前回のアンケート、リサ姉は「もっと出して欲しい」って人が1番多いみたいですね。
出し過ぎ 3%
気にならない 38%
もっと出せ 59%
皆さん、リサ姉のこと好きすぎるでしょ・・・。
新聞部の活動にも慣れ、学業もなんとか理解が追い付くようになり、家族との仲もマシにはなっていた俺だが、何もかもが順調かと言われるとそうでもない。
その証拠に俺は今も、B組から遊びに来てた市ヶ谷に愚痴を吐いていた。
「ネタ浮かばねぇー・・・」
「大丈夫なのかよそれ。間に合うのか?」
「わかんね。最悪の場合、来週はそこら辺で撮影した近所の野良猫特集で1本書くことも考えないとだ」
「はぁ・・・。別にガールズバンドの記事しか書かないって縛りがある訳じゃないけど、掲示板の記事が猫一色って、どの道致命的だろ」
「うるせぇな。所詮女子の機嫌なんて猫1匹でどうにでもなるんだよ」
「女子を舐めてるのか、猫への過信が酷いのかは知らねぇけど、その誤魔化しだっていつまでも続けられる訳じゃないだろ。取材先のアテは無いのか?最近はRoseliaとかの注目だってあるし・・・」
「そう言っても友希那さんとは気まずいままだし、そもそもあの人ストイックだから取材とか受けないと思う」
「確かにな・・・」
ポピパやハロハピに始まり、多くのライブ告知や練習風景の取材をしてきたし、バンドメンバー募集の協力だってしてきたが、そろそろネタ切れかもしれない。
詰んだ・・・そう思った瞬間だった。
「レンさん!アリサさん!その話は本当でしょうか?」
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話の乱入者はクラスメイトの若宮だった。
新聞部はまだパスパレの取材をしていなかったので、この機会に自分達を取材してはどうか、という内容だった訳だが・・・。
「いや、芸能人はダメだろ」
「ダメなのですか?」
「事務所の許可とか、その辺りの話も絡んでくるだろうし、そもそも俺が取材する間でもなくプロの取材とか受けてるだろ。お前ら」
「ですが、私達もまだ駆け出しの身。自分達を知ってもらう手段は多い方がいいです」
「なるほど・・・」
芸能人として既に活躍している集団とは言え、夢に向かって突き進むガールズバンドであるならば、俺が応援しない理由もないだろう。
「というか、パスパレってやっぱ人気なのか?」
「おい新聞部」
「いや、そりゃあ名前や噂は聞くけど、そもそもあんまりテレビとか見ないし、アイドルにも疎いしだな・・・」
「でも、チサトさんの名前ぐらいは知っていますよね?昔から子役としての活躍をしていますから」
「そりゃあ、チサトさんぐらいなら分かるぜ?ほら、エヴァの次回予告やってるあの人だろ?」
「それミサトさんな?」
「レンさん・・・」
「申し訳ない。出直してくる・・・」
こうして俺の予定には、パスパレへの取材と、パスパレメンバーの予習が加わることになった。
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パスパレの事務所との交渉は成功し、メンバーへの取材、練習風景の撮影に許可が下りた。練習の妨害などの迷惑行為をしない限りは好き勝手にやっていいとのこと。
しかし、取材対象のメインはパスパレ全体ではない。
「その、本当に私でいいの?元から有名な千聖ちゃんとか、同じクラスのイヴちゃんとかの方がやりやすくない?」
「その若宮が推薦したんですよ。丸山先輩を」
「そっかぁ。なんか緊張しちゃうな・・・」
取材が決まった時、若宮は自分を差し置いてまで丸山先輩を推した。理由を聞いても、
『とにかくアヤさんは凄いんです!レンさんも話せば分かります!』
の一点張り。まぁ、新進気鋭のアイドルグループでリーダーを張っているぐらいだ。さぞカリスマに溢れた凄い人なんだろう。才能にも環境にも恵まれた、それこそ姉さんや友希那さんみたいな感じの。
「彩ちゃん、歌い出し早すぎ!」
「あっ、ごめんなさい!もう1回お願いします!」
そう、才能に恵まれ・・・
「皆さん、本日は・・・えっと・・・本日は・・・」
「・・・」
「ごめんっ、MCのセリフ飛んじゃった!なんだっけ?」
そう、カリスマに溢れ・・・
「ここでターン―って、うわぁぁ!!」
「ちょっ、彩ちゃん転び方!あはははっ!!」
若宮さん、何をもって凄いって言ってるんですか・・・?
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練習の休憩時間、俺は床に座り込み、壁にもたれながら手帳で話の内容を纏めていた。氷川さんに「君ってリサちーの弟くんなんだよね?」とか、「おねーちゃんとも仲良いんだよね?」みたいな絡まれ方はしたが、周りのメンバーからの話はどれも興味深かった。
特に結成当時の話は、ファンの知らない裏側での苦労をたくさん聞かされた。
「アイドル」と聞いて、軟派でチャラチャラした感じを勝手に想像していた部分もあったがこの集団、かなりの修羅場を味わっている。
「レン君」
「はい?」
「それっ」
俺が投げられたそれをキャッチしたのを確認すると、肩にタオルを引っさげながら、丸山先輩はそのまま俺の隣に座り込んだ。
「あの、これは?」
「スタジオ出てすぐの自販機で売ってるスポーツドリンク。美味しいよ」
「あぁ、どうも」
「何か、悩み事?」
「えっ?」
まさか、俺が質問を受ける側になるとは。確かに取材した内容で引っ掛かることは色々あったが、そんなに顔に出ていただろうか?
「悩みって程でもないですよ。それに、取材相手に相談なんて出来ませんよ」
「でも取材相手である前に、私は君の先輩だよ?悩める後輩に力を貸すぐらいは・・・ね?」
「そうですか」
まぁ、引っ掛かっていることは取材内容にも関することだ。ただ、年上の取材相手に対して失礼な気がしたので言いにくかったのだが、ここは先輩の度量に頼る方が得策だろう。
「若宮から「凄い」って言われまくってた先輩が、なんか、練習でトチりまくってたから意外で・・・」
「うっ、やっぱり悪目立ちしてたか・・・」
「いや、別に責めたりバカにしようって訳じゃ―」
「わかってるよ。実際、他の人より出来ないことが多いのは事実だしね」
「・・・」
「でも、だからこそ頑張るの。頑張って頑張って、そうやってアイドルになったから」
「・・・」
「私に出来ることなんて、それぐらいしか無いしね」
雑談に興じるメンバーを眺めながら、丸山先輩は笑う。
「何回失敗しても、ですか?」
「そうだね。いや、寧ろ失敗するからこそ頑張り続けるんだけどさ」
「辛くないんですか?何回も失敗してたら凹んだりするでしょ。心が折れたり・・・」
「生憎だけど、アイドルって笑顔を届ける仕事だからさ。落ち込んだ顔なんて見せてられないんだよね」
「先輩・・・」
「辛い時こそ歯ァ食いしばって笑うんだよ。弱音吐きそうな自分に、頑張る自分でファイティングポーズを取り続けるの」
「・・・」
「こうして言ってみると、頑張ってばっかだな。私」
・・・「頑張る」か。
分からない。俺ほどじゃないにしても、先輩は「持たざる者」だ。才能に恵まれてる訳でもなければ、出来ることが多い訳でもない。
持たざるが故に諦めて逃げた俺と、
持たざるが尚、諦めず立ち向かい続ける先輩。
気づいたら俺は、質問を重ねていた。
取材相手にと言うより、丸山彩という一人の人間に対して。
「なんであんたは、そんなに頑張れるんだ?」
こういう時に敬語が抜けるのは、俺の悪い癖だ。
「結成当時の苦労は聞いた。メンバー全員がバラバラになりかけたことも聞いた。どれも辛いなんてもんじゃない。俺だったらとうに諦めてる。全部放り投げて普通の女子高生になる方が楽だった筈だろ。・・・どうしてだ?」
「その質問は、新聞部の記者としての質問?それともレン君自身の心の底からあふれ出た、一人の人間としての質問?」
「どっちも、だな」
「そっか」
先輩はゆっくり水筒の中身を減らして、口を開く。
「別に、大した理由なんて無いよ。ただ諦めが悪いだけ。突き詰めていくと、結局それだけなんだよね」
「それが、挫折の繰り返しでもか・・・?」
「100回挫折したって、それは諦める理由にはならないよ。アイドルになりたいと思った時点で、その辺りの覚悟は決まってたし」
「覚悟って・・・それだけで、何もかも耐えられる訳じゃないだろ。痛みも、苦しみも・・・」
「でも、『覚悟』ってそういうものでしょ?暗闇の荒野に、進むべき道を切り開くように、どこまでも進み続ける。止まるなんて選択は最初から無いんだよ」
俺よりも小柄なはずの先輩が、この時は何よりも大きな存在に見えた。サラッとした微笑みで、何でもないことのように、この人はとんでもないことを言っているのだ。
俺よりも小さな背中に、とてつもない大きさのモノを背負いながら。
・・・若宮がこの人を「凄い」と言っていた理由が、今になってよく分かった。
才能があるとか、出来ることが多いとか、そういうのじゃない。
人並みに出来ないことも多く、人並みに傷つく。その上で、降りかかる苦痛から逃げず、正面切って向き合い続ける覚悟がある。
何度も失敗して、何度も傷ついて、何度も泣いて、それでも進み続ける意思の力。
この人は『覚悟』が違う。
「レン君、負け続けてる勝負に、絶対に勝てる必勝法って知ってる?」
「あるのか?そんな都合のいいもの」
「あるよ。1つだけね」
「その心は?」
「簡単だよ。勝つまでやんの☆」
「・・・先輩は、ギャンブルとかやっちゃいけないタイプの人ですね」
「ははっ、妹も同じこと言ってた」
先輩は、カラカラと笑ってみせる。
「強いな。あんたは」
「ううん。強くなんかないよ。譲れないモノがあるだけ」
「そうか」
確かに、話してみてよく分かった。丸山彩は、本当に凄い人だ。
凄くないが故に努力し、強くないが故に強い。
・・・カッコいい。
「あっ、待って!今の私、結構いいこと言ったよね?記事とかで使えるかな!?」
「今ので全部台無しになったぞ・・・」
さっきまで本当にいいこと言ってたのに。
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その後も取材は順調に続き、撮影面でもいい表情が撮れた。
この後はメンバーを交えたミーティングが行われるらしいが、流石にその内容まで一般人に聞かせるわけにはいかないらしく、俺は少し早めに帰されることになった。
今はパスパレの代表として、彩さんに事務所の外まで送ってもらっているところだ。
「レン君、今日の収穫はどうだった?」
「最っ高ですよ。このままドキュメント1本書けそうです」
「よかった」
確かに、取材としての収穫は大きかったが、一番の収穫はこの人に会えたことだろう。
個人的な欲望ではあるが、俺はもう少しこの人を知りたい。もう少し仲良くなって、関わっていくことができたら・・・。
「先輩」
「何?」
「「彩さん」って、呼んでいいですか?」
「・・・」
「・・・」
「ナンパ?」
「違います」
「気持ちは嬉しいけど、私はアイドルだから・・・」
「あの、違うって言いましたよね?」
「ははっ、冗談だって。呼び方なら好きにしなよ」
「・・・どーも」
こうして遊ばれてるうちに、事務所の出口にも着いてしまった。
「さて、そろそろお別れだね」
「はい。・・・彩さん、今日は本当にありがとうございました」
「うん。また学校でも話そうよ。私もレン君とは仲良くしたいし」
「そうですね。今度は、もっと個人的な用事で会いに行こうかな・・・?」
「いつでも待ってるよ。あ、じゃあ連絡先も教えないとね」
別れ際、最後にアイドルの連絡先という、とんでもないお土産を持たされることにはなったが、今回の取材は本当に良いものになった。
「じゃあ、お元気で!」
「うん!記事が上がったら、私も読むからね!」
両手で可愛らしく手を振る彩さんに踵を返し、俺は事務所を後にしたのだった。
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後日、彩さんの記事はかなりの注目を集めた。
元々芸能人としての人気があったからか、掲示板の前にも朝から人だかりができていたらしい。
だが、
『彩ちゃんはあんなにカッコよくない!』
『もっとポンコツ可愛いところへの焦点はどこへやった!』
といった感想も届いたのは、また別のお話。
明日のこの時間にもう一度、今回みたいな過去編設定の出力を行います。
私の中に燻ってる過去編設定は、次回で最後になると思います。