ガールズバンドとシチュ別で関わっていく話   作:れのあ♪♪

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 余裕があったら続きを書いて欲しいって人、ちょくちょくいますね。
 こんなに作品が愛されてて、作者冥利に尽きます。


終章2.不可

 

「治してるだと?こんなリズムは刻めない、音程は取れない、指導されても分からないの三拍子揃った俺がか?そんな訳ないだろ」

「本当にそうかしら?その三拍子の1つ目は、アナタ自身がさっき否定したじゃない。そうよねぇ。マリナ?」

「確かに。言われてみれば、コーレスってリズム感、要るよね?」

「何を、言って・・・?」

「だから言ったでしょ?リズムは刻めるのよ。アナタ」

 

 なんだろう。サラッととんでもないことを言われてる気がするのだが。

 

「アナタ、ライブでコーレスが出来るようになったタイミングは覚えてる?それとも、最初からそれだけは出来たのかしら?」

「いや、最初は出来なかった筈だ。ノリにもついていけなかったし、何度やっても出来なかった。・・・そういえば、いつから出来るようになったんだろ」

「運営、観客の立場を含め、ライブへの参加が多かったからそれでいつの間にか・・・って感じかしら。なら猶更、その参加で変われるようになったトリガーが気になるわね。もしかして、やっぱり最初から出来ない訳でもなかったんじゃないの?」

「いや、それは違う。信じてくれ。最初は音楽を聴くだけでも苦手だったし、そもそもライブの楽しいと感じたこともなかった筈なんだ」

「苦手、それに楽しいと感じなかった・・・なるほど。じゃあ恐らくトリガーになったのは、アナタの精神的な変化なのかもしれないわね」

「どういうことだ?」

「だから、ライブを聞いて『楽しい』と感じられるようになってからが、アナタの転換期だったってことよ。ライブも楽しめない人間が、音楽を聴いて『楽しい』と思ってしまう。そんな矛盾を通すような体験が、過去にあったんじゃないかしら?」

「矛盾を通す体験?」

「例えば、音楽に対して何も感じられない筈のアナタが、他でもない『音楽によって』感動した・・・とか?」

「・・・!」

「ビンゴ」

 

 確かに、香澄たちの乱入ライブやAfterglowのライブ。確かに俺は『音楽によって』感動した。心を奪われて涙を流した。

 音楽に何も感じられない俺に、確かにそんな矛盾がまかり通ったのだ。

 

「い、いやぁ、でも、多分それだけだと思うぞ。ゲーセンに行っても音ゲーは出来ないし、カラオケもダメだし・・・」

「ねぇレン君。でもそれって、出来ないんじゃなくて、そもそも『やってない』よね?仮にやってたとして、それは何年前の話?」

「言われてみれば・・・」

 

 そうだ。確かに俺は物心つく前から音楽に関することを無意識に避けていた気がする。当然最近になってもその手のことは手をつけてない。

 ・・・ずっと、つけないようにしてきたから。

 

「いやいや、じゃ、じゃあ俺が言った三拍子の2つ目はどうなんだよ?音程が取れるかは分からないままだろ・・・」

「いや、でもさっきのコーレス、音程も完璧だったよね?」

「そうね。もし音程がズレてるなら、まりなと合わせた時点で、もっと不協和音になってないとおかしいもの。レンとまりなのコーレスは、ちゃんと『歌の一部』としての機能を果たしていた」

「おい何だよ。ちょっと待ってくれよ。なんで2人とも、そうやってサラッととんでもないこと言うんだよ。訳わかんねえよ・・・」

 

 10年近く、当然にまかり通っていた俺の常識を、2人が何でもない会話で粉砕していく。

 2人に悪気が無いのは分かる。でもなんだか無性に恐怖を感じ取っている自分がいる。

 なんだか、このままここに居たくないような・・・。

 

「レン君、もしよかったら、ギター触ってみない?」

「は?何言って―」

「へぇ、面白そうね。指導でもしてみようかしら?」

 

 ダメだ。多分この空間にこれ以上いるのはマズい。

 ・・・この流れだけは、本当にマズい。

 

「あれ?レン君、顔色悪くない?大丈―」

「すいません!ちょっと急用思い出したんで消えます!お元気で!」

「「えっ!?」」

 

 少し強引な気もするが仕方ない。

 どこに逃げる理由があるのかなんて、きっと普通に過ごしてきた人には分からないんだろう。

 でも俺だって、その理由に値するトラウマがあるのだ。

 

 

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 CiRCLE付近の河原の夕焼けは、いつも綺麗で助かる。

 憂鬱になった心も、少しはマシになる気がするから。

 

「『ギター触ってみない?』・・・ねぇ」

 

 外聞も気にせず、俺は地べたに寝そべって空を仰ぐ。

 

「最初に友希那さんのお父上にそれ言われて、ズタボロになったのが俺だからなぁ・・・。つーか最近会ってないけどあのイケおじ、最近どうしてるんだろ?元気でやってるといいけど・・・」

 

 思い出したくもないことを思い出して、ため息がこぼれる。

 そう。俺の世界を閉ざじた、様々な要因。

 

「そうやって期待させられて、後で見限られるのが一番傷つくんだよ。あのアホ共め」

「誰が「アホ共」ですって?」

「げっ!チュチュ・・・」

 

 上体を起こしたら、既にチュチュが俺の前に立ちはだかっていた。

 今度は逃がさないつもりらしい。

 

「まったく、やっぱり急用なんて無いんじゃない」

「うるせぇな。偶然ついさっき終わったんだよ」

「「期待させられて、後で見限られるのが傷つく」・・・この部分は聞こえた。言っておくけど、ワタシは気休めや誉め言葉のつもりであんなことを言ったんじゃない。ワタシは事実として―」

「やめろ」

「・・・」

 

 少し冷たかったかもしれないが、今の俺に、そんな気遣いが出来るほどの余裕は無かった。

 

「逃げたのは、悪かったよ。でも、あのままだと、お試しで俺に音楽の指導するみたいな流れになるような気がして・・・」

「それの何が不満なのよ」

「『ソレ』をやるとさ・・・友達だったやつが、いきなり友達じゃなくなったりするんだよ。優しかった大人も、いきなり怖くなるし」

「レン・・・」

「・・・今は人間関係も、私生活も上手くいってるからさ。だから、余計なことをしてこの平穏を壊したくないんだよ」

「余計なこと、ね・・・」

 

 ・・・

 

「そもそも、なんで追いかけてきたんだよ。俺が音楽をやらないのは、別にチュチュとは関係ないだろ」

「別に?理由も言わず逃げらたんだもの。だから走ったのよ」

「・・・じゃあ、わざわざ俺に「音楽が出来る」とか言ったのはなんで?」

「出来ると思ったからよ。自分の世界に閉じこもって、「出来ない」って決めつけてるのは違うって、何となくそう思っただけ」

「・・・」

「アナタの記事を読んでると、アナタが音楽を好きでいてくれてるのが分かる。文章が良いとかじゃなくて、聞くのも、手伝うのも、裏側の頑張りを知るのも好きっていうのが、読んでいて伝わってくるのよ」

「だから今度はやる側も、ってか?」

「書けることの幅も広くなると思ったのだけど」

「悪いな。それをやったら、また音楽が嫌いになる」

「レン・・・」

 

 チュチュのつぶやきも無視して、俺は立ち上がる。

 そしてそのまま逃げるように踵を返したが、それと同時にチュチュが俺を呼び留める。

 

「ねぇ、やっぱりもう一度、音楽をやってみない?」

「嫌だね。聞くのも見るのも好きだけど、やっぱり『やる側』の音楽は嫌いだ」

「ワタシやマリナが協力しても?」

「嫌だって言ってんだろうが。これ以上は無理だ」

「悔しくないの?出来ないことが、出来ないままで」

「出来ないからって死ぬわけじゃないんだ。その辺りの悩みは随分前に解決したし、今は何も感じてない」

「本気で言ってるの?家族も、幼馴染も、周りの友人も、全員が出来ているのに、アナタだけが出来ないままなのよ?」

「そもそも比較しようとするからダメなんだ。俺はあいつらじゃないし、姉さんや友希那さんとも違う。比べることさえ止めれば、劣等感はどうにかできる」

「どうにかできる?結局逃げただけじゃない。見たくないモノから目を逸らしてるだけ。アナタが見てる世界は、決定的に閉じている」

「よく分かったな。そうだよ。「逃げ」だよ。でも別にいいだろ。人生には妥協も要るんだ」

「「妥協」ってことは、割り切ってるけど納得はしてないのね?」

「うるっせぇなぁ・・・!」

 

 マズい。少しイラついてきた。流石に女の子相手に当たり散らす真似はしたくないのだが。

 

「「何も感じてない」なんて嘘よ。結局アナタは自分の心に嘘を吐いて、感情を誤魔化してるだけ」

「本当にうるせぇな。俺の中でこの話は終わってんだよ」

「終わってないわ。アナタにはまだ、やる側としての音楽の可能性が残ってる」

「残ってる訳ないだろ。そうやって都合の良いこと言って、俺の無能さを突き付けて、どうせ最後は見限るんだろ?そのパターンはもう飽きたんだよ」

「違う!ワタシは本気で―」

「いい加減にしろ!!俺を相手にこんなことして何が楽しい!?」

 

 これだから音楽家は困る。自分が出来るからって、それが相手も出来て当然だと平気で考える。

 どうせ知らないのだろう。出来ないやつの悩みも、傷も、痛みも。

 

「お前みたいに最初から何もかも持ってたやつに何がわかる!?才能に何の不自由もせずに、平気でバンドやってるようなお前なんかに!!」

「ワタシが、何もかも持ってたですって・・・!?」

 

 逆鱗にでも触れたか、チュチュが俺の胸ぐらを掴んで叫ぶ

 

「ふざっけんじゃないわよ!才能なんかワタシだって無かった!功績だって、貰ってきたのはmomの努力賞だけよ!」

「努力賞は貰ってたんじゃねえか!お前こそふざけんな!俺はその次元にすら立てなかったんだぞ!?何も知らないくせに知ったような口きいてんじゃねえ!この孤独がお前に分かるか!?その苦痛も知らずに「音楽をやってみないか」だと!?」

「えぇそうよ!それでも出来ると思ったから言ってんのよ!「才能が無い」なんて言い訳はさせない!才能なんて関係無い!!「才能が無いからやっちゃいけない」なんて言い分はワタシが許さない!」

「やめてくれよ!!今更そんなこと言われたって無理なんだよ!10年以上だぞ!?10年以上も「出来ない」って言われ続けてきたんだぞ!?それでもやっと無能な自分を受け入れて生きていけるようになったのに!今更、無責任に「出来る」とか言ってくるなよ!」

「だったら今まで言われてきた『出来ない』も、あんたが自分自身に言ってきた『出来ない』も、全部無責任じゃない!」

 

 あぁ、ダメだ。聞かない筈だったチュチュの言葉が、どんどん響き渡ってくる。

 

「あんたが無責任に「出来ない」って言うなら、何度だって言ってやるわよ!無責任に「アナタなら出来る」って!アナタは無能なんかじゃない!!」

 

 ・・・

 

「・・・さっきも言ったけど、アナタは自分の心に嘘を吐いてる。やらないならやらないで、それでいい。でも、本心を押し殺した答えじゃなくて、ちゃんと自分に向き合って、その上で出した結論が聞きたい」

 

 あぁ、ダメだ。ずっと気付かないフリをしていたのに・・・。

 なんなんだよ・・・。

 

「レンは音楽、やりたくないの?」

「やりたいよ・・・」

 

 そうだ。出来なくてもいいと割り切ったし、出来なくても楽しく過ごせてはいた。

 でも、やりたくない訳なかったんだ。

 

「当たり前だったんだ。取材して、ライブに行って、多くのバンドに触れて・・・憧れるに決まってるだろ。あんなに、カッコいい人達なんだからさ・・・」

「レン・・・」

「でも、触れてきたからこそ、俺には絶対にたどり着けない場所に居るのが分かって、だから、せめてそんなアイツらを応援したいって・・・」

 

 ・・・

 

「だから、怖いんだ。俺は、みんなの音楽を台無しにしてばっかりだったから。俺さえ居なければ、みんな幸せだから」

「・・・」

「だからチュチュ。「やりたい」という気持ち自体はあるけど、俺はやっぱり音楽はやれない。俺は、音楽をやっちゃいけないんだ」

「レン、アナタ、自分の本心に余計なものまで混ぜてない?」

「え?」

「「自分さえ居なければみんな幸せ」とか言ってたけど、アナタ自身の意思はちゃんと優先してるの?」

「どういうことだ?」

「またワタシの考察になるけど、多分アナタ、音楽をやること自体は嫌いじゃないのよ。ただ、アナタの言う『みんな』に見限られたり、嫌な顔をされたりするのが嫌なだけなんじゃないの?」

「そりゃあ・・・そうかもだけど・・・」

「はぁ・・・。やっぱりレンって本当に不自由な世界で生きてるのね。あのね、レン。これは他人の受け売りだけど、ギターは弾きたい人間が弾くの。それは他ならぬ己のためよ」

「己の、ため・・・?」

「必要なのは才能でも、他人からの支配でもない」

 

 チュチュはいつの間にか、胸ぐらから手を放し、俺の胸の中心へ、そっと拳を叩きつけた。

 

「必要なのはアナタの『意思』。それだけよ」

「・・・!」

「もう一度聞くわ。アナタに、その意思はある?」

 

 チュチュは、俺の目を真っ直ぐ見つめる。誰よりも真剣に。

 

「音楽って、自分のためにやるのか・・・?」

「そうよ。理由や経緯が違っても、そこだけは変わらない」

「才能が無くても、音楽はやっていいのか・・・?」

「『意思』があるなら挑戦は自由よ。アナタには、その資格がある」

「・・・!」

 

 俺の世界にあった常識をチュチュは次々と壊していく。

 俺にこんなことをいう人間など、誰一人としていなかった。俺自身ですら、俺を見限っていたというのに。

 

「なぁ、チュチュ。さっきからおかしいんだ。胸のあたりが、ザワザワして・・・なんで、こんなに苦しいような、訳わかんない気持ちになるんだ・・・?」

「アナタが何を思ってるかは知らないけど、疑問があるなら好きに言いなさい。ふざけた常識で閉ざされたあなたの世界は、ワタシが全てぶっ潰してあげる」

 

 俺の中にあった10年物の不安を、一抹たりともチュチュは見逃してくれなかった。

 

 「向いてない」と言われたことを覚えている。

 「才能が無い」とも言われた。

 「もう歌うな」と言われたことだってある。

 

 そうやって言われ続けたのが俺だ。俺という人間はその程度の存在だった筈だ。人々が当たり前にやっているそれが、俺にとって無謀な挑戦だった。

 俺という人間は、音楽をやっちゃいけない人間だった筈なのに・・・。

 

 

 

「俺は、音楽をやっていいのか・・・?」

「アナタは音楽をやるべきよ。他の誰でもない、アナタ自身のために」

 

 目の前のコイツは、当たり前のようにそう言うのだ。

 

 ・・・ずっと過去に生きてた。

 俺なりに前向きに生きているつもりだった。「音楽なんて出来なくていい。それ以外の生きがいなんて山ほどある」って。実際楽しく生きてたし、充実してたし、不満だって無かった。

 でも、俺の世界の時計は、ずっと止まったままだったんだ。

 

 それなのに、なぜ今になって、こんなにも胸が熱いのだろう。

 

「・・・ぐすっ」

 

 いつだったか、音楽が出来なくて落ち込む俺に、見かねた姉が優しく語りかけてくれた言葉を思い出した。

 

『別に音楽なんて出来なくても、レンには他に良いところがいっぱいあるんだから大丈夫だよ。お姉ちゃんが保証してあげる。出来なくていいんだよ。出来なくたってさ・・・』

 

 あぁ、姉さん。全ての人間が俺を責めていたあの時、あなたの優しさは凄く嬉しかった。救いでもあった。

 でも、違うんだ。

 俺が本当に言って欲しかったのは、言って欲しかった言葉は―

 

 

 

「アナタなら出来る。絶対に」

 

 風に吹かれ、夕日に照らされるチュチュの姿は、涙が邪魔でよく見えなかった。

 

「うぅっ・・・ぐすっ・・・うぅ・・・」

 

 でも、そんな俺の顔には目もくれず、チュチュは夕日をバックに、俺に手を差し伸べる。

 暗い世界から、俺を引っ張り出すかのように。

 

「change the world!!!!アナタのふざけた常識は今日限りよ!!」

 

 

 夕暮れに照らされる河原には、中2女子の前で年甲斐もなく泣き崩れる男子高校生の姿があった。

 





 次の更新は、明日。

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