長時間による説得により、なんとか紗夜さんを正気に戻したはいいが、普段まともな人があそこまで暴走してしまったのは、やっぱり大変な事態だ。
多分、ポテトが食べられないことへの怒りと悲しみを、どこにぶつけていいか分からないのだろう
どうしたものか・・・?
俺は紗夜さんと帰り道を歩きながらそのことを考える。
「すいません。さっきは取り乱して・・・」
「いや、それだけショックだったんでしょう?仕方ないですよ」
正気に戻った紗夜さんは、今も落ち込んだままだ。
「ハンバーガーとか、奢りましょうか?」
「でも、そこにポテトは無いのでしょう・・・?」
「Sサイズなら」
「はぁ」
本当に困った。じゃがいもの輸入遅延の影響は、もう1か月近くは続くらしい。
そんなに長いこと紗夜さんがこんな状態なのは困る。
トボトボとした紗夜さんの足は、とうとう歩くこともやめてしまった。
「紗夜さん、元気出してくださいよ」
「・・・ごめんなさい」
本当に詰んだかもしれない。
こんな時に、紗夜さんを元気づけられる何かがあればいいのに。
この状況を打破してくれる都合のいい奴はいいのか?誰か―
「あれ、紗夜?それにレンまで。奇遇だね」
「姉さん・・・」
「今井さん、どうしてここに?」
「いやー、たまたま通りかかっ・・・て・・・」
姉さんも気づいたようだ。紗夜さんの様子に。
「レンー、一応聞くけど、紗夜に手出したりとか、してないよね?」
「ちょっ、違うって、俺が会う前からこうだったし」
「ま、そうだよね。あんたはそんなことする奴じゃないし、じゃあ、紗夜にこんな顔をさせたのは、いったい誰なのかな?」
姉さんの表情は真剣そのものだ。
紗夜さんを悲しませた元凶はポテトをSサイズしか販売しないケチなファストフード店ではあるが、店側も好きでこんなことをやってる訳じゃない。
こうしないといけなくなった原因まで辿るとなると・・・
「犯人は・・・」
「犯人は?」
「この世界だよ」
「は?」
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「なるほどポテトがねぇ。そういえばニュースでそんなこと言ってたっけ?1か月ぐらい続くとかなんとか・・・」
「まぁ、そういうことなんだけど。姉さん、紗夜さんのこと、どうにか出来ないかな?俺にはお手上げだ」
「そうだなぁ・・・」
「あの、2人とも。私のことは気にしないでください。別に食べ物1つで生活に影響が出たりなんてしませんから・・・」
まぁ、それを言われて「はいそうですか」と引き下がれる程、俺たち姉弟は気が回る性格をしていないのだが。
「まぁ、方法はあるよ」
「本当か?」
「まぁね。ねぇ紗夜。今日、予定無いなら今井家に遊びに来ない?」
「えっ?まぁ、予定はありませんが」
「じゃ、強制でーす☆」
「あっ、ちょっと!」
そう言うと姉さんは、そのまま紗夜さんの腕に抱きついて連行してしまった。
「あ、レン。帰りに夕飯の買い物も済ませたいから荷物持ちよろしく~」
「おっけー」
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紗夜さんを連れ、買い物も済ませて帰宅。手を洗い、まずやることは当然。
「はいコレ。手錠とヘッドホンとアイマスクだよ~☆」
「いやおかしいでしょう明らかに!」
「悪いな紗夜さん。姉さん、こうなったら聞かないから」
「そうそう、音楽でも聴きながら、しばらく待ってくれるだけでいいから。ね?」
「まぁ、そういうことなら・・・」
まず、紗夜さんの視覚と聴覚を奪った。手錠まで加えたら余計な抵抗も出来まい。
呼んでも返事が無いのを確認すると、俺たちはキッチンに向かった。
「で、何するんだよ?」
「あれ、まだ察しつかない?今日買い物に寄ったのだって、このためなんだけど。レンにわざわざ重たいものまで持たせて」
「まぁ、確かに今回は重かったな。何せ大量にじゃがいも買わされたし。飲食業界はポテトで悩んでんのに、スーパーではちゃんと売られてるんだもんな・・・」
ん?待てよ。
ここはキッチン、袋にはその他食材と大量のじゃがいも、そして何より紗夜さんのためにやること・・・ということはまさか。
「望むものはいくら探しても見つからない。でも、それは今すぐ手元に欲しい。だったらさ?」
「なるほど」
「作るっきゃないっしょ。フライドポテト☆」
姉さんはお得意のウインクで、得意げに言い放った。
紗夜さんの視覚と聴覚を奪ったのは、驚かせたかったからなのだろう。実に姉さんらしい。
「あの、2人とも?」
「「ギクッ」」
リビングのソファから、紗夜さんの声が聞こえる。
「もしかして今、とてつもなく大事な会話をしていましたか?」
「嘘だろオイ・・・」
「勘鋭すぎでしょ・・・」
「いや、仮にそうだとして、私が知ることでもありませんね。やっぱり何でもありません。気にしないでください」
俺たちの声は本当に聞こえていないらしく、返事を待たずに紗夜さんはそのまま自己完結を果たした。
しかし、安心は出来ない。今の紗夜さんは、獲物を狙う虎のような勘の鋭さを有しているのだから。
「くそっ、魔幻獣ポテト食べタイガーめ」
「何そのネーミングセンス・・・」
まぁ、アクシデントはあったが、こちらが不用意なことをしない限りは、紗夜さんも大人しくしているだろう。
俺たちは2人は既にエプロンを装備している。
さぁ、料理開始だ。
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【STEP1 じゃがいもを洗う】
「なーんで何もせずいきなりまな板に置いてぶった切ろうとするのかなぁ?うちの愚弟は」
「悪かったよ。今洗ってるんだからいいだろうが・・・」
※料理開始あるある 野菜洗うのを忘れる。
【STEP2 じゃがいもの皮をむき、細切りにする】
「・・・」ざく・・・ざく・・・ざく・・・
「~~♪」さく さく さく さく さく
「・・・」ざく・・・ざく・・・ざく・・・
「レンさぁ」
「何だよ?」
「遅くない?」
「あんたが早すぎなんだよ」
※料理音痴あるある 包丁が遅い。
【STEP3 ビニール袋に切ったじゃがいも、小麦粉、片栗粉、塩を入れて振る】
「アタシ、油の準備しとくからそれ振っといてよ」
「了解」
「・・・」シャカシャカ
「~~♪」
「・・・」シャカシャカ
「~~♪」
「姉さん」
「んー?」
「この作業飽きた」
「早いって」
※料理音痴あるある 調理工程にすら飽きる。
【STEP4 熱した油に粉をまぶしたじゃがいもを入れる】
「よし、やってやるぜ」
「あの、本当に大丈夫?」
「まぁ、俺が言い出したことだし、この手の危険な役目ぐらいはな・・・」
「アタシがやった方が安全で早いんだけどなぁ。ま、見守ることも年上の務めかな」
「さーて、投入の時間だぜ!」
「ちょ、あんまり勢い付けたら油跳ね―」
ジュゥゥゥ!!!
「熱っつ!!!」
「ほーら言わんこっちゃない」
※料理音痴あるある 揚げ物はかなり危険
【STEP5 じゃがいもがイイ感じの色になったら、火を止める。後は盛り付けて完成】
「レンがポテトと格闘してる間に、マヨネーズとケチャップを混ぜてソースも作っといたよ」
「うっわ有能」
「別に大したことじゃないって。レンもお疲れ様。盛り付けられた感じは・・・うん。かなりいい。よくやった」
「どーも」
「よしよし」
姉さんに頭を好き勝手にされながら、俺は盛り付けたポテトを見る。
本当に美味しそうな仕上がりだ。今すぐに食べたい。
「レン~」
「何?」
chu-♡
サラッと詰め寄ってる姉、頬に柔らかい感触。
・・・やられた。
「何だよ?」
「いや別に?なんとなく。なんかそこにあったからやった。いい頬だなーって」
「おい」
「別にいいじゃん。久しぶりにこの手の共同作業ができて嬉しいなーみたいな気持ちもあったし」
「言っとくけど、全く恥ずかしくないって訳でもないからな?」
「アタシだって多少はドキドキしてるんだからお互い様だよ」
「そっちがしてきたんだろうが」
「でも意外だな。外では手を繋ぐのも嫌がるし、もっと文句言ってくると思ってた」
「外は人の目があるから嫌だって言ってるんだ。あと、ウザくてしつこいのも嫌だ」
「へぇ。じゃあ、人目のつかない家の中ならいいんだ?」
「・・・時間取らなかったらな」
「そっか」
・・・
「さて、そろそろポテトも持ってってやるか。ちょうどいい冷め具合の筈だし」
「そうだね~。ソファのポテト食べタイガーも、この香ばしい匂いで何が待ってるか勘づいてる筈だし・・・」
「焦らされてウズウズしてるだろうしな」
「じゃ、行きますか☆」
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「ポ、ポテェ・・・」
「あ、本当に我慢の限界っぽいねこれ」
「確かに。「さっさと寄越せ」って言ってる」
「え?紗夜の言葉分かるの?」
「よし、ヘッドホンとアイマスク、さっさと取ってやるか」
「あと手錠もね?」
その後の紗夜さんの反応は、もう語るに及ばず。
「はぁぁぁ~~~っ♡」
「じゃーん。今井姉弟の特製ポテトだよ☆」
「こ、これ、全部食べていいんですか?」
「あの、流石に俺たちの分もちょっとは頼みますよ?」
というか、山盛りで結構な量だと思うのだが、本当に1人で全部行く気だったのだろうか・・・?
「よし、じゃあ」
「そうですね」
「それでは、お手を合わせまして・・・」
「「「いただきます!!」」」
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結論、店のものとは違った良さがあって美味い。
お好みで塩を追加したり、ケチャップや特製ソースを合わせるのもいい。あと塩コショウをかけても美味い。
そして何より・・・
「んん~~~ッ♡」
紗夜さんが凄く美味しそうに食べている。なんか見てるだけで幸せになりそうだ。
「はぁん・・・♡」
「ねぇレン、紗夜、大丈夫かな?何かイってる感じしない?」
「まぁ、イってるかイってないかで言うなら、イってるな・・・」
「はぁ・・・♡」
「「・・・」」
姉弟揃って、顔を見合わせる。正直紗夜さんの表情は、健全な女子高生が晒していい表情ではないが・・・
でも、美味しそうだし、幸せそうだし。
「「ま、いっか」」
ポテトの大多数は紗夜さんが貪り食ったが、残りは残りで今井姉弟が美味しく頂きましたとさ。
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「今日は本当にありがとうございました。お二人にはなんとお礼を・・・」
「いいっていいって。好きでやったことなんだし」
「紗夜さんが喜んでくれて、俺たちも嬉しかったですし」
「でも・・・」
「あ、じゃあさ。お礼したいなら、今ここでアタシたちが喜びそうなことしてよ☆」
「えっ・・・?」
「紗夜さん、無理にやらなくていいですからね?」
「い、いえ、この大恩には、誠意をもって答えなければ」
「真面目だなぁ~」
そして、そうこう言っている間に紗夜さんは準備を終えたらしい。
「これで、喜んで頂けるかは分かりませんが・・・」
「お、本当に何かやるのか・・・」
「まったく。姉さんが無茶ぶりするからだぞ?」
そう言い合っていると、紗夜さんが俺たちの前に立った。
そして、紗夜さんは少し顔を赤らめながら、少し深呼吸をした後・・・
「ふ、2人のことが、だいだい、だーい、好き・・・ですっ。chu-(投げキッス)」
照れた表情の紗夜さんは凄く恥ずかしそうで、投げキッスの手の動きも控えめだったし、その後も照れて目を逸らしていた。
そして俺たちはと言うと・・・
「ゴフッ!」(姉、昏倒)
「ノブッ!」(弟、昏倒)
まぁ、こうなる。
「あの2人とも!?大丈夫ですか!?どうしていきなり倒れて―」
「ごめんレン。アタシ、死んだわ」(チーン)
「ははっ、奇遇だなぁ。俺もだよ」(チーン)
「ちょっ、どうしたんですか!?しっかりしてください!2人とも!」
結局俺たちは、紗夜さんが帰る時間になるまで、ずっと昏倒し続けたままだった。
・・・紗夜さん。あれは反則だよ。可愛すぎる。
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無事に紗夜さんを帰し、姉さんと適当な雑談をしていると、日菜さんからチャットが届いた。
『おねーちゃんから知らないポテトの匂いがする!どういうこと!?』
「なんで俺のせいだって分かるんだよ・・・」
・「読みにくい」などの感想、意見
・この小説で好きな話、あるいは好きなシーン
参考にしたいので気軽に感想欄へ書いて下さい。特に好みのシーンとかは参考にしやすいのでお願いします。
感想、一言でも書いてくれたら嬉しいです。待ってます。推薦とかしてくれる神様もいればいいな。
もしリクエスト等あれば活動報告のリクエストボックスへのコメントでお願いします。採用できるかは不明ですが、確認はします。
あまり過度な期待はせず、「採用されたらいいな」ぐらいのサラッとした気分でお願いします。書けなかったらすいませんってことで。