なんでも屋アールグレイ-The Shadow Bullet-   作:「旗戦士」

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以前言っていた長編開始です。


order32.白き異教徒

<なんでも屋アールグレイ事務所>

 

 

戒斗たちの見送りを終え、事務所へと戻ってきたグレイ達は机の上に置かれた茶色い小包を見つける。

不信感を抱きつつグレイは小包にそっと耳を当てるが、時限爆弾のようなものではなく時計の音は聞こえない。

 

「差出人不明……怪しいが開けてみるか」

 

恐る恐る小包の封を切り、包まれていた箱を開けた。

中身は……。

 

「カランビットナイフ……。ん? この手紙は? 」

 

落ちた手紙を拾い上げ、グレイは読む。

警戒していたシノとソフィアも彼の背後から覗き込むと、次第に顔が綻んでいく。

 

『俺が丹精込めて製作したカスタム・ナイフだ、くれてやる。オッサンには十分過ぎたもんだが……せいぜい、この俺の顔を思い浮かべつつこいつを使って生き延びるこった。アンタの大事な女の為にも、死ぬなよ』

 

カランビットナイフ……鎌のように湾曲した刃を持つ特殊なナイフの一つだ。

以前戒斗が使っていたものとは違うタイプのようだが、それでも十分に一流品と呼べる代物である。

 

何よりも特徴的なのが、ナイフの側面に"Kaito Ikusabe"の文字と手書きで"Black Executer"という刻印であった。

グリップの頭に付けられたリングに人さし指をはめ、グレイは手の中でクルクルと回し始める。

 

「……"Black Executer-黒の執行者-"ね。全く面白い後輩君だこと」

 

腰のナイフホルダーにカランビットナイフを仕舞い、グレイは手紙を大事に机に収めた。

 

「シノ、ソフィア。今夜、ある教団のトップから呼び出しが掛かってる。シカゴ市内の外れにある洋館だ。お前らも何回か見たことあるだろ? 」

「あぁ、あの不気味なとこですよね。私夜に行った事あるんですけど、結構怖かったですよ」

 

「ま、そんなとこにわざわざ呼び出してくるっつー事は確実に何かある。けど馬鹿でかい額の前金を貰ってるから請けない訳にゃいかねえ」

「……なるほどな」

 

壁に寄り掛かっていたシノは、立て掛けてある"日秀天桜"を肩に担ぎ一気に抜き払う。

 

「どんな連中が来ようと、俺達の道を阻む者は斬る。単純明解な答えだ。そうだろう、グレイ? 」

「おおっ、珍しくやる気だねぇ。いいぜ、そういうのは嫌いじゃない」

 

そう言うとグレイはソファに座り、眠そうに欠伸をした。

 

「集合時間は夜の7時。各自、それまでに準備は怠るな。んじゃ、おやすみー」

「グレイさんが一番準備怠りそうですけど……。まあいっか、それじゃあ私も一旦戻りますね」

 

ソフィアはシノに別れを告げ、グレイも数秒もしない内に眠りに落ちる。

そんな彼らを横目に、シノは刀身を綺麗な布で拭い、打粉を打ち始めた。

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<シカゴ郊外・洋館>

 

 

 現在予定時刻の午後7時を迎え、ヘルガを加えたグレイ達は"アウディA6"を駆り目的の洋館へと到着する。

罠と疑っている以上武装を整えておきたいのだが、不審に思われる可能性を考慮し、彼らはいつもの武器を懐に忍ばせておいた。

 

「うっわぁ、すげえ不気味なとこだな」

「若い子たちの間でも心霊スポットとして有名でしたからね、ここ」

 

「その割には随分と余裕そうじゃん、ソフィア」

「まあ心霊現象系は大丈夫ですから……。そういう三人はどうなんです? 」

 

「俺は苦手だわ……。シノは? 」

「はっ!? こ、こここ怖くなんかない! 霊なんている訳がないだろう! 」

 

「ふふ。シノ、かわいい」

 

やけに強がった様子を見せ、一気にグレイとソフィアとヘルガの顔が綻ぶ。

 

「泣く子も黙る"白鞘"様が幽霊が苦手とは……」

「うぷぷ、意外な弱点でしたね」

 

「ぐっ……! 覚えておけよお前ら……! 」

 

悔しそうにするシノを横目に、グレイは洋館の入り口の扉を開ける。

中にはホールのような開けた空間となっており、そこには多くの同業者たちがいた。

 

「ん? なあおい、お前らもここに呼び出されたのか? 」

「あんたらは……"なんでも屋アールグレイ"じゃねえか。ああそうだ、白いコートを着た男に呼び出されてな。どでかい前金を払ってもらったから来たんだよ」

 

近くにいた男に話を聞くと、ほとんどグレイ達と同じ境遇である事を知る。

 

「おや? グレイの兄ちゃんにそのご一行じゃねえか。こんなところで何やってんだ? 」

「デイビッド! あんたまでここにいたとはな」

 

「おいおい。この俺達を忘れて貰っちゃ困るぜ、"死の芳香"さんよぉ? 久々に会ったんだ、一丁死合いでもしようや。なぁ? 」

「……やれやれ、キッドまでいるのかよ」

 

「はぁ……。この阿呆に代わってお詫び申し上げます」

「気にすんなハーヴェイ、慣れてる」

 

ひとまずキッド達と合流した彼らはその場で腰を落ち着く事にした。

協力関係にある人間が多いと確信したグレイは、肩の力を緩める。

 

その時であった。

 

突如として複数のスモークグレネードが彼らのいた大広間に投げ込まれ、辺りを白い煙が覆う。

 

「何っ!? 」

 

あまりに急すぎる攻撃に、思わずグレイ達も虚を突かれた。

 

 

「なっ、何しやが……! ぎゃあっ! 」

「畜生! いきなりやってくるたぁどういうことだ! 」

 

 

周りから銃声と悲鳴が聞こえ、急いで彼らは煙を抜けて柱や家具の陰に隠れる。

他の同業者たちも他の部屋に逃げ込んだり、テーブルを盾にして攻撃を凌いだようだ。

 

「これは、これはこれは。まさか突然の急襲にここまで生き残るとはね。シカゴの裏社会とやらは、ずいぶん運がいい連中が多いらしい」

 

煙が晴れたと同時に、グレイの耳に聞き覚えのある声が入る。

 

「あの声……電話の主か……。つーことはっ! 」

「お、おいグレイ! 」

 

M586を構えながら、グレイは陰から飛び出す。

じっくりと彼が見つめるその先には、白いローブに身を包んだ男"ミゲル・ハインツマン"が不気味に笑いながら立っていた。

 

「おやおや。なんでも屋アールグレイのアールグレイ・ハウンドさんではありませんか。この度、私どもの依頼を請けて頂き誠にありがとうございます」

「どういたしまして。んで、この依頼とやらがこれかい? 俺たちを嵌めるってか」

「ご名答です」

 

瞬間ミゲルの袖口から二つの"ブレン・テン"が現れると同時に9mm弾を吐き出す。

 

「伏せろッ!! 」

 

舌打ちしながら彼の右側にあった柱に隠れ、銃弾を凌ぐ。

 

「ここにいる全員を始末しなさい、パンテオン様に捧げる大事な供物だ。シン、貴方も行くのです」

「仰せのままに。司祭様」

 

隣にいた白いロングコートに短い銀髪と長刀を携えた男"シン・ランベルグ"に告げると、彼は真っ先に渦中へと突っ込んでいった。

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<洋館・大広間>

 

 

 ミゲルの銃撃を凌ぎ切った後、続々と"教団"の団員らしき集団が現れる。

全員自動小銃(アサルトライフル)やサブマシンガンを装備しており、軽装備であるグレイ達とは戦力の差が決定的であった。

 

「他の四人は!? 」

「分かりません! この混戦ではぐれました! 」

「あいつらは後だ! あらよっとぉ! 」

 

デイビッドが"SAA"で教団の一員を屠った後、スライディングで床に落ちていた"MP5K"を拾い上げ連中に向けて乱射する。

だが当たる事は叶わず、弾切れと同時に彼はそれを投げ捨てた。

 

「クソッタレ! 奴さん、ただの素人じゃねえな! 」

「そんなん見りゃ分かる! このままじゃジリ貧だ! 」

 

「僕が惹きつけます! その間に攻撃を! 」

「無茶だ! 」

 

「やれますよ、まだこれがある! 」

 

ハーヴェイは足下に転がっていた"AK-47"のグリップを握り、引き金を教団の集団に向けて引く。

その瞬間にグレイとデイビッドの両名は迂回し、集団を挟み撃ちにする形となった。

 

「今だ! 」

 

"M586"の弾倉から6発全て撃ち切り、グレイはスライディングして死体から"ベレッタM12"を奪い取り、無我夢中で連射する。

片手で撃ったせいか命中率は悪いが、それでも数人を殺すには申し分ない。

 

「デイビッド! ハーヴェイ! 」

「おうよぉ! 」

「了解です! 」

 

左右からの銃撃により、瞬く間に一網打尽にする3人。

全員が倒れたことを確認すると、手にした重火器を床に投げ捨て、彼らを見つめるミゲルへと各々の愛用武器を構える。

 

「そこからでは私に当たりませんよ、アールグレイさん」

「どうだか。試してみるかい? 」

 

瞬間グレイの"M586"、デイビッドの"SAA"、ハーヴェイの"モーゼルM712"の銃口から銃弾が吐き出されるが、それは全て外れた。

 

「おいおい……マジかよ! 」

 

手にしたブレン・テンを敢えて撃たず、ミゲルはグレイに接近戦を仕掛ける。

急いでグレイは懐からカランビットナイフを取り出し、彼を迎え撃つ。

 

フェイントがかったワンツーパンチの後に、ブレン・テンで接射を狙う。

迫る銃口をカランビットナイフと"M586"で逸らしつつ、グレイも反撃としてナイフの刃を突き立てた。

 

「おっと」

 

腫れ物を扱うような軽やかさで素早く手を引き、ブレン・テンのトリガーを二回引く。

グレイの左腿と右肩に命中し、焼け付くような痛みに彼は絶叫した。

 

「隙ありだ、っと」

 

だが反撃を忘れたデイビッドとハーヴェイではあるまい。

 

リロードした"SAA"をグレイと対峙するミゲルに構え、数発立て続けに放つ。

SAAの弾丸がミゲルの右肩と脇腹を抉り、彼は絶叫こそしないものの地面に膝を着いて体制を崩した。

 

「……ちぃっ! 」

 

口から血を流しつつミゲルは大広間から急ぎ足で去って行く。

逃げる彼を援護するように残った教団の一員が2,3人立ちはだかり、手にした"AK-47"でグレイ達へ銃弾をまき散らした。

 

「クソッタレ! 逃がすか! 」

「無茶です! ここはグレイさんの手当てが先でしょう! 」

 

硝煙が晴れると同時にデイビッドがミゲルを追おうとするが、隣にいたハーヴェイによって制止される。

一息吐いて落ち着くと、柱に寄り掛かるグレイへと二人は近づいた。

 

「はぁ……はぁ……。連中は逃がしたか……? 」

「あぁ。司祭の脇と肩に鉛玉ぶち込んでやったが、ありゃ死んでねえな」

 

「そうか……。シノ達の方へ……行かなきゃ……」

「無理しないでください。先に手当を」

 

ハーヴェイの言葉にグレイは渋々頷き、傷口を差し出す。

彼は懐から包帯を取り出し、グレイの左腿と右肩に巻き始めた。

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<洋館・リビングルーム>

 

 

 一方グレイ達とは別の場所で銃弾の嵐を凌いでいたシノ達は、突如として現れた"シン・ランベルグ"とその仲間に苦戦している。

キッドやヘルガに他の連中を任せ、シノとシンは銃弾の中を掻き分けて未だに睨み合っていた。

 

「禊葉一刀流、"霙(みぞれ)"」

 

"日秀天桜"を腰だめで構えつつ、シンの直前まで距離を詰めた瞬間に抜刀し、振り上げる。

それを読んでいたのか、敢えて防御した衝撃を上に殺し、シンは大きくシノの頭上を飛ぶ。

 

「神凰式抜刀術、"枯葉崩し"」

 

瞬間、空中にいたシンは回転するようにシノに刀を振り下ろした。

何合にも重なった斬撃が彼の防御を崩し、一瞬だけ隙を見せる。

 

「ふゥッ」

「せッ」

 

繰り出された神速の突きをシノは間一髪で避けるも、着ていたコートに刺さり、シンはそれを彼から絡め取った。

シノは白シャツとジーパンを纏っただけの姿となり、僅かに舌打ちする。

 

「うっひょー。すげえ殺し合いだこと。サムライもどきとサムライもどきがやり合ってらぁ」

「シノの事を気に掛けるのは良い。だが、我々もこの人数をどうにかしないといけない」

 

「あー、俺ら以外全員やられてんのか。情けねーな」

「ど、どうするんですか!? このままじゃやられちゃ……」

 

違う入り口から続々と現れる教団のメンバーを一瞥し、キッドはニヤリと笑う。

彼の手にはどこからか拾った"SCAR"が握られており、煙草を口に咥えながら集団に乱射した。

 

「俺らでどうにかするしかねえよなぁ? 」

 

キッドは銃弾を避けようともせず、ひたすらに"SCAR"を撃ち続ける。

けたたましい叫び声を上げながら乱射する彼に恐怖すら覚えるが、ソフィアはキッドを援護し始めた。

 

「ヘルガさん! お願いします! 」

「任せて」

 

二つ返事でヘルガは"M14"のストックを肩に当て、グリップを握る。

キッドを狙う敵を次々に屠り、彼女はマガジンを替えた。

 

「貴様のお仲間とやらが善戦しているようだが……どこまで持つかな」

「あいつらは一筋縄でいくような連中じゃない。せいぜい油断はしないことだ」

 

互いに息が上がっていることに気付いたのか、シノとシンは顔を合わせてニヤリと笑う。

気合いの声と共に二人は鍔競り合い、鎬を削った。

 

その後お互いに距離を取り、何合も何合も火花と金属音を周囲に響かせていく。

幾つも掠り傷が出来るも、彼らは気にせずに刀を打ち付け合った。

 

「向こうの方は相変わらずだな。おい女二人、もう片付いたぞ」

「えっ? あ、本当だ……」

 

「キッド、あなたが囮になってくれたおかげ」

「はっ、そりゃあどうも」

 

涼しい顔をしながら煙草を吸うキッドを見て、ソフィアとヘルガは隠れていた陰から立ち上がる。

"SCAR"を床に投げ、キッドは懐から"コルトパイソン"を引き抜いた。

だが。

 

「く……くそ……。パンテオン様の……導きを……! 」

 

一人の死にかけの教団の一員が立ち上がり、シノに"グロック17"の銃口を向けている。

シンと鍔競り合っている彼は、それに気付くことなくシンと死闘を繰り広げていた。

 

「クソッタレ! まだ生きてやがる! おい、白鞘! 後ろだ! 」

「……何ッ!? 」

 

「止せ! 撃つんじゃない!! 」

 

キッドが走って向かうには遅く、コルトパイソンを撃つには誤射する危険がある。

正気を失っているのか、シンの制止も効かなかった。

 

「シノっ!! 」

 

銃声が響く。

血飛沫が舞い、シノの目が見開かれた。

 

 

「ヘル……ガ? 」

 

 

自分を庇って、ヘルガが銃弾を浴びていたから。





シノとシン、ちょっと見づらいですねw
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