ただただシロナさんとまったり過ごすだけの話   作:職業病

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ちまちま書いてた話

本編は今年の間に更新できそうになかったので、短編の供養。



12/30 日間ランキング22位 ありがとうございます


閑話 ミオシティ

「あー!つっかれたー!熱いバトルだっただけに疲れたぜ」

「はは!そりゃこっちのセリフだぜオーバ。今回は勝たせてもらったが、全力の全力だ。全部出し切ってようやくだったんだからよ」

 

 赤いアフロ頭と端正な顔立ちの青年が夕方の街を歩く。二人はミオシティで開催された大会に出場し、その帰りだった。

 

「ちっくしょー!やっぱ悔しいぜ!あそこで急所もらわなければ勝ってたのは俺なのによ!」

「ゲームメイクはお前の方が上だったな。だが今回は運も含めてこっちの勝ちだぜ」

「かーっ!悔しい!内容で勝ってただけに余計悔しい!」

 

 うがーっ!と声を上げるオーバにデンジは笑いながら背中を叩く。

 一通り騒いだオーバは落ち着いたのか、大きくため息を吐くと、腹に手を当てた。

 

「あー…全力でやったから腹減ったぜ。デンジ、このあたりでメシ食っていかねえ?」

「いいな。ちょいと早いが、まぁ早めならまだ空いてるだろうしどっか入るか」

「おうよ!だが、ミオシティの店知らねえからな。あんま来ねえし」

「俺もだ。あんま来たことないから調べないと…」

 

 デンジがスマートフォンを取り出したところで、何かを思いついたようにデンジは声を上げる。

 

「あ」

「ん?どうした」

「そういや、知り合いが今店やってんだ。そこ行くのはどうだ?」

「どんな店なんだ?」

「普通の居酒屋だ。あんま大きくねえが、出す料理は美味いぜ」

「行ったことあんのかよ」

「そいつの料理食べたことあるってだけだ」

 

 少なくとも彼の料理の腕は確かであることは知っている。本業ではないが、今の時間は彼がいると聞いていたため、冷やかしも含めて行くのもいいだろうとデンジは考えた。

 

「へえ、ならいいぜ。行ってみようや」

「うし、決まりだな」

「んで?デンジの知り合いって誰だ?」

「お前も名前だけは知ってるかもな」

「?」

「ミオジムのジムリーダーだよ」

 

 デンジの言葉にオーバは「え?」と声を上げる。オーバも最近ミオジムのジムリーダーが変わったことは把握しているが、まさかジムリーダーが居酒屋をやっているとは思いもしなかったからだ。

 

「ミオジムのジムリーダーって…トウガンさんの後釜だよな。そんな人が居酒屋やってんのか?」

「ああ。ジムリーダー以外の本業は学者だが、その店の店主が今体調崩してるんだとか。それで手伝える日は手伝ってるんだとさ」

「へえ…なんというか、お人好しだな」

「そうだな、そういう奴だよ」

 

 本人の口調と無表情さから冷たい人に思われがちだが、彼は生粋のお人好し。本人は否定するだろうが、その気質があるのは疑いようもない。

 

「いいぜ、美味い飯が食えるなら大歓迎だ」

「よし、じゃあ行こうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか?」

「ああ、多分な」

 

 以前クロガネジムのジムリーダーであるヒョウタから聞いた店名と位置情報は一致する目の前の居酒屋。居酒屋は『海原』という看板が掲げられた店は和風な風貌であり、中からは声が聞こえてくる。既に営業しているらしい。

 

「へえ、いい店だな」

「だな。じゃあ行こうぜ」

 

 デンジは引き戸に手をかけ、店内に入る。店内はエアコンが効いていて涼しく、広くはないが清潔感溢れた店だった。カウンター席とテーブル席があり、合計20人くらいは入れそうなキャパシティだろうか。

 

「らっしゃい…げっ」

「げ、じゃねぇだろカイム。お客さんだぞこちとらよ!」

 

 厨房にいた男…カイムがデンジの顔を見て顔を顰めた。そんなカイムを見てデンジは楽しげに笑いながら手を上げる。

 

「おっ、お前さんが噂の新人ジムリーダーか!」

「四天王のオーバ…ああ、今日スタジアムで大会やってたな。今帰りか」

「そーそー!デンジがここならいい飯にありつけるって言ってたからよ!よろしく頼むぜ!」

「とりあえず、そこにいるな。他の客の邪魔になりかねん」

「おっと失礼」

「あら、オーバ君にデンジ君」

 

 凛とした声が店の奥から聞こえてくる。二人が視線を声がした方に向けると、作務衣に身を包んだシロナがいた。

 

「えっ、シロナさん⁈なんで⁈」

「ああ、カイムと一緒にお店の手伝いしてるのよ」

(おいおい、チャンピオンがなんで居酒屋手伝ってんだよ…)

 

 シンオウ地方最強のトレーナーがまさか居酒屋にいるとは思わず、オーバは頬が引き攣るのを感じる。ジムリーダーのデンジならともかく、オーバにとってシロナは上司に近い。シロナがいるのが嫌というわけでは断じてないが、多少気を使うのは間違いない。

 

「とりあえず中にどうぞ。テーブルとカウンターがあるけど、どっちがいいかしら」

「じゃあ…せっかくだしカウンターで」

「テーブル行けやこの野郎」

 

 厨房で手を動かしながらカイムはげんなりと表情を沈める。とはいえ、シロナが好きな方をと言った以上、わざわざテーブルに行く理由はない。遠慮なくカウンターに座らせてもらおうと二人はカウンター席に着いた。それもカイムが調理する姿が一番見やすい目の前の席。

 

「なんで正面なんだよ…」

「へへ、いいだろ?お前がここにいるのヒョウタから聞いてよ。ここに来たら冷やかしついでにこうすること決めてたんだ」

「ヒョウタの野郎…」

「まーそう言ってやんな。何にしてもお前の飯は美味いから、期待してるぜ」

「デンジがそう言ってんだ。俺も期待してんだから頼むぜ!あ、俺オーバ。年齢変わんねーから敬語なくていいぜ」

「はいはいどーも。ミオジムのジムリーダーカイム。今はここの代理店主だ。よろしく」

「盛り上がっているところごめんなさいね。お通しよ」

 

 シロナは二人の前に小鉢を置く。小鉢には金平牛蒡が入っており、これが本日のお通しらしい。

 

「お、どうもシロナさん」

「いやぁ変な気分っすよ。シロナさんに給仕されるなんて」

「ふふ、違和感すごいと思うけどできるだけ気にしなくていいから。それで?注文は決まった?」

「とりあえずビールで。オーバは?」

「俺もビール!」

「はい、生二つね」

 

 注文を取ったシロナは厨房へと戻っていき、ジョッキを用意する。ジョッキにサーバーからビールを注ぎ込み、泡との割合がいい感じになるように注いだ。コーヒーや紅茶を淹れるのだけは上手いシロナだったため、このビールを注ぐ行為はすぐに慣れたのはここだけの話である。

 

「はいお待たせ。生二つよ」

「おっ、ありがとうございます。じゃあオーバ」

「おうよ!大会おつかれ!そんで優勝おめでとう!」

「サンキュー」

 

 二人はジョッキを合わせると、ぐいっとジョッキを傾ける。疲れた体にビールは非常に美味く感じ、一気に半分ほど飲み干した。

 

「っか〜!やっぱ暑い日のビールは美味えな!」

「疲れた時のビールもいいよな。きんぴらにもよく合う」

「他のつまみも頼もうぜ!なぁカイム、今日のおすすめはなんだ?」

 

 初対面なのにぐいぐい来るオーバのコミュニケーション能力の高さを感じつつ、カイムは口を開いた。

 

「天ぷらと串カツ。揚げ物メインだ」

「へえ、いいじゃん。じゃあ串カツ頼むわ!中身はお任せするぜ」

「俺は天ぷら頼む」

「はいよ」

 

 注文を受けたカイムは揚油と材料を用意し、調理を始める。デンジが『料理が上手い』と言っていたが、確かに手際は相当いい。これだけ慣れた手つきならば、味の方も期待できるだろう。

 だがそれはそれとして、何故ジムリーダーが居酒屋をやっているのか。その理由についてオーバは知らなかった。デンジからここにいる、という事実を聞いていただけ。そのためカイムがここにいる理由を聞いてみた。

 

「そういやカイムよ。お前ジムリーダーなのになんで居酒屋なんてやってんだ?確か学者もやってんだろ?」

「学者はまだ半人前なんでやってるって言っていいかはわからんのですが…ここにいる理由は、ここの店主が膝壊しましてね。手伝える時に代理店主やってるんすよ」

 

 この居酒屋はカイムがジムトレーナー時代に、トウガンに何度も連れてきてもらった場所であり、トウガンとの繋がりでここの店主には良くしてもらった。普通に食事に来る以外にも、ダークライ事件の際にも大いに世話になった。その恩を返すために今回、代理店主を申し出たのだ。無論最初店主は『ジムリーダーにそんなことさせられない』と言っていたが、何度か申し出ると『オフや時間の余裕がある時だけ』という条件でカイムに頼んできた。

 

「へぇ…お前、いいやつだな!」

「だろ?こいつ、お人好しでいい奴なんだよ」

「やかましい」

「で、お前がここにいる理由は俺は聞いてたんだが…シロナさんまでいるのは聞いてねえぞ」

「ああ?そりゃ言ってねえからな」

 

 デンジはヒョウタからカイムがいることは聞いていたが、シロナまでいることは聞いていなかった。ヒョウタが黙っていたという可能性は考えにくい。そうなると、ヒョウタが来た時はいなかったと考えるのが自然だろう。何故シロナが今日いるのか気になり、デンジはそう問いかけたが、カイムから返ってきたのは当たり前の言葉だった。

 

「ヒョウタからはシロナさんのこと聞かなかったんだが」

「ヒョウタが来た時はいなかったしな。俺がいる時にシロナがいる可能性があるってだけだ」

「あ、そういうことか」

「いやそれはそれとしてだ!チャンピオンに給仕させんなよ!」

 

 オーバのツッコミは尤もだろう。シンオウ地方最強のトレーナーが居酒屋で給仕などしているなど、四天王からしたらどうなっているのだと頭を抱える事態だった。

 

「本人に言ってくれや。あいつがやるって言って聞かなかったんだから」

「いやいや…つーかお前、シロナさんをあいつ呼ばわりって…」

「あれ、オーバ知らねえの?」

「ん?」

カイム(こいつ)、シロナさんの弟子だぞ。トレーナーと学者の」

「えっ⁈マジ⁈」

「ああ。それに、シロナさんのサポーターってこいつだぜ」

「いいっ⁈」

 

 シロナのサポーターの噂はちょこちょこ聞いていたが、まさかジムリーダーになるほどの男がサポーターをやっているとは思いもしなかった。

 

「マジか〜…サポーターいるって噂は聞いてたけど、まさかジムリーダーとは…」

「カイムと個人的に繋がりないと知る機会ないし、知らないのも無理はねぇよ」

「隠してるつもりはないが、おおっぴらにもしてねぇしな」

「なんで?」

「面倒だから。ほい、串カツと天ぷら2人前」

 

 揚げたての串カツと天ぷらを二人の前に置く。熱々の揚げ物に空腹の二人は先程までの話を忘れて手を伸ばした。

 

「おっ!きたきた!」

「早速食べようぜ」

 

 オーバは串カツ、デンジは天ぷらを口に運ぶ。揚げたての料理は空腹時かつ飲酒している体にはよく合うものであり、熱さに若干躊躇いつつも、美味そうに二人は料理を頬張った。

 

「うお、熱つ!」

「だが美味えな!ビールに合うぜ。さすがだなカイム」

「どーも」

「あ、カイム。お刺身の盛り合わせと唐揚げオーダー入ったわ」

「はいよ」

 

 平日かつ、早めの時間故かまだ人の数は多くないが、注文はよく入っている。グラスや空いた皿を下げるためにシロナはよく動き回っており、下げられた食器はルカリオが洗い、バシャーモが布巾で水気を切っている。バシャーモに肩車体勢で楽しそうにしているブラッキーは何をしているんだろうか、と考えつつ、デンジはビールで揚げ物の油を流し込んだ。

 

「あ、シロナさーん。ビールもう一杯!」

「はーい」

「てかさっきはスルーしましたけど…シロナさん、なんでこんなことしてるんすか?」

「ん?ああ、そうよね。チャンピオンがこんなことしてたら疑問に思うわよね」

 

 シロナは苦笑しながらビールをジョッキに注ぐ。

 

「単純にお手伝いよ。私、ミオシティに住んでるから何度かここに来たことあるの。それでカイムから今回の話聞いて、力になりたいって思ったからかしら」

(そういや、この人もカイムと同じお人好しだったな)

 

 多少毛色は異なるものの、二人ともお人好しであることに変わりはない。デンジはシロナとカイムの関係を知っているからすぐに納得したが、オーバは知らないため『へえー、このあたりに住んでたんですね』と声を上げていた。

 

「でも学者にチャンピオンもやっててきつくないんすか?」

「さすがに優先順位としては下がるから、カイムよりもいる頻度は低いわ。でも来れる時は来るようにしてるの」

「へえ。で、ここの店主さんはどんな人なんすか?」

「元々は夫婦で営業してる居酒屋なの。でも結構高齢でね。立ちっぱなしのことが多い仕事だから膝を悪くされたのよ。治るレベルだったけど、少し療養しなきゃいけないからその間代わりに私たちがきたの」

 

 本当は最後まで店主は店を閉めないで、療養しながら営業すると言っていた。だが家族の説得によって療養に集中することを渋々受け入れたが、店を閉めたくない思いが強かったらしく、療養中はどこか元気がなかった。そこでカイムが療養中、開けられる日を開けることを提案し、それにシロナが乗っかってきたという経緯だった。

 

「頑固な人だが、色々と世話になった。他に恩を返せそうなところも思いつかなくてな」

「はは!相変わらず不器用な奴だなお前!」

「うるせえ」

「はーい焼き鳥盛り合わせよ」

 

 横からシロナが焼き鳥盛り合わせを置いてくる。カイムがテキパキと調理を進めるのと同じように、シロナの給仕もかなり様になっていた。美人の給仕ということもあってか、心なしか来ている客の注文量も多い気もする。

 

「シロナさん、だし巻き卵一つ!」

「はーい。カイム、だし巻き卵一人前」

「ああ」

「デンジ君は?追加で何か頼む?」

「ん。じゃあ…カイムのおすすめで」

「はあ?」

「お前のおすすめ出してくれよ。今の俺らに合ってるやつ、頼むぜ」

 

 無茶振り、とまでは言わないが、少々面倒な注文だろうとデンジ自身思う。だがそれはそれとして、カイムにとって勧められる料理がどんなものか知りたかった。それだけの興味本位の注文ではあるが、カイムはすぐに動き出した。

 

「さて、どんなのが出てくるかな」

「面白い注文ね」

「シロナさんならどんなの出てくるかわかります?」

「んー…いくつか候補は出てくるけど、これって言い切れるものはないかな」

「ふむ…楽しみだ」

 

 だし巻き卵を作り終え、シロナに給仕を頼んだカイムは炊飯器で保温されていた白米を準備する。白米の中に具を仕込み、おにぎりの形に整えていく。

 

「おにぎり?」

「ああ、あれね」

 

 おにぎりの形を見たシロナは何を出すのか想定がついたのか、納得したように声を出す。デンジとオーバからしたらおにぎりをそのまま出されるのかと考えていたが、カイムはおにぎりに醤油タレを塗り始めた。

 

「お?タレか?」

 

 そしてタレを塗ったおにぎりを炭火で焼き始める。それを見た二人はどんな料理が出るか理解した。

 

「あ、焼きおにぎりか!」

「美味しいのよ、カイムの焼きおにぎり。疲れた時とかは特にいいわ」

「そいつは楽しみだ」

「ほいお待ち。焼きおにぎり二人前」

 

 厨房から焼きおにぎりの皿をカイムが給仕してくる。皿には焼きおにぎりの他に、レモンが添えられていた。

 

「このレモンは?」

「レモン汁かけて食うとさっぱりして食いやすくなる。加えて、疲れた体に醤油の塩気とレモン汁の酸味は効くぞ」

「へえ、大会後の俺らにはピッタリだな」

「早速いただこうか」

 

 オーバとデンジは焼きおにぎりを手に取り、頬張る。確かにカイムの言うように、醤油の塩気が疲れた体には非常に上手く感じられた。

 

「おっ、こいつは美味いな!」

「ああ、美味いな。こっちの具は…魚の塩焼きか。いいな」

「俺のは明太子だ!辛味で熱くなるぜ!」

「そんで…このレモン汁をかけるんだったな」

 

 レモン汁をかけて食べてみると、これは確かに美味いと二人は納得する。疲れた体にレモン汁は非常に美味く感じられた。醤油の塩気にレモン汁の酸味が非常に強く合っている。

 

「美味い!やるじゃねえかカイム!」

「そらどーも。お気に召したのなら何より」

「ふふ、美味しいわよね。私もよく作ってもらってるの」

「そうなんすね!確かにこれだけ美味けりゃわかりますわ!」

 

 美味そうに食べるオーバだが、今のシロナの言葉の中に二人が師弟関係よりも深い関係だと示している言葉があったが、全く気づいていない様子だった。

 

「こりゃいいや!シロナさん、次もおすすめ頼むぜ!」

「おい」

「はーい。カイム、おすすめ料理よろしくね」

「………」

 

 楽しそうに言うオーバにややげんなりしながらも、シロナからのオーダーということもありカイムは大人しく調理を開始する。相変わらずシロナからの言葉には弱いな、と小さく笑いながらデンジはビールを流し込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暖簾をしまい、扉に鍵をかける。営業時間が終了し、最後の客も帰ったところでカイムは疲れたように椅子に腰掛けた。

 

「ふう…お疲れシロナ」

「ええ。カイムもお疲れ様」

「やっぱ接客業は難しい。俺には向かないな」

「あら、愛想はないけど上手くできてるわよ。専門じゃないから仕方ないといえば仕方ないけどね」

 

 もとより愛想のないカイム。そのあたりは上手くできなくとも仕方ないだろう。対してシロナは完璧に近い形で給仕ができているあたり、さすがの対応力だとカイムは内心で舌を巻いていた。

 

「悪いな手伝わせちまって。さすがに俺だけじゃ手が足りなくてよ」

「いいのよ、好きでやってることだもの。気にしないで」

「忙しい中なのにな」

「それは貴方もでしょ?ダークライ事件の後始末、まだ残ってるんだから」

「まーな。ただ、恩返しするには必要なことだ。多少忙しくとも、うまくやるしかない」

 

 論文、ジムリーダー業、ダークライ事件の後始末に加えて居酒屋運営もやり始めているため、確かに忙しさは凄まじい。だがそれはそれとして、彼にとっては必要なことであるため止める気はない。ポケモン達のサポートもあり、うまく回すことができていた。そもそも療養期間もそう長くない。あと二週間もしないうちにこの居酒屋業も終わる。どうにかなるだろう。

 

「ルカリオ、バシャーモ。お前らにも助けられた。ありがとうな」

「じゃあ今日はここまでね」

 

 そう言ってシロナはルカリオ、バシャーモと共にカウンター席に着く。ブラッキーはカイムの背中を器用に登ると肩車体勢になり、むふーっと満足そうに息を吐いた。

 

「重い…」

「ほらカイム、みんな待ってるんだから賄いよろしくね」

「へーへー、少々お待ちを」

 

 そう言ってカイムは調理を始める。だし巻き卵と作り置きされていた汁物、そしてオーバ達にも出した焼きおにぎりを作り、シロナの前に置いた。ポケモン達にはきのみを使ったサンドウィッチとジュースを作り、ポケモン達に与える。

 

「ほれ、あり合わせだが賄いだ」

「あ、焼きおにぎり。ありがとう、嬉しいわ」

「早めに食って戻ろうぜ。明日もジムあっから」

「ええ、じゃあいただきます」

 

 そう言ってシロナとポケモン達は食事を始める。そんなシロナ達を前にカイムも賄いを食べ始めた。普段とは違う食事だが、ここ最近はこういうことも増えてきたため違和感はない。

 

「うん、美味しい。やっぱ美味しいわねこの焼きおにぎり」

「元は母さんが作ってくれてたんだ」

「え、そうなの?」

「ああ。それを少し俺がアレンジしてこれにした」

「そっか、タキさんが元なのね」

 

 この焼きおにぎりのルーツがタキにあることをシロナは知らなかった。だがそれを今知ることができて、少しだけ嬉しくなった。

 

「貴方のルーツというか、大切な思い出を知れて嬉しいわ」

「手伝ってもらってんだ。このくらいなら、いくらでも」

「嬉しい。これからも、もっと知りたいわ」

「だいぶ知ってんだろ…まあ、いいけどよ」

「私のことで知りたいことはある?わかる範囲で答えるわよ」

 

 シロナの申し出にカイムは手を止める。

 シロナのことで知りたいことはたくさんある。彼女のルーツや、彼女が今心から望んでいることに関するもの。色々あるものだが、今ここで聞くものではないのは確か。

 

「別に。いつか知れれば、それでいい。お前のルーツとかは少し気になるがな」

「私もそれは気になるけど、よく知らないのよね」

「まあ、すぐに知りたいわけでもない。いずれお前の婆さんに聞くさ」

 

 どことなくだが、シロナからはヒガナと空気が似ている。流星の民と同じ民族ではないだろうが、何かしらシロナも特別な一族なのではないかとカイムは考えていた。

 

「私も、自分のルーツは気になるわ。いつか聞けたらいいわね」

「次行く時は……」

 

 シロナの実家に行く場合、それは二人の関係が進んで挨拶に行く時。その時が来た時…二人の関係はさらに進み、公的な意味で一緒になる時だろう。

 

「……まあ、近いうちに行けたらいいな」

「そ、そうね…」

 

 嬉しくなり、思わずニヤけてしまいそうになるのを必死に抑えながらシロナはだし巻き卵を頬張り、カイムは無言で味噌汁を啜る。その耳が赤くなっていることは、その場にいる全員が把握していた。

 そんな二人の甘い空気にルカリオとバシャーモは無心で食事を進め、その隣でもぐもぐとフードを食べるブラッキーは楽しそうに二人を眺めているのだった。

 

 

 

 




なんで結婚してないんですかね、この二人。

Q.シロナさんって家事レベル壊滅的ですよね?給仕なんてできるんですか?
A.給仕くらいはできるように仕込まれました。


シロナ
作務衣姿で登場。本当に似合わない服が無さそう。早く結婚しろ。

カイム
シロナ同様、作務衣姿。早くプロポーズしろ。

デンジ
今回はオーバに勝てたため、二人の甘い空気も耐え切れた。

オーバ
大体何も知らない。そしてお前は絶対許さない。小さくなる使うな。



来年もよろしくお願いします。
良いお年をお迎えください。



一年間ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。

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