なんでも屋アールグレイ-The Shadow Bullet-   作:「旗戦士」

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コラボ回最終話です。



order31.The Twin Bloody Bullets

<深夜・聖フィリア総合病院>

 

 アウディA6とシボレーカマロZL1を走らせ、戒斗とグレイは一旦傷を癒す為に聖フィリア総合病院に急患として運ばれた。

事前にシノがアンジュの方に連絡をしていたせいか、スムーズに彼らは治療室へと送られる。

二人曰くピンピンしているらしいが、シエラと琴音の命令により半強制的に治療を受けさせられる羽目となった彼らであった。

 

「あら、こうして運ばれるのは二回目かしら? グレイ」

「不本意ながら、なんだけどな。シエラが行け行けうるさくてよ」

 

「はっ、オッサンには丁度いいんじゃねえか? 年老いた身体に気遣ってくれるなんていい彼女だろ」

「だからオッサンじゃねえって何度言えば分かんだよ後輩君。いくら君でも俺怒っちゃうよ? 」

 

「いいぜ、この際だからあん時の決着つけてやろうじゃねえか」

 

戒斗とグレイは上体を起こし、今にも掴みかかりそうな勢いで距離を近づける。

 

「ふふ、二人とも喧嘩両成敗」

「あだっ!? 」

「……ッ!? 」

 

女医とは思えない怪力でグレイと戒斗の背中を叩き、二人は悶絶した。

彼女は眼鏡の内側にある笑顔を崩さないでいるが、少なくとも威圧感は感じる。

 

「な、何しやがんだ女狐……! 」

「あら? そんな名前で呼ばないで欲しいわぁ。私にはアンジュ・フェルメールってきちんとした名前があるのに……。お姉さん悲しいわ」

 

戒斗は悶絶しながらもアンジュを睨みつけた。

だがそれに臆する事もせず、彼女は治療室の棚から消毒薬と包帯を取り出す。

 

一方グレイは叩かれた痛みに未だ悶絶しており、地響きのような呻き声を上げている。

正直言って戒斗にとってはうるさい事極まりない。

 

「グレイー? このままだと本当にオジサン認定されちゃうわよー? 」

「だ、れがっオジサンじゃコラああああああ!! シエラとまだ一線超えてねえんだよぉぉぉぉぉ!! 初心な男の子のままなんだよぉぉぉぉ!! 」

 

大声で色々とぶちまけながら立ち上がるグレイに対し、アンジュは淡々と戒斗の怪我の治療を始める。

殴られた跡や切り傷に消毒液を塗したガーゼを当て、傷口の汚れをふき取っていく。

 

「……墓穴掘った挙句にとんでもねえ事口走りやがった。アホだな」

「ふふ、かわいいわね」

 

染みる痛みを紛らわすように戒斗は呆れた様子を見せた。

慣れた手つきでアンジュは包帯を巻き、彼の治療を終える。

 

「助かる。おいオッサン、先に出て待ってるぞ」

「お……おう……。時間掛かるかもしれねーから頼むわ……」

「あいよ」

 

戒斗は彼に背を向けたまま手を挙げて応えた。

すぐに「痛ぇっ」という声が彼から聞こえるが、二人は聞かないふりをしておく。

 

「……なぁ、アンジュ」

「うん? どうしたの、グレイ」

 

「あの戒斗って奴にゃ……どうにも俺の昔の姿を重ねて見ちまう。あのふてぶてしさと言い、昔の俺を見てるみたいで恥ずかしくてなぁ」

「……だから、アナタは彼を庇って憎まれ役を買って出た……。そういう事ね」

 

「お前、なんでそれが分かって」

 

アンジュは照れくさそうに笑いながら、彼の口元にガーゼを持っていく。

 

「明らかにアナタの方が傷の量や出血量が多かったからね。歳は取ってもやる事は陸軍時代から変わってないのよ、アナタは」

「……へへん、未来ある後輩君を庇った先輩として見てくれりゃ十分さ。それに……隊長ならこうしたと思うからさ」

 

「……そう。どこまでもアナタはあの人に似ていくのね」

「どうだが。隊長には敵わないよ」

 

はは、と少し寂しげに笑い飛ばすとグレイは包帯の巻かれた肩を動かす。

動かす分には問題ないと悟った彼はベッドから立ち上がった。

 

「あら、病室で寝ていかないの? 空き部屋があるから泊まっていきなさいな」

「遠慮しとく。待たせてる連中がいるからな」

 

そう、とアンジュが一言告げると、グレイは振り向かずに腕だけを上げて別れを告げる。

「いててっ」という声が聞こえた気がしたが、アンジュは気にせず片づけを始めていった。

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<翌日・なんでも屋アールグレイ事務所>

 

 

 "戦部探偵事務所"との共同戦線を終えて、約一日が経過した。

ソフィアは琴音の方と連絡先を交換したようで、楽しそうに今も電話している。

 

「そうだ、琴音はあとどれくらいここにいるの? 」

『うーん……。戒斗、どれくらいだっけ? 』

 

『ん、そうだな……。後二日くらいじゃなかったか』

「二日かぁ……。あっ、そうだ! 」

 

彼女は思いついたようにグレイの元へ近付き、全力の上目遣いで彼を見つめた。

 

「ぐ、グレイさぁん……。琴音さん達が後二日しかいないって言うからぁ、その……」

「休みの申請だろ? いいよ、どうせこの身体じゃ二日ぐらい休まねえと無理だ。あ、あとその変な上目遣いやめろ。やるならシノにしとけ」

「どういう意味だ貴様」

 

シノに胸倉を掴まれつつもグレイはソフィアの携帯を取る。

 

「よう琴音ちゃん、あれからどうだい? 」

『あ、グレイさん! まああたしたちの方は観光したりしてますよ』

 

「そりゃあ良かった。とりあえず提案があるんだが、今夜マスターの所で飯一緒に食わないか? 俺そこの高校生に飯奢るって約束しちまったからな」

『だって、戒斗。あたしはむしろ行きたいかな』

『けっ、あの時のことまだ覚えてやがったか。……しょうがねえな、付き合ってやるよ』

 

受話器越しに聞こえる戒斗の応えに、グレイはニヤついた笑顔を見せた。

やれやれ、と呆れるシノと飛び上がって喜ぶソフィアを横目に、グレイは話を続ける。

 

「オーライ、交渉成立だ。琴音ちゃん、ちょうどうちのソフィアが暇らしいんだ。こいつ案内役にしていいから、ショッピングでも楽しんで来たらどうだい? セッティングはこっちでやっとくからよ」

『えっ、いいんですか!? 行きます、今すぐ行きます! 師匠と遥も行くよね!? 』

 

『……行く。ちょうど私も、暇していた所』

『あたしは……はぁ、まあいいか。ヘルガも連れて来てくれるならいいぜ』

 

「分かったよ。こっちから連絡しとく。場所は? 」

『私がそちらに向かいます! ほら戒斗! 車出して! 』

 

はぁ!? と驚きと怒りの籠った声が聞こえ、グレイは思わず噴き出した。

あの黒の執行者が同年代の女の子に振り回されてる様子を想像したせいである。

 

『じゃ、一時間後にそちらに来ます! セッティングとか、よろしくお願いしますね! 』

「あいよ、了解」

 

電話を切り、持ち主であるソフィアに手渡すとグレイはマスターの営むバー"REST"の電話番号をタッチし、彼に電話を掛けた。

グレイの横ではシノがヘルガに電話をしており、順調に事が進んでいる様である。

 

「もしもし、マスターか? 」

『はい。グレイさんがお電話されるとは珍しいですね、何かご用件ですか? 』

 

「あぁ、今日の夜7時くらいに大人数の席を予約しときたい。昨日の集まりで飲む事になったからよ」

『ほほう、なるほど。人数はどのくらいでしょうか? 』

 

彼は指で人数を数えはじめた。

 

「9人だな」

『それでしたらいいお席がございます。予めこちらが指定しておきましょう』

 

「助かる。んじゃあまた夜の7時に」

『はい。ではまた』

 

通話終了ボタンを押し、グレイはポケットに携帯を仕舞う。

シノの方もちょうど電話を終えたようで、彼は歩み寄ってきた。

 

「ヘルガの方も問題ないみたいだ。彼女もすぐに来る」

「オーライ。じゃあ、シエラんとこ行ってお知らせでもしてくるかね」

 

「俺は一眠りしているとしよう。ソフィア、楽しんで来い」

「はい! ありがとうございます! 」

 

グレイは事務所を出ると、"アウディA6"のエンジンを掛け駐車場を出る。

車の向かう先は、ウェッソン鉄砲店だった。

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<夜・バー"REST">

 

 

 「それじゃあ"戦部探偵事務所"と"なんでも屋アールグレイ"の友好を深める席として……かんぱーい! 」

 

席から立ち上がったグレイの合図により集まった9人は、各々の飲み物の入ったグラスを合わせ一気に飲み干す。

キンキンに冷えているジョッキをテーブルに置き、グレイは口元についた泡を拭った。

 

「かぁーっ! 仕事した後の酒っつーのは格別だねぇ! 」

「それには同意するぜ、"死の芳香"。そういや自己紹介してなかったな、あたしはリサだ。リサ・フォリア・シャルティラール」

 

向かいの席に座るグレイに対して、リサは手を差し出す。

その手を握り、彼らは自己紹介を済ませた。

 

「しかしまあ、こうして一度は敵として戦った相手と食事するというのはなんとも奇妙な気分だ。よく気にせずに誘えたな」

「最初は俺も本当に神経がイってるのかと思ったぜ。ま、飯奢ってくれる分にゃ何の問題もねーんだがな」

 

戒斗はグラス片手に肩を竦める。

 

「こらこら、飯を奢って"もらう"だろ? お前はまだレッスン1もこなせねーのか? 」

「そんなもん受講した覚えはねーな」

 

「お互い、この馬鹿には苦労させられたようだな。俺からも詫びを入れておこう」

「こりゃご丁寧にどうも」

 

誰が馬鹿だ女男と反論し、その後グレイの頬にビンタを食らわすシノ。

 

「あっはっは、あの男連中は見てて飽きないねぇ。シエラもそう思うだろ? 」

「いつもハラハラさせられて、飽きる飽きないの問題じゃないわよ。全く……いっつも傷だらけで帰って来るんだから……」

 

「けど、戒斗から聞いた話だとグレイさんはシエラさんに被害を被らせないために自ら人質になりにいったそうですよ? なんでもギャングの連中がシエラさんを利用しようとしたらしくて……」

 

瞬間、シエラの顔がみるみるうちに真っ赤に染まる。

 

「シエラ・ウェッソンの体感熱上昇。これは恥ずかしがっている」

「い、い、言われなくても分かってるわよ遥ちゃん! 」

 

その様子を見かねた戒斗がからかうように彼女に視線を移した。

 

「おいグレイ、アンタの彼女が顔真っ赤にして恥ずかしそうにしてるぜ? 」

「何っ! シエラどうした! 生理か!? 」

 

「な、なんでこの場面でそんなデリカシーのない言葉が出てくるのよばか! ばかばかばか! 」

「い、痛い!? 昨日に引き続いてなんでこんなタコ殴りにされなきゃいかんの俺!? 」

 

「いや、どう考えても今の発言はグレイが悪い」

「アールグレイ・ハウンド、貴方にはセンスというものがない」

 

ヘルガと遥の言葉に頷く女性陣。

 

「シエラ、もうその辺で勘弁してやれ。実質、今回グレイはお前の為にわざわざ傷付きにいったのだからな」

「あっ、ちょっ! それだから本人の前で言うなって! 」

 

「アンタいちいちやる事と言う事がギャップあり過ぎなの! おかげであたし照れくさくて死にそうだわ! ばか、ばかばかばか! どれだけあたしを惚れさせれば気が済むのよ! 」

「ほ、褒められてるのか貶されてるのか分かんねえな……はは……」

 

「ほっほっほ、愛されてますね。全くグレイさんが羨ましい限りです。ジジイももう少し若かったら……悔やむばかりですよ」

 

カウンターから拭いたグラスを置きつつ、マスターは悔しがるように髭を撫でる。

それを見たヘルガとソフィアと琴音、それに遥は敢えてカウンターまでグラスを持ちより、彼と話し始めた。

 

戒斗とシノは互いの相方の苦労話で同調しているのか、普段は無表情なシノから笑みがこぼれるのをグレイは見逃さない。

シエラに煙草を吸ってくる、と一言告げると彼は店の外に出る。

 

「アンタも吸うのかい、アールグレイ」

 

唐突に背後から女の声が聞こえ、振り向くとそこには私服姿のリサが視界に入った。

シエラと大きさが張るな、と不躾な事を思っていると彼女はグレイの隣に立って胸ポケットから煙草の箱を取り出す。

 

「ん? あぁ、まあな。一本交換するか? 」

「銘柄は? 」

「ラッキーストライク」

 

やりぃ、とリサは煙草を一本手に取り、自前のZIPPOライターで火を点けてやる。

 

「そういうお前の方の煙草は何なんだ? 」

「パーラメント。ほらよ」

「サンキュー」

 

煙草を口に咥え、同じようにグレイも煙草の煙を吐いた。

12月下旬の寒い空気が身に染み、より一層二人の身体を冷やす。

 

「……対テロ特殊部隊"ハウンド"の生き残り、グレイ・バレット。アンタがそうだろう? 」

 

グレイの身体に閃光が走った。

なぜ今日出会ったばかりのこのリサが、自分の過去を知っているのか。

 

「なんでお前さんが、それを知ってる? アンタは仮にも傭兵だ、"ハウンド"の存在は機密中の機密なんだぜ」

「ま、ちょっと知り合いのツテでな。そして、アールグレイ……いや、グレイがこの男を追っている事も知っている」

 

彼女は懐から金髪の髪を携え、切れのいい目と整った顔立ちの男"ラインハルト・フリューゲル"の写真をグレイに見せる。

この澄ました顔を見るといつもはらわたが煮えくり返るが、理性で抑えグレイは続けた。

 

「……お見通し、みてえだな。そいつがどんな男というのも知っているか? 」

「あぁ。対テロ部隊"ハウンド"の二人目の生き残りにして国家と仲間を裏切った国際指名手配犯……。だいたい合っているよな? 」

 

グレイは頷く。

ほぼフィルターまで吸い終えた煙草を捨てると、リサはニヤリと笑う。

 

「今回、アンタにこいつの情報をやる。戒斗を庇った報酬みてえなもんさ。有難く受け取りな」

「……そうするよ。助かる」

 

「しっかし、今回は本当にいい連中と仕事が出来たねぇ。"死の芳香"に"白鞘"、"蒼弾"に"暗器魔"と泣く子も黙る鬼畜グループと仕事なんて、一生の運を使っちまったかもしれん」

「アンタみたいな美女が、そういう風に不幸を悟っちゃいけねえぜ? "鷹の目"さんよ」

 

虚を突かれたように、リサは驚いた表情を一瞬だけ見せた。

 

「はは、さすがに知ってたか。あんまり好きな呼び名じゃないんだが……。ま、お互い様かね」

「何となく分かるぜ、リサの気持ち。仕事に出向いてもこの二つ名で呼ばれるから恥ずかしいもんでな」

 

二人は煙草を吸い終えると、店の中へ戻っていく。

 

楽しい時間はあっという間に過ぎ、打ち上げは朝まで行われた。

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<二日後・シカゴ国際空港>

 

 

 そうして、戒斗たちが帰る日の朝を迎える。

珍しく早起きをしてシノ達をアウディA6に乗せて来たグレイに対して、戒斗は既に空港に到着して寝ているという事態になっていた。 

 

「よう、一昨日の晩は楽しかったぜ」

「ふわぁ~っ……。あぁ、先輩様とリサが酔って暴れたりしなきゃ最高だったな」

 

「最後までうちのアホオーナーがご迷惑をおかけしました……」

「こちらこそ、うちの師匠がご迷惑を……」

 

気まずい雰囲気にグレイとリサは口笛を吹きながら誤魔化す。

その瞬間、空港内にアナウンスが響いた。

 

『ボーイング775便、成田空港行きのお客様。間もなく受付を開始致します』

「おっ、そろそろか」

 

各々の荷物を持ち、琴音とソフィアは別れを惜しむように抱き合う。

ヘルガとリサは笑みを交わしつつ握手し、シノと遥はいつか共に稽古をしようと約束をした。

 

「ま、なんだかんだあったよな。最初は敵として出会ったのに、気付いたら味方になってて飯を食ってた……。なんとも奇妙な縁なこった」

「アンタみてえなイカレたオッサンと縁が出来るってのは十分願い下げだぜ、おい」

 

別れの時まで悪態をつく戒斗に、グレイはいつもの不敵な笑みを彼に見せる。

 

「……へっ、可愛くねえ後輩君だ。ったく、彼女に愛想尽かされんなよ? 」

「アンタの方こそ、デリカシーの欠片もねえ言葉で彼女傷つけんなっての」

 

琴音とシエラが同時に顔を赤くした。

それを横目にグレイが拳を突き出すと、戒斗も渋々それに乗って拳を合わせる。

 

「じゃあな、グレイ。今度会う時まで、死ぬなよ」

「お前もな、戒斗。せいぜい若い内は無理しねえ事だ」

 

互いに後ろを振り返らず、その場を立ち去っていく二人。

唐突にグレイは戒斗の名前を呼び、何かを彼目掛けて投げた。

 

「これは……」

 

ずっしりと重い感覚が手の平にのしかかり、戒斗はゆっくりと手のひらを開ける。

 

「報酬だ。俺の愛用ライター、戒斗にやるよ」

「……へっ、どこまでもお節介な先輩様だな」

 

思わず笑みが零れ、戒斗はグレイに背を向けつつ再び別れを告げた。

その様子を見てグレイはため息を吐くと、シノ達の方へ歩き始める。

 

 

「死ぬなよ、戒斗」

「お互いにな、グレイ」

 

二人の耳には、そう聞こえた気がした。




次回からはなんでも屋の長編へ移行します。
ぜひ黒陽 光さんの作品もご覧になってください。
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