ずっと書きたかったネタの中で最後のネタ。
3話構成の1話目。
六万字。
56話です。
56話 スズラン島①
スズラン島のポケモンリーグスタジアム。本来、この時期に人が集まる理由はない。しかし、今のスタジアムには大勢の人が集まり、観客席は完全な満席。加えて、ポケチューブ公式チャンネルでの配信待機は既に20万人を超えている。シンオウ地方の中でもここまでの配信待機人数は、ポケモンリーグしかない。それほどまで、今回の大会は注目を集めているということだった。
そしてその大会に出場するカイムは、出番前に誰かと電話をしていた。
『いやぁすごい人だね!現地に行って見られないのが残念で仕方ないよ!』
「見てんじゃねえ。仕事しろ」
『仕事しながら見てるんじゃないか!それに今日明日は在宅ワークできるようにしたんだから!』
「ざけんな出社して働け石馬鹿」
『ひどいな!親友の勇姿を見届けようってだけなのに!そもそもデボンはもう年末休みに入ってるんだって!』
「ダチの勇姿より仕事しろや、ダイゴ」
『いいじゃないか。君が大会に出るなんて珍しいからね。見たいんだよ、カイム』
カイムの通話相手は、親友のダイゴ。年末だというのに仕事が忙しく大会には来られなかったが、ネット配信でカイムの大会での姿を見ようとのことらしい。
『しかしタッグバトル大会か。なかなか珍しいことをシロナさんも思い至ったね』
「シンオウ地方の可能性を見せるためだとさ。誰と誰が組んでも最高のバトルができるのを見せつけたいんだと」
『いやぁ、僕もチャンピオンになってから時間経っているけど、チャンピオンとしての自覚や行動力は僕より一枚上手だね』
かれこれシロナは十年以上チャンピオンを守り抜いており、同じくらい長期間チャンピオンを守っているのはダンデくらい。ダイゴですらチャンピオンでなかった期間がある。そういった意味では、ダイゴとシロナではチャンピオンとしての経験値が違うのだろう。
「かもな。同じだけチャンピオンを守り抜いているのは、ガラルのダンデくらいだ」
『僕も見習わないとなって思うけど、なかなか難しいね』
「そんなもんだろう」
『まあそれはそれとして楽しみだなぁ!キミは誰と組んでバトルするんだろうね!』
「誰と組んだとしても、俺がやることはかわらん」
『へえ?誰と組んでも優勝を狙えるって?』
「さてな」
優勝の可能性を否定しないカイムにダイゴは少し驚いたように目を見開く。
『あれ、意外だね。もう少し後ろ向きな言葉が出てくると思ってたんだけど』
「俺単体なら無理だろう。だがタッグバトルなら話は別だ。可能性は大いにあると思ってる」
『へえ?何か確信でもあるのかい?』
「確信はねーよ。可能性はあるが」
レッドとグリーンがミオシティに来訪した際にタッグバトルをやり、全戦引き分けという結果になった。これは正直自分の力でよりもチャンピオンレベルの3人の力が大きかったからだと今でも思っている。仮にカイムでなかったとしても、近い結果にはなっただろうと予想していた。
ただ同時に、実力で大きく劣る自分が組んでいた時でも引き分けにできたという事実もある。この結果から、カイムはタッグバトルに対して一つの戦略を思いついていた。しかもこの戦略は誰がペアで誰が相手であったとしても一定以上の効果を発揮できる。この戦略をうまく噛み合わせられれば、優勝できる可能性もあるのではないかと考えていた。
『へえ…君がそんなに言うなんて』
「珍しいか?珍しいな」
『一人で納得するなよ…その通りだけどさ。ま、それだけ言うってことは楽しみにしていいってことだよね?』
「さぁ?だがまぁ…無様なバトルにはしねぇよ」
『やってみせなよ』
「なんとでもなるはずってか?お前じゃねえんだ。なんとでもはならんが、できることはするさ」
いつの日かした会話を思い出しながら軽口を叩き、ダイゴは笑う。卑屈さは完全に抜けてはいないが、やはりかつてと比べて大きく前向きになったように思える。
そこで控室にスタッフが入ってきた。どうやらそろそろオープニングセレモニーが始まるらしい。
「そろそろ始まるみたいだ。切るぞ」
『そうか。じゃあ楽しみにしてるね』
「働け」
『働きながらね』
「…もう好きにしろ。じゃあな」
『うん、頑張って』
そう言ってカイムは電話を切る。
立ち上がってスタッフについていくと、スタジアムのバックヤードに参加者全員が集められていた。その中でもカイムの存在に気づいたヒョウタが手を振りながら歩み寄ってくる。
「あ、カイム」
「おう」
「カイムが一番遅いなんて、珍しいね。いつも大体早いのに」
「ちと電話してただけだ」
「電話?」
「
カイムの言葉にヒョウタはなるほどと納得する。確かに二人の関係ならば、この大舞台の直前にカイムに電話をかけてきてもおかしくない。ヒョウタもダイゴとはやり取りするほどの仲ではあるが、カイムとダイゴほどの仲にはなっていない。出会った時の二人の仲の良さを考えれば、納得いく。
「わざわざかけてきたなんて。相変わらず仲良いね」
「ほっとけ。んで?出番はもうちょいか?」
「うん。あと数分でシロナさんが出て、そこから僕たちって感じ」
「リハ通りか。流れは聞いてたしリハもやったが、こういうのはやっぱ気が重いな」
「気が重いとまでは言わないけど、やっぱり緊張するよね。ジムリーダーでもこういうことってあんまりないから」
ジムリーダーといえど、あまりここまでの規模の大会はあまりない。加えて配信もしているとなると、より機会は少ない。カイムよりもジムリーダーとしての期間が長いヒョウタといえど、やはり緊張はあるようだった。
そんな話をしていると、一人の男性が歩み寄ってくる。
「やあカイム君」
「トウガンさん、お久しぶりです。フロンティアブレーン就任、おめでとうございます」
「グハハ!前にわざわざメールしてきたのに改めてか!相変わらず律儀だな!」
豪快に笑うのはトウガン。ジムリーダーとしてはカイムの前任者であり、現在は新しくできるバトルフロンティア施設である『バトルマウンテン』のフロンティアブレーンとなっている。
「施設自体は年明けからの稼働だ。正式に任命も発表もされているが、まだフロンティアブレーンを名乗るには少し早いかもしれんな!」
「発表されてんならそれはもうフロンティアブレーンっすよ」
「そうとも言うかもな!それで、ミオジムはどうかね?」
「おかげさんで、問題なく運営できてますよ。前任者が随分ときっちり運営してたみたいでしてね」
「グハハハハ!それは良かった!君の評判もなかなかいいものを聞いてる。なんでも、指導がやたら上手いとな」
「ありがたい話で」
肩を竦めながら言うカイムを見て、うまくやれていることをトウガンは理解する。就任直後に
「指導できるってすごいよねカイム。僕も教えられることは教えてるけど、君みたいにうまくできているかって言われると自信ないな」
「うむ、それは私もだな。指導というのは、バトルへの造詣が深ければ良いというものではない。しかも相手に合わせて指導の内容も変えねばならん。難しい限りだ」
「親が教師でしてね。その影響かもしんないっす」
カイムの父ナダはハイスクールの教師をしている。その影響で教えるのが上手いのではないかとカイムは考えていたが、実際のところあまり関係はない。親子であまり教え方は似ていないのだが、教え方が上手いという点だけは似ていたりする。
「そういえば、前にお父さんが教師やってるって言ってたね」
「なるほどな。指導を生業としている家族がいたか」
「かもしれないくらいですけどね」
「みなさん!そろそろ出番です!」
そこでスタッフの声が響く。これからオープニングセレモニーが始まるらしい。集まっていたメンバー全員の表情が引き締まる。
「そろそろ出番らしい」
「うむ!誰とペアになるか楽しみだな!」
「敵でも容赦しないからね、カイム」
「いつも通りだな」
そう言って二人は予め伝えられていたゲート前に歩いて行き、他のメンバーも配置についた。カイムも自分の位置につき、前を見据えた。
配信待機画面が切り替わる。映し出されたのは、シンオウリーグスタジアム。中央にはスポットライトで照らされた金髪の美女がいた。
「皆さん、大変お待たせいたしました!」
美女…シロナの言葉にスタジアムは湧き上がる。まだスタートしていないというのにこれほどまでの熱狂。シンオウリーグと同レベルの熱狂に、思わずシロナは深い笑みを浮かべた。
「今日ここに、シンオウ地方を代表する勇敢な挑戦者達が集いました!私は今まで自分とポケモン、そして…たくさんの人に支えられることで、今の自分にたどり着くことができました。でもまだ、道の途中。まだ私にも、そしてシンオウ地方に住むみんなにも…大きな可能性があると、私は思っている。だから、この可能性がどんなに素晴らしいものなのか。一人では決して辿り着けないその先の景色がどんなものなのか。みんなには、
シロナはバトルの時に見せるような獰猛で美しい笑みを浮かべながら両手を広げた。
「今ここに!シンオウ地方スタータッグトーナメントの開催を、宣言いたします!」
割れるような歓声とともに、スタジアム全体がライトアップされた。そして司会者の声が響く。
「さあここからは実況席からの進行で行きます!続いてはこの大会へ参加した勇敢なる挑戦者達の入場だ!まずは皆お馴染みのこのトレーナー達!ジムリーダーの登場だ!」
ゲートから8人のトレーナーが現れる。スポットライトに照らされながら入場する姿は、全員強い覇気を纏っているように堂々とした姿だった。
「では順番にご紹介して行きましょう!攻防一体の硬い男!ザ・ロックと言われる男!ヒョウタ!」
「植物のように多彩なバトル!繁る緑のポケモン使い!ナタネ!」
「バトルも格闘も競技ならばなんでもござれ!裸足の天才格闘娘!スモモ!」
「いつでもマキシマム!最高の水を見せてくれ!ウォーターストリームマスクマン!マキシ!」
「魅せるバトルは今宵も優雅!魅惑のソウルフルダンサー!メリッサ!」
「強さとは一つではない!数多の強さを導く男!鋼鉄のプロフェッサー!カイム!」
「気合いの熱さと氷の冷気を併せ持つ!ダイヤモンドダストガール!スズナ!」
「ジムリーダー最強は伊達ではない!四天王すらも痺れさせる!輝き痺れさせるスター!デンジ!」
歓声に包まれながらジムリーダーの8人がスタジアムの中央でシロナの側に立ち、各々が強い光を宿した瞳で前を見据えた。
「続いては四天王、フロンティアブレーン!四天王一番手!虫の輝きの伝道者!今回も魅せろ!虫の輝き!四天王、リョウ!」
「重厚な大地を思わせる強さの幅!戦略幅は大陸の如し!四天王、キクノ!」
「アツいバトルならこの男!どんな奴でもアツさの前には敵わない!四天王、オーバ!」
「見据えるは未来!綴るバトルのピリオドがどこに打たれるか、決めるはいつもこの男!四天王、ゴヨウ!」
「そしてそしてぇ!今回新たにフロンティアブレーン入りを決めたこの人!打たれ強さは鍛え抜かれた鋼の如し!フロンティアブレーン、トウガン!」
ジムリーダーに続いて、四天王とフロンティアブレーンのトウガンが入場する。やはり四天王ともなるとこういう場にはある程度慣れているのか、なんとなくジムリーダーよりもやや緊張の気配が薄いように思える。
「ここに加わるのは、まさに超新星!スーパールーキーの二人、ヒカリとジュンだ!」
ゲートから少女と少年が現れる。
ヒカリとジュン。ルーキーと言われてもいいくらいのトレーナー歴でありながら、既にジムリーダーと見劣りしないレベルの実力を持つ二人はこの大会に公認トレーナーでないにも関わらず招待された。ヒカリとジュンは緊張している様子もなく楽しそうに客席に手を振っている。
「さあそして最後は…既にフィールドにいる今大会の主催者にして、我らがシンオウ地方のチャンピオンシロナ!ここにいる総勢16名によるタッグバトルトーナメントになります!」
歓声が響く中、大きな透明な球体が運ばれてくる。大きさはカイムの身長よりも大きく、二メートルほどだろうか。そして球体の下には筒があり、見たところガチャガチャのような形状をしている。そして筒の下からはチューブが伸びており、そのチューブは16本ある。
「さあ次はお待ちかね!ペアの抽選に入ります!選別方法は、このガチャガチャのような装置に入っているボールになります!」
実況が選別方法を説明し始める。
このガチャガチャの中にはボールが16個、8種類存在する。ガチャガチャから出てきたボールの種類が同じトレーナー同士がペアになるというルールだった。ボールはモンスターボール、スーパーボール、ハイパーボール、プレミアボール、プレシャスボール、フェザーボール、ヘビーボール、パークボールの8種類。このボールが2個ずつあり、同じ種類同士がペアになる。
「なかなか画期的な決め方だね」
「だな。確かにガチャガチャ形式なら公平に決められるし、決める時間は少ない」
隣のヒョウタと小声で話しながらカイムは頷く。リハの時はここでペアを決めるということのみが言われていたため、どんなやり方なのかは知らなかったため少しだけ内心で関心していた。
そんなことを考えているうちに、16個の箱が並べられる。箱にはガチャガチャから伸びているチューブが差し込まれているため、この箱に入ってきたボールが自分のペアの指標となるのだろうとカイムは考えた。
「これより抽選を開始します!参加者は各々、箱の前までお進みください!」
よく見ると箱にはネームプレートが付けられている。参加者は各々、自らのネームプレートが付けられた箱の前に立った。
「ではこれよりマシンを作動します!ボールが全員の箱に入ったことが確認された後、箱からボールを取り出してください!ではマシン作動をお願いします!」
マシンの中でボールがゴロゴロと転がる音がする。その様子を見ながらガラル地方にあるウッウロボに少し似てるかもなどと、少し場違いなことを思いつつカイムはマシンが動く様を眺めていた。
しばらく攪拌した後、中に入ったボールがそれぞれのチューブへと吸い込まれていく。どのボールかはわからないが、チューブから見えた影を見るに全員の箱の中にボールが入ったのは間違いないだろう。
「全員の箱にボールが行き渡りました!さあ皆さん!箱を開けてペアとなるトレーナーが誰になるか確認しましょう!オープンです!」
実況の声に従い、参加者は自身の箱を開ける。カイムも自分の箱に手をかけて開けて中に入っていたボールを取り出した。
(これは、プレシャスボール)
カイムの箱には真っ赤なボールが入っていた。プレシャスボールはプレミアボールと同様に記念品として作られたボールであり、その流通量は少なく高価なもの。マスターボールほどではないにしろ、ボールの中では相当高価な方だ。カイムも実物を見たことはあまりないため、内心で少し驚いていた。
そんなカイムの驚愕を他所に、全員にボールが行き渡ったことが確認されたことでペアが決まった。
「全員のボールが明らかになりました!ではここで、ペアとトーナメントの組み合わせを見ていきましょう!まずは注目のペアから!このような組み合わせになりました!」
モンスターボールペア:ヒカリ、ジュン
スーパーボールペア:マキシ、リョウ
ハイパーボールペア:ナタネ、キクノ
プレミアボールペア:メリッサ、ゴヨウ
フェザーボールペア:スモモ、スズナ
ヘビーボールペア:ヒョウタ、トウガン
パークボールペア:デンジ、オーバ
プレシャスボールペア:カイム、シロナ
まさかのペア相手にカイムは驚いたように目を見開く。シロナとペアになれたらやりやすいし嬉しいとは思っていたが、まさか本当にペアになれるとは夢にも思っていなかったからだ。
ふと、シロナと視線が合う。シロナはまるで花が咲くように美しい笑顔を向けてきた。余程嬉しかったのがよくわかるが、自身も同じ思いであるため、いつも通り無表情ながらもカイムは頷いた。なお、そんなカイムの隣でヒョウタとトウガンがやや呆れながらも笑っていたことにカイムは気づかなかった。
そんなカイムを他所に、大会は進行していく。
「最後に、トーナメントの割り振りを決めていきます!こちらもランダムに決定されるため、皆様は電光掲示板にご注目ください!」
電光掲示板にルーレットが映し出される。ルーレットの盤面にはペア決めのボールが記されているため、ルーレットの針が示した順番にトーナメントが埋まっていく形式だった。
ルーレットはどんどん動いていき、トーナメント表を埋めていく。そして最後の一つが埋まり、トーナメントが勝手した。
第一試合 パークボールペアvsスーパーボールペア
第二試合 モンスターボールペアvsハイパーボールペア
第三試合 フェザーボールペアvsプレミアボールペア
第四試合 ヘビーボールペアvsプレシャスボールペア
「今ここにトーナメントが決定いたしました!明日の10時から第一試合を開始します!参加者の皆様は詳細を後ほどスタッフからお伝えしますので、そちらに従ってください!観客の皆様はそれまでにこのスタジアムにお越しください!皆で熱いバトルを見届けましょう!それでは一旦ここで、スポンサーの紹介に移ります!」
配信画面がCMに入ると、参加者達は自分のペアとなったトレーナーや対戦相手と言葉を交わし始めた。
「まさか、初っ端からとはね」
カイムの隣でヒョウタが声を上げる。
カイムはプレシャスボールでヒョウタはヘビーボール。つまり、シロナとカイムが最初に戦う相手は、ヒョウタとトウガンになる。
「なんとなーくだけど、君とは戦う気がしていたんだ」
「へえ?敵になる予感がしてたのか」
「なんとなくね。確信はなかった。でも、そんな気がした」
楽しそうに笑うヒョウタからは、岩のように重厚な覇気を感じる。
「君は強くなった。でも、僕も父さんももっと強くなってる。たとえシロナさんがペアだとしても、勝つのは僕達だ」
不敵に笑うヒョウタの隣にトウガンが並んだ。
「うむ。初戦で鍛え直した鋼の力を見せることができるのを嬉しく思うぞ。君は鋼の強さをよく知っているだろうが、さらに打たれて強くなった鋼は…今までとは違う」
トウガンの纏う覇気は、ヒョウタのものとはまた違う洗練された鋭さのようなものがある。まるで刀のように肌を切り裂くような覇気を浴びてもなお、カイムは怯むことなくまっすぐ見据えた。
「簡単に勝てるなんて思っちゃあいませんよ。ここにいるメンバーで、手を抜く余裕がある相手なんぞいない」
「ええ。それに、シングルバトルではなくタッグバトル。お互いが勝手を知っている相手であろうとも、大きく異なるバトル体系がどんな化学反応を起こすかはわからない」
カイムの隣に金髪の美女…シロナが歩み寄り、不敵な笑みを浮かべる。
シロナの覇気を受けて、ヒョウタとトウガンは背中で冷や汗が流れるのを感じた。
「シングルでは見つからない可能性を、タッグなら見つけられる。私たちの可能性…その全霊をもって、お相手させてもらいます」
「誰が相手でも骨が折れるだろうが、我々親子も負けてはいません。岩と鋼の硬さを見せつけるとしよう」
「君らには負けたくない。僕らも全力で二人を超えます!」
「そいつは楽しみだ。俺がどこまでやれるかはわからんが、対策はしっかりさせてもらう」
互いに挑発するような覇気を纏いながらも、参加者達はスタッフに連れられてスタジアムを後にするのだった。
*
オープニングも終わり明日のスケジュールを確認した参加者は一度解散となる。それぞれのペアごとに簡易フィールドとミーティングルームを与えられたため、ペア達はそれぞれ打ち合わせのためにフィールドかミーティングルームに足を運んだ。
シロナとカイムも例外ではなく、二人は簡易フィールドにいた。
「あなたとペアになれて嬉しいわ」
「そうかい。俺もだ」
そんなことを言いながら、カイムは頭にへばりついているブラッキーを撫でる。その顔はいつも通り無表情だった。
「あなたとできたら楽しいだろうな〜とは思ってたけど、ほんとにペアになれるなんてね」
「そうだな、まさかこうなるとは思わなんだ」
「なんというか、運命を感じちゃうわ」
「運命か」
カイムのどこか思うところがあるような言葉に、シロナは首を傾げた。
「どうしたの?」
「いや。ただ、前にシロナが言ってた言葉を思い出しただけ」
「私の言葉?」
「ああ。全ての運命に偶然などないってやつ」
「ああ、言った気がするわね」
いつの日か言った言葉を懐かしそうに思い返す。運命という自分ではわからないもの。運命というものが存在するかどうかはわからないが、もし存在するならば、自分達は決められた運命というものを歩んでいるのではないか。もしそうならば、こうして二人がペアになったのも偶然ではないのかもしれない。
「運命か。そんなものが存在するかどうかは知らんが、あるのなら…いい運命だな」
「ふふ、そうね。素敵な運命だわ」
「ま、運命云々はともかくとして…実際、お前がペアなのはありがたい。メンタル面でも戦略面でもな」
「そう?」
「戦略面では、まず
「前のタッグバトルの時も思ったけど、あなたのその考え方は少し特殊に思えるわね」
「タッグバトルの経験は少ないが、ダブルバトルやる時に必要だと思ったからな。タッグなら尚更だろう」
以前タッグバトルをした時にシロナはカイムと組んでバトルしている。その時、事前の作戦会議の時にカイムが提案したスカウティング。この必要性については、シロナも驚くと同時に心から納得した。ダブルバトルの時でもシングルと似たような考え方で進めていたシロナからすると、やはりこのカイムの考え方は特殊であると同時に、自分とは違う視点を持つトレーナーなのだと強く実感したことは記憶に新しい。
「そうねぇ。私も、あなたへの対策を立てなくていいのはありがたいわ」
「あ?俺の対策なんぞお前なら一瞬だろ。ただでさえ散々バトルしてんだから」
「シングルならね。でも、ダブル以上なら間違いなく脅威なの」
「へえ?ジムリーダーになった俺は多少なりとも脅威なり得るか」
「あなた、気づいてないの?」
「何が?」
不思議なものを見るような目で見てくるシロナに、カイムは首を傾げる。人の強みを見抜くことには長けているくせに、自分のことはいまいちわかっていないのはカイムらしいと言えばらしいかもしれない。
「もう…人間、自分のことになると馬鹿になるって本当ね」
「おん?」
「ねーブラッキー。カイムは朴念仁で無表情で自分をわかってないポンコツだもんねー」
「なんで俺ディスられてんの?」
突然ディスられ始めてげんなりするカイムだが、そんなことを気にすることなくシロナとカイムにへばりついているブラッキーは楽しそうに笑う。シロナはゴロゴロと喉を鳴らすブラッキーの顔をわしわしと撫でると、カイムに向き直った。
「ま、この際いいわ。変に意識してリズムが崩れるのも嫌だし、とりあえず伝えないでおくね」
「ああ?まあ好きにしろ。それより、明日の話をしようや」
そう言ってカイムはシロナにタブレットを手渡す。タブレットにはヒョウタとトウガンの登録ポケモンが映し出されていた。
「ヒョウタの登録ポケモンは、バンギラス、プテラ、ジーランス、ダイノーズ、ラムパルドと、なぜかボーマンダ。地面の一貫を切るためっぽいが、岩タイプはボーマンダに効きやすい氷・ドラゴンとの相性は割といい。それに、特性『威嚇』による攻撃力ダウンも割といい組み合わせだからな」
「そうね。岩タイプに弱点をつける格闘・地面・鋼は割と物理寄りのポケモンが多い。そのあたりを専門タイプにしてるキクノさん、スモモちゃん、カイムはどちらかと言えば物理メイン。私たちを意識していたわけじゃないでしょうけど、これだけでダメージが結構削れる。組み合わせとしてはなかなかいいと思うわ」
「そうだな。そんでトウガンさんは…エアームド、ジバコイル、ハガネール、エンペルト、メタグロス、トリデプス。こっちは鋼の一貫が取れてる。そんでもって、物理方面はガチガチ。とてもじゃねえが、物理でぶち抜くのは難しい」
「物理が主軸のカイムは少し難しいわね」
カイムの登録ポケモンはブラッキー、バシャーモ、ルカリオ、ムクホーク、トリトドン、メタグロス。ルカリオは両刀寄りの育成ではあるが、どちらかと言えば物理メイン。特殊をメインウェポンとして使えるのはブラッキーとトリトドンくらい。
対してシロナの登録ポケモンはガブリアス、ミロカロス、ルカリオ、ミカルゲ、トゲキッス、ロズレイド。ガブリアスは物理メインでルカリオも物理メインだが、サブウェポンとして特殊を上手く扱える。故に物理防御が硬い二人であったとしても、うまく立ち回れるだろう。
事実上、今回のマッチアップはカイムがどう動くか。それにかかっているに等しい。
「さて、じゃあどうする?」
「正直、一体は決めてる。もう一体をどうするかだな。ここがちと難しい」
「今はどう考えてる?」
「まず、バシャーモとムクホークは除外。ムクホークはタイプ的にも無理。バシャーモは一応どっちにも弱点つけるが…あの二人相手にはちと相性が悪い。一発の威力よりもどちらかと言えば速度で潰すバシャーモだと、あの二人の防御を削りきれるかは微妙だ。
「なるほどね。確かに、相性は悪そう」
「だから俺は、こいつらにしようと思ってる」
そう言ってカイムは手に持ったタブレットに二体のポケモンを映す。それを見たシロナは少しだけ意外そうに目を見開いた。
「あら…この子はわかるけど、もう片方はちょっと意外ね」
「かもな。だが、俺はこいつが最適だと思ってる。シングルならともかく、タッグなら余計にな」
「どういうこと?」
「俺なりにお前がピックしそうなポケモンを考えた結果だ。違う可能性もあるからそれについてはシロナの方針を聞くしかない。方針次第では変えるさ」
「へえ?よく考えてるわね」
「お前のことだ。どーせ最初のおおまかな方針は俺に立てさせるつもりだろ」
「ふふ、正解。もちろん議論はするけど、まずはあなたの意見を聞いてから考えようって思ってたの」
タッグバトルの大会はほとんどない。運営が非常に困難であるが故に少ないのだ。だからシロナはこうしてカイムと組むことができた以上、この機会もカイムの育成の機会に加えようと考えていた。
「なら、次はシロナの番だ。俺の意見はざっくり伝えたぜ」
「ええ。なら次は私のピックね」
シロナもタブレットを操作して試合でピックするポケモンを映し出す。それを見たカイムは納得したように頷いた。
「ま、そうくるよな。相手がどのポケモンであろうと、このピックが一番動きやすいだろう」
「この子はまあ読まれるでしょうね。でも読まれても対応力のあるこの子なら問題ないわ。でも、もう一方の子は読まれないと思うけど?」
「俺が敵なら、意外ではないと思う」
「その心は?」
「タイプ的にピックが読まれやすいポケモンじゃねえが、対応力や技構成的に候補にはなる」
「さすが。私のこと、わかってるわね」
「それなりに隣にいりゃな」
相変わらずゴロゴロと喉を鳴らしながら甘えてくるブラッキーを撫でながら言うカイムに、シロナは小さく笑う。こんなにも長い時間を隣で過ごしてくれた存在は、家族を除いて他にいない。友は多いし寂しい思いをしたことはないが、やりたいことを突き詰めていくシロナに本当の意味でついてくる人はいなかった。当たり前と言えば当たり前だが、人間は皆、やりたいことは違う。各々が為すべきことを為していれば道が交わることもある。しかし、共に歩める人がいるということは本当に恵まれていると、シロナは改めて実感した。
「それで?カイムは私のピックを見て選出変える?」
「いや、変える必要はない。出す順番はスカウティングしながらだ」
「ええ、そうしましょう。じゃあスカウティング終わったら調整ね」
「ああ、頼む」
そうして二人はその日、少し遅くまでスカウティングと調整に費やし、そして最後にポケモン達と自分達のケアを完璧にこなしてフィールドを後にした。
その間ずっとブラッキーはカイムにへばりついていた。
*
翌日、トーナメントが始まった。
シロナとカイムは控室のモニターで前の試合を見ていた。二人の試合は今日の最後の試合であるため、少し長めの待ち時間を二人は緊張することなく待っている。
前の試合が終わる。勝者はスモモ、スズナペア。メリッサ、ゴヨウというハイレベルなペアを破り、2回戦に駒を進めた。
「……なるほど」
「あの二人が勝ち上がるなんてね。タイプ相性的にもスモモちゃんがかなり不利だと思ったんだけど」
「うまくサポートに回ってたな。タイプ相性考えて、サポート一辺倒くらいの力配分でやってた。おかげでスズナはやりたいことやれてた。いい役割分担だ」
カイムの言葉にシロナが頷くと、立ち上がって大きく伸びをした。その服装はいつもの黒いコートではない。少し珍しい服装に目を奪われながらもカイムも続いて立ち上がり、自分とシロナの服装について言及した。
「なあ…大会っていう機会なのはわかるけどよ」
「んー?」
「わざわざ
「ふふ、一回こういうのやりたかったのよね。ほら、カントー地方のオルドラン城の大会。あの大会って衣装用意してくれるでしょ?」
「ああ…あれか」
げんなりと表情を歪めるカイムを他所にシロナは楽しそうに笑う。以前、カントー地方辺境にあるオルドラン城という大会に出場し、着せ替え人形にさせられたことを思い出しているのだろう。城には歴史の勉強をしに行っただけであり『世界の始まりの木』と呼ばれる自然遺産を見学することは出来なかったものの、大会を含めて非常にいい経験だったとシロナは記憶していた。
「よく用意したよ、あの量の衣装」
「スポンサーにテレビコトブキもあったから、番組とかで使った衣装を手入れしたりして使わせてもらってるの。あとはイサナさんからも少し」
「は?姉貴?」
「ええ。趣味で仕立てた服を何着かね。元々試合をユニフォームでやるガラル地方に合わせて動きやすいかつデザインがいいものを選んでもらったわ。ただ、趣味で仕立てたものだから作る手間がかかせいで、売り物としてはちょっとコスト高すぎるってことで売り物にはならなかったみたい」
「趣味人らしい姉貴のやりそうなことだ」
呆れたようにため息を吐くカイムに対して、シロナは嬉しそうに自分の服を撫でる。パッと見はよく見る服装ではあるが、細かいデザインや装飾が華やかになっている。普段この服を着る時とは違い、今の服装は装飾も含めてまさしく
「なあ」
「ん?」
「まさか、この服…」
「ええ。シャツ以外はイサナさんデザイン」
「…あんの野郎…絶対面白がってんだろ」
楽しそうに仕事に没頭するイサナが脳裏に浮かぶ。シロナが選んだ以上文句はないが、姉であるイサナには何か一言言いたい気分に駆られていた。
「いいじゃない。かっこいいわよ?」
「そらどーも。お前もな」
「ふふ、ありがと。じゃあ…」
シロナは右手を差し出す。
「行きましょう」
「ああ」
カイムは差し出された手を取り、エスコートするようにシロナと共に控室を後にした。
『さあ、本日最後の試合に参りましょう!最後の試合はヘビーボールチームのヒョウタ、トウガンペア対プレシャスボールチームのシロナ、カイムペアです!まずはヘビーボールチームの入場です!』
実況の声と共にヒョウタ、トウガンが入場する。ヒョウタは岩のような薄い茶色の着物、トウガンは鋼のような灰色の着物と黒い羽織を肩にかけた姿で入場した。
『では続きまして、プレシャスボールチームの入場です!』
実況の声の後、二人がゲートから出てくる。
二人の服装は、端的に言えばスーツだった。ただビジネススーツというには少し装飾が多く華やかなものになっている。シロナは白いワイシャツに黒のベストとパンツスーツ、そして肩にジャケットをかけた出立だった。ジャケットには肩部分に金色のチェーンがかけられており、ベストの胸元にはキーストーンが入っていたものとは異なるブローチがつけられている。そしてシロナがつけているネクタイの色は普段つけているリングと同じものであり、ラティアスの赤色だった。カイムも似たようなスーツであり、シロナと同じスーツではあるが、カイムはジャケットを羽織っている。そしてネクタイの色はラティオスの青色をしていた。
そしてシロナとカイムだけでなくヒョウタとトウガンもだが、今回の大会参加者は革手袋を装備している。手袋の色はペアごとに好きな色を選べるため、ヒョウタペアはヘビーボールをイメージした濃い灰色、シロナペアはシロナのイメージカラーである黒を選んだ。手袋にはシンオウ神話に関連する三舞台を象徴とする正三角形と各頂点に円がついたマークが描かれていた(この手袋はイサナお手製)。
ヒョウタとトウガンは革手袋を引っ張り位置を調節すると、不敵な笑みを浮かべながらシロナ達に視線を向けた。
「初戦から二人と当たれること、嬉しく思いますよ」
「私たち親子としても、二人には縁がある。大会でこうして当たれ、鎬を削ることができて光栄だ!」
その言葉にカイムは一つのボールを手に取る。
「世話になってる二人とここでこうして当たれるのが嬉しい。特殊なルールではあるが、今の俺の全霊を見せるとしよう」
「こうして四人で顔を合わせるのは、前の採掘以来ですね。でも四人でバトルできるなんて機会、そうそうない。この機会、存分に楽しませてもらうわ!」
シロナもボールを手に取ると同時に、ヒョウタとトウガンもボールを手に取り、構えた。
「始めよう」
「我ら、岩と鋼。簡単に打ち砕けると思うな」
重厚な覇気がヒョウタとトウガンから放たれる。押しつぶされそうなほどの重い覇気にシロナは不敵に笑い、カイムは目を細めた。
「簡単になんて思っちゃいねえ」
「今私たちは互いに越えるべきライバルを前に、抱えている思いは同じ」
「一意専心。ただこれだけだ」
「心から楽しむために、全力で打ち込ませてもらうわ!」
互いがボールを構え、歓声が響き渡る。
しかし四人の耳にはもう歓声は届いていない。ただ、目の前のライバルを超える。その一心のみが心を支配していた。
『第四試合!フィールドは草原!ヒョウタ、トウガンペアvsシロナ、カイムペア!バトル開始!』
「いくぞ、バンギラス!」
「エアームド、頼むぞ!」
「ミカルゲ、お願い!」
「メタグロス、始めるぞ」
ヒョウタはバンギラス、トウガンはエアームド、シロナはミカルゲ、カイムはメタグロスを繰り出した。草原のフィールドというどちらのペアにとっても相性の影響しないフィールドに四体のポケモンが降り立つ。それと同時にバンギラスの特性である『砂起こし』が発動し、フィールドは砂嵐に包まれた。
「バンギラスか。来ると思ってたが初手から来るとはな」
「砂嵐自体はそこまで面倒でもないけど、バンギラス相手だとミカルゲの攻撃が通らないわね。次の子のことも考えると、ここは予定通りの方が良さそうかしら」
「だな。んじゃ、予定通りに」
シロナとカイムがそう声を掛け合っているのと同じように、ヒョウタとトウガンも言葉を交わしていた。
「父さん。昨日も言ったけど、カイムには気をつけて。あいつは
「うむ。お前の話から察するに、彼の適性によるものだろう。だが過度に恐れることはない。何より、同じではないのは私もだからな」
「僕も負けないよ」
不敵に笑う
「では、見せてみろ」
「もちろん!バンギラス、いわなだれ!」
バンギラスを中心に広範囲に岩石が現れ、雪崩のようにバンギラスとミカルゲに降り注ぐ。それを見たミカルゲはメタグロスの前に出た。
「あくのはどう」
広範囲から降り注ぐ岩石を悪タイプの波動で打ち砕く。追撃が来ることを警戒してメタグロスが前に出るが、エアームドはその場から動いていない。何か積み技をしたと警戒するが、バンギラスがメタグロスに肉薄してきた。
「かみくだく!」
「コメットパンチ!」
鋼の拳と強靭な顎がぶつかり合い、互いに効果抜群の技がぶつかり合うことで威力が削られ、ダメージは軽減される。メタグロスがバンギラスを弾いてバンギラスとの距離ができるのと同時に、背後からエアームドが飛び出してきた。
「つじぎり!」
「シャドーボール!」
エアームドの鋭い爪が悪タイプのエネルギーを帯びメタグロスを切り裂こうとしてくるが、ミカルゲの『シャドーボール』がエアームドの攻撃を阻止する。『つじぎり』の二連撃はミカルゲの攻撃を相殺するだけで終わるが、エアームドの背後にいたバンギラスが動いた。
「じしん!」
バンギラスの放った衝撃波がメタグロスとミカルゲを襲う。エアームドは飛行タイプ故にダメージを受けることなく回避するため、鋼タイプのメタグロスには大きなダメージをノーリスクで入れられる。メタグロスは咄嗟に地面に向けて『コメットパンチ』を放ち、地面を通じて来る衝撃波とぶつけることでダメージを軽減。不一致技かつ強靭な防御力のおかげでメタグロス、ミカルゲ共に然程ダメージは大きくない。しかしノーリスクで広範囲技を出して来るとなると、警戒度を上げる必要がある。
ならば、削れる部分を削る。そう考えて即座に行動に移した。
「ミカルゲ、バンギラスへ!」
「メタグロス」
シロナの行動を即座に理解したカイムも行動に入る。ミカルゲの素早さは非常に遅い。ミカルゲの行動を考えれば、ここはメタグロスがサポートに入るべきだと考えた。
「くるぞヒョウタ、警戒しろ」
「うん。バンギラス、ロックブラスト!」
「エアームド、はがねのつばさでミカルゲを攻撃!」
バンギラスが下がり、エアームドが前に出る。バンギラスとエアームドの攻撃がミカルゲに迫るが、その攻撃をメタグロスの『バレットパンチ』が阻んだ。メタグロスに硬化した翼と岩石が叩きつけられるが、メタグロスの弾丸の如き拳が攻撃を受け、ダメージを大きく軽減した。メタグロスはそのままエアームドを弾くと、地面に向けて拳を叩きつけて砂煙を立てる。砂嵐によって多少流されるが、砂嵐そのものも含めて視界が塞がった。
「目眩しか!エアームド!メタグロスの気配を追え!ミカルゲは速度がない!」
「バンギラスもメタグロスを警戒!」
メタグロスはそれなりに速度がある。砂煙からの不意打ちも有効だろうが、ミカルゲは速度がない。そのため砂煙で視界を塞ぎ気配を消したとしても、距離が若干あるこの状況ならば不意打ちされることはないと判断した。
その判断は正しい。実際、砂煙で隠されているのはメタグロスとミカルゲのみ。バンギラス達も一緒に砂煙に紛れていたらまた話は違っただろうが、そうではない以上、警戒も先制技持ちのメタグロスに向く。決して悪手ではない。
だからこそ、対応が遅れた。
「バレットパンチ」
弾丸の如き拳が土煙を破ってバンギラスに肉薄する。当然警戒していたバンギラスとエアームドは反応し、バンギラスを庇うように前に出て、メタグロスの攻撃を『はがねのつばさ』で受け止めた。
「切り替え!」
メタグロスの拳に雷が宿る。早業『バレットパンチ』から『かみなりパンチ』に切り替え、エアームドに叩きつけた。効果抜群の技ではあるが、元の威力が低くエアームドの防御力の高さから大きなダメージとはならない。しかし直撃を受けたにしてはダメージが少なすぎる。この事実を受け、エアームドが飛び出して来なかった時に『てっぺき』を積んでいたことを二人は瞬時に理解した。
同時に、ヒョウタには違和感があった。土煙のどこからもミカルゲの攻撃が来ない。どこから、とフィールド全体に警戒を広げるも、その姿がない。
(どこに…)
「ヒョウタ!メタグロスだ!」
「っ!」
トウガンの声にヒョウタの視線がメタグロスに視線が動く。メタグロスがエアームドを弾き飛ばしたそのすぐ後ろに、影があった。
「バンギラス!下がれ!」
「遅い。おにび!」
メタグロスの影から現れたミカルゲは既にバンギラスの眼前に迫っていた。ミカルゲから放たれた青白い炎がバンギラスを焼く。ダメージはないが、焼け付くような痛みがバンギラスに纏わりつく。バンギラスは『ロックブラスト』でミカルゲを攻撃して距離を離させるが、大したダメージになることなくミカルゲは再び距離を取った。
互いに距離を取り、一瞬の静寂が両者に流れる。
「くそ…火傷か」
「メタグロスの影に隠れてくるとは…声かけも無しであそこまでの連携、恐ろしいな」
「どうやってミカルゲはあんな速く動いたんだろう」
「…多分だが、要石に戻った状態でメタグロスの体に乗っていたんだ。メタグロスの速度はやや落ちるが、ミカルゲを
「運ぶためのバレットパンチ…そう来るとはね」
トウガンの予想は当たっていた。
ミカルゲは速度がない。そして『おにび』は速度はともかく命中精度が粗い。回避しようと思えばそう難しくない。だから確実に当てるには近寄るしかないのだが、速度のないミカルゲではそれも難しい。ならばどうするか。速度のあるメタグロスに運んでもらえばいい。だが、乗せるところを見られると警戒して近寄らせないだろう。だから砂嵐で姿と気配を隠した。
そんな手段を思いつくことも即座に実行できることにもヒョウタは内心で舌を巻く。事前に打ち合わせをしていた連携だとしても、ミカルゲが前に出ようとしただけの動きを見て即座に察するカイムにも驚く。あれだけで何故動くことができるのか、ヒョウタにはわからず冷や汗を流して苦笑した。
「全く…あの二人、心通じすぎでしょ」
「グハハハ!その通りだな!ここまでいくと、もはや恐ろしさすら感じるがな!」
トウガン視点からしてもあの初動だけで合わせられるとはとても思えない。予め打ち合わせしていたとしても、ミカルゲが前に出る、という初動だけで察することはまず無理だろう。カイムは
「だが我々も負けていない。いくぞエアームド!はがねのつばさ!」
「バンギラス、じしんだ!」
エアームドが前衛、バンギラスが『じしん』によりサポートを出す。
相手の行動を見て、ミカルゲはメタグロスの隣に並んだ。
「あくのはどう」
「…地面にコメットパンチ」
メタグロスが地面に腕を叩きつけることで衝撃を緩和し、メタグロスとミカルゲのダメージを軽減する。火傷により攻撃力が半減したバンギラスの攻撃は、耐久力に優れた二体にはダメージが少ない。
そしてミカルゲの放った『あくのはどう』がエアームドを貫く。エアームドは防御力には秀でているが、特防はやや薄い。それなりのダメージは入ったものの、硬化した翼で弾くことでダメージを軽減。そのままミカルゲに翼を叩きつけた。
「捉えたわ」
「アームハンマー」
叩きつけられた翼をミカルゲが噛み付くことで若干拘束。ほんの一瞬動きを止めたエアームドにメタグロスの剛腕が叩きつけられた。ミカルゲ諸共叩き潰すが、ゴーストタイプのミカルゲには効果がない。そのためエアームドにのみダメージが入った。
しかし物理防御が優秀であるエアームドにダメージは大きく無い。ダメージを受けながらも脱出したエアームドと入れ替わるようにバンギラスがミカルゲとメタグロスに迫ってきた。
「ストーンエッジ!」
岩石の刃がミカルゲを貫こうと地面から突き出してくるが、メタグロスがミカルゲを庇う。鋼タイプのメタグロスに岩タイプ技は半減かつ、火傷による攻撃力の半減がダメージを大きく削った。
「コメットパンチ!」
「エアームド!」
ゴキン、と重い金属同士がぶつかり合うような音が響く。エアームドがバンギラスを庇うが、エアームドの体をバンギラスまで弾き飛ばした。
それと同時に、ミカルゲがメタグロスを足場に飛び上がり、『あくのはどう』でエアームドを貫く。『はがねのつばさ』でガードはしているが、ダメージは入った。
(ガード硬った。ジムリーダーん時からガード硬かったけど、前なら今のタイミングの攻撃は直撃コースだったろ。反射速度が格段に上がってる。メタグロスじゃないとバンギラス突破は無理。それがわかってるから、エアームドがバンギラスのガードに入ってる。しかもサポート一辺倒じゃねえ。しっかり反撃してくるな)
(うまく攻撃を受ける側を変えてくるのが厄介ね。砂嵐で上がった特防とタイプでミカルゲの攻撃を受けて来る。立ち位置の調整はかなりしっかりしてるわ。向こうからの攻撃は…バンギラスが特に痛い。火傷で攻撃力は削いだけど、バンギラスは特殊も強い。切り替えてくる可能性もあるわね)
相手を見据えながら深い笑みを浮かべるシロナの隣でカイムは首を回す。コキリ、と骨が鳴る音を出しながら、次にどう動くか
「向こう、対策してきてるわね。特殊、物理…どっちにも受けられる布陣ってことよね」
「俺は物理、お前はどっちもメインのポケモンがいる。選択肢が多い一回戦ならではだな」
「で、どうする?」
「打ち合わせで言ったろ。好きに動け。
「了解。じゃあ、好きにやらせてもらうわね。ミカルゲ、放射型あくのはどう!」
ミカルゲの放った波動がフィールド全体に放射型で放たれる。ミカルゲの攻撃からエアームドを庇うようにバンギラスが前に飛び出し、『ロックブラスト』でミカルゲの攻撃を相殺した。
同時に、『あくのはどう』に隠れるようにして放たれた『シャドーボール』がバンギラスに迫る。
「甘い!」
バンギラスは早業により威力が落ちた『シャドーボール』をほぼダメージなく打ち払う。効果は今一つの攻撃かつ、バンギラスの高い特防と砂嵐による特防上昇、そして持ち物である『とつげきチョッキ』がさらに特防を上げ、バンギラスへのダメージをほぼゼロに抑えた。
だがシロナがこんな甘い攻撃をしてくるとは考えにくい。そうなると、カイムのメタグロスが何かを企んでいるはずだと考え、トウガンはメタグロスに視線を向ける。
予想通り、メタグロスはバンギラスに迫っていた。バンギラスを落とすにはメタグロスの攻撃しかない。順当といえる動きをするカイムにほんの僅かながら違和感を覚えるものの、迎え撃たない手はなかった。
「ドリルライナー!」
バンギラスの前に飛び出してきたエアームドが回転しながらメタグロスを穿つ。不一致技とはいえ、効果抜群の技はそれなりにダメージが入り、メタグロスは若干のけ反った。しかし、攻撃体勢に入っていたメタグロスの行動を阻害できるほどではない。
「グロウパンチ」
メタグロスの剛腕がカウンターの要領でエアームドに叩きつけられ、エアームドは地面を転がる。即座に浮上して体勢を立て直すが、その時既にメタグロスが目の前まで迫っていた。
「かわらわり!」
「はがねのつばさ!」
剛腕と鉄の翼がぶつかり合う。鍔迫り合いのようにギリギリと火花を散らしながらぶつかる両者だが、先の『グロウパンチ』で攻撃力が上がったメタグロスの一撃はエアームドの攻撃力と耐久力を持ってしてもやや押されてしまう。
「父さん下がって!」
「!」
「バンギラス、あくのはどう!」
エアームドが力を抜いてメタグロスの剛腕を受け流して飛び上がると、その背後から悪タイプのエネルギーが飛んできた。メタグロスは咄嗟に維持していた『かわらわり』で迎撃するも、効果抜群技を受けた以上ダメージは入ってしまう。
「逃すな!バレットパンチ!」
(あくまで
ダメージを受けながらもメタグロスはエアームドを捉えており、拳を弾丸の如き勢いでエアームドを穿った。だが効果今一つかつ、『てっぺき』で防御力が上がっているエアームドにはほぼダメージはない。
無論それはカイムも把握している。だからこれはあくまでエアームドに近づくためだけのもの。本命の攻撃はこの次。
「アームハンマー!」
メタグロスの剛腕が振り上げられた。『グロウパンチ』で攻撃力の上がった一撃とはいえ、元々強靭な防御力が
(君の思惑はわからんが、乗ってやる気はないぞ!)
今までの自分なら、ここは『はがねのつばさ』で受けていた。高い防御力に硬化させた翼によるガード。これが合わされば、ほぼダメージにはならないのは間違いない。
だが、攻め手に欠ける。これが一番の自分の弱点でもあることを、トウガンは自覚していた。トウガンの手持ちは皆、非常に耐久力の高いポケモンが並んでいるが、攻撃力はやや劣る。相手の攻撃を受け切ることでスタミナを削り、生じた隙に攻撃を叩き込むスタイルがメインであったが、フロンティアブレーン就任に挑むにあたり、このスタイルを崩さずに火力不足を補う方法を考えた。
そして、辿り着いたのが
「つじぎり!」
メタグロスの攻撃を受け流しながら、すれ違うように二連撃を叩き込む。カウンターの要領で叩き込まれた攻撃は、威力以上にメタグロスの体力を大きく削る。
(急所!)
想定以上のダメージの正体をカイムは即座に見破る。『つじぎり』は元々急所に当たりやすい効果がある以上、確率としては通常よりも高い以上、気にするだけ無駄であると切り替える。だが同時に急所によるダメージよりも、トウガンの取った手にカイムは内心で驚愕していた。
(トウガンさんは攻めよりも守りが得意なトレーナー。受け切り、受け流しながら反撃し、スタミナが切れてきたところに手痛い一撃を加える全体的に防御寄りのスタイル。攻撃に関しては直線的なモノかカウンター系統が多かったが、カウンターはあくまでメタルバーストみたいな技としてののみ。動きとしてカウンターを使うことはあまりなかったが…今のは承認試験の時のブラッキーやバシャーモの動きを参考にしたもの!フロンティアブレーンに就任できたのも伊達じゃねえ!)
トウガンは技としての『カウンター』や『メタルバースト』はトウガンもよく使っていた。だが、動きとしてのカウンターはほとんど使ってこなかった。そのため、フロンティアブレーンになるために必要な攻め手を習得する時に真っ先に浮かんだ選択肢が、カイムが使うような
そしてそれをヒョウタも理解している。だからここだと即座に察し、動いた。
「ダメおしだ!」
バンギラスの追撃がメタグロスを貫いた。攻撃を受けたばかりのメタグロスに対して、さらにダメージが伸びる。メタグロスの強靭な耐久力を持ってしても、大きく体力が削られることは避けられない。
いける。その予感がヒョウタとトウガンを過った。
「このまま押し切るよ父さん!あくのはどう!」
「ああ!エアームド、ドリルラ…」
突如、自然の中で修行を続けてきたからこそ培われた勘が、トウガンの内に違和感を齎す。何が要因かはわからない。ただ、漠然と
(なんだ、私は…何を…)
違和感。
(このままもう一撃加えれば、メタグロスといえど耐え切れるか怪しい。カイム君のメタグロスならば凌げるかもしれんが、体力は限界。追い詰めることはできるはず。そうだ、このまま押し切るのが…)
違和感。
(私は…何を見落としている)
違和感。
(ヒョウタと
突如、違和感は確信に変わる。フィールド全体へ瞬時に視線を巡らせるが、
そして、気づいた時にはもう手遅れだった。
突如、エアームドの背後から影が現れる。姿を見せた『影』は、既に攻撃の準備を整え終わっていた。
「エアームド、後ろだ!」
「遅い。シャドーボール!」
「バレットパンチ!」
メタグロスが稼いだ時間をフルに利用してチャージした全力の『シャドーボール』がエアームドを穿ち、『シャドーボール』の射線上にいたメタグロスはバンギラスに攻撃しながら射線からずれることで巻き添えを受けることを防ぐ。バンギラスがメタグロスに『あくのはどう』を放つことでメタグロスを押し戻し、エアームドはメタグロスに放つはずだった『ドリルライナー』をミカルゲにぶつけてミカルゲを下がらせたが、エアームドのダメージは大きい。メタグロスに与えたダメージは大きなものであり、たった今エアームドが受けたダメージの方が少なく、体力の総量はエアームド、バンギラスの方が多い。
火傷による攻撃力が半減されているバンギラスはメイン技の物理技全般の威力が半減している。ミカルゲは砂嵐によるスリップダメージが入っているが、体力はまだ余裕がある。形勢としては、どう考えてもこちらが悪いということはヒョウタもトウガンもわかっていた。
「鮮やかな連携…さすが、で片付けるのは失礼かな?」
冷や汗を流しながら言うヒョウタに、トウガンも視線を鋭くしながら頷く。
「うむ。技の出し合いなら互角だが、連携の度合いは向こうが上だ」
「随分と…綿密に打ち合わせしてきたってことかな」
「だとしても、やや常軌を逸している。掛け声も無しで何故あそこまで
「確かに。どちらも平然とやってるっていうのが恐ろしいね」
二人の間に掛け声はない。シングルバトルの時のように淡々とすべきことをしている。そんな二人が掛け声も無しに何故あそこまでの連携が取れるのか、全く仕組みがわからなかった。
打ち合わせはしていただろう。だが、ここまで鮮やかに連携してくるとなると、何かしら合図などがなければ難しい…いや、不可能まである。これが二人の愛の成せる技と言われたらもうお手上げなのだが、そうではないような気がしてならない。
「あまり長引かせると、こちらが不利だな」
「うん。僕らのポケモンは鈍重だけど、一撃が重い。ミカルゲにバンギラスは落とせない。メタグロスを先に落とそう」
「そのためには…
「だね。バンギラスで牽制するから、父さんの方で詰めてほしい」
メタグロスの体力は残り三割、ミカルゲは六割ほど。バンギラスとエアームドは共に五割ほどの体力。ミカルゲとバンギラスは攻撃を受けた回数は少ないが、やはりスリップダメージがあることが大きい。だがミカルゲに対して通りのいい技をバンギラスもエアームドも持っていない。ならば体力が少なく、技の通りやすいメタグロスから倒すのは自然な流れだろう。二人は方針を固めて闘志を激らせた。
一方、シロナとカイムは冷静に状況を分析していた。
「特殊に切り替えてきたわね」
「バンギラスが火傷で攻撃力半減だしな。順当っちゃ順当だ。ただ、やっぱ物理技と比べて威力は低い。一致技でもメタグロスへのダメージは控えめだし。メタグロスの耐久力もあるがな」
「そうね。ただ、あまり長引かせると不利よ。ミカルゲのスリップダメージはもちろん、メタグロスが重点的に狙われてる。このままだと落とされるのも時間の問題だわ」
「ああ。とはいえ、エアームドが前衛にいる間はバンギラスの突破も難しい。素早くないとはいえ、何度も受けられるほどの余裕はない」
「なら、前衛を先にどうにかしないといけない。それか、不意打ちか」
そう言いながらもシロナは不意打ちがもう通じないとわかっていた。あれだけ派手に不意打ちを使えば、当然警戒される。警戒度合いが高くなっている以上、そちらに意識を使わせているとも取れるが、同時に同じ手は通じないのと同義。
「……通じるとしたらあと一回だな」
「あら、そう?」
「タッグだからできる手がミカルゲにはある。前に
「あれね。でも、タイミングかなりシビアよ?」
「グリーンでできるなら、お前もできる。これに関しちゃ、俺は合わせるだけだ。できなかったら次の手を使うだけだ」
「無茶言うわねぇ…でも、言う通りだわ」
「誘導は任せろ。タイミング、頼むぞ」
「ええ、任せて」
両ペアの僅かな時間の打ち合わせが同時に終わり、瞬間的な静寂がフィールドを包む。聞こえるのは、砂嵐の音だけ。
その静寂を破ったのはトウガンだった。
「では…行くぞ」
「うん!バンギラス、じしんだ!」
「エアームド、はがねのつばさ!」
バンギラスの放った衝撃波がフィールド全体を揺らす。メタグロスは『コメットパンチ』を地面に叩きつけて地面を抉ることで、衝撃波がメタグロスに及びにくくして威力を大きく軽減。ミカルゲは『あくのはどう』を広範囲に放つことで『じしん』の威力を軽減させつつ、エアームドを牽制した。
またミカルゲが姿を消す可能性を考えたヒョウタとトウガンだったが、ミカルゲは気配を消すことなくエアームドに向かっていく。
「(やはりミカルゲはエアームド狙い!だが、そう来ることは予想通りだ!)エアームド、アイアンヘッド!」
「(技の切り替えが早い!)シャドーボール!」
硬化させた翼のエネルギーを全て頭へ瞬時に移動させ、ミカルゲに叩きつける。ミカルゲも攻撃を受ける前に『シャドーボール』を放つが、エアームドは硬化させた頭でうまく『シャドーボール』を弾きダメージを減らしつつ、ミカルゲに攻撃を叩きつけた。
攻撃を受けたミカルゲが僅かに怯む。『アイアンヘッド』には相手を怯ませる効果があるが、確実ではない。狙ったわけではないが、怯んだのであればより確実にミカルゲを縛れると瞬時に察したヒョウタが動く。
「がんせきふうじ!」
バンギラスの放った攻撃がミカルゲを攻撃しながら素早さを下げる。同時にメタグロスが『バレットパンチ』でバンギラスに攻撃するが、バンギラスはバックステップとガードでダメージを軽減させた。
「(機動力を落とすつもりね!)ミカルゲ、おにび!」
「エアームド、下がれ!」
下がった素早さと一瞬の怯みでできた隙にエアームドは離脱。ミカルゲの放った青白い炎はエアームドに当たることなく霧散した。同時に、バンギラスがメタグロスに向けて『すなじごく』を放ち動きを止める。
「縛ったよ父さん!」
「うむ!スイッチだ!」
エアームドとバンギラスが互いの場所を入れ替える。メタグロスにエアームド、ミカルゲにバンギラスが向かい合う形になった。
「面倒くせえことしやがる、ヒョウタ」
「お褒めに預かり光栄だね!バンギラス、あくのはどう!」
「ミカルゲ!こっちもあくのはどうよ!」
互いに放った悪タイプエネルギーがぶつかり合う。特攻を鍛えていないバンギラスの攻撃を僅かにミカルゲの攻撃が貫くが、高い特防を道具で上げただけでなく砂嵐でさらに底上げ。加えて効果今一つ技である以上、ダメージはほぼない。
一方、メタグロスとエアームドは互いに攻撃をぶつけ合っている。エアームドの『つじぎり』とメタグロスの『コメットパンチ』がぶつかり合う。技同士の威力はともかく、エアームドの素早い攻撃が少しずつメタグロスの体力を削っていた。
(アームハンマーの素早さダウンが響いてんな。素早さでは元々メタグロスが若干高いけど、素早さ下がってるせいで捌ききれん)
技としての威力はメタグロスが上だが、効果今一つの技では防御力の上がったエアームドにはほぼダメージがない。シロナもカイムも、互いに有効打を持たない相手をさせられている。
ならばどこかで合流、または入れ替えの必要がある。それをわかっているからこそ、バンギラスもエアームドも互いに距離を取りすぎず弾かれるような距離にもならない絶妙な距離を保っていた。
少しずつ体力を削られながらも相手にダメージを与えられない状況が続く。無理矢理にでも状況を打破しない限り、削られて終わることを悟ったシロナは、バンギラスが放つ瞬間の技を狙って攻撃に切り替えた。
「バンギラス、あくのはどうだ!」
「そこよミカルゲ!」
ダメージを完全になくすことはできずとも、回避により直撃は避けられる。その瞬間を狙ってミカルゲが反撃に転じた。
「みずのはどう!」
放たれた水流がバンギラスを穿つ。特防が非常に高いバンギラスといえど、不一致抜群技を受ければダメージにはなる。そしてダメージ以上に押し戻して距離を取る目的は果たせるはずだとシロナは踏んでいた。
だがバンギラスは押し戻されることなく、耐え切った。耐え切ったことで想定よりも若干ダメージが大きくなったが、それよりも一歩もノックバックすることなく耐え切られたことにミカルゲは驚愕し、コンマ一秒程度だが行動が遅れる。
この僅かな隙をヒョウタは待っていた。
「ストーンエッジ・縛!」
バンギラスの放った岩石の刃が、ミカルゲの身体を
そして、その思惑は想定以上の形になった。不意を突かれた技の形にミカルゲは瞬間的に硬直し、抜け出すことができない。
「父さん!」
「おうとも!ドリルライナー!」
「アイアンヘッド!」
技がぶつかり合い、衝撃波がフィールドを迸る。一致技として出せるメタグロスの技がエアームドの技を打ち破り、急降下してきたエアームドへ僅かにダメージを与えながら空中に押し戻した。
それと同時に、バンギラスが動く。
「すなじごく!」
砂がメタグロスを中心に渦巻くように拘束する。火傷を受け、タイプ不一致かつ、元の技としての威力も低く『早業』による威力低下もある。抜群技であっても、ダメージは少ない。欲しかったのは、拘束されて動けないこの現状。
そして、メタグロスに弾き飛ばされたことで空中に高く舞い上がったことでエアームドの準備も完了した。
「ボディプレス!」
エアームドがメタグロスを押し潰そうと、落下する。エアームドの体重、重力、そして何よりエアームド自身の防御力が威力となってメタグロスに襲い掛かる。等倍の技とはいえ、元の防御力の高さと『てっぺき』による防御力の上昇は、今のメタグロスには致命的。受ければ間違いなくメタグロスは耐えられないほどの威力を持っているのは、この場にいる誰もが瞬時に察するほどだった。
だが、『ボディプレス』は格闘タイプの技。ゴーストタイプを持つミカルゲには無効であり、無効にされた場合は大きな隙をミカルゲ相手に晒すことになる。だからミカルゲを瞬間的に拘束し、確実に当てられる隙を作る必要があった。
当たる!
誰もがそう思った。ミカルゲは距離があり、拘束されてなくとも素早さを考えれば庇うことはできない。そしてメタグロスも『すなじごく』に拘束され、回避ができない。確実に当たったと、誰もがそう思った。
「ミカルゲ」
だが、シロナはこれを待っていた。
「サイドチェンジ!」
突如、エアームドの眼前にあったメタグロスの姿が、ミカルゲへと変貌した。いや、正確にはミカルゲとメタグロスの場所が入れ替わった。
「っ⁈」
「なっ⁈」
ヒョウタとトウガンは驚愕で目を見開く。
だがそんな二人と対照的に、シロナとカイムは即座に行動に移った。
「メタグロス、コメットパンチ!」
「ミカルゲ、シャドーボール!」
メタグロスは元々ミカルゲを拘束していた岩の刃を突き破りながらバンギラスに渾身の一撃を叩き込み、ミカルゲは無効の攻撃を透かした大きな隙を狙って『シャドーボール』を放った。両方とも直撃を受けてしまい、バンギラスは地面に倒れ伏し、エアームドは倒れなかったものの一気に体力が一割まで削られてしまった。エアームドはギリギリ耐え切れたが、バンギラスは攻撃力の上がったメタグロスの攻撃を受け切ることができなかった。
『バンギラス戦闘不能!』
「ありがとうバンギラス、休んでくれ」
ヒョウタはバンギラスをボールに戻し、小さく息を吐いて苦い顔をしながら対面に目を向けた。相変わらず無表情のカイムと額に汗を滲ませたシロナが互いに視線を向けて何かを話しているのが見えた。
「やられたな」
「…うん。サイドチェンジか…くそ、頭には入れていたはずなんだけど」
「見事に、刺さった。狙っていたのだろう」
ミカルゲが使った技は『サイドチェンジ』。対象と自分の位置を入れ替える技。一応対象は味方だけでなく敵にも使えるが、試合では敵を対象とすることが禁止されている。そのため対象は味方のみになるのだが、シングルバトルではまず使われることがない。それ故にシングルバトルを専門とするトレーナーには馴染みがない。仮にダブルバトルをやっているトレーナーでも必ず使うかと言われると、そんなことはない。位置を入れ替えるだけとなると、使い所が難しいかつ効果が薄いことが多いからだ。
だがそんな使い所が難しい技をシロナは一発で成功させ、バンギラスを落とすきっかけを作った。さすがと言う他ない腕前だった。
「どうやら、私がボディプレスでトドメを刺しに来ることを読んでいたようだな。バンギラスが火傷を受けたことでミカルゲとメタグロスの耐久力を突破が難しくなった。ミカルゲはともかくメタグロスを一撃で落とせる火力を出せる技が『ボディプレス』くらいしかなくなった」
「削り合いになると、メタグロスの火力がある向こうが有利だからね。ジリ貧になるのを見越してメタグロスを一撃で落とせる技で行くのを読まれたんだろう」
「鮮やかだな、まったく」
「うん。それに合わせるカイムもだけど」
『ボディプレス』でくることを読まれた。それまではまだわかる。だが、どのタイミングで来るかまでは直前までわからないはず。それをあの二人は鮮やかに読み切り、カウンターを叩き込んできた。こちらのミスというよりは、向こうが上手だったと言うべきだろう。
(サイドチェンジの入れ替え前、ストーンエッジ・縛がミカルゲを拘束した。強度的には数秒稼げればいい程度のものだったし、早業で速度のみを重視した。脱出されてもミカルゲがカバーに入れない状態にすることが目的だった。でも、メタグロスがすなじごくに拘束されてからボディプレスで落下してくるまでの間の約数秒、ミカルゲは抜け出さなかった。あの時は気にしてる余裕もなかったけど…あれは、ボディプレスが来ることを読んでいたから敢えて動かなかったのか)
シロナの読みの鋭さは、バトルする時にいつも実感する。ここまでうまく状況を利用することができるトレーナーは、世界的にも数えられる程度しかいないだろう。
そう考えると同時に、一つ疑問が浮かぶ。何故、カイムがあのシロナに平然とついていけているのだろうと。友人でありライバルでもあるカイムだが、数値としてはジムリーダーの中でも最下位レベル。ポケモン達の卓越した体術と鍛え抜かれた観察眼から来るバトルの組み立ては、ヒョウタだけでなくトウガンとしても参考にすべき部分は多々ある。しかし、思考の瞬発力は平凡。コンマ数秒程度の僅かな時間が勝敗を分けることすらあるポケモンバトルでは、この瞬発力の低さは致命的。また、相手の思考や動きの癖から次の動きを見切ることはできても、さらにその先にどう動いてくるかを本能的に察知する能力が少し弱い。思考の瞬発力の低さもあり、カイムはハイスピードのバトルをやや苦手としているのは、ヒョウタもトウガンも把握している。だからこそ、シロナが咄嗟に使った『サイドチェンジ』にカイムが平然と対応してきたことに少しだけ違和感があった。
(…いや、この一瞬程度ならカイムが対応したとしても不思議じゃないか)
違和感はあるが、事前に手法の一つとして打ち合わせていたとすれば、カイムなら平然と対応しても不思議ではない。その程度はやってのける実力があることを知っている。ならこれ以上考えるだけ今は無駄だと切り替え、ヒョウタは次のボールを手に取った。
「いくよ、ラムパルド!」
ボールから出てきたのはラムパルド。ヒョウタにとってエースのポケモンであり、まさに切り札とも言えるポケモンだった。
ヒョウタがラムパルドを出したのを見て、カイムは目を細め、シロナは楽しそうに笑う。
「エース出してきやがるか。読みが外れたな。プテラかジーランス、ボーマンダあたりがくると思ったんだが…」
「思っていた以上に攻め気が強いピックね。バンギラスもだけど、物理技でゴリ押して来る感じが強いわ」
「地味にこっちに刺さってんだよなぁ。タイプ相性はともかく、物理技はシロナの次のやつには結構痛いぞ。どうする」
予想とは若干異なるポケモンを前に、カイムはシロナに問いかける。シロナは調子を変えることなく、カイムの問いかけに答えた。
「変える必要はないわ。ボーマンダが来てたら変えるつもりだったけど、ラムパルドなら十分対応できる。でも、予想とは違う子だった以上、あなたのサポートはより必要になるから。そこだけよろしくね」
「ああ。好きに動け」
相変わらずなことしか言わないカイムを頼もしく思いながらシロナはヒョウタとトウガンに目を向ける。ヒョウタの目に宿る闘志は弱くなるどころかより強くなっている。そしてトウガンもその身に纏う鋼の如き重厚な覇気は、より鋭さを増していた。ここからギアが上がってくることを察し、シロナの纏う波導が思いに呼応するように強くなる。カイムの波導もシロナの波導に同調するように強くなっていった。
一瞬の沈黙がフィールドを包む。砂嵐の音だけが聞こえる数秒にも満たない沈黙だが、フィールドに立つ者達はその数秒がやけに長く感じられた。
そしてその沈黙が破られる。
「ラムパルド、ストーンエッジ!」
ラムパルドの咆哮と共に地面から岩石の刃が突き出してくる。半減で受けられるメタグロスが前に出て岩石の刃に硬化させて腕を叩きつけるが、岩石の背後からエアームドが現れた。
「ドリルライナー!」
「コメットパンチ!」
エアームドの攻撃を維持させていた『コメットパンチ』で迎え撃つ。互いにダメージはなく弾かれるが、メタグロスの背後からミカルゲが飛び出して攻撃を放った。
「シャドーボール!」
「つじぎりだ!」
ミカルゲの攻撃に対して早業を駆使したエアームドが打ち破る。同時に、メタグロスが拳を振り上げた。
「かわらわり!」
ミカルゲの攻撃への対処で体勢が崩れたエアームドにメタグロスの攻撃が叩き込まれる。直撃するが、持ち前の防御力のおかげでなんとかエアームドの体力は残った。
そしてエアームドへ更に追撃を加えようとした瞬間、ラムパルドがメタグロスに肉薄する。
「じだんだ!」
「アイアンヘッド!」
メタグロスとラムパルドの攻撃がぶつかり合う。タイプ一致技により威力の上がったメタグロスの攻撃がラムパルドにダメージを与えるが、メタグロスも相手の技を相殺しきれずにダメージを受ける。
「かげうち!」
互いにダメージを受けたことで生じた隙。これを見逃すことなくミカルゲが最速の一撃をラムパルドに与えようとしたが、エアームドの『はがねのつばさ』がミカルゲを阻んだ。
「これで詰みだ」
ラムパルドが攻撃体勢に入るコンマ数秒にも満たない時間の中、カイムはメタグロスが次の攻撃を絶対に防げないことを悟る。メタグロスの体力はもうない。体力が減ったことにより、ラムパルドよりも次の攻撃体勢に入るのが遅れた以上、次の攻撃は防げない。仮にラムパルドの攻撃をギリギリ回避したとしても、カバーに入ったエアームドが早業で『つじぎり』か『ドリルライナー』の追撃が来るだろうし、メタグロスの技量と耐久力をもってしても受け切ることは今の体力では不可能。ミカルゲの速度からカバーは間に合わない。
ならば今、何を最優先すべきか。繋げること。これが一番だと即座に判断した。
「リフレクター!」
「ダメおし!」
メタグロスとミカルゲの前に壁が展開されると同時に、メタグロスへ致命的な一撃が加えられる。『リフレクター』によりダメージを軽減させたとしても、メタグロスの体力は限界。メタグロスは地面にめり込むほど強い一撃を受け、ダウンした。
『メタグロス戦闘不能!』
「お疲れ、メタグロス。よく頑張った」
そう言ってメタグロスをボールに戻す。その表情はいつも通りの無表情だが、額には汗が滲んでいた。
「大丈夫?」
隣に立つシロナがそう問いかけてくる。僅かな問いかけに対して、カイムは頷くと次のボールを手に取った。
「問題ない。向こうの動きが想定の上を行くことはよくある。それに、メタグロスが俺の想定以上の動きをしてくれた。十分だ」
「ならいいわ」
ミカルゲの体力も攻撃と砂嵐でかなり削られてきており、残り三割弱といったところ。対してエアームドは残り一割、ラムパルドは九割ほどの体力。形勢としては、まだ少し有利と言えるだろう。何より、次のカイムのポケモンは二人に対してよく刺さるポケモン。状況としては十分だろう。
そう分析して、カイムはボールを投げた。
「んじゃ、いくぞ。トリトドン」
ボールから出てきたのはトリトドン。頭をゆらゆらとゆらしながら緩く鳴き声を上げる様に緊張感はない。だが、ヒョウタもトウガンもこのトリトドンがどれだけの力を持っており、自分達と相性が悪いこともわかっているため、出て来ると予想してはいたが苦い顔をする。
「やっぱりでてきたね」
「私とヒョウタ、どちらにも相性がいいポケモンだ」
「逆に、格闘入れてこなかったのは少し意外だね。ルカリオなら僕と父さん、どちらにも抜群突けるのに」
「タイプ相性以外のことを考慮したのだろうな」
「だね。カイムのルカリオ、物理メインだし。バシャーモは僕の岩タイプがいるから」
バシャーモとルカリオ。カイムの格闘タイプツートップは鋼、岩タイプどちらにも弱点になる。だが、二人とも一撃の重さよりも手数で潰す系統のポケモン。タイプ相性はともかく、強靭な防御力を貫けるかと言われると、少し心許ない気がしないでもない。
だからトリトドンが出て来ることは想定内だった。というか、ほぼ確実に出て来るだろうと考えていたため、対策も用意してある。ただ対策があるとはいえ、相性が非常に悪い相手であることに間違いない。
「より一層、気合を入れねばな」
「うん。ここで負ける気はない!いくよラムパルド!じしんだ!」
「トリトドン、なみのり」
ラムパルドが全方位に衝撃波を放ち、トリトドンが衝撃波を波で相殺する。相殺された波が水飛沫となってフィールドに飛び散り、互いに視界が塞がれた。
「突っ込めエアームド!」
「ミカルゲ、あくのはどう!」
「はがねのつばさ!」
水飛沫の中をつっこんできたエアームドにミカルゲが攻撃を放つが、エアームドは硬化した翼で弾く。そのままミカルゲに翼を叩きつけるが、ミカルゲは怯むことなく反撃の『かげうち』でエアームドを攻撃して、エアームドと少し距離を取らせた。
「(エアームドで追撃を…いや違う!)防げエアームド!ヒョウタ!」
「うん!ラムパルド、ロックブラスト!」
エアームドはミカルゲに追撃しようと体勢を立て直していたが、トウガンの指示で視界の隅から何かが迫るのを察知し、維持していた『はがねのつばさ』を咄嗟に振り抜く。迫ってきていたのはトリトドンの『ねっとう』であり、咄嗟に翼を振り抜き反動で直撃は避けられた。だが完全に弾き切ることはできず、威力を軽減された攻撃がエアームドに当たる。またミカルゲが攻撃体勢に入っていることを察知したが、横槍が入るようにラムパルドが放った岩石の弾丸がミカルゲを貫いた。しかし、攻撃を止めることはできない。
「シャドーボール!」
「つじぎり!」
ミカルゲの攻撃をエアームドが相殺。追撃が来る前にエアームドは離脱しようとするも、エアームドの横から大きな波が襲いかかってきた。
「ストーンエッジ!」
ラムパルドが地面に足を叩きつけ、岩石の刃が地面から突き出してくる。岩石の刃が波を部分的に突き破り威力が分散していき、エアームドに入るダメージが大きく減った。
エアームドが離脱しつつ空中で体勢を立て直したことを確認したヒョウタは、ミカルゲを見据える。
「突っ込めラムパルド!」
「エアームド!」
ラムパルドが突進していくのを見たエアームドがラムパルドに並ぶように飛ぶ。
「おにび!」
ミカルゲが青い炎をラムパルドに向けて放つ。しかしエアームドがラムパルドの前に立ち塞がった。
「エアカッター!」
放たれた真空の刃がミカルゲの『おにび』を消し去る。
そのまま突撃してくるラムパルドを見たトリトドンが動いた。
「だいちのちから!」
地面からエネルギーが噴き出し、ラムパルドに迫っていく。だが突然、エアームドが地面に降り立った。
「は?」
「飛べ!」
ラムパルドは降り立ったエアームドを踏み台にすると同時にエアームドは迫り来る『だいちのちから』を飛んでラムパルド共々空中に飛んで回避した。
(ラムパルドを抱えて飛ぶ⁈飛行タイプの飛行能力も使った跳躍でだいちのちからの効果範囲から逃れたか!)
(飛行能力だけじゃない。ラムパルドを支え、跳躍できる脚力と、地面に向けてエアカッターを放つことで地面から跳ね返ったことで発生した上昇気流まで利用!鋼タイプ以外への理解が格段に深まっている!)
この一瞬でわかるエアームドの鍛え抜かれた肉体と技量に二人は内心で驚愕する。前のトウガンとはまた違った強さは、押され気味の戦況を一気にひっくり返した。
跳躍したエアームドから飛び上がったラムパルドは頭を硬化させる。
「もろはのずつき!」
「シャドーボール!」
「ねっとう!」
ミカルゲとトリトドンの攻撃がラムパルドの頭にぶつかる。威力と重力の力を使った一撃はミカルゲ達の攻撃を容易に突き破り、ミカルゲに強烈な一撃を加えた。威力が削られたとはいえ強烈な一撃である以上、ミカルゲに加わるダメージは大きい。しかし、威力が削られたにしては
これは長く保たないと判断したシロナは即座に動いた。
「かげうち!」
『かげうち』でラムパルドを弾き、トリトドンのカバーでなんとか距離を取った。そこに間髪入れずにトリトドンが動く。
「だくりゅう!」
濁った波がトリトドンの足元から噴き出し、ラムパルドとエアームドに迫る。迫り来る波を前に、ラムパルドが咆哮を上げた。
「じしんだ!」
ラムパルドが地面に足を叩きつけ、全方位に衝撃波を放つ。衝撃波が再び波とぶつかり合い、波を崩した。崩れた波はラムパルドに僅かならダメージを与えるが、エアームドは波が崩れたことで攻撃を回避しきる。
「こうそくいどう!」
一気にエアームドの速度があがる。トリトドンの攻撃を回避したエアームドが再びミカルゲに肉薄した。
「(速い!回避は不可!)ミカルゲ!」
シロナの声を聞いたミカルゲは、シロナの意図を即座に理解する。ミカルゲが黒いオーラを纏うが、エアームドは止まらない。
「ドリルくちばし!」
エアームドの一撃がミカルゲを貫く。この一撃でミカルゲの体力は消し飛び、反撃すらこともできずに倒れた。
しかし、ミカルゲを倒したエアームドも同時に倒れる。エアームドはミカルゲからの反撃を受けていない。だというのに、エアームドの体力は完全にゼロになっていた。どういうことかと一瞬思考を巡らせたトウガンは、即座に答えにたどり着いた。
「…みちづれか」
「反撃しても回避されそうだったのでね」
(あの黒いオーラがみちづれのものだったか)
あの瞬間、ミカルゲに与えられた選択肢は二つ。相打ちか負けか。エアームドの素早さが急激に上がった以上、攻撃の回避はほぼ不可能。最高速度に乗っていたあの瞬間だけに限って言えば、まず無理。加えてあそこから反撃は早業を駆使しても当てられたかどうか五分五分。既に攻撃を放つ準備が完了していたエアームドは、ミカルゲの早業の反撃を突き破り、攻撃を与えられただろう。そうなれば、ミカルゲのみが倒される形になる。
なら即座に展開でき、尚且つこのタイミングでなら確実に『みちづれ』が刺さるとシロナは考えつき、ミカルゲもそれを読み取った。結果、シロナとしては最高の形でミカルゲの役目を果たさせることができたと言えるだろう。
「お疲れ様、ミカルゲ」
「よくやったぞエアームド」
互いにポケモンをボールに戻し、次のポケモンのボールを手に取った。そしてほぼ同じタイミングで砂嵐が止まる。
ポケモンを入れ替える僅かな時間でペア同士で軽く言葉を交わす。
「助かったわカイム。最後、
「何するかわかったからな。動かない方がいいと思ったに過ぎん。ま、それはいいとして…こっからが正念場だぞ」
革手袋を引き上げ、位置を調節しながら言うカイムの言葉にシロナは頷く。
「そうね。ラムパルドの攻撃、相当痛いわ。持ち物と特性ね。スリップダメージがあったとはいえ、ミカルゲの体力を持っていくレベルの威力…
「もろはのずつきで反動受けてる。多分、力ずくだな。踏ん張れない空中からでミカルゲにここまでダメージ入れるとなると、持ち物も火力増強系統。命の玉だろう。力ずくなら命の玉の反動を踏み倒せるし」
「なんとかエアームドだけは持っていけたし、ミカルゲは十分すぎるほど動いてくれたわね」
ラムパルドの体力は八割、トリトドンは『じしん』の余波を少し受けた程度でほぼダメージ無し。状況としては、そこまでの差はないと言えるだろう。
シロナはシャツの袖を捲り、腕で額から流れる汗を拭った。全員の強さが複雑に絡み合い、いつもとは全く違う空気が楽しくて仕方ない。そんな思いに、つい笑みが溢れる。自分が見たかったものは、見せたかったものはこれだと、心から確信して言える。
「ああ、楽しい」
シロナの集中力がまた一段深くなり、纏う波導がより鋭くなるのを隣にいるカイムは感じ取る。そしてシロナに引っ張られるように、ヒョウタとトウガンの集中力も上がっていた。いつもと違う大舞台で、自分の力を違う形で発揮できる事実に昂っているのだろう。
「どいつもこいつも」
観客すらも昂り、熱狂がスタジアム全体を包んでいる中、カイムの思考は冷静さを増していく。この昂っていく雰囲気と、窒息しそうなほど研ぎ澄まされた空気に満ちたフィールド。トレーナーとしてこんな素晴らしい場に立てていることは、名誉以外の何物でもない。どんなトレーナーでもこの昂る空気と共にボルテージを上げ、ペースが上がっていくだろう。
「もうちょい落ち着けないものかねぇ」
だからこそ、自分は冷静でなければならないとカイムは己を律する。空気に呑まれるのではなく、己を貫くために。
そしてシロナも、カイムの思考を理解している。シロナは空気に合わせてどんどんボルテージを上げていくが、カイムはただひたすら己が為すべきことのみを見据えて冷やしていく。どんな時でも変わらないこの冷静さと安定感こそが、カイムの持ち味だと理解していた。
「こんな素晴らしい舞台なのよ?上げていかないと」
「気持ちはわかるが、俺には向かねえ。そういうのは、
「ふふ、ついてこられる?」
挑発するような言葉に、カイムはいつも通りのトーンで答えた。
「問題ない」
たった一言。この一言に込められた思いと自信は、普段のカイムと比べると遥かに強い心を感じた。
「なら、一瞬に行きましょう」
「ああ」
そう言ってシロナとカイムは相対するヒョウタとトウガンに視線を向ける。
一方、ヒョウタとトウガンも楽しそうに言葉を交わしていた。
「みちづれか…うまく刺されたな」
「あのタイミングで切り替えられると、さすがにこっちは対応できないね」
完璧なタイミングで発動された『みちづれ』。過去のデータでは使っていることもあったが、使われた回数は非常に少ない。ポケモンリーグでも使われたのは数えられる程度だが、ここ一番で完璧なタイミングで刺された。あまりにも鮮やかな手際に、もはや賞賛しか出てこないほどだった。
「いやはや…素晴らしい腕前だ」
「タッグバトルで処理する情報が増えたせいで、完全に頭から抜けてた。まあ頭に入ってても、あのタイミングで仕掛けるのは最善だったと思うんだけどね」
「うむ。下手に長引けば、エアームドだけ落とされていた可能性は高い。それに、どういうわけか
「動かない?」
「解説したいところだが、それは後だ。今は目の前のことに集中しようではないか」
そう言ってトウガンも次のボールを手に取る。
「まだまだ、私たちの祭りは終わっていない。今はこの時間を存分に楽しむとしようではないか」
鋭く、重厚な覇気。シロナの覇気とは別の形で鍛え抜かれた覇気は、押し潰してくるような強さだった。
「…そうだね、父さん。岩と鋼の強さを、見せつけよう!」
楽しそうに笑ったヒョウタがシロナ達に視線を向ける。
それとほぼ同時に、シロナとトウガンがボールを同時に構え、フィールドに向かってボールを投げた。
「さあ、いくわよロズレイド!」
「行くぞハガネール!」
シロナはロズレイド、トウガンはハガネールを繰り出す。
シロナのロズレイドを見て、ヒョウタとトウガンは意外そうな顔をした。
「ほう、ロズレイドか」
「想定外だね。正直、来ないと思ってた」
ロズレイドは草・毒タイプ。岩タイプのヒョウタはともかく、鋼タイプのトウガン相手には相性が悪い。二人の予想では、ガブリアスかミロカロスが出てくると考えていた。ガブリアスほどの攻撃力があれば、防御に秀でたヒョウタとトウガンのポケモンでも十分な威力を発揮できるし、ミロカロスは防御に比べて劣る特殊技でガブリアス以上のダメージが出せるであろうから。だが予想に反して、トウガンにはかなり相性の悪いロズレイド。トウガンのポケモンに対して一致技は半減以下。加えてロズレイドの物理防御はかなり脆い。ヒョウタのポケモンの攻撃だと、一撃で沈みかねない以上、相性としてはかなり悪い。
(だがそれでも出してきたということは…)
(勝算がある、ってことだよね)
シロナはポケモンバトルで決して手を抜かない。エキシビションのように『魅せる』ことが目的でなければ、手加減をすることはない人物である以上、シロナの中でこれが最善策だと判断したのだろう。
「持ってきた対策はこれで半分くらい無駄になったな」
「見越されてたのかもね。シロナさんの読み合い能力に、カイムの情報があれば不思議じゃない」
「うむ、その通りだな。では…参るとしよう!」
「うん!ラムパルド、しねんのずつき!」
ラムパルドの頭にサイコパワーが集まり、咆哮と共に突進してくる。それを見てトリトドンが動き、前に出た。
「みずのはどう」
トリトドンがラムパルドに向けて水の塊を放つ。しかしラムパルドはトリトドンの攻撃を容易に打ち破り、トリトドンに頭を叩きつけた。
「エナジーボール!」
この攻撃のタイミングに合わせてロズレイドがバックステップで下がりながら攻撃を放つ。だが、この攻撃をハガネールが防ぐ。
「ストーンエッジ!」
ロズレイドの攻撃に完璧なタイミングで放たれた『ストーンエッジ』が防いだ。
「ラムパルド、じだんだ!」
「ヘドロばくだん!」
ラムパルドがトリトドンに追撃を加えようと動くが、ロズレイドの『ヘドロばくだん』がラムパルドを押し戻す。ほんの僅かにできた攻撃に入るまでの隙だが、トリトドンの素早さでは回避には至らない。
「(回避…いや、ここは違う!)とける!」
トリトドンは自分の体の流動性を上げる。その瞬間にラムパルドの攻撃がトリトドンを襲うが、トリトドンの流動性の上がった体はラムパルドの衝撃を受け流し、ダメージを大きく抑えた。
「ロズレイド、エナジーボール!」
「アイアンヘッド!」
ロズレイドが再びラムパルドに向けて攻撃を放つが、接近してきていたハガネールの硬化した頭がロズレイドの攻撃を打ち破る。特防の低いハガネールだが、技の威力とタイプ相性により攻撃のダメージを大きく抑えた。
「(思ったより動きが早いわね。受けに回ったらやられるわ)カイム」
「ああ。トリトドン、ねっとう」
トリトドンがハガネールに向けて『ねっとう』を放つ。ハガネールは長い体を器用に操って軌道から逸れるが、トリトドンは攻撃の軌道を真横に薙ぎ払うことでダメージを入れた。特防が低いハガネールではこの直撃でない攻撃でも思いの外ダメージが大きい。あまり長引かせられる余裕はないとトウガンは瞬時に判断した。
「ならば火力勝負といこう。ヒョウタ、一瞬任せる」
「うん。ラムパルド、ストーンエッジ!」
ハガネールが下がると同時に、ラムパルドの足元から岩石の刃が飛び出し、ロズレイドとトリトドンの追撃を阻止。
何かがくると瞬時に悟ったロズレイドは高く跳び上がると、ハガネールに向けて照準を定めた。
「マジカルリーフ!」
草タイプのエネルギーが刃となり、ハガネールに打ち出される。しかし、ラムパルドがロズレイドの攻撃の前に飛び出した。
「アイアンヘッド!」
硬化した頭でロズレイドの攻撃を全て撃ち落とす。そしてその勢いのまま、ロズレイドに向けて頭を振り下ろした。
「みずでっぽう!」
しかし、ラムパルドの攻撃は空を切る。
トリトドンの『みずでっぽう』がロズレイドの体を押し流し、ラムパルドの攻撃から逃れさせたのだ。低威力かつ、速度重視で放たれたトリトドンの攻撃はロズレイドへのダメージはほぼゼロ。ロズレイドは難なく着地し、牽制の『エナジーボール』を放つが、ラムパルドも着地すると維持していた『アイアンヘッド』で攻撃を打ち破る。
「器用なマネするね。君らしくないじゃないか、カイム!」
「人を不器用呼ばわりすんじゃねぇ石バカ2号。なみのり!」
軽口を叩きながらも、バトルの手は休めない。下がったハガネール諸共攻撃しようとしたが、再度ラムパルドが立ち塞がった。
「がんせきふうじから、もろはのずつき!」
『がんせきふうじ』で波を分散させて威力を落とし、『もろはのずつき』で波を弾き飛ばす。
(結構前のバトルでやってた岩タイプ二連撃…この高威力をハガネールを守るためだけに使うとなると…結構まずいか)
ハガネールの一番の能力は、物理防御。次点で物理攻撃になるが、攻撃力としては決して高くはない。ロズレイドへのダメージを入れるには十分だが、トリトドン相手ではやや威力不足。しかし、それを補う術をハガネールは持っていた。
「りゅうのまい」
ダメージはあるがラムパルドの足止めが功を奏し、ハガネールは2回の『りゅうのまい』を終える。攻撃力と素早さが二段階上昇し、ハガネールの火力が大幅に上がった。
「(足止めにラムパルドの火力を使う…)想定外の使い方ね」
「普通、立場としちゃ逆を想像する。タッグバトルならではだな」
シングルバトルなら、アタッカーとサポーターの役割は完全に別れている。そしてその役割が逆転することは基本的になく、ポケモンの種族値によってその役割が決まることが多い。この場合、耐久力に秀でたハガネールがラムパルドを援護し、ラムパルドの火力増強を狙うかと思われたが、ハガネールの火力を底上げすることで、
「何度も受けられる余裕はねえぞ」
「わかってる。速戦即決でいくわ。ロズレイド、エナジーボール!」
「ちっとは落ち着けってんだ。トリトドン、みずのはどうで制圧射撃」
ロズレイドの攻撃に追従する形で『みずのはどう』が放射状に放たれる。だがトウガンは一切動じることなく、ハガネールを前に出した。
「助かったぞヒョウタ。さあ見せてやろうハガネール。これが自然で鍛え抜かれた力の一端だとな!ドリルライナー!」
力を一点に集中させたハガネールが高速回転しながらロズレイドの攻撃を打ち破り、トリトドンの攻撃すらも貫通した。ダメージはある。だが、一点に集中した力はロズレイド達の攻撃を貫き、ハガネールに到達するダメージを最小限に抑え、そのままロズレイド達に肉薄する。
「トリトドン!」
トリトドンが前に出る。高速で迫ってくるハガネールを前に、全力の一撃を放った。
「力業・ハイドロポンプ!」
一瞬のタメを入れ、全力の『ハイドロポンプ』でハガネールを押し戻しにかかる。純粋な威力と技のタイプ相性からも、本来ならトリトドンが押し負けることはない。しかし、極限までエネルギーを集中させたハガネールの攻撃は、トリトドンの攻撃を文字通り貫いてきた。
「マジかよ」
ダメージはある。だが、効果抜群の技を受けたにしては、あまりにもダメージが少ない。トリトドンの全力の一撃すらも貫いてくることはさすがに想定外だった。トリトドンも力業の反動で『ハイドロポンプ』を貫いてきたハガネールの一撃を回避することができず、直撃を受ける。攻撃力が大きく上がったハガネールの一撃は、トリトドンの体力を大きく削った。
しかしこれで終わらない。
「ラムパルド、しねんのずつき!」
ラムパルドが追撃に入る。攻撃を受けて弾かれたトリトドンに更なる一撃を加えようと肉薄するが、ロズレイドがそれを阻む。
「エナジーボール!」
ロズレイドの攻撃をラムパルドは弾く。この一瞬の隙を使い、トリトドンは全方位に向けて『なみのり』を放ち、ラムパルドとハガネールを押し戻しにかかった。
「ロックブラスト!」
トリトドンが放った波はラムパルドの放った岩石の弾丸により、威力が削られる。
「10まんばりき!」
そこに追撃としてハガネールの一撃が加わる。若干のダメージを受けつつも完全に波を打ち破り、距離を離すことを防がれた。
「ヒョウタ!」
「うん!かわらわり!」
ラムパルドの攻撃がトリトドンに叩きつけられると同時に、トリトドン達を守っていた『リフレクター』が叩き割られた。これにより、トリトドン達の物理ダメージ軽減効果がなくなる。
「まだまだ行くぞ!アイアンヘッド!」
「だいちのちから!」
「エナジーボール!」
ハガネールがさらに迫るが、トリトドンは地面からエネルギーを吹き出させ、自分諸共吹き飛ばし、同時にロズレイドのフォローの攻撃が放たれる。咄嗟にハガネールは『アイアンヘッド』で二つの攻撃を防ぎ、入れ替わるようにラムパルドが肉薄した。
(トリトドン狙い。トリトドンが落とせりゃロズレイドの物理防御が薄いし、落とせると。ロズレイドの身のこなしでも、あの苛烈な攻撃相手だとさすがに長持ちせん。なら…)
「しねんのずつき!」
ラムパルドの一撃がトリトドンを貫く。『リフレクター』が無い今、トリトドンへのダメージは大きい。
しかしその瞬間、ヒョウタは何かを感じ取る。嫌な予感を背筋が通り抜けた。
(これはっ…)
「ヒョウタ、下がれ!」
「カウンター!」
相手の攻撃をエネルギーに変えた一撃が、ラムパルドを庇ったハガネールを貫く。強烈な一撃だが、ハガネールは完全に吹き飛ばされることなく少しのノックバックだけで耐え切った。
「これを耐えるかよ。本っ当に物理防御は硬えなぁトウガンさんよお!」
「鍛え抜いた鋼は、簡単には砕けん…!ヒョウタ!」
「ああ!しねんのずつき!」
再びラムパルドの攻撃がトリトドンに襲いかかる。
同時にそれを見切ったロズレイドが動いた。
「くさむすび!」
ロズレイドの『くさむすび』がラムパルドの足を縛り、ラムパルドの動きを止めながらダメージを与える。大きなダメージがラムパルドに入り、ラムパルドは動きを止めた…ように見えた。
「ここだラムパルド!」
ラムパルドはダメージを受けながらも、視線を
ラムパルドは咆哮を上げながら自分を拘束する草から抜け出す。そのままサイコパワーを維持した頭をロズレイドに叩きつけた。
確実に当たった。そう確信するタイミングだった。しかし、何かが弾かれるような音にヒョウタは目を見開く。
「何っ⁈」
ロズレイドは両手の花から刃のようなものを出してラムパルドの攻撃を受け流していた。ラムパルドは続け様に何度も頭を振り下ろすが、ロズレイドは両手の刃で攻撃を捌き、いなし、受け流す。
「近接戦闘ができないと思った?そんな甘い鍛え方していないわよ!マジカルリーフ・刃!」
ロズレイドの両手の刃の正体は『マジカルリーフ』。『マジカルリーフ』は草タイプエネルギーを刃状にして飛ばす技だが、この飛ばす刃を両手で凝縮し、剣のようにして戦うことを可能としていた。
ラムパルドは驚きつつも攻撃の手は緩めない。連続して攻撃を続けていくが、ロズレイドは両手の刃でラムパルドと斬り結ぶように攻撃を捌いた。
(特殊技を近接で使えるようにコンバート!なんという器用さと発想力!)
「(しかもラムパルドの攻撃を捌けるだけの腕前!近接戦闘なら
「アイアンヘッド!」
ハガネールもロズレイドに向けて硬化した頭を振り下ろす。
しかし、またしてもハガネールの攻撃は空を切った。
「こっちのこと忘れちゃいませんか。みずでっぽう」
再びロズレイドの体をトリトドンの水が押し流す。だが今度はただ押し流すのではなく、ロズレイドの跳躍を助ける形で水が放たれた。
「む!」
「マジカルリーフ!」
「なみのり!」
ハガネールを『マジカルリーフ』が貫く。等倍とはいえ、特防の低いハガネールへのダメージはそれなりにある。加えてトリトドンの全方位『なみのり』がハガネールとラムパルドを襲った。咄嗟にラムパルドが『がんせきふうじ』で波をうまく分散させるが、両者へのダメージは大きい。
トリトドンを狙うフリをしてロズレイドを短期決戦の連撃で落とすつもりだったが、想定外の腕前とサポートで策を崩された。だがそれでも、まだハガネールもラムパルドも体力はある。逆転には十分。
「まだまだいくぞ!ハガネール、じしん!」
「ラムパルド、ストーンエッジ!」
ハガネールが地面に向けて衝撃を放つと同時に、ラムパルドは地面から隆起した岩に乗ることでラムパルドの攻撃を空中で回避しつつ、勢いをつけてロズレイドに肉薄する。
「トリトドン、なみのり!」
トリトドンが全方位波を発生させ、『じしん』の衝撃を中和させる。ロズレイドはトリトドンの体に乗ることでトリトドンの攻撃を受けることを回避しつつ、大きく飛び上がった。
「エナジーボール!」
草タイプエネルギーが球体となって襲いかかる。ラムパルドは動じることなく、頭を硬化させて打ち払うと、トリトドンに向けて突進していった。
「しねんのずつき!」
「ねっとう!」
ラムパルドの攻撃がトリトドンによって阻まれる。
この阻んでくる行動の多さに、ヒョウタは違和感を覚えた。
(また…カイム、あまりにもタイミングが良すぎる!元々こういう読み合いは比較的得意な方だけど、今回はちょっと出来過ぎなくらいだ!ペアがシロナさんだからか?愛の力とか言われたらそこまでなんだけど、
カイムとよくバトルしているヒョウタだからわかる違和感。読み合いは得意だが、思考の瞬発力がそこまでないカイムがやるゲームメイクにしては、
だがこの一瞬では違和感の正体は掴めない。今はバトルに集中しようと瞬時に思考を切り替えた。弾かれたとしても、ロズレイドとの距離は一思いに詰められる程度。攻めない手はない。
「アイアンヘッド!」
「トリトドン!」
ラムパルドの攻撃をトリトドンが体で受け止め、流した。流動性の上がったトリトドンの肉体はラムパルドの一撃すらも受け流す。ダメージはゼロではないが、半減のタイプ相性もあり、ダメージは最小限に抑えられた。
「ハガネール、10まんばりき!」
「みずのはどう!」
ラムパルドの攻撃を受け流したトリトドンにハガネールが追撃してくるが、トリトドンが反撃することで互いにダメージを与える形になる。ダメージを受けた勢いを利用してトリトドンはハガネールから距離を取った。
「マジカルリーフ・刃!」
「しねんのずつき!」
ロズレイドは『マジカルリーフ』を腕に纏うと、突進してきたラムパルドに肉薄していく。そのままロズレイドはラムパルドの頭に刃を叩きつけ、その衝撃を利用してラムパルドの背後に回った。
「エナジーボール!」
刃にしていたエネルギーを球体に変えてラムパルドに放つ。
これを見た瞬間、トウガンとヒョウタは予め決めていた作戦の一つが使える可能性を見出し、作戦遂行に向けて動き出した。
「アイアンテール!」
放たれた攻撃をハガネールが硬化させた尻尾で叩き落とす。ロズレイドが着地すると、ハガネールとラムパルドはロズレイドを挟むような状態になった。
「(挟み撃ち!)ロズレイド、迎撃!」
「ストーンエッジ!」
ロズレイドの足元から岩石の刃が飛び出してくるが、予期していたロズレイドは咄嗟に飛ぶことで威力を軽減。同時に『ヘドロばくだん』をラムパルドに向けて放ち、爆風でラムパルドを僅かに押し戻す。
それと同時に、ロズレイドの背後から強い気配。
「力業・アイアンヘッド!」
タメを作ることで威力を上げた『アイアンヘッド』がロズレイドに向けて放たれる。物理防御の低いロズレイドだと、今の半分程度の体力ならば耐えられないだろう。しかし、敵はロズレイドだけではない。
「早業・みずのはどう!」
トリトドンの攻撃がハガネールを貫く。高い耐久力により体力は残ったものの、直撃によりかなり体力が持って行かれた。
しかし、攻撃そのものを阻止できるわけではない。それをわかっていたトリトドンは、『みずのはどう』をロズレイドにぶつけて僅かに位置をずらす。これによりロズレイドは直撃を避けたが、体力は大きく持って行かれる。
「(ロズレイドの体力が二割まで減らされた!トリトドンも攻撃を受け流しているけど、四割くらいまで減ってる。切り札を切るにしても、隙が大きい。なら!)カイム!」
「トリトドン!れいとうビーム!」
トリトドンの放った冷気がラムパルドに向かっていくが、ラムパルドは『アイアンヘッド』で冷気を破り軌道を逸らす。トリトドンの攻撃で濡れた地面が冷気で一部が凍った。
同時に、トウガンはポケモン達の位置関係を瞬時に確認。そしてトリトドンをうまく動かせれば、好機だと即座に判断する。
「ヒョウタ!
「OK!」
「ハガネール、ボディプレス!」
ハガネールがトリトドンを押し潰す。高い防御力により威力はかなり高いものになるが、トリトドンは『とける』で流動性の上がった体で衝撃を受け流しつつ、ダメージを減らせるように横へ飛んだ。
この瞬間、位置関係が変動する。ラムパルドとハガネールでロズレイドを直角に挟む形になるが、同時にロズレイドとトリトドンでハガネールを挟む形にもなった。
「好機!ハガネール!」
「ここだラムパルド!」
ハガネールは敢えて回避しやすい方向が残るように体を丸めて『ボディプレス』をトリトドンに使った。そうすることで、トリトドンの回避方向を限定し、トリトドンを動かした。今の立ち位置になることで、ラムパルドとハガネールは互いの攻撃の射線が交差する、所謂クロスファイアの立ち位置になり、同時にロズレイド達は互いの味方がハガネールの姿により確認できない状態となった。そして、フィールドに立つシロナとカイムの視点からも、ロズレイドの立ち位置が見えない状態になっていた。
味方の姿が見えない以上、広範囲技を使えば味方諸共巻き込む危険性がある。『なみのり』ならばロズレイドは耐えるかもしれないが、技を広範囲に広げて威力を分散させては行動阻止には繋がらない。トリトドンの立ち位置からクロスファイアを防ぐ場合は、ロズレイドの体が巻き込まれる前提でハガネールを攻撃するしかない。しかし仮にハガネールをここで落とせたとしても、ラムパルドの攻撃を回避しきることは位置的に不可能。軽減させたとしても、耐えられる可能性は低い。
(これで詰みだ、ロズレイド!)
回避、迎撃。このどちらも間に合わず、ハガネールもラムパルドも攻撃態勢に入っている。トリトドンの援護があっても、ロズレイドは詰んでいた。
「早業・アイアンヘッド!」
「しねんのずつき!」
トリトドンの援護が想定外のものでなければ。
「正面15歩前にだいちのちから!」
トリトドンの『だいちのちから』が
「「は?」」
親子揃って同じ顔になった。
ロズレイドは『だいちのちから』を受ける瞬間、噴き出してくるエネルギーに乗って高く跳躍したのだ。しかも完璧なタイミングで跳躍したことで、ハガネールとラムパルドはロズレイドの姿を一瞬見失ってしまった。
そして、その隙を見逃すシロナではない。
「リーフストーム!」
強力な草タイプエネルギーがハガネールに向けて放たれる。完璧なタイミングで放たれた攻撃だが、ギリギリで反応したハガネールは『アイアンヘッド』をぶつけつつラムパルドを庇うことで、ラムパルドへのダメージは大きく削った。しかしこの攻撃でハガネールの体力は一割を切る。次の攻撃は耐えられない。
「ハガネール、オボンの実を食べろ!」
トウガンの指示でハガネールは奥歯に仕込んでいた持ち物であるオボンの実を食べ、体力を三割強まで回復する。しかし、状況は悪い。ラムパルドとハガネールが一箇所に固まっている。まとめて攻撃をされれば、どちらも大ダメージを受けてしまう。
「立て直すよラムパルド!下がれ!」
「逃すか。うずしお!」
トリトドンがハガネール達の
(父さんはどう動く⁈)
「脱出だヒョウタ!」
「っ!うん!」
ヒョウタがほんの一瞬迷ったことを悟ったトウガンの声にヒョウタは従う。『ロックブラスト』で渦に穴を開け、ハガネールが『ドリルライナー』で一気に渦を打ち破った。
束縛から脱出まで、10秒にも満たないこの動きが、命運を分ける。
渦を抜けた先には、ロズレイドが既に次の攻撃をチャージした状態になっていた。
「っ!」
「力業・リーフストーム!」
技が放たれる刹那、トウガンの思考が凝縮される。
(ロズレイドは先の攻撃でリーフストームを一度使っている。反動で特攻が二段階下がり、威力は半減。力業による威力底上げがあろうと、そこは揺るぎない。ならば!私が迎え撃ち、ハガネールの一撃でロズレイドとは相打ちを狙う!)
『リーフストーム』は使えば特攻が二段階下がる反動がある。二段階落ちれば、威力はほぼ半減。鋼・地面タイプのハガネールには等倍のタイプ相性である以上、ラムパルドが受けるよりもはるかにダメージを抑えられる。特防は低いが、『ドリルライナー』の勢いを利用した『アイアンヘッド』ならば威力は削れる。オボンの実で回復もしたハガネールでも耐えきれはしないだろうが、最後にロズレイドへ渾身の一撃を加えるまで耐えることはできる。そして残りのトリトドンは、ラムパルドが高速で詰めれば勝ち越せる。そう考えた。
この考えは正しい。恐らくシロナが同じ立場でも同じ判断を下す。だが一つ、誤算があった。その誤算をヒョウタは無意識に感じ取り、すぐにその正体にたどり着いた。
「(ロズレイドのエネルギー、さっきと遜色ない⁈力業補正じゃない!ロズレイド自身の能力が、落ちていない⁈)父さ…!」
「アイアンヘッド!」
ハガネール渾身の一撃がロズレイドに向けて放たれ、ロズレイドの攻撃とぶつかり合った。技同士のタイプ相性では鋼タイプ技を使っているハガネールがやや有利。特攻半減のロズレイドの攻撃なら、最終的にハガネールもダウンするとしても突き破れるというのがトウガンの目算だった。
「むっ!」
だが、突き破れない。それどころか押されている。ハガネールのスタミナの問題ではない。明らかに、ロズレイドの技の威力が落ちていないのだ。
「(リーフストームは確かに使った!いくらシロナさんのポケモンであっても、技を使った以上反動そのものを無くすことはできないはず!なら何故…まさか!)白いハーブで反動を帳消しにしたか!」
白いハーブは下がった能力を元に戻す効果がある。予めロズレイドに持たせておけば、反動を帳消しにできる。そうだとすれば、今こうして全力の威力が出せているのも辻褄が合う。
シロナは過去のバトルでポケモンに持たせていた持ち物に白いハーブはない。基本的にサポート系統のポケモンには回復、またはサポート系統の持ち物。そしてアタッカー系統のポケモンには火力増強系の持ち物を持たせていた。故に、アタッカーであるロズレイドにも『達人の帯』のような火力増強系の持ち物だと考えていた。
だからこそ生まれてしまった隙。しっかりと対策をするためにデータを集めたが故に、無意識に回復系の持ち物がないと決めつけてしまった。過去に『黒いヘドロ』を持たせていたことはあれど、『白いハーブ』はデータがなかった故に、データに引っ張られてしまった。
尤も、この考え方は決して間違いではない。そもそも持ち物の選択肢など多すぎてとても対策することなどできない以上、確率が高い持ち物であると考えるのは至極真っ当な判断であり、高レベルのトレーナーなら誰でもやる対策だからだ。
(やってくれたな!シロナさんだけのやり方じゃない!
ヒョウタは内心で
このままではロズレイドの攻撃に為す術もなくハガネールが押し切られる。だが、ロズレイドはハガネールを押し留めることに全力を費やしている以上、回避行動は取れない。ならばここでラムパルドで一気に押し切り、その後トリトドンを倒す算段を立てた。
「ラムパルド!しねんのずつき!」
ロズレイドに向けてラムパルドが突進する。素早さのないトリトドンでは、ラムパルドの攻撃からロズレイドを守ることはできない。攻撃を当てられたとしても、攻撃を阻止することは不可能。
(これでロズレイドを落とす!)
ラムパルドの攻撃がロズレイドに迫る。体力の少ないロズレイドでこの攻撃を受ければまず間違いなく倒れるが、回避する余裕はない。今度こそ詰みだと確信したが、突如としてラムパルドの足元が狂った。
「っ⁈」
ラムパルドの足元に素早い水の塊がぶつけられたのだ。だがそれだけで足元が狂うような生半可な鍛え方はしていない。原因は、凍った地面にあった。
(凍らせて滑りやすくなった場所を踏み抜いた瞬間を狙って早業のみずのはどう!あんな僅かな面積を踏み抜いた瞬間を狙って⁈)
何かを超越しているほどの技量ではない。それこそ、ヒョウタのラムパルドも『ロックブラスト』で同じことはできる。
では何故、ヒョウタが驚いたのか。それはフィールドの状態とそこへ誘導するだけの計算能力。ラムパルドの足元を取るには、凍った地面とトリトドンの攻撃。両方が合わさって初めて成し遂げられる。どちらかだけでは不可能。それを完璧なタイミングでやり切ったことに、ヒョウタとトウガンは内心で驚愕した。
「押し切りなさい、ロズレイド!」
ラムパルドの攻撃が転んだことでキャンセルされた隙。この隙を見逃すシロナではない。最大火力の『リーフストーム』でハガネールを押し切る。鋼の頭を草の奔流で押し流し、ハガネールの巨体を貫いた。
これほどの一撃ではハガネールも耐えられない。技をぶつけて威力を削ったが、完全ではない以上、ハガネールにはもう耐えられるだけの体力は残っていなかった。それを理解していたトウガンとハガネールは、即座にやるべきことを切り替えた。
「ヘビーボンバー!」
技を放てるだけの体力はない。だが、ロズレイドの攻撃で持ち上げられた長い巨体に鋼のエネルギーを纏わせ、ロズレイドに向けて全力で倒れ込むことくらいはできる。
ロズレイドは力業の攻撃を行ったせいで、動きが鈍い。大技故の隙と力業の反動。この二つのせいで、倒れ込むだけのハガネールを回避することすらできない。そしてこの倒れ込むだけのハガネールの攻撃ですら、耐えられる体力もなかった。
「ハイドロポンプ!」
そこでトリトドンが動く。
トリトドンは地面に向けて『ハイドロポンプ』を放ち、その反動を使ってロズレイドの体を弾き飛ばした。そしてそのままハガネールがトリトドンの体を押しつぶす。
ハガネールはそのままダウンしたが、バトルはまだ終わっていない。
「ラムパルド!」
復帰したラムパルドがロズレイドに肉薄する。トリトドンの弾きでやや距離はできたが、ラムパルドの脚力ならば一瞬で詰められる程度。間合いに入れば、素早さに差はあれど近接戦闘が得意なラムパルドに大きなアドバンテージがある。ここまで来たら、火力で押しつぶす方が確実だとヒョウタは考えた。
「じならし!」
ロズレイドに肉薄するために踏み込んだ足を地面に踏み抜き、振動でロズレイドの足を奪う。これで回避できるだけの余裕がなくなり、正面からの迎撃しかできなくなった。
「(正面戦闘はやっぱりセンスいいわね!カイムに連続黒星つけるだけのことはある!)ロズレイド、迎撃!」
「力業・しねんのずつき!」
ロズレイドが両手に『マジカルリーフ』を纏わせ刃を作り、迎撃体勢に入る。そんなロズレイドに向けて、ラムパルドはサイコパワーをまとわせた頭を全力で振り下ろした。
ゴキンと、音が響く。ラムパルドの頭がロズレイドの刃を折った音だった。
(力ずくと命の玉による火力増強!火力の暴力とはまさにこれね!)
ロズレイドは咄嗟に刃で防御し、受け流したにも関わらず刃が折られた。それだけの威力がこの一撃には込められており、そしてラムパルドの攻撃はまだ終わっていなかった。
「貫けぇ!」
ラムパルド渾身の一撃がロズレイドを貫く。ロズレイドは残った刃で迎撃するも、ラムパルドに若干のダメージを与えるだけで、刃ごとロズレイドをぶち抜いた。
効果抜群の強烈な一撃を受けたロズレイドは吹き飛び、そのままシロナの目の前まで転がっていった。
「よし!次は…」
「ヒョウタ!」
「ハイドロポンプ」
ロズレイドは倒した。この事実が、ずっと張り詰めていたヒョウタにほんの僅かな緩みを生んだ。それは隙と言うにはあまりにも僅かな緩みであり、決して気を抜いたと言えるようなものではない。ちゃんとわかっていた。だというのに、そんな緩みを待っていたかのように動いた。
トリトドンを倒すべく振り返ったラムパルドの目の前には、既に強烈な水流があった。回避や迎撃に意識を移す前に水流はラムパルドを貫く。
「ラムパルド!」
貫かれたラムパルドはフィールドに倒れ伏す。完全に体力を持っていかれ、目を回して倒れていた。
『ハガネール、ラムパルド、ロズレイド、戦闘不能を確認!トリトドン残留により、このバトルはプレシャスボールペアの勝利となります!』
スタジアム全体に歓声が響き渡った。ヒョウタとトウガンは悔しそうに、そして満足そうに笑いながら互いの肩を叩く。
「カイム」
気が抜けて大きく息を吐いたカイムにシロナは笑いかけながら拳を上げる。意図に気づいたカイムはシロナと同じように拳を上げ、互いに手の甲同士をぶつけた。
そこへ、ハガネールの体の隙間からぬるりと出てきたトリトドンは相変わらずゆらゆら頭を揺らしながらカイムのもとに戻ってくる。撫でて欲しいのかゆらゆらしており、そんなトリトドンのことをカイムは優しく撫でた。
そのまま全員がポケモンをボールに戻し、フィールドに降りる。フィールド中央でペア同士で向かい合った。
「はぁ〜やられた。すごかったよ。君がこんなにタッグバトル上手いなんて知らなかった」
悔しそうにため息を吐きながらも、どこかすっきりしたようにヒョウタは口を開く。
「さてな。たまたまという気はないが、今回は上手くいった」
「グハハハハ!これでたまたまとか言われては、私たちの面子が丸潰れだ!しかし、君に
豪快に笑うトウガンの言葉に、カイムは首を傾げる。カイムの様子を見てトウガンはカイムに自覚が無いことを悟ると、シロナに目を向けた。
視線を向けられたシロナは肩を竦めるだけ。シロナは気づいているようだが、どうやら本人に自覚が無いらしい。その事実がおかしくて、トウガンはまた豪快に笑った。
「グハハハハ!まさか無自覚とは!これでここまでやれるとは、なかなかやるではないか!君を後任にして良かったよ!」
「どういうこと?父さん」
「後で話してやる。さて、それはともかく…素晴らしいバトルだった。今までにないバトルをさせてもらったよ。この機会を与えてくれたシロナさんに心から感謝しよう」
「僕も、すごく楽しかったです。タッグバトルなんて普段やらないバトルを、こんな大舞台でやらせてもらえた。最高の時間でした。ありがとうございました」
トウガンとヒョウタの謝意に、シロナは満足そうに頷く。
「こういう、普段のバトルでは辿り付かないようなバトルを、トレーナーの可能性を引き出す。それがバトル界隈を発展させることに繋がるんじゃないかって、ずっと思ってたんです」
「そういう意味では、すでに大成功とも言えるな?こうして私とヒョウタも、普段のバトルでは得られん経験を得られた。組み合わせを変えればまた別の可能性も見えてくるだろう」
「頻繁にできる規模じゃないですけどね…でも、そう言ってもらえたのなら…主催者としては嬉しい限りです」
これだけの規模の大会はそうそう開けない。だが、参加者も観客もここまで盛り上がってくれたのなら、主催者冥利に尽きるものだとシロナは笑った。
「でも悔しいですよ。ぶっつけ本番だけど、ここまで上手く連携回せたのにその上を行かれたんですから」
「条件は五分だっただけに、悔しい限りだな!」
「やけに連携慣れしてた感じしますけど、練習したことあるんですか?」
「まともにやったのは一回だけ。練習はしたことないな」
「そうね」
このまともにやった一回というのは、マグマ団の一件。その他にやった試しはほとんどないため、シロナとカイムにとってもタッグバトルの試合は今回が初だった。
「初でこれか…全く、どういう仕組みしてるんだか」
「これが愛の力とやらではないか?」
「何言ってんすか…」
呆れたように呟くカイムにトウガンは豪快に笑い、カイムの肩を叩いた。
「素晴らしいバトルをありがとう。息子と共に二人とこうして戦えたことを、誇りに思う」
「ありがとう。本当に、本当に楽しいバトルでした」
トウガンから差し出された手をカイムが、ヒョウタから差し出された手をシロナが取り、硬い握手を交わした。
「こちらこそ。二人と戦えて、光栄でした」
「私の誘いに乗ってくれて、こんな素晴らしいバトルをさせてもらった。感謝しかないわ。本当にありがとう」
「次は、負けない」
「私たちが勝つ」
親子の似た笑顔を受け、シロナは笑い、カイムは無表情のまま頷いた。
「次も負けないわ」
「ああ。次も俺たちが勝つ」
「ふふ、楽しみだ」
そうして四人は歓声に応えながらフィールドを後にするのだった。
「はぁ〜せっかくのお祭り、負けちゃったな〜」
バックヤードに戻りながら呟くヒョウタにトウガンは笑いながら頷く。
「実に残念だ。もっと戦いたかったが、仕方あるまい」
「まあね。そこはもう負けたし仕方ない。でも、もう少しやりたかったっていうのはあるよ」
タッグバトルをここまでの大舞台でやれる機会などそうない。そんな素晴らしい機会を得られたのなら、もう少しやりたかったというのは当たり前の感情だろう。
「ふっ、そうだな。私もそう思うよ」
「だよね。ま〜負けちゃったから。全力だったんだけどな」
「連携の練度はともかく、時折向こうが用意してきていた策が我々の上を行った」
「だね。ああそうだ。聞きたいことがあったんだよ父さん」
ヒョウタの言葉に心当たりがないトウガンは首を傾げる。そんなトウガンを見て、ヒョウタは指を上に向けながら言った。
「ほら、ミカルゲのみちづれの時に言ってたこと。敢えて動かないってやつ」
「ああそれか。それはな、みちづれのタイミングを逃すことを防ぐためだ。みちづれは効果持続時間が短い。あの瞬間、ミカルゲがみちづれを使うことをカイム君は察したんだろう。だから下手に手を出してタイミングがズレることを避けるために、何もしなかったんだ」
「あ〜そういうことか!」
なるほど、とヒョウタは納得するが、同時にヒョウタは別の疑問が浮かんできた。
「…でも……カイムって、そんな瞬時に切り替えられるタイプだっけ」
「ふむ?」
「あいつがジムリーダーになってから何度かバトルしたけど、そんなに早いバトルが得意なタイプじゃないって感じなんだよね。対応力高いから見逃されてること多いとは思うけど、父さんや僕もあの瞬間にみちづれが来るってわからなかった。なのにカイムが瞬時にそれを察知して、『動かない』って判断ができたのはどうしてなんだろうって」
元々決めてたっていうならわかんないけど、とヒョウタは付け加えながら汗を拭う。ヒョウタの言葉を聞いて、トウガンは自分の仮説をヒョウタに伝えた。
「確証はないが、一つ仮説がある」
「え?どんな?」
「彼は、
「合わせて?」
「恐らく、シロナさんに。シロナさんの行動パターンや思考パターンをよく知る彼なら、できる芸当だろう」
トウガンの予想になるほど、とヒョウタは頷く。確かにカイムならシロナの行動を予想することもできるだろう。元より人読みは得意な方だ。納得はできる。
「じゃあ、最後の方のクロスファイアもそれによるもの?」
「いや、あれはまた別だろう」
「別?」
「シロナさんに合わせて動く。あれよりもさらに確証のない、推測を通り越して妄想やもしれんがな」
それでも、そうなのではないかと思う時は時折あった。カイムがジムトレーナーの時も、たまに違和感があるような動きを見せる時があった。ただ、「ん?」と思う程度で、そういうこともあるかと思う程度のもの。確証とはとても言えない。
「どんなこと?」
「もしかしたら、彼は…」
トウガンの言葉に、ヒョウタは驚いたように目を見開く。
「そうなの?」
「わからんがな。そうかも、程度のものだ」
「へえ…そうなんだ。まあそれなら、確かにあの瞬間のオーダーも納得できる」
尤も、トウガンも確証はない。それなら説明がつく程度のものである以上、その可能性がある程度に留めている。
「そうか。まあ、あいつならできるかも?」
「ほう?荒唐無稽に聞こえると思うのだが」
「僕はあいつのこと認めてるからね。できてもおかしくないかなって」
何に役立つかは知らないけど、と言いながらヒョウタは笑う。そんな柔軟かつ、楽しそうに笑いながら言う息子の様子を見て、トウガンも笑った。
「さて、戻るか」
「うん。いい着物だし、もう少し着ていたかったけどね」
「同感だ」
親子は悔しそうに、そして楽しそうに歩いていくのだった。
*
「は〜…疲れた」
「全力バトルはやっぱり疲れるわね…特に、慣れないバトルだったし」
スタジアムのポケモンセンターにポケモンを預け、着替えた二人は割り当てられている簡易フィールドに向かっていた。カイムはワイシャツとジーンズ、シロナは黒いシャツとスキニーという出立ちに着替えていた。
「やっぱり、あなたと一緒だとやりやすいわ」
「そいつは俺もだ。読みやすいから助かった」
「本当、変わってるわ。敵よりも
「別の競技で、そうした方がいいパターンもあったからな。それを参考にしたまでだ」
平然と答えているが、普通はそうならない。少なくともシロナはその結論には至らない。バトルをやめていた時期に経験をもとにしているとのことだが、何かしらチームスポーツ系統の経験をしたのかもしれないとシロナは考えた。
そこで前から歩いてくる人物を見つけ、二人は足を止める。
「あ、カイムさん。シロナさん」
「お疲れ様、スモモちゃん。スズナちゃんも」
「お疲れ様です!」
いたのはスモモとスズナ。今大会ではペアを組んでおり、ひと足先に試合を終えていた二人。そして、次の対戦相手でもある。
「まずは、おめでとう。素晴らしいバトルだったわ」
「ありがとうございます。シロナさん達もすごいバトルでした。おめでとうございます」
互いに一回戦を勝ち抜いた身であるため、勝ち抜いたことを互いに称える言葉を送る。そして、次の相手であることに闘志をたぎらせた。
「ありがとう。じゃあ、次のバトルはよろしくね」
「もちろん!あたしの気合いの入ったバトルと、ガラルで修行してきたスモモの力!お見せしますよ!」
カイムをジムリーダー代理として、スモモは一時期ガラル地方に修行しに行っていた。そしてガラル地方のジムリーダーであるサイトウと共に修行を重ね、強くなって戻ってきたことを言っている。
そんなスモモはカイムに目を向けると、真剣な表情で口を開く。
「あたし、また強くなりました」
「見ればわかる」
波導を完全に見えるようになったカイムの目に映るのは、鋭く鍛え抜かれた波導。スモモは波導を覚醒させていないが、それでも肉体を鍛えるうちに無意識に鍛えられた波導は、とても強い。トレーナーとしても、武闘家としても一流の領域にいることがよくわかる。
「カイムさん、お疲れのところすみませんが…一本だけ、組み手をお願いできないですか」
スモモの言葉にカイムは目を細める。
「……それは、
「こっちです」
スモモは拳を握りしめてカイムに突き出す。それはポケモンではなく、スモモとカイムが直接組み手をすることを示すものだった。
「そっちか」
「お二人は激闘の後です。なので、無理せず断っていただいても構いません」
「いや、すぐやろう」
カイムの申し出にシロナは意外そうに目を向ける。そんな視線を受けたカイムは怪訝そうに顔を顰めた。
「…なんだよ」
「いや、意外で。少し休んでからやると思ったから」
「今の方がいい。色々と、上がってるから」
上がっている、というのは恐らく調子のこと。疲労は大きいだろうが、それでも最高のバトルで上がった調子は、疲労をものともしない。多少無理をしていることに違いはないが、一本くらいなら問題ないだろうと判断した。
そして何より、今のスモモ相手に自分がどのくらいの位置にいるのか。それを確かめたかった。
「…ありがとうございます。では、あたし達のフィールドへ。スズナとシロナさんはどうされますか?」
「いくよ。面白そうだし、随分気合い入ってるじゃん?」
「私も行こうかな。いい刺激になりそうだから」
二人の言葉にスモモは頷いた。
「では、みなさんも一緒に」
ポケモンリーグスタジアムの簡易フィールドで、二人は向き合っていた。
「どうやる?」
ストレッチをしながらカイムは問いかける。
スモモも同様にストレッチをしながら口を開いた。
「いつも通りので。流派縛り、制限時間無し。一本判定は相互で」
「ん、OK」
いつもと変わらないような口調だが、どこかひりつくような空気。試合が始まる前と似た空気を感じ取り、シロナは腕を組む。
(そういえば…スモモちゃんとカイムが組み手するのを見るの、初めてかも)
カイムがジムトレーナーをしていた時も立地の関係もあり、シロナはあまりトバリシティには行かなかった。そのため、組み手の話は聞いていたが、実際にやるところは初めて見る。
「シロナ」
「ん?なに?」
そんなことを考えていると、カイムに声をかけられる。なんだろうと反応すると、カイムはストレッチを続けながら言った。
「俺とスモモが構えたら、『始め』の掛け声だけ頼む」
「ああ、うん。わかったわ。他に何か必要なことってある?」
「いや、とりあえず掛け声だけでいい。頼むわ」
「ええ。じゃあ私の合図で始めてもらうわね」
「お願いします」
スモモはストレッチを終えると軽くジャンプし、着地と同時に構えを取った。素人目から見ても隙がないように見える構えに、カイムは目を細める。
(…構えが変わってる。ガラル空手の構えがベースになってるな。やり方はどう変わったかな?ガラル空手が色濃く来てそうだなこりゃ)
スモモと共に修行していたのは、ガラル地方でガラル空手の申し子と言われるほど。天賦の才を持つスモモだが、まだ発展途上であるスモモよりも恐らく実力は上。スモモがガラル空手の申し子と言われるほどの者と修行をすれば、間違いなく実力は飛躍的に伸びる。修行から戻ってきた時に手合わせはしたが、それ以来していない。だから、今のスモモがどれほどで、今の自分がどんなものかを確かめたいとカイムは思っていた。
「さて…」
ストレッチを続けていたカイムは最後、背中側で両手を組んで伸ばす。そして脱力して手を離すと、ゆっくり両手を前に出して構えを取った。この両手を前に戻す動きが、スモモの目には水の流れのように見えた。
互いに構えを取ったまま、静寂が流れる。長い時間にも思える一瞬の時間の中、シロナが二人の間に立つ。
「準備はいい?」
「はい」
「ああ」
「では……始め!」
シロナの言葉と同時スモモが地面を蹴る。
「はぁ!」
一息で肉薄してきたスモモの拳は、真っ直ぐカイムの胴体を狙う。カイムは動じることなく流す。流された拳を引いたスモモは戻した反動を使って回転し、裏拳をカイムに叩き込む。カイムは肘で裏拳を
「ふっ!」
防いだ拳にさらに力を込め、カイムに衝撃をぶつけるが、鍛え抜かれた体幹が衝撃を押さえ込む。同時にスモモの拳を下に向けて流し、肘を振り抜く。スモモは左手でカイムの肘を受け止めた。カイムは受け止められた肘をずらし、体全体でぶつかる。
「むっ!」
スモモは咄嗟に背後に飛んで衝撃を緩和。同時にカイムは地面を強く踏み抜き、その衝撃を全て拳に乗せてスモモに攻撃した。スモモはカイムの攻撃を腕で受け、正面から受け切った。
(震脚!凄まじい膂力ですね!完全に防いでも腕にビリビリ来る!攻撃頻度はともかく、一撃の威力はサイトウさんより上!)
攻撃の頻度は明らかにサイトウの方が多い。きっとサイトウの方が与えるダメージは多くなるのだろうが、カイムの一撃は体の中心…体幹に響くような攻撃。強い、というよりは、巧い。それがカイムの武術だった。
(守りを上手く使って、一撃で沈める八極拳のような闘い方をする。そこは変わらないのに、攻めのキレが良くなってる!)
依然として攻勢に出ているのはスモモ。ガラル空手で学んだ型、歩法を使いこなしながらカイムを攻め立てる。
「ふっ!はぁ!」
正拳突きから回し蹴りを放つ。カイムは正拳突きを流水のように受け流し、回し蹴りを膝で受け止めた。
(重っ)
この組み手において、カイムは波導の身体強化は使っていない。纏った波導を維持しているだけで頑丈さが大きく上がっているが、膂力は強化されていない。しかし頑丈さは上がっている。だというのに、スモモはカイム自身の頑丈さを超える攻撃力を持っていた。成人男性と未成年少女という純粋な筋力に大きな差がある中でこれだ。ガラルから戻ってきてからもさらにハードなトレーニングを積んできたことがよくわかる。
「やあぁ!」
「っ!」
拳による鋭い一撃。紙一重で回避したが、反応が遅れれば間違いなく一本の鋭さだった。
スモモの攻撃は終わらない。回避された拳をそのままカイムが回避した方向に向けて振り下ろす。カイムは咄嗟に手の甲でスモモの攻撃を流すが、スモモは流された反動を利用して回転しながら跳び、回し蹴りをカイムにぶつけた。カイムも反応して足でスモモの回し蹴りを止めるが、スモモは着地するとさらに勢いをつけて回転し、上段蹴りをカイムに放つ。
「ふん!」
スモモの蹴りはカイムの腕により止められる。スモモの全力の蹴りであったとしても、カイムの防御は突破できない。
(なら、防御を上回る速度で!)
未成年少女のスモモがカイムの防御を攻撃力で突破できないのは仕方ない。体格、筋力ではどうあがいても勝てないことくらいはスモモも承知の上。勝てる部分はスピード。ならそれを武器にカイムの防御を上回るまでと、元々速い速度をさらに上げていく。
切れ目のない連撃。正拳突き、肘打ち、膝蹴り、ハイキック、踵落としと、素人目には一切隙のない連撃がカイムに向けられてどんどん放たれる。
(速度が上がった。しかもトップスピードにはまだ達してない。防御しきるのは…ちと厳しいな。瞬発力が高いから攻撃が鋭い。直撃はなくても、ちゃんと防御しないとすぐに崩される。なら…)
スモモがカイムの胴体に向けて鋭い蹴りを突き刺すように放つ。だがカイムは敢えて前に出ながら軸をずらし、スモモの蹴りを流した。同時に足を掴もうとしてくるが、それを察知したスモモは回し蹴りの要領でカイムの腕を打ち払う。
スモモは即座に体勢を戻すが、カイムは既に次の攻撃に入っている。前に出た勢いを利用し、背を向けながらスモモに体当たりしてきた。スモモは全力の突きを放つが、カイムの勢いの乗った体当たりはスモモの攻撃を受けながらも、ものともしなかった。スモモの攻撃を受けながらも、カイムはスモモに背中から突進し、大きく体勢を崩させた。
(鉄山靠⁈いや、近いけど違う!これは、あたしの突きを流しやすい角度で受けながら突進することで、攻撃と防御を同時にした動き!投げ技に近い鉄山靠とは似ているけど別物!)
カイムの動きに特別速度はない。単純な速度は確実にサイトウの方が上。しかし耐久力と一撃の重さは遥かにカイムが勝る。特に耐久力が尋常ではない。カイムに攻撃したとしても、まるで鋼の塊を殴っているかのような重厚な反動が腕や足に伝わる。元々体幹は強かったが、ここにきて一層体幹の強さに磨きがかかっていた。
(そうこなくては!)
崩した体勢を利用し、床についた手を軸に回転しながらハイキックを放つ。咄嗟にガードが間に合ったカイムだが、ガードを上に向けたことで一瞬足元が空いた。
「そこ!」
もう片方の足をカイムの脇腹あたりに叩きつける。ギリギリガードを下すことに成功したものの、追撃できるだけの隙はない。スモモは床についた手を起点にしてくるりと回ると、着地して元の構えに戻った。
一瞬の膠着。だが再び、スモモからカイムに向かって攻撃を開始する。
「…すご」
組み手を続ける二人を前に、スズナは思わず呟く。格闘技に馴染みのないスズナにとって、二人の組み手は凄まじいものに見えた。
そしてそれはシロナとて例外ではない。
「普段から身体能力が上のポケモンと組み手してるだけあるわよね」
「ポケモン相手にしてるならこれくらいできるもの…なんですかね」
「どうかしら…他の事例をあまり知らないからなんとも言えないわ」
そういえばフロンティアブレーンのコゴミもポケモンと組み手しているだのなんだのと話していたような気もする、とシロナは思い出す。ただ、コゴミとは組み手の話は深くしていない。故に確証がないため、シロナは口にしなかった。
そんなやり取りをしながらも組み手は続いている。スモモが攻撃しカイムが防ぎ、時折強烈な一撃がお見舞いされる。そんな攻防が続いていた。
「…どう見える?」
シロナの端的な問いかけに、スズナは腕を組みながら答えた。
「うーん、あたしは格闘技にそんな明るくないけど…多分、体術レベルはほとんど同じくらいだと思う。大きくスタイルは違うけど、一進一退が続いてるのはそういうことかなって」
「そうね、私もそう思う」
「スモモは速度が高い。言うなれば、連撃スタイル。対してカイムさんは攻撃を防ぎ、いなしながら致命の一撃を狙う
「そうね、私もそう思う」
「スモモの身軽さが目立つけど、カイムさんもあの体格ってことを考えると相当身軽だよね。パルクールやってたんだっけ。それならあの身軽さも納得」
さすがジムリーダーを長くやっているだけあり、専門外の格闘技でも一定の分析はできるんだなとシロナは内心で感心していた。
「体術は互角だけど、不利なのは
「どうしてそう思うの?」
「スモモの速度がどんどん上がってるけど、カイムさんの耐久力を超えるにはもう少し速度が必要だと思う。崩すってことがかなり難しそうだから速度で圧倒するって手段に出たんだろうけど…思いの外、カイムさんが速度に対応できてる。スモモの攻撃は少しずつ通り始めてるけど、でもまだ余裕があるのは多分カイムさん側。体幹…かな?多分体幹が強靭だから、スモモの攻撃を受けきれてる」
スモモの攻撃は確実にカイムに通り始めてる。余裕を持ってガードしきれていないことも増えてきたが、全てかする程度。この組み手の一本はダメージになる一撃をガード無しで受けること。要は胴体や頭部のように、相手の攻撃をガード無しで到達させた場合に一本となる。この条件ではカイムの方が不利に思えるが、ガード無しにするということは完全に体勢を崩された状態に陥らせるということ。そういう意味では、まだほとんど崩されていないカイムの方が余裕があった。
しかし、スモモの速度は依然として上がり続けている。少しずつ、自分の体幹に揺らぎが生じ始めていることをカイムは感じ取っていた。
「はっ!」
「っ!」
鋭い速度の一撃。重い拳の一撃を受け、カイムは確信した。
これがスモモのトップスピードだと。
(あたしの筋力でカイムさんの
スモモの修得している体術を、鍛えた肉体の速度に乗せる。シロナとスズナも目で追うことはできても、反応することはできないような速度の攻撃をカイムはいなし、捌き、受ける。しかし少しずつ、カイムの捌きがスモモの速度に追いつかなくなってきていた。
防御の一瞬を突いた両手両脚を使った連撃がカイムに叩き込まれる。咄嗟に防御で全て防いだが、カイムの体幹が致命的に揺らいだのをスモモは見逃さない。
「はぁ!」
アッパーのように腕を振り上げる。カイムの腕が防御することにより押し上げられ、完全に胴体ががら空きになった。
「ここ!」
がら空きの胴体に、掌底を叩き込んだ。
「なっ⁈」
はずだった。
スモモの掌底はカイムの脚によって受け流される。想定外の動きにより攻撃を流されたことで、今度はスモモの体幹が揺らぐ。そしてカイムはスモモの掌底を掴み、地面に向けて引っ張った。
体勢を崩したスモモは地面に倒れそうになったが、即座に地面に手をついて体勢を立て直す。カイムが追撃にきていることがわかったため反撃の正拳突きを放つが、カイムは避けることはせず受けながらもスモモの顔面に向けて掌底を突き出した。
「………」
「一手の差だが、詰みだ」
「……負けました」
カイムの掌底はスモモの顔面のすぐ目の前で止まっていた。しかしカイムがやろうと思えば、スモモの顔面に掌底を打ち込むこともできた。
この組み手は、カイムの勝利で終わる。スモモは構えを解くと、楽しそうに笑った。
「完敗です…また強くなりましたね」
「そりゃこっちのセリフだろ。ガラルから帰ってきてからまたさらに強くなりやがったな?」
「ガラルで教わったことをあたしなりに吸収し、さらに鍛えました。貴方を超えるために」
「俺程度を目標にすんな」
疲れたように息を吐きながらカイムは首を回す。組み手中は感じなかった疲労が一気に押し寄せる。やはり、全力の試合の後に組み手は体力的にきつかったらしい。後悔はないが、教訓にしようとカイムは心に刻んだ。
「んで?なんで組み手?」
「…さっきのバトルを見て、今のカイムさんと戦ってみたくなったんです。初めてジムに来た時とは見違えるようなバトルをするようになり、何度も拳を交わした…あなたと」
「そうか。本番は明日だがな」
カイムはシロナから受け取ったタオルで汗を拭い、スモモは楽しそうに笑いながら頷いた。
「組み手では負けましたけど、明日は負けません。あたしとスズナの力で、お二人を超えます」
「闘志が激ったから組み手を申し込んだってところか。やる気が有り余ってんのは結構だが、今後は相手の事情も汲んでやるといい」
「それは……すみません」
「…いやいい。乗ったのも俺だし」
素直にしゅんとするスモモに、カイムはやるせなくなりガリガリと頭をかきながら答える。まさかここまで素直に受け取るとは思わなかったため、少し意地悪しすぎたかと反省した。
そんな二人を見て、スズナは面白そうに口を開く。
「あー、カイムさんが女の子いじめてる〜」
「誤解と偏見に満ち溢れた言い方はやめてくれ」
「カイム、女の子をいじめないの」
「俺のせいか?俺のせいか」
死んだ目をしながらカイムは諦めたように呟く。こういう場合、まず間違いなく向こうの気が済むまでいじり倒されるのがオチだと理解しているから。
一頻りいじられ倒された後、カイム達は立ち上がる。
「んじゃ、また明日」
「よろしくね、二人とも」
「はい。必ず勝ちます」
「気合い入ったバトルするから、よろしくお願いします!」
それだけ言って二人は簡易フィールドを去る。
ロビーを歩きながら、シロナは問いかけてきた。
「明日、結構厳しいバトルになるかもね」
一回戦の二人が想像以上にいいバトルをした。チームポイントが少ない二人は使える道具の数も多い。それを利用し、スモモが相手を抑えている隙に強化アイテムでパワーアップしたスズナのポケモンが暴れるというなかなかいい采配だった。加えて、二人のエースはスズナ、スモモのポケモンと相性が悪い。シロナのガブリアスはスズナの氷タイプに、カイムのブラッキーはスモモの格闘タイプにめっぽう弱い。故にスズナ達視点では、シロナ達のポケモンは三体に縛れる。向こうのスカウティングは、比較的容易になるだろう。
「だろうな。とはいえ、どうにかせにゃならん以上、やるしかあるまい」
「そうね。休んだら、また打ち合わせしましょ」
「ああ」
そう言って二人は部屋に戻っていった。
一応二人はそれぞれの部屋を与えられているが、平然と同じ部屋に戻っていた。尤も、この事実にツッコミを入れる人は周囲にいないのだが。
『一回戦勝利、おめでとうございますシロナさん』
「ありがとうカトレア」
明日の打ち合わせを済ませて部屋に戻ってきたシロナは、カトレアとビデオ通話をしていた。
『タッグバトルでもあれだけの腕前を見せる。さすがですわ。アタクシも見習わなければいけませんね』
「ふふ、タッグバトルは難しいものね。今回も相手がカイムだったからあそこまで上手くできたわ」
『さすが。愛の力は素晴らしいわね』
平然と砂糖をぶち込んでくるシロナに少し皮肉混じりのいじりを言っても、この程度でシロナはもう動じなくなっていた。
『それで、そのカイムは?』
「今お風呂よ」
『あら、一緒に入らなくていいのですか?』
「………いいのよ」
『なんですか今の妙な間は』
カトレアの問いにシロナは目を逸らす。これは一緒に入りたいのか、それとも入ったのかはわからないが、妙にしおらしい。次からはこれでいじろうと決めつつ、カトレアは別の話をシロナに振った。
『まあ、それはいいとして…カイムについて少し聞きたいことがあったのです』
「カイムについて?何を?」
『バトルを見ていて思ったんですよ。どうして、カイムはシロナさんに
タッグバトルにおいて互いを援護するのは当たり前のこと。だが、カイムはシロナに対してあまりにも的確な援護をしていることが多かった。予め打ち合わせしていたとしても、相手の動きがどうなるかは完全にアドリブで対応するしかない。シロナが相手に合わせて動いたとしても、そのシロナがどう動くかはその瞬間までわからないはず。だというのに、シロナに合わせて攻撃とサポートを切り替える動きは、まるでタッグバトル慣れをしているように思えるほどだった。
「ああ、それね」
『カイムのサポート能力ならばあり得ないかもとも思いました。それにお二人には愛の力もあります。でも、まるでシロナさんの動きがわかっているかのような動き…どういう仕組みなのか気になりました』
「そうよね。優秀なトレーナーなら、多分みんなそれを疑問に思うと思うわ」
シロナも最初は疑問だった。だがタッグを組んだことで、その理由を今は完全に理解していた。
「カイムはね、タッグバトルの時は敵よりも味方のスカウティングに時間を使うの」
『味方の?』
「ええ。それは、タッグバトルにおいて重要なのは敵よりも味方の動き。
味方の動きに合わせて動く。これはチームプレイ系のスポーツではよくあることだが、
『なるほど…確かに、シングルやダブルでもオーダーを出すのは一人。だからこそ、タッグバトルでは味方の動き方に注意を払う必要がある。だから味方の動き方を把握しておき、バトルに反映させると』
「そう。カイムは元々、人読みは結構うまい。だからちゃんとスカウティングすれば、味方の動きに合わせて動けるのよ」
『そういうことでしたか…でも、それだけであそこまで動けるものなのですか?やっぱり愛の力ですか?』
「確かに愛してるけど、多分カイムは誰でも近しい動きはできると思うわよ」
『(平然と愛してるって言いましたね…)どういうことです?やっぱり、あの子はタッグバトル慣れしてるのですか?』
「慣れてはいないけど、慣れなくてもできるのよ」
シロナの言葉にカトレアは首を傾げる。
カイムは決して器用ではない。手先はそれなりに器用かもしれないが、すぐになんでもできるようなタイプではない。ある程度訓練を積めば話は別だが、初見でなんでもできるタイプではない以上、とてもカイムがいきなり対応できるタイプのバトルではないのではないかとカトレアは疑問に思う。
何しろ、タッグバトルはダブルバトル以上に複雑。まず意識するポケモンの数が倍になり、加えて敵どころか味方の動きすらコントロールできない。思考の瞬発力がないカイムでは、それこそ苦手分野なのではないかとカトレアは考えた。
しかし、シロナはそんなカトレアの考えを見透かすように、笑いながら答える。
「カイムはね、一つのことを突き詰めて考えるより並行して色々考える方が得意なの。だから考えることが増えたとしても、普段と同じくらいの速度で考えられるわけ」
『なるほど…情報源が多くても捌ける適性は多少あるってことですね。でもそれだけではないのでしょう?』
「ええ。タッグバトルに適した視点を、カイムは持っているのよ」
カトレアは首を傾げる。
そんなカトレアに、シロナは優しく笑いながら口を開いた。
「ねえカトレア。俯瞰ってわかる?」
『それはもちろん。イメージするなら、スポーツの試合を撮影しているカメラの映像ですよね』
「ええ。上から見下ろしているような視点」
『それがどうしたので……まさか』
カトレアは目を見開く。まさか、そんな視点を持つ者がいるのか、と。
そしてカトレアの疑問を確信させるようにシロナは頷いた。
「ええ、そのまさか。カイムは、フィールド全体を俯瞰で見られるだけの視野の広さを持っているの」
何故、情報源が増えたにも関わらずカイムが味方に合わせて澱みなく動けたか。それは並列思考と、俯瞰によるフィールド全体の把握を日常的に送っているからだった。どちらかだけでなく、両方を持つカイムだからこそ、タッグバトルという非常に変則的なバトルに対応できた。
『そ、そんなことが…あり得るのですか?』
「ええ。今日のバトルの最後、ラムパルドが凍った地面に足を踏み込んだ。カトレア、貴女はそれに気付けた?」
『い、いえ…フィールドに立っていても、多分気付けませんでした』
「そう、それが普通。私も気づいたというより、カイムが動いたから何かある、くらいの認識だったもの。あんなもの、フィールド全体を見渡せる視野がないとほぼ不可能だわ」
『確かに…でも、そんなに広い視野があるのなら、もう少しバトルに活かされてもいいのでは?どうしてカイムはその視野を普段のバトルにも活かさないのですか?』
広い視野は恐らくトレーナーとしてはかなり異色。ならばその視野を活かしたバトルなどあっても良いのでは。そう考えてカトレアは問いかけるが、シロナはカトレアの疑問に対してさらに疑問をぶつける。
「ポケモンバトルに、視野って必要?」
『え?』
「ダブルならともかく、シングルバトルで視野って必要かしら。フィールドのギミックが何かしらの形でバトルに影響するならともかく、普段のシングルバトルで意識すべきことって、自分と相手のポケモンだけじゃない?広い視野でフィールド全体を見て、何になるの?むしろ、不要な情報をいれてしまっているわだけだわ」
『あっ!』
シングルバトルにおいて、重要な要素は自分と相手のポケモンのみ。それなのに、カイムはフィールド全域の情報をいれ、ただでさえ早くない思考速度を余計に落とすという状況になっていた。
この視野について、カイムは知らない。ほぼ無意識にやっていたが故に自覚がなかった。この無自覚が案外曲者であり、シロナのバトル指導にも影響を受けていたのだが、今では不要な情報をいれないようにすることができるため、人並み以上のバトルができるようになったというわけだった。
「あの子は視野のことが無自覚だった。だから矯正するのは少し時間がかかったけど、今では不要な情報を取り入れずにバトルすることができる。けど見えてしまっていることに変わりはない。だからその情報を取り入れる必要がある環境になれば、その情報を活用することができるの」
『そうだったのですね…』
「広い視野は一見、特別な才能にも思えるけど…シングルバトルにおいては無用の才能なの。むしろ、邪魔をしていると言っても過言ではないわ。特にカイムは元の思考速度が早くない。余計に落とす要因になりかねないの」
『確かに…でも、どうしてカイムはそんな視野を身につけたの?』
「さあね。本人が無意識だから、私にもわからないわ」
なんとなく想像はつく。だが、この想像が合っているかはわからない。それに本人が無意識である以上、確かめようがない。故にシロナはわざわざ聞くこともせず、今はいつも通りバトルしてもらえればいいとしか考えていなかった。
『何か仮説でもあるのですか?』
「あるけど、確かめようがないもの。言う必要はないわ」
『お互い愛し合っているだけありますわね。そんなことまで理解しているというのは』
「まあ、ね?」
ほんの少し照れくさそうにしながら答えるシロナに、カトレアは諦めたように肩を竦める。どうやらこの程度のいじりはもう通じないらしい。ラブラブなんだからと少し呆れつつ、カトレアは笑った。
その後、カイムが戻ってきてからもカトレアと楽しく雑談を続け、明日に向けて二人は一つのベッドで眠りにつくのだった。
Cパート
目の前にいる存在が何故ここにいるのかわからず、シロナは混乱してしまう。ダイゴのことは無論知っている。ホウエン地方ギルドのチャンピオンだ。当然シロナとの交流もあった。
だが、ダイゴは時が止まった空間を調べに行って、行方不明になった。共に行った先遣隊は一週間後に発見されたが、ダイゴだけは戻ってこなかったという報告を受けている。ただ、飛行機の利用者にダイゴの名前があったのをカイムが発見しているため、もしかしたら戻ってきているのかもとは思っていたが、まさかこんな形で再会するとは夢にも思っていなかった。
「ダイゴ君、よね」
「ええ。正真正銘、ダイゴです」
「ど、どうして…」
「ちゃんと説明したいところですけど…今は時間がない。歩きながら説明します。着いてきてください」
ダイゴは立ち上がり、バッグからもう一枚の外套をシロナに手渡して歩き始める。シロナは状況を把握できていないが、今はついていくしかないと外套を羽織り、ダイゴの背中を追った。
シロナが着いてきていることを確認したダイゴは、足を止めることなく口を開いた。
「色々聞きたいとは思いますが、今は時間がない。今はこれからボクらがやるべきことを簡潔にお伝えします」
「やるべきこと?」
「Nとカイムを救出します。早くしないと、二人が危ない」
カイムが危ない、という言葉を聞いてシロナは目を見開く。
「ど、どういうこと⁈」
「Nとカイムは、ゲーチスに捕まっている。このままでは、二人はゲーチスによって殺されてしまう」
「そんな!」
「だから救い出します。ボクだけでは難しいけど、シロナさんが手伝ってくれるなら確率は大きく上がる。諸々の説明は救い出したら絶対にするので、今は力を貸してください」
ダイゴの真剣な声にシロナは一瞬の間を空けて頷く。
色々と聞きたいところだが、今はカイムを救うことが先決だと判断したからだ。この切り替えの速さは、やはり現場で数々の困難を切り抜けてきたが故なのだろうとダイゴは内心で考えた。
「ありがとうございます。じゃあ、作戦を説明します」
「ええ、お願い」
ダイゴとシロナは物陰に入り、ダイゴが取り出したタブレットを二人で見つめる。タブレットには建物の立体図面が映し出されていた。
「これが奴等…ゲーチスの拠点です」
「プラズマ団の、アジト?」
「プラズマ団はあくまで現代でゲーチスが集めた団体であり、この拠点はゲーチスとその側近3人だけのものです。プラズマ団はゲーチスの目的のために集められた集団ではなく、ギルドに近づくためだけに設立された団体なんだ」
「そう…それで、どうするの?」
「二手に分かれます。ボクはゲーチス達に顔が割れてる。だからボクが囮となって側近3人を引きつけるので、その隙にNとカイムのポケモンを回収してください。侵入はともかく、脱出のためには彼等の力も不可欠だ。Nのポケモンの反応はここ…ラボにある。恐らくカイムのポケモンも一緒に隔離されていると思いますので、ポケモンを回収した後、二人を救い出します」
Nのポケモンといえば、あの黒い龍。あれは恐らくポケモンなのだろう。そしてガブリアスですら瞬時に倒すことができるほどの力を持つポケモンである以上、外部から検知できたとしてもおかしくはない。あれだけの強力な力を敵に縛らせておくのは確かにまずいだろうとシロナは納得する。それと同時に、救出対象がどこにいるのかがわからなければ救出できないことと思い至る。
「二人はどこに?」
「二人はNにとって最も邪魔な存在。恐らく、始末される。だが、ゲーチス達も時渡りの反動ですぐには動けないはずだし、二人から情報を抜き取ろうとするはず。まだ始末されてはいないですが、時間がない。始末されるまでは、恐らく地下牢にいます」
「二人を救出するのは私とダイゴ君、どちらがやる?」
「可能ならボクが。ですが、側近の実力は高い。四天王レベルは優に持っている。逃げ回りながら二人の場所まで辿り着けるかは、五分。難しそうならシロナさんにお願いしたい。これを」
ダイゴはシロナに小さな端末のようなものを手渡される。
「これは互いの距離があまり離れていなければ通信ができる。ただ逃げている間、ボクはまともに連絡できない可能性がある。二人の救出を任せる時は、この端末を連続3回振動させて合図します。合図があったら、二人の救出を任せる、ということにしたい。どうでしょう」
「問題ないわ」
「じゃあこの端末の使い方と細かい部分を移動しながら詰めていきましょう」
そう言ってダイゴは立ち上がり、シロナもそれに続くのだった。
「全く…思ってたよりもダイゴ君って強引なのね!」
ゲーチスの拠点を走りながらシロナは呟く。
ダイゴとシロナは二人の救出作戦を実行している。ただこの作戦の導入が、まさかボスゴドラの『アイアンヘッド』による拠点の破壊活動からだとは思いもしなかったからだ。
作戦開始の合図が出ると、すぐに側近のうちの一人がダイゴの対処に現れるが、ダイゴは逃げ回りながらさらに拠点を破壊していく。そうこうしているうちにシロナは拠点への侵入を果たし、ポケモンの回収を終えて二人のもとへと向かっている最中だった。
(…未来の設備というだけあって、かなり技術が進歩している形跡がある。でも、この拠点以外の建物がない。そして何より、この世界は全て…時が停止した空間と同じように色がない。これが未来で、カイムとNがこの状況を作り出した…?本当に?)
ゲーチスの話では、未来は時間が止まっており、この状況を作り出したのはN。そしてその協力者としてカイムが動いていたとのこと。だがここ数ヶ月カイムと共に行動してきたシロナとしては、どうしてもそうは思えなかった。カイムはぶっきらぼうだが心優しい。故に、こんな状況を作り出そうとする者に協力するとは思えなかったからだ。
「だ、誰だ?」
「邪魔よ。はどうだん!」
研究者らしき男に遭遇するが、ルカリオの攻撃で一瞬にして黙らせる。時折研究者らしき人物はいるが、拠点の大きさの割に人数が少ないようにも思える。色々と情報が足りないため予想もできないが、ひとまずは二人の救出が優先だと思考を切り替えてシロナは走った。
そして目的地である地下牢まで辿り着く。無機質な石畳でできた空間の中、見張りが立っている牢屋が二つあるのを瞬時に把握した。
「む?誰だおま…」
「しんそく」
目にも止まらぬ速さで動いたルカリオが見張り二人の意識を瞬時に刈り取る。ルカリオに気絶した見張りを縛り上げるのを頼むと、ガブリアスを出して見張りがいた牢屋を覗き込んだ。
「カイム!」
そこには傷つけられ、ボロボロになったカイムがいた。息も意識もあるが、傷が痛むのか時折苦しそうに息を吐いていた。
ガブリアスに牢屋を壊させ、カイムの手錠も壊させると、倒れ込んできたカイムをシロナは受け止めた。
「よかった…カイム」
「シロナ…?なんで…」
「説明は後。Nを助けたら脱出するわ」
「…ああ、よかった」
それだけ呟いたカイムは安心したように目を閉じ、そのまま眠ってしまった。
トゲキッスにカイムを乗せて、シロナはNがいる牢屋に向かう。Nも傷を負っているが、こちらも無事だった。
「あなたがNね?」
「…キミは?」
「ダイゴ君の協力者よ。今助けるわ。少し待ってね」
再びガブリアスが牢屋と手錠を破壊する。解放されたNは立ち上がるとシロナに向き直った。
「ありがとう…本当に助かった」
「今は脱出しましょう。ダイゴ君が時間を稼いでいるけど、あまり待たせられないわ」
「うん。カイムは?」
「眠ってるわ。酷く傷つけられたみたい」
「…そうか」
Nの瞳に怒りが宿る。しかしその怒りを抑え込むと、シロナが手に持っていたボールへ目向ける。
「ボクの
「ええ。脱出には、二人の力もいるだろうって、ダイゴ君が」
「そうだね。ここのセキュリティは、入るのはともかく出るのが面倒だ。ただ、外でダイゴが暴れてくれているからね。今なら、力ずくでも脱出できると思う」
Nはシロナからボールを受け取ると、ボールを投げた。
ボールからは、いつの日か見た黒い龍が現れた。雷のようにほとばしるオーラを持つポケモンは大きく咆哮を上げると、Nに視線を向けた。
「こ、このポケモンは…」
「ボクの相棒、ゼクロム。イッシュ地方の伝説のポケモンさ」
「伝説のポケモン…」
「さあシロナ、ゼクロムにつかまって。ここから一気に出るよ」
ゼクロムに差し出された手に乗ったNの言葉に従い、シロナはゼクロムの肩につかまる。気絶しているカイムはNにおぶられた。
「いくよ、ゼクロム」
シロナがポケモン達をボールに戻したことを確認したNは、ゼクロムにそれだけを伝える。するとゼクロムは咆哮を上げ、全身に雷を纏いながら天井を突き破った。
(すごい!私やNが電気の影響を受けないように纏いながらも、これだけ厚い岩盤を破れるくらいのエネルギー!さすが伝説のポケモンね)
ゼクロムが纏った雷はシロナ達へ影響を与えることなく、しかし岩盤を破れるくらいの力を持っていた。一気に地上まで出たシロナ達は未だに逃げ続けるダイゴを見つける。
「ゼクロム、らいげき!」
ゼクロムの雷がゲーチスの側近に向けて放たれる。側近のポケモンはゼクロムの攻撃に焼かれて倒れ伏してしまった。
「N!」
「ダイゴ、こっちだ!」
周囲に雷を落とすことで他の側近がこちらに来ることを防ぎつつ、ゼクロムはダイゴの側に着地する。ダイゴはメタグロスをボールに戻すと、ゼクロムの足につかまった。
「出していいよN!」
「うん。ゼクロム、離脱だ!」
ゼクロムは再び雷を纏うと、空に向けて飛んでいく。ゼクロムを撃ち落とそうと側近達が攻撃してくるが、ゼクロムはものともせずに一気に飛び去っていった。
「…脱出したか。まあいい。お前達を始末する算段は既に立っているのだから」
そんなゼクロムの後ろ姿を拠点の屋上から見ていたゲーチスは、何か楔のようなものを手にしながら呟くのだった。
Q.スモモとの組み手は互角で終わったけど、カイムとサイトウと組み手したらどちらが勝つ?
A.ガラル空手のみの組み手なら間違いなくサイトウです。10回やっても10回サイトウが勝ちます。ただルール無用でどんな流派の動きでもいいなら、互角レベル。見切りが得意なカイムなら何度かバトルするうちにカイムの勝率が若干高くなるかも。
Q.この二人がペアになった時、他の人はどう思ってたの?
A.以下に記載します。二人の関係を把握している人には(把握済み)と記載します。
ヒョウタ「知ってた」(把握済み)
ナタネ「うーんこれは運命!」(把握済み)
スモモ「こんなところでも二人一緒…やはり、最高の相性ですね」(把握済み)
マキシ「ほう、手強そうだ」(知らないけどなんとなく察してる)
メリッサ「やっぱりこうなりマスヨネ」(把握済み)
トウガン「これが運命か」(把握済み)
スズナ「驚かないよね〜」(把握済み)
デンジ「さすがの相性だぜ」(把握済み)
Q.プレシャスボールってどんな扱い?
A.懸賞や記念に贈られることが多いボールです。一般的にも流通はしますが、数が少ないためやや高価。性能としてはモンスターボールとそう変わらないため、オシャレボールとしての認識が強いみたいです。我々プレイヤーほど希少価値のある扱いではありません。
Q.竜舞ハガネールって強いの?
A.多分、全然強く無い。鉄壁ボディプレスしてる方が絶対強い。
使用ポケモン
シロナ・カイムペア
ミカルゲ Lv.82 持ち物なし 特性『すりぬけ』
ロズレイド Lv.83 白いハーブ 特性『毒のトゲ』
メタグロス Lv.64 持ち物なし 特性『クリアボディ』
トリトドン Lv.66 達人の帯 特性『呼び水
ヒョウタ・トウガンペア
バンギラス Lv.68 突撃チョッキ 特性『砂起こし』
ラムパルド Lv.72 命の玉 特性『力ずく』
エアームド Lv.70 持ち物なし 特性『頑丈』
ハガネール Lv.71 オボンの実 特性『力ずく』
ストーンエッジ・縛
威力 20
命中率 70
攻撃力を捨てて飛び出した岩石で相手を拘束する技。威力はなく、命中率も粗いが、縛られた相手は少しの間動けず、技もキャンセルされる。強いか強くないかでいえば強く無いが、ダブルバトルでは結構使い道があるため、この大会のためにヒョウタが編み出した。
マジカルリーフ・刃
威力 70
命中率 100
マジカルリーフを両手に形成し、やや威力を上げた技。リーフブレードと違い特殊技判定だが、接触技にもなっているため、『ゴツゴツメット』や鮫肌の影響を受ける。
最終章です。
二人の結婚前に書きたい部分はこの大会まで。最近は結婚後の書きたい話が増えつつあります。
今のところ考えているのは、結婚式、二人の子供と一緒に縁のある場所を巡る(アルトマーレなど)、子供がパルデア地方に行く、旅の果てです。
シロナ
バトルにおいてはかなりオールラウンダー。大体なんでもできるし、それが一流の中でも上澄み。極めるレベルに達しているものがないが、『なんでもできるようにすることを極める』という特質的なバトルの極め方に達し始めている。
カイムの俯瞰に最初に気づいたのは、テンガン山での一件。多少伸びたといえど、多数を相手にして勝てるほどの実力はない。何か特異なものがあるのでは?と思っており、空の柱編でマグマ団を相手にした時にそれが確信に変わった。
バトルの時に着ていたスーツはイサナお手製。金色の装飾が多く、金と黒というシロナのイメージカラーにピッタリ。
波導の冴えが凄まじいことになっており、かつていた波導使いよりも強い波導を持つ。念能力なら多分特質系。
カイム
実は俯瞰持ち。かつて姉のイサナがバトル時にフィールドのいろんなものを利用するバトルを真似したくてフィールド全体を見る視野を知らず知らずのうちに身につけた。本人に自覚はないが、フィールド全体を見られるほど広い視野を持ち、バトル中もフィールド全域を視界に入れて情報を取っている。ただ、シングルバトルにおいては無用の才能。寧ろ下手にいろんな情報が入ってしまうことで別段速くない思考速度が更に落ちる。カイムの思考速度が訓練でも伸びなかったのはこれが要因の一つ。仮になかったとしてもそんなに伸びることはなく、結局瞬発力は普通程度。
スーツはシロナのものと同じ。ネクタイの色がラティオスの色以外は、シロナと同じ。
ヒョウタ
カイムのことは親友であると同時にライバルとして認識。現状、カイムとのシングルバトルの勝率は六割強で普通にカイムより強い。ただ、ダブルバトルの場合は勝率が二割まで落ちる(実際にやった回数は3回程度だが、バトル回数が増えたら二割程度)。これはヒョウタが弱いのではなくカイムの集団戦適性が異様に高いだけ。
着物はジョウト地方製。テレビコトブキで保有している着物であり、結構なお値段がする代物だとか。
トウガン
山籠りによって更なる耐久力を手に入れた鋼の男。サバイバルをする時には必ず連れて行きたい人材。今回のバトルは自然の中で鍛え抜いたトウガンのルール無用のサバイバル適性が上がったトウガンのサポートが上手く機能した。単純なシングルバトルの実力はジムリーダー以上で四天王と同じか若干劣るくらいで、数値的なイメージとしてはデンジくらい。
着ている着物はヒョウタ同様にジョウト地方製。ヒョウタとは違い肩に紺色の羽織りをかけているが、これも結構いいお値段するのだとか。
戦い抜く、という面においてはシロナすら上回る。実は波導を無意識に覚醒させているが、気づいていない。念能力なら間違いなく強化系。
タッグバトル書くの難しすぎ問題。
「お前が始めた物語だろ」と自分に言い聞かせながら書いてます。
投稿してから数日空けてランキングに載るパターンが多いのはなぜなのか。
9/6日間ランキング8位 ありがとうございます。