諦めた主人公のヒーロー美学 作:通りすがりのヒーロー
元の世界で画面越しに見た憧れの背中は大きくて頼もしかった。でもそれはアレイザードで見た憧れの背中も同じ。
『出久はヒーローになりたいのか』
『うん。皆んなを救うヒーローに!』
今でも思い出すあの人の頭の上を撫でてくる手の感触。いつも心地良さを感じていた。
『そうか、大丈夫__』
その言葉は僕に自信や安心……なにより希望をくれた。
__君はヒーローになれる
でも僕に希望を与えてくれたその言葉はあの日から呪いの言葉になっていた。
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「あれから一年か……」
僕が異世界でアレイザードに跳ばされたのは中学ニ年の春。そして戻ってきた時間も何故か跳ばされた時間とまったく同じ時間だった。
向こうでは三年間滞在していたのだが、こちらの時間が進んでいなかったので肉体はこちらにいたときのままになっていた。
しかし、向こうにいた時の記憶もあれば向こうで身に付けた力も使えている。
『連環勁氣功』
無個性の僕でもアレイザードに存在する神層界で拳神に教えを受けて身に付けることができた操体術。
この力は自らの内にあるを氣というエネルギーを体内で循環させて体の一部もしくは全身を強化する力で武器に纏わせたり、氣をエネルギーとして放つことも出来る。さらにこの世界に帰ってきて分かったことがある。それは個性を発動するのにも氣は使われているということだ。
それはすなわち個性を持つ相手に対して色々な戦術で戦うことができるということ。
「何を考えてるんだろ。僕は」
この世界でヒーロー以外の人間が戦闘で個性を使うことは原則として禁止されている。個性に匹敵するこの力も同じように使うことは出来ない。
つまりヒーローを目指してない今の僕は使うことがないということだ。ただ体を鍛えることに関しては癖になっていて向こうほどハードに鍛えてないが行っている。だが例外というものもある。もし大事な家族や友達が危険な目にあったときは躊躇なく力を使うだろう。
「おかえり出久」
「ただいま母さん」
笑顔で出迎えてくれる母さん。母さんには異世界のことは心配させたくないという思いから伝えない。
無個性な僕でもずっと育ててもらったことには感謝している。いいところに就職して楽をさせてあげたい。
「今日も部屋に籠るの? あっ、おやつに美味しいケーキ持ってくわね」
「ありがとう!」
僕は母さんにお礼を言って自分の部屋に向かっていった。
部屋に入るとそこは所謂なにもない普通の部屋になっていた。異世界に行く前は僕が憧れていたNo.1ヒーローであるオールマイトのグッズが大量に飾られていたが今はそんな面影も残っていない。オールマイトグッズはお母さんに売ってもらい、大量に書いていたヒーローノートはまとめて捨てた。最後に学校に置ておいたノートもかっちゃんに燃やされて校舎のどこかに捨てられた。ノートはヒーローになるために僕がヒーローを分析した書いた本なのでこれで僕は新しい道に進むことができるだろう。
お母さんにはとても驚いていたけれど僕が無個性であきらめたと思ったのか特に何も言わなかった。
「……懐かしいなぁ」
僕は引き出しの上に置いてある写真立てを見る。そこにはこの世界では珍しいお城を背景に僕を含めた四人の男性と三人の女性が写っていた。この写真は向こうの世界でヒーローを撮るために持ち歩いていた僕のカメラで撮ったもので宝物だ。
母さんには変わった写真だったこともあり色々突っ込まれたがうまいこと言い訳をした。コスプレ、遠い友達で今は会えないなど。最終的には友達が出来たのねと泣いて喜ばれた。
「さすがにちょっと無理があったかな……」
引き出しの中には向こうから持ってきた魔弾がある。ルーティエさんから貰った魔力が込められている弾でこちらの世界では存在しないものだ。彼女には向こうで拳神より前に銃の使い方について教えて貰っていた時期があったのでその時に貰ったものだ。こちらの世界では使えないだろうが同じく大切な宝物である。
「よし」
僕は気合いを入れて机に座り教材と向かいあう。三年間という長い時間を向こうの世界で過ごし勉強から離れていたことで僕の学力は落ちており元の学力を取り戻すのにとても苦労している。受験まで忘れた知識を取り戻すことも考えると時間は足りないので通常の倍は勉強しないといけない。
僕は集中して勉強を始めた。
「ご飯できてるわよ」
「美味しそう!」
「ちょっと待ってて。お茶入れるわね」
夕御飯の時間になりリビングへ向かうと美味しそうなホッケとご飯がテーブルの上に並べられていた。
席に座るとふとテレビがついており、お馴染みNo.1ヒーローが写っていた。
「オールマイト……」
「また事件を解決したみたいよ」
「そうなんだ」
「出久」
名前を呼ばれ母さんの方を見る。
そこには悲しいようで不安そうな表情を見せる母さんの姿があった。
「志望校だけど……」
「あぁ、しっかり答えを出すよ。学力的にギリギリになると思うけど〜校とか」
「雄英高校ではなくていいのね」
「……うん」
この話しの後は特に会話は続かず、夕飯を食べ終わり僕は自分の部屋に戻って行った。
「この町のスーパーは……」
数日後の休日、僕は母さんから頼まれたものを買いに少し遠くにある町の商店街を歩いていた。スマホの地図通りならこの先に目的のスーパーがあるはず。
本来なら自分が住んでいる家から近いスーパーに向かうのだが目的のスーパーにヴィランの襲撃があったり、まだ捕まっていないため近くのスーパーのほとんどが本日限り閉まっていた。暫く机と向かい合ってたこともありこれを機に運動がてら結構遠い場所まで来てしまった。
『やっぱり今日はやめておいた方が』
『大丈夫だよ。遠いところに行くから』
『何かあったらすぐに連絡するのよ……』
『うん』
母さんはものすごく心配していて、代わりに行くなんて言い出しかねなかったが逆にそっちの方が僕の心臓に悪い。
「……っ!」
僕は少し離れた路地裏の方で瞬間的な氣の流れを感じとる。それも複数回で普段は感じない氣の流れ。この流れは誰かが個性を使っている。さらに別の氣も感じる。
明らかなトラブルのにおい。本来、プロヒーローや警察を呼ぶべきだが、すでにことが起きてることから間に合わない可能性が高い。
僕は思わず足が路地裏の向けそうになるのを止める。ここで僕が向かえばなんとかなるというのはうぬぼれだ。それはヒーローを呼ぶことと同じように間に合わない可能性だってある。
僕はあきらめてスマホからヒーローを呼ぼうとと思ったその時、路地裏の方から女性の声が僕の耳に入る。
同時に過去の記憶が僕の頭をよぎった。
『……デク』
それはいつか聞いたセリフ。忘れたくも忘れない少女の声だった。
「くそ!!」
気付けば僕は無我夢中に路地裏へと駆け出していた。