なんでも屋アールグレイ-The Shadow Bullet-   作:「旗戦士」

1 / 35

変態紳士の方がギャグ中心なのでこちらをシリアス息抜きに。
というわけなので結構不定期更新です。


order1.その男、守銭奴につき

<アメリカ合衆国・シカゴ、海岸通り>

 

"なんでも屋"というのを、皆様はご存知だろうか。

またの名を"便利屋"、その名の通り様々な雑事の代行業務を行うサービス業者の俗称であり、それを商いとして金銭の取引をしている。

 

ゴミ屋敷の掃除や遺品整理、留守番や犬の散歩などその業務は様々。

 

 

だが、それは"表向きの"仕事のみの話である。

 

 

 

 

「や、やめろ! 命だけは助けてくれ! た、頼むっ! 」

「助けてくれって言われてもなぁ……。俺依頼されただけだし」

 

 

 

 

深夜。

夜の帳が街を包む頃、海岸近くの倉庫で恐怖におののく小太りの男とリボルバーを彼に向ける黒いコートの男が一人。

 

黒いコートの彼の背後には銀の長髪の男が血に濡れた自身の愛刀を布で拭っている。

辺りには死体しかなく、生き残っているのは小太りの男とこの二人組だけであった。

 

 

 

「か、金ならいくらでも払う! だから、命だけは……ッ! 」

「あそこまで大見得を切っていたのにも関わらず身の危険を感じたら命乞いか。滑稽すぎて憐みすら湧いてくる」

 

「いいじゃんかよ、シノ。んで、幾ら払えるの? 」

「た、助けてくれるのか!? か、金ならこ――――」

 

 

 

男の顔が恐怖から安堵の表情に変わった瞬間、黒いコートの男は引き金を引く。

額に1センチ弱の穴が空き、小太りの男は静かに地面に伏した。

 

愛銃を人差し指でクルクル回してから腰のホルスターに仕舞うと、彼はコートの懐からタバコとライターを取り出して火を付ける。

 

銀髪の方も愛刀を鞘に仕舞うと、瞳孔が開ききっている男の死体の目を閉じさせてからコートの男の後を追うように倉庫を出た。

 

 

「はーい、こちら"なんでも屋アールグレイ"。依頼された対象は苦しむことなくぽっくりと逝かれましたよー」

『さすがだな、"死の芳香"。噂通りの手際だ』

 

「やだなぁ、そんなむず痒い二つ名で呼ぶのはよしてくださいって。依頼料は三日以内にきっちり振り込んでくださいねー」

『分かっている。また仕事が出来た時には頼らせてもらうぞ』

 

「はいはーい。今後とも"なんでも屋アールグレイ"をよろしくお願いしまーす」

 

 

突然コートの奥から携帯端末を取り出すと、依頼者らしき人物に電話をかける。

声音こそ穏やかだが、こういう人物が一番恐ろしいのは言わずもがなだ。

きっちり宣伝も兼ねて名前を述べると、男は電話を切る。

 

 

 

「依頼完了だシノ。帰って一杯やろうや」

「……このまま寝ては目覚めが悪いからな。付き合おう」

 

 

 

黒いコートをなびかせ、男はシノという銀髪の男を引き連れて倉庫を出る。

事後処理もしておいたので、この戦闘行為が明るみに出ることはないだろう。

 

 

月夜の暗闇にタバコの火が煌めき、男はニヤリと笑った。

 

 

 

 

彼の名は"アールグレイ・ハウンド"。

またの名を、"死の芳香"。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<翌朝、"なんでも屋アールグレイ"事務所>

 

 

 

翌朝。

結局ウィスキーを一瓶空けても寝付けなかったグレイは、二日酔いで痛めた頭を押さえながらトイレに駆け込んだ。

 

それを隣で一瞥しながら新聞を読むシノ。

どうやら彼は酒が強い方らしく、彼と共に飲み比べをしてみてもこの通り平然としている。

 

 

「おうぇぇぇぇぇ……。気持ちわりー……」

「だからあそこでやめておけと言っただろう。お前が一人で裸踊りを始めた辺りでもうおかしくなっていたぞ」

 

「シノも結構勧めてたじゃねーかよー! お前も十分酔ってたじゃねーか! 」

「俺は元々強いんだ。それに自分の量を知らずに飲まないからな」

 

 

彼の反論を聞いてから再びトイレの便器と対面するグレイ。

"酒は飲んでも呑まれるな"という至言があるがまさしく彼に対しての言葉になるだろう。

 

その時である。

グレイの机に置いてある据え置き型の電話が鳴り響き、トイレとにらめっこする彼の代わりにシノが電話に出た。

 

 

「はい、こちら"なんでも屋アールグレイ"。何かご用件でしょうか」

『あ、すいません。こちらでベビーシッターを請け負っていると聞いてお電話させてもらったのですが……』

 

「ええ。ご予約はされてましたか? 」

『それが急用が出来てしまって、予約はしていないんです』

 

「なるほど。でしたら料金が1.5倍増しとなってしまいますが……。それでもよろしいですか? 」

『はい。よろしくお願いします』

 

「わかりました。すぐにそちらへ向かいます」

 

 

 

受話器を切ってからシノは表向きの仕事用のジャケットを羽織る。

先程も言ったように彼らは"なんでも屋"、昨晩のような暗殺の依頼から今朝のようなベビーシッターの依頼まで金さえ払えばなんでも請け負う仕事だ。

 

言葉の響きさえ悪いが、この街で重宝されているのは紛れもない事実。

彼らのような存在は必要不可欠なのである。

 

 

「聞いてたか、グレイ? 今のお前じゃ無理そうだから、代わりに俺が行っておく」

「さ、サンキュー……。今度なんか奢るわ……」

 

「日本食のうまい店を見つけた。そこで頼むぞ」

「あいよー……。いってらっしゃーい……」

 

 

顔を俯かせながら事務所を出て行くシノに手を振ると、青ざめつつグレイは自分のお気に入りのソファに寝転んだ。

吐いても気持ち悪い気分が未だに抜けない。

最悪だ。

 

 

「あー……。そういや銃の点検してもらわねぇとなー……。だりーけど行くとするかー……。うおぇっぷ、気持ちわりー……」

 

 

どっこいしょ、という掛け声と共にグレイはお気に入りのソファから立ち上がる。

俺も歳をとったもんだ、と頭の片隅で思いながら愛銃の"S&W M586"をホルスターに仕舞い込み、お気に入りの黒いコートを羽織ると彼は事務所の扉を開けた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<シカゴ市内、大通り>

 

 

 

二日酔いの時ほど外の寒さが頭に響く。

未だにグレイの頭の中でガンガン鳴り止まない頭痛に舌打ちと罵声を脳内でプレゼントした後、気を紛らわすようにタバコに火を点けた。

 

 

うまい。

口から煙を吐きつつ、彼はコートのポケットに手を突っ込みながら目的地の工房目指して歩道を歩く。

 

 

シカゴの冬は雪こそ降らないものの、一方で厳しい極寒の風を人々に与えてくる。

逆に夏場は温暖な南西風によって相当な暑さとなり、日本の夏のような感覚に近い。

 

全く以て過ごしにくい街ではあるが、グレイはこの街を心のどこかで気に入っていた。

 

 

 

「ち、ちょっと! 一体何をするんですか!? 」

「こんな格好でこんな危ない所を出歩いちゃあいけねぇな、お嬢ちゃん? 」

 

「やめてください! 離して! 」

「いいだろう? 大丈夫だよ、痛くはしねえさ」

 

 

ふとした拍子に、路地裏に一人の女性が数人のチンピラによって乱暴に連れ込まれるのが見える。

誰も助けはしない。

 

 

きっと手を差し伸べたところで自分が痛い目に遭うだろうから。

いつだって人間は自分の身が可愛くて仕方ないのだ。

 

彼はそれを否定したりはしないだろう。

確かに自分もそう思うからだ。

 

 

だが、否定したからと言って救いの手を差し伸べるのは間違いなのか?

その答えは誰にもわからない。

 

 

グレイは拾っておいた缶を路地裏にいるチンピラ目掛けて思いっ切り投げた。

目の前の女性の身体に夢中なチンピラのリーダー格に命中し、投げられた方向にゆっくりと視線を向ける。

 

 

 

「そこら辺にしとけよ。この寒さじゃアンタの自慢の一物も元気が出ないんじゃないか? 」

「なんだよ、テメーは? 混ぜて欲しいのか? それとも正義のヒーローでも気取った大馬鹿野郎なのか? あぁ? 」

 

「残念ながら、どっちでもないんだよ。ただ金欲しさにそこの女の子を救おうって魂胆のしがないビジネスマンさ。んで、そこの君。助けてほしいかい? 今なら100ドルの所を俺ってば気前いいから75ドルでまけとくぜ? 」

「はっはっは、だったら答えはノーだ。なんてったってその前に俺達が美味しく頂いちまうからな! 」

 

 

汚い笑い声を聞き流し、彼は今にも泣きそうな女性の前に座り込んだ。

着ていた服はほぼ脱がされ、スカートとブラジャー姿になってしまっている。

 

普通のヒーローならここで問答無用で救いの手を差し伸べ、チンピラ共を一層して颯爽と飛び去っていくことだろう。

だが、自分はそんな高尚な人間じゃないし、何より柄じゃない。

 

 

 

「どうする? 俺は君に聞いてるんだ。おそらくは君はこの後こいつらにめちゃくちゃにされ、きっと一生の傷を負うことになるだろう。さあ、決めてくれ。助けを求めるかは君次第だ」

 

「っ!! た、助けてください! お願いします! お金なら、払いますから! 」

「オーライ、いい選択だ。なら、意思に沿うぜ。クライアント」

 

 

「おいおい、俺達抜きで勝手話を進めて――――」

 

 

 

その瞬間、チンピラの顔面にグレイの裏拳がめり込んだ。

鼻の骨が折れる音と共に吹っ飛ばされ、他の2人のすぐ隣のゴミ捨て場に叩きつけられる。

 

彼は黒いコートを脱いで半裸の女性の肩に着せてやると、首の骨を鳴らしながら立ち上がった。

未だにチンピラの二人は呆然としたままで、彼らの元へ静かにグレイが歩み寄る。

 

この時期にコートを脱ぐのは寒いが、これも仕事だ。

シャツとジーパンだけになったグレイは次第にチンピラ達との距離を詰めていく。

 

 

「て、てめぇっ!! 」

「あーらよっと」

 

 

 

我に返ったもう一人のチンピラが殴りかかってくるが、時既に遅し。

懐に潜り込んで肘打ちを鳩尾に打ち込んだ後、そのまま左の回し蹴りをお見舞いした。

 

綺麗に回転しながら最初のチンピラと同じようにゴミ捨て場へと吹っ飛ばされる。

ラスト一人となった時、最後の男が懐から拳銃を取り出した。

 

その銃口はグレイに向けられ、握る手はガタガタと震えている。

 

 

 

「じ、銃!? 」

「おーおー、大層なもん持っちゃって。グロックか? 」

 

「う、う、うるせぇ!! 野郎ぶっ殺してやる!! 」

「危ねぇよ、クライアントに当たったらどうするんだ? 」

 

 

 

女性が驚いた声を上げるのに対して、彼の方は至って冷静だ。

驚くべき速さでチンピラとの距離を詰め、銃弾を放つ瞬間に左手で銃口を逸らす。

 

弾はあらぬ方向に放たれるが銃声が街に響き、辺りは騒然となる。

そのまま右腕と身体全体でチンピラの身体を押し出し、壁に叩きつけた。

 

 

この間僅か10秒。

ジーパンとシャツに付いた埃を払うと、グレイはへなへなと座り込む女性の元へと歩み寄る。

 

 

 

「大丈夫ですか? クライアント? 」

「え、あ、その、大丈夫ですっ! 助けて頂いてありがとうございましたっ! 」

 

「無事で何より。貴女を無事に家に帰すまでが業務ですので。立てますか? 」

「あ、その……腰が抜けちゃって……」

 

「了解しました。お姫様だっこでお送りしましょう」

「えっ、うわぁっ!? 」

 

 

女性の手を引いて軽々と持ち上げると、彼女は赤くなりながらグレイの顔を見上げた。

焦げ茶色の髪に端正な引き締まった顔。

急にその顔が彼女の顔へと向き、更に女性は頬を染める。

 

 

 

 

「まだお名前を伺っていませんでしたね。俺の名前は"アールグレイ・ハウンド"。なんでも屋なんかとやっております」

「わ、私は"クリス・カーウィン"。その……よろしくお願いします? 」

 

 

 

 

 

この二人の出会いが、物語の始まりを告げた。

 

 





想像以上に難しいです、こういう作品。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。