まず、いきなり新しい章が始まって混乱してる方はこちら↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=276498&uid=303404
終章でも、他作品ネタでおふざけを入れたりはします。
気づいたらツッコんでください。
終章1.考察
バイト終わりの昼下がり、シフトは昼までしか入ってなかったが、まっすぐ帰る気にもなれず、なんとなくカフェテリアでコーヒーを飲みながら物思いに耽っていると、お昼時の込み具合で席に座れなかったチュチュと遭遇することになった。
「Hi レン。ここ、空いてるかしら?」
「空いてるけど・・・珍しいな。お前がここに来るなんて」
「たまには自主練の空気を変えようと思ったのだけど、今日になっていきなり思い立ったことだから予約とかしてなくて・・・マリナに「スタジオ空いてないからごめんなさいー」って追い出されたのよ」
「まぁ、休日は混むからなぁ。カフェテリアまでこんなんだし・・・えっ?じゃあお前、わざわざCiRCLEまで足運んだのに、飯食いに来ただけってこと?」
「逆に言うけど、わざわざCiRCLEまで歩いてきたにも関わらず、何もせずに帰ったらそれこそ無駄足じゃない。イヤになるわ・・・」
席に着いて早々、飛び出してきたのはため息交じりなチュチュの愚痴だった訳だが、チュチュは普段から頑張っているのだし、たまには自主練ぐらい休んだっていいだろう。
まぁ、俺との雑談タイムが休憩になればの話だが。
どうだろう。交流はあるが、チュチュにとって俺は3つ年上の異性だ。知らないところで気を遣ってしまっていたり―
「レン、退屈よ。何か面白い話でもしなさい」
「うっわ超クソガキ・・・」
ここまでの態度は、それはそれで腹立つ。
俺の妹はお水まで注いでくれるというのに・・・。
「てか「面白い話」て・・・それ振られた側がめちゃくちゃ困るやつだぞ?もしかしてほかの奴にもこんなことしてんじゃないだろうな?」
「あんた以外にこんなことする訳ないでしょ。迷惑になるじゃない」
「なるほど。だったら安心・・・いや安心じゃねえよ!俺には迷惑かけていいってのかよ!」
「えぇ。そうだけど、もしかして違うの?」
うっわ。凄いニヤニヤしてる。反論しても楽しませるだけだって嫌でも分かる。
多分、大人しく付き合った方が良さそうだ。腹立つけど。
「でも、面白い話って言われても出てこないんだよな。なんか、チュチュが聞きたいことがあったら答えるけど」
「聞きたいこと?」
「質問コーナー的な。面白いかはさておき、退屈しのぎにはなるだろ」
「ふぅん」
食いつきは強くないが、案には乗ってくれたようだ。
でも、そもそも今さら俺に聞きたいことなんて、果たしてチュチュにあるかどうか・・・。
「そう言えば、気になってたことが1つあったわね」
「何?友希那さんの知られざる弱点?」
「それはそれで凄く気になるけどそうじゃないわ。気になってるのはアナタのことよ」
「俺の?」
チュチュはコーヒーに手を付けながら、じっくりと俺を見据える。
「アナタ、音楽をやろうとは思わないの?」
「なんで?」
「取材でガールズバンドを追って、交友関係もバンド絡みが多い。その上バイト先はライブハウス・・・寧ろやらない理由の方が見当たらないけど」
「いやー、それはやらないっていうか・・・出来ないっていうか・・・」
「出来ない、ね・・・。まぁ、出来ないってことだけは何となく知ってるけど、何か事情でもあるの?」
「そうだなぁ。別に隠してる訳でもないけど、ちょっと長話になるんだよな」
「いいわ。どうせ退屈しのぎなんだし」
「まぁ、それもそうか」
青空の下でコーヒーを口にしながら、俺は幼少期の記憶をゆっくりと掘り起こした。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
俺は全て話した、病的に音楽適正が無いことから、それによって辿ってきた苦労など。
全て過ぎたことだし、今となっては気にもしてないことだが、チュチュは俺の過去を真剣に聞いてくれた。
「まぁ、俺の苦労話は余計だったかもだけど、そう言う訳だ。リズムは刻めない、音程は取れない、指導されても分からないの三拍子揃ったどん詰まり。音楽に関してはてんでダメダメ」
「・・・」
「誰も信じてくれなかったけど、真剣にやってたんだぜ?一生懸命やって、言われてること全部必死に聞いて、何言ってるか分からなくて、「真面目にやれ」って怒られて・・・」
「・・・」
「まぁ、上手くならなかったってことは、才能もやる気も無かったってことなんだろうけど」
「それは違うわ。多分、アナタのそれはやる気の問題じゃない。そして才能の問題でもね」
そう言ったチュチュは自身の顎に手を当てて、何かを考えているような素振りを見せた。
「・・・どういうことだ」
「リズムや音程の話もそうだけど、「指導されて改善できない」じゃなくて、指導された上で「何が間違ってるかも理解できない」というのが引っ掛かる」
「うーん。そんなに変か?」
「それだけなら重度の音痴ってことで片づけられるけど、音楽を楽しめず、楽しさが理解できなかったなんて、もう音痴の範疇を超えているわ」
「えっと、つまり何が言いたいんだ?」
「アナタ、「病的に音楽が出来ない」と、自分で言っていたわね。まさに言い得て妙ってやつよ」
そう言うとチュチュは静かに立ち上がり、俺の服の裾を掴んできた。
「来なさい」
「へ?」
俺はチュチュの勢いに対応できず、そのまま店の外まで引きずり出されていったのだった。
そして店を出てからもチュチュの勢いは止まらず、俺はそのままCiRCLEの中まで連行された。いきなりの入店でまりなさんも驚いている。
「あれ?チュチュちゃん。それにレン君まで、どうしたの?」
「マリナ。突然だけどスタジオ借りるわよ」
「へ?」
「だから、スタジオ借りるって言ってるの。空いてる場所ぐらいあるでしょ?」
「いや、その空いてる場所が予約でいっぱいって話を、さっきのチュチュちゃんにしたと思うんだけど・・・」
「・・・」
「おい、チュチュ。もしかして・・・」
「忘れてた」
----------------------------------------------------------------------------------------------------
突然の来訪ではあったが、まりなさんの厚意により、俺とチュチュはそのままカウンター越しにまりなさんにも話し合いに付き合ってもらうことになった。
「なるほど。レン君の過去の話かぁ」
「一応、まりなさんにも話したことはありましたよね?」
「うん。苦労してきたのは聞いてるけど、その流れでどうしてうちのスタジオを?」
「それが俺にも分からなくて・・・チュチュ、そろそろ説明してもらっていいか?」
「そうね。レン、ワタシがさっき言ったことは覚えてる?」
「あの、病的に音楽が出来ないのが言いえて妙・・・みたいなやつ?」
「えぇ。まずそれが、アナタの話を聞いた時にたどり着いた結論よ」
「だからさ。俺にも分かるように言ってくれよ。お前は何にたどり着いたんだ?」
「アナタの音楽適正の話よ」
一呼吸おいて、チュチュは続けた。
「順番が逆なのよ。アナタは病気と言ってもいいレベルで音楽が出来ないんじゃない。そもそも本当に「音楽が出来ない」という病気だったのかもしれないってことよ」
「・・・?」
言いたいことは分かるが、うまく納得は出来なかった。
いや、チュチュが言ってる以上はそういうこともあるのかもしれないとは思えてくるが・・・。
「いや、待ってくれ。そもそもそんな病気あるのか?言っとくけど、俺は読み書きも問題なく出来るし、記憶力もちゃんと人並みにはある。他にもその手の生まれつきの病気なんて無い。そういう大事な部分に何の問題も無くて、ただピンポイントで音楽「だけ」が出来ないなんて、そんな都合の良い病気あるか?」
「そうね。まぁ、病気としては聞かないけれど、事故みたいな強いショックによって音の高さやリズムを処理する脳内の機能のみに異常が発生した場合、その脳は聴覚で捉えた音楽をすべてノイズのように認識してしまう。ということもあるらしいわ。まぁ、症例もほとんど無い上に、その数少ない症例も症状がまちまちらしいから、詳しいことの解明はされてないらしいけど」
「後遺症ってこと?でも、レン君って事故に遭ったこと・・・」
「事故どころか、入院したこともないですよ」
「勘違いしないで。ワタシが言いたいのは、「体が音楽だけを受け付けない」という状態は、全くありえない訳でもないということだけよ。さっき言ったのだって、あくまで本当に極端な例。そもそも病気とは全く関係ないのかもしれないけど、ほかに例えようが無かったから「病気」って仮称しただだけ」
「確かに、「体質」っていうのもズレてる気がするもんね・・・」
「取り敢えず、『レンの音楽が出来ない体を、一旦「病気」って呼ぶことにした』ってことだけ覚えてくれればいいわ。本題はここからだから」
「本題だと?」
正直、さっき聞いたのだけでもお腹いっぱいなのだが。
「少し、気分転換をするわよ」
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「アナタ、ライブには結構参加してるわよね?」
「まぁ、誘われることも多いし、見る側での参加も最近は多いかな」
「じゃあ、コーレスの経験もあるわね?」
「まぁ、一応・・・」
「チュチュちゃん、何するつもりなの?」
「だから、ただの気分転換よ。ワタシが『EXPOSE‘Burn out!!!‘』のラップパートをやるから、アナタ達が乗ってくれればいい」
「「・・・?」」
「いいから早く。『Show time!』の部分からお願い」
「・・・?」
意図が掴めずにいると、チュチュが詰め寄ってくる。
「ただのファンサービスだと思ってくれていいわ。それとも、ワタシの生歌ラップパートは聴きたくないの?」
「あ、そう言われるとめちゃくちゃ聴きたい」
「OK.あなたの素直さは好きよ」
「よし。じゃあ、始めよっか」
チュチュが少し離れたのを確認し、俺はまりなさんと息を合わせる。
『仮面を取っ替え引っ替えやってる~』
「「Show time!」」
『Hi★ What happened?常に何かのシンドロームでドロッドロ 安心?』
「「NO!」」
『平常心?』
「「NO!」」
『いつまでやってんの? おヒマなんですの?』
チュチュの煽りの後に、本来のレイヤの歌は続かず、受け付けに静寂が訪れる。
俺の前には、人差し指を俺に突き出し、渾身のラップパートを決めたチュチュのドヤ顔。そして一言。
「どうよ?」
「スゲェェェ!!チュチュさんの生ラップパートだぁぁ!!」
「レン君。完全にお客さんモード・・・」
「いやぁ、マイク越しじゃなくても迫力出るもんですねぇ。ちょっと感動」
「それで、すごく満足だったのはいいけど、チュチュちゃん。これは本題と関係があるの?」
「えぇ。さっきのやり取りで、より確信を持って話せるようになったわ」
「楽しくコーレスしただけなのに」
「それが重要だったのよ」
空気も落ち着き、チュチュは俺に歩み寄る。
「アナタの『音楽が出来ない病気』について1つ言えることを言うわ」
チュチュは俺の目を見据え、ゆっくりと口を開いた。
「今井レン。アナタは既にその『病気』を治している」