なんでも屋アールグレイ-The Shadow Bullet-   作:「旗戦士」

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新キャラ登場です。


order35.疫病神と呼ばれた男

聖フィリア総合病院・ヘルガの病室>

 

 翌日、シノはそのままヘルガの側で眠りに落ち、テーブルに突っ伏した状態で目を覚ます。

ベッドで横になる彼女の頬を撫で、彼はフッと笑った。

 

そんな中、騒がしい足音が段々と近づいて来るのをシノは聞き逃さない。

腰のベルトに差し込んだグロック17に手を掛けると、彼は病室の扉をじっと見つめた。

 

「ヘルガさん!! 」

 

足音の主はそのままヘルガの名前を叫び、眠りにつく彼女の姿を見るなり歩み寄る。

驚愕の表情を浮かべたその女は、いきなりシノの肩を掴んだ。

 

「おい!! ヘルガさんは、ヘルガさんは無事なのか!? 」

「あ、あぁ。今は眠ってるだけだ、安心しろ」

 

彼の言葉に女は安堵のため息を吐き、側にあった椅子に座り込む。

女は外ハネしたワインレッドの髪を揺らし、ヘルガの顔を見つめた。

 

「ところでお前は何者だ。ヘルガの知り合いなのか? 」

「アンタこそ誰だ。名前を名乗る時は自分からって習わなかったのかよ? 」

 

「……シノ・フェイロン。ヘルガの恋人だ」

「はぁっ!? 恋人ぉっ!? 」

 

彼女はシノに鬼の形相で迫り、睨んだ視線を彼に向ける。

 

「どういう事だよ! ヘルガさんはあたしの未来の結婚相手なんだぜ!? それを横取りって……テメェふざけんじゃねえ! 」

「……レズビアンの冗談は止せ。見苦しい」

「この野郎っ!! 」

 

カッとなった彼女はシノに拳を振り上げ、意外に速い速度で彼に振りかざした。

だがシノはそれを易々と避け、女の腕を掴む。

 

「な、何しやがる! 離せよ! 」

「離さない。まだお前の名前を聞いてないからな」

 

「聞いてどうするんだよ! 」

「……お前とヘルガの関係について知る。もしお前が彼女に敵対する者ならば、俺はお前を斬るだけだ」

 

その言葉に観念したのか、シノの掴む腕を払った。

崩れたジャケットを着直し、咳払いをすると視線を再び彼に向ける。

 

「あたしはダージリン・ウィルヘルム。ヘルガさんの未来の結婚相手だ」

「……やれやれ。頑なにそれを貫くんだな。まあいい、座れ」

 

シノはイスを彼女の目の前に置くと、渋々ダージリンはその上に座った。

二人の言い争いを聞いて起きたのか、ヘルガは静かに上体を起こす。

 

「んぅ……。騒がしい。誰? 」

「ヘルガさん!! 良かった、無事なんですね!! 」

 

「えっ、リンがいる。どうしてここに? 」

「ヘルガさんが入院したと聞いて、すっ飛んできたんですよ! 大丈夫ですか、どこか痛いところとかありますか!? 」

 

みるみるうちにダージリンはヘルガとの顔の距離を近づける。

さすがに驚いたのか、ヘルガは彼女を手で制した。

 

「……どうやらヘルガとは知り合いのようだな。ヘルガ、このダージリンとはどういった関係なんだ? 」

「ダージリン? 彼女の名前は"リンディス・ミラフェリア"。そんな名前じゃない」

 

「あっ、ちょっ、ばらさないでくださいよ! あたし必死に偽名考えたんですから! 」

「なぜ偽名を使う必要があるの? 」

 

ヘルガの問いに、リンは言葉に詰まる。

 

「そ、その……あの……グレイ先輩の真似して……」

「ぶふっ!! 」

 

「へ、ヘルガ!? どうしたんだ!? 」

「いや……グレイの偽名が他の同僚に知られた時に……すごく不評だったのを思い出して……」

 

背中が痛むのを忘れて笑い始めるヘルガを横目に、シノの耳に病室の扉のノック音が響いた。

彼が扉を開けると、目が半開きで恥ずかしそうにするグレイが立つ光景が目に入る。

 

「……グレイ、俺はいいと思うぞ。そのセンス」

「うるせー! 悟った顔で言うんじゃねー!! 」

 

シノはグレイの肩を叩き、彼を病室に招き入れた。

リンは久々に見たグレイの姿に表情を明るくさせる。

 

「グレイ先輩! 久しぶりだな! 」

「お前はいい加減敬語覚えろってのリン」

 

「う、うわっ! 頭撫でるなよぉ~! 」

「人の裏話暴露した罰だよ! 」

 

グレイは持ってきた果物の入ったバスケットを置き、乱暴に彼女の頭を撫でた。

シノもリンが敵でない事に安心したのか、その光景を笑いながら見る。

 

「でも……ヘルガさん、どうして怪我しちゃったんですか? あの凄腕スナイパーのヘルガさんが……」

「それは……」

「……いい。俺から言う」

 

彼女の質問にシノの表情が固くなるのを、グレイは見逃さない。

 

「俺を庇って、ヘルガが撃たれた。それに、彼女はもう銃を握る事はできない。撃たれた銃弾が彼女の右手の神経を傷つけていたせいだ」

 

瞬間、リンはシノの胸倉を掴む。

ヘルガが制止しようとするが、シノは彼女の掴みを受け入れた。

 

「庇ったって……! お前の……お前のせいじゃねぇか! どういうことか説明しろ! 」

「……そうだ。俺が……俺が彼女を守れなかった」

 

彼女はそのままシノを殴ろうとするも、グレイの手によって止められた。

彼は黙ったまま首を振ってリンの腕を掴み、そのまま降ろさせる。

 

「リン。その時の状況は仕方なかった。シノが戦っている最中を背後を狙った奴がいてな。シノの相手は手慣れた奴で、そいつとの戦いに集中していてシノは背後に気を配れなかったんだ」

「でも……でも! 一流の兵士は背後にも気を配るって大尉が……! 」

 

瞬間、グレイはリンの胸倉を掴んだ。

 

「隊長は関係ねぇッ!! 」

「あっ……その……」

 

「グレイ! 止せ! 」

「……す、すまん……」

 

急いでリンの胸倉を離すと、彼女は病室の外へと駆けて行った。

ばつが悪そうに頭を掻き、グレイは虚しそうに一人首を振る。

 

「……少し、頭冷やしてくる」

「お、おいグレイ! 」

 

立ち去ろうとするグレイをシノが引き留めるが、それはヘルガによって叶わない。

 

「ヘルガ……すまない」

「いいの。誰も悪くない、きっとこれは決められていた事。シノ、それより一つ考えてる事がある」

 

「なんだ? 」

「あの子に……私の狙撃技術を伝授しようと思う」

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<聖フィリア総合病院・中庭>

 

 煙草を吸いがてら、グレイは先に出て行ったリンを追う。

中庭に一人ベンチに座る彼女を見つけ、彼はフランクに手を挙げてリンに歩み寄った。

 

「……よう。悪かったな、胸倉掴んじまって」

「いや……あたしも先輩が一番気にしてる事言っちまったし。ごめん」

 

一人になって落ち着いたのか、寂しげに彼女は笑う。

 

「リン。ヘルガの腕を治す方法はある。だが……それを選ぶのは彼女だ」

「うん……分かってる。分かってるよ……ヘルガさんがあの男の隣にいるのが一番幸せなんだって……」

 

「それが分かるなら、お前はあいつの事を大切に思ってる証拠だ。変わんねえな、リン」

「先輩こそ……全然変わってないよ。仲間想いなとこ」

 

グレイは彼女の隣に座り、煙草を吸った。

 

「……なぁ。女が女を好きになるって、やっぱりおかしい事か? 」

「別におかしかねぇよ。この国は自由だ。自由で、危険で……残酷だ」

 

「あたしも……もう進むべきなのかな……。先輩たちみたいに」

「……そうだな。泣きながらでも進むしかねえよ」

 

何を思ったか、リンはその場で立ち上がる。

 

「決めた。先輩、あたしを先輩がやってる"なんでも屋"っていうのに入れてほしい」

「お前……何言ってやがる! 軍の仕事はどうした! 」

 

「ちょうど命令外行動して謹慎食らってるんだ。身体を鈍らせるよりかは全然マシだよ」

「馬鹿野郎! お前が思ってるほど、この仕事は甘くねえ! 死ぬかもしれねえんだぞ!? 」

 

グレイは必死に彼女を止めようと、リンの肩を掴んだ。

 

「……あたしも、ジーク大尉の仇を討ちたい。それに、ヘルガさんも危険に晒されるかもしれないんだろ? なら、一人でも多く人がいた方がいい。先輩、あたし脅されたって退かないよ」

 

リンの言葉を聞き、グレイは奥歯を噛みしめる。

また……また自分の復讐劇に戦友をを巻き込んでしまうのか。

 

「……元々な」

「えっ? 」

 

「元々……俺がヘルガをこの仕事に巻き込んでいなきゃ……彼女はこんな事にならずに済んだ。すべては俺が……俺が元凶なんだ。こうして、再びお前を引き込もうとしている辺り……俺はまだ"疫病神"なのかもしれない」

 

"疫病神"。

かつてグレイがただ一人、ハウンドの生き残りとして帰還した際につけられた二つ名。

ナイフのように深く突き刺さった言葉が、彼を未だに苦しめていた。

 

「そんな……そんな事言うなよ! 先輩は悪くねえ! 事情も知らねえ有象無象が、ガタガタ抜かしてるだけだっつーの! 」

「聞け、リン。もう……俺に関わるな。ヘルガがこうなった以上、もう安全という保障はねえ。じゃあな、せいぜい謹慎期間をゆっくり過ごせよ」

 

リンに有無を言わせずグレイはベンチから立ち上がり、手を挙げて別れを告げる。

彼女は寂しげに彼を見つめるも、グレイを止める事は出来ないまま、彼を見送った。

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<地下教会・入り口>

 

 そうして、1週間の月日が明ける。

既に辺りは暗く、人通りも少ない。

グレイは療養期間の内に独自で"パンテオン教団"に関する情報を集め、ついに連中の拠点を突き止める事に成功した。

 

「……ふぅ」

 

愛車のアウディA6を付近の駐車場に停め、トランクの床から"HK416D"を取り出し、スイングを左肩に掛ける。

もう、誰も巻き込む事はできない。

ヘルガを傷つけた原因は自分だ、と責任を感じているグレイの挙動はどこか重々しい。

 

「思えば……俺はシノやヘルガ、ソフィア達に頼り過ぎてたのかもな」

 

右腰のサイドアームに愛銃である"M586"を差し込むとグレイはグレーのロングコートの裾を翻し、単身塀に覆われた地下教会へと向かった。

 

「敵は……正面入り口に4人、裏口に2人。裏口から入るのが得策か」

 

そう呟くと彼は人の少ない塀の裏口付近へと脚を進め、HK416Dのドットサイトを覗き込む。

二つのランプに照らされた見張りを確認すると、グレイは地面にうつ伏せになった。

HK416Dのフォアグリップを握り、全神経を両腕に集中させる。

 

「……上手くやれよ……」

 

ふぅっ、と息を深く吐き、銃口を固定した。

サイレンサーでかき消された銃音と共に、裏口の見張りの一人の頭を撃ち抜く。

異変に気付いたもう一人の方にも素早く標準を合わせ、額に風穴を開けた。

 

「……よし」

 

裏口に出来た死体を隠し、塀で覆われた建物を見据える。

直後扉を静かに且つ素早く開け、塀の内側へと侵入した。

 

左右をクリアリングした後、周辺の見張りがまだ来ていない事を悟ったグレイは地下教会の入り口に立つ見張りに視線を向ける。

 

「……弾は無駄にできねえな……」

 

HK416Dを背中に提げ、彼の手にカランビットナイフが収まった。

幸い教会への入り口は薄暗い光が照らされているのみで、音を立てずに近づけば一気に二人同時に屠る事が出来るだろう。

背中を屈め、右手にカランビットナイフを構えつつ、グレイは見張りの背後へと近づく。

 

「しッ」

 

腕で首を絞めた直後にカランビットナイフで首を掻き斬り、まずは一人を仕留める。

 

「き、貴様!? な、何者――」

 

もう一人の見張りが"AKS74U"の銃口を構える直前で素早く距離を詰め、銃口を左手で上に逸らした直後に見張りの肩の動脈を掻き斬り、銃を落とさせた。

 

「ぐ、ぐぎゃあああああああ!! 」

「静かにしやがれ、肉を斬る音が聞こえねえだろうが」

 

そのまま首の動脈を斬り捨て、鮮血がスプリンクラーのように溢れ出して白い教団の服を赤に染める。

返り血を少しだけ浴びたグレイは、鬱陶しそうにそれを拭った。

 

彼は二つの死体を一瞥すると、地下教会への扉を開ける。

薄暗い裸電球に照らされた何段も連なる階段が彼の視界に入り、グレイは足を踏み入れた。

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<地下教会内部・廊下>

 

 長い階段を降りた先には長くじめじめした廊下が広がっている。

廊下の途中で幾つも道が分かれている事から、相当広大なスペースが広がっていると推測した。

緊迫した空気を肌で感じつつ、グレイは奥へ進んでいく。

 

(静かすぎる……)

 

不気味すぎる静かさに、彼は不信感を抱いた。

彼のすぐ傍にあった扉を開け、グレイは周囲を見回す。

 

「誰もいない……? 」

 

瞬間、右腿に何か斬られた熱い痛みが走り、グレイは呻き声を上げた。

HK416Dを構えつつ振り向くと、短い銀髪と白い刀身が目に入る。

 

「神凰式抜刀術、"枝垂桜"」

 

HK416Dから手を離し、グレイは部屋の後方に下がった。

銃身を真っ二つに両断され、彼は急いでそれを地面に捨てる。

 

「な、にィっ!? 」

「せァッ」

 

気合いの声と共に振り下ろされる刀をグレイは肉薄し、転がりながら出口へと急ぐ。

それを許すはずもなく無慈悲にシンの刀が彼の頭を叩き斬ろうと唸りを上げてグレイに迫り、彼はカランビットナイフでなんとかそれを防いだ。

 

「ほう? 」

 

空いていた右手でM586を握り、無我夢中でシンに向けて放つ。

.357マグナム弾がシンの眼前に迫るも、構え直した刀で綺麗に斬り捨てた。

 

その隙を突いてグレイは部屋から転がるように脱出し、廊下の奥をがむしゃらに進む。

 

「はぁ……はぁ……! 気付かれてたか……! 」

 

おそらく、シンの戦闘力はシノと同等かそれ以上だ。

銃を得意とするグレイにとって、銃弾を斬り捨てる事の出来る敵は脅威である。

 

(このままじゃ死ぬ! ショットガンでもなきゃ、完全にお陀仏だ! )

 

最悪の可能性が幾つも彼の脳裏に浮かび、内心冷や汗を流した。

追跡をされないように不規則に動いているものの、彼は右腿から流れる血に気づいていない。

 

「……馬鹿な奴だ。血も流れている事に気付けないとは。"死の芳香"もたかが知れたものだな」

 

そう吐き捨て、シンは幾多にも分かれている廊下をただ一人歩く。

愛刀の"紫炎"の鞘を左手に、彼は血痕を辿った。

 

グレイは入った部屋の扉の陰に隠れた後、床に落ちていたショットガン"モスバーグM500"を手に迫る足音に耳を立てる。

 

(落ち着け……呼吸を整え……神経を研ぎ澄ませろ……)

 

目を見開き、彼は一気に陰から飛び出した。

彼は引き金を引いてハンドグリップを退くと、12シェルの赤い弾丸が排莢し、幾多の鉛玉がシンに殺到した。

 

「なっ……! 」

 

さすがの彼も反応しきれなかったのか、驚いた声を上げる。

その声を聴き、グレイはニヤリと笑った。

しかし。

 

「神凰式抜刀術秘技、"水下鏡天(すいかきょうてん)"」

 

シンは持っていた"紫炎"でその場で円を作るように回し始め、迫り来る散弾を斬り捨てる。

だが彼の足や肩には多少掠っており、シンの纏う白いコートには赤い染みが出来ていた。

 

「そ、そんなんアリかよ……!! 」

 

シンは刀の切っ先をグレイに向け、彼に視線を向ける。

追い詰められたグレイは後退りするものの、部屋の壁にぶつかってしまった。

 

「観念しろ。アールグレイ・ハウンド」

 

彼の"紫炎"がグレイに振り下ろされる。

グレイが覚悟を決めた直後、彼の耳にぶつかり合う金属音が聞こえた。

 

「貴様は……!? なぜここに……! 」

 

おそるおそるグレイが目を開けると、見覚えのある長い銀髪の男がシンの刀を受け止めている光景が視界に入る。

 

「シノ!! 」

 

「待たせたな、"相棒"」

 




次回、いよいよシンとシノの一騎打ち。
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