なんでも屋アールグレイ-The Shadow Bullet-   作:「旗戦士」

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あともう一、二話で刀編も終了です。


order26.世代交代

<セントルイス市内、聖マリア孤児院>

 

 

 

 翌日。

荷物をまとめたグレイは車で2時間強のドライブを経て、生まれ育った自分の孤児院へと足早に歩く。

柄にもなく鼻歌を混じらせ、彼は門の前に辿り着いた。

 

「ごめんくださーい」

 

大きな教会の隣に備え付けられた一軒家が聖マリア孤児院である。

教会のすぐ裏には墓地があり、孤児院の子供たちには見えない様になっていた。

 

「お兄ちゃん、だれ? 」

「ん? あぁ、俺はアールグレイ・ハウンド。グレイって呼んでくれ。君は? 」

 

「ぼくはネロ・アンダーソン。お兄ちゃん、ここに何か用なの? 」

「おう。ネロに頼みたい事があるんだ。神父さんとシスターさんを呼んできてくれるかい? 」

 

「わかった! 」

 

門の向こう側にいたネロは一軒家の方へと走っていく。

数分後、見覚えのある顔がドアから出てきた。

 

「グレイ君! グレイ君じゃないか! 」

「お久しぶりです。ファビアン神父、シスタークレリア」

 

「元気にしてたかい? 」

「ええ、この通り五体満足です」

 

神父服に身を包んだ初老の男性と女性が彼に歩み寄り、互いに抱き合う。

側にいたネロが困惑した顔を見せるが、クレリアによって抱き上げられた。

 

「グレイ、神父さんとお友達なの? 」

「うーん、まあそうだな。俺も昔、ここで育ったんだ」

 

「ほんと!? じゃあグレイはぼく達と家族なんだね! 」

「あぁ。さしずめ弟ってところだな」

 

グレイはネロの銀髪の頭を撫でてやる。

 

「今日は泊まっていったらどう? せっかくのクリスマス・イブなんだし」

「お言葉に甘えて。久しぶりにシスターの料理が食いたくなっちゃってねぇ」

 

「あらあら。じゃあ腕によりをかけて作るわね。ネロ、今日はごちそうよ」

「わぁい! 早く戻ろうよ! みんなにもグレイを紹介してあげなきゃ! 」

 

クレリアから降りてネロはグレイの腕を引っ張る。

急に手を引かれたので体制を崩すグレイだが、すぐに立て直してネロと歩調を合わせながら一軒家へと戻って行った。

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<聖マリア孤児院・居住区>

 

 

 扉を開けると家の中は数々のイルミネーションで飾り付けられており、リビングでは2,3人の男の子と女の子が一緒に遊んでいる。

ネロはその間に入っていくと、彼らを引き連れてグレイの元へやって来た。

 

「グレイ! 一緒に遊ぼうよ! 」

「おう、ちょっと待っててな。荷物置いて来るから」

 

「大人のオトコって感じね! あの人どうしてここに来たの? 」

「グレイもここで育ったんだって! 」

 

子供たちの賑やかな声を後にし、グレイは二階の空き部屋に荷物を置く。

そんな中、ドアの開く音がすると彼は背後を振り向いた。

 

「……どうも。グレイさん」

「お前、ヨシュアか? 」

 

彼は頷くと、気恥ずかしそうにそっぽを向く。

グレイは幼い頃のヨシュアを思い出し、彼の頭を抱え込んだ。

 

「ヨシュアじゃねーか! この、大きくなりやがって! 」

「ち、ちょっ!? 止めてくださいよ! 」

「うるせぇ! 大人ぶって敬語なんて使っちまってよぉ! このこのこの~! 」

 

ヨシュアとじゃれ合った後、グレイは彼を向き合う。

 

「それにしても、でかくなったな。ヨシュア」

「……うん。グレイがここを出て軍の士官学校に行ってから、もう10年は経ってるし」

 

「そうか……もうそんなになるのか……。お前は幾つになった? 」

「17歳。バイトしてお金を貯めながら、僕も軍に行くつもり」

 

「……何? 」

 

グレイは彼へと視線を向けた。

一見細いその身体には、しっかりとした筋肉がついている。

中性的な顔立ちには、確かにその覚悟が露わになっていた。

 

「シスターや神父はいいって言ってるのか? 」

「もちろん。二人には話は通してあるよ」

 

「……どうして軍に? 」

「僕はこの人たちを守れるようになりたいから。僕はまだ弱い」

 

グレイは内心頭を抱える。

 

「ヨシュア。悪いことは言わない。止せ」

「……どうして? 」

 

「どうしてもだ。お前に傷付いて欲しくない」

「僕は強くなった。もう守られるだけの僕じゃない」

 

ヨシュアはグレイの顔を見据えた。

 

「そうか。なら俺に組手で勝ったなら認めてやる。表に出よう」

「……分かった」

 

数分の沈黙が辺りを支配した後、グレイは彼の肩を叩く。

そのままヨシュアを引き連れ、大きな庭へと出た。

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<聖マリア孤児院居住区・庭>

 

 

 ファビアン神父たちにヨシュアと外へ組み手をする事を告げてから、二人は庭で動きやすい服に着替える。

不安そうにネロが二人を見つめるが、クレリアが肩を優しく叩くと安心したように笑った。

 

「今まで何か習ってたのか? 」

「拳法やってた」

「へぇ、まあいい。とりあえず見せてみろ」

 

グレイが左足を前に出し、左腕を前に、右腕を顔のすぐ近くに構える。

"アメリカ陸軍式格闘術"、多くの武道を混ぜ合わせた独自のスタイルだ。

 

対して、ヨシュアは右腕の関節の上に左腕を置いた。

二人は睨み合う。

 

「ふッ」

 

先に仕掛けたのはグレイ。

素早い拳を受け流し、ヨシュアは反撃に転じる。

 

「はァッ」

 

そのカウンターをしゃがんで躱し、足払いを仕掛けた。

ヨシュアの体制が崩れ、彼の腹に一撃をお見舞いする。

 

彼の肺から空気が漏れ、ヨシュアは後ずさりした。

しかし倒れることなく、再びグレイに攻撃を仕掛ける。

 

「まだまだ詰めが甘いな」

「っゥッ!? 」

 

繰り出された掌底の腕を受け流し、そのまま腕を掴んでからヨシュアの懐へと入った。

 

「グレイこそ……! 」

「おおっとぉ」

 

肘鉄を食らわそうとするも間一髪でヨシュアはそれを防ぎ、お互いに距離を取る。

 

「しッ」

「せイッ」

 

何合も拳を合わせ、何回もフェイクを挟んだ。

瞬間、ヨシュアは身を屈めてから足払いをグレイに仕掛ける。

 

「動作が遅い」

 

しかし。

グレイには通用せず、流れるような手つきで彼を地面に叩きつけ、背後へ回りヘッドロックを掛ける。

 

「……ッ!! ゲホッ!! ゴホッ!! 」

 

グレイは腕を離すと、ヨシュアは地面に膝を着いてせき込んだ。

 

「俺の勝ちだ。今のが軍の任務ならお前は死んでいただろうな」

「相変わらず……僕の先を行くんだね……グレイは……」

 

「当たり前だ。お前とは経験の差が違う。ほら、立てるか? 」

「う、うん……ありがとう……」

 

倒れたヨシュアを起こしてやると、グレイは彼と肩を組む。

彼の成長に内心笑いながら、神父たちの元へと戻って行った。

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<同刻、荻野家周辺・裏山>

 

 

 「……禊葉一刀流奥義、"明鏡止水"」

 

剣閃と共に、5枚の葉が真っ二つに分かれて地面に落ちる。

だが奥義習得の目標である「10枚」には程遠く、残った5枚はそのままの状態で地に伏した。

 

「はぁ……はぁ……」

 

シノは肩で息をし、刀をぶっきらぼうに地面に置く。

征志郎から稽古の内容を言い渡されてから、彼はひたすらに葉っぱを斬る練習をしていた。

 

「もう滞在日数は1週間を切った。もっと……もっと練習を……」

 

彼は立ち上がり、10枚の葉っぱを高く投げる。

即座に抜刀の構えをとり、刀を抜き払った。

 

「でぇやァッ!! 」

 

気迫の声と共に横一文字に切り払う。

同じように葉っぱは五枚しか斬れず、シノはため息を吐いて地面にへたり込んだ。

 

「……ダメ……か……」

 

項垂れるようにシノは仰向けに寝転ぶ。

刀を横に置き、水を浴びるように飲んだ。

 

「ぷぅ……はぁっ」

「よう、紫乃。修行の方はどうだ? 」

「師匠……」

 

その瞬間、征志郎がニヤニヤしながら倒れている彼の元へやって来る。

 

「その様子じゃあ、ずいぶん手間取ってるみたいだな。帰国までに間に合うかねぇ~? 」

「……冷やかしなら甘んじて受けます。すいません、師匠」

 

「あー、違う違う。そういうんじゃねえんだ。お前、もう何枚切れるようになった? 」

「5枚、ですが……」

 

「お、そうか。なら上出来だ。もう奥義習得も近いぞ」

 

シノは呆気に取られる。

 

「……で、ですが師匠は奥義習得に10枚を斬れるようにならないといけない、とおっしゃったはずですが……? 」

「んなもん嘘に決まってんだろ。目標の倍以上修行しないと習得なんて無理なんだよ」

 

「あ、あなたという人は……ッ! 」

「へっへっへっ、美人な彼女連れてるお返しだ」

 

舌を出しておどける征志郎を横目に、シノは怒りを堪えた。

 

「つーわけで、最終試験だ。奥義を俺に放て。見てやるよ」

「……! 」

 

征志郎は持ってきた刀を抜き払い、腰の位置で刀の切っ先を向ける。

威圧感と殺気がシノの全身を突き刺し、思わず息を呑んだ。

 

 

「来い」

 

 

その問いに応えるようにシノは地面に置いてあった刀を腰に差し、抜刀の構えをとる。

彼は息を吐き、目を閉じた。

 

風こそ吹いているものの、シノの耳には何も入らない。

水のせせらぎでさえも聞こえておらず、その場で彼は微動だにしなかった。

 

自分の中で、雫が落ちる音が聞こえる。

 

 

「禊葉一刀流奥義――――"明鏡止水"」

 

 

勝負は、一瞬だった。

 

「…………見事だ、紫乃」

 

パキン、と何かが折れる音が二回聞こえ、征志郎の手から刀が落ち、彼自身もその場で座り込む。

自分の手元を見るとシノの持っていた刀も折れており、綺麗に真っ二つになっていた。

 

「師匠! 大丈夫ですか! 」

「あぁ。俺がこの程度で死ぬわけねーだろ? 」

 

「ですが、血が……!! 」

「かすり傷だ。お前の斬撃がかまいたちを生み出し、こうして色んなとこが切れてるだけさ」

 

身体の所どころから血が噴き出している征志郎に肩を貸し、彼を起き上がらせる。

 

 

「お前……強くなったな」

「師匠ほどには及びません。さ、家に帰りましょう」

 

 

征志郎はフッ、と鼻で笑ってそのまま歩き始めた。





もう少し修行シーンを詰め込みたかったです。
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