今回はリクエスト・・・と言うより、アンケートで決まった話ですね。
今回はちょっといつもとは違うことをしてみたので、ページの最後までしっかり読んでいただけたらなと。
CiRCLEのすぐ外のカフェテリア。昼にバイトが上がりの時は、そこでそのまま大盛りのパスタを頼んでゆっくりするのだが、お昼時は結構混むので自主練上がりや昼休憩のガールズバンドの知り合いと相席になることも多い。
そして、今回の相席相手は自主練上がりのこの2人。
「すいませんレンさん。今回も・・・」
「お邪魔します」
「大丈夫だよ。自主練お疲れ様」
二葉つくし×倉田ましろペア、同じバンドという繋がりもあってか、一緒に自主練へ来ることも増えた2人だ。
受け付けの時も年下らしさを存分に発揮して可愛らしさを振りまいていくので、まりなさん共々、CiRCLEスタッフにとってちょっとした癒しになっている。
当然、俺もそれに癒されている1人。2人の笑顔は疲れた体によく効くのだ。
「あ、つくし。ちょっと手見せてみ?」
「手?こう、ですか・・・?」
「ふーむ。よし、前みたいなオーバーワーク(9話参照)は控えてるようだな」
「流石に反省しましたよ。もうあの時みたいな恥は晒しませんからね?」
「なんだ。俺としては晒してくれても一向に構わないんだけどなぁ」
「もう。冗談も程ほどにしてくださいね?」
「むぅ・・・」
つくしとも随分仲良くなれた気がする。こうして冗談を言い合っていると、なんだか家族のノリに近づいてしまいそうになる。
「あ、でもあの時よりも成長した部分は他にもありますよ。ほら。私の手、握ってみてください」
「手を?・・・こうか?」
突き出されたつくしの手のひらに、そのまま指を絡める。細い指に、綺麗に整えられた爪。女の子特有の小さな手が俺の手を握り返してくるが、その見てくれに見合うような弱々しさは感じない。と言うより寧ろ・・・。
俺の感想を感じ取ってか、つくしはニッと歯を見せて不敵に笑う。
「あれ、お前ちょっと逞しくなったんじゃねえの?」
「えへへ・・・。最近になって筋力ついてきたんです。握力も上がったんですよ?」
「なんだよ。ちゃっかりドラマーの腕に仕上がってんじゃねえか。カッコよくなりやがって~!このこの~!!」
「きゃっ、ちょっとレンさん!頭ワシャワシャしないでくださいよ~!!」
「むぅ・・・っ!」
セリフの割に嫌がった様子を見せない辺り、本当に妹みたいに思えてくる。遠慮が要らないというか、気を遣わなくていいというか・・・。
そうやってじゃれ合っていると、つくしの横からお声が掛かった。
「ずるい・・・」
「「えっ?」」
「つ、つくしちゃんばっかり、ずるい・・・」
気を遣わなくていい後輩の次は、手のかかる後輩か。確かに、つくしばかり褒め過ぎたかもしれない。
そんなことを考えながら、俺はつくしから手を離し、コップの水をゆっくりと飲む。
「ましろもカッコいいよ」
「え?」
「うん。ライブ中の歌とか聞いてると鳥肌立つもん。元々カッコいい系の歌声なのはあるんだろうけど、堂々としてるところとか、一つひとつのパフォーマンスを見せられると、やっぱり湧くんだよ」
「そ、そう、ですか。それは、良かったです」
何かぎこちないような、でも嬉しく思ってくれてる様子ではあるよな・・・?
気にかかったことをスルーし、俺はコップの水を飲み干した。
すると、つくしが動いた。
「あ、レンさん。お水、注ぎますね」
「あぁ、いいの?」
「年下は私の方ですから。・・・はい、どうぞ」
「ありがと。つくしは気が利くな」
「えへへ・・・」
本当によく出来た後輩だな。こいつ。俺も年上と同じテーブルを囲む機会は多いが、ここまで気を回すことは流石に出来ない。
つくしが注いでくれた水を飲み、素直に関心していると
「私も注げるもんっ・・・」
そう言って少しだけ頬を膨らませるましろ。
そう来たか。なんだろう、同じバンド内で対抗心のようなものがあったりでもするのだろうか?
水ならさっき貰って間に合ってるのだが、2人いるうちの1人だけを贔屓してもう1人は雑、みたいなことはしたくない。
・・・そんな風に大切な人に値札を付けるような真似をするのは、絶対に嫌だ。
そう思う頃には、俺はコップの水を飲み干していた。
「いやー、今日は本当に喉がよく渇くなぁー。こんな時にましろみたいな後輩が注いでくれたりすると、俺すっごく嬉しいんだけどなぁー!」
「あっ、じゃあここは私が・・・!」
そう言ってウキウキしながら水を注いでくれるましろ。自分でもわざとらしいセリフだった気はするが、ましろがその辺りで単純なのは助かった。
ライブ中は本当にカッコいいが、ましろは子供っぽいとことが多い。つくしを始めとするメンバーも、ましろに対して親心に近い感情を持ってしまっていると聞く。
今回も少し困らされた。
注いでくれた水を頂きながら、「ましろにも困ったものだよな?」というメッセージを込め、親心の代表格であるつくしにアイコンタクトを取るべく視線を送る。
・・・送ったのだが。
「むぅ~・・・!」
おっかしいなぁ~。つくしってこんなキャラだったか?お前はもうちょっと落ち着きのあるキャラじゃなかったか?
てっきりこちらのアイコンタクトにも「ホントですよね。ましろちゃんったら・・・」ぐらいの返しをしてくると思っていたのに。
・・・なんだ?この冷や汗は。
「さすがに、ちょっとやり過ぎじゃない・・・?」
「いいじゃんこれぐらい。つくしちゃんだって褒めてもらってたんだし」
「ましろちゃんも褒めてもらったでしょ?」
「でも、つくしちゃんみたいに頭なんか撫でてもらってないもんっ。イチャイチャしちゃってさ・・・」
「それは・・・」
「私、知ってるんだからね?つくしちゃん、2人きりになった時だけレンさんのこと『お兄ちゃん』って呼んでるの」
「えっ、なんでそれを・・・」
「嫌でも分かるよ。日常で何回か呼び間違えそうになってたし、一回そう呼んでる現場も見ちゃったし」
「ましろちゃん、そこまで・・・」
「ホント、つくしちゃんってあざといんだから!」
「「あざとい」って、べ、別にいいでしょ!?本当にお兄ちゃんみたいに思ってるんだから!」
休日にわざわざ2人で一緒に自主練するぐらいに仲が良かった2人なのに、いつの間にかちょっと険悪になっている。
冷や汗の勢いも増していくばかり。ここに来て、俺はようやく現状を受け入れた。
・・・修羅場か?コレ。
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2人の女の子から両腕をホールドされる。というシチュエーションは男なら誰もが抱く理想だと思うが、形だけなら俺はその理想を体現していた。
わざわざ俺の両隣にまで椅子を移動させていて、左腕にはましろの膨らんだ乳房が押し当てられて、右腕にはつくしの少し控えめな胸が押し当てられている。
まさしく理想の体現だ。しかし、手放しでこの状況を楽しむことが出来るほど、俺の神経は図太く出来てはいなかった。
「だから何度も言ってるでしょ!レンさんは私のお兄ちゃんなの!」
「私だって、レンさんのことお兄さんみたいに思ってるもん!」
「あのー、2人とも?お互いに言いたいことがあるのは分かるんだけど、取り敢えず今日はもうその辺に―」
「「レンさんは黙ってて!!」」
「えぇぇー・・・」
せめて声のボリュームだけでも抑えて欲しい。お店のお客さん、みんなこっち見てるし。
どうしてこうなった?原因が俺なのは分かるが、どこで間違えた?
「私、今日以外でもレンさんに頭撫でて貰ったことあるもん!」
「今日以外だったら私だってあるもんっ!」
「むぅ・・・。私なんか、レンさんにあーんしてもらったことだってあるんだから!丁度このお店で!」
「えっ・・・?」
「ましろちゃんもコレはしてもらったこと無いでしょ?だって妹としての特権なんだから!」
なんだこれは、俺がしてあげたことの自慢大会みたいになってるのか?いや、だとしたらまずいかもしれない。だってあーんに関しては・・・。
「あるよ。私も」
「え?」
「あ~ん、してもらったもん」
「嘘だ・・・」
そう。ましろにもしてるのだ。嘘じゃない。
「しかも、レンさんのお家で」
「レンさんの家で!?」
「レンさんが、「私の為だけ」に頑張った手作り野菜炒め・・・」
「そんな・・・。妹の私ですら作ってもらったこと無いのに・・・」
別に、つくしは妹ではないのだが・・・。
「「野菜食べて偉いね」って、たくさんナデナデしてもらったもん」
「うっ・・・」
「2人とも、本当にその辺にしよう。周りの視線が本当に痛いし」
しかし俺の意図は届かず、とどめを刺すように爆弾は投げ込まれた。
「私、チャットでレンさんから『大好きだよ』って言われたことあるもん!」
「えっ!?」
「ええぇっ!?」
待て。いつの話だ?流石に俺も年下の女の子相手にそんな不用意なこと・・・言った。いや言ったわ。言ってたわ。通話の時だ。散々「好き」だの「大好き」だの言われたから仕返しに送ったんだった!
「嘘だ!だって証拠が無いじゃん!」
「あるよ!だったらコレ見てみればいいじゃん!」
「ましろ!待つんだ!それは・・・!」
『おはよう。俺もましろのことが大好きだよ』
なんで記録に残る形でこんなもん送ったんだよ。俺のアホ・・・!
「嘘、ですよね・・・?」
「いや、マジだよ。経緯を話せば長くなるけど、送ったのは間違いなく俺だ」
「私だって、言ってもらったこと無いのに」
「いや、だって、そんなに軽々しく言う言葉でもないだろ」
「ましろちゃんには言ったくせに」
「それは・・・」
俺が最低な男に見えるからか、周りの視線は痛い。でも、そんなことが気にならなくなるぐらいに、つくしの視線は痛く刺さった。
「つくしちゃん、もう充分でしょ?そっちの腕、離してよ」
「・・・けいない」
「「?」」
「関係、ない」
「離せ」と言われていた筈のつくしの腕は更に力が強くなった。
「レンさんがましろちゃんを撫でてるとか、手料理を作ったとか、そんなことどうでもいい!レンさんがどっちが好きかなんて関係ない!!」
「つくしちゃん・・・」
「私は優しいレンさんが好きで、悩んでる時に話を聞いてくれるレンさんが好きで、落ち込んでる時に励ましてくれるレンさんが好きなだけ!この気持ちだけはましろちゃんにだって負けない!!」
「私は世界で一番、お兄ちゃんが大好きなんだからあぁぁー!!」
つくしの主張は、店中に響き渡った。
「とにかく、レンさんは私のお兄ちゃんなの。だから、絶対離さない。ましろちゃんこそ離れてよ」
「ヤダ。私だって気持ちは負けてないもん!」
「こっちだって譲らない。妹だから・・・」
「むぅ・・・」
俺を挟んで睨み合いが続く。
「つくしちゃんがそこまで言うなら、私も考えがある」
「何?」
「私も、レンさんを「お兄さん」って呼ぶ」
「・・・!」
「つくしちゃんばっかりずるいもん。私だって妹にしてもらう」
「ダメだよそんなこと!どうしてそんなことするの!?」
「ダメか決めるのは、つくしちゃんじゃない・・・」
・・・まさか、俺に振るのか?
「レンさん。「お兄さん」って呼ばせてください」
「それは・・・」
「つくしちゃんには呼ばせて、私はダメなんですか?」
流石にそれを言われると弱い。差別するみたいなのは、やっぱり嫌だし・・・。
「呼び方とか、そういうは別に強制とかするものでもないし・・・呼びたいなら勝手にし―」
「イヤ・・・!」
「つくし?」
「それだけは、イヤ・・・」
つくしの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「つくしちゃん、どうして?関係ないんじゃなかったの!?」
「わっかんないよ!!でも・・・イヤなの・・・」
「つくし・・・」
とてもじゃないが、家で長女をやっている人間とは思えなかった。おもちゃを取られた子供のような、つくしらしくないワガママだった。今にも泣きそうな顔で・・・。
「その呼び方まで、取らないで・・・」
長女として育ち、甘えることが苦手なつくし。
最初は冗談で始まった呼び方だったし、年下の兄妹に憧れる姉持ちの俺と、年上の兄妹に憧れるつくしとの、需給の一致で生まれただけの、ただの遊びでしかなかった。しかし、この呼び方もあってか、つくしは家族やバンドメンバーにも見せないような表情も見せるようになった。
しっかり者で頑張り屋さんな面とは違ったつくし。そんな自分をさらけ出せる繋がり、それを通す『トクベツ』。そんな意味合いを、つくしはあの呼び方に求めていたのかもしれない。
「お兄ちゃん」という呼び方は、妹であることの証明になるから。妹でもない限り、そんな呼び方は出来ないから。
「私だけの「お兄ちゃん」じゃなきゃ、イヤ・・・」
「つくしちゃん。私だって退けないよ。私だって、レンさんにはいっぱい優しくしてもらったから・・・」
「・・・!」
「もう一度言うけど、気持ちでは負けてないから・・・。私だって、レンさんのことを「お兄さん」のように尊敬してる」
俺を挟んだ少女たちは、一歩も退かない。しかし、決着をつけるのは2人じゃない。さっきましろが言ったコト。
ましろはもう一度突きつける。
「レンさん」
「・・・」
「選んでください。私は、貴方を「お兄さん」と呼んでいいのか」
「・・・!」
「さぁ・・・」
2人ははどちらも大切な後輩だ。つくしは妹のように可愛がってきたし、ましろは子供っぽくて手のかかる部分もあるが、それも含めて愛おしく思う。
つくしの想いは無下にしたくない。でも、ましろの気持ちだって大切だ。
どちらかを優先するなんてそもそも嫌なのだ。どちらかを優先するということは、「どちらかを優先しない」ことに他ならない。
俺は・・・
俺は・・・!