諦めた主人公のヒーロー美学 作:通りすがりのヒーロー
「おいおい、この服どうしてくれるんだ?」
「えーっと、ごめんなさい」
私は遠いおばあちゃんの家に遊びに来てたんだけど……不良に絡まれてちゃったようだ。
しかも、向こうからぶつかってきた癖に多額の弁償金を請求してきてるときた。
「おい、これ高かったんだぞ!」
「えー、これで足りるかな」
「たりねぇわ!!」
どうやら私のなけなしのお小遣いじゃ足りなかったらしい。すると、相手の手のひらから糸のようなものが出てきた。
……って
「個性はダメでしょ!」
「はっ、金を出さない嬢ちゃんが悪い」
「……っ!」
不良が飛ばしてきた糸を反射的に避ける。
「動きはいいな」
「一応、格闘術を習ってるので」
「そうかい……ならこれならどうだ!」
糸は分裂して私の動きを止めようとして囲ってくる。
私は上にジャンプして避けた。
「なんだ。個性は使わないのかよ」
「……私はあんたみたいな不良と違ってヒーロー志望なの!」
「なるほど。いい子さんか」
「個性なんて使わなくても、あんたなんか倒せるわ」
私はそのまま不良の正面に移動して拳を腹にぶつける。しかし……硬い。
「くっくっく、やれ!」
「……っ!」
不良が合図を出すと同時に、地面が揺れる。
私は思わず体勢を崩して足がついた。その瞬間、狙ったかのように不良の蹴りが腹にめり込む。
「なんで私の拳が……そういうこと」
「ははは、ごめんな。俺の個性はこんな使い方もあるんでな」
彼のお腹を見ると先ほどの糸が重なって、お腹を守っていたようだ。
「というか、仲間がいたなんてね」
「あぁ。さっきの地面を揺らしたのと、見張りに一人だ。だから安心してボコられていいぜ」
「女の子、一人いたぶるのに3人がかりなんて最低ね」
「くっくっく、悪く思うなよ」
「……っ!」
あーあ、ヒーローか警察呼んでおけばよかったな。
でもまだ少しだが手は動く。個性を使えば……。
私が個性を使う瞬間、不良の後ろから声が聞こえた。
「ごめんね」
その一言と共に不良は地面に倒れる。
頭が追いつかない私を他所に目の前には自分より少し小さい男が立っていた。
「大丈夫?」
「ええ、ありがと」
僕は先ほど不良と戦っていた女性に手を伸ばす。彼女は僕の手を取って立ち上がった。
「さっきのは個性?」
「んっ、ああそこからじゃ見えなかったのか。ちょっと軽く殴っただけだよ」
「他にも仲間がいたんだけど君が?」
「……どうやらトイレが近かったらしくて」
「?」
「えっと、なんでもない。とにかく無事で良かった」
彼女は僕の言葉に首を傾げるが、直ぐに笑顔でお礼と自己紹介をしてきた。
「さっきはありがと。私は拳藤一佳! あなたは?」
「緑谷出久。とりあえずここから離れようか」
「ええ」
路地を抜けるために歩き出す。詳しく話しを聞くとどうやらここら辺に住んでいるわけではないらしい。
「それにしても災難だったね。せっかく遠くまで来てたのに」
「ほんとよ。というかあなた強いのね。不意打ちとはいえあの不良をのすなんて」
「それはこっちのセリフだよ。君もものすごく強かったじゃないか」
「まぁね、格闘術を学んでるし。あなたもそのくち?」
「……まぁ、そんなところかな」
僕は適当に誤魔化す。あんま自慢する気もないし。
「そうだ、見張りの不良もあなたが倒したの?」
「見張り?」
「そう。地面をゆらす個性持ちとは別にいたらしいんだけど……」
「えっ、そんなはずは……」
僕が見たのは先程の親玉と地面を揺らしていた不良のみ。その他に人や気配なんて……その瞬間、地面が揺れた。
この氣は……下から!!
「きゃっ!」
「拳藤さん!!」
すると地面に穴が空き、拳藤さんが地面に連れ込まれる。僕は避けることに意識し過ぎたせいか彼女の手を掴むことができかなかった。
……本当に僕ってやつは
車並みの速さで離れていく敵の氣を感知しながら僕は悪態をつく。僕は直ぐに地面に戻り、氣を感知しつつ犯人が開けていった穴を全速力で追っていった。
「ここは……」
確か何かに足を掴まれてそれで……。
「……いたっ!」
自分の手を見ると傷が出来ており、手から血が出ていた。手は痛くて動かせないが足はまだ動く。
「これなら……」
私は重たい足を上げる。するとその瞬間、後ろの地面が盛り上がり何かが表に現れた。
「……」
「うそ……ヴィランなの?」
姿からしてもぐらのような体をした男。なにより先程の不良とは違うオーラがある。地面の中を自由に動けたり、その見た目から異形型の個性だろうか。するとその大きな体がこちらに迫ってくる。私は辛うじて動く足で後ろに跳んだ。
「とりむあえず、ヒーローを呼ばなきゃ」
私は懐からスマホを出そうとすると、再び地面が揺れてスマホが地面に落ちる。
「しまった!」
「……」
さらにヴィランはこちらに迫ってきており、そのままぶつかり私は後ろに飛ばされた。
「がっ……」
息がつまる。
木にぶつかった私は思わず足をついた。
「……足が動かないなんて」
ヴィランはゆっくりとこちらに歩いてくる。
ふと横を見ると先程の不良の仲間と思わしき男性が倒れていた。目的はわからないがこのヴィランは人攫いをしているらしい。
「……」
普通とはかけ離れたヴィランは私の前に来ると、拳をふりあげる。私は個性を使って拳を大きくてヴィランを止めようとする。
……っ、踏み込めない
しかし足が動かずに手だけの力ではヴィランを離れさせることはできないでいた。
ゆっくりとヴィランのパワーに押され、私を潰そうと迫る。
___その瞬間
「……間に合った」
ヴィランは私の真横に吹き飛んだ。
「大丈夫、拳藤さん?」
「ありがとう。というかさっきのは個性? すごいパワーね!」
「……うん、まぁそんなところ」
拳藤さんこ質問にぼかして答える。ついつい派手にやりすぎてしまった。僕はふとヴィランの方を見ると木にぶつかって倒れており、ゆっくりと立ち上がった。
「あいつ」
「下がってて」
僕は怪我をしている拳藤さんを下がらせる。
ここは町外れの山の中。多少痕跡を押さえて気を失われば戦える。僕は久しぶりに振るう拳を再度握るとヴィランと向き合う。ヴィランは相変わらず一言も声を発さずに地面に潜った。
「また潜った」
「大丈夫。あのヴィランの氣は覚えたから」
「……えっ」
ヴィランの氣が僕の真後ろに近付いてくる。僕は自身の氣を足元に集中し、瞬時にヴィランの出現位置の後ろに移動した。
「……っ!」
「まず一撃」
地上に出たヴィランに拳がめり込む。続けてヴィランの反撃。大きな手を使って僕を潰しにくるが僕はそれを避けてもう一撃を放った。ヴィランの少ない氣を乱す。
「これで終わりっ!」
僕は最後に足を思いっきり踏み込み、この戦闘で一番強い力と氣を込めて殴る。ヴィランは膝から崩れ落ちて地面にあを向けにして倒れた。
「……すごい」
「あとはヒーローか警察を呼んで……っ!」
突然、後ろから奇妙な氣を感じとる。
僕は平静を他所良い、拳藤さんに近付く。
「どうしたの?」
「ちょっと足を見せて」
僕は拳藤さんの足に手を当てて、彼女の足の氣を整える。
「これで少しはマシになったかな」
「えっ、嘘! 足が軽い」
「応急処置だけどね」
「緑谷くん。ほとんに何者?」
「……出来ればこのことは秘密にしてほしい」
「何か事情があるんだね。……分かった」
彼女は真剣な顔で僕の言葉に頷く。ひとまず彼女を信じよう。今回の件は少し無理があるが偶然この場所にヴィランが倒れていたということに決め彼女に納得してもらった。
「拳藤さん。もし良かったら少し下まで降りて誰か読んできてもらっていいかな。ヒーローや警察も呼んできてくれると助かる」
「緑谷くんは?」
「ごめん、ちょっと疲れちゃって。ここで休んでるよ」
「分かった。まってて」
拳藤さんは駆け足で下に降りていく。僕はそんな彼女の後ろ姿を見届けると後ろで隠れている何者かに声をかけた。
「そこにいるんでしょ。出てきていいよ」
「これは驚いた。気配は消していたのですが」
そのヴィランは黒い霧を出して姿を現した。姿はバーテンダーの服を着ており、黒い霧を出している。声からして男性のようだ。
突然現れたことから瞬間移動を使える個性だろうか。状況から考えて目の前で倒れているヴィランの仲間だろうが……。
「このヴィランの回収が目的?」
「さすがにわかりますか。どうでしょう彼をこちらに渡してはくれないでしょうか」
「……断るといったら」
「力詰くで……といいたいところですがやめておこう。なかなかの強者のようだ」
「……っ」
正直、引いてくれるのは助かった。
ヴィランの瞬間移動に完全についていくのは恐らく困難であると思ったからだ。
「どうやら此方に攻撃しようと言う意思はないようで安心しました」
「僕はヒーローじゃないからね」
「でないのにその実力。良ければ仲間になりませんか?」
「ことわるよ。ヴィランになるつもりはない」
「残念です」
その一言を最後に目の前のヴィランは姿を消した。
俺はヴィランの氣がなくなることを確認すると安心して力が抜ける。
「……この世界も平和からはほど遠いな」
その20分後、拳藤さんと合流。さらにヒーローと警察が到着。拳藤さんと事前に話していた通りにここに偶然ヴィランが倒れていたことを説明しこの事件は幕を閉じる。
しかしその三日後、このヴィランは搬送中に何者かに襲撃されて、行方不明になった。