遅刻ギリギリでなんとか朝の教室に入ると、机に見覚えの無い封筒が置かれていた。
「……?」
「レン君、どうしたの?」
「なぁ牛込、これ、お前が置いたのか?」
「いや、私が来た頃にはあったけど、レン君のじゃないの?」
「「……?」」
首を傾げながら封筒を開くと随分とオシャレな手紙が出てきた。
『ご機嫌いかがかな。不器用な少年たちよ。
本日、来たる時。君たちの大切なものを頂く。
怪盗ハロハッピー』
「なんだこのふざけた名前の野郎は。頭パープリンなのか?」
「それは分からないけど……でも確かに今どき怪盗って聞かないよね」
「誰かのイタズラか?一応、今日中は警戒しとくか」
「何も無いといいけど」
牛込がそう言った辺りで、担任がホームルームの開始を告げた。
今日の朝は、随分と不思議な始まり方を迎えたのだった。
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そして、今日の全ての授業が終わり、俺たちは帰りのホームルームを迎えていたが、怪盗は一向に現れなかった。
そして、担任はそのまま退屈な話も終えて、外へ出て行ってしまった。
「怪盗さん、結局来なかったね」
「そうだな。やっぱりただのイタズラだったか。大切なものを頂くとか抜かしてたが、結局怪しい奴が現れたりはしていないし──」
「だからと言って本当に取られていないと言えるかな?」
「「……!?」」
教室の後方、声のする方へ振り返ると、そこには黒の外套を羽織り、マスクで目の周りを隠した長身の美形が佇んでいた。
突如現れた美形に、教室中からちらほらと黄色い声が上がる。
「おいテメェ、いつ入ってきやがった?」
「ついさっきだよ。目的を果たすためにね」
「ってことは俺に変な手紙送ってきやがったのはお前ってことでいいんだな?」
「あぁ。君の大切なものを頂きに来たんだ」
「させると思うか?」
「いいや。既にさせてもらっているよ。君の大切なものはもう私の手の中だ」
「嘘だな。お前はまだこっちに近づいてすらいない」
「これを見ても、君は同じことが言えるかな?」
「何だと?」
そう言いながら、怪盗は懐から1つのケースを取り出した。
どこにでも売ってある、SDカード用のケースだ。
「お前……!」
「そうとも。これは君がこれまでに撮影してきたガールズバンドの写真および、今までに作成してきた記事の、バックアップを含めた全データだ。作成中のものもあるのかな」
「こいつ……!」
不思議なものだ。人間、怒りがゲージを振り切ってしまうと、かえって冷静になるらしい。
「ふぅ……。おいコソ泥。バカなことは止めて大人しくそのケースを渡すんだ。今なら冗談やイタズラってことで済ませてやる」
「悪いがそれは出来ない。私にも目的があるからね」
「そういうのいいからさっさと返してくれよ。そもそもソレは、お前みたいなやつが軽々しく触っていいモノじゃない。ソレはガールズバンドの頑張りの一部でもあり、俺の存在意義そのものだ。ここまで好き勝手やられてんのに笑って許してやると思うか?」
「そうだね。君の想いは分かるが、それでもやはりダメなんだよ」
「なるほど。じゃあ敵と考えていいのか?お前は、敵なのか?」
「……君はどう思う?」
「ありがとう。つまり敵でいいんだな?お前は。なら一つ言っとくが、俺はあの説教くせぇバカ姉貴みたいにお人好しじゃねえ。別に暴力で叩き潰してやってもいいんだぞ?最後の忠告だ。……頼むから返してくれ」
「ふっ、そうかい。なら1つ教えてあげよう」
怪盗は不敵に笑ってこう言った。
「『返せ』と言われてただで返す怪盗は居ないのさ!」
ボンッ!
怪盗がそう言い放った瞬間、教室中が煙に包まれて、周りの視界をすべて遮った。
「煙幕だと!?」
「さらばだ!」
「ちょっ、ふざけんな!待ちやがれ!」
扉の開いた音を頼りに、俺はそのまま怪盗を追いかける。
帰りの時間になって人通りが多くなった廊下を全力疾走で駆け抜ける。
「(全然追い付けねえ。どんな足してやがるんだ)」
「そんなに易しいチェイスでいいのかい?このままでは私が逃げ切ってしまうよ?」
「テメェの足が速すぎるんだろうが!シンボリルドルフみてぇな声しやがって!」
なんなら今は、追い付くどころか寧ろ離されている。
そして離されたまま、怪盗は窓のある場所に差し掛かかった
「では、この鬼ごっこは私の勝ちだ」
「勝手に決めてんじゃ──」
「とう!」
それだけを言い残し、怪盗はそのまま窓から外へ飛び出した。
「何!?」
しかし、飛び降りた訳ではない。
あろうことかあの怪盗は、飛行中のヘリコプターからぶら下がった縄梯子に掴まりながら高らかに勝利宣言を決め込んでいたのだ。
「予告通り、大切なものは全て頂いた!」
「野郎……!」
「はっはっはっはっはっはっはっ……!(落ち着け、命綱も安全装置も万全だ。下の方さえ見なければ問題無い。問題無いんだハロハッピー!)」
情けないことに、俺は怪盗ハロハッピーを見事に取り逃がした。
しかも廊下を走って悪目立ちしたせいで、その現場は多くの同級生に見られたらしい。
「あの野郎……!」
「レンくーん!!」
怪盗に悪態をついたのも束の間。戸山の騒がしい呼び声と足音が響き渡る。
「戸山?」
「大変!大変なの!」
「大変って何が──」
息を整えた戸山から言葉が続けられる。
「りみりんが、居なくなっちゃったの!」
「……!?」
頭の中でリフレインしたのは、怪盗の去り際のセリフ。
『予告通り、大切なものは「全て」頂いた!』
まさか、データだけじゃなかったのか!?
そう思う頃には、既に戸山を置き去りにして走り出していた。
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教室に戻ると、クラスメイトは殆どいなくなっていた。
いるのは山吹と花園、そして俺と一緒に教室に入った戸山。
そして……。
「なんでお前がここにいるんだよ。地味女」
「あたしだって来たくなかったよ。でも仕方ないでしょ。こんなのが届いて、こんなことになってるんだから」
「あぁ?」
奥沢が持っていたのは、俺のところに届いていた手紙と同じものだった。
しかし内容は予告じゃない。
『ご機嫌いかがかな。不器用なお嬢さん。
つい先ほど、君の大事な友人を頂かせてもらったよ。
返してほしければ、1年A組の教室を訪ねるといい。
続きのメッセージは、教室で。
怪盗ハロハッピー』
「それでA組に来たらりみは居なくなってるし、あんたは帰ってくるし」
取り敢えず、こいつがここに居る理由は分かった。
なんか関係者らしいが今はどうでもいい。
問題は……。
「山吹。牛込が居なくなったって……」
「今井君、そうなの。教室の煙が消えた時に気付いて……」
「くそっ、俺が怪盗に気を取られてる隙に……!」
「あとレン。レンの机にこんなのが置かれてたんだけど」
そう言いながら花園が何かを渡してきた。
「ボイスレコーダー?」
「レンのじゃないよね?」
「あぁ。これが俺の机に?」
「うん。これも煙が消えた時にいつの間にか」
受け取って再生ボタンを押すと、随分ふざけた音声が流れ始めた。
『やぁ。君たちがこの音声を聞いているということは、もう私はりみちゃんと新聞部のデータを頂いた後ということだね』
「野郎……!」
『今井レン君、そして奥沢美咲さん。大切なものは全て私の手の中だ。しかしこれでは、あまりにも予告通りすぎて芸が無い。だから、私と1つゲームをしよう』
「なんだと?」
「ゲーム?」
『なに、難しく考える必要は無い。私とゲームをして、君たちが勝てば頂いたものを全て返してあげよう。データと共にりみちゃんを見事に奪還できれば君たちは白馬の王子様だ』
「ふざけやがって」
『では、まずは最初。ゲームの内容は簡単な知恵比べだ。白馬の王子には知性が必須だろう?それじゃあ、羽丘の2年A組で君たちを待っているよ』
「あの人、また勝手なことを……」
『そして最後に私から、被害者でありゲームの参加者の2人である君たちにメッセージだ。ゲームをクリアしたいなら、2人で力を合わせて協力することだ。君たちであれば、きっと切り抜けられるかもしれない』
「はぁ?」
「協力だぁ?」
怪盗が俺たちの言葉に反応することもなく、そのまま音声は流れ続ける。
『さぁ受け取りたまえ。予告状に次いで、怪盗ハロハッピーからの挑戦状だ!』
音声はここで途絶えた。
そしてそのタイミングで、奥沢のスマホが通知を鳴らす。
「何?りみのスマホから?って、これは……!」
奥沢が戸山たちに見せている画面を勝手に覗くと、怪盗と共に捕らわれの身になった牛込の画像が送信されていた。
野郎、データのみならず無関係の他人まで……。
何の目的でこんなことをしやがったのかは知らないが、もう頭に来た。
もう冗談やイタズラなんて言い訳じゃあ済まされない。
アイツは敵だ!
アイツが、これ以上に俺の居場所を脅かしに来る刺客だと言うのなら……!
「上等だ。返り討ちにしてやる……!!」
頭に血が上ってブチギレる感覚。
教室には、俺の手で握り絞められて軋みをあげるレコーダーの音だけが響いていた。
あぁ、今にもおかしくなりそうだ。
次の更新は、明日。
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