続きを書けば狂喜乱舞してくれる方や、続きを正座で待ち続ける方、八時間しか眠れない方などがいるそうなので続きを書いてみました。
みんなシロナさん好きですね。
ちなみに私はシロナさん大好きです。
今回も長いけどみんなシロナさん好きだから許してくれますよね。
「遺跡調査?」
シロナの自宅兼研究室のリビングでカイムがノートPCで作業をしていると、シロナから遺跡調査の話を持ち出された。
「ええ。この前見つかったシント遺跡の調査に行こうと思うの」
シント遺跡はつい最近見つかったシンオウ地方とジョウト地方の間にある遺跡である。なんでもシンオウからジョウトに移り住んだ人々が残したとされる遺跡だとか。
「まだ発掘も全部終わってないけど、本殿と思われる場所は専門家や特別な資格を持つ者なら調査が解禁されたわ。だから早速行ってみようと思うの」
「ついてこい、と」
「当たり前じゃない。カイムは私の助手でしょ?それに、貴方にとっても興味深いものがきっとあるわ」
「いつか行くとは思ってたけど、想像より早かったなってだけだ。無論行くよ」
「じゃあ出発は明後日にしましょう。明日は準備」
よろしく、と言い残してシロナは自室へと戻っていった。
「ふむ…」
カイムは作業を中断し、スマートフォンを手に取る。
まず現在地からシント遺跡までのアクセスを確認し、そこにいくまでのルートを確認した。
「ジョウトまでは車で行けそうだな。さすがに遺跡そのものには直では無理。そうなると、ここで宿を取るのがいいか」
シント遺跡に一番近い街で宿を探す。一応遺跡のすぐ側に滞留できるくらいの小屋があるらしいが、そこにずっといるわけにもいかない。どれくらい本腰いれて調査するのかはわからないが、そこはあとでシロナに聞けばいい。とりあえず拠点になる場所を確保しておく必要がある。
カイムはシント遺跡に一番近い街の良さそうな宿を見つけ、そこを予約するためにスマートフォンを操作した。
なぜか近くで座禅を組み、瞑想をしていたルカリオがくしゃみをした。
*
2日後
「準備できた?」
「ああ」
荷物を纏めていたカイムにシロナが声をかける。
大きめのカバンに色々と荷物を詰め込んだカイムは、そのカバンとシロナの持つカバンをシロナの手からすっと抜き取り、車のトランクに載せた。
「ありがと」
「こういう力仕事は俺がやる方が都合がいい」
かつては普通程度の身体能力だったが、トバリジムで鍛えるうちにカイムは相当鍛えられた。今では一般人と比較してもかなり身体能力が高い方である。
「忘れ物はねーか」
「大丈夫よ」
シロナは車の鍵を軽く投げてカイムに渡した。
それをなんなくキャッチすると、カイムは運転席に乗り込む。シロナは助手席に乗り、シートベルトをつけた。
「行くか」
「お願いね」
エンジンの音と共に車は動き出した。
「どういうルートで行く?」
「とりあえずミオ付近から高速に乗る。さすがに距離があるからな。時短のためにも高速乗るのが安定だろ」
「そうね。とりあえず、向こうについたらまずはホテルに荷物を置いてすぐに遺跡に向かいましょう。向こうに駐在してる知り合いに話は通してあるから、今日は全体を見て回る感じかしらね」
「ん、了解」
「どれくらいで到着する予定?」
「今8時前だから、休憩込みでも昼前には着きたい」
「午後は調査に時間を使えそうね」
「渋滞がなければな」
「大丈夫よ。なんとなく、そんな気がするの」
「そうかい」
二人を乗せて車は高速道路へと差し掛かった。
「お疲れ様、はい」
途中、休憩するためにサービスエリアに入った。
長時間の運転で固まった身体をほぐすように伸びをしていると、シロナがペットボトルの紅茶を渡してきた。
「ん、ありがと」
「さすがに別地方に向かうとなると、時間かかるわね」
「仕方ないさ」
ペットボトルを開け、紅茶を流し込む。
ようやく半分を過ぎたが、それだけで二時間使った。途中渋滞もなくスムーズに進んでこれたのは幸運だったが、それでも時間はかかる。
サービスエリア内の店を見て回っていたが、ある店を見つけてシロナの足は止まる。
「ね、あそこにアイスが売ってるんだけど、行ってみない?」
「……行くのはいいが、前みたいに長時間悩むんじゃねーぞ」
「わかってるわよ。ほら、行きましょ」
楽しげに鼻歌交じりに歩いていくシロナの背中を見て、カイムは大きくため息をついた。
こうはいっても、どうせシロナがアイスを決めるのに時間がかかるのは目に見えていたからだ。
「うーん…どっちにしようかしら」
そして結局カイムの予想通りシロナはアイスの種類で悩んだ。
「はよ決めろや」
「うーん……さすがにこの後も長時間運転するんだし、ダブルにするのは良くないわ。でもどっちも気になる……悩ましいわ」
「結局こーなるんだよなぁ」
すぐに二種類までに絞り込んだのを見ると、あまり時間をかけられないことは理解できているようだ。しかし結局その二種類で悩むあたり、アイス好きの彼女らしい。
「はぁ……もういい。すいません、これとこれ。カップで一つずつお願いします」
「はーい」
「え?」
「その二つで悩んでたんだろ?半分ずつにすりゃ、どっちも食える。量に関しては我慢しろ。この後も長旅だ」
代金を支払いながらカイムはぶっきらぼうにそう言う。
「いいの?」
「阿呆。ほっといたらお前あの場で一時間時間使うだろ。ほら、さっさと食っていくぞ」
お釣りとアイスを受け取ったカイムはさっさと歩いていってしまう。
「…私、なにとなにで悩んでるか言ってないんだけど」
恐らくシロナの目線と好みを考慮しての判断だろうが、実際にシロナが悩んでいた二つの種類を的確に当てていた。
普段からポケモンだけでなく、人のこともよく見ているカイムだからこそ気がつけたのだろう。
自分を見てくれていたという事実に少し嬉しくなったシロナは上機嫌でカイムの背中を追うのだった。
「あ、これおいしい」
「ん、この味ならコーヒーと合わせるのもいいかもしれんな」
「あ、そっちの味もちょうだい」
「はいはい」
その後、二人でサービスエリア内のベンチでアイスを食し、満足したシロナを見てやれやれといった様子でお茶を飲みながらカイムは見ていた。
*
「やっと着いた〜」
「あー、遠」
二人はジョウト地方北部に辿り着き、シント遺跡付近の街のホテルまでやってきた。
「とりあえずチェックインね。その後少し休んで、すぐに遺跡に行きましょ」
「確かあのあたりは雪だらけだったよな」
「ええ。靴とか寒冷地仕様のものを持ってきてるから大丈夫よ」
「じゃ、受付に先行っててくれ。荷物を下ろしておくから」
「わかったわ」
トランクから荷物を下ろしていると、ホテルの従業員の男性が荷物を運ぶ手伝いをするために来てくれた。
従業員に礼を言い、荷物を全て部屋に運び込んだ。
「悪くない部屋ね」
「高すぎず低すぎないグレードだ。このくらいのレベルが一番リラックスしやすい。主に俺が」
「貴方基準なのね」
「シロナもだろ」
「そうね。貴方となら、どこでもいいわ」
「…そうかい」
恥ずかしさを誤魔化すためか、カイムは頭をかいて後ろを向いた。
荷物を整理するカイムの背中をシロナは楽しそうに見ていたのだった。
カイムは調査に必要なものをまとめたリュックを背負い、保温性と動きやすさを重視した細身のライトダウンを着た。
シロナはいつも通りの黒コートにスキニーといった出立ちだが、さすがに雪が降る場所にヒールは無理だと判断して、寒冷地仕様の滑りにくいブーツを履いている。
「ここから歩いてどのくらいだ?」
「一時間くらいかしら」
「山の中だしな。そんなもんだろう」
「さ、いくわよ」
二人でホテルを出る。
荷物はカイムが一人でシロナの分まで持っている。無論シロナにやらされているのではなく、カイムの希望によるものだ。
シロナは若くして考古学者として名を馳せるだけあり、研究に注ぐ熱意はポケモンバトルに注ぐものと勝るとも劣らない。それくらい研究熱心であるため、しばしば集中しすぎて時間を忘れることがある。だがいくら彼女の頭が時間を忘れているとしても、身体には相応の負担がかかる。無理を通しすぎた結果、倒れる直前まで研究に没頭したこともあった。
それを見てからカイムはこういう現地の調査に行く際は必ずシロナの荷物も持つようにしている。こうすることで、シロナが現地調査に没頭できる体力を温存することができるからだ。
加えて、かくとうタイプのジムトレーナーであるカイムも肉体を鍛えることができる。カイムも調査や研究は好きだが、シロナほど没頭はできない。集中力は比較的長持ちするが、それでもシロナのように時間を忘れるほどではない。
「重くない?」
「ダンベルの方が重い」
「ふふ、当たり前でしょ」
優雅に笑うシロナになんとも言えない表情をしながらカイムはシロナに続いた。
ーーー
「ここが…」
「そう、シント遺跡」
雪の降り積もる道を歩き続け、途中休憩をはさみながら現地へと向かうと、目の前に遺跡が現れた。
見た目は大きくない。だがどこか荘厳で、なにか神々しいものを感じる。
「やっと着いたわね」
「今日は移動続きだな」
「調査だもの。仕方ないわ。先にここの管理人に挨拶しましょ。それですぐに調査に入りましょう」
「了解」
遺跡のすぐ側に立っている山小屋に入る。中は暖かく、思っていたよりも広い。
暖炉の横に座っていた老人がシロナの姿を見ると立ち上がり、歩み寄ってきた。
「おおシロナさん。お待ちしておりました」
「初めまして。シロナです」
「お話は聞いております。ご自由に調査して大丈夫ですので」
「ありがとうございます。崩れやすい場所や立ち入り禁止の場所はありますか?」
「崩れやすい場所は今のところ特には。一般人ならともかく、シロナさんならどこにでも立ち入ってもらってかまいません」
「助かるわ」
「そちらは?」
老人がシロナの背後にいるカイムに目を向けた。
カイムは一歩前に出ると、荷物を下ろして会釈した。
「ご紹介が遅れましたね。こちらはカイム。私の助手です」
「カイムです」
「おお、助手の方でしたか。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
差し出された手を握り返し、握手をする。
ふと、老人の足元にいたケーシィと目が合う。ケーシィは特になにもすることなく、ただ首を傾げるだけだった。
「一応簡単にこの山小屋についてご説明します。ここの設備はお好きにお使いください。自販機などもございますので」
「ありがとう、助かるわ」
「お帰りの際はお声がけください。ケーシィの力で一番近くの街までお送りしますので」
老人の言葉に同調するようにケーシィは鳴いた。
テレポートが得意なケーシィは人も瞬間移動させることができる。どうやらそれを応用して帰り限定ではあるが、移動させてくれるらしい。
「ありがたいわ」
「ここまで来るのは大変でしょうからな。せめて、帰りくらいは楽をしてくだされ」
「お心遣いに感謝するわ。それじゃ、調査に向かいます」
「よい発見があることを祈っております。寒いのであまり無理なさらずに」
シロナは手を振り、山小屋を出る。カイムも老人に頭を下げてシロナに続いた。
吹雪いてはいないが、もう春になるというのに雪が降っている。寒さは思いの外厳しい。
「これが、シント遺跡」
「ええ。シンオウ地方とジョウト地方の間に位置する遺跡。この二つの地方がかつて繋がりがあったことを示す証拠」
遺跡に向かって歩くシロナの後に続く。
入り口付近には折れて風化しかけている柱が並んでいる。柱の付近に腰を下ろし、手袋をつけた手で柱に触る。どことなく見覚えがある造りだった。
「…この柱、見覚えあるな」
「気がついた?」
「…テンガン山のやりの柱と似た造りだ」
「正解。やっぱりいい視点を持っているわね」
シンオウ地方にあるテンガン山、その最深部にあるやりの柱と呼ばれる祭壇がある。名前の通り、そこは天を貫くかの如く大きな柱が複数並んでおり、伝説のポケモンがかつてここで祀られていたという伝承がある。
「このシント遺跡にある柱と、テンガン山のやりの柱。この二つの遺跡を作ったのは、同じ人達…またはその技術を持った人達。こちらの柱は折れて風化してきているけど、シンオウ地方とジョウト地方…二つの地方の文化が取り込まれたものよ。そしてこれがジョウト地方との間にある。二つの地方に関連があったことを結びつけるには、これだけでも強い確証になるわ」
「シンオウ地方は雪が多い地方だ。今みたいな技術があるわけでもない。住みやすい温暖な気候のジョウト地方に移り住もうとするには十分な理由だな」
「その通りよ。もしかしたら、他にも理由があるかもしれないけど、今はまだわからないわね」
「人が集団で住む土地を変える理由を色々と考えてみたら、わかることがあるかもな」
「それを知るためにも、中で調査を始めましょう」
遺跡内部は、外観から見た時よりも広く感じた。
また、中と外で空気が違う感じがした。外は冷たく刺すような冷気が漂っていたが、中は荘厳でありながら、どこか懐かしさというものを感じる雰囲気だった。
祭壇のように柱が四隅に建てられており、床には模様が描かれている。三角形の各角を中心に円が描かれていて、それぞれ刻まれている模様が違う。
「……なんか、変な感じだ」
「そう、ええ、そうね。なんて言うのかしら、これ。こう、胸の中から込み上げてくるこの感じは」
「…『懐かしい』?」
「そうね。『懐かしい』。これが一番的確だわ」
なぜ懐かしさを感じるのかはわからない。シロナもカイムもこの遺跡には初めて来た。懐かしさを感じる道理はない。
だというのに、二人はどことなく懐かしさを感じている。その懐かしさをより強く感じているのはシロナだ。
「…こんなに懐かしく感じるのは、カンナギタウンに帰った時以来だわ」
「そんなにか」
「ええ。とても懐かしく感じるの」
カイムも僅かながら懐かしさを感じてはいるが、故郷を思わせるほどのものではない。
彼女とカイムの違い。色々あるが、この遺跡に関連して異なるものはいくつか考えられる。それを照らし合わせるのが最も効率的で、重要だとカイムは考えた。
「……出身地か」
「どうしてそう思うの?」
「懐かしさってのは、本来『故郷』や『かつていた場所』に対して出てくる感情だ。シロナの故郷はカンナギタウン、俺はミナモシティ。全く違う場所なのに二人とも懐かしさを感じる。なんなら今住んでるミオシティ付近かと思ったが、これも違うだろう。
じゃあ共通点はなにか?それは今は俺もシンオウ地方に住んでいることだ。俺よりも遥かに長くシンオウ地方にいるシロナの方が大きく懐かしさを感じている。なら、特定の場所ではなく、『シンオウ地方』に住んでいるかどうか。これがこの懐かしさを感じる原因なんじゃないか?」
「Excellent」
シント遺跡は、シンオウ地方からジョウト地方へ移り住んだ人々が故郷であるシンオウ地方を思って作った遺跡だった。
やりの柱と同じ造りの柱があり、ジョウト地方に存在するアルフの遺跡とも内部構造に酷似した部分がある。両地方でなにかしらの交流があったことは想像に難くない。
「この祭壇はなんだ?」
「これは、恐らくシンオウ地方の神話に関係する祭壇ね」
「シンオウ地方の神話……アルセウス関連か」
「ええ。恐らくね」
アルセウス、シンオウ地方に伝わる『無』から全てを生み出したとされる伝説のポケモン。
時間と空間、そして反物質を司るとされる三体のポケモンを生み出し、世界を創造したと神話では記されている。
「恐らくこの『三舞台』はそれぞれ『時間』、『空間』、『反物質』を示すものね」
「ディアルガ、パルキア、ギラティナか」
「ええ。これでいくつか疑問が出てきたわ。まず、この遺跡を建築した彼らはジョウト地方のどこに根付いたのか。次に彼らがこの遺跡を作った時にアルセウスのような伝説のポケモン達は姿を現したことがあるのか。もしあるのならばそれをそのままここに残したと解釈できるけど、仮に姿を現していなかった場合だと話は変わるわ」
「これを作った時代の奴らにとっても、アルセウス達は既に神話の存在だったのかということだな」
「そう。もしこの遺跡が建築された時代から彼らの存在が神話なら、このシンオウ地方の神話はいつの時代が発祥なのか。これがわかれば大きいわよ」
「んじゃ、気合いれて調査するか」
「そうね。手分けしてやりましょ」
ーーー
「ふう…」
「おや、休憩ですかな?」
山小屋に戻ると、管理人の老人が出迎えた。
ケーシィは暖炉の側で寝ている。
「ええ。休憩がてら情報の整理をね」
「熱心ですな。して、シロナさんは?」
「あいつは……没頭してるんで今は何も聞こえません。ああなると周りが見えなくなる」
「そうですか。凄まじい集中力なのですね」
「一応休憩を挟めと言って返事はしましたけど、ありゃ頭には入ってないでしょう」
やれやれとカイムが肩を竦める様子を老人は微笑ましいものを見る目で見てきた。
「…なんすか?」
「いえ。良い信頼関係ですね」
「…はあ」
「止めないということは、貴方の中ではまだ大丈夫ということでしょう?今の口ぶりから察するに、本当に休ませたい時は無理矢理にでも休ませるでしょうし」
「世話焼きなのでね。どうもああいうのは放っておけない」
「貴方の性格もあるでしょう。でも、シロナさんもカイムさんのことを信頼している。貴方が『行き過ぎる前』に止めてくれるとわかっているから好きなだけ没頭できる。良い信頼関係だ」
「………」
どう答えていいかわからずカイムは温かいお茶を飲む。
「大事な人なのですね」
「……はい。恩師です。今の俺があるのは、シロナのおかげなので」
「素直に気持ちを言える。大事なことです」
「…はい」
「ところで、話は変わりますがカイムさんはシンオウ地方出身なのですか?」
「いや、俺はホウエン地方出身です」
「おや。シロナさんとはどこで?」
「タマムシ大学に通っていました。そこにシロナの知り合いの教授がいて、それで」
厳密には少し違うが、ここで事細かく説明する必要もないと考え、適当に縮めて話した。
「ん?」
背後に気配を感じて振り返ると、ケーシィがカイムの服を掴んでいた。
「なに、どした」
「おやおや、珍しいですね。ケーシィが他人に懐くことなどあまりないのですが」
「へぇ」
ケーシィの頭に手を乗せ、軽く撫でる。ブラッキーほど気持ち良さそうにはしないが、特別嫌がる素振りも見せない。
「カイムさんは、ポケモンに好かれるのですね」
「シロナにも同じこと言われました…って、おっとと」
ケーシィがテレポートし、カイムの頭の上に乗っかった。
「…重いんだが」
「はっはっは。ケーシィがじゃれつくとはねぇ」
「どーにかしてくれません?」
「ここはあまり人が来ませんのでね。少し、遊び相手になってあげてくれませんかね」
「…休憩時間の間だけですよ」
その後カイムは休憩時間の間、ケーシィの相手をしてやったが、思いの外ケーシィが悪戯好きで遊び相手に苦労したのはまた別の話。
ーーー
「………」
調査が開始してから数時間。
シロナは調査に没頭していた。通常人間の集中力はあまり長時間続かないのだが、彼女は集中をほとんど切らすことなく続けていた。
「うん、やっぱりこれ…」
「おい」
「わっ!」
突如背後から声がかけられ、振り返るとそこにはカイムが無表情で立っていた。
「カイム、どうしたの?」
「根詰めすぎだ。一週間あんだし、初っ端から飛ばし過ぎんな」
「あ…結構時間経ってる。ごめん、気づかなかった」
「ん。少し休め」
カイムは手招きをしてシロナについてくるように促す。
遺跡の入り口まで出て、シロナはそこにある大きな岩に腰掛け、カイムは柱に寄りかかった。
来た時は雪が降っていたが、今は降っていない。このまま外で休んでも問題なさそうだとカイムは判断し、魔法瓶から温かいお茶をコップに注いだ。
「ほれ」
「ありがと」
シロナはコップを受け取り、それに口をつけて飲む。
冷え切っていた身体が内側から温められていく感覚がする。防寒対策はしっかりしてきたが、寒い空間で長時間調査をしていたらさすがに身体は冷える。
吐き出した息が白く染まる。視線のみ動かしてカイムを見ると、カイムの頬も寒さで僅かに赤く染まっている。
「ふぅ…温かい」
「もうちょい自分で制御できないもんかね」
「ふふ、そうね。確かに、集中しすぎる傾向があるのはわかってたし、それを直そうとまでは行かなくても制御できるようになろうと考えた時期はあったわ」
なにせ根詰めすぎて身体が限界になり、一度倒れたことがあった。
その時カイムとはまだ出会っていなかったため、ポケモン達が色々としてくれて事なきを得たが、いらない心配と気苦労を彼らにさせてしまったのはシロナとしても苦い記憶である。
「なら実践しろや」
「今はいいのよ」
「なんで」
「貴方がいるもの」
「は?」
「貴方は私が無意識に無理をしてたら止めてくれるでしょ?」
「随分買い被られたもんだ」
「現に今、こうして私を休ませてくれてる。ほら、止めてくれたじゃない」
カイムは肯定も否定もしない。
カイムにとって世話焼きはもはや染み付いたもの。故に意識してやっていることではない。たとえ相手がシロナでなくとも、彼はきっと同じことをする。
「貴方は優しい。だから近くの人が自分を顧みずになにかをしているのを黙って見てられない。そういうタチなのよ」
「……かもな」
「貴方が止めてくれる。そうわかってるから私は好きなだけ没頭できるのよ。研究にも、バトルにも」
「自覚あるならもう少し自制してくれ」
「いや」
「おいこら」
「だって、貴方に世話されるのが好きなの」
悪戯っ子のような笑みを浮かべながらカイムのことを見るシロナに、カイムはなにも言えずため息をついた。
耳が赤いのは寒さだけではないだろう。
「私が今もこうして両立できてるのは貴方のおかげ。感謝してるわよ」
「…別に。感謝してほしくてやってるわけじゃない」
「あら、じゃあどうして世話をしてくれるの?」
カイムは基本世話焼きだが、誰にでも世話焼きを発揮しているわけではない。誰にでもお節介をするほど、カイムもお人好しではない。
だがある程度親交を深めると世話を焼き始める。これは彼の放っておけない性格故の行動であるため、感謝されるためではないことくらいわかっている。しかしどうしてここまで親身になってくれているのかはそういえば知らないとシロナは思ったが故の質問だった。
無論、カイムにちょっかいをかけるためでもあるが。
「んー…そうだな」
「貴方は世話焼きだけど、他人に深入りはしない。でも私にはすごく深入りしてくるじゃない。どうして?」
「そうだな。助手だから、っていうのが一番平凡だろう。だから敢えて違う理由を言おうとも思ったんだが、特に思いつかん」
カイムは腕を組み、首を捻り考えるが、やはり理由は出てこない。それらしい理屈も全く出てこない。
「あら」
「まー理由なんて特にねーよ」
「理由なく私に良くしてくれてるの?」
ぐいぐいカイムに聞いていくシロナだが、次のカイムの言葉にシロナは言葉が出なくなった。
「ああ。好きでやってることだからな」
「え」
「そろそろ調査に戻るわ」
「あ、ちょ、待っ」
仕返し成功と言わんばかりの悪い笑みを浮かべながらカイムは遺跡の中に戻っていった。
残されたシロナは座り直し、両手で顔を覆う。
「うう…」
指の隙間から覗くシロナの顔は赤い。
恐らく、カイムのことを知らない人が聞いたら今の言葉は『世話を焼くことが好き』と捉えるだろう。
だがカイムは世話焼きだが、彼自身が世話好きだと公言したことは一度もない。なんなら世話は別に好きでやっていることではない、と言う。
つまり、先程の彼の言葉の真意は……。
「……こういう時にしか素直にならないのね」
普段ポケモンには愛情を持って接しているが、基本人には素っ気ない。人が嫌いとかではなく、人に対して素直になれないだけなのだろう。
だから文句以外でカイムが本心を吐露するのは珍しい。カイムもそれを理解しているからこそ、シロナに対してここぞというタイミングで本心を吐露した。
「あー……もう、調子狂うわ」
顔の熱さとともに口角の緩みも感じられるが、深呼吸し、自分の頬を叩くことで意識を切り替える。
「よし!」
どこかでこの仕返しをしようと心に決めつつ、シロナも調査に戻った。
*
「お疲れ様でした。また明日」
「ええ、ありがとう。また明日お願いしますね」
日没後、二人は老人のケーシィに街へと送ってもらった。
老人とケーシィがテレポートで帰るのを見届けると、シロナはカイムへと向き直った。
「うーん、お疲れ様〜」
「ああ」
「さすが見つかって間もない遺跡ね。まだまだ解明されてないことがたくさん出てくるわ。とりあえずこのデータのバックアップ作ったらご飯いきましょ」
「そうだな。まだそこまで遅くないし、店も開いてるだろう」
あまり大きな街ではないので数は多くないが、いくつか良さそうな店をスマートフォンで見つけることができた。
カイムのスマートフォンをシロナは覗き込んできたので、画面をシロナの方に向ける。
「どれがいい?」
「んー、あ!こことかどう?」
「和食か。いいぞ」
「早速向かいましょう。お腹すいたわ」
「同感だ」
長時間の調査で疲れているはずなのにシロナの足取りは軽い。
「予約しておくか」
そしてこんな時でもカイムの秘書精神は健在だった。
データを整理し、バックアップを作成し終わると二人は予約した店へと向かった。
「ここだな」
「いいわね。ジョウト地方っぽい雰囲気。好きよ」
「シロナはジョウト地方結構好きだったな」
「ええ。各地方毎に特色がある。その特色の中でもジョウト地方はシンオウ地方の次に私に合ってると思うの」
「シロナがそう思うならそうなんだろうな」
「今度ホウエン地方巡りもしたいわ」
「案内しろと」
「ええ。詳しいでしょ?」
「ああ、任せろ」
ホウエン地方のことを思い出しながら店に入る。
中は落ち着いた雰囲気でありながらも、客で賑わっている。
「いらっしゃいませ」
「予約したカイムです」
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
店員に案内され、個室へたどり着く。
あまり広くはないが、二人で入るにはちょうどいい大きさとなっている。
「こちらメニューです。お決まりになりましたら、そちらのボタンでお呼びください。ごゆっくりどうぞ」
それだけ言って店員は扉を閉めた。
「すごいわね。店員さん、着物だった」
「ああ。値段の割には高級な感じするな」
「いい店があって良かったわ。でもなんで個室?」
「お前な、自分の知名度考えろ。店の人ならともかく、客の方はいきなりチャンピオンが現れたらちょっとしたパニックになりかねんぞ」
「それもそうね」
実は2人きりになれて少し嬉しいのだが、シロナは先程してやられたため素直に喜ぶことができない。
そしてもしここでカイムに『2人になりたかった』とでも言われたら、恐らく平静を保っていられる自信はない。だからシロナはこの件についてこれ以上言うことはせずメニューを開いた。
「んー、私はお刺身定食」
「俺は柚庵焼き定食」
「柚庵焼きって?」
「柚子、醤油、みりん、酒、砂糖を混ぜたタレをつけて焼く魚だ」
「ふーん、美味しそうね」
「一口食うか?」
「いえ、いいわ」
これは意外、とカイムは思う。
大体こういう時は一口くれと言うことがシロナは多い。だがそう言わなかったということは、彼女的にあまりお気に召さないのかもしれないと結論付けようとした。
だがその考えはすぐに掻き消される。
「今度、作って」
シロナの言葉にカイムは固まる。
一瞬思考が停止したが、すぐに再起動する。
「なにを」
「その柚庵焼き」
「ええ…」
「貴方なら作れるでしょ?気になるのよ」
「なら一口やるよ。それで判断しろや」
「いいえ。『カイムが作った』柚庵焼きが食べたいの」
誰もが振り返るような笑顔でそう言うシロナを苦い顔で見つめるカイム。だがすぐに折れたようにため息をつく。
「こうなったら全く聞かないもんな、お前」
「ええ」
「わーったよ。レシピ確認しておく」
「やった」
これで帰った後の楽しみが増えたとシロナは内心でガッツポーズした。
その後、食事を済ませて店を出たが、帰り際に店員の1人にシロナがサインを求められたのはまた別の話。
*
食事を終え、ホテルへと戻ってきた二人。
「明日は何時始動だ?」
「んーそうね。10時には向こうにいたいわね」
「なら移動含めて8時起きだな。移動も長かったし、疲れてるだろうからさっさと寝たほうが良さそうだな」
スマートフォンの目覚まし機能をセットしながらカイムは言う。
「そうね」
「シャワー、先使え。データを少し見返したい」
「あら、いいの?」
「お前の方が風呂は長い。さっさといけ」
「は〜い」
シロナは着替えを持ってシャワールームへと姿を消した。
カイムはそれを見届けるとノートパソコンを開き、ドライブへと接続する。
今日保存した写真データを自身のわかる範囲で区分分けしていく。古代文字や装飾などで一度分け、その後さらに似たもの同士でフォルダに収めていく。
(……同じ遺跡の中でもちょくちょく細部が異なるものがあるな。これは作った奴の個性なのか、それとも別の理由があるのか。比較対象がこのシント遺跡のものしかないからなんとも言えないな。これらを掘り下げるにはジョウト地方のアルフ遺跡も調査しないとダメか)
比較対象が無い以上、この場でこれ以上の分析はできないと考え、ドライブとの接続を切る。
その時に腰につけたボールの一つがわずかに揺れているのに気がつき、ボールからポケモンを出した。出てきたブラッキーは大きく伸びをするとカイムの膝に飛び乗り、そしてその勢いで頭にまで飛び乗ってきた。
「……重い」
頭に乗られると首にかかる負担が大きく、単純に重い。
普段なら引っ剥がして膝に乗せるが、今日は一日構ってやらなかったから好きにさせることにした。
頭の上で溶けるように脱力するブラッキーに苦笑いしていると、シャワールームの扉が開いた。
シロナはシャツに薄手のカーディガン、ハーフパンツという出立ちだった。
「あー、さっぱりした」
「おい、髪乾かせ。風邪ひくぞ」
膝近くまで伸ばされた絹のように美しいシロナの髪はタオルで拭き取ってはいるが、まだ水気が抜けてない。そもそも普段そこそこ時間をかけて乾かしているにも関わらず、今はドライヤーの音すらしなかったため乾かしてないのは明白だ。
「はい」
そんなカイムに対して、『待ってました』と言わんばかりの笑顔でドライヤーを手渡してくるシロナ。
カイムはそれを受け取り、苦い顔をする。
「………お前」
「乾かして」
シロナは椅子に座り、背中をカイムに向けた。まだ濡れている髪の毛が向けられて、シロナはカイムの頭にいたブラッキーを抱え、膝に乗せた。膝に移されたブラッキーは特に嫌がる素振りもみせず、シロナにされるがままになっている。
「いつもは自分でやってるだろ…」
「いいじゃない。旅先くらい」
「はぁ…わーった。やりゃいいんだろやりゃ」
観念してカイムはドライヤーをコンセントに接続、スイッチを入れてシロナの髪を乾かし始めた。
「丁寧ね」
「前に『髪は女の命』みたいな話してたろ」
「覚えてたのね」
「まーな。尤も、どうやるのが正解なのかいまいちわからんから、悪いとこがあれば言え」
「今のところ大丈夫よ。その調子でお願いね」
「はいはい」
「ところで、今日集めた資料はどう?なにか発見はあった?」
「…なんとも。俺は今回、シント遺跡がジョウト地方とシンオウ地方の繋がりがあったかどうかって視点で調査している。まー繋がりがあったこと自体はほぼ間違いないんだろうけど、なぜわざわざあんな辺鄙な場所に作ったのか、そしてシンオウ地方の神話そのものはふんだんに盛り込んでいるくせに、ジョウト地方に関する情報らしきものがあまりないのはなぜかって思ってさ。内部にあった像がアルフの遺跡のものと同じものっぽいが、今のところ他に見つかっていない。別に諍いがあったわけでもなさそうなのにジョウト地方に関することでぱっとわかりやすいのが、その像だけだった。両者の繋がりの中で何かあったのかなって」
「うん、いい視点ね。あの遺跡自体まだ見つかって間もないから、その繋がりについてなにかわかれば大きな進歩よ」
「かもな。でも多分、これを解明するにはジョウト地方のアルフ遺跡も調査する必要があると思う。石の年代的に二つができた時代はそう変わらないからな」
「アルフ遺跡にはアンノーンもいるしね。なにか見つかる可能性は高いわ」
「なんにしても、今は集められるだけデータ集める感じだな。アルフ遺跡にもそのうち行くだろうし」
「あそこはもうある程度発掘が終わってるからね。いつでもいけるわ」
シント遺跡はつい最近見つかった遺跡。故に今シロナ達が調査できる部分もまだ遺跡の全容とは言えない程度のもの。三舞台の奥にもなにかありそうな雰囲気はあるが、今回は発掘ではなく調査で来ている。非常に残念だが、実際に発掘されたあとの結果を待つしかない。
「あの遺跡が今後どういう事実を明らかにしてくれるかはわからない。その歴史が輝かしいものなのか、それとも後ろ暗いものなのかもね。でもどんなものでも私たちの先祖がどういうことを思って過ごしていたのか。それを知るのが
「俺は助手なんだが?」
「私の手伝いをしてくれてる時点でカイムも立派な考古学者の一人よ。結果を出したかどうかは問題じゃないわ」
「………」
「それに、あなたはもう学者としての私の一部よ。あなたのおかげで私はここまで成果を出せたんだから」
「助手冥利に尽きるね。ほら、終わったぞ」
ドライヤーのスイッチを切り、使ったタオルを畳みながらカイムは言う。シロナと長い髪は綺麗に乾いており、普段の美しさと相違ない。
「ありがと」
「自分でできるんだから自分でやれよな」
「たまにはいいでしょ?」
「………時々にしてくれ。さすがに毎回はしんどい」
「じゃあたまにはやってくれるのね?」
「はいはいやりゃいいんだろ?」
どうせ小言を言っても聞かないとわかっているカイムは着替えを持ってさっさとシャワールームへと入っていった。
「…これくらいの仕返しならまだ帳尻が合ってるわよね」
シロナの膝にいるブラッキーはシロナの言葉がよくわからず首を傾げた。
そのブラッキーの頭を優しくシロナは撫でた。
「そろそろ寝るか」
シャワーから出て、明日の準備を終えたところでカイムはそうシロナに告げた。明日も比較的早くから動くし、体力も使う山道移動もある。早めに寝るという選択が最善だとカイムは考えた。
「んー…」
「……なんだよ」
「せっかく違う環境なのにすぐ寝ちゃうのってもったいないなーって」
「阿呆、明日も体力使うんだぞ。さっさと寝て回復しておくべきだろうが」
「そうだけどー」
子供のような態度で駄々をこねるシロナにカイムは何回目かわからないため息を吐く。
「普段の態度からは考えられんな。まるで子供だ」
これはすぐに寝ないだろうと判断したカイムは備え付けの椅子に座り腕組みをした。
「そう?」
「そうだな。普通は凛とした態度で余裕ある感じだ」
「かもしれない。でもそれも間違いなく私で、今の私もちゃんと私。人は感情がある分、一貫性がない態度をすることもあるのよ」
「外面も素もどちらも自分だと」
「そう。私は私。チャンピオンである私も、考古学者である私も、そして貴方に世話を焼かれる私も、全て『シロナ』という人間を構成するものよ」
人は皆色々な側面がある。だからシロナのように普段は凛としているが、家ではズボラな人間もいるし、カイムのように人に興味が無さそうな態度をしているのに、交流のある人間には甲斐甲斐しく世話を焼く側面もある人間もいる。
ポケモンもそうだろう。ある地域で崇められているポケモンが他の地域では厄災として恐れられている可能性だってある。
「多面性ってやつか」
「ええ」
「難しいな」
「そうね。私も全てを受け入れられるほど寛容な人じゃない。でもね、必ず受け入れる必要ってないのよ。『そういう部分もある』って思えばいいの。それだけできっと世界は広がるわ」
「……そうか」
「で、話は変わるんだけどね。この調査の後、行きたいところがあるの」
「ドリフトでもしたのかってくらい話の流れ変わるじゃねぇか。どこに行きたいんだ?」
「んーとね、アルトマーレとアラモスタウンとエンジュシティとウバメの森」
「多すぎんか」
「せっかく歴史の古いジョウト地方近くまで来たんだから、このまま少し観光してもいいかなって思ったのよ」
「俺は大丈夫だけど、いいのかよチャンピオンの仕事とかもあるだろうに」
「大丈夫、全部終わらせてきたから」
胸を張って言うシロナにカイムは呆れたような表情になる。
初めからこの調査が終わったらジョウト地方へと観光に行く予定だったのだろう。チャンピオンの仕事もそう簡単に終わるものではないはず。それをここ数日で片付けたということは相当頑張ったはずだ。
「この数日忙しくしてたのはそれか」
「ええ」
「……スケジュールに支障が出ない範囲ならいいんじゃね?」
「やった!ありがと!」
パッと花が咲くような笑顔になり、カイムのブラッキーを撫で回すシロナを見ながらカイムはスマートフォンを取り出し、ルートを確認し始めた。
***
「ん……」
早朝、目が覚めた。
上半身を起き上がらせ、隣のベッドで死んだように静かに眠るカイムの顔を見る。
「……寝顔は割とかわいいのよね」
普段がほぼ無表情で時折見せる表情も大体が苦い顔か仏頂面が多く、眉間には大体シワが寄っている。だが寝顔はその眉間のシワもなく、とても穏やかなものだった。
ここ約一週間、シント遺跡を調べられるだけ調べた。石の年代から掘られた模様の造りなどなど記録できることは全て記録した。
少々疲れが溜まってはいるが、それ以上に良い成果があった。これらを精査してみたらきっといい結果を出せるとシロナは確信していた。
それも全て、カイムが居てくれたおかげだった。
無論データそのものは全てシロナが自分で集めたものだ。カイムはカイムで自身の気になる部分についての調査を行っていたからデータ的な意味で考えればカイムの出番はあまりなかった。
だがシロナが一人で調査をしていたら一週間の調査などできなかっただろう。根の詰めすぎでどこかで必ずガタが来ていたことは間違いない。
だからカイムは適度なところでシロナを止めていた。集中しすぎて周りがすぐに見えなくなる彼女のブレーキの役割をカイムが果たしていた。カイムがいなければ、恐らく今頃シロナはここまで万全の体調ではいられなかったはずだ。
「ふふ」
眠るカイムの頭を撫で、固めの髪の毛がシロナの手にかかる。
「…ありがと。一週間、お疲れ様」
眠るカイムを慈母のような穏やかな笑みでシロナは見つめた。
「んー!いい調査だったわ」
ホテルをチェックアウトし、大きく伸びをするシロナをカイムは後ろから眺める。
シント遺跡の調査は昨日をもって終了した。尤も、全容が把握できたわけではないので再度発掘が進むなり、確かめたいことがあれば再び調査にくることにはなるのだが。
「なかなか興味深い場所だった」
「そうね。他の地方の歴史を知るのも良い経験になるわ」
「ああ、そうだな」
ジョウト地方は今までカイムは行ったことがなかったが、これを機にジョウト地方について色々学んだ。その結果、街並みや特色、歴史を色々と知ることができた。
だがあくまで『知識』として知ったに過ぎない。これを『経験』に昇華させるためには、やはり実際に現場に赴き、それらを肌で感じることが必要だ。
「どう?興味出てきたんじゃない?」
「…ジョウト地方にか?」
「そう。シンオウとジョウト、二つの地方の繋がりを示したシント遺跡。そしてそれを残した人たちがかつていた土地について」
先日シロナがこの調査の後に行きたいと示した場所はほとんどがジョウト地方のもの。アラモスタウンはシンオウ地方だが、ジョウト地方に行きたいとシロナが考えていたことは明白。
しかしカイムが断ればシロナも素直に折れるだろう。だからシロナはカイムがジョウト地方に興味を持つように仕向けたのではないだろうかとカイムは考えた。
「…おい」
「なに?」
「もしかして、これも全て計算の内か?」
「ふふ、どうでしょうね」
優雅な態度で唇に人差し指を当てるシロナの様子を見て、これは確定だろうとカイムは思い、肩を落とす。すっかりうまく操られてしまったようだ。
「はいはい、喜んで同行させてもらうよ。この調査で興味も出てきたことだしな」
「よし、決まりね!」
「で、どこから行くんだ?」
「そうね、とりあえずここからね」
シロナのスマートフォンを覗き込み、場所を確認する。
「なるほど、そこね。なんか理由はあるのか?」
「ここに興味がある。それじゃ不満?」
「はっ、一番最高の理由じゃねぇか。それじゃ、早速向かうか」
「ええ、よろしくね」
上機嫌で車に乗り込むシロナを見てカイムはスマートフォンでルートを設定し、車に乗り込む。エンジンをかけ、ナビの示すルート通りに車を走らせ始めた。
シロナとカイムのちょっとした旅が始まる。
シント遺跡の詳細の場所がわからなかったので場所をぼかして書いてます。ご了承ください。
とりあえずジョウト地方の北あたりということしかわからなかったので、シンオウ地方の南方面かなって予測して書いてます。
本当はじいさんとの会話をもっと盛り込む予定だったけど、じいさんよりもシロナさんが多い方がよくね?と考えてじいさんのターンは相当削りました。褒めて。
日間ランキングに載ったらしいです。
UAとお気に入りが知らぬ間にすごく増えてたのはランキング乗ったからですかね。
ありがとうございます。
今後もまったり続けていくつもりです。
何書くか迷ったらアンケート出したりするかも?
なので早速アンケート取ります。
多かった順に書いていくつもりです。
全部原案はぼんやりできてます。