ガールズバンドとシチュ別で関わっていく話   作:れのあ♪♪

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終章3.目標

 

 河原では無事にチュチュの前で醜態を晒すことになったが、もう後には引けない。夜も更け、俺たち2人は、その足でそのままCiRCLEの店内へ帰ってきたのだった。

 

「もう店じまいの時間なんだけど」

「すいません・・・」

「ま、別にいいよ。今日は君たちのためだけに開けてあげちゃう」

「いいんですか?」

「んー?本当はダメだけど、所詮CiRCLEもオーナーが居なければ私の天下だもん☆」

「悪い大人ね」

「君たちの為に使う悪さなら、私は喜んで使うよ。それで、わざわざ来たのは何の用?」

 

 用事は単純。俺は宣言をしに来たのだ。そして、さっき泣き崩れたせいで、結局この宣言はチュチュにもしてないのだが・・・。

 

「俺、新しく音楽を始めてみたいと思います」

「・・・本当にいいの?私としては、今日の無神経な発言についてお詫びしたかったぐらいなんだけど。ギター触ってみろだなんて言ったから・・・」

「それは要らないですよ。いい機会にもなりましたし」

「そっか。でも、どうしていきなり始めようと思ったの?」

「俺自身のためです。俺自身のためだけに、やりたいと思ったからです」

「・・・へぇ」

 

 そう。これは俺にとって必要なことだった。

 過去と向き合うために、俺自身の世界を、この手で変えるために。

 

「まりなさん。言った以上は責任を取ってもらいます」

 

 思えば、こんなことを自分から言うのは生まれて初めてだろう。

 そう。他でもない俺のために、俺自身の意思で。

 

「俺に、音楽を教えてくれませんか!?」

「いいよ~」

「え、軽っ」

「そうだねぇ。楽器は何がいい?ギターなら教えてあげられるけど、希望があれば―」

「待て待て待て待て・・・」

 

 おかしいな。この人、こんなに会話のテンポ早かったっけ?

 

「良かったじゃない。師匠ができて」

「いくらなんでも師弟契約があっさり過ぎる・・・」

 

 この夜、バイト先の上司が師匠になった。

 

 

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「まぁ、流石にこれ以上長居するのは良くないし、取り敢えずレン君が弟子入りしましたーってだけで解散にはなるんだけど、最後に一つだけ聞いていい?」

「はい・・・?」

「君は音楽をやって、成し遂げたい目標はある?」

「目標ですか。過去と向き合う・・・とかではなく?」

「うん。そうじゃなくて、もっと具体的にやってみたいこと。Roseliaなら頂点を目指す。ハロハピは世界を笑顔に・・・みたいな感じで」

「いや、そういうのは無いですよ。流石に限界とかあるし」

「目標で限界とか言ってんじゃないわよ。出来るか分からないから目標にするんでしょ?」

「チュチュ・・・」

 

 成し遂げたい、目標。

 音楽で、やってみたいこと・・・。

 

「一曲、何か弾きたい。出来れば、みんながバンドでやってるような、カッコいいやつ。それで・・・」

「「それで?」」

「ラ・・・ライブ、とか、してみたいな~、とか言ってみたり?」

「ふむ。ちょっと自信が無さげなのが気になりますが、いいでしょう。君にとって、それは本当に高い場所にあるものなんだもんね」

「学校行事の合唱祭ですら碌にこなせなかった俺ですし、無理なら無理で―」

「いいえ。いい目標だと思うわ。挑戦する価値はある」

「・・・いいのかな?」

「寧ろ、もっと欲張ってもいいぐらいよ」

「そうだね。他には無いの?」

「他かぁ・・・」

「流石に、いきなり決めるのは無理そう?」

「いや、凄く生意気なことを言っていいなら、もう一つあります。今、思いついたことですけど」

 

 2人の視線が、再び俺に集まる。ちょっと、恥ずかしいけど。

 

「友希那さんや姉さんを、あっと言わせたい」

「「・・・!」」

「隠れて練習とかしてさ。何も知らない2人に見せつけてやるんだよ。・・・サプライズ的な」

「「・・・」」

「音楽が出来ない俺しか知らない2人だから、きっと驚くと思うんだ。・・・もし、俺が一曲弾けるようになって、もしステージに立てた暁にはって、思ったんだけど」

「「・・・」」

「ダメかな?やっぱりこれは生意気すぎる?」

「ふふっ、ふふふふふふ・・・!」

 

 堪え切れない様子でチュチュが笑う。

 

「不思議なものねぇ。湊友希那の才能と音楽ぢからは、取材にもライブにも足を運んで、幼少期まで共に過ごしたアナタ自身が、一番分かってる筈でしょう?それをずぶの素人があっと言わせたいですって?」

「ははっ、そうだな。やっぱり生意気―」

「excellent!!いいじゃない。アナタ最高よ!本当は陰ながら軽く応援する程度のつもりだったけど、やっぱり全力でサポートすることにしたわ!アナタがこんなにも面白いことを言うだなんて思わなかった!」

「えっ、待って。そんなにか?」

「えぇそうよ。あの湊友希那の驚いた顔を拝めるならなんだってしてやるわ!何も出来なかった筈の幼馴染が、いつの間にか目の前のステージで一曲弾いてるなんて傑作もいいところよ!あのすまし顔も、開いた口が塞がらなくなるわ!」

「あの、チュチュさん?」

「そしてそのついでにワタシのプロデュースぢからを証明するのよ!「あなたが蹴ったプロデューサーは、ずぶの素人をここまでにするレベルなんだぞ」ってねぇ!」

「勧誘断られた件、まだ引きずってたのかよ。RASがあるんだからもういいだろうに」

「成長の過程なんか見せてあげない!幼馴染の特権すらも奪い取って、無能なイメージを持たせたまま、いきなり完璧になった姿だけを叩きつけてやるのよ!丁度いい嫌がらせになるわ。湊友希那の記憶には、その『結果』だけしか残らないのよ!」

「チュチュ、もう目的変わってないか?『キング・クリムゾン』みたいなこと言い始めてるぞ?」

「まぁ、嫌がらせ云々はともかく、チュチュちゃんが協力してくれるのは心強いね」

「そうですね。この目標まで達成するとなると、あの2人には秘密にしなきゃいけないですし」

「いいえ。あの2人だけじゃないわ。情報漏洩のリスクを考えるなら、これはワタシ達だけの秘密にして、他の人間にも黙っておくべきよ」

「そんなに?」

「それに、その方があの2人以外の人間までサプライズできて美味しいと思うのだけど」

「なるほど。それを言われちゃ乗らない手は無いか」

「確かに。ちょっと面白そうかもね」

 

 俺の生意気な目標を、2人は馬鹿にもせず、真剣に取り合ってくれた。

 そして、そんな達成できるかも分からない目標の話だけで、夜は更に更けていく。

 

「じゃあ、そろそろお開きにしよっか。これ以上残るのは本当に良くないし」

「確かに、結構時間経ってるわね・・・」

「ほんとすいません。いきなり押しかけた挙句・・・」

「いいよいいよ。楽しい時間だったし」

 

 すっかり暗くなったCiRCLEの店内で、俺とチュチュとまりなさんの話し声だけが響く。

 

「あ、レン君。明日の予定は空いてる?あと、可能ならチュチュちゃんにも付き合って欲しいんだけど」

「空いてますけど、買い出しですか?」

「それにワタシまで?」

「うん。入り口に置いてある雑誌も、そろそろ新しくしたいし。それと・・・」

「それと?」

 

 まりなさんが、もう一度こちらを見据える。

 

「早いこと決めないとでしょ?君の相棒」

 

 

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「という訳で、江戸川楽器店さんにやって参りましたー!」

「楽器コーナー・・・遠目でしか見たことなかったけど、こんな感じなのか」

「・・・ふぅん。結構いいものも置いてあるのね」

 

 雑誌の買い出しついでに、俺達3人は楽器店にまで足を運んだ訳だが、やっぱり壮観な眺めだ。これだけでも頭が痛くなってくる。

 1人じゃなくて良かった。

 

「ところでレン君、やってみたい楽器はあるの?」

「やっぱりギターですかね」

「一応聞くけど、理由は?」

「昔、友希那さんの親父さんに教えられて、早くも挫折したのがギターだからです。過去と向き合うなら、やっぱりこれかなって。ギターなら、まりなさんも教えられるって言ってたし・・・」

「へぇ。いいじゃない。もしDJがやりたいなら、ワタシが教えようと思ってたけど・・・」

「いや、DJはDJで楽しそうだとは思うけど。こればっかりは、俺自身のケジメの問題だからな・・・」

 

 そして、そうこう言ってる間に、ギターのコーナーにも着いてしまった。

 ・・・俺が、音楽を嫌いになった原因の1つでもある。6弦の楽器。見てるだけでも頭がクラクラしそうになる。

 

「あの、なんか、楽器を選ぶコツとかあります?初心者におすすめするもの的な・・・」

「うーん。その辺はあんまり気にしなくていいと思うよ。演奏は結局慣れだし・・・」

「そう言われても・・・」

「まぁ、余程の安物とかじゃない限りは音質も問題無いし、それに、高価であればそれでいいかって言われると、そうでもないからね。多分一番大切なのは、見た目で君がビビっと来るかどうかだよ。それの有無で練習のモチベーションは大きく違ってくるし」

「・・・そういうもんですか?」

「そうね。ギターなんてどれも同じ・・・とまでは言わないけど、1つ1つでそこまでの差は生まれない筈よ。初っ端からいきなり、弦の本数が7本や8本のギターなんかを選んだりしない限りは、初心者でも問題なく扱える筈よ」

「おいおい、面白い冗談だな。いくら俺が楽器に触れてこなかったからって馬鹿にし過ぎだぞチュチュ。ギターの弦が6本なのは俺だって理解してるよ。それとも何か?この世には弦の数が7本や8本のギターがるってのか?」

「えぇ。あるわよ。7弦ギターも8弦ギターも」

「そうなの!?」

「私も実物は見たことないけど、10弦ギターや12弦ギターもあるよね」

「そうなの!?」

「ちなみに探せば18弦も存在するわ」

「そうなの!?」

「ちなみにギターに限らず、本来4弦のベースでも、5弦や6弦のものがあるよね」

「そうなの!?」

「そしてウチのレイヤが使ってるベースは5弦よ」

「そうなの!?」

「そしてウチのレイヤ以外もそんな例外はいるわ。バイオリンも本来の弦の数は4本だけど」

「モニカの瑠唯ちゃんが使ってるのは5弦なんだよね」

「そうなの!?」

 

 なるほど、楽器にも色々な特性があるのか。今度バンドの取材する時は、楽器そのものにも目を向けることにしよう。

 というかなんでわざわざ弦の数増やしちゃうんだよ。さっき言ってた18弦ギターなんて、本当に弾いてるやついるのか?

 

「まぁ、その手の色モノを使うのは、通常形態の得物を極めて、音域の幅を広げたくなった歴戦の猛者か、もしくは余程の変態だけよ。だから今のあなたは気にしなくていい」

「取り敢えず、余程の安物ではなく、気に入った見た目で、弦が6本でさえあれば、なんでもいいんだな?」

「ま、そんな感じかな」

 

 でも、そうか。これはこれで難しい。ただでさえ数が多い中で、ビビっとくるものを見つけるともなると・・・。

 

「迷う?」

「まぁ・・・」

「うんうん。最初は特に悩むよねぇ。ま、これからしばらく連れ添うんだし、たくさん悩めばいいよ」

「とは言ってもなぁ・・・あっ」

「あれ、どうしたの?」

 

 いくつも置かれたギターの中で、俺が見つけたもの。

 濃い青のボディをした、スタンダードなギター。

 

「何よレン?好みの見た目だったりしたの?」

「いや、小っちゃい頃にギターを教えてもらってた時を思い出してな・・・。その時のギターに似てる。もしかしたら全く同じモデルなのかもしれない」

「ふぅん・・・」

「そしてついでに、見た目も凄く好みだ。カッコいいし」

 

 しかし、カッコいいだけではない。昔を思い出させるフォルムと色合い、そして、それが一番心にも残った。

 なるほど。ビビっとくるとは、このことだったのか。多分、どんなに高価なギターや、どんなに良い音が出るギターよりも、俺はこいつを選ぶのだろう。直感的に、そう思えてくる。

 

「レン君。もしかして、運命感じちゃった?」

「そうですね。偶然ここに来て、過去に向き合おうとしてる俺の目の前に、過去を思い出させる見た目をしたコイツがいたのは、確かに運命なのかもしれない」

「分かるな~。楽器との出会いって、なんか運命感じちゃうんだよね」

「そうですね。本当に、何の因果なのかは知りませんけど・・・」

 

 俺は、2人に見守られながら、ゆっくりとそのギターに手を伸ばした。

 一度手放し、嫌いになり、逃げて、目を背け続けてきたもの。

 

 俺はそれに、もう一度手を伸ばす。

 

「決めた。今日からお前が、俺の相棒だ・・・!」

 

 綺麗に磨かれた濃い青の冷たいボディには、覚悟を決めた少年の瞳が映っていた。

 

 

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【お会計】

 

「店員さん。これ、お願いします」

「はい。8万7230円です」

「分かりました。8万・・・えっ、8万!?」

「はい」

「詐欺やぼったくりの類・・・」

「違うよレン君。楽器ってそのぐらいするんだよ。エフェクターとか買い出したらもっと出費も増えるし」

「アナタが取材してきたバンドが使ってる楽器なんて、もっと高いのがうじゃうじゃしてるわよ。10万越えや20万越えも全然珍しくないわ。この店の中にも、100万円以上の楽器があったりするんじゃないかしら」

「・・・店員さん。そんなのあります?」

「・・・あります」

「・・・そうですか」

 

 財布には、当然そこまでの費用は無い。

 

「すいません。ダッシュで貯金崩してくるんで、ちょっとだけ待っといてもらっていいですか?」

「取り置き、しておきますね」

「ほんっとすいません。助かります。マジで舐めてました・・・」

 

 幸い、今までのバイト代は溜まり続けている一方なので、このぐらいならどうにでもなる。出費の激しい趣味が俺に無くて、本当に良かった。

 

 ていうか、今まで俺が取材してきた連中。これに加えて他の機材でも激しい出費があったんだよな?

 

「ははっ。知らなかったよ。あいつらって、化け物だったんだな・・・」

 





 次の更新は、明日。

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