「バンドだって!?」
「えぇ。あの湊友希那のド肝を抜いてやるには、このぐらいのことはしないとね」
「出来るのか?そんなこと・・・」
「出来る出来ないは、やってみてから判断すればいい」
チュチュは自信を崩さずに続ける。
「そもそも、これはアナタが始めた戦いだもの。この提案に乗るかどうかを決めるのはアナタ。アナタが乗らないならワタシは何も言わないけど?」
「いや、乗るよ。難しいのは分かってるけど、挑戦から逃げてあっと言わせられるほど、湊友希那は甘くない。・・・だろ?」
「good.それでこそよ。今井レン」
チュチュはニヤリと笑う。
どうしよう。まだ何も決まってもいないと言うのに、不可能など無いような気がしてくる。
だが、チュチュの提案が難しいことには変わりない。考えることも多くなる。
「とは言っても、まずはメンバーが要るよな」
「そうだね。ギターはレン君がやるからいいとして、他のパートのアテとなると、やっぱりレン君の知り合いから・・・」
「ダメよ。情報漏洩のリスクは避けたいし、外部の人間を呼ぶのは、ギリギリの最終手段だと思うわ」
「でも、もうその最終手段の段階まで来てないか?ベースもドラムも、出来る人間がいないんだし」
「いいえ。ベース担当なら、出来るかもしれないと睨んでいる人間がこの中にいるわ」
そう言って、チュチュは俺の隣のまりなさんに目を向ける。
「おいチュチュ、まりなさんの専門はギターだぞ?ベース担当なんてそんな無茶―」
「あぁ。出来るよ~」
「えぇっ!?マジ!?なんで!?」
「レン君。いいこと教えてあげる。これはバンドあるあるなんだけど、バンドってたまにノリでパートの交換とかしたりするんだけど、ベースってギターよりやりやすいから、ギタリストがそのままベースも出来るようになっちゃったりとかするんだよ」
「えっ、そんな・・・」
「まぁ当然、しっかりベースを極めてる人には劣るけどね。私自身もブランクあるし・・・。でも、レン君のギターの熟練度と私のベースの熟練度なら、私の方が上だと思うよ。これでもプロ目指してたし」
「・・・ってことは、ベース担当は決まり?」
「それは、アナタ次第よ。アナタのバンドなんだから、アナタが勧誘しなさい」
「なんだよ。さっきまで仕切ってたくせに・・・」
でも、確かにこれぐらいは俺がやるべきことだ。
そもそも、これは俺が始めたことなんだから。
「まりなさん」
「はい」
「俺と、バンドやりませんか?」
「いいよ~」
「だから肝心なところで軽いんだよあんたは・・・」
俺が差し出した手を、まりなさんは何でもないテンションで握り返す。
ベース、加入。
「でも、ギターとベースだけじゃ足りないよな」
「そうだね。最低でも、あとドラムは必要になってくるけど」
「その点だけど、その分はワタシのDJで補おうと思ってるわ」
「出来るのか?そんなこと。てか、いいのか・・・?」
「どうでしょうね。まぁ、働けるだけ働いてみせるわ」
「ってことは・・・」
「さぁレン、どうする?目の前のDJはドラムの分まで働くつもりらしいわよ?ここで受け入れるなら、少なくとも情報漏洩は皆無で済むけど」
なるほど。乗らない手は無いか。
そう考えながら、俺はチュチュに手を差し出す。
「よろしく頼みたい。俺とバンドを組もう」
パンッ!
という小気味いい音と共に、ギラギラした笑みを浮かべたチュチュの手が握り返してきた。
「いいわ!湊友希那をぶっ転がすわよ!!」
「お前のモチベ、結局そこなのね・・・」
DJ、加入
バンドメンバー問題は、早々に解決した。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
しかし、話はまだまだ終わらない。
取り敢えず立ちっぱなしも疲れてきたので、3人で床に座り、円を描くように並んで会議は進む。
「でもいいのか?「あくまで協力者にすぎない」ってスタンスを取ってたのに、場所貸し以外にも、バンドを立ち上げるって提案に加えて、そのバンドの加入なんて。ここまで協力してくれるなんて・・・」
「別に?アナタの挑戦が想像以上に面白そうになってきたから、もう少し噛ませてもらってもいいかなって思っただけよ」
「チュチュ・・・」
「それに、もし湊友希那がアナタのファーストライブを見て、アナタの隣に立ってるのがワタシだったら・・・何も感じない訳がない」
「もう1回言うけど、お前のモチベ、結局そこなのな・・・」
「当たり前でしょ!ワタシは少しでも湊友希那が悔しがる選択を取るまでよ!」
「悪い顔だなぁ・・・」
「でも、ワタシの提案に乗ったのはアナタでしょ?」
「ははっ、違いねぇ」
自分の師匠と、頼りになり過ぎるDJがバンドメンバーに加わった。
「じゃあ、メンバーの問題は、チュチュとまりなさんで解決したってことになるけど、次に決めることってある?」
「そうだねぇ。練習場所の確保はできてるし、後は来たるべきライブに向けて何の曲を練習するか、じゃない?」
「確かに。なるべくギターが難しくない曲だといいですけど・・・」
「その点についても、1つ提案があるわ」
チュチュのやつ、さっきから活躍し過ぎじゃないだろうか?
「提案って?」
「確かに、ワタシもバンドを組んだらいいと最初に考えついた時は、既存の曲をコピーすればいいと考えていたわ」
「既存のコピーじゃダメなの?」
「悪い訳じゃないけど、オリジナルの方がサプライズの効果も大きい筈よ」
「チュチュちゃん、それってつまり・・・」
「・・・作曲するってことか?」
「おっと。説明が足りなかったわね。作曲なら『もう終わった』わ」
「「はぁっ!?」」
俺たちが驚く様子を笑いながら、チュチュは隠していた譜面を取り出す。
「まだタイトルも歌詞も無いけれど、ギターの負担がかからないように、他の音でフォローするような形の曲に仕上げたわ。ギターのフレーズも、なるべく簡単なもので構成してある。まぁ、当然初心者からすれば超絶高難易度もいいところでしょうけど」
「いつの間にこんな・・・」
「というか、RASを優先するんじゃなかったのかよ。俺たちにこんなものまで渡して・・・」
「別に、無理して作ったって訳でも無いわ。言ったでしょう?『この作曲は趣味の範囲』だって」
「あの時の作曲の話・・・これのことだったのか」
「そもそもこれは、必死に足掻いてるアナタにインスピレーションを感じて書いた曲だもの。この曲の完成の決め手も、オール明けで憔悴したアナタの姿だったことを考えると、これはアナタのために使うべきだと思ったのよ。良くも悪くも、これは『RASの曲』じゃない。最初はRASの新曲にでもしようと思ってたけどね」
「チュチュ・・・」
「レン君。この譜面、ちゃんとギターの負担が少なめになってる。その分、他のパートが大変ではあるけど、ここまで調整されてるなんて」
「当然でしょ。ワタシを誰だと思ってるの?」
「あの、まりなさん。俺的には全然難しく見えるんですけど。しかもこの部分、鬼門のFコードが多いような・・・」
「そりゃあ、アナタにとってはそうでしょう。これでも簡単にした方よ。それに、こうしてワタシが譜面を渡しているのは、アナタなら出来ると信じているからなのよ?」
「・・・死ぬ気でやれってか?」
「得意でしょ?」
あぁ、そうだよな。姉さんや友希那さんを、あっと言わせるんだもんな。
「やってやるよ・・・!」
「いいねレン君。そうこなくっちゃ」
「そうね。ただでさえレンがバンドのリーダーなんだから、威勢の良さぐらいは見せて貰わないと」
「そうだな。なんたって俺がリーダーなんだか・・・えっ、なんて?」
「威勢の良さぐらいは―」
「そうじゃねぇだろ」
「レンがバンドのリーダーなんだから」
「へっ・・・?」
「「えっ?」」
待て。いつ決まったんだ?
「年長者のまりなさんじゃないの?」
「私、レン君にギター教えてるだけだよ?それ以外の仕事をしてる訳じゃないし」
「チュチュでもないの?」
「当たり前でしょ。仕切るのはRASで手一杯よ」
「こんなに1から10までガッツリお膳立てした挙句、あんなにしっかり仕切ってたくせに?」
「RASでリーダーやってるからでしょうね。癖になってるのよ。バンドメンバー仕切るの」
「意味わかんねぇよ。なんでこの中で1番何も出来ない俺に・・・」
「そりゃあ、これはレン君のために集められた集団だし・・・」
「え?」
「何度も言うけど、これはアナタが始めた戦いでしょ?始めた要因には、ワタシやマリナも絡んでるかもしれないけど・・・」
・・・確かにそうか。始めると決めたのは俺だ。
そして形で言うなら、この2人は俺に着いてきてくれたことになるのか。
「そう。私たちはただ、レン君のためだけにここに居る。私がギターを教えるのもレン君のためだし・・・」
「ワタシがここまでの援助を惜しみなくやるのも、全てレンのため。変な話よね。大した報酬も無ければ、ただ時間を取られるだけなのに」
「バンドだって、レン君のためだけに組まれたものだし、レン君がリーダーになるのは当然だと思うけど?」
「寧ろ、この状態でアナタ以外のリーダーが就く方がおかしいでしょ」
今思うと、本当に尽くされてばかりだ。こんな俺だけのために・・・。
「2人は、どうしてそこまで・・・?」
「別に?ワタシは面白そうだから乗っただけよ。湊友希那への嫌がらせの目的もあったけど。でも、アナタを見てるうちに、アナタがどこまでやれるかを見たくなった。才能を持たざるアナタが、どこまで足掻くのかをね・・・」
「チュチュ・・・」
「私も、最初に乗った理由は大したことじゃないんだけどね。1人のバイトの少年が音楽に興味を持ったらしいから、せっかくだしギターでも教えるかって、ただそれだけだったんだよ」
「まりなさん・・・」
「ただでさえ、一度は音楽から離れた身だからさ。少し前の私なら、多分バンドに加わったりしなかったと思う。大の大人が深入りするのも違うかなって思ってたし」
「・・・」
「でも、頑張ってるレン君を見てるとさ・・・やっぱり応援したくなっちゃうんだよ。だから私も、一度離れた楽器演奏に、もう一度手を出してもいいかなって思えたの」
まりなさんは優しく微笑んで続ける。
「達成できるかも分からない目標に必死に食らいつく君を見て、私にも火が付いたんだろうね。君が本気で挑む姿には、それだけの値打ちがあった」
「分かんないですよ。俺は、ただ自分のためだけに、やれることをやっただけだ」
「でも、それだけで充分だった。過去と向き合うという目的以外に、君はライブをすること加え、リサちゃんや友希那ちゃんをあっと言わせたいという目標まで掲げて見せた」
「練習して音楽に触れてからは、更に生意気言ったなって思いますけどね。達成できるかなんて、分かったもんじゃない。出来ない可能性の方が高い勝負だ」
「そう言う割に、あそこまで真剣だったのはさ・・・」
「そうですね。それでも俺はやっぱり、その生意気な目標を、何が何でも達成したいんです」
「うん。やっぱり君は良い目をするようになった」
まりなさんは、俺の目を見据える。
そんなまりなさんも、かなり良い表情をしているが。
「いいことを教えてあげる。君は自分の目標を達成できるか分からないと言った。そしてその上で、何が何でも達成したいと言った」
「・・・」
「君が持つソレには、もっと良い表現がある」
まりなさんの手が、俺の肩に乗せられる。
「人はソレを『夢』と言うんだよ。レン君」
「『夢』・・・?」
「うん。君は今、夢に向かって頑張ってる途中なんだよ。ふわっとした言い方だけど、『目標』って言うよりしっくりくるでしょ?」
「夢・・・俺、初めて持ったかもしれません。こんな感じなんですね。夢を持つって」
夢なんて、見ても悲しくなるだけだった。どうせ不可能なことばかりだったから、なのに、今の俺は、こんなにも昂っている。
「そういうもんだよ。夢を持つと、時々すっごい切なくなるけど、時々すっごい熱くなる。私は叶えたい夢も無いけど、夢を撃ち抜くお手伝いぐらいなら出来る。そう思うから、私は君についていくんだよ」
「なるほど。そこまで言われちゃ、俺も腹を括るしかないのかな」
経験も浅い人間が、この2人を差し置いてリーダーなんて、おかしな話だが。
「さぁレン。自分の立場に、ちゃんと納得はできたかしら?」
「あぁ。さっきは突然だったけど、もう大丈夫だ」
バンドメンバーの2人が、リーダーとしての俺を見つめる。
「2人とも。俺には夢がある。叶えるためには、まだまだ2人の力が必要だ」
「「・・・」」
「多くは言わない。あともう少しだけ、俺を手伝ってくれ」
誠意を持って頭を下げる。
そうだ。2人があまりにも当然のように手伝ってくれるから、こうして頼み込んだりはしていなかったな・・・。
「OK.アナタの『覚悟』は確かに受け取った」
「うん。君の黄金のような『夢』に賭けるよ。レン君」
俺たちはこうして、新たにバンドとしてのスタートを切ったのだった。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
「あっ、そう言えば、まだ重要なパートを決めてないぞ!」
「「パート?」」
「ボーカル。結局誰が歌うんだよ?」
「レン君でしょ?」
「アナタ以外いないでしょ」
「・・・本気?」
「「本気」」
「正気?」
「「正気?」って何よ・・・」
「俺に・・・そんなレベルの高いことを要求するのか・・・?」
「ギターよりはハードル低いと思うけど」
「ギターボーカルはハードル高いですって・・・」
「まぁ、ボーカルのことは暫く考えなくてもいいわ。まだ歌詞も出来てないし、まずはギターの方を完璧にしてもらう必要があるわけだから」
「でも、リーダーの重圧もあるし・・・」
「リーダーだからって右も左も分からない人間に全部押し付けたりしないわよ」
「そうだよ。ちゃんと私たちでフォローするから」
「いや、でも、ボーカルは本当に―」
「レン!」
「・・・!」
「覚悟、決めたんでしょ?」
「そう、だけど・・・」
「さっきも言ったけど、歌に関しては暫く考えなくていい。ギターを完璧にして、歌詞が出来上がった時に、また話し合いましょう」
「・・・そうだな」
・・・バンド活動は結成して早々、気が重くなりそうだった。