ただただシロナさんとまったり過ごすだけの話   作:職業病

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タッグバトル
2回戦

Q.時間がかかったことへの弁明は?
A.ありません。年内に更新できず申し訳ございません。書くのが難しすぎるタッグバトルを大会にしたことを少しだけ後悔してます。遠くない未来で二人を結婚させてお詫びするのでお許しくださいお願いしますイチャコラさせますから。



11/6 日間ランキング16位
ありがとうございます。

六万字です。
Cパート含めたら七万字です。

三万字を二回投稿すれば待ち期間を短くできるのでは?


……君のように勘のいい読者は大好きだよ。


57話 スズラン島②

「ん…」

 

 まだ日が上りきっていない時刻にシロナは目覚める。

 目の前にある愛おしい人の寝顔をぼんやりと見つめて体を起こす。眠い目を軽く擦り窓の外を見ると、見慣れない風景だった。

 ここはスズラン島のホテルの一室。シロナは現在、タッグバトルトーナメントの主催者原作参加者としてスズラン島に滞在していた。

 

「ふぁ…」

 

 大きく伸びつつ、布団の中に再び潜る。何故目が覚めたのかはわからない。だが、起きるには早すぎる。再び眠ろうと布団に潜ったものの、なんとなく目が覚めてしまったためか眠れそうにない。

 

「んー…」

 

 どこか、興奮してしまっているのかもしれない。これからあるバトルが楽しみで、昂っている。それならば、眠れないのも仕方ない。だが、昨日のバトルの疲労は全く感じない。

 

(寝る前にしてくれたカイムのマッサージ…本当によく効くわ。よく眠れたし、睡眠による疲労回復効果が普通に寝るより遥かにいい。本当にサポート能力は一流ね)

 

 昨日寝る時はそれなりに感じていた疲労が今は感じない。無論、完全に消えたわけではないのだろうが、全力を出しても差し支えないレベルには回復している。

 そしてそのカイムは、穏やかな寝息をたてながら静かに眠っていた。いつもながら眠りは非常に深く、シロナが少し動いた程度では全く起きる様子がなかった。

 

「………えい」

 

 むにむにとカイムの頬を突いて遊ぶが、カイムは起きる気配がない。もしかしたら、眠っているカイムの意識は悪夢の領域に踏み込み、ダークライと出会っているのかもしれない。

 

(…あれ以来、カイムからは悪夢の気配はない。もうカイムの中に悪夢の力は残っていないのかしら?私は悪夢の気配はあまり感じられないからわかんないのよね)

 

 シロナはクレセリアの力との親和性はあるが、ダークライの力との親和性はない。そのためカイムの中に悪夢の力が溜まっていたとしても、気配を感じ取ることがいまいちできない。前のように極限まで溜め込めば恐らく気配は感じるが、微妙に溜まっている程度ではまず感じ取れない。

 ダークライとの関係は今、どうなっているのかはシロナも知らない。カイムがわざわざ言わないというのもあるかもしれないが、多分カイムは夢の中のことをはっきりと覚えていないのではないかとシロナは考えていた。なんとなく会ったかどうか程度は記憶しているのかもしれないが、その程度のことをわざわざ報告する必要もないだろうとか考えているのかもしれない。

 

「……本当、深く眠るわよね」

 

 これだけ頬を突いて遊んでいても全く起きる気配がない。バトルの疲労が大きいのもあるだろうが、元々非常に深く眠る。そのため起きてこないことは不思議ではないが、普通ならこれだけ遊ばれたら起きるだろう。それでもなお微動だにせず眠り続けられるのは、ある意味才能かもしれない。

 健やかに眠るカイムは、普段よりほんの少しだけ幼く見える。普段は無表情か眉間に皺が寄った顰めっ面が多い。こうして穏やかに眠る姿は、どことなく幼い頃のカイムの表情を思い出させた。

 

(可愛いかったなぁ)

 

 時の結晶が何故か反応し、カイムを幼い頃の姿に変えた時があった。当時はまだ自分のポケモンを持っていない頃の年齢だったため、未来の自分のポケモンを見て目を輝かせていた。当時からあまり表情が動かない子供だったようだが、少なくとも今よりは表情筋が仕事をしていた。何より素直で、小言も言わない。カトレアのことを素直に『可愛い』と言ったりしていたこともあったため、どうしてこんな風になってしまったのかと元に戻ったカイムを見てカトレアが絶望していたことも記憶に新しい。

 

「今の方が好きだけどね」

 

 確かに、可愛くはあった。だが自分が惚れたのは、今の彼。例え昔のカイムがどれだけかわいい男の子であったとしても、それはそれ。今を一緒に生きていたいのは、今のカイムだ。その思いは決して変わることはないだろう。

 

「……」

 

 彼と歩んできた道も、それなりの長さになった。この道がこれから先も続いてほしいと願うし、彼もそう思っていてほしいとシロナは思っていた。最近カイムが何かこそこそしていることは、なんとなくポケモン達が教えてくれているし、様子を見ていればわかる。何をしようとしてくれているのかは全くわからないが、シロナの誕生日も来月に迫っている。それ関連なのだろうとシロナはアタリをつけていた。こういうサプライズ的な隠し事をすることがあまり得意ではないとカイムは自覚しているはずだが、それでもやろうとしてくれていることがシロナは嬉しかった。故に、何も言わずにいた。

 

「今年は何をしてくれるの?」

 

 そう問いかけるが、返事はない。ただ穏やかな寝息だけが部屋に響いている。

 なんとなくシロナはカイムの前髪を撫でた。あまり癖のない少し固めの黒髪がシロナの指の間をぬけていく感覚を感じながら、その額に優しく口付けを落とす。そしてカイムの頭を優しく自分の胸に抱えるように抱きしめた。

 

「カイム」

 

 小さい声でカイムの名を呼ぶ。本当に小さい声で、静かな部屋でも聞き取れるか怪しいほどの声量の声は、カイムの()に届いた。

 

「…ん」

「あ」

 

 ふと、カイムが目を開く。カイムを起こすにはコツが必要で、シロナは完全に掴んでいた。だが、普段の癖でカイムを起こしてしまったらしい。

 

「……今、何時だ」

「5時過ぎ」

「早…道理で暗いわけだ」

 

 あくびをしながら視線を外に向ける。カーテンの向こうはまだ暗く、ようやく空が白み始めてきた頃だった。起きるには少し早すぎる。

 

「起きるにはちと早すぎるな」

「二度寝する?」

「あー…まあそれもいいが、あんま寝られる気がしねえや」

 

 眠気はまだあるが、疲労感はない。眠れないこともないだろうが、なんとなくまた眠る気にはなれなかった。

 

「つか、そっちはなんで起きてんだ。なんかあったか」

「んー?なにも。なんか、起きちゃった」

「…戦闘狂が」

 

 なんとなくバトルを楽しみにして昂りがあったのだろうとカイムは予想し、呆れたようにため息を吐いた。

 対してシロナは、胸に抱いたカイムの頭を優しく撫でる。そして何を思ったのか、カイムの頭を抱いたまま自分の体が下になるようにもぞもぞと動いた。結果的に、カイムはシロナの上にのし掛かるような体勢になった。

 

「…どうした」

「あなたの重みと温もりを感じてる」

「…?」

「こうすると、あなたの体重が全部私にかかる。あなたの体温も、全部感じられる。あなたという存在が私の上にあるのが…好き」

 

 体重と体温。存在…命とも言える体重と体温を感じられることが好きだった。こうしてカイムの存在を感じることに安心感を覚えるようになったのは、ダークライの一件があった時から。

 

「たまに下敷きにされてるのは知ってたけど、まさかそんな理由があったとはな」

「知ってたの?」

「ぼんやりと。たまにないか?起きてないけど、ぼんやりと意識が戻ること」

「わかるけど、眠りの深いあなたにあるの?」

「ダークライの一件からな。多分、悪夢の領域に触れた時に夢の中から自分のことを見てる感じ」

 

 寝てるから記憶が曖昧だけどな、とシロナの耳元で付け加える。確証はなかったが、やはりカイムの眠りはダークライの力を取り込んだことで何かしら変化があったらしい。

 

「体は寝てるけど、意識はあるみたいな感じね」

「わかるのか?」

「ええ。あなたと違って、私の眠りは普通だから」

「人の寝方を異様みたいに言うんじゃねえ」

 

 シロナにのし掛かったまま抗議してくるカイムの頬に、シロナは自分の頬を擦り付けるように寄り添う。そのままカイムの背中に腕を回して、シロナは力強く抱きしめた。

 

「ねえ、わかる?」

「何が」

「あなたの鼓動と私の鼓動…同じリズムよ」

 

 そう言われて鼓動を意識してみると、確かにその通りだった。自分とシロナの心音はほぼ同じリズムを刻んでおり、お互いの心音が一つになったように感じられた。

 

「みたいだな」

「ふふ、たまたまなんだろうけど、なんか嬉しいわ」

「そうだな」

 

 カイムはシロナの頬を優しく撫でながら呟く。

 

「なあ」

「んー?」

「今日のバトルの方針…シロナは…その…」

 

 珍しく口籠るカイムの意図を察したシロナは、カイムの背中を優しく撫でながら答えた。

 

「怒ってないわよ。怒る理由なんかないもの」

 

 今二人が話していることは、今日あるスズナ、スモモペアとのバトル方針について。ヒョウタ、トウガンペア同様にカイムが方針を決めてバトルに臨むのだが、その方針についてカイムにはまだ少し迷いがあった。

 

「……」

「逆に、私が同じこと言ったらあなたは怒るの?」

「いや、それはない。ただ…自信がないように思われるんじゃねーかって」

「そこは否定しないわ」

 

 確かに、()()()()()()()()()()自信がないように思える。己の矜持(プライド)と理性…二つがせめぎ合い、どことなくちぐはぐに思えるような方針に見えなくもない。

 だがシロナとしては、こうして自分と相手の実力を正しく判断できていることが何よりも成長の証だと思えていた。

 

「自信がないのはいつもだけど、今回は違う。あなたは向こうと自分の実力を正しく把握できているからこそだもの。決して悪いことじゃないわ」

「…ああ」

「そう言っても、あなたは多分納得しないわよね。面倒な性格してるもの」

「おい」

「事実でしょ?」

 

 否定しきれずカイムは黙る。自分で決めて、シロナもそれに賛同した。だというのに今更またこうして迷う。自分でも面倒だとは思っている以上、否定できなかった。

 

「いい?カイム。迷うこと、疑うこと、恐怖することは決して悪いことじゃないの。その迷いや疑問、恐怖を()()()()()()()()()()()()()()()()が悪いことなの。これらはうまく使えば咄嗟に正しい判断を察知することに応用できるけど、膨れ上がると足枷になる。だから、本番前にたくさんこれらを吐き出しておくことは大切なことよ」

 

 なるほど、とカイムは納得する。

 バトル中に疑問を持つことはよくある。だがこの疑問を抱えすぎてしまうと、判断力を大きく損なってしまうことは実に身に覚えのある経験であった。

 

「あなたの疑問は決して間違いじゃない。だから、今のうちにたくさん出して」

「…そうだな」

「本当、あなたって『人間自分のことになると馬鹿になる』を体現してるわね」

「ほっとけ。お前も例外じゃねえだろ」

「そんなことないわよ!……ないわよね?」

「家事」

「…………」

 

 リーサルウェポンのような言葉を言われてシロナは黙る。そのことを言われると、確かにシロナは何もいえない。まともになってきたとはいえ、まだ一般レベルとは言い難い。それを理解しているシロナは何も言うことなくカイムの背中に回した手でカイムの背中を叩いた。

 

「キレんなよ。事実だろ」

「…うるさい。それに今はもういいの」

「良くねえだろ…」

「いいの!今はもう、あなたがいるから」

 

 自分の家事レベルがどれほど酷いかは自覚している。最低限どうにかしようとは思っているが、大体のことはカイムがどうにかしてくれるから無理にやろうとも思わなくなった。そもそも一人の場合思うことすらしなかったのだろうが、それは言わないでおく。

 

「俺がいない時はどうすんだよ」

「あら、そんな時あるの?」

 

 そう言ってシロナはカイムの耳元に自らの口を近づけた。

 

「ずっと側にいてくれるんでしょ?」

 

 その言葉にカイムは目を見開く。

 

「…ああ。シロナがそれを、望んでくれるのなら」

「もちろん、あなたでなければダメなの。だから側にいてね」

「…ああ」

 

 それだけ言ってカイムは大きく息を吐く。どこか安心したようなため息の真意はわからないが、側にいてくれると言ってくれた。それだけでいいと思えた。

 

「それはそれとして、俺が不在の時も今後ある。最低限どうにかできるようにはしろ」

「台無し」

 

 シロナは苦い顔をしながらカイムの頬を引っ張るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ、はっ」

 

 ホテルの簡易フィールドで、スモモは一人鍛錬をする。ガラル地方で学んだガラル空手の真髄。これを今まで自分が培ってきた格闘技と組み合わせ、自分なりに昇華させるために。

 

「朝から精が出るね、スモモ」

 

 そんなスモモに一人の少女が歩み寄る。

 

「おはようございます、スズナ」

「ん、おはよう。朝からいい気合いね」

 

 快活に笑う少女はスズナ。スモモと共にタッグバトルトーナメントを戦い抜く相方だった。

 

「朝からトレーニング?」

「トレーニングというか…ウォーミングアップです」

「アップにしては早すぎない?あたしたち、バトル午後よ?」

 

 第二試合であるスモモ達のバトルは午後。まだ早朝の今からアップをするには些か早すぎるように思えた。

 無論スモモとてわかってはいる。ただ、どうにも抑えきれない何かがスモモの中で渦巻いていた。

 

「…わかってます。ただ…どうにも落ち着かなくて」

「バトル、楽しみなんだ。気持ちはよくわかるけどね」

「楽しみ…はい、そうだと思います」

「いいね。スモモをそうさせてるのは…どっち?」

 

 どっち、というのは、対戦相手のことだとスモモは即座に理解する。そしてその問いかけの答えは、すでに出ていた。

 

「どちらも、というのが正確です。ただどちらかを選べ、と言われたら…カイムさんですね」

「ふーん?シンオウ最強のトレーナーより、新人ジムリーダーの方とはね」

「意地悪ですよスズナ」

「あはは!ごめんごめん。でも、実際どうして?確かにカイムさんは強い。それに思い入れが強いのはよくわかるけど、あたしが想像してるよりずっと気合い入ってんじゃん。なんでかなって」

 

 スズナ視点、スモモがカイムへの思い入れが強いのは理解している。同じジムで切磋琢磨し、一時的とはいえスモモを負かした。なんの特徴もない大した実力も持たないトレーナーが、代理を任せられるほどにまで成長したこともあり、日頃から鍛錬に付き合っていたスモモとしても思い入れがあることはなんら違和感はない。

 だが、シンオウ地方最強のトレーナーであるシロナを前にしても同じ感想になるかと言われると、少なくともスズナは否と答えていただろう。だからスモモにどうしてそう思ったのかを問いかけた。

 スモモは視線を鋭くしながら汗を拭い、答える。

 

「あの人は、あたしに追われる立場になることを教えてくれたからです」

「んー?」

「あたし、今のジムリーダーの中だと一番歳下じゃないですか。実力もジムリーダーの中ではまだまだだ下の方だと思ってます。だからずっと、ジムリーダーになってからは誰かの背中を追いかける立場だったんです。まだあたしは幼いこともあってか、誰かの目標になることがなかったんですよ。だから、初めて誰かの目標にしてくれたのがカイムさんだったんです」

 

 なるほど、とスズナは納得する。スズナもジムリーダーという立場である以上、程度に差はあれどいろんな人に目標とされてきた。故に、誰かの目標となる、誰かに追われる立場になることのプレッシャーは理解していた。

 人を追いかけるより追われる方がはるかにプレッシャーを受ける。スモモはカイムが初めて追いかけて来る存在だったらしい。だからこそカイムへの思い入れが強いのだと理解する。

 

「最初は全く相手にならない…それこそ、バッジをギリギリ集め終えられる程度の腕前だった。でも日を追うごとに着実に距離を詰めて来るのは、正直怖かった。気づいたらあたしの背中に手が届くような距離にいた。初めて引き分けた日、カイムさんのことを初めて怖いと思ったんです」

「怖いか。うん、わかる」

「その瞬間、あたしは自分がジムリーダーの中で一番歳下だって立場に甘えていたことを…なんとなく理解したんです。上しか見てなかったから、自分に足りないものがどんなに多いかに気づけた。だから、負けたくない」

 

 不敵に笑いながら言うスモモに、スズナは笑いかける。気合いが入りすぎているような懸念もあったが、このテンションならコンディションは最高になるだろうと安心できた。

 

「その様子だと大丈夫そうだね」

「?」

「あたしも気合い入ったバトルは大好きだけどさ、スモモはちょっと加減が下手だから気合い入りすぎてないか心配してたんだ。でもこの様子なら大丈夫だね」

「そうですか?」

(…自覚なしか。カイムさんがうまくコントロールしてくれてたんだね…)

 

 スズナもだが、スモモも夢中になると周りが見えなくなる気質が強い。トバリジムのトレーナーはスモモも含めて全員が脳筋気質であるため、オーバーワークではないかと思えることも多かった。カイムが来てからその雰囲気はほぼなくなったが、サポーターとして優秀なカイムがうまくコントロールしていたおかげだったのだろうとスズナは考えた。ただコントロールがうますぎて本人たちが全く自覚せずにここまで来てしまったという弊害もあるのだが。

 

「ま、それはいいや。それで、問題のバトルは昨日の打ち合わせ通りでいい?」

「はい。あたし達の選択肢からはあれ以外ないと思います」

「だね。()()()()()()()()()()は、ここで切っていいの?決勝まで残しておかなくていい?」

「ここで切らないと次もない。だからここで行きます。それに、切り札を切るのはあたしだけではないでしょう?」

 

 グローブを外して汗を拭いながら伏せた目に宿る光は非常に強い。ちゃんと考えがあることに安心しながら、スズナも同意するように頷いた。

 

「あたしも同じ考え!じゃああとは調整と衣装…あ、衣装は昨日決めたか」

「あたしの我儘ですけど…いいんですか?」

 

 二人が次の試合で着る衣装はスモモの要望が反映されたもの。正直、スズナにとっては全く思い入れがない衣装のはずだが、それでもいいのかとスモモは問いかけた。だがスズナは快活に笑って頷く。

 

「いいよ!デザインも可愛いし、気に入ってる!それに、今回の方針的にもスモモの要望が強い方がいいでしょ?」

 

 シンオウ地方では馴染みのない衣装ではあるが、デザインとしては気に入っている。ガラル地方ではジムリーダーもチャレンジャーも皆来ているものらしい。そしてスズナが着る予定のものは、ガラル地方の氷タイプジムリーダーのものをアレンジしたもの。

 

「ありがとうございます。じゃあ、今回も勝ちましょう!」

「もっちろん!チャンピオンもスモモのライバルも、気合い入ったバトルでぶち抜いて優勝するんだから!」

 

 スズナは不敵に笑い、学生服についているリボンを強く握りしめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 選手控室。

 シロナは前の試合を備え付けのモニターで眺めていた。バトルの組み合わせはモンスターボールペアであるヒカリ、ジュンペアと、パークボールペアのデンジ、オーバペアだった。

 ヒカリのヨノワールがオーバのブーバーンと相打ちし、ジュンのカビゴンがレントラーを『ギガインパクト』で撃ち抜き、決着となる。

 

 決勝に駒を進めたのは、ヒカリ・ジュンのルーキーペアだった。

 

 下馬評としてはオーバ、デンジのペアは優勝候補とも言われるほどの実力だった。四天王No.3とジムリーダーNo.1のペアであればこの下馬評は正しいと言える。だがヒカリとジュンは持ち物と瞬間強化アイテムをうまく使って盤面をコントロールし、地力で劣る対面でありながらもなんとか勝利を納めた。

 

「…招待してよかったわ」

 

 なんとなく、こうなる気はしていた。

 あの二人の実力はジムリーダーと同等レベル。地力だけならばカイムとそこまでの差はないが、ジュンはゴリ押しで自分のスタイルを押し付けるゲームセンス、ヒカリは逆境の中で逆転の一手を導き出す閃きと爆発力がある。ジュンのスタイルにヒカリの爆発力がうまく噛み合った時、凌ぐのはシロナですら難しいかもしれない。

 

「でも今は目の前のことに集中」

 

 そう言ってシロナは自分の衣装に目を落とす。普段見たことがないような特殊な服装に、シロナは背筋が伸びる空気を感じ取った。

 

「波導使いの服、か」

 

 シロナが身に纏っているのは、かつて存在した波導使いが着用していた服だった。この大会が始まる前に波導について教えてくれたゲンが二人のもとを訪れ、この服を提供してくれた。なんでも、波導使いとして一人前になった者が着用するものなのだとか。シロナの波導はすでに非常に強く鍛え上げられており、カイムの波導も鍛えた波導使いほどではないにしろ、一般人と比べてはるかに強いものに成長した。この事実を讃えてゲンが二人に波導使いの服を提供してくれたため、二人は今回の大会で着ることを選んだ。

 カイムは現在、この波導使いの服へと着替えに行っている。過去、シンオウ地方やカントー地方には多くの波導使いがいたらしく、その頃は男女関係なく波導使いがいた。当時の服装は波導使いが少なくなった今でも途絶えておらず、密かに伝わっている。

 

『今のお二人はこの服を贈るのに相応しい。受け取ってはくれないだろうか』

 

 大会前に突然ミオジムを訪れ、ゲンにこの服を渡されたことは記憶に新しい。シロナはともかくカイムは未熟である自覚があったため渋っていたが、最後はシロナとゲンの言葉に納得して受け取った。波導を感知できるようになったからこそ、自分とシロナ、ゲンの違いがわかるようにはなっていた。だからこそ拒否しようとしていたが、未来への期待も込めてと言われたら拒否できなかった。

 

「試合、どうなった」

 

 そんなことを考えていると、カイムが戻って来る。服はシロナとデザインが少し異なる波導使いの服装だった。

 

「おかえり。試合はヒカリちゃんペアの勝ち」

「そうか。そうなる気もしていたから、驚きはない。だがシンプルな実力ならデンジペアの方が上だったが…あの二人はポテンシャルが凄まじいからな」

 

 そう言ってカイムは手袋を机に置きながらシロナの正面に腰掛ける。見慣れない服装のカイムをシロナはじっと見つめ、その視線に気づいたカイムは表情を歪めた。

 

「やっぱ似合ってねえか」

「似合ってるわよ。新鮮なだけ」

「そうかい。シロナは何着ても様になるな」

「ふふ、ありがと」

 

 慣れない格好で落ち着かないのか、カイムは腰につけたチェーンを手で弄りながら目を伏せる。このチェーンはシロナの服にはない。カイムの私物であり、今日の試合において鍵になる道具でもあった。

 

「落ち着かない?」

「試合はともかく、服装は落ち着かん。始まっちまえば気にならなくなるんだろうがな」

「そんなものよね」

 

 どんな服装であろうと、一度始まれば気にならなくなる。ポケモンバトルというのはそういうものだと、参加者の誰もが理解しているからこそ、好きな衣装での参加に反論する者はいなかった。

 

「それはそれとして、俺が着るにはちと早すぎる気もするがな」

 

 カイムもシロナ同様に波導使いの服装を身に纏っている。この服装は本来、波導使いとして認められた者が贈られるものだが、カイムの波導はまだ未熟。一人前と言われるには、些か未熟が過ぎることは理解していた。

 そんなカイムにシロナは優しく微笑む。

 

「かもしれないわね。でも、あなたの心の在り方は波導使いとして大切なものを理解しているってゲンさんが言ってたでしょ?波導そのものはまだ未熟でも、あなたの心の在り方を忘れなければ必ず成長するって言われたんだし、その期待も込めてよ。胸を張れとは言わないけど、卑下しちゃダメよ」

「…ああ」

「重い?」

 

 どういう意味の『重い』なのか。それを理解しているカイムは首を振った。

 

「いいや、仲間や師匠の期待が、重かったことはねえ。重くしすぎているのは、俺のメンタルだ」

「わかっているのならいいわ」

 

 大して歳は違わないというのに、これほどまで達観してるシロナに苦笑しつつ、カイムはモニターに目を向ける。次の試合のスタンバイをするのにちょうどいい時間が迫ってきていた。

 その瞬間、シロナのスマートフォンが振動する。画面を見るとメッセージが一通通知されており、その内容を見てシロナは小さく笑った。

 

「誰からだ?」

「イサナさん」

「は?姉貴?」

 

 想定外の人物の名前にカイムは驚いたように目を見開く。

 

「ええ。今回、スモモちゃん達の衣装について少しね」

「……ああ、なるほど」

 

 カイムの姉であるイサナは、ガラル地方でブティックを営んでいる。イサナの店では、ガラル地方のリーグ参加者ならば誰もが着用するユニフォームのデザインもしているため、それ関連だろうとカイムは納得した。

 

「なんて?」

「がんばってねって」

「それだけとは思えんな」

 

 あの姉のことだ。どうせいらないことも言ってきたのだろうとカイムは苦い顔をし、そしてカイムが想像した通りだった。

 

『今回相手の二人、あたしがオーダーメイドで仕立てたユニ着てるみたいよ!あたしの魂が宿ったユニ着てる二人に、簡単に勝てるとは思わないことね!ま、それはそれとして…二人のことを一番に応援してるのは変わんないよ。超〜手強い相手になると思うけど、頑張ってね!』

 

 画面に表示されたメッセージを見せられ、カイムは顔を顰める。スモモが留学から帰ってきてジムリーダーの引き継ぎをしている時、スズナへのお土産でユニフォームを買ったみたいな話をスモモがしていたことを思い出した。恐らくそのユニフォームをデザインしたのがイサナなのだろう。

 

「あのバケモンの魂宿ったユニか。元々手強いと思っちゃいたが、こいつはぁ一層気合い入れねえとな」

「スズナちゃんの気合いに負けないようにしないとね」

「違いねえ」

 

 カイムは立ち上がると、一回戦でもつけていた革手袋をつける。波導使いの服に合わせたカラーリングではなかったはずだが、思いの外波導使いの服と合う。案外違和感ないものだなと内心で感心しつつ、シロナに目を向けた。

 

「そろそろ行くか」

「ええ」

 

 そう言ってシロナは手を差し出す。

 カイムはその手を取ると、エスコートするように手を引いて二人は控室から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『続けていきましょう!2回戦第2試合!フェザーボールペア対プレシャスボールペアのバトルになります!まずはフェザーボールペア!スモモ、スズナペアの入場です!』

 

 司会のアナウンスと同時に、スモモとスズナがスタジアムゲートから姿を見せる。

 二人の衣装は普段とは異なるもの。スズナもスモモも、スポーツで着るようなスポーティなユニフォームだった。スモモのユニフォームは、ガラル地方格闘タイプジムリーダーのサイトウとほぼ同じデザインで、スズナはガラル地方氷タイプジムリーダーのメロンのデザインをスズナ風にアレンジしたものになっていた。

 

「やっぱいいね、このユニ。これから競技をやるって実感がすごく湧いて来るよ」

「わかります。だからこそ、この場で着たかったんです。あたしが学んだことをぶつけるためにも」

「いい気合いね!さあ、あたし達のお相手が出てくるわよ」

『続いてはプレシャスボールペア!シロナ、カイムの入場です!』

 

 司会のアナウンスが響くと、スモモ達の向かい側にあるゲートから二人の人影が見えた。

 シロナとカイム。二人が纏う服は非常に似通っており、見たことのないものだった。黒と青を基調としたカラーリングであり、動きやすそうでありながら厳かさもある。どことなく戦うことを考えた服装に見えるが、さすがにどういった服なのかまではわからなかった。

 服装もさることながら、二人から溢れ出る殺気にも似た空気は、スモモとスズナに冷や汗を流させるには十分なものだった。二人とも洗練された覇気(波導)を纏っており、シロナは鋭く研がれた刃のように、カイムは陽炎のように揺らめきながらも焼かれるような熱を纏っているような空気を感じる。

 

「ビリビリ来るね」

「ええ。これほどとは」

 

 二人とバトルをしたことはある。スモモに至っては、カイム相手には何度もバトルしている。だが、本番と練習でここまで雰囲気が変わる相手も珍しい。シロナはもちろん、大会にあまり出ないカイムの雰囲気の変わり様は異様とも思えるほどに。

 だからこそ、頬が緩んでしまうのをスズナとスモモは止められなかった。

 

「この時を楽しみにしてました」

 

 スモモが口を開く。

 

「お二人と当たりたいって…心から渇望しているあたしがいた。一回戦のバトルを見て、お二人を超えられれば…どれほどあたしは先に進めるか。その思いが昨日からずっと燃えるようだったんです」

「変わんねえな」

「あなたは変わりましたね、カイムさん」

「ああ。いろんな世界(繋がり)のおかげでな。その一つは、お前らでもあるが」

 

 スモモはもちろん、スズナにも世話になる部分はあった。ジムリーダーとしては先輩であるスズナに助けられることはあったし、バトル面でもそれは同じ。スズナとのバトルで得るものが多かったのは事実。

 

「へへ。気合い入ったバトルできる人が増えるのは嬉しいからね!あたしのためでもあるの」

「そうかい。ありがたい限りだ」

「二人には感謝してるわ。カイムのことはもちろん、その他のことも色々とね」

 

 色々とは、バトル以外のこと。例えば、バレンタインの一件。スズナの助力から始まり、最後はメリッサとスモモも巻き込んで特訓したことは記憶に新しい。

 そう言ってシロナとカイムはボールを手に取る。覇気がさらに鋭くなった気がした。

 

「感謝しているからこそ、全霊をもって相手させてもらうわ!」

「最後のバトルん時と同じだと思わんことだ。思っちゃいねえだろうがな」

 

 熟練のトレーナー特有の、強者の覇気。シロナはもちろん、カイムの覇気も普段の数倍強い。一回戦の時も思ったが、やはりタッグになるとトレーナーの空気も変わる。そしてこの二人…特にカイムの雰囲気の変わり方は顕著だ。元々手強いトレーナーではあるが、シロナが隣にいることでここまで変わるかと、二人は内心で驚愕しつつボールを手に取った。

 

「同じだなんて思いませんよ。ただお二人に勝ちたいと、思っているだけです」

「最高の空気の中できるバトルなんだもん!余計なことは考えず、気合い入った最高のバトルをぶち上げていく!それだけよ!」

 

 全員がボールを手に取った瞬間、フィールドが展開される。目の前に荒野のフィールドが広がると同時に、審判の声が響いた。

 

『タッグトーナメント二回戦!開始!』

「お願い、ミロカロス!」

「いけ、ムクホーク」

「頼みます、チャーレム!」

「上げていくよ!ユキメノコ!」

 

 全員がポケモンをフィールドに繰り出す。ミロカロスとムクホーク、チャーレムとユキメノコがフィールドで向かい合った。

 

「ふっふーん。いいねいいね。()()()()だね!」

 

 今にもバトルが始まろうとしている中、やや場違いに思えるほど楽しそうなスズナの声。元々テンション高めのスズナだが、今は一層気合いが強いように思える。

 

「あたしね、ずっと思ってたんだ。切り札って、どうしてみんな最後まで隠しているのかなって」

(何を…?)

 

 スズナの言葉がいまいちよくわからず、シロナとカイムは訝しむように表情を鋭くする。

 そんな二人を気にすることなく、スズナは()()()()()()()()()()()()()()()()を優しく撫でた。

 

「切り札は、言うなれば自分の持つ最高の手札。でもさ、その手札が仮に破られたり看破されたとしても…他にも十分戦える手札や心強い味方がいれば、その切り札が破られても強さの底を見せたことにはならないと思うの」

「道理だな。そんで、何が言いたい」

「ふふ、それはね…」

 

 スズナの笑みが深くなる。

 そして、スズナは自分のユニフォームの袖を捲り上げた。

 

 

 

「どうしてみんな、最初に切り札を切らないんだろうって」

 

 

 

 スズナの腕に嵌められたバングル。

 バングルで光輝く石。

 

 キーストーンだった。

 

「キーストーン…!」

「てめえ…マジかよ」

 

 シロナが獰猛に笑い、カイムは盛大に顔を顰める。さすがに予想していなかった切り札に、二人は最高の称賛(悪態)をスズナに向けた。

 

「強くなってるのはね、スモモだけじゃないんだよ!ここであたしの最高にぶち上がった気合いを見せてあげる!いくよユキメノコ!」

 

 スズナは左腕につけたキーストーンを右拳で叩くと、空に向けて掲げた。

 

「メガシンカ!」

 

 眩い光がユキメノコを包み込む。そして光の繭から現れたユキメノコは、フィールド全体に冷気を撒き散らしながらさらに美しい姿で現れる。

 メガユキメノコにメガシンカし、会場全体が歓声に包まれた。

 

「想定してた?」

「いや、全然。さすがに想定外」

 

 カイムは思いっきり顔を顰めながら言う。

 自分の想定が完全に一致するとはさすがに思っていない。だがそれでもあり得るかも程度の想定はかなりしてきた。その中でも最悪の想定よりも、さらにその先を行ってきた。

 

「どうする?()()変える?」

「…変えない。ここは貫き通すとこだ」

「その心は?」

「メガシンカは予想外だが、メンバーそのものとしては予想通りだ。対面も含めてな。向こうの火力考えると超きつくなったが、やることを変える必要はない」

「うん、私も同じ考え」

 

 シロナは自分とカイムの思考が一致したかつ、即座に答えを出したことに成長を感じつつ、目の前のユキメノコに目を向ける。

 ユキメノコのメガシンカを実際に見たのは初めて。比較的新しく発見されたメガシンカである以上、知ってはいたが実際にバトルで使うトレーナーは初かもしれない。非常に強力な攻撃を放てる反面、耐久力は低い。火力でゴリ押ししてくるスズナの最も得意なパターンを押し付けてくる可能性が高い。

 驚くと同時に、シロナは一つ違和感を感じる。ユキメノコが纏う波導を見て、シロナはカイムに一つ問いかけた。

 

「カイム、気づいた?」

「ああ。ユキメノコ、波導が大きすぎる」

「いつぞやの誰かみたいね」

 

 見覚えのある波導の大きさ。メガシンカした以上、波導が大きくなるのは当たり前だが、ここまで大きい状態が続くのは違和感があった。

 

「…バシャーモと同じ、制御しきれていない部分があるか」

「多分ね。そうなると持久戦に持ち込めばいけるかもよ?どうする?」

 

 バシャーモ同様、メガシンカのエネルギーの制御が不完全ならば、長くこの状態を維持できない。ならば攻撃をいなし続けていればユキメノコは自滅するだろう。そう提案してみたが、カイムは即座に答えた。

 

「ねえな」

「あら、そう?」

「シロナの言う通り持久戦にできるならこっちに有利だろう。だがそんなのは向こうもわかってる。ボールに戻されたら消費エネルギーはほぼゼロになるし、そもそもムクホークの能力は持久戦に向かない。持ち込めば勝ちだろうが、それを許すほど向こうは甘くねえ」

 

 それに、と付け加えてカイムは手袋を引っ張って位置を調整すると、鋭い目つきでスズナとスモモを見据えた。

 

「ここまでのカード切ってきた相手を正面から受け止める必要は本来ねえが、こんだけの覚悟を持ってバトルに臨まれたんなら…それを超えるのがトレーナーとしての礼節だと思ってる。勝つことを最優先にしても、同時に捨ててはならん礼節がある」

「ふふ、よかった。そう言ってくれて」

 

 トレーナーとしては勝つことこそが一番の目的。だが同時に、トレーナーとして捨ててはいけない礼節と矜持がある。猛毒にして『みがわり』と『まもる』を繰り返す戦法を使っていても、その中で魅せる相手への敬意があるように、なんでもアリのバトルはただの乱闘に等しい。競技に身を置くプレイヤーとして、そこは譲ってはならないものがあるとカイムは言い、シロナもそれに同調した。

 そして互いの準備が整ったことを確認した審判の声がフィールドに響いた。

 

『二回戦!バトル開始!』

 

 間髪入れずスズナが動いた。

 

「ユキメノコ!ふぶき!」

 

 ユキメノコが全身から凄まじい冷気が放たれる。フィールドの広範囲を覆う冷気がムクホークとミロカロスに襲いかかってきた。

 

「初っ端からかよ!」

「ミロカロス、なみのり!」

 

 ミロカロスの波とユキメノコの冷気がぶつかり合い、フィールド中央で弾け飛ぶ。波の表面が凍りつくが、内側までは凍らない。凍った波が重みで崩れていき、ユキメノコ達に向けて崩れ落ちてきた。

 

「チャーレム、ひかりのかべ!」

 

 チャーレムとユキメノコに『ひかりのかべ』が展開される。『ふぶき』により威力が落ちた『なみのり』のダメージは元より微々たるものだが、さらにダメージが抑えられ、ほぼダメージ無しになった。

 同時に、波を突き破って何かが飛び出してくる。何かはチャーレムに向かっていくが、予想していたユキメノコが動いた。

 

「れいとうビーム!」

 

 冷気のビームが飛び出してきた何かとぶつかり合い、弾ける。飛び出してきたものはムクホークではなく、ムクホークが放った『エアカッター』だった。

 そして同時に、波の飛沫からムクホークが突撃してくる。狙いは、ユキメノコ。

 

(想定内!)

 

 技の囮もそこからの突撃も、過去のデータにある。この程度では揺さぶりにもならないが、そんな軽い手を出してくるのはまだ小手調べだからだろう。

 

「(そっちが小手調べしている間にぶち抜きます!)しねんのずつき!」

 

 チャーレムは念力を纏った頭を突撃してきたムクホークに叩きつける。完璧なタイミングで入ったと思えるほどの攻撃だったが、ムクホークは『はがねのつばさ』でチャーレムの攻撃を弾いた。

 

(ムクホークの威嚇…チャーレムの攻撃力が下がっているせいで、タイプ不一致技でも弾きやすくなってますね。特殊しか使わないユキメノコに効果はないですけど、チャーレムには地味に効く。そこら辺も考えてユキメノコとの相性が悪いムクホークを下げない狙いですか)

 

 チャーレムは物理技しか使わない。正確には特殊も使えるが、物理技ほどの威力は出ない。そこも考慮し、ムクホークを繰り出したのだろうとスモモは考えた。氷タイプのユキメノコがいても、水タイプのミロカロスのフォローがあれば相手にできるだろう。

 

「甘いですよ!サイコカッター!」

「!」

 

 チャーレムを弾いたムクホークに向けてサイコパワーの刃をぶつける。ムクホークは維持していた『はがねのつばさ』でダメージを抑えると同時に、受けた衝撃を利用して距離を取りつつ体勢を整えた。

 

「こごえるかぜ!」

「ミロカロス、フォロー!」

 

 即座にユキメノコが追撃してくるが、ミロカロスがムクホークの前に立ち塞がり、『みずのはどう』で威力を削りながらも攻撃を受ける。ダメージとしてはほぼないが、技の効果で素早さが一段階下がる。

 

「つばめがえし!」

 

 ミロカロスの横を高速で抜けたムクホークの二連撃がユキメノコを切り裂く。物理防御の低いユキメノコにはそれなりに大きいダメージが入るが、同時にユキメノコの攻撃を完全回避することができない範囲に入ってしまった。

 

「ふぶき!」

 

 凄まじい冷気がムクホークを襲う。本来なら広範囲に冷気をばら撒く技だが、その凄まじい冷気をムクホークの周辺のみに留め、大きなダメージを与える…はずだった。

 

「みきり!」

 

 ムクホークの周囲に風の防壁が現れ、ユキメノコの放った冷気を受け流し、同時に冷気の範囲から抜け出した。

 

(あれがみきり⁈普通のみきりと形が違いすぎる!)

 

 通常の『みきり』は『まもる』と同様に防壁を展開する技。両者の違いは持続時間とクールタイム。『みきり』は持続時間が短い代わりに若干クールタイムが短いという違いがある。

 しかし、たった今ムクホークが出した『みきり』は通常とは大きく異なるものだった。防壁ではなく気流を操ることで冷気を受け流すというものであった。

 

(通常のみきりよりも出が早い代わりに、完全防御はできない感じかな?それに、飛行タイプの技を使った後に残留してるエネルギーを利用しないとできないとかの縛りがあるはず)

 

 早業でもない通常の『つばめがえし』からの『みきり』の切り替えの速さは異様だった。これは何かしらの縛りがあるとスズナはアタリをつけ、思考を切り替える。

 

「スモモ!」

「しねんのずつき!」

「アクアテール!」

 

 抜け出したムクホークに、チャーレムはサイコパワーを纏わせた頭突きを放つが、ミロカロスがフォローに入る。しかしミロカロスの物理攻撃力はあまり高くないかつ鍛えていないため、ミロカロスの攻撃を貫いてチャーレムの攻撃がミロカロスを穿った。

 しかしダメージが少ない。威力が落ちたとはいえ、攻撃そのものは直撃した。ここまでダメージが少ないことはありえないだろうが、スモモは即座にその理由を看破する。

 

(不思議なウロコ、ですね。火焔玉による火傷で防御力が上がったからダメージが少ないと。火傷のダメージが無いのは…アクアリングによる回復で相殺してますね)

 

 ミロカロスの特性『不思議なウロコ』は状態異常時に防御力を上げる特性。通常時は特防が非常に高いミロカロスだが、防御は特防に比べると低い。しかしその防御力も特性により、特防に負けないほど高くなる特性に加えて、シロナが鍛え上げた対応力と技のキレにより、要塞に例えられるほどの耐久力を持っていた。火傷によるスリップダメージも『じこさいせい』や『アクアリング』による回復技で帳消しにでき、生半可なダメージでは突破することは難しい。

 だからこそ燃える。

 

「それをぶち抜くための火力は用意してありますよ!サイコキネシス!」

「!」

 

 チャーレムの念力がミロカロスを捉える。ダメージは少ない。だが、動きが止められた。

 

「スズナ!」

「10まんボルト!」

 

 ユキメノコから放たれた電撃がミロカロスを貫く。特攻が高いメガユキメノコの一撃は、ミロカロスほどの耐久力があってもダメージが大きい。しかも一撃で終わることなく、持続してエネルギーを出し続けていた。

 このまま押し切れれば勝てる。だがそれを許すほど、2人が甘く無いことはスズナも理解していた。

 

「うずしお!」

 

 『サイコキネシス』の拘束を抜け出したミロカロスが『うずしお』でユキメノコの行動を縛った。

 

(これは…やば!ムクホークがいない!)

 

 一瞬の思考の後、ムクホークがいないことに気づいたスズナだが、既にムクホークは行動に入っていた。高く飛び上がり、重力の力も使って攻撃体勢を整えている。落下するが如く、高速で突っ込んできていた。

 

「ブレイブバード!」

「くっ!チャーレム、サイコカッター!」

 

 安全性度外視の威力全振りの突撃。直撃すれば、メガユキメノコは恐らく一撃で沈む。それほどの威力があると瞬時に察知したチャーレムがフォローに入り、サイコパワーの刃でムクホークを受け止めた。

 

「ぶち抜け」

 

 だがムクホークの一撃が想定以上の威力で、フォローに入ったチャーレムとユキメノコを巻き込んで強烈な一撃を加えた。地面に叩きつけられたチャーレムとユキメノコだが、チャーレムの『サイコカッター』で少し威力を削った。

 

「こおりのつぶて!」

 

 追撃を加えようとしてくるムクホークに対して、ユキメノコが反撃をしてくる。ばら撒かれるように放たれた礫はムクホークを撃ち抜くが、元々攻撃の高くないことに加えてムクホークの『威嚇』によりダメージはさほど大きくない。

 しかしこのダメージを受けた瞬間をチャーレムは見逃さない。

 

「とびひざげり!」

 

 穿たれながらもユキメノコが作った隙を利用し、叩きつけられた反動を利用して飛び上がり、ムクホークに膝を叩きつけた。

 

「(重っ!威嚇で攻撃下げてもこれかよ!相変わらず火力は洒落にならんな!)シロナ!」

「ハイドロポンプ!」

 

 ミロカロスから放たれた水がチャーレムに迫るが、ユキメノコが『れいとうビーム』がぶつかり合い、『ハイドロポンプ』の進路を逸らす。

 

(逸らしやすい角度でぶつけてきた。入ってもおかしくなかったとは思うんだけど、さすがにハイスピードバトルが得意な二人ね)

 

 スズナもスモモは主にハイスピードで攻めることを得意としている。ヒョウタやトウガンのように受けることを想定していないため、火力は同程度だが耐久力は高くない。しかしその分、速度が速い。結果、カイムが苦手としているハイスピードバトルとなることは容易に想像ができる。

 そして、スズナとスモモはハイスピードになるようにフォローしつつガンガン行くことを方針として決めていた。スピードを上げていけばシロナはともかくカイムはどこかでついて来られなくなると想定したからだ。

 

「まだまだ上げていくよ!シャドーボール!」

「ムクホーク!」

 

 ミロカロスに放たれた『シャドーボール』をムクホークが身を挺して庇う。ノーマルタイプを持つムクホークにゴーストタイプ技は無効。ムクホークの『でんこうせっか』を利用した乱入により、ユキメノコの攻撃を完全に無効化することに成功した。そして背後にいるミロカロスが反撃の攻撃を放つ。

 

「みずのはどう!」

「サイコカッター!」

 

 技同士がぶつかり合い、相殺される。

 同時に、ミロカロスとムクホークに向けてユキメノコの攻撃が放たれた。

 

「ふぶき!」

 

 凄まじい冷気がムクホークとミロカロスを()()()()()()()放たれる。この一瞬で力を分散し、ミロカロスとムクホークが逃げられないかつチャーレムを巻き込まないように技を放った。

 

「うずしお!」

 

 それを瞬時に察知したミロカロスが自身とムクホークの周囲に『うずしお』を展開する。『ふぶき』とぶつかり合った『うずしお』は音を立てながら凍っていき、間も無く完全に凍りついて破壊された。

 

「この程度なら3秒も保たないわよ!」

 

 『うずしお』が破壊され、残った冷気が()()()()()()襲う。しかし、その様を見てシロナは不敵に笑った。

 

「その3秒が欲しかったのよ!」

「ムクホーク!」

 

 『うずしお』が凍りついてから破壊されるまでの僅かな時間。カイムはこの僅かな時間が欲しかった。

 特防の低いムクホークにメガシンカしたユキメノコの攻撃を受ければ、間違いなく致命傷。回避できないほどの範囲攻撃も放たれれば、ムクホークへのダメージは非常に大きなものになっていただろう。

 だから、回避するための時間を作った。自分達の周辺を水で覆うことで、攻撃が到達するまでの僅かな時間を作る。これこそが狙いだった。この僅かな時間でムクホークは既にチャージを完了させた。

 

「(ムクホークにエネルギーが!まずい!)チャーレム、サイコカッター!」

「遅え!ブレイブバード!」

 

 チャーレムはサイコパワーを刃にして手に纏うが、同時に強力なエネルギーを纏ったムクホークが突撃した。ギリギリ技の完成が間に合ったチャーレムはムクホークを受け止めるが、踏ん張るには体勢が不十分。加えて格闘タイプを持つチャーレムに飛行タイプの『ブレイブバード』は効果抜群。『サイコカッター』を貫通して大きなダメージが入った。

 

「そのままユキメノコまでぶち抜け」

 

 加えて『サイコカッター』を撃ち抜いてチャーレムの背後にいるユキメノコに迫る。

 

「こおりのつぶて!」

「甘え!」

 

 咄嗟にユキメノコが『こおりのつぶて』で牽制をしてくるが、ムクホークはものともせずユキメノコを撃ち抜いた。

 

(ここまでリスク度外視で突っ込んでくるなんて…今までのカイムさんらしくない!)

 

 カイムの得意なカウンター戦法は相手の攻撃を受ける、または回避したところで強烈な一撃を叩き込む戦法。無論それしかやらないわけではないが、この戦法でのカイムのキレは相当なもの。だがその他のスタイルについては、それなりレベル。ガン攻めのスタイルでここまでのキレと捨て身にも近い姿勢を見せられるとは思いもしなかった。

 

「しねんのずつき!」

「みずのはどう!」

 

 ダメージから立ち直ったチャーレムがユキメノコを撃ち抜いたムクホークに向けて攻撃するが、ミロカロスの攻撃がチャーレムを阻む。ほぼダメージはないが、その僅かな時間でムクホークはユキメノコの側を離れ、ミロカロスの元へと戻ってきた。

 互いに距離ができ、瞬間的に睨み合いの時間が流れる。

 

「…ここまでガン攻めしてくるのは想定外ね」

「はい…比較的色々できる方ではある方ですが、カウンター以外はここまでのキレはなかったはず…」

「カイムさんも強くなったってことかな。数値というより、強さの(手札)が大きく増えたって感じね」

 

 カイムの手持ちはシロナを師匠としているが故か、タイプバランスが比較的良い。そのためカウンター以外にもできることは多い方であり、ジムリーダーの中でもトップレベルの多さだろう。だが手札の一つ一つの練度はそこまで高くない。ジムチャレンジレベルやカウンターへの繋ぎとして使うのであれば十分だが、公認トレーナーとバトルする際にメイン戦法として使うにはやや力不足。スズナとスモモは何かしらの戦法も大きくレベルアップしている可能性は考えていたし実際その通りではあったが、ここまでのレベルアップは想定外だった。

 

「ここまで捨て身なやり方できたなんてね〜。堅実な印象が強かったから余計に意外」

「同感です。反動や反撃を度外視…今までならやってこなかったスタイルです。何か、きっかけでもあったんでしょうね」

「これは厄介…さあ〜て、どう倒そうか」

 

 カイムのガン攻めスタイルだけならいくらでもやりようはある。キレの上がり方は想定外だが、単純な攻める力ならメガシンカしたユキメノコには敵わない。そこに特性『ヨガパワー』による強力な物理攻撃を持つチャーレムの火力も合わされば、十分勝てる可能性はある。だがそう簡単にはいかない。その主な理由は、ミロカロス。高い耐久力にそれなりの火力を兼ね揃えたミロカロスがいる限り、ムクホークを簡単に落とすことはできない。

 

(ムクホークの火力の高さはユキメノコには致命的だけど、それ以上にミロカロスが厄介すぎる。こっちの攻撃が悉く防がれて、嫌なタイミングで攻撃してくる。ここまで想定通りの攻撃を叩き込めたとしても、うまく捌かれているせいでダメージが少ない。しかもここで回復技されたりしたら本当に要塞になりかねないわ)

 

 現状、ユキメノコとチャーレムの体力は四割程度。かなり削られてはいるが、まだまだ戦える体力。

 一方、ムクホークは五割弱。捨て身の攻撃をしてきてその攻撃に反撃を加えたことにより互いの攻撃の威力が削られ、『ブレイブバード』の反動も小さくなったことで思いの外体力が残っている。しかしミロカロスの体力は七割強。ただでさえ硬いミロカロスにこれほど体力があり、こちらの体力が四割程度なのは展開としてはかなり苦しい。

 今回のユキメノコの調整は完全アタッカーで、元々低い耐久面にはほとんどエネルギーを割いていない。ユキメノコの火力ならばミロカロスへのダメージも期待できるが、氷タイプ技は半減、ゴーストタイプ技はムクホークで完全無効化される。想定外だったのがアタッカー構成のムクホークが思いの外ミロカロスへのサポートをしっかりしてくることだろう。氷タイプ技の時はミロカロスに任せるが、ゴーストタイプ技相手にはミロカロスを庇ってダメージをゼロにしてくる。これが実に厄介だった。

 

「一回戦を見て思ったけど、カイムさんはサポート力…というか、集団戦が上手いんだね」

「普段のシングルバトルでは見つからない素質ですからね。実際、あたしもこうしてバトルするまでここまで厄介とは思いませんでした。そのくせ、普段のシングルバトルでは見せないようなガン攻めの姿勢…侮っていたつもりはありませんが、想定が甘かったことを認めざるを得ませんね」

「しかも一緒にいるのが、シンオウ地方最高のトレーナーときた。うーん、これは高い壁ね!燃える!」

 

 カイムが厄介なのはもちろんだが、やはりシロナのトレーナーとしての完成度が高い。ミロカロスはサポート寄りの調整ではあるが、素の能力が高い故にそれなりに火力もある。サポートしつつしっかりと攻撃を差し込んでくる。さすがシンオウ地方最高のトレーナーだと、スズナはより闘志を激らせた。

 

 一方、シロナとカイムは普段となんら変わらない空気感で会話していた。

 

「様になってるじゃない」

 

 シロナの言葉にカイムは肩を竦めながら答える。

 

「見様見真似だ」

「だとしても、向こうからしたらかなりのインパクトよ。特にあなたをよく知るスモモちゃんにとってはね」

「かもな。まあ、付け焼き刃でここまでできりゃ上出来か」

「付け焼き刃なんてとんでもない。レベルとしては十分よ。一流ではないかもだけど、一人前レベルだわ」

「いいモデルケースがいたんでね。参考にしたまでだ」

 

 カイムにしては珍しい強気な攻め。普段のカイムならここまで攻勢に徹することはないが、今回の大会用に手札として用意してきたものだった。そして参考にしたのは、ダイゴとユウキ。この二人のバトルはまさに正面からの殴り合い。互いに自分の強みを存分に発揮した殴り合いを参考に、カイムも自分なりのガン攻めスタイルを編み出していた。

 無論習得期間は短い。それなりのレベルにはなったが、これ単体としてはそこまで強い手札とは言えない。だからその隙をシロナが補い、さらにカイムが元より得意としているカウンタースタイルも交えながらゲームメイクをしていくことにした。そうすることで、相手から見れば十分強い手札として機能するように見えるのが狙いだった。

 

「今のところ順調だが…ちと怖えな」

「そうね。向こうの警戒レベルがさらに上がっているでしょうから。特に、制限時間があるスズナちゃんの攻撃がより苛烈になるわ。どこかで一発、大きいのをぶつけてくるでしょうね」

 

 カイムは冷たい空気を感じながらシロナの言葉に頷く。現状、ムクホークよりもミロカロスの方が遥かに厄介。ただでさえ硬い上に『じこさいせい』による回復技まである。突破するために、強力な一手を打ってくる可能性が高い。チャーレムでも一撃で沈める手段が無いわけではないだろうが、純粋な火力はユキメノコの方が高く、ミロカロスへの有効打もある。

 

「…ああ。どうやってくるかは想像できるが…正直、防ぐ術がない」

「そうなると、やられる前に叩くしかないかしら」

「できるなら、だがな」

 

 過去のデータで、ユキメノコが使った最強の一手。これを使ってくる可能性が一番高い。この一手は下準備に時間がかかるため、先に倒す事が一番の有効手段なのだが、タッグバトルであるとそう単純な話ではない。チャーレムに時間稼ぎへ徹された場合は、ユキメノコを沈めることが難しい。

 

「やれるだけやるしかないわね」

「結局それしかないわな」

「じゃ、行きましょう。こっちからね!ミロカロス、なみのり!」

 

 ミロカロスが動き、大きな波がユキメノコとチャーレムに襲いかかる。

 

「ふぶき!」

「チャーレム、凍った波をサイコカッターで斬りながら進んでください!」

 

 迫り来る波がユキメノコの放った冷気で凍るが、凍らなかった水が押し寄せてきて凍った波が砕けながら前に出たちゃに降りかかる。チャーレムは『サイコカッター』を手に纏わせると、波を切り裂いてミロカロスに肉薄した。

 その瞬間、ムクホークがチャーレムの目の前に現れる。

 

「つばめがえし!」

「迎撃です!」

 

 ムクホークの爪とチャーレムの刃がぶつかり合う。互いに読んでいたのか、即座に次の行動に移った。

 

「しねんのずつき!」

「はがねのつばさ!」

 

 技がぶつかり合い、互いに弾かれて距離ができた。

 その瞬間をスズナは見逃さない。

 

「れいとうビーム!」

 

 冷気の光線がムクホークに向けて放たれる。

 維持していた『はがねのつばさ』で弾くこともできるが、ここは既に動いているシロナに任せる方がダメージがないと瞬時に判断した。

 

「下がるなムクホーク!」

「ミロカロス、ねっとう!」

 

 ムクホークに向けて放たれた『れいとうビーム』に対して、ミロカロスの『ねっとう』がぶつかり合って弾けた。高温に熱された水と冷気がぶつかり合ったことで、水蒸気が周囲を包む。

 

「ブレイブバード!」

 

 水蒸気で視界を塞がれながらもムクホークがユキメノコに向けて突撃していく。速度と纏ったエネルギーの大きさによりムクホークの周辺のみ水蒸気が払われ、ユキメノコを正確に捉えた。

 

「チャーレム!」

 

 だがムクホークがユキメノコを撃ち抜くことはなかった。直前でチャーレムが『サイコカッター』を纏いながらムクホークの進路に飛び出し、ムクホークを受け止める。十分な速度と威力を正面から受け切ることはできないと読んでいたスモモは、即座に動いた。

 

「受け流して!」

 

 『サイコカッター』の刃をうまく使い、チャーレムはムクホークの体を受け流す。受け流したおかげでユキメノコへのダメージはゼロに抑えたが、受けたチャーレムはそうもいかない。さらに体力が削られ、限界が近い。

 だが同時に、シロナとカイムは嫌な予感を感じた。ここまで無理矢理にでもユキメノコへのダメージを抑えるということは、何か大きな一撃が来る。そんな予感があった。

 

「ちょっと嫌な空気ね」

「やばそうだ。ムクホーク!」

 

 『サイコカッター』のダメージを少し受けたが、ムクホークの体勢は崩れていない。即座に追撃へと体勢を移した。

 

「でんこうせっか!」

「こおりのつぶて!」

 

 即座にムクホークはユキメノコに肉薄するが、迎撃の氷塊がムクホークに向けて放たれる。ムクホークは咄嗟に体を捻ることで受ける面積を減らすことでダメージを抑え、そのままユキメノコの体を()()()()()

 

「⁈」

 

 ノーマルタイプ技はユキメノコに無効。そのためこの『でんこうせっか』はあくまで推進力として使うだけであり、目の前で別の技に切り替えるシロナとカイムの得意技かと思ったが、その予想が外れる。

 

「ミロカロス、なみのり!」

 

 この想定外の一手が、次の対応を遅らせる。

 ミロカロスが放った波は大きくうねりながらユキメノコとチャーレムに襲いかかってきた。ユキメノコざ一瞬出遅れたことで波の範囲から逃げることができない。

 

「チャーレム、フォロー!」

 

 チャーレムがユキメノコの前に飛び出し、『サイコキネシス』で擬似的な壁を作る。『ひかりのかべ』と併用することで『なみのり』の威力を削ったが、チャーレムが限界に近い。あと一撃、直撃でなくともダウンさせられてもおかしくないほどの体力となった。

 

「ユキメノコ、ふぶき!」

「ムクホーク下がれ!」

 

 ユキメノコへのダメージをほぼチャーレムが受けたことにより、ユキメノコは即座に反撃に入る。比較的近くにいたムクホークに向けて広範囲の冷気を放つが、ムクホークは『でんこうせっか』で範囲から逃れた。ダメージはゼロにはできなかったものの、体力は三割ほど残る。

 

「しねんのずつき!」

「みきり!」

 

 間髪入れずにチャーレムが追撃を加えてくるが、読んでいたムクホークは即座に対応して攻撃を防いだ。

 

「れいとうビーム!」

「ミロカロス、アクアジェット!」

 

 さらにユキメノコが追撃を加えてくるが、ユキメノコの攻撃をミロカロスが水を推進力にして高速で動き、ユキメノコの攻撃を体を張って止める。特防が高いミロカロスに効果今一つの攻撃は大したダメージを受けないが、同時にシロナは違和感を感じた。

 

(おかしい…今、ミロカロスがフォローに入るのは予想できたはず。だというのに、どうして電気技を使わなかったの?電気技はムクホーク相手はもちろん、ミロカロス相手にも有効打になる。だというのに、スズナちゃんはこの試合で一度しか使っていない。ミロカロスのミラーコートで弾き返されることを恐れて…?)

 

 ユキメノコからミロカロスへの有効打は少ない。氷タイプ技は水タイプへ効果今一つ故に、ユキメノコのタイプ一致技で有効打足り得るのはゴーストタイプ技。しかしゴーストタイプ技は、ノーマルタイプを持つムクホークへ無効。先ほどもタイプ相性によりムクホークがゴーストタイプ技を無効にしたこともあり、少し撃ちにくいだろう。

 だがユキメノコは『10まんボルト』のように高火力電気タイプ技を覚える。ミロカロスとムクホーク相手に効果抜群であるはずだが、スズナは序盤の一回しか使っていない。タイプ不一致の高火力技によるタメを考慮したとしても、使わない手はないはず。ミロカロスの『ミラーコート』によって弾き返される可能性を考慮しているのかもしれないが、それを考慮したとしても違和感が大きい。

 

 シロナの頬に冷たい汗が流れる。あまりの冷たさに思わず身震いしそうになるほどの冷気を持った汗だった。

 

(…寒い)

 

 季節は冬だが、スタジアムは本来適温に保たれている。温度差によりポケモンのパフォーマンスに影響が出ないようにするためだ。だが今のフィールドはユキメノコの攻撃による冷気が充満し、ミロカロスが放った技により水気も多かった。荒野のフィールドだが、既に様相は見る影もない。()()()()()()()()()()()()()

 

(…長引かせたらまずい)

 

 フィールドの条件が、ユキメノコにとって有利になり始めている。フィールドの条件を利用した強力な一撃が来る予感がしていた。

 

「ミロカロス、うずしお!」

「…ムクホーク、つばめがえし!」

 

 ミロカロスの火力は低くないが、直撃しなければ決定打になり得ない。ならばシロナがやるべきことは、より高火力のムクホークが技を当てやすいようにサポートすること。そう判断し『うずしお』を放つと、カイムも即座にその意図を察知して動いた。

 

「あたしが凍らせる!ユキメノコ、こごえるかぜ!」

「はい!とびひざげり!」

 

 ユキメノコの攻撃が『うずしお』の表面を凍らせる。動きが止まった『うずしお』に向けて、チャーレムが『とびひざげり』を放ち、氷と水の壁を撃ち破りながらムクホークへ攻撃する。完璧なタイミングで打ち破ってきたチャーレム相手にムクホークは『つばめがえし』で迎撃した。一撃目でチャーレムの攻撃を軽減し、二撃目でチャーレムにダメージを与える。しかしチャーレムの一撃が想定以上に重く、二撃目の攻撃が浅くなりダメージが減ってしまう。これによりチャーレムの体力は僅かだが残る。

 

「でんこうせっか!」

「はやてがえし!」

 

 この体力なら速度重視の一撃でも落とせると判断し、追撃を行うがチャーレムに見切られて攻撃を弾き返されてしまう。

 

「っ!」

「ふぶき!」

「みずのはどう!」

 

 『はやてがえし』により怯んだ隙に、スズナが即座に高火力技を放つ。この隙ができたことにシロナは瞬時に反応してフォローの技で『ふぶき』を防ぐ。完全に中和はできないまでも、ムクホークの体力を残すには十分だった。

 チャーレムが追撃を放ってくる体勢に入ったため、ムクホークは下がって距離を取る。

 

「悪い」

「次よ」

 

 短いやり取りだけで切り替える。無理矢理にでもチャーレムを落とそうとしたこともあり、カイムも嫌な予感は感じていた。だがここで落とせず仕切り直しになることで、その予感が実現に近づいているのを感じる。

 

「スモモ、ありがとう」

 

 そしてその予感は正しいことをすぐに知った。

 

「これで形になるわ」

「ギリギリ、でした」

 

 突如、ユキメノコは凄まじい冷気を纏う。

 メガシンカのエネルギー。その最大出力の技を放とうとしているのを即座に二人は感じ取り、動いた。

 

「早業・でんこうせっか!」

「ねっとう!」

 

 速度のみに重きを置いた技でユキメノコに肉薄しようとするムクホークと、冷気を少しでも中和するために熱を持った攻撃を放つミロカロス。

 

「みきり!」

 

 それらをチャーレムが阻む。持続時間は短いが、攻撃を完全に防ぐ防壁を展開してユキメノコの前に立ちはだかり、ムクホークとミロカロスの攻撃を防いだ。

 だが『みきり』の持続時間は短い。ムクホークとミロカロスの攻撃を防いだことで持続時間は終了。瞬間的に無防備な姿を晒してしまう。対して早業により次の行動を即座に行えるムクホークは、チャーレムに対して追撃を確実に行える状態にあった。

 

「つばめがえし!」

 

 ムクホークの攻撃がチャーレムを切り裂く。体力がほとんど残っていなかったチャーレムは当然、そのままダウンした。

 だが、チャーレムはやるべきことを果たした。

 

「ありがとう、チャーレム。完璧よ」

 

 ユキメノコが纏う冷気が、さらに増幅する。飛行タイプを持つムクホークには、そこにいるだけで体力を削られるほどの冷気。

 凝縮されて時間の中、シロナはスズナが不敵に笑っているのを見た。背筋に冷気が走るよような感覚に襲われ、スズナの策が既に完了してしまったことを感じ取った。コンマ1秒遅れて、カイムも同様の予感を感じ取る。

 

「まずい!」

「もう遅い」

 

 ユキメノコから放たれる冷気がフィールド全体を満たす。バリアに守られているはずのシロナ達ですら凍えてしまいそうな冷気は、フィールド全体に存在している水を凍らせていく。

 

(冷気がフィールド全体を!これは…地上に逃げ場はねえ!)

「カイム!」

 

 どうする、と一瞬の思考したが、シロナの声が耳に届く。シロナはそれ以上何も言うことはしなかったが、カイムはシロナの視線でシロナが言いたいことの全てを理解した。

 

「ムクホーク!」

 

 冷気で動きは鈍っている中、ムクホークは動く。

 同時に、ユキメノコの冷気が臨界点を迎えた。

 

「これが今のあたし達の最高の一撃。最高の気合いよ!」

 

 ユキメノコの全身から、強い冷気が放たれる。音を立てながらフィールドから冷気がたちのぼり、氷がフィールド全体を覆っていった。

 

「これは…!」

「ミロカロス、ねっとうよ!」

「無駄ですよ」

 

 高温に熱された水がミロカロスから放たれるが、周囲の冷気に負けてユキメノコへ到達することなく凍りつき、霧散していく。

 

(この温度すら凍らせるというの⁈)

 

 ポケモンに火傷を負わせることがあるほどの高温。それほどの温度ですら中和を通り越して凍りつかせるほどの冷気は、シロナですら目を見張るものだった。

 

「あたしの最高の気合い!受け取って!」

 

 ユキメノコが祈るように両手を空へと掲げる。

 同時に、フィールドの全てが凍りついていく。逃れることができないほどの広範囲の冷気が、フィールドを包み込んだ。

 

 

 

「絶対零度・白銀」

 

 

 

 視界全体が白銀に覆われた。

 時間が止まったように、フィールド全体が静まり返る。

 

 徐々に冷気がおさまっていく。冷気の煙が晴れていき、フィールドの様子が見えた。そこには完全に氷で覆われたフィールドがあり、ミロカロスもその中で凍り付けにされていた。

 

『チャーレム、ミロカロス、戦闘不能!』

 

 審判の判定が下ると共に、ミロカロスを凍らせていた氷が砕け、ダイヤモンドダストのように空中に舞い散る。中にいたミロカロスは完全に意識を失っており、戦闘不能状態だった。

 

「チャーレム、お疲れ様でした」

「お疲れ様、ミロカロス。ありがとう」

 

 シロナがミロカロスをボールに戻すと、ムクホークがフィールドに着地した。あの冷気の嵐からなんとか抜け出し、ギリギリで体力を残したようだった。

 そんなムクホークを見て、スズナは笑う。

 

「よく逃げ切りましたね。フィールド全体を包む超広範囲の技のはずなんですけど」

「冷気の範囲よりも高く飛んだだけだ」

「…なるほど、そらをとぶね」

 

 ムクホークは冷気が届かない場所まで高く飛び上がることで、なんとか攻撃から逃れた。ユキメノコとムクホークにはまだ距離があったため、技が放たれる数瞬の間にユキメノコを倒す手段がなかった。そのためムクホークは、あの瞬間は逃げる以外の選択肢がなかった。しかし超広範囲技はフィールド全域に及ぶ。故に、逃げ場がないように思えた。

 しかし、そんな中でもシロナは逃げ道を見出した。それが空中。ムクホークの飛行能力ならば、ギリギリ冷気の嵐に巻き込まれない範囲まで飛ぶことができると、即座に判断した。そしてカイムもその意図を瞬時に汲み取った。

 

「冷たい空気は重く、地表付近に溜まる傾向がある。例えフィールド全域の攻撃だとしても、その性質は変わらない。加えて、フィールドの水分も含めた攻撃なら、逃げ道は上しかないって判断したの」

「確かに、空中は逃げられますね。うまくやられたなぁ」

「それより、随分と凄まじい技ね」

 

 通常、一撃必殺技は範囲が狭く出が遅い。故に非常に命中率が低い。うまく誘導するなどしなければ当たることはまずない。だがスズナの『ぜったいれいど』はそれらを改善した超広範囲技だった。これほどの技を用意してくるとはさすがのシロナも予想外だった。

 

「こうでもしないとまずミロカロスを落とせないかなって。最後の手段でしたけど、なんとか決まってよかったです!といっても…まだ全然使いこなせていないし、タメに時間が必要すぎるのでこういうダブルバトル以上のカバーしてくれる味方がいないとまず使えませんけどね」

「…フィールド全域に水気と冷気が満ちるのを待っていたのか」

「はい。広範囲のふぶきに対してなみのりみたいな広範囲水技でフィールドに冷気と水気を満たす。それら全てを利用して、冷気を一気に解放する。そうすることでフィールド全体を技の範囲にしたんです」

(多分、この手法ならどんな氷技…それこそ、ふぶきやフリーズドライもフィールド全体を効果範囲にできる。チャーレムのカバーを利用して一撃必殺技を選ぶことで、確実にミロカロスだけでも落とすと。なるほど、これは気合い入ってるわね)

 

 スズナが出した技『絶対零度・白銀』はフィールドに蓄積させた水気と冷気の全てを利用した一撃。通常の『ぜったいれいど』は範囲が狭いが、その分威力は絶大。どんなポケモンも確実に一撃で落とせる威力を持つが、タメと範囲が狭い故に命中率は非常に低い。だがこの範囲をどうにかすることができれば、命中率など関係ない。そこでスズナはフィールド全域を技範囲にすることができないか試行錯誤した。結果的に、限界までエネルギーを溜め込むならば範囲を広げることは可能だった。しかしそこに至るまでのタメ時間は到底バトル中に扱えるものではない。また、出力においても限度がある。ユキメノコがメガシンカして出力が大幅に上昇した状態で最大限チャージしたとしても、命中率でいえば五割程度。実用性はゼロだった。

 だがフィールド全域のエネルギーを使えば、出力と範囲の問題を解決できるのではないかと考えた。『ふぶき』や『れいとうビーム』のような氷技で冷気を蓄積すれば、そのエネルギーを利用して範囲と出力を解決できた。ただし、それは『ふぶき』のような冷気をぶつけるタイプの通常氷技まで。『ぜったいれいど』は相手を完全に氷の中へと封じ込め、体力を消し飛ばす技。そのため、ただ冷気を溜めるだけでは足りなかった。『絶対零度・白銀』はフィールド全体に水気と冷気が満ちていなければ使えない。加えて、この方法でもタメ時間は多く必要だったため、チャーレムはタメ時間を稼ぐことに全力を費やした。

 

 スズナ・スモモペアにとって、シロナとカイムの手持ちで最も厄介だったのが、ミロカロス。スズナはそもそもタイプ相性が悪く、スモモの手持ちでもカイムのカバーを考慮すると落としきれるだけの火力を出せるかが微妙だった。そのため、ミロカロスが出てきた時はこの手法で倒すことを決めていた。

 

(水気も必要…ユキメノコが電気技を使わなかったのは、電気技を使った余波でチャーレムへダメージが入る危険性があることと、フィールドを走った電気タイプエネルギーで水気が失われることを考えてってところね。あの技を使うためにはチャーレムのフォローと水気、両方が重要だった。あの違和感はこれだったか)

 

 ここまでのバトルは当然全力でやっていた。それはスズナ達もだろう。だが、ここまでがスズナ達にとってあくまで仕込みの段階だったという事実に、シロナは思わず頬が緩んだ。

 

「これでこそよ。こんな戦いが見たかったのよ」

 

 闘志が激って行くのを感じる。波導が満ちて、己の調子が上がっていく感覚が心地よい。ただただ今は、この瞬間を楽しみたいと。心からそう思っていた。

 ちらと、シロナは隣に立つカイムに目を向ける。表情は変わらないが、額から流れる汗が鼻筋を伝って頬に流れていた。本来カウンタースタイルという基本的に待ちが多いスタイルを得意とするカイムからすれば、自ら攻めて行く今回のスタイルは専門とは言い難い。加えて、相当なハイスピード展開故に、コンマ数秒の遅れが命取りになるような場面も多い。ただでさえ思考速度は低い方なのに、要求されるものは相当速い。疲労の蓄積は普段よりも速いだろう。

 

「いける?」

 

 一言。それだけ問いかける。

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

 腕で汗を拭うカイムもそれだけしか答えない。だが、その目に宿る力強い光を見れば、それが見栄ではないことがわかる。消耗は大きいのだろうが、それでも十分に戦えると自分で判断した。ならばそれを信じるのみ。

 

「じゃあ任せるわ」

「ああ」

 

 そう言ってシロナは次のボールを手に取る。

 相対しているスモモも、ほぼ同じタイミングでボールを手に取った。

 

「スズナ、大丈夫ですか?」

 

 ボールを手に待ちながらスモモはスズナに問いかける。

 スズナは手の甲で汗を拭うと、変わらない快活な表情で頷いた。

 

「うん。全く問題なし!めっちゃ消耗はしてるけど、気合い入ったこんないいバトルしてんだし、超ノッてきた!」

「消耗はしてるんですね」

 

 当たり前だとは思う。ここまで緻密な準備を相手に悟らせずに進めてきたのだ。そもそも相手はシンオウ地方最高のトレーナーと新入りとはいえジムリーダー。全霊をもって相手しなければ勝てる見込みはない。限界まで集中してバトルをしていれば消耗するのは必然であった。

 

「さすがにね。メガシンカも維持はできるけど、もうそんなに長くはもたないわ。氷タイプ技も使いすぎてちょっと出力落ちそう。かなり無理矢理使ったから」

「では、打ち合わせ通り…ここからはあたしがメインでいきます」

「うん。サポートは任せて」

 

 スズナの言葉にスモモは頷くと、手に取ったボールを高く掲げた。

 

「ここからは、あたしがメインです。今のあたしの全霊…見せてあげます」

 

 スモモの波導が鋭くなる。波導を覚醒させていないスモモだが、トレーニングを続ける中で無意識に鍛えられた波導は、波導使いと言っても差し支えないほどだった。

 

「じゃあこっちも、応えないとね!いくわよ、ルカリオ!」

 

 シロナがボールを投げ、ルカリオがフィールドに降り立つ。ルカリオはフィールドに着地すると咆哮を上げた。

 同時に、スモモがボールを投げる。

 

「お願いします、ウーラオス!」

 

 スモモのボールから、鉢巻を巻いたような特徴的なポケモンが現れる。そのポケモン…ウーラオスは着地すると水を思わせるような滑らかな動きで構えを取った。まるで蟷螂拳のような構えには一縷の隙もない。見ただけで強者だとわかる佇まいだった。

 

「ウーラオス…連撃の型だな。やっぱり出てきたか」

「カイム相手には、よく刺さるタイプだものね」

 

 悪・鋼タイプが多いカイムの手持ちにはウーラオスの格闘タイプが、バシャーモには水タイプがよく刺さる。加えて、公式戦でウーラオスが出るのは初めてであるため、データがない。手持ちの中に含まれていた以上、いることは把握していたが、世界的にもウーラオスをバトルで出すトレーナーは少ない。ガラル地方でほんの数名程度だ。故に、対策も立てにくい。

 出てくることは予想していた。本来ならトリトドンで相手をするのが最も効果的なのだが、トリトドンは一回戦で選出した。大会ルール上、二回戦で選出することはできない。

 

「ま、予想通りだな」

()()()()()()()相性不利だけど、いける?」

「どうにかするしかねえだろ」

「それもそうね。じゃあ…」

 

 シロナは目をフィールドに向ける。スモモもスズナも既に臨戦態勢に入っていた。

 

「続けましょうか!」

「望むところです!」

「ルカリオ、はどうだん!」

 

 凝縮された波導が弾丸となり、ウーラオスに襲いかかる。

 ウーラオスはルカリオの攻撃を見ると、一歩下がった。

 

「任せます」

「ユキメノコ、サイコキネシス!」

 

 ユキメノコの念力がルカリオの『はどうだん』を変え、空に変化させる。『はどうだん』は軌道を変えられ、観客席に貼られているバリアに触れる前に消えた。

 

(特殊技…元々ルカリオは物理・特殊共に使えるオールラウンダー。シロナさんのルカリオはメインは物理にしてるけど、特殊も十分な火力がある。今回は特殊メインの調整かな?)

 

 シロナのルカリオは、彼女の手持ちの中でアタッカーとしてはNo.2に位置する。チャンピオンズトーナメントではメガシンカを披露し、アタッカーとして最高の働きを見せることもした。そんなシロナのルカリオは主に物理技を使う。無論特殊技も使うが、物理技をメインで使うことが多い。特殊技をメインの調整にしてきたことは過去のデータでは少なめだった。ヒョウタ・トウガンのように物理防御が最高峰の相手ならばともかく、スズナとスモモの手持ち相手ではどちらをメインに調整してもあまり大きな差はない。だがわざわざ特殊調整にしたことは、何かしら意図があるのだろうとスズナは冷静に分析する。

 

「ウーラオス、アクアジェット!」

 

 ユキメノコのカバーで余裕のできたウーラオスが『アクアジェット』を推進力に肉薄する。対象はムクホーク。ウーラオスへの効果抜群技を持ち、体力も限界のムクホークを早めに落とす算段だろう。

 だが体力が限界だからといって、ムクホークが動けないかと言われれば違う。たとえ高速の一撃だとしても、見逃すことなどない。

 

「つばめがえし!」

 

 ムクホークの攻撃とウーラオスの攻撃がぶつかり合う。互いに衝撃は受けるが、ダメージはない。互いを弾き合うと、入れ替わるようにルカリオが前に出てきた。

 

「きあいだま!」

「ユキメノコ、サイコキネシス!」

 

 ルカリオの攻撃は再びユキメノコによって軌道を変えられる。

 同時に、空中で体勢を立て直したムクホークが高速でユキメノコに肉薄した。

 

「ウーラオス!」

 

 ウーラオスはユキメノコを庇うように立ち塞がり、ムクホークの体を止める。速度にのみ重きを置いた攻撃は軽く、ウーラオスへはほぼダメージゼロの状態でムクホークを抑えることに成功した。

 しかしこうなることは想定内。故に、既に次にやることをムクホークはわかっていた。

 

「早業・とんぼがえり」

「⁈」

 

 ムクホークはウーラオスを弾くと、反動を使ってカイムの元へ戻っていく。ダメージと言えるほどではない一撃。しかし確かに攻撃は当たったため、ムクホークはカイムの持つボールへと戻った。

 

(次のポケモンが来る!ならその着地のタイミングに合わせて…)

(最大の一撃を叩き込む!)

 

 カイムの次の動きに、スズナとスモモは狙いを絞る。

 カイムがボールを即座に持ち替え、空に向けてボールを投げた。

 

「(それは悪手ですよカイムさん!)ウーラオス、たきのぼり!」

 

 ボールから現れた影に向けて、ウーラオスの足元から噴き出した水を纏いながら『スカイアッパー』のように拳を振り抜いていく。

 だがルカリオがそれを許さない。

 

「しんそく!」

 

 超高速でルカリオがウーラオスの攻撃を阻む。同時に腕に凝縮させた『はどうだん』をゼロ距離でぶつけた。『はどうだん』の攻撃はギリギリ『たきのぼり』をぶつけることで直撃は避けたが、『はどうだん』が爆発した余波でウーラオスは吹き飛ばされる。

 ウーラオスでは着地狩りができないと悟ったスズナは即座に動いた。

 

「シャドーボール!」

 

 ゴーストタイプのエネルギーを凝縮した弾丸が影に向けて放たれる。

 影はユキメノコの攻撃を見ると、全身に『炎』を纏った。

 影は全身に纏った炎で『シャドーボール』を突き破る。ダメージを僅かに受けたが、勢いは止まらない。それどころか炎を空中に向けて放出することで勢いが増した。

 

「バシャーモ、フレアドライブ」

 

 咆哮と共に踏み潰すように着地したのは、バシャーモ。

 着地と同時に纏っていた炎はフィールドに放出された。咄嗟にユキメノコはバックステップと同時に目の前に『シャドーボール』を放つことでダウンを避ける。『シャドーボール』はそのままバシャーモに向かうが、バシャーモは足に炎を纏った。

 

「早業・ブレイズキック!」

 

 炎をも推進力にし、ユキメノコに肉薄する。

 斬撃にも思えるような一撃を、『アクアジェット』を推進力にして接近したウーラオスが受け止めた。しかし想定外に重い一撃で、ウーラオスは弾かれてしまう。

 

(重っ⁈)

 

 想定以上の重い一撃。早業で威力が落ちており、尚且つ効果今一つの技だというのに、まさか弾かれるとは思わずスモモとウーラオスは目を剥いた。

 

「ルカリオ、ラスターカノン!」

 

 鋼エネルギーの弾丸が高速で放たれる。ユキメノコは鮮やかな動きでルカリオの攻撃を回避するが、続くバシャーモの攻撃は回避できない。

 

「早業・フレアドライブ!」

 

 炎を纏った突撃の一撃が、ユキメノコに襲いかかる。ユキメノコはルカリオの攻撃を回避した動きをそのまま利用してギリギリでバシャーモの攻撃範囲から逃れた。

 そして入れ替わるようにウーラオスがバシャーモとぶつかり合う。ウーラオスの拳がバシャーモを捉えるが、バシャーモはウーラオスの拳を受け流すと、そのまま腕を掴んで地面に叩きつけるように投げた。

 

「はどうだん!」

 

 そこへすかさずルカリオの攻撃が放たれる。ウーラオスは地面を蹴ってどうにかルカリオの攻撃を回避し、再びバシャーモに肉薄した。

 

「アクアブレイク!」

「とんぼがえり」

(とんぼがえり⁈)

 

 ウーラオスは全身に水を纏ってバシャーモに突撃するが、バシャーモはウーラオスの体を掠めて通り過ぎる。そしてその先には、ユキメノコ。

 

「シャドーボール!」

「ラスターカノン!」

 

 元々限界以上の出力を出したせいでスタミナが尽きかけていたユキメノコが無理矢理回避行動を取ったことで、次の動きが大幅に遅れる。早業でもない通常の『とんぼがえり』ですら、回避ができない。技で『とんぼがえり』の相殺ならばと行動に移すが、ルカリオの攻撃に阻まれた。

 バシャーモの攻撃がユキメノコを穿つ。同時に、バシャーモは出たばかりのフィールドからボールへと戻った。そして即座にカイムは体力ギリギリのムクホークをフィールドに出す。ムクホークは肩で息をしながらも、射殺すような鋭い視線をウーラオスに向けた。

 

(威嚇…物理攻撃メインのウーラオスにこれをいれるために、体力ギリギリのムクホークを残していたのですね)

 

 特性『威嚇』はフィールドに出た時しか効果を発揮しない。スズナの次のポケモン相手には効果を発揮しないが、既に出ているウーラオスには効果がある。このためだけに残していたというのも過言ではないだろう。

 

(冷静に、冷徹に…ここまで勝つことに拘るようなバトルをあなたがするとは思いませんでしたよ、カイムさん)

 

 カイムはポケモンを駒として扱うことをあまり好まない。彼にとってポケモンは家族であり仲間。そんなポケモン達を駒のように見ることが嫌なのだろう。だが今、ムクホークは完全に威嚇要員。特性を入れればそれでもう仕事は終わりであり、その後すぐに倒されることも考えていると仮定すれば、勝つことを最優先にしており、心情云々は二の次だとわかる。

 スモモにとっては驚きではあるものの、むしろこの変化は嬉しい。この大舞台、勝つことに貪欲になってくれたという事実が、スモモには嬉しかった。

 

 ユキメノコも攻撃を受けたことで体力が尽きる。メガシンカが解除されて地面に倒れ伏した。

 

『ユキメノコ、戦闘不能!』

「ありがとうユキメノコ、超気合い入ったいい動きだったよ」

 

 スズナはユキメノコをボールに戻し、次のボールを手に取る。決めていたポケモンを変える必要もないと判断したスズナはポケモンを即座にフィールドに投げた。

 

「いくよマンムー!ここで決める!」

 

 スズナが繰り出したのはマンムー。素早さはないが、火力と耐久力が高いポケモンだった。

 

「マンムーか。ま、そうくるよな」

「あなたの想定通りね」

「ここでも想定外が来たらもう俺は自分の戦術眼を信じられんわ」

 

 カイムは苦い顔をしながらもマンムーを見据える。

 スズナの二体目のポケモンはおそらくマンムーだろうと予想はしていた。元より候補が三体しかいないが、カイムの手持ち相手にはマンムーが最適だった。ルカリオ、バシャーモを相手にする場合は、氷タイプメインのスズナはタイプ相性が悪い。しかしマンムーであれば、攻撃時にタイプ一致でダメージを与えられる。他のポケモンの候補と比較すれば、マンムーを出さない理由はない。

 

「じゃあスモモ、ルカリオ…というか、格闘タイプが相手だし…前衛、任せるね」

「はい。予定通り」

「相性的にあたしはちょっときつい二匹だからね。後方支援は任せて」

「頼りにしてます」

 

 スモモの様子を見て、スズナは苦笑する。

 没頭とまでは言わないが、バトルに集中しきってきている。スズナの方を見る必要はないが、完全に意識をバシャーモとルカリオに向けているため、受け答えが非常に短い。いいことではあるし集中しなければ勝てない相手ではあるが、没頭しすぎないかが少しだけ心配だった。

 

「じゃ、始めようか!」

「はい!ウーラオス、すいりゅうれんだ!」

 

 ウーラオスは咆哮を上げると、両手に水を纏わせて高速で突進してくる。

 

(ウーラオスの特性…『不可視の拳』。まもる、みきり貫通の特性。迎撃する場合は防御ではなく攻撃で受ける必要があるな)

 

 ウーラオスの特性は『不可視の拳』。物理接触技の一部を『まもる』、『みきり』で防げなくする特性であるため、事実上防御ができないことになる。

 ムクホークの体力はもうほとんどない。仮に『はがねのつばさ』で受けたとしても体力は残らないだろう。防御は特性上不可能。ならば回避するしか選択肢はない。

 

「(そらをとぶ、でんこうせっか、ルカリオのカバー、エアカッター。この中なら…)でんこうせっか!」

 

 ムクホークは高速でウーラオスに肉薄し、一瞬で眼前に迫る。ウーラオスはムクホークの動きを見切ると、水を纏った拳を高速で突き出す。しかしムクホークはウーラオスの拳がほんの僅かに届かない距離で強靭な翼を羽ばたかせ、速度の方向を僅かに上へ逸らした。

 

「!」

 

 ウーラオスの一撃目が空を切る。しかし『すいりゅうれんだ』は連続技。一撃目を回避したとしても、即座に二撃目で追撃ができる。ウーラオスは自分の頭上を飛び越えようとするムクホークに向けて次の一撃を放とうとした。

 

「ウーラオス!正面!」

 

 ムクホークに視線を誘導されたウーラオスは、スモモのオーダーを受けて視線を正面に戻す。そこには眼前に迫る『はどうだん』。咄嗟に二撃目を放つことで直撃は避けたものの、この一瞬でウーラオスの攻撃範囲からムクホークが抜けた。

 そしてムクホークの進行方向には、マンムーの姿。

 

「(こっち狙い!ムクホークはインファイト覚えるし、ダウン上等で最後の一撃をぶつけてくる可能性は高い!なら攻撃が届く前に落とす!)つららおとし!」

 

 マンムーの放った氷塊が氷柱となってムクホークに降り注ぐ。ムクホークは高速でありながらも卓越した飛行技術で氷柱を回避していくが、全てを回避できるほど甘い相手ではない。

 

「そこ!」

 

 回避により一瞬甘くなった速度。そこに狙いをつけたマンムーが氷柱の一つを放った。攻撃してくるなら、この氷柱は避けられない。そう考えた故の行動だった。

 スズナのこの選択は間違いではない。むしろ、トレーナーとしてハイレベル故にこの選択肢を取ることができた。

 だからこそ、カイムの次の選択肢に驚愕してしまう。

 

「弾け!」

 

 ムクホークは飛んできた氷柱に対して嘴を突き出すことで自分の体を弾かせ、攻撃を回避する。

 

「⁈」

 

 マンムーまでの距離はほとんどないない。ここで攻撃体勢に入っていないとマンムーへ攻撃を与えることはできない。だがムクホークはマンムーの攻撃に対して弾くことを選んだ。

 ではムクホークの目的は何か。想定外の行動に一瞬動きが止まる。そしてその隙に、ムクホークはマンムーにすれ違うようにして翼を広げた。このムクホークの行動で、マンムーの攻撃力が下がる。

 

「(すれ違う瞬間のフェザーダンス!発動速度重視で出したから効果は半分程度だけど、確実に攻撃力を削いできた!)こおりのつぶて!」

 

 『つららおとし』から即座に『こおりのつぶて』に切り返し、ムクホークを貫く。速度重視かつ攻撃力が落ちていたとしても、ムクホークの体力は既に一割未満。効果抜群の氷タイプ技を受ければ、体力は残らない。マンムーの攻撃を受けて、ムクホークはダウンした。

 

『ムクホーク戦闘不能!』

「最高の働きだったぞムクホーク。ゆっくり休んでくれ」

 

 カイムはムクホークを労いながらボールに戻す。そして次のボールを手に取り、間髪入れずにフィールドに向けて投げた。

 出てきたのは、先程『とんぼがえり』で戻ったばかりのバシャーモ。わざわざもったいぶる理由もなく、さっさと出してくるのはカイムらしいなとスモモは小さく笑った。

 同時に、カイムの覇気(波導)が揺らぎを見せる。

 

(雰囲気が…変わった?)

 

 空気が凪いでいく。

 ユキメノコによって冷やされた空気はいまだにフィールドに残り続けている。季節も冬。雪国のシンオウ地方の冬であれば寒さは強く、ユキメノコの影響はすぐには消えない。

 しかし、この冷やされた空気が少しずつ熱を帯びてきていた。観客の熱気によるものではない。

 バシャーモの纏う空気が、少しずつ熱を帯びてきているのだ。しかもその熱はどんどん上がっていく。特性『加速』でも『ニトロチャージ』でもない。ただ、バシャーモ本人のエネルギー量が増加しているのだ。

 

「シロナ。使っていいよな」

「ええ。この大舞台で、二人の絆の輝きを魅せてみなさい」

 

 二人の短いやり取りの意味はわからない。

 だが、この空気をスモモは知っていた。

 

(この覇気…サイトウさんに近い、強者特有の空気!)

 

 格闘家として、スモモがサイトウと立ち会った時の空気。その空気に近いものをカイムから感じ取った。そしてトレーナーとしても、今のカイムがスモモとスズナが知るものとはまた別物であることを二人は本能的に察知する。

 突如、カイムは腰につけられたチェーンへ手を伸ばす。チェーンにはブローチに近いものが繋がっており、カイムはブローチを手に取った。ブローチから出てきたものは、スズナにとって馴染みのあるものだった。

 

「キーストーン⁈」

「まさか、カイムさんも⁈」

 

 ブローチから現れた虹色の石…キーストーンを見て、スモモ達は目を見開く。キーストーン自体が貴重なのもあるが、まさかカイムまでスズナと同じ切り札を持っているとは思わなかったからだ。

 

「切り札を持っているのはそっちだけじゃねえぞ」

「この前、ジム合同トレーニングした時は使わなかったじゃん。この大会のために隠してたってこと?」

 

 少しずつ熱が増していく中、カイムが口を開く。

 

「いいや。隠してたんじゃない。使えなかったんだ。お前ならわかるんじゃないのか?スズナ」

「…まあ、ね」

 

 メガシンカの制御。それが思いの外難しいのはスズナも身をもって体感している。進化を超えた進化というだけあり、大きく強化されると同時にポケモンへの負担も大きく、スズナほどのトレーナーでも一朝一夕で使いこなすことはできなかった。今も完全な制御ができているかと言われると、少し微妙なところでもある。それ故に、カイムが『使えなかった』というのも理解できた。

 

「ただまあ、ここで出すくらいの練度にはなった。初めから使うつもりだったが、お前ら二人の気合いに敬意を表するためにも…俺が今出せる全霊を見せる」

 

 手を抜いてなどいない。初めから全力だった。だが、スズナとスモモが試合の中で魅せてきた本気の思いを見て、その思いに応えたいとカイムは思った。

 

「いくぞバシャーモ」

 

 カイムの言葉にバシャーモが頷く。二人の波導が共鳴していくように大きくなっていくのをシロナは感じた。

 

「メガシンカ」

 

 カイムのキーストーンとバシャーモが持つメガストーンが共鳴する。メガストーンから溢れ出た光は繭となり、バシャーモの体を包み込んだ。

 そして大きくパワーアップした姿でバシャーモは姿を現す。

 

 

 メガバシャーモ

 

 

 カイムのキーストーンとバシャーモのメガストーンが共鳴し、更なる進化を遂げて現れた姿に、観客は大いに熱狂した。

 この熱に乗るように、スズナとスモモのテンションも上がっていくのを感じる。想定外の切り札を見せたつもりが、向こうも同じ切り札を使ってきたのだ。想定外の事態に、思わず二人は頬が緩んだ。

 一方、シロナは隣に立つカイムとバシャーモの後ろ姿を見て、小さく笑った。

 

(初めて出会った時とは、比べものにならないくらい逞しくなったわね)

 

 卑屈な無表情トレーナーと。そんな主人の相棒である陽気なポケモン。一見全く合わないように見えて、実は根っこがよく似ている二人は、ナナカマド博士の研究所での一件で、本当の意味で相棒になれた。そこに至るまで多くの時間と挫折を繰り返してきたが、その先でここまでの強さを手に入れられたのは、師匠としても感慨深いものがあった。ルカリオも同じようなことを思っているのか、よく見ると頬を緩めている。ルカリオ視点でもバシャーモは弟子のような存在。シロナと同じような気持ちになっているのだろう。

 

(こんな大舞台に立っても、もうあなたの背中は小さくならないわね)

 

 今までなら、こんな大舞台に立っていたら卑屈な心に押しつぶされていただろう。だが今はそんなこと微塵も感じない。その成長はシロナにとって大きいと思えるものだった。

 

「なら、私も応えないとね」

 

 弟子がここまでの覇気を魅せているのだ。師匠である自分が遅れるわけにはいかない。そう決意し、シロナの波導がさらに強くなった。

 

「いくぞ」

「ええ。フルスロットルでね!」

 

 シロナとカイムの覇気に呼応するように、スモモとスズナの覇気も強くなる。

 

「上げていきますよスズナ!」

「気合いぶち上げるわ!」

 

 ウーラオスとマンムーが咆哮を上げる。一気に会場全体のボルテージが上がっていくのを肌で感じ取った。

 ボルテージに呼応するように、スズナが動く。

 

「マンムー、じしん!」

 

 ウーラオスが一歩下がり、同時にマンムーがフィールド前方に向けて広範囲の衝撃波を放つ。

 同時に、ルカリオが前に出た。

 

「みきり」

 

 徒手居合の構えを取ったルカリオは防壁を展開する。そしてバシャーモはルカリオが展開した防壁に乗った。

 マンムーが放った衝撃波はルカリオの防壁が防ぐ。ルカリオはもちろん、地面タイプ技である『じしん』に対して、『みきり』の防壁に乗ることで地面との距離を取ることでバシャーモへのダメージをゼロにした。

 

(そんな回避方法があるの…)

 

 スズナが思いつきもしないような回避方法にドン引きと尊敬が混ざった表情で苦笑する。ルカリオとバシャーモが近くにいる時限定の回避だろうが、それでもこの方法はスズナは考え付かなかった。そんなことにちょっとだけ悔しさを感じるスズナの隣で、スモモが動く。

 

「アクアブレイク!」

 

 全身に水を纏い、ウーラオスがバシャーモに向かっていく。距離がある中、敢えて『アクアジェット』を使わなかったのは、バシャーモによる『はやてがえし』を警戒してのことだろうとカイムは瞬時に判断した。

 

「(防御はできない。迎撃と回避のどちらかの強制二択。だが…)そいつは想定してる。でんこうせっか」

 

 ルカリオが展開した防壁を足場に、バシャーモは一気に加速してウーラオスに迫る。そしてその速度を利用したまま、次の攻撃体勢に入った。

 

「とびひざげり」

 

 ウーラオスの拳とバシャーモの膝がぶつかり合い、互いに弾かれる。技同士のぶつかりによりダメージはないが、ウーラオスがほんの僅かに弾かれた距離が大きい。

 

「マンムー、ストーンエッジ!」

 

 だがスズナは、そこまで距離が離されなかったバシャーモに向けて岩石の刃を放つ。地面から突き出す岩石の刃がバシャーモに迫り来るが、バシャーモは動かない。

 

「ラスターカノン」

 

 ルカリオは両手に鋼タイプエネルギーを凝縮した弾丸を岩石の刃に叩きつけ、マンムーの技を相殺する。同時に、ルカリオの眼前には既にウーラオスが迫っていた。

 

「アクアジェット!」

 

 マンムーの攻撃を陰にし、高速で接近したウーラオスの攻撃がルカリオに叩き込まれる。ルカリオは咄嗟に両腕に波導を集中させることでダメージを抑えつつ、ウーラオスの腕を掴んだ。

 

「カイム!」

「叩け!」

 

 ウーラオスがルカリオの拘束から脱出する刹那、ルカリオが突然腕を離して体勢を低くした。同時に、ルカリオの背後から迫っていたバシャーモの拳がウーラオスに叩き込まれる。技ではない純粋な体術。故にダメージは小さいが、ウーラオスはバシャーモの本気の突きを受けて僅かにのけ反った。

 

「ブレイズキック!」

 

 斬撃のように鋭い回し蹴りがウーラオスを貫く。ウーラオスはバシャーモの攻撃を腕でガードするが、体勢が整わない状態では受けきれずに弾かれた。効果は今一つ。ダメージとしては小さいため、ウーラオスは即座に体勢を立て直した。

 

(勢いや威力もある。でも、ダメージとしては少ない。さすがに今一つ技じゃあダメージリソースとしてはちときついか)

 

 ウーラオスは水タイプ。バシャーモがアタッカーの役目を担うとすると、炎タイプの技では心許ない。ダメージが抑えられる分、相手の体勢を崩す技としてしか使えないだろうとカイムは考える。

 

「アクアブレイク!」

 

 立て直した瞬間、ウーラオスは強力な一撃をバシャーモに叩き込む。バシャーモは防御という手段を取れない以上、回避を強制される。そこにすかさずマンムーの攻撃を加えることを考えていたが、バシャーモは『でんこうせっか』を使ってウーラオスの攻撃範囲から即座に離脱していた。

 そして入れ替わるように、ルカリオがウーラオスの前に現れた。

 

「はどうだん!」

「早業・つららおとし!」

 

 『しんそく』を使った超高速の接近から、至近距離の『はどうだん』を叩き込もうとしたルカリオに対して、マンムーの放った氷柱が襲いかかる。ルカリオは手に凝縮させた波導の弾丸を放つことなく、拳に乗せた状態で降り注ぐ氷柱を砕いた。

 その瞬間、バシャーモに向けて放っていた『アクアブレイク』の水を維持した状態のウーラオスの攻撃がルカリオに叩き込まれた。威力としては若干落ちるものの全力の『アクアブレイク』は重く、ルカリオが手に残していた『はどうだん』をぶつけてもなお相殺することはできなかった。『アクアブレイク』をルカリオは腕で受けつつ、バックステップを加えることでダメージを抑える。

 

(これが不可視の拳…攻撃直前になると本当に拳…というか、攻撃部位が見えなくなるわね。そのせいでタイミングがうまく掴めない。いつもなら完璧なタイミングでバックステップをいれてもっとダメージを抑えられる。これは…厄介だけど、ちょっと()()()()()()()かしら)

 

 見えなくなるだけではなく、『まもる』などの防壁系統も貫通する『不可視の拳』。通常通り防御行為によるダメージ軽減は効果があるものの、見えなくなることでガードのタイミングがわかりにくい。ルカリオのように波導強化によるダメージ軽減が得意な場合、ガードの瞬間のみ波導強化するということが難しく、必要以上にスタミナを消費してしまいかねない。今回は特殊技の調整をしているルカリオだが、近接格闘技術を混ぜ込んだ戦法の方がダメージソースとしては強い。加えてルカリオは防御技術が非常に卓越している。故に近接格闘を試してみたものの、ウーラオス相手には防御を十全に発揮させることが難しく、相性がやや悪い。

 バシャーモにも同じことが言えるが、今回に限って言えば、バシャーモの方が相性が良い。そう判断したシロナは、即座にルカリオを下がらせる。

 

「ルカリオ下がって!」

 

 ルカリオがバックステップの勢いをそのまま使って下がると、入れ替わるようにバシャーモが前に出た。フィールドの広さをそのまま利用した、全力ダッシュ。この体勢が、カイムが編み出した『加速不意打ち』を叩き込む絶好の状態であることをスモモとスズナは瞬時に感じ取る。

 

「(この体勢、加速不意打ち!)スズナ、来ますよ!」

「OK!マンムー、ストーンエッジ!」

 

 マンムーの足元から岩石の刃が飛び出し、バシャーモに迫る。完璧な角度で放たれた攻撃はバシャーモの進路を塞ぐ。このまま進めばバシャーモは岩石の刃に貫かれる。

 しかし、バシャーモのすぐ横をエネルギー弾が通り過ぎた。

 

「しんくうは!」

 

 高速の『しんくうは』は迫り来る岩石の刃の最前列を砕く。技そのものを完全に相殺することはできないが、バシャーモは砕かれた岩石の刃の隙間を潜り抜けると、岩石の刃そのものを足場にして強く踏み込んだ。身軽に刃を回避しきったバシャーモは、岩石の刃を抜ける。あと数歩踏み込めば、ウーラオスに手が届くほどの距離。

 

「(この距離、次の一歩で加速が入る!)ウーラオス、すいりゅうれんだ!」

 

 ウーラオスの拳を水が覆う。

 ウーラオスもバシャーモの『加速不意打ち』は知っている。ウーラオスから見ても、厄介な技だと思えるもの。だが加速のタイミングと速度の伸びを知っていれば、対処は容易い。速度が伸びる瞬間と技を出す瞬間は共存できない。ならば向こうの速度が伸びる瞬間に合わせてこちらの攻撃を置いておけば、向こうが技を出すこともできず、カウンターの要領で攻撃を与えられる。手練れである以上この一撃だけで倒せはしないかもしれないが、大きなアドバンテージにはなる。ここ一番の一撃を決める、と決意し、最高のタイミングでウーラオスは拳を突き出した。

 その瞬間、バシャーモの速度が上がる。スモモとウーラオスの読み通りのタイミング。

 

 だが次の瞬間、ウーラオスの目の前にはバシャーモの拳があった。

 

「ブレイブバード」

 

 安全性度外視の強力な一撃がウーラオスに叩き込まれる。咄嗟にウーラオスは『すいりゅうれんだ』のうちの二撃を『ブレイブバード』にぶつけることでダメージを抑えたが、威力の高い『ブレイブバード』を相殺には至らない。直撃に近い攻撃を受け、ウーラオスは大きく吹き飛ばされた。

 

(なっ⁈速度の伸びが、大きい⁈加速2回分…?違う!バシャーモが自分の速度を抑えていたんだ!)

 

 スモモの想定を超える速度の伸び。バシャーモのステータスが上がれば当然『加速』発動時に速度の上昇量も上がる。だがバシャーモのステータスそのものはスモモが最後にバトルした時と大きく変わらない。故に、速度の上がり方もそこまで変わらないはずだが、速度の上がり方はスモモの想定を超えていた。

 何故、スモモの想定を超えたか。それはバシャーモ自身がバトル中の速度を敢えて速度を少し抑えた状態だったから。攻撃自体は全力だが、移動や機動力の速度を少し抑えることで、バシャーモの速度がそれで全力であることをスモモ達に()()()()()。バシャーモ自身の速度を誤認させることで、速度の伸びを大きくなったように錯覚させる小技にすぎない一発芸。小癪ではあるが、スモモのようにバトルした回数の多いトレーナーには実に効果的だった。

 

「ウーラオス!」

「10まんばりきよ!」

「まもる」

 

 しかしやられっぱなしではない。攻撃を受けながらも、ウーラオスは『すいりゅうれんだ』の一撃をバシャーモに叩き込んだ。ダメージを受けつつ攻撃を貫き通したバシャーモはマンムーの追撃を『まもる』で防ぎつつ、一度距離を取った。

 

「(一撃しかもらってねえのに痛えな。確定急所攻撃…一撃の重さはともかくダメージとしては馬鹿にならん。最低限、()()()()()はしないとあっという間に体力切れになるな。出し惜しみしてる余裕はねえ)バシャーモ、ビルドアップ」

 

 距離を取ったバシャーモは全身の筋肉に波導を巡らせ、肉体を大きく強化する。攻撃力と防御力が上がり、バシャーモの肉体が大きく活性化した。

 

「(すいりゅうれんだ以外には効果があるし、いい手ね。あのバックステップから即座にビルドアップに繋げる…相当使い慣れてる。マンムーの攻撃を最速で出しても、多分回避か防御で凌がれるね。マンムーの特性があってもタイプ相性悪いし、やっぱスモモに任せた方がいいか)つららおとし!」

「早業・はどうだん!」

 

 肉体強化が完了したバシャーモに向けて氷柱が落ちてくるが、全ての氷柱はルカリオの『はどうだん』によって砕かれ、軌道をずらされることでバシャーモは完全に無傷。

 即座に次の行動に移れる体勢になったバシャーモは、『でんこうせっか』を使うことで一瞬にしてウーラオスの目の前に迫った。ウーラオスは咄嗟に拳を突き出すが、バシャーモはウーラオスの拳を膝で受け止めて防ぐ。防いだ拳を掴んで、自らの方に引くことで体勢を崩そうとしたが、ウーラオスは拳を引き戻してバシャーモの掴みから抜け出した。

 

「アクアジェット!」

 

 抜け出したことでほんの少しだけ離れた距離。この距離を詰めるためウーラオスが『アクアジェット』でバシャーモに肉薄した。バシャーモへのインパクトの瞬間、バシャーモは身を引いインパクトの箇所をずらしてダメージを減らす。

 

「得意の近接だぞ。存分にやれバシャーモ。ブレイズキック!」

「ウーラオス、来ますよ!アクアブレイク!」

 

 バシャーモの足とウーラオスの拳がぶつかり合う。タイプ相性により当然ながらバシャーモの攻撃が弾かれて、バシャーモに攻撃が叩き込まれる。だがバシャーモは攻撃を回転しながら受け流すと、回し蹴りでウーラオスを穿った。

 

「マンムー、ロックブラスト!」

「ルカリオ、バレットパンチ!」

 

 ウーラオスへ攻撃したことでできた隙をマンムーが突いてくるが、ルカリオが弾丸の如きパンチで防ぐ。前に出てきたルカリオと入れ替わるようにバシャーモが再び前に出た。

 

「グロウパンチ!」

 

 真っ直ぐ突き出された拳をウーラオスは受け止める。威力はそこまでない。完全にガードできたこともあり、ウーラオスへのダメージはほぼない。しかし、バシャーモの攻撃力がさらに上がる。これ以上上がると、高威力技を受けた場合のダメージが非常に大きくなることをスモモは本能で察した。

 

「(先にバシャーモを落とす!)いきますよウーラオス、すいりゅうれんだ!」

 

 ウーラオスは再び拳に水を纏わせる。

 それを見て、バシャーモは笑った。ここからは得意の近接格闘の技術を存分に競い合うことができることを察したからだ。

 

「ったく、バトル馬鹿が」

 

 組み手をよくやるカイムだからわかる。バシャーモは格闘技が好きであり、他者と組み手をするのが好きなのだと。こんな大舞台であろうとも、いや、初めて経験する大舞台でこんな最高の相手と鎬を削ることができるのが嬉しいのだろう。バシャーモもまた、カイムと同じようにかつては憧れ、そして一度は諦めた光景。それが今、自分の目の前にあるのだ。高揚もするだろう。

 

「いいぜ、目の前に集中しろ。だが指示は聞き漏らすなよ。今はタッグバトルだからな」

 

 バシャーモが歯を剥き出して笑い、メガシンカによって強力になった波導をより強く激らせた。

 

「存分にやれ。心のままにな。シロナ、サポート頼むわ」

「ええ。そっちこそちゃんと反応してよ?」

「俺があいつの目になる。問題ない」

 

 一呼吸おき、カイムは動いた。

 

「ブレイズキック!」

 

 バシャーモは炎を両脚に纏わせた。

 そして同時に、ウーラオスの攻撃とバシャーモの攻撃がぶつかり合う。互いの技はぶつかり合いながらも相殺はされず、維持したまま次の行動に移る。

 

「ここからは腕の見せ所ですよウーラオス!」

「お前なら負けねえ。見ててやるよバシャーモ」

 

 

「飛ばしていけ!」

 

 

 バシャーモとウーラオスが咆哮を上げながら再度ぶつかり合う。

 ウーラオスの拳がバシャーモを穿とうとするも、バシャーモは攻撃がくる場所がわかっているかのように受け流し、拳や『ブレイズキック』を維持した足で反撃してくる。一瞬だけ大振りになった腕を掴むと、ウーラオスを背負い投げの要領でフィールドに叩きつけた。

 技ではなく体術。ダメージはほぼないが、体勢が崩れた。その瞬間にバシャーモは『ブレイズキック』で追撃を仕掛けるが、ウーラオスは水を纏った腕でバシャーモの攻撃を受け流す。

 

「バシャーモ!」

 

 攻撃を流された瞬間、バシャーモが頭を下げる。そして先程までバシャーモの頭があった場所から、ルカリオが飛んできた。

 

「しんそく!」

 

 超高速の連撃がウーラオスに叩き込まれる。同時に上からウーラオスに当たらない絶妙なポジションで氷柱が落ちてくるが、体勢を立て直したバシャーモが『ブレイズキック』でルカリオに当たるであろう氷柱を砕いた。

 

(連携レベルが高すぎる!掛け声も無しにこのレベルの連携をしてくるとか、どっかで練習してたとしか思えないほどじゃん!このカップル、本っ当にお熱い(面倒くさい)なぁ!)

 

 スズナは笑いながら内心で悪態を吐く。それほどまでに連携のレベルが高かったからだ。

 スズナとスモモも連携はしている。互いの技の隙を埋めるように技を出し、近接技と中距離技でわけることによりシングルバトルに近い動きで攻め立てる。タッグバトルの経験がほとんどない二人だが、ここまでうまく連携できているのはひとえにトレーナーとしてのレベルの高さ故だろう。

 だがシロナとカイムの連携は、熟練のものだった。本来なら互いに掛け声や合図を基準に連携を組み立てるが、この二人はそれがない。掛け声や合図を必要としないにも関わらず、近接、中距離に縛られることなく高度な連携により攻撃してくる。これほどまでうまく連携できるのは、日頃から手合わせをすることで互いの動き方が手に取るようにわかるからだろう。

 

「ウーラオス、ドレインパンチ!」

「ルカリオ、はどうだん!」

 

 ウーラオスの拳に対してルカリオは波導を凝縮した弾丸をぶつける。互いに相殺しきれず互いを穿つが、ダメージとしては大きくない。ウーラオスも威力が削がれた『ドレインパンチ』では吸収できる体力も少なかった。

 

「ウーラオス下がって!マンムー、10まんばりき!」

 

 互いに攻撃を叩き込んだため若干距離ができる。この距離を利用してウーラオスはさらに下がり、入れ替わるようにマンムーが前に出てきた。そしてその巨大な足にエネルギーを纏わせ、ルカリオに向けて蹴りを放つ。

 

「フレアドライブ」

 

 ルカリオのすぐ横を炎の塊が通り過ぎ、マンムーの足とぶつかり合う。自身の速度を十全に活かした一撃は重く、マンムーの攻撃によるダメージを受けつつもマンムーにもダメージを与え、弾いた。

 

「重っ!全力のフレアドライブなんだが」

「ルカリオ、ラスターカノンよ!」

 

 鋼のエネルギーがマンムーに迫るが、水を纏ったウーラオスがルカリオの攻撃を弾く。

 その瞬間、バシャーモは着地し、同時に強烈な炎を纏い、力強く踏み込んでウーラオスに肉薄してきた。

 

(この速度、加速不意打ち!)

 

 この状況が先程の加速不意打ちと同じ状況であることをスモモは瞬時に察知する。また速度を敢えて落とすことで速度の伸びによる不意打ちか、またはそう思わせての通常の不意打ちか。どちらにしろ、速度の伸びを使って強制的な二択をスモモに迫らせる気なのだろう。

 だが、どちらの選択肢であったとしても一度見た。速度の伸びをはじめから想定しておけば、どちらにも対応できるタイミングで技を繰り出すだけでカウンターを叩き込める。

 

 違和感

 

(バシャーモは結構直情型。駆け引き系は得意ではないけど、カイムさんは別…こんな単純な二択を迫る意味って、ある?)

 

 一瞬生まれた迷い。事実上、カウンターを叩き込まれるような攻撃をすることに意味はあるのか。この刹那の時間の中で生まれた迷いだが、スモモはコンマ1秒にも満たない時間の中でその迷いを消し去り、迎撃を選択した。

 

「アクアブレイク!」

 

 ウーラオスは全身に纏わせた水を両腕に集中させる。その瞬間、ウーラオスの間合いの僅か外にバシャーモが踏み込んだ。

 先程の加速不意打ち。ここからの速度の伸びをも考慮してウーラオスはバシャーモに向けて拳を突き出す。例えここから速度が大きく伸びようとも、回避という選択を取れない。できたとしても大きく体勢を崩すことになり、ウーラオスかマンムーの強い一撃を受けることになるだろう。

 

 

 違和感

 

 

(近接格闘ならともかく、ここで一発技の加速不意打ちを使う意味って何?)

 

 加速不意打ちは基本的に一試合一回限りの不意打ち。

 何故なら、対応がしやすい。速度が上がることを一度見せてしまうと、相手は速度が速くなることを考慮して動ける。この場合、バシャーモもギリギリで速度を上げるため、カウンターを避けることが難しい。特に近接格闘が得意なポケモンだと、直前の加速でも対応される可能性があるからだ。そしてそれは本人もわかっている。寧ろ、本人がそう言っていた。

 

(そんな単純な攻撃…してくる人か?)

 

 凝縮された時間の中、違和感が強くなる。

 バシャーモが踏み込んできた。このタイミングに合わせて強力な一撃を繰り出す。完璧なタイミングであり、ここから加速した場合はバシャーモは確実にダメージを受ける。それどころかカウンターの要領で攻撃されるため、ダメージとしては普段よりも大きくなりかねない。

 だがカイムもバシャーモも、スモモが()()()()()()()()()()()()

 

 ここだ

 

 カイムは言葉を発していない。だが、バシャーモの脳裏には確かにその言葉が過った。

 ウーラオスの一手を見た瞬間、バシャーモは速度を全て踏み込むエネルギーに変換。非常に力強い踏み込みになり、バシャーモの速度がゼロになった。

 

「は?」

 

 スモモとスズナが同時に声を上げる。トップスピードが一気にゼロになったことで、高速に合わせて振り抜いていたウーラオスの拳が空を切った。

 完璧なタイミングを透かされたことによりウーラオスは体勢が崩れる。その間に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が迫ってきた。

 

「早業・つららおとし!」

 

 フォローのためにマンムーが『つららおとし』をぶつけるが、バシャーモの纏う炎により威力が軽減される。それだけでなく、攻撃を受けながらもバシャーモの()()()()()()()()()

 

「フレアドライブ・剛」

 

 バシャーモの咆哮と共にウーラオスを穿つ。咄嗟に残っていた『アクアブレイク』の拳でガードするも、体勢が不十分かつ超高威力の技を防ぎきることができない。ガードをぶちぬいてウーラオスの顔面に高威力の攻撃が穿たれた。

 

「ちっ」

 

 だがカイムは舌打ちをした。

 

(インパクトの瞬間、首だけ後ろに下げることでインパクト部位をずらしやがった。ただでさえ効果今一つでダメージ減ってんのに威力削られた。ワンチャン火傷にも期待してんだが…さすがに無謀か。手札見せんのが目的だし、一旦いいか)

 

 今のバシャーモが出せる技の中でも高威力技だが、タイプ相性が悪く威力が半減。それでもなお炎技を使うのは火傷を期待してのことだが、さすがに分が悪すぎる賭けなのはカイムも理解している。今ここで加速不意打ちを応用した技を見せたのは、あの体勢からどの選択が来るかを敢えて相手に理解させることで『3択で迷わせる』という心理的な戦術だった。加えて、メガシンカにより反応速度が大幅に上昇したバシャーモは、相手の手を見てから通常の加速不意打ちと『剛』の二択を変えられる。この手を相手に見せることで、次に使うときに悩ませる布石とした。

 

 ダメージは大きくない。だが強烈な勢いを持った一撃を受けたウーラオスはのけ反る。そんなウーラオスに向けてバシャーモは追撃を与えようとさらに前に出た。

 

「とびひざげり!」

「ストーンエッジ!」

 

 足に波導を凝縮したバシャーモの膝がウーラオスに叩き込まれる瞬間、バシャーモの目の前に岩石の刃が飛び出す。バシャーモの『とびひざげり』が岩石を砕くが、同時に砕ききれなかった刃がバシャーモを掠めてダメージを与える。

 

「アクアジェット!」

 

 体勢を無理矢理整えるため、ウーラオスは水を噴出することで起き上がりながらもバシャーモに肉薄する。バシャーモの『とびひざげり』と攻撃がぶつかり合うが、『ストーンエッジ』を打ち砕くために威力が落ちた『とびひざげり』は威力の低い『アクアジェット』と相殺された。

 

「すいりゅうれんだ!」

「つばめがえし!」

 

 『すいりゅうれんだ』と『つばめがえし』がぶつかり合う。三連撃のうち二撃は『つばめがえし』で相殺するが、最後の一撃は相殺できない。

 

「しんそく!」

 

 しかし最後の一撃はルカリオの『しんそく』で相殺される。速度のみに重きを置いた攻撃で『すいりゅうれんだ』を相殺しつつ、ルカリオはその勢いを使って再び距離を取った。

 

「はどうだん!」

 

 加えて、距離を取りながらも放ってきた『はどうだん』。この攻撃に対して、マンムーが『10まんばりき』で相殺した。

 

「インファイト!」

 

 その瞬間、マンムーの懐にバシャーモが入ってくる。同時に強力な連撃がマンムーに叩き込まれ、大きなダメージを与えた。

 

「アクアブレイク!」

 

 バシャーモの攻撃が終わった瞬間、ウーラオスが横から現れてバシャーモを攻撃してくる。しかしバシャーモはウーラオスの攻撃に対して()()()()()()()()()バックステップを合わせつつ、腕でガードすることでダメージを最小限に抑えた。

 

(やっぱりだ。どういう手段かはわかりませんが、バシャーモは()()()()()()()()()()()()()()。特性で完全に見えなくなっているはずの攻撃のタイミングを完璧に見切ってる。まもるみたいな防壁は貫通する以上、完全な防御はできないけど…確実にダメージを削ってる。そのせいですいりゅうれんだも相殺された)

 

 この時スモモは知るよしもなかったが、バシャーモはメガシンカのエネルギーをコントロールすることでウーラオスの攻撃を見切っていた。

 メガシンカにより爆発的に上昇したエネルギーをバシャーモはまだ完全に肉体の中だけに循環させることはできていない。メンタルが成長したことによりメガシンカの持続時間は大幅に上昇し、常にエネルギーを全開にしてしまうようなことはなくなったものの、元があまりにも下手くそだったこともあり、ガブリアスのように肉体の中だけで循環させることができていない。しかし放出されたエネルギーをただ垂れ流すのではなく、放出された状態…つまり体外で維持することはできた。この放出され、維持されているエネルギーの範囲内に入ったものをバシャーモは感知できる。ウーラオスの特性『不可視の拳』は攻撃部位を見えなくするだけで、実体そのものはなくなっていない。そのためバシャーモが放出したエネルギー範囲内に入った瞬間、見えなくともどのタイミングで攻撃してくるかは察知できる。そしてメガシンカにより向上した反応速度は、ほぼ脊髄反射で攻撃を受け流すことを可能にした。

 

(軽減させてても、抜群技はやっぱ痛えな。ビルドアップで上げた防御もインファイトで元に戻った。体力も5割切ったし、アクアブレイク一発かすいりゅうれんだ直撃したらさすがに落ちそうだな)

 

 しかし、この手法でも完全な防御はできない。ガードしたり受け流したりすることで威力は大きく削っているものの、効果抜群のタイプ一致技。バシャーモがかなり押しているものの、ダメージレースはほぼ同じ。ルカリオのサポートもあるが、必ずカバーできるわけでもない。ほんの一瞬迷いが生じた。

 

「ガンガン行きなさい」

 

 だがそんなカイムの思考を読んだかのようにシロナが言う。

 視線だけシロナに向けると、シロナは力強く笑いながら頷いた。

 

「ああ」

「言う必要、なかった?」

「いや。ありがとう」

 

 短いやり取り。それだけで充分だった。

 

「バシャーモ!」

 

 バックステップで下がった勢いを強靭な足腰で反転。一気にウーラオスに迫ったバシャーモは、拳に炎を纏わせてウーラオスに叩きつけた。

 

「掴んでください!」

 

 動きを見切っていたウーラオスはバシャーモの腕を掴む。拳自体はウーラオスに届いているが、『ほのおのパンチ』程度ではダメージは大したことない。仮に『おにび』だったとしてもここまで削れたバシャーモ相手ならばマンムーとの連携でどうにかできるとの考えだった。

 バシャーモは掴まれた腕を支点に、飛び上がって膝を叩きつける。ウーラオスは咄嗟に片手でバシャーモの膝を防ぐが、その瞬間に腕を抜き取りウーラオスを蹴りながら下がった。

 

「?」

 

 追撃を仕掛けようとした瞬間、ウーラオスの身体に炎が残っているのが見える。火傷では無いかつスリップダメージもない。ただ燃やしていない炎が残っているという奇妙な状態だった。

 

「かわらわり!」

「マンムー、じしん!」

「ルカリオ、カバー!」

 

 足に波導を凝縮させたバシャーモが再びウーラオスに肉薄するが、マンムーの攻撃がバシャーモを襲う。ルカリオが『しんそく』による推進力とブラッキー直伝『不完全だが展開が非常に早いみきり』を展開することでダメージを最小限にしつつ、バシャーモの動きが遮られることを防いだ。

 バシャーモは再びルカリオの展開した防壁を足場にしてダメージをほぼゼロに抑え、防壁から飛び上がりウーラオスへ肉薄する。

 

「迎え撃ちます!かわらわり!」

 

 バシャーモの足とウーラオスの拳がぶつかり合う。『かわらわり』でありながら足で攻撃してくるバシャーモに内心でツッコミをいれつつ、ウーラオスは追撃の構えを取った。

 

「たきのぼり!」

 

 噴き出した水を拳に纏い、振り抜く。バシャーモは『かわらわり』を維持した足で受けることで『たきのぼり』のダメージを大幅に削った。

 そして攻撃を受けた足に炎を纏う。

 

「ブレイズキック!」

 

 バシャーモが炎を纏った足を、()()()()()()()()()()()()()に叩きつける。本来なら効果今一つ技故に、そこまでのダメージにはならない。鋭さと勢いは目を見張るものがある。斬撃にも思えるレベルの蹴りは組み手ならば間違いなく有効な一手だろうが、バトルにおいてはまた別。タイプ相性故にウーラオスにとって警戒するのは威力よりも火傷だった。むしろこの『ブレイズキック』を受け、そしてカウンターの『すいりゅうれんだ』を与える。そのつもりだった。

 

 だがバシャーモの攻撃が当たった瞬間、ウーラオスの体に残った炎が爆発した。

 

「⁈」

 

 この爆発はウーラオスに大きなダメージを与える。通常の『ブレイズキック』や力業であったとしても、まずここまでのダメージにはならない。急所に当たったというわけでもなかった。

 『ブレイズキック』に爆発する作用などない。ならば何か別のものが爆発したと考えられる。そしてそれは間違いなく、ウーラオスの体に残った炎だ。

 

(何かはわかりませんが起爆剤のようなものを残していたんですね!本当、よく思いつく!)

 

 原理はわからない。だが今はそういうものがあるとだけわかればいいとスモモは思考を切り替える。

 爆炎はそう大きくない。視界を塞ぐには十分だが、あと1秒もしないうちに完全ではないにしろ視界は晴れるだろうとスモモは身構えた。

 

 突如、ウーラオスの視界の隅に映る爆炎が揺らぐ。爆炎から姿を見せたのは、既に『はどうだん』を発射できる体勢になったルカリオだった。

 

「力業・はどうだん!」

「(目眩しからの奇襲!カイムさんの意味不明爆発で動揺させてからの強襲が狙いでしたか!でも!)ウーラオス、回避!」

 

 ルカリオの放った『はどうだん』は真っ直ぐウーラオスに飛んでいくが、ウーラオスはジャンプして回避する。完璧なタイミングでジャンプしたことで『はどうだん』はウーラオスの足元を通り過ぎた。

 そして力業による攻撃を放ったことでルカリオに隙ができる。そこに向けてマンムーが突進してきた。このままマンムーが攻撃を出せば、ルカリオに大きなダメージが入ることになる。

 だが突如、影が動く。

 

「でんこうせっか!」

 

 晴れかけている爆炎からバシャーモが高速で現れる。だがその進路は、ルカリオのいる方でもウーラオスがいる方でもない。明らかに遠ざかるような方向に動くバシャーモに、スズナとスモモは困惑した。

 

(バシャーモ?どこへ…)

 

 明らかにカバーでも攻撃でもない方向。目的が見えない動きに困惑した二人だが、その意図をすぐに理解した。

 

「そこだ」

 

 バシャーモは()()()()()()()()()()()()()()()に向けて高速で迫り、『でんこうせっか』の速度を利用してジャンプすると、空中で回転しながら完璧なタイミングでルカリオの『はどうだん』を蹴り返した。

 

「いっ⁈」

 

 僅かに炎を纏った『はどうだん』はルカリオに迫ってきていたマンムーに直撃する。威力は僅かに落ちているだろうが、『でんこうせっか』の速度を利用した回転蹴りによる弾き返しにマンムーは反応できない。防御体勢を取ることもできず、マンムーは効果抜群の攻撃を受けた。

 

(そうきますか!発想の柔軟さは本当に一級品ですね二人とも!)

「10まんばりき!」

「コメットパンチ!」

 

 攻撃を受けたとはいえ、マンムーの攻撃を止められたわけではない。振り下ろされた巨大な足に向けてルカリオは硬化させた拳をぶつける。特殊技向けに調整されていたルカリオの物理攻撃力はやや下がっているため、タイプ相性もあり『コメットパンチ』では相殺しきれない。マンムーの攻撃を受け止めたルカリオの足元が衝撃に耐えきれず小さなクレーターができた。

 

「でんこうせっか」

 

 ルカリオを押しつぶさんとするマンムーに向けて、着地したバシャーモが再度高速で肉薄する。

 

「アクアジェット!」

 

 だがウーラオスがそれを阻む。バシャーモの速度と同速程度の速度をもってウーラオスはバシャーモと組み合うことで、バシャーモの足を止めた。

 

「ルカリオ、ラスターカノン!」

 

 潰されそうなほどの威力を受けながらも、ルカリオは鋼エネルギーを凝縮し放った。爆発によりマンムーを押し戻し、自分も爆発の勢いによって距離を取る。

 

「畳み掛けてくださいウーラオス!」

「得意の近接格闘だ。存分にやれ」

 

 バシャーモとウーラオスが咆哮を上げ、ウーラオスの拳とバシャーモの足がぶつかり合った。ウーラオスはぶつかり合った衝撃を利用して回転し、裏拳をバシャーモにぶつける。バシャーモはウーラオスの攻撃を肘で止めると、ウーラオスの拳を掴もうとしたが、ウーラオスはバシャーモの手を弾き回し蹴りをバシャーモに放った。

 

「甘い」

 

 しかし回し蹴りはバシャーモの足に阻まれる。勢いが出る前にウーラオスの回し蹴りを止め、がら空きになったウーラオスの背面に炎を纏わせた拳をぶつけた。

 

「また起爆剤!ウーラオス、アクアブレイクの水で…」

「させないわ。ブレイズキック!」

 

 一瞬にして目の前に迫ってきたルカリオが、炎を纏った足でバシャーモがつけた起爆剤を的確に穿つ。通常よりも威力が高くなった『ブレイズキック』がウーラオスを吹き飛ばし、ダメージを与える。

 

(起爆剤の連携!炎タイプ技の威力を底上げするのは、バシャーモの技だけじゃない感じね。半減のウーラオスならダメージは少ないけど、爆発による体勢崩しが厄介。マンムーは特性で等倍だけど…あれ受けたらさすがにやばい。バシャーモは近寄らせたらまずいわ!)

 

 マンムーの特性は『厚い脂肪』。炎と氷技を半減にする特性だが、氷タイプを持つマンムーは特性と合わせて炎技は等倍。耐久力も高いマンムーならば起爆剤込みの炎技も受けられるだろうが、ダメージが大きいことに変わりはない。加えて格闘タイプ技もある以上、近寄らせた場合は大ダメージを避けられないだろう。

 マンムーの体力も既に4割を切っている。いくら耐久力があるといえど、高火力の効果抜群技を何度か受ければ相応に体力は減る。『インファイト』や『きあいだま』のような高火力抜群技を受けた場合、ダウンする可能性が高い。

 バシャーモは速度が非常に早いが、前衛のウーラオスがうまく抑えられる。加えて、カイムのバシャーモは()()()()()()()()使()()()()。遠距離からの攻撃を考慮しなくていい分、接近されることに気をつければ対処はできる。だがルカリオはそうもいかない。先の『10まんばりき』で大きなダメージを与えられたが、倒れてはいない。今回は完全に特殊技調整をしているため、スズナは遠距離からの不意の一撃を最も警戒すべき対象に定めた。特に先程の『はどうだん』を蹴り返してきた一撃のような連携に警戒すべきだろうと考える。

 

「マンムー、いわなだれ!」

「ルカリオ、しんくうは!」

 

 吹き飛ばされたウーラオスのカバーのため、マンムーは岩石の滝をルカリオに降らせる。ルカリオは『しんくうは』を放つことで自分に直接当たるであろう岩石を砕き、ダメージを最小限に抑えた。

 降りやんだ岩石の間を、バシャーモが高速で駆ける。地面に落下した岩石の一つを蹴りにより砕き、ウーラオスに対して礫として飛ばした。

 

「ウーラオス!」

 

 ウーラオスは全身に水を纏わせ、礫を弾く。視界が塞がれることもなく真っ直ぐバシャーモを捉え、いつでも迎撃できる体勢を整えた。この状態から加速不意打ちはない。真っ向勝負以外に手はないはずだが、搦手の可能性も捨てない。

 突如、バシャーモの足が止まる。攻撃圏内には全然入っていないのに止まったことでほんの僅かだが、ウーラオスは目を見開く。

 

「じしん!」

 

 咆哮と共にバシャーモが地面を殴りつける。そこから発せられた衝撃波はウーラオスとマンムーに向けて迫っていく。

 

「(そうきましたか!)ウーラオス、とびはねる!」

「マンムー、早業・じしん!」

 

 ウーラオスは衝撃波が届かない高くまで飛び上がる。

 マンムーならばバシャーモの『じしん』を早業であったとしても相殺できる。しかし、今は位置関係が悪い。マンムーがバシャーモの『じしん』を相殺させた場合、ウーラオスがそこに巻き込まれる可能性がある。加えて、マンムーとウーラオスの位置関係を逆転させるには、マンムーの速度が足りない。咄嗟にそう判断したスモモは、上空への回避を選択した。

 

 バシャーモの『じしん』がマンムーの『じしん』と相殺され、衝撃波同士の接地点が弾け、土煙が上がる。

 土煙の中から何かが飛び出してくる。マンムーはその何かを大きな牙で弾いた。

 

(はどうだん…つまり、この土煙がルカリオの攻撃のため!)

 

 波導で場所を察知できるルカリオからすれば、この程度の土煙は妨害にすらならない。正確にこちらの位置を読んで攻撃してきたこと自体を把握できればそれで良い。ウーラオスの方にも同じような攻撃が来ると身構えられる。

 

「はどうだん!」

 

 読み通りウーラオスにも攻撃がきた。空中であれば回避できないとシロナは踏んでいたが故の攻撃だったが、ウーラオスは空中で身を捩ることでルカリオの『はどうだん』を回避した。

 

「!」

 

 ルカリオの攻撃を回避したウーラオスはそのまま落下してバシャーモに向けて攻撃しようと視線を動かす。土煙は既に晴れており、空中であるためマンムーの放った『いわなだれ』の岩石に隠れることもできない。即座にバシャーモへの攻撃に移ろうとしたが、バシャーモの姿がない。

 バシャーモはウーラオスの真下にいた。

 

「スカイアッパー!」

 

 空中にいるウーラオスに届くほど飛び上がり、ウーラオスに対して拳を振り抜いた。攻撃を受けたウーラオスは空中で体勢が崩れる。

 

「ぐっ⁈(対空中の攻撃!とびはねるを誘導されていましたか!)」

「そのままかわらわり!」

「ウーラオス、迎撃!」

 

 バシャーモが振り抜いた拳をそのまま反転させウーラオスに振り下ろし、ウーラオスは体勢を崩しながらも無理矢理体を捻ってバシャーモに攻撃を叩きつける。互いに攻撃を穿ちながら、バシャーモとウーラオスは地面に着地した。

 

(これで体力は互いに1割程度!次のワンセット勝敗を分ける!)

 

 ウーラオスはもちろん、バシャーモも限界。ルカリオとマンムーも体力はかなり少ない。勝負の決着が迫ってきているのを感じた。

 

「マンムー、じしん!」

 

 バシャーモとルカリオに向けて衝撃波が放たれる。

 先ほどまではルカリオが防御、バシャーモが攻撃だった。しかし今度は立場が逆になり、バシャーモが防壁を展開し、ルカリオがその上に着地した。

 

「バシャーモ、まもる」

「ルカリオ、飛び上がってラスターカノン!」

 

 バシャーモの防壁を足場にしたルカリオが飛び上がり、鋼エネルギーを凝縮した弾丸を放った。

 ルカリオの攻撃をウーラオスが打ち払う。続け様にもう一度『しんくうは』が飛んでくるが、こちらもウーラオスが弾いた。

 同時に、防壁を解除したバシャーモがウーラオスに肉薄した。『でんこうせっか』ではなく、純粋な脚力のみの接近。

 

(この感じ!)

 

 距離を取ったところからの接近。加速不意打ちの条件が完全に揃っている。不意打ちが来ることを本能的に二人は悟ったものの、先程カイムが見せた選択肢が脳裏を過ぎる。

 

(通常の加速不意打ちと、そう見せかけた遅く強力な一撃。今回来るのはどっち⁈)

 

 加速不意打ちとそう見せかけた『剛』の技。この二択、対処法はわかっているとはいえ、対処を間違えると直撃を受けかねない。どちらかの対処を強制的に強いる勝負強さに、スズナは内心で舌打ちする。

 直前にならないと対処ができず、二択を外せば大ダメージ。しかもバシャーモの反応速度をもってすれば、こちらの対処法を見てから手を変えることもできる。読み合いにおいては最強の後出しジャンケン。この悩む数瞬間ですら、カイムの狙い通りであることを理解させられていた。

 

「やるしかありませんね」

 

 この強制二択に対する完全な対処法はないのか。

 あるには、ある。()()()()()。だが、これを成功させることができるかと言われると、完全なぶっつけ本番であるため、できる保証はない。だができなければ二択を迫られ、尚且つ手を出せば後出しで変えられる。ならばもう、こちらも後出しされないような手を使うしか無いと判断した。

 

「アクアジェット!」

 

 ウーラオスがバシャーモに高速で迫る。

 

「(想定内)バシャーモ!」

 

 バシャーモが全身に炎を纏う。こちらの二択を潰すためにこちらに迫ってくる可能性は初めから考えていた。故に、対処も早い。

 バシャーモとウーラオスが迫る。互いの攻撃があと数歩踏み込めば当たるくらいの距離。その瞬間、ウーラオスが加速した。

 加速不意打ち。そちらの対処に動いた。

 

「フレアドライブ・剛!」

 

 ウーラオスの動きを見た瞬間、バシャーモは全ての速度を威力に変換して地面を踏み抜く。速度を全て拳に乗せ、バシャーモはウーラオスに向けて拳を振り抜いた。

 拳がウーラオスを穿つ。だが、ウーラオスの速度が突如として急激に落ちた。

 

「は?」

 

 速度を全て威力に変換する動き。これをバシャーモとカイムは知っている。たった今、自分がやったことと同じ動きだ。速度を全て威力に変換することで瞬間的に肉体は鋼の如く強靭になり、ダメージを受けても揺るがない体幹を手に入れる。この体幹はバシャーモの攻撃によるダメージをなくすことはできないが、ダメージにより体勢を崩すことはない。速度の全てを拳に乗せたウーラオスの攻撃がバシャーモに対してカウンターのように突き刺さった。

 

「テメェ…」

 

 『アクアジェット』の水は全て推進力として使われていたが故に、攻撃に水タイプは含まれておらず単純な体術のみ。だが、カウンターを完璧に決められたバシャーモは体勢が崩れた。

 

 バシャーモの動きを、完全にトレースしてきた。たった一回見せただけの動きを、この土壇場で決められた。その姿を見て、カイムはかつて憧れた背中の幻影が脳裏を過ぎる。

 

「人が死ぬ思いで身につけた技を…一回見ただけで使えるようになってんじゃねえぞ天才がぁ!」

 

 カイムらしからぬ、怒りに身を任せたような声。

 だがスモモはその声に怯むことなく、歯を剥き出しにして笑った。

 

「あなたの発想に助けられましたよカイムさん!アクアブレイク!」

「しんそく!」

 

 ウーラオスの攻撃をルカリオが止める。超高速の攻撃がウーラオスの攻撃を受け流し、ダメージをゼロに抑えた。

 

(勝負を焦ったわね!技のタメが不十分よ!)

「ウーラオス下がって!マンムー、10まんばりき!」

 

 マンムーがバシャーモとルカリオを押しつぶさんと巨大な足を振り下ろしてくる。ルカリオは硬化させた拳を振り下ろされた足にぶつけて威力を大きく削った。そしてバシャーモはルカリオがマンムーを止めた瞬間に動き、炎を纏った足でマンムーを蹴り飛ばした。

 

「ブレイズキック!」

 

 マンムーは大きく弾き飛ばされ、マンムーの攻撃でダメージを受けたルカリオが膝を突く。マンムーは特性でダメージを半減にしてもなお、効果抜群の技はダメージが大きく、炎を受けながら吹き飛ばされた。体力は残ったが、余裕は一気になくなった。

 吹き飛ばされたマンムーと入れ替わるように、ウーラオスが迫る。

 

「バシャーモ、迎撃!」

 

 着地したバシャーモはウーラオスの動きに対応できるように構える。どんな動きにも対応できる、得意のカウンターの構え。ここから『アクアジェット』であっても対応できる状態を整えた。

 

「うずしお!」

「ああ⁈」

 

 さすがに想定外の『うずしお』に、バシャーモは効果範囲からルカリオを蹴り出すしかできない。渦巻く水に囚われたバシャーモが残り少ない体力を削っていく。

 だがバシャーモは全身に炎を纏い、無理矢理渦から抜け出す。若干ダメージを多く受けたが、動きを止められるよりはいいと判断したからだ。

 抜け出すまで、1秒程度。だがこの1秒で、ウーラオスはすでに奥義の構えに入っていた。

 

「アクアジェット」

 

 抜け出したところに、一撃。咄嗟に炎で身を守るが、バシャーモの体勢が崩れる。

 

(なんだ今の…今の一撃、いや…連撃?)

「(ただのアクアジェットではないわ!)ルカリオ!」

「遅い!」

 

 ルカリオがウーラオスを止めにかかるが、ルカリオの体をマンムーが止める。

 

「行かせないよシロナさん!」

「くっ!」

 

 ルカリオが止められた瞬間、ウーラオスは動く。

 『アクアジェット』を推進力とした高速移動。そして高速移動の中で特殊なステップと水の反射を加えることで、擬似的な『かげぶんしん』を可能としていた。

 

(これは、レッドのピカチュウの!)

 

 レッドのピカチュウは『でんこうせっか』による擬似的な『かげぶんしん』を可能としている。ウーラオスはピカチュウほどの速度は出ないものの、『アクアジェット』で出た水を周囲に展開して水鏡のように己の姿を映すことで『かげぶんしん』のように周囲に自分の残像を展開していた。

 

「お前なら見える」

 

 だがバシャーモは動じない。どれだけ早く動こうとも、実態は一つ。防御はできなくとも、この速度ならば『はやてがえし』によるカウンターが刺さる。ウーラオスの動きを目と気配で追いつつ、その瞬間を待つ。

 コンマ数秒の後、ウーラオスが肉薄してきた。その瞬間にバシャーモは『はやてがえし』でカウンターを放つ。

 

 しかしバシャーモの攻撃は()()によって潰される。

 

「⁈」

 

 『アクアジェット』を連続で出すことによりさらなる速度で迫ってきたウーラオスは、『すいりゅうれんだ』のような連続攻撃を一瞬にして叩き込んできた。速度に対応できたバシャーモだが、ウーラオスの『不可視の拳』による特性で連続攻撃が来ることまでは想定できなかった。

 

「一瞬連撃」

 

 バシャーモの体勢が崩れる前に、次の攻撃が叩き込まれる。

 超高速の移動と目にも止まらぬ連撃が、1秒も経たないうちに叩き込まれていく。反撃どころか、体勢を立て直す隙もない。

 

(ああ、クソ…)

 

 刹那の瞬間に叩き込まれる連撃。これを見て、カイムは苦しそうに顔を歪めた。決して己では辿り着けない境地。ここに来て、かつて求めた境地へ届かない苦しみが、己の心を苛む。

 

(勝てない…どうやっても、辿り着けない)

 

 羨ましく、妬ましい。強烈に憧れたかつての幻想。今は折り合いがつけられていても、やはり憧れそのものは消えない。

 嫉妬という心の闇が強く心を蝕んだ。

 

「これでトドメです」

 

 スモモの言葉と共に、一息の間に十を超える連撃が叩き込まれて、倒れそうになるバシャーモに対して、ウーラオスは最後に強力な一撃を穿った。

 

「水流連打・瞬撃」

 

 ウーラオスの連続攻撃は、全てバシャーモに直撃。残されていた僅かな体力を消し飛ばし、バシャーモはゆっくりと倒れていく。

 

「勝てない…本当に強いよ、お前ら」

 

 しかし、カイムの目は死んでいなかった。

 バシャーモは倒れる瞬間、ウーラオスに寄りかかるように前のめりに倒れた。そしてウーラオスが逃げられないよう、後ろから首を絞めるように腕を回した。

 

「スモモ、勝負はお前の勝ちだ」

 

 積み上げ、作り出してきたものの全てを出し、シロナのサポートを受けてなおこの結果だ。サシでやればまず間違いなく負けていた。凡人では、天才に敵わない。そんなことはわかっている。それでも、条件さえ揃えば超えられると証明したかったが、できなかった。

 認めよう、完敗だと。

 

 

 

「試合の勝敗は別だ」

 

 

 

 突如、バシャーモの全身から炎が溢れる。

 

「バシャーモは特殊技が苦手だ。体から離したエネルギー操作がとにかく下手。距離があればさらに威力が落ちる。だがな」

 

 ウーラオスも異常に気づいた。倒したはずのバシャーモがまだ動く。しかもウーラオスが振り解けないほど強い力でしがみついてきている。

 

「効果今一つでも技の威力が十全でなくとも、ゼロ距離で受けりゃあちっとは痛えだろ!」

「まずい!ウーラオス、アクア…」

「オーバーヒート!」

 

 バシャーモが爆発した。

 効果は今一つ。特防が低いウーラオスだが、元々鍛えていないかつ苦手な特殊技、そしてウーラオスが僅かながら水を纏うことで本当にギリギリだが、体力が残った。

 

「悪い、あとは頼む」

 

 カイムの言葉と共にバシャーモは倒れていく。そして地面に倒れ伏す前にメガシンカは解除されて、今度こそ力尽きた。

 倒れる瞬間、メガシンカが解除されかけているバシャーモを追い抜くように駆けていくルカリオがその背中を優しく叩く。

 

「ええ、ありがとう」

 

 ウーラオスが起き上がると、ルカリオが既に眼前に迫っていた。

 

「マンムー、力業・10まんばりき!」

 

 ウーラオスのカバーのためにマンムーが足だけでなく全身に地面タイプエネルギーを纏い、ルカリオを迎え撃つ。ルカリオは拳に波導を凝縮し弾の形に変えた。

 

(ゼロ距離はどうだん!でもぶつけ合いならマンムーが勝つ!)

 

 マンムー全力の一撃とルカリオの波導がぶつかり合う。ルカリオにマンムーの攻撃が到達するが、同時にルカリオの『はどうだん』が爆発した。

 

「っ⁈」

 

 『はどうだん』に爆発効果は多少あるものの、ここまでの爆発はしない。

 

(これは…まさかバシャーモの起爆剤⁈最後のブレイズキックか!)

 

 まさかあの一瞬で取り付けられているとも炎タイプ技以外でも爆発するとも思っていなかった。

 

「きあいだま!」

 

 爆発はあくまで体勢を崩すためのもの。そのため放った『はどうだん』も威力も低い。だが次の動き出しも早いというメリットがあった。即座にエネルギーを凝縮した弾丸をマンムーにぶつけた。

 

「マンムー!」

 

 吹き飛ばされたマンムーは倒れ、完全にダウンする。高威力技のゼロ距離攻撃を耐えられる体力はマンムーにはなかった。

 しかしまだウーラオスが残っている。

 

「アクアジェット!」

 

 ウーラオスは水を足から噴き出し、ルカリオに肉薄する。高速の接近からルカリオに渾身の一撃を叩き込むために。

 

「インファイト!」

 

 ウーラオスの連撃がルカリオに向けて放たれる。これを受けられるだけの体力はもうルカリオにない。そして攻撃が終わったばかりのルカリオに回避する余裕はない。

 しかしルカリオは、ウーラオスの攻撃をしっかりと見据えていた。

 

「素晴らしい追撃。状況判断は完璧ね」

 

 でも、とシロナは続ける。

 

「一手の差だけど、詰みよ」

 

 突如、ルカリオの姿が消える。次の瞬間、ウーラオスに強力な一撃が叩き込まれた。速度に重きを置いた一撃だが、体力がほぼなかったウーラオスには十分な一撃だった。

 ウーラオスは何とか立とうとしたが、耐えることができない。悔しそうに表情を歪め、前のめりに倒れた。

 

 この瞬間、勝者が決まった。

 

『バシャーモ、マンムー、ウーラオス戦闘不能!よってこのバトル、プレシャスボールペアのシロナ、カイムの勝利!』

 

 歓声が響き渡る。だがフィールドに立つ四人に、その歓声は耳に入っていなかった。

 

「あー…終わっちゃった」

 

 スズナが空を見上げながら呟く。ただただ楽しい時間だったから、終わってしまったことにどこか寂しさを覚えていた。もちろん負けたことは悔しい。だが今は、終わったという事実が寂しかった。

 

「……負けてしまいました」

 

 そんなスズナの隣でウーラオスをボールに戻しながら、スモモは言った。スズナもマンムーをボールに戻し、スモモに目を向ける。スモモの瞳にはスズナ同様寂しさと悔しさ、そして少しだけ反省の色があった。

 

「楽しかったね」

「はい、本当に。世界は広いですが…身近なところにも、上はいるものですね」

「あたし達もまだまだね〜」

 

 スモモは頷く。

 

「痛感しました。あたしの未熟さを。修行してもまだまだです」

「気持ちはよくわかるけど、今は」

「はい。お二人の方へ行きましょう」

 

 スズナは頷くと、二人でフィールドに降りる。ほぼ同時にシロナとカイムもフィールドに降り立った。

 フィールド中央で両ペアは向き合う。全員、疲れてはいるがやり切った表情をしていた。尤も、カイムだけはいつも通り無表情ではあったが。

 

「とてもいいバトルをありがとう。二人の気合、伝わったわ」

「これ以上はできないってくらい、今のあたし達にできる最高のパフォーマンスでした。その上を行かれたんで、完敗です」

 

 スズナにとってもスモモにとっても、今できる最高のパフォーマンスを出し切ったと言える。対策も調整もアドリブも、全てが普段の120%だった。だがそれでもなお、届かなかった。完敗だと言わざるを得ない。

 

「ここまでのバトルをできる二人の全力を引き出せたことを、誇りに思う。いいバトルをありがとう」

「修行して強くなってきたんですけどね。届かなかったのが悔しいです」

「今回はタッグバトルだった。俺一人じゃ、修行したお前には勝てない。今回、それをより実感した」

 

 加速不意打ちの派生技である『フレアドライブ・剛』と同じ仕組みの技をウーラオスは見様見真似とはいえ、土壇場で決めてみせた。タッグバトルだったからシロナがカバーし、最後は勝つことができたものの、一人だったらあそこで負けていた。

 

「選択肢を見せることで、ほんの一瞬だけでも迷ってくれりゃ良かったんだがな。それすらもできんとなると、現状の俺だけでは何しても勝てん」

「でも、カイムさんはアドリブでも色々できます。何しても勝てないってことは無いんじゃないですか?」

「俺とお前のアドリブは根本的に違えよ」

「?」

 

 首を傾げるスモモに、カイムは『わからないならいい』とでも言うように首を振る。よくわかっていないスモモを他所に、スズナが少し意外そうな表情をしながらカイムを見た。

 

「そういえば、カイムさん珍しく声荒げてたね」

「……言うな」

 

 あの瞬間のことは今でも鮮明にフラッシュバックする。憧れて追いかけて、届かないことをこれでもかと突きつけられた日々のこと。自分が死に物狂いでできるようになったことを初見で平然とやってのけてくる天才(化物)の背中。忘れていた心の闇(嫉妬)の感情があの瞬間だけ業火の如く燃え上がり、一瞬だけ怒りに身を任せた己の未熟さなど思い返したくもなかった。

 

「キレ芸以外では初めて見ました」

「っふ…」

 

 カイムの小言を平然と『キレ芸』扱いされているのが面白くて、シロナは思わず笑ってしまう。そんなシロナを見てカイムは顔を顰めた。

 

「笑ってんじゃねえよシロナ」

「ごめんごめん…面白くて」

「ちっ…」

「ごめんって。でも、確かにそうかも」

 

 カイムは小言を言うことは多いが、怒ることはほとんどない。昔はともかく、今は感情のコントロールが非常に上手い故に、瞬間的とはいえこうして怒りに身を任せることはない。そんなカイムがああして怒りに身を任せたように叫ぶ姿は、シロナにとっても初めての光景だった。

 

「あなた、嫌がることはあっても怒ることはないじゃない?だからああして怒る姿は初めて見たわ」

「怒ることくらい、俺にもある。ああして叫ぶことはそうそう無いだろうが」

「そんなに怒ることでしたか?」

 

 スモモの問いかけに、カイムは再び顔を顰める。

 

「人が超努力して習得したモンを、一回見ただけの奴が使えるようになってたら…そりゃ色々思うところはあるだろ」

「……?」

「ガチでわかってねえツラすんのやめろ」

 

 呆れたようにため息を吐く。

 スモモ視点、仮にそういうことがあったとしても、より燃える材料にしかならない。故に、カイムの言う『思うところ』ということがあまりわからなかった。以前から実感していたが、やはりスモモは己の才能に対する自覚が少ない。ありすぎて天狗になるよりは遥かにいいが、ここまで自覚がない者も珍しい。

 

「色々…思い出すことがあった。そんだけだ。少なくともスモモはなんも悪いことしてねえ。お前の凄さにしてやられただけだ」

「あたしより、カイムさんとシロナさんの方がすごかったですよ。あたしは…カイムさんの『加速不意打ち』みたいに新しい手を思いつくことは得意じゃありません。何でもすぐできるようになるのもすごいことではあるかもしれませんが、最初に考えついた人の功績には及びませんから」

「才能の方向性ってところかしらね」

 

 人それぞれ才能や得意なことは違う。故に、シンプルに比較することは実に難しい。どちらがすごいのか、などとは、視点によって違う以上、簡単に言うことはできない。

 

「強さとは実に多彩なもの。新しいものを思いつくのも強さ。今、世の中にあるものをたくさん吸収して武器にすることも強さ。いろんな強さが人とポケモンの数だけ存在してる。だからこそポケモンバトルは面白い。そうでしょう?」

「…ああ、そうだな」

 

 強さとは一つでは無い。人やポケモンの数だけ強さがある。そして強さの中に宿る心を、バトルを通じて通わせる。だから熱くなれるのだと、シロナに弟子入りするまでは知らなかった。

 だが今は多彩な強さを導く側になった。瞬間的に何もわかっていなかった頃の自分が蘇ったが、今こうしてここにいるという事実だけで十分だと思えた。

 

「ちょいと無様なところを見せたが…それはそれとして、今回はこちらの勝ちだ」

「楽しかったよ。悔しいけどね。だから、またやろう!」

 

 スモモはカイムに、スズナはシロナに手を差し出す。

 

「次は、あたしが勝つ。覚悟してください」

「もっと気合入ったバトルにしてやるんだから!」

 

 そんな二人の手を取り、シロナは不敵に笑い、カイムは変わらぬ無表情ながらも強い光を宿した瞳を向けた。

 

「喜んでお相手させてもらうわ。でも、次も私達が勝つ」

「簡単に譲ってやる気はない」

「簡単になんて思っていません。満を持して勝ちますから」

 

 そう言ってスモモとスズナは笑った。悔しさはあるが、それ以上に今はやり切った実感が強いことが伝わってくる。

 そんな二人を見てシロナは笑い、カイムは小さく息を吐いた。

 

「改めて、いいバトルをありがとう。またやりましょう!」

「こんなバトルができたことを、光栄に思う。またやろう」

「はい!」

「もちろん!」

 

 そうして両ペアは観客達に手を振り、歓声に包まれながら激闘を終えたフィールドを後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー…負けちゃった」

 

 ゲートを抜けた先の通路で、スズナは悔しそうに呟く。秘策の全てを出し切ってもなお、超えることができなかった事実を悔しく思いながらも、どこかすっきりしている。完敗だと強く実感したからかもしれない。

 

「そうですね」

 

 そんなスズナに、スモモは短く返す。スモモの口調はどこか軽く、その口元は僅かに笑みが浮かんでいた。

 

「…どうしたんスモモ」

「え?」

「笑ってる」

「……あたし、笑ってます?」

 

 スモモは自分の頬に手を添えるが、よくわからない。鏡もない今、自分が笑っているかどうかを確かめる術はなかった。

 

「うん、ちょっとだけ。なーんか嬉しそう」

「嬉しい……そう、かもしれません」

 

 いまだに歓声が聞こえてくるゲートの方を振り返りながらスモモは言う。

 

「あたし、留学して…強くなったと思ってます。でもまだまだ足りない部分があるのも事実。世界の広さを知ることができた今、あたしはもっと強くなりたいと思いました」

「うん」

「でも…世界の広さを伝えてくれたのは、必ずしも外の人だけではないことを…今回の大会で改めて実感したんです」

 

 ポケモンバトルはもちろん、ガラル空手の奥の深さも知り、バトルと武術の両方を鍛え上げることができた。無論まだまだ足りない部分が多いものの、確実に躍進したと言える。

 しかし、世界が広いことは()()()()()()()()()()()()。近くにいる人達も世界の一部。ガラルから見れば、シンオウ地方も広い外の世界だ。外だけでなく、近くにいる存在にも目を向けなければならない。それがきっと、自分が足りていなかった部分の一つなのだろうとスモモは実感した。

 

「そっか。確かに、ガラルから見たらこっちは外の世界だもんね」

「はい。本当の意味で、色々見ていく必要があるなって実感しました」

「うん、あたしも」

「まだまだあたしは、強くなれる。そう思ったんです」

 

 本当に鍛錬が好きだなとスズナは苦笑する。スズナも練習やトレーニングは好きだが、さすがにこの大舞台で負けた後にこの感想は出ない。

 

「ほんと、鍛錬バカね」

「…かもしれません」

 

 スモモも苦笑し、近くにあったベンチへ腰掛ける。そしてスズナに目を向けながら、少しだけ申し訳無さそうに笑った。

 

「負けた直後にこんなこと言うのはアレかもですけど…今、悔しい思いよりもスッキリしてる感じが強いんです」

「というと?」

「あたしはまだ強くなれるということと…カイムさんに勝てたことが嬉しくて」

 

 少しだけバツが悪そうにスモモは笑う。

 

「……実は…途中から、タッグバトルの試合だってことが頭から抜けてる瞬間があったんです」

「知ってる」

「う…」

 

 ウーラオスが出て少ししたあたりからだろうか。スモモが少し没頭しすぎている瞬間が見られた。元々熱中しやすい気質ではあるが、スズナのカバーを全く気にしないで殴り合う瞬間があった。そのあたりから『あ、これ完全に没頭してるな』と察していた。

 

「ダブルもタッグも…難しいですね。目の前のことだけで頭がいっぱいになっちゃいます」

「わかるよ。あたし達、シングル専門でやってきてるトレーナーだし仕方ない部分はあるだろうね」

「それを加味しても…カイムさんを倒すことに躍起になりすぎてる時がありましたから」

「楽しかったんだ」

 

 スズナの問いかけにスモモは頷く。

 

「はい。正直、負けた悔しさより勝てた嬉しさが優ってます。鍛えた肉体と戦術、身につけた技術、磨き上げたセンスや即興の発想…お互いに全てぶつけ、その上で上回れた。そのことが嬉しくて」

 

 互いに全部を出し切った上で勝てた時の高揚感はスズナもよく理解できる。積み上げてきたものが形として実り、成果として実感できたのなら、トレーナーとしてこれに勝る嬉しさはそうそうないだろう。それが本人の中でライバル視している相手なら尚更。

 

「バトルとして負けている以上、悔しくはあるんですが…勝負として勝てたことが嬉しい。ジムリーダーとしてはあるまじき思考だとはわかるんですけど…」

「相手がカイムさんだから?」

「はい。あの人は、あたしのライバルですから」

 

 良い笑顔でそう言われてスズナは呆れたようにため息を吐く。元々毒気など一切感じていなかったが、さらに毒気を抜かれたためスズナも思わず笑ってしまった。

 

「ライバルか。うん、じゃあ楽しいのは至極真っ当だね」

「はい」

「じゃ、次もいいバトルできるように今は休まないとね」

「そうですね。戻りましょう」

 

 スモモは立ち上がると、スズナと共にすっきりした笑顔でバックヤードから歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スズナとスモモがバックヤードから去っていくのとほぼ同時刻。

 シロナとカイムもバックヤードにいた。波導使いの服のまま、カイムは疲れたように壁に寄りかかり、シロナはそんなカイムを見つめながらベンチに腰掛ける。

 

「お疲れね」

「…ああ、だいぶ」

「無理もないわ」

 

 素質的にタッグバトルが得意なカイムではあるが、決して慣れているとは言えない。加えて、得意とは言えない殴り合いのハイスピードバトル。さらには完璧に制御しきれているとは言えないメガシンカ。スタミナがあるカイムといえど、消耗するのは当然と言えるだろう。

 

「いい経験と刺激にはなったが…うん、やっぱハイスピードは得意とは言えん」

「もう少し練度がないときついわよ。でもこの練度でよくここまでついて来られたわ。そこは誇るべき部分よ」

「シロナのカバーありきだがな」

「そのカバーを想定して動けることが大事なのよ。今回の大会は」

 

 ほとんどのトレーナーがシングルバトルを専門としている都合上、味方のカバーを計算して動くというのは難しい。無論この大会に出ているレベルのトレーナーであれば高いレベルで実践可能だが、脳のリソースを別の部分に割く必要があることは間違いない。そのため、トレーナーによっては苦手に思う者も多いだろう。

 その点、カイムは味方の動きを完璧に計算にいれて行動できる。味方がシロナであることがより強い要因ではあるが、そうでなくとも計算に入れて動くことができるのは彼の数少ない天賦の才だと言えるだろう。(尤も、この才は訓練により培われたものであり才能とは全く違うものなのだが)

 

「疲れた」

「身も蓋もない感想ね。それに、勝ったのに昨日ほど嬉しそうじゃないわ」

「そうか?」

「そうよ」

 

 理由はなんとなくわかる。だが言語化させるために、敢えてシロナは問いかけた。

 

「バトルに勝った嬉しさより、悔しさが勝ってる印象ね」

「なんでもわかるんだな、お前」

「なんでもはわからないわ。あなたのことなら何でもわかるけど」

「そら怖え」

 

 カイムは苦笑し力無く息を吐くと、腰についているチェーンを手に取る。チェーンにはキーストーンがはまっており、バックヤードの光を受けて輝いていた。

 

「……今日のバトル、()()()勝つつもりで作戦を組み立てた。鍛えた肉体と戦術、身につけた技術、技術を応用した場当たりの発想…全部をぶつけて勝つ。そう思って臨んだ」

「そうね」

「だが同時に、勝てないと考えてる俺がいた」

 

 シロナは否定しない。

 昨日、カイムが立案した作戦。それは『加速不意打ちを利用した心理戦を仕掛けつつ相手の思考リソースを奪い、生まれた隙に攻撃を叩き込んでいく』というもの。そのために得意とは言い切れないガン攻めのゲームメイクを行ったり、加速不意打ちの応用技である『剛』を見せたりした。

 だが同時に、カイムはこの作戦が破られる可能性も指摘していた。スモモが極限まで集中した時、その瞬間に新たな技能を習得したりして()()()()()()()()()こともあった。カイムがトバリジム在籍時も似たようなことがあったため、今回も近いことがある可能性を捨て切ることができなかった。

 

 カイムはそこへの対応ができない。なぜなら、少し先の成長した姿を想像できないから。想像できないことは、対策を立てられない。積み上げたものだけのアドリブで対処できるかと言われたら、正直自信がなかった。

 そしてスモモは、カイムが考えていた可能性の通り自分の想像を超えてきた。『剛』に対して、『剛』を見様見真似でほぼ完璧に返してきた。あの手を打たれるとはさすがに想定していなかった。

 

「あの状況、向こう視点だと他に選択肢はなかったかもしれん。とはいえ、一回見ただけの技術をその瞬間に使えるようになることまで考えて動けというのは…さすがに無理がある。いや多分できる奴はいる。俺にはできん」

「そうね。自分の想定を超えられることを考えたとしても、いきなりあれをやられたら、ね」

 

 シロナならできなくはないかもしれない。だがいくらシロナほどのトレーナーといえど、自分が使った技をいきなり向こうにも使われたら瞬間的でも動揺はする。

 

「なんであんなことできんのかねえ。俺から言わせりゃ意味不明だ」

「いるのよね、感覚で全部できる子。イサナさんとか」

「ふざけてやがるぜ、まったく」

 

 疲れたように呟きながらカイムは壁から背中を離し、そのままシロナの隣に腰掛ける。

 

「今回のバトル…コンセプトは最後まで変えなかった。()()()()()。スモモちゃんがあなたとの()()に熱中してきているのを感じ取っても、あなたはそれに乗らずこのコンセプトを貫き通した。そこをブレずにいけたことを誇りに思いなさい」

「かもな。ただまあ……できることなら完勝したかったものだ。勝負も試合も…全部勝ってみたかった」

「ふふ、そう。なら、次は全部勝てるようにしないとね」

 

 そう言ってシロナは隣に座るカイムの頭を胸に抱えるように抱き寄せる。普段なら少し抵抗しただろうが、消耗しており思うところがあるカイムはされるがままになっていた。

 

「勝ちたかったって思えるなら大丈夫。挑戦しつづければ、どこかで必ず成し遂げられるわ」

「凡人の俺でもか?」

「あなた一人では無理でしょうね。でも、独りではないでしょ?」

「…そうだな」

 

 今の自分にはシロナもポケモンもいる。なら、どんな形になるかはわからないが、いつか必ず何かしらの形で成し遂げられる。そう思えた。

 

「じゃ、今は休まないとね」

「ああ」

「もういく?」

 

 カイムはシロナの言葉に答えることなく、ただそっとシロナの胴体に腕を回す。

 

「ふふ、わかったわ」

「………」

 

 暫しの間、二人は何も言うことなくただ抱き合っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 夜

 ポケモンの治療、明日の作戦会議、調整、夕食を終えて二人は部屋に戻ってきた。バトルを終えてもなおすぐに休むことはなく、一通りやることを終えて戻ってきた頃にはすっかり日は落ち、夜が更けてきていた。

 普段なら風呂が長いシロナを先に入らせるのだが、さすがに疲労の度合いが大きいカイムが先に入浴することになり、現在カイムは入浴中。

 

 カイムが風呂から上がるのを待つシロナはただぼんやりとタブレットを眺めていた。タブレットに映されているのは、ヒカリとジュンのバトルデータ。

 

「……強いわね」

 

 旅をしている最中の二人を思い出す。今よりもさらに幼さが残る印象だったが、たくさんのバトルを経験したことで今の二人は逞しさが増したように感じている。

 若さ故の弱点はあるものの、それを凌駕するレベルの成長速度。恐らくカイムが最も苦手とするタイプの手合いだろう。故に、明日のバトルはシロナを中心としたゲームメイクになっていく。カイムがシロナの動きに対してどこまで的確にサポートできるかはもちろんだが、スモモのように戦いの中で二人がどこまで成長してくるか。これが大きな鍵となるだろう。

 

「シンオウ地方の未来は明るいわね」

 

 二人がここまで勝ち上がってきたのは、正直運も絡んでいる。だが決して運だけではない。運が絡む要素に持ち込めるだけのバトルができたからこそ、この結果にこぎつけている。あの年齢でここまでできるのは、やはり天賦の才があると言わざるを得ないだろう。

 そんな天賦の才を持つトレーナーがシンオウ地方にいることは、シンオウ地方の現頂点としては嬉しい限りだった。最愛の人と共に、シンオウ地方の未来ともいえるトレーナーと相対できる。こんなに嬉しいことはそうそうないだろう。

 

 明日が楽しみになってきたと伸びをし、タブレットを置いて時計を見る。カイムが入浴してからそれなりに時間が経っていることに気づいた。

 

「…湯船で寝たりしてないわよね」

 

 カイムに限って眠っているとは考えにくいが、かなり消耗していることは確か。暖かさに気が抜けて眠っている可能性もなくはないとも思い、シロナは立ち上がった。

 

「カイム、入るわよ」

 

 シロナは洗面所の扉をノックしてから開ける。浴室から気配はするが、物音がしない。本当に眠っているのではと思い、シロナは続けて浴室の扉をノックした。

 

「カイム、起きてる?」

「あん?ああ、起きてるが…どうした」

 

 反応がある。眠ってはいないようだった。

 

「随分と長く入ってるから寝ちゃってるかと思って」

「んあ?そんなに時間経ってたか?」

「あなたにしては長いわよ」

「ああ、そんなに経ってたか。回復ストレッチしてた」

 

 疲労の度合いが大きいため、湯船に浸かって軽くストレッチをしていたらしい。ただ軽くのつもりが気付けば真剣にやってしまっていたらしく、意図せず長時間になってしまっていたようだった。

 

「そういうことね。心配したわ」

「すまん。こんなに時間経っているとは思わなんだ」

「気にしないで。でもそろそろ上がったら?のぼせるわよ」

「ずっと湯船に浸かってたわけじゃねえし大丈夫だが…まあこれ以上ここでやる意味もないな。そろそろ上がる」

 

 浴室の中で動く気配がする。もう出てくるだろうと判断したが、ふと気づいたことをシロナは問いかける。

 

「ねえ、そのストレッチだかマッサージって私もできる?」

「そりゃな。ただお前、風呂長いだろ。やめとけ」

 

 シロナはサポート関連の知識はあるが、カイムほどしっかりした知識はない。故に自分でできることがあるなら自分でもやろうと思ったのだが、カイムの言い分が尤もすぎて何も言えなくなった。

 

「じゃあ一緒に入ったらやってくれる?」

「……は?」

 

 瞬間、シロナの顔が一気に赤くなる。売り言葉買い言葉のように口から出てしまった言葉に、一気に羞恥を感じた。

 

「あ、いやその、えっと…」

 

 何か言い訳を言おうと頭をまわすが、全く出てこない。()()()()()()()()()()であることが言葉に出てしまっただけに、羞恥で全く頭が回らない。

 数秒固まっていたカイムだが、シロナが慌てふためいているのを感じ取り呆れたようにため息を吐いた。

 

「………実に魅力的な提案だが、大会中だ。あとで普通にマッサージしてやるから」

「…うん」

 

 安心すると共にほんの少しだけ落胆している自分がいることには全力で目を逸らす。

 カイムもシロナにそう言ってもらえるのは実に魅力的ではある。ただ、彼も男である以上、その先にどうなるかは自覚がある。そのためここは鋼の理性でなんでもないように振る舞うのだった。

 

「ほら、もう上がるから」

「うん」

 

 それだけ言ってシロナは浴室を後にする。

 戻ると、ベッドの上でブラッキーが丸くなっていた。

 

「……私も大概ね」

 

 そう言ってシロナは丸くなっているブラッキーの頬をむにむにといじる。ブラッキーは気持ちよさそうに『むー』と鳴くと、シロナの手に頬をすりすりと擦り付けてきた。可愛らしいブラッキーを見て、ここまで自分をぞっこんにさせたブラッキーの主人への報復のつもりで、さらに頬をむにむにといじくり回す。

 

 その後、入浴後にいつもよりしっかりマッサージを受けたシロナは、カイムを抱き枕のように抱きついて眠った。あんなことを無意識で言ったくせにどんな切り替えの早さだとツッコミつつ、カイムは持ち前の眠りの深さに逆らうことなく深い眠りへと落ちていくのだった。

 

 

 




Cパート

 ゲーチスから逃げ延びたシロナ達一行は、少し離れた場所にある海辺の洞窟を訪れた。洞窟の壁面には所々電灯が吊るされており、太陽が止まったことで薄暗い世界のせいでより暗くなっている洞窟内でも先が見える程度には照らされていた。

「ここは?」

 シロナの問いかけにNは笑いながら答える。

「ボクらの拠点さ。残された人達と、この先で暮らして()()()()
(…いた?)
「すぐにわかりますよ」

 違和感が顔に出ていたのか、Nの言葉にダイゴがそう付け加えながら苦笑する。
 洞窟の奥、木製の扉を開くと、そこは人が過ごせる空間だった。現代と近しいレベルの生活水準を維持しており、ここだけ見るととても洞窟内部とは思えないほどに。

「ここは…」
「ボクらの拠点。洞窟内部を改装して、普通の生活水準レベルまで整えてある。部分的に不便はあるけど、生活する上で大きな障害はないよ」
「すごい…」

 電気は電気タイプのポケモンがチャージし、現代よりもはるかに効率よくエネルギーを使える装置によって管理され、拠点内全域に電気をうまく使えるようにされているらしい。
 広さとしてはそれなりにあるだろう。ギルドよりは狭いが、集団で生活するならば十分な広さだと言える。だが、人の気配がない。ここにいるNとダイゴ以外で拠点内から気配を感じないのだ。

「…ここにいるのは、二人だけ?」
「いや?ボクとダイゴ、カイムと、カイムのお姉さんだけ」
「お、お姉さん⁈お姉さんがいたの⁈」

 気絶して背負われているカイムに目を向ける。本人からそんな話を聞いたことないが、そもそも記憶を無くしている。聞けるはずもないかと納得しつつ、Nの言葉の続きを促した。

「うん。カイムの姉は時渡りの巫女の力を受け継いでいるんだ」
「時渡りの、巫女?」
「そのあたりの説明は後でまとめてするよ。今は、少し腰を落ち着けよう。カイムの治療も含めてね」

 そう言ってNはカイムをベッドに寝かせる。拘束された際に抵抗したのか、カイムの体にはいくつか外傷が残っていた。活動に支障のあるようなものはないため治療はそう時間はかかることなく終わった。

「これでよし。すまないシロナさん。あなたの道具まで使わせてもらって」
「いいのよ。カイムは…仲間だし。それに、ダイゴ君達の事情も聞かないとだから」
「うん、ちゃんと全部話します。その前に…イサナさんは?」
「呼んだ?」

 突如、知らない声がシロナの背後から響く。驚いたシロナは勢いよく振り返ると、黒髪の美しい女性がいた。

(全く…気配がしなかった)

 シロナもダンジョン探索を行う以上、気配には敏感。半径2メートル以内に入ったものであれば、まず間違いなく気配を感知できる。だがこの女性は、シロナ相手に一切気取られることなく背後まで近づいた。多少気を抜いていたとしても、こんなこと今まで経験したことはなかった。それだけに、この女性がどれほど強いのかを瞬時に察知し、冷や汗を流す。
 一方、女性はシロナが警戒するのとは真逆の態度で、朗らかに笑った。

「あら珍しい。新入り?」
「そんなところです。ちょっと訳ありで」
「……ああ、過去から来たのね」

 一瞬見ただけで全てを察した女性にシロナは驚愕し、目を見開く。
 そしてベッドで眠るカイムを見て、小さく息を吐いて腰に手を当てた。

「なんとなーく事情はわかったわ。とりあえず座って。貴女も色々事情がわかってないんじゃない?ちゃんとアタシのことも含めて説明するから」

 そう言って快活に笑う女性に促され、シロナは素直に頷くしかできなかった。



 グラスに注がれた水を飲み、落ち着いたところで女性は口を開いた。

「さて、じゃあまず自己紹介から。アタシはイサナ。カイムの姉で、この時代最後の生き残りの1人よ」

 女性…イサナはそう言ってシロナに目を向ける。カイムの姉はイサナであるらしいが、あまり似てはいない。カイムは表情がほとんど動かないが、イサナの表情はコロコロ変わる。顔つきも似ていない。ただ、目つきと青い瞳はよく似ている。

「私は、シロナです。シンオウ地方冒険者ギルドのチャンピオンで…この時代からみたら、過去から来たことになるんですかね…」
「初めまして!それとごめんね。弟が色々、世話をかけたみたいだし」
「いえ…むしろ、私達が助けられていたので」
「そう?記憶を無くした男のことを拾うなんてもの好きなことをしただけあるわね」

 まるで知っているかのような物言い。何かこの人には特別なものがあるのだとシロナは感じ取った。

「色々聞きたいことは多いと思うから、順番に説明していくね。まずアタシ達について。アタシ達は、時が止まったこの世界を元に戻すことを目的としている『時の救助隊』。構成メンバーは、アタシとN、カイムと助っ人のダイゴ君よ。一応、アタシがトップってことになってるけど、もう意味のないものね」
「助っ人…?」
「そう。ダイゴ君は時空の乱れに巻き込まれてここに流れ着いただけ。時代で言えば、シロナちゃんと同じ時代の人でしょう?」

 イサナの言葉にダイゴは頷き、補足するように話し始める。
 ダイゴは最初に起こった時間の停止の調査に向かって、そのまま行方不明になった。共に行動していた先遣隊は帰ってきたが、ダイゴのみは最後まで見つかることはなかったというのが、シロナの把握している状況。だがダイゴは、時間が停止した空間にあった時空の乱れに巻き込まれ、この未来に辿り着いたのだという。そしてイサナ、N、カイムと出会い、時の救助隊に加わって反ゲーチス活動を行ってきた。

「ボクとダイゴは、この時代に戻ってきたのと同じような手段でシロナ達の時代にきた。あとは、キミが知っている通りだ」
「時の歯車を集めて…時間の停止を広げていた。でも、どうして?どうして時間の停止が広がるようなことを?前にNは世界を救うためって言ってたけど、時間の停止と世界を救うのは真逆のことじゃないの?」
「シロナの言うことは尤もだ。だからまず、ボクらがいるこの時代の話をしよう」

 そう言ってNは海に面している窓へ目を向ける。灰色で全く変化のない世界は、時間が停止した空間そのものだった。シロナがいる時代からどれほど時が流れたのかはわからないが、これが未来だということがシロナにとっては未だに信じられないほどに。

「今この時代とシロナ達がいた時代…どれほど時間が異なるかは、わからない。なにせ、この時代で時を正確に測ることはできないからね。時計は全て、この時代では機能しないから。時間という概念が完全に破壊された末路がこれだ」

 時という概念が破壊され、太陽は登らず、草木は変わらず、季節は移ろわない。そんな世界が、シロナ達の時代の先に待っている未来なのだという。

「いつから、というのはわかんないけど…多分、シロナの時代からだね。時が停止し、時間の停止に()()がない人やポケモンはその時、軒並み存在を保てずに消滅した」
「耐性?」
「詳しくはわからないが、人それぞれ概念への適性や耐性があるみたいなんだ。時空間が乱れた場所で活動できる人がいてね。ボクらはそういう人らの子孫だよ。そして当然、ボクらもそういう耐性がある。だがこの耐性というのは必ずしも遺伝するわけじゃない。成長してから存在を保てなくなる人もいた。どういう仕組みなのかは、ボクらも理解していない」

 時間の停止の空間で活動できる人がいることはシロナの時代にもいた。しかしそうでない者は停止した空間から出すことができない。この空間にずっといると、最後は存在を保てなくなるのかもしれないとシロナは考えた。

「そうして、耐性持ちの人が減っていき、人もポケモンも大きく数を減らした。ただボクらもどうすることもできなかった。そこに、ダイゴが現れたんだ」
「時空間の乱れに巻き込まれたボクは、意図せず時渡りをしてね。この時代の砂浜に流れ着いたところを、カイムに助けられたんだ」

 その話を聞いて、シロナはカイムが砂浜に流れ着いたことを思い出す。もしかしたら、時渡りをした場合は海に流れ着くのかもと考えた。
 シロナの考えを他所に、Nは続ける。

「時渡りについてはどこまで知ってる?」
「時代を飛び越えられるというのと、時代を飛び越えるには楔が必要。楔がないと…代償を支払うことになるくらいかしら」
「うん、その知識で問題ないよ。『飛び越えた先に自分を知る者がいる』という事実が楔になる。ダイゴの場合、カイムが過去の探検隊記録で名前を知っていてね。あとはダイゴの適性があったから、左腕の痺れくらいで済んだんだ。それも割とすぐに治ったしね。楔としては弱いけど、この程度の代償ですんだのは…多分、発生した時空ホールが時間が停止した空間だったからだ。時間という概念がない空間から時渡りをすると、どうやら跳躍した時間が少ない判定になるらしい。加えて、跳躍先の時間も壊れていた場合は跳躍した時間が事実上ゼロになる。その分、必要な代償も小さい」

 それはシロナも納得できる。時間という概念そのものが壊れた空間から、同じく時間が壊れた未来へと時渡りすると、跳躍した時間は事実上ゼロに近い、ということだ。何しろ、時間という概念そのものがないのだから。ダイゴはその仕組みをたまたま使えたことにより、代償が小さいもので済んだようだ。

「運良くこうして助けられたボクは、しばらくNやイサナさん、カイム達の世話になっていた。その間に、この時代のことを教わり、ボクはボクの時代のことを教えたんだ」
「残っている記録も多くはないし、その時代に生きる人から直接聞けたことはアタシにとっても嬉しいことだったわ。その時はまだ…人もいたし、あの時は結構楽しかったな」

 けらけらと笑うイサナだが、その声にはどこか悲壮感がこもっている。そのあたりを聞いていいものか迷っていると、そんなシロナの迷いを察したのかイサナが口を開いた。

「アタシ達が時の救助隊を名乗り始めたのも、ここからなの」
「え…?初めから時の救助隊だったのではなく?」
「うん。ダイゴの話を聞いて、そんな世界を残すためにボクらは立ち上がったんだ」
「じゃあ、ダイゴ君が創設者なのね」

 シロナの言葉に、ダイゴは首を振る。

「きっかけはボクかもしれません。でも、ボクはきっかけを作っただけ。言い出したのは、カイムだったよ」
「え…」
「こんな灰色の世界より、色のある世界の方がいい。未来の自分らにもできることがあるなら、動くべきだってね。あの時の言葉は、効いたよ」

 何を言われたのかはわからないが、苦笑を浮かべるダイゴはどこか思うところがあるような表情をした。
 どうしたのだろうと首を傾げるが、ダイゴはシロナの表情に気づくことなく話を続ける。

「そこから、イサナさんをトップに時に関することを色々調べていった。エイチ湖みたいに時の歯車があった場所や周辺の仕掛けについてね」
「カイムがトップじゃないんですね」
「あいつはトップ向きではありませんよ」

 楽しそうに笑うダイゴの言葉にシロナは確かに、と納得する。カイムは非常に優秀な隊員ではあったが、トップに向いているとはとても思えない。

「しばらくは問題なく活動していました。ただ…ボクらの活動がゲーチスに発覚してしまった。この時代は人も少ない。バレるのは時間の問題だった」
「ゲーチス…」

 シロナの時代では、技術提供などでギルドの力になってくれていた。ただナナカマド博士やシロナ、その他のギルドトップの人物は怪しさが強くて彼を完全に信用はしていなかった。そしてその予感は的中しており、彼の目的は世界を停止させることにあったのかとシロナは苦虫を噛み潰したような表情になる。

「彼は、この時代に存在する闇に落ちたディアルガをうまく操作して、ボクらのことを粛清していった。完全に理性を無くしたディアルガは、卓越した技術を持つプラズマ団にはそこまで難しくなかったんだろうね。それなりに人数のいた時の救助隊は…ゲーチスのせいでここまで人数を減らしたんだ」
「どうしてゲーチスは、そんなことを?それに…闇に落ちたディアルガ?」
「彼は、自分だけがポケモンを使える世界にしたいんだ。この世界は人もポケモンも個体数は決して多くないが、人よりもポケモンの方が時空間の乱れへの耐性持ちが多い。だから野生のポケモンはまだいるんだ。野生のポケモンも含めて支配下におき、事実上の世界の王になるためだよ。闇のディアルガは…時間が破壊されたことで、心が闇に落ちて完全な暴走状態になってしまったディアルガのことだ。今の彼はもう時の神ではない。ただ破壊を尽くすだけの破壊神さ。厄介なことに、力は通常時よりも増している。それこそ、ボクらと行動してくれているゼクロムですら…正面からでは決して勝てないほどにね」

 ディアルガは時を司る神。故に、時という概念そのものが破壊されてしまうと、ディアルガとしての存在意義も破壊されてしまい、心を失ってしまうのだという。
 そしてただ破壊することしかできなくなってしまった神を、ゲーチスはどうやってか懐柔したらしい。その力になす術もなく時の救助隊は壊滅。結果、残されたのはイサナ、N、ダイゴ、そしてカイムだけになってしまった。

「ディアルガに蹂躙される中、どうにかカイムだけ時渡りをさせられた。この時代に残ったボク達は…他のメンバーが時間を稼いでいる中、ここまで逃げきった」
「じゃあ…殿の人たちは…」
「みんな、消えたよ。この時代はね、死ぬと肉体が残らないんだ。人もポケモンも植物すらも、一定時間経つと消える。だからこの時代は荒野ばかりなんだ」

 Nが言うように、ゼクロムに乗ってここまで逃げてくるまでの道中、大地はほとんどが荒野だった。植物にも時間の停止に対する耐性はあるらしいが、無限ではない。そのため時間の停止に耐えられなくなった植物も消えていき、残された荒野だけが広がっていくのだという。

「事実上、この時代はゲーチス一強でね。ゲーチスの支配下に入るか、隠れて生きるかの二択さ」
「…元々そうだったの?」
「時の救助隊ができる前ってことよね?うん、そうよ。向こうはゼクロムをバトルにおいて完全に封じ込める術があるし、頭数も多い。一人一人の地力はこちらが圧倒的だけど、数の力は偉大よ。ゼクロムを封じる術が向こうにある以上、頭数を減らすために焼き払うこともできない。だからこうして秘密裏に動くしかなかった」

 イサナの口調から、何度か失敗の経験があるのがわかる。想定以上に絶望的な状況であることを把握したシロナは目を伏せた。

「そんでアタシらはゲーチスに追われて、最後の手段としてカイムをシロナちゃんの時代に送り出したとこ。カイムは時渡りした先でシロナちゃんに拾われて、あとは知っての通り。カイムを楔として、ダイゴとNを送り出し、時の歯車を回収していったの。まあカイムは反動で記憶をなくしちゃったから、ダイゴとNだけで動いてたみたいだけど」
「どうしてカイムを楔に?ダイゴ君なら私の時代に既に楔がある。ダイゴ君を楔にしてカイムとNを送り出せば…」
「できなかったのよ」

 イサナは()()宿()()()()()()をシロナに向ける。

「カイムを送り出した時、アタシらはゲーチスの襲撃を受けていた。実力的な意味で、襲撃を切り抜けるにはダイゴの力は必須。Nも同様。アタシは時空ホールを開くことはできても、()()()()()()()()()()()()()()()()。この中だと()()()()()M()A()X()かつ、実力的に抜けられるのがあの子だけだったの」

 シロナが拾い上げた時、カイムの実力は『悪くはない』程度のもの。相手がゼクロムを押さえ込むほどの力を持つのなら、カイムの腕は戦闘ではあまり役に立たないだろう。

「ボクらの状況はこんな感じ。他にも色々聞きたいことがあるだろう。カイムが起きる前に色々話して…」

 Nがそう言いかけた瞬間、カイムが寝かされていた部屋から物音がする。

「…あれ、もう起きたのかな?」
「ボク、見てくるよ」
「ボクもいくよダイゴ。イサナ、あとの話はよろしくね」
「はいよ」

 Nとダイゴは物音がした部屋へと赴いていった。
 残されたイサナはにっこりと笑ってシロナに目を向ける。

「じゃ、色々話そっか。アタシも色々聞きたいし」

 どことなく嫌な予感がシロナの背筋を過ぎった。





ミアレに魂売ってます。


Q.シローとカイムが組み手したらどちらが勝つ?
A.多分シロー。素の肉体スペックがバグレベルのシロー相手に殴り勝てるとは思えないので。波導強化使っても多分五分五分。鍛えているとはいえ、カイムの肉体スペックは一般人の域を出ないのに対して、シローは完全に逸般人。

Q.特定の地方でしか使えないダイマックスやテラスタルはともかく、どうしてZ技を使わないの?
A.戦闘描写を書く上で使いやすいからです。メガシンカは卍解とかギア2とかスーパーサイヤ人みたいなものだと思ってるので、一撃で終わらずしばらくその状態で戦えて戦闘描写を描きやすいから多用してます。加えて技自体は変化しないので、構想を作りやすい。Z技は元気玉みたいに一回のバトルで一回しか使えないため、個人的にはバトルの構想を作りにくいためほぼ使っていません。作中の仕様ではなく作者の都合です。Z技好きの方はすみません。


絶対零度・白銀
フィールド全体が『ぜったいれいど』の範囲になるロマン技。『そらをとぶ』、『あなをほる』、『ゴーストダイブ』のように、フィールドから一時的に姿を消す技でないと回避不可。『まもる』、『みがわり』、『みきり』、『ワイドガード』貫通。出せれば最強レベルだが、フィールドに冷気と水気が満ちていないと使えないかつ、タメにも超時間がかかる。また、技を使った後は全ての氷タイプ技の威力が半減。レッドの『真・ボルテッカー』の方がまだ実用性がある。集団戦でないと実用性ゼロ。
ゲームなら氷技を使った次のターンからタメに入り、2ターンのタメの後に発動。パワフルハーブでも1ターンのタメが必要。威力、命中率表記なし。発動できればフィールドにいない場合を除いて、氷タイプが相手でも必中必殺。


水流連打・瞬撃
『アクアジェット』と『すいりゅうれんだ』の併用技。一瞬のうちに『すいりゅうれんだ』を複数回叩き込むイカレ技だが、技を併用するため技を出す前に明確な隙があり、『アクアジェット』の推進力は『すいりゅうれんだ』の連撃へ使っているため相手への接近はウーラオス本人の純粋な身体能力のみ。接近戦でないとまず当たらない。
所謂『瞬獄殺』。正直、イメージ的には一撃の型の方がしっくりくるけど、瞬獄殺は連撃の型の方が合うというジレンマ。
ゲームでは威力10の水タイプ物理攻撃が合計15回の命中率100。ウーラオス自身が『アクアジェット』を覚えていないと使えないかつ、『すいりゅうれんだ』を2回以上使った後でないと使えない。確定急所ではないが、急所に当たりやすい。


フレアドライブ・剛
特性『加速』による速度を全て技の『重さ』へと変換した技。震脚の要領で速度を全て威力へと変換し、相手の攻撃を受けても怯まない所謂アーマー付きの攻撃。加えて、速度を全て威力に変えることにより、安全度外視の突撃から通常の体術技に変化しているため、反動も小さくなり与えたダメージの一割を反動で受ける。加速不意打ちからの派生技になるため、強制的に選択肢を迫れるという強みがあるが、ちゃんと距離を取ってからでないと使えない。ブレイブバードではまだうまく使えない。
ゲームなら威力120、命中率100の反動無しだが、必ず後攻になる(相手がカウンターやミラーコートを選択していた場合は別)。『ねこだまし』などで怯むことはないが、素早さが上がっていないと使えない。

起爆剤
『はじけるほのお』を応用したもの。火種を相手にくっつけ、そこに攻撃を的確に当てると起爆して威力40の炎タイプ技が炸裂し、ダメージを与えつつ体勢を崩す。一定時間が経つと消える。炎タイプ技以外でも起爆するが、水タイプ技には反応しない。




ボツシーン
シロナ「持久戦に持ち込めばいけるかもよ?どうする?」
カイム「かもな。だがそれは雑魚の思考だ」



シロナ・カイムペア
ミロカロス Lv.86 持ち物『火焔玉』 特性『不思議なウロコ』
ルカリオ Lv.84 持ち物なし 特性『精神力』
ムクホーク Lv.67 持ち物なし 特性『威嚇』
バシャーモ Lv.70 持ち物『バシャーモナイト』 特性『加速』


スズナ・スモモペア
ユキメノコ Lv.73 持ち物『ユキメノコナイト』 特性『雪隠れ』
マンムー Lv.68 持ち物『冷たい氷』 特性『厚い脂肪』
チャーレム Lv.72 持ち物『光の粘土』 特性『ヨガパワー』
ウーラオス Lv.65 持ち物『力の鉢巻』 特性『不可視の拳』


シロナ
個人的に称号をつけるなら『適応』か『自在』。後手必殺の構えを極めてる人故に。
Cパートはすでに結末が決まっているため、情緒を落として上げることになる。どん底まで落ちた情緒から一気に上り詰め、デロデロに甘い状態になるシロナさんのことを考えると、浮き足立つような気持ちになりませぬか?兄上(読者様)


カイム
称号をつけるなら『俯瞰』。自分ができること、相手ができることを過不足なく把握できるから。ぶっちゃけカイムをメインにするよりサポート特化にさせた方がはるかに強い。今回は相手がスモモということもあり、無理を言ってメインにさせてもらっていたりする。


スモモ
称号をつけるなら『夢中』。夢中こそ最高の集中を体現しているような天才。ただ集中しすぎる気質があるため、ぶっちゃけタッグバトルには全く向いていない。
ガラルでの修行でより磨きがかかり、たまたま出会ったマスタードに鎧の孤島へと案内してもらった。その時にダクマと出会い、ウーラオスへと至る。このウーラオス、特攻と特防以外は最高レベルの才能があり、スモモ同様一度見たものは大体できる。化け物。


スズナ
称号をつけるなら『気合』。これ一択。
前半戦はスズナメインで進めていたためスモモが熱中しすぎることはなかったものの、後半は時折タッグバトルであることを忘れるスモモのサポートを超頑張っていた事実上バトルの立役者。メガユキメノコのメガストーンはちょっとした縁で出会ったウルップにもらった。



戦闘BGMは第四世代ジムリーダー戦。
バシャーモとウーラオスが殴り合いを始めたあたりから『コンセプトの戦い』(ハイキュー白鳥沢戦最終局面)をイメージしてます。


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