ただただシロナさんとまったり過ごすだけの話   作:職業病

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えー……
お待たせしました。

お待たせした分、多めです。
具体的には6万字ほど。




通算50話




本当はカイムが5歳くらいに逆行して、シロナさんがちびカイムを甘やかす話を書きたかったけど、二連続砂糖は私の口角が保たないし、記念すべき50話目に閑話ってどうなの?って思った結果のリーグです。


43話 ポケモンリーグ

 強い日差しと潮風を感じながら島に降り立つ。

 再び、この季節がやってきたことを自覚すると、シロナの心は浮き立つような感覚になった。そして隣に立つカイムは、前とは違う立場で来られた事実に不思議な感覚に陥っていた。

 

「…またここに来られた」

「貴方は前とは違う立場ね。前はジムトレーナー、今はジムリーダー」

「感慨深いもんだ」

 

 スズラン島。ポケモンリーグシンオウ支部があり、シンオウ地方で最高峰のレベルの大会が開かれる場所であった。

 

「今年はどんな闘いが待っているのかしら」

「どの地方もポケモンリーグのレベルは最高峰だ。カントーのセキエイリーグだけは頭ひとつ抜けてるがな」

 

 カントー地方のポケモンリーグ…セキエイリーグは全てのリーグの中で、最も高いレベルを誇る。決して他の地方のレベルが低いのではなく、セキエイリーグのレベルが高すぎるだけ。ポケモンリーグ総本部ということもあり、全世界から腕利きが訪れるのだ。

 

「今年のリーグ、誰が出るか楽しみね。去年はグリーン君がいたでしょ?他地方出身のトレーナーとも戦ってみたいわ」

「調べはついてる。チャンピオンロード踏破したトレーナーの最低限の情報だ。予選の結果見つつ、必要なトレーナーの情報だけを残しておく」

「仕事が早いわね。いつ調べたの?」

「ここに来るまで」

「相変わらずの調査能力ね」

 

 シロナの自宅からスズラン島まで約半日。ナギサシティまでは公共交通機関、ナギサシティからはフェリーだったため道中調べる時間はあった。だが調査に十分な環境が整っていたとは思えない。だというのに、カイムはチャンピオンロードを踏破したトレーナー全員の手持ちデータを入手したという。この調査能力に関してだけは、シロナをも遥かに凌駕するものだと改めて実感した。

 

「どんな情報なら貴方は調べられないのかしら」

「国家機密とかはさすがに無理だろう。機密に触れるものでなければ、大体いけるかもな」

「量で手こずることは無さそうね」

「どうかね。ただ、俺に手間取らせたいならこの三倍はないと張り合いねえよ」

「…そこに関しては本当に規格外ね」

 

 若干引きつつ、シロナは体を伸ばす。長時間の移動で疲弊した体が音を立てた。

 

「でもやっぱり遠いわね。半日かかっちゃった」

「シンオウを横断してきたからな。ポケモン乗っていけばもうちょい速く着くんだが、ここに来る目的を考えると悪手だろうよ」

 

 ポケモンに乗っての移動は、時に公共交通機関よりも早く到着できる場合もある。ポケモンに乗って空を飛んだり泳いだりすると、道路の状況や渋滞などに巻き込まれずに移動できるからだ。加えて、本当の意味で直線距離でたどり着くことができる。

 しかしデメリットも存在する。まず、ポケモンに乗って移動するためには、それなりにポケモンが鍛えられていなければならない。人を乗せて移動するとなると、ポケモン側の負担は通常の二倍以上になる。そのため、人を乗せられるほど鍛えられていなければまず不可能だ。加えて、ポケモンが人を乗せることに慣れていないと、落下して事故になる可能性もある。過去にそれが原因で何度も事故が起こっていた。それ故に、ポケモンに乗っての移動は、基本的にバッジを全て手に入れ、なおかつリーグ公認の訓練施設で訓練を受けたトレーナーにのみ許されている行為だった。

 

「長距離飛行はなかなか負担が大きいのよね。ポケモンにもトレーナーにも」

「とてもオススメできる手ではないな」

「そうね。ま、何にしても明日から予選が始まるわ。情報収集、お願いね」

「ああ」

 

 シロナはカイムの背中を優しく叩くと、共に島の中心部…ポケモンリーグスタジアムへと足を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続々とポケモンリーグスタジアムに集まる腕自慢のトレーナー達を、四人のトレーナーがスタジアムVIPルームから眺めていた。

 

「へえ、今年のトレーナーは数が多いですね。去年見た顔もいますけど、チャンピオンロード踏破できるだけある。みんないい目をしてる」

 

 緑色の髪をした少年が、楽しそうに窓の下を見下ろす。少年の目に映るトレーナー達は皆、強い覇気を纏っており、一筋縄ではいかないことを物語っていた。

 

「いいねぇ!そうこなくっちゃ楽しくねえ。アツいバトルにならなきゃ、せっかくの熱が冷めちまう」

 

 赤いアフロのような髪をした男が、不敵に笑いながら首を鳴らす。まるで熱く燃えるような覇気が男からは感じられた。

 

「ふふ、今年も粒揃いね。どんな闘いになるか、今から楽しみだわ」

 

 穏やかな笑みを浮かべながら老婆はモンスターボールを撫でる。老婆からは大地の如く静かで、重くのしかかるような覇気が放たれていた。

 

「…どんな相手でも、必ず勝敗が決まる。物語と同じように、決まった結果にはならない。ポケモンバトルの醍醐味ですね」

 

 メガネをかけた男性は、本のページを捲りながら呟く。男性の覇気は不思議な気配がしており、強さという意味ではこの部屋にいる中で最も強かった。

 突如、強い覇気を纏う四人がいる部屋の扉がノックされる。そして室内にアナウンスが流れた。

 

『チャンピオンのシロナ様がお見えです。お部屋にお通しします』

 

 その言葉と共に、一同の雰囲気が張り詰める。一同は別段シロナを嫌っているというわけではない。ただ、並々ならぬライバル意識を持っているだけだ。彼らのさらに上…チャンピオンの座に座り続けて早10年以上。それは同時に、四天王達が一度もチャンピオンになることができていないことと同義であった。それ故に、四天王達はシロナに対して強いライバル意識を持っていた。

 シロナの姿が部屋に現れる。ノースリーブのニットにスラックスという身軽ながらも気品溢れる出立だった。そんなシロナは四天王達の放つ覇気を受けながらも、余裕のある笑みを浮かべている。決して四天王を侮っているわけではなく、彼らの強さを理解し、認めていながらも、自分の力も彼らに決して負けていないことを自覚しているが故の笑みだった。

 

「お待たせしてしまいましたか」

 

 向けられた覇気に対して、非常に落ち着いた声。静かな闘志を秘めた声に、シロナのチャンピオンとしての器の大きさを感じた。

 

「いえいえ、僕達も集まったのは十分くらい前ですから。待ったというほどじゃありませんよ」

 

 緑色の髪をした青年…四天王最年少のリョウは楽しそうに笑いながら答える。

 

「そう?なら良かったわ」

「それにしても珍しいわね。シロナさんが遅れるのなんて」

 

 先日コトブキシティで出会った老婆…キクノは微笑みながらシロナにそう告げた。事実、シロナは今までずっとこのVIPルームに来るのが一番早いか、二番目かのどちらかだった。遅刻癖のないシロナがこうして僅かでも時間に遅れるのは珍しい。

 

「少し話し込んでしまいまして」

「話し込む?誰か見込みのある奴でもいたんですかい?」

 

 赤いアフロが特徴的な男性…オーバがそう問いかける。その問いにシロナは肩を竦めた。

 

「いえ、元々の知り合いよ。新人ジムリーダーって言えばわかるかしら」

「ああ!トウガンさんの後釜の!へぇ、出る予定なかったと思うが来てるのか」

「警備とか運営サイドは…今年ミオジムにはありませんでしたよね?」

「普通に観戦しに来たんじゃね?毎年リーグはアツいバトルになるからな!」

「確かに」

 

 カイムをほとんど知らないオーバとリョウはそう語り合うが、事情を把握しているキクノはただ優しく微笑むだけだった。

 そこで、部屋の一番奥で本のページを巡っていた男性…ゴヨウは本を閉じ、立ち上がった。

 

「何にしても、これでシンオウリーグトップトレーナーが集まりましたね」

 

 ゴヨウはサングラスを取り、胸ポケットに引っ掛ける。そしてシロナを見つめると、僅かに口角を上げた。その笑みの意味を理解したシロナは頷くと、視線を鋭くしながらも強い笑みを浮かべる。

 

「今年もシンオウ地方最高峰の大会が開催され、またこの一同で鎬を削ることができることを嬉しく思います。たくさんの若いトレーナー達が頭角を表して来ていますが、我々トップトレーナーはそんな彼らにも負けていない。そう確信しています。私たちが彼らにとって、とても大きく、乗り越えるべき壁としてあり続けるためにも…今年の大会も全霊を尽くしましょう」

 

 シロナの言葉に四天王達は力強く頷く。それを見たシロナは窓の下でリーグへと集まるトレーナー達を見下ろし、好戦的な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リーグの打ち合わせを終えたシロナは、カイムが待つスタジアム観客席へと足を向けていた。扉を開き、スタジアムに足を踏み入れると、そこは静寂が広がっており、何人かのスタッフがリーグ開会式の準備をしているところだった。

 そんな中、客席に一人の男性の影を見つける。その隣には、ブラッキー。

 

「カイム」

 

 シロナの呼び掛けにブラッキーが振り返る。対してカイムは振り返ることなく、右手を上げて呼び掛けに応えた。

 そんなカイムの隣に足を進める。そしてブラッキーを挟んで、カイムの隣に腰掛けた。カイムはシロナに一瞬視線を向けるが、すぐにスタジアムのフィールドへと視線を戻す。

 

「どうしたの?なにか、面白いものでも見つけた?」

 

 やけに熱心に視線を向けているようにも思える。なにか思うところがあるのだろうか、と考えてそう聞いてみると、カイムは目を伏せてブラッキーを撫でた。

 

「いや、数ヶ月前にここでトウガンさんと戦ったことを思い出してただけだ」

「そう。あれから数ヶ月…早いわね」

「色々ありすぎたからな」

 

 数ヶ月前、カイムはここでトウガンを下し、ジムリーダーを受け継いだ。それが決定した場所が、今目の前にあるフィールド。カイムの人生において、これほど達成感を得られたバトルはなかった。

 そしてジムリーダーを受け継いですぐ、ダークライ事件が発生。事態の終息のために奔走し、最後はヒカリの力で事態は事なきを得た。その時、ダークライの悪夢の力を多く吸収したカイムは、あれからさらに眠りが深くなった。今、カイムを自力で目覚める以外の方法で目覚めさせられるのは、恐らくカイムの夢にダイブした経験のあるシロナだけだろう。

 その後、ホウエン地方に出向いた。論文の取材で訪れたが、そこでレジスチルに出会い、古代人の歴史を知った。加えて、オーレ地方のダークポケモンの一件に関わった。それだけでなく、空の柱にて伝承者の歴史も垣間見た。ここ数ヶ月は、カイムの人生において非常に濃い数ヶ月だった。

 

「ジムリーダーって時点で俺にしちゃできすぎだってのに、論文書けるだけの出会いと経験をして、空の柱で世界を守る顛末を見届けた。そんで最後はダークポケモンか。あまりにも濃すぎる前半戦だったな」

「ダークライの一件もあったしね。本当、貴方がジムリーダーになってから激動ね」

「厄病神か何かか俺は」

「悪いことばかりでもないからいいのよ」

 

 シロナは隣にいるブラッキーの顎を撫でる。ごろごろと気持ちよさそうに喉を鳴らすブラッキーを見て、カイムはぽつりと呟いた。

 

あの調整(・・・・)、どこまで活きると思う?」

「そうねぇ…まだ完成とは言い難いし、この大会で十全に発揮するのは難しいかもしれないわね。決勝まで行けば、その芽は見えるかもしれないけど」

 

 シロナがやることに疑問はない。だがカイムも人間である以上、理解したいという気持ちはある。それ故に、ここ数週間シロナが行ってきた調整兼トレーニングの意味を理解したいと考えていた。

 

「やっぱり、まだ理解できない?」

「いや、なんとなく意味はわかる。俺が知りたいのは、それを考えるようになった経緯だ。トレーニング中はそんなこと考えてる余裕ねえし、お前の集中力を切れさせたくなかった」

 

 リーグ前のシロナは、調整兼トレーニングで凄まじい集中力を発揮する。試合中の鬼気迫る激しい集中力ではなく、ポケモン達の僅かな異変も見逃さないための深く、静かな集中力。それをカイムは切れさせたくなかったが故に、ここまで敢えて聞いてこなかった。それだけで集中力が切れるほどシロナは柔ではないが、揺らがせたり、無駄な思考にリソースを使わせることはよくないとカイムが判断した結果だった。

 

「じゃあ、答え合わせ。私がここ数週間、どうして貴方の(・・・)ポケモン(・・・・)でバトルしてきたか」

「自分のポケモンをフィールドの反対側…端的に言えば、敵側として見ることで、相手からどう見られているか(・・・・・・・・・)を計算してオーダーを出すため」

正解(Excellent)

 

 シロナはここ最近、カイムと自分のポケモンを入れ替えて調整兼トレーニングをしてきた。無論自分のポケモンであるため最後は自分で調整、トレーニングを施すが、時折ポケモンを入れ替えてバトルを行った。その理由として、自分のポケモンが相手から見たらどう見えているのか。それを知りたかったからだ。

 

「俺のオーダーとシロナのオーダーは違うし、厳密には同じとは言い難いが…試合中、自分のポケモンは基本的に向かい合う形では見えない。だが、向かい合う形でなければ見ることのできないものがあるし、向かい合うことで見つけられるポケモン達の癖を把握できる。それが目的だったんだろ?」

「90点」

「満点じゃねえのかよ」

「ええ。確かに、癖の把握や見られ方を計算した上でオーダーを出す。これが一番の目的だけど、もう一歩あるの。それはね、ポケモン達の技の予備動作を把握すること」

「予備動作の把握?癖の把握と何が違うんだ?」

「癖は、動き方の偏り…言うなれば、得意・不得意の把握よ。基本的には全部把握しているけど、ポケモン達も私も無意識に行ってしまっている何かがないかを見極めたかったの。その癖が、もしかしたら相手にとって致命的な隙に繋げられるかもしれないからね」

 

 癖は、自覚していようがいまいが出てしまうもの。それ故に簡単に直すことはできない。だが、その癖を理解していれば、その癖を考慮した上でオーダーを出すことはできる。

 

「予備動作もこれに近いわ。でも今回把握したかったのは、ポケモン達の予備動作から技を出すまでの時間。どれだけ咄嗟のオーダーでも、この時間をどれだけ削れるかで勝敗に関わってくるわ。でも予備動作を無くすなんてことはできないから、予備動作を考慮した上でのオーダーを出せるようにしたかったの」

 

 予備動作は癖に近いものもあるが、どの技を出すにしても必ず必要になってくるもの。『しんそく』のように、ゼロから最高速に一瞬で達する技にも当然存在する。それを把握し、相手の動きを読み、その上でどうオーダーを出すのか。それがシロナが自身に課した課題だった。

 そのために敢えてカイムとポケモンを交換してバトルした。自分のポケモンと物理的に向き合うために。そして、その結果はシロナに小さな、同時に確かな変化を齎した。まだ影響力としては非常に小さいが、この小さな変化がシロナをさらに高みに昇らせることができるとシロナは確信していた。

 

「ポケモン達の輝きは、私たち次第でいくらでも大きくなる。私は、みんなのことをより強く、美しく輝かせたい。だからこそ、あの調整よ」

「お前がやることに、意味がないことはないな」

「ふふ、そうかしら」

 

 シロナはブラッキーを抱き上げると、カイムの隣に腰掛けて、カイムの肩に頭を乗せた。

 

「これは、意味がある行動と言える?」

「言える」

「あら、どういう意味?」

「俺が喜ぶ」

「なにそれ」

 

 楽しそうに笑いながらシロナはカイムの首筋に顔を埋める。僅かなくすぐったさにカイムは僅かに目を細めるが、シロナの肩に手を回すとシロナを抱き寄せた。

 

「…これからの数日、間違いなく激しい闘いになる。だから、側で支えてくれるかしら?」

「それが俺の望んだことだ」

「…一緒に(・・・)、戦ってくれる?」

 

 シロナの目は、シロナの膝で甘えるブラッキーに目を向ける。ブラッキーはその言葉の意味をわかっていないが、カイムはなんとなく理解できた。その機会が訪れるかはわからない。しかし、そうなっても問題ないようにしておくことが己のやるべきことだとカイムは自覚した。

 

「ああ」

「ありがと」

 

 シロナはブラッキーを下ろす。ブラッキーはまだ甘え足りないとでも言うような視線を向けてくるが、シロナは苦笑しながらブラッキーの頭を撫でて立ち上がる。

 

「さ、行きましょ。調整しないと」

「そうだな」

 

 カイムはブラッキーを抱き上げてシロナに続いて立ち上がる。そのまま二人はスタジアムを出ていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、予選が始まった。たくさんの強者達がぶつかり合い、鎬を削る闘い。このたくさんの強者の中から、本戦に出られるのは一握りの者のみ。

 

「……予選でも、やっぱ出られる奴らは強えな」

 

 眼下のフィールドで激しいバトルを繰り広げるトレーナー達を見ながら、カイムは呟く。その手にはタブレット。

 

「チャンピオンロードを踏破できるトレーナー達だもの。そんな生半可な腕はしてないわ」

 

 カイムの言葉にシロナはそう返す。ポケモンリーグへの参加条件は、チャンピオンロードの踏破となっている。全てのジムバッジを集め、チャンピオンロードを踏破することで初めて予選参加資格を得ることができるが、チャンピオンロードは非常に過酷な道。ポケモンだけでなく、トレーナー自身の体力も必要となってくる。簡単に踏破できるものではない。

 

「この中から一握りの者だけが、本戦に出られる。どの地方でも、最も高いレベルの大会よね」

「ああ。誰が出られるかはわからんが、とりあえず確実に出てくるだろう人物のデータは全部集めておいた」

「全部というと?」

「使用ポケモンに得意な戦術、苦手タイプへの対策、ここ一番での切り札に、過去に残されているバトルレコーダーでのバトルシーン…その他諸々だな」

「助かるわ」

 

 チャンピオンであるシロナはもちろん、四天王も予選免除で本戦に出場することが決まっている。また、ジムリーダーも予選トーナメントをシードで出ることができるため、何回かバトルが免除されていたため、勝ち残る可能性は高いだろう。そのため、四天王はもちろん、ジムリーダー達のデータも予め集めてあった。それだけでなく、過去のデータを軽く見返し、その中で大会やフロンティアで高い戦績を出しているトレーナーについてもピックアップしてあった。

 

「今年の参加者で、カイム的に目に留まったトレーナーはいる?」

「四天王は除いたものでよければ」

「それでいいわ」

「…まずは、ジムリーダーだな。クロガネジムのヒョウタ…ここ最近、腕がワンランク上がった感じがする。岩タイプだけでなく、他のタイプへの理解も深くなってきてる。今のあいつの実力と予選トーナメントの相手なら、多分本戦出られるだろうよ」

「断言するなんて珍しいわね」

友達(ダチ)だからな。あいつの実力は、よく知ってる」

 

 同年代かつ、トウガンの後釜ということもあり、カイムはジムリーダーの中で最も関わりを多く持っているのがヒョウタだった。そのため何度もバトルをしているが、強くなったカイムですら未だに勝ち越すことができていない。カイムがジムリーダーになってから、ヒョウタの腕がより上がっていることを、よくバトルしているカイムは知っていた。

 

「あとはスズナも腕を上げてきてる。北国の厳しい環境で鍛えた強さは、簡単には崩せんな。攻めと守りのバランスが良くなってる。前は攻め気が強いが、やや守りに弱かったが、その弱点が克服されつつある。手強いぞ」

「氷タイプメインだし、もし本戦で当たることがあったらちゃんと対策しないとね。私の手持ち、氷タイプ弱点多いし」

「攻め勝つことができりゃいいが、ユキノオーの『雪降らし』によるあられ天候からのあられ天候バフ特性のポケモンの攻撃を凌ぐのは、なかなか至難だ。対策は必須だろうよ」

「そうね。他のジムリーダーは?」

「今年はあとメリッサさんだな。メリッサさんはこの前、フロンティアブレーンのダリアとバトルして、それがきっかけかは知らんがオーダーに磨きかかかってる。元々『魅せる』バトルが得意な人だが、魅せ方の傾向が少し変わってきた。詳しくはデータを見てくれ」

 

 その他にも、エスパー使いのイツキ、パルデアリーグ所属のアオキ、前回のカロスリーグベスト8のカルム、レッド、グリーンと同郷で、セキエイリーグ本戦出場経験のあるリーフ、前回シンオウリーグベスト8のジュンなど、名だたるトレーナー達がエントリーしている。他の地方のトレーナーも多く参加しており、去年に負けないくらいハイレベルなバトルになるだろう。

 

「すごいメンバーが来てるわね。特に珍しいのが…このパルデアリーグ所属のアオキさん。あんな遠くからこっちに来るなんて、かなり珍しい事例じゃない?」

「ああ、シンオウリーグでパルデア出身のトレーナーが来るのは珍しい。過去の記録を見ても、ほぼいないに等しい。遠い場所だし、そんなもんだろうよ」

「でもカイムが着目してるくらいだし、何かあるんでしょ?」

「そうだな。この人は、普通の会社員だ」

「…え?それだけ?」

「ああ。それが異質なんだ。普通の会社員が、チャンピオンロードを踏破できるとは思えん。何を思ってここまで来たのかは知らんが、会社員しながらチャンピオンロード踏破できる実力を持つトレーナー…注目しないわけないだろ」

 

 そのアオキは、現在予選のコートでバトルしていた。覇気のない顔つきではあるが、出しているオーダーは的確。とてもただの会社員には思えない腕前だった。

 

「…なるほど、少しカイムに似たタイプかもね」

「というと?」

「忍耐力が強いタイプよ。うまく攻撃を流しつつ、反撃する瞬間を虎視眈々と狙う感じ。一度攻勢に出られると、厄介かもね」

「いかにも社会人らしいやり方だ」

 

 手持ちデータをざっとみたところ、ノーマルタイプのポケモンが多い。ノーマルタイプは、格闘タイプ以外弱点が存在しない。それ故に、多くの技を等倍以下の威力に抑えられる。また、ノーマルタイプは技範囲が広い場合が多く、タイプ不一致ながらも多くのタイプの技が使えるのも魅力と言えるだろう。

 

「何にしても、今日でほとんどのトレーナーが消える。予選の結果を見つつ、データの取捨選択は進めていくよ」

「お願いね。今年も、一筋縄でいくはずがないから」

 

 強い闘志を秘めながら、シロナは予選会場を見渡す。どれだけポケモンと自分の強さを引き出すことができるか。それが今から楽しみで仕方ないという様子だった。

 

「はしゃぎすぎるなよ」

「ええ。でも、貴方がコントロールしてね」

「少しは自分で制御してくれや」

 

 そうボヤきながらも、カイムの声はどことなく楽しげだった。

 

 

 そして、この日だけで半数以上のトレーナーが大会から敗退した。残された強者達がさらに鎬を削るのを見ながら、二人は本戦に向けて準備を進めていくのだった。

 

 

 

 

 

 そして翌日、本戦に出場する猛者達がここに集った。

 

 

マサラタウン出身のリーフ

ワカバタウン出身のヒビキ

フタバタウン出身のジュン

アサメタウン出身のカルム

パルデアリーグ所属のアオキ

ヨスガジムのジムリーダーメリッサ

クロガネジムのジムリーダーヒョウタ

キッサキジムのジムリーダースズナ

ハナダジムのジムリーダーカスミ

エスパー使いのイツキ

四天王リョウ

四天王キクノ

四天王オーバ

四天王ゴヨウ

 

 

そして、チャンピオンのシロナ

 

 

総勢15名の猛者が集うシンオウ地方最大の大会が、ここに幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今年の本戦出場者リストを眺めながら、シロナは夜風に当たる。僅かに欠けた月の光にシロナの金色の髪が照らされ、僅かに輝いた。

 

「今年のメンツ、相変わらず強者揃いだな」

 

 声が聞こえた方にシロナは視線を移す。風呂上がりのカイムがブラッキーを抱き抱えながら濡れた髪を拭いていた。

 

「早いわね」

「お前が長いだけだ」

「髪、乾かさないと風邪ひくわよ」

「乾かすって」

 

 ドライヤーで髪を乱暴に乾かしていく。シロナの髪を乾かす際はもっと丁寧な手つきだというのに、自分に対してはやたら雑にやる様子を見て、シロナは小さく息を吐いた。

 

「そんな乱暴にやらないの。せっかく綺麗な黒髪なんだから」

「いいんだよ俺は」

「だーめ。ほら、貸して」

 

 シロナはカイムの手からドライヤーを奪うと、優しい手つきでカイムの髪を乾かし始めた。とはいえ、シロナと比べてはるかに短い髪のカイムは、簡単に乾き切る。数分も経たずにカイムの髪は乾き切った。

 

「はい、終わり」

「あんま変わんねーだろうに」

「変わるわよ。普段から触れてる私が言うんだから、間違いないわ。ねーブラッキー」

 

 カイムに抱き抱えられたブラッキーはシロナの言葉に嬉しそうに頷く。そういうもんかね、と呟きながらカイムはブラッキーを撫でた。

 

「調整、どうだ?」

「いい感じ。誰が相手でも、100%を引き出せるわ」

「心配してなかったが、この短期間で完全に仕上げるのは流石としか言えんな」

「ふふ、当たり前よ」

 

 楽しそうに笑うシロナを尻目に、カイムはタブレットのロックを解除する。表示された画面には、シロナの登録ポケモンが記されていた。

 今回、シロナが登録したのはミカルゲ、トリトドン、ロズレイド、ルカリオ、ミロカロス、ガブリアスという普段よくバトルに出すベストメンバーだった。ポケモンリーグは登録したポケモンのうちから三体を選び、バトルに出す。この時、一体だけ登録していないポケモンを出すことも可能と言うルールになっている。この交換対象として、トゲキッスやポリゴンZがよく交換候補として出される。

 

「本戦のトーナメントは、シロナは二回戦から。相手になる候補は…フタバタウンのジュンかアサメタウンのカルムね。ルーキー同士じゃねえか。しかもこのジュンっての、去年もいたな」

「ルーキー同士の対決はなかなか面白そうね。しかも、カルム君はシンオウリーグ初。データ見たけど、私に似たバランス型のパーティみたい」

「ああ。二年前のカロスリーグ本戦出場経験がある。去年は予選決勝で負けたみたいだが、他の大会ではかなりの成績を収めているな」

 

 今回、本戦に出場するカルムは、以前のカロスリーグにて本戦に出場した経験を持つ。本戦では一回戦で負けてしまったが、本戦に出られるだけの実力を持つトレーナーであることは間違いない。しかもこの少年、レッドやグリーンと同期であり、トレーナー経験はまだ三年程度。才能はかなりのものだと言える。

 

「今年は若いトレーナーが多いわね。リーフちゃんやジョウトのヒビキ君、ジムリーダーでスモモちゃんもいる。若い才能が台頭してきてて、嬉しい限りね」

「ヒカリはいねえんだな」

「ええ。今あの子はバトルフロンティアで修行中。何か掴みかけてるのかもね」

 

 去年、シロナ相手に同格レベルのバトルを見せたヒカリだが、今年のリーグには参加していない。詳しい理由はシロナにもわからないが、何かしらヒカリなりに思うところがあるようだった。そのため今はバトルフロンティアでの修行に没頭し、いつの日かシロナを超えることを目標にしている。

 

「次いつ戦うかはわからないけど、あの子と次戦う時…間違いなく、激しいバトルになるわ」

「だろうな。レッドほどじゃないにしろ、あいつも天才の類だ」

 

 レッドを筆頭に、トレーナー経験が少ないにも関わらず、本戦に出られるような実力を持つトレーナーが増えてきた。今回の大会にも、トレーナー経験二、三年程度ながらも本戦まで勝ち進んでいるトレーナーがいる。たった数年で本戦に出場できるほどの実力を持つトレーナーは、天才と言わざるを得ないだろう。ただ、その中でもやはりレッドは格別と言える。

 

「レッド君か。あのバトル、今でもはっきり思い出せるわ」

「あんなやべえ才能に、ほぼ同格レベルで戦えるお前も十分やべえよ」

 

 シロナは、天才ではない。少なからず才能を有していたことは間違いないが、天才といえるようなものではなかった。

 だがそれは、ポケモンバトルの才能という意味であり、『考える才能』に関しては、間違いなく天才の領域だった。考えて考えて、その先にある『凝縮された思考』。それこそが、シロナの持つ強さであり、長くシンオウ地方チャンピオンとして君臨できている理由だった。

 

「…才能、か」

「ん?」

「少し、思うところがあるのよ。ほら、ここ最近すごい才能を持った子達が出てきてるじゃない?だから余計にね…世代交代を意識させられるの」

 

 バトルを辞める気はないし、台頭してきたトレーナー達に負ける気もない。だがそれはそれとして、いつかは自分もチャンピオンではなくなる。そんなことは百も承知しているし、若いトレーナーが台頭してきたことは素直に喜ばしい。それでも、このチャンピオンという地位は、シロナにとって誇らしく、そしてできるだけ長く維持したいものだった。

 

「彼らが台頭することの嬉しさの中に、ほんの少しだけ…恐怖がある。チャンピオンの座をいつか誰かに明け渡す事実の恐怖が」

「お前が弱音を吐くたぁ、珍しい」

「貴方にしか言えないから」

 

 他でもないカイムだからこそ、こうして心の奥底に吐き出せている。誰にでもある心の闇。どんな形でも、吐き出していける場所があるというのが、どれほど心の支えになるのかをシロナは良く知っている。

 カイムも頼るのは下手だが、シロナも大概であった。ただ、シロナの場合は心も強く、そして能力もあったため、頼らなくてもどうにかなってしまっていた。それ故に、他者に頼る経験が少なかった。しかし、どんなに心が強くとも、溜め込まれた闇はいつか心を蝕む。二十年近く溜め込んだものが決壊した場合…シロナの心は完全に折れてしまってもおかしくない。だが、カイムという心の(弱さ)を吐き出せる場所が現れた。それ故に、溜め込んできたものを小出しにすることで、シロナは今まで溜め込んできたものをうまく解消できた。尤も、カイムがそれがどれほど大事なことで、シロナを救っていたことなのかは理解していないが。

 

「…やっぱり、こうして心の底を吐き出すのって少し怖いわね」

「だろうな」

「こんな姿、家族にも見せたことないかも。少し怖いけど、でも悪い気はしないわね」

「すげえな。自分の弱さを認められるお前の強さ…憧れるよ」

「あら、自分の弱さを認められる強さは貴方も持ってるじゃない。己の弱さを自覚しているから、ここまで来られたのよ」

「わかってる。ただ、俺の場合認められたのかどうかまだわかんなくてな。まだ、色々迷いながらやってる」

「いいのよ。私も、色々迷ってしまう。大事なのは、その迷いの中で何を見出すか考えること。人は、考えられる生き物だから」

「…ああ、そうだな」

 

 シロナは立ち上がると、カイムの頭をやや乱暴に撫でる。そして額にキスを落とした。

 

「でもね、一人で考えないで。貴方には私がいるし、私にも貴方がいる。もし、私が迷って止まってしまいそうな時は…」

 

 シロナはカイムの頬に手を添えながら言う。

 

「私の名前を、呼んで。それだけできっと、私はまた歩けるから」

「……ああ、わかった」

「ふふ、いい返事。じゃ、お風呂入ってくるね」

 

 シロナは着替えを持って風呂場へ向かった。

 残されたカイムはその後ろ姿を見送る。そして膝に乗っていたブラッキーがすりすりと頭を擦り付けてきたため、ブラッキーをひっくり返してブラッキーのお腹をわしゃわしゃと撫でました。撫でられたブラッキーは嬉しそうにキャッキャと笑い転げる。とてもバトル中の悪タイプ丸出しなブラッキーとは思えない愛らしさに、カイムは思わず苦笑するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、リーグ本戦の一回戦が終了した。これだけで半数のトレーナーがこの本戦から姿を消す。

 

「ヒョウタ君、残念だったわね」

「相手は四天王のキクノだ。相性も悪いし、地力でも負けてる。全部出し切ったってツラしてたし、大丈夫だろうよ」

 

 カイムの友人であるヒョウタは、四天王のキクノに敗北し、リーグから敗退した。元より地力はキクノに劣るし、何よりタイプ相性も悪い。本人としても悔しさはあるだろうが、やりきった表情をしていた。心配する必要はないとカイムは判断し、他の対戦結果に目を向ける。

 

「…へえ、あのパルデアリーグのアオキって人、メリッサさんに勝ったのか。ノーマルタイプの技範囲をうまく使ったな」

「互いに一致技が無効だものね。それに、ノーマルタイプは耐性も優れてる。単純な実力は同等だけど、タイプ相性の差が大きかったかしら」

「だな。今年は…へえ、オーバ負けたのか。相手はハナダジムのカスミ…ああ、タイプ相性最悪だな」

「そうね。水タイプで攻められると、炎タイプはなかなか厳しいわ。それに、ステージもオーバ君にかなり不利に働いてたし」

 

 リーグ本戦のステージは、基本的にランダムに設定される。今回、オーバとカスミのバトルで選ばれたステージは『湿地』。基本的に動きや技に支障の出ないレベルではあるが、水気があるステージはカスミの土俵。ギリギリまで追い詰めたが、最後はカスミの怒涛の攻撃によって敗北した。

 

「四天王倒すたぁやるな」

「運もあったとはいえ、すごいわね。さすが、おてんば人魚ってところかしら?」

「あ?…あー…あれか、あだ名」

「もう少しいい言い方なかったの?」

「ほっとけ」

 

 苦笑するカイムに首を傾げるが、それ以上言うこともなかったためシロナは再びトーナメント表に目を戻す。残ったのは、ゴヨウ、カスミ、キクノ、リョウ、アオキ、イツキ、ジュン、そしてシードのシロナ。今年のシンオウリーグベスト8が決まった。

 

「やっぱ四天王は強いわね。ほぼ全員ベスト8入りしてるし、イツキさんも以前セキエイリーグで四天王やってたものね」

「四天王ともなると、やはりジムリーダーよりもワンランク上の腕がある。無論勝てないわけじゃないだろうが、地力に関しちゃ言うまでもなくジムリーダーよりも上だ」

「楽しくなりそう」

 

 シロナの纏う覇気が僅かに強くなる。バトルを心から楽しむシロナにとって、この強者が集まる大会がどれほど楽しみだったか。側で見てきたカイムはよく理解している。だからこそ、ここではしゃいでは体力がもたないことも知っていた。

 

「楽しみなのは結構だが、今からそのテンションでいんなよ。決勝で電池切れるぞ」

「わかってるわよ。それに、決勝いく前提なのね」

「ったりめーだ。お前が行けないわけねぇ。俺にとっちゃ、お前は…お前たちは最高のプレイヤーだ」

 

 チャンピオンズトーナメントで、シロナはレッドに敗れた。だが、それでもカイムにとって最高のトレーナーはシロナであり、シロナが育成してきたポケモン達が最高のポケモンだった。その理由は、シロナのバトルがカイムにとって最も手本になるバトルスタイルだったからだ。

 

「俺にとってお前を超えるトレーナーはいない。そんなお前の支えになれることが生きがいであり、俺のサポーターとしての誇り。そんなトレーナーが優勝することに、疑問を持つ理由はねえよ」

「…嬉しいわね」

 

 嘘偽りのない、心からの本心。真っ直ぐ向けられた言葉に、シロナは思わず胸が高鳴る。最愛の人と共に、再び戦い抜くことができる事実に高揚感が胸に満ち溢れる感覚がした。

 

「戦う時は、ポケモン達と私だけ。でも、一人じゃないって思うと…なんでかしらね。いつも力が湧いてくる気がするの」

「そうか」

 

 カイムはそれだけ言うと、首から下げている青いリングをチェーンごとシロナに押し付ける。

 

「これで、もっと実感できるか?」

 

 変わらない無表情。だが、その目の奥に宿る光は、シロナと共に戦い抜くことを覚悟しているものだった。

 シロナは小さく笑い、リングを受け取る。そして首から下げると、リングを優しく握りしめた。

 

「ありがとう」

「ん。ほれ、調整いくぞ」

「ええ。しっかり調整していくわよ」

 

 そうして二人は、サブフィールドに調整しに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜

 夕食を済ませ、シロナが入浴している間、カイムはホテルのベランダでブラッキーと共に月を眺めていた。少し欠けた月の光は思いの外明るく、外がよく見える。

 

「いい夜だ」

 

 静かで、風も穏やか。月明かりに照らされた海が、優しく波の音を響かせていた。ミナモシティ出身故か、カイムは波の音を好んで聞く。こうして波の音を聞いていくと、心が落ち着き頭の中が整理される。

 暫し夜の時間を楽しんでいると、ふと眼下にあるホテルのテラスに、一人の少年がいるのが見えた。赤い帽子にサングラス、青いアウターの出立ちに、カイムは見覚えがあった。

 

「…あいつは…」

 

 それだけ呟くと、カイムはブラッキーを伴って外へと足を向けた。

 ホテルを出て少年がいた場所まで行くと、その少年はまだニャオニクスを連れてその場にいた。カイムの足音に気づいたのか、少年は振り返り、カイムの方に視線を向ける。

 

「こんばんは」

「ああ、こんな時間に何してんだ?カルム」

「あれ?オレ、貴方に名乗りましたっけ?」

「この大会見にきててお前のこと知らねえやつはいねえよ」

「あっ…それもそうですね」

 

 恥ずかしそうに苦笑するカルムに、ブラッキーがとてとてと歩み寄る。そしてカルムの足元にいるニャオニクスに笑いかけた。ニャオニクスもそれに応えるようににっこりと笑い、二匹はじゃれあい始めた。

 そんな二匹を見て優しくカルムは笑う。そして、カイムに視線を戻した。

 

「それで、貴方は?」

「カイム。シンオウ地方のジムリーダーだ」

 

 カイムは自分のジムリーダーIDを見せながらそう応える。その答えに、カルムは少し驚いたように目を見開いた。

 

「ジムリーダーだったんですか!あれ?でも…今年のリーグには…」

「出てねーよ。他にやることもあってな。大会にゃ出てねぇ」

「そうだったんですね」

「んで?こんな時間に何してんだ?」

 

 カルムは、今日の一回戦でジュンに敗北した。そのため、敗北した傷心でここにいた、という可能性もあるが、どうにも目の前の少年が傷心しているようには見えなかった。

 

「今日のバトルのことを思い出していたんです。あのバトルのことをちゃんと覚えて…次に繋げられるように」

「その歳でんなこと考えてるとはな。殊勝な心掛けだ」

「どうですかね。前のカロスリーグでカルネさんに負けてなければ、こうはならなかったかもしれません」

 

 前回のカロスリーグ、カルムはチャンピオンであるカルネに敗北した。結果だけを見れば善戦したと言えるが、その時カルムは自分の強さがいかに脆いものなのかを理解した。トレーナーとして、人としての脆さを実感したカルムだったが、同時にカルネに『己と向き合う』ということを教わり、今日まで欠かさず行ってきた。

 

「カルネさんに言われたことを、しばらく考えてみて、今のオレにできることは『できないことから目を逸らさない』でした。これが正しいのかは分かりませんけど…でも、こうして自分の弱さと向き合うようになってから、なんか…うまく言葉にできないけど、ちゃんと前に進めてる感じがします。成果が出るのはまだ先だと思うけど…きっと、いつか自分を超えられるようになりたいと思ってます」

 

 今の己の限界を知り、向き合うこと。言葉で言うことは簡単だが、それは己の弱さや闇と向き合うことに他ならない。誰しも抱え、目を向けたくないモノに、この少年は自ら歩み寄ることを選んだ。それだけで何かが変わるわけではない。だが、きっとこれがこの先にある強さに辿り着くために必要なものだと、カルムは考えていた。

 この弱さを認めることがどれほど勇気がいるか、カイムは身をもって知っている。かつてカルムと同じ年齢の頃は向き合うことができず、最後は諦めた。シロナに出会わなければ、まず間違いなくそのまま弱さを認めることなく生きてきただろう。この年齢でそれができるカルムに、口にはしないものの、カイムは心からの尊敬の念を向けた。

 

(…殊勝な心がけね。自分で言ってて、耳が痛え)

 

 かつて諦めた過去。己に見切りをつけ、諦めた自分とは大違いなカルムの姿に、ほんのわずかだが内心で苦笑した。

 だが、今は違う。ジムリーダーとして、シロナの弟子として、やるべきことがある。

 

「さっきのバトルの振り返りをしてたってことか」

「はい。あのバトル…今思い返しても、胸が高鳴る思いです。あんなバトル、そうそうできない。やっぱり、ポケモンリーグはどの地方でも最高ですね」

「…悔しくないのか?」

「……悔しいですよ。でも、この悔しさとバトルの記憶がオレを強くする。あいつに負けないためにも」

「あいつ?」

「はい。オレの故郷の友達です。そいつもトレーナーではあるんですけど、バトル専門じゃなくてコーディネーターです。ずっと努力を怠らず、前に進み続けてるあいつに…人として追いつきたい。そう考えながらやってます」

 

 その友達が誰なのかカイムは知らない。しかし、ここまでこの少年を変えることができるとなると、この少年にとって大きな存在なのだろう。

 カイムはそこまで考えると、カルムの隣に腰を下ろす。すると側にいたブラッキーがカイムの足の間に入り、すりすりと顔を擦り付けた。なんだろう、と見つめてくるカルムの視線に気づいたカイムは、ポケットからスマートフォンを取り出した。

 

「バトルの反省するんだろ?お前の主観の記憶も重要だが、客観視点から振り返ると、また違ったモノも見えてくる」

「えっ?」

「こう見えて、ジムリーダーだ。指導くらいできる。お前さえ良ければどうだ」

「っ!はい!お願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カイム、お風呂上がった…って、いないの?」

 

 シロナが入浴を終えて部屋に戻ると、そこにカイムの姿はなかった。スマートフォンを手に取ると、カイムから『散歩してくる』とメッセージが残されている。メッセージの時間を見ると、少し時間が経っていた。散歩にしてはやや長い気もするが、もうそろそろ帰るだろうと考えたところで、外から楽しそうな声が聞こえてくる。ほんの僅かだが、そこにカイムの声が混ざっていることをシロナは聞き逃さなかった。

 声に釣られて外を見ると、カイムと一人の少年がスマートフォンの画面を見ながら何か話しているのが見えた。

 

「ここで次にでんじは入れられたら、この後が有利になるかなって思ったんですよ」

「なるほど、悪くねぇ。でんじは入れることは俺も賛成だが、ここでカウンターのブレイブバード飛んできたら詰むんじゃねえか?」

「ニャオニクスは倒されるかもしれませんけど、ムクホークの素早ささえ奪えれば、起点にできると思ったんで」

 

 カイムの隣にいる少年は、リーグ本戦に出場していたカルムだった。会話の内容を聞いた感じ、先程のバトルの振り返りをしているらしい。

 

「足奪うことはまぁいいが、ムクホークの攻撃力は結構痛い。痺れワンチャンに賭けるのも悪くねぇが、より確実性を持たせる方が堅実になると思うんだが」

「…そうか、おにびで火傷にすることで、攻撃力を下げるのもいいですね」

「おにび役を敢えて対ドダイトスまで温存しておくのも手だがな。そこはお前の好みだろう。ニャオニクスで起点を作りてぇなら、物理タイプのポケモンが多いジュン相手にはリフレクターって選択肢もある」

「ニャオニクスを完全に起点役にするってことですか?」

「それはお前次第だ。だが、ニャオニクスはかなり器用なポケモンだ。起点作成をメインにしつつ、相手を削って行くことくらいやりようによってはできると思うが?」

「…確かに。うん、その通りですね。あ、でもここでムクホークに動かれた場合を考えたら、リフレクターってどうなんですかね」

「そこはムクホークの行動パターン読めば問題ない。動きに何か特徴はねえか?」

「……っ!い、今のとこもう一回!」

 

 どうやらジムリーダーらしく、カルムに指導しているらしい。この姿を見ると、とてもジムリーダー中で最下位レベルの実力とは思えない。

 しばらく見ていたい気もするが、このまま置いてけぼりなのはなんとなく面白くないし、何より長引きそうだったため、シロナは二人に向けて声を上げた。

 

「カイム!」

 

 突如響いた声にカルムは驚き、周囲を見渡す。カイムは声で誰だか理解できていたため、自分の泊まる部屋のある方向に視線を向けた。それに釣られてカルムも同じ方向を向くと、そこにいた人物に驚きで目を見開いた。

 

「なっ、あ…!」

「楽しそうなことしてるわね」

「ああ、まーな」

「私も、混ぜてくれるかしら!」

 

 そう言いながらシロナはベランダから飛び出す。突然の行動にカルムはギョッとするが、カイムは小さくため息を吐きながらモンスターボールを投げた。

 

「頼んだ、ムクホーク」

 

 ボールから出てきたムクホークが、落下を始めたシロナのことを受け止める。うまいこと衝撃を空中で逃す技術は、長いことカイムと長距離通勤していた賜物だろう。

 カイムのムクホークに乗って、シロナは二人の側に着陸する。そしてムクホークを優しく撫でると、二人に向き直った。

 

「どこか行くなら言ってよ」

「メッセ残したろ。そんな長居する気もなかったんだよ」

「その割に、長居してるみたいだけど?」

「しゃーねぇだろ。教えがいのある奴に会っちまったんだからよ」

 

 普段通りのやり取りをするシロナとカイムを前に、カルムは固まっていた。まさかいきなりシロナが登場すると思っていなかったし、登場方法もあまりに規格外すぎた。

 そんなカルムに気づいたシロナは、カルムに優しく笑いかけながら声をかける。

 

「突然ごめんね。私はシロナ。シンオウ地方のチャンピオンよ」

「あ、すみません。突然だったので驚いてしまいました。オレはカルムです。カロス地方から来ました」

「あなたの一回戦でのバトル、見事だったわ。あなたともバトルしてみたかった」

「……オレもです。シンオウ地方最強の貴女と、闘ってみたかった」

 

 もしジュンに勝てていたら、シロナと戦えていた。目の前にいるシロナが、ジュンをも超える実力を有していることもあるが、それ以上にシロナと戦うことで、トップレベルとどれほどの差があるかをより強く実感できる。その機会にたどり着くことすらできないのが、今の自分だとカルムは改めて実感した。

 

「それで?何してたの?」

「一回戦の振り返り。簡単にだがな」

「その割に随分と熱心だったわね」

「職業柄な」

「カルム君はどう?カイムの指導、役に立った?」

「はい、とても。オレ、今まで自分の映像を誰かと見直したことなかったので、すっごく参考になりました。自分で見るだけじゃ気付けないような部分も指摘してもらって…正直、すごく助かりました」

 

 それくらいカイムの指摘は適切だった。主観だけではまず思いつかないような指摘や誘導だけでなく、敢えて答えを言わずにカルムに考えさせることで、本人が納得する形で答えを導き出すことができた。一人ではまず不可能な復習に、カルムは感謝するしかなかった。

 

「ふふ、でしょ?こう見えて教えるの上手いことで評判なのよ」

「この指導力ならそうなるでしょうね。オレ、もっと教わりたいですもん」

「ミオジムに来たらな。今日はここまでだ」

 

 ぶっきらぼうに言うカイムだが、なんだかんだでこの短時間にかなりしっかり指導していた。カイムなりに、カルムに対して色々思うところがあったのだろう。

 

「そうですか。じゃあ、どこかで伺うかもしれません」

「お好きに。ま、来たら色々やってやる」

「素直じゃないわね」

「うるせぇ」

 

 楽しそうに笑うシロナと、仏頂面をするカイム。どんな関係なのかはわからないが、二人の間には確かな絆があるように感じられた。

 カイムは立ち上がると、ブラッキーを抱き上げる。抱き上げられたブラッキーはすりすりとカイムに頬擦りしてくるが、特に気にした様子もなくカルムに目を向けた。

 

「楽しかったぜ。だが、今日はもう遅い。戻った方がいい」

「そうですね、戻ることにします。シロナさん、明日のバトル…楽しみにしてます!」

「ふふ、楽しんでもらえるように頑張るわ」

「はい。ではまた」

 

 そう言ってカルムはニャオニクスを連れて戻っていった。

 その後ろ姿を見送ったシロナは、カイムに視線を向けて問いかける。

 

「随分、丁寧に指導してたわね」

「そうか?」

「ええ。今まで指導してるところを見たの初めてだったけど、かっこよかったわよ。それに、なんだか昔を思い出したわ」

 

 カイムの指導する姿と指導内容は、シロナにとって初めてであると同時にどこか見覚えのあるものだった。まるで、自分がかつて誰かにしたような、そんな姿だったからだ。

 

「かもな」

「ふふ、なーに?自覚あるの?」

「あるさ。誰かさんの指導を基にしてるからな」

「じゃあ、その誰かさんも嬉しく思ってるわね」

「だといいな」

 

 表情を変えないカイムの肩に、シロナは頭を乗せる。そんなシロナを見て、カイムはシロナの肩を抱き寄せた。

 月明かりに照らされながら、二人は月を眺めていた。

 平然とイチャつく二人を見て、ブラッキーは楽しそうに、ムクホークはあまりの甘さに遠い目をしているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、フィールドに続く道でシロナは最後の準備をしていた。選んだ三つのボールが入ったホルダーを腰につけると、髪を纏める。

 

「そろそろ時間だ」

 

 カイムの言葉に、目をフィールド方面に向けた。フィールドからは、既に溢れんばかりの歓声が聞こえてくる。

 小さく息を吐き、立ち上がる。高揚感が既に胸中を満たしていくのがわかった。

 

「カイム。これ、つけてくれる?」

 

 シロナが差し出したのは、カイムの青いリングと共にシロナの赤いリングがつけられたチェーン。昨年と同じように、二人のリングをつけた状態で戦いたいらしい。無論、カイムがそれを断る理由はない。

 

「ああ」

「ありがと」

 

 カイムはチェーンを受け取ると、シロナの首に手慣れた手つきでかけた。シロナは髪を払って具合を確かめると、カイムの方に向き直って両手を広げた。シロナの意図を察したカイムは、シロナの体に腕を回す。シロナもそれに応えてカイムのことを抱きしめた。

 

「…ねえ」

「ん?」

「何か一言、お願いしていい?」

「ふむ」

 

 一瞬だけ考えたカイムは、シロナを離すと真っ直ぐ見つめると、口を開いた。

 

「頑張れ、負けんな。力の限り、楽しめるバトルを」

「任せて」

 

 触れるだけのキスをカイムにし、長い髪を翻しながらシロナはフィールドへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィールドに出ると、歓声が更に大きくなる。夏の日差しだけでなく、トップレベルのバトルで熱くヒートアップした観客の熱気もフィールドを暑くさせていた。今回選ばれたのは、荒野のフィールド。所々に岩がある程度の、変哲のないフィールド故に、トレーナーの腕がダイレクトに勝敗に帰結するフィールドだ。

 だがシロナは、そんな中でも酷く落ち着いていた。フィールドから伝わる熱気も、割れるような歓声も、シロナの集中力を妨げる要因にはならない。シロナの目に映っているのはフィールドと、フィールドを挟んで相対する少年…ジュン。ジュンはシロナの姿を見ると、不敵に笑いかけた。

 

「よーやく戦えるぜ!去年は戦えなかったからな!」

「貴方とのバトルは、これが初めてね」

「ああ!去年はオーバさんに負けちまったからな…でも、あれからめっちゃ修行してきたんだ!今は、誰にも負ける気がしねぇぜ!」

 

 真っ直ぐな、揺るぎない自信が覇気となってシロナの肌を刺す。ヒカリとはまた違うが、鮮烈で鋭い覇気。シロナはこの年代の子供達がどれほど凄まじい才能を持っているのかを改めて実感した。

 

「さあやろうぜシロナさん!オレがあんたを倒して、無敗伝説を終わらせてやる!そんでもって、またダディに挑むんだ!」

「なら…」

 

 瞬間、シロナから凄まじい覇気が放たれた。

 

「超えてみなさい」

 

 言葉と共に向けられた覇気。肌を刺し、押し返してくるような気配に、ジュンは思わず冷や汗を垂らす。バトルタワーで戦ったクロツグの覇気も凄まじかったものの、シロナの覇気はさらにその上をいっていた。この圧力の中では、呼吸すら困難になりそうなほどだったが、ジュンも数多のバトルを経験してきた。この程度で怯むような精神力ではない。

 

『シンオウリーグ二回戦!ジュン選手VSシロナ選手!バトル開始!』

「行くぞムクホーク!オレらの力を見せてやろうぜ!」

「お願い、ルカリオ!」

 

 ジュンはムクホーク、シロナはルカリオを繰り出した。お互い、タイプ相性は等倍。ムクホークの特性『威嚇』が発動するが、ルカリオの特性『精神力』によって無効化された。

 

(ムクホークか…インファイトされると、ルカリオの耐久力じゃあ耐えきれないかもしれないわね)

 

 ルカリオは耐久力の高いポケモンではない。故に、ムクホークの『インファイト』では一撃でやられかねない。それほどまでジュンのムクホークの攻撃力は高い。カイムもムクホークを育成しているため、シロナもムクホークという種族の攻撃力はよく理解している。

 

「ムクホーク!つばめがえし!」

「コメットパンチよ!」

 

 互いの技がぶつかり合い、弾かれる。技の攻撃力故に、若干ムクホークにダメージが入る。

 

「かげぶんしん!」

「!」

 

 ムクホークは高速で動き、無数の残像を生み出す。たくさんの分身はルカリオに的を絞らせない。だがこの程度で動じるルカリオとシロナではない。即座にルカリオは波導感知に知覚を切り替え、ムクホークの所在を割り出した。

 

「見つけたわね?しんそく!」

 

 超高速でルカリオはムクホークに迫る。そのまま連撃を加えようとした瞬間、ムクホークがルカリオに突撃してきた。

 

「ブレイブバード!」

「っ!避けて!」

 

 咄嗟に体が動き、ムクホークの『ブレイブバード』は掠る程度のダメージで済んだ。

 

(…私がかげぶんしんを看破するのを見越しての行動ね。ヒカリちゃんもだけど、この程度は読み切ってくる…わかっていたことだけど、一筋縄ではいかないわね)

 

 ヒカリやジュンのように、天才の領域に足を踏み入れている子供達は、相手のトレーナーの実力を推し量る能力も高い。

 事前データを見たところ、ジュンはヒカリほどの爆発力はないものの、基礎力を用いた力技や自分のやりたいことを押し通すゴリ押し戦法など、己のポケモンの強さを貫き通すやり方が得意だった。それ故に、型の読みは比較的容易だが、絡め手が通りにくい。我が道を行くタイプは、相手の出方に合わせてやり方を変えていくヒカリやシロナとは対照的な戦法といえる。

 

「なら、もっと見せてもらいましょう!ルカリオ、構えて!」

 

 ルカリオは目に波導を集め、構える。『ブレイブバード』の攻撃はまだ終わっておらず、突撃してくるムクホークをルカリオはしっかりと見据えた。

 

「そこだ、ムクホーク!」

 

 ジュンの掛け声と共に、ムクホークはルカリオに突撃すると見せかけてルカリオの上部に旋回し、自身の翼を大きく広げた。

 

「フェザーダンス!」

 

 ムクホークの柔らかい羽毛が、ルカリオの攻撃力を奪う。これで物理攻撃によるダメージは半減、耐久力の低いムクホークでも正面から撃ち合いに興じることができると、ジュンは内心で考える。

 シロナのルカリオは、物理と特殊、両方がバランス良く鍛えられているため、どちらでも戦える。現に、チャンピオンズトーナメントでは、ダイゴ相手に特殊技も多く行使していた。だが、それでもメインはやはり物理なのは変わらない。油断はできないが、武器を一つ奪ったと言っても過言ではないだろう。

 

「ブレイブバードだ!」

「コメットパンチ!」

 

 ムクホークの突撃とルカリオの硬化した腕がぶつかり合い、衝撃がフィールドに響く。攻撃力の下がったルカリオは若干だが押され、僅かにダメージが入る。

 僅かにのけぞったことで、ルカリオにほんの僅かだが隙が生まれる。その隙をジュンは見逃さなかった。

 

「つばめがえしで打ち上げろ!」

 

 高速の二連撃が、ルカリオの体を少しだけ宙に浮かせる。それによってルカリオは足の踏ん張りが効かなくなり、一瞬無防備になってしまう。

 

「掴んで、空に放り投げろ!」

 

 その隙を突いて、ルカリオはムクホークに掴まれて空に放り投げられる。ルカリオは空中では身動きが取れない。隙だらけになったルカリオに、ムクホークが肉薄した。

 

「吹っ飛ばせ!インファイト!」

 

 鋼タイプを持つルカリオに、『インファイト』は効果抜群。シロナのルカリオといえど、耐久力はそこまで高くない。モロに受ければ、やられてしまうだろう。

 しかし、ジュンはここで勝ちを確信しなかった…いや、できなかったというのが正しいだろう。ルカリオの目が、何かを狙っているようにしか思えなかったからだ。

 

「はどうだん!」

 

 ムクホークの攻撃に合わせ、ルカリオは凝縮した波導をムクホークにぶつけた。破裂した波導の勢いで、ルカリオとムクホークは互いに弾かれる。

 だがルカリオはまだ空中。ここから追撃ができると判断したジュンは即座に行動に移す。

 

「ブレイブバード!」

 

 安全性度外視の高威力突撃がルカリオに襲い掛かる。ルカリオの着地と同時に着弾することを本能的に察知したジュンの行動は、まさに最適解といえただろう。

 

 相手がシロナのルカリオでなければ。

 

「しんそく」

 

 着地から着弾までの、コンマ1秒にも満たない僅かな時間。その僅かな時間で、ルカリオの速度は最高速度まで上昇した。そしてこの一瞬で、ムクホークの攻撃の直撃を回避しつつ、目にも止まらぬ連撃を加えた。互いにダメージを受けたが、直撃を避けたルカリオのダメージは思いの外少ない。同時に、攻撃力の下げられたルカリオの攻撃では、ダメージも大きくない。

 

「さすがだぜ!だが、ダディ相手に特訓してきたオレ達なら超えられる!つばめがえし!」

「コメットパンチで受けて!」

 

 ムクホークの鋭い攻撃を、硬化させた腕で受ける。鋼の力を纏わせた腕で防いだおかげで、ダメージは最小限に抑えられた。

 攻撃したムクホークとガードのみのルカリオ。ほんの僅かだが、ムクホークの隙が大きくなる。その僅かな隙に、ルカリオはムクホークに詰め寄った。

 

「はっけい!」

 

 両腕に波導を纏わせ、強烈な衝撃をムクホークの体内に撃ち込む。波導の感知力が非常に高くなっているルカリオは、的確にムクホークの体の芯を撃ち抜いた。体の芯を撃ち抜かれたムクホークは、ダメージの少なさとは裏腹に、行動が一瞬止まってしまう。麻痺にはならなかったが、この一瞬無防備になる瞬間をシロナは見逃さない。

 

「インファイト!」

 

 ルカリオの連撃がムクホークに叩き込まれる。大きなダメージを受けるが、『フェザーダンス』によってルカリオは攻撃力が下げられている。ムクホークはギリギリ耐え切ることができた。

 

「まだ負けてねえ!ムクホーク!ブレイブバード!」

「コメットパンチ!」

 

 『ブレイブバード』と『コメットパンチ』がぶつかり合い、衝撃波が広がる。また相打ちかと思われたが、ムクホークは打点を僅かにずらし、ルカリオの『コメットパンチ』を受けながらもルカリオに突撃を喰らわせた。威力は落ちたものの、ルカリオにダメージを与えるには十分な一撃。

 しかしルカリオはダメージを受けながらも体勢は崩さない。鍛え上げられた体幹は、不十分な威力しか出ていない『ブレイブバード』程度で崩されることはなかった。

 

「まだだ!つばめがえ…」

「トドメよ。バレットパンチ!」

 

 『つばめがえし』が出るよりも一歩早く、弾丸の如き素早い拳がムクホークを貫く。この『バレットパンチ』はムクホークの残り体力を消し飛ばし、完全にダウンさせた。

 

『ムクホーク戦闘不能!』

「くっそー!マジかよー!」

 

 ジュンは悔しそうに地団駄を踏む。結果だけ見ればシロナの圧勝に見えるかもしれないが、ルカリオにはかなりのダメージが入っている。ルカリオは肩で息をしているため、消耗の度合いも大きいことが傍目にもわかった。

 

「…さすがに、強いわね」

 

 己のやり方を貫く。言うことは簡単だが、これを最後まで貫き通すことができるトレーナーは、案外少ない。必ずどこかで相手に合わせた動きになってしまうからだ。無論これ自体は決して悪いことではなく、むしろ当たり前のこと。シロナのようなトップトレーナーですら、そうなのだから。

 だがジュンは、相手の動きに最低限合わせつつ、ムクホークの強みである高い攻撃力と素早さを押しつけてきた。相手の動きに合わせる前に、己のやりたいことを全部押し付けるという、まさにゴリ押し戦法。脳筋に思えるし、事実脳筋ではあるが、ジュンレベルのトレーナーがこれをやるとらそれだけでほとんどのトレーナーがやられる。恐らく、ジムリーダー未満の実力を持つ者ならば、これだけで勝つこともできるだろう。

 しかし、シロナのようなトップトレーナーにはそうもいかない。どんなやり方にも、必ず弱点がある。それすらもゴリ押しでカバーできるかもしれないが、シロナほどの強さに厚みのあるトレーナー相手では、普段のようにはいかない。

 

「まだまだぁ!こっからがオレ達のバトルだ!次ダディに挑むまで、オレ達は負けない!いくぞ、カビゴン!」

 

 そう叫びながら、ジュンはカビゴンを繰り出す。

 そんなジュンを見ながらシロナは小さく息を吐くと、視線を鋭くしつつ、僅かに微笑んだ。

 

「素晴らしい才能ね。でも、まだ若い」

 

 次の瞬間、ジュンどころかフィールドエントランスから見ているカイムにすらわかるほど、強い覇気がシロナの体から放たれる。

 

「まずは、世界の広さを知るところからね」

 

 シロナの覇気に、ジュンは身震いをしながらも、己の目標である父親の後ろ姿を思い描き、再び己が目的を再確認すると共に、心の炎を一層強く燃え上がらせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドダイトス!じしんだ!」

 

 ドダイトスの放った衝撃波が、ミロカロスを貫く。よく耐えてきたが、タイプ相性の悪さもあり、ミロカロスは倒れた。

 

『ミロカロス戦闘不能!』

「やりぃ!あと一体だ!」

「お疲れ様、ミロカロス。素晴らしい動きだったわ」

 

 シロナはミロカロスをボールに戻しながら労う。

 ドダイトスの体力は、残り六割。タイプ不一致とはいえ、『れいとうビーム』を覚えていたことで、ドダイトスの体力を多く削ることができた。しかし、さすがに本戦出場者と言うべきか、苦手タイプへの対処も一級品だった。

 

「さて、残り一匹ね。お願い、ポリゴンZ!」

 

 シロナが選んだのは、ポリゴンZ。シロナの手持ちの中では比較的新参者ではあるが、その火力はシロナの手持ちの中でトップクラス。奇妙な動きが多いが、非常に高い精度での行動ができるため、ガブリアスに代わり、時折エースとしてバトルに繰り出される。

 

「いくぜドダイトス!ここまできたんだ!絶対勝ってダディに挑むぞ!じしん!」

「でんじふゆう!」

 

 ドダイトスの衝撃波を『でんじふゆう』によって無効化する。空中に出たこの僅かな時間を使い、ポリゴンZは更に行動した。

 

「リフレクターよ」

 

 ポリゴンZの周辺に『リフレクター』が展開される。ポリゴンZの弱点である物理防御の脆さが、これによって補強された。

 

「関係ねぇ!ガンガン押していくぞ!ストーンエッジ!」

 

 岩の刃がポリゴンZに向けて突き出てくる。『リフレクター』を展開した隙を突いて撃ってきたため、ポリゴンZは回避ができない。しかし、『リフレクター』の効果でダメージは半減。大したダメージにはならなかった。

 

「シャドーボール!」

 

 空中で受け身を取り、連続して『シャドーボール』を放つ。咄嗟にドダイトスは『ウッドハンマー』で攻撃を迎え撃つが、全てを撃ち落とすことはできない。何発か受けてしまい、体力が削られる。

 

「くらえ!ウッドハンマー!」

「!」

 

 しかしドダイトスは受けた攻撃に怯むことなく、ポリゴンZに迫る。あまり素早くないドダイトスだが、連続して攻撃を放ったポリゴンZに大きな隙が生まれてしまい、ドダイトスが接近する時間を与えてしまった。

 巨木の戦鎚がポリゴンZに叩きつけられる。『リフレクター』があったとしても、素の物理防御は脆い。一気に体力が削られ、形勢が逆転した。

 だが、この程度で狼狽えるシロナではない。『でんじふゆう』の効果で空中に留まれる副作用により、空中でポリゴンZが素早く体勢を立て直したことを察知すると、即座にオーダーを出す。

 

「れいとうビーム!」

「っ!アイアンテールだ!」

 

 冷気のビームを硬化させた尻尾で弾く。しかし、弾いたとはいえ特攻が非常に高いポリゴンZの攻撃。ダメージは少なくない。

 ポリゴンZが『れいとうビーム』を覚えている以上、長期戦は不可能と瞬時にジュンは理解する。耐久力に自信があっても、このままでは押し切られると即座に判断した瞬間、動いていた。

 

「ストーンエッジ!」

 

 咆哮と共に、岩石の刃がポリゴンZを狙う。元より命中精度の粗い技故に、ポリゴンZは『でんじふゆう』をうまく駆使しながら『ストーンエッジ』を紙一重で回避していった。直撃すれば、ピンチ、または敗北濃厚な空気に、シロナは思わず笑う。

 

「これよ、この空気!素晴らしいわ!」

 

 互いの覇気と維持のぶつかり合いが生む、張り詰めた空気。トレーナーとしてシロナが好む時間だった。

 『ストーンエッジ』を紙一重で回避しつつ、生まれた隙に攻撃を叩き込む。それこそが、シロナのできる逆転の一手。

 

(そう思ってんだろ⁈狙い通りだよ!)

 

 だが、これはジュンの狙い通りの展開だった。

 攻撃を回避していくポリゴンZだが、突如回避の動きが止まる。眼前に、岩の壁があったからだ。

 

「ストーンエッジの壁…!」

「逃げ場はねぇぞ!トドメだドダイトス!」

 

 ジュンが『ストーンエッジ』でポリゴンZを攻撃し続けたのは、ギリギリで回避できていると思わせるためだった。元より命中精度が粗いため、回避できていると思い込ませることは簡単。その前提条件を逆手に取り、ポリゴンZを追い詰めた。

 一瞬とはいえ、足を止めたことで回避に移れない。この渾身の一撃が決まれば、間違いなくポリゴンZは倒れる。

 

「いくぜ!ギガイン…」

 

 ドダイトス渾身の『ギガインパクト』を放とうとした瞬間、シロナの顔が見えた。その目に宿る光は焦りではなく、闘志を宿したものだった。

 これを見た瞬間、ジュンは何かを感じ取る。そして、自分が逆に追い込まれたことを悟った。

 

「ポリゴンZ」

 

 追い詰められたはずのポリゴンZに、凄まじいエネルギーが溜まっているのを感じる。凝縮されたエネルギーは、ドダイトスに向けて一気に放たれた。

 

「はかいこうせん!」

「ウッドハンマー!」

 

 互いに持つ技の中で、最高火力の一撃が放たれる。巨木の戦鎚と破壊の一撃がぶつかり合い、フィールド全体が爆発した。

 

「ぐっ、うう…」

「………」

 

 あまりの衝撃に、ジュンは思わず目を閉じる。対してシロナは、砂煙をものともせず、真っ直ぐフィールドを見つめていた。

 爆煙が晴れると、そこには倒れたドダイトスと、相変わらず壊れた機械のような動きをするポリゴンZがいた。

 

『ドダイトス戦闘不能!よってこのバトル、シロナ選手の勝利!』

 

 湧き上がる歓声を聞きながら、シロナは大きく息を吐いた。緊張の糸が切れ、吹き出してきた汗を拭いながら、ポリゴンZをボールに戻す。そして負けたことが悔しいのか、地団駄を踏むジュンに歩み寄った。

 

「なんだってんだよー!オレ、また負けちまったー!」

「いいバトルをありがとう、ジュン君。とても強かったわ」

「くっそー!悔しい!シロナさんに勝って、ダディにまた挑戦するつもりだったのによー!」

 

 どんな時でも、己の目標を見失わない。それは非常に美徳である。シロナ自身、そういう部分は好意的に捉えているが、同時に危うさも感じていた。

 

「ジュン君、貴方のその目標を持つ心はとても素晴らしいと思う。でもね、戦っている時に相手を見ないことは、相手を侮り、見下していると捉えられるかもしれない。バトル中は、あまり言い過ぎない方がいいと思うわ」

「えーっ⁈そうなのか⁈で、でもオレ、侮ってなんかいないぞ!」

「わかってるわ。でも、そういう人もいるって覚えておくといいわよ。変なトラブルも避けられるしね」

「うう…わかった。これからは気をつけるよ」

「それがいいわ」

 

 そう言ってシロナはジュンに手を差し出す。ジュンは少し照れくさそうにしながらシロナの手を取り、握手を交わした。

 

「ありがとうシロナさん。負けて悔しいけど、これでまたダディに近づけた気がする」

「ええ、この敗北を糧に、目標に近づいていきなさい。貴方ならきっとできるわ」

「うん。オレ、いつかシロナさんもダディも超えるトレーナーになる!だから、またバトルしてくれよな!」

 

 ジュンの目には、闘志をたぎらせた光が宿っており、ちゃんとシロナのことを見ていた。そんな希望に満ちた光を見て、シロナはふっと口元を緩める。

 

「もちろん。いつでも受けて立つわ」

「言ったな!嘘ついたら罰金だかんな!」

 

 そう言って二人はそれぞれが入場してきたゲートへと戻っていく。最高の遊び場(フィールド)から聞こえる歓声を受けながら。

 

 

 

 

 シロナがゲートからバックヤードに戻ると、カイムが待っていた。

 

「ん、おつかれ」

「ありがと」

 

 カイムからタオルを受け取り、滴る汗を拭う。全力を出した反動か、それなりに疲労感が来ていた。そのままボトルに入った水を飲むと、冷たい水が体を通っていくのを感じる。

 

「強かったか」

「ええ。でも、あれはまだ発展途上ね。まだまだ伸び代があるわ」

「羨ましいこって」

 

 あの年齢でこの実力。これから先まだ伸びていくだろう。それは側から見ていたカイムにもわかることであった。

 

「鍛えてあげたら?」

「ありゃ、俺の手に負えないタイプだ。俺が何しようが、勝手に強くなるだろうよ」

「ふふ、そうね。あの子、貴方の話聞かなさそう」

 

 シロナは笑いながらタオルをカイムに渡す。カイムはそれを受け取ると、手を差し出してきた。カイムの意図がわからず、シロナはカイムの手を取るが、それを見てカイムは苦い顔をする。

 

「違え。ポケモンセンター持ってくから、ボール寄越せって意味だ」

「あ、そっちね」

 

 納得したようにシロナは言うが、カイムの手を離そうとはしない。それどころか強く握ってきていた。

 

「…おい」

「いいでしょ?バックヤード出るまで、充電」

「………好きにしろ」

 

 これは聞きそうにないな、と内心でため息を吐きながらも、カイムはシロナの手を握り返す。

 その後、やたら上機嫌でバックヤードを出てきたシロナをスタッフ達が目撃したのだが、その理由を知る者はごくわずかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、準決勝の戦いを二人は神妙な顔つきで見ていた。対戦カードはパルデアリーグ所属のアオキと、四天王ゴヨウ。ムクホークの攻撃をエルレイドが受け止め、返しの『インファイト』がムクホークを貫く。この攻撃でムクホークはダウンし、勝敗が決した。

 

「…決勝はゴヨウか」

「ええ」

 

 シンオウ四天王では最強と言われるゴヨウ。リーグや大会で何度も手合わせしているが、彼の実力は本物。とても手を抜けるバトルは一度もなかった。ここで勝ち抜き、決勝戦に進めたとしても、昨年同様厳しい戦いになるだろう。

 無論、決勝戦に進めれば、であるが。

 

「その前に、まずは決勝戦に進めないとね」

「だな」

 

 準決勝の相手はキクノ。地面タイプのエキスパートであり、かつてシロナに地面タイプの極意を教えたトレーナー。当然だが、今回も厳しいバトルになるだろう。

 

「対策は?」

「愚問ね」

「だろうな。なら、あとはやりたいようにやるだけだ」

「ええ、そうね。胸を借りるつもりで挑むわ」

 

 チャンピオンという立場ではあるが、キクノは大ベテラン。強さの厚みという意味では、シロナすら凌ぐ。まぐれや思いつきによる爆発力だけでは、到底勝てない。

 だからこそ燃える。大地の如き堅牢な実力…それを越えてこそのチャンピオンだ。

 

「行きましょう」

 

 レザージャケットを肩にかけると、シロナは立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バックヤードにて、二人はフィールド整備が終わるのを待っていた。ベンチに腰掛け、カイムの肩に頭を乗せたまま、シロナは覇気を静かにたぎらせていく。

 

「随分、気合入ってんな」

 

 覇気を察知したカイムは、シロナに言う。シロナは少しだけ考えると、小さく笑ってカイムの肩に顔を埋めた。

 

「かもね。私の手持ちで一番付き合いの長いガブリアスが、キクノさんの指導を受けたからかしら」

「そういや、そんなこと言ってたな」

「昔からキクノさん、鑑識眼が鋭いのよ。そこだけなら、多分私以上。だからチャンピオンになる前に、少しだけ指導を受けたわ」

「へえ…お前以上たぁ、さすが大ベテラン」

「ガブリアスもキクノさんに思い入れがあるの。だからかしらね。ちょっと、昂ぶってる」

 

 かつての恩師を超える。何度かキクノとはバトルして、勝ち越しているため既に超えているとも言えるが、そうではない。強さだけでなく、トレーナーとして、人としてキクノという人物を超えたい。シロナはそう思っていた。

 

 このタイミングでフィールドの整備が終了する。ランダムに選ばれた次の対戦フィールドは、湿地。地面タイプとの相性は悪くないが、水タイプの方が恩恵は大きい。選抜したメンバー次第では、大きく戦法を変える必要も出てくるだろう。

 

「…そろそろいくわ」

「ああ」

 

 シロナは一瞬だけ、カイムを強く抱きしめる。カイムの体温と匂い、息遣いがシロナの昂る心を落ち着かせ、集中力を高めていく。

 

「いってくる」

「かましてこい」

「…ええ!」

 

 高い集中力を維持したまま、覇気を強くする。凄まじい気迫と共に、シロナはフィールドへと足を踏み入れていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィールドで相対した老婆は、非常に強い日差しを受けながらも平然とした涼しい表情でシロナを待っていた。

 

「ふふ、ここでお会いできて嬉しいわ。こうして戦えるのを待っていたのよ」

 

 言葉には、静かだが確かな闘志が宿っている。覇気の強さは、大ベテラン故の力強さがあった。

 

「私もです。お世話になったキクノさんと、こうして戦えることは何度やっても嬉しく思えます」

「あらあら、そう言ってもらえると嬉しいわ」

 

 キクノは柔らかく微笑むが、そこから発せられる覇気の強さはやはり四天王レベル。僅かな隙も見られないほど堅牢で静かな覇気だった。

 

「もう少し話していたいところだけど、これ以上は必要無さそうね」

「はい。語る必要はありません。相棒を通して私たちは心を通わせられる」

「そうね。じゃあ始めましょう」

 

 その瞬間、二人の覇気がぶつかり合う。覇気は周囲の空気をビリビリと揺らし、観客席にもその緊張感を伝えるほどだった。

 

『キクノ選手VSシロナ選手!バトル開始!』

「よろしくね、グライオン!」

「お願い、トリトドン!」

 

 キクノはグライオン、シロナはトリトドンを繰り出す。水タイプを持ち、サブ技に氷タイプの技を覚えられるトリトドンが若干有利になるが、メイン技である地面タイプの技が通らない。加えて、グライオンは高い素早さからの攻撃を仕掛けられるため、対面的には五分五分といったところだろう。

 

「グライオン、じしん」

「なみのり!」

 

 グライオンの放った衝撃波と、トリトドンの波がぶつかり合い、相殺される。

 

「つるぎのまい」

「れいとうビーム!」

「それはまずいわ。中止、回避して」

 

 グライオンは卓越した身体運びでトリトドンの攻撃を回避、それと同時にトリトドンに肉薄した。

 

「シザークロス」

「ねっとう!」

 

 互いに攻撃が直撃する。効果抜群のグライオンには大きなダメージが入るが、トリトドンにはそこまで大きなダメージはない。

 

「…さて、厄介ね。一度下がって」

「逃がさないで!ヘドロばくだん!」

 

 毒の塊をグライオンに向けて放つが、グライオンはひらりと回避。距離を取ると、ハサミで何かを取り出したのが見えた。

 

「っ!まずい!」

「なげつける」

 

 グライオンが何かをトリトドンに向けて投げつけた。ダメージそのものはほとんどないが、その瞬間、トリトドンの全身を猛毒が襲う。

 

「しまった、どくどく玉!」

 

 どくどく玉は、持たせたポケモンを猛毒状態にさせる道具。普通に使えばデバフにしかならないが、特性により猛毒状態がバフになるポケモンも一部存在する。特性『根性』のように状態異常の時に効果を発する特性を活かす際には、使われることもある。また、効果が適応されるまで、僅かに時間があるため、効果が発揮される前に『トリック』などで相手に押し付ける、ということも可能。

 グライオンの特性に『ポイズンヒール』というものがある。この特性は、毒・猛毒状態の時、徐々に体力を回復するというもの。これにより体力を回復できるだけでなく、他の状態異常にならないという効果もあるため、非常に強力な特性だった。

 

(トリトドンの持ち物は達人の帯…一応じこさいせいで回復はできるけど、猛毒が回り切ればまず回復が間に合わなくなる。そうなった場合、押し切られて終わり。できれば『とける』を積んで粘り勝ちしようと思ったけど、これは無理そうね)

 

 トリトドンは攻撃もできるが、耐久寄りの鍛え方をしている。防御力を上げつつ『じこさいせい』で粘り、確実に勝利を取りに行くスタイルが得意だ。

 しかし、猛毒状態では防御力を上げている余裕はない。速攻で決める必要性が出てきた。ならば、とシロナは瞬時に切り替え、戦術を組み立てる。

 

「がんせきふうじ!」

「シザークロスよ」

 

 トリトドンが投げつけてきた岩石を、グライオンは難なく砕く。一瞬だけグライオンの視界が岩石で遮られるが、トリトドンの素早さでは不意打ちを受けることはない。攻撃を仕掛けようとグライオンが動き出した瞬間、大量の水が降り注いできた。

 

「あまごい」

 

 トリトドンが雨を降らせる。元より湿地のフィールド故に、水気がさらに高くなった。とはいえ、浮遊しているグライオンの機動力に変化はない。水タイプの技威力が上がることは厄介だが、グライオンの機動力ならどうとでもなる。

 

「グライオン、つるぎのまいよ」

「なみのり!」

 

 グライオンはトリトドンの放った波を飛び上がることで回避すると、空中で『つるぎのまい』を行って攻撃力を上昇させた。

 

「みずのはどう!」

「シザークロス」

 

 トリトドンの攻撃を切り裂いて切り抜けると、そのままトリトドンに肉薄していく。そして目の前に迫ったところで、目にも止まらぬ速さでトリトドンに攻撃した。

 

「アクロバット」

 

 持たせていた『どくどく玉』を投げつけたことで身軽になったグライオンの『アクロバット』は、威力が上がっている。大きなダメージがトリトドンに入るだけでなく、毒のダメージもある。トリトドンの体力は残り少ない。

 

「ねっとう!」

 

 だが攻撃直後の隙を突いて、トリトドンは『ねっとう』でグライオンに反撃する。雨の効果もあり、威力の増加した攻撃はグライオンに大きなダメージを与えた。

 

(やるわね…あんな僅かな隙を攻撃してくるなんて、さすがとしか言えないわ)

 

 ダメージの割合だけなら、グライオンの方が大きい。しかし、グライオンは特性『ポイズンヒール』によって徐々に体力が回復していく。対してトリトドンは、猛毒により体力がどんどん削られている。このままいけば勝てるだろうが、シロナはそんな甘いトレーナーではない。

 

「グライオン、一度下がりなさい」

「トリトドン、れいとうビームよ!」

 

 トリトドンの氷のビームを、グライオンは持ち前の素早さで低空飛行しながら回避していく。トリトドンの狙いは正確で、とてもグライオンが接近する隙がない。

 

「でも、反撃する隙がないとは言ってないわよ。ストーンエッジ」

 

 岩の刃が地面から突き出し、トリトドンを貫く。軟体動物のように体をぬるりと動かすことで受け流し、直撃は避けたためダメージは少ない。

 しかし、そろそろ猛毒が全身に回ってくる。トリトドンが倒れるのも時間の問題。どこかで接近し、致命の一撃を喰らわせたい。

 そう考えた瞬間、トリトドンの攻撃が止まる。どんな技も出し続けることはできない。そのインターバルがここで来たとキクノは瞬時に察知した。

 

「ここよグライオン。アクロバット」

 

 グライオンが高速でトリトドンに肉薄する。ここでトドメを刺す、という気概が乗った攻撃は、的確にトリトドンを貫こうとした。

 

「これを待っていたのよ!なみのり!」

 

 獰猛な笑みを浮かべる。同時に、トリトドンの足元から大量の波が発生した。

 

「!」

 

 咄嗟にグライオンは『アクロバット』の機動力で下がるが、僅かに波を受ける。この程度なら動きに支障はない。同時に反撃しようとするが、その瞬間、キクノとグライオンは己の失策を悟った。

 

「しまっ…」

「れいとうビーム!」

 

 まだ『なみのり』の波が展開されている中、トリトドンの『れいとうビーム』が波を凍らせていく。凍らせた波はグライオンの逃げる道を奪い、冷気が動きを鈍らせる。

 逃げきれない。そう悟ったキクノは、ここでトリトドンを倒す選択に切り替えた。

 

「じしん!」

 

 強烈な衝撃波が、周囲に放たれる。衝撃波は凍った波を砕きながらトリトドンに迫るが、凍った波が衝撃波を弱め、速度を遅くした。トリトドンは『じしん』の衝撃を受けながらも凍った波の隙間をうまく移動し、グライオンに迫った。

 

「ねっとう!」

 

 熱された水がグライオンを貫く。大きなダメージを与えつつ、凍った波を熱で溶かし、溶かされた波がグライオンに追撃のダメージを与えた。大きなダメージはグライオンの体力を削り切った。

 

『グライオン戦闘不能!』

 

 歓声と共に、キクノはグライオンをボールに戻す。途中までは完全にキクノのペースだったが、一瞬で形成を入れ替えられた。途中から、シロナが組み立てた戦術に見事にハマっていたらしい。

 

「…途中までこっちのペースだったのだけれど、うまくやられたわね」

「自分がやりたいことができている時が、最も警戒する瞬間。かつて、貴女が言っていたことです」

「ふふ、警戒を怠っていたつもりはなかったけど…さらに上を行かれたわね」

 

 キクノとて、警戒を怠っていたわけではない。ただ、シロナの動きがキクノの警戒網の上をいっただけだ。

 

「これでこそよ。ああ、やっぱり楽しいわね」

 

 楽しげに笑うキクノに、シロナも思わず笑い返す。

 そしてキクノは次のボールを手に取り、天高く放り投げた。

 

「さあ、まだまだここからよ。お願いね、カバルドン」

 

 キクノとの戦いは、激化していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カバルドン、じしん」

「ヘドロばくだんで飛んで!」

 

 『じしん』の衝撃波を『ヘドロばくだん』の爆風を利用して、ロズレイドは高く飛ぶ。完全に回避はしきれないが、大幅にダメージを減らすことはできた。

 

「リーフストーム!」

 

 強烈な草タイプエネルギーの嵐が巻き起こる。砂嵐を突き破り、カバルドンを貫いた。これでカバルドンの体力はゼロになったが、最後の力を振り絞ってロズレイドに迫る。

 

「カバルドン、10まんばりき」

 

 カバルドンの攻撃がロズレイドを捉えた。物理防御の弱いロズレイドは大きなダメージを受け、吹き飛ばされる。転がったロズレイドが止まる頃、ロズレイドの意識はなかった。それを見届けたカバルドンも、力なく地面に倒れ伏す。

 

『カバルドン、ロズレイド、共に戦闘不能!』

「してやられましたね」

「ふふ、これでイーブンね。まだまだここからよ」

 

 楽しそうにするキクノの強さを改めて実感する。卓越した戦術に、シロナをも超える鑑識眼、そしてどんな状況でも決して動じることのない、大地のごとき精神力。例え予想外だとしても、動じることなく次の一手を指すことができる。この精神力こそが、キクノを支える強さの一因だった。

 

「さて…こうなると思っていたわ」

「私もです。貴女相手は、必ずこうなります」

「じゃあ、最後の戦いを始めましょう。ドサイドン、出番よ」

「貴女の力を見せる時よ。いって、ガブリアス!」

 

 キクノはドサイドン、シロナはエースのガブリアスを繰り出す。相性としてはややガブリアスに軍配が上がるが、ドサイドンの特性『ハードロック』と防御力を考慮すると、そこまで大きな差にはならない。何ならサブウェポンで氷タイプの技を覚えるドサイドンの方が有利に試合を運べるかもしれない。

 そう考えたシロナは、胸元のポケットからブローチを取り出す。そのブローチは、シロナがチャンピオンズトーナメントで見せたものと同じものだった。

 

「……やはり、そうくるわよね」

 

 ドサイドンの防御力と特性を考慮すると、物理メインのポケモンがドサイドンを突破するのは厳しい。なら特殊技メインの…例えばミロカロスなどで攻めることができれば、突破は容易になるかと言われれば、否である。キクノはカバルドンの『砂起こし』を使って砂嵐の中、バトルを進めることがほとんど。砂嵐は岩タイプのポケモンの特防を上昇させる効果があるため、想定よりも特防が高くなる。そこに持ち物で『突撃チョッキ』と特性『ハードロック』を加えると、特防が低いドサイドンでもかなりの特防になる。火力が低めで耐久力が売りのミロカロスでは、少々攻め手に欠ける。ロズレイドならば突破可能だろうが、物理防御が低いロズレイドでは、ドサイドンの攻撃を一撃耐えることも厳しい。加えて、砂嵐によるスリップダメージもある。長く戦うことはできない。

 そうなると、砂嵐の効果を受けず、ドサイドンと正面からやり合える耐久力を持つポケモンが必要となる。シロナの手持ちでそれが可能なのは、トリトドンとガブリアスくらいだ。できることならトリトドンをぶつけたかったが、これに関してはキクノの選出順番が関係してくるため、どうしよもなかった。

 結果、シロナが導き出した答えはガブリアスにメガシンカを使うこと。こうすることで、単純なパワーアップだけでなく、特性『砂の力』を発動させることもできる。

 

「貴女のドサイドンを突破するには、これが最善だと思ったんです」

「そうでしょうね。シロナさんは、いつも、誰が相手でも最高の一手を探し続けてる。貴女なりに考えた結果、ということね」

「はい。私たちの全力を、かつての師である貴女に見せます!」

 

 シロナのメガストーンとガブリアスのキーストーンが共鳴する。光はガブリアスを包み込み、光の繭と化した。そして光の繭を打ち破り、禍々しく進化したガブリアスが咆哮と共に姿を見せた。

 

「これが、メガシンカ…凄まじいわね」

 

 キクノの顔から笑顔が消え、鋭く真剣な表情になる。メガストーンが産出されないシンオウ地方でメガシンカを見ることは稀。さすがに何度かメガシンカ使いを相手にしたことはあるが、ここまでの覇気を持つトレーナーがメガシンカを使うのは初めて。その事実が、キクノの闘志をより引き出し、かつての若かりし頃抱いていた『勝ちたい』という激情を駆り立てる。

 

「これを超えたら…きっとわたしたちはもっと強くなれるわよ、ドサイドン。さあ、ここが正念場…いくわよ!じしん!」

「こっちもじしんよ!」

 

 同時に放たれた衝撃波は、フィールド中央でぶつかり、相殺された。その時の衝撃でフィールドは無惨な姿に変わり、中央に大きな地割れができた。

 

「ドリルライナー!」

「ドラゴンクロー!」

 

 ドサイドンのツノをガブリアスのツメが受ける。威力は拮抗していたが、互いに弾かれた。

 

「アイアンヘッドよ!」

「がんせきふうじ!」

 

 ガブリアスは頭を硬化させ、ドサイドンが投げつけてきた岩石を砕きつつ、ドサイドンに頭突きを喰らわせる。岩タイプを持つドサイドンに効果抜群だが、特性と持ち前の防御力故に、ダメージは少ない。

 

「メガホーン!」

「げきりん!」

 

 ドサイドンのツノがガブリアスを突き、ガブリアスの一撃がドサイドンを弾き飛ばす。防御力が高いドサイドンにダメージは少ないが、ドサイドンの防御力を持ってしても、ここまでダメージが貫通してくる事実は、キクノにガブリアスの攻撃力の高さを実感させるのに十分すぎた。

 

「あまり長丁場には、出来なさそうね」

「ガブリアスの攻撃力ですから」

「ふふふ、いいわね。ドリルライナー!」

「打ち破って!」

 

 ドサイドンの『ドリルライナー』と『げきりん』によって強化されたガブリアスの爪がぶつかり合う。技威力が僅かに上回っていたため、ガブリアスの攻撃がドサイドンに突き刺さった。

 

「そこよ、捕まえて」

 

 ドサイドンは自身に突き刺さったガブリアスのツメを捕まえる。強靭な腕に掴まれたガブリアスは一瞬動きを止めた。いくら『げきりん』で強化されているとはいえ、ドサイドンの膂力はポケモンの中でトップクラス。ガブリアスといえど、簡単に抜け出すことはできない。

 

「アームハンマー!」

 

 ドサイドンの剛腕が、ガブリアスを叩き潰す。巨岩のような腕の一撃は、通常なら耐えることなどできない。しかし、メガシンカにより耐久力も上昇したガブリアスならば、攻撃を耐え、反撃を加えることも可能。

 

「アイアンヘッド!」

「もう一撃よ」

 

 硬化させた頭と、強化した剛腕がぶつかり合う。強烈な一撃は互いを弾き、距離を取らせた。

 この瞬間、ガブリアスの『げきりん』状態が解除される。理性を飛ばすことなく肉体を強化させることが可能なガブリアスだが、それでもスタミナは大きく消費する。解除された一瞬、動きが鈍ったことをキクノは見逃さなかった。

 

「じしん!」

 

 強烈な衝撃波がガブリアスを襲う。咄嗟に身を引きつつ、上に飛ぶことで衝撃を軽減させたが、ダメージはある。攻撃力は互角レベルだが、思いの外被弾が多い。

 

「つるぎのまい!」

 

 だがここでガブリアスが動く。『つるぎのまい』で攻撃力を上昇、突破力をさらに上げてきた。今の被弾は『つるぎのまい』を確実に積むための布石。元々高い攻撃力がさらに上昇したとなれば、ドサイドンの防御力でも長くは保たない。

 

「これはまずいわね」

「さあ、殴り合いの時間よ!アイアンヘッド!」

「アームハンマー!」

 

 再び技同士がぶつかる。先ほどは相殺されたが、攻撃力を上げたガブリアスがドサイドンの『アームハンマー』を打ち破った。

 

(…突撃チョッキを持たせたことが仇になったわね。これでは、こちらもつるぎのまいで攻撃力を上げて撃ち合うことができない)

 

 ガブリアスの攻撃力は『つるぎのまい』だけでなく、『砂の力』でも強化されている。砂嵐によってシロナの選出を縛ることは成功したものの、この現状を利用されてシロナのやりたいようにやられている。

 だが、こうなることもキクノの想定内。少々難しいが、このまま殴り合いに持ち込む方が、キクノの切り札を出すには都合がいい。

 

「さすがに、簡単にはいかないわね…!」

「私たちはまだまだこんなものじゃないですよ!じしん!」

「メガホーン!」

 

 ガブリアスの放った衝撃波を受けつつ、ドサイドンはツノをガブリアスに突き刺す。特性『ハードロック』によってダメージが減少していることもあるが、ドサイドンの耐久力があるからこそできる捨て身の攻撃。ガブリアスと正面から殴り合える、稀有なパターンだった。

 

「さあ、ここからよドサイドン。アームハンマー!」

「受けて立ちます!げきりん!」

 

 ドサイドンは両腕を強化し、ガブリアスは全身に龍の力を纏わせて強化した。そして、互いの身体能力をフルに活かした殴り合いへと発展する。互いの技と力を存分に発揮してでの殴り合い。それは周囲のフィールドをさらに荒廃させ、フィールドに立つシロナ達にまで余波が及ぶほどだった。

 突如、ガブリアスがドサイドンの顔面を打ち抜く。顔面を穿たれたドサイドンは僅かに怯み、攻撃の手が一瞬緩んだ。それはシロナレベルのトレーナーで漸く気付けるレベルの本当に小さなもの。だが、それを的確に突くことができるトレーナーが、シロナだ。

 

「…っ!ここよ!」

 

 ガブリアスは渾身の一撃をドサイドンに叩き込む。この一撃でガブリアスの『げきりん』状態は解除されたが、ドサイドンには大きなダメージを与えたことに違いはない。

 『げきりん』後の隙を狙われないよう、ガブリアスはバックステップで距離を取る。それを見た瞬間、ドサイドンが動いた。

 

「ゆきなだれ!」

 

 突如、雪の塊がガブリアスの背後から降り注ぐ。四倍弱点の攻撃は、ガブリアスに大きなダメージを与えた。

 『ゆきなだれ』は相手の技を受けた後に出すことで威力の上がる技。この『ゆきなだれ』を確実に当てることが、ガブリアスを倒すことで必要なことだとキクノは理解していたため、殴り合いの中、敢えて『シロナレベルでないとわからない隙』を作り出した。そして渾身の一撃を加えた後、カウンターを避けるために距離を取るところまで、全て折り込み済みだった。

 ガブリアスは持ち物にキーストーンを持っている。以前ダイゴとのバトルで見せた『ヤチェの実』による威力半減もない。決まった、と思わせるには十分すぎる一撃が入った。

 

 だが、ガブリアスは降り注いできた雪の中から咆哮を上げながら飛び出してきた。まさかここまでの力が残されていると予想していなかったキクノは、驚愕に目を見開く。

 

「ガブリアス、じしん!」

「っ!ドサイドン、じしんよ!」

 

 ワンテンポ遅れて、ドサイドンは衝撃波を放つ。一歩遅れたことで、衝撃波同士がぶつかり合った余波がドサイドンを僅かに襲うが、ダメージとしては少ない。

 反撃に転じようとした瞬間、衝撃波同士がぶつかった際に巻き上がった砂煙の中から、ガブリアスが飛び出してくる。それなりに距離があった中、一息でここまでの距離を詰めてくる驚異的脚力。ここまでの身体能力はなかったはず、と考えた瞬間、キクノはガブリアスの足に龍の力が集まっているのを見た。

 

(げきりんの身体能力強化を、脚部だけに限定することで瞬間的に素早さを上げたのね!)

 

 『げきりん』は本来、全身に龍の力をたぎらせることで発揮する技。だが、ゲンと出会い、波導のコントロールを学んだシロナの指導により、ガブリアスは肉体の一部のみに龍の力を纏わせ、強化する術を会得していた。

 この打ち合いワンセットで決まる。そう直感したキクノは、全霊の力で受けて立つことを選んだ。

 

「ここよ!押し戻してやりなさい!がんせきほう!」

「アイアンヘッド!」

 

 巨大な岩石の弾丸を、ガブリアスに向けて放つ。ドサイドンの持つ技の中で、最も高い威力を持つ一撃。残りの体力を考慮すると、効果今一つでもガブリアスを倒すには十分な一撃だ。

 シロナもそれは理解している。だが、ここは敢えて正面から迎え撃つことを選んだ。鋼の力を纏い、硬化させて頭で巨岩の砲弾とぶつかり合う。技のタイプ相性は有利。しかし、やはりタイプ不一致技故に、徐々に押し戻されていく。

 

「ここは引けない!撃ち破るわよガブリアス!フルパワーのげきりん!」

 

 咆哮と共に、ガブリアスは全身に龍の力を纏わせる。今までは理性を飛ばさないように力を抑えて行使している。しかし、今はリミッターを全て外した全開の『げきりん』。『アイアンヘッド』で威力を削り、全開の『げきりん』で、巨岩の砲弾を打ち破った。

 

「…!」

 

 『がんせきほう』の反動で、ドサイドンは数瞬動けない。ガブリアスの攻撃を防ぐ術はない。

 ガブリアスの渾身の一撃がドサイドンを打ち抜く。ドサイドンは吹き飛ばされるが、最後まで踏ん張り、そして立ったまま意識を失った。

 

「…ふふ、お見事」

『ドサイドン戦闘不能!シンオウリーグ準決勝、シロナ選手の勝利!』

「ふぅ…」

 

 シロナは一瞬気が抜けたように息を吐くと、笑顔で歓声を上げる観客達に手を振った。

 キクノはドサイドンをボールに戻すと、バトルで荒廃したフィールドに降りる。そして高齢とは思えぬ身軽さでフィールドを渡り、シロナの元へと歩み寄った。

 

「いいバトルをありがとうね、シロナさん。とっても楽しかったわ」

「私もです。これほど緊迫したバトルは、そうできませんから」

「ふふ、チャンピオンにそう言ってもらえるなんて。わたしもまだ捨てたものじゃないわね」

 

 キクノは楽しそうに笑うと、シロナの側にいるガブリアスに目を向けた。

 

「強くなったわね、ガブリアス」

「キクノさんの教えが基礎にありますから」

「あらあら、嬉しいこと言ってくれるわね。教えてきたトレーナーがわたしを超えていく…これからのバトル界隈が、とても楽しみだわ」

 

 いつまで現役でいられるかはわからない。だが、いつか身を引くその日まで、若いトレーナー達の壁としてあり続けたい。キクノは改めてそう思った。

 

「またやりましょう」

「ええ。次は負けないわよ」

「望むところです」

 

 二人は握手を交わし、歓声に応えながらフィールドを後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 カイムに疲弊したポケモンを預け、シロナも休息に入ろうとスタジアムを後にしようとしたところで、シロナは一人の男性…ゴヨウにロビーで出会う。先ほどの試合でゴヨウはアオキに勝利し、決勝戦に出場することが決まった。つまり、シロナが再びチャンピオンになるための、最後の障壁として立ち塞がることになる存在だ。

 

「…おや?シロナさんではありませんか」

「お疲れ様、ゴヨウ君。先ほどのバトル、見事だったわ」

「それは貴女もですよ。キクノさん相手にあれほど戦えるトレーナーは、そういない」

 

 ゴヨウは手に持っていた本に栞を挟むと立ち上がり、サングラスを胸ポケットにかけた。

 

「それにしても、今からどちらへ?ポケモンを回復させたにしては、些か早すぎると思いますが」

「ああ、ポケモン達は私のサポーターに預けているの」

「サポーター…なるほど、貴女がサポーターを雇ったという噂は真実だったのですね」

「噂になっているとは思わなかったわ」

 

 親しい間柄の者にはカイムというサポーターがいることは話しているが、公にしてはいない。わざわざそのことを広めるような人もいないだろうと思ってはいたが、どこからか話を聞いた者がいたのだろう。隠しているわけではないため、それも問題ないか、とシロナは内心で考えた。何なら、バレたらバレたで、もっと公共の場でカイムとくっつくこともできるかもしれない、とも考えていたため、シロナの頭にどれほどカイムがいるのかがよくわかる。

 

「一昨年くらいから、貴女の強さに磨きがかかったように感じていました。そのサポーターを雇ったのも、もしかしてそのくらいの時期ですか?」

「厳密には少し違うけど、まあその認識で問題ないわ」

「なるほど…余程いいサポーターなのですね」

「ええ、言うことなしだわ。小言が多いのが玉に瑕くらいかしらね」

「はは、いいサポーターですね」

 

 ゴヨウは一度言葉を切ると、シロナを見据える。その目に宿る光は、かつてないほど強い意志を宿しているようだった。

 

「私が四天王になったのは、数年前。その時から貴女はずっと頂点に居座り続けている。ですが…貴女の無敗伝説を、明日断ち切る。そのつもりで明日、貴女と戦います」

 

 ゴヨウの纏う覇気は、今まで感じてきたものよりも遥かに強い。ステータス、コンディション共に、過去最高のゴヨウに仕上がっていることがよくわかる一瞬だった。

 

「…受けて立つわ」

「そうこなくては、面白くない。とはいえ、貴女に簡単に勝てるとも思っていません。物語は、結末がわからないからこそ、心躍る」

「同感だわ」

「では、また明日。貴女の無敗伝説に、ピリオドを打たせてもらいます」

「まだまだ、私はこれからなの。負ける気はないわ」

 

 互いに覇気と闘志をぶつけ合いながら、去っていく。

 歩きながらシロナは小さく息を吐いた。

 

(あれほどの覇気…この一年で相当強くなってる。それこそ、チャンピオンレベルに踏み込むほどに)

 

 これまでのゴヨウとは、確実に何か違う。カイムの集めてきたここ最近のデータは全て頭に入っているが、過去のものと比較して特別何か変わったものはなかった。だが、シロナのトレーナーとしての直感が、ゴヨウの何かが変わったことを告げていた。

 

「……やっぱり、やるしか無さそうね」

 

 シロナは何かを決意したように呟き、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食後、最後の調整のためにシロナとカイムはホテルの地下フィールドに来ていた。フィールドを挟んで向かい合いながら、カイムは軽く首を鳴らす。

 

「じゃ、最後の調整だ。明日はどんな感じで行くんだ?」

 

 カイムの問いかけに、シロナは小さく息を吐く。そして微笑みながら、カイムの問いに答えた。

 

「…明日は、エース二人と起点作成役のチームでいくわ」

「へえ、いいな。エース二人ってのは…ガブリアスと、ポリゴンか?いや、この場合ルカリオか?」

「ルカリオよ」

「そうか。んで?起点作成役は?」

 

 シロナは答えない。まだ迷っている、という表情ではない。決めているが、どう伝えるか迷っている。そんな表情だった。

 

「どうした?」

「…さっきね、ゴヨウ君と話したの」

「へえ」

「それで実感したの。彼の覇気…強いわ。だからきっと、今のままの私だと勝てない」

「……お前が言うほど強いのか」

「ええ。単純な数値はともかく、何度も私と戦っている彼は、私の対策を完全に済ませているはずよ。その対策がどんなものかわからないけど…そのまま戦えば、勝率は高くないと思う」

 

 ゴヨウは、四天王として何度もシロナと戦っている。それ故に、シロナのバトルスタイルはカイム以上に熟知していると言っても過言ではない。加えて、シロナが感じている違和感…今まで以上に厳しい戦いになるとシロナは考えていた。

 それ故に、シロナには必要なものがあると考えていた。しかし、それは今ある手札だけではやや足りないことも自覚していた。

 

「ねえ、カイム。これから私が言うことを、貴方は受け入れてくれる?」

「ああ」

「どんなに突拍子のないことでも?」

「お前が必要だと考えたことなんだろ?なら、俺はお前の言うことを信じる」

 

 心から信頼しているシロナの言葉であれば、どんなものでも受け入れる。そんな思いが込められた視線を受け、愚問であったとシロナは苦笑すると、シロナは表情を引き締めてカイムに己の考えを伝えた。

 カイムに伝えながらも、我ながら突拍子もないと思う。だがそれでも、考えに考え続けた結果導き出した答えだった。シロナが勝つために必要なことだと考えた結果を、カイムはただ黙って聞いていた。そして一通り聞き終えると、腕を組んでシロナを見据える。

 

「…なるほど、言いたいことはわかった。確かに、必要なことだな」

「どう?協力してくれる?」

「無論だ。なるほどな、俺の頭じゃ思いつかん。流石だよ、まったく」

 

 それだけ言うと、カイムはシロナに『あるもの』を投げて寄越す。シロナは投げられたものを難なく受け取ると、優しく微笑む。

 

「普通の人なら、こんな話乗らないと思うけど?」

「だろうな。だが、お前の話なら乗る。納得もできたからな」

「…貴方らしいわね。ありがとう」

 

 心からの信頼があるからこその言葉と行動。カイムからの信頼と愛情があるからできる行動に、シロナは心からカイムに感謝した。カイムでなければ、きっとこれは受け入れなかっただろう。

 

「さあ、始めましょう。時間は少ないわ」

「ああ、始めよう」

 

 そうして二人は暫しの間、調査に勤しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、早朝。

 シロナはホテルのラウンジで風に当たっていた。登ってきた朝日を見つめながら、深く呼吸する。肺の中に冷たい空気が満ちるのを感じながら、今日の決勝戦のことを思い浮かべる。何度もシミュレーションしているが、どのバトルも厳しい展開になっていた。五分五分の戦いはまず間違いないだろう。そして、ゴヨウレベルのトレーナーならば、シロナの想像を超えてくる。データだけの数値であれば、シロナの方が勝っているが、おそらく隠し球をゴヨウは持っている。それがどんなものであれ、厳しい戦いになることは間違いないだろう。

 

「朝早くから、何してんだ」

「んー?今日のこと考えてた」

 

 背後からの声。振り返ることはないが、気配と声でカイムであることは疑いようがない。

 

「勝てそうか?」

「どうかしらね。私への対策を完全にしているゴヨウ君相手に、どこまで私のやり方を貫けるか…それが鍵になりそう」

「自分のやり方ね…それが重要とか言いながら、あんなこと言い出したのかよ」

 

 皮肉げに言うカイムだが、シロナの言うことを理解しているため、決して否定はしない。昨夜言っていたシロナの考えが、的を射ていることに納得していたからだ。

 

「ふふ、まあね。貴方の言うことも尤もだわ。でも、これはこれで私のやり方らしいと思わない?」

「否定はしねぇ。お前だからできたことだとは思う」

 

 決まった戦法というより、相手に合わせて戦法を変えるシロナは、皆が思っている以上に戦法の引き出しが多い。加えて、ポケモン達も器用なため、相手のやったことをその場で応用することも可能。そんなシロナだからこそ、今回の結論に辿り着いたのかもしれない。

 

「一人なら、きっとできなかったことね」

「かもな」

「だからね、改めて貴方がいることを心からありがたく思えたの。貴方がいなかったら、きっとできなかった可能性だから」

 

 一人では得られなかった可能性。それを実現してくれたカイムに、シロナは心から感謝していた。側にいてくれたこと、出会ってくれたこと、ここまでついてきてくれたこと…全てが、今のシロナへと帰結していたから。

 

「ね」

「ん?」

「前に言ったこと、覚えてる?」

「どれのことだ」

「戦う時はってやつ」

「ああ、あれか。無論だ」

 

 『戦う時は、一人。でも、独りではない』という言葉。バトルの時は一人ではない。共に戦うポケモンも、ここまで歩んできた道のりでできた繋がりもある。全てが今の自分を形作っていることを、忘れずに戦う、という意味のものだ。

 

「今年もね、一緒に戦ってくれる?」

「ああ。なんなら、今まで以上に力になれそうだ」

「そうね、その通りだわ」

 

 そう言ってシロナは、一つのケースをカイムに手渡す。そのケースは、かつてカイムがシロナに贈った簪が入っている。

 

「今日も、つけてくれる?」

「無論だ」

 

 カイムは簪を取り出すと、シロナの髪を手慣れた手つきで纏めて、簪を刺す。黒と金色の簪が朝日を受けて輝き、シロナの髪を美しく照らした。

 

「よく似合う」

「ありがと。じゃあ、一緒にいきましょう」

 

 シロナはカイムに手を差し出し、カイムはシロナの手を取る。二人は手を取り合いながら、戦いの場へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 決勝戦のフィールドを前に、ゴヨウは今までにない高揚感を感じていた。チャンピオンと学者の二足草鞋を履いているシロナは、ポケモンリーグ以外の公式大会にあまり顔を出さないため、あまりバトルの機会は多くない。しかも四天王として公式戦以外のバトルはするものの、いまだに勝ち越すことはできていない。昨年はルーキーのヒカリに負けて、決勝戦で当たることはできなかった。それ故に、公式戦で数年ぶりにシロナと当たれることがゴヨウはとても嬉しかった。

 この日のために、多くの研鑽と対策を講じてきた。今度こそ、シロナの無敗伝説を破り、シンオウ地方チャンピオンになるために。

 

『さあ、チャンピオンシロナの入場です!』

 

 実況のナレーションを聞くとゴヨウは目を開き、対面から歩いてくるシロナに目を向ける。ノースリーブの薄手のニットの上に、月の模様が描かれた羽織りを着ていた。そして、長い髪は後頭部で纏められ、黒い簪が刺さっていた。

 シロナは対面に立つと、ゴヨウを見据える。その瞬間、凄まじい覇気がゴヨウを襲い、背筋に氷柱をぶち込まれたような感覚に襲われた。

 

「っ…!」

 

 夏の暑さを忘れるような、圧倒的な覇気。今までの中で最も完成度が高いと自負しているゴヨウですら、圧倒されるような気迫に、思わず冷や汗が流れる。

 

「ここで会うのは、数年ぶりですね」

「ええ。四年ぶりかしら」

「そうですね。何度対面しても、貴女の覇気の凄まじさを実感させられますよ」

 

 何度対面しても慣れない、強すぎる覇気。チャンピオンとして君臨するシロナの覇気は、四天王すらも容易に凌駕する。

 

「ですが、今日こそ貴女を下す。ここで、貴女を超えます」

「受けて立つわ!」

『シンオウリーグ決勝戦!ゴヨウ選手VSシロナ選手!バトル開始!』

 

 バトル開始が宣言された瞬間、二人はボールを手に取った。しかし、その瞬間、ゴヨウは違和感を感じる。

 

(あれは、ムーンボール?)

 

 シロナが手に取ったのは、ムーンボール。ゴヨウの調べでは、シロナはハイパーボールで統一していたはず。しかしシロナが今手に持っているのは、ムーンボール。比較的珍しいガンテツボールを使っていることは少々驚いたが、何か特別なポケモンが出てくるのかもしれないとゴヨウは警戒を強めた。

 

「お願いします、ドータクン!」

 

 ゴヨウはドータクンを繰り出す。エスパー・鋼というメタグロスと同じタイプであり、耐久力に優れた器用なポケモンだった。

 さあ何が出てくる、とゴヨウはシロナに目を向ける。シロナは手に持ったボールを空に向けて投げた。ゴヨウの予想では、ここで出てくるのはミカルゲ。エスパータイプを専門とするゴヨウには、悪タイプのポケモンを出すのが安定。加えて、耐久力の高いミカルゲは先発として相手の出方を見るのに非常に適している。

 

「さあ、いくわよ!ブラッキー!」

「⁉︎」

 

 シロナが繰り出したのは、ブラッキー。過去にデータのないポケモンの出現に、ゴヨウは僅かに驚愕する。

 しかし、知らないポケモンが出てくることも予想通り。寧ろ悪タイプであるならば、読み通りとも言えるだろう。

 

「ドータクン、てっぺきです」

 

 ドータクンは『てっぺき』で防御力を上げる。ブラッキーは物理と特殊、どちらの攻撃も持ち合わせるためどちらの型なのかはわからないが、後々のために防御力を上昇させることをゴヨウは選択する。

 

「リフレクターよ」

「おっと…そうきましたか」

 

 ブラッキーは『リフレクター』を展開することで、ドータクンのメイン技である物理攻撃への耐性を強化した。

 

(これは、完全に起点作成役ですね。壁を展開し、後続のエース達に正面からの殴り合いに強くする。恐らく、持ち物も光の粘土。何にしても、このまま放置するわけにもいきませんね)

 

 起点作成役を放置すると、本来なら勝てる相手にも足元を掬われかねない。早急に対処が必要だと感じたゴヨウは、即座に行動に移した。

 

「アイアンヘッド!」

 

 ゴヨウの予想では、このブラッキーはシロナの手持ちの中では新入り。それ故に、他のポケモンと比較してレベルが低い。元々硬いポケモンではあるが、レベル差による数値の差はどうすることもできない。続け様に攻撃をしていけば、起点を作らせることなく、ブラッキーを倒すこともできる。

 無論簡単ではない。多少レベルが低くとも、シロナが育てたであろうポケモンだ。決して楽な道のりではないことをゴヨウも理解している。全霊を尽くすのみだと、一層警戒を強くした。

 

「アイアンテール」

 

 ブラッキーは尻尾を硬化させると、ドータクンの攻撃に叩きつけるように当てることで、その勢いを利用して飛び上がる。

 

「バークアウト!」

 

 ブラッキーの声に悪タイプの力が乗り、ドータクンにダメージを与える。

 

「む…ならばボディプレスです!」

 

 ドータクンは鋼の体を飛び上がらせ、ブラッキーに向けて落下する。『てっぺき』によって上昇した防御力がさらに威力を上げ、ブラッキーに大きなダメージを与えた。

 だが、ブラッキーは咄嗟に『まもる』の防壁で不完全ながらダメージを軽減させる。加えて、『リフレクター』の効果で、ダメージをさらに減らす。

 

「ジャイロ…」

「ふいうち!」

 

 ドータクンが攻撃に入ろうとした瞬間、ブラッキーの攻撃が突き刺さる。ドータクンが鈍重とはいえ、全く反応できないタイミングで攻撃を突き刺してきたあたり、シロナのオーダー力の高さとブラッキー自身の身体能力の高さがよくわかる。

 

「ジャイロボール!」

 

 だが攻撃に怯むことなく、ドータクンは高速回転しながらブラッキーに突撃した。元よりどちらも素早さは高くないため、ダメージは大きくない。しかしドータクンは突撃の勢いを利用し、ブラッキーと距離を取る。

 

「連続でラスターカノン!」

 

 連続して放たれた鋼のエネルギー弾がブラッキーに襲い掛かる。ここを回避して、できた動きの隙を突いて再び『ボディプレス』を食らわせようとしていたが、ブラッキーは動かない。いくら特防が高いブラッキーでも、ブラッキーとドータクンのレベル差は10近い。直撃すれば、ブラッキーといえどただでは済まない。

 ブラッキーに『ラスターカノン』が直撃する。全ての『ラスターカノン』が直撃したわけではないが、大きなダメージになるはず。

 

 

 なにもしていなければ、だが。

 

 

「…ほう」

 

 ブラッキーの周辺には、『リフレクター』とは異なる光り輝く壁が展開されている。

 

「ひかりのかべ…なるほど。動かなかったのではなく、壁を展開するための時間だったと。ですが、ダメージはある。これ以上仕事をされる前に、倒させてもらいますよ」

「簡単にはいかないわよ。この子は、誰よりも諦めの悪い人の下で育ったんだから」

「ふふ、ならば…抗ってみてください。てっぺき」

 

 ドータクンはさらに防御力を上げる。ここまで防御力を上げられると、『リフレクター』があっても次の『ボディプレス』は大ダメージになることは間違いない。

 

「ブラッキー」

 

 シロナの言葉を聞くと、ブラッキーはドータクンに向けて走り出した。

 

「向かってきますか。なら、アイアンヘッドです!」

「アイアンテール!」

 

 硬化した頭と尻尾がぶつかり合う。レベル差とタイプ一致補正により、ブラッキーが押されていき、そのまま弾かれた。

 

「じしん!」

「まもる!」

 

 地面に放たれた衝撃を、強力な防壁で防ぐ。ダメージをゼロに抑えることができたが、次の瞬間、目の前に回転するドータクンが迫ってきていた。

 

「ジャイロボール!」

 

 咄嗟に後ろに飛ぶことで威力を軽減したが、ブラッキーの体は再び弾かれる。そこに追撃の『ラスターカノン』を加えようとした瞬間、ブラッキーは空中で体勢を立て直し、ドータクンに肉薄した。

 

「だましうち」

 

 『ラスターカノン』の射線を自身から反らしつつ、ブラッキーの強烈な一撃がドータクンを貫いた。防御力が上がっていたためダメージは低いが、ドータクンの体勢が整う前に、ブラッキーはさらに追撃を加える。

 

「あくのはどう!」

 

 悪タイプの力がドータクンを撃ち抜く。あまりに強力な悪タイプの力に、ほんの一瞬だけドータクンは怯んでしまった。

 

「ドータクン!」

 

 だが、ドータクンはゴヨウの掛け声で怯みから立ち直る。そして目の前にいるブラッキーに向けて、反撃の一撃を加えようと動いた。

 その瞬間、ブラッキーは敵意を感知した。ドータクンの攻撃が来る前に目の前から引き、距離を取る。

 

(攻撃態勢に入るのを察知したのか!素晴らしい感知能力…これほどとは!)

 

 ドータクンの僅かな動きを、ブラッキーは即座に見抜いた。その場にいては間違いなく、大きなダメージを受けるということを察知していた。これほどまで動きに対して敏感だからこそ、ここまでのレベル差があってもいいバトルができているのだろう。そして何より、シロナのオーダーがブラッキーの動きをよりよくさせていた。

 

(しかし…やはりまだそのブラッキーは経験が足りてませんね?うまくオーダーでカバーしてますが、まだ動きが粗い)

 

 一般トレーナーでは見つけることすらもできないような、わずかな動きの粗さ。それを使わない手はない。

 

「がんせきふうじ!」

「アイアンテールで砕いて!」

 

 投げ飛ばされた岩石を、硬化した尻尾で砕く。しかしそれはゴヨウが想定した動き。即座に行動に移った。

 

「サイコキネシス!」

 

 悪タイプのブラッキーに、エスパータイプの技は無効。しかしそれはあくまで直接力をぶつける場合であり、念力で操作した岩石などを無効にすることはできない。念力で操作した無数の岩石がブラッキーに向けて一斉にぶつけられる。ぶつけられた岩石はブラッキーにまとわりつき、身体を覆って動きを封じた。

 

「全方位にあくのはどう!」

 

 ブラッキーの全身から悪タイプの波動が放出され、岩に込められたエスパータイプの力が霧散し、岩石が弾き飛ばされる。

 

「やはり、力の加減がやや粗い。ドータクン、きんぞくおん!」

 

 力を必要以上に放出したブラッキーに生まれたほんの僅かな隙。そこを突いて金属を擦り合わせるような甲高い音がブラッキーの耳に響き、ブラッキーの特防をがくっと落とした。

 

「あくのはどう!」

「ラスターカノン!」

 

 ブラッキーの力とドータクンのエネルギーがぶつかり合い、爆散する。爆煙が視界を塞ぐが、ドータクンはブラッキーの位置を正確に把握していた。

 

「ここです!ボディプレス!」

 

 ドータクンは鋼の体を飛び上がらせ、ブラッキーに向けて落下する。ブラッキーは凄まじい感知能力を有しているが、それは視界ありきのもの。故にゴヨウは、ブラッキーの攻撃とドータクンの攻撃がぶつかり合う瞬間ができるように誘導した。そして目論見通り、ブラッキーの視界を塞ぐことに成功した。

 ドータクンの特性は『浮遊』。空中を自在に動くことができるドータクンは、爆煙から逃れてブラッキーの姿を捉えることなど容易。鋼の体で強烈な一撃をブラッキーに与えようとした。

 

「そこよ」

 

 しかし、ドータクンの体がブラッキーを捉えることはなかった。ブラッキーはギリギリで直撃を回避し、ダメージを最小限に抑えつつ、ドータクンの頭に飛びついた。

 

「ここよ!」

「ジャイロボールです!」

 

 ブラッキーの体が一瞬だけ光り、ドータクンの体に移る。そしてドータクンの体からも光が出てきて、ブラッキーに吸い込まれた。

 異常はなく、ダメージもない。そのためドータクンはすぐさま体を高速回転させ、ブラッキーを弾き飛ばした。

 ゴヨウは一瞬だけ見せた光が何なのか思考するが、そんな暇はないとすぐに行動に移す。

 

「体勢を立て直す前に、渾身の一撃です!てっていこうせん!」

 

 凄まじいほどの鋼のエネルギーが凝縮され、ブラッキーに向けて放たれる。それはドータクンの体力をも犠牲にして放たれる一撃だが、その反面威力は『ラスターカノン』の比にならない。『バークアウト』による特攻ダウンや『ひかりのかべ』があるものの、『きんぞくおん』による特防ダウンがある以上、ブラッキーには非常に大きなダメージが入る。これ以上、起点作成役のブラッキーを好きにさせないことと、『リフレクター』等の壁を再展開させないために必要な一手だった。

 体勢が万全ではないブラッキーは回避ができない。咄嗟に『まもる』の防壁を展開しようとするが、それも間に合わない。

 攻撃が直撃し、凄まじい爆発が起こる。これほどの威力の攻撃を受けては、ブラッキーといえどただでは済まない。爆煙が晴れるまでの間に、ドータクンはオボンの実を食べることで、削れた体力の一部を回復させた。

 

 爆煙が晴れる。そこにいたのは、ダメージはあるものの、思いの外ダメージが少ないブラッキーの姿だった。

 

「…これは…」

 

 あり得ない事態だった。いくらドータクンの特攻が下げられ、『ひかりのかべ』があったとしても、特防が大きく下げられた以上、ここまでダメージが少ないことはない。

 何故、と思考した瞬間、ブラッキーの先ほどの謎の行動を思い出す。あれが要因だと気づいた瞬間、ゴヨウの頭に一つの答えが導き出された。

 

「ガードスワップ!」

「正解よ」

 

 『ガードスワップ』は相手と自分の防御・特防ランクを入れ替える技。ドータクンは『ガードスワップ』の前、防御力が四段階上昇しており、対してブラッキーは特防が二段階下げられていた。つまり、今はその逆…ブラッキーは四段階防御力上昇し、ドータクンの特防が二段階下げられた状態ということだ。

 

「やられましたね…!」

「自分にとって最高のゲームメイクができている時こそ、警戒心を上げなきゃね」

 

 不敵に笑うシロナに、ゴヨウは釣られたことを実感する。ブラッキーの動きの粗さは、恐らく演技ではない。四天王であるゴヨウは、ポケモンが動きをセーブしているかどうか見分ける程度、造作もなくできる。そのゴヨウが、ブラッキーの動きに本気を感じていた。つまり、あれはブラッキーの演技ではない。

 ならば何故こうなったか。それは、シロナがブラッキーの動きの粗さを勘定に入れたゲームメイクを初めから(・・・・)行っていたからだ。

 今のドータクンは特防が下げられた状態。ドータクンは自ら特防を上げる手段を持たないため、戻さない限り特防ランクは元に戻らない。耐久力のあるドータクンでも、今の状態で効果抜群の技はそう何度も受けられない。そう判断したゴヨウは、ボールを手に取った。

 

「…仕方ありません。戻ってください、ドータクン」

「おいうち!」

 

 モンスターボールに戻る瞬間、ブラッキーの一撃がドータクンを貫く。咄嗟に直撃は避けたものの、最後に一撃入れられたことは割と痛かった。

 

「やりますね」

「でしょ?この子のポテンシャルを引き出せたら、経験不足でも貴方相手にも戦えるものよ」

「この場で貴女が選んだポケモンなだけある。倒されることはないが、非常に厄介だ」

 

 このブラッキーは、攻撃性能はそこまで高くない。それなりに攻撃は受けたが、全てドータクンの耐久力であれば問題ない範囲。

 しかし、それ以上に技をうまく使ったオーダーと、ブラッキー自身の身体能力が厄介だった。簡単に倒されるような威力はないが、とにかく嫌なことをしてくる動きは、ドータクンを引かせるには十分すぎる。加えて、最後の『おいうち』によって、下手に引くことを封じた。

 

「それでこそです。幅広い戦術を使いこなし、鮮烈に戦う…そんな貴女に、私は勝ちたいのですから」

「悪いけど、簡単に勝たせることはできないわよ」

「そうでなくてはなりません。ですから、ここからです!行きなさい、フーディン!」

 

 ゴヨウは新たにフーディンを繰り出す。高い素早さと特攻が特徴であり、自らにエスパータイプの力を纏わせることで、通常ではできないような動きも可能となる器用なポケモンだ。

 

「そうくるわよね」

「いきますよフーディン、マジカルシャイン!」

「まもる!」

 

 フーディンの『マジカルシャイン』を咄嗟に『まもる』で防ぐ。タイプ相性が良いとはいえ、フーディンのサブウェポンの幅は非常に広い、悪タイプに効果抜群のフェアリーや格闘タイプの技も扱うことができる。

 

(…頃合いかしらね)

 

 そう考えたシロナは、ブラッキーに視線を送る。それに気づいたブラッキーは頷くと、フーディンに向かって肉薄していった。

 

「来ますよフーディン。サイコキネシス!」

「!」

 

 悪タイプにエスパータイプの技は無効。そんなこと分かりきっているはずのゴヨウが、エスパー技を使ってきたということは…

 

「何かある!ブラッキー!」

「遅い!」

 

 強力な念力がブラッキーを捉える。この攻撃は無効化されることなく、ブラッキーを捕まえて大きなダメージを与えた。

 シロナは思考することなく、この事態の真実にすぐに辿り着く。フーディンの目には、何かレンズのようなものが浮かんでおり、これが何なのか即座に理解した。

 

「…ミラクルアイ!」

「さすがです。そして、もう遅い」

 

 『サイコキネシス』に捉えられたブラッキーは、フィールドに叩きつけられる。そこで終わることなく、連続して叩きつけられ、ブラッキーにダメージが蓄積していった。

 叩きつけられることが続き、ブラッキーの体がフーディンの真上あたりに来た瞬間、ブラッキーは動いた。

 

「だましうち!」

「っ!リフレクター!」

 

 『サイコキネシス』を打ち破り、ブラッキーは尻尾をフーディンに叩きつける。咄嗟に下がりながらリフレクターを貼ったが、物理防御が脆いフーディンへのダメージは少なくない。

 

「バークアウト!」

「マジカルシャイン!」

 

 互いの技がぶつかり合うが、完全に中和されることなく、互いに届く。互いにダメージを受けたが、この瞬間、ブラッキーはフーディンに突撃していった。

 

「くさわけ!」

 

 草タイプのエネルギーを纏い、ブラッキーはフーディンへと突撃する。しかし、元々ブラッキーの素早さは高くない。フーディンは自身にエスパータイプのエネルギーを纏わせることで肉体を強化し、ブラッキーの攻撃を回避した。

 

「そこです、きあいだま!」

 

 強力なエネルギー弾がブラッキーに向けて放たれた。これを受ければ、ブラッキーといえど耐え切ることはできないだろう。

 

 

 ブラッキーが受けるのであれば、だが。

 

 

「バトンタッチ」

「⁈」

 

 『きあいだま』が放たれた瞬間、ブラッキーがボールへと戻る。そして、まるでバトンを渡されたかのように素早く現れた龍が、『きあいだま』を正面から撃ち破った。

 

「…ガブリアス」

 

 ブラッキーと『バトンタッチ』して現れたのは、シロナのエースであるガブリアス。ガブリアスはフーディンの『きあいだま』を技を使うことなく撃ち破った。無論、普通ならできない。これができたのは、ブラッキーが『ひかりのかべ』を展開し、かつ『バークアウト』によって特攻を一段階下げたことにより可能だった。加えて、『きあいだま』の命中精度が粗いこともあり、打ち破りやすい角度だったことも要因として挙げられる。

 ガブリアスが出てくることは予想していた。ただ、ここで出てくるとは思っていなかった。予想外の展開ではあるが、これはゴヨウにとって闘志をさらに燃え上がらせる要因にしかならない。

 

「ここでエースを出すとは…ですが、それもまた一興。ここでエースを倒し、勢いに乗らせていただきますよ」

「簡単にできると思わないことね!」

「思ってませんとも。全霊を尽くして、突破させていただきます!」

 

 二人の覇気が、さらに強まる。割れるような歓声も、今の二人には耳に入っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドータクン!しねんのずつき!」

「ガブリアス!げきりん!」

 

 強力な一撃を受けながらも、ガブリアスは怒りによって強化した肉体でドータクンを攻撃する。『リフレクター』によって威力が半減されるが、すでにかなり体力が削られていたドータクンはこれで体力が消し飛ぶ。同時に、『げきりん』の効果で無理やり体を動かしていたガブリアスの体力も尽き、力なく倒れ伏した。

 

『ドータクン、ガブリアス、共に戦闘不能!』

「よくやりましたね、ドータクン」

「ありがとう、ガブリアス」

 

 シロナとゴヨウは互いにポケモンを戻す。

 これにより、シロナはブラッキーともう一体、そしてゴヨウは最後の一体となった。

 

「さて…追い詰められましたね」

 

 ゴヨウのゲームメイクにミスはなかった。ただ、フーディンとドータクンの両方をガブリアス一体で持っていかれるとは思っていなかった。ドータクンはかなりブラッキーに弱らせられていたが、それでも十分戦えるくらいではあった。

 しかし、ガブリアスはブラッキーの『くさわけ』による素早さ上昇を受け継いでいた。これがガブリアスに対して非常に強力なバフになっていた。元の素早さが高いガブリアスだが、自力で素早さをあげる術を持たない。だが、ブラッキーの素早さ上昇を引き継いだことで、想定以上の大暴れを見せ、ドータクンまでも相打ちにしてみせた。

 

「そうこなくては」

 

 だがゴヨウはカケラも萎縮していない。敗色濃厚な相手に勝利してこそ、達成感が得られる。

 

「あと一体ですか…何故でしょうね。追い詰められているのに、高揚感は増すばかりです」

「わかるわ。私もよ」

「ふふ、そうなってくれたのなら…私も、切り札を出せる」

 

 ゴヨウはそう呟くと、最後のボールを手に取る。それを見たシロナも、ボールの一つを手に取った。

 

「お願いします、エルレイド!」

「ブラッキー、いって!」

 

 シロナはダメージの入ったブラッキー、そしてゴヨウはエルレイドを繰り出した。格闘タイプを持つエルレイド相手に、ブラッキーは相性不利かつ、ブラッキーのメイン技である悪タイプの技はエルレイドに等倍。加えて、ブラッキーの体力は既に半分を切っている。格上かつ、タイプ相性の悪い相手に、ブラッキーがどこまで動けるか。

 そして何より、試合前からずっと感じている違和感。何か、これだけではない何かがあるように思えてならない。そんな胸騒ぎをシロナはずっと感じていた。

 

「さあ、エルレイド。貴方の全力を、ここで見せましょう」

 

 ゴヨウは胸元のポケットに留められていたピンを引き抜く。そこには、虹色に輝く石。

 

「キーストーン…」

「おや?驚かないのですね」

「何かあることは感じていたからね。むしろ、納得したわ」

 

 シロナが感じていた違和感は、キーストーンから滲み出る気配だったのだろう。キーストーンを手に入れてしばらく経ち、自身も波導の修行をすることで、シロナはキーストーンの気配に少し敏感になっていた。それ故に、シロナはゴヨウから違和感を感じていた。

 

「貴方達の本気…見せて」

「ええ、お見せしますとも。いきますよエルレイド!」

 

 言葉と共に、ゴヨウのキーストーンがエルレイドの持つメガストーンと共鳴し始めた。

 

「メガシンカ!」

 

 包み込んできた光を打ち破り、現れたのは騎士のような風貌に進化したメガエルレイドだった。凄まじい覇気を肌で感じたシロナは、初めてガブリアスをメガシンカさせた時を思い出していた。

 

「…やはり、こうなったわね」

「この一年で、世界を見て周りました。その過程で手に入れた力です。奇しくも、貴女と同じ力を」

「…そう。なら、その力の全てを出してみて。私は、その上にいく」

「ここで、貴女を超える!エルレイド、せいなるつるぎ!」

「まもる!」

 

 エルレイドの剣のような攻撃を、ブラッキーは展開した防壁で弾き返す。ブラッキーの防壁が解除された瞬間、エルレイドは追撃を仕掛けてくる。

 

「リーフブレード!」

「つぶらなひとみ」

 

 エルレイドの草タイプを纏った手刀が振り下ろされる瞬間、ブラッキーはうるうるした可愛らしい瞳でエルレイドを見つめる。その効果で、エルレイドの攻撃力が下がり、ブラッキーへのダメージが抑えられた。

 

「これ以上、好きにさせないでください。せいなるつるぎ!」

「リフレクター!」

 

 エルレイドが腕に格闘タイプエネルギーを纏わせると同時に、ブラッキーは再度『リフレクター』を展開する。攻撃力が下げられたエルレイドの攻撃はこれでさらに軽減されることになるが、その瞬間、エルレイドは腕に纏わせた『せいなるつるぎ』のエネルギーを別の形に変換した。

 

「かわらわり!」

「!」

 

 展開された『リフレクター』が破壊され、ブラッキーに攻撃が直撃する。物理技メインのエルレイドにとって問答無用で物理技の威力を半減させる『リフレクター』は天敵。故に、起点作成役が壁を展開してきた時の対策も済ませていた。

 

(…リフレクターは壊される以上、展開するだけ無駄ね。隙を増やすだけだわ。でも攻撃力を下げるのも、警戒されてる。削れるだけ削るのが賢明ね)

 

 ブラッキーの攻撃性能は正直あまり高くない。効果抜群を突けるタイプならともかく、等倍ではそこまで大きなダメージにはならない。加えて、エルレイドは特防が高く、メインウェポンである『あくのはどう』などはあまり通らないだろう。エルレイドの攻撃力の高さから、『イカサマ』はいい攻撃手段になるだろうが、素早さの低いブラッキーではその一撃を加えると同時にカウンターを受けかねない。使うのは最後の最後に、と言いたいが、ブラッキーの体力も度重なる戦闘でかなり削られている。そう何度も受けられるほどの余力はない。

 

「ならこうよ!ブラッキー、あくのはどう!」

「エルレイド、せいなるつるぎ!」

 

 ブラッキーの悪タイプエネルギーを、エルレイドは凄まじい速度で切り裂く。そしてブラッキーに肉薄しようとした瞬間、ブラッキーの姿が先程の場所にいないことに気づく。

 

「エルレイド、上です!」

「遅い!イカサマ!」

 

 『あくのはどう』で一瞬塞がった視界。その一瞬を利用して、ブラッキーはエルレイドの視界に入らない上まで飛んでいた。低い素早さからは考えられないほど卓越した動き。これほど動けることをゴヨウは想定していなかった。

 エルレイドの攻撃力を使った一撃が、エルレイドに叩き込まれる。しかし、瞬時に攻撃を察知したエルレイドは、腕に纏わせたままの『せいなるつるぎ』でブラッキーの攻撃を防いだ。

 

「そのままトドメです!」

「シャドーボール!」

 

 攻撃を防ぎ、同時にカウンターでブラッキーに攻撃を叩き込む。効果抜群の一撃がブラッキーを襲うが、最後の一撃がエルレイドに加えられた。

 

「!」

 

 だが、ブラッキーが行った攻撃はシロナが指示した『シャドーボール』ではなく、『アイアンテール』だった。硬化した尻尾はエルレイドの顔面に的確に叩き込まれたが、エルレイドは若干顔を逸らすことで直撃を回避する。ブラッキーの攻撃はエルレイドの顔面の左下側面に加えられた。ダメージとしては微々たるもの。最後の一撃は、エルレイドに大きなダメージを与えることなく終わり、ブラッキーはそのままダウンしてしまった。

 

『ブラッキー、戦闘不能!』

「お疲れ様、ブラッキー。よくやってくれたわ」

 

 シロナはブラッキーをボールに戻し、エルレイドに目を向ける。エルレイドに与えられたダメージは微々たるものであり、まだまだ十全な動きができるだろう。傷らしい傷も、ブラッキーが最後に『アイアンテール』をぶつけた顔のものくらいだった。

 

「…………」

 

 最後のブラッキーの行動…シロナの意図としては、最後のポケモンの負担を少しでも軽くするために効果抜群の『シャドーボール』を指示したが、ブラッキーは『アイアンテール』を放った。シロナも、ブラッキーの本来のトレーナーも時と場合によっては独断での行動をするように鍛えている。それ故に、今回の行動もそこまで不思議なものではない。だが、最後の行動はブラッキー本人というより、ブラッキーのトレーナーの意思があるように思えた。

 

「…何か、考えがあるのよね」

 

 ブラッキーが入ったボールを見つめながら、シロナは呟く。この事実が一人ではないことを実感し、シロナは僅かに微笑む。

 そして、最後のポケモンが入ったボールを手に取り、放った。ボールから現れたのは、ルカリオ。

 

「…ルカリオですか」

「貴方は全力を見せてくれた。だから、私はその更に上に行く!」

 

 シロナは、胸元につけたブローチを外すと、中に装備されたキーストーンを露わにした。すると、キーストーンがルカリオの持つメガストーンと共鳴し、眩い光を放つ。

 

「メガシンカ」

 

 シロナの言葉と共に、爆発的に増えた覇気と波導を放ちながら、光の繭の中からルカリオが現れる。ルカリオはメガルカリオへと進化し、エルレイドと向かい合う。

 

「待っていましたよ」

「お待たせしちゃったわね。この子達の全力を…今から見せてあげる」

「貴女の全力を超えてみせます!エルレイド、サイコカッター!」

「しんそく!」

 

 エルレイドの『サイコカッター』を、ルカリオは凄まじい速度で回避していく。『サイコカッター』の狙いは非常に的確だが、ルカリオはエルレイドの波導を感じ取り、動きを先読みすることで回避した。連続して放たれる念力の刃がルカリオに向かっていくが、凄まじい速度を完全に制御しているルカリオは速度を落とすことなくフィールドを駆け巡り、『サイコカッター』を回避していく。

 

「そのまま攻撃よ!」

「フィールドを展開してください…サイコフィールド!」

「!」

 

 ルカリオが『しんそく』の連撃を加えようとした瞬間、エルレイドは『サイコフィールド』を展開した。連撃がエルレイドに加えられる前に、ルカリオの攻撃は不思議な力によって防がれた。

 『サイコフィールド』は展開すると、エスパータイプの技威力が上がるだけでなく、『でんこうせっか』や『しんそく』のような一定以上の速度での攻撃を阻害する効果を持っている。無論推進力としての『しんそく』を阻害することはできないが、攻撃手段の一つを潰すことが目的の一つだろう。

 

「せいなるつるぎ!」

「しんそく!」

 

 攻撃を防がれた一瞬の隙を攻撃しようとエルレイドが腕に力を纏わせるが、ルカリオは残ったスピードを利用して瞬時に最高速度で攻撃を回避した。

 

「つるぎのまいよ!」

「サイコカッター!」

 

 ルカリオは『つるぎのまい』によって攻撃力を上昇させる。その無防備な時間をゴヨウが見逃すはずもなく、間髪入れずにルカリオに向けて念力の刃を放った。『サイコフィールド』の影響で威力が上がった『サイコカッター』…加えて、エルレイドの特性『切れ味』は斬撃系の技威力を上げる。ルカリオがまともに受ければ、大ダメージは間違いない。

 だが、それを素直に受けるような鍛え方はされていない。ルカリオは『つるぎのまい』で攻撃力を上昇させつつ、大きく舞うことで『サイコカッター』が直撃を避けた。ノーダメージとはいかないが、直撃と比較して大きくダメージは抑えられた。

 

「さあ、ここからよ。ルカリオ、コメットパンチ!」

「受けて立ちますとも。エルレイド、せいなるつるぎ!」

 

 ルカリオは腕を硬化させ、エルレイドは腕にエネルギーを纏わせる。そして互いに同時に飛ぶと、フィールドの中央部でぶつかり合った。硬化させた腕とエネルギーを纏った腕がぶつかり合い、フィールドだけでなく観客席にまで衝撃波が及んだ。

 ルカリオの拳をエルレイドは腕で受ける。対してエルレイドは剣のような腕を振り下ろすが、ルカリオは流水の如き腕捌きで受け流し、その勢いを利用して裏拳をエルレイドに叩き込んだ。攻撃の衝撃でエルレイドはわずかに怯むが、即座に立て直しルカリオに刺突を放つ。しかし硬化させた腕でルカリオはエルレイドの刺突を防いだ。

 

「さあ、ここからよ」

「ええ。ここからは…全霊を尽くした殴り合いです!」

「ルカリオ、武装」

「エルレイド、研ぎ澄ませなさい」

 

 

 

「「いけ!」」

 

 

 

 ルカリオとエルレイドの攻撃が同時に互いの顔に突き刺さる。だが弾かれることはなく、そのままお互い次の攻撃をぶつけ合った。ルカリオは硬化させた腕を、エルレイドは剣のように鋭い力を纏わせた腕を使って殴り合う。互いの拳をぶつけ合いながらも、時には肘や膝も使い、全身を使って互いに攻撃していく。

 ルカリオはエルレイドの刺突や斬撃を防ぎ、流しながら時折強烈なカウンターを放つ。卓越した技術により回避と防御、カウンターを完璧なタイミングで行っているが、鋼タイプを持つルカリオに格闘タイプの『せいなるつるぎ』は効果抜群。ダメージを抑えられているが、このまま殴り合えば、まず間違いなくルカリオが先に倒れる。

 

「ブレイズキック!」

 

 耐久力ではジリ貧。ならば、攻める他ない。それをルカリオ自身も把握している。故に、攻め手を緩めることなく果敢に攻め上がった。エルレイドの斬撃を、膝の力を抜くことで体勢を低くすることで回避し、燃え盛る足を躰道の如き体術でエルレイドの顔面に叩き込んだ。その勢いをさらに利用し、硬化させた腕をエルレイドの顔面に突き刺す。加えて、回転の勢いを使ってもう一撃回し蹴りを喰らわせた。

 

「サイコカッター!」

 

 しかしエルレイドもやられっぱなしではない。『サイコカッター』を纏った腕をルカリオにぶつけた。『サイコフィールド』の影響で威力の上がった『サイコカッター』は、ルカリオに大きなダメージを与える。さらに、そこに間髪入れずにエルレイドは『せいなるつるぎ』をぶつけようとした。

 

「下がって!」

「そこです。アクアカッター!」

 

 ルカリオがバックステップでエルレイドと距離を取った瞬間、エルレイドは『せいなるつるぎ』から『アクアカッター』へと切り替え、水の斬撃をルカリオに向けて飛ばした。

 

「っ!はどうだん!」

 

 咄嗟に『はどうだん』をぶつけることで攻撃を受けることはなかったが、瞬間的に視界が塞がれる。この隙をつき、エルレイドはルカリオの背後に肉薄した。

 

「せいなるつるぎ!」

「はっけい!」

 

 強烈な一撃がルカリオに叩き込まれる。効果抜群の一撃を受け、ルカリオの体力が一気に持っていかれるが、ルカリオは攻撃を受けながらもエルレイドの顔に『はっけい』を撃ち込んだ。威力は低く、効果今一つの技ではあるが、顔面に的確に撃ち込まれた一撃はエルレイドの隙を作るには十分すぎる一撃だった。

 

「コメットパンチ!」

 

 ルカリオの一撃がエルレイドを貫く。エルレイドは吹き飛ばされるが、空中で体勢を立て直し、うまく着地する。

 ルカリオの体力は残り三割、対してエルレイドは四割。お互い既に肩で息をしており、限界は近い。だが、ダメージレースではルカリオが負けている。

 

「………」

 

 ルカリオとエルレイドの技術に大きな差はない。特に防御の技術が卓越しており、ルカリオの攻撃を直撃しないように的確に捌いてくる。ルカリオもそれ以上の技術でエルレイドの攻撃を捌いているが、やはり効果抜群の攻撃のダメージは軽減していても大きい。このまま正面からやり合えば、ダメージレースで負けてシロナは敗北するだろう。

 

(追い詰めることはできましたが…シロナさんが怖いのはここから。昨年も、ヒカリさんは彼女のペースでバトルを進めていたが、最後はひっくり返された。逆境になるほど強くなるシロナさんを超えるために、油断はしない)

 

 ゴヨウがさらに気を引き締めると、エルレイドもそれに呼応するように再び構えた。隙がなく、力強い構え。その構えは、ルカリオの弟子に近い存在であるバシャーモよりも遥かに洗練されたものだった。

 

「だからどうした」

 

 聞こえるはずのない声。ここ数年、ずっと側にあった声が、シロナの脳裏に過ぎる。

 

「お前ならできるだろ」

 

 当たり前のように言ってくる声に、シロナは内心で苦笑する。

 

「簡単に言ってくれるわね、全く」

 

 今のゴヨウは、今まで戦った中で最も高い完成度を誇っている。これを超えるとなると、簡単にはいかない。

 だが、負けられない。彼は、己の弱さに向き合い、ジムリーダーになった。ならば、師である己も負けていられない。ここを乗り越えなければ、自分も彼の隣に自信を持って立つことはできない。

 ゴヨウは、今までの自分を完全に対策してきている。今のゴヨウに勝つために必要なのは、彼の想定を超えること。

 

「今ここで、自分(限界)を超える。やってやるわ…行くわよルカリオ!」

「来ますよエルレイド!迎え撃ってください!」

「ラスターカノン!」

「サイコカッター!」

 

 技がぶつかり合い、爆発する。エルレイドは爆煙に紛れて攻撃してくることを警戒して構えると、警戒していた以上の速度でルカリオが肉薄してきた。

 

「バレットパンチ!」

「⁈」

 

 高い速度を誇る『バレットパンチ』は、現在展開されている『サイコフィールド』の阻害対象。だというのにシロナは『バレットパンチ』を指示してきた。『しんそく』は推進力として使えるが、『バレットパンチ』は違う。想定外のオーダーに、ゴヨウもエルレイドも一瞬固まる。この硬直時間はコンマ一秒にも満たない。だが、このほんの一瞬でルカリオはエルレイドに肉薄した。

 

「コメットパンチ!」

 

 『バレットパンチ』から一転、ルカリオは速度をわずかに落とし、『コメットパンチ』に切り替えた。速度と攻撃回数は落ちたが、一撃の威力が上がる。通常の『コメットパンチ』と比較して威力は落ちるが、速度が高くエルレイドは回避しきれず、顔面に攻撃を受けた。

 

「せいなるつるぎ!」

「受け止めて!」

 

 攻撃から即座に立ち直ったエルレイドは、ルカリオに向けてエネルギーを纏わせた腕を振り下ろす。しかしルカリオは、卓越した動体視力でエルレイドの腕を白刃取りの要領で受け止めた。

 だがエルレイドのもう片方の腕がルカリオに向けて振り抜かれる。受け止めることができないルカリオは咄嗟に波導を集中させ、ダメージを軽減する。直撃ではないが、ダメージは大きい。ルカリオの残り体力は二割を切り、エルレイドも三割弱。互いに、強力な技一撃でダウンするような体力だ。

 

「もう一度せいなるつるぎ!」

「つばめがえし!」

 

 『せいなるつるぎ』と『つばめがえし』がぶつかり合う。『つるぎのまい』による攻撃力上昇と、技のタイプ相性によって互いの攻撃は相殺されたが、ルカリオが一瞬早く攻撃体勢に入った。

 

「ブレイズキック!」

 

 燃え盛る炎を纏わせた足が、エルレイドを蹴り上げる。咄嗟にエルレイドは腕で防御体勢を取るが、勢いを殺しきれず顔に攻撃を受けた。

 直撃すれば、勝負はついていたかもしれない。しかし、不完全とはいえ、咄嗟の防御行動がエルレイドの体力を残した。

 

「インファイト!」

 

 体力が残ったエルレイドは、『インファイト』による連撃をルカリオに叩き込む。防ぐこともできない、完璧なカウンター技として強力な格闘タイプ技である『インファイト』を打ち込まれれば、体力の残り少ないルカリオでは耐えることはできない。決まったと、ゴヨウとエルレイドは内心で確信した。

 だか、ルカリオは強力な連撃を受けながらも立っていた。全身から立ち上る波導は今まで以上に強く、凄まじい覇気を放っている。効果抜群の技が直撃したのだ。本来なら、立っていられるはずがない。何か理由があると考えた瞬間、ゴヨウの頭に一つの結論が導き出された。

 

「…こらえる!」

 

 ルカリオは、攻撃を避けられないと察した瞬間に『こらえる』で攻撃を耐えきったのだ。どんな攻撃でも、発動タイミングさえ間違えなければ耐えきることが可能な技だ。

 

(確かに、ルカリオは堪えるを覚えます。しかし、ここまで攻めていながらもやられることを想定した(・・・・・・・・・・・)動きは、今までのルカリオにはなかった!)

 

 ここまで泥臭く、やられることを想定した動きをルカリオでしてくることはなかった。それ故に、この粘りがゴヨウにとっては想定外だった。

 

「ですがギリギリなのは確か。ここで決めます!サイコカッター!」

「しんそく!」

 

 エルレイドの放った念力の刃を、ルカリオは凄まじい速度で移動しながら回避していく。

 

(エルレイドは特殊技でも決め切れる体力ですが、溜めから放つまでの時間があれば対処できる。それはシロナさんもわかっているはず。ならば、近接攻撃で決めてくるでしょう!)

 

 そう考えたゴヨウは『サイコカッター』で牽制しつつ、攻撃してくる隙と進路を限定させる。ルカリオの速度であっても、体力がギリギリであるルカリオはいつまでも回避し続けることはできない。一瞬の隙を見逃すことなく、突いてくるはずだ。

 

 そしてその瞬間が訪れる。ほんの一瞬、半分意図的に作られた攻撃の隙間をルカリオは潜り抜け、エルレイドに肉薄してきた。

 

「ここです!せいなるつるぎ!」

 

 恐らく、意図的に作られた隙だとシロナも理解している。だが、今更耐久することなどできない以上、ここで攻める以外の選択肢はない。きっとシロナは、この瞬間に誘い込まれたことを理解している。ここまで来たら互いに小細工はできない。なら自分は、さらにその上を行くまで。

 

「コメットパンチ!」

 

 ルカリオが腕を硬化させる。『しんそく』の速度が乗ったまま拳を振り上げ、エルレイドに迫った。

 エルレイドも剣のように鋭いエネルギーを腕に纏わせ、ルカリオに向かおうとする。この速度でいけば、お互い同時に攻撃が炸裂するだろう。その場合、無理やり体を動かしているルカリオの方が先に倒されてしまうが、もう攻撃をキャンセルできるようなタイミングではない。

 

 ルカリオとエルレイドが力強く踏み込み、拳を振り抜こうとした瞬間、エルレイドは踏み込んだ足から力が一瞬抜けてしまう。ガクッと足が崩れたことで、エルレイドの速度が落ちてしまう。

 

「⁈」

 

 ほんの一瞬体勢を崩し、攻撃がワンテンポ遅れた。その一瞬を、ルカリオは逃さない。全霊の一撃がエルレイドにヒットし、吹き飛ばした。エルレイドはフィールドを転がり、地面に倒れ伏す。その時にはもう、エルレイドの意識はなかった。

 

『エルレイド戦闘不能!よってこのバトル、シロナ選手の勝利!そして今回のシンオウ地方チャンピオンは、シロナ選手に決定いたしました!』

 

 バトル開始時よりもさらに大きな歓声が響く。シロナは集中を切り、大きく息を吐き出した。今まで以上に多くの汗をかいており、玉のような汗がシロナの顔を伝っていくのを感じた。

 ルカリオは体力が限界で座り込んでいる。そんなルカリオに近寄り、労うように撫でた。

 

「ありがとうルカリオ、頑張ってくれたわね」

 

 ルカリオはメガシンカを解くと、頷いた。そんなルカリオの様子を見てシロナは小さく笑い、ルカリオをボールに戻す。そして同じようにエルレイドをボールに戻したゴヨウに歩み寄っていった。

 

「…完敗でした」

 

 ハンカチで汗を拭きながらゴヨウは言う。その顔は悔しさと、それ以上に出し切った満足感に溢れていた。

 

「今までで一番強かったです。全く…あれだけ対策してきたのに…それを越えてくるなんて、さすがとしか言えませんね」

「ありがとう。貴方も強かったわ。積み上げてきた全てを出し切って、ようやく勝てた。本当に、強かった」

「ありがとうございます。それで、一つお聴きしたいのですが構いませんか?」

「ええ、いいわよ」

「最後の一撃の時…エルレイドの足から力が抜け、攻撃が遅れた。あれは、意図したものだったのですか?」

 

 最後の一撃…あの時、もしエルレイドの足から力が抜けていなければ、勝っていたのはエルレイドだったかもしれない。しかしあの時、エルレイドは何かに足を取られたわけでもないというのに、足から力が抜けた。ルカリオがあの時何か小細工したとも思えない。シロナが何かを仕掛けたのか、ゴヨウは知りたかった。

 

「意図したもの、というのはその通りだけど、あの瞬間に起きたのは偶然。そこまでコントロールはさすがにできないわ」

「意図したということは、何か仕掛けていたのですよね。いつ仕掛けたのですか?」

「ブラッキーの最後の一撃からよ」

 

 ブラッキーの最後の一撃…シロナのオーダーした『シャドーボール』ではなく、ブラッキーは『アイアンテール』でエルレイドを攻撃した。結果、大したダメージにならず気にしていなかったが、あの一撃からシロナは最後のあの瞬間を想定していたという。

 

「ブラッキーはあの時独断で行動したけど、あの行動の意図を理解できたの。最後にあの瞬間を創り出すためのね」

「…ブラッキーは、具体的に何を?」

「この子は、アイアンテールでエルレイドの脳を揺らしたのよ」

 

 ブラッキーは『アイアンテール』をエルレイドの顔にぶつけた。それはダメージ目的ではなく、脳を揺らすことで体力はあれども、肉体に限界がくるように仕向けた。無論、ブラッキーの攻撃だけでどうなるものではない。だからルカリオは体力を削り、ブラッキーの策を促進した。タイプ相性が悪いため、それが一番良いとシロナとルカリオは判断したのだ。

 

「体力はあれど、肉体へのダメージが大きければ、パフォーマンスは落ちる。タイプ相性とエルレイドの技量を見て、それが一番勝利に近いと思ったのよ」

「なるほど…肉体へのダメージですか。そこまでは考えが回りませんでした。何にしても、ブラッキーの採用は、完全に想定外でしたよ」

「私の対策を完璧にしてきているだろうから、それ以外の『淀み』が必要だった。その結果が、この子よ」

「淀み…淀みですか。なるほど、貴女という清流を分析しきったつもりでしたが、淀みは想定していませんでした。やはり、完敗です」

 

 苦笑しながらゴヨウは手を差し出す。その顔は、晴れやかで、どこか悔しそうな複雑な表情だった。

 

「またやりましょう。今度は負けません」

「あら、私も負けないわ。次も、私が勝つ」

 

 シロナはゴヨウの握手に応え、手を取る。固く握手を交わすと、再びフィールドを歓声が包み込んだ。

 また戦う日を楽しみにしながら、二人はシンオウ地方最高の遊び場を去るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 表彰式と閉会式が終わり、スズラン島は後夜祭を楽しむ人々で溢れている。そんな人々を、シロナはスタジアムの屋上から眺めていた。側には、ガブリアスとルカリオが佇んでいる。

 

「後夜祭、行かねえのか」

 

 そんなシロナに、一人の青年が声をかける。聞き慣れた、落ち着きのある低い声。

 

「…いいのよ」

「そうか。まあ、好きにするといい」

「そういうカイムはいいの?」

「いい。人が多い」

 

 青年…カイムはぶっきらぼうに答えつつ、頭にへばりつくブラッキーを優しく撫でる。撫でられたブラッキーはごろごろと喉を鳴らし、気持ちよさそうにしていた。

 カイムはそのままシロナの隣に立つと、後夜祭を楽しむ人々を眺める。わずかな沈黙の後、シロナに問いかけた。

 

「聞いていいか?」

「いいわよ」

「なんで今回、ブラッキーを使いたいって言ったんだ?」

 

 シロナがゴヨウ戦で出したブラッキーは、カイムのブラッキーだった。シロナが昨夜、ブラッキーを使いたいとカイムに申し出てきて、カイムはそれを容認した。その際に理由は聞いているが、改めてカイムはシロナに理由を問いかける。

 

「昨日も言ったけど、ゴヨウ君を攻略する上で必要な動きができるポケモンがブラッキーだったのよ。壁を展開し、相手の攻撃力を削ぐ。そしてガブリアスの能力上昇サポート…ブラッキーにしかできないのよ」

「かもな。だが、壁張りならトゲキッスもできるし、ガブリアスの能力底上げも最悪壁さえあればどうにか…」

「ならないのは、貴方もわかっていたでしょ?」

「…まあ、な」

 

 あれだけギリギリのバトルを見せられた以上、ブラッキーの存在が必要だったと言わざるを得ない。

 

「起点をつくることも攻めることもできる悪タイプ…ブラッキーが必要だったのよ」

 

 シロナはカイムの頭にすりすりと自分の頭を擦り付けるブラッキーを撫でる。撫でられたブラッキーはごろごろと喉を鳴らし、気持ちよさそうにしていた。

 

「それにね、私が過去に出したポケモンは全て調べ尽くされている。だからね、私のポケモンにはない持ち味のあるポケモンが必要だったのよ。私のポケモンにはない持ち味を持つ子がね」

「…そうかい」

「それで、ここまでが実用的な理由。このあたりは一部昨日も言ったわよね」

「あ?まだあんのか?」

 

 まさかまだあるとは思ってなかったカイムは聞き返す。

 

「ええ。ただ、これは実用性とは真逆の…言うなれば、私のわがままだけど」

 

 実用性は、全くない理由。だがそれでも、シロナはやりたかった。

 無言で見つめて続きを促してくるカイムの視線を受けつつ、シロナは語る。己のやりたかった、わがままに近い理由を。

 

「カイムさ、今…後進育てることに尽力してるでしょ?」

「んあ?あ、ああ…まぁ」

「あ、勘違いしないでね。悪いって言ってるわけじゃないのよ。ジムリーダーって立場だし、自分にできることをやるのはいいことだわ」

「じゃあなんだよ」

「後進育てるのはいいの。ただ、自分はもうここまでって無意識に線引きしてない?」

 

 シロナの言葉にカイムは目を見開く。

 

「確かに、貴方にバトルの才能はない。そんな貴方がここまで来られたのだし、もう十分だと思ってしまうのも仕方ないとは思う。でもね、自分はここまでって線引きしちゃうのは、とても勿体無いわ。貴方にはまだまだ伸ばせる部分がある。後進の育成に力を入れるのもいいけど、自分の可能性を捨てないでほしかったの」

 

 何一つ持たず、何も成せなかった。そんな己がジムリーダーというトレーナーの壁として、導となる存在になれた。それ故に、トレーナー達を『導く』という役割に没頭してしまうのは仕方ない部分もあるだろう。

 だが、まだカイムにも伸ばせる部分がある。そこから目を逸らし、自分の可能性を減らして欲しくなかった。だから、カイムの手持ちの中でも役割次第ならトップレベルに通用するブラッキーを決勝で使い、彼の可能性がまだあるということを伝えたかった。

 

「まだまだ伸びる弟子の可能性…それを伝えたかったのよ」

「可能性か…確かに、ここまでって無意識に線引きしてたかもしれねぇ」

「研鑽を怠っていたとは思わない。でも、心のどこかで限界を勝手に定めていたんだと思うわ。その必要がないってことを、伝えたかったの」

「そうか…そうかもしれんな。で?わがままってのはそれだけか?」

「察しが良すぎるのも考えものね」

 

 シロナは苦笑すると、カイムに寄り添い、カイムの手に自分の手を添えた。

 

「…怒らないでね」

「今更だろ」

「そうね」

 

 シロナは一呼吸おくと、カイムの頭にへばりつくブラッキーを抱き上げ、ぎゅっと抱きしめた。

 

「…貴方と、戦いたかったの。本当の意味で」

「そうか」

「怒らないの?」

「必要ねぇだろ。それに、その気持ち自体は嬉しいし、エルレイド戦に関しては力になれたみたいだしな」

 

 ブラッキーの最後の一撃は、シロナの想定を上にいった一撃であると同時に、大きな賭けでもあった。しかしその賭けに勝ち、ルカリオはブラッキーの残した一撃を最大限活用した。もしブラッキーの一撃がなければ、もしかしたら負けていた可能性もないとは言えない。

 

「お前の力になれたのなら、それでいい。な?」

 

 カイムが問いかけながらブラッキーを撫でると、ブラッキーは肯定するように鳴き、ごろごろと喉を鳴らす。そんな二人を見てシロナは優しく微笑み、カイムに寄り添った。

 

「ありがと」

 

 シロナの言葉と同時に、花火が打ち上がる。花火に照らされた二人とブラッキー、ガブリアス、ルカリオが花火に目を向けた。

 

「綺麗だな」

 

 花火に目を向けながらカイムは呟く。カイムの青みがかかった黒い瞳が、花火の光で照らされて輝く。海のように深い青い瞳。吸い込まれそうになる真っ直ぐな瞳に、シロナは見惚れてしまう。

 

「…ええ、綺麗ね」

「ちょうど一年前にも見たな」

「そうね」

 

 昨年、二人が想いを告げあった時と同じ場所、同じタイミング。偶然か必然か、二人は同じ場所にいた。

 

「あれから一年も経ったのね」

「早いな」

「ええ、本当に」

「やっぱ、お前といると退屈しねぇよ」

 

 何も成せなかった長い時間よりも、はるかに濃密で、穏やかで、それでいて愛おしい日々。昨年からずっと変わらない思いが、今もカイムの心にあった。

 

「お前の隣でいられることが、何よりも嬉しい。ここで息ができることが、嬉しいんだ」

「…私も」

「前はお前に言われた。だから今年は、俺が言わせてもらう」

 

 

 

 

「お前のことを、心から愛してる」

 

 

 

 

 いつも通りの無表情。だが、心からの言葉を受け、シロナは目を見開く。昨年はシロナが告げた言葉を投げかけられ、シロナは思わず顔を赤くして目を背けそうになる。しかし、ここまで真っ直ぐ伝えられた言葉から目を逸らすわけにはいかない。そんな想いを抱え、シロナはカイムに向き直った。

 

「私も…貴方のことを愛してる。この先ずっと、何があっても…貴方の隣にいたいと私の心が、魂が叫んでいるの」

 

 シロナはカイムの手を取ると、自身のペンダントに引っかかっていた青いリングを外す。そしてカイムの右手薬指にリングをはめた。

 

「…ずっと、ずっと側にいてね」

「ああ」

 

 花火に照らされながら、二人は寄り添う。

 この先も隣にいられることを願いながら、二人は夜空を見上げる。花火と月が一年前同様、二人を優しく照らしているのだった。

 

 

 

 そんな二人をポケモン達はやれやれといった様子で眺めている。二人の甘い空気に嬉しそうな様子を見せるのは、ブラッキーくらいだった。

 

 

 




リーグでした。


3万字書いたデータが消し飛んだ時の私の心境を答えよ。


カイム「問題ない、致命傷だ」
シロナ「領域展開…砂塵暴風域(砂嵐)
言わせてみたかった。

キョジオーン(砂糖まみれの姿)
砂糖ポケモン
タイプ:フェアリー・鋼
キョジオーンが砂糖まみれになった姿。主にラブラブカップルを目の当たりにした一般市民の前に現れる砂糖の塊。一般市民が吐き出した砂糖が固まってできたと言われている。どんなところでも息を吸うようにイチャつくカップルの場所によく出没し、壁になってそのカップルを眺めているらしい。
技 てっぺき ド忘れ ボディプレス 砂糖漬け(相手を砂糖吐き状態にする) メタルバースト じゃれつく アイアンヘッド 自己再生 等

シロナ
再びチャンピオンに。正直、ブラッキーを使うことを最後まで悩んでいたが、勝つこととカイムの伸び代を自覚させることの両方を実現可能であることを考慮し、ブラッキーを使うことを選択。なお、普段はエース運用しているブラッキーだが、さすがにトップレベルでエース運用できる腕ではないため、起点作成要員にした。尤も、起点作成という意味では、シロナの想定以上の腕だった。

カイム
サポーター力が上がり、シロナの強さをより盤石にした。ブラッキーの最後の行動は、カイムの育成故。これが最適解かどうかは見方によるが、最後に繋ぐという意味ではシロナの想定よりも上にいった。

カルム
XY主人公。カイムの弟子ではない。故郷の友達とは、言うまでもなくセレナ。

ジュン
ダイパシリーズのライバル。かつては最強のNPCだったが、レッドやアルティメットアイリスが出現し、さらには現時点最強のNPCであるリメイクシロナが現れてしまった。

キクノ
ガブリアス関連では、かつてシロナを指導したことがある。

ゴヨウ
四天王最強。この一年の間にメガストーンを手に入れて、より強さが盤石になったが、シロナはさらにその上にいった。メガエルレイドの特性は本来『切れ味』ではないが、ルカリオとの殴り合いを考えたら『切れ味』の方が良さそうだと思った結果。



二人のポケモンの眠り方
ガブリアス
・大の字寝
・座り寝
・まるまり寝
・寄り掛かり寝

ブラッキー
・まるまり寝
・ごめん寝
・ムクホーク布団寝
・だきつき寝(カイムかシロナが側にいる時のみ見られる)


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