なんでも屋アールグレイ-The Shadow Bullet-   作:「旗戦士」

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一波乱。


order10.狼煙は銃声の後で

<翌日、なんでも屋アールグレイ・事務所>

 

 

ロジャーを確保した翌日の朝のこと。

気絶した彼をソファの上に乗せて寝かせ、ソフィアとヘルガを帰らせた後にグレイとシノの二人でロジャーを見張ることになった。

あらかじめラリーには父親が見つかったと連絡を入れておき、二人は彼が来るのを待つ。

グレイがマグカップにコーヒーを淹れたその時であった。

 

「……う、ううっ……? 一体ここは……」

「よぉ。目が覚めたか? 」

 

「ッ!? わ、私に何かする魂胆なのか!? は、離せ!! 」

「一旦落ち着けって。俺たちは何もアンタを取って食おうってわけじゃない。いいか? 深呼吸して、落ち着いて辺りを見回してくれ」

 

昨夜も何かに怯えて逃げ惑う様子が見受けられたロジャーに対して、シノは疑問を抱く。

かつて"武道の神"と称えられた彼がこんなにも怯えている、一体何があったのだろうか。

グレイに正されて鼻から息を吸うロジャー。

まだ60代にして健在な筋肉が上下に運動し、彼は目を開いた。

 

 

「……すまない。取り乱していたようだ。君たちは私の息子を知っているのか?」

「あぁ。貴方の息子にあなたの捜索を依頼されたんだ。手荒な方法を使ってしまってすまないと思っている。身体の方はなんともないだろうか? 」

 

「うむ、大丈夫だ。その……息子は、ラリーは何と言っていた? 」

「アンタのことを心配していたよ。今息子さんに連絡したらこっちに来るそうだ。元気な顔を見させてやんな」

 

「ありがとう。この恩は忘れないよ。……しかし、息子には会わせないでくれ」

「……一つお伺いしたい。貴方の身に何があった? 昨夜も先程のように別人のように怯えていらしたが」

 

 

落ち着いた様子のロジャーを見て、グレイは息を吐く。

正直言って老人には暴力を振りたくはない。

と言っても彼の身体は同い年の老人のものではないほど鍛え抜かれており、表情や顔つきも60代近くのものとは思いえないのだが。

白髪交じりの頭を抱え、静かに彼は答えた。

 

 

「……私は、ある組織に追われているんだ。私の武術の高さを狙って、彼らは私を監禁している。もし申し出を断ったりしたら、私の家族を手に掛けると奴らは言っていた」

 

「……おいおい、厄介ごとに巻き込んでくれたじゃねぇか」

 

「すまないと思っている。だが助けてくれ。私はもう我慢できない。あの組織は私の武術を使って大勢の人間を殺そうとしている」

 

「うるせぇ。俺達はアンタの息子に依頼されたんだよ。"父親を探してくれ"ってな。アンタの息子と会せたらそれっきりだ。組織に帰るなりどっかで逃げて野垂れ死ぬなり好きにしろ。ラリーが来るまで、大人しくここでじっとしてやがれ」

 

 

どうやら厄介なことに巻き込まれたようだ。

瞬時に察知したグレイは人が変わったようにロジャーの胸倉をつかみ、言葉を浴びせる。

"なんでも屋アールグレイ"は依頼された必要以上のことはしない。

たとえどれ程助けを求められようと、金がなければ絶対に救いの手は差し伸べない。

それが彼らのモットーだ。

 

 

「……シノ。分かってるよな? 」

「大丈夫だ。"息子に会わせる"のが俺たちの仕事。何も"父親を助けてくれ"なんてことは依頼されてはいない。最も、金があれば別だがな」

 

「わ、わかった! 金なら出す! 」

「オーライ、いい判断だ。なら話を済ませ――――」

 

「グレイッ!! 伏せろっ!! 」

 

 

ふと窓の外を見たシノが商談に持ち込む二人の所に飛びかかり、強制的に体を屈めさせる。

直後、幾つもの轟音と振動が事務所の中にいた全員の耳を貫いた。

アサルトライフルの攻撃と気付く頃には、既にロジャーの姿はない。

不意打ちと同時に彼を連れ去る目的だったのだろう。

起き上がった瞬間にM586をホルスターから抜き、外へと躍り出る。

しかしロジャーの姿はそこにはおらず、ただ黒塗りのセダンが事務所の前の道路から発車している光景が映るのみであった。

 

やられた。

そう確信したグレイは悔しさと苛立ちを覚え、奥歯を噛みしめる。

 

 

「くそったれ! やりやがったな! あのじいさんも奪った挙句事務所もこんなにしやがって!! 」

「落ち着け、グレイ。確かに憤る理由も分かるが、憎しみを忘れて大局を見ろ」

 

「……ちっ、わーってるよ。事務所の修理代とその他諸々雑費レシート付けて地獄に送ってやる」

「やれやれ、ずいぶんと穴だらけにしてくれたな。武器庫は無事か? 」

 

「この様子じゃあ……。ま、なんとか無事か。さすがに武器庫をやられてたらこんなもんじゃ済まなかったぜ。ったくよぉ、下手な厄介事に巻き込んでくれやがって」

「だが依頼されている以上、文句は言えまい。修理費はロジャーさんを攫った連中に請求しよう」

 

 

銃創が空きまくっている事務所に戻ってタバコを吸うと、グレイは頭を掻く。

そのまま寝室に向かい、クローゼットの奥に隠してあった扉を開けるとアサルトライフルやらショットガンやらが防弾ガラスのショーウインドウに収納されており、二人はホッと息を吐いた。

お気に入りのマグカップやコーヒーメーカー、テレビも全て銃弾によって破壊されており、事務所の中は凄惨の一言に尽きている。

 

その時、事務所の扉が倒れるように空く音がした。

振り返ると私服姿のラリーが前に立っており、唖然とした様子で二人を見る。

 

 

「あ、あはは……。扉、壊しちゃいました……」

「こ、こりゃあお恥ずかしいとこを。ちょっとレイアウトが変わりましたけど、まあそこに座ってください」

「レイアウトどころか穴だらけだがな」

 

 

やって来たラリーも思わず苦笑いするほど以前の事務所は違ってボロボロであった。

どうしようもない怒りを抑えつつ、彼らは応対し始める。

 

 

「……この様子から、何かあったのですか? 」

「貴方の親父さんを無事保護できたのですが、何者かの手により連れ去られました。おそらく裏社会の関係者だと思われます。申し訳ありません、私どもの完全なミスです」

 

「なんですって? 父がそんな目に遭っているなんて……」

「まだどのような組織かも把握は出来ていません。貴方は"父親に会いたい"と依頼された、ですが私たちはあなたを裏社会へ巻き込む訳にはいかない。……どうされますか? 」

 

 

ロジャーを攫った組織が裏社会に関係するのは事実。

今まで彼の作ってきた道場を受け継いできたラリーを巻き込んでしまうのはあまりにも悲惨すぎる。

しかし彼らは依頼を受ける側、依頼人であるラリーの選択には逆らえない。

 

沈黙が事務所を支配する。

彼が選択するまで、待つのも仕事だ。

 

 

「……お願いします。父を、助けて下さい。たとえどれだけ今が情けなくなっていようと、私の父だ。ただ一人の父なんです。お願いします。父を、助けて下さい」

「分かりました。オーダーの変更ですね。なら報酬の値段が上がりますが、宜しいですか? 」

 

「構いません。あっ、あと一つお願いが」

「はい、なんでしょう? 」

 

「私も連れて行って頂けないでしょうか? 私も武闘家の端くれ、足手まといにはなりません」

「……シノ、来てくれ」

 

 

言われるがままシノはグレイの側へ歩み寄る。

肩を組んでラリーには聞こえないように話し始めた。

 

 

「こう言ってるけどよ、どうする? 俺達は依頼人の意思には逆らえないが、死なせる訳にはいかないぜ? 確かに近接戦には役立ってくれそうだが……」

「俺は反対だ。危険すぎる。もし依頼人が死んでしまったら元も子もない」

 

「しっかしよぉ……」

「……ふむ、いい作戦を思いついた」

 

 

思いついたようにシノはラリーに歩み寄る。

いい作戦とは言うが、一体何を思いついたのだろうか。

 

 

「ラリーさん。貴方には我々の作戦に従って行動して頂きたい。構わないだろうか? 」

「連れて行って頂けるのですね、ありがとうございます。それについてはこの場にて作戦を練るのはいかがでしょうか? 」

 

「……構いません。今この場で行いましょう。シノ、ヘルガとソフィアに連絡してくれ。連中の居場所は俺が突き止めておく。頼んだぞ」

「了解。作戦の概要は追って伝える。頼んだぞ」

 

 

そう言うとグレイは二人に別れを告げ、事務所を出る。

情報のアテはヘルガ、バーのマスターぐらいだろうがなんとか探すしかない。

大金が掛かっている上に、事務所をめちゃくちゃにされて黙っている奴はいないだろう。

想像以上に彼のはらわたは煮えくりかえっていた。

 

 

 

「テメーらは、俺を怒らせた」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<シカゴ市内・"カリフォルニア・ピザ・キッチン"前>

 

 

作戦会議をする彼らを差し置いてグレイはある人物に連絡していた。

以前の麻薬取引の見張りを受けた際に親しくなった"ゲイリー・ヒューズ"という男である。

裏社会の知り合いはヘルガやマスター以外にはいなかったのだが、コネが作れると見込んだのか最近親しく酒を飲み交わしていた。

 

 

「よぉ、ゲイリー。悪いな、呼び出しちまって」

「いいんだ、気にしないでくれ。俺もちょうどランチタイムの時間だったからよ」

「ま、積もる話は中でしようや」

 

 

彼らはレストランの中に入り、ソファ席の所に向かい合って座る。

メニューを渡されてから眺めると、いつも通りのピザとドリンクを頼むことにした。

 

 

「最近景気の方はどうだ? 」

「ぼちぼちさ。前の取引の襲撃を追い返してからめっきりそういった輩が減ってな。アンタらのおかげだと思うぜ、ほんと感謝してる」

 

「やめてくれよ、むず痒い。俺はただ自分の仕事をしただけだ」

「ま、その感謝の印としてこうして話してるんだけどな。んで、今日呼び出したのは何の用だ? 」

 

「このじいさんを追ってる組織について、教えて欲しい。何か知ってるか? 」

「ふむ……。じいさんの割には随分ガッシリしてるが……」

 

 

短く整えられたあごひげを撫でつつ思考を巡らすゲイリー。

本当にマフィアグループに所属しているのかと疑われるほど彼は陽気な雰囲気を纏っている。

まあそれも彼の策略のうちなのだろうが、グレイは気にせずゲイリーの返答を待った。

 

 

「このじいさんの名前は? 」

「ロジャー・ウェンだ。武道界の中じゃ結構有名な人物らしい」

 

「なるほど。なら組織は大体絞れるな。おそらく中華系マフィアグループだろう。最近ある人物を捜索しているって噂を聞いたことがある」

「その組織の名前は? 」

 

「"青龍会"だ。主にシカゴのチャイナタウン付近をたむろしてる。最近三合会トライアドとは中立関係にあるが、小競り合いも多いらしい。それに不満を持ってる連中もたくさんいるんだとさ」

「……青龍会、ね。なんでじいさんを攫ったのかは不明だが、聞いてみる価値はある。サンキューなゲイリー、ここは俺が持つぜ」

 

 

ふと思いついたようにゲイリーは渡した写真の人物の名を尋ねる。

本当に彼の情報網は張り巡らされており、情報屋のヘルガでさえも凌ぐほどであった。

"青龍会"、それが組織の名前。

なんとも中華系マフィアらしい名前である。

 

 

それに中華系マフィアの大御所と呼ばれている三合会と睨み合っているのも好機だ。

組員には緊張感が漂っていることだろう。

生憎グレイに三合会は貸しを一つ作っている。

これを条件にして協力関係を結ぶことも選択肢の一つだ。

 

 

密かに込み上げる笑いを抑えつつ、グレイはゲイリーと共にピザを食す。

準備は、着々と進められていった。

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<同刻、ソフィアのアパート>

 

 

「と、いうわけで早速作戦会議を開始する。今回は事務所が襲撃に遭いボロボロな為、従業員のソフィア・エヴァンスの部屋を借りて執り行う」

「い、いえーい! 」

「拍手、そしてドンドンパフパフ」

 

グレイがゲイリーに情報を提供してもらっている頃、シノはヘルガとソフィアを集めて作戦会議を行う真っ最中であった。

無理に盛り上げようとしてはしゃぐソフィアと、無表情で笛を鳴らすヘルガを見てただラリーは苦笑いすることしかできない。

 

「そして今回のキーパーソンであるラリー・ウェンさんにも来ていただいた。依頼人を作戦に参加させるのはなんでも屋アールグレイの依頼の中で史上初だが、安全性も考慮した上で作戦を立てたい」

「了解。監禁されている場所の見取り図はある? 」

 

「悪いがまだ入手出来ていない。グレイが今情報収集を行っているので今回はどういったスタンスで行動するかを決めておきたい」

「納得。ならゲイリーさんの安全を最優先して彼を守る形で潜入すべき」

 

 

主に作戦会議はこの二人を主軸にして進められる。

新人であるソフィアとゲスト参加であるラリーは聞いてることしかできないが、思いのほかスラスラと作戦が組み立てられていった。

普段はグレイが調子に乗ってソフィアやシノをからかうのが遅れる主な理由であろう。

 

 

「なるほど。陽動はどうする? 」

「私とグレイが実行。その間にシノとソフィアがラリーさんを連れて潜入する」

 

「だいたい決まったな。後はどの位置に着くかを詳しく組み込むだけだ」

「早く終わりましたね! あ、わたしちょっとお茶淹れてきます! 」

 

「普段はあの馬鹿が茶々を入れるからな。今朝は色々あって疲れた、俺は休ませてもらうぞ」

「ソフィアがお茶を淹れるだけに茶々を入れる。シノ、あなたはなかなかお茶目」

 

「…………むん」

 

 

イラッときたのかシノは無言でヘルガの頬をつねる。

無表情ではあるものの若干涙目になっているようだ。

 

 

「無言で頬をつねるのは止めてほしい。痛い」

「俺は謝らんからな」

 

そう言うとシノはその場で寝転がって眠り出す。

ものの数秒で寝る彼の特技は相変わらずであり、ヘルガはため息を吐いた。

 

 

 

 

 

こうして、彼らは一時的な作戦会議を終えて解散することに。

 

実行に移すのは、まだ早い。





というわけで区切り方が分からず微妙な感じに。
次回は戦闘シーンです。
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