムにシロナは缶コーヒーを差し出した。

 

「ん、サンキュ」

 

カイムはコーヒーを受け取ると、プルタブを開き、コーヒーを口に流し込む。苦味を感じつつ一息つくと、膝で丸くなるブラッキーの頭を優しく撫でた。

 

「うふふ、面白かったわ」

「俺は意味わからなかったっての」

 

あの後ゲンは特にカイムに何かを伝えることなく帰っていった。シロナは話を聞いていたから話が通じていたが、カイムは何も聞いていなかったため最後まで理解できなかった。

 

「で?結局なんの話してたんだ?」

「貴方の波導についてよ。凡庸な貴方が、そこまでの波導を持っていることが波導使いにしては異様だったみたい」

「ああ、そんなこと言ってたな。で?結局俺の波導になんかあんのか?」

「言ったでしょ?そのままでいいって」

「なんなんだよ…」

 

結局シロナはゲンからの見解を伝えることはしなかった。伝えようが伝えまいがカイムの在り方は変わらないだろう。だがあえてシロナは伝えなかった。特に理由はないが、振り回されつつも嫌な顔をしないカイムの顔が面白く、好きだったから。

 

「きっと貴方は、これからもたくさんの人やポケモンと出会う。だから、そのままでいいの」

「……ま、悪い意味じゃ無さそうだしいいか」

 

どうやってもそれ以上言う気がないことを悟ったカイムはコーヒーを啜った。ぼんやり海を眺めながらコーヒーを啜るカイムの顎をブラッキーがくんくんと嗅いでくる。コーヒーの匂いが気になるのか、とカイムは考えたが、単純にカイムに構ってほしいだけらしい。

 

「で、話は変わるが…来週頭から予定通りホウエンに行く。おふれの石室を調査して、本格的にレジポケモンについて調べる。この一月くらいで解明した古代文字の解読をもとに、おふれの石室に残された古代文字を読み解いていこうと思ってる」

「ええ。執筆の中で最も大事な部分になってくるものね。もちろん私も行くわ」

「来てくれるのはいいが、大丈夫か?わざわざスケジュール調整してくれたのはありがたいが、そこそこ長い旅だ。仕事、終わるのかよ」

 

シロナは今、チャンピオンとして新たなイベントの運営のために準備をしている。元々の学者としての仕事もチャンピオンとしての仕事もある。そこに運営業が加わったとなると、相当な忙しさのはずだ。

だがシロナはそんなカイムの心配も想定していたのか、落ち着いた声で返す。

 

「大丈夫よ。一ヶ月の間ホウエンにいっても問題ないように調整したし、向こうでもできることはある。それに、私自身の仕事より、貴方の成長を見届ける方が大事だわ」

「…そうかい。ならもうこれ以上言わん。一緒に来てくれるなら、それに越したことはねえ」

 

カイムとしても、シロナはいてくれた方がいい。メンタル的にも学問的にも、シロナという存在はカイムにとって非常に大きなものになっている。心配ではあるが、シロナが『大丈夫』と言う以上信じる他ない。

 

「それで?今回はどうするの?」

「前の時みたいに、とりあえずミナモまでいく。そっからキナギタウンまで出てる船に乗り換えて、当分はそこに滞在だな」

「おふれの石室はキナギタウンから向かうのが一番近いのね」

「距離的にはキナギタウンが一番だ。トクサネシティってことも考えたが、連日調査することを考えると、移動にかける時間は少ない方がいい。それに、調べるのがおふれの石室だけでいいかどうかはわからない」

「おふれの石室に、全てがあるとは考えてないのね」

「ああ。レジポケモンは世界の至る場所でその痕跡が発見されている。だからおふれの石室に何かはあるが、そこに全てがあるとは思えん。おふれの石室を調べることで、何かまた別の発見があると思ってる」

 

レジポケモンは、ホウエン地方を筆頭に世界の至る場所でその存在が確認されている。シンオウ地方にはキッサキ神殿があり、ガラル地方には巨人の寝床と呼ばれる遺跡がある。他にもいくつか発見されているため、レジポケモンに関わる遺跡がおふれの石室だけだとは到底思えない。むしろおふれの石室は、あくまで始まりの場所でしかないのではないか、とまでカイムは思っていた。

 

「そうね。レジポケモンの研究は、残された遺跡が少なかったり解読が困難だったり場所が険しかったりするからあまりされてこなかった。だからおふれの石室がはじまりの遺跡という可能性は十二分にあるわね」

「発見次第では、執筆の大幅な進路変更も必要になるかもな」

 

発見自体はいいことではあるが、大幅な進路変更はカイムだけでなくプラターヌ博士にも負担をかけてしまう。できることならカイムの仮説の通りであってほしいと思っているが、実際はどうかわからない。そうなったらそうなった時に考えよう、と思考を切り替え、カイムは缶コーヒーを飲み干した。

それを見たシロナも自身の缶コーヒーを飲み干し、ボラードから立ち上がる。

 

「出発は明後日ね。楽しみだわ」

「今回は俺がメインか。ほどほどに頑張らないとな」

「貴方の成長、見せてね」

 

そう言ってシロナは立ち上がったカイムの唇に自身の唇を落とした。触れるだけのキスは、飲み干したばかりの缶コーヒーの匂いがした。

不意打ちを受けたカイムはブラッキーを抱っこしたままほんの一瞬固まったが、すぐに立ち直り小さく息を吐く。

 

「…善処しよう。色んな人に助けてもらったんだ。やれるだけやってやるさ」

「その意気よ。一緒に頑張りましょうね」

「ああ」

 

カイムの肩にシロナの肩が触れる。

 

 

寄り添う二人の間には波の音と僅かな風の音が響き、月明かりを受けたブラッキーは気持ちよさそうに目を細めるとだった。

 

 

 




次回からまた旅に出ます。

カイムが代理を出してホウエン地方へ旅立つための閑話みたいな話でした。もう少しゲンにフォーカス当てたかったのですが、ゲンの情報ほとんど出てこなくて書けませんでした。
ポケモンSVでブラッキーか可愛すぎてブラッキー多めになりました。

波導の設定は念能力と覇気を足してニで割って少し異物を混入させました。

波導
全てのものに宿る生命と意思の力。人やポケモンだけでなく、植物や大地にも宿る。ポケモン達のタイプエネルギーは元を辿れば波導が根源であり、そういう意味ではポケモン達は皆波導使い。人間も波導を持つが、ほとんどの人間がそれを自覚することなく(または自覚してもうまく使えず)終わる。波導には大きく分けて肉体を強化する作用のものと感覚を強くする作用のものがあり、人それぞれ得意な波導の形は異なる。また、ごく稀に特異的な威圧の波導を使える者も存在する。なお、波導の強さとバトルの強さはイコールの関係にはならない(ジムリーダー以上のトレーナーは大体強い波導を持つが、カイムのように特異的に強い波導を持つ者もいる)。


シロナ
俗にいう覇王色の覇気が使える。才能以上に努力によって波導が強化されていた人。なお、シロナだけでなく相棒であるガブリアスも覇王色を纏える。波導の色は金色ベースに深い青色と黒の波模様。もしシロナがオレンジ(又はグレープ)アカデミーにいたらレホール先生と共に歴史の先生してそう。レホール先生は中等部、シロナさんは高等部の教師みたいな感じではと考えた。

カイム
当然覇王色は使えない。どんなに努力したとしても彼は結局一般人。自身の波導は鍛えられてはいるが、あくまでシロナとポケモン達あってようやくジムリーダーレベルの波導。一人だと完全になにもできなくなる。波導の色は深い青色ベースに黒と金色の波模様。カイムがオレンジ(又はグレープ)アカデミーにいたら、シロナさんに歴史の教師枠を取られて仕方なく化学か物理教師やってそう。

ゲン
覇王色は使えないが、見聞色の強さはシロナ以上。アーロンの直系の子孫かどうかはわからないが、アーロンの親戚の子孫くらいの関係性はあるのではないかと考えてる。トウガンも何歳かわからないらしいが、念能力で言う『纏』を維持することで若さを保っているのではないかと思われる。

トウガン
波導は使えないが、使えたら武装色が得意そう。結婚してすぐにゲンと知り合うが、見た目がほとんど変わらないことを不思議にも思いつつ瑣末な問題だとスルーしてる。波導の色は鋼色で岩石のような模様を持つ。強さは修行前はそこそこレベルの波導だったが、今ではかなり強力な波導を纏っている。


シロナとカイム二人で居酒屋やってる話をちまちま書いてます。どっかのおまけで出てくるかも。
定期的に読者の皆様の推しトレーナーと推しポケが知りたくなります。私はトレーナーならシロナ、グリーン、ダイゴ、カトレアで、ポケモンならブラッキー、ラティ兄妹、メタグロス、ルカリオあたりです。

今年の間にもう1話更新予定です。


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