【幕間】仕事終わりのレンとまりな
「レン君、そう言えばライブ終わりに、お客さんからレン君宛に花束を渡されたよ」
「えっ、お客さんからですか?でも、俺が出ることはお客さんにも告知してなかったですよね?」
「そうなんだけど、どうしても君に渡して欲しいって」
「お客さん、どんな人でしたか?」
「知り合いではないと思うよ。確かメガネをかけた、大学生ぐらいの人だったと思う」
「そうですか。・・・まぁ、有難く貰っときますね」
花束に差し込まれたカードには、
『君の道行きが、真夏の太陽のように明るいことを祈る。
お疲れ。よくやった。そして、本当にありがとう。』
「・・・何に対しての感謝かは知らないけど、どういたしまして」
3人で話し合った後、俺を待っていたのはライブの打ち上げだった。
このライブの出演者でファミレスに集まろうというものだったらしく、俺とまりなさんは香澄から招待された。
「だって、今日はレン君もまりなさんも出演者でしょ?だったら一緒にやろうよ!」
と言われ、仕事が残ってることを理由に断ろうとした頃には、気を遣ってか既に他のスタッフが俺とまりなさんの仕事を強奪していた。
だから結果として今、35人+2人がファミレスに集結し、俺たちは香澄の音頭を聞いている。
「みんな!本当にお疲れさまでした!かんぱーい!!」
店内の35人が騒がしくコップをぶつけ合う音を聞きながら、俺は向かいの席に座るまりなさんと静かにコップを合わせた。
「このテーブルはやけに静かな気がするね」
「仕方ないですよ。1バンドに1テーブルでやってる以上、飛び入り参戦の俺たち2人だけのテーブルなんて・・・」
「そうだねぇ。この打ち上げ自体は一応、出演者として参加してる訳だけど・・・」
「『The CiRCLE』のメンバーは2人だけって感じになりそうですね。チュチュもつくしも、今は自分のバンドの席で―」
メロンソーダの炭酸を物憂げに眺めながらぼやいた瞬間だった。
「勝手なこと言わないでくれる?」
「あれ、チュチュちゃん?」
「私もいますよ」
「つくしまで、自分のバンドはどうしたんだよ?お前ら2人ともリーダーだろ」
そう聞くと、まりなさんの隣に座りながらチュチュが答えた。
「別に。『自分達に黙って1人だけ面白そうなことやってた裏切者をRASの席に座らせる訳にはいかない』って追い出されただけよ」
「私も、『自分達に隠れて1人だけCiRCLEに尻尾振ってた浮気者をモニカの席には置かせない』って」
しれっと俺の隣に座るつくしもそう言って続ける。
「それで、『だからさっさと向こうのバンドのテーブル』に行けって」
「なるほどな。つまり・・・」
「あの子たちなりに、気遣ってくれたってことかな」
「別に問題無いでしょ。ワタシたちは1つのバンドなんだから。1バンド1テーブルで座るルールには反してない」
「俺的には、ライブ終わりにメンバー同士で拳を合わせた時点で『The CiRCLE』は解散したつもりだったんだけど」
「まぁ、いいじゃないですか。あの時はバタバタして大した挨拶も出来なかったですし・・・」
挨拶、か・・・。
「じゃあ俺、リーダーとして何か話しといた方が良いかな?最後ぐらい、ちゃんと」
「レン君が話したいなら、ご自由に」
メンバーの視線が俺に集まる。
まぁ、今から話すのは別にリーダーとしての威厳ある話とかじゃない。
今井レンという1人の人間による、ただの個人的な感謝だ。
「まずは、チュチュ」
「・・・」
「俺を音楽に誘ってくれて、本当にありがとう。他にもお世話になって感謝しなきゃいけないことはいっぱいあるけど、やっぱりこれに尽きる。お前が誘ってくれたことが全ての始まりだった」
「大したことじゃなわ。ワタシはただ、アナタが出来ると思ったから興味本位で誘ってみただけよ」
「でも俺は、お前が『出来る』って言ってくれたことが、本当に嬉しかった。あの時は、お前だけがそう言ってくれたから」
「レン・・・」
「お前がいたから、閉じきっていた俺の世界が変わったんだ。だから、感謝する」
チュチュは返事をしなかった。
少し顔を赤くして顔を逸らしたのが、多分チュチュなりの返事なのだろう。
同じバンドとして過ごしてきて、少しはチュチュのことも分かってきたつもりだから。
「次に、つくし」
「はい」
「お前が居たから、俺は最後まで頑張ることが出来た」
「そんなことないですよ。頑張ったのはレンさんじゃないですか。そりゃあ、演奏の相性とかは、良かったりしたかもですけど」
「それだけじゃない。俺が歌えなくなって逃げだした時、お前が発破をかけてくれなかったら、俺は絶対に途中で諦めてた」
「それは・・・」
「あの時、お前が見せてくれた朝焼けを、俺は忘れない」
「もう、そんなこと言われたら何も言えないじゃん・・・」
つくしにも目を逸らされた。
でも、チュチュとつくしの次にも、話さなければいけない人はいる。
「最後に、まりなさん」
「何?」
「・・・」
「レン君?」
「すいません。ちょっと泣きそう・・・」
目頭を押さえて、溢れ出すものを抑えて、まりなさんと目を合わせる。
「まりなさん。俺にギターを教えてくれて、ありがとうございます」
「うん。私も君に教えられて良かったと思うよ」
「まりなさんが教えてくれて、俺は初めて音楽が『楽しい』って思えたんです。苦痛だった筈のものが、大事なモノに変わって、練習の時間は、いつも待ちきれなかった」
「レン君・・・」
こんな俺にも熱心にギターを教えてくれたまりなさんには、本当に感謝しかない。
「まりなさんは、俺が掲げたどうしようもない目標を『夢』って言ってくれましたよね」
「そうだね。君の経緯を考えると、本当に途方もない夢だった」
「はい。初めて俺の中で生まれた『夢』・・・。時々俺を辛くして、それでも俺を熱く滾らせたもの・・・」
その初めての『夢』に、俺は挑戦した。
そして、その挑戦のためだけに、3人もの協力者が集まってくれた。
「まりなさん・・・俺、一曲弾けましたよね?とびっきりカッコいいやつを」
「うん。君の努力の成果だよ」
「ライブ、出来ましたよね・・・?」
「大成功だったよね。お客さんが1つになって、他の出演者にも火がついて」
「友希那さんや姉さんを・・・あっと言わせてやりましたよね・・・?」
「あの2人どころか、控え室の子たち全員が驚いてたの、君も見たでしょ?あの光景は忘れられそうにないね」
音楽を教えてもらうにあたって、俺が掲げた『成し遂げたい目標』は全て達成した。
つまり・・・
「まりなさん・・・いや、みんな」
涙を抑えるのも忘れて、俺はメンバー全員に向き直る。
「本当にありがとう。『夢』、叶ったよ」
抑えようとしていたものが、どんどん溢れ出してくる。
『音楽を楽しめる人間じゃない』と言われ続けた。
『もうやめよう』と心配された。
『音楽をやっちゃいけない』と自分でも考えていた。
そうやって生きてきたのが俺だ。
でも、今なら胸を張って言える。
「音楽って、バンドって・・・本当に楽しい!!」
このことに気付けたのは、やっぱりここに居るメンバーのお陰だ。
「レンざぁぁぁぁん!!!」
「ちょっ、つくし!いきなり抱きつくなよ。なんでお前が泣いてんだよ!」
「だっでぇ・・・!レンさんの今までの気持ちとか考えたら、もうっ・・・!」
「やめろよ・・・。俺だって限界なのに・・・!」
力いっぱいにつくしを抱き留めながら、俺は向かいの席に助けを求めようとしたが・・・。
「ちょっとマリナ。アナタまで泣いてどうするのよ。いい年した大人が」
「年取ると涙腺緩むんだよぉ・・・。レン君が、こんなにも、成長してっ・・・」
「あぁもう。ほら、涙拭きなさいよ」
向こうは向こうでダメっぽいが、チュチュは気にせず話しかけてくる。
「レン」
「何だよ?」
「今更言えることなんて大して無いけれど、アナタをステージの上に誘った人間として、1つだけ」
「・・・?」
俺の目を見ながら、チュチュは俺の傍に置かれたコップに、軽く自分のコップを当てて言った。
「congratulation.そしてようこそ。音楽の世界へ」
「チュチュ・・・」
「レン君、ぐすっ・・・私がらもっ、おめでどぉ・・・!」
「レンざんっ、おべでどうっ、ございますぅっ・・・!!」
「いや、2人は無理しなくていいって。ったく、最後なのに締まらねぇな・・・」
「レンにはこのぐらいがお似合いよ」
「締まらないのに?」
「いいじゃない。メンバー泣かせるぐらいのものを見せた証拠よ?」
「・・・まぁ、それもそうだな」
『The CiRCLE』の最後の挨拶は、泣き声と笑い声の交じり合う、大変賑やかなものとなった。
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この打ち上げには席替えタイムがあったらしく、俺は移動をしなかったが、俺のテーブルには様々な客人が訪れた。
まずは、クラスメイトの3人がこのテーブルに座った。
「レン君、まずは初ライブお疲れ様。いい歌だったよ」
「まさか、私たちの前座がレンのバンドだとは思わなかったよな」
「どうだ。流石にビックリしたろ?まさかこの俺がマイクスタンドの前でギター引っさげてるなんてさ」
「いや、あたしはそうでもなかったかな」
自慢げに振舞う俺の横で、美咲が静かにアイスティーを飲んで呟いた。
「なんたって親友ですから。あたしは信じてたとも」
「美咲・・・」
「あんたはやる男だと思ってたよ」
「美咲・・・!!」
「いや、とか言いつつ奥沢さん、控え室のモニターの前で呆然としてたよな?」
「えっ、そうなのか?」
「うん。美咲ちゃん、自分がミッシェルの中に入ってるのも忘れて、『うっわ。マジか・・・』って」
「がっつり地声だったよな」
「ちょっと美咲さぁん?」
「・・・ごめん。めちゃくちゃビックリしてた。何ならレンと仲が良い人ほどアレはビックリしてたと思う」
「さっきの言葉なんだったんだよ~~~!!」
「ごめんごめん。ちょっとぐらい気の利いたこと言っといた方がいいかと思ってさ。まぁ、でも・・・」
笑いながらも、美咲は俺を見据えて。
「ライブ、カッコよかったよ。これは親友としての、あたしの本心だから」
「美咲・・・」
「レンのお陰で初めから盛り上がってたからね。やっぱ凄いやつだよ。あんたは」
「何だよ。ちゃんと気の利いたこと言いやがって」
「・・・乾杯、しとく?」
「・・・しとく」
「あっ、じゃあ私たちも参加しよ!」
「だな。なんたって、あのレンの初ライブ成功記念なんだから」
「よし、じゃあ3人とも、コップは持った?それじゃあレン君の初ライブ成功を祝して!」
「「「「乾杯!!」」」」
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次にやってきたのはましろだった。
「あれ、1人?」
「はい。仲良い人、みんな別の所に行っちゃってて」
「まぁ、座れよ」
俺の向かいにちょこんと座るましろに目線を送ると、早速ライブの感想を言ってきた。
「カッコよかったです。歌にも気持ちが乗ってて」
「現役ボーカルに歌を褒められるとは光栄だな。お前だって歌声はカッコいい系だろうに」
「でも、本当に感動しました。檻から解き放たれて、荒野の疾走に心を燃やす、一匹の狼のようなレンさん。尊敬します」
「随分、中高生男子に刺さる褒め方するな・・・」
「あと、つくしちゃんがお世話になったって聞いたので、それのお礼も」
「いやいや、世話になったのは俺だよ。あいつには何度も助けられた」
「そうですね。さっきも『仕方ないお兄ちゃんなの』って、幸せそうに話してました」
「・・・そっか」
「それで、つくしちゃんとは仲良くなれたんですか?」
「・・・?まぁ、絆は深まったと思うよ。性格とか演奏とか、つくしとは何だかんだ相性が良いことも分かったからな。あいつと一緒だと居心地もいいし・・・でも、なんで今になってそれを聞くんだ?」
「いや、メンバーとして気になったので聞いただけですよ。リーダーをからかえそうな答えが聞けて何よりです」
「・・・おう。そうか」
「じゃあ、もう行きますね。そろそろ別の人が来ると思うので」
「もう行くのか。じゃあ、また」
「はい。つくしちゃんのこと、よろしくお願いしますね♪」
「えっ?それ、どういう—」
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最後に俺のテーブルにやってきたのは、紗夜さんと彩さんだった。
「レン君、お疲れ~。空いてる?」
「彩さん!それに紗夜さんまで」
「はい。お疲れ様です」
まさか、ここに来てこの2人の反応まで見られるとは。
「それにしても、レン君って変わったよね」
「そうですか?」
「はい。今のレンさんは、昔よりも良い目をするようになったと思います」
「えっと、そんなにですか?」
「はい。昔のあなたは、もっと卑屈でしたよ。目つきも顔つきも悪かったですし」
「いつの話ですか・・・」
「だから、昔の話ですよ。劣等感に苦しんで、自分を卑下して、『心配も同情も要らない』『どうせ誰も自分のことなんて信じてない』と、独りで無理をし続けて、どんどん自滅的になっていた、あの時のレンさんですよ」
「そんな正確に言わなくても・・・」
そう言えば紗夜さんも、俺を信じてくれた1人だったっけ?
テスト勉強に身が入らない俺に、思い詰めていた俺に『信じている』と、あの時の頑張りを認めてくれて、そして・・・。
「そう言えばあの時の紗夜さん、俺にハグしてくれたんですよね」
「えっ!?そうなの!?紗夜ちゃんったら大胆!」
「ちょっ、今それを言う必要なかったでしょう!?いつの話ですか!?」
「昔の話じゃないですか。無理を重ねて張り詰めていた俺を優しく包んでくれた、あの時の紗夜さんですよ」
「紗夜ちゃ~ん・・・」
「くっ・・・!殺してください!」
「「そんなに!?」」
昔話も束の間、改めて紗夜さんは俺に向き直った。
「レンさん、ライブ後にお姉さんとは話しましたか?」
「はい。たっぷり、時間いっぱいまで」
「そうですか。やっぱりあなたはいい表情をするようになりましたね。今井さんを見た瞬間、真っ先に逃げようとしたあなたが・・・」
「負い目は無くなったし、自分の生き様にも自信が持てるようになりましたからね。今なら本当に、ちゃんと心から姉さんと話せますよ」
「レンさん・・・」
「へへっ」
「そうですね。良ければ、頭をこちらに寄せて貰っていいでしょうか?」
少し身を乗り出すと、向かいの紗夜さんが俺の頭を撫でた。
「成長しましたね。本当に」
「紗夜さんにそう言われるのは、嬉しいな・・・」
紗夜さんの手は、いつも温かくて優しい。
あの時、ファストフード店への道中で、姉さんから逃げようとした俺を引き留めたのも、思い返せばこの手だった。
「紗夜ちゃんってやっぱり優しいよね。それにちょっと大胆。風紀委員なのに」
「べっ、別にいいでしょう。このぐらい!丸山さんだって、言いたいこととか無いんですか!?」
「いや、私はもう多くは語らないよ」
コップを机に置いて、今度は彩さんが俺に向き直る。
「レン君。ライブ終わってから、友希那ちゃんとは話した?」
「はい。いっぱい褒めてもらいました」
「そっか」
それだけを聞いて彩さんは嬉しそうに微笑む。
そうだ。友希那さんとの関係で悩んでた時、俺に発破をかけてくれたのがこの人だった。
なんならこの人の言葉には、それ以外の面でもたくさん支えになってもらった。
「君は友希那ちゃんと、心から話せるようになったんだね」
「はい」
「うん。いいね。・・・今の君は、凄く良い」
彼女は本当に、多くは語らなかった。
そして俺の表情を確認してから、そのまま俺の胸に拳を当てた。
「カッコいいじゃん」
「彩さん・・・」
「スッキリした顔しちゃって。その顔は嫌いじゃないけどさ」
そして彩さんは、紗夜さんと背もたれでくつろぐ。
「いやー、レン君の成長がこの目で見れて、嬉しい限りだよ。ライブも凄く良かったし」
「そうですね。本当に、よく頑張りましたね。レンさん」
「はい。ありがとうございます」
「うん!これでレン君の心のわだかまりも・・・」
そう、これでようやく・・・
「万事解けちゅ」
「「・・・!!」」
・・・
「すぅーっ・・・」
「「・・・」」
・・・・・・
「あの、もう1テイクお願いしても・・・」
「締まらんなぁ・・・」
「丸山さん・・・」
「うぅっ、ごめんなさーーーい!!」
2人の恩人からの祝福は、ある意味心に深く残るものとなった。
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【ドリンクバー前】
「あれ、リサ先輩?」
「お、つくしじゃん。そっちも、みんなのドリンク入れに来たって感じ?」
「はい。リサ先輩もですか?」
「ま、そんなとこ」
・・・
「今日、ありがとね。あんなに楽しそうなレン、初めて見たかもしれない」
「そうですか?そんなこと―」
「いや、割とマジだよ。レンからあのバンドの一連の話は全部聞いた。本当に・・・ありがとう」
「それは・・・どうも」
―
「ねぇ、つくし。ちょっとアタシの独り言、聞いてくれない?」
「・・・はい」
「音楽をやるレンはね、いつも辛そうだったんだ。音楽をやるレンには『出来なくちゃいけない』っていう呪縛が、ずっと付きまとってた。だから、自分が出来ないと自覚する度に、レンはずっと自分を責め続けた。アタシや他の人に、何度も何度も謝ってた」
「・・・」
「アタシはね、その呪いを解いてあげたかったんだ。だから『出来なくてもいいんだよ』って、そのままのレンを受け入れることにした。そうでもしなきゃ、あの子が壊れちゃう気がして」
・・・
「でも、最近になって思い始めたんだ。『出来なくてもいい』なんて、裏を返せば『出来るかもしれない』の放棄だなって。『出来ない』ことを前提にした考えで、レンの中にあった『出来ない』を明確にしちゃった。もしかしたら、アタシは心のどこかでレンのこと信じてなかったのかもって、思ったりもしてさ」
「リサ先輩・・・」
「多分、アタシはレンの呪いを解いたんじゃなくて、別の呪いをレンにかけたんだよ」
「・・・そこまでマイナスに考えることはないと思います。レンさんを傷つけないために言った言葉だったら、それは不信じゃなくて愛情です。寧ろ、リサ先輩の愛があったから、レンさんは壊れずに済んで、今になってバンドを組めるほどの成長が出来たとも、私は思います」
「でもね、つくし。これは自論だけどさ」
・・・
「『愛』ほど歪んだ呪いは無いよ」
「・・・そうですね。確かにそうかもしれません。・・・それでも、レンさんは悪いものもひっくるめて『全部必要だった』って言い切ったんですよね?過去も、恐怖も、呪縛も力に変えられたなら、やっぱりリサ先輩は誇りこそすれ、気に病むことはないと思います」
「・・・アタシは、許されていいと思う?」
「仮に許されなかったとして、その罪悪感で誰が得をするんですか?それとも、罪滅ぼしでレンさんとの関わりでも絶つんですか?」
「いーや、それは絶対に無いよ。たとえ嫌われたとしても、アタシはもうレンを独りにしないって決めてんだ。・・・あぁ、うん。そうだね。そうだった。よく考えたら、アタシが変に気にする必要なんて、別になかったんだ」
「なら良かったです。絶縁なんてしたらレンさんが悲しみますからね。あぁ見えてレンさん、お姉さんのこと大好きですし」
「・・・ほんと、仕方ない弟だ」
「そうですね。仕方ないおに―・・・仕方ないレンさんです」
・・・
「ねぇ、つくし」
「何ですか?」
「ステージに立つレンが見れて嬉しかった。アタシの弟を信じてくれて、レンをあの場所まで導いてくれて、レンの呪いを解いてくれて、本当にありがとう」
「何を勘違いしてるのか知りませんけど、1つだけ誤解を解いておきますね」
「・・・誤解?」
「私たちは手伝っただけです。手取り足取り導いたわけじゃない。レンさんは自分の足でステージに上がったんです。自分で決めて、自分で挑んで、自分で戦ったんです。・・・リサ先輩が言ってる御大層な『呪い』も、レンさんは自力で打ち破ったんです」
「つくし・・・」
「レンさんは強い人ですよ」
「そっか。やっぱり嬉しいな。自分の弟に、ここまで言ってくれる仲間ができたってのはさ。あーーー良かった!なんか憑き物が落ちたよ。つくしに話してよかった。後でチュチュとまりなさんにもお礼言わないと」
「なんだかんだずっと気にしてたんですね。多分、本当に呪縛されてたのは、リサ先輩だったんですよ」
「かもね。じゃあ、アタシにかかった呪いを解いてくれたことも、別途でお礼言わなきゃね」
「お礼の品はクッキーでいいですよ。レンさんが世界一美味しいって言ってましたから」
「ははっ、バーカ☆」
・・・
「じゃあ私、そろそろ行きます。レンさんがオレンジジュースを待ってるので」
「そっか・・・あっ、じゃあ最後に。一つ気になってたんだけどさ」
「はい?」
・・・
「つくしは、レンのことが大好きなんだね☆」
「いやっ、なんでそうなるんですか!?明らかに今はそんな流れじゃ・・・ちょっと!どうして私を撫で撫でするんですか!?」
「ほんと。つくしってば可愛いんだから」
「もうだから撫でないでくださいって—」
「レンのこと、よろしく☆」
「待っ・・・どういう意味ですか!?ちょっと!撫で撫ではやめて下さーい!!」
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否定され続けてきた少年の音楽は、ここに称賛された。
あるいは先輩から
あるいは後輩から
あるいは同期から
恩人や、尊敬する人からも・・・。
その残響は少年の成長の証であると同時に、少年が独りじゃないことの証明となった。
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席替えでは、他にも色んな連中が話しかけてきた。
そうやって質問や祝福の声に対応しているうちに、打ち上げはそのまま終わった。
打ち上げの後はそのまま真っ直ぐ帰ろうかと思っていたのだが。
「30人近くの気遣いを受けて、見事にこのメンバーで帰ることになったな」
「私、ましろちゃんから「行っておいで」って、凄い意味深な微笑みで送り出されましたよ。まぁ、今日中ぐらいはいいかなって思いますけど」
「そうだね。ライブは終わっちゃったし、レン君の夢も叶った。『The CiRCLE』として私たちが集まることは、もう無いんだから」
「「・・・」」
そう。俺の夢を叶えるためだけに、『The CiRCLE』は結成され、俺の為だけにこのメンバーが集まった。
俺が過去を乗り越え、全ての負い目を振り払い、夢を叶えた時点で、このバンドはもう役目を終えたのだ。
ライブは終わった。だから、このバンドも終わりだ。
理解していた事実だが、いざそれを目の当たりにすると、少し寂しい。
「別にそこまで落ち込むことでもないでしょ?今生の別れって訳でもないんだし。ただワタシたちの生活が元に戻るだけ」
「確かにな。少しばかり色々と変わるだけだ。変わることは終わることじゃない。寧ろ、変わり続けることで始まっていくんだもんな。何事も」
「で、それよりも、アナタはこれからどうするの?」
「・・・?どうするって?」
「バンド活動よ。ワタシたちは解散するけど、続けるの?」
それも、考えてなかった訳じゃない。答えは決まっていた。
「バンド活動は・・・続けないかな」
「理由は?」
「バンドは凄く楽しかった。多分、人生で一番情熱を捧げたと思う。でも、やっぱり俺は、ステージに立つよりも、ステージに立つみんなを全力で応援する方が性に合ってんだよ。新聞部の活動は、それほどの生き甲斐なんだ。俺はステージの上に立つ楽しさを理解した上で、それでも応援を生き甲斐にしたいんだよ」
「・・・そう」
「他にも理由を挙げるなら、今よりも最高なメンバーを揃えられることは、多分ないと思うから、かな」
「まぁ、アナタの世界は変えられたし、これからの選択は好きにすればいいわ」
「いや、でも、音楽は続けるぞ。ギターは楽しいからこれからも趣味の範囲で弾き続けようと思うし、ギターを弾いてるからこそ書ける記事もあると思うし、あと、趣味を聞かれた時に「ギター弾いてます」って言えたらカッコいいし☆」
「レン君がギター続けてくれるのは、嬉しいな。分からないことがあったら、また教えてあげるね」
「はい。その時は、また教えてください!」
こうしてまりなさんとの約束を結んだ時点で、とうとう分かれ道が見えてきた。
「さて、そろそろだな」
「そうだね。私はチュチュちゃんを送るから、レン君はつくしちゃんお願いね」
「ちょっと。子ども扱いしないでよ」
「そうですよ!」
「子ども扱いとかじゃなくて、単純に夜道に女の子1人だけはダメでしょ・・・」
分かれ道に差し掛かって、4人が止まる。
「みんな。最後に円陣しないか?」
「円陣ですか?」
「私は別にいいけど」
「でもレン。あれの掛け声、「We are 『The CiRCLE』.」って思いっきり言ってるけどいいの?ワタシたち、もう解散してるのよ?再結成の予定がある訳でも無いのに」
「それでいいんだよ。チュチュ」
「・・・?」
だって
「バンドが解散しても、俺たちが過ごしてきた日々が無かったことになる訳でもないし、CiRCLEでライブしたことや、円形に並んで作戦会議した日々が消える訳でもない。俺たちが『The CiRCLE』であった事実は、ちゃんとあるんだ」
「レン・・・」
「そしてそれを抜きにしても、「We are the circle」ってのは間違いじゃない。同じ場所に集まってなくても、俺たちは1つの『輪』で繋がってるだろ?色んなやつを巻き込みながらさ」
「お、レン君。珍しく良いこと言うね」
「今のレンさん、ちょっとカッコいいです」
「へへーん。リーダーっぽいだろ☆」
だから、リーダーっぽいうちに、リーダーらしくこのバンドを終わらせよう。
「よし。じゃあ、やろうぜ」
俺が拳を構えると、メンバーも拳を構える。
誰も、円陣への反対は無いようだ。
「俺たちは明日から、バンドメンバーでも何でもない。所属も、年齢も、てんでバラバラだ」
「「「・・・」」」
「でも、それでも、やっぱり俺たちは1つだ。この繋がりは何があっても切れやしない」
「「「・・・!」」」
言えることは全て言った。
後はリーダーとして、最後の責務を果たそう。
「We are『The CiRCLE』. Ready?」
「「「「GO!!」」」」
4人で拳を打ち付け、俺たちはそのまま2手に分かれた。
俺たちはこれから、繋がっていながらも、別々の道を行く。
正真正銘。今度こそ、『The CiRCLE』は解散した。
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「あの、レンさ―」
「んー?」
「・・・お兄ちゃん」
「どうした?」
「今日、楽しかったね」
「そうだな」
・・・
「つくし」
「何?」
「手、繋ごっか」
「どうしたの?いきなり」
「夜道ではぐれたら大変だしな。それに、最近はバンド関係でバチバチに練習ばっかりだったし、練習中は集中し過ぎて気にもしてなかったけど、今になって、あんまりイチャイチャしてなかったなと思って」
「・・・イチャイチャ、したいの?」
「つくしは、したくない?」
「・・・したい」
有無を言わさず、俺はつくしの手を取った。
細くて、小さくて、冷たくて、それでいて硬く、逞しい手触りを包み込む。
「あっ・・・」
「隙あり」
「もう。年頃の男女が夜道でこんな・・・」
「いいだろ?兄妹なんだから」
「お兄ちゃん、何か厚かましいというか、わがままになってない?」
「よく気付いたな。本来の俺は弟属性だから、本当は生意気だし、わがままだし、甘えん坊だし、イタズラ好きなんだよ」
「だからって、いつもの優しくて頼りになるお兄ちゃんが嘘って訳でもないのはわかるよ。・・・なんだろ。意地張らなくなったとか、そういうこと?」
「そうだな。元々お前には、結構素の自分を出していた方なんだけど、やっぱり兄とか年上としての体裁は守ろうとしてたんだよ」
「じゃあ、なんで守ろうとしなくなったの?」
「だって、つくしには、河原で落ち込んでる姿も、泣き腫らした姿も、情けない部分も全部見せちゃったからな。だから、もういいかなって」
「情けないって・・・」
「妹相手に取り繕っても仕方ないだろ?」
「ほんと。仕方ないお兄ちゃんなんだから・・・」
そう言いつつも、つくしは俺を受け止めてくれている。
「こうして手を繋いでると昔を思い出すよ。その時は姉さんが繋いでくれてさ」
「私の手、リサ先輩のより小さいよ?」
「小さいけど、でも凄く安心する。俺はこの手に、何度も支えられた。この腕で刻まれるリズムに、何度も」
「そう」
「だから、ありがと。俺を信じてくれて」
・・・
「つくし、俺はお前に出会えて、本当に幸せだよ」
「もう・・・」
その後も、ちょっと姉っぽくなった妹と、俺は手を繋ぎながら帰った。
「お兄ちゃん」
「何?」
「こ・・・恋人つなぎ、しよ?」
「甘えんぼさんめ。お前はやっぱり妹だな」
別れ際、繋いだ手を離すのに時間がかかったのは、きっと指を絡めたせいだ。
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【後日談】
ライブから数日、俺は部屋に籠って趣味に時間を割いていた。
記事の作成以外の、もう1つの趣味。
~~~♪
「やっぱり『ZERO OVER』以外の曲は難しいな。やっぱ練習の雰囲気の問題なのかな?まりなさんの指導も無いし、チュチュの「NO!」も無いし、つくしのドラムも無いし、そもそもスタジオじゃないし、時間の余裕はあるのに環境がなぁ」
~♪
「てか俺も俺だよ。あの時の化け物みたいな集中力はどうしたんだ。短期間であれだけどうにかしてきたのに、やっぱ追い詰められないと出ないのかな?」
ギターのチューニングをしながら、悩んでいると、客人が入ってきた。
「レン~。今って大丈夫?」
「大丈夫だけど。あっ、もしかしてうるさかったか?悪いな。家で練習とかしてこなかったから加減とか分からなくて・・・」
「いや、そういうんじゃないよ。久しぶりに友希那とアタシとレンの3人で遊んだりしたいなって」
「あれ?友希那さんも来てるのか?」
「うん。あ、来た来た」
「おはよう。・・・本当に、ギターを弾くようになったのね。レンがギターを持っている光景なんて、もう見られないと思ってたから、今でも信じられないわ」
「確かに。姉さんたちには10年近く見せてない光景だからな」
「そもそも、3人揃って遊ぶのも久しぶりよね」
「あっ、じゃあセッションとかしない!?せっかくレンがギター出来るようになったんだし、小っちゃい頃の悲願、ここで果たそうよ!」
「いや、まだセッションなんて出来るレベルじゃないぞ!?弾ける曲、ライブでやったあの曲だけだし・・・」
「じゃあ、それでもいいわ。歌詞も曲調も頭に入ってるし。リサは?」
「そうだね~。曲調ならアタシも頭に入ってるし、後はノリとアドリブでどうにかなると思うよ☆」
「化け物どもが・・・」
「あ、でも、3人で合わせちゃったら流石にうるさいよね。」
「そうね。じゃあ今からCiRCLEでスタジオを―」
「いや、こんな休日に当日予約は無理だろ。多分どこも埋まってると思うぞ」
「それじゃあ、もうカラオケボックスにでも籠るしか無いわね」
「ちょっとダメだよ友希那。レンにカラオケと音ゲーの誘いはNG・・・いや、ちょっと待って?」
なるほど。そんなに定着してたのか。
そりゃあそうだよな。その誘いは10年以上も拒絶し続けたんだから。
「レンって、もう歌えるんだよね?」
「喉の使い方はまりなさんにしっかり叩き込まれたからな。結構上手くなってるぜ?」
「じゃあ、カラオケの誘いって・・・」
「楽しみ方、ちゃんと教えてくれよ?俺、初見みたいなもんなんだし」
「レン・・・ねぇ、友希那!」
姉さん、そんなに感激しなくても。
話を振られた友希那さんも困って―
「リサ。カラオケ行ったらオールするわよ!」
「うん!!」
「いや、「うん!!」じゃねぇよ。未成年だぞ俺たち!」
「男のくせに細かいこと言うなよ~☆」
「そうよ。あなたとデュエットで歌いたい曲、いっぱいあるんだから」
「おい。俺が参加可能になったからって俺にばっか歌わせるのとか勘弁だからな!?」
「大丈夫だって。アタシらもちゃんと歌うし、レンはカラオケ避けてきたから知らないかもだけど、友希那のカラオケって凄いんだよ?友希那が歌う『ムーンライト伝説』とか、めちゃくちゃカッコいいんだからね?」
「えっ、何それ!?めちゃくちゃ聞きたい!!」
「そう言うぐらいなら早く行くわよ」
「おう。俄然楽しみになってきたぜ・・・!」
「レンとカラオケだぁ~☆」
この後めちゃくちゃ歌いまくった。
身内と一緒にカラオケを楽しむ。誰もがやってる普通のことに、俺はようやく仲間入りを果たした。
その普通は、どこまでも当たり前な日常。その日常を俺はやっと勝ち取ったのだ。
他の何でもない音楽によって生まれた強い繋がりがそこにある。
小さい頃からずっと叶えられなかった、音楽による2人との繋がり。
俺は確かにこの手で、その夢を撃ち抜いたのだった。
最後なだけあって、今回は1万3000字超え。
バンドリの二次創作でここまで王道の成長物語を書いてるの、結構珍しいかもしれませんね。この手の主人公って、大抵は成長の余地が無いぐらいに強くてカッコよくて頭も良くて女の子にも好かれるキャラばっかりですからね。
多分、不器用で出来ないことが多いレン君が主人公だったから、私はこの終章を書けたのかな。
日常系の話が、いつの間にかここまで大きくなるとは、私も想像してませんでしたがね。
では、以上が終章。過去と呪いと、夢と成長の物語でした。
あと、『終章完結』というサブタイトルですが、あともう1話だけ、おまけを投稿します。
次の更新は、明日。これがラスト。
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皆さん的に終章の中で一番カッコよかったのは?
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1.レン君
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2.チュチュちゃん
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3.まりなさん
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4.つくしちゃん