びっくりしましたよ。私、文字数の目安は少なくても3000文字、多くても5000文字ぐらいを目標としているのですが、今回のイヴ編の文字数(上)と(下)を合わせるとなんと8000字強。
やっぱ分けて正解やったかなと。
「ここが俺の部屋だ。入ってくれ」
「はい。お邪魔しますね!」
このタイトルと状況を見れば言うまでも無いが、素人の俺はやはり剣の勝負で勝ち星を挙げられる筈もなく、決闘はイヴの勝利となった。
イヴの渾身の一撃は見事に俺の脳天を撃ち抜き、俺の突き技はイヴの額を穿つことなく、ただ頬を少し掠るだけに終わった。
決着の後、息を整えながら「さぁ、約束は守ってもらいます」と詰め寄るイヴに対し、流石に学園内であの約束内容を果たす訳にもいかず、俺は尻餅をつきながら「場所だけ・・・変えさせてくれ・・・」と懇願することしか出来ず、今に至る訳だ。
「ほら、レンさんも早くベッドに座りましょう。さぁ!」
「いや、別にいいけど、ここ俺の部屋だからな?」
隣の場所を叩くイヴに誘導され、俺はイヴの傍に座る。
「・・・少し、ドキドキしますね」
「おいイヴ、なんでお前が赤くなってるんだよ。言い出したのはそっちだろ」
「そうなのですが、改めてレンさんが男性だと意識すると緊張してしまうというか。・・・私たち、今から本当にハグ・・・しちゃうんですよね?」
「やめろ。初夜みたいな雰囲気を出すな。ちょっとウルウルした瞳でこっちを見るな」
まずい。イヴがいつもより綺麗に見える。外の時間帯も影響してか、部屋は少し薄暗い。そう言えば「暗いとお互いの顔が魅力的に見えやすい」って花音先輩が言ってたっけ。
ベッドの上に座って向き合ってみると、イヴの魅力がさらに伝わってくる。
「レンさん・・・ギュって、したいです」
「分かってる。約束は約束だ。決闘に負けたのは俺だし・・・ほら、おいで」
「では、失礼します」
俺が手を広げると、イヴは俺の首の後ろへ手を回す。いつも友達とやってるみたいにがっついては来ない。体をホールドされて、顔だけが近づく。今までイヴとは仲良くしてきたが、ここまで至近距離で見つめ合ったのは初めてだ。
イヴ・・・まつ毛、長いなぁ。
「レンさん、これって、まだハグじゃないですよね?」
「まぁ、抱き合ってるとは言えないけど。続きはしないのか?」
「恥ずかしぃ・・・」
どうしよう。ますます初夜みたいな雰囲気になってる。大丈夫だろうか?ただでさえこの状況、この前ドラマで見たキスシーンに近いんだけど・・・。イヴも俺の首から手を放して赤くなった顔を両手で隠している。
流石にこれ以上ともなるとイヴには酷だろう。そもそも同年代の男とハグをしたこともないのかもしれない。
・・・仕方ないか。ちょっとは俺からも動こう。
「イヴ」
「なんでしょう?」
「それっ」
「わぁっ!」
照れる隙も与えず、俺はイヴの制服の裾を引き寄せ、倒れ込むイヴを抱きとめる。
イヴの柔らかな体躯が俺の体に収まり、程よく膨らんだイヴの乳房が俺の胸板に押し当てられる。
「・・・」
「あの、イヴ?大丈夫か?」
「はい。その、レンさんも、男の子なんだなぁ・・・と」
「・・・そうか」
突然の抱擁からの慌てようも落ち着き、イヴは俺を抱き返してきた。緊張していた割に、いざハグをしてみると気が緩んだのか、今は俺の肩に体重の一部を預けている。
「不思議ですね。ドキドキするのに、なんだか心がポカポカして、すごく安心します」
「満足した?」
「いえ、今までずっとしてこなかったんですから、その分はこの状態でいたいです。・・・ダメですか?」
「別にいいよ。人前じゃないし、誰も見てないし。今ぐらいは好きにしてくれ」
実際この部屋で麻弥さんの読み合わせに付き合った時なんて頬にキスまでしてるし、個人的には今更な感じだってあるのだ。
まぁ、ハグや言葉攻めだけであの落ち着きのある大人な麻弥さんを照れさせるなんて出来る訳ないし、出来たとしてもちょっと驚く程度で終わるだろうし、あの時はあんなことでもしないと麻弥さんを照れさせることはできなかったと思うと、仕方なかった部分は多いが・・・。
「レンさん」
「何?」
「もっとギュってしてください♡」
「・・・甘えんぼさんめ」
俺は抱き締める力を強める。イヴも抱き返すことに遠慮が無くなっていることがわかる。
・・・ちょっと楽しくなってきた。
「ハグハグ~!」
「ちょっ、やめろ。頬ずりまで追加するなって!猫かお前は!」
「ふふっ、ちょっと大きい甘えんぼ猫さんです!」
「だったらお望み通り甘やかしてやるよ。一生分撫でまわしてやるから覚悟しろ!」
「ひゃあ~~っ!!」
訂正、ちょっとじゃない。かなり楽しい。
「レンさ~ん!」
「うおっ!お前、押し倒すのは反則―」
「てーい♡」
「ごふっ!」
後半はもはやハグとかですらなくなっていった。押し倒して腹部にダイブまでされた時点で少し前までの気恥ずかしさは見る影も無くなり、俺は巨大な猫と遅くまでじゃれ合いながら過ごしたのだった。
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外は完全に暗くなった頃、どちらが言い出すでもなく、お互いに疲れた表情でベッドから立ち上がった。
大人げないはしゃぎ方をしたせいか、体力もあまり残っていない。
「レンさん、ハグしましょう」
「お前、まだ言うのか?」
「いえ、今回はさっきのものとは違います」
「違う?」
「はい。さっきのハグは恥ずかしかったり楽しすぎたりしたので。あと、座りながらのハグもやり辛かったですし・・・」
「それじゃ、ダメだったのか?」
「あれはあれでいいのですが、私が一番求めているものではありません。そもそも私が仲良くなった人にハグをする理由は感謝や親愛を伝えたいからです」
「じゃあ、イヴが決闘を申し込んでまでハグをしたがったのって・・・」
「はい。レンさんにだけ私の気持ちを伝えられていないのがどうしてもイヤで・・・」
「イヴ・・・」
「はい。だからレンさん」
俺に呼びかけ、イヴは両腕を広げる。
「親愛のハグです」
「ホント優しいのな。お前」
俺は吸い寄せられるようにイヴの親愛を受け入れた。
「レンさん」
「何?」
「大好きです!」
「ありがと」
イヴがハグをしたがった気持ちが、今なら少しだけわかる。こうして触れ合っているからこそ伝わってくる気持ちだってあるのだ。イヴの素直過ぎる言葉も、今なら照れずに正面から受け止められる。
そろそろ離れてもいい気がするが、出来ることならもう少しこのまま・・・
ガチャリ・・・
そんなことを考えていると、部屋の扉が開いた。
そう言えばこの時間って、そろそろ練習終わりの姉さんが帰ってくる時間だったような・・・
「レンー、今日の晩ご飯なんだけ・・・ど・・・さ・・・」
うん。姉さんも可哀想だと思う。晩飯の相談しに来たら弟が同級生と抱き合ってるんだから。
「待って!ごめん、申し訳ない!今のはアタシが悪かった!あの、マジごめん!」
「いや姉さん、誤解だ。頼むから落ち着いて—」
バタンッ!
よほど焦っていたのか、俺の弁明は姉さんの耳に届くことなく、部屋の扉が閉められた。
「どうしよう」
「・・・?」
俺の気も知らず、事態をうまく理解してないイヴは俺の顔をみつめながらキョトンと首をかしげていた。
なに可愛いことしてやがるんだコイツ。
ちなみに姉さんの誤解は後ですぐに解けた。なんならそのままイヴも一緒に今井家で夕飯を済ますことになった。
・・・筑前煮、美味しかったなぁ。
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【後日談1】
新聞部の作業中、紗夜さんが訪ねてきた。
「すいませんレンさん、生徒会からの連絡事項の件ですが、記事に反映できそうでしょうか?」
「はい。それなら問題なさそうです。あ、そうだ。見てくださいよ。この写真」
「これは・・・レンさんに若宮さん?もしかしてこれ、『今井×若宮 果たし状事件』の?」
「アレ、そんな呼ばれ方してんのかよ・・・。」
俺が見せたのは屋上で俺の突き技を正面から迎え撃っているイヴの写真。
実はあの時、イヴは俺たちが同時に相手へのクリーンヒットをした時の場合にビデオ判定ができるよう、俺たちのすぐ横でスマホの動画を撮っていたらしいのだ。そしてそれの画質がとてつもなく良く、こうして動画のデータを貰った後、一番見栄えが良いシーンをそのまま写真にしたのだ。
「もしかして、自分で記事にするんですか?あの事件」
「噂に変な尾びれがついても困りますからね。そうなる前に自分で」
それに深く追求されてハグ云々の話が漏れても困る。その辺りにたどり着かないように嘘を交えて報道した方が良いと判断した。
「それで、この写真に龍と虎のオーラを足したのがこれです。記事の見出しがこれなら映えると思いません?」
「いや、ダメでしょうレンさん、全校生徒が見る真面目な記事にこんな・・・!こんな・・・」
紗夜さん、批判しようとしたのを止め、熟考。
「・・・背景に炎とか追加できますか?」
「あ、それ採用で!」
「折角ですからもう少し屋上感を消したいですね。屋上の柵と青空が気になります」
「取り敢えずこの青空、雷雲にでもしときます?」
「そうなると、またバランスを考えないと—」
俺と一緒になってふざけだした紗夜さんとのコラ画像作成はかなり楽しい時間になった。
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【後日談2】花咲川で昼食を囲む彩、千聖、イヴ
「イヴちゃん、そう言えば聞いたよ。レン君と決闘したんだって?」
「ああ、そう言えば3年まで噂が届いてたわね。イヴちゃん、念のため聞くけど、危ないこととかしてないわよね?」
「はい。確かに果たし状を送った後はお互いに叩きのめし合いましたが、凶器はウレタン棒でしたので、怪我などは特に」
「それならよかったわ。傷つけあって仲違いなんてしてたら大変だもの」
「そんなことありません!寧ろ戦いを経たことによって、レンさんとは更に仲良くなれた気がします!」
「仲良く?イヴちゃん、その後レン君と何かしたの?ラーメンでも食べに行った?」
そう聞いてお茶を飲む彩、箸でおかずを口に運ぶ千聖に向かい、イヴは満面の笑みを浮かべ、胸を張って言い放った。
「はい!レンさんを抱きました!」
「ブフォッ!!」(後輩の爆弾発言で飲んでたお茶を思いっきり噴き出す丸山)
「えっ・・・?」(おかずを箸ごと落とした挙句、開いた口が塞がらない白鷺)
「?」(またしても何も理解っていない若宮)
2人から「抱く」の別の意味を教えられて赤面するまであと3分。
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反映できるかは不明ですが、確認はします。応えられなかったら「すいませんでした」ってことで・・・