ガールズバンドとシチュ別で関わっていく話   作:れのあ♪♪

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 20話も更新できた記念に、またも小話。


 梅雨も収まってきたからね。


21.瀬田薫と雨に打たれるシチュ(過去編)

 周りから見れば取るに足らなくても、自分の中ではウェイトの大きなものというのは存在する。そんなことを俺は改めて認識していた。

 

 とある、梅雨の日だった。

 

 

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 別段、大したことがあった訳じゃない。

 新聞部の記事は掲示板に貼られた大きなものと、内容が気に入った時に持っていってもらうため、掲示板の横の箱に入れられた数十枚ほどの小さな記事がある。

 最初は余るだけだった小さな記事も徐々に減ることが増え、内心舞い上がっていた矢先、校舎で紙飛行機が落ちているのを見つけた。

 ・・・広げて見るとそれは俺が書いた小さな記事だった。

 

「・・・ったく。マナーの悪いお客様だ」

 

 俺だって万人受けすると思って記事を書いている訳じゃない。中学の頃の俺だって、学級新聞に逐一目を通すタイプではなかった。見向きされないことの方が多いとは思うし、学園のゴミ箱を漁れば丸めて捨てられているものだってあるだろう。

 でも、「よくある話」で片づけられることはなかった。高校でようやく出会えた夢中になれるもの、全力でやってきた仕事が報われなかったのもそうだし、何より取材相手に申し訳が立たない。

 別にショックだった訳じゃない。ショックだった訳ではないが、

 

「なに熱くなってたんだろ。俺」

 

 冷めた。この一言に尽きる。

 

 この日、俺は入部してから欠かさず向かっていた新聞部を初めてサボった。

 

 

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 部活をサボったはいいが、家に帰る気にもなれなかった。どうせ姉とは気まずいし、歩く気力もない。予定外の雨の中、俺は傘も差さずに公園へ向かい、雨のせいで誰もいないのをいいことにベンチへ寝そべったのだった。

 

 ザアーッ・・・

 

 雨脚は更に強くなる。もう既にびしょ濡れなせいか、土砂降りの雨はシャワーのようで気持ちいい。もう起き上がる気にもならない。何もしていないのになんだか今日は疲れた。体が重い理由も、服が濡れて重くなったことだけではないだろう。

 もう、泥のようにひと眠りしてしまっても—

 

「そんな所で寝ていたら風邪を引くよ?少年」

 

 そんなことを考えていたら声を掛けられた。傘を差した美青年・・・いや、スカートと髪型を見るに相手は女性のようだ。

 俺は体を起こし、ため息交じりに返した。

 

「消えろ。お呼びじゃないんだ」

「そのようだけどそうもいかない。君が酔狂で雨に打たれているならともかく、浮かない顔で落ち込んでいるなら放っておけないんだ。訳あって最近、世界を笑顔にするためのバンドに入ってしまったたからね」

「バンドねぇ・・・」

 

 この人も音楽に関心のある人間らしい。合唱祭ですら碌にこなせない俺からしたらバンドマンなんてみんな超人の集まりだ。

 初っ端から分かり合える気がしない。そもそもオーラが違う。なんかキラキラしてるし。

 

「取り敢えず、君の話を聞かせてくれないかい?元気がないままの君をそのままにはできない」

「話すわけないだろ。俺とあんたじゃ住んでる場所が違うんだ。話す気になんてならないし、話したってあんたには分かんねえよ」

「なるほど。分かるかどうかはともかく、確かに立っている舞台は違うようだ」

「あぁ?」

 

 立ってる場所が違う。いざ向こうからハッキリ言われるとそれはそれでムカつく。

 

「まぁいい。用が済んだらとっとと帰れ」

「いいや帰らないよ。立ってる舞台が違うなら、こちらから上がり込むまでさ」

「?」

「では・・・とうっ!!」

 

 そう言うと彼女は、自分が差していた傘を明後日の方向へ投げ放った。

 

「いや、何考えてんだお前!頭おかしいのか!?」

「舞台に上がると言っただろう?雨に打たれる者同士、これで舞台も立場も同じになった」

「全然なってねえよ。風邪でも引いたらどうするんだ」

「君がそれを言うのかい?自分より赤の他人の方が大事だなんて・・・君は本当に優しいね」

 

 ダメだこの女。クセが強すぎて手に負えない。

 

「それにもう遅い。この時期の雨脚は特に強いからね。傘を持ち直しても濡れ鼠は避けられない」

「どうしてそこまで・・・?」

「言っただろう?放っておけないんだよ。君を笑顔にするまでね」

「・・・」

 

 俺の沈黙を肯定と受け取ったのか、彼女は俺の隣に腰掛け、優しく続けた。

 

「ゆっくりでいい。君のペースで構わないから、話を聞かせてくれないかい?」

 

 

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 瀬田薫、彼女はそう名乗った。面識の無い彼女に、俺は全てを打ち明けた。彼女の雰囲気がそうさせたのかも知れないし、俺自身が誰かに話を聞いて欲しかったのかもしれない。

 

「なるほど、そんなことが・・・」

「話してみると、全然大したことないんだけどな」

「・・・」

「別にショックだった訳じゃない。誰にも見向きされてないことなんてとっくにわかってたし・・・ただ気持ちが冷めただけなんだ」

「勘違いをしているようだけど、君の気持ちは冷めてなんかないし、相当なショックを受けている筈だよ」

 

 俺のことを優しく見つめながら、彼女は続ける。

 

「気持ちが冷めるとね、もっと色々どうでもよくなるんだ。少なくとも、今の君みたいに陰鬱な表情を浮かべたりはしない。・・・本当に、何も感じなくなるからね」

「俺だってそうだ。あの程度で辛くなったりなんか—」

「レン君、それ以上はいけない」

 

 俺の言葉を遮った彼女の表情はさっきよりも真剣だった。

 

「自分の感情は大切にするものだよ。辛い時ぐらい、ちゃんと「辛い」と言うべきだ」

「いや、だから俺は—」

「レン君」

 

 彼女の凄みに押し負け、俺は自分の感情を反芻した。頑張って書いた記事、読まれもせずにゴミにされた記事、取材させてもらった人たちの気持ち、読まれもせずに踏みにじられた取材相手の気持ち・・・

 

「薫さん」

「なんだい?」

「ちょっと、悲しかった」

「・・・そうかい」

「俺のことなんて、誰も見てくれてなかった」

 

 薫さんはこれ以上の追求をしなかった。

 雨脚は強くなるばかり。見上げた空の雲はどこまでも厚い。

 

「時にレン君、悪行とは後で必ずバレる。そうは思わないかい?」

「なんですかいきなり?・・・まぁ確かに、なんだかんだ最後にはバレるものだとは思いますが」

「でもそれは、逆も然りだとも思うんだ」

「逆も?」

「そう。自分の悪い行動は常に誰かに見られてる。でも、自分の頑張りもどこかで誰かが見てくれる。気付きにくいことではあるけどね」

「薫さん・・・」

「君の最後の勘違いを直しておこうか。君は誰にも見向きされてない・・・なんてことはないとね」

 

 そうだ。横に置いた記事を取って行ってくれた人間は他にもいた。記事を読んだ感想をわざわざ直接言いに来る猫耳ヘアーのクラスメイトだっていたじゃないか。捨てられたショックが大きすぎて、大事なものが見えなくなっていた。

 

「おや?雨脚が弱くなってきたようだね。晴れることはなさそうだが、帰るタイミングとしては丁度良さそうだ」

「ホントだ」

 

 彼女は濡れた髪をかき上げて呟く。・・・いや、濡れた髪かき上げたこの人、めちゃくちゃカッコいいんだけど。イケメンか?

 でもそうか。この人、演劇部で王子様やってる上に花咲川にもファンがいるとか言ってたっけ?名前と一緒にそんなことを教えてもらった気がする。

 なるほど、花咲川にまでファンがいるのか・・・。

 

「なぁ、あんた。花咲川への公演の告知で不便してたりはしないか?」

「あぁ。確かに離れている分、羽丘の小猫ちゃん達よりもおろそかになってしまう事が多くてね・・・」

「じゃあもう一つ聞かせてくれ。あんたに取材がしたいっていう新聞部の人間がいるんだが、一つ受けてみる気はないか?そいつ、花咲川の人間だから告知には困らないと思うんだが」

「なるほど儚い提案だ。その部員君には、いつでも歓迎すると伝えなくてはね」

「決まりだな・・・!」

 

 冷めたと思っていた気持ちに、再び熱が入る。

 

「いい顔だ。笑顔にできたようで何よりだ」

「ああ。いい記事にしてやるよ」

 

 小雨の中、合図も無く二人で同時に立ち上がり、目線を交わし合う。そして、お互いの帰路に向けて歩き始めた時だった。

 

「そうだ。君にはこれを渡しておこう」

「?・・・これ、あんたの傘だよな?流石に悪いだろ」

「そうだね。だから君が羽丘に来ることがあれば、私に返しに来て欲しいんだ。例えば、・・・取材の時とかね」

「この傘が約束の証ってことか?」

「あぁ。いつまでも無いままだと困るから、早めに返しに来てくれたまえ」

「言われなくてもすぐ持ってってやるよ」

「それは、楽しみになってきたね」

 

 軽口を叩き合いながら、俺たちは分かれ道に差し掛かり、そのまま別々の帰路へ進むのだった。

 

「あぁ、そうだ。最後にいいかい?」

「ん?」

 

 

「風邪、引かないようにね」

 

 

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 後日、彼女の取材内容を掲載した記事を書いたのだが、その人気は想像よりもはるかに凄まじかった。掲示板は人の群れができ、新聞部には彼女のファンが押し寄せた。

 

「人気にも程があるだろ・・・・・・薫先輩」




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