今回はリサ姉の話です。
新聞部の作業が家に持ち帰りになることは珍しくない。そして、持ち帰りをしなければならないほど滞るような作業は大抵徹夜が確定する。
今回も徹夜は確定していたが、徹夜にしては早めに作業が片付いた。ブルーライト対応のメガネを外し、背骨を鳴らして伸びをする。夜食やエナジードリンクに頼らずに作業が完了し、一安心といったところだ。
時刻は深夜1時半。徹夜の割にそれなりの睡眠時間も確保できた。後は電気を消してベッドに飛び込むだけの簡単な仕ごt
バタンッ!
「突撃☆ 隣の夜ごはーん!!」
面倒な仕事が増えた。
「帰れ。俺はもうやる事を終えてるんだ」
「そうなんだ。アタシもちょうど課題終わったんだ~」
「だったら猶更帰れよ!お互いやる事ないなら起きる意味も無いだろ」
「え~。たまにはいいじゃん。アタシはレンと夜食が食べたいの」
「俺はさっさと寝たいんだよ。姉さんだってこんな時間に食べたら後悔するぞ」
そう言って俺はベッドに向けて歩き出す。しかし簡単には逃げられず、後ろから姉さんに抱き着かれる。緩い力だが、抵抗も出来ない。
色気を孕んだ声で、姉さんは俺の耳元に口を近づけて誘惑する。
「ねえ、本当にいいの?」
「いいよ。珍しく順調に作業が終わったんだから解放しろ」
「じゃあ、レンはお腹空いてないんだ?」
「それは・・・」
「空いてない訳ないよね?だって一時半だよ?頭も使いまくってさ・・・ほら、お腹にも全然力入ってない。体は正直だね♡」
「違う。俺は・・・」
「それにね。お姉ちゃん知ってるんだよ♡男の子ってこうゆうのが好きなんでしょ?」
そう言って姉さんは携帯の画面を俺に見せる。そこに書いてあったのは・・・
シーフード味のカップラーメンに鷹の爪を入れて、牛乳とお湯を入れる工程が丁寧に説明された、禁断のレシピが写っていた。
「それはっ、呪術〇戦で西〇ちゃんが紹介してたヤツ・・・!」
「あっ、ちょっとお腹鳴ったよね?ほら、正直に言いなよ。・・・食べたいって♡」
「いや、これやるためにわざわざコンビニまで買いに行くなんて面倒じゃないか?この時間は外も冷える。ここにカップ麺がある訳でもないのに——」
「あるよ?」
「嘘だ・・・」
「2つあるよ。おっきいの♡」
「・・・!」
「どうしよっかなぁ?お姉ちゃんが・・・全部食べちゃおっかなぁ?」
「・・・べたい」
「聞こえないよ?男の子の主張は大きな声で、ね?」
「姉さんの夜食が・・・食べたいです。・・・食べさせてください」
「ふふ。道連れ確保♡」
こうして俺は、姉さんの甘い誘惑にまんまと引き込まれたのだった。悪いことだと分かっているのに、イケナイことだと分かっているのに、俺はその誘惑に逆らうことが出来なかった。
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「はい。という訳でキッチンにやって参りました!」
「いやー楽しみですねぇ」
正直、本当に楽しみだ。アニメや漫画で見る美味しそうな料理のレシピって「やりたい」とは思いつつ何かと理由付けて結局やらないことが多いから、なんだかんだいい機会だったのかもしれない。
「よし、それではレン君、早速ビンの牛乳を二本取ってくれたまえ」
「え?今井先生、牛乳パックから計量カップに注ぐんじゃないんですか?」
「今回のカップ麺はビッグサイズのものを使ってるからね。ビンの牛乳1本ででちょうど容器の半分ぐらいになるんだ」
「なるほど、今回の工程は、牛乳を容器の半分まで入れた後にグツグツのお湯を線まで注ぐ方法だから、それで手間が省けるんですね」
「そう。少な過ぎたり入れ過ぎたりする心配も無いからね」
「さすが今井先生!」
「そしてここでワンポイントアドバイス!」
「何!?深夜テンションでふざけてやっていた筈の小芝居なのにそこまで料理番組じみたことを!」
「本来は牛乳の冷たさはお湯で補うというやり方なんだけど、今回は牛乳をコップに入れて電子レンジで温めます」
「なんだ?紹介されてたやり方じゃダメなのか?」
「確かに悪くはないけど、温度に違いがあり過ぎると、牛乳に浸かってた麺とお湯に浸かってた麺が上下で分かれちゃって、上下で麺の硬さにムラが出てくるの。それに、冷たい牛乳と熱いお湯が温度を打ち消し合ってちょっとぬるくなるんだよね・・・。ぬるいって言っても全然あったかい状態で食べられるし、寧ろ火傷の心配が減るというお釣りがつくんだけど・・・」
「やだ。カップ麺は熱々の麺をフーフーしながら食べるから美味いんだ」
「ま、付き人がこうゆう奴だから今回は牛乳を温めます。温めた牛乳とお湯を同時にカップへ流し込めば、味や温度のムラも心配要らないと思うよ」
「姉さん、さっきから説明があまりにも説得力が強いんだけど。さてはやったことあるな?」
「ああ、このレシピ?アタシは無いんだよね。やったことがあるのはこの小説の作者さんだよ?」
「おいコラ」
そうこう話しているうちにお湯も沸き、牛乳も温まった。キッチン用のハサミで鷹の爪も切り刻んでいる。
切り刻んだ鷹の爪を容器に放り込み、姉さんと息を合わせてお湯と牛乳を注ぎ込み、フタを閉めて、温度を閉じ込めた。
そして、3分が経った・・・!!
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「なぁ姉さん。もういいよな?」
「よし、開けよう・・・!」
開けた瞬間、とてつもなく良い匂いが鼻腔を襲う。これは、深夜に嗅いでいいものじゃないのは分かっていたが、それを理解する頃にはもう俺たちは麺をかき混ぜ終わっていた。
「「頂きまーす!!」」
まぁ、美味しかったかどうかは言うまでもない。
「ねえレン、これヤバくない?すっごいまろやかなんだけど。少なくともアタシが知ってるシーフード味じゃない」
「ああ、しかも通常形態よりまろやかになった分、ちゃんと鷹の爪が良い仕事してるぞ。」
「凄いよね。シーフード味が持ってる本来の旨味がちゃんと活かされてる」
「考えた人天才だろこれ・・・」
その後も俺たちは夢中になって麵をすすった。そして姉との夜食会は、二人ともスープを飲み干す形で無事に大成功を収めた。
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「いやー、両親に黙って夜な夜な食べるカップ麺の味は最高だね。この背徳感がたまらないと言うか。やっぱレン誘って正解だったな~」
「背徳感云々はともかく、カップ麺の味は確かに最高だったな」
「レンとこうしてインスタント食材を頂くなんて、いつぶりだろ?」
「確かに、姉さんはいつも手作りだもんな。」
「そうだね。あっ、でも手作りを当たり前だって思ったりしない方がいいよ?アタシは面倒見いい方だから構わないけど、他の女の子に当たり前のように求めたりしたらダメだからね?」
「何を分かり切ったことを。あんたのレベルをそこらの女子に求める方が酷だろうが。」
「どうだか。これから先結婚とかした時に、「手作り以外は料理じゃない」みたいなことを奥さんに言っちゃったりするタイプの大人になってたらイヤだからね?」
「なんでこの年で自分の姉に結婚後の心配なんてされなきゃいけないんだよ」
「いやいや、もし結婚相手が友希那みたいな人だったらどうするの?」
「あのレベルだったら猶更やらせたくねえよ。まだ俺がやった方がマシだ」
「アタシからしたらあんただって酷いもんだよ?ただでさえ手先不器用なのに・・・」
「まぁ、どうせ結婚なんて先の話だろ?結婚だったら、姉さんこそ大丈夫なのかよ?」
「えぇ?アタシは大丈夫でしょ?料理も家事も得意だし、面倒見も良い方だし、自分で言うのもなんだけど、それなりにいい奥さんになると思わない?」
「そうか?姉さんみたいにしっかりした人間に限ってダメ男好きだったりするんだよ。相手を不幸にする心配は無くても、自分が痛い目見る心配はあるんじゃねえの?」
「うわぁ、ヤだなぁ・・・。それなりに当たってそうなのも嫌だし、それを他でもない弟に言われるのも嫌だ・・・」
「まぁ、どうせ先の話だけどな・・・」
二人で寝ようともせず、だらけながら、そんな生産性のない会話をする。姉さんが結婚したら、こんな時間もなくなるのだろうか・・・?
「ねぇレン?」
「なんだよ?」
「もしアタシが結婚した後、その相手から酷いことされたら、守ってくれる?」
「どうだろ。姉さんの問題だし、俺が首突っ込んだりしちゃいけないかもしれないからな。でも・・・」
「・・・?」
「手の届く範囲にさえ居てくれたら、まぁ、体張るぐらいはしてやるよ。」
「なんだ。心配なんて要らないじゃん。頼もしい弟で嬉しいな」
「うるせえな」
「愛してるぞ」
「むっ・・・」
「大好き」
「・・・知らねえ」
この程度の言葉でドキドキして、恥ずかしくなってしまうのだから、俺も単純なのだと思う。
・・・姉さんが悪戯する時の悪い顔してるのは気がかりだが。
「もう。照れるな、よっ!」
「ちょっ!やめろ!抱き着くんじゃねえ!」
「やめないもん。レンがかっこいいこと言っちゃうのが悪いんだぞ」
「ふざけんな。香澄みたいなことするんじゃねえ!」
「なに~?香澄みたいにして欲しいの?じゃあほっぺにチューも追加だ!」
「だからホントにやめっ・・・力強えなおい!どこで鍛えやがった!?」
「愛の力!」
ほっぺにチューだけは避けたが、俺はそのまま姉さんに押し負け、しばらく抱き枕にされたのだった。
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翌朝、俺が寝不足気味の体に鞭を打っていると、姉さんの叫び声が聞こえた。
「体重増えてるううううぅぅぅぅぅ!!!!!!!」
悲痛な叫びだったし可哀想だとも思ったが、誘ったのは姉さんだし責任は取れない。
「俺知―らね」
今日も、爽やかな朝が始まる。
「読みにくい」や「良かった」などの感想や意見、また「このキャラを見てみたい」、「このシチュが見てみたい」などのリクエストがあれば受け付けていますので、気軽にお願いします。
後、「この話が一番好き」などの感想も待ってます。参考にしたいので。
感想、一言でも書いてくれたら嬉しいです。待ってます。
牛乳入りのシーフードカップ麺はマジで試しました。結構イケますよ。