ガールズバンドとシチュ別で関わっていく話   作:れのあ♪♪

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小話3.謎とカチ込みと第1のゲーム

 

 レコーダーの音声が切れてから、しばらくの沈黙が支配した。

 

「レン君……」

「悪い戸山。俺のせいで牛込まで巻き込んじまった」

「いや、これはレン君のせいじゃ……」

「日没までにはあいつを連れて帰る。……こうなりゃカチ込みだ」

 

 そうと決まれば──

 

「待って今井。ここはあたしが行く」

「あぁ?」

「身内の不始末……って言うとちょっと違うけど、あの怪盗とは知った顔だったりもするし……りみまで巻き込むのはやり過ぎだってことぐらいは言っとかないとさ」

「知った顔だと?」

「まぁ、お友達って訳でもないけどね。取り敢えず、りみが酷い目に遭ってるとかは無いと思うし。事態はあたし1人で収集はつけられるから」

「……」

「あんたのデータも、そのついでに取り返してあげるよ。流石に今回のは悪質が過ぎると思うしさ。少なくとも軽くとっちめるぐらいはしなきゃ」

 

 俺の肩を軽く叩いて、奥沢は外へと歩こうとする。

 しかし、それを許容する訳にはいかない。

 

「待て奥沢」

「何?」

「これは俺が原因で起こったことだ。俺の問題である以上、これは俺が1人でどうにかする。お前が動くことはない」

「いや、だから気にしなくていいんだってば。そんなこと」

「気にするとかしないじゃなくて、俺がどうにかするって言ってんだろうが」

「あたしがどうにかしてあげるってのが聞こえなかった?」

「さっきからイラっとしてたけど『してあげる』ってなんだよ。偉そうに。それで施しのつもりかよ。人を見下すのも大概にしとけよ?」

「はぁ?」

「あのー、2人とも?」

 

 奥沢との議論は、一向に進まない。

 戸山の声を無視して、奥沢と向き合っても、そもそも話が通じない。

 マズい。さっきやっと冷静になったのに、またイライラしてきた。

 

「これは、いつものヤツだね……」

「もー、またケンカ?」

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「だから!これはアイツがふっかけて俺が買った喧嘩なんだから部外者は引っ込んでろって言ってんだよ!」

「あたしだって友達連れてかれてるんだから立派な関係者だよ!」

「とにかく俺が行くって言ってんだ!」

「あたしがやるって言ってんじゃん!」

 

 しばらくしても、議論は未だに終わらなかった。

 

「ねぇ、おたえ。流石にアレ、止めないとマズいんじゃない?普段あんまり感情とか出さないタイプの2人が胸ぐら掴みそうな勢いで言い合いなんて」

「そうかな?じゃあ香澄が止めてくれば?」

「えっ……」

「止めないとマズいんじゃないの?」

「そ、そうだけど……」

 

 ・・・

 

「ふ、2人とも?喧嘩はやめ──」

「「すっこんでろ!!」」

「ヒィィィ……!ううっ、さーやぁ……」

「うん。まぁ、流石にこれ以上はダメだよね。ほーら2人とも~?」

 

 俺達の話し合いに、山吹が無理やり割って入ってくる。

 結構激しくなっているのに、臆した様子は無い。

 

「取り敢えず冷静になりなって。ムキになってキレるとか2人らしくないよ」

「「だってコイツが──!」」

「はいはい。そこまで。クールにいこ?」

 

 邪魔が入った。

 

「取り敢えず、今井君はデータ盗られて、美咲はりみりんを盗られたってことでいいのかな?まぁ、りみりんが誰の所有物なのかとかの話は置いといて、ひとまずこういう状況ってことでしょ?」

「そうだけど……」

「それで、2人とも怪盗さんにカチ込む理由があって、怪盗さんも2人を名指しで呼んでいて、なんなら『2人で協力しろ』みたいなことまで言ってたんでしょ?」

 

 ・・・

 

「だったらもう、2人で仲良く一緒に行くしかないんじゃない?『どっちが行くか』とかじゃなくてさ」

「「……はぁ?」」

 

 コイツと?ありえないだろ。何言ってんだこの女。

 試しに奥沢を見ても、碌な表情してない。

 

「なにガン飛ばしてんの?」

「あーん?」

「まぁまぁ。確かに露骨に嫌そうな顔したい気持ちも汲んであげたいけどさ。こうしてる間にもりみりんは捕まってる訳だしさ。わざわざ2人で喧嘩して時間食うよりは建設的だと思うけど……」

「「……」」

「私たちも、ベース担当がいつまでも居ないのは心配だからさ」

 

 一度冷静になって考える。確かに俺がこの女に割いてる時間なんて無駄もいいところだ。

 『仲良く』という部分には反対だが、さっさと急いだ方がいいのは事実。

 

「おい奥沢」

「なに?」

「邪魔だけはすんなよ」

「偉そうに」

 

 この言葉を最後に、俺たちは怪盗の待つ羽丘へと向かっていった。

 急いだ方がいいんだから仕方ない。

 

「ふぅ~。やれやれ。あの2人ってあんなに我の強い性格だったっけ?もっとクールで穏やかなイメージだったんだけど」

「なぜかレン君と美咲ちゃんの組み合わせだと、あんな風になるんだよね」

「相性悪いんじゃない?」

「だとしたら一緒に行かせたの、やっぱりマズかったかな?」

「今日以外でも常に仲悪いし……」

「花咲川最悪のコンビだ……」

 

 ・・・

 

「「「(大丈夫かなぁ……?)」」」

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 羽丘への道中は疲れるだけなので口喧嘩を停戦し、俺たちはそのまま羽丘の廊下を歩いていた。

 

 そして……

 

「2年A組、ここだな」

「ハロハッピーが待ってるって言ってた場所だね」

「よし、開けるか」

 

 ガッ……!

 

「「……」」

「くっそ。鍵かかってら」

「カッコ悪」

「うるっせぇぞ。ったく自分で呼び出しといて閉じこもってやがるとは、根性が足りねえようだなぁ。ふっざけやがってよぉ……!」

 

 ただでさえ頭に血が昇って吐き気がするほどイライラしてるって時にこんな煽り方とは、よほど死にてえらしい。

 

「どうすんの?中にはそれなりに人も居るっぽいけど」

「あぁ?どうするって、鍵かかって開かねえんだから……」

 

 扉から距離を取って軽く跳ねる。

 

「こうすんだよ!」

「ちょっ、あんたまさか──」

 

 助走、左足を軸とした回転、この間、僅か0.3秒。

 

「出てこいやコソ泥オオォォォ!!!」

 

 バゴアァァァァァァッッ!!!

 

 蹴撃一閃。

 たった一発の回し蹴りを入れると、扉はくの字に曲がって教室の中へと飛んで行った。

 叫び声を上げながら扉を蹴り破ったからか、教室中の視線が集まる。

 

「あん、た……何し、て……」

「おいコソ泥。隠れてないでさっさと出てこいよ。それともブルっちまって声も出ねえか?」

 

 怨嗟を交えて教室中に語りかけるが、奴の気配は無い。

 自習中の生徒が、何人かいる程度だ。

 

「ちょっと、あなた!」

 

 教室中を見回していると、メガネを掛けた真面目そうな女子生徒が俺の手を掴んできた。

 

「どういうつもりですか?いきなり現れてこんな──」

「手ェ離せよ。テメェもあの扉みたいにしてやろうか?」

「ヒッ……」

「もしもアイツを庇ってるんだったら容赦しな──」

「ちょっと今井!!」

 

 怯えた女子生徒を庇うように奥沢が立ちはだかり、怒鳴りつけてそのまま俺の胸ぐらを掴んできた。

 

「あんたマジで何しに来たの!?勝手に扉壊して、無関係の人にまでこんなことして!穏便に済まそうとか思わないわけ!?」

「穏便だぁ?甘いぜ奥沢。甘々だ。そもそも、俺がこんな喧嘩の売られ方をしてるのは向こうに舐められてるからだ。こういうのは最初に弱いって思われたらその時点で終わりなんだ。言っといてやるが既に喧嘩のゴングは鳴ってんだぜ?大切なものまで奪われてあんなに好き勝手やられた以上、自分が誰に喧嘩売ったのかってことを思い知らせてやらなきゃダメなんだよ」

「もうちょっとやり方とか考えられなかったの?」

「お前は敵陣に乗り込む時に『お邪魔します』で済ますのか?あんなに好き勝手にやられてんのに随分お優しいことだな。弱っちいにも程があるぞ」

「不必要に浅ましさだけで振るうだけの暴力なんて強さじゃないよ」

「うるせぇなぁ……」

 

 睨み合いが始まる。

 だが、もう呆れたかのような表情で奥沢がやめた。

 メガネの女子生徒も、もう自分の机に戻ってしまっている。

 

「もういい。無駄な時間だ。話を戻そう。とにかくハロハッピーは居ないんだよね?」

「はぁ……。そうだな。最初はさっきの女がグルだと思ったんだが。そうでもなさそうだし、この教室の連中は何も知らない無関係って感じか。ったく使えねぇ」

 

 教室の連中は、もう誰も俺たちを見ていない。

 いや、見ないようにしているのだろう。いきなり扉を蹴り破って挙句勝手に言い争いを始めた2人組なんて関わりたくもないだろうし当然だ。

 ……と、思ったが1人だけ例外が居た。

 るんっ、とした表情で、いつの間にかかなり近くまで寄ってきていた。

 

「ねぇねぇ2人とも。そろそろいいかな?」

「日菜さん……」

「氷川さん、どうしたんですか?」

「『どうしたの?』はこっちのセリフだよ。リサちーの弟くん。かなり面白い登場してたけど」

「その呼び方やめてくれません?ムカつくので」

「ちょっと今井!まだ血昇ってるの?年上にそんな態度──」

「じゃあ、あたしも『日菜』って呼んでよ。おねーちゃんと被るから、ね?レン君」

「凄い、こんな奴にも大人の対応だ……」

「……分かりました。日菜さん。話を戻しましょうか」

「そうだね。リサちーに会いに来たんだったら、今は職員室で課題のアドバイス貰ってるよって伝えようとしたんだけど、リサちー目当てじゃないっぽいよね?」

「はい。じゃあ、俺たちが来た目的から話しましょうか」

 

 そういう訳で俺達は、ここまで来た事情を日菜さんに話すこととなった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「そっかぁ。新聞部の全データかぁ……。レン君があんなになるまでカンカンに怒ってた理由、やっと分かったよ。それは仕方ない」

「いやいや仕方なくないですよ。寧ろデータ如きであんなに暴れて、男のくせに器小っちゃすぎかっての」

「なんだとコラ。テメェに何が分かるんだよ……!」

「あんたのバカさ加減は充分すぎるぐらいに分かったけどねぇ!扉壊して無関係の女の人にまで乱暴なこと言って!」

「あぁ!?」

「まぁまぁ。2人とも落ち着いてよ。さっきの話で思い出したけど、あたし、実は1つ気になるものを持ってたんだよ。昼休みに机に入ってたんだけどさ」

「気になるもの?」

 

 そう言って日菜さんのスカートのポケットから出てきたのは、怪盗の予告状が入っていた封筒と同じデザインだった。

 

「『然るべき者たちが来たら渡すように。それまで中身は開けないこと』って書いてあったんだけど、然るべき人は、多分レン君たちだよね。だから渡してあげる」

「今井、これって……」

「あぁ。恐らくアイツが言っていたゲーム関連だ」

 

 日菜さんから封筒を受け取り、そのまま中身を確認する。

 そして、確認して訳が分からなくなった。

 封筒の中身は……。

 

『ヲヌヲゾチテギマテバヨネツホウコ

 

 これが次のステージへの案内状だ。

 私は常に、君たちの一歩先を行く。

 怪盗ハロハッピー』

 

 読ませる気無いだろコイツ。

 

「最後の文章、間違いなく煽ってるな。俺よりちょっと足が速かったからって調子に乗りやがって……!」

「まぁ、それは知らないけど謎解きって言ってたでしょ?取り敢えずこの暗号をどうにかしようよ」

「いいや。その必要は無い」

「はっ?なんで?」

「なんでってお前。ふふっ、ははっ、はっはっはっはっはっはっは……」

「まさか、もうこの暗号の解き方が分かったの!?」

「さっぱり分からない」

「おいコラ!」

 

 俺みたいなバカにこんなごちゃごちゃしたものが分かる訳がない。

 でも……。

 

「考えはある」

「考えって?」

「『これが次のステージへの案内状だ。』って書かれてるってことは、多分暗号を解いたら次に行くべき場所が書かれている」

「そんなの、誰でも察しつくでしょ」

「でも俺はバカだ。こんな暗号の解き方なんて分かる訳がない。でも、『俺に解き方なんて分かる訳がない』という絶対的な事実は分かりきっている。分かり切っているなら、やることだって決まってくる」

「どうすんの?」

「この学園の全教室の扉を蹴り破って一個ずつ確認する」

「知性の欠片も無い!『考えはある』って言い放った人間のセリフとは思えないぐらいのパワー戦術!」

「これでホントに全部蹴り破る現場を見たら怪盗だって焦るだろ」

「絶対普通に謎解いた方が早いでしょ」

「100年あっても俺には解けん」

「いや、この学園の規模でローラー作戦は無理があるし、あと絶対に扉を蹴り破る必要は無い。解く気が無いならあたしがやるから手紙渡してよ」

「なに俺に指図してんだよ。怪盗より先にテメェから潰してやろうか?」

「なに?まさか本当に正攻法でやらない気?」

「はっ!誰があんなコソ泥の言葉遊びになんか付き合ってやるかよ」

 

 手紙を握りつぶしながら、俺は教室を後にしようとしたが、歩き出した瞬間にボソッと日菜さんの声が聞こえた。

 

「意外だなぁ。レン君って負けとか認めるタイプなんだね」

「は?」

「だってそれをやるってことは、出題者の怪盗さんに『ぼくは解けません』って言ってるようなものでしょ?好き勝手にやられたのに『ぼくは正攻法で解くこともできないおバカなんです』って言いに行くようなものじゃん?自分からバカにされようとするなんておかしくない?教室に入る時にあんな啖呵切ってたくせに。……もしかして、レン君って負けたいの?」

「……」

「あれ?あたし、何か間違ったこと言ってる?的外れだったりした?」

 

 こんな考え方、普段ならスルーするに決まってる。

 でも、俺は一瞬でも想像してしまった。

 ただでさえデフォルトで頭に血が昇ってるのに、その上で怪盗の前に屈伏を認める自分自身の姿を。

 そして、その自分自身が俺の逆鱗に触れた──!

 

「やってやろうじゃねえかテメェこの野郎!秒で解き倒したらぁ!!」

「あははっ、やっぱりレン君って単純で面白ーい」

「何コイツ、あたしの言葉は聞かなかったくせに」

 

 近くの机に手紙を叩きつけて、文章を確認する。

 

『ヲヌヲゾチテギマテバヨネツホウコ

 

 これが次のステージへの案内状だ。

 私は常に、君たちの一歩先を行く。

 怪盗ハロハッピー。』

 

 くそっ、やっぱり訳分かんねえ。

 俺1人じゃどうしようもない。

 

「貸して。あんた、どうせあたしよりバカなんでしょ?」

「要らねえよ。これは俺の喧嘩だ。そもそもお前はこういうの得意なのかよ?」

「貸せって言ってんの。別にあたしだって得意って程じゃないけど、考えようはあるでしょ。こんなのノーヒントで解ける暗号じゃないし、ヒントは絶対ある。ヒントになる文章があるとすれば、次の場所を示す部分と『怪盗ハロハッピー』の部分を抜いて……」

 

『私は常に、君たちの一歩先を行く。』

 

「これだと思うんだよね」

「こんなのただの煽りだろ?」

「流石にそこまで性格悪くはないと思うよ。あんたじゃないんだから。」

「あぁ?……チッ、まぁいい。それで?」

「それで『たぬき』構文みたいに『た』を抜くみたいな発想で順当にいくと……」

「『一歩先を行く』ってのは……」

「五十音順に、一個ずつ進める?……ってことかな。今井、もし今も取材用のペンとか持ってるなら──」

「やってみるか。じゃあつまり……」

 

『ヲヌヲゾチテギマテバヨネツホウコ

 ↓↓↓↓

 ンネンゼ

 

「ダメだね。もう違う」

「誰だよンネンゼって」

「こっちが聞きたいよ」

「あんだけ偉そうにしてたくせに結局このザマかよ。使えねぇ」

「はぁ?」

「いや、発想は美咲ちゃんの考えであってると思うよ」

「「日菜さん?」」

 

 俺たちの顔の間から、日菜さんの顔が割り込んできた。

 

「レン君たち、そもそも忘れてない?怪盗さんは1歩先を行くんじゃなくて『常に』一歩先を行くんだよ?」

「えっと、つまりどういうことだ?」

「そっか、一歩進めるのは、五十音順だけじゃない」

「待てよ。じゃあ他にどこを進めるってんだ?」

「他にできるとしたら、文章全体かな。最後の文字を最初に持ってきて、後の全部を進める。そうすると……」

 

『ヲヌヲゾチテギマテバヨネツホウコ』

『コヲヌヲゾチテギマテバヨネツホウ』

 

「そして、またさっきみたいに五十音順を一個ずつ進めれば……」

 

『コヲヌヲゾチテギマテバヨネツホウ』

 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓

『サンネンゼツトグミトビラノテマエ』

『3年Z組 扉の手前』

 

「つまり次に向かう場所は……」

「「3年Z組だ!!」」

 

 ・・・

 

「待て奥沢。クラス多くね?」

「うわマジだ。何?ここってそんなにマンモス校なの?ここの3年って26クラスもあるの?」

「2人とも、まだ忘れてるよ『常に』一歩先なんだからさ」

「……!じゃあ、3とZは最後の文字だから最初の方に戻って……」

「扉の手前から一歩先ってことは……」

 

『1年A組 教室の中』

 

「これが答えか」

「というか、なんでわざわざ『教室の中』とか足したんだろ?『1年A組』だけでいいじゃん」

「それは、単純に問題文の文字数を増やしたかったんじゃない?その方が複雑に見えるし」

 

 とにかく、謎は解けた。

 

「日菜さん、ありがとうございました。あたしたちだけじゃ解けませんでしたよ」

「いいよいいよ。あたし、こういうの得意だし、年下の子たちの手助けぐらいはね」

「よし、じゃあ俺──」

「あ、待ってレン君。これだけは伝えないと」

「なんですか?」

 

 日菜さんは俺の目の前で腰に手を置いて語りかける。

 

「まず、あたしたちの教室は、戸締りの手間を減らすために基本的に後ろの扉は使わないから鍵も基本ずっと閉めてるの。もし開けたいなら、ちゃんと黒板側の扉を使って欲しいな」

「はい……」

「あと、扉を蹴り破ったりもしちゃダメ。一年生は放課後の教室自習はしてないと思うし、さっきみたいに教室中がビックリしちゃうこともないと思うけど、壊しちゃうのはやっぱり良くないよ。あたしは面白くて好きだったけど」

「俺のアレに好きとか言っちゃダメでしょ」

「あと、これが最後だけど、リサちーに心配かけ過ぎちゃダメだよ?キミにとって、たった1人のおねーちゃんなんだからさ」

「……善処します」

「あんまり怒って周りが見えなくなったりしちゃダメだからね?」

「まぁ、そこは次からあたしも見とくんで。じゃあ日菜さん。あたしたち、もう行きますね」

 

 しかし、日菜さんは腰に手を当てたまま、通り過ぎようとした奥沢の前に立ちはだかった。

 

「ちょっ、日菜さん。いきなりなんですか?」

「ごめんね美咲ちゃん。まだダメなの」

「なんでですか……?」

「ほらレン君。あたしからの話は終わりだし、もう行ってきていいよ。さっきからチラチラ向こう見てたし、ずっと行きたかったんでしょ?」

「いいんですか?なら遠慮なく」

 

 冷静になってからずっと心残りになっていたことを解消すべく、俺はさっきのメガネの女子生徒の席まで歩く。

 

「なぁ、あんた」

「ヒッ、な、なんですか……?」

「さっきは八つ当たりして悪かった。血が昇って何にも見えなくなってた」

「えっ?」

「重ねて謝る。悪かった」

 

 女子生徒は少し俺を見た後、そのまま何も答えずに俯いた。

 許されたか許されなかったは不明だが、俺がやらなきゃいけないことは取り敢えず済ませただろう。

 俺にもやらなければならないことがある。

 

「あんた。不良のくせに人に謝るとか出来たんだ」

「黙ってろ。一旦クールになったからって俺がお前と怪盗にもイラつかなくなったと思ったら大間違いだからな」

「2人とも~。ケンカはいいけど、次の場所行かなくていいの?」

 

 ……そうだった。

 

「じゃあ日菜さん。行ってきます」

「うん。行ってらっしゃい。……成り行きではあったけど、あたしはレン君の力になることが出来て嬉しかったよ」

「……?そうですか」

「じゃあ日菜さん、あたしたち、今度こそ行きますね。ありがとうございました」

「うん。行ってらっしゃい。次の場所でも頑張ってね」

 

 ゲームはまだ、始まったばかり。

 





 レン君、優しい性格って設定やのに、この章が始まってからずっとキレ続けてるからめちゃくちゃ口悪いキャラになってしまってる……。
 次の更新は、明日。

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