そういえば、この作品では『妹』としてのつくしちゃんしか書いてなかったので、たまには『姉』の面を持ったつくしちゃんを書いてみます。
『レンさん。今度の休日、ちょっと買い物に付き合ってくれませんか?相談したいことがあって・・・』
妹から届いた誘いに、特に断る理由も見出せなかった俺は、速攻でOKを出した。
ちなみに、つくしはチャット上で俺のことを兄とは呼ばない。しっかり者としての威厳を保つため、万が一見られても大丈夫なようにしているのだとか。
「呼んでくれてもいいのに・・・」
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ショッピングモール前で待つこと5分。俺の姿を見つけた後輩が、手を振りながらこちらに小走りで向かってくる。
走っているからか、特徴的なツインテールが上下にぴょこぴょこと跳ねている。
・・・可愛い。
「レンさーん!」
「おっ、つくし。来たな」
「ハイターッチ!!」
パンッ!
「早いですね。まだ集合時間10分前なのに」
「当たり前だろ?集合で女子を待たせないってのは、デキる男の基本だからな」
「やっぱり普段からデート慣れしてる人は違いますね。流石は稀代の女たらし」
「こらこら・・・」
「冗談ですよ。誘われやすいのは、それだけ人望が厚い証拠ですからね。寧ろ見習わないと」
「その人望も、仕事で交流があるってだけなんだけどな・・・」
ましろとの修羅場騒動からしばらく経った後、俺とつくしはこんな冗談が言い合える程に仲良くなった。
それこそ、本当の兄妹のように。でも、だからこそ今日のつくしは少し気になる。
「今日はいつもみたいに「お兄ちゃん」って呼んでくれないのか?」
「うーん。確かに呼んでもいいんですけど、あの呼び方に慣れ過ぎちゃうと困るんですよね・・・。モニカの練習の時とか、バイトの時とか・・・流石に年上相手に敬語が抜けちゃうのはマズいですし・・・」
「あぁ。・・・確かに気持ちは分かる」
「それに、今日は「優しいお兄ちゃんに甘えたい」って感じよりも、普通に「頼れる先輩に相談したい」って感じなので」
「なるほど。まぁ、呼び方は好きにしたらいい。じゃあ、そろそろ行くか」
「ですね」
集合の挨拶も終わり、俺達はそのままショッピングモールへと直行した。
俺の妹は、今日に限っては後輩モードらしい。
・・・いや、逆か。後輩モードの方が本来の在るべき姿なのか。
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建物の中に入ったはいいものの、つくしは早速、館内の地図を見て考え込んでいた。
「それで、相談したいことって、結局何だったんだ?」
「そう言えば、まだ言ってませんでしたね。今日買いに来たのは妹たちへのプレゼントなんですけど・・・」
「そうか。自分から買いに行ってあげるなんて、いいお姉ちゃんだな」
「えへへ・・・じゃなくて、今回はちょっと特殊なんです」
「特殊?」
「妹たち、物心はついてきたんですけど、まだまだ甘えんぼで、「お姉ちゃんとお揃いの何かが欲しい」って言ってて・・・でも、具体的にどんなものが良いかまでは分からなくて。だからどうしたものかと。何をあげたら気に入ってくれるのか・・・」
「なるほど。でも、なんで俺?」
「レンさんにはお姉さんがいるし、下の子の気持ちとか、下の子がどんなお揃いを欲しがるのかも分かるかなって・・・」
「そういうことか。確かに俺も家では下の子だけど、でもお揃いかぁ。うちの場合だと、そういうのを欲しがるのって姉さんの方なんだよな・・・」
「そうですか・・・。そもそも、お揃いを買ったこととか、あるんですか?」
「無いな。そもそも最近まで姉さんとしっかり話してもなかったし。・・・いや、違うわ。随分昔だけどお揃い買ってもらったことならあったわ!何なら今も持ってる!」
「えっ、今も?」
俺はシャツの首元を広げ、その中に手を突っ込む。
あまりにも当たり前に、平然と普段から身に着けているものだから忘れていた。
「これ・・・ウサギのネックレス?」
「そうそう。この生首を逆さ吊りにしたみたいなウサギ。これの色違いを姉さんが持ってるんだよ。俺のが黒地に白い目と口で、姉さんのが黒地にピンクの目と口」
「生首の逆さ吊りって・・・。でも、確かにリサ先輩が付けてるのは見たことあります。耳にも付けてましたよね?そのウサギ。まさかレンさんとお揃いだったなんて」
「そうだな。まだ俺が中学に上がるよりも前だった。お小遣いも多くないのに、わざわざ俺の分もって・・・ほぼ押し付けられるような感じだったけど」
「思い出の品なんですね」
「まぁな。それに見た目も気に入ってるんだよ。この表情、なんかポカーンとしてて可愛いだろ?」
「でも気に入ってるなら、なんでシャツの中に隠してるんですか?」
「そりゃあ、見えるような場所に付けてたら、俺が姉さんのこと好きみたいになるだろうが」
「いや、普段から肌身離さずに付け続けてる時点で実際好きじゃないですか。目立ってなければ言い逃れできるとでも?」
「う、うるせぇな!好きなんかじゃないって言ってるだろ!?」
「リサ先輩がレンさんのこと大好きな理由、少し分かっちゃったかもしれない・・・」
その後も俺は弁解を続けたのだが、つくしには見事にスルーされた。
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あの後、つくしは俺のネックレスを参考にし、妹たちへのプレゼントをアクセサリーに絞り込んだらしい。
今はアクセサリーショップでそれらの吟味をしてるところだ。
「難しいですね。イヤリングはまだあの子たちには早い気がするし・・・」
「全員女の子なら、髪につけるものでもいいんじゃないか?ほら、このヘアピンとか」
「あっ、これ良い!値段も高くないし。いや・・・」
「ダメか?」
「この小ささだと、すぐ失くしちゃうかも」
「難しいな」
「あとレンさん。色違いで渡すのも、うちではタブーです」
「それも?違いあった方が良くないか?」
「うち妹2人なんで、好みがどっちかに偏ると、片方だけを巡ってケンカしちゃうんです。この手のアクセは特に」
「お前も大変だな・・・」
「はい。可愛い子たちなんですけど・・・」
苦労はしてそうだが、その表情には優しさがにじみ出ている。
この瞳なら、俺も見たことがある。
「つくしって、家ではちゃんとお姉ちゃんなんだな」
「そうですか?」
「あぁ。お前のその表情を見てると、姉さんを思い出すよ」
「ふふーん。って言いたいけど、姉力でリサ先輩と比べられるのは、ちょっと・・・」
「全然負けてないって。偉い偉い☆」
「うーん。頭撫でながら言われてもなぁ・・・」
釈然としないって感じではあるが、撫でられること自体は嫌じゃないらしい。
しかし、プレゼントは決まらないままだ。つくしも限界が近いことが分かる。
「レンさん」
「ん?」
「なんか助言とかありませんか?」
「とうとう直球でヘルプ出した上に、アドバイスの求め方も雑・・・」
「だって分かんないんですも~ん!!」
長いこと悩んだからか、つくしも頭を抱えている。
つくしとのやり取りで、上の子も色々と考えて、考えた上で苦労しているのは分かった。
その上で俺が助言できることとなると・・・
「つくしが俺を呼んだ理由は、下の子の気持ちが分かると思ったからだよな?」
「はい」
「じゃあ、下の子はどうして、お揃いを求めると思う?」
「うーん。自分で言うのもアレですけど、上の子が好きだから、ですかね?」
「半分正解」
「じゃあ、もう半分は?」
「憧れだからだよ。姉という存在が」
「憧れ?」
「あぁ。自分よりも1歩先を歩く存在。そんな存在に少しでも近づきたい。近付きたいから、自分も同じように振舞いたい」
棚の商品を手に取り、想いを馳せながら続ける。
「お揃いを求める以外にも、自分の真似っことか、されたことないか?」
「そういえば、そんなこともあったような・・・」
「お揃いのものがあれば、離れていても姉の存在を感じられるし、一緒に居る時は、更に自分が姉と同じぐらいの存在であると思える」
「同じぐらいの存在・・・」
「極端な話。妹たちはお前になりたいんじゃないかな?いつも頑張ってる、カッコいいお姉ちゃんにさ」
つくしの妹には会ったことがないし、これが真実かは分からない。でも、姉の背中を見て育った人間の心理なら、理解はできる。
商品を弄るのをやめて、俺はつくしに向き直る。
「多分、大事なのは妹たちが気に入るかよりも、つくしの存在を感じられるかどうかだと思う」
「・・・」
「ていうのが俺が出来る、俺なりの助言だけど、参考にはなりそう?」
「私の存在・・・そうですね。多分、分かったかも」
「よかった」
俺の助言を聞き、つくしは迷いなく店の奥へと歩いていった。
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つくしの妹たちへのプレゼントは2個セットになっているアクセ付きヘアゴムになったらしい。聞くところによると、二葉家は3姉妹揃ってツインテールなんだとか。自分もよくやってる髪型だし、丁度いいだろうとのこと。
そして俺達は今、用事を済ませて暇になったのをいいことに、近くのベンチでたい焼きを食べているところだ。
それにしても3姉妹揃ってツインテール・・・想像しただけで可愛いな。
「すいません。わざわざ奢って頂いて」
「気にすんな。このぐらい年上の務めだよ。うげっ、カスタード熱っつ」
「あと、さっきは本当に助かりました。下の子の気持ち、私だけだったらあそこまで分からなかったです」
「でも、俺の話がどこまで当たってるかは分かんないぞ?お前の妹に直接聞いたわけでもないし、さっきも言ったけど今井家の場合、お揃いを求めてたのは姉さんの方だからな」
シャツの外に出たネックレスを手に持って眺めると、姉さんがこれを渡してくれた時のことが思い出せる。
「逆に、姉さんがお揃いを求めたのはなんでなんだろ?」
「レンさんからは、求めなかったんですか?憧れの人に・・・」
「憧れ・・・確かに、昔から器用で何でもできる人だったからな。でも、不器用な俺はあの人と同じ場所には立てないし、あの背中は追いかけても惨めなだけ。多分俺は、姉さんの存在を感じたくなかったんだよ。良い子に育ったつくしの妹とは違って・・・」
もし俺がつくしの妹みたいに、素直で可愛げのある人間性を持っていたなら、もっと違ったのかな?
「それなのにネックレスなんて押し付けてきやがってさ・・・」
そうだ。貰ったと言うよりも、これは押し付けられたものだ。「要らない」と言ったのに、それでも渡してきた。
俺が姉さんに抱いてる劣等感など、何も分かってなかったのだろう。本当に自分勝手な姉だ。
まぁ、俺も素直に自分の気持ちを明かしたりはしてなかったし、寧ろ俺の気持ちが分かっている方がおかしいが。
「お揃いの理由は、聞かなかったんですか?」
「うん。今思うと変な話だな。見知らぬ後輩の妹の気持ちは察することが出来るのに、身近な姉の心理は全く分からない。なんで俺にこれを・・・」
「そうですか?私、そっちの気持ちは何となく分かりますよ?」
「えっ、嘘!?」
「はい。レンさんが中学からリサ先輩と疎遠だったことは聞いてるので、そこを考えれば、なんとなく。もしも自分の妹がそうなったらって思うと・・・」
「いや、でも、俺がこれ貰ったの、中学入るより前だぞ?」
「多分ですけど、その溝って、中学でいきなり生まれたものじゃないですよね?」
「確かに。姉さんへのコンプレックスは小さい頃からずっとあったし、溝自体はその頃から段々広がっていって、中学で本格的になっただけだ」
「リサ先輩、多分レンさんの心が自分から離れつつあること、察してたんだと思いますよ?」
「そうなのか?その頃は普通に振る舞ってたつもりだけど」
「一緒に過ごしてたらそのぐらい気付きますよ」
なるほど。確かに相手が姉さんならそれもあり得る話だ。
「きっと、繋がりが欲しかったんですよ。同じものを共有することによって」
「・・・寂しかったのかな?」
「いや、それもあると思いますけど、それがメインって訳でもないと思いますよ」
「どういうことだ?」
「いいですか?お姉ちゃんという生き物は、常に下の子のことを想っちゃう生き物なんです。自分なんかのことより、ずっと」
「・・・?」
「レンさん、お店の中で「お揃いのものがあれば離れていても存在を感じられる」って言ってたじゃないですか。その感情をもらう側じゃなくて、与える側が考えてるとしたら?」
「・・・!じゃあ、姉さんがお揃いを求めた理由って・・・」
「多分、レンさんと同じものが欲しかったんじゃなくて、自分と同じものをレンさんに渡したかったんですよ」
俺はとんでもない勘違いをしていた。姉さんの自分勝手で押し付けられたと思っていたコレは、姉さんの優しさだったんだ。
「自分から離れつつある弟の心は、言葉でどうにかできないところまで来ている。このまま、弟を1人ぼっちにしてしまうかもしれない」
だから・・・。
「だから、言葉ではないもので伝えたかったんですよ。自分との繋がりを示すもので」
「『1人じゃないよ』って」
少し、泣きそうになった。
「たとえ心が更に離れても、大好きだよって証拠を、レンさんの手元に残したかったんですよ。きっと」
「バカだな。俺、何にも気付いてなかった」
「気付かないものですよ。こういうのは」
「俺が姉さんから逃げて、見向きもしてなかった時も、姉さんは俺のことを・・・」
「愛してたんだと思いますよ。片時も忘れずに」
まったく、バカな姉貴だ。
どうして、自分のことより、自分を大切にもしなかった弟のことを一番に心配するのだ。
どうして、自分の存在を突っぱねるような弟に寄り添ってしまうのだ。
どうして、こんなどうしようもない弟を愛してしまうのだ。
「いいお姉さんですね」
「俺にはもったいないよ」
目が潤んできたので、最後の抵抗で顔を上には向けたが、それも無駄に終わりそうだ。
「雨が降ってきたな」
「・・・?今日、晴れてますよ」
「いいや。雨だよ」
「・・・」
「・・・」
「もしかしたら小雨かもですね。傘は要らないと思いますけど」
・・・
「つくし、今からお前に、最低なことを言いたい」
「デキる男の基本はどうしたんですか?」
「俺は、デキる男なんかじゃないよ。自分の姉の気持ちも汲んでやれなかったダメ人間だ」
「ふぅん?じゃあ、そんなダメ人間なレンさんは、どんな最低なことを言うんですか?」
「・・・姉さんに会いたい」
「女の子とのデート中に言うセリフじゃないですね」
「そうだな・・・」
「でも、あの話を聞いて、ちゃんとそう言えるレンさん人間性は、結構好きですよ。私」
「そりゃどーも」
「じゃあ、目的は達成してますし、今日は解散しましょうか。私も、今日は早く妹に会いたいんです。プレゼントを渡して、喜ぶ顔を見なきゃいけませんから」
「そうだな」
「じゃあ、リサ先輩にはよろしくね。お兄ちゃん☆」
「なんだよいきなり・・・」
こうして俺達は用事を早めに切り上げて、別れを惜しむこともなく家路についた。
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家に帰ると、リビングの机に突っ伏した姉が寝ている。
部活も、バイトも、バンドも、毎日忙しなく取り組み、学業で出された課題を机に広げながら、姉が寝ている。
「風邪引いたらどうすんだよ。不用心なやつめ・・・」
起こしたり動かしたりするのも忍びないので、俺の上着をかけてやると、寝息が聞こえてくる。頭を撫でても起きやしない。
「いつもご苦労なことだな」
忙しいくせに、いつも可愛げもない俺なんかを気にかけて。
「姉さん、起きてる?起きてないよな?」
最後の確認をして、俺は姉さんの耳元に口を近づける。
悪いな。姉さん。俺は素直じゃないから、姉さんがくれる多くの優しさに、こんな形でしか応えてあげられないんだ。
「あの時のウサギのネックレス、ありがとな」
・・・
「愛してる」
それだけを言い残して、俺はリビングを出て、部屋へと退散した。
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「アタシもだよ。レン・・・☆」
どんなに高価なプレゼントより、たった一言の感謝の言葉の方が嬉しい時もありますよね。
『言葉は刃物』なんて言ったりしますが、『かけがえのない贈り物』にもなるもんです。
一度口から出せば元には戻らないけれど、戻らずに残り続けるからこそ価値があるんです。
まぁ、結局は使いようってことですわ。
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