なんでも屋アールグレイ-The Shadow Bullet-   作:「旗戦士」

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戦闘シーンのみです。
ちょっと描写が複雑。


order12.死亡剣戯

<"青龍会"のアジト・二階、廊下>

 

 

お互いに得物を構えての睨み合いが続く。

二人の間に残るのはただ沈黙のみ。

口の一つも動かさずにただ相手を見つめる彼らは、真っ先に相手を殺す準備をしている。

 

隙を見せれば、死ぬ。

それはシノにとってもリーにとっても同じことであった。

 

 

「禊葉一刀流、雪走」

 

 

いつまでも睨み合いを続ける訳にはいかないと思ったのか、抜刀の構えのままリーとの距離を詰める。

神速の抜刀の瞬間、彼の持つ中華剣と火花が散り、防がれたとシノは悟った。

しのぎを削り合う中華剣と白鞘。

だが、リーの口元は不敵な笑みを浮かべている。

 

不審に思ったシノは即座に判断し、剣を弾いてリーと距離を取った。

すると彼は何をするかと思いきや顔に手を当てて不気味に笑い始めたのである。

 

 

「ふふふ……ふふ、あはははは! 」

「……何が可笑しい」

 

「貴様のその銀髪と白鞘に覚えがあるんだよ、"白鞘"シノ。生まれは確か日本の方だったな。育ちはアメリカらしいが。家族が何者かに殺され、貴様はそれを探す為にアメリカ中を巡っている」

「なぜ俺の過去を……! 」

 

 

動揺が、シノの胸によぎった。

忘れるはずもない、彼の頭の中に刻まれた忌まわしき記憶が鮮明に蘇る。

 

 

家は燃やされ、両親は凶刃に倒れ、唯一残された妹も追手に殺された。

シノ一人のみが生き残り、死人のように見開かれたシノの目には血の海に沈む彼の家族が焼き付いたのである。

何故家族が殺されたのか、そして殺したのは誰なのかは未だにわからない。

 

ただ彼の目的は、家族を殺した連中全員を地獄に叩き込むのみ。

いつしかそれが、シノの生きがいとなっていたのだ。

 

 

「答えろ!! 何故貴様は、俺の過去を知っている!! 」

「さあ? 私を捕らえて尋問でもしてみたらどうだ? 」

 

 

怒りが彼の脳を覆い、シノは気迫の声と共にリーへと斬りかかる。

しかしその一刀は呆気なく受け止められ、反撃に右の肩へと一太刀浴びせられた。

激痛が彼を襲い、痛みに顔をしかめる。

 

 

「今までの太刀筋が嘘のようだ。所詮、禊葉一刀流も大したことはない」

「ほざけ……ッ! お前に何が分かる! 」

「分かりたくもない。弱者の言葉など、私の耳に入れたくはないな」

 

 

それが挑発と分かっていながらも、シノは攻撃の手をやめない。

決してそれが相手に読まれていても、自分が傷を負おうとも。

 

確かに自分はあの時家族を、妹を守れなかった弱者だ。

だからこそ、この"殺人剣"である禊葉一刀流を習得した。

もしこのリーという男が、何か知っているのなら必ず彼に聞き出さなくてはならない。

それが守れなかった家族への償いになるから。

 

 

「禊葉一刀流……。双蓮! 」

「また向かってくるだけの抜刀術か。読んでいると言ったはずだ! 」

 

 

抜き身の刀を鞘に戻し、再びリーに接近する。

勝ち誇った笑みを浮かべつつ、右手に握った中華剣でその刀を受け止めた。

 

しかしリーは妙な違和感を覚える。

先程の抜刀術は一撃を加えたら距離を取り直すという形であったが、今のシノは自身の刀とリーの中華剣を鍔競り合わせ、リーの動きを固定しているように見えた。

 

そう危機感を覚えた頃には、既にリーの右脇腹に鈍痛が走る。

迫り来る嘔吐感と共に肺の中の空気が一気に絞り出され、歯を食いしばった。

 

 

「刀の一撃目は囮で、鞘での二撃目が狙いとは……ッ! 」

「これが読めないようなら、お前もまだまだ一流とは言えまい。意地でも吐いてもらうぞ」

 

「はっ! 弱者に吐く言葉などない! 」

「抜かせッ!! 」

 

 

互いに脇腹に傷を負いながらも、再び中華剣と刀がぶつかり合い火花を散らす。

シノが敢えて力を緩めてからリーの体制を崩して一太刀を浴びせようとするが、彼の眼前にあったのは今にも振り下ろされんとするリーの中華剣であった。

 

体制を崩した勢いでリーは身体を回転させ、中華剣を振り下ろす。

なんとか回避することに成功したシノは、そのまま刀を彼の身体に突き立てようとした。

 

二人の身体がすれ違うと、シノは右の太腿から激痛を感じる。

視線を落とすと太ももにはナイフが刺さっていた。

 

 

「……ッ! 」

「これで貴様は動けまい。お得意の神速の抜刀術も無くなったぞ? 」

 

 

いやらしく笑うリーに、シノは敢えて抜き身だった刀を鞘に仕舞う。

そして、彼は抜刀の構えをとった。

驚いたようにリーは目を見開き、笑い出す。

 

 

「はははは! ついに気でも違ったか! もはや哀れみすら抱くよ! シノ・フェイロン! 」

「ほざけ。さっさと掛かって来い。それとも怖気づいたのか? 」

 

 

呼吸を整え、シノは真っ直ぐに相手であるリーを見据えた。

その睨みを返す様にリーはシノ目掛けて驚異的なスピードで斬りかかる。

シノは相変わらず向かってくる彼を睨むままだ。

そして、二人の距離が互いの得物に届く距離になった瞬間。

 

 

「禊葉一刀流秘技、散華」

 

 

二人はすれ違う。

シノが肩口や腹から血を流しつつも、なんとか刀を鞘に仕舞った。

直後、背後からリーの絶叫が聞こえる。

彼は綺麗に中華剣を持っていた腕を斬り落とされ、左目にも切り傷から血が流れていた。

"肉を切らせて骨を切る"、とはこの事だろう。

 

 

「がぁあぁあぁああっ!!? う、腕が……!? ああぁぁッ!! 」

「技術は一流でも、心構えが三流のようだな」

 

「だ……黙れッ! 貴様なんぞに……家族さえ守れん貴様なぞに……ッ!! 」

「答えろ。なぜお前は俺の過去を知っている? 」

 

 

身体を地に伏して悶えるリーにシノは傷口を手で抑えながら近づく。

彼は未だに威勢よく毒づくが、今にも気絶しそうだ。

 

 

「誰が話すか……! 」

「そうか、なら」

 

 

シノはリーの傷口を抉るように右腕の付け根に刀の柄を押さえつけた。

彼は悶絶し、冷や汗に顔を滲ませる。

それでもシノは顔色一つ変えず、再びリーの顔を覗き込んだ。

 

 

「話せ。話したのなら命だけは助けてやる。言え」

「ぐっ……。お、俺はあの時……貴様の家族を襲った連中の一員だった。まだまだ若く下っ端だったがな……。正体は雇われの暗殺集団だ……」

 

「その連中の名前は? 組織のトップは誰だ? 」

「今は名前を変えている……。お、俺も知らん……。だが昔の名前は"ブラックフラッグ"という名前だった……」

 

「……"ブラックフラッグ"、だな。分かった」

「ま、待て! どこに行く! 助けてくれるんじゃないのか!? 」

 

 

話を聞くと、シノはそのまま廊下を駆けあがったソフィアたちの元へと向かおうとする。

だが残っている方の腕で彼の足首を掴み、リーはシノを引き止めた。

ため息を吐きながら、シノは切断された腕の部分の袖を強く結び、目の部分に布を当てる。

応急処置をリーに施したのだ。

 

 

「これでしばらくは持つ。生きるか死ぬかは後はお前次第だ」

「き、貴様……! 」

「弱者は黙っていろ」

 

 

まだ反抗する意思が見えたので、シノは当身を食らわせて彼を気絶させる。

しかし彼自身も相当な量の出血をしており、思わず膝を着いてしまう。

 

 

「……二人が待っている。急がねば」

 

 

言い聞かせるように、シノは足を引きずりつつもソフィア達の所へ向かった。

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<"青龍会"のアジト、一階・バー>

 

 

「おいおいおい! すげえ数出てきたな! 」

「肯定。二人だけでこの数を倒せる? 」

「へっ、当たり前だろ! 」

 

 

銃声が響くバーに、グレイが単身で駆け抜ける。

目指すは倒されたテーブル。

まずは階段から降りてきたマフィアの一員を"M586"で一掃すると、目的地のテーブルへ辿り着いた。

しかしこのテーブルは木製だ、いずれ穴が空いてしまう。

 

 

「ヘルガッ! 」

「了解」

 

 

直後バーカウンターから"ワルサーP99"を手にしたヘルガが4発、9mmの弾丸を放った。

一言名前を呼んだだけで攻撃に転じるとはさすがの手腕である。

その隙にグレイは先ほど奪った銀色の"コルト・ダブルイーグル"を左手に握り、ソファ席の方に隠れていたマフィアの男たちに向けて銃弾を撃った。

 

ガバメントの弾倉が空になるとそれを投げ捨て、右手に握られていた"M586"の残りの3発を全て撃ち切ると、彼はマフィアの死体の手に握られた"デザートイーグル"の元へ滑り込む。

 

 

「SMGを持ってる奴がいる! 気を付けろ! 」

「視認。グレイ、援護を」

「任せとけ! 」

 

 

ぱららら、と軽快な銃声が辺りに響き、二人は身を屈めた。

木片が飛び散り、息を吸ってからデザートイーグルを構える。

轟音が鳴り響くとグレイは反動で、銃弾を外してしまった。

舌打ちして投げ捨てると、スピードローダーでM586のシリンダーに弾を込めた。

 

どうにかして弾数の多い武器を獲得しなければ、確実に押し負ける。

そう思った矢先、一瞬だけSMGの銃声が鳴り止んだ瞬間が生まれた。

 

 

「やっぱこいつじゃねぇとなぁッ! 」

「グレイ。SMGの奴をやった」

 

「ナイス! 残弾は? 」

「あと3つマガジンがある」

 

「な、なんだこいつら!? この人数差で……!? 」

「くそ! ウェイがやられた! 」

 

 

向かい側の裏口から男たちの会話が聞こえる。

あともう少しで全滅されられるようだ。

ニヤリとグレイは口元を吊り上げると、身を屈めてソファ席へと向かう。

M586の銃口から火が噴く度、マフィアの男たちは次々に地に伏していく。

 

シリンダーに残っている弾は残り2発。

予備の弾は後36発。

 

 

(まずいな……。ヘルガが今やってくれてはいるが増援を呼ばれでもしたら一気に劣勢になる。さっきの奴が持ってたSMGを取るしかねぇが……)

 

 

無事ソファ席にたどり着くと落ちている"グロック17"を拾いつつ、敵から見えないように見える限りの周辺を確認した。

グロック内のマガジンを確かめると、残弾数はおよそ12発。

サブマシンガンを取れる距離までむかう分としては申し分ない。

 

 

「グレイ! 今! 」

「……オーライ! 」

 

 

なぎ倒されたテーブルからヘルガの一喝が聞こえ、彼はサブマシンガンの落ちている場所へスライディングしながらグロックを撃つ。

奇跡的にどこも銃弾はグレイの身体を命中してはおらず、彼はこの時だけ神に感謝した。

グロック17のマガジンも撃ち切り、マフィアの男達に向かって投げつけると右手に握られたM586を無我夢中で2連射する。

 

サブマシンガン"MAC11"を左手に構えて立ち上がると、そこには多くの風穴が空き、床にはマフィアの男たちの屍が転がっていた。

 

 

「あらま、もう終わりかよ」

「あなたが向かう時にだいぶ減っていた。私が片付けたのもある」

 

「そりゃどーも。きっちり後でプラスしとくからよ」

「助かる。最近出費が激しい」

 

 

先に向かったシノたちを追うように二人は階段を駆け上がる。

もう、ロジャーは目と鼻の先だ。






シノ回でした。
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