第一話:雲夜死闘
登山道を外れた道とも言えぬ道、微かに草が踏みならされた獣道に足音がいくつか響く。
もう七月だというのにいやに肌寒く不吉な雰囲気を漂わせる夜の山を、一人の男と二体の異形な者たちの一団が進んでいる。その周囲には仄かに光を発する人魂のような光源が、いくつもぷかぷかと浮かんでいた。
進む一団の中心にいる男は、直垂を着て袴を履き刀を差す和の装いだ。しかし、背中には大きく頑丈そうな黒いチェロのケースを背負っており、腰には大小様々なポーチのついた無骨なガンベルトが巻き付けられている。
その奇妙な装いの男は、目の前を先導する獣の形をした異形に向かって口を開く。
「
『くくぉん!』
「そうか、ならそのまま頼む」
『くぉん!』
男の声に応えるかのように吠えたのは、顔と胴体と尾の体毛の色が違う獣の異形。白色の狐の鼻先を地面に近づけ、灰色の狼のような胴体から生えた足を忙しなく動かし、黒色の狸の尾を揺らしながら進んでいる。
その声を男が聞くと、次いで自分の後方で飛んでいる異形に命令した。
「
『いつまでぇぇえ、いぃいつまでぇぇえ』
「俺がよしというまでだ」
低くしわがれた老人のような声を上げたのは、猿の仮面を被せられた頭部に、鷲の胴体と尾から蛇が生えている異形。バサバサと音を立てながら滞空し、キョロキョロと辺りを見回している。
嫌な空気だと、男──
司條は山の木々の隙間から、夜空に浮かんでいた月が厚い雲に隠されていくのを見上げ、不吉な気配が強まった事に一つ舌打ちをした。呼応するかのように周りの人魂の輝きが増す。
視界が悪くなった森の中をさらに数十分ほど歩いた頃だろうか、先導していた狐狼狸と呼ばれた異形が立ち止まった。そして、鬱蒼とした茂みの数十メートル先に牙を剥きながら吠えだす。
「見つけたか」
『くぉん! くぉん!』
「そうか、よくやった」
司條は刀を抜き、正眼に構えながら茂みを挟んで向こう側を伺う。しかし、動く気配はない。少しの間出方を探っていたが、どうやら相手からは何かしらの行動をするつもりはないようだ。彼らは警戒を解かずに茂みを進む。
「……不気味だな」
茂みを抜けるとそこは開けた場所で、さびれ朽ち果てた小さな神社の境内のようだ。そして、嫌でも目を引く一つの建造物があった。それはさびれた神社のお社ではなく、堂々と存在する一基の古びた石鳥居。
その簡素な造りの神明鳥居は、ザラザラとした質感で灰色の石造だ。年季が入って辰砂の鮮やかな朱色の塗装が剥げたかのように、赤黒く固まった血液が斑らにこびり付いている。
本来、神聖な領域と俗世を分かつ為の境界線であるはずのそれは、死を想起させる禍々しい気配を放っていた。
「……絶対、準一級呪霊じゃねぇだろ」
司條は刀を納め、地面に転がっている石を二つ手に取る。ぽいと一つを鳥居に向かって投げるが、その石はただ鳥居をくぐり抜けるだけであった。次に、もう一つに呪力を込めて投げる。するとその石は鳥居をくぐった瞬間、何処かへと消え去った。
恐らく“入り口”を明確にすることで生得領域の強度を展開できるほどに上げているのだろうと、その不可思議な光景を見ながら司條は推測する。同時に、術式が付与された領域ではないだろう事も。
だが、どう低く見積もっても一級はあるだろう呪力量、そして鳥居から発せられる体毛が逆立つような冷たい圧に、一度撤退して報告し装備を整えるべきかと思案する。しかし、司條はその考えをすぐに打ち切った。
呪霊は基本的に発生した場所に留まる性質がある。こんな領域を展開しているなら尚更だろう。だが、万が一移動してしまうと、こんな広大な山の中だと再び見つけ出すのは骨が折れる。それに、何人かの行方不明者もまだ領域内で生きているかもしれない。結界や領域内では時間の流れが違うことが稀にだがあるからだ。
結局、司條は今ここでこの呪霊を祓うのが最善だと結論付けた。
「……どれを使うか」
『くぉん?』
司條は背負っていたチェロケースを地面に起き、その硬質で丈夫なケースの蓋を開ける。そこにはチェロの姿はなかった。内側にはびっしりと呪符が貼られていて、弓や細身の槍、短刀といった武器が所狭しと収納されている。武器だけでなく、周期的に収縮する呪符で覆われた何かや人間の手首から先だけなど、不気味な物品も入っているようだ。
その中から弓と一手の矢、細身の槍を取り出して蓋を閉めた。弓は和弓というより、大陸の複合弓のような風体で二尺ほどの大きさだ。矢は本来鏃があるはずの先端が、赤黒い紋様の入った人間の人差し指なのが一隻。蟇目鏑矢のようだが、四目がない矢が一隻だ。
ケースを近くの茂みに隠しながら、細身の槍を以津魔天に渡して口を開く。
「以津魔天、お前は槍を持って俺について来い。
『くぉん! くぉん!』
『いぃつまでぇぇえ、いぃつまでぇぇえ』
「俺がよこせというまでだ。……帳はいらないか」
鏑矢もどきを弓につがえ、もう一隻を持ちながら禍々しい鳥居へと進む。周りには人魂がぷかぷかと浮き、その後ろに両足で槍を掴んでいる以津魔天が続いている。鳥居に近づくにつれ、何かに見られている感覚が強くなっていく。紙垂が汚らしく黒色に変色し、ボロボロに朽ち果てた注連縄をくぐった。
くぐった瞬間、世界が変わった。
一瞬前まで夜の森だったはずなのに、大地を地蔵の頭部だけが一面を覆う河原に辺りの風景が置き換わったのだ。
憤怒、羞恥、悔恨、愉悦、嘲笑、恐怖、絶望。
妙に生々しく表情が彫りつけられた地蔵の頭部は、人間をそのまま石にしたかのようで気味が悪い。河など近くには流れていなかったのに、赤黒い血のような生臭い液体がとくとくと流れる河が流れている。
『いじじぃ、いじをつまんかぁ』
「後ろか! 『荼毘華』! 『
後ろからの石と石を擦り合わせたかのような耳障りな声に、身体をひねって矢を放ちながら叫んだ。人魂が司條の背後へと突撃し轟っと燃え上がり、放たれた矢の先端が炸裂し内包していた白い破片が飛び散る。
「やったか? ……っ!」
『いじをつまんかぁ、いじをつまんかぁ』
しゃんっと澄んだ音と同時に、爆炎の中から先端が鋭く尖った石柱が司條目掛け突き出た。それを躱し、もう一つの矢をつがえて放つ。しかし、再びしゃんと澄んだ音が響き、矢の射線に石柱が突き出て防がれた。
『いじじぃ、いじをつまんかぁ』
そのまま距離を取り、耳障りな声の主を視界に捉える。爆煙が消え、その中から姿を現したのは一体の呪霊。
錫杖を左手に持ち、石笠を被った灰色の地蔵菩薩のような『何か』。だが、お地蔵様というにはその姿は不気味であり、どちらかというと厄病神だとか怨霊のようだ。
深々と被った傘から半分程覗く頭部の、その全てを占めるのが邪悪な笑みに歪んだ大きな口であり、その口腔の中に一つの充血した大きな目玉があった。
「地蔵の姿を模した呪霊のくせに、鳥居かよ!」
『いじじ、いじをつまんかぁ』
大きく裂けた口の中で、その充血した真っ赤な目はぎょろぎょろと忙しなく動いている。それが司條の姿を捉えると、左手の錫杖で地面を突いた。しゃんと、澄んだ音が響く。
「っ!」
その瞬間、目の前には地面から突き出した石柱が迫っていた。それを間一髪で躱し、刀を抜いて接近し斬りかかる。
「硬ってぇなぁ! 」
『いじをつまんかぁ!』
口裂け地蔵はその見た目通り硬く、呪力を込めた刀でも多少痕が残るぐらいで、大したダメージになっていないようだ。再び突き出た石柱を躱して距離を取る。その石柱は太く速く、一発でもまともにくらったらただでは済まない事が察せられた。
近接は不利だなと、納刀した司條は痺れた右手をさすりながら考える。恐らく、あの呪霊に近ければ近いほど、石柱の発生速度と太さは上がるらしい。だが不幸中の幸いか、やはり必中効果はない。術式の付与された領域を展開し続けるのは不可能だから、当然といえば当然かもしれないが。
『いじをつまんかぁ、いじをつまんかぁ』
もう一つ幸いな事があるとすれば、あの呪霊はまだ本気を出していない事だ。まだ術師とやり合った事がないだろうから様子見か、それとも自身の実力に甘えて遊んでいるのか。どちらにせよ好都合。そこまで考えて、この領域の上空に飛んでいる以津魔天に向かって叫ぶ。
「以津魔天、よこせ!」
『いつまでぇ、いつまでぇ』
以津魔天が離して落ちてきた槍をしっかりと掴む。それは武道で使われる打ち合う為の槍ではなく、槍投げの競技に使われるような細身の余計な装飾のない槍だ。穂先に金属の輝きはなく、くすんだ白地に赤黒い線で崩した文字とも印とも見れる紋様が彫られていた。
「『
司條は大胸筋を大きく反らし、地面の地蔵の頭を砕かんばかりに力強く踏み込み、極限まで縮められた背筋を最大限に利用して、最小限の助走で槍を投擲する。その勢いは、限界まで引き絞られた剛弓の弦から放たれる矢のようだ。
『いじ! いじ! じじじ!』
しゃんしゃんしゃりんと、三度間髪入れず錫杖を鳴らす音とともに、槍の軌道に石柱が突き出る。魔を祓わんと勢いよく投げられた槍は、一つ目の石柱を砕き、二つ目を貫くが、三つ目の石柱の半ばで止まってしまった。
『いじ! いじ! いじをつまんかぁ!』
何がおかしいのか、口裂け地蔵はあざ笑うかのように喜色を含む耳障りな声を上げる。だが、その馬鹿にされている司條も同じように、口裂け地蔵を哀れむような声色で口を開く。
「お前、賢い呪霊じゃないな。……『
『いじじ! いじじ……いじ?』
口裂け地蔵は石柱に突き刺さっている槍の穂先の文字や印が、赤く輝き出したことに気がつく。次いで、穂先から呪力が噴き出していることにも気づいたが遅すぎた。新たな石柱を出す間も無く、槍は三つ目の石柱を貫く。
『いじ!! いじじ! いじじじじじぃ!』
「……駄目か。知能はともかく、硬さだけは一丁前だな。近づかないと、どうしようもなさそうだ 」
『いじ! いじじ! いじを! つめぇぇええ!』
槍は口裂け菩薩に突き立っていたが、貫通するほどではなかった。挑発が含まれた言葉に対し──言葉が通じているのかはわからないが──口裂け菩薩は癇癪を起こした子供のように、錫杖を地面に何度も何度も突き刺し鳴らす。地面に敷き詰められた地蔵の首が舞い、何十もの石柱が男に向かって突き立った。
「流石に、多いな!」
『いじ! いじじ! じじじ! いじじじじじ!』
迫り来る石柱を縫うように躱し、ガンベルトのポーチの一つを開け、その中の小さな平たい石のようなものを掴めるだけ掴んで上へ放り投げた。その平たい石のような物にも、槍の穂先に刻まれていた赤黒い紋様が刻まれている。
「『
空中で重力に逆らうように不自然に滞空していたが、その声に反応して口裂け地蔵の方へ弾かれたかのように向かっていく。じじじと薄く表面に引っ掻いたかのような傷を付けるが、あまりダメージにはなっていない。
だが、今の癇癪を起こしている口裂け地蔵にとっては、そのダメージにならない攻撃でも神経を逆撫でされるようなものだったのだろう。錫杖を突く音の絶え間は更に無くなった。
『いじじ! いじ! いじ! いじじじぃぃぃ!』
「『
口裂け地蔵の石柱を躱し、チクチクと攻撃する。何回もその繰り返しの繰り返しだ。だが、その繰り返しの中、すでに司條は石柱は速く鋭く重いが、あくまでも直線的な軌道しか取らないことを見切っていた。
当たらない攻撃と、当たっても大した効果のない攻撃の応酬。お互いに決定的な攻撃をできない状態で戦いは拮抗している。
だが、その均衡が崩れる時は酷くあっけないものだった。
「なっ!」
『いじ!』
走り回って回避していた司條だが、足場の地蔵の首が急に足に噛み付いてきてバランスを崩したのだ。それを呪霊は見逃さず、司條の背後から石柱を発生させる。無理矢理横に飛び込むように何とか回避し、その石柱は頬を掠めて少しの皮を裂くだけで済んだ。
「あぶっ、クソッ!」
『いいじじじ!』
何とか石柱を回避したかのように見えたが、司條の目はギリギリで避けた石柱から、再び一回り小さい石柱が発生しだす光景を捉える。司條は無理に回避をする事を諦め、左手でその石柱を受けた。
『じじ! いじ! じじじ! いじ!』
石柱は左手の手首あたりを貫通すると、更に新しくそれより細い石柱が左腕を食い荒らすように発生する。
「ッ! ラァ!!」
呪力を込め、地蔵の首が喰らい付いている脚で石柱を蹴り折る。足首の地蔵の頭部は、その衝撃で砕けて塵となった。石柱による追撃を警戒し、素早く距離を取る。
だが、口裂け地蔵は更なる追撃はしてこなかった。
『いじじ、いじじじ! いじ! いじじじじ!』
しかし、酷く愉快げに嗤っていた。
細く鋭い石柱が刺さった穴だらけの左腕がだらんと力なく垂れた姿を見て、今までの鬱憤を晴らすかのように嗤っている。足も軽くはない怪我をしているように見え、逃げ回ることもできそうにない。呪霊は自らの勝利を確信しているようだ。
『いじじ! いじじじ!』
司條はもう使い物にならないだろう左腕をちらと見てから、次に口裂け地蔵を冷ややかな目で見て、口を開いた。
『いじじじ! いじじ! いじじじじ!』
「……随分と楽しそうな所悪いが」
『いじ! いじじ……いじ?』
「やっぱり、お前、賢い呪霊じゃねぇよ」
口裂け地蔵は司條のとった奇妙な行動に、反応することが出来なかった。司條は刀をを抜き、自分の左腕の肩口に当てている。さも当然のように行われたその行動に、地蔵は反応することができない。
ある程度以上の呪術師か呪詛師、知恵の付いた呪霊ならば、左手に纏わりつく異質な呪力とその不可解な行動を訝しみ、絶対にその行動を止めようとしたことだろう。
しかし、ようやく苛つかせる不愉快な敵に攻撃を当てる事ができ、気持ちよく昂ぶっていた口裂け地蔵には何も行動する事は出来なかった。──気持ちよくのせられたと、言うべきかも知れないが。
「『この怨み、晴らさでおくべきか』」
『いじ、じじじ? いじ!? じじじじ!』
司條が呪力の込められた言葉と共に、躊躇いなく刀で自らの左腕を切り落とす。瞬間、地蔵の左腕に何かが突き刺さったかのような穴がいくつも開く。その穴は、司條の左腕に突き刺さった石柱の開けた穴に酷似していた。
しゃりりりんと、錫杖が穴だらけの地蔵の左手から離れて音を鳴らす。
『いじ、いじじじじ!』
すぐさま傷を呪力で治し、錫杖を再び掴もうと手を伸ばすが──錫杖は、再生の隙に目の前にまで迫っていた司條に蹴り飛ばされる。
「やっと近づかせてくれたな! 『
『い、じぃぃぃ!!!』
司條の右手には、槍の穂先と似通った白地に赤黒い紋様が刻まれたものが、その紋様を鈍く輝かせながら逆手に握られていた。口裂け地蔵は大きく裂けた口で司條を噛み砕こうとしたが、口の中の目玉を貫かれるほうが早い。
手に持っていたそれの纏う呪力は鋭く尖り、勢いは口裂け地蔵の目玉を貫くだけでは止まらず、目玉から口腔、口腔から後頭部まで貫通した。
『い……じじぃ』
口裂け地蔵はその勢いのまま、仰向けに倒れた。脚元と言っていいのか分からないが、台座の下部から朽ち果てていくように消えていく。少しずつ消えていく呪霊を見下ろしながら、仄暗い感傷が込められた声色で司條は語りかける。
その声には何か昔を思い出すかのような、そんな陰鬱な後悔の色があった。
「お前、土着信仰だか産土神だかの習合か? 妙に呪霊らしくない姿しやがって。……だが、知性はやっぱりそこらの呪霊程度だな」
『い、じ?!』
死角から、高速で先の尖った何かが一直線に飛んできた。それは司條が蹴り飛ばしたはずの錫杖だ。しかし、錫杖が突き刺さるその直前、空中に完全に静止する。
腕だ。
司條の腰の周り程太く、脚より長い巨大な腕が飛来した錫杖を掴み、地面から生えている。地面の地蔵の頭に筋繊維を根のよう絡み付け、大地に根をはる樹木のように自身を固定していた。
切り落としたはずのその左腕。穴だらけだったはずであるのに、異常に隆起した筋繊維が穴を塞ぎ、そして、彫られた赤黒い紋様が輝いていた。
「今度こそ、じゃぁな」
『いじ、いじ、いじ、いじぃぃい!』
左腕が掴んだその錫杖を右手にとって、口裂け地蔵の胸郭部に強く突き刺した。しゃんっと、澄んだ音が鳴る。そして、ザフッという音を残し、その呪霊を構成していた呪力は一息に拡散した。呪霊は黒い塵のようになり空気に溶けていく。主を失った周りの奇妙な世界も、ふっと消えた。
「……死ぬかと思った」
司條は元に戻った暗い森の地面に仰向けに寝転がる。夜空は相変わらず厚い雲に覆われているが、所々雲の切れ間から月明かりが射し込んでいた。鳥居はまだ残っていたが、もう禍々しい気配は感じられない。
事前情報では準一級呪霊との話だったはずだが、どう見積もっても準一級の手強さではないだろと、心の中で司條は愚痴っていた。だが呪術界は万年人員不足。呪術師だけでなく、補助監督や窓もだ。事前情報に齟齬があるのはどうしても仕方ないことかと、無理やりに自分を納得させる。
この森での行方不明者は十名ほど。肝試しだとかで数名の若者のグループがいくつか帰ってこなかったらしい。こんな深い森の中に入っていく気がしれないが、若気の至りというやつなのだろう。いかにもな神社に近づいて、鳥居をくぐったらあの呪霊の領域へ直行。神社の境内に入るときには、大抵の日本人が鳥居をくぐる。悪辣な罠だ。
「……とりあえず、被害者を探し……あ?」
あの領域から非術師で脱出することは限りなく不可能に近い。領域から出たが時間のズレもない。不謹慎なことが頭によぎるが、生きている人がいるなら早く助けねばと思いながら立ち上がろうとした時、近くで直立していた腕が力なく倒れた。赤黒い紋様も光を失っている。
「限界か。いや、よくやってくれたな」
倒れた腕は急速に朽ちていく。その光景は、死体が朽ち果てていくのを何十倍にも加速させたかのようだ。腕が完全に朽ち果て、骨さえ塵となるのを見届けると、司條は残った右腕を胸のあたりに持ってきて目を閉じ黙祷する。左手があれば合掌しているだろう体勢だ。
少しして今度こそ立ち上がり、生存者やその遺体、遺品を探すために歩き始めた。
口裂け地蔵の生得領域は、エヴァQの十三号機と二号機改が戦った頭蓋骨がいっぱいの所が、地蔵の頭部に置き換わって血の河が流れてる感じです。
司條の術式はまだ内緒ですが、よろしければ皆さんも考えてみてください。