今回はリクエストの美咲ちゃん。
公園の中に足を踏み入れると、古ぼけたベンチに知った顔が既に座っていた。
見映えよりも、動きやすさの方が優先されてそうなラフな服装に、申し訳程度のキャップを被ったあの少女こそが、俺が遊ぶ予定の親友である。
「あ、レン。やっほ~」
気の抜けた挨拶に手を振って返しながら、俺は美咲のもとへ小走りで近づく。
言い年した高校生の男女が公園で遊ぶのもどうかとは思うが、そんなの俺たちには関係無い。
さぁ、公園デートの始まりだ。
「よぉ美咲。バスケやろうぜ!」
「いくらなんでも陽キャラが過ぎるでしょ。男の同期を誘う時の男子中学生しかそれ言ってんの聞いたことないよ」
「1on1やろうぜ!」
「やっぱりクラスメイトの女の子を誘う時の男子高校生には見えないんだよなぁ……。ま、いいや。じゃあ早速やろう。そのためにこの公園選んだんでしょ?」
「コートがある公園も少ないからな」
最近は公園で遊ぶ子供がそもそも少なくなってきてはいるが、俺たちにとっては好都合だ。
無人をいいことに俺たちはベンチに荷物を置き、ボールを持ってコートに移動する。
改めて記しておくが、この2人は休日に会う約束をした高校生の男女だ。
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1on1といっても、お互いバスケ部でもないので、そんなにガチでやり合ったりはしない。
ディフェンスとオフェンスに分かれて、雑談交じりに攻防を繰り返す程度だ。
ちなみに美咲はテニス部仕込みのフットワークと着ぐるみで鍛えられた体幹があるから、本気でやり合うと結構強い。
「それにしてもレンって、まるくなったよね」
「そうか?これでも運動はしてるんだけ、ど!」
美咲のブロックを潜り抜けて、無防備なゴールにシュートを放つ。
ガンッ!
入らなかったけど。
「いや、物理的な話じゃなくてさ、性格の話だよ。ほら、1年前とか荒れまくってたじゃん」
「そうでもないって。しっかりキレた相手なんてそれこそお前ぐらいだったし」
「ふぅん」
「なんだよ?」
外したボールを拾って美咲にパスする。
そして攻守交代をしても雑談の口は緩めない。
「いや、張り合い無いなぁって。今のあんたの性格は好きだけどさ、トゲのあった頃もそれはそれで味があったし」
「なんだよ味って……」
「今思うと貴重だったんだよ。どんなに悪口や暴言を吐きまくっても自分の心が痛まない相手って。サンドバッグとしては最高の一品っていうか」
「なんだよ。言いたい悪口があるなら今でも聞くぞ?言ったらスッキリするかもだし」
「うーん。無理っぽいかな。今のあんたに悪口言っても自分の心が痛むだけだし。そういうあんたは言いたい悪口ないの?スッキリするかもよ?」
「お前にぶつけてスッキリするような悪口なんて、バカな俺には分からないよ。分かりたくもないけどな」
「そうだね、確かにあたしも今のあんたに言えそうな悪口は思い浮かばないかな」
「ありがたい話だ」
「感謝しろ、よっ!」
ちょっと嬉しくなった心の隙を突かれて、美咲のシュートが放たれる。
パスッ!
「っし!!」
うっわ。入れやがったコイツ。
「いやー、気持ちいいね」
「確かに悪くないシュートだったな。これなら世界も取れそうだ」
「世界は無理でしょ。あそこに行くならダンクとか決めなきゃいけないんだよ?」
「バスケの世界レベルの基準がダンクシュートな時点でもう素人だよな。俺たち」
「でも憧れるよね。ダンクシュート。爽やかだったプレイヤーが血相変えてワイルドに叩き込むあの感じ」
「確かにダンクは男のロマンだからな。シュートの瞬間もそうだし、シュートの後に掴んだゴールから手を離してコートに着地するのもカッコいいよな」
「わっかるなぁ……。もし朝に目覚めて身長が急激に伸びてたらやってみたいこと第一位だもん」
「局所的なランキングだなオイ」
でも、その気持ちは痛い程よく理解る。
身長は無くても、せめてジャンプ力があればいいのだが……。
「ジャンプ力……?」
「レン?」
「なぁ美咲、『アレ』を使ったらダンクだっていけるんじゃないか?」
「アレって……。あぁ、『アレ』か!そうじゃん!隣にあんたが居るのになんで思いつかなかったんだろ!」
「そうだよ!必要なもの身長じゃない!本当に大事なものはすぐそこにあったんだよ!」
美咲の顔は既にやる気に満ちていた。
なんなら既に、真剣な表情で上のゴールへと視線を移している。
「……レン、足場」
「了解☆」
世紀の大発見に気付いた俺たちは急いで立ち上がる。
美咲にボールをパスして、俺は早速ゴールの少し手前に陣取る。
美咲は離れて、俺とゴールを交互に確認する。
「レン、準備はいい?」
「オーケーだ。いつでも来てくれ」
「そんじゃあ──」
美咲がドリブルでゆっくり近づいてくる。
そして、俺まであと3歩の所でボールを持ってダッシュで俺に突進してくる。
あとは……!
「ふっ!!」
「オラァ!」
予定通り、美咲は俺を超えて高く飛び上がった。
飛び上がったが……。
「くっ……」
高さが足りない。
「悪い美咲。タイミング……」
「ズレたね。やっぱりドリブルしてるからいつものタイミングじゃ合わないんだよ。しっかりダッシュしたのも3歩だけだし」
「難しそうだな。どうする?やっぱやめとく?」
「いいや……」
バサァッ!!
「ちょっと本気出す」
どうやら美咲は余計に火がついてしまったらしい。
気付いたら彼女は上着もシャツも脱ぎ捨てて、お馴染みの黒のタンクトップ姿へと変貌した。
上着を腰に巻いた美咲の立ち姿は、普通にカッコよかった。
俺も気合を入れないと。
「たかが公園に置かれてる程度の木偶の坊にここまでコケにされるとはね」
「こうなっちまった以上はキッチリ後悔させてやらないとなぁ。この『花咲川最強のコンビ』を敵に回したことを……!」
軽快にボールを弾ませながら、美咲が最初の位置に戻っていく。
俺も初期位置を確認して構える。
人差し指の先端でクルクルとボールを回しながら、美咲がゴールを見据える。
「さっきよりドリブルのスピード上げるから、見逃さないでよ」
「了解だ。見せつけてやろうぜ」
「そんじゃあリベンジ──!」
ダッ!
かなりのスピードでドリブルが進んでいく。
そしてあっという間に美咲は俺から3歩圏内の所まで踏み込んでくる。
美咲はボールを掴んみ、ダッシュで俺に突進してくる。
先ほどの助走も活きたトップスピードだ。
「ふっ!!」
「オラァ!」
美咲がさっきよりも大きく飛び跳ねる。
助走は申し分ない。カチ上げるタイミングも完璧。
あとは美咲が決めるだけだ。
「いっけぇぇぇぇーーーッ!!!」
「オラァァァァァーーーッ!!!」
右腕でボールを掴んだ美咲が、ゴールの方向へ真っ直ぐに飛んで行く。
野生的に、そして容赦無く、美咲の右腕のボールがゴールへと吸い込まれる。
バゴァッ!!
決まった。
ゴール全体が大きな音を立てながら、美咲の体重に揺れて、シュートされたボールは地面へと叩きつけられる。
残っていたのは、ゴールのリングに右手1本でぶら下がった美咲の姿だけだ。
「あたしたちの勝ちだ」
「ダンク成功だな」
シュタッ
今回のMVPが華麗に着地も成功させたところで、当然いつものアレも自然と出てくる。
パンッ!
「「お疲れっ」」
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ダンクを成功させた後も、俺と美咲はずっとくだらない遊びをし続けた。
こうして美咲とバカやってる時間はやっぱり何よりも楽しい。
それこそ、時間を忘れてしまうほどに。
「結構ガッツリ遊んだね」
「そうだな。もう夕暮れになりそうだ」
時刻は夕方の直前。
最後に俺たちは公園を離れて、河川敷で川面に移る夕日を眺めながら、その場に座り込んでいた。
「あたし、本当はこんなにガッツリ外遊びとかする性格じゃないのに、なんであんたと遊んでるのは平気なんだろうね?」
「俺だってここまで遊ぶのは稀だよ。なのになんでなんだろうな?」
「「……」」
ドサッ
座り込むのも疲れた気がして、お互いにその場に大の字で倒れ込む。
夕焼けに染まりつつある空の色が、今日は一段と綺麗に見える。
「美咲……」
「何?」
「俺、お前といると楽しい」
「奇遇だね。実はあたしもなんだよ」
汗だらけの体の表面を、肌寒い風がさぁっと吹き抜ける。
草木が揺れる音が聞こえて、鳥の鳴き声が聞こえて、川のせせらぎが聞こえて、美咲の息遣いが聞こえる。
寝転がりながら、何もせずに全身でそれを感じる。
疲れた体だからこそ、よく感じ取りやすい。
いい汗をかいた後にしか味わえない、最高の疲労感だ。
「レン……」
「ん?」
「また遊ぼうね」
「……おう」
・・・・・・・・・
「…………」
・・・・・・
「「……」」
・・・
「「Zzz……」」
今回のリクエストは『美咲ちゃんと公園で遊ぶシチュ』でした。ちょうど美咲ちゃんの章を書いてたので、勝手ついでに締めくくりとして使わせて頂きました。
『ヤミマクロン』さん。対戦ありがとうございました。
美咲ちゃんとの関係が好きって方が多かったので、こんな章や話を書いてみましたが、どうでしたか?
感想待ってますね。
次の更新は、作者が暇になったら。
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今回みたいに、美咲ちゃんと一緒に戦う系の話、需要はある?
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1.ある
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2.あんまり