暗号の指定通り、俺たちは1年A組の教室へとやってきた。
日菜さんの言っていた通り、中には自習中の生徒などは誰もいなかった。
確かに誰も居なかったが……。
「なんだよ。このゴッツい機械」
「『Punching Rush Machine』?……って書いてあるけど何コレ?」
「あ、封筒だ」
なんかひたすらにゴツい機械が、教室のど真ん中に設置されていた。
そして機械に置かれていた封筒を開いてみると、今度は謎解きではなかった。
『君たちがこの手紙を読んでいるということは、無事に知恵比べのゲームをクリアしたようだね。
まずはおめでとう。
頭を使った勝負で結果を残したなら、次は体を使った勝負といこう。
ヒロインを華麗に助け出すヒーローには知性と共に力強さも求められるからね。
では、今度の勝負はもっとシンプルだ。
今、君たちの目の前に用意されているパンチングマシーン、それをクリアすれば、次のステージの場所をそのマシーンが教えてくれるだろう。
ただし、君1人の力では不可能だろうがね。
怪盗ハロハッピー』
謎解きじゃない。ということはつまり……。
「今度こそ最後の文章は煽りだな」
「口を開けばすぐに『煽り煽り』って、あんたってホント器小っちゃいよね」
「うるっせぇな。実際煽りだろうが」
「はっ。舐められてやんの」
「マシーンより先にお前からぶん殴ってやろうか?」
相変わらず横の女はムカつくが、まぁいい。
この怒りも、パワー比べにぶつけられるなら丁度いいだろう。
「かったるいことは嫌いなタチなんだ。さっさと片付けるぞ」
機械にかけられていた1セットのグローブをはめてマシーンを起動し、計測開始の合図が鳴る。
3.2.1……GO
「オラァ!!」
バゴッ!!
バカでかい的に、かなりいいのが入った筈だが、画面は計測中のままだ。
それからしばらく経って結果は……。
「『条件未達成』……。パワーが足りなかったか」
「足りなかったのは頭の方じゃない?」
「あぁん?」
「だってこれ、『Punching 「Rush」 Machine』って書いてるし、計測してるのはパワーじゃなくて、さっきの10秒の制限時間内で拳を叩き込んだ回数でしょ。もしかしてこんな簡単な英語も読めなかったの?」
「いちいち煽ってくんじゃねえよ。ムカつく女だな」
「だから、このマシーンの挑み方は……」
俺の悪態に耳も貸さず、用意されていたもう1セットのグローブをつけた奥沢がマシーンを起動する。
「こうするんだよ!」
3.2.1……GO
「おおおおぉぉぉっ!!!!」
ドカドカと、女子から放たれる拳とは思えないほどのラッシュが叩き込まれる。
そして……計測が終了し、結果が画面に表示された。
「『条件未達成』……回数が足りなかったか」
「はっ。お前も大口叩いたくせに随分と無様じゃねえの」
「うるさい!」
「まぁ女は下がって隅っこで大人しくしてろ。こういうのは元から男の領分だ」
「あんたってホントにムカつく言い方しか出来ないよね。これでお姫様を助け出す白馬の王子サマが務まるの?」
「俺がそんな器じゃないことは俺が一番分かってる。そもそも俺はデータさえ取り返すことが出来ればそれでいいんだ。コソ泥をブチのめした後のかったるいヒーローごっこはお前らだけでやってればいい」
「今井……」
「まぁ、そういう訳だし……」
マシーンを起動。
3.2.1……
「ブチかますぜ!」
GO!
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ、オラァ!!」
達成条件は……
「『未達成』かよ。クソが」
「男の領分じゃなかったの?」
「黙れ。今回は偶然だ」
「負け惜しみ~」
「チッ。じゃあお前は出来んのかよ。さっきも失敗してたくせに」
「頭も体も雑魚だったあんたよりはマシな自信あるけど?」
「だったら今ここで殴り合うか?」
ブチッ……!
「よし決めた。先にコレをクリア出来なかったやつ、格下」
「何勝手に決めてんの?くっだらない」
「じゃあお前、格下な」
「ふざけんな。あたしが勝ったら速攻で土下座させてやる!」
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あのやり取り以降、交互にマシーンへ拳を叩き込んだが、条件は未達成のままだった。
腕も疲労と筋肉痛が現れ始めて、2人共々、大の字でマシーンの前に倒れ込むことになった。
「はぁ……はぁ……。なんだよコレ、ホントにクリア出来んのかよ?」
「知るか。はぁ……はぁ……」
「そもそも、なんで条件を達成するまでの回数が表示されない?それどころか俺たちが何発当てたかも分からねえのはなんでだ?何発当てれば条件達成なんだよ?」
「条件、か……」
・・・
「そういや今井。手紙の最後に書いてあった文章って、なんだっけ?」
「あぁ?『君1人の力では不可能』とか言ってやがったあれのことか?」
「じゃあこれの条件って、そもそも1人でやることを前提としてない回数が設定されてたりしないかな?『1人の力では不可能』って言ってる辺りさ」
「何言ってんだ。パンチングマシーンは1人でやるもんだろ」
「だったら、なんでグローブが2人分以上も用意されてるの?あと、拳を叩き込むべきミットも、やけに幅が広いのはなんで?」
「幅……?随分バカでかい的だとは思ってたけど……」
「これさー、2人並んで打ち込むのにピッタリのサイズだったってオチはないかな?」
「そんなのアリかよ……」
しかし、首だけをマシーンの方へ向けると確かに信憑性は無い訳じゃない。
1人じゃ不可能か。くそっ……。
「奥沢、あと何発撃てる?」
「ラッシュ1回分、ってとこかな。拳は痛いわ腕は疲れるわで正直限界」
「奇遇だな。俺も1回分がやっとだ」
「それが何?」
「そうだな。この手のセリフはお前にだけは言いたくなかったんだけど……。まぁいい。仕方ないからお前で妥協してやる。今は牛込とデータが最優先だ」
「さっきから何?言いたいことがあるならさっさと言えば?男のくせにうじうじしないでよ」
なんでこんなムカつく女と……。
「おい地味女」
「どうした脳筋男」
「10秒、手貸せ」
「絶対イヤ」
「……」
「チッ、10秒だ」
ゆらゆらと立ち上がり、2人でマシーンに立ちはだかる。
「勘違いしないでよ。あんたのためじゃないから」
「テメェこそ、これが牛込とデータのためだってこと忘れんじゃねえぞ」
「「チッ……!」」
チームワークもあったもんじゃないが仕方ない。
「ちゃんと合わせろよ」
「いや、寧ろズラさなきゃいけないんじゃないの?同時に殴ったら1回しかカウントされないじゃん」
「そうか。だったら心配は要らねえな。お前みたいな相性最悪の女と息が合う訳ないんだから」
「そうだね。邪魔しないでくれたらそれでいいよ。お、この的、よく見たらちょっと位置も動かせるじゃん。親切設計だ」
軽口を叩き合いながら、立ち位置の確認をする。
的は大きいが、2人で1つの場所を狙うとなると、2人の位置関係と的を狙う角度も考えなければならない。
そして、今まさに奥沢が動かしている的そのものの位置と角度も。
「この辺り?」
「そう、そこだ」
「「ここが一番……」」
3.2.1……
「「拳を叩き込みやすい角度ッ!!」」
GO!
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ……!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ……!」
まだだ。まだ終わらない!叩き込み続けろ!
「「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ……!」」
もっとだ。もっと速く……!拳に乗せろ!
「「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」」
トドメだ!
「「オラァ!!」」
ドゴォァッ!!
俺の右手、奥沢の左手。
ズラし続けていた拳のタイミングが、今になって重なり、強烈な一撃が入る。
後は、計測中のマシーンの仕事を待つだけの楽な仕事だ。
結果は分かり切っている。それ程の手応えだった。
『条件達成』
マシーンの画面がそれを表示したと共に、画面のすぐ近くから一枚の封筒が吐き出された。
「「ふぅ……」」
力も出し切り、もうヘトヘトだったが、ひとまず安心は出来た。
「今井」
「ん……?あぁ……」
パァンッ!
「「やれやれだ」」
あまりにも乱雑で相手のことも考えない、叩きつけるようなハイタッチを最後に、俺たちは次のゲーム会場へ動き出したのだった。
言ったでしょう?終章よりもふざけると。
次の更新は、明日。
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