ザァ──ッ……!! ゴロゴロッ!!
作戦会議を終えた俺たちは、フィールドの中央にある、だだっ広い空間に辿り着いていた。
見通しが良いお陰で、雨脚の激しさがさっきよりも分かりやすい。
空間も広いからか、横殴りの風も強く吹いている。
今や大雨は暴風雨となり、暴風雨は雷雨となった。
地面はぬかるみ、水たまりが点在し、制服は泥水で重くなって動きづらい。
ずぶ濡れで汚れまくった男女が2人、ただ雨風に吹かれて並ぶ。
最終決戦にもってこいの、なんとも最悪の天気だ。
……まぁ、気にもならないが。
「まさか、本当にこんな広い空間があるとは。気付きもしなかった」
「だってあんたモニターの下にあった地図も見ないで突撃してくんだもん。暴走列車め」
「悪かったよ。今こうして大人しくしてるんだからいいだろうが」
「そうだね。じゃあ、そろそろやりますか」
「……そうだな」
俺たちがわざわざこの広い空間に来た理由は、作戦の内容によるものだ。
『今のあたしたちの体力を考えると、このぬかるんだ足場で怪盗を追い回すのは難しい。ハロハッピーの位置が掴めない以上、思い通りに不意打ちの準備を整えることだって出来ない。となると取れる作戦はやっぱり、向こうから来てもらうのが一番だと思うんだ。それで長期戦には持ち込まずに速攻で片を付ける』
『でも、向こうから来てもらうって、どうやって?』
『大声で軽く挑発でもしたら来るんじゃない?あんたもそれで一回は引き込んだんでしょ?』
『でも、2回目も都合よく来てくれるか?』
『大丈夫だよ。ちょっと舞台さえ整えば、あの人は間違いなく乗ってくる』
と、いう訳で。
「「出てこいや怪盗ぉぉ!!」」
「さっさとこっちまで来い!一度俺をやり過ごしたからっていい気になってんじゃねえぞ!」
「逃げてないであたしとも戦え!まだ勝負は終わってないぞ!」
「直接対決がしたいんじゃなかったのかぁ!?」
「お望み通り最高の舞台でやり合ってあげるからさっさと来なよ!」
だだっ広い空間の中央で、雷雨にかき消されないような大声で、ひたすらに叫び散らす。
さっきは声を頼りに俺の前へ現れたが、2回目はどうだ?
これで来てくれなかったら、作戦は破綻するし、疲れた体で迷路のどこかにいる怪盗を探し回らなければならな……いや、その心配は要らなかったようだ。
「ゲームのコンセプト的に君たちからはもっと逃げ回りたいのだが、こんなに素敵な招待であるならば、受けない方が不作法というものだ」
「怪盗……」
「ハロハッピー……!」
「私だけじゃないよ。あんなに大声で呼んでいたのだから、別動隊の耳にも招待状は届いている」
通路から怪盗が現れるのとほぼ同時、怪盗の横側の通路からも、3体のメカミッシェルが現れ、怪盗を守るように立ちはだかる。
どうやら役者は、見事に全員揃ったらしい。
「お前らも随分ずぶ濡れになっちまったようだな。小綺麗さも消えて泥まで目立ってやがる。カッコつかなくなった分さっきよりも似合ってるぜ怪盗サンよぉ?」
「ふっ、当然だとも。シェイクスピアもこう言っているだろう?水も滴るなんとやら、だ」
「チッ、インテリアピールがよ」
「いや、多分そんな上等なもんじゃないと思うけど」
「それにしても、やっと協力して私を倒す気になってくれたようだね。妙に泥だらけだったり、2人の頬に大きな青アザが出来ていることが少し気になるが、わざわざ触れるのも無粋かな?」
「心配すんなよ。後でお前の両頬にも同じもん作ってやる」
「こらこら」
ツッコミ代わりに、網鉄砲の銃身が俺の二の腕にぶつけられる。
呆れ半分のツッコミ、どうやらこれがこの女のデフォルトらしい。
「意外だな少年。これでも私は君の招待が聞こえた時点でデスマッチの2回戦も覚悟していたのだが……もう怒り狂って私を襲わないのかい?今の私が、君の大切なものを預かっていることを忘れたわけじゃないだろう?」
「『預かる』だぁ?『盗んだ』ってハッキリ言えよ。煮え切らねえな」
「だったら尚のことだ。アレは君の居場所そのものと言ってもいいぐらいのものなんだろう?君にはアレしか無くて、アレが無ければゴミなのだと、自分で言っていたぐらいなのだから」
「『存在意義』だの何だのって話か?悪いけど俺バカだからそういう小難しい話は好きじゃないんだ。俺はガールズバンドを応援するためにそれが必要で、だから取り返す。……それでいいだろ?」
あと、アレには生徒会に提出しなきゃいけない書類データとかも入ってるから返してくれなきゃ部の存続って意味でもマジで困る。
新聞部(在籍部員数1名)の部長として、これ以上コイツを放っておくことは許されない。
「ふっ……。ようやく本来の活動理由を思い出したか。いいな少年。今の君は凄くいいぞ。正直言って、さっきまでの『試験終了チャイム直前まで問題を解いている受験生』のような、必死こいた表情の君も嫌いではなかったがね。
でも、今の君は泥だらけで顔に青アザもつけているくせに、さっきよりもスッキリした表情をしている。それでこそ私の敵に相応しい」
「なーにが『相応しい』だよ偉そうに。ケンカ売ってきたのはそっちだろうが」
「うん。そうなんだよね。一方的に予告状送り付けて、人のSDカード勝手に盗んで、その後に別の学校まで歩かせて、勝手に変なゲームにまで付き合わされて、それでここに来て『それでこそ相応しい』って中々の横暴だよ」
「だよなぁ?アイツ普通に勝手だよな?」
意見の一致で緊張感が緩みかけるが、それでも今は大切なものが掛かっている正念場だ。
怪盗の方も、すぐに空気を持ち直してくる。
「そんなに余裕の雰囲気でいいのかい?私には優秀な味方が3人もついている。隠れて不意打ちも出来ないぐらいに見晴らしのいい場所で数の利もこちらが上。網鉄砲もそっちのお嬢さんが手に持っているもので最後。君たちは、敵を呼び出すことによって更に自分が追い詰められていることに気付いてはいるのかな?」
「そうだな。確かに不利になっている。全ての部分でお前らが優勢だもんな。だがこれでオーケーだ。人間ってのはそうやって勝ちを確信した瞬間に敗北が決まるのだから」
「不利なら不利で、見せつけてやろうじゃんか。逆境の中でこそ輝く『黄金の精神』ってヤツをね。……だから怪盗ハロハッピー、覚悟はいいか?」
「俺たちは出来てるぞ」
「面白い……!」
激しい雨脚はフィールドを容赦なく打ち付け、肌寒い風は悠然とその場を吹き抜ける。
緊張感はあったが、不思議とマイナスな感情は無い。
普段は卑屈なくせに、今だけは自信どころか、必ず勝利するという確信すらある。
この場に、静かな睨み合いだけが続く。
「終わらせてやるよ。この俺が。いいや──」
「『俺たちが』……でしょ?」
そうだ。
前門に虎がいようが、後門に狼がいようが、隣にコイツがいてくれるなら無敵だ。
俺は自分を信じることなんて出来ないが、コイツが俺を『やる男』だと言ってくれたなら、それを信じない訳にはいかない。
いい加減、立ち止まるのにも飽きてきた。
まぁ、そういう訳だ──
「しくじるなよ『美咲』!!」
「『レン』こそね!!」
2人分の拳をぶつけて、開戦の火蓋は切られた。
「「作戦開始だ!」」
気炎万丈。
たった2人、疲れも忘れて走り出す。
最高のスタートダッシュを切り、俺が先行してメカミッシェル3体と怪盗の場所へ突っ込んでいく。
「(なるほど。網鉄砲を使い切ったレン君が先行して囮となり、3体が気を取られている隙に美咲が私を狙う……といったところか)」
『対象接近、迎撃態勢──』
俺たちと敵陣の距離が近づく。あと少し突っ走れば奴らの射程距離だ。
泥水を巻き上げながら、俺はどんどん近づいていく。
「(距離20……距離10……)」
ここまでは作戦通り。真ん中の1体が俺を警戒し、横の2体が後ろの美咲を警戒する。
「距離4m」
『射撃準備──』
「ここだ!」
網鉄砲の紐を強く握り、俺に照準を明確に定めたことを確認し、俺は一気にダッシュの軌道を左斜め前に変える。
フェイントにもならない単純な行動だが、メカミッシェルは狼狽えたように見えた。
やっぱり美咲の言う通りだ。
『ただでさえミッシェルの中身は視界が狭いからね。しっかり誰かを見据えてからいきなり横方向に動かれでもしたら……』
「(対象を見失う)」
距離2m、急いでメカミッシェルが横へ動いた俺へ照準を合わせなおす。
「からの右!」
俺の行動パターンが分かったのか、また視界から一瞬消えた俺に対するメカミッシェルの反応も、今度は早かった。もう奴は紐を引っ張りにかかっている。
だが、距離は既に1mを切っている。つまり……。
「もう遅い」
バスンッ!
俺がやられたみたいに、メカミッシェルの網鉄砲の銃口を握り、射出予定のネットを不発させる。
これで1体のメカミッシェルが無力化されたが、まだ勝ちじゃない。
『勝利するために考えるべき問題は結局、3体並んで邪魔になったミッシェルの先へどうやって行くか』
『3体並んでって……そもそも、確実に並んで待ち伏せなんてしてくるのか?揃った3体が攻めることは?』
『無い。雨で濡れたキグルミはとてつもなく重いから、ちょっと動くだけでも体力はかなり持っていかれる。この地面のぬかるみじゃ足も取られるしね。だからアイツらはなるべく動かなくていいように待ち伏せを選んであたしを落としに来る。
そしてそうされると、向こう側へ真っ直ぐ行くのは無理だし、ぬかるんだ足場で悠長に横から回り込んでたらどっちか片方の網鉄砲の餌食。しばらくは先行するあんたを盾にしながら、あたしもジグザグ動いて狙われにくくはするけど、どっかで分かりやすい全速力の直進をしなきゃならないタイミングが出てくる』
『じゃあそこで狙われるだろ』
『だからここであんたを使う。先行したあんたがメカミッシェルを1体封じても、あんたのもとへ残り2体からの追撃は来ない筈。本命は網鉄砲を持ってるあたしだからね。結局、向こうはあたしだけを警戒してればそれで勝てるんだよ。つまり、あんたのマークはここでフリーになる。だからあんたが次にやることは……』
「足場ァ!」
「了解!」
俺はメカミッシェルを封殺したそばからすぐにその場で両手を組み、手のひらを上にして踏ん張る。
先行していた俺の存在が邪魔だったのか、着ぐるみのスペシャリストの動きを読み切れなかったのか、横の2体のメカミッシェルはまだ美咲を上手く狙えていない。
だから……。
「ふっ!」
「オラァ!!」
網鉄砲を片手に、カチ上げられた美咲は宙を舞う。
空中での移動であれば、地面のぬかるみによる減速は受けない。
メカミッシェルの壁の、『その先』へ踏み込んだ……!
「(なるほど。真っ直ぐ行くのも、横へ回り込むのもダメなら上へ飛ぼうという訳か。悪くない。仕掛けのタイミングも完璧だ。だが……)」
空中で網鉄砲の照準を怪盗に向ける美咲。
「(やはり甘いよ。美咲、そして少年……)」
美咲が跳んだと同時、2体のメカミッシェルが後ろを向いて空中の美咲に網鉄砲の照準を合わせる。
「(空中で網鉄砲の危険を潜り抜けることは難しい。盾になっていた少年はもう居ない。そして、空中では地上のように『横の動き』で回避やかく乱も出来ない。
そもそも自分の位置が変わり続ける空中で照準を合わせることすら難しいのに、この状況でメカミッシェルよりも先に私の方へ網鉄砲を発射するなんて芸当が出来るかな?)」
パァン!
パァン!
美咲が網鉄砲の紐を引くよりも先に、2発分の網鉄砲が発射された。
広がった2つのネットが、容赦なく美咲の体を包み込む。
「くっ……!」
「(終わりだね。せめて美咲が怪我をしないよう、優しくキャッチをしないと。その後はレン君のフォローも忘れないようにしないとね)」
勝負あり。
完膚なきまでにそんな言葉がお似合いだった。
網鉄砲を持って構えたままの美咲と、それを容赦なく包み込む2つのネット。
もうこんな状況で俺と美咲が言えることは、たった1つ。
「「勝った」」
次の瞬間、美咲が網鉄砲の紐を引っ張った。そして、
カスッ……
「(空砲……?まさか!)」
勝負あり。
本当にそんな言葉がお似合いの最高の状況だった。
敵陣営の網鉄砲の1つは封殺。
そしてもう2つは……『俺が無駄打ちしてダメになった方の網鉄砲を』持って構えたままの美咲を容赦なく包み込んでいる。
そして敵に網鉄砲の残りは無く、俺は捕縛される心配は無く、『囮になって敵の目線を引き付けてくれた美咲のお陰で』ノーマークで動くことが出来て、さっきからずっと隠し持っていた『美咲が持ってた筈の未使用の網鉄砲』を手に持って、メカミッシェルの隙間を潜り抜けて怪盗の背後に回っている。
ジャックポット……!
「(そうか!戦闘が始まる前から既に2人で持っている網鉄砲を入れ替えていたのか!美咲が網鉄砲をずっと手に持って、本命であるかのように立ち回っていたのは、自分の網鉄砲がダミーであることを隠すためのブラフ!
警戒するべきは美咲ではなかった!まさか網鉄砲が1つしか残っていないという状況を逆手に取るとは!まさかここにきて本命の少年を最も狙われやすい先陣で突撃させるとは……!)」
「女に見惚れて背中がお留守だったようだぜ、ファントムシーフ。やっぱりお前の敗因は油断だったようだな!」
「……!」
最後の抵抗で身を翻して回避行動を取ろうとする怪盗。
雨に濡れて重くなったマントを羽織り、ぬかるんだ地面の上で足を取られやすく、急激な移動もできない状況にしては悪くない動きだ。
だが一手遅い。
パァン!
不安も、迷いも無かった。
だから後は楽な仕事だった。
俺はまるで静脈に針を刺す看護師のような落ち着いた心持ちで紐を引っ張り、射出されたネットは物理法則に従い、正しい軌道で怪盗を捕縛したのだった。
そしてその結果が、確かに目の前で転がっている。
避けようと足掻いてる状態で体の自由を奪われたのだ。すっ転ぶのも無理はない。
自慢の服装も雨に濡れた地面のせいで泥だらけになってやがる。
いい気味だ。
「俺の、いや……俺『たち』の勝ちだ」
「私の敗北って訳か……」
華麗に動き回っていた怪盗は捕縛され、ネットの中に入ってからは何の抵抗も無く大人しくしていた。
捕まった以上、敗者らしく潔さを見せようという考えなのだろう。
「何よりも『困難』で……『仲間』なくしては辿り着けない道のりだった。お前を倒すという道のりがな……」
「ふっ、そうか……」
「作戦は、ちゃんとハマったみたいだね……」
「美咲?さっきまで捕縛されてたんじゃ……」
「そうだね。自分に絡まった網鉄砲2つ分のネットを解くなんて経験は初めてだったよ。手先が器用で本当に良かった。……それで、終わったの?」
「まだ大切なものは取り返せてないが、俺は勝利を宣言したし……こいつはこいつで敗北を認めたようだ」
「そっか」
返事は素っ気ないようにも聞こえるがどうやら美咲も美咲で安心はしたようだ。
「2人とも、見事な連携だったよ。この作戦は2人で考えたのかい?」
「当たり前だ。こんな計算尽くしの頭の良い作戦、美咲じゃなきゃ思いつかないだろ」
「確かにね。こんなリスクだらけの頭の悪い作戦、レンが居なきゃ実行できないよ」
「そうか。まったく、最後の最後で勝利を確信してからやられるとは……君の言う通り、私の敗因は油断だったようだ」
「いいや、遡って考えればもっと単純な敗因があるぜ」
「そうだね。油断なんかよりもずっと分かりやすい、たった1つのシンプルな理由だよ。怪盗ハロハッピー、あなたは……」
「「この『花咲川最悪のコンビ』を敵に回した」」
「それが答えだ」
「なるほど。君たちは、本当にいいチームになったんだね」
「ははっ……」
「はははは……」
本当はもっと喜びを分かち合いたいが、もう俺たちの心身にはそんな余裕すらも無かった。
ハイになって忘れていた疲れと筋肉痛が、今になって押し寄せてくる。
ドシャッ……
「はぁ……はぁ……」
「はぁ……はぁ……」
怪盗の言葉を聞いた頃、お互いにその場で崩れ落ち、なんとか膝立ちで持ちこたえる。
余裕も余力もありはしないが、それでも達成感はあった。
長い道のりだった。最初のゲーム開始からここまで、文字数にして約3万字。
そして辿り着いた。
言い争い、罵り合い、それでも共闘してぶつかり続けた。
花咲川最悪のコンビVS怪盗ハロハッピー
「「決着ゥゥゥーーーッ!!」」
----------------------------------------------------------------------------------------------------
約束通り、ネットに捕縛された怪盗は、捕縛されたまま新聞部のデータをちゃんと俺に返した。
これで万事解決……なんて都合のいい話の終わり方は流石にさせない。させる訳ない。
ちゃんと返すものを返したからって簡単に許しはしない。
寧ろ許すチャンスは何度も与えてやっていたというのに、コイツはそれを拒んでずっと逃げ続けたのだ。
自分の制御が完全にぶっ壊れて暴走していたあの時のような怒りは流石に無いが、だからって『もう怒ってないよ♡』なんてことになる訳ない。
理性は残ってるが、それはそれとしてデータを盗んだことにはちゃんとキレてる。
ネットに捕縛されたままの無抵抗な人間だからといって容赦はしない。
「おいコソ泥。暴力沙汰は初めてか?なら手始めに聞いてやる。辞世の句は読んだか?土下座の心得は?他人に見下される気分はどうだ?
さっきまで格下だと思ってたザコに今からプライドをズタズタにされて、泣きながら許しを乞わなきゃあならないってのはどんな気持ちだ?今から自分に降りかかる最悪の結末にビビり散らかす準備は出来てるんだろうな?
俺はお前が泣くまで殴るのを止めないぞ。『勝負』は既に、『断罪』へと変わっているんだぜ!」
「うん。最初から分かってたことではあるけど、あんた相当ブチギレてたんだね。盗まれてからずっと」
「少年にとって大切なものを頂いた自覚はあったが、これほどとは……」
「まぁ、あたしも詳しい話を聞くまでは分かってなかったし……。ねぇレン、もうちょっと寛大な心を持ってあげる方針でいかない?データは戻ってきたんだしさ」
「そうだなぁ……。確かにタコ殴りまではしないでやっていいと思ってる。ただ、あんなに好き勝手に暴れまくったコイツに何のお咎めも無しってのは割に合わねえだろ。いつの時代も落とし前ってのは大事ことだ。そうだろう?」
「まぁ、確かに何のデメリットも無く解放ってのは、ちょっと都合よすぎかも?」
「ならもう決まりだ。コイツには……再起不能になってもらう!」
そう言って怪盗ハロハッピーの胸ぐらを掴もうとした瞬間──
「悪いが暴力は好きじゃないんだ。お詫びは別の方法でさせてもらうよ」
「何?」
ボフンッ!
「煙幕!?」
「またかこの野郎!!」
「さらばだ!」
煙が晴れる頃には、怪盗の姿は網ごと消失していた。
「……やられたな。くそっ」
「まぁまぁ。ここまでにしときなよ。愚痴会ぐらいはしてあげるからさ」
「まったく。反省させた後に『殺すとか言ってゴメン』って謝りたかったのに」
「それは……愚痴なの?」
怪盗には逃げられた。
いつもなら逃げた怪盗に対して怒りの感情を見せるぐらいはしていただろうが、データは戻り、もう目の前に敵はいないという状況になってしまったせいで、今度こそアドレナリンの効果が切れた。
もう文句を垂れる気力すらも残っていない。
「あたしら、本当に頑張ってたんだね。足フラフラなんだけど」
「俺もだよ。ちょっと肩借りるぜ」
「いや、その前にさ……」
「ん?あぁ……」
パンッ!
「「お疲れ」」
泥だらけの笑顔で繰り出されたハイタッチは、第二ゲームの時よりも気持ちのいい音が鳴っていた。
気付けば降っていた大雨はすっかり止んで、澄んだ空には太陽が差していた。
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美咲と肩を貸し合ってフィールドを出ると、そこには見知った顔……というか、盗まれた筈の知り合いの姿があった。
「美咲ちゃん!」
「りみ!」
俺の支えから離れて、美咲は牛込に駆け寄る。
「大丈夫だった?」
「うん。怪盗さんがここで2人を待ってて欲しいって解放してくれたの。美咲ちゃんも大丈夫?頬っぺたが凄いことになってるよ。おまけに全身ずぶ濡れだし……」
「あー、このアザは自分でやっただけだから気にしないで」
「それは……本当に気にしなくていいのかな?」
2人の様子を少し離れた場所で見守る。
囚われのお姫様も美咲によって助けられた訳だ。
なるほど。泥だらけであるという点を除けば、確かに絵面は白馬の王子様かもしれないな。
「レン君も、ありがとね」
「俺は何もしてないよ。寧ろ巻き込んで悪かった。美咲、牛込のためにめちゃくちゃ頑張ったんだぜ」
「ううん。どっちが、とかじゃなくて、2人とも頑張ってくれたんだよね?だから、本当にありがとう。来てくれて嬉しかったよ。あと、2人がどことなく和解したような気がするから、それも凄く嬉しい」
「……そうかよ」
和解か。まぁ、確かにそうなったとは言えるのか……?
「じゃあ、りみ。みんなのとこ帰ろう。ポピパのみんなも心配してたし」
「そうだね。でも帰るのは私1人で大丈夫だよ。2人にはまだ、行くべき場所が残ってるみたいだし」
「「えっ?」」
牛込の手に握られていたのは、もうお馴染みの、怪盗からの封筒だった。
『エクストラステージへの招待状』
全てを取り返した後だというのに、また謎の緊張感が俺たちを支配したのだった。
次の更新は、明日。
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