駅前の繁華街にはちょくちょく立ち寄ることがある。喫茶店やクレープの屋台などの色んな店が立ち並び、気分転換にはうってつけだ。それに、運が良ければ暇な知り合いと出くわしたりもするので、そのまま知り合いと落ち合って一緒に遊ぶこともできる。
休日の昼前、その運の良さを引き当てて上原ひまりと出会って声をかけたのだが・・・
「しーっ!おっきな声出さないでよ!ほら早く隠れて!」
慌てた様子で人差し指を口に当て、抑えた声で責められた。普段ならもう少し機嫌よく返事をしてくれるのだが・・・
取り敢えず俺は指示通り、電柱の影に立つひまりの後方へ身を隠したのだった
「で、なんで隠れなきゃいけないんだよ?」
「見てわかるでしょ?尾行だよ。ビ・コ・ウ!」
「尾行?」
「そうそう。もしかしたら熱愛発覚の現場が見られるかもしれないの!レンも気になるでしょ?」
「熱愛発覚って・・・恋愛絡みはプライバシーがあるから記事になんかならねえし、そもそもしないんだけど」
「じゃあ、気にならないの?」
答えは当然・・・
「そうは言ってないだろ。どの2人だ?」
「ほら、前の方歩いてるあの2人・・・」
「あいつらか・・・」
ひまりが指さした先にいたのは若宮イヴと羽沢つぐみ、別段意外性はない組み合わせだ。羽沢珈琲店に行くとちょくちょく見かける。一見ただの友達同士のお出かけだと思ったが、気になる点が一つ。
あの2人、手を繋いでいる。しかもあれは・・・
「おい!アレ『恋人つなぎ』じゃねえか!」
「だよね!?私も最初は普通に声かけようと思ったけどあの距離感見て撤退したもん!」
「その判断は正解だったようだな。完全に2人だけの世界だぞアレ・・・」
「うん。やっぱりアレは・・・友達の距離感じゃない」
その後も俺たちは前方の2人に付かず離れずの距離を保ちながら尾行を続けた。そして、曲がり道を曲がった辺りで、変化は起こった。
「あれ?つぐとイヴの位置が入れ替わった。手もさっきとは別の手で繋ぎ直してる。なんで?」
「おいおい。恋愛脳のクセになんで気付いてないんだよ?あれは入れ替わったんじゃない。イヴが移動したんだ」
「イヴが?」
「そうだ。イヴの位置をよく見てみろ」
「位置を?えーと、つぐがいて、手を繋いだイヴがいて、そしてその横は車道で・・・まさか!?」
「そうだ。イヴのやつ、さっきからさりげなくつぐみに車道側を歩かせないようにしてたんだ」
「イケメンだ・・・!」
「それだけじゃない。イヴはモデル体型で背丈も足も長い。小柄なつぐみとは歩幅が違うはずなのにつぐみの足取りは欠片も乱れていない」
「まさか・・・!」
「そう。小柄なつぐみに気を遣って歩幅を合わせているんだ。」
「イケメンだ!」
「ああ。今回のデート、イヴがリードする流れのようだな」
「ヤバいよ。これは見逃せない・・・!」
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しばらく2人を付け回していると、お昼時になった。ちょうど噴水前で何かを話し合っているようだが、何か様子がおかしい。
「もうちょっと近づいてみる?何を話してるかわかるかも・・・」
「だな。フード被って噴水の死角に行けばバレない筈だ。幸い、俺たち2人ともパーカーだし」
「了解!」
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「ツグミさん、ごめんなさい。もう我慢できそうにないです・・・」
「えっと・・・今?」
「はい。あまりにもデートが楽しくてハグ欲が・・・」
「(イヴのやつ、かなり積極的だな・・・!)」
「(待って。イヴ、『デート』って言ったよね?もうこれ確定じゃん!)」
「うーん。でも人前だしなぁ・・・」
「ううぅ・・・」
「・・・」
「(頑張れイヴ!あと少しだ!泣き落とせ!)」
「(つぐ・・・やっぱりガードは堅いね)」
そうやって2人のやり取りに一喜一憂していると、つぐみが深呼吸を終え、意を決したようにイヴに向き直った。
「イヴちゃん、わたしがくっつかれたりするのが得意じゃないのは知ってるよね?」
「はい。恥ずかしいからと・・・何度か断られたりもしたので」
「駅前は人通りが多いから人目も気になるよね?」
「はい・・・」
「でも、最近イヴちゃんが忙しかったし、抱き着く機会もなかったよね?」
「それは・・・まぁ・・・」
「イヴちゃん。だからね・・・」
つぐみはそうゆうと照れた表情で微笑みながら、両腕をイヴに向けた。
「おいで・・・!」
「「(・・・!!)」」
「ツグミさん!!」
「うわっ!ちょっとイヴちゃん力強いよぉ」
「ツグミさんツグミさんツグミさん・・・!!本当に大好きです!ハグハグ~!」
「あっ・・・!もう頬擦りまで・・・甘えん坊さんなんだから・・・」
「(ねえレン。もうヤバくない?「おいで」からもう反則の嵐だよ・・・レン?)」
「(・・・)」
「(尊過ぎて、死んでる・・・?)」
俺は自我を保てるのだろうか・・・?
そんな疑問は、イヴに「力が強い」と苦言を呈しつつもしっかり相手を抱き返しているつぐみを見た瞬間、自我と一緒に消し飛んだ。
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噴水でのイチャつきを終え、つぐみとイヴは喫茶店で昼食を取るらしい。オープンカフェらしく、テント付きのテーブルに2人で腰掛けている感じだ。・・・観察しやすくて助かる。
そして、俺たちも同じく昼食の準備をしていた。近くのコンビニで、だが
「ひまりー。昼飯買ってきたぞ」
「おっ、どれどれ?」
「あんパンだけどな。あとこれ、牛乳な」
「チョイスが完全に刑事の張り込み・・・」
「一人が見張ってもう一人が飯買うって構図になった時点でもう張り込みだよ」
「まぁでも、実際に腹持ち良さそうだもんね。この組み合わせ」
「それで
「誰がデカ長か!・・・まぁ、変わった様子は無いかな。料理の待ち時間、お互いニコニコしながら見つめ合ってる」
「なんだその天国みたいな光景・・・」
そんな天国みたいな光景を、牛乳であんパンを流し込みつつ見守る。
「ツグミさんツグミさん」
「んー?どうしたのイヴちゃん?」
「えへへ・・・呼びたくなっちゃいました」
「もう。何それ~!」
「・・・・・・・・・めっちゃ写真撮りてえ」
「ダメだからね?あれは2人だけの花園なんだからね?」
「わかってるよ・・・」
そうこうしてるうちに向こうの料理も届いたようだ。さて、油断できない状況になってきた。こうなってくると「あーん」のイベントが確実に起きる。問題は・・・
「どっちから仕掛けるか・・・でしょ?」
「ああ。イケメンムーブでリードしようとするイヴか・・・」
「ガードの堅いつぐが虚を突くか・・・」
そして時は訪れた。
「もうイヴちゃん?ほっぺにクリームついてるよ?ほら。顔出して」
「本当ですか?お願いします」
「はい。もう取れたよ」
つぐみはそう言ってイヴの頬からクリームを指で掬い取ると、そのまま指に付いたクリームを舐め取ったのだ。
「うん。美味しい」
「好きな味なら、もう少し食べてみますか?」
「えっ、いいの?じゃあわたしのケーキも後でよそってあげるね」
「はい!」
こうしてイヴとつぐみは仲良くお互いのケーキを食べ合った。「あーん」は無かったが十分過ぎるほどのものがそこにはあった。
「どうしよう?なんか、2人の周りに百合の幻覚が見え始めたんだけど・・・」
「何言ってんだ。百合ならそこら中に咲き乱れているだろうが。ここは天国だぞ?」
「ダメだ。光景が尊過ぎてレンが手遅れに・・・」
その後もこんな調子で俺とひまりはひたすら友人たちのイチャつきを見守ったのだった。
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あの後、2人は喫茶店でしばらくお喋りをして退店し、また仲良く手を繋ぎながら駅前を歩いていた。
「せっかくの休日なのに、俺達は一体何をやってるんだろうな?」
「急に冷静になるのやめてくれない?」
「いや、オープンカフェで優雅にお茶してる知り合いを眺めながらコンビニのあんパン食うって中々の奇行だぞ?」
「いや、そんなこと言い出したら、デート中の知り合いを付け回してる時点でもう怪しい人たちではあったよ?私たち・・・」
「だよな・・・」
頭を冷やして思い返す。目に焼き付けた天国のような光景・・・ではなく自分たちの行動を。ある程度の客観視を用いて。
「なぁひまり、尾行・・・もうここまでにしないか?」
「奇遇だね。私も同じこと思ってた。」
「興味本位で付け回すなんて無粋だし、そもそも下世話だったんだ」
「「見守る」とか言ってたけど、それがそもそも間違いだったんだね」
見てて眼福ではあったが、流石に2人だけの時間をこれ以上侵害する訳にもいかない。ここからは本当に2人だけの時間を楽しんでもらおう。
「よし。せっかく駅前まで来たんだ。ゲーセンにでも行こうぜ。近くにあったよな?」
「いいねそれ!そういえばしばらく行ってなかったんだ~。久しぶりにはしゃごうかな!」
これからの予定も決まり、俺達はイヴとつぐみに背を向けて軽やかに歩き出した。
・・・その時だった。
「ねぇ君たち、今から俺達と遊ばない?」
「あれ、君ってパスパレの若宮イヴちゃんだよね?」
「あの・・・すいません。今はプライベートなのでご容赦を・・・」
「うわ、生の声も可愛い。大丈夫だって。絶対楽しいって保証するからさ」
ザッ・・・!
軽かった俺とひまりの足取りはそんな音と共に急激な停止を見せた。
「・・・レン」
「あぁ。結果論ではあるが、見守るって選択は・・・どうやらアタリだったらしい。」
「あーあ。私いつもは温厚な性格なのになぁ・・・」
「あの野郎、掛け値なし、言うことなしのどデカ地雷を踏んだぜ・・・!」
この世を生きるすべての男たちにとって百合に挟まる男なんて地雷もいい所だ。
もう鏡を見なくても分かる。アウトローでもないのに、俺はかなりの殺気を放っている。それは2人の良い雰囲気をぶち壊された恋愛脳のひまりも同じだろう。
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道行く人たちがなぜか俺達を勝手に避けていくので野郎どもの場所にはまっすぐたどり着けた。
あいつら・・・身の程も弁えずにまだイヴ達にウザ絡みしてやがる。取り敢えず俺は片方の男の肩に手を掴んだ。
「おい・・・!」
「ん?何の用―ヒイィ!!」
「なっ、何なんだお前ら!」
「「何なんだ」だぁ・・・!?」
反対側で別の男の肩を掴んでいたひまりが殺意全開で応える。
・・・口調変わってんぞ
「「何なんだ」はこっちのセリフだよこの
「ヒイィ・・・!」
「そもそもてめえら野郎の分際でなに百合の間に割り込もうとしてんだよ
「「うわあぁぁ!!!」」
男たちは情けない叫び声を上げながら逃げ出した。一人には逃げられたがもう一人はもたついたまま転倒したので二人掛かりでその男に詰め寄る。
「あぁもう。なんで逃げようとしちゃうかなぁ・・・!?」
「お前が殺気出しまくるからだろうが。マックイーン抜かした時のライスシャワーみたいなドス黒いオーラしやがって」
「そっちだって今にも食い千切りそうな目つきしてるじゃん。よく言うよ」
そして二人で立ち上がれなくなった男を見下す。
「あぁっ、あの・・・」
「あぁ、ムカつくだけだから余計なことは喋らなくていいよ?私の友達に手出してただで済むと思わないで」
いつもとは考えられないほどドスの効いた声で、相手を黙らせるひまり。俺も続き、男を睨みつける。
「なぁ、お兄ちゃん。取り敢えず聞きたいことは一つだ」
二人のいい雰囲気を平気でぶち壊す第三者が地雷なひまり
百合の間に挟まる男が地雷な俺
俺達の怒りは既に怒髪天をぶち抜いていた。
「「墓にはなんて書けばいい?」」
「すいませんでしたあぁ!!」
今度こそ俺達から逃げた男、脱兎の如く駆け抜けた男を追いかけるのは無理そうなので追うのは諦めた。
「おいてめぇ!次こいつらに絡んでみろ!二度と太陽の下歩けなくしてやるからな!!」
返事はなく、情けない悲鳴と足音が響いていた。
「お疲れ」
「おう。お前もな」
最悪の休日だ・・・なんて思っていた所で何かを忘れていることに気付いた。
「まさか、レン君とひまりちゃんにあんな一面があったなんて・・・」
「はい。ブシの一騎打ちのような殺気でした・・・」
「ねぇ2人とも、ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・」
そうやって鬼人のような殺気を解いた俺達に問いかけてくるつぐみ、答えてやってもいいが、この追求は面倒な予感がする。ひまりの方を見ると、どうやら同じことを考えているようだ。
ならあとは2人で同時に親指を立て・・・
「「後は二人でごゆっくり☆」」
さわやかな笑顔のまま俺達はその場から逃走した。
・・・まぁ、すぐに捕まったが。
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「もう。見かけたんなら声かけてくれたらよかったのに・・・」
「いやー、あまりにもいい雰囲気だったからさ」
「そんなに恋人っぽかったでしょうか?」
「あんなにイチャついといてよく言うぜ・・・」
結局逃げ切れなかった俺達はこうして訳を話していた。今は合流した4人でゲーセンに向かっている。
「でも、確かに今日はイヴちゃんが積極的だったような気がするなぁ。集合した時も服とか褒めてくれたし、手も恋人つなぎだったし、ドキッとはしたかも」
「・・・ねぇ、つぐ。本当に付き合ってないんだよね?」
「付き合ってないよ!」
そうやって顔を顔を赤らめてひていするつぐみ、しかし気になる点はまだある。
「でもさ、お前らこのお出かけのこと「デート」って言ってたじゃないか。そりゃ勘違いもするだろ」
「?女の子と一緒にお出かけすることを、デートとは呼ばないのですか?」
「友達の女の子同士ではそうは呼ばないかな?イヴちゃんがあまりにも楽しそうにしてたから乗っかったけど・・・」
「そうですか・・・」
「でも、じゃあイヴのあのイケメンムーブは何だったの?車道側歩いたり、歩幅合わせたり・・・それこそ恋人つなぎだってイヴからし始めたんでしょ?」
「はい。ツグミさんとデートをすることになったことを相談したら、こうするようにと。「ちゃんと相手を思い遣るように。そして自分も楽しめるようにと」と」
「相談相手の案だったのか・・・。ちなみに誰に相談したんだ?」
「常連のカオルさんです!」
「なるほど。すげーしっくりきた」
確かに、薫先輩にデートの相談なんかしたらそうなるだろう。何なら薫先輩も女の子相手のデートだったら同じことをしそうだ。・・・ハグまではしなさそうだが。
そんなことを思ってるうちに俺達は目的地のすぐそばまで来ていた。
「さぁ!ゲーセンに着きましたよ!休日最後に思いっきり弾けましょう!」
「そうだな!今日一日遊び足りない感じしてたし!」
「私エアホッケーやりたい!」
「わたしも弾けようかな。ゲーセンなんていつぶりだろ?」
そんな会話をしながら俺達はゲーセンに足を踏み入れたのだった。
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結論、ひたすらにはしゃぎ倒した。・・・主に俺とひまりが。今はその帰り道である。
「思ってたよりいい汗かいたな」
「だね。つぐのデートの尾行が最後にこうなるとは」
「もう!デートじゃないってば!イヴちゃんもただのお出かけをデートって言っちゃダメだよ?ああゆうのは好きな人としかしちゃいけないんだから」
「ダメなのですか?私はツグミさんが大好きですよ?」
「うっ。いや、そうじゃなくてね・・・?」
「ツグミさんは私が好きじゃないのですか?」
「いやっ、大好き・・・だけどぉ・・・」
そうやってイヴとつぐみはまたイチャつき始めた。・・・あの、俺達すぐ傍にいるんだけど
「ああほら!イヴちゃん家この辺でしょ?私たちと方向違うし、そろそろ別れなきゃ」
「ひまりー。つぐみのやつ「別れなきゃ」だってさ。まだ付き合ってもないくせに」
「ホントだよねー」
「そこ2人ちょっと黙ってて!」
でもつぐみの言う通り、イヴの家はこの辺りだ。別れなきゃなのは本当らしい。
「確かにそろそろお別れですね・・・それはそうとツグミさん。前髪に花びらがついていますよ?」
「え?どこ?」
「取ってあげます」
そう言ってイヴはつぐみに近寄るが、目を凝らしても花びらなんて見当たらない。ただの綺麗な前髪だ。
そしてイヴはつぐみに前髪を押し上げ、つぐみの小さな額を見つめ・・・
「じゃあ、最後に頂きますね」
「え?」
chu-♡
おでこにチューを決め込んだ。
「「「・・・・・・」」」
「では皆さん、また会いましょう。それでは~!」
イヴの元気な挨拶が過ぎ去りった。
現場には恥ずかしさのキャパを超えて顔を両手で隠すつぐみと・・・
「「イケメンだ・・・」」
俺とひまりから漏れた心の声だけが残っていた。
「読みにくい」や「良かった」などの感想や意見、また「このキャラを見てみたい」、「このシチュが見てみたい」などのリクエストがあれば受け付けていますので、気軽にお願いします。
後、「この話が一番好き」などの感想も待ってます。参考にしたいので。質問とかでもいいですよ。
感想、一言でも書いてくれたら嬉しいです。待ってます。
あと、ハーメルンのアンケートって20択が上限らしいので20択のやつを作ってみました。せっかくなので・・・。
感想はハードル高くてもアンケートならみんな答えてくれるんよな・・・。