なんでも屋アールグレイ-The Shadow Bullet-   作:「旗戦士」

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初戦闘シーンです。


order3.化物のはらわた

<倉庫地区、取引現場>

 

 

そうして迎えた夜の9時。

この日の夜はより一層冷え、コートを羽織っていても寒さに身を震えさせる。

 

あれから昼食を食い終えたシノと合流し、グレイは麻薬取引の現場であるミシガン湖付近の錆ついた倉庫へと向かっていた。

 

スピードローダーは前持っていたのと新しくシエラから買ったのを含めて5つ、ナイフは予備用で2本、予備用の弾薬54発、そして愛銃の"M586"。

 

完璧だ。

死の芳香を届けるにはこれ以上のコンディションはない。

 

 

「アールグレイ・ハウンドとシノ・フェイロンだな? 」

「そうでーす、依頼を請けた"なんでも屋アールグレイ"でーす」

 

「身分を証明するものは? 」

「こんなんでどうでしょう? 」

 

 

二人が見せたのは愛銃の黒いリボルバーと鍔のない武骨な長刀を見せると、見張りのマフィアはたじろいだように彼らを中に入れる。

 

"死の芳香"と"白鞘"。

グレイとシノはそう呼ばれていた。

 

倉庫を見回すと一斉に黒いスーツを来た筋肉質な男たちが彼らの方に視線を向け、二人を一瞥すると止めていた作業を再開し始める。

 

おそらくここにいる彼らは全員マフィアグループの一員だろう。

目つきや雰囲気からして一般人とは違う。

 

 

「おー、怖え怖え。全くマフィアの方々は怖いねー」

「煽るな。とは言え気を張り過ぎではあるが」

 

 

皮肉めいたことを吐き捨てグレイとシノは階段を上がり、倉庫全体が見回せる位置へと座り込んだ。

ふとした拍子にマフィア達の方へ視線を見やると、別のギャンググループらしき人物がもう一方の入り口から入って来る。

 

どうやら取引が始まったようだ。

緊迫した空気が倉庫内に張り詰められていく。

 

 

「よぉ。現場の状況はどうだい? 」

「アンタは……あぁ、依頼を請けてくれたなんでも屋か。ま、見ての通り商談の開始さ。今の所はドンパチする気配はなさそうだが、もしそういう雰囲気になったら気を付けてくれよ。その為の見張りだからな」

 

「やはり争う可能性はあるんだな」

「そりゃあ、な。いくら同業者つったって競争相手なんだ、弱いものは消え、強いものだけが残る。そういう世界なんだよ」

 

 

そう言いつつ、同じ見張り番を任された男はタバコを吸う。

彼の言う通りかもしれない。

弱ければ死に、強ければ生きる。

妙に説得力のある言葉に、グレイは共感した。

 

 

「……アンタとは気が合いそうだ。名前を教えてくれるか? 」

「ゲイリー・ヒューズだ。ま、今後も仕事で会うようならよろしく頼むよ」

 

 

彼はタバコを咥えながら気さくに彼に手を差し出した。

マフィアにしては妙に性格のいい男だが、その胸の内が見えない。

油断ならない奴だ、とグレイは心の中で思いつつも彼の手を握り返した。

 

 

 

その時である。

 

 

 

大きな物音と共に幾多の銃声が倉庫内に響き、その場にいた三人は戦慄した。

即座に身を潜め、おそるおそる取引現場の様子を確認する。

 

どうやら取引相手の方が目的の品を持ってきていないようで、それに激怒したマフィアグループの一員が彼らに向けて発砲したようだ。

瞬く間に銃撃戦へ発展し、鉛の雨が飛び交っている。

 

 

「はぁーぁ……。やっぱりこうなるよな……。出来れば何も起こらず50万ドルゲットしたかった」

「そうは上手くいかんだろう。行くぞ、俺達も切り込む」

 

「頼むぞ、二人とも! 俺は幹部を脱出させる! 」

「任せとけ! お前さんも死ぬなよ、ゲイリー! 」

 

 

そう言い捨てるとグレイは階段を颯爽と駆け下り、まずは目の前にいるサブマシンガン"MP5"を持った3人組へとM586を向けた。

 

コートを羽織っているせいか布が擦れる音でその三人組に気付かれるが、MP5をこちらに向ける前に3発トリガーを引く。

 

グレイが着地する頃には額や胸に穴が空いている3人の死体が出来上がり、彼はニヤリと取引相手のギャンググループの方に不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「ッ!? "死の芳香"……!? ここにいるなんて聞いてねぇぞ!? 」

「はッ! 言うつもりもねぇよッ!! 」

 

 

迫り来る銃弾を避けるようにしゃがみつつ、シリンダーに残った3発を全て撃ち切り、再び3人の命を刈り取っていく。

急いでシリンダーをスイングアウトし、薬莢を地面に落とすと、ポケットからあらかじめ弾を込めておいたスピードローダーをシリンダーにセットした。

 

そんな隙を突こうともう一人のギャングが彼にハンドガン"コルト・ガバメント"を向け、今にも銃弾を放とうとしている。

避けることは可能だがこの体制のまま回避すると高確率で体制を崩してしまうだろう。

 

 

しかし、グレイは依然として不敵な笑みを崩さなかった。

 

 

ガバメントが銃声と共に弾を吐き出すが、その直前に長い絹のような銀髪が彼の目を覆う。

抜刀の音が聞こえた直後、ガバメント握る腕ごと叩き斬られ、返す刀で横一文字に斬り捨てられた。

 

シノの神速の二連撃によって上半身と下半身が真っ二つになったその男は、恐怖の叫び声を上げる直前で絶命する。

 

 

 

「ナイスシノ! 頼りになるぜ! 」

「気を抜くな! 次が来るぞ! 」

 

「あ、あの状況下で……笑っていやがる……」

「狂ってる……狂ってるぜ……」

 

 

 

新しい鉛玉を充填したM586は、重々しい銃声を放つ度に一人、また一人と命を奪い去った。

明らかに相手のギャンググループの方が武装で勝っているのにも関わらず、リボルバーと刀のみの彼らに全く歯が立たない。

 

元々彼らの評判は裏社会に轟いていたが、まさか今日出くわすとは思っていなかったのであろう、見るからに相手の士気が下がっているのが分かる。

 

 

 

「どぉしたぁ!? もう終わりかよぉ!! ハッハァ!! 」

 

 

 

昼の様子とは打って変わって、今のグレイは悪魔そのもの。

ギャンググループに身を置いてきた男たちでさえも恐怖で震え上がらせ、その眼に捉えられたら最期、死ぬまで追いかけられる。

 

 

依頼を果たす為、残ったギャンググループの一員を探すグレイ。

愛銃を片手に辺りを見回していると、コンテナの裏で恐怖にすすり泣く男を見つけた。

 

 

ニヤリと、彼は笑う。

最後の男は恐怖のあまり精神が崩壊したのか、喚きつつナイフを片手にグレイへと突進してきた。

 

 

 

「ざんねーん。刺したかと思うだろ? コートなんだよ、それ」

「あっ……あぁぁぁ……」

「けど、俺のお気に入りのコートを傷つけるとは納得いかないなぁ。ま、そういう事だ」

 

 

愛銃を握る右手とは反対の手でナイフを取り出し、男の胸を一突きする。

迸る痛みに苦痛の声を上げる男に向けて、止めの銃弾を放った。

 

額に穴が空き、間もなく男は死ぬ。

その死体に近付き、ナイフを引き抜いた。

 

 

「な、なんて野郎だ……。ほぼ一人で壊滅させやがった……」

「あれが"死の芳香"、アールグレイ・ハウンドか。敵には絶対回したくねぇな」

 

 

あまりの凄惨さに思わずマフィア達は独り言を呟く。

そんな彼らを横目に、二人は入り口へと歩いて行った。

 

――――俺にはこっちの方が向いてる。あの場所へ行くには、汚れすぎた。

 

昼のクリスや豪邸が脳裏に浮かぶが、彼は忘れるようにこう言い捨てる。

 

 

 

「今宵、"死の芳香"をお届けしました。どうか皆様、安らかに地獄へとお行きください」

 

 

皮肉なのか本心なのか、彼にもわからない。

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<シカゴ市内、バー"REST">

 

 

 

一仕事終えてからグレイは一人で飲みに出かけていた。

また昨日のようにはならないと胸に誓ってから、彼はウイスキーの入ったグラスを呷る。

 

 

「……どうかしましたか? グレイさん」

「いーや。なんでもねぇよ。マスターの方こそなんでそんなこと聞くんだ? 」

 

「今日は何か様子が違うと思いましてね。じじいの勘という奴です」

「その通りさ。いやぁ、勘というのも恐ろしいもんだねぇ」

 

 

物静かな雰囲気のバーのカウンターに立つバーテンダーの老人、マスターは笑みをこぼしつつ酒のつまみの入った小皿をグレイの前に置いた。

 

 

「私の奢りです。今日は話をお聞きしましょう」

「そうしてくれると助かるぜ、マスター。今日、昼にいいとこのお嬢さんから依頼があってな。報酬を受けとりに行ったんだがそこが大豪邸でさ。同じ人間なのにこんなにも生活が違うもんかと少し考えちまったんだ」

 

「ほう、そんなことが。グレイさんがそういう風に思う事もあるんですね。少し意外です」

「からかわないでくれよ。俺だって人間さ」

 

 

口ではそう言いつつも、グレイは内心自分が人間でないように思ってしまっている。

あんな風に笑いながら人を殺せる奴が人間だと思われるのか。

 

思われるはずがない。

人間の皮を被った、化け物に違いない。

 

 

「人の幸せなんで人それぞれです。私はこういう風に様々な人の話を聞いて過ごすのが幸せなように、貴方にとっての幸せがきっとあるはずですよ」

「俺にとっての幸せ……ねぇ。ま、こうしてマスターとかと飲むことかもな」

 

「ほっほっほ、じじいにとっては嬉しい限りです」

「そうかい。男にこんな事を言うのは滅多にないんだがな」

 

 

グラスの中の氷が音を立てて崩れ、グレイは一気に中のウイスキーを飲み干した。

身体の中へ熱い液体が流れ、彼の気分を高揚させる。

 

こんな日には話の分かるマスターと共に酒を呷るのが一番だ。

これがきっとグレイにとっての幸せなのかもしれない。

 

 

「ま、明日の業務もあるから頑張るとするかね。マスター、会計はここに置いとくよ」

「はい、ありがとうございます。また来てくださいね」

 

 

そう言いつつ彼はバーの扉を開け、外へ出る。

コートのポケットから煙草を取り出し、咥えながら火を点けた。

 

 

 

 

 

「……グレイさん、少しお支払い額が多いですよ」

 

そうマスターの独り言は聞こえた気がしたが、グレイは気にせず煙を吐く。

 

「つまみ代さ、取っといてくれや」






なんか微妙な終わり方。
次回はどんな感じにしようか迷ってます。
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