ちょっと最近めちゃくちゃ忙しくなってるけど、周年が来る前に一筆。
流石にこれだけは書いとこうと。
【卒業式後、花咲川の中庭】
三月とは思えないような暖かな小春日和の中、花咲川の卒業式は多くの想いを乗せて執り行われた。
涙する者、微笑む者。
卒業生も在校生も、今日という日に対して三者三様の表情を見せている。
温かな風が吹き抜けるこの中庭は、いつもとは違う空気が流れていた。
そんないつも通りとは言えないような花咲川の中庭で俺はというと……。
「千聖さんと花音先輩、春から同棲するってマジなんすか!?」
「なんで先輩の卒業式当日でテンションいつも通りなのよ!」
「まぁまぁ。千聖ちゃん……」
卒業ムードのちさかのにウザ絡みして千聖さんから引っぱたかれていた。
「だってあの千聖さんと花音先輩が誰にも邪魔されずに!一つ屋根の下で2人っきりなんて絶対何かあるじゃないですか!」
「何も無いわよ!」
「とか言いつつ家の中で2人っきりなのをいい事に花音先輩の膝枕を独り占めするつもりなんだろ!?」
「しないわよそんなこと!」
「一緒にお風呂入ってキャッキャウフフするんだろ!?」
「する訳無いでしょ!」
「とにかく何かと理由付けてイチャイチャするんだろ!」
「しないって言ってるでしょ」
「しろよイチャイチャぐらい!!」
「どう答えたら正解なのよ!」
どうやらゴシップネタの類は無いらしい。
どうやら大きな進展は無いようだ。少なくとも『今はまだ』。
「あはは……。みんな結構しんみりした雰囲気の子たちが多いけど、レン君はいつも通りなんだね。なんだか安心しちゃうな」
「そうですか?」
「うん。元気そうな顔が見れて嬉しいよ。もしかして、あんまり寂しくない?」
「わざわざ分かり切ったこと聞かないでくださいよ花音先輩」
そんなの、そんなの……
「めちゃくちゃ寂しいに決まってますよ。当たり前じゃないですか」
「レン君……」
「でも残念でしたね。俺、卒業生は笑って送り出すって決めてるんで、態度には出しませんよ」
当然だ。
寂しい時ぐらいちゃんと『寂しい』って言うようにはしてるが、それはそれとして、俺の手は去り行く誰かを引き止めるためのものじゃない。
この手は未来へ突き進む誰かの背中を押すためのものだから。
だから、これが俺なりの手向けだ。
「まったく。なにが『態度には出さない』よ。強がってるだけなんじゃない」
「うん。でも、レン君がそうしたいなら、きっとそれが一番なんだよね」
あぁ。やっぱり優しいな。俺の先輩は。
「レン君」
「はい」
「卒業しても、また会おうね」
「ですね。花音先輩とは、まだまだいっぱい話したいですし。千聖さんとの愛の巣も気になりますし」
「愛の巣では……ないけどね……」
ちょっと引き気味ではあるが、花音先輩はそう言った後にしっかり俺と握手を交わしてくれた。
「レン」
「はい」
「もう今更多くは言わないわ」
俺の肩に手を置いた千聖さんからのメッセージは、シンプルなものだった。
「進級しても、しっかりやりなさい」
「当然です。俺も応援してますからね」
「えぇ。後輩にも恥じない背中を見せるわ」
そんな言葉の交わし合いの後。
騒がしい花咲川の中庭で、俺と千聖さんは誓いのハイタッチを響かせたのだった。
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「燐子さん、卒業おめでとうございます。答辞、感動しました」
「うん。こっちこそ……来てくれてありがとね。レン君」
「ありがとうだなんてそんな。俺はお礼を言われるようなことなんて……」
「そんなことないよ。ここ最近忙しかったのに。卒業式の準備までしっかりやってくれたんだもん」
「先輩たちの晴れ舞台なんですから当然ですよ。それにここ最近忙しかったのは燐子さんの方じゃないですか?」
「じゃあ……ここ最近のレン君の予定、聞かせてみてよ」
「いや、別に大したことはないですけど──」
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ここ最近の俺のスケジュールなんて、せいぜいこんなもんだ。
↓以下、レン君がココ最近で忙しかった様子をダイジェストでお送り致します。
「よ~~~っしバレンタイン特集脱稿~~~ッ!!…………ん?透子から?」
・・・
「ふざけやがって。なんでもっと早くこの写真を寄越さなかったんだよ。また作り直しだ……。──確かにつくしの写真は可愛いけどさ」
ただでさえ取材続きでおかしくなりそうだったのに更に仕事が増えたり……。
「ねぇレン」
「なんだよ美咲。俺、今眠たいんだけど」
「いや、最近バイトと取材で忙しそうだけど、あんた勉強とか大丈夫なの?」
「なんで勉強?」
「なんでって。そろそろ定期テストじゃんか。まさか忘れてたの?」
「ファッ!?!?」
まるっきり放っぽりだしていたテスト勉強に大急ぎで手を付けたり。
『先輩!大変です!!』
「はぁ!?AfterglowがRoseliaに宣戦布告!?ツーマンライブの準備があるから手伝え!?なんだその面白アツい展開!いいぜいいなオイ!照明でもスモークでもバンバン手伝ってやるよ!おいロック!あの
どっかのボーカルに振り回されたり。
「どうした香澄。えっ?花女の卒業生の応援ライブ?いやお前。『応援』ライブだったら俺が手伝わない訳にはいかないだろうが。任せろ舐めんな。こちとら現役でライブハウスのスタッフやってんだぞ?」
「ありがとうレン君!あと、もう1つ頼みたいことが──」
「告知だろ?急いで記事に落とし込んで掲示板にぶち込んでやる。内容は日時と……いや、日時はまだ決まってねえのか。じゃあ取り敢えずスタッフの募集と参加者の呼び込みだな。あとは、学校に来ない3年生への告知を……いや、その辺りは有咲と話し合う方がいいか」
「ありがとう!あと、レン君もステージ上がって何か弾いて貰うから!」
「は?」
「じゃあ私、別の子もスカウトしてくるね!」
「おい、ちょっと待て。これ以上の仕事量は脳がパンク──」
「練習しといてねぇーーーー……!!」
「おいコラ人の話は最後まで──あぁもう!香澄~~~!!!」
どっかのボーカルに振り回されたり。
「なぁ美咲!有咲!流石に俺も演者としてやるのは無理なんだって!!スタッフとしては参加できるし応援したい気持ちもあるけどこれ以上のタスクは流石に──」
【ライブ当日】
『真っ白な景色に今、誘われて』~~~♪(レン)
『僕は行くよ。まだ見ぬ世界へ』~~~♪(香澄)
『『Wow……』』
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『やることが……やることが多いッ!!』
上記の他にも、バレンタインチョコを渡したいのに勇気が出なくて困ってる女の子たちの背中を押してやったり、つくしから貰ったガトーショコラにドギマギしたり、Roseliaのツアー最終日を観に行った時にまりなさんの隣でボロッボロに泣かされたりもして、とにかく俺は色んな場所で動き回っていた。
つまり──
「ま、大したことないっすよ」
「レン君、今日は……帰ったらゆっくり休んでね……」
まぁ、みんなの為にやってる仕事は苦でもないのだが。
「レン君は、本当に頑張り屋さんだね」
「そうですか?」
「うん。そうやって誰かを支えるために頑張っている君の姿は……本当に、素敵だと思う」
「……それは、どうも」
「頑張る誰かの応援し、頑張る誰かのために頑張る。私は君のそんな在り方が、本当に大好きだよ」
「やっ、やめてくださいよ燐子さん。照れちゃったらどうするんですか」
「もう照れてるよ」
「むぅ……」
「ふふっ」
あぁ、やっぱり敵わないな。この人には。
「レン君」
「はい」
「これから色んな事が変わっていくと思うけど、その在り方は大事にしてね」
「当たり前です。みんながくれた、俺の生き方ですから」
「うん。それなら……よかった」
「燐子さんこそ、『小さな一歩』の踏み出し過ぎで変わり果てちゃったりしないでくださいよ?大学デビューでパンクになった燐子さんとかイヤですからね?」
「流石にソッチ系の一歩は踏み出さないと思うけど。でも、そうだね……」
燐子さんはそう言うと、俺の胸に人差し指の先をトンと当てた。
「もし私が何か新しい何かに挑戦する勇気を持てなかったら……その時は応援してくれる?」
「当たり前です。停滞からは何も生まれませんからね。『逃げたら一つ、進めば二つ』です」
「ありがとね。やっぱり何かに迷った時、私はそこから逃げる自分より……そこから『小さな一歩』を踏み出せる自分でいたいから」
「カッコいい」
「みんなのお陰だよ」
こんな時でも燐子さんは、最後まで周囲への感謝を忘れなかった。
そしてそんな先輩の姿に、俺の尊敬の念はいつまでも消えなかった。
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「彩さん……」
・・・
「ねぇ、彩さん」
・・・
「彩さん、ねぇってば」
・・・
「いい加減、泣き止んでくださいよ」
「だっでぇぇぇ~~~っ!!」
丸山彩、俺の憧れの先輩であり、恩人であり、人生の師匠とも呼べる人であり、カッコいい時は誰よりもカッコいいが、カッコつかない時はとことんカッコつかない。
そして今日はとことん泣きじゃくってるらしいので、会ってから速攻でハンカチを渡した。
「ごめん。ありがと。落ち着いた」
「いいですよ。彩さんの泣き顔も、それはそれで見ごたえありますし」
「放っといて」
「はいはい」
ちょっぴり充血した目を拭いながら、頬をぷくっと膨らませて彩さんが抗議してくる。
可愛い。
「「……」」
お互い、なんとなく黙ってしまう。
でも気まずさは無い。
少し目を合わせると、彩さんはおかしそうに微笑んだ。
「なぁ、彩さん。……ありがとな」
「……どうしたの?いきなり」
「あんたは何があっても諦めない。泥くささの塊みたいな女だ」
「……」
「あんたには色んなことを教わった。誰かと真っ直ぐ向き合うことの大切さも、物事を絶対に諦めないことの重要さも……」
・・・
「俺も泥くさく生きてやるよ。あんたの言葉と、あんたの生き様が教えてくれたように」
「言うようになったじゃん。友希那ちゃんと上手く話せなくて屋上でウジウジ悩んでた豆腐メンタルのレン君はもう居ないの?」
「そりゃ居ないよ。どっかの誰かさんのお陰様で」
「ふふっ、それもそっか」
「あぁ。だから心配すんなよ。彩さんが卒業しても、彩さんの在り方は俺が……いや、俺たちが覚えている」
俺の言葉を、彩さんは微笑みながら確かに受け取ってくれたようだ。
「レン君」
「はい」
「本当に、ありがとう」
「俺も、彩さんには感謝してもしきれないです」
「また、焼き肉行こうね」
「その時は誘ってください。時間空けるんで」
彩さんは卒業する。
俺たちのすぐ近くから、俺たちの知らない場所へ行ってしまう。
でも、また会える。
たとえ離れても、この感謝が、この約束が、この記憶が、また俺たちを繋ぐのだ。
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「レンさん」
「ほあっ!?」
紗夜さんのことを探し回っていた折、不意に背後から冷たい缶コーヒーが首筋に押し当てられ、割と人目が多いのに変な声が出てしまった。
「もう。紗夜さん」
「ふふっ、どうしましたか?」
「……いや、その、なんでもないです」
そんな顔されたら何も言えないだろ。紗夜さんのばか……。
そんな文句を飲み込みながら、俺は紗夜さんから缶コーヒーを受け取り、そのまま2人でベンチに腰掛けた。
「取り敢えず、卒業おめでとうございます。紗夜さん。色々、お疲れさまでした」
「えぇ。あなたも。お仕事お疲れ様です。まだやる事はあるのでしょう?」
「そうですね。方々で卒業生の写真撮ってあげたり、沙綾に頼んでた卒業式の写真も回収しなきゃですけど、まぁ、忙しないのはいつも通りですよ。退屈しないのはいいことだ」
それに学校を出てもCiRCLEのスタッフとして先輩方の卒業パーティの準備をしなきゃだし。
うん。相変わらずだ。
「レンさんは、私たちが出会った初めの頃を覚えていますか?」
「……覚えてますよ」
「あの頃は生意気な少年だったわね。悪い目つきでそこら中を睨みつけて、それでも何かにずっと必死で」
「そうですね。紗夜さんにもいっぱい迷惑かけちゃいましたよね」
「そうね。放課後の図書室、年下の分際で敬語も使わず噛みついてきたり……」
「ふぐっ……」
「あなたが奥沢さんと羽丘に殴り込んで、自習中だった教室の扉を蹴り壊したなんて苦情が入った時は、比喩表現抜きで頭を抱えたわ」
「うぐっ、いや、美咲は悪くないですから……」
「自覚があるかは知りませんが、結構な問題児だったんですよ。あなた」
迷惑かけてんなぁ。俺。
「それで、そんなレンさんも春から3年生……。すっかり頼もしくなったわね」
「ふふーん。そりゃあ紗夜さんの教え子ですから」
「そうね。3年になって私が居なくなっても、ちゃんと勉強に精を出すのよ」
「紗夜さん……」
・・・
「それはちょっと……」
「こら」
紗夜さんがむすっとした。
可愛い。
「まぁ勉強面はともかく」
「『ともかく』じゃないわよ」
「紗夜さんから受けた恩は、これからも忘れないつもりです」
「レンさん……」
「忘れませんよ。あの時の図書室で言ってくれた言葉も、ライブで見せてくれたカッコいい表情も、……そして、ポテト不足に怒り狂った腹いせに、校舎のコンクリート壁へ放った……えげつない一撃も」
「最後は忘れてくれていいのですが……」
「とにかく、紗夜さんからしてもらったようなことを、後輩や他の誰かに出来るような人間になれたらなって、思います」
「……もう。本当に頼もしくなったんだから。これからの花咲川は任せたわよ」
そう言って紗夜さんが優しく微笑む。
俺は紗夜さんのこの表情が、本当に好きだ。
「それにしても、最後まで泣かなかったのね。あなたは」
「……泣かずに笑って送り出す、これがあんたとの約束だったからな」
「少しぐらい寂しがると思っていたわ。あなたはお姉さんに似て寂しがり屋だから」
「まぁ、寂しくないって言えば嘘になるけど、でも、今生の別れって訳じゃない。立ってる場所が違っても、みんな心で繋がっちまってんだ。離れ離れになったとしても、心のどこかで傍に居るんだよ。だから、まぁ、なんつーかよ……」
俺は飲みかけの缶コーヒーを、紗夜さんに突き付けて言い放つ。
「大学行っても頑張れよな。紗夜さん!」
「えぇ。言われずとも……!」
カンッ!
騒がしさの残る中庭で、缶コーヒーの打ち付ける音が響く。
この応援が、少しでも彼女たちの力になってくれるなら、嬉しく思う。
俺に出来ることなんて、応援することぐらいだけど、この応援に賭ける熱量だけは誰にも負けない。
これからも応援してるぜ。俺の、いや……。
『俺たち』のヒーロー!!!
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紗夜さんとコーヒーを打ち付け合った後、しばらく2人で雑談に興じていると、燐子さんがこっちに向かって走ってきた。
「すいません!匿ってください!」
「燐子さん?」
「白金さん?どうしたんですか。そんなに必死な形相で」
「大変なんです。戸山さんと弦巻さんが、生徒会長として頑張った人だからみんなで私を胴上げしようって……」
「なるほど、それはまた……」
「うん。だから、ちょっとだけ匿って──」
それはまた……随分と『面白れぇ』ことになったものだ。
「燐子さん」
「なに?」
ガシッ!!
悲しいなぁ。
燐子さんとも長い付き合いだから、俺がそんなこと言われたらどんな反応をするかぐらい、理解してくれてると思ったのだが。
『匿え』だなんて言うなよ。寂しいだろ燐子さん。
「あの、レン君?」
「Gotcha!(捕まえた)」
「あぁ……(絶望)」
でもさすが燐子さん、俺の表情と態度を見た瞬間に全てを悟ったようだ。
「あの、氷川さん……」
「なんですか?」
「いや、どうか風紀委員長として、レン君たちを……」
「白金さん、残念ですがもうその肩書きと腕章は私には無いんです。卒業生ですから」
「……えっ」
まぁ、つまり……。
「安全第一ではありますが、なるべく高くまで吹っ飛ばしますね」
「おいお前ら捕まえたぞ!!みんなで胴上げだぁぁぁ!!!」
「ヒイィィィィ……!!」
「みんな!!燐子先輩があんなところに!」
「総員、囲めぇぇぇ~~~!!!」
やっぱり花咲川は、しんみりするよりも、ちょっと元気で騒がしいぐらいが丁度いい。
そんなことを考えた頃には、既に燐子さんは在校生たちによってもみくちゃにされていた。
こうして花咲川の卒業式は、相変わらずの騒がしさで幕を閉じたのだった。
「「「「「「白金燐子!!バンザーイ!!」」」」」」
「「「「「「生徒会長!!バンザーイ!!」」」」」」
「キャアアアアアアアァァァァーーー!!!」
そして花咲川の中庭では、生徒たちの元気な掛け声と、燐子先輩のシャレにならない悲鳴が、いつまでも響き渡ったのだった。
ガルパの3年生の皆さま。
ご卒業おめでとうございます。
皆様の未来が、どうか輝きに溢れたものであらんことを。
未来、最高! イェイ イェイ!
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