感想も頂いちゃったりしてニヤニヤしてます。
あくまで日常系の話で恋愛要素もストーリー性も大して強くない作品なので、誰も見向きしない可能性も考えていたのですが、嬉しい反響です。
今回の話は姉弟の話です。やはり、主人公に『今井レン』と名付けたからにはこのキャラとは絡ませたかった。
姉弟というのは年齢を重ねると会話が減ってきたりするものだ。仲が悪くなるわけではない。ただ会話が減るのだ。いかなる時も一緒にいて、些細なことですぐに喧嘩をしたりしていたのが、いつの間にか衝突を避けるように関わりを減らすようになる。必要最低限の会話しかしなくなり、お互いに干渉をしないようになるのだ。
姉弟に限らず、兄妹や兄弟、姉妹の組み合わせでも多くの場合はそうゆうものだ。しかし・・・
バタンッ!
「磯野ー!野球やろうぜ☆」
うちの姉に関して言えば、全然そんなことはないようだ。
「姉さん・・・休日の朝から個性的なボケかますんじゃねえよ。その誘い方するのサザエさんの中島君ぐらいだぞ。」
「もうレン?言い方には気を付けな?アタシの中の人は中島くんじゃなくて中島さんだよ?もしくはゆっきーって呼ばなきゃ。」
「やめろ。中の人とか言うな。」
「まぁ、冗談はこの辺にしてさ。久しぶりに一緒に遊ばない?二人だけだから野球じゃなくてキャッチボールだけど」
「別にそれはいいけど今7時半だぞ?どんだけやりたかったんだよ・・・」
「いやー、昨日掃除中にたまたまグローブ見つけちゃってから興奮しちゃって・・・とにかく、朝ごはん食べたら一緒に公園行こ。今のレンなら父さんのグローブでピッタリだろうし」
「了解。さっさと動きやすい服に着替えるから待っててくれ」
着替えてリビングに下りるともう朝食は用意されていた。
ちなみに朝食は気合の入ったフレンチトースト。高カロリーなだけでなく、短時間で胃袋に入れることができる。どんだけキャッチボールしたかったんだよ・・・
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「さて、公園にもついたことだし、さっさと始めようぜ。」
「待って。ちゃんと準備運動してから。」
楽しみにしまくってたくせにこうゆうのはしっかりしてるんだよな・・・
「にしても父さんのグローブ、本当にピッタリだとはね」
「確かに。昔はあんなにでかく感じたのに」
「レンもおっきくなったよねぇ。」
「親かよ・・・」
「ひと昔前まではちんちくりんだったくせに」
「親か!」
こうして話しているうちに準備運動も終わり、お互いにグローブをはめる。
「まぁ久しぶりだし、最初はちょっと近いぐらいでいいよね。」
「だな。よし、いつでも投げてくれていいぜ」
「オッケー。それっ!」
「よっと」
久しくやっていなかったから動きが心配ではあったが、やっぱり体が覚えているのか慣れるのに時間はかからなかった。しばらく会話なしで投げ合い、慣れてきたら距離を離す。ある程度離れたあたりで姉さんが話しかけてきた。当然、お互いボールは投げ続けたままだ。
「そいえばレン。最近どうなの?学校生活とか」
「どうって、別に普通だよ。友達と適当に過ごして、放課後は部室に籠って記事書いて」
「そっか。部活は楽しい?」
「相変わらず部員は俺一人だけど、まぁ楽しくやってるよ。ガールズバンドの連中との交流はあの部に入ってたから生まれたものだし」
「そっか。うまくやってるようでお姉ちゃん嬉しいよ。」
ボールを投げ合いながら、そんな他愛ない話を交わす。この手の会話なんていつでも出来るのだが、体を動かしてるお陰でそんな会話にも楽しさが出てくる。
なんでもかんでもそつなく上手いことこなす姉に対して少なからず苦手意識を持っていた時期があったりもしたのだが、やはりこうして一緒に過ごしていると心が温まってくる。
「あ、でも女の子と絡む時はちゃんと気を付けた方がいいよ?この前、美咲からクレーム来たし。」
「余計なお世話だって言いたいけど、確かにあれは俺もやり過ぎたと思ってるよ。そこはちゃんと謝ったし許してもらえたよ」
「今は元通りに雑談できるようになったってことはちゃんと美咲から聞いてるよ。でも悪戯はほどほどにね。」
「わかってるよ。でも美咲みたいなやつって、なんかイジり倒したくなるんだよな。」
「あー、確かに。真面目できっちりしてる人ほどやりたくなるよね。アタシも紗夜とか友希那が照れてるところとか見たくなってついついそうゆう絡み方したくなるんだよね~。褒めちぎられて恥ずかしがってる燐子も可愛いし、気持ちは結構わかるよ」
「そうなんだよなぁ。ちょっと困った顔してるのとか見ると楽しくなっちゃうんだよ。まさか共感されるとは思ってもなかったけど」
「やっぱ姉弟だなぁ。アタシら」
特別なことがある訳じゃない。ただひたすら手のひらサイズのボールを投げ合っているだけだし、姉弟らしく生産性のない雑談をしているだけなのだが、なんだかとても大事な時間をすごしているような気持ちになる。
姉だから主観的にそう感じているのもあるが、やっぱり今井リサという一人の人間には、それなりの強い人徳があるように思う。
「なあ、姉さんは最近どうなんだよ。友希那さん、一緒のクラスなんだろ?」
「そうだなぁ。お陰様で毎日楽しいよ。授業中に友希那の寝顔も見られるし」
「うちのRoseliaファンが衝撃受けそうな情報だな・・・」
「あ、そうそう。たまには友希那にも会ってあげてよ。顔見たがってたし」
「俺に?いや、別にいいけど苦手なんだよな。あの人。」
「なんで?昔はあんなにベッタリくっついてたじゃん「ゆきちゃん大好きー」って」
「今そこ蒸し返さなくていいだろ。ていうか、だからこそ距離感が分からないというか・・・。そりゃ去年よりはマシになったと思うけど、まだ気持ち絡み辛いぞ」
「そう言わずご飯でも誘ってあげたら?どうしても気まずいならアタシもついてってあげるからさ」
「考えとく」
昔は友希那さんと姉さんの遊びに、俺も混ぜてもらったりしたものだ。引っ込み思案だった俺を姉さんはよく外へ連れ出してくれたし、友希那さんも姉さんにくっついていた俺を可愛がってくれた。幼少期の二人が公園で歌を歌っていた時も、俺は二人のお客さんとして参加していた。
しばらくすると、病的に音楽ができなかった俺は、本格的に音楽へ打ち込むようになった二人に置き去りにされて疎遠になった。今思えば、置き去りにされたとは言っても、優秀過ぎる二人に距離感を感じた俺が一方的に逃げただけなのだが。
「なぁ姉さん。俺、音楽が好きだよ。ちっちゃい頃は何にも分からなかったし、今も楽器やりたいみたいなことは考えられないけど、聞く分には好きだし、ライブに行けば力が溢れてくる。新聞部の取材でガールズバンド達の夢や情熱に触れてから、本当に好きになった。」
「お、どうしたいきなり?そんな嬉しいこと言ってくれなくても、お昼ぐらいちゃんと奢るよ?アタシお姉ちゃんだし」
「別にご機嫌取りで言ったわけじゃない。俺は本気で――」
「冗談だって。何年も一緒に過ごしてきたんだからそのぐらいわかるよ。でも、嬉しいな。レンがそこまで言ってくれるなんて。」
確かに、ここまで音楽が好きになるとは自分でも思っていなかった。そもそも音楽の力が凄いのだ。最初こそ何も理解できなくて嫌いですらあった音楽だが、その音楽のお陰で深く落ち込んだ時も立ち直れたし、新聞部の活動もガールズバンドの音楽に助けられている部分が多い。
何ならこうやって姉さんと仲良くキャッチボールが出来るのだって音楽のお陰だ。音楽が繋いでくれた数多くのものがあるから今の俺がいると言ってもいい。
「・・・おい、弟よ」
「何事ですか姉上?」
感慨に耽っていると姉さんが古風に話しかけたので取り敢えず乗っておく。結構真剣な表情だ。
「・・・あのさ、そろそろ肩痛くない?」
「え?・・・あっ、本当だ。そう言えばもう昼じゃねえか。俺たちずっと投げてたのかよ」
「しかも一切の休みなしでね。うーわ。やらかしたーこれ、ベース弾けなくなったらどうしよ。筋肉痛で右腕全滅とか笑えないんだけど・・・」
「そこは大丈夫だろ。ピックさえ持てるなら。」
「いやいや、友希那って耳いいから調子悪いと演奏で気づかれるんだよ・・・。どうやって言い訳しよう?「レンとキャッチボールしてたらやり過ぎて右腕壊れちゃった☆」ヤバい。怒られるどころじゃ済まない気がする。」
比喩表現なしで姉さんは頭を抱え始めた。まさかこんな風になるまで雑談に夢中になるとは思ってもみなかった。現に俺も右腕を少し痛めている。
取り敢えず、流石にこのまま公園に入り浸っても仕方ない。
「・・・家帰って湿布貼りまくろう」
「・・・うん」
「・・・お昼、好きなもの奢るよ。バイトで貯金多いし」
「・・・うん」
「・・・帰ろう」
「わかった・・・」
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後日、筋肉痛は残ったものの演奏に支障はなかったらしく、姉さんは無事に練習を終えて帰ってきた。ただ、終始友希那さんに筋肉痛を勘づかれるかどうか気が気ではなかったらしく、帰って早々に泣きついてきた。
「レ――――ン!聞いてよもうめっちゃ怖かったああああああぁぁぁぁぁ!!!」
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感想、一言でも書いてくれたら嬉しいです。待ってます。
見た目が変わろうと、体格が変わろうと、性格が変わろうとも、変わらないものが確かにそこにある。
人が変わっていってしまう理由は、変わらないものの大切さを見つめなおすためなのかもしれませんね。