集計結果
「乗り込もう」……143人 90%
「ここで待とう」…16人 10%
「乗り込もう」
「いいんですね?」
「あぁ。ここに居たって状況は変わらない。それに・・・」
「それに?」
「『ここに来た時と全く同じ手段』で、『ここに来た時と正反対の方向』へ、『順序を逆からなぞる』ように、『来た方向へ帰っていくようにこの場から離れる』。このことには、きっと意味がある筈だ」
「ふぅむ」
「・・・と思ったんだけど、どうだろ?」
「賭けてみる価値はあると思いますよ。さっきも言った通り、私はレンさんの直感に従います」
「七深・・・」
そうこうしているうちに、電車は駅に着いた。
そしてソレは俺達の前で、ゆっくりと扉を開く。
「さてもさても、私たちも来るところまで来てしまった感じが出てきましたね~」
「あとはもう、なるようになれって感じだな」
俺達は再び、お互いの存在を確かめ合うように、繋いだ手を握りなおす。
「じゃ、帰るか」
「はい。帰りましょう。・・・絶対に」
意を決して、俺達は『帰りの電車』へと乗り込んだ。
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電車内は来た時と同じく、乗客の姿など無い。車内は電車の駆動音しか聞こえない。閑散とした空間だった。
乗客は居なかったが、駅のベンチで長いこと座って膝が固まっていたこともあり、俺達は席にも座らず、そのまま立って扉にもたれていた。
「突然ですがレンさん。ここで広町から更なる提案があるのですが」
「提案?」
「手を繋ぐだけだと少し心細いので、お互いに正面に立ち、両手を握り合いながら見つめ合うのはどうでしょう?」
「いや、そこまではしなくてよくないか?流石に気恥ずかしさというか・・・」
「そうですねぇ、でも窓の景色を見つめてたら見てはいけない何かが・・・なんて事があったり」
「・・・」
「ふとした拍子に手を繋いでる隣の女の子を見てみると、いつの間にか全く知らない別の誰かに自分の手を・・・!」
「うっ・・・」
「みたいなことになったらイヤでしょ?」
「・・・そういうことかよ。ったく仕方ないな」
俺は正面に立った七深と手を握りなおす。
両手の指を絡め、お互いの瞳を、じっと見つめ合う。
上目遣いの七深と目が合って、少しドキドキする。
「・・・他に、この車内で注意することはあるか?」
「うーん。取り敢えず、私以外の誰かから呼びかけられても、返事をしちゃダメ。とか」
「言われなくてもしないよ。俺たち以外に誰もいない状況下でそんな怖いこと起こったら」
「でも、大事なことですよ?私たちが応えたり取り合ったりするほど、『向こう』は境界を越えやすくなります。ただでさえ私たちも、その境界のミシン目のような場所にいる訳ですし。とにかく、余計なことに気付かないでいることが一番です」
「・・・分かった」
「はい。だから・・・」
七深が、更に俺の手を握り込む。
・・・温かい。
「このまま、私の温度だけを感じて、私の声だけを聞いていて下さい。窓の外や、車内に目を向けるのもダメです。広町のことだけを見ていてください。そうすれば、余計なことにも気付かないで済みます」
「・・・恥ずかしいんだけど」
「目、逸らしちゃダメですよ?」
「分かってるよ」
俺は指示に従う。
七深の小さな手の温度を感じ、七深ののんびりとした声だけを聞いて、七深の整った顔立ちと、透き通った瞳だけを見つめる。
ちょっとした会話と静かな時間だけが流れる。
「七深、さっきも言ったけど、いざとなったら俺が守ってやる。だから安心しろ」
「それは嬉しいですけど、どうやって守るんですか?」
「それは分からない。でも守るったら守る」
「なるほど、「守れるかどうかは知らないけど、安心させるためにはそう言っておくのが一番」という魂胆ですね?そのセリフは、守るためじゃなくて、安心させるために言ってると見ました」
「・・・そこは知らんぷりしといてくれよ」
「ふふっ。でも嬉しいです。こんなにくっつきながら、まっすぐ目を見て言われると、流石に広町の女の子な部分が刺激されると言いますか・・・」
「そうか?」
「はい。いつもよりレンさんがカッコよく見えて、ドキドキします」
「もしかして吊り橋効果じゃないか?今の吊り橋以上の恐怖のドキドキを、脳が恋愛のドキドキと勘違いしてるとか」
「そうかもしれないですね。だって今、レンさんのこと好きになりそうですし・・・」
「へっ・・・?」
気づいたら、七深の頬は赤くなっていた。目も少し色気を帯びて、トロンとしている。
「知ってますか?動物って、死を悟ると発情するんですよ?」
「あの、七深?」
「分かってます。多分、今の私は無事で帰れるかも分からない状況が続いて、少しおかしくなってるんです」
「七深・・・」
「ダメだなぁ。名前呼ばれただけでドキドキする」
「・・・」
「このドキドキ、レンさんにも分けてあげますね」
そう言うと、七深はそのまま、自分の乳房を俺の体に押し当てた。
「どうですか?」
「やめろ」
「どうして?」
「・・・変な気起こしそう」
「ふふ。なんだ。レンさんもおかしくなってるんですね」
確かに、潜在的に長いこと恐怖を抱え過ぎたせいか、俺もおかしくなっている。
あんまり自分より年下のいたいけな少女にこんな失礼なことは考えたくないが・・・七深の声が、エロく感じる。胸板に押し当てられた乳房に、この手で触れたくなっている自分がいる。
・・・お互いに、少し息が荒くなっている。
「七深、深呼吸しよう。深呼吸」
「はは・・・。確かにこれ以上は」
「あぁ。なんか、ここらで冷静になっとかないとマズいような気がする」
「ほんと、こんな状況で何してるんでしょうね?私たち・・・」
俺と密着していた七深が、握った手をそのままに、俺から半歩ぐらいの距離を取る。
目を合わせ続けたまま、ゆっくりと深呼吸に取り掛かる。
「「すぅぅ・・・。はぁぁ・・・」」
足りなかった酸素を取り込み、頭に集まった血を落ち着かせる。
「「すぅぅ・・・。はぁぁ・・・」」
何かに取り憑かれていたようなテンションを落ち着かせ、失った冷静さを取り戻す。ゆっくりと、自分のペースの呼吸を整える。
「・・・無事か?」
「その表現もおかしいと思いますけど。まぁ、無事です」
マラソンでも走ってきたかのような疲労感はあるが、少しだけスッキリした気はする。
思考が少しクリアになったような、そんな気分。
「七深、俺のこと好き?」
「全然です!」
「それはそれでどうなんだ・・・?まぁ、クールになったならそれでいいけど」
「いやー、お陰で助かりましたよ」
七深はすっかり元に戻ったようだ。
「レンさん」
「何?」
「絶対、みんなの所に帰りましょうね」
「そうだな・・・」
そんな会話が交わされた直後、車内が更に暗くなった。
「おや、トンネルにでも入ったんですかね?」
「みたいだな。お前しか見てなかったから気付くのが遅れた」
「またまた~」
しかし、トンネルに入ってもなお、視界は暗くなり続ける。
でも、物理的に暗くなってる感覚でもない。だからといって意識が遠のいているとかでもない。意識はハッキリしている。でも、どことなくフェードアウトしてるような感覚もある。
よく分からない感覚。
「どんどん暗くなりますね」
「あぁ。もうほとんど何も見えなくなってきたな」
「そうですねぇ。でも、欠片の根拠も無い直感で、何となく思い至ったことが一つ」
「何だよ」
「多分さっきの賭け、私たちの勝ちです」
その言葉を最後に、俺の認識する世界は、そのままフェードアウトした。
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ガタン ゴトン ガタン ゴトン
線路に沿って、電車はゆっくりと進んでいく。
目的地に向かって、ゆっくりと。
ゆっくり、ゆっくり・・・。
ガタン ゴトン ガタン ゴトン
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がたん・・・、ごとん・・・。
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「「はっ!?」」
跳び起きるように2人で同時に目を覚ますと、そこは陽光の差し込む電車の中だった。
辺りを見回すと、様々な乗客が確認できた。俺の隣や向かいの座席にも、他の乗客が座っている。そして自分のスマホを確認すると、表示された時間は10:12を指し示していた。
「なぁ、七深。さっき、凄い変な夢を見たんだけど・・・」
「奇遇ですねぇ。こっちもです」
「まぁ、流石にそうだよなぁ」
「話したいことはいっぱいありますけど、取り敢えず・・・」
「あぁ。とにもかくにも・・・」
他の乗客には目もくれず、俺達はありのままの安心感を、あふれるままに吐き出した。
「「帰ってきた~っ・・・」」
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電車内で綿密な話し合いを行い、俺達が『あの駅』から生還したことは確実という結論に至った。
今は本来の目的地だった駅で降り、そこのベンチでまた話し合いを再開している。
「そう言えば、私たちって元々ホラー映画観に行く予定だったんですよね」
「・・・行きたいって思う?」
「いや、今日に限っては言えば、ホラーは『あの駅』でお腹いっぱいというか・・・」
「そもそも、今がお昼前だってことも信じられないよな。『向こう』では夕方から夜に差し掛かってたところだったし」
「もう一日中冒険しましたってレベルの疲労が既に朝からあるのは、なんか変な気分ですね。海外旅行から帰ってきた時の時差ボケみたいな・・・」
俺達は『向こう』の出来事を思い出して、今一度ため息を吐く。
「今日は、もう帰りましょうか」
「だよなぁ。これから映画まで見る気力は流石に無いし・・・」
「多分私たち、本来の時間で言うなら、集合して1時間も経ってないんですよね。それなのに電車で駅の往復だけして帰るって・・・」
「もういいだろ。こっちの体感なら、もう1日中一緒にいたんだし」
「ですね。正直もう、さっさとお家帰って寝たいです」
「それな」
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そして、無事に俺達が朝に集合した駅に降り、その駅から徒歩で帰ってる間にも、この話題は続いた。
「そう言えば『新阿国前』って駅名、結局何だったんでしょう?」
「ん?別に、そういう駅名だったってだけじゃないのか?」
「確かに、私が知ってる都市伝説も、駅名そのものに大した意味があるものは無いんですけど、ベタなホラーものだと、名前に意味があったりとかするんですよ」
「・・・そうなの?」
「そうですよ~。例えば、文字を入れ替えてみたら本来の意味になったりとか」
「ははっ。そんなまさか」
「・・・・・・・・・あっ」
「おい、待て。何に気付いたお前!?さっきの間はなんだ!?おい!七深!」
七深はこちらに目を合わせようともしない。
でも、気にしない方がいいのだろうか。知ったら知ったで怖くなるだけかもしれないし。
「と、そんなことを言い争ってる間に、そろそろ広町の家が近づいて参りました~」
「あぁ、この辺りなのか?」
「厳密にそうという訳でもありませんが、広町の家が向こうなのに対し、レンさんの家はあっちの方ですし、だからこの別れ道でお別れです」
「あぁ、そうか・・・」
散々一緒にいたが、こうもあっさり解散なのはそれはそれで寂しい気もする。
「また、会いましょうね」
「あぁ。今度は、もっとゆっくりした場所で話そう。そんじゃ」
「はい。ましろちゃんとの関係とか、今度じっくり聞かせて貰いますからね?」
「それは・・・お手柔らかにお願いするよ。じゃあな」
最後に手を振る七深に踵を返して、俺は家路を歩―
いや、何か引っかかる。最後の別れのセリフ。
ましろちゃんとの関係とか、今度じっくり聞かせて貰いますからね?
ましろちゃんとの関係
『ましろちゃん』との・・・
「あいつ、ましろのことそんな風に呼んでたっけ?」
というか・・・
「俺、あいつに家の場所教えたことあったっけ?なんで俺の家の方向をあいつが知ってるんだ?」
俺は急いで振り返った。
別れの挨拶は済ませたばかりだ。後ろを向けば、帰り路を歩く後輩の姿が見える筈だ。
しかし、しばらく続く道を歩いてる筈の広町七深の姿は、完全に消失していた。
「・・・気のせい、だよな?」
・・・
「誰だったんだよアイツ・・・」
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『新阿国前』
↓
しん お くに まえ
↓
shin o kuni mae
↓
shi no kuni mae
↓
し の くに まえ
↓
『死の国前』
続きません。バンドリのホラーは最後が不穏でなんぼ。
それにしても、今回は大差で『乗り込む』派が多数を占めましたね。脅威の9割。『待つ』派の人ももうちょっと多いと思ってたし、もう少し拮抗すると思ったんですがね…。修羅場回の時の選択肢は7%しか差がなかったのに…。
皆さんは、アレですね。極限状態に陥った時に、ちゃんと崖を飛べるタイプの人たちですね。
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