ただただシロナさんとまったり過ごすだけの話   作:職業病

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初タッグバトル。

結局2ヶ月…5万字超えるとちゃんと定期的に書いてても時間がかかってしまいます。申し訳ない。

タッグバトル難しすぎ問題。
本当は全部書こうと思ってたけど、こんだけ難しいと全部書くのは厳しそうなので、ポケモンリーグみたいに途中端折って書くと思います。

誤字報告、いつもありがとうございます。
ゼロにできませんね。


51話。
6万字です。


第六部
51話 ミオシティ


「へえ、ここがシンオウ地方か」

 

 コトブキシティの空港から出た少年が呟く。少年の髪は明るい茶色でツンツンと逆立った形をしていた。

 そんな少年の隣には赤い帽子を被った少年。帽子の少年は興味深そうに周囲に視線を巡らせている。

 

「思ったより、カントーと雰囲気は変わらないんだな。まあ比較的近いし、こんなもんか」

 

 明るい髪の少年の言葉に、帽子の少年は頷いた。

 

「ジョウトのエンジュシティとかは結構空気違うんだがな。街ごとに違うのは当たり前っちゃ当たり前か。オレらの故郷のマサラとか、全然違うし」

 

 カバンを背負い直し、少年は地図を見る。電車の駅は少し移動してからでないと乗れないようだった。

 

「さ、行こうぜレッド。せっかく来たんだ。シンオウ地方、堪能しねぇとな」

 

 少年…グリーンの言葉に、帽子の少年のレッドは頷き、歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シロナは自身の仕事部屋のPCに向き合いながら難しい顔をしていた。

 その要因は、年末にあるタッグバトルイベントについてだった。シロナは自分のバトルの腕に自信はある。だがそれはあくまで『自分1人で戦う場合』に限る。タッグバトルとなると、敵の動きだけでなく味方の動きにも気を配る必要がある。下手に動くと、かえって味方や自分の邪魔をしてしまう可能性すらある。

 無論、バトルで最高峰の腕を持つシロナであれば、ある程度は対応可能。そのある程度のレベルも相当な高さになるのだが、相手次第では当然対応されてしまうだろう。

 敵に合わせて戦法を変えるのは得意。しかし、そこに味方の勘定を入れた場合は話が少し変わってくる。

 

「誰と組むかにもよるわよね…」

 

 とはいえ、誰と組むかは大会直前まで不明。自分で設定したルールとはいえ、あまりにも難しい条件だと改めて思う。

 

「カイムと組むのが多分一番楽だけど、どうなるかわからないしね」

 

 単純な戦力のみで考えれば、四天王の誰かや例のフロンティアブレーンと組むのが一番だろう。だが、やりやすいという意味では間違いなくカイム一強だった。誰よりもシロナのポケモンとバトルを理解しているカイムならば、次にシロナがどう動くか、どう動けばシロナがやりやすくなるかを理解できる。

 そしてそれは逆も言えることだった。長らくカイムの師としてバトルを教えてきた過程で何度も手合わせをしている。故に、カイムがバトルの最中どう考え、どう動こうとするかはほぼ完全に理解できている。相手がどう動くかより、味方がどう動くか。タッグバトルではそれが大きく関係してくる。

 一度だけ組んでバトルした時、あれほどまで動きやすいと思えるバトルはないと言えるくらい動きやすかった。マグマ団の下っ端相手にバトルしたが、的確に隙を埋め、次の動きを妨げようとする相手の動きを遮るように動いてくれた。ここまで的確な動きをするには、シロナの動きのパターンをよく把握し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ができる故だろう。その代わり、二手・三手先を読むことはできない欠点があるが、これに関しては天性のものが必要となる。

 

 ちなみに、そのカイムは今、ジムで仕事中。

 学会への申し込みも完了したため、今は学会用の資料作成中であり、比較的余裕がある。近々ミオシティで比較的大きめの大会があるため、ミツルを含む大会に出場するトレーナー達の指導をしているようだった。

 相変わらず指導力はいいようで、ミツルを筆頭にミオジムのトレーナー達は実力を伸ばしてきているらしい。単純なトレーナー達の実力は、現時点でシンオウ地方最強のジムであるナギサジムに迫りつつあるとの話もある。

 ただ、本人も修行は力を入れている。先日の一件からメガシンカ制御のコツをつかみかけているのか、積極的に動いていた。バトル自体も良くなって来ているが、今度のタッグバトル大会を考えると、メガシンカ以外にもう一手何か欲しい。ただでさえ先読みの能力値は低い以上、すぐに切ることができる手札が必要となる。

 

「それは私にも言えるか」

 

 タッグバトルはシングルバトルと比較して必要な情報の処理量が増える。故に、いつもより読み合いが互いに深くなるため、切れる手札が多いに越したことはない。

 自身も出場する以上、備えはしていきたい。自分よりもカイムの方が(実力的な意味で)準備が必要なのは間違いないが、シロナ視点()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ため、タッグバトルとしての準備はそこまで必要ない。今は自分のことを考えるべきだろうと自分のポケモン達に目を向けた。

 

「…レッド君みたいなことが必要かしら」

 

 思い出すのは、レッドのピカチュウ。バトルとしてはそこまで適性の高いポケモンではない種族値をしているが、彼のピカチュウは非常に高いレベルと卓越した身体・技の使い方を持つ。そこはシロナのガブリアスもだが、彼のピカチュウは技を自ら発展させることができる。本来『ボルテッカー』という技は、ピカチュウが『10まんボルト』を発展させたもの。技を纏いながら突撃するという発想から生まれ、今や一つの技として周知されるまでになった。それだけでなく、彼は最近若干威力を落とすが、反動がほぼない『ボルテッカー』を大会で披露した。

 似たようなことをシロナのガブリアスは『げきりん』でできる。技による身体能力強化を使いながらも、理性を飛ばして暴れ回るというデメリットをなくしている。引き換えにやや威力は落としているが、スタミナを使い果たして混乱するということがない。こういった技の発展が必要なのかもしれない。

 

「ガブリアス以外にも、その兆しがあるポケモンもいる。全員できるとは思わないけど、できることはしていかないとね」

 

 技のデメリットを打ち消す、威力を上げる、使い方を変えるなど、色々とやりようはある。例えばルカリオは『コメットパンチ』を維持したまま『インファイト』を放つことで、威力に変化はないもののゴーストタイプに無効化されないというメリットを持たせることが可能。無論代償として威力は通常の『インファイト』と比較してやや落ちる。

 

「…できそうなのは、ルカリオ、ミロカロス、ガブリアス…あとはロズレイドもいけそうかしら。時間を考えたらこの子達の技を進化させるのが限界かしらね」

 

 大会まで残り数ヶ月。半年もない以上、技を発展させられるポケモンの数は限られる。元よりいくつか考えていたものがあるポケモンもいるが、まだノープランのポケモンもいる。少なくとも二体、多くても四体が限界だろう。

 

「…普段からトレーニングも欠かさないし、新しいことのチャレンジもしてる。でも、こういうのは久しぶりだから少し楽しみね」

 

 戦術面で色々試すことはよくやる。しかし、技そのものを発展させるのはガブリアスの『げきりん』、ルカリオの『しんそく』を完全にコントロールした時以来。どことなく楽しみにしている自分がいた。

 

 ただ、それはそれとして、トレーニング相手に少し困る。カイムとやればいいのだが、カイムも大会に出場する。一緒に暮らしている時点でそこまで気にする必要はないのかもしれないが、誰と組むかはわからない以上、最低限気にしておく必要はあると考えていた。

 

「…ま、いいか。どうせカイムなら気づくし」

 

 カイムの鑑識眼は現在のシンオウ地方ではトップクラス。ある程度情報を集めれば、この期間で特定の人物がどこまで伸びるか、どのようなトレーニングを行うかを推測できる。その対象にはシロナ自身も含まれているため、隠したところでどうせカイムの予測範囲に入ったものになるだろう。

 

「さーて、どんなトレーニングにしようかしら」

 

 伸びをしながら立ち上がり、頭の中でトレーニングメニューを考え始める。色々とできることを頭でまとめつつ、シロナはポケモン達のもとへ歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 シロナが新しいトレーニングを考案しているのと同時刻、カイムはジムのフィールドでバトルをしていた。今相手にしているのは、ホウエン地方から修行に来ている少年のミツル。一度は心を折られたが、一から鍛え直すことを決心してからは着実に実力を伸ばしてきていた。

 

「エルレイド、サイコカッター!」

「ルカリオ、ラスターカノン」

 

 念力の刃と凝縮された鋼のエネルギーがぶつかり合い、爆発した。

 技同士が相殺された瞬間、ルカリオが動く。『でんこうせっか』の推進力を活かし、高速で肉薄する。だがミツルもこの速度を読みきっており、ルカリオの速度に合わせて技を繰り出していた。

 

「せいなるつるぎ!」

 

 『しんそく』と比較するとやや速度は落ちる。そのため()()()()()()()()()()合わせることができる。しかし、口で言うほど容易ではない。人間の動体視力ではそうそうこの動きを見切ることはできないし、ポケモンであったとしても至難の業である。それを短期間で慣れたのはやはり、彼らの観察眼が優れていた故だろう。

 

「ルカリオ」

 

 だがカイムもそれは理解している。『しんそく』の速度であれば、エルレイドは対応できなかっただろう。それでもなお『でんこうせっか』という手札を使ったのは、制御しやすいというのが一番の理由だった。

 エルレイドがルカリオに合わせて『せいなるつるぎ』を振り下ろすが、ルカリオは受けながらも体を回転させることでダメージを最小限に抑え、回転の勢いを使って腕をエルレイドに叩きつけた。カウンターの要領で拳が叩き込まれたため、通常よりも強い勢いになり、エルレイドは一瞬ノックバックして隙が生まれた。

 

「コメットパンチからのラスターカノン」

 

 続け様に腕を硬化して叩き込み、叩き込んだ腕に纏わせた鋼エネルギーを一気に放出した。

 

(エネルギーの放出⁈再利用みたいなこともできるのか⁈)

「追撃!」

「っ!せいなるつるぎ!」

 

 咄嗟にエルレイドは『せいなるつるぎ』を腕に纏ったまま振り下ろすが、ルカリオは完璧なタイミングでエルレイドの腕を横向きに弾く。完璧なタイミングによる弾きによって、ダメージは限りなくゼロに近い値に抑えられた。追撃の『せいなるつるぎ』がさらに振り抜かれるが、またしてもルカリオは完璧なタイミングでエルレイドの腕を蹴り上げた。

 

「あくのはどう」

 

 エルレイドの攻撃を弾いたことで生まれた一瞬の隙。弾きの時間と弾いたことで生まれた僅かな時間を利用して、ルカリオは全身に悪タイプのエネルギーを貯めこみ、放った。悪タイプのエネルギーに撃ち抜かれ、エルレイドはフィールドに倒れる。倒れたエルレイドは目を回して、戦闘不能になった。

 

「あ〜…結構頑張ったんだけどなぁ」

「良くなってきたな。全体的に戦術が広くなってきてる。追撃への対応も様になってきたが…まだ動きが直線的過ぎる。カウンターを読まれていると、今みたいに相手のチャンスになりかねん。体術レベルが同等以上の相手には、若干範囲の広い攻撃を多めにするか、中距離技を使うといい。せっかくタイプ一致でサイコカッターが使えるんだしな」

「まだ対応力が足りてませんね…技のキレはよくなってきたと思うんですが、カイムさんは体術レベルが違いすぎます」

「体術に関しては経験がものをいうところが多い。トレーニングだけで補える範囲は案外狭い。体術は組み手を、対応力はジムチャレンジャーの相手をやるといい」

「はい!ありがとうございます!」

 

 そう言ってミツルはポケモン達の治療に戻っていった。

 ミツルの実力は着実に伸びている。基礎ができていた分、一から鍛え直したとしても実力は伸びやすかった。良くも悪くも実直な性格であるため、教えたことはどんどん吸収していく。自ら新たな手札を開拓するタイプではないが、既存の手法をものにすることは適性が高い。ただ、本人も自覚があるように経験がものをいう分野ではまだ実力不足だった。だが、逆に言えば経験を積んでいけば、実力はカイムをも超えるものになるだろう。

 

(もともと、憧れが原因で暴走してただけだしな。ちゃんと矯正してやりゃ、強くなるわな。とりあえず、あいつが満足するまで面倒見りゃ依頼は完遂したと言っていいだろ)

 

 元々ミツルはダイゴの依頼を受けて面倒見るようになった少年。ユウキに追いつくという大きな目標のためにユウキを模倣し続けてきたが、致命的にユウキのスタイルと合わなかったため、行き詰まり、精神を大きく擦り減らしてしまった。どうにか現状を打開しようとしてダイゴに頼ったところ、カイムを紹介された。現実をつきつけられ、一度心を折られたが今はこうしてまた修行に励むようになったのは、カイムの手腕だけでなくミツル自身の心の強さもあるだろう。

 

「あとは手札自体と使い方のレパートリーを増やす。そんでひたすら実践…こんなとこかね」

 

 先ほど話に出ていた体術に関しては、本人がどこまで詰めていきたいかに左右される。聞かれれば答えるが、必須の技術というわけではないため、手札と手札の使い方、そして実践していくのがミツルには必要だろうと考えていた。

 

 今後のミツルの鍛え方について考えていると、マネージャーが寄ってくる。その様子はどことなく落ち着かない雰囲気だった。

 

「あ、あのカイムさん…」

「ああ、どうした」

「その…カイムさんにお客様が…」

 

 カイムはその言葉に目を細める。今日はジムチャレンジ以外に大きな予定はない。来客の予定もなかったはずだが、その客が誰なのかをカイムはぼんやりと予想していた。

 

「…来たのは、俺がバトルしてる最中か?」

「あ、はい。よく分かりましたね」

「視線を感じてな」

 

 正確には視線以外のものも感じていた。

 波導が完全に覚醒したことにより、今まで以上に感覚が鋭くなった。そのため人の気配や視線、物音など、多くの情報を感じ取れるようになっており、慣れるまでは落ち着かなかったが、慣れて(制御して)しまえばなんて事はない。

 カイムがバトル中に感じ取ったのは、強い二つの覇気。決してミツルとのバトルに集中していなかったわけではないが、突如として現れた二つの覇気に気づかないはずがなかった。しかも、その覇気は過去に出会ったことがある存在のものだとすぐに気がついた。

 

「俺が対応する。通常業務に戻っていい」

「は、はい!お願いします」

 

 マネージャーが戻るのを確認すると、カイムは小さくため息を吐く。

 

「なーにしに来たんだか」

 

 そう呟きながらカイムは観客席でこちらを見ていた二人の少年に歩み寄る。一人は明るい茶髪の少年で、もう一人は赤い帽子を被った少年だった。

 カイムに気づいた少年は気さくに、まるで友人に話しかけるように手を上げて出迎える。

 

「ようカイム!久しぶりだな!」

「ああ。ミュウツー(あの一件)以来か?グリーン、レッド」

「だな。相変わらずみたいで安心したぜ」

「……」

 

 楽しそうに笑うグリーンに、無言で頷くレッドをみながらカイムも内心で変わらない二人を見て安心したように息を吐く。

 こんな大物が来たとなれば、マネージャーのあの態度も納得いく。この二人はバトル界隈では知らない者がいないほどの有名人だ。レッドは12歳という若さで、世界トップレベルのセキエイ高原ポケモンリーグでチャンピオンに立った。そしてその時の決勝戦の相手がグリーンであり、12歳とは思えないほどのバトルを繰り広げたことで一躍有名になった。

 

「んで?どーいったご用件だ?カントー出身のお前らがわざわざシンオウに来るとは」

 

 レッド、グリーンはどちらもカントー地方のマサラタウン出身。今でこそグリーンはトキワシティのジムリーダーを勤めているが、2人ともカントーの人間であることに変わりはない。比較的近いとはいえ、カントー地方からわざわざシンオウ地方に来るとなると、それなりの用事があるのだろうとカイムは考えていた。

 しかし、グリーンからかえってきた言葉はカイムの予想しないものだった。

 

「端的に言えば、武者修行だ。今俺とレッドは色んな地方回って、色んなトレーナーとバトルしてんだ。そんで、今はシンオウをめぐってるところだぜ」

「武者修行?お前ジムリーダーだろ。レッドも……ああ、お前は殿堂入りしただけで、チャンピオンはワタルか」

「ずっと行ってるわけじゃねーよ。1ヶ月くらい使って、一つの地方を回るって感じのスケジュールだ。一度巡ったら一旦カントーに戻る。それに、この修行もシンオウが最初の地方だ」

 

 ジョウトは前に行ったからな、とグリーンは付け加える。

 どうやら二人は修行として色々な地方を巡る旅に出ているらしい。一定期間で一つの地方を巡り、修行。一通り巡ったところでカントーに戻るということをやろうとしているようだった。

 

「随分と、思い切ったこと始めたな」

「まーな。ただ、カントーにこもってるよりは色々経験できそうだしな」

「見聞を広める旅か。若えのによくやる」

 

 まさか旅行ではなく武者修行のために来るとは思ってもおらず、思わずカイムは苦笑する。実力としてはバトル界隈では既にトップクラスの2人がこうして他地方にまで足を運ぶとは思いもしなかったからだ。

 

「しかし、こうしてここまで2人で来るとは…仲良いな、お前ら」

こいつ(レッド)が勝手についてきただけだ。そんなんじゃねーよ」

「そーかよ」

 

 人のことは言えないが、グリーンも素直ではないなと内心で苦笑する。

 そこで話題を変えるようにグリーンが口を開いた。

 

「しかし、お前ちゃんとジムリーダーしてんだな」

「おいこら、そらどういう意味だ」

「煽ったんじゃねーよ。さっきの指導バトル見てたんだ。前、俺が出たシンオウリーグで調整相手してもらったろ?あの時と比べてかなり強くなってんなって」

 

 当時はまだトバリシティのジムトレーナーをしていた。確かにあの時点ではジムリーダーには及ばないレベルの実力。あの時と比べたら、手持ちレベルもカイムのオーダー力もかなり上がっている。確かにグリーンが感心するのも頷ける。

 

「そら、あの時から一年半?くらい経ってるし多少はな」

「あんだけやれるなら、大会でもそれなりに上位入るだろ。さっき聞いたんだが、今度ミオシティで大会やるらしいじゃん。でねーの?」

「出ねーよ。色々やることあんでな」

「色々?ジムリーダー以外にやることあんのかよ」

「お前は俺を何だと思ってんだ…別にジムリーダーと並行して他の仕事してる人なんかたくさんいるだろ」

「じゃあお前は他になんの仕事してんだ?」

「考古学の研究。今度学会あるから、その発表のために資料作りしてんだよ」

「学者?ってことは…シロナさんと同じか。へえ…お前、頭いいんだな」

「マジでお前は俺をなんだと思ってんだ」

 

 げんなりしながら言うカイムにグリーンはけらけらと笑う。一回り以上歳上のはずだが、親愛の念はあれど全く尊敬の念はないらしい。

 

「まあ、勉強できそうだしな。大学は…ああ、タマムシ大学って前に言ってたな。あそこ入れるんだし、頭良くて当然か」

「お前らは?トレーナーで食っていけるだけの腕前はもうあるし、トレーナー一本でいくのか?」

「まだ決めてねーよ。そりゃ今でこそトレーナーの頂点に立ちたいと思ってるが…本当に最後までトレーナー一本で行くって決めてはいねーよ」

「そらそうか。まだ決めるには早すぎる」

 

 2人はまだ13歳。まだ人生を決めるには早すぎる年齢だ。いくらバトルが強かろうと、それのみに人生を捧げるかどうかを決められるような歳ではない。

 

「世界には色々ある。バトル以外のもので魅力的なものもな。お前らがどうするかは知らんが、それは忘れんな。なんなら、この旅で少しバトル以外のものにも触れてみたらどうだ?」

「いきなり進路相談かよ…さっきの見てて思ったが、お前なんか教師みてぇだな」

「できない奴の気持ちがわかるだけだ。お前らみたいに、大体自分だけでどうにかできる奴の方が少ない」

「…オレだって、別に全部自分だけでどうにかできたわけじゃねーよ」

 

 グリーンは少しだけ目を伏せて言う。

 以前、グリーンはシンオウリーグに出場した際、シロナに敗れた。そしてそれを機に『己にとってのバトルとは何か、ポケモン達は何か』を考えた。完全な答えはまだでていない。しかし、それでもぼんやりとした答えは出てきていた。

 この旅はその答えを確固たるものにするためのものだった。想定外にレッドもついてきたが、それはそれでよかった。自分とレッドの違いを知るためのいい機会でもあったから。

 

「…オレの話はいいんだよ。話は戻るが、お前大会出たりはしねーの?」

 

 先ほど話題に上がった大会。先ほど指導していたミツルも今度あるミオシティの大会に出る予定だが、カイムは出ないと言う。グリーンは全ての大会の結果を把握しているわけではないが、ジムリーダーになれるほどの実力があれば大会ではそれなりの戦績を取れるとグリーンは考えた。シロナのサポーターとして動いているカイムだが、大会に出る暇がないほど忙しいとはとても思えない。それに、ジムリーダーというトレーナーとしては地方を代表するレベルのトレーナーである以上、オファーなどが来てもおかしくないし、シロナがそのオファーを受けさせないとも思いづらかった。

 

「…確かに今度あるミオシティの大会には出ねえが、年末の大会には出る」

「お?年末に大会なんてあるのか?」

「シンオウリーグ主催のな。少し特殊な大会だが」

「どんな大会なんだ?」

 

 グリーンだけでなくレッドも興味深そうに目を向けてくる。興味のあることへの食いつきは、やはり年相応の少年らしさがあるようで、その様子にカイムは内心で彼らの子供らしさに少しだけ関心した。

 

「タッグバトル大会。ジムリーダー、四天王、フロンティアブレーン、チャンピオンでタッグを組む大会だ」

「タッグバトル!へぇ、珍しい大会だな。お前は誰と組むんだ?」

「まだ決まってねえ。開会式の時にペアが決まる」

「じゃあほぼ即興なんだな。へえ…確かにそれなら、時間取れねえ人がいても問題なくできるな。ただ、細かいルール次第では一方的な試合もありそうだ」

「そのあたりは…あー、一応まだ非公開の情報だし、下手に広めない方がいいか」

「んお、なんだよ。まだ情報解禁されてねえのか」

「大会があるってことだけ通知されてる。だが一応、お前らは部外者だし、これ以上は言わないようにしておく」

 

 一応守秘義務もあるんでな、と付け加えて、カイムはスマートフォンの画面を見せる。画面には今度開催されるタッグバトル大会の招待状が映されていた。

 

「へえ…シンオウリーグ主催でやんのか。ジムリーダーと四天王、チャンピオン…ああ、フロンティアブレーンも入んのか。あとは…招待枠?こりゃなんだ?」

「シンオウリーグの方で有望なトレーナーを招待するとかなんとか…そこはまだ俺も知らん」

「有望なトレーナー?オレか?」

「いや……お前は有望というかもう実力証明されてんだろ…」

「ん、それもそうか」

 

 聞く人が聞いたら傲慢にも思えそうな発言だが、セキエイ高原で準優勝、シンオウリーグベスト4の実績がある以上、決して傲慢ではなく事実と言えるだろう。

 

「このメンツとルールとなると、半分エキシビションみたいな感じか。面白いけど戦力差に関しちゃ、難しいな」

「そうなる。持ち物に関するルールも色々と調整したし、どのペアになっても戦力差は少なくなるはずって主催者が言ってた」

「主催者?」

「シロナ」

「…それなら大丈夫か」

 

 グリーンの中でのシロナの評価は随分と高いらしい。シロナに救われたという経験がある以上、それも妥当かと納得しつつ、カイムは二人に問いかける。

 

「んで?ミオシティに来た理由は?」

「わかってんだろ?バトルしにきた」

「…誰と」

「シロナさんとお前。とりあえずお前らとバトルできりゃいいやって思ってたが…ちょいとオレは用件が増えた」

 

 レッドは知らねーけど、と付け加えながらグリーンは続ける。

 

「まずはさっき話に出てきたタッグバトル。せっかくだし、オレらで即興タッグバトルやってみようぜ」

「俺ら?」

「オレ、レッド、シロナさん、お前。4人いるし、できるだろ」

「あー…そういう。なるほど」

 

 確かに、ちょうど4人いるためタッグバトルはできる。ただ、一つ重大な問題がある。それは、単純な実力が違うことだ。カイム以外の3人は全員チャンピオンレベルの実力だが、カイムはジムリーダーレベル。しかも、そのジムリーダーとしては下から数えた方が早い実力。正直、タッグバトルだとしても足を引っ張ってしまう気がしてならない。

 とはいえ、こういった機会はそうない。思わず尻込みしてしまいそうなメンバーではあるが、ここで引いてしまったらきっと後悔する。そう考えて、カイムはグリーンの提案を承諾した。

 

「わかった。良い機会だし、やるとしよう。あとでシロナには話を通しておく」

「へへ。話が早くて助かるぜ。レッドは…聞くまでもねえか」

 

 そう言ってレッドに視線を向けると、レッドはとても楽しそうに目を輝かせていた。あまりやる機会のないバトルを楽しみにしているのだろう。

 知っていたが、ここまでバトルジャンキーな様子のレッドにカイムは内心で苦笑する。レッドらしいといえばそうだろうと納得し、グリーンに視線を戻す。

 

「まずって言ってたが、他にもなんかあんのか?」

「おう。さっきのバトル見てたんだが…お前のポケモン、やたら体の使い方うまいなって思ったんだよ。例えば、エルレイドの攻撃を回避するんじゃなくて弾いて隙を作っただろ?」

「ああ」

「どういう風に修得したのかなって気になってよ。普通、ああいうのって防ぐのが主流だろ?ああいう動きだけは、シロナさんのポケモンよりも研ぎ澄まされているように見えたぜ」

「ああ、そういう。別に特別なことはしていない。単純に、体術の勉強しただけだ」

 

 元々格闘タイプ専門のトバリジムに所属していたということもあり、カイムのポケモン達はかなり体術レベルが高い。バシャーモやルカリオのような人型ポケモンだけでなく、ブラッキーやムクホークも同様のレベルとなっている。グリーンはそこに目をつけた。

 

「元々、格闘タイプ専門のトバリジムのジムトレーナーやっててな。そこでいろんな格闘技習った。そんだけ」

「お前、前から鋼専門じゃなかったのか」

「何かを貫き通すには、些か非才の身でな」

(非才云々言う割に、あそこまで体術をバトルに活かせるものか?)

 

 通常、体術はバトルにおいて必要な比率は比較的低い。技としては確立されていない動きであるため、ポケモンの肉体強度相手だとほぼダメージにならない。せいぜい、技に繋げるために使う程度と認識されている。

 ただ、ここまでのレベルで使えているとなると話は別だった。グリーンが見ていたミツルとのバトルの中でも、体術による回避や追撃が多くあった。それら一つ一つは大きな効果はないものの、積み重なるとかなり変わってくる。ダメージの軽減、確実に技を叩き込むための隙作り、技から技に繋げるためのコンボ、カウンターなどなど、様々な結果を生み出していた。

 

「体術って言うけど、どんなことしたんだ?空手とか?」

「空手もしたな。あとはガラル空手、合気道、柔道、八極拳、ボクシング、テコンドーとか。このあたりは基礎まではやった」

「…お前、トレーナーだよな」

「半分趣味だ。昔から体を動かすのは好きでな」

 

 さらにそこへパルクールもやって来たこともあり、身軽さにおいてもかなりのもの。これら全ての基礎を修めたことで、カイムは今の体術を完成させた。ただ、これは何か一つの体術を極めたことによるものではなく、パルクールを含めた様々は技術を総合したカイム独自の技術となっていた。そしてポケモン達との組み手を続けることで、ポケモン達にも合った形で体術を仕込むことに成功した。

 

「ふーん…いいね、気に入ったぜ」

 

 そんなカイムに、グリーンはニヤリと笑顔を向ける。

 

「なあカイム。お前の体術、俺にも教えてくれよ」

「は?」

「お前のバトル、オーダーはともかく体の使い方に関しては参考になることが多かった。そして体の使い方(そいつ)は、オレが独学で修得するには時間がかかりすぎる。オレは格闘技やってねーしな。だからお前が教えろ」

「……ふむ」

「お前のいろんな技術が詰め込まれた結果だし、全て身につけられるとは思っちゃいないが…基礎の考え方や技術を学べば、何割かは身につく。一から教えてくれや」

 

 不敵に笑いながら言うグリーンに、カイムは目を細める。

 グリーンは自他共に認める天才。そんな天才が自分のような凡才に教えを乞いに来ているという事実は新鮮かつ不可思議だった。だがそれ以上に、グリーンの学習意欲に驚いていた。確かにグリーンはカイムのような体術は持っていない。だからといって、まさかカイムに教えを乞うとは思いもしなかった。

 

「…何を考えてる?」

「ん?別に変なことは考えてねーぜ。オレに今足りないものが何か…()()()()()()()()()()お前に頼むんだ」

「…そうか」

 

 少なくとも、ふざけているわけではない。真剣にカイムの体術を学ぼうとしている。あまり時間を取れるわけではないだろうが、真剣にやる気があるのであれば、基礎くらいは教えてもいいだろうという考えになった。

 

「いいだろう。だが、体術と一言で言っても、いろんな要素が合わさったものが俺の体術だ。だから教えるのは、俺が重要だと思ってることと、それを修得するための基礎になる。もしかしたらお前が欲してるものとは異なる可能性もあるが…まあそれは教えてる最中にわかるだろう」

「へへ、話が早くて助かるぜ。じゃ、よろしくな。レッド、お前はどうする」

「オレはいい」

 

 珍しく言葉を発したレッドに少し驚きつつ、カイムは頷く。レッドが学びたいと思っていたのならともに教えるつもりではいたが、そうでないのなら無理して教えることはない。

 

「んで?どうする。シロナはシロナで仕事あるし、すぐにタッグバトルはできんぞ。それに、もうそろそろジムも定時だ」

「んー、まあそうだよな。んじゃ、今ちょっとだけ体術教えてくれや」

「簡単に言ってくれる…」

 

 やれやれとため息を吐きながら立ち上がる。そしてフィールドに歩いていった。

 

「おい」

「お?」

「やんだろ?今、軽く教えてやる」

「おっ!いいねぇ!頼むぜ」

 

 グリーンは楽しそうに笑いながらフィールドに降りる。

 普段と比べて子供らしい一面を見せるグリーンを少しだけ意外に思いつつ、カイムはボールを手に取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なーんでこうなった」

 

 レッドとグリーンが来訪してきた翌日の早朝、ミオジムのフィールドに立ちながらカイムはそうぼやく。

 時刻としては、いつも通り一番最初に出勤してきたのと同じくらい。そう早いわけでもない時刻だが、カイムがぼやくのにも理由があった。

 

「なんだよカイム!やろうって言ったのはお前だろ!」

「………」

「ふふ、カイムがこんなに面白い話を持って帰ってくるとは思わなかったわ。思わず、今日やらなきゃいけない仕事を全部終わらせるかリスケするくらいには魅力的な提案ね」

「ほら、シロナさんもこう言ってるじゃねーか。なんでげんなりしてんだ」

「……シロナのスケジュール的に、今日できるとは思わなかったんだよ」

 

 チャンピオンと考古学者という立場を持つシロナは、いうまでもなく多忙。ここ数日中に片付けておくべき仕事がいくつかあったはずだが、それをリスケできるほど片付けるとは思いもしなかった。

 シロナの処理能力とバトルへのやる気にやや呆れつつ、カイムは三人に向き直る。三人は早朝でありながらやる気に満ち溢れており、既に楽しそうに覇気を激らせていた。

 

「うっし!じゃあやってこうぜ!」

「場所貸してくれてありがとうカイム。さすがにこのメンツでバトルするなら、さすがにうちの簡易フィールドじゃ厳しかったから」

「…構わん。ただ、あまり長時間は使えん。今日もジムチャレンジがあるからな」

「いいってことよ!とりあえず、一回やってみたかっただけだからな!」

「じゃ、時間もないし早速やりましょ。誰と誰が組むバトルにする?」

「いちいち考えるのも面倒だ。くじでいいだろ」

 

 そう言ってカイムは割り箸を使ってできたくじを差し出す。

 

「なんであるんだよ」

「ジムトレーナー同士のバトルで、組み合わせ決める時に使うんだよ。ほれ、さっさと引け」

 

 実際そうなのだろうが、何故既に用意されているんだとグリーンが内心でツッコミをいれていることなど知ることもなく、カイムはくじを差し出す。渡されたくじをレッド、シロナ、グリーンはそれぞれくじを選び、引き抜いた。

 シロナのくじは何も記されていない。レッドのくじもシロナと同じように何も書かれていなかった。一方、グリーンのくじは赤いペンで先端が塗られていた。そして、残されたカイムのもつくじもグリーンも同じように赤く塗られたものだった。

 

「私とレッド君、そしてカイムとグリーン君のペアね」

「………」

 

 レッドはシロナの言葉に頷く。その表情は鋭くもどこか嬉しそうに笑っている。

 対してグリーンも、カイムとのペアという事実に楽しそうに声を上げていた。

 

「おっ、カイムとペアか。へへ、()()()()()()()()()()()

「は?」

「こっちの話だ。気にすんな」

 

 そう言って笑うグリーンにカイムは首を傾げる。だがグリーンが言う気がないことを察したカイムは、シロナとレッドに向き直った。

 

「ルールはどうする」

「そうねぇ…とりあえず、持ち物制限は無し。ポケモン数は2vs2かしら?」

「いいっすね。でもせっかくだし、バトル前にペア同士で作戦会議しません?」

「ああ、いいわね。確かにタッグバトルは初めてだし、最初はどう進めるか話しておきたいわ」

「レッドとカイムもいいか?」

「問題ない。寧ろ助かる」

「………」

 

 カイムとレッドが承諾したのを確認したシロナは、カイムに使うよう言われたレッドと共にミーティングルームへと向かう。グリーンとカイムはジムリーダールームへと向かっていった。

 

(制限時間は30分…あまりできることはないけど、方針決めと()()はしておかないとね)

 

 タッグバトルにおけるカイムの()()()をレッドは知らない。だからこそ、ただ普通のタッグバトルをするのとは異なるということを共有しておきたかった。

 

「さて、時間も短いし…早速始めましょう。とりあえず、相手のグリーン君とカイムのバトルスタイルについて共有からでいいかしら」

「………」

「そうね、グリーン君についてはレッド君の方が詳しいし、グリーン君の方はお願いね。じゃあ私はカイムのスタイルについて共有するわ」

 

 シロナはタブレットにカイムのデータを映す。

 レベルについては、エース役と思われるブラッキーとバシャーモがやや高いが、他のポケモンもジムリーダーとして見劣りのしないレベルに仕上がっている。全体的に悪・鋼・格闘タイプが多いが、ムクホークやトリトドンの存在が弱点タイプをうまくカバーしている。若干偏りはありつつも、全体的にバランスのいいチームだった。そして、得意技の構成は物理技が多めとなっている。バシャーモを筆頭に、ムクホーク、メタグロス、キリキザンは完全に物理特化の構成だった。ルカリオも物理寄りにはなっているが、特殊技もうまく使い分けられるらしい。そして足りない特殊枠は、トリトドンとブラッキーでカバーという構成だった。

 

「全体的にバランスのいいチームだけど、特殊技がやや火力不足気味ね。そのかわり物理技は相当な威力を持ってるから、レッド君の場合カビゴンとかは少し相性が悪いかもしれないわ。それに、カイムは物理・特殊に関わらずカウンターが得意なの。技としての『カウンター』や『ミラーコート』、『メタルバースト』はもちろん、相手の攻撃をうまく軽減して僅かな隙に強烈な一撃を叩き込むことを得意としてるわ。これは、彼のポケモン全員が卓越した身体能力と高度な体術を修得しているからね」

「………」

「私とどちらが強いか?そうね…バトルを技無しの純粋な体術だけでやりあったら、負ける可能性もあるかもしれないわ。まあ、さすがにガブリアスを相手にできる子はいないけどね」

 

 近接戦闘を得意とするポケモンだけでやれば、そうなる可能性はある。それほどまでに、カイムのポケモン達の体術は卓越していた。攻撃するためというより、技につなぐための守りの体術。それは技を使わないという縛りがある前提だが、シロナのポケモンですら崩すことは簡単にはいかない。しかもこの体術の面倒なことは、相手によって様々な形に変化すること。物理技が得意な相手はもちろん、特殊技使い相手にも高い効果を発揮する。オーダー自体にそこまで光るものはないが、うまく技と体術を組み合わせることが、凡庸なカイムをジムリーダー足り得る存在に押し上げていた。

 尤も、体術と技の組み合わせについてはシロナの指導によるもの。彼が自分で全てを導き出したわけではないのだが。

 

「………」

「強いけど、グリーン君ほどの脅威はない。そう思ってる?」

「!」

「ふふ、わかってる。カイムを侮っているわけじゃないことは理解してる。それに、レッド君の考えは事実よ。少なくとも、シングルバトルならその評価は正しいわ」

 

 シロナは一度言葉を切ると、『ただ』と付け加える。

 

「ただ…タッグバトルになると、カイムは多分評価が一変する」

「?」

「カイムは多分、()()()()()()()()()()のよ。ある程度なら私やレッド君でも無論できるわ。でも、それはどちらかの動きにどちらかが合わせる…言うなれば、片方の強みを少し削減してしまうのよ。これは別にどちらかが悪いわけでもなく、当たり前のこと。でもね…」

 

 シロナが思い返すのは、マグマ団とのバトル。こちらがやりたいことを瞬時に察知し、その行動が遮られないような動きで立ち回るカイムの姿が脳裏を過ぎる。

 

「カイムは、味方の動きを読むのが上手いのよ。どうしてかはわからないけど、こちらがやりたいことを瞬時に察知して、その動きを邪魔しようとする敵の動きを的確に遅延させる。結果的に、シングルバトル以上に動きやすいバトルを進めることができたりするくらいね」

 

 味方がどういったバトルを得意とするかを把握していれば、サポートすること自体はそこまで難しくはない。しかし、それを察知して相手を遅延させるまでの動き出しが早く、しかも相手にとって嫌なタイミングかつやられて嫌なことをしてくる。加えて、こちらの相性が悪ければ即座に位置を入れ替わり、カイム自身がメインで動くことも厭わない。

 あの動きはよく知るシロナだったからあそこまでできたのだとはシロナ自身も思う。しかし、即興のタッグバトルかつ相手は多数という状況において、いきなり『好きに動け』と言えるだけのことはあり、シロナがどう動いても即座に対応してくるあたり、相方がグリーンになったとしても程度に差はあれど似たような働きはすると断言できた。

 

「グリーン君を主軸にしつつ、きっとカイムはこちらの嫌がらせと遅延行為をしてくるはず。でも、元々の防御関連の上手さと体術レベルを考えると、簡単には落とさせてくれない。勝つバトルというより、負けないバトルを得意としてるからね。でも、油断してると僅かな隙にズドン!なんてこともあるから、多分シングルで相手するより厄介よ」

「………いいね」

 

 シロナの言葉を聞いて、レッドは静かに笑う。その目に宿る光は、獰猛さとまるでお気に入りのおもちゃを見つけた子供のような幼さを宿していた。

 

「この程度で厄介だと思うほど、ヤワじゃないわね。さ、グリーン君について簡単に教えてくれる?」

 

 シロナの言葉にレッドは力強く頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

 30分後、両者はフィールドで向き合っていた。

 

「オレ様の対策はできてますかい、お二人」

「ふふ、詰め込める限りはしたわ。そちらこそ、私たちの対策はできたかしら?」

「へっ…()()()()()()

 

 不敵な笑みを浮かべるグリーンに対して、カイムは変わらず無表情。手でボールをくるくると転がしながらこちらを見据えていた。

 何かある。確証はないが、シロナとレッドは二人が何かしらの策を用意してきたことを感じ取った。

 

「それはこれからやればわかるわね」

「違いねぇ。さあ行くぜカイム、お前の言葉…信じるぞ」

「ああ。()()()()()

「いくわよ、ミロカロス!」

「リザードン!」

「いけ、バンギラス!」

「バシャーモ」

 

 全員が一斉にボールを投げ、ポケモンがフィールドに現れる。

 シロナはミロカロス、レッドはリザードン、グリーンはバンギラス、カイムはバシャーモを繰り出す。そしてフィールドに現れた瞬間、バンギラスの力がフィールドを包み、砂嵐が吹き荒れた。

 

(砂起こし…砂嵐が展開されたわね。バンギラス以外はスリップダメージを受けてしまうわ。でも、バンギラスを出すと打ち合わせていたのなら、トリトドンかルカリオ、メタグロス、キリキザンあたりを出すのでもいいのに)

 

 砂嵐は地面、岩、鋼タイプであればダメージを受けない。しかしカイムはよく初手で出すバシャーモを繰り出した。この時点でバシャーモに『きあいのタスキ』によるタスキカウンターの線はなくなった。加えて、耐久力の低いバシャーモに継続的なダメージはかなり痛いはず。

 だが逆に警戒度が上がる。二人は考え無しで突っ込んでくるタイプのトレーナーでは決してない。

 

 警戒度を上げる二人を他所に、グリーンはバンギラスに指示を出した。

 

「いくぜバンギラス!ストーンエッジ!」

「ミロカロス、ねっとうで相殺!」

 

 バンギラスの放った岩石の刃はミロカロスの熱された水がぶつかり相殺される。その瞬間、リザードンが動いた。

 

「ドラゴンクロー!」

 

 龍の力を纏った爪がバンギラスに迫る。バンギラスは視線のみをリザードンに移すが、その瞬間バシャーモが高速で割って入り、リザードンの爪を蹴り上げた。そのまま足を振り下ろしてリザードンを地面に叩きつけると、ミロカロスのいる方に向けて掌底で弾き飛ばす。

 

「!」

「いわなだれ!」

 

 ミロカロスとリザードンに向けて岩石の滝が降り注ぐ。

 

「(いわなだれを効率よく当てるためにミロカロスの方に飛ばした!嫌なことしてくるわね…!)なみのり!」

 

 咄嗟にミロカロスがリザードンの前に出る。そして大きな波で岩石を弾き飛ばした。岩タイプの技はリザードンには4倍ダメージ。この序盤で大ダメージを受ける訳にはいかないため、ミロカロスがリザードンを庇う形になった。

 そしてカバーされたリザードンは、弾けた波と岩石の隙間を縫ってバンギラスに肉薄する。

 

「エアスラッシュ!」

 

 素早い飛行から真空の刃を連続して打ち出す。特防が高く岩タイプを持つバンギラスにはダメージがあまりない。しかし、被弾したことによる一瞬の隙に、リザードンはさらに接近して次の一撃を放った。

 

「おにび!」

 

 青白い炎がバンギラスに迫る。しかし、再びバシャーモがリザードンの攻撃を遮る。バシャーモは炎タイプ故に、『おにび』によって火傷にならない。それを利用してバシャーモはリザードンの攻撃を防いだ。

 だが先のやり取りで、こうしてくるであろうことを読んでいたレッドは、むしろこれを待っていた。

 

「エアスラッシュ!」

 

 再び真空の刃が放たれる。本来なら回避できない距離。

 しかし、バシャーモは『おにび』を遮っただけで技を出していない。次の技を出すことができるだけの余裕があった。

 

「ブレイズキック」

 

 炎を纏った足で真空の刃を打ち払う。加えてその反動を利用して、バシャーモは()()から退いた。

 

「ロックブラスト!」

 

 バシャーモの背後から迫り来るは、岩石の弾丸。バシャーモの存在がバンギラスの技のタメを隠し、次の行動をギリギリまで悟らせないようにしていたのだとレッドは気づくが、別視点から見ていたシロナは既にその思惑を理解していた。

 

「みずのはどう!」

 

 放射状に放たれた水流が岩石の弾丸を押し流す。複数放たれた弾丸だが、一つ一つの威力は低い。『みずのはどう』は威力を大きく削られながらも、余波はバンギラスに到達し、僅かながらダメージを与えた。

 それと同時に、リザードンはバンギラスに追撃を加える。

 

「かわらわり!」

 

 リザードンの手刀がバンギラスに向けて振り下ろされる。岩・悪タイプのバンギラスに格闘タイプは4倍ダメージ。たとえサブウェポンだとしても、大きなダメージになる。そしてその一撃は、拮抗している現状を崩す一撃になりかねない。

 それを瞬時に察知したグリーンだが、バンギラスを動かすためには時間がない。既に目の前まで迫っており、自身より素早さの高いリザードンは振り切れない。

 

 ならばどうするか。考えるまでもない。

 『好きに動け』と言われた。それはつまり、背中を任せるのと同義。

 そこまで言い切ったのなら、応えて見せろ。そう言わんばかりに、グリーンは次の一手のために一瞬の隙を見せた。

 

 ほんの僅かなタメ。コンマ数秒ほどの刹那の時間だが、防御の素振りを見せることすらしないバンギラスに、シロナとレッドは違和感を覚える。

 避けられる距離ではない。しかし、グリーンの育てたバンギラスであれば、不完全ながらも防御は可能なはず。だというのに、動くことがない。その違和感の正体を、二人はすぐに視界に捉えた。

 

 決して油断していたわけではない。だが、タイプ相性も含めて、グリーンへの警戒度が高くなることは至極真っ当。

 

 だからこそ、生まれてしまった警戒の抜け穴。

 

「っ⁈」

「なっ⁈」

 

 高速で肉薄したバシャーモが、リザードンの片翼と腕を絞技のように拘束した。バシャーモの拘束でリザードンの攻撃は止まる。

 

(早すぎる!反動でロックブラストの射線から離れたはずなのにもうリザードンに⁈)

「早業ブレイズキックからの、早業でんこうせっかね…!」

 

 早業。かつてシンオウ地方が『ヒスイ地方』と呼ばれており、ポケモンバトルがまだ競技として確立するよりも前の時、威力を代償に技の出と隙を小さくする『早業』と、威力を大きく伸ばす代わりにタメが大きくなる『力業』という技術が一部の強者の中で使われていた。今となっては廃れてしまい、その存在を知る者は多くない。無論、レッドやグリーンレベルの強者であれば似たようなことはしている。しかし、ここまではっきりと技術として確立させているのは、そう多くない。

 バシャーモは弾くためだけの『ブレイズキック』の出を早くし、攻撃のために使わない『でんこうせっか』を速度に全振りしてリザードンに肉薄した。加えて、『ブレイズキック』の炎を推進力として利用することで、一瞬でトップスピードを出した、という仕組みだった。

 

「バンギラス、ストーンエッジ!」

 

 そして、目の前で動きを拘束されたリザードンを見逃すようなことはせず、既に()()に入っていたバンギラスの攻撃が炸裂する。地面から突き出してきた岩石の刃がリザードンを貫いた。

 しかし、リザードンは拘束されていない片翼を動かし、体を旋回させることでバシャーモの拘束から抜け出す。同時に、旋回の勢いを使ってバンギラスの攻撃から体を捻るようにして受け流し、ダメージを軽減させつつ距離を取った。しかし、軽減させたとしても4倍ダメージ。一気に体力が削られてしまう。

 

「へっ、さすがだな。直撃してもおかしくなかったんだが」

「かわらわりの勢いとストーンエッジの命中精度の粗さだな。僅かに残った体の勢いを片翼で大きくし、旋回によって効率よく脱出と距離の確保をしてる。咄嗟に出たにしては、出来過ぎなレベルの身のこなしだ」

「レッドのポケモン…中でもリザードンは動きがいい。前にまきつくから抜け出す時に使ってるのをどっかで見た」

「ピカチュウは?」

「ありゃ別格。本格的に修羅の道に足突っ込んでる」

「修羅かよ。そりゃ怖え」

 

 軽口を叩き合うグリーンとカイムだが、今のやりとりだけでリザードンの身のこなしが恐ろしく高いレベルということがわかる。純粋な体術レベルだけならばバシャーモに軍配が上がるが、天性の対応力がそれを感じさせない仕上がりを見せていた。

 

(絞技から抜け出すには実際旋回が効果的。誰かから教えてもらったのか自身で気付いたのか。もし後者であったのなら、末恐ろしいとしか言えんな。しかも、グリーンから見てもやばいのにそれよりも上をいくピカチュウはなんなんだよ。何、修羅って。ポケモン辞めたの?)

 

 天才の中でもさらに別格の才能。そう言われるレベルの才能を前にして、何故かカイムは落ち着いていた。天才を目の前にして、いつもなら落ち着かないはずが今は非常に冷静だった。

 その理由は、恐らく対面に立つ金髪の美女。自宅の庭にある簡易フィールドで幾度となく向かい合った存在が、平常心を保たせていた。それどころか、『いける気がする』という謎の自信すら湧いてくる気もした。

 そんなカイムの隣でグリーンは首を鳴らしながらニヤリと笑う。

 

「さーて、アップはこんなもんで十分だろ。そろそろ、アゲていくぜ」

「OKグリーン、悪い知らせともっと悪い知らせがある。どっちから聞きたい」

「いい知らせだけで頼むわ」

「じゃあ悪い知らせから。単純なバトルにおいて、俺のバシャーモはミロカロスが一番相性が悪くて苦手な相手だ」

「OK、そこまでにしてくれや」

「もっと悪い知らせだが、普通についていくだけで精一杯だ」

「冗談にしちゃあセンスがねえ。黙ってついてこい」

 

 グリーンの言葉にやれやれとため息を吐くカイム。冗談めかしでいった言葉だが、実際思考速度的にはほぼ全力だった。そもそも、カイムの持ち味は並列思考から複数の選択肢を導くこと。二手三手先を読めるほどの思考速度はない。今の数セットで経過した時間は僅か数分。かなり高速でバトルが進んだというのに、カイム以外は皆まだ余裕がある。正直、これ以上速度を上げるのはなかなか厳しい。

 

(今のでアップだと?ふざけやがって、こちとら限界まで頭回してギリギリだってのに…化け物共が)

 

 シロナと本気でバトルしたことはある。ただ、シロナは大体いつも『相手の強いところを引き出して対応する』スタイル。そのため、カイムが最も得意とする速度でバトルを()()()()()。無論、思考速度においてカイムは遅いわけではない。ただ、ここにいるトレーナー達が規格外すぎるだけだ。

 今はまだ並列思考とグリーンが搦手を使っていないから対応できている。しかし、ここから速度があがるとなると、少し厳しい。選択肢の導出から決定までのスパンを短くし、相手の技に合わせて技を出す後手必殺で行くしかないと腹を括る。

 

「で?」

「あ?」

「着いて来れるのかよ」

「好きに動け、と言った。どうにかするさ」

「そいつはいい。じゃあ遠慮なく」

 

 ニヤリと笑うグリーンに、レッドとシロナは動くことを察知する。

 そして次の瞬間、バンギラスの周囲に岩石が現れた。

 

「いわなだれ!」

 

 降り注ぐ岩石が滝のような勢いで落ちてくる。落ちてくるまでの僅かな時間で、ミロカロスが動いた。

 

「ねっとう!」

 

 熱された水が岩石の滝に一筋の穴を作り出す。シロナの意図を瞬時に察知したリザードンは、岩石の道を突き抜けていき、岩石の滝上部に飛び出した。ミロカロスはダメージをうけて怯んでしまうが、リザードンはバンギラスのほぼ真上に出た。

 

「(位置調整完璧!いわなだれを出したばかりのバンギラスは動けない。今なら、最大火力を叩き込める!)きあいだま!」

 

 ほぼ真上からの『きあいだま』。強烈な波導が凝縮された玉がバンギラスに向けて放たれる。『きあいだま』がリザードンに向けて放たれ、着弾するまでの数瞬間の刹那の時間。リザードンはバンギラス周辺のフィールドが視界に入る。

 

 リザードンの視界にはバンギラスしかいなかった。

 バシャーモの姿がない。そのことに気づいた瞬間、リザードンの視界の端に赤色が映る。

 

「レッド君下がって!」

「遅い。かみなりパンチ」

 

 電撃を纏った拳がリザードンに叩き込まれる。サブウェポン程度の威力だが、効果抜群であればその威力は大きく跳ね上がり、リザードンは大きなダメージをうけて地面に叩きつけられた。

 しかしバシャーモの攻撃を受けるより数瞬早くリザードンの攻撃が放たれる。凝縮された波導の一撃がバンギラスを穿った。バンギラスは咄嗟に下がることで射線から僅かに逃れるが、4倍ダメージの威力はかなり大きい。

 攻撃を受けながらもバンギラスは標的から視線を外さない。ダメージから僅かに早く立ち直ったバンギラスが地面に叩きつけられたリザードンに向けて『ロックブラスト』を放つが、リザードンも地面を蹴って空中に回避した。

 

「空中に逃げたぜ!追撃だ!」

「とびはねる!」

 

 着地したバシャーモが足に力を込めて大きく飛び上がり、空中に流れたリザードンの尻尾を掴んだ。まさか掴まれるとは思わなかったリザードンはぎょっとするが、即座に反撃体勢に入る。加えて怯みから立ち直ったミロカロスがこちらに狙いを定めていることを視界に捉えた。

 

「投げろ」

 

 反撃にリソースを使っているリザードンをミロカロスに向けて投げる。空中で投げ飛ばしたことで勢いはないが、確実にミロカロスと自分を遮るように投げたことで、ミロカロスの攻撃を中断させた。

 

「エアスラッシュ!」

 

 リザードンもただ投げられるだけではない。空中で体勢を立て直して真空の刃をバシャーモに向けて放った。

 

「(早っ⁈)ブレイズキック!」

 

 咄嗟に炎を纏った足で弾く。しかし、威力を削っただけでダメージそのものは受けてしまう。耐久力の低いバシャーモとしてはそれなりに痛いダメージ。

 

(ここで来るだろ、シロナ)

 

 そして技をキャンセルされたミロカロスは攻撃を放つ。

 

「なみのり!」

 

 カイムの想定通り、ミロカロスの攻撃が放たれる。押し寄せる波がバシャーモとバンギラスに襲いかかるが、バシャーモはバンギラスの前に立ち塞がると、徒手居合の構えを取った。

 

「まもる!」

 

 展開した防壁が大きな波を防ぐ。『まもる』によって波を遮り、大きく威力を削った。これにより、バンギラスに入るダメージは大きく減った。

 互いのポケモンが自陣に戻り、瞬間的に睨み合いの時間になった。

 

(ミロカロスにスリップダメージの感じが見えねえな。『食べ残し』で相殺してる感じか?アクアリングも使ってないし、ほぼ決まりか。リザードンはちゃんとダメージ入ってる。あんま持ち物の効果は見られないし…イバンの実か?レッドの奴が前に持たせていたし、あり得るな。多分耐久系の持ち物はないだろ)

(バンギラスのダメージが思ってるより少ないわね…砂嵐による特防上昇もあるけど、積み技も使わないし多分『突撃チョッキ』確定かしら。特防お化けのバンギラスに加えて、性悪バシャーモ。本当、カイムのポケモンは普段の様子と違いすぎるのよ)

(…グリーン、やっぱり強い。シロナさんもカイムさんもいい。すっごく楽しい…こんなハイレベルなバトルはそうできない。これはもっと、もっと楽しくなるぞ!)

 

 三者三様の思考を巡らせる。

 グリーンは冷静にバトルを分析し、シロナも分析しつつ弟子(カイム)の嫌なバトルに苦笑し、レッドはただただ普段とは違うバトルに心を踊らせていた。これは、この3人の実力が拮抗しているからこその思考だった。

 だが、カイムは内心でかなり苦い顔をしていた。

 

(くっそ…展開が早いうえに技の威力が高え。今の不完全なエアスラッシュで三割以上体力持ってかれてる。タイプ相性が悪いこともあって、攻撃も出しにくいし、下手に出したら咎められる(隙を突かれる)。レッドとグリーンはハイスピードバトルが得意な以上、ハイスピードな展開になる。グリーンの技でなんとかカバーされてるし、咄嗟の対応もできてるが…どこまで着いていけるか)

 

 グリーンのバンギラスの技が広範囲かつ的確ということもあり、その技に対して咄嗟に浮かんだ選択肢で対応してるが、ハイスピードに進んだ場合、どこまで対応できるか自信がなかった。

 

「カイム」

 

 そんなカイムに、グリーンが声をかける。

 

「やるじゃねえか。思ってた以上だぜ」

「は?」

「見込んだ通りだ。やっぱ、お前の身のこなしは一流だ」

 

 先ほどの『いわなだれ』からバシャーモの『かみなりパンチ』。バシャーモがバンギラスの放った岩石の一つに乗り、岩石の陰に隠れてリザードンの視界から逃れていた。

 誰にでもできることではない。タイミングが早く、ミロカロスの『ねっとう』の場所がズレていたらバシャーモに直撃していた。また、タイミングが遅ければリザードンにバレていた。

 しかしそれ以上に、『いわなだれ』の波に乗ることができる身体能力がグリーンにとっては驚異だった。グリーン自身はリザードンに有効かつ広範囲を攻撃できるという理由から『いわなだれ』を選択したが、決して示し合わせたわけではない。グリーンの中でこの選択がいい、と判断しただけで、カイムに伝えたり意思表示したわけではない。だというのに、咄嗟の攻撃に対応してきたのは、グリーンとしても驚異だった。

 

「お前ならそうしただろうっていう想定だ。他にもじしんとかロックブラストとかあり得るかと思ったが…タッグバトルってことを考えるといわなだれが一番()()()()()と思った」

「人読み…しかも味方相手にかよ。なるほど、()()はそのための時間だったか」

「人読みしないとついていけねぇよ。元々、カウンターが得意なんだ。ハイスピードなのはあんま得意じゃねぇ」

「ついて来られるだけ十分だ。んじゃ、もっとあげていくぜ」

「マジか…」

 

 自信なさげにげんなりするカイムに、グリーンは挑発するように笑いながら続ける。

 

「できるだろ?あの人(シロナさん)の弟子だ。そんくらいやってみせろよ」

 

 グリーンの言葉にカイムは視線をフィールドの対面に向ける。

 銀灰色の瞳がこちらを見ていた。その瞳には強い覇気が宿っており、こちらを品定めするようにも見える。

 

 

 

こんなものじゃないでしょう?

貴方はもっとできる。

レベルが高いのはわかる。

でも私は生半可な鍛え方はしてないわ。

 

 

なんとかしてみなさい。

 

 

 

 そんなことを言われたように思えるほど、強い覇気だった。

 思わず背中に冷や汗が流れるのを感じる。ここで舐めたバトルはできない。当たり前だが、シロナはこの程度で満足していない。ならば、シロナの、グリーンの、(恐らく)レッドの期待に応えるためには、この後のバトルも乗り越えるしかない。

 

「グリーンの、シロナからの信頼(脅迫)に…応えて見せろ」

 

 グリーンにも聞こえないレベルの小声。

 それと同時に、どことなくカイムの雰囲気が変わる。纏う波導の揺らぎがなくなり、清流のように静かな波導になった。

 

(…ようやくスイッチ入ったわね。もう…よくわかんないとこでムラがあるんだから)

 

 やっと集中のスイッチが入ったことにシロナはやや呆れつつ、笑みを深くする。最近は鳴りを顰めていたが、元よりメンタル面で本来の実力を出せていない悪癖があった。格上でも平然といつもの調子を出せるようになっていたが、いきなりチャンピオンレベルのバトルに巻き込まれれば一時的に再発してもおかしくはない。

 

「レッド君」

「?」

「ここから、もっとあげていきましょう。多分、カイムもスイッチ入ったわ」

「!」

 

 一瞬だけ驚愕した表情をするが、レッドはすぐに歯を剥き出しにし、凄まじい覇気が溢れ出す。かつては相対していた覇気が隣にある。これほどまで頼もしい味方はそういないだろう。

 

「じゃあ今度は…こっちから行くわよ!ミロカロス、なみのり!」

「下がれ、今度はオレが防ぐ。バンギラス、じしん!」

 

 巨大な波が地面の衝撃とぶつかり、大きく弾ける。弾けた波の中でほんの僅かながらも相手フィールドへの道があるのをバシャーモは見逃さない。それを見た瞬間、バシャーモは走った。指示されるまでもなく『でんこうせっか』の推進力で一気にトップスピードまで上り詰め、ほんの一息で相手フィールドに足を踏み入れた。

 その瞬間、視界に影が落ちる。リザードンが波の上からバシャーモに対して狙いを定めていた。そして気づいた瞬間、リザードンは攻撃を放った。

 

「ぼうふう!」

 

 周囲の水を巻き込みながら、強烈な暴風がバシャーモを襲う。受ければ突然、バシャーモは耐えられない。

 

「まもる」

 

 だが即座にバシャーモは防壁を展開し、強烈な暴風を防ぐ。その瞬間、バシャーモは地面を強く蹴り、暴風の流れにのって上昇していく。そのままリザードンに迫った瞬間、バシャーモの防壁を水が煽ぎ、押し流した。

 

「時間稼いだぞ」

「頼んでねーよ!かみくだく!」

 

 突如現れたバンギラスがミロカロスに大きな顎で噛み付く。バシャーモに視線を向けた瞬間、バンギラスがミロカロスに肉薄していた。バンギラスの攻撃が直撃するが、ミロカロスは怯まない。

 

「ねっとう!」

「下がれ!」

 

 熱された水が放たれ、バンギラスは体を逸らすようにして射線から逃れる。しかしミロカロスは横に薙ぎ払い、バンギラスに直撃させた。

 回避したことと攻撃を受けたことでバンギラスの体勢が崩れる。そこをリザードンは見逃さず、バンギラスに接近。想定以上の素早さに、一瞬だけバンギラスの判断が遅れる。

 

(速…こいつ、りゅうのまいで素早さあげながら迫ってきてやがるか!)

「かわらわり!」

「ただで受けるかよ!はたきおとす!」

 

 攻撃力の上がったリザードンの手刀とバンギラスの剛腕がぶつかり合い、互いを穿ち合う。バンギラスの腕が僅かに狙いを逸らしたことでリザードンの『かわらわり』は直撃を免れるが、ダメージは大きい。しかし、リザードンの持ち物であった『イバンの実』がはたき落とされた。

 その瞬間、バシャーモがリザードンに肉薄する。

 

「やれ」

 

 バシャーモは炎を纏った拳をリザードンに叩き込み、リザードンの体に小さな炎が残る。炎タイプの技故に、ダメージは少ない。寧ろ、()()()()()。火傷を負わせる『おにび』は無効。ダメージがある以上、補助技ではない。

 炎を受けながらもリザードンは空中で立て直し、ミロカロスがカバーの『ねっとう』にバシャーモをぶつける。咄嗟にガードしたものの、効果抜群技。ギリギリ体力は残ったものの、空中で受けたことでフィールドを転がり即座の反撃はできない。そこで立て直したリザードンは違和感を覚える。

 

「?」

 

 体に炎が残っていた。

 ただ体に炎が残っているだけ。特別何かがあるわけでもないし、スリップダメージにもならない。一体なんだとほんの一瞬だけ思考を巡らせた瞬間、バンギラスが動いた。

 

「ストーンエッジ!」

 

 岩石の刃がリザードンに迫る。

 岩石が放たれた瞬間、レッドの直感が働く。この攻撃を受ければ間違いなくダウンし、完全な回避は不可能な速度。うまく軽減させたとしても、スリップダメージで削られた今の体力は消し飛ばされる。その予感を感じ取ったレッドは、反射的に動いた。

 

「だいもんじ!」

 

 バンギラスに炎技は半減。しかし、不完全とはいえ4倍ダメージを受けたバンギラスの体力は少ない。削り切れるかはわからないが、即座に放てる高火力技を出すことを優先した。

 リザードンが即座に劫火をチャージする。コンマ1秒程度の刹那の時間にチャージが完了し、攻撃を放つ体勢に入った。

 

「ここだ」

 

 この瞬間をバシャーモは待っていた。技をキャンセルできず、渾身の一撃に集中しているこの瞬間こそが、絶好の機会。

 

 突然の衝撃。

 ボン、と。何かが弾けるような音と共に、不意の衝撃に技の発射が遅れる。何が起こったのかを理解する前に、岩石の刃が眼前に迫っていた。

 

「みずのはどう!」

 

 咄嗟にミロカロスが技を出す。『早業』によって発射が素早くなった『みずのはどう』が『ストーンエッジ』の威力を削った。しかし、威力を削ったとしてもリザードンには4倍ダメージ。体力は一気に飛ばされてしまう。

 だが力尽きる前に、チャージした炎をバンギラスに向けて放つ。高速で放たれた劫火はバンギラスに直撃し、『大』の字に炸裂した。高威力の火炎はバンギラスの岩タイプによって半減にされるが、残り体力は一気に一割未満まで減らされた。しかし、そんなボロボロの状態でもバンギラスは倒れず、真っ直ぐリザードンを見据えていた。

 倒れなかった。その事実に歯噛みしながらリザードンは倒れ伏す。

 

「ありがとう、リザードン」

 

 レッドは優しく微笑みながらリザードンをボールに戻す。

 倒れ伏したリザードンを見て、カイムは内心で胸を撫で下ろす。先ほどの策がうまくいっていなければ、バンギラスも同じように倒れていただろう。あの一瞬を捉えられたからこそ対処できたが、ほんの僅かでもタイミングが違えば、恐らく『だいもんじ』はフルの威力でバンギラスに炸裂してバンギラスはダウンしていた。

 しかし、バシャーモもバンギラスも瀕死一歩手前。ミロカロスも体力が三割を切っている。バシャーモとバンギラスの役割は、ミロカロスと次のレッドのポケモンを可能な限り削ること。ボロボロの状態でどこまでいけるかと考えていると、レッドがボールを手に取った。

 

 

 その瞬間、カイムとグリーンは背筋に氷柱をぶち込まれた感覚に陥った。

 

 

 その要因は、レッドの覇気。肌を刺すようなビリビリとした感覚に二人は視線を鋭くし、冷や汗を流す。これこそが、世界最高峰レベルの才能が本気になった証拠。ここまでもレッドは全力でやっていた。だが、メンタル面にムラがあり、まだ100%を常に出せるほど成熟していない。

 しかしここでグリーンを主軸としてレッドの持つ強さとはまた違う強さを持つカイムが活躍することで、レッドの二大エースの一角を落とした。その事実に、レッドは歓喜して震えた。そのことがレッドの100%を出させるきっかけになった。

 

(…レッドは波導を覚醒させてないはず。多分、感じられるが見ることはできない。なのにこれか?どうなってんだマジで)

 

 レッドの纏う波導は、波導を覚醒させたカイムのものよりも強い。バトルを極めていく中で無意識に鍛えられたのだろうが、意識せずにここまでの波導を纏うことができるものなのか。そう思えるほど強い波導だった。

 そしてそれに呼応するように、シロナの波導も大きくなる。レッドに負けず劣らず洗練され、大地の如く重厚な波導。こちらはスイッチが入らなかったというより挑発の意味だろうが、圧倒的強者としての風格が向けられる。

 

「カイム。あれが、今現在最高峰の才能だ。やばいだろ」

「……ああ」

「オレが越えようとしてるものはあれだ。そんで、超えるためには()()()()()()()()

「!」

「いくぜ。着いてこいよ」

 

 冷や汗を流しながらも不敵な笑み。レッドのことを心から認めているからこそ、『あいつを超えたい』という心からの願いが、圧倒的な覇気を見せつけられながらも折れない心の根源だった。

 グリーンとレッドは共に天才の部類。グリーンは思考を極限まで研ぎ澄ます思考タイプ、レッドは本能で自分にとっての最善を理解できるレベルの直感タイプの天才。異なるタイプの天才だが、レッドの凄まじい才能はグリーンの才能を僅かに凌駕する。セキエイ高原での大会とシンオウリーグでのシロナとのバトルでそれを理解した。

 だからこそ、自分とは違う強さを持つ人たちに目を向けた。自分だけで強くなれる段階はもう終わっている。自分達以外の人々に目を向けることが、更なる強さにつながると考えた。

 その時に思い出した人は、シロナとカイム。この二人は自分とは違う強さを持つ。そんな二人とまた会うことで、シロナとカイムからの問いかけの答えを見つけたかった。

 

 自分にとってのポケモンバトルは何か。この答えは未だに出ていない。

 

 もう少しで届きそうなのだが、まだ言語化できない何かがある。

 ここを乗り越えれば、答えにまた近づけそうな気がする。

 そして、これを乗り越えるためには自分だけでは足りない。

 自分とは違う強さを持つ者の力が必要だ。

 

「いくぜカイム。正念場だ」

「……どいつもこいつも…ちったぁ落ち着けねぇもんかねえ」

「無理な話だ。特に、レッドの奴はな」

「はっ!そりゃそうか。戦闘狂(バトル馬鹿)共相手には愚問だったか」

 

 ぐいっと袖で汗を拭うと、二人は相対するレッドとシロナに目を向ける。二人の瞳に宿る力強い光を見て、シロナは少しだけ口角を上げた。

 それとほぼ同時に、レッドはボールをフィールドに向けて投げた。ボールから現れたのは、ピカチュウ。レッドの手持ちの二大エースの一角であり、シロナのガブリアスすら超えるレベルを持つポケモン。

 電気の一筋がピカチュウの赤い頬から迸る。それを見た瞬間、バシャーモはバンギラスの前に出た。

 

「ボルテッカー!」

「まもる!」

 

 『でんこうせっか』と同レベルの速度で突進してきたピカチュウを『まもる』の防壁で防ぐ。防壁越しでもビリビリと響く衝撃にバシャーモは戦慄する。圧倒的な防御力を誇る『まもる』の防壁越しでもここまで威力が伝わる事実は、ピカチュウの凄まじさを見せつける十分だった。

 ピカチュウは防壁にぶつかると同時に勢いを利用して回転しながら飛び上がる。そしてそのまま纏った電気をバンギラスに向けて放った。

 

「ロックブラスト!」

 

 岩石の弾丸が電撃とぶつかり合って弾ける。ピカチュウは飛び上がった勢いを利用して硬化させた尻尾をバンギラスに向けて振り下ろすが、バシャーモの『ブレイズキック』が阻んだ。しかし、バシャーモの足とピカチュウの尻尾は互いに弾かれた。

 

(弾かれた⁈こちとらタイプ一致だぞ⁈どんな威力してやがる)

 

 想定外の威力。まさかタイプ不一致かつ十分な威力を発揮できる体勢ではない条件での攻撃で弾かれるとは思いもしなかった。

 ほんの一瞬の驚愕。その動揺をシロナは見逃さない。

 

「なみのり!」

「やべっ」

 

 迫る波。これをバンギラス、バシャーモ共に回避できないと判断した瞬間、弾かれた勢いを利用してバシャーモはバンギラスを突き飛ばした。これにより完全ではないものの、バンギラスはミロカロスの攻撃を逃れた。

 

「面倒ね!カイム!」

「そう育てたのはあんただろ!おらグリーン!」

「オレに指図すんじゃねぇ!いわなだれ!」

 

 岩石の滝が再び降り注ぐ。降り注いできた岩石をミロカロスが『みずのはどう』で制圧射撃することで一部を破壊し、残って落ちてきたものをピカチュウが『アイアンテール』で砕き、ミロカロスとピカチュウのダメージをゼロに抑えた。

 残った岩石がフィールドに転がる。攻撃が終わったことを確認した瞬間、ピカチュウが動いた。『スピードスター』による牽制をバンギラスに放ちつつ、電気をチャージして肉薄する。ピカチュウを援護しようとミロカロスが技のタメに入った僅かな隙。その瞬間に、転がっている岩石の陰から赤い影が飛び出してきた。

 

 赤い影…バシャーモの飛び蹴りがミロカロスに突き刺さる。

 

「(バシャーモ⁈あの攻撃を受けて耐えられるはずが…こらえる!あの攻撃受ける瞬間に切り替えて、復帰に少し間をあけることでダウンを偽装!)ほんっとに、面倒なことしてくるわね!」

「褒め言葉かぁ?光栄だなオイ!インファイト!」

「アクアテール!」

 

 強烈な連撃と水を纏った尾が交錯する。ミロカロスの攻撃でバシャーモは吹き飛ばされ、今度こそダウンした。そしてミロカロスも連撃を受けて倒れる。

 それとほぼ同じタイミングで、バンギラスとピカチュウがぶつかり合う。ピカチュウの硬化した尾とバンギラスの強化された牙がぶつかった。ピカチュウが尾を振り回し、バンギラスはピカチュウの攻撃を大きな腕で防ぎ、反撃として『かみくだく』で強化された牙で噛みつこうとする。しかしピカチュウは咄嗟に尻尾で牙を防ぎ、バンギラスを弾いた。バンギラスは追撃でピカチュウに肉薄するが、ピカチュウはバンギラスの突撃の勢いを利用して受け流し、『アイアンテール』を背中に叩き込む。加えて、チャージしていた電気を『10まんボルト』として放つ。

 バンギラスも咄嗟に前に動くことで『アイアンテール』は掠る程度に済ませたが、電撃は回避できない。このままではダウンすると判断したグリーンは、最後に一撃加えるためにバンギラスに前に出るようにオーダーを出す。

 

「ドラゴンテール!」

 

 背後にいるピカチュウに向けてドラゴンのエネルギーを纏った尾を振り翳す。バンギラスの攻撃に向けてピカチュウも『アイアンテール』をぶつけ、凄まじい衝撃がフィールドを走った。 

 ピカチュウは攻撃をただぶつけ合うだけではなく、勢いを利用して回転しながらバンギラスに接近し、強烈な一撃をバンギラスに叩き込んだ。体力の限界だったバンギラスはフィールドを転がり、完全にダウンする。

 

 これでバシャーモ、ミロカロス、バンギラスがほぼ同じタイミングでダウンした。

 

「ありがとうミロカロス」

「よくやったぜ、バンギラス」

「助かった。バシャーモ、休んでくれ」

 

 三人ともポケモンをボールに戻す。ほんの束の間の休息になるが、四人は少しだけ息をつく。それと同時に、砂嵐が収まった。

 

(ミロカロスが落とされるのは想定外だったわね。騙し打ちのような『インファイト』だったけど…砂嵐で『食べ残し』の回復が意味を成さなかったのが案外痛かったわ。事実上、持ち物無しに等しい状況にさせられてた。バシャーモに砂ダメージがなかったのは…『防塵ゴーグル』かしらね。このあたりは多分打ち合わせしてたのでしょうけど…最後のインファイトは完全にアドリブ。あの場で最善の結果は、ピカチュウを削ることとミロカロスを倒すこと…それを完全に遂行させるための最善の一手を打ってきた。やるわね)

 

 あの場面、グリーンとカイムにとって1番の結果はピカチュウの削りとミロカロスの撃破。その結果を得るためには、バンギラスとバシャーモが別々に動く必要があった。しかし、別々に動けば確実に各個撃破を警戒され、どちらかが集中砲火される可能性が高い。バンギラスもバシャーモも共に『なみのり』の範囲攻撃だけで倒れる体力だった。特防が非常に高いバンギラスでも倒れかねないことを瞬時に判断したバシャーモは、『まもる』の防壁で自分とバンギラスを守る動きをした。

 そしてバシャーモの行動によってできた僅かな時間でグリーンは『いわなだれ』で視界を塞いだ。そして直情型のピカチュウならば確実にバンギラスに向けて突っ込んでくるだろうと予想し、カイムはその意図を瞬時に読み取った。その結果、二人は最善の結果を掴み取った。

 

「ふぅ…ギリギリだったな」

「へっ、このくらい余裕だろ」

「ざけんな。こちとら超ギリギリだっての」

「そんだけ軽口言えれば十分だな。おら、次行くぜ!」

 

 グリーンは次のボールを構え、そんなグリーンを見てカイムもため息を吐きながらボールを手に取る。

 そんな二人は非常に息のあった連携をしていた。グリーンが引っ張り、カイムがうまく細かい部分を調整する。いきなり合わせたとは思えないほどの連携だった。

 

(………私なら、もっと)

 

 そこまで考えて、シロナは思考を断ち切る。

 ほんの少しの淀みだが、それでもこの後のバトルに持ち込むには致命的な淀み。それを即座に断ち切り、シロナも次のポケモンのボールを構え、フィールドに向かって投げた。

 

 シロナはガブリアス、グリーンはフーディン、カイムはブラッキーを繰り出す。

 

「ガブリアスか…殴り合いになるときつそうだ」

「うまく隙は作る。うまく動いてくれ」

「おうよ。そっちも頼むぜ」

「ああ」

 

 短く言葉を交わし、フーディンが動く。

 僅かに動いたのをピカチュウは見逃さない。『でんこうせっか』の初速上昇を利用しフーディンに肉薄するが、ピカチュウの前にブラッキーが立ち塞がった。

 

「ボルテッカー!」

「リフレクター」

 

 ブラッキーとフーディンの前に光る壁が現れ、物理攻撃の威力を軽減効果を得た。ピカチュウがそのまま突撃してくるが、ブラッキーは正面からピカチュウの攻撃を受け止める。耐久力の高いブラッキーであったため、一撃を受けてなお踏みとどまったが、『リフレクター』で威力を大きく削ったにもかかわらず、ブラッキーの体力は二割以上削られた。

 

「(レベル差がデカすぎる!あんま正面から受けてると一瞬で力尽きるな。だが…)時間は稼いだぞ」

「サイコキネシス!」

 

 強力な念力がピカチュウに向けて放たれるが、着弾する瞬間に地面から岩石の刃が飛び出してきて念力を防いだ。

 

(ストーンエッジ!的確な発生場所は流石としか言えねえなシロナさん!)

 

 ガブリアスの『ストーンエッジ』が『サイコキネシス』を防ぐ。『じしん』ではピカチュウも巻き込んでしまい、防御することはできないからという判断だろうが、ブラッキーとピカチュウの間に的確に攻撃を出すことができるのはグリーンですら舌を巻くほどだった。

 ピカチュウは岩石の刃を足場にして高く飛び上がる。そしてブラッキーの頭上から強烈な電撃を放った。

 

「かみなり!」

「アイアンテール!」

 

 ブラッキーは鋼の力で硬化させた尻尾を電撃に向けてぶつける。放たれた電撃がブラッキーの尻尾にあたりブラッキーにダメージを与えるが、尻尾に電撃のエネルギーが留められているためダメージは威力の割に少ない。そして留められたエネルギーをブラッキーは遠心力の力でピカチュウに跳ね返す。

 

「!」

 

 一瞬だけ驚愕したピカチュウだが、ピカチュウは電撃を回避することなくその身に受ける。シロナのルカリオのように自身にエネルギーを還元することはできないが、電気タイプのピカチュウにダメージは少ない。受けることに問題はないと判断してのことだろう。

 

「かわらわり!」

 

 落下しながらピカチュウはブラッキーに向けて手刀を振り下ろす。直撃すればダメージは大きいだろうが、直撃する直前に周囲に念力の球が展開された。

 

「サイコショック!」

 

 念力の球体がピカチュウに襲いかかる。ピカチュウは空中にいるため回避ができない。『かわらわり』で迎え撃つことでダメージを軽減させようと動こうとした瞬間、ピカチュウの尻尾が引っ張られて、入れ替わるようにガブリアスが現れる。ガブリアスは全身に龍のエネルギーを滾らせており、急激に上昇した身体能力を使って念力の球体を弾く。

 

「(理性を飛ばさないげきりん!時間稼がないとまずいな)あくのはどう!」

 

 悪タイプのエネルギーをぶつけ、ガブリアスを瞬間的にノックバックさせる。ほんの僅かな時間を稼いだブラッキーは、即座にガブリアスの前から退避した。

 

「マジカルシャイン!」

 

 フーディンがフェアリータイプのエネルギーを光として放つ。『げきりん』による身体能力上昇も、フェアリータイプのエネルギーの前には意味を為さない。受ければダメージが大きいことは間違いないが、ガブリアスは背後からの気配を感じて咄嗟に横へ飛んだ。

 強烈な電気を纏ったピカチュウが突撃してくる。ブラッキーは即座に『まもる』を展開して防ぐが、ピカチュウは技を終了させずにフィールドを駆け巡る。

 

「なんだ…⁈」

「気ぃつけろカイム!ありゃ()()だ!」

 

 ピカチュウとガブリアスがタイプエネルギーを纏って強化した身体能力を活かして肉薄する…と思ったが、前に出てくるのはガブリアスのみ。ピカチュウは再び高く飛んだ。

 

「新技…⁈」

()()()()はそこまでだが、そのあとのコンボがやべえ!」

「OK、地面に落とさなきゃいいんだな」

 

 どんなコンボが来るかはわからないが、ピカチュウがジャンプした以上、地面に落下することで何かしら作用があると考えたカイムは、落下させないことに意識を切り替える。

 グリーンの言葉を聞いた瞬間、ブラッキーが動く。強烈な電撃を纏ったまま落下しようとしてくるピカチュウに、『まもる』の防壁を纏った状態でぶつかり合った。

 ピカチュウは落下を一瞬阻止されたが、ブラッキーを足場にさらに高く飛ぶ。落下位置はそこまで広範囲に移動できないため、落下地点周辺に着地したブラッキーは悪タイプのエネルギーを放とうとしたが、そこにガブリアスが迫る。『げきりん』の身体能力でブラッキーに迫ろうとするガブリアスだが、『サイコキネシス』によって拘束された。

 

「行かせるかよ!」

「(これほど強力だと簡単には振り解けない。なら…)瞬間的にパワー全開よ!」

 

 瞬間的に全身の龍のエネルギーを増大させ、無理矢理念力の拘束を撃ち破る。代償として『げきりん』は解除されたが、ブラッキーの阻止はできる。素の身体能力でブラッキーに襲いかかるが、ブラッキーは咄嗟に地面に向けて『あくのはどう』を放つことで視界を塞ぎ、勢いを利用してガブリアスから離れた。

 だがピカチュウの行動は阻止できなくなる。ピカチュウは『ボルテッカー』の状態で地面に拳を叩きつけた。その衝撃で『ボルテッカー』の電力を地面に向けて流す。

 

「これは…エレキフィールド?」

「違え。次止めるぞ!」

「そうしなきゃまずいってか」

「良くて相打ち、悪くて全滅だ」

「フィールドの上書きは?」

「やる余裕あると思うか?」

「OK、理解した」

 

 レッドの新技がどんなものかはわからない。しかし、出させたらまずいことは理解できたカイムは即座に動いた。

 

「つぶらなひとみ」

 

 可愛らしい瞳をガブリアスとピカチュウに向ける。あまりの愛らしさに思わずガブリアスとピカチュウの闘志が削がれて攻撃力が下げられるが、構うことなくピカチュウはブラッキーに迫り、ガブリアスは『つるぎのまい』で下げられた攻撃力を元に戻す。

 

「サイコキネシス!」

「3歩右!」

 

 『つるぎのまい』による隙を見せながらも、ガブリアスは舞いながら『サイコキネシス』の直撃を避ける。僅かに念力がガブリアスを捉えたものの、ダメージは直撃と比較して少ない。

 それと同時に、ピカチュウとブラッキーがぶつかり合った。振り下ろされたピカチュウの手刀をブラッキーは受け流すと、背後を取って『バークアウト』の衝撃波を放つが、ピカチュウは『でんこうせっか』の推進力でブラッキーの攻撃を回避する。

 回避した際、ピカチュウの電気袋が僅かに電気を帯びているのをカイムは見逃さなかった。

 

「(動きが一気に地味になった。多分、タメに入ってる)ブラッキー、のろい」

 

 タメに入ったと予想したカイムは、防御を固めることでダメージ軽減を企む。それとほぼ同時に、ブラッキーの背後にいたフーディンの『めいそう』が完了した。

 ほんの一瞬の膠着状態。最初に動いたのはフーディンだった。

 

「マジカルシャイン!」

 

 フェアリータイプの光がフィールド全体を包み込む。ガブリアスは地面から『ストーンエッジ』の壁を作ることで直撃を避けるが、ピカチュウは『アイアンテール』で光をガードした。

 チャージを止められていないことを察したブラッキーは動く。悪タイプのエネルギーをチャージして弾丸ではなく、広範囲に向けて放った。ピカチュウは無理矢理体を捻って直撃は避けたものの、体勢を大きく崩した。

 

「サイコショック!」

 

 そこを見逃さず、フーディンは攻撃を加える。回避しきることができないことを察したガブリアスがピカチュウを守った。再び『げきりん』で身体能力を強化して防いだことで、ダメージはやや抑えられた。しかし、『めいそう』で上がった火力はそう何度も受けられない。想定外の火力にシロナは苦い顔をするが、()()を果たすことはできた。

 

「ちっ…止められなかったか」

「悪い」

「いや、あの動きでダメならそもそも止められない。仕方ねえ」

 

 ピカチュウの纏う電気が大きくなる。地面に迸っていた電気がピカチュウの体に吸い込まれていくのを見て、カイムは目を見開いた。

 

「エレキフィールドを、吸収してる?」

「あれはエレキフィールドじゃねえ。()()()()ピカチュウの電気備蓄だ」

「…あ?」

「どんだけ鍛えようと、ポケモンの一個体が一度に出せるエネルギーは限りがある。それを解決するための、外付けエネルギーだ」

 

 限界まで鍛え上げたとしても、ポケモン一個体で出せる出力は限界がある。この限界を超えるために、レッドは()()()のエネルギーでこれを解決することを考えついた。

 『ボルテッカー』で纏った電気を一度、『エレキフィールド』のように地面に放つ。本来なら一度放った電気はエネルギーを失って霧散するが、『エレキフィールド』を維持する要領で地面に向けたエネルギーを維持していた。ただ、本来の『エレキフィールド』よりも電気タイプのエネルギーは多く、ピカチュウが維持にそこまで意識を割いていないため展開時間が短いという特徴があるらしい。

 そして地面に展開した電気タイプエネルギーを自身の肉体に還元する。自身の電気袋のエネルギーと地面に展開したエネルギー、この二つを肉体にチャージすることは、ピカチュウの技量を持ってしてもかなり難しい。そのため、チャージにかなり時間がかかってしまう。しかし、それほどの時間をかける価値はあるものだった。

 

「外付けのエネルギーがあるから、限界以上の出力のエネルギーを扱うことができる。一度放ったらそこまでだが…纏い続けることができるのがやばい」

「…肉体の活性化か」

「出力限界以上のエネルギーを纏ってるからスリップダメージは入るがな。電気タイプエネルギーによる肉体活性は、敏捷性(アジリティ)と反射速度を急激に強化させる。それに、物理技全てに電気タイプの追加ダメージだ」

 

 『ほら、修羅だろ?』とグリーンは冗談めかしに言いながら苦笑する。その頬には冷や汗が流れていた。

 ピカチュウの肉体には、確かに一個体が出せるよりもはるかに多くの電気が迸っている。あれほどのエネルギーを一度に扱うためには、外付けのエネルギー源が必要となるだろう。

 放出させずに肉体に留めているあたり、エネルギーの扱いは凄まじい技量。ただ、外付けのエネルギーを利用したことで、肉体に大きな負荷がかかっている。それは砂嵐のスリップダメージのようにピカチュウの体力を徐々に削っていた。

 

「あれは…」

「これが、今のオレ達の最高到達点」

 

 

 

「真・ボルテッカー」

 

 

 

 『エレキフィールド』のエネルギー全てを肉体に宿したピカチュウが咆哮を上げる。通常の『ボルテッカー』よりも遥かに強力なエネルギーを纏ったピカチュウの姿は、恒星の如く光り輝いていた。

 そこにいるだけで、凄まじいほどの電気タイプエネルギーを感じ、距離が離れているはずのカイム達の肌にも僅かながら電気による痺れを感じるほどだった。唯一影響を受けていないのは、地面タイプのガブリアスのみ。

 

(凄まじいわね)

 

 味方として見ているシロナからしても、この姿のピカチュウは凄まじいの一言に尽きるものだった。予めレッド本人から聞かされており、()()を発動させるために動いてきたが、なるほど。これは確かに時間を稼いででも発動する価値のあるものだと納得できる。

 

(一体どれほど積み上げてきたの)

 

 天性のものはあった。誰もが認めるだけでなく、世界のどこを探しても最高峰と断言できるレベルの才能だろう。

 その最高峰の才能を持つ者が、普通では考えられないほどの努力を積み上げてきた。シロナも自分は努力を惜しんで来なかったと胸を張って言える。しかし、狂気じみたレベルの努力を積み上げてきた少年を見て、思わず寒気を感じた。

 

(…姉貴が持たなかった物を、レッド(お前)は持っているんだな)

 

 才能というものに関して言えば、イサナとレッドは同レベルの最高峰。しかし、イサナはバトルに対する熱意だけは持ち得なかった。もしかしたら、姉のあり得たかもしれない未来を見て、カイムもシロナと同じように身を震わせた。

 

 だが、カイムの隣にいる少年だけは違った。

 

「あれだ。オレが超えるべきものは、あれなんだ」

 

 レッド同様、最高峰の才能を持つが、いまだに超えることができないでいる。その事実が心から悔しいから、レッドを超えるために何が必要なのかを考え続けた。考えて、考えて、その先にあるものに手をかけるために。

 

「オレは足りないんじゃない。お前とは違う。それだけだ」

 

 そう呟いて、グリーンは袖に隠れたバングルを顕にする。そこには、虹色に輝く石、キーストーン。キーストーンはグリーンの意思とフーディンの意思に呼応し、輝いた。

 

「いくぜフーディン。メガシンカ!」

 

 キーストーンの力を受け、フーディンの姿が変化する。グリーンとフーディンの心が繋がり、更なる力を引き出す。より強力な力を纏いながら、フーディンは光の繭から姿を表した。

 元々フーディンは強力なサイコパワーを扱うが、キーストーンの力で更に強力なサイコパワーを扱えるようになる。出力が上がると同時に、強力なサイコパワーを完全に制御し、高速で闘うフーディンは非常に強力。『真・ボルテッカー』でパワーアップしたピカチュウといえど、全力でかからなければ瞬殺されてしまうほどに。

 

「サイコキネシス!」

「(技の出が速い!)でんこうせっか!」

 

 出力だけでなく、速度まで上昇した念力の奔流を超高速で回避する。念力の奔流にあった僅かな隙間を潜り抜け、硬化させた尻尾をフーディンに叩きつけようと振りかぶるが、突如として目の前に黒いエネルギー塊が現れた。

 

「あくのはどう」

 

 レッドにとっては最悪の、グリーンにとっては最高のタイミングで放たれた『あくのはどう』。当然のように放たれているが、グリーンのオーダーとフーディンのエネルギーを操る癖を見抜いていないと到底できない行動だ。これを平然とやってのけるあたり、やはりジムリーダーとしての実力はあるのだとレッドは再認識する。

 だが、そんなカイムの行動を読んでいる味方がレッドにはいた。

 

「げきりん!」

 

 理性を飛ばすことなく、身体能力強化の恩恵のみを受けた状態でガブリアスがブラッキーに襲い掛かる。鋭い爪が振り下ろされるが、ブラッキーはガブリアスの爪を弾きながらも攻撃の勢いを利用して距離を取った。

 その瞬間、強力な念力の塊が物理エネルギーを伴って放たれる。念力はブラッキーすらも巻き込んでピカチュウとガブリアスに襲いかかるが、ブラッキーには一切影響はなかった。

 巻き込まれたガブリアスとピカチュウは、念力の拘束によって瞬間的に動きを封じられる。

 

(悪タイプで念力そのものを無効化しただけじゃない。ブラッキー周辺の念力が少し流れが弱い。あれだけのエネルギーの中で強弱をつけさせる…すごいとしか言えないわね)

 

 質量を伴って押し寄せる念力は、いくら悪タイプで無効化できたとしても質量そのものを完全に無効化させることはできない。しかしフーディンはブラッキーが巻き込まれる部分の念力のみ、エネルギーの流れを弱くすることでブラッキーへの影響をほぼゼロに抑えていた。

 

 これほど強力なサイコパワーであれば、普通はそうそう抜け出すことはできない。しかし、相手は世界最高峰レベルの実力を持つトレーナーのエース。既に肉体強化技を発動しているガブリアスとピカチュウは、10秒も拘束できなかった。

 

「十分」

 

 だがそれだけあれば、一度積み技を使う余裕もある。ブラッキーはさらに『のろい』を積むことで、攻撃と防御をさらにあげた。代償に素早さが下がるが、素早さ程度であればブラッキーの身のこなしでカバーできる。

 敏捷性が大きく上がったピカチュウがブラッキーに高速で迫る。想定以上の速度だが、ルカリオの『しんそく』と同じレベルの速度。見慣れているブラッキーは僅かに体をずらして直撃を避ける。しかし完全に回避は出来ていないため、威力の上昇した『でんこうせっか』と物理電気の付加ダメージがブラッキーを襲った。

 だがこの程度で怯むブラッキーではない。ブラッキーは『アイアンテール』で硬化させた尻尾をピカチュウに叩きつける。超強力な電気エネルギーを纏うピカチュウを直接攻撃すれば電気の付加ダメージが発生するが、それと同時にピカチュウが纏っていたエネルギーを一部引き剥がした。

 

「!」

「(ダメージデカいな?あんま何度も使えねぇなこりゃ)グリーン!」

「おうよ!サイコキネシス!」

 

 フーディンの強力な念力が高密度の球体になり、ピカチュウに降りかかる。だがピカチュウの前に現れたガブリアスが念力の球体に向けて強烈な一撃を振り下ろした。

 

「限界まで上げなさい!」

 

 ガブリアスの爪と念力の押し合いは拮抗していたが、即座に全身の龍のエネルギーを増幅させた。理性を保った『げきりん』は本来のものよりも僅かにエネルギーを抑えている。そのリミッターを瞬間的に外すことで、短時間のみ理性を保ったまま強烈な一撃を放てるようにアドリブで対応し、念力の球体を打ち破った。

 その瞬間、ピカチュウがガブリアスの背後から飛び出す。この瞬間『げきりん』が解除されたガブリアスはピカチュウを腕に乗せ、電気の効かないガブリアスがピカチュウのジャンプに合わせて振り回した。ガブリアスの腕力と強化されたピカチュウの脚力で凄まじい勢いでフーディンに迫る。

 

「かわらわり!」

 

 フーディンの前に展開される『リフレクター』。これを破壊することで、物理防御の低いフーディンを一撃圏内まで持っていこうとレッドは画策したが、悪タイプのエネルギーが攻撃体勢に入っていたピカチュウを穿った。視線を向けると、ブラッキーの姿。

 

最悪の(いい)タイミングだなカイム!広範囲にサイコショック!」

「ガブリアス、ドラゴンダイブ!」

「ブラッキー!」

 

 広範囲に展開された念力の弾丸。これを見た瞬間、ガブリアスが龍のエネルギーを纏いフーディンに向けてダイブしてくる。加えて、ピカチュウの攻撃もキャンセルされていない。振り下ろされた手刀と迫り来る龍の巨体の前に、再びブラッキーが飛び出した。

 

「まもる!」

 

 防壁がガブリアスの攻撃を防ぐ。強力な防御力を誇る『まもる』の防壁だが、ガブリアスの『ドラゴンダイブ』と相殺された。そこにピカチュウの『かわらわり』が振り下ろされ、電気の付加ダメージも加わってブラッキーは地面に叩きつけられた。全ステータス上昇に格闘タイプ技、雷付加ダメージ、さらに『リフレクター』の破壊という状況。ブラッキーの体力は一気に持っていかれてしまい、フーディンもガブリアス、ピカチュウどちらの攻撃を受けても一撃圏内となった。

 しかし、カイムはこれが狙いであった。

 

(コンマ数秒は稼いだぞ)

「いい仕事だぜ」

 

 この数瞬間の空白。僅かな時間でフーディンは次の()()()を終えていた。

 

「でんこうせっか!」

 

 何か仕込みがあったのはわかる。だが、今ここで退く選択肢はない。超高速でフーディンに肉薄した。

 

「お前ならそうくるよなぁレッド!サイドチェンジ!」

「⁈」

 

 突如、フーディンの姿がブラッキーと入れ替わる。ブラッキーは正面からピカチュウとぶつかるが、『まもる』の防壁を纏った状態でぶつかることでダメージをゼロに抑えた。

 しかしピカチュウは防壁が解除された瞬間、追撃の『アイアンテール』でブラッキーを攻撃しにかかる。受ければブラッキーの体力はかなりピンチになってしまうだろうが、ブラッキーも『アイアンテール』で応戦した。だが追加ダメージとピカチュウ自身のステータスの高さに圧倒され、地面に叩きつけられた。

 

「じしん!」

 

 そこに更に追撃でガブリアスが『じしん』を放つ。強烈な衝撃波がフィールド全体に放たれるが、突如ブラッキーが空中に跳んだ。何もない場所を足場に『じしん』の影響がない距離まで飛び上がった。フーディンの念力が足場を作り出し、自身とブラッキーが地面タイプ技の影響がない距離まで空中に逃れた。

 それを見たガブリアスはブラッキーに向けて跳ぶ。再び『げきりん』による身体能力強化でブラッキーに迫るが、再びブラッキーの姿がフーディンと入れ替わった。

 

(入れ替え!)

「マジカルシャイン!」

「アイアンヘッド!」

 

 フェアリータイプの光に対して鋼タイプエネルギーで硬化させた頭で迎え撃つが、指向性を絞ることで威力を上昇させた『マジカルシャイン』によってガブリアスは地面に叩きつけられた。

 入れ替わるようにピカチュウがフーディンに迫る。

 

「アイアンテール!」

「ふいうち!」

 

 フーディンに向けて尻尾を叩きつけようとした瞬間、ブラッキーの一撃がピカチュウを穿つ。付加ダメージがあるとはいえ、無防備なところに一撃を加えれば、スリップダメージのあるピカチュウには痛手になると考えたが、ピカチュウは空中で体を捻ることでブラッキーの一撃を回避した。

 

「は⁈」

 

 あの体勢から回避できるとは思わなかったブラッキーは一瞬硬直する。そこに向けてピカチュウは尻尾を叩きつけた。

 

(あの体勢から回避⁈完全な不意打ちだったはず…電気負荷による敏捷性と反射速度の強化!今の動きは認識してからではほぼ不可能。ほぼ反射によるカウンターか!化け物め!)

 

 脳から送られる信号は、電気信号。本来は脳で処理して指示を送ることで行動に移れるのだが、ピカチュウは強力な電気の一部を電気信号へと応用し、完全な不意打ちに対しては反射で反撃できるようプログラムしていた。

 だが、目的の最低限はこのピカチュウの反撃によって達成されてしまう。

 

「サイコキネシス!」

 

 反撃(カウンター)によって生じた一瞬の隙。これを見逃さず、再びフーディンは圧縮念力の弾丸をピカチュウに向けて放った。『アイアンテール』を盾にして防ぐものの、ほぼ直撃の一撃に体力は限界まで削られる。残りの体力から、もうあまり時間はない。元々ピカチュウ自身の体力は多くない。『真・ボルテッカー』で強化できるステータスは、あくまで体力以外。ピカチュウ自身の身体能力が高すぎるせいで継戦能力が高くなっているものの、素の体力は低い。軽減させたとしても、受けられる攻撃はそう多くない。今受けた攻撃はフーディンの全力。メガシンカで出力は大幅に上がっているため、防いだとしてもダメージは大きい。

 フーディン以外、体力は限界に近い。しかしフーディンの物理防御を考えれば『リフレクター』を失った今、どちらの攻撃を受けたとしてもほぼ一撃。

 

 全員一撃圏内となっている今、次の一手が勝敗を分ける。

 

「でんこうせっか!」

 

 最初に動いたのはピカチュウだった。

 向かう先は、ブラッキー。どれだけ致命の一手を打とうとも、フーディンとブラッキーが互いにカバーし合うことで一手を無効・不発に終わっている。ならば先に片方を落とす。そう考えての一手を打ち、シロナもそれを瞬時に悟った。

 

「レッド君、そのまま行って!」

「!」

「りゅうせいぐん!」

 

 天に向けて放たれたエネルギーが流星となってブラッキー達に降り注ぐ。流星の軌道はブラッキーとフーディンを完全に分断するように降り注いでおり、仮に『サイドチェンジ』で入れ替わったとしても、『まもる』で防御したとしても次の一撃は受けてしまう。

 回避か防御か入れ替えか。ブラッキーの残り体力を考えれば、本来ならそれしか選択肢はないように思える。しかし追い詰められ、極限まで研ぎ澄まされたカイムとブラッキーには、第4の選択肢があった。

 

「勝つためには…最初(はな)っから、迎え撃つ以外の選択肢なんざねぇ!アイアンテール!」

 

 超高速で迫るピカチュウ相手に、ブラッキーは一歩前に出た。

 

(正面から…いいよ、カイムさん!受けて立つ!)

 

 ピカチュウのボルテージが上がる。

 それを感じ取ったブラッキーとカイムに、更なる緊張が走った。

 

 全身が武器となっている今のピカチュウ相手に、正面から殴り合うことは明らかに愚策。しかし、グリーンの()()()以外に勝ち筋を見出せないカイムは、ピカチュウを押し留める以外の選択肢はない。

 

 超高速で迫るピカチュウ相手に、最高のタイミングでブラッキーは硬化させた尻尾を振り下ろす。しかし、この超高速を完全にモノにしているピカチュウは電気信号による反射速度強化を使うことすらせず、ブラッキーの攻撃を回避してカウンターの『アイアンテール』を叩き込んだ。

 完全に入った。付加ダメージも考えれば、ブラッキーはほぼ瀕死。その考えを肯定するように、ブラッキーの気配が一気に小さくなった。

 

 決して油断はしていない。レッドもピカチュウもブラッキーが倒れるところを見るまで決して目を離さなかった。しかし、突如として強烈に強い気配をフーディンが放ち始め、そちらにコンマ1秒にも満たない時間だが、視線を向けてしまう。

 この瞬間をブラッキーは見逃さない。

 

「早業・あくのはどう!」

 

 速度重視で放たれた一撃。決して高い威力ではないが、カウンター気味に放たれた一撃はピカチュウの体力を大きく削る。回避すらできない至近距離の一撃だが、強化された反射速度で『あくのはどう』に拳を叩きつける。威力は削られたものの、体力は限界。次の一撃で体力は尽きるだろう。

 

(知ったことか!)

 

 だがそんなことはどうでもいい。ここまで来たら、今の自分に出せる最高のパフォーマンスを出し切ることしか頭になかった。獰猛に笑いながらブラッキーに突撃してくる。

 

「お前がそういうやつだってことは、誰より知ってんだ」

 

 グリーンは理解していた。

 誰よりも真っ直ぐ。ただひたむきなことが、レッドにとって一番の武器であることを。本人が意識しているかはわからないが、ここ一番の時にレッドは決めたことを貫き通すことを、知っている。

 

「サイコショック」

 

 ピカチュウとブラッキーの周囲に念力の弾丸が展開され、一気に放たれた。しかしピカチュウは念力の弾丸を纏った電気を爆発させることで打ち消し、ブラッキーも弾き飛ばす。

 次が最後の一撃だと本能的に感じたブラッキーは体勢を立て直して視線を上げると、そこにはガブリアスがいた。

 

(速…)

「げきりん!」

「弾け!」

 

 咄嗟にブラッキーは硬化した尻尾でガブリアスの一撃を弾くが、威力が足りていない。続く一撃は防げず、強烈な一撃を穿たれた。これを受けてなお倒れなかったのは、防御力が二段階上昇していたことが要因だろう。

 だが、今は稲妻の如き速度で動ける存在がいる。

 

「電光石火!」

 

 エレキフィールドのエネルギーと自身のエネルギー、全てを合算させた超高密度の電気を纏い、雷光の如き速度でピカチュウがブラッキーを撃ち抜いた。

 いくら耐久力が高くとも、これほど受けてしまえばブラッキーも耐えられない。だが、倒れる直前にブラッキーは後ろ足をピカチュウに叩きつけ、ほんの僅かだが体力を削る。

 

「とりあえず、時間は稼げた。あとは頼む」

「ああ、いい仕事だったぜ。カイム、ブラッキー」

 

 こうなることはわかっていた。

 ブラッキーがどれだけ足掻こうと、ピカチュウとガブリアスの相手は荷が重すぎる。瀕死手前であろうと、あまりにも実力差が大きい。

 だからやるべきことは初めから一つだった。

 

 ブラッキーが完全にダウンしたことを確認したピカチュウとガブリアスが、フーディンに迫る。互いに身体能力を格段に上昇させた状態。やや離れた距離も、一息に詰めることができるだろう。

 

 

 違和感

 

 

(フーディンが、動かない?)

 

 タメに入っているのはわかる。だが、こちらに視線すら向けないのはおかしい。これほどエネルギーを発していれば気配だけである程度位置はわかるだろうが、それでもここまで全く反応しないようなものだろうか。

 

 

 違和感

 

 

(…いや、これでいい。どのみち真・ボルテッカーの維持時間は少ない。上から潰せなきゃ負けだ!全力でいく!)

 

 ピカチュウが一歩先に出る。フーディンまであと二歩、というところでフーディンが目を開いた。

 

「ここだ!みらいよち!」

 

 空間が歪み、何もないところから強力な念力の弾丸が放たれた。

 

(みらいよち⁈でも、威力が高すぎる!まさか…さっきまでの時間はみらいよちへの威力上昇のためのチャージ⁈器用すぎるわね本当!)

 

 ピカチュウとガブリアス、両者に対して非常に強力な念力の弾丸が放たれ、貫いた。もしピカチュウの『真・ボルテッカー』にステータス上昇効果がなかったらここで倒されていただろう。そしてガブリアスも、理性が残っていたが故にギリギリで直撃を避けた。しかし、両者共に本当に限界。もうこれ以上は根性でも耐え切ることはできない。

 

「ガブリアス、全開よ!」

「ピカチュウ、出し切れ!」

「フーディン、ぶっ放せ!」

 

 強烈な龍のエネルギー、迸る電撃、放たれる念力の奔流がぶつかり合った。正真正銘、全員の全力がぶつかり合い、フィールド全体がビリビリと悲鳴をあげる。

 爆煙の中から、凶暴な龍が現れた。理性すら無くして暴れ回る龍は、体力が尽きたことにまだ気づいておらず、龍の本能全てに肉体全てを委ねることで一時的に限界を超越した。

 しかし、グリーンは動じない。

 

「れいとうパンチ」

 

 目の前に迫った龍に、冷気を纏った拳を叩きつけた。

 冷気の一撃と龍の一撃が互いにクロスするように叩きつけ合う。龍…ガブリアスは冷気の一撃によって完全に力尽きた。しかし最後に、その巨体の腕でフーディンを組み伏せ、一瞬だけ時間を奪った。

 

「いっけぇぇぇ!!!」

 

 その刹那、雷光がフーディンを貫いた。視認することすら難しいほどの速度。今の速度だけは『しんそく』の最高速度すらも凌駕した一撃だった。

 しかし周囲に念力を薄く貼ることで、ピカチュウの動きを察知していたフーディンも、今出せる最速の技である『ねんりき』を纏った拳を突き出し、ピカチュウに一撃を加えていた。

 

 雷光の如き一撃でフーディンを貫いたピカチュウ。

 卓越した念力でピカチュウを迎え撃ったフーディン。

 両者は一瞬の間硬直していたが、同じタイミングで倒れた。

 

「……これは」

「引き分けってところか」

「そうね」

 

 全員の手持ちが倒れたことで、勝敗が決する。

 結果は引き分け。珍しい結果に若干驚きつつ、想定以上に切迫したバトルになったため全員緊張の糸が切れたように息を吐いた。

 

「あ〜…疲れたぁ…」

「いやー、いいバトルだったぜ!カイム、いい動きだったじゃねーか」

「そらどーも。アドリブと思いつきの対応ばっかだが…まぁ、手札増やせた感じするしいいか」

 

 結局最後までサポートしかしていないが、それでもしっかりグリーンの役には立てていた。その事実を少しだけ嬉しく思いながら、フィールドに倒れるブラッキーを抱き上げた。

 

「ほんと、普段と大違いなのよね貴方のポケモン」

 

 やや疲れたように笑いながらシロナとレッドが歩み寄ってくる。

 

「褒め言葉か?」

「半分ね。グリーン君の動きを読んだ上での的確なサポートと嫌がらせ。特にブラッキー。やっぱり根っこは悪タイプね」

「俺の根っこも悪タイプってか?よくわかってんな」

「付き合い長いもの。まぁ、グリーン君の動きありきだけどね」

「俺単体で化け物(お前ら)相手にできるわけねぇだろ」

 

 どれだけ身のこなしがうまくとも、元の実力差が違いすぎる。サポートに特化するか嫌がらせに徹するか瞬間的にアタッカーになるか。このくらいしかできることはなかった。

 ただ、その中で役割を全うできたのはカイムとポケモンが()()()()()のが一番理由としては大きいだろう。

 

「ま、オレがメインだったしな!このくらいやってくれなきゃ困るぜ」

「あらかじめ予習しておいてよかった。あれなかったらもっと早く終わってた」

「かもな。ただ、オレもお前も…100%の動きを出したのに引き分けなのはちょっと悔しいが」

「それは私たちもよ。私も、多分レッド君も…100%を出した。それで引き分けなのは悔しいわよ」

「………」

 

 シロナの言葉にレッドは頷く。ロマン砲に近い新技も全開で出せ、やりたいことはほぼ全て出せた。それでいて引き分けなのはやや悔しい思いはあるが、十分な気持ちだった。

 

「いやー、しかしタッグバトルって難しいわね。お互いのやりたいことってやっぱり違うし、その場その場で役割を切り替えていく必要があるのが難しいわ。サポート、カバー、アタッカーの切り替えがシングルの時と比にならないから」

「そっすね。オレはたまたまサポート特化ができるカイムだっけど、普通にやったら色々考えること増えそうっすよね」

「そういう意味では、カイムはタッグバトル向きね」

「さてな」

 

 シロナが想定していた通り、カイムのタッグバトル適性は高かった。サポート特化ができることも並列思考も、シングルバトルよりもカイム向きかもしれない。

 

「っし!んじゃ、色々わかったところで次のバトルの話しようぜ!」

「いいわね。次はもっといい動きができる気がするわ」

「!」

「ざけんな!今日は休みじゃねぇ!こちとらこの後ジムチャレンジもあんだぞ!だからわざわざ早朝って話しただろうが!」

「………」

「おい待てレッド!勝手に次のくじ用意すんな!もうジムトレーナーも来るし、面倒なことになるだろうが!」

「おーしシロナさん、次のバトルだけどよ…」

「話を勝手に進めんな!おいコラお前ら話聞けや!無理だつってんだろ!」

 

 思い思いに動き始める三人に強烈なツッコミを入れながらカイムはガリガリと頭をかく。

 

 その後、ジムに来たミツルを筆頭とするトレーナーだけでなく、ジムチャレンジャー達まで三人に群がってしまい、ちゃんとした通常業務に戻るまで多くの時間を費やした。そのことでバトルで体力を使い果たしたカイムはさらに疲労が蓄積することは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー疲れた。えらい目にあったぜ」

「そら自業自得だ。俺ぁ忠告したぞ」

「そんなの知らねーよ」

 

 ジム終了後、シロナ達はシロナ宅に集まっていた。

 結局あの後、タッグバトルはできなかった。当然ジムチャレンジバトルが優先となるため、シロナ達はほぼ見学で終わってしまった。しかし、多くのトレーナーがシロナ達とバトル談義でほとんどの時間を持って行かれてしまった。

 

「ま、オレらがいるんだ。仕方ねーことかもな」

「チャンピオンズトーナメントもあったし、何よりお前とレッドのセキエイリーグ決勝はあまりにも有名だからな」

「天才は辛いぜ」

 

 相変わらず傲慢な発言に思えるが、事実である以上わざわざ突っ込むことはしない。

 そんな傲慢にも思える発言をしているグリーンに対して、レッドはエネルギーが尽きたのか食卓に突っ伏していた。

 

「で、レッドはどうしたんだ?」

「腹減ってんだろ」

「………」

 

 グリーンの言葉にレッドは力なく頷く。

 確かに朝から全力のバトルで、その後もほとんど休みなくバトル談義(レッドはあまり喋らず、グリーンの通訳とポケモンの身振り手振りが多かったが)。エネルギー切れになっても仕方ないだろう。

 

「時間も遅くなったしな。飯にするか」

「おう!じゃ、よろしく」

「…はいはい。なんかリクエストあるか?」

「んー?あー…早く食えるならなんでもいいや。炒飯とかでいいぞ」

「オレも…とにかく早めに…」

「……とにかく量か。シロナは?なんかあるか」

「二人の好みでいいわよ。貴方のご飯ならなんでも美味しいから」

「どーも。じゃ、炒飯にすっか。文句言うなよ」

「美味けりゃ文句ねーよ」

 

 とにかく早く、量が必要であると理解したカイムはキッチンに立ち、ルカリオを出した。そしてどこからか現れたブラッキーがルカリオの体によじ登り、肩車の体勢になって満足げに「むふー」と息を吐いている。ルカリオは気にしていないのか、ブラッキーをぽんぽんと撫でていた。

 

 それを見たカイムはエプロンをつけて腕を捲った。

 

「始めるか」

 

 冷蔵庫を開く。材料は常にある程度準備してあるため、最低限必要なものは揃っている。必要な材料をいくつか手に取った。

 

「ルカリオ。塩胡椒、酒、醤油、サラダ油の準備を頼む」

 

 言われたルカリオは調味料棚から言われたものを取り出し、キッチンに並べる。塩胡椒のビンだけブラッキーが自分の頭の上に乗せて遊んでいたため、さっさと取ってブラッキーの頭を撫でた。

 材料は、卵、豆ミート、にんじん、ねぎ、ピーマン。まずは豆ミートとにんじん、ねぎ、ピーマンを手に取り、愛用の包丁を取り出した。材料を米粒程度の大きさに切っていく。材料数は多くないが、小さくカットしていくためいつもよりやや時間は必要ではある。しかし、効率化を重ねた調理によって手際良くカットを済ませた。

 

「白米は……食べ盛り二人いるしちと足りないか。ルカリオ、冷凍庫から冷凍ご飯を…2パック出してくれ」

 

 ルカリオが取り出した冷凍ご飯を器に移して電子レンジで加熱して、解凍しておく。

 その間に、材料を炒め始める。フライパンに油をひいて、火が通りにくいにんじんから炒め始め、半分ほど火が通ったら豆ミート、ピーマンを加えて、塩胡椒で軽く味付けをする。

 

「丁度いいか」

 

 ある程度具材に火が通ったところで、一度火を止める。火が通った具材を一度皿に取り出しておき、キッチンペーパーでフライパンを綺麗にした。そこで卵を割り、溶き卵を用意したら、再びフライパンに油をひいて中〜強火で溶き卵を細かい粒を作るイメージで炒める。半熟程度になったところで、温めた白米を投入し、切るように混ぜる。

 

「あとは具材と混ぜて…」

 

 ある程度混ざったところで、先ほど炒めた具材、ねぎ、塩胡椒、酒を加えて味付け。アルコールを飛ばし、味が全体に馴染んだところで、香付けの醤油を鍋肌にそって回し入れ、全体を混ぜ合わせた。

 

「炒飯はこれでいい。あとはスープとサラダ…」

 

 炒飯が完成したところで、グリーンが料理を眺めていることに気づく。

 

「…んだよ」

「いや。手際いいなって」

「長らくやってりゃ、誰でもこうなる」

 

 料理の作業そのものについては、基本的に才能が関与する部分はない。多少の差異は出るだろうが、基本的に効率化していくだけで作業手順は簡略化、洗練することができる。

 

「ほーん…」

「……な、なんだよ」

「いやぁ…そういやオレの姉さんも料理上手かったなって思い出したんだ」

「お前、姉がいるのか」

「おう。若干歳は離れてるけどな」

 

 具体的には6つほど、と付け加え、グリーンは何かを思い出すような表情をした。グリーンの姉がどんな人物かはわからないが、グリーンの様子を見た感じ悪い関係ではないのだろう。

 

「どんな人なんだ」

 

 スープとサラダを作る手を止めることなく、カイムは問いかける。

 

「…おっとりしてるが、芯の強い人って感じ。どうにも、姉さんには敵う気がしねえ」

「そうか。例外はあるだろうが、弟ってのは姉には敵わない人種なんだろうよ」

「かもな。そういや、少しだけお前に似てるかもしれねぇ」

「はぁ?」

「雰囲気とかは似ても似つかねぇが…世話焼きなところや細かいところがな。小言の口調はともかく、小言の中身は似てる。レッドとは違うお人好しって感じ」

 

 お人好しと言われることにカイムとしては色々言いたいことはあるが、自分はグリーンからしたら親しみのある人種らしい。年相応の子供のように話すグリーンを前にわざわざ水を差すようなことをするのも悪いか、と考えてカイムは「そうか」とだけ言った。

 

「…お前は?兄弟とかいんの?」

「お前と同じだ。姉が一人」

「え、お前弟なの?お前が兄貴だと思ってた」

「よく言われる。ただ、お前の姉とは違って破天荒で手のつけられない姉貴だが」

「へえ、どんな人なのか聞かせてくれよ」

「飯ができるまでの間な」

 

 調理を勧めながら話すカイムと楽しそうに話を聞くグリーンの姿を見て、シロナとレッドは優しい表情で眺めているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

「おお、美味え!」

 

 カイムが作った炒飯をレッドとグリーンはガツガツ食べながらそう言う。褒められたカイム自身は何も感じていないようにスープを喉に流し込み、そんなカイムを嬉しそうにシロナは見ていた。

 

「ちゃんとパラパラの炒飯だな。姉さんの話だと、案外これが難しいらしいんだが…」

「誰でも練習すりゃできる」

「そんなもんかねぇ。オレ、キャンプする時くらいしか料理しねぇし、ここまでできるようになるとは思えねえが」

「まあ、向き不向きはあるだろ。家事だけは絶望的に合わない奴も世の中にはいるし」

 

 カイムの言葉にシロナはじろりと視線を向けるが、カイムは肩をすくめるだけ。ここで反応してしまうと自分が家事をできないことが露見してしまうため、不満げに息を吐くだけに留まる。

 

「………!」

 

 一方、レッドはただただ炒飯を貪っていた。もぐもぐと美味そうに食べる姿は、やはり年相応の少年のものだった。

 

「お前らさ、ポケモンの食事ってどうしてんの?」

「ん?普通に買ったもの」

「………」

「レッドも?まあ普通そうだよな。なんか悪いことあるのか?」

「いや、なんも。市販のポケモンフードはちゃんと栄養バランス考えられてるからな。ただ、ポケモン達もたまには違う味食べたいとか思ったりするのかなって」

「カイムね、自分でフードを作るの。みんなの好みに合わせて味付け変えて、日によって変えたりしてるのよ」

「そんなことしてんのか⁈ブリーダーじゃねぇかそれ」

 

 手持ちのポケモンの数にもよるが、わざわざ好みに合わせてフードを調合するとなると、相当な手間になる。トレーナーとしてそこまでやってる者はそういない。レッドとグリーンが驚くのも無理はない。それこそ、グリーンが言ったようにブリーダーでないとここまではやらないだろう。

 

「単純な面倒をみるだけなら、多少はシロナに任せられる。それに、うちの連中は結構味の好みが似てる。同じ味を使い回すことができるし、まあ意外と作る種類は少ない」

「へえ…だが、シロナさんのポケモンのも作ってんだろ?量はかなりのものじゃねえか?」

「休みにまとめて作ってる。市販のもうまく使い分けてる」

「なるほどな…そういう使い分け方もあるのか。ポケモンのケアに関しては、やっぱ年長者の意見はもうちょい聞きたいところだ」

 

 バトルの組み立てに関しては天性のものがあるレッドとグリーンだが、当然知らないことは多くある。自分で探索していくことは好きだが、先人の知恵を借りることも今後は必要だと考えていたため、思わぬところでいいことを聞けたとグリーンは内心で嬉しく思っていた。

 

「これはシロナさんの方針?」

「半分かしら。ポケモン達にいい思いをしながら過ごしてほしいから、日頃からケアは怠らなかったんだけど、フードまでやるようになったのはカイムが自主的に始めたからね」

「なんで始めたんだ?」

「サポーターになったのと、ブラッキーが味にうるさいから」

 

 カイムの言葉にブラッキーは耳をぴこぴこさせる。好き嫌いがある、というほどではないが、昔からブラッキーは味にうるさい。好きじゃない味だと、露骨に顔を顰める。そんなブラッキーと過ごしていたため、フードの調合に関しても知らぬ間に腕が上がっていた。サポーターになったことでシロナのポケモンにも同じようにするようになり、より腕が上りさらに最適化された結果だった。

 

「へえ…なるほどなぁ。昔からお人好しというか、変わらない感じだったんだな」

「変わらないってなんだよ」

「人に振り回されてる感じ」

「うふふ、そうね。振り回されながらもちゃんとみんなのことを考えて、いろんなことを考えてやってくれる。いつも助かってるわ」

 

 カイムは肩を竦めると、炒飯をレンゲにすくって一口含む。程よい旨味と具材、パラパラになった米がうまく絡み合い、シンプルだがちゃんとした味にまとまっている。

 

「………」

「ん、なんだよレッド」

 

 サラダを頬張っていたレッドが視線を向けてくる。しかし、口にものが入っている状態かつ、元の無口もあって何が言いたいのかはわからない。それを察したグリーンが口を開いた。

 

「料理を始めたきっかけはなんだってさ」

「なんでわかるんだよ」

「長え付き合いだ。こいつの無口にはもう慣れてんだよ」

(…付き合い長けりゃこうなるもんなのか?)

(いや、彼らが特殊なだけだと思うわ)

 

 あまりにも自然な通訳に思わずシロナに問いかけるが、シロナから見てもやはり特殊だという。おそらく、昔から無口だったレッドの通訳をし続けたことでこのように即座の通訳ができるようになったのだろうと予測した。

 

「料理を始めたきっかけか…はじめは、確か……母さんの手伝い。姉貴がアホほど食う癖に、何も手伝いしなくて大変そうにしてるのを見て、かな」

「イサナさん、よく食べるの?前会った時はそんな感じしなかったけど…」

「ガキの頃はな。まあ、ガキにしてはよく食う程度。今は普通より少し多い程度らしい」

「そんで?そこからなのか?」

「んー…手伝いは、旅に出るまではしてた。旅に出てからは、ブラッキーのために料理するようになった。野宿する時とかもあったし、何より金があまりない。ポケモンセンターの宿泊施設でもバシャーモに夜食せがまれて作ることもあったかな」

 

 ブラッキーは味にうるさく、バシャーモはよく食べる。そのため、ポケモン達のために自分なりに色々試していくうちに、料理スキルは磨かれていったという経緯だった。

 当然シロナは知っているため、話題に出ていたブラッキーとバシャーモに目を向ける。ブラッキーはもう食事を終えたのか、こちらの様子を伺っていつつグレイシアの尻尾を枕にゴロゴロしていた。バシャーモはまるで居酒屋で食事するように、レッドのリザードンとピカチュウと交流している。

 

「もの好きだな。普通に市販品使えばいいのに」

「言ったろ?ブラッキーが市販品だと時々嫌そうな顔するんだよ」

「それで料理するようになるのって、ポケモン本位って感じするわよね」

「そっすね。ま、らしいっちゃらしい感じしますけど」

「……お前、俺にはタメ口なのにシロナは敬語なのかよ」

「ったりめーだろ!シロナさんにはでけー恩があるんだ!それに、世界トップクラスの腕あんだ!おめーみたいにただのダチとは違えんだよ!」

「……」

「なんでレッドまで頷いてやがんだよ…俺そんなに歳上っぽくない?」

「あんまオレら、年齢気にしねーから」

 

 けらけらと笑いながらレッドとグリーンは食事を進める。そんな二人を見てカイムはやれやれといった様子を見せつつ、自分も食事を進める。

 

(やっぱり、どこかお兄ちゃん気質よね。歳下相手にも親しまれやすいし、誰にでも分け隔てない感じ。多分、お人好しな雰囲気がわかるのよね。わかる人にはわかる感じ…ふふ、素敵ね)

 

 分け隔てなく、誰にでも敬意を持って接する。それをわかる人にはすぐに距離を縮めやすくなるのだろう。ただ、言葉がやや荒くなる時があるため、気づかない人もいるのは仕方ないかもしれない。

 

 和やかな雰囲気で食事は進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隣、いいかしら」

 

 食事を終え、グリーンが庭のウッドデッキでぼんやり空を眺めているグリーンの隣に、シロナは腰掛ける。その手にはグラスがあった。

 

「いいっすよ。すんません、風呂まで借りちゃって」

「いいのよ。よくあることだから」

 

 グリーンとレッドは食事の後、シロナの勧めで入浴まで済ませていた。少し遅い時間ということもあり、今から宿泊先に戻るのも面倒ではないか、というカイムの言葉を最初は断ったのだが、確かに今から戻って風呂となると部屋のシャワーですませることになる。それなりに疲れた日であるため、可能なら湯船に浸かりたいという思いがあったグリーンは、入浴だけ済ませてしまおうと勧めに乗ることにした。

 

「ごめんね、こんな時間になっちゃって」

「いいんすよ。飯出してもらって、バトル談義もしてもらって…十分すぎるほどもてなしてもらったんで」

「ありがとう。私も、二人みたいに強いトレーナーと話せてよかったわ」

 

 レッドはもちろん、グリーンも世界トップレベルの腕を持つ凄腕トレーナー。シロナとしても、自身にはない知見を得られることは非常に有意義だった。

 

「随分カイムとも仲良くしてくれたしね」

「あいつは絡みやすいんすよ」

「ふふ、そうね。今もレッド君と楽しそうにしてるし」

 

 シロナの視線の先には、庭でレッドのポケモンと触れ合うカイムの姿。寝転がるカビゴンを背もたれにしながら、ポケモン達と触れ合っている。レッドのポケモンは、シロナにもカイムにもすぐに打ち解け、ポケモン同士の交流もしているほどだった。

 

「あの二人、ある意味で同類なんで」

「そうね。お人好し」

「そっす。自分が損しても、他者のために何かを貫き通す。無駄が多いことこの上ない生き方。そう思ってました」

「今は違うの?」

 

 グリーンは苦笑しながら頷く。

 

「無駄だと思ってたんすけど…その過程であいつは色々見てきた。あの一年の旅で…多くのものを見た。自分のことしか見ていなかったオレとは違って」

 

 シロナに負けて、故郷に戻り、祖父と話した。何が足りなかったのか。レッドと自分で何が違ったのか。

 祖父…オーキド博士はちゃんとした答えは何も言わなかった。ただ、この旅で何を見てきたのかを聞いてきた。この時に己が見てきたものを自分の中で整理し、博士に伝えた。無論、オーキド博士は決定的なことは何も言わなかった。ただただ、孫の見てきたものに対して頷き、時折質問してくる程度であった。

 そして、最後に『レッドにも同じ話をしなさい。それで、自分と何が違うかを確かめるといい』と言われ、そのようにした。そこで自分とレッドが見てきたものの違いを知り、レッドが思っていた以上に色々見てきたことを知った。

 

「あいつ、結構色々寄り道して、道草食って…俺からしたら、無駄に思えるようなことをいっぱいしてた。オレは、バトルのことばっか考えてて、それ以外無価値だと決めつけて。それが、オレとの違いだった」

「一つのことだけを見ていては、必ず行き詰まる。いろんなものが繋がって、自身の身になってくれるものだから。でもこういうのって、体感してみないとわからないものよね」

「…はい。それがオレとレッドの違いでした。無駄だと切り捨てるには、オレはまだまだ知らないことばっかだったようです」

 

 才能の方向性は違うが、レッドとグリーンはバトルにおいて最高峰の才能を持つ。だが、現在の実力はややレッドが勝る。その差ができた大きな理由は、ポケモンへの接し方と見聞の差だろうとシロナは考えている。どんなところでバトルに役立つアイデアを得られるかもわからない。それだけでなく、どれだけ適性があろうともそれだけに没頭し続けられる者はいない。脇目も振らずに走り続けたことでグリーンは大きくバトルの腕を伸ばしたことは間違いないかもしれないが、張り詰め続けた心に余裕は既になく、色々なことが重なったことで完全に視野が狭まってしまった。

 

「…色々あったとはいえ、ポケモン達(あいつら)のこと…全然考えてなかった。オレのことばっかで、あいつらもしんどかったのに」

「……辛いことがあると、自分のことで手一杯になっちゃうものよ。仕方ないこととはいえ、思い返すと後悔が残るわね」

「シロナさんにもあったんすか?」

「もちろん。貴方の倍生きてるのよ?たくさんあるわ」

 

 クロツグに完膚なきまでやられた時、何もかも上手くいかずカイムに当たり散らしてしまった時、悪夢に潜ったカイムを迎えに行くために悪夢のことを調査していた時など、シロナにも余裕がない時はある。その時のことを思い返して、後悔が残ることはある。

 ただ、それらの後悔も決して悪いことばかりではない。その後同じことをしないように己を戒めることで、更なる成長に繋がる。

 

「そういうもんか」

「そういうものよ。その後悔をただ放置しなければ、決して無駄じゃなくなるわ」

「…そっか」

 

 グリーンは穏やかな表情でシロナに視線を向ける。

 

「シロナさん。オレ、まだあの時の答えは出せてないんだ。レッドみたいに『自分がいるべき場所』って言い切ることができれば良かったんだけど、あいつと同じ答えがオレの答えなのかわかんないし、なんか気に食わねえ。だからオレ…この旅で答えを見つけたい。いろんなトレーナーのバトルとの向き合い方を知って、オレなりの答えを見つけたいんだ」

 

 シロナは『心から楽しめる場所』、カイムは『他者との繋がりの場所』、レッドは『自分がいるべき場所』という答えを出している。

 では自分は?そう考えた時、どう答えればいいのかまだわからない。この答えを見つけるためには、たくさんのトレーナー達と出会い、彼らの向き合い方を知る必要がある。最初の旅でそれを見てこなかったから、今からやろうと思い至った結果が、この旅だった。

 

「ずっと探して、いつかちゃんと見つける。だからシロナさん、その時はオレの答えを聞いてくれよ」

「もちろんよ。その時を楽しみに待ってるわね」

「ああ!」

 

 にかっと笑うグリーンにシロナは微笑む。

 きっとこの少年が答えを見つけた時、レッドと本当の意味で肩を並べるライバル(親友)になるのだろうと、そう考えた。

 

 カイムがフシギバナの出した蔓にぶら下げられ、グリーンのバンギラスに突かれて遊ばれているのを見て、二人は笑う。こんな穏やかな時間が自分には必要だったのだろうと考えながら、グリーンはカイムの元へと歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 一週間後、二人は別の街へと旅立っていった。

 この一週間で何度かタッグバトルをやった。四人でペアを変えながらバトルしていき、結果はまさかの全戦引き分け。それほどまでに実力が拮抗していたということだった。

 

(タッグバトル、思った以上に難しい。味方の動きと相手の動き、両方に気を配る必要がある以上、並列思考がかなり重要になってくる。俺からしたら得意分野とも言えるが…チャンピオンレベルを相手にするとサポート以外存在価値がほぼない。次のトーナメントは、誰と組んだとしてもサポート特化になることはないだろうが…何にしても、全員のバトルデータだけは集めておくべきか)

 

 参加者は既に関係者には公開されている。バトルデータを集めることはそう難しくない。集めたものに関してはシロナに共有してもいいだろうと考えながら、カイムはデスクから立ち上がる。

 九割ほど完成した資料をシロナとの共有フォルダに保存し、硬くなった首を回す。ゴキゴキと音を鳴らしながら部屋の扉を開いてリビングに向かった。

 

「ん」

「あ、お疲れ様。資料、どう?」

「九割くらいできた。共有フォルダにいれておいたから、あとで見てくれ」

「ええ、わかったわ」

「んで?何飲んでんだ」

 

 リビングでポケモンと寛いでいたシロナの手にはグラス。グラスに入っているのは透明な液体だが、見たところ水ではない。それに、シロナの顔も僅かに紅潮している。

 

「清酒。前にもらったやつよ」

「ああ、博士にもらったあれか。どうだ?」

「美味しいわよ。ただ、ちょっとアルコール強いけど」

「お前から見て強いなら、俺は少しにした方が良さそうだ」

 

 シロナが飲んでいたのは、先日ナナカマド博士のもとを訪れた際にもらった清酒だった。博士のおすすめの物らしく、マサゴタウン付近に酒蔵があってそこのものだという。

 カイムはシロナからグラスを受け取り、少し口に含む。辛口の味が口に広がり、強めのアルコールが喉を熱くした。

 

「へえ、美味いな。ただ、やっぱ言う通り強いな。あんま飲まない方が良さそうだ」

「ふふ、そうね。今日は少なめにしときましょ」

 

 どことなく、シロナの口調がふわふわしているように聞こえる。瓶の残量を見たところそこまでたくさん飲んだわけでは無さそうだが、そのシロナがやや酔っているのを見るところ、やはりアルコールは強めなのだろう。

 

「んー強い。何パーあんだこれ」

「35」

「高。俺、この一杯だけにしとくわ。つか、博士こんな強いの飲んだんのか?」

「博士、すっごい強いのよ」

「あーなるほど、ザルなのか。まー強そうな雰囲気あるし」

「博士の家系ってみんな強いらしいのよ」

 

 シロナ曰く、博士の父も祖父も酒豪であったらしい。その遺伝子を受け継いだ博士も酒豪であり、若い頃は相当飲んでいたとかなんとか。

 

「シロナの家族は強いのか?」

「んー?んー…おばあちゃんは少し強いかな。おじいちゃんもまあまあ。クロナはあまり強くないかしら。でもカイムよりは強いわよ」

「俺も下戸ってわけじゃないんだが…みんな強えんだな。俺より弱いのほとんどいないな」

「リョウ君は弱いわよ。リーグ幹部で飲み会した時、真っ先に潰れてたわ」

「アルハラしたんじゃねーよな」

「してないわよ。乾杯のビールをハイペースで飲んだから。そのビールと次のハイボール半分も飲まずに潰れてたわ」

 

 あの日はリョウが四天王に決まった日の飲み会であり、そこまでの間に試験やバトルがあったことが大きいだろう。疲労はアルコールの廻りを早くし、許容量を減らしてしまう。元々強くないとは本人も言っていたが、あんなにすぐ潰れるのを見るに疲労がやはり強かったのだろう。

 そして、疲労という意味では今のシロナも近いものがあった。

 

「シロナも飲みすぎるなよ。タッグバトルのために色々リスケしたせいで、その皺寄せきてんだろ。疲れてる時に飲み過ぎんな」

「わかってるわよ…」

 

 むすっと表情を歪めながらシロナはカイムの肩に頭を乗せる。

 

「レッド君達、強かったわね」

 

 グラスを軽く揺らしながらシロナは口を開いた。タブレットをいじっていたカイムは視線をシロナに向けると、小さく頷く。

 

「さすがに、規格外だった。サポート以外何もできないくらいに」

「貴方の嫌がらせ、本当に効果的だったわ。誰と組んでも味方のポテンシャルを限界まで引き出せるのはすごいことよ」

「お前ら相手だとそれしかできん。俺のオーダーじゃ、お前らに対して一矢報いることが限界。なら、正面から張り合える奴らのことをサポートしてやる方がはるかに効果的だろう」

「誰が相手でもそれができることがすごいのよ。貴方、レッド君とグリーン君と組んだ時は相手じゃなくて味方のスカウティングに時間を使ってた。でも、味方のスカウティングをしてたとしても、あそこまで動けるのは正直すごいわ」

 

 カイムは、誰と組む時も必ず敵ではなく味方のスカウティングに時間を使った。それは、味方との連携がないとバトルできないと考えているカイムだからこそ辿り着いた答えだが、想定していた以上の結果だった。

 

「俺単体じゃ、大した力にはならん。なら、相方を活かす道に行くのは当然の帰結だろ」

「否定はしないけど、もう少し言い方があるでしょ〜」

「さてな」

「あ、そうだ。グリーン君と組んだバトルでリザードンに爆発する炎をつけたでしょ?あれ何?」

「ああ、あれは『はじけるほのお』の応用。仕組みはただ単に時間差で弾けるようにしただけだ」

 

 体力がギリギリになれば、ここ一番で必ずレッドは必殺の一撃を使うとグリーンから聞いていた。だからそのタイミングに合わせて、バシャーモの『はじけるほのお』をぶつけ、リザードンが技を放つ瞬間に時間差で爆発することで技の放出を妨害するということだった。

 

「技を放つ瞬間は、広範囲技でもある程度相手に意識を集中する。その集中を見出すことで、多かれ少なかれ技の威力・命中精度を落とすことを目的とした技だ。ただ、時間差で威力を保つことがまだできなくてな。威力は完全に切り捨ててる」

「そういうロジックだったの。何かと思ったわ」

「バシャーモは波導(エネルギー)を体から離して操ることが苦手でな。ただ、俺もだからうまく教えられてない。威力を保ちながら維持させることができなかった」

「波導のコントロールは向き不向きあるもんね」

「そういう意味でもシロナはオールラウンダーだよな。なんでもできんじゃん」

「まーね。結構こういうの向いてるみたい」

「家事以外はオールラウンダいってぇ!」

 

 茶化してきたカイムの耳を思いっきり引っ張って抗議する。揶揄いすぎたか、と苦い顔をしながら引っ張られた耳をさすってグラスを傾けた。

 

「…やっぱ強えなこれ」

「あまり好みじゃない?」

「味はいいが…あんま強くない俺からしたら飲みにくい」

「肝臓は鍛えられないもんね」

 

 シロナは空になったグラスを置いてカイムの首元に顔を埋める。

 

「体術は教えられたの?」

「ん、ああ…グリーンか。最低限だがな。鍛え方も教えておいたから、今後も鍛えりゃまあ実戦で使えるレベルにはなるだろ」

「彼ならものにしそうね。彼ほど言語化が得意な人もいないしね」

「あいつとは組み易かった。本能で動くタイプじゃないから、予想外の動きをしないしな」

 

 逆にカイム視点で一番やりにくかった(ついていくことが大変だった)のはレッドだった。レッドはとにかく突き進むタイプだが、相手の動きを察知して即座に軌道修正することがある。しかもその軌道修正がカイムの想定を超えるものが多い。瞬間的に120%の実力を発揮するタイプとの相性はあまり良くないことを自覚できるいい機会だった。

 

「100%を踏まえて動くのはできるが、爆発力のある120%以上を想定することが苦手らしい。それでもなお引き分けに持って行けたのは、単にレッドのキャリーだろうよ」

「あら、あの時の貴方も十分面倒だったわよ」

「そらありがたいねぇ」

「で?」

「あ?」

「誰が一番組み易かった?」

 

 シロナの顔は見えない。ただ、言葉の節々に不満が込められていることにカイムは気づいた。

 

「とりあえず、レッドはきつかった。グリーンはまあやり易かったが、ガンガンいくスタイルは俺には合わん」

「つまり?」

「お前」

「ふーん」

 

 少しだけ喜色を滲ませた声。言葉にはしないが、ぐりぐりと頭を押し付けてくる仕草からも嬉しく思っていることは言うまでもないだろう。

 

「レッド君は頭で考えるより脊髄反射で動いて、それがしかも最適解のパターンが多いものね。敵でも味方でも、同格に戦えるのはある程度それに近いスタイルができる人じゃないときついかも」

「グリーンは思考を凝縮させた結果の天才、レッドは本能で最適解を切り開く天才。どっちが優れてるとか決まってはいないが、俺はグリーンの方がやりやすい」

「私は?」

「お前はなんでもできる。それに、相手に合わせてスタイルを変える受身型の究極系。だが、どっちかと言えばグリーン寄り。それに加えて思考パターンを知り尽くしてるから、何されても基本想定外はない」

「ふふふ、そう。そうなのね」

 

 嬉しそうにぐりぐりと頭を押し付けてくることに加え、カイムに跨ってぎゅーっと抱きしめてくる。触れ合う胸からは、やや早い鼓動が感じられるが、羞恥というよりアルコールが回ってきたことによるものだろう。

 

「結構酔ってるか?」

「酔ってる…かも」

「自覚があるたぁ殊勝なことで」

 

 ブラッキーのような甘え方をしてくるシロナの背中をぽんぼんと撫でる。シロナの吐息が首筋に当たり、少しむず痒いように思えた。

 

「………」

「……んー…」

「お姉さんや」

「んー?」

「いつまで乗ってるつもりで?」

 

 ソファに座るカイムの膝上に直接跨って抱きしめてくるシロナだが、放っておいたらずっとこうしていそうだと思ったカイムはそう問いかける。カイム本人としては役得でしかないのだが、吐息がどことなく熱くなってきているのを見るに、眠気がきていそうだと予想した上での問いかけだった。

 

「んー…もう少し」

「こういう時のもう少しは大体少しで済まないんだが」

「むー…」

「つか、少し水も飲め。ほら」

 

 デスクに置いてあったグラスをどうにか手に取り、シロナに手渡す。ややふらつきながらも少しだけ起き上がったシロナは、グラスの水を勢いよく飲み干した。

 

「あー…ちょっと飲みすぎたかも」

「少し多かったかもな。風呂は?」

「入る…」

「シャワーだけにしておけ。結構飲んでたんだし、湯船はやめておいた方がいい」

 

 シロナもやや飲みすぎた自覚はあるのか、カイムの言葉に素直に頷いた。飲酒後の入浴は色々と健康面に影響を与える可能性がある。そのあたりの判断ができるあたり、まだ理性は残っているらしい。

 この様子なら二日酔いにもならないだろうと思いつつ、カイムはシロナの手からグラスを取って水を注いで飲み干した。その様子をぼんやりと眺めていたシロナは口を開く。

 

「カイム」

「ん…んむ⁈」

 

 突然顔を引き寄せられ、唇が合わせられる。突然のことに驚くものの、応えるようにカイムはシロナの頭に手を添えた。

 少しの時間のキス。10秒にも満たない僅かな時間だったが、互いの存在を強く感じられるキスだった。

 

「…酒臭え」

「飲んでたんだもん。当たり前よ」

「そらそうだ。んで、どうした急に」

「嫌?」

「まさか。役得でしかねえよ」

「じゃあもっとする」

 

 シロナはカイムの頬に手を添えると、再び口付けを落とす。

 唇の柔らかい感触、互いの息遣い、触れ合う粘膜の感覚に脳を支配された。口を離すと、銀色の糸が二人を繋いでいたが、糸は自重に耐えきれず切れた。

 

「………」

「シロナ?」

 

 銀灰色の瞳にカイムの姿が映る。シロナはカイムに跨りながらぼんやりとカイムを見つめており、何を考えているのかはよくわからない。

 

「綺麗な瞳…」

「…お前もな」

「……ずるい」

「あ?」

「いつも貴方は、私が嬉しくなる言葉をくれる」

 

 どこか蕩けて紅潮した頬と潤んだ瞳。少し怪しい雰囲気のシロナにカイムは首を傾げる。

 

「貴方は、私が自分で埋められない穴を埋めてくれる。もう、貴方無しじゃだめなの」

「嬉しいね」

「……私の世界には、貴方が必要。貴方無しじゃ…だめ」

「シロナ?」

 

 頬に添えられる手の熱さを感じないほど、シロナの瞳に吸い寄せられる。艶やかな雰囲気の中、シロナは優しくカイムの髪を撫で、その流れでカイムの瞼を撫でた。

 

「……綺麗」

「どーも」

「…………」

「……え、なn」

 

 肩に手を置かれると、突如体重をかけられる。普段なら抵抗できただろうが、僅かに酒が入ったことによってうまく抵抗できずに押し倒されてしまった。

 跨るシロナは、とろんとした瞳を向けてくる。怪しい空気に自身の心拍数が上がっていくのを感じる。しかし、声を出すこともできない。ただ乗られているだけ。なのに、何もできない。

 

「シ、ロナ…」

「…カイム」

「…………」

「私は…貴方が……し……」

 

 ぐらりとシロナの体が傾き、カイムに迫り、二人の影が重なる。

 そして、倒れ込んできたシロナは穏やかな息遣いをしていた。

 

「zzzzz」

 

 シロナはカイムを布団にし、穏やかに眠っていた。カイムの胸板に頭を乗せ、普段よりも幼く見える表情で眠るシロナに、カイムは完全に硬直していた。

 

「こいつは…」

 

 すやすやと眠るシロナの頭を撫でながら天井を仰ぐ。その顔は珍しく真っ赤に染まっており、苦々しく歪んでいた。

 シロナは世間的には見ても相当美人な方。見慣れてきたとはいえ、その事実は変わらない。そんな女性に馬乗りにされ、あのような艶やかな表情で見られたら、男としては色々思うところがある。それが愛する女性とあれば尚更だろう。

 

「人の情緒をぐちゃぐちゃにして気持ちよく寝やがって。こういうところは本当に変わらねえ」

 

 薄着で彷徨く、会話の際の距離が近い、言葉の節々に意識させられるような言動などなど…色々な行動でカイムのことをドギマギさせてきた。付き合う前は極力悟られないように平静を装っていたものの、内心では頭を抱えていたことは記憶に新しい。

 尤も、シロナはシロナで似たようなことになっていたため、あまり人のことは言えないのだが。

 

(……早く、準備しねえと。俺のわがまま…というか、要領の悪さで待ってもらってんだ。これ以上待たせちゃ、格好つかん)

 

 元よりプライドなどほとんどないが、せめて愛する人の前でくらいは誠実な姿勢を見せたい。待ってもらっている以上、迅速に進めなければならないという思いはある。だが、色々とわからないことだらけで苦戦しているのもまた事実。この事実がある以上、自分だけで進めていては遅くなる一方だと薄々気づいてはいた。

 

(はぁ…できることなら自分で決めたかったが、そうも言ってられんか。不本意だが…()()()に頼るか)

 

 茶化されて揶揄われて散々言われた挙句協力してくれそうな人物。これで頼るのは2度目になるが、気は重い。ただ他に頼れる選択肢もない以上、仕方ないと腹を括る。

 

「んん…」

 

 連絡しようとスマートフォンを手に取ろうとした瞬間、シロナが少しだけ動いてカイムに頬擦りする。安心した幼子のように眠るシロナを見て、小さく息を吐いた。

 

「やっぱブラッキーに似てきたな」

 

 そう呟くと、ソファの下からブラッキーが顔を出した。『呼んだ?』とでも言うように首を傾げるブラッキーの顎を優しく撫でると、ブラッキーは嬉しそうにごろごろと喉を鳴らす。そしてソファに飛び乗ると、カイムの腕の中で丸くなった。

 

「…かわいい奴らばっかだな」

 

 いろんな意味で幸せな空間を実感しつつ、そう呟く。

 自身がやるべきことを見据え、覚悟を決めながらも、この幸せを噛み締めながらカイムは目を閉じた。

 

 この幸せを、生涯守り通していくことを誓いながら。

 

 




Cパート

「首尾はどうですか」

 黒い外套に身を包んだ男が、跪く3人の男に問いかける。

()()()()は上々。ギンガ団と手を組んだことが功を奏しました」
「ふむ…それはいい。彼らの技術力はなかなか見るべきところがありましたからね。それで、ギルドの方は?」
「各地方のギルドは、()()の保護に動いています」
「では引き続き、ギルドの補助を。必要であれば、私が彼らの交渉に出ますので」
「はっ」
「残りの歯車は?」
「シンオウ地方の『シンジ湖』、『リッシ湖』、『槍の柱』です。シンオウ地方は()()()に続く道があるので、歯車の数も多いようです。また、他地方にあった10個の歯車は既に奪取されております」
「思ったよりも少ないですね。()()の手際は…思った以上にいいようだ」

 面倒ですね、と呟いて男は手に持った杖でコツコツと地面を叩く。暫しそのまま思案していたが、突如として男は視線を上げた。

「残りが少ない以上、我々の猶予もありません。ここからは私も表に出てギルドの中枢に顔が効くようにします。実力もさることながら、彼らの人海戦術は非常に有用だ。あなた方の下地作りをここで活かすとしましょう」
「我々は如何いたしましょう」
()()の捜索を。ギルドへの手土産には既に十分ですが、追加であればより良いので」
「御意」

 そう言って3人は姿を消した。
 残された男は外に視線を向ける。

「…残り3つ。思った以上に手際がいいのもありますが、()()()に来るまでに時間をかけすぎましたね。せめて始末できればよかったが…まさか取り逃すとは。本当に忌々しい女だ」

 鋭い視線を歪め、悪どい笑みを浮かべながら男は続ける。

「とはいえ、先に来ていた()はあまり動いていなかったようだ。彼らの働きに比べたらほぼ成果はないようだが…元より大した力もない無能。警戒するだけ無駄だったようだ。ふ、これは嬉しい誤算だった」



「全ては…未来のために」







冒険者ギルド
シンオウ支部 サーバールーム

「………」
「カイム」
「…シロナか」

 シロナの言葉に、ノートPCのキーボードを叩きながらカイムはモニターから視線を上げずに応える。

「何の用だ。わざわざここに来る用事があるとは思えんが」
「ここ最近、任務の時以外はずっとここね。部屋にもほとんど戻ってないみたいじゃない」
「時間がなくてね」
「……はぁ。ユクシーを襲撃した犯人を探しているのよね」

 カイムは答えないが、僅かに瞼が動いたのをシロナは見逃さなかった。
 先日シロナと共に訪れたエイチ湖。そこにいたユクシーは『時の歯車』を守っていた。ユクシーからの要請もあったが、本来の目的である『歯車の護衛』を達成するために、二人はギルドのチームリーダーであるヒョウタに護衛を依頼した。ベースキャンプの設立と護衛体制は急ピッチだったとはいえ、それなりに盤石なものであった。
 それにもかかわらず、ヒョウタとユクシーは退けられ、歯車は奪われた。シロナ達が駆けつけた時にはもう、時間は止まっていた。ユクシー、ヒョウタ、チームメンバーは幸いにも時間の停止に巻き込まれる前に避難できたのが不幸中の幸いだった。

 既に世界で10個の歯車が奪われており、避難民が増加している。停止した空間が増えるたびに、停止範囲が広がっているという報告があった。エイチ湖の停止も世界に多かれ少なかれ影響を与えるだろう。

「ああ」
「ギルドが全霊をかけて探してるのよ。そう簡単に見つかるわけないじゃない」
「……何かしていたい。そんだけ」
「気持ちはわかるわ。でもこれ以上根詰めてどうするの」
「俺が、見つける」

 依然としてカイムは視線をモニターから移さない。その瞳に宿るのは、焦りと恐怖。

「俺が最初に()()()()。そうしないと…」
「そうしないと?」
「……安心できない」

 その目に宿る不安げな光を見て、そして恐らく無自覚であろう言動を聞いたシロナは、覗き込むようにカイムと目を合わせた。

「カイムが見つけられなくても、ギルドが見つければいい。その手伝いをする、という意味でいいの?」
「……俺は、自分で見つけたい」
「どうして?」
「それ、は…ユクシーを、ヒョウタを傷つけたから…」

 カイムの青い瞳が揺れている。
 それを見たシロナは目を細めた。

「そうね、貴方はそういう人。でも、それだけじゃないんじゃない?」

 シロナの言葉に手を止める。

「…どういう、意味だ」
「真面目な貴方のことだし、自分があの霧の結界を解かなければ…とか考えているでしょ」
「な、んで…わかんだよ」
「数ヶ月、貴方を連れ回したのは私よ?それくらいわかるわ」

 真面目な貴方らしいわね、と言いながらシロナはカイムの隣に腰を下ろす。カイムの横顔は、いつも通り無表情ながらも目の下には薄くクマができており、目もやや充血している。明らかに休息が足りていない。

「人には休めって言う割に自分は休まないんだから」
「……俺は平気だからだ」
「だーめ。体力切れじゃなくても、減ってきた段階で不調が出てくるもの。ダンジョンじゃ少しの不調が積み重なって命取りになりかねないわ」
「…正論はそっちか。わかった、少し休む」
「少しじゃだめ。ちゃんと、休むの」
「わかった、わかったから…近い」

 ずいっと近寄ってくるシロナから身を引きながら、カイムは諦めたようにPCを横に置いてボトルから水を飲む。集中力が切れたため、疲労感が一気に襲ってきて、疲れたように息を吐いた。

「人にはお節介するくせに、自分のことは無頓着なんだから」
「ほっとけ」
「もう…」

 何度も依頼に行くうちにわかったが、カイムは他者と自身への意識配分が非常にアンバランスだった。他者ばかりに気を使うくせに、自分は無茶を平然に行う。時折ブーメラン発言をしたりするのだが、ギルドメンバーは慣れてきており最近はスルーされ始めてただの小言と成り果てていたりするのだが、それは別の話。

「一応、進捗は書いておくわ。どう?何か進捗はあった?」
「…あまり。ここ最近の空港の使用履歴を調べてみたが…」
「ああ、本当に調べたんだ」
「お前が言ったんだろ…他地方にも足を運んでいる以上、空港の使用履歴があるはず。プライベートジェットまではさすがにわからんが…一般使用履歴は入手して、頻繁に使ってる人間をピックアップした」
「かなり人数いるわよね…どうやって」
「? 普通にマクロで」
「……記憶ないのよね」
「ねーよ。勉強した」

 よくわからないところで有能ぶりを発揮するカイムにやや驚きつつ、シロナはカイムが作ったリストを見る。
 ここ最近で空港を使った人物のリストを見るが、かなり人数がいる。その中で高頻度で使った者をピックアップさせるが、それでもそれなりに多い。
 とりあえず眺めていこうとリストを流していくが、一つの名前が目に止まる。

「この名前…」
「ん?ああ、ダイゴか。ホウエンギルドのチャンピオンだろ?」
「なんで、ダイゴ君の名前が?」
「は?」

 驚きを隠さないシロナに、カイムは疑問を持つ。
 ダイゴは冒険者ギルドのホウエン支部チャンピオン。シロナと同じチャンピオンの地位につく者である以上、他地方に赴くこともある。別段高頻度で使われていることに疑問を持つほどだろうか、とカイムは首を傾げる。

「ダイゴ君は…今、行方不明なの」
「え?」
「これはギルド上層部しか知らないことなの。ダイゴ君はホウエン地方にできた最初の時間停止空間の調査に向かって、それから行方不明。いまだに帰還報告はないわ」
「じゃあ…こいつは誰だ」
「わからない。ダイゴ君の名前を騙る誰か…?いや、でもならダイゴ君のIDで空港を利用できないはず…奪った?いやでも…彼の実力でそう簡単にやられるはずが…策略を巡らせればあり得る?」
「シロナ?」
「…ごめんなさい、少し混乱したわ。でも、これでダイゴ君が一気に怪しくなった。彼のことを調べる必要がありそうね」
「……そう、か」

 カイムの様子が少し変わる。何か思うところがあるような様子に、今度はシロナが首を傾げた。

「どうしたの?」
「いや、うーん……わからん」
「そ。わからないなら、とりあえずいいわ」

 うまく言語化できていないなら、聞いたとしてもシロナにはわからないだろう。そう考えて、シロナはそれ以上追求することはしなかった。

「ところでカイム」
「ん?」
「すごい細かいところ聞くけど、さっき貴方、下手人のことを『見つける』って言ったわよね」
「ああ」
「捕まえる、じゃなくて見つけるなのね」

 シロナの言葉にカイムは目を見開く。
 以前の依頼でお尋ね者を捜索した際、カイムは『捕まえる』という言葉を使っていた。しかし、今は『見つける』という言葉を使った。無意識かもしれないが、この使い分けがシロナには違和感を感じる言葉だった。

「見つける…?」
「ええ。そう言ったわよ」
「なん、で…だ。わかんねぇ。見つける…?」

 完全に無意識だった言葉。何故『見つける』という言葉を使ったのか、カイム自身もわからない。しかし、脳裏にノイズと共に何かの映像が流れる。ほとんどノイズで塗りつぶされているが、()()の姿が見えた。顔の下半分程度しか見えないが、誰かがこちらを見て笑っている。


『大丈夫。キミなら、ボクたちを見つけられる。キミだから託せるんだ。また、()()()で会おう』
『アタシは行かないけどね。しっかりやりなさいよ』
『ボクらが必ず後を追う。頼むよ、カイム』


 見知らぬ人物の言葉。ほとんど声もノイズで塗りつぶされており、はっきりした声はわからない。だが、自分の深層心理に刻まれた記憶が、見つけるという言葉を使わせたのだろう。

「誰、だ」
「カイム?また、記憶が?」
「多分…」
「……何か、思い出せた?」

 脂汗を滲ませながらカイムは首を振る。思い出せたというほどのものではない。
 ノイズ塗れの記憶を掘り下げようと意識を集中しているカイムをよそに、シロナのスマートフォンに連絡が入った。

「はい、シロナです」
『シロナさん、今大丈夫でしょうか』
「ええ、大丈夫よ。どうしたの?」
『プラズマ団トップの方がお見えになってます。マスターに謁見をお願いしておりますが、マスターは現在カントー総本部に出張中なので、シロナさんに対応をお願いしたいです』

 プラズマ団。ここ最近、ギンガ団という技術屋と提携して、ギルドに対して様々な技術提供を行っている集団のことだ。そのトップがマスターに会いたいと来たものの、マスターであるナナカマド博士はカントー総本部へ出張中。そこで実働部隊トップのシロナに話が回ってきたのだろう。

「プラズマ団?どうして?」
『時間停止について、話がしたいと。技術や戦力提供のご相談がメインだそうです』
「…………」

 プラズマ団は時間停止空間が発生してからギンガ団と提携した団体。元より母体はあったらしいが、時間停止をどうにかしたいという思いから、イッシュ地方の団体でありながらシンオウ地方だけでなく世界的に高い技術力を持つギンガ団と手を組んだ。最近はカロス地方のフレア団とも提携を検討していると聞く。
 これだけ聞けばいい集団だと言える。ただ、どうにもシロナは信用しきれなかった。理由は、各地でのプラズマ団の動き方に一貫性がないこと。ある土地では慈善活動に勤しみ、ある土地では横暴に振る舞うという情報があった。現地の責任者の質の問題かもしれないが、だとしても両極端すぎる。どちらの側面もある以上、すぐに信用していい集団とは思えない。
 また、ギンガ団、フレア団とは違う方面で高い技術を持つプラズマ団だが、その方向性にやや疑問があった。ギンガ団はエネルギー資源関連、フレア団は通信機器に特化した技術を持つが、プラズマ団は乗り物に関する技術を持つ。乗り物も車だけでなく、飛行機や輸送船など幅広い。ただ、これだけの技術力を持つ集団が何故、今までほとんど表に出てこなかったのかが疑問だった。
 ただ、これはあくまでシロナ視点の話。今ここではギルドのトップとしての判断が求められる。相手の真意がわからない以上、今は会うしかないとシロナは判断した。

「わかったわ。応接室に通して」
『はい、承知しました』

 シロナは通話を切って小さく息を吐く。正直、真意がわからなすぎて気が重い。だが、必要なことであるのもわかるため、行くしかないと腹を括った。

「どうしたんだ?」
「プラズマ団の人が来てるの。これから会うから、悪いけどカイムも同席してくれない?」
「議事録担当か。わかった」
「休めって言ったばかりなのに、悪いわね」
「問題ない」

 そう言って二人は応接室へ向かう。
 応接室には、外套を纏った初老の男性がいた。

「シロナさん、ですね。突然の来訪失礼しました」
「いえ、問題ありません。しかし、まさかプラズマ団トップが直々に来られるとは思いませんでしたわ」
「ギンガ団の方に少し用事がありましてね。どうせなら、顔を出すくらいしようと立ち寄った次第です。おっと、自己紹介が遅れました。ワタクシはゲーチス。プラズマ団の責任者です」
「冒険者ギルドシンオウ支部チャンピオンのシロナです。よろしくお願いしますね」

 ゲーチスは柔和な笑みを浮かべると、シロナと握手を交わす。

「そちらの方は?」

 挨拶を済ませると、シロナはゲーチスの側についていた男に目を向ける。黒い装束に無機質な瞳は、どことなくカイムを連想させるが、カイムと違って瞳に優しい光はない。

「ワタクシの護衛です。お恥ずかしながら、ワタクシ自身は体を悪くしておりましてね。物騒な昨今ですから、念のため護衛をつけているのです」
「そうでしたか。では、私の同僚もご紹介いたします」

 シロナは自身の背後にいたカイムに目を向ける。

「彼はカイム。私の助手です」
「(俺、いつシロナの助手になったの?)カイムです。よろしくお願いします」

 カイムがゲーチスに向けて手を差し出すと、ゲーチスはカイムの顔を見て目を見開いていた。まるでかつての知り合いが目の前にいるかのような態度に、カイムは首を傾げる。

「あの…」
「あ!ああ、申し訳ない。貴方が昔の知り合いに似ていたものでして。人違いのようですが、大変失礼いたしました」

 どこか取り繕うような態度にシロナは違和感を覚える。しかし、根拠もないため特に口にすることはなかった。
 ゲーチスとカイムが手を取って握手すると、再びカイムの脳裏にノイズが走る。しかし、今度は映像は何も見えない。ただ、ノイズが走っただけ。ほとんど表情に変化はないためシロナしかその異変に気づくことはなかった。
 全員が一通り挨拶を済ませると、応接室のソファに腰掛けて対面する。そしてシロナは本題を切り出した。

「本日は、どういったご用件ですか?」
「ここ最近、時間の停止が拡大しております。つい先日はエイチ湖が停止しました。そこで我々プラズマ団は、さらなる技術をギルドに提供しようと考えています」

 そう言ってゲーチスは一冊のカタログをシロナに手渡す。カタログには、輸送コンテナやギンガ団提携の電源搭載型輸送車、さらには周囲を監視する監視ドローンなど様々だった。

「さすがに無償提供はできませんが、カタログ記載のものであれば通常価格よりは大きく割引して提供いたします。また、必要であれば人員もお貸しいたします。冒険者と比べたらレベルは下がりますが、人手は多いに越したことはないでしょう」
「どれも最新鋭の技術が使われてる…」
「可能ならホロキャスターの技術も取り入れたかったのですが…あれは特許の関係で使えないのでね。ですが、ここにあるものは全て我々とギンガ団の技術を使った最新鋭の機器です。ギルドならば、うまく使えるでしょう」
「大変ありがたいお話なのですが、何故シンオウ支部にこの話を?確かプラズマ団はイッシュ地方に本部がありますよね。わざわざシンオウ地方に来る理由があまり見えないのですが」
「それは、我々が持つ情報が関係しております」

 そう言ってゲーチスは資料を取り出した。表紙には『時間停止の関連人物について』と書いてある。

「これは…」
「我々の本部があるイッシュ地方にも、時間停止空間があります。()()()()その空間近くに我々の支社がありましてね。支社周辺の監視システムを精査した時、関係していると思われる人物が見えてきたのですよ」

 そう言ってゲーチスが資料をめくると、そこには緑髪の青年ともう一人フードを目深に被った人物の写真があった。

「この二人が?」
「ええ、ほぼ間違いないかと。この緑髪の方は、Nと名乗っているようです」
「N?」
「本名はわかりませんがね。フードの方は顔を出しているところが出せなかったのでいまだに不明ですが…片割れがわかっただけ大きな収穫でしょう。そして先日のエイチ湖…彼らは恐らく今、シンオウ地方に潜伏していると考えました」

 資料を読み進めていくと、確かにNとフードの人物が歯車奪取の実行犯だとわかる。決定的なものは無いものの、状況証拠を見ればほぼ間違いないだろうと納得できるものだった。
 だが同時にいくつか疑問も出てくる。しかし、それをこの場で言うべきか一瞬だけ悩んだシロナは、再びゲーチスに目を向けた。

「貴重な情報、感謝いたします。ただ、本件に関しては私の一存で決定はできません。現在当支部のマスターは不在でして。マスター帰還後、支部の皆で本件の決定をさせていただきます。情報についても精査が必要ですので」
「…ええ、無論構いませんよ。本日は突然の来訪でしたので、当然でしょう」

 ほんの一瞬、ゲーチスの目が細められたのをシロナは見逃さなかった。

「(今、一瞬だけ剥がれたわね)ありがとうございます。寛大な心遣いに感謝いたします。では、またこちらからご連絡させていただきますね」
「ええ、助かります。我々としても、これ以上世界がおかしくなって行く様を、黙ってみているわけにはいかないのでね。いい返事を期待しております」

 そう言ってゲーチスは護衛と共に帰っていった。
 残されたシロナとカイムは大きく息を吐いた。突然の来訪で何やら怪しい雰囲気も一瞬あったが、同時に様々な情報が出てきたことに驚きを禁じ得ない。

「…カイム、大丈夫?」
「………あー、うん。ちょっと混乱してる。記憶が断片的に戻ったけど、断片的すぎて全然わからん。ただ…」
「ただ?」
「俺、多分このNと関わりがあった。それ以外は何も思い出せないけど」

 Nの写真を見た瞬間、かつての映像とNの顔が蘇ってきた。ただ、それは先程思い出したノイズだらけの三人のうち一人がNであったというだけ。
 問題はそこではない。Nがかつての仲間としての記憶が蘇ったということは、かつての仲間が世界を混乱に陥れているということだ。その事実に混乱し、カイムはうまく思考をまとめられていなかった。

「…俺は、Nと仲間だった…多分…」
「そう…かつての仲間がこんなことしてたら、混乱もするわ」
「………」
「カイム」

 シロナは俯くカイムの手を取る。

「Nとの関係があったとしても、貴方は貴方よ。貴方は私たちの仲間なんだから、貴方が信じるものを信じて」
「……そう、だな。ありがとう」

 歪められた表情がいつもの無表情に戻ると、カイムは立ち上がって応接室から出ていった。その後ろ姿はどこか儚さを帯びており、いつか消えてしまいそうに思えた。

「…カイム」

 不安定な心と存在。そんな彼に惹かれている自分を自覚しながらも、不安定な彼に己の心を告げることはできずにいる。
 彼がここから先、穏やかに過ごせ、願わくば自分がその隣にいることを祈りながらシロナは手に持った資料を纏めた。


なんとなく、この先に大きな出来事がありそうな予感がシロナの中に燻っていた。






Q.二人は寝る時どんな服装ですか?
A.シロナさんは夏ならショートパンツにキャミソール、カイムの半袖パーカー。冬ならスウェットとカイムのパーカー。カイムは夏ならジャージとTシャツ、冬ならスウェットと保温性の高いインナー、パーカーです。

Q.チャンピオンズトーナメントの時よりポケモンのダウン早くない?
A.今回はミロカロス以外はタイプ一致弱点技を受けることが多かったため、ダウンがやや早くなりました。一応描写の中でダメージを受けた際、脳内で体力ゲージはあと何割、と考えながら書いていますが、タッグバトルの都合上、出てくる技が多いためダウンがやや早めになります。

Q.カイム、いろんな格闘技やってたみたいだけど、サイトウやビワに勝てる?
A.一つの競技で試合した場合は100%負けます。広く浅くやってるだけなので、一つ一つは大した腕前ではありません。ただ、ルール無用の純粋な組み手なら多分最強格。ストリートファイトしたら勝てる人はあまりいない。


ヒガナの衣装設定、ほぼ背中剥き出しでびっくりしました。



世界を救うためにギラティナとシンクロして限界以上の力を互いに絞り出してどうにか世界を救ったけど、後遺症で感覚が麻痺してしまったシロナさんがどうにか後遺症を隠して過ごす。
そんなシロナさんに違和感を感じたカイムがわざと甘口カレーを辛口カレーと偽って出して、それを食べたシロナさんが「辛いわね」と言うのを見て味覚どころか痛覚・触覚すらもほとんどないことを確信するが、隠し続けるシロナさんの意思を尊重して敢えていつも通りに振る舞う。
シロナさんが眠った深夜にカイムはブラッキーを抱きしめ、バシャーモに寄りかかりながらぼんやりキッチンの椅子に腰掛ける。キッチンの電灯だけをつけて、シロナ、カトレア、カイムの三人で楽しく食事していた写真を眺めながらブラッキーを抱きしめ、バシャーモの肩に頭を乗せる。

「もうお前は、俺の料理を心から『美味しい』とは言ってくれないんだな」

カイムはそう呟いて、無言のまま大粒の涙を流し、バシャーモが辛そうに顔を歪めながらカイムの頭に手を乗せる。


こんな描写を思いついたけど絶対書くことはない。


シロナ
レッドと組んで戦ってほしかった。着て欲しい服が多すぎる。
・ホルダーネックのドレス
・エージェント風のスーツ
・ノースリーブで背中が開いたインナーに普段のコート+ショートパンツ+ロングブーツ(ルカリオのマジコスを少し改造したイメージ)
・チャイナドレス(黒)

カイム
グリーンにはちょっと歳上の友達程度に認識されてる。そのせいで年齢中学生くらいのグリーンから時折社会人であることを忘れられる。
敵味方関係なく、鑑識眼がやたら鋭いため、誰と組んでも味方のポテンシャルを最大限発揮させられる。通常、タッグバトルはトレーナー同士の足し算になるが、カイムは『どう動けば味方が動きやすくなるか』を考えてバトルするため、合計能力値が掛け算換算されるイメージ。

ピカチュウ
修羅。6Vかつ、全ステータスに努力値を極振りしたレベルのステータスを持つ。

真・ボルテッカー
エレキフィールドを展開した状態で、1ターンの間タメに入ることで発動可能。体力以外の全てのステータスが1.5倍になる(この能力上昇は実数値換算で、能力上昇ランクとは別枠)。効果中は全ての技に優先度+1が付与され、『でんこうせっか』のように初めから優先度+1の技は+2に上昇する。加えて、接触技を使った際は威力40の電気タイプの攻撃が付加ダメージとして発生し、接触技全てに20%の確率で麻痺を付与させる効果を待つ。接触技を使われた際も同様の付加ダメージが発生し、相手の特殊技は威力を0.8倍に軽減。付加ダメージと麻痺効果は地面タイプには無効。
効果ターンは3ターン。使用中は電気タイプの技・補助技が一切使えなくなり、毎ターン体力の1/8が削られていく。また、効果が切れた後は電気タイプを一時的に消失する(でんこうそうげきと同じ)。非接触技の物理地面技(じしん、じならしなど)が非常に有効。
維持が難しいこともあり技を維持している間、レッドはピカチュウが得意としている『でんこうせっか』、『アイアンテール』、『かわらわり』くらいしか使わない。レッド自身、扱いの制約が多すぎてロマン砲としか思っていない。HUNTER×HUNTERのキルアの神速(カンムル)と似た性質だが、オートカウンターはできない。



年内にもう1話更新予定。

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