ネタバレ要素ってほどの物は無いと思いますが、一応ポピパ3章見てきてから読んでくださると安心です。
ライブハウスで働いていると、ライブそのものの運営に関わることが多い。受付や、案内、そしてライブ後の会場の掃除もだ。
今回のライブも無事に成功し、掃除もあらかた終わり、今は掃除の最終チェックを一人でやっているところだ。
しかし、ライブが終わった後のライブ会場とは何故こんなにも寂しく感じるのだろうか。そこら中を埋め尽くしていた観客の歓声は無く、ステージ上のバンドマンの歌声も無い。特に、今回のライブ内容はPoppin'Partyの主催ライブだったのだ。盛り上がりが激しかった分、終わった時の静寂もより強く感じる。
「にしても、こんなに広かったか?この会場」
耳にはまだ彼女たちの音楽の余韻が残っている。頬を滑り落ちる汗をタオルで拭いながら、そんな感想を零す。胸の内の寂しさをそのままに、作業を再開しようとした時、会場の扉が開かれた。
「あっ、レン君・・・」
「香澄・・・」
扉の方にはなぜか、ライブをやり切って帰ったはずのボーカルの姿があった。
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「じゃあ香澄。取り敢えずライブお疲れ!」
「レン君もね!」
お互いに言葉を交わし、ペットボトルのスポーツドリンクをぶつけ合う。
今はライブ会場の後ろの壁にもたれながら、二人で地べたに座り込んでいる。バンドのボーカルに裏方、本来交わることのない正反対な存在の俺達だが、香澄にとってはそんな常識は壁にすらならない。
・・・それにしてもスポーツドリンクが美味い。やはり運営で汗を流しまくったからだろうか?余った差し入れを譲ってくれた香澄には感謝しなければ。
「にしても、どうしてここに?忘れもの、って訳じゃないんだろ?」
「いやぁ、ライブの余韻が忘れられなくて・・・なんとなく?」
「なんとまあ香澄らしい理由」
「えへへ。だから有咲たちには先に帰ってもらって、そのまま来ちゃった。」
「思い切りが良過ぎる・・・」
まぁ、その思い切りの良さが香澄のいい所でもあるのだが・・・
「レン君ってさ、私がSPACEできらきら星歌った時のことって覚えてる?」
「なんだよいきなり?・・・まぁ、忘れる訳ないわな。すげえ衝撃だったし、俺が新聞部として作った最初の記事の内容だからな」
「ああ、そうだったね。最初はグリグリの取材だったのに・・・」
「で?そんな昔話なんか持ち出してどうしたよ?センチにでもなったか?」
「どうだろ?でも、成長したなーって」
「なるほど。確かにな。有咲とカスタネット一個で先輩のライブに飛び入り参戦したお前も、今となってはデカい会場でライブするようになったもんな」
「まぁ、そこも成長したんだけどさ。人間としても成長させてもらってる気がするんだ。ポピパの団結も強くなったし、前まで見えてなかったものが見えるようになった気がするの」
「そうだな。周りの人間まで巻き込んで、みんなお前の熱にやられていくんだ。・・・凄いやつだよ。お前は」
「そうかな?でも、それも音楽が私を成長させてくれたお陰なのかも」
普段はバカでお調子者な香澄だが、有咲やほかのポピパのメンバーも皆、香澄は凄いやつだと言う。ポピパのライブが盛り上がる理由も、こいつのカリスマ性を見ていると何となくわかる気がする。
「・・・ライブが終わるとさ、ちょっと寂しくなるんだ」
「寂しく?」
「あぁ。あんなに会場を埋め尽くしていた声が、今はどこにもない。なんか、何も無くなっちまったように感じてくるんだ。ライブなんて、無かったんじゃないのかって・・・」
「ううん。レン君、それは違うよ。ライブはいなくなってなんかないし、寂しく感じることもないんだよ?」
「香澄?」
「ライブはね、今もここに居るの。今は休んでるだけ。次のライブで盛り上がるために、ワクワクしながら息を潜めてるんだよ」
「楽しい表現だな」
「そうかな?でも、私はライブが終わると楽しい気持ちになって、「またやりたい」って思うの。そして次のライブのことを考えてワクワクする。そんな感情がライブそのものにだってあるんじゃないかって思うの。なんてったって、「ライブは生き物」なんだから」
「前のイベントの時も言ったけど、「ライブは生き物」をそんなトンデモ解釈してるのはお前だけだぞ?でも、でもお前の考え方って嫌いじゃないんだよな・・・」
「まぁ、今は終わったばっかりだし、「疲れたー」とも言ってそうだけどね」
ライブで流れた汗も乾き、空調の影響で涼しさが出てきた。ライブに出演したわけでもないのに、なぜか達成感のようなものを感じる。
スポーツドリンクを飲んで一息つくと、香澄が肩をくっつけてきた。普段なら離れようとするのだが、そこまでの体力もないのでそのままにする。
「レン君も、音楽の力で成長したんじゃない?」
「どうだかな。俺は楽器を弾いてる訳でもなければ、マイクの前で歌ってる訳でもないからな」
「関係ないよ。音楽やライブを通して、レン君は確かに色んなものと繋がったはずだよ?」
「自分自身の成長とか言われてもパッとしないんだけどな・・・」
「でも、「ライブが終わって寂しい」なんて、昔のレン君じゃ言えなかったと思うよ?音楽、前よりも好きになったんじゃない?」
「・・・確かに、昔よりも音楽は好きになったかもしれない。でも、こんなの成長って言っていいのか?」
「いいんだよ!そんなレン君もっと出していけばいいんだって。音楽が好きって言ってるレン君の方が絶対に良い!」
確かに、音楽を好きになって良かったと思うことは多い。俺自身、中学の頃の自分よりも今の自分の方が好きでいられる気はする。
「なぁ香澄。すごく小さいことなんだけど、自慢したいことがあるんだ。聞いて貰っていいか?」
「自慢?」
「前にさ、姉さんに音楽の話を振ったんだ。「この歌かっこいいよな」って。ただそれだけなんだけど、でも、初めて音楽の話で盛り上がれたんだよな。小さいことだし、ほとんどの人にとっちゃ大したことでもないんだけど、幸せだった」
「なんだ。パッとしないなんて言ってたくせに成長してるんじゃん。レン君の嘘つき」
そう言って香澄は笑う。だだっ広い会場の端っこでは、俺たちの話し声がしばらく響いていた。
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誰もいないステージを二人でぼうっと眺めていると、時間はあっという間に過ぎた。
「なぁ、香澄」
「んー?」
眠たげに返事を返す香澄。
「ありがと」
「ふふ。何のことか分からないけど、どういたしまして」
最初にこいつを取材して、本当に良かった。こいつのきらきら星を聞いて、何かが動いたのだ。俺がわざわざガールズバンドを取り上げようと思ったのも、そのためにAfterglowのライブに行ったことも、CiRCLEで働くことになったのも、それで色んな人と関わりを持てたのも、音楽が好きになるきっかけの源流は全て戸山香澄という一人の人間に集約している。そのこと全てに対する感謝だったのだが・・・
「すやぁ・・・」
それを伝える前に、香澄は俺の肩を枕にして寝てしまった。まぁ、ライブの後だし、疲労も溜まっていたのだろう。
「・・・お疲れ様」
それだけを香澄に伝え、俺はまたステージをぼうっと眺めるのだった。
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その後、香澄につられて寝落ちした俺は、掃除のチェックを放棄して寝落ちしたことをまりなさんにたっぷり叱られた。
「読みにくい」や「良かった」などの感想や意見、また「このキャラを見てみたい」、「このシチュが見てみたい」などのリクエストがあれば受け付けていますので、気軽にお願いします。
後、「この話が一番好き」などの感想も待ってます。参考にしたいので。
感想、一言でも書いてくれたら嬉しいです。待ってます。
ポピパ3章を見てオーナーがめっちゃ好きになりました。ただでさえブラッ〇ラグーンのバララ〇カさんみたいな声でかっこいいなーとか思ってたのにもう、なんか普通に好きになりましたね。
相変わらず迷走しながら書いてます。誰か迷走の抜け方とか知りませんか?