なんでも屋アールグレイ-The Shadow Bullet-   作:「旗戦士」

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遅ればせながらあけましておめでとうございます。
今年もなんでも屋をよろしくお願いします。

今回でシノの刀編終了です。


order27.別れと出会い

<聖マリア孤児院・リビング>

 

 

 全員で夕食を食べ、子供たちを寝かしつけた後にグレイは一人でテレビを見ていた。

ワインのボトルを傾け、グラスに赤い色の液体を注ぐ。

 

「せっかく来てくれたのに、子供たちの世話を任せてすまないね」

「いいんだよ。俺も久しぶりに神父さんたちに会いたかったし」

「そうか。ふふ、君が小さかった頃がまるで昨日のように思えるよ」

 

ファビアンは懐かしむように視線を上に向けた。

彼の様子を見てグレイは微笑みながらワイングラスを傾ける。

 

「……なぁ、ファビアン。ヨシュアが軍に行きたがってる話、聞いたか? 」

「あぁ。まるで昔の君を見ているみたいだよ。君は、その事に関してどう思っているんだい? 」

 

「正直な話、あいつが耐えられるかどうか心配だ。確かにヨシュアは拳法を習って強くなったみたいだけど、それだけじゃ軍では通用しない。せいぜい格闘訓練の時に役に立つくらいだ」

 

「そうか。君は君なりに、ヨシュアの事を考えているんだね」

 

ファビアン神父はグレイと向かい合う。

 

「けどね、私は彼が望むことをやらせてあげたい。本来ならこれはヨシュアの親の仕事なんだろうけど、彼の両親はもういない」

「……分かってるよ、まあ俺の意見も参考にしておいてくれ。あいつがやりたいと思う事が一番いい選択だからな」

 

グレイはワイングラスを傾け、中の液体を流し込んだ。

彼の脳裏に、自身の過去がフラッシュバックする。

 

(俺のような思いは、あいつにさせたくはない)

 

少しだけ表情に影ができたのを察知されたのか、ファビアン神父がグレイの顔を覗き込んで来た。

 

「……グレイ? 」

「あ、あぁ。大丈夫だ」

 

「まあ、心配しないでくれ。ヨシュアの事は私に任せて、君は君の仕事に集中するといい」

「俺の仕事、ね……。そうするよ。それと、これを受け取ってくれ」

 

グレイは懐から封筒を取り出し、テーブルの上に置く。

それを手に取ると、ファビアン神父は驚いた表情を見せた。

 

「これは……!? こんな大金、受け取れないよ! 」

 

その声と聞くと同時に、グレイは立ち上がる。

既に荷物を纏めていたのか、ソファの近くにあったボストンバッグを持ちあげた。

 

「サンタクロースからのクリスマスプレゼントだと思ってくれ。久しぶりのご飯、美味しかった。また寄るよ。じゃあな」

 

有無を言わせずにグレイはその場を立ち去る。

玄関を出ると、辺りは雪で一面が覆われていた。

 

「……じゃあな、みんな」

 

そうポツリと呟くと、グレイは煙草に火を点ける。

一つの足跡だけが、雪景色に刻まれていった。

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<荻野家・シノ視点>

 

 

 

 上体をむくりと起こし、シノは布団から出ると早速リビングへと向かう。

今日はアメリカへ帰国する当日であった。

 

「緋紗子さん、おはようございます」

「あら、おはよう紫乃。いよいよ今日ね」

 

「はい。……緋紗子さんの手料理が食べれないとなると、悲しいです」

「うふふ、嬉しい事言ってくれるのね。じゃあ、今日の朝ごはんは豪勢にしなきゃね」

 

「ふふっ、楽しみにしています」

 

修行を終えて奥義を習得してから、約3日の月日が流れている。

昨夜は全員で酒を飲んでいたせいか、秀人と征志郎はまだ酔いつぶれて寝ている様だ。

 

「お待ちどうさま。豪勢にするって言ったけど、いつもと変わらなかったわ」

「いや、有難いです。変わらない味というのは、帰ってきた者にとって嬉しい限りですから」

 

「そう言ってくれるとこっちも作り甲斐があるわ。どんどん食べてね」

「はい、いただきます」

 

シノは焼き魚を箸でつまんでご飯と一緒に頬張る。

ほど良い塩味と魚特有の味が口の中に広がり、一口一口を噛みしめた。

 

「あ~……頭痛い……。飲み過ぎた……」

「親父が一升瓶ラッパ飲みとかするからだろ……。俺も巻き込みやがって……」

 

「おはようございます、師匠、秀人」

 

「おう、おはよう紫乃」

「おはよう、お前はずいぶん元気そうだな」

 

しばらくて寝癖でボサボサになった頭を掻きながら征志郎と秀人がそれぞれの寝室から出てくる。

二人の仕草はどことなく似ている気がして、思わずシノは笑った。

 

「ほーら二人とも。早く朝ごはん食べてよね、片付かないんだから」

「はーい」

 

秀人と征志郎が椅子に座り、一斉に白飯やら味噌汁やらを口に含み始める。

その様子を見て緋紗子も朝ごはんを食べ始めた。

 

「はぁーぁ。こうして紫乃と一緒に飯を食うのも最後かー」

「そう言うな、秀人。人間、いつか別れの時は来るものだ」

 

「じじくさい事言っちゃって。もうすぐ出るんだろ? 早く飯食って準備しとけよ」

「もう既に出来ている。最後までゆっくりさせてもらうさ」

 

「そうかい。ま、後で渡すものがあるから期待しときな」

 

そう言うと秀人は朝食を食べ終え、リビングを出て行く。

シノも食器を片付けると、リビングのソファに座ってお茶を飲み始めた。

 

「紫乃。ほらよ」

「ん? 」

 

秀人の呼び声に振り向くと、そこには白塗りの鞘に納まった刀が視界に入る。

薄紫色の糸に巻かれた柄を握り、シノは恐る恐る刀を鞘から抜いた。

 

「これが……"日秀天桜"……。素晴らしい業物だ、感謝する」

「腕によりをかけて打った一品だからな。俺からのクリスマスプレゼントだ、代金はいらねぇ」

 

「何? だが、お前は確かに代金を請求すると……」

「家族に金を要求するほど、俺はバカじゃねえよ。ありがたく受け取っとけ」

 

「秀人……。すまん。恩に着る」

 

刀身に日差しが反射して煌めく光景をじっくりと見据えた後、彼は刀を再び鞘に納める。

銀の太刀鍔には様々な花の模様が刻まれており、荘厳さを感じさせた。

 

シノは"日秀天桜"を丁寧に刀袋に仕舞い、荷物の上に置く。

既に時間は午前7時。

 

出発の時間は10時過ぎなので、そろそろ家を出なければいけない時間だ。

 

「そろそろか。お袋、俺送ってくるよ」

「えぇ。お願い、秀人」

 

「紫乃。すまんな、俺達は今日はどうしても外せない仕事でお前の見送りに行けんのだ。許してくれ」

「いいんですよ。お気持ちだけで十分です」

 

秀人は既に着替えており、先に家を出ている。

征志郎も寝間着のままではあるが、彼らを見送ろうと玄関に立っていた。

 

「では、師匠。緋紗子さん――――いや、父さん、母さん。数週間でしたが、お世話になりました」

「おう。またいつでも来いよ」

「私たちはいつでも待ってるからね」

 

そう言うと征志郎は笑顔でシノと握手を交わし、緋紗子はシノを抱きしめる。

 

「では。行ってきます」

「おう」

「いってらっしゃい、紫乃」

 

二人に別れを告げ、シノは荻野家を出る。

 

「……寂しいんでしょ? 」

「男の別れに、涙は要らんよ」

 

「嘘おっしゃい。涙でパジャマずぶ濡れじゃないの」

「そういうお前こそ」

 

征志郎と緋紗子は、互いに笑い合った。

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<シカゴ郊外、某所>

 

 

 グレイとシノがそれぞれの帰路に着く頃。

シカゴ郊外のある場所で、白いローブに身を包んだ男女グループがギャングの男を取り囲む。

 

「な、何なんだテメェら! いきなり現れて、次々仲間をぶっ殺しやがって! 俺達が誰だか分かってんのか!? 」

「さあ? ですが、貴方は迷える子羊の一匹だということは分かります」

 

「ふざけやがってぇぇぇぇぇ!! 」

「シン、後始末を」

 

「御意」

 

シンと呼ばれた男はギャングの男の首を手にした刀で撥ね、もう一太刀を追撃として浴びせた。

周囲の白ローブたちはその男の死体に祈りを捧げた後、次々に銃や剣で死体を攻撃する。

 

白ローブが血で赤く染まる頃には、すでに死体は肉片へと変貌していた。

リーダーと思われる人物がその肉片に近付き、ガソリンをばら撒くとライターをその場に落とす。

 

「素晴らしい、素晴らしい。きっと彼はこれで我らが唯一神パンテオンの元へ向かわれたでしょう」

「主。車を用意してあります。こちらへ」

 

燃え盛る倉庫を後に、彼らは用意された4WDの車へ乗り込んだ。

 

「次はどちらへ? 」

「いえ、今日の活動はここまでにしておきましょう。来るべき"戦"の為にね」

 

「そうですか……。ホテルへお送りしますよ」

「お願いします」

 

リーダー格の男は白いフードを取り、その姿を露わにする。

彼の名は"ミゲル・ハインツマン"。

 

宗教団体"パンテオン教"の司祭であり、今この街を襲おうとしている脅威であった。






新しい長編の布石でした。
近々「小説家になろう」さんで掲載されている他小説の方とコラボ予定なので、この長編を書くのは少し後になりそうです。
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