なんでも屋アールグレイ-The Shadow Bullet-   作:「旗戦士」

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シノの刀編と乗じてグレイも里帰り。


order25.ただ、ひたすらに

<翌日、なんでも屋アールグレイ事務所>

 

 

 

 グレイはアラームが鳴り続けている時計のスイッチを切り、ベッドから立ち上がる。

ソフィアが気絶した後わざわざハーヴェイが彼女を家まで送ったと彼は聞いていた。

 

「……ん」

 

テーブルの上に置いてあるスマホの画面に、一件着信が入っている。

シノからであった。

グレイは画面をタッチし、シノに電話を掛け直す。

 

 

「もしもし、シノか? 俺に電話した? 」

『あぁ。今話しても大丈夫か? 話がある』

 

「別に大丈夫だぜ、事務所は休みにしてるし。どうした? 」

『……そのだな。もし、俺がなんでも屋を辞めるといったらどうする? 』

 

グレイは内心驚いた。

 

「……おいおい、何かの冗談か? 」

『そんな訳あるか。俺は今、非常に迷っているんだ。このまま人を斬り続けていいのか、それとも新しい道に進むべきなのか』

 

「じゃあはっきり言うぞ。お前はうちで最も戦闘力が高い人間だ。その人間を、簡単に手放すわけにはいかない。シノにはいてくれなきゃ困るんだ」

『……そうか。分かった』

 

「まあ、よく考えて決めろ。本当に辞めるのなら、誰も止めはしねぇさ」

『あぁ、ありがとう。また電話する』

 

「おう、じゃあな」

 

 

そう言いグレイは電話を切る。

彼は頭を掻きむしり、彼はコップと牛乳を取り出した。

 

「あいつにも思うとこはあるよな……。どうしたもんかねぇ」

 

そう言いながら牛乳を一気に飲み干す。

 

「……とりあえず、ヘルガに相談してみっか」

 

おもむろにスマホを再び取り出し、ヘルガの連絡先をタッチして電話を掛けた。

 

「もしもし、今大丈夫か? 」

『あなたが電話なんて珍しい。何か事件? 』

 

「いや、事件っちゃあ事件なんだが……。シノが俺の事務所を辞めるべきか迷ってるらしい」

『……そんな。シノは一言もそんなこと』

 

「あぁ。俺も今聞いた。俺はシノを辞めさせたくはないが、何分こういった事は苦手でねぇ。ヘルガ、悪いがあいつの相談に乗ってはくれねぇか? 」

『分かった。私に任せて』

 

「恩に着るよ。今度酒でも奢る」

『楽しみにしてる』

 

そういうと電話は切れ、グレイはポケットにスマホを仕舞う。

おもむろにテレビを点けると、ニュースが放映されていた。

 

『もうすぐクリスマスの季節がやって来ました。それに備えてシカゴ市内のショッピングモールやお店では、膨大な量のおもちゃやゲームを入荷しています』

 

「そういや、そろそろクリスマスか。ばあさんたち、元気にしてるかねぇ」

 

彼の脳裏に浮かんだのはグレイを育ててくれたシスター達の姿。

ソフィアやヘルガ、シエラもクリスマスは家族と過ごすと言っていた。

 

「……行くか。確かここからそうは遠くなかったはず……」

 

スマホで"聖マリア孤児院"と検索し、住所を表示する。

所在はミズーリ州のセントルイスと表記されていた。

 

グレイはそのままその孤児院に電話をかける。

数コールの後、お淑やかな老婆の声が応えた。

 

「はい。聖マリア孤児院です。何か御用ですか? 」

「そちらの孤児院でお世話になった、グレイ・バレットです。近々そちらへお伺いしようと思ってお電話させて頂きました」

 

「……グレイ君!? グレイ君なの!? 私よ、クレリアよ! 覚えてる? 」

「もちろんですよ、クレリアさん。お久しぶりです」

 

自然とグレイの顔が綻ぶ。

 

「それで、いつごろ戻ってくるの? 」

「そうですね、クリスマスにはそっちにいたいですから、イブに訪ねると思います」

 

「わかったわ。あなたに会えるのを心待ちにしてるわね」

「えぇ、こちらこそ」

 

今日は12月23日。

彼は電話を切り、張り切りつつキャリーバッグに荷物を詰み込め始めた。

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<荻野家・道場>

 

 

 同刻。

シノは道着に着替え、征四郎と共に稽古に励んでいる。

しかし彼は未だに禊葉一刀流の奥義の糸口を見出せず、その苛立ちを振り払うかのように一心不乱に木刀を振り続けていた。

 

 

「紫乃。そんな調子ではお前に奥義を伝授することは出来んな」

「……はい。百も承知です」

 

「今、お前の中には雑念が幾つもある。それを取り払って初めて、奥義習得の第一歩を踏み出す事が出来るのだ。今日の稽古はここまで。飯にしよう」

「ありがとうございました」

 

シノはため息を吐く。

 

「雑念……か」

 

彼は今、なんでも屋の事と自分自身の身の振り方について頭が一杯であった。

征四郎の呼ぶ声がすると、彼は急いで道場を出る。

 

(……わからない。俺にはどうしていいのか、わからない)

 

緋紗子やグレイ、秀人やヘルガの台詞が頭を渦巻く。

道着を着替えて汗をシャワーで流した後、彼は寝間着に着替えてリビングへと向かった。

 

「秀人、刀の方は上手く進んでるのか? 」

「もちろんだぜ親父。今は鞘と柄が出来上がってる。後は鍔だけだな」

 

「そうか、そいつはよかった」

「ありがとう、秀人」

 

「いいんだよ、気にすんなって」

 

ごちそうさまでした、と一言付け加えて彼は席を立つ。

食器を片付けるとシノは一人部屋へ向かい、ベッドに寝転んだ。

 

「どうしたらいいんだ……父さん……母さん」

 

静かな嗚咽が部屋を占める。

その時、ポケットに仕舞ってあった携帯が鳴り始めた。

 

「もしもし? 」

『あ、シノ。私、ヘルガ。今電話しても大丈夫? 』

 

「あぁ、大丈夫だ。今部屋に一人だからな」

『安心。シノ、事務所を辞めようとしてるって本当? 』

 

「お前……どこでそれを」

 

シノの脳裏にグレイの顔が浮かぶ。

 

『……誰からも聞いていない。ちょっと耳に挟んだだけ』

「そうか、まあいい。辞める辞めないの話は別として、悩んでいるのは本当だ」

 

『どうして? 』

「こっちの知り合いに言われてな。"復讐は虚しさしか生まない"、と。それに、本当にこの禊葉一刀流を使って人を殺めていることは正しい事か分からなくなったんだ」

 

『正しくはない。だけど、正しい事が正義とは限らない』

 

ヘルガは続ける。

 

『私はたくさんそういう現場を軍で見てきた。正しい事が人を救うことだってあれば、人を殺すこともある。シノが迷うのは当然』

「ヘルガ、お前……」

 

『だから、シノはもっと私たちに頼っていい。迷いながら、ぶつかっていきながら、支えてもらいながら進む。シノ、もう一人で悩まないでいい。私たちが、私がいる』

「…………ヘルガ、言うようになったな」

 

涙を堪えて、シノは応えた。

 

「そうだな。ならば俺はお前に誓おう。俺はお前達を、お前を守るために剣を振るう」

『……シノ、それって』

 

「何度も言わせるな。じゃあな、ヘルガ」

『あっ、ちょっと待ってシノ!? 』

 

彼は笑いながら電話を切る。

しばらく携帯を見つめると、思い出したかのようにグレイにメールを送信する。

 

「貴方の言いたいことが、やっと分かったような気がします。師匠」

 

そう呟くと、睡魔が彼を襲った。

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<翌日・道場>

 

 

 あれからシノは爽やかな気分で朝を迎え、早朝から道場で稽古に励んでいる。

今日は征四郎も剣道の師範の仕事が休みで、こうして彼の稽古に付き合っていた。

 

「……ほう、いい太刀筋だ。昨日とはえらい違いだな」

「ありがとうございます」

 

「何かあったのか? 」

「いえ。ただ、覚悟は決まりました」

 

「そうか……。もう、お前に教えてもいい時期かもしれん」

「本当ですか!? 」

 

征志郎は頷く。

 

「本来ならばもっと年月を重ねてからだが、よく考えてみればお前はもう10年以上もこの流派を学んでいたな。それも通常の練習量ではなく、2倍、いや3倍以上もの努力をしていた。紫乃、これから奥義習得の鍛錬に移る。まずは俺が手本を見せよう。紫乃。木刀を構えて俺の前に立ち、その後斬りかかってこい」

 

言われるがままシノは征志郎の前に立つ。

 

征志郎は木刀を手に抜刀の構えをとった。

彼は目を閉じ、息を吐く。

 

「……禊葉一刀流奥義……」

「せあァッ!! 」

 

「"明鏡止水"」

 

シノが先に斬りかかったのにも関わらず、征志郎の攻撃の方が早く、シノの木刀は弾かれる。

否、木刀は折れていた。

 

「……今のは? 」

「神経を研ぎ澄まし、どんな些細な動きでも必ず捉え一瞬のうちに叩き斬る。これぞ禊葉一刀流奥義、"明鏡止水"だ」

 

「今のが、奥義……。早すぎて何が起こったのか分かりませんでした」

「だろうな。極限まで力を抜き、相手が動いた瞬間に反応して一気に抜刀する。膨大な集中力と気配を察知する能力……これが無ければ奥義を習得することは不可能だ」

 

周囲を見渡すと所々道場の壁に新しい大きな傷が出来ているのが見える。

シノの道着は切れ、彼の腕からも僅かな血が出ていた。

 

「だが習得すれば、かまいたちを起こす事も可能だ。この鍛錬は辛く厳しいものとなる。それでもやるか? 紫乃」

「もちろんです。ご指導のもとよろしくお願いします」

 

「よく言った! それでこそ俺の弟子だ! さっそく鍛錬開始だ、裏山へ行くぞ」

「裏山へ……? 何故ですか? 」

 

「一番そこが適してるのさ。あぁ、あと刀も持ってこい」

「わ、わかりました」

 

言われるがままシノは道場を出て、家の和室から刀を二振り持って来る。

二人は新しい道着に着替えると、裏山へ向かった。

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<裏山>

 

 

 「さあ、着いたぞ。ここが稽古場所だ」

「これはまた……。大きなログハウスですね。この為に建てたんですか? 」

 

「あぁ。やっぱり師匠はこういう風に隠居してねぇとな」

「どこが隠居なんですか……」

 

「はっはっは、気にすんな。そんじゃ、さっそく刀を持て」

 

言われるがままシノは刀を握る。

木刀とは違う重みが手にのしかかった。

 

「まずはこの葉っぱを一枚、宙に投げて真っ二つにしてみろ」

「はい」

 

征志郎は葉っぱを一枚木から抜き取り、そのまま上空へと投げる。

シノの視線が葉っぱに集中し、刀の当たる範囲に入った瞬間。

 

「ふッ」

 

一呼吸のうちに抜刀と納刀をやってみせ、静かに葉っぱは真っ二つに散っていった。

感嘆の声を征志郎は上げ、シノは息を吐く。

 

「さすがだな。これくらいは容易か」

「いえ、俺もまだまだです」

 

「謙遜するところがお前らしい。ならば、次は葉っぱの枚数を増やしてみるぞ」

「はい」

 

すると征志郎は先ほどの木から五枚ほど葉っぱを毟り、シノの前に並べる。

抜刀の体制に入ると同時に征志郎は葉っぱを投げた。

 

「……! 」

 

五枚の葉っぱは不規則に落ちていく。

視野を広くして集中を促すが、シノの視線が泳いでしまった。

 

「せッ」

 

急いで抜刀するものの、斬る事が出来たのは僅か2枚。

他の葉っぱは状態を保ったまま地面に落ちている。

 

「難しいだろう? だが、奥義習得にはこの葉っぱの枚数を10枚に増やす。この為には葉っぱ全部を捉えきれる視野と一枚に固執しない事が重要だ」

 

 

彼の言葉にシノは唸った。

 

 

「これができなければ、奥義を習得することはできない。俺も苦労したぞ? 親父が厳しくてな」

「先代の継承者もこの稽古を? 」

「あぁ。俺は秀人の様子を見てくるから、お前はさっそく始めるといい」

 

 

そう残しつつ征志郎はその場を後にする。

一度汗を拭ってからシノは二枚宙に投げ、稽古を再開した。






こういう稽古のシーンや方法を生み出すのってとても難しいです。
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