『思考中毒』
私は考えることを止められない。
やるべきことがある時に、私の頭は必ず何か別のことを考えている。
やるべきことが無い時も、私の頭は休まずに別のことを考えている。
思考は止まらず、頭だけがどこまでも休まらない。
何かに役立ったりする訳でもないことを、ただ永遠に考え続ける。
私にとって執筆とは、睡眠と気絶の次に来る救いであり、開放だ。
物語を書いている時だけは、私は物語のことだけを考えていられる。目の前でやっていることと、自分の考えていることの合致。
思考の海に沈みながらも、思考の海に溺れることはなく、ただ没頭する。
救いの神は電子の海で、そんな私を嗤うのだ。
CiRCLEの受付をやっていると、色んな美少女と接客が出来る。
元気な美少女やクールな美少女。そして─
「すいません」
「お、つくし。自主練お疲れ様」
「いえいえ、レンさんもバイトお疲れ様です」
小柄で頑張り屋でモニカのリーダーで羽沢珈琲店でバイトしてる時のエプロン姿が超絶可愛くてツインテールがめちゃくちゃ似合う美少女の接客まで出来る。
ホント可愛いなこいつ。今すぐ抱きしめたい。
何が『バイトお疲れ様です』だ。お前の方が頑張ってるだろ。ここが職場じゃなかったら今すぐに頭を撫でてお前を労ってるぞ。
あー、もう無理。ジュース奢ってあげたい。
「……あの、レンさん」
「どうした?」
つくしは既に支払いも次の予約も済ませている。もう用事は無い筈だが。
そう思っていると、キョロキョロと周囲を見回し、近くに誰もいないことを確認してから、小声で囁かれた。
「この後、時間あるなら、カフェテリアでお茶したいんだけど」
「……バイトはもうすぐで上がり。待てるか?」
つくしは静かに頷く。
別にこの程度の約束なら、わざわざ周囲を警戒しなくてもいいのだが、最近はそうもいかない。
なぜなら……
「あ、でもただ外で待ってるだけだと、怪しまれたりしないかな?」
「そこまでしなくても大丈夫だと思うけど……」
「でも、念には念をって言うじゃん」
俺たちは付き合っている。そして、付き合ってることを周囲には黙っている。
理由としては、恋愛禁止のルールが無いとは言え、モニカ所属のつくしに万が一の余計なトラブルが無いように保険として黙っているのが一つ、単純に公表するタイミングがよく分かんないのが一つ、公表するのが恥ずかしいのが一つ、『レンさんと付き合ってるなんてことがバレたら、絶対にイジられるよ!主に透子ちゃんから!』が一つ、『つくしと付き合ってるなんてことがバレたら、絶対にイジられるだろ!主に姉さんから!』が一つ、他にもあるが列挙すればキリが無い。
取り敢えず関係の公表はしないし、恋人の有無を聞かれても恋人はいない体で誤魔化すことに決めた。
「とにかく、バイト終わったら連絡するから」
「うん。待ってるね」
小声タイム終了。
「じゃあレンさん、今日はありがとうございました!」
「おう、また使ってくれよ」
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俺たちは付き合っているが、付き合ってからイチャつく頻度が増えたかと言われると、そうでもない。
結局お互いに忙しいことも重なり、告白して以降は、こうして帰るタイミングが重なるぐらいでしか会う機会も無く、休日をまるまる使ったデートも出来てないし、ハグやキスもしてない。手を繋いだのも、人目につかない場所で何回かやった程度だ。
付き合って間もないし、恋人としての接し方もよく分からないので、その辺りの距離感はまだお互いに探り合っているのだ。
周囲に黙ってることもあるし、お互いに恋愛経験が無いので、少なくとも外に居る間は無理に恋人モードでくっついたりはしない。
今カフェテリアで話し合ってる内容も、特別恋人っぽい訳じゃない。
「最近、るいさんの隣を歩くのに抵抗出てきたんだよね……」
「随分穏やかじゃない話だな。喧嘩でもしたのか?」
「いや、そういうのじゃないよ。ほら、るいさんってスタイルいいでしょ?」
「そうだな」
「大人っぽいでしょ?」
「そうだな」
「歩いてるだけでもクールな雰囲気でしょ?」
「確かに」
「そして何より、背が高い」
「なるほど。つまり」
「うん。身長差が目立つっていうか、相対的に私が小っちゃく見えちゃうんだよね」
「そういや、前に親子と間違えられたことあるって言ってたっけ」
「そうなんだよ!私たちに向かって『可愛い娘さんですね~』って!」
つくしはハムスターみたいに手前で腕をブンブン振って怒りを見せる。
どうやらこの手の間違いは一度や二度ではなかったらしい。
「別にるいさんが悪いって訳じゃないし、るいさん自身のことは好きだし尊敬してる。でも、大人っぽく見えないのは傷つくっていうか……隣を歩くのは……」
「……」
「ねぇレンさん、このどうしようもない気持ち、分かってくれる?」
思ってたより悩んでいたらしい。
誰にも相談できなかったのか、相談しても理解を示してもらえなかったのか。
「ふぅ……」
コーヒーを飲み、店の外を眺めながら、ため息交じりに呟く。
「分っかるわぁ……」
「そうだよね。大人っぽくて頼りになるレンさんにこの気持ちは……えっ?分かってくれるの」
「うん。めっちゃ分かる。俺もあいつの隣イヤだもん」
「どうして?」
「そうだなぁ。あんまり言いたくないけど」
・・・
「俺もあいつより身長低いんだよ」
「えっ、そうだったの?」
「だって瑠唯の身長、薫先輩と並ぶぐらいだし、多分170㎝あるかないか、ぐらいだろ?」
「レンさんは?」
「前に計った時は165㎝とかだった」
「本当にるいさんの方が高い……。全然気づかなかった。どっちも私にとっては大きいし」
「しかもこの年齢の男子の平均って170とからしいし、そもそも男子の中じゃ小柄なんだよなぁ。俺」
「その男子の平均身長にレンさんよりも近いるいさんって……」
まぁ、身長に関しては仕方ない部分もある。
一番の成長期である中学~高1の前半は生活リズムも荒れまくっていた。特に高1の頃は睡眠不足を拗らせまくっていたし、食べ物も碌に喉を通らないことだってザラにあった。
数多くの恩人たちによって生活リズムは大いに改善されたが、記事の締め切りが追い付かずに眠れないことは今もよくある。これでは伸びる背も伸びない。
と言っても、周りの女子たちよりは高い方だし、つくしほど気にしてはいないが、モヤっとする瞬間ぐらいはある。
「だから、まぁ、瑠唯の隣で歩きたくない気持ちは分かるよ」
「いや、でもレンさんとるいさんの身長差なんて誤差の範囲じゃん。私なんて10㎝以上離されてるんだよ?」
「バカ言っちゃいけねぇよつくし。年下の女子に身長で負かされた男子の自尊心がどれだけ悲惨なことになるか分かるか?」
「あぁ、それは辛い」
「一緒に出かけた先で親子に間違えられるのも、大概ではあるけどな」
「うーん。今度、るいさんに頼んで身長分けてもらおうかな?5㎝ぐらい」
「やめとけつくし。仮に5㎝だけぶん取ったとしてもあいつの方が高いぞ」
「はぁぁ……」
最後に力なくため息を零しながら、つくしは机に突っ伏した。
どうやら思ったより自信を失くしてるらしい。
「レンさん……」
「何?」
「私って、そんなに子供っぽい?」
俺は机に置かれたつくしの頭を、そっと撫でる。
「子供っぽい」
「うぅ……」
「でも、そんなのは見た目だけの話だ」
「えっ……?」
「つくしは姉属性でしっかりしてるし、優しいけど優しいだけじゃなくて、厳しいこともちゃんと言ってくれるし、弱気になったら励ましてくれて、ただ甘やかすだけじゃない優しさを持ってる。俺はお前のそういう所を、本気で尊敬してたりするんだけどな」
「レンさん……」
「少なくとも、俺なんかよりずっと大人だよ。お前は」
ちょっと抜けてて、失敗することも多いけど、それでも影での努力を怠らない頑張り屋さん。それでいて、他人への優しさも忘れない人間性。
つくしのことをただ小っちゃくて可愛いだけの女の子としか思えないなら、そいつは見る目が無い。
「レンさんは、いつも相手が欲がってる言葉をかけてくれるよね。私、レンさんのそういう優しいところ、好きだよ」
「つくし……」
「でもね、違うんだよ。私には『なりたい自分』みたいなのがあって、そこに妥協はしたくないの。甘い言葉で慰めて欲しい訳じゃない」
こいつ、机に突っ伏して落ち込みまくってる状態でカッコいいことを……
でも、そうだな。お前はそういうやつだった。
「お前って他人には底抜けに優しいくせに、自分には厳しいよな」
「ごめんね。自分から話聞いて貰ったくせに、こんなところだけ意固地で」
「いーや、気にすんな。少なくとも俺は、お前のそういうところが結構気に入ってる」
俺はつくしの頭から手を離し、コーヒーを飲み干して時刻を確認する。
まだ昼過ぎだ。時間の余裕はたっぷりある。
「つくし、今日はずっと暇か?」
「え?まぁ、予定は無いけど」
「よし、じゃあ俺の家来い」
「いきなりなんで?何する気?」
「今の流れなら、やる事は一つだろ。今日は家に家族もいないし……」
立ち上がり、つくしの方に向き直って宣言する。
「お前をオトナにしてやる」
「へっ……?」
少し頬を染めたつくしを余所に、俺は会計を済ませたのだった。
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道すがら、スーパーに寄ってジュースを買いつつ、俺はつくしを自分の家へと連れ込んだ。
今は、つくしと2人でキッチンに並んでいる。
「ねぇ、レンさん。もしかして、キッチンでするの?」
「うん」
「レンさんの部屋とかじゃなくて?」
「そうだな。今日はキッチンのものを使って、つくしをオトナにする」
「待ってよレンさん!流石に特殊すぎるっていうか、私に何するつもりなの!?」
「別に、ちょっと飲み物をご馳走するだけだけど?」
「へっ……?」
そういえば、具体的に何をするかの説明はしてなかったっけ。
「つくし」
「はい」
「取り敢えず、『そういう意味』でオトナにするって言った訳じゃないからな」
「いや私、別に何も言ってないし」
「俺たちは、まだ付き合ったばかりだからな」
「何も言ってないって言ってるでしょ」
「『そういうの』は、また今度な。俺たちがもっと時間を重ねて、もっとお互いを知って、色々と許せるようになったら、その時は、まぁ、一緒に」
「……はい」
恥ずかしがるつくしを撫でながら、俺はスーパーの袋の中身を確認する。
「それで、本当に何をするの?飲み物をご馳走するって話だったけど」
「そうだな。買ってきたジュースを組み合わせて、別の飲み物を作り出す。本当に混ぜるだけだから、不器用な俺でも問題無く作成可能だ」
「その、別の飲み物って何なの?」
「カクテル」
「……それ、お酒だよね?合法?」
「ちゃんとノンアルだから安心しろ。仮に5歳の子供が飲んだとしても違法にはならん」
その証拠に袋の中から出てくる3つの飲み物は、全てただのジュースだ。
「さて、作るとしますか」
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『STEP1.忘れないうちにまずは氷をコップに入れる』
「あ、そういえば換気扇って……」
「要らないでしょ。火なんて使わないんだから」
「あ、そっか」
※料理音痴あるある 余計な心配
『STEP2.オレンジジュース、レモンジュース、パイナップルジュースを1:1:1の同じ比率で入れていく』
「うーん。こんぐらいか?」
「レンさん、なんで目分量なの?ちゃんと計量カップとかで計りなよ」
「この俺が計量カップの場所の把握なんてしてるとでも?」
「家主……」
※料理音痴あるある やっぱり調理器具の場所は知らん
『STEP3.本来はシェイカーで混ぜるけどそんな上等なものが一般家庭にある訳ないのでストローかスプーンを使って混ぜる』
「ちなみに、薫先輩の家のキッチンにはシェイカーあったぜ」
「そうなの!?」
「いやー、俺も一回でいいからやってみたいんだよなぁ。あーあ。年取ったらバーテンダーになりてぇ」
「年取ってからなりたいの?」
「当たり前だろ。シェイカーはカッコいいジジイが振ってる方がロマンあるだろうが」
「ごめん。ちょっと何言ってるかわかんない」
※料理音痴あるある 料理も酒も興味ないくせにシェイカーにはロマン感じる。
まぁ、これでカクテルは苦労も無く完成。
ミックスジュースと言われれば、所詮それまでだが。
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リビングの席で待たせたつくしに完成したカクテルを早速持っていく。
「お待たせ致しましたお客様。こちら、『シンデレラ』でございます」
「それが、このカクテルの名前?」
「あぁ。まずは飲んでみてくれ」
オレンジの濃厚な甘さ、パインの爽やかな香り、そして、それらを引き締めるレモンの酸味。
それらが調和し、大人っぽくも優しい味わいに仕上がってるのが、このカクテルの特徴だ。
まぁ、これ以外のカクテルなんて飲んだことないけど。
「美味しいね。結構飲みやすいかも」
「自信作だからな」
「でも、なんで私にこれを?」
「そうだな。じゃあ、まずはこのカクテルの名前の由来から話そうか」
「由来……」
「あぁ。グリム童話の『シンデレラ』の逸話は知ってるな?家の前にやってきた不審者のババァと結託し、妖術を纏いながら舞踏会中の王国の城へ殴り込んだ女の話だ」
「そんな言い方しなくてもいいじゃん」
「で、今作ったカクテルも、その女のエピソードを由来としている」
「このカクテルとシンデレラって、由来になるような共通点なんてあるの?」
「あぁ。そしてそれこそがこのカクテルがノンアルコールで作られた理由であり、これを最初に作った人間の願いでもある」
「願い……」
「シンデレラという人間は、そもそも舞踏会には相応しくない存在だ。継母からの絶え間ないパワハラのせいで、ドレスの持ち合わせもなかったんだから当然だ。そんなシンデレラが舞踏会に参加できたのは……」
「魔女の魔法で、綺麗なドレス姿に変身したから」
「そう。そんな一夜の魔法によって、本来なら行けない場所でも存在を許されたのがシンデレラだ。そしてカクテルの方に由来するのが、この一夜の魔法だ」
「カクテルで、魔法?」
「魔法にかかって、本来は行けない場所で存在を許されたシンデレラのみたいに。未成年や、アルコールに弱い人、そんな人でもカクテルを楽しみ、本来は行けないバーにだって足を運び、パーティで楽しみ、酔いしれることが出来るように。そんな願いが生んだ一時の魔法が、このカクテルなのさ」
「だから、ノンアルコールで……」
「ちなみに、シンデレラのカクテル言葉は『夢見る少女』らしいぜ。なりたい自分を目指し、夢に向かって頑張るつくしにはピッタリだ」
俺の言葉を聞きながら、つくしはゆっくりとカクテルを味わう。
「美味しいね」
「あぁ」
「でも、結局は気休めな気もする。私は美味しい飲み物を飲んだだけだよ。背が伸びた訳でもないし」
「気休めとは言うがつくし。気持ちってのは大事だぞ」
「そうかな?」
「これは自論だが、精神は肉体を超越すると思う」
「何が言いたいの?」
「お前が目指してるお前に、身長の高さは関係無いって言ってるんだ。試しに聞くが、身長さえどうにか出来れば、お前はなりたい自分になれてしまうのか?お前が言う『大人っぽい』ってのは、取り敢えず見た目だけそれっぽくなってればゴールなのか?」
「それは……」
「それこそ千聖さんなんか見てみろよ。あんなに大人っぽい雰囲気のくせに、お前とそこまで身長差ないぞ?」
「嘘だ。流石にそれはないよ」
「じゃあ調べてみろよ。身長ぐらいなら多分パスパレの公式サイトに載ってるから」
「言ったね?じゃあ早速調べるからね。後悔しないでよ?」
そしてスマホを操作したつくしの声から、漏れる数値は
「ひゃくごじゅう……にセンチ?」
「つくし、いくつだっけ?」
「150、ジャストです」
「2㎝差か」
「たったの、2㎝……?」
「だから言ったろ?精神は肉体を超越するって。大事なのはお前自身の精神的な在り方だよ」
つくしの驚愕を余所に、俺は言葉を続ける。
「お前に必要なのは、誰の隣を歩いても大丈夫なぐらいに堂々としていることなんじゃないか?」
「堂々と……」
「結局は気の持ちようなんだよ。何事も」
「気の持ちようだけで、どうにかなるかな?」
「当然、簡単なことではないけどな」
俺の言葉を噛み締めるように、つくしがシンデレラに口を付ける。
「お前がそれを飲んで、少しでもなりたい自分になれることを願うよ」
「堂々とした大人っぽい人に、私もなれるかな?雰囲気もオーラも持ってない私だけど」
「なれるさ。持ってなくても、お前がそう在るために胸を張って進んでいけば、雰囲気もオーラも後からついてくる」
「そうだね」
そう言って静かに微笑みながらカクテルを飲む彼女の横顔は、どこか大人びていて綺麗だった。
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カクテルを片付け、少し雑談をしてるうちに時間も遅くなった。
今は玄関での最後の会話中だ。
「今日、ありがとね。話聞いて貰った挙句、カクテルまでご馳走してもらって」
「構わんさ。自分の彼女に頼って貰えるのは、彼氏冥利に尽きる。寧ろ、こえからも頼って欲しい」
「そうだね。どんなに大人っぽくなっても、レンさんには甘え続けてあげる」
「ありがと」
頭を撫でると、嬉しそうな彼女の笑顔が零れた。
「じゃあ、お礼しないとね」
「お礼?」
「うん。ちょっと、壁の方にもたれてくれない?」
「こう?」
「うん。それで肩の力抜いて?」
「おう」
壁に背を預けていると、つくしがすぐ近くに来た。
「なぁつくし。何する気──」
「えいっ」
chu-♡
「……!」
つくしにそのまま唇を奪われた。
背伸びをし、俺の両肩を抑えながら、つくしが求めてくる。
「んっ……」
「ん……ちゅ……」
舌を絡めたりはしてないが、かなり濃厚なキスだ。
驚いて恥ずかしいのに、壁に背を預けているせいで逃げることも出来ない。
「はむっ……ん……」
「んんっ……」
色々と限界になりそうになったところで、つくしの唇が離れた。
背伸びをしていたつくしの足も、限界だったらしい。
「ビックリした。珍しいな。お前からこんなことしてくるなんて」
「そうだね。ちょっと酔ってるのかも」
「顔が赤いのも、酔ってるせい?」
「そうだよ。多分、レンさんに酔ってる」
「そっか……」
見つめ合いながら、つくしの小柄な体躯を抱きしめると、じんわりと彼女の体温が伝わってくる。
そういえば、関係隠してる上にお互いに忙しいから、最近はこうして2人でくっついたりもしてなかったな。
「つくし」
「なぁに?」
「キス、しよっか」
「……うん。いいよ」
さっきのような不意打ちとは違う。
2人でゆっくりと唇を近づける。
「つくし……」
「レンさん……」
近づき、そして──
ガチャリ
「ただいま~!いやー、今日も練習キツかっ……」
「「……」」
今井家の玄関に流れていた時間が、確かに止まった。
キスの寸前の状態で固まったままの俺とつくし。
そして、愉快にRoseliaの練習から帰ってきて勢いよく扉を開けてそのまま固まった俺の姉。
「えっ…………と、あの、ごめん。マジごめんなさい」
「いや、待ってくれ姉さん。誤解だ。いや、そこまで誤解でもないけど誤解なんだ」
「リサ先輩、信じてください。自分でも何言ってるか分かんなくなってますけど、それでも信じてください」
・・・
「あの、お2人さん?」
「「はい」」
顔を赤らめ、バツの悪そうな顔で、姉さんはなんとか言葉を絞り出した。
「玄関はやめろよ~……」
うん。これに関しては姉さんが100%正しい。
寧ろ、玄関あけたら身内が後輩とキスしようとしてるんだもん。可哀想にも程がある。
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結局、あの後は3人とも何とも言えない空気になり、取り敢えず俺はつくしを送っていき、そのまま姉の待つ自宅へ帰った。
ちなみに帰り道で姉さんから届いたチャットは
『弟、風呂あがったらアタシの部屋に来なさい。今夜は寝かせないぞ♡』
とのこと。
「くっそ。ついにバレたか……」
当然、その日の風呂上がり以降が地獄だったのは言うまでもない。
丁度良く、オレンジジュースとレモンジュースとパイナップルジュースの余りがあったこともあり、夜のお喋りにはうってつけのシチュエーションが出来上がった。
足を崩し、部屋のテーブルに置かれたジュースをかっくらいながら、ズバズバと切り込んでくる。
「いやー、それにしてもレンに彼女かぁ。つくしとくっつきそうな予感はなんとなく感じてたけど、もうちょっと時間かかると思ってたよ」
「まぁ、なんだかんだ波長が合うんだよ。あいつとは」
「うんうん。あんなに小っちゃかった弟にも春が来て、お姉ちゃんも嬉しいよ」
・・・
「それで?2人の初チューっていつよ?」
「そこまでは答えなくていいだろ。てかもう寝かせろよ。もう夜中の2時だぞ」
「あっれ~?いいのかなぁ~?2人って付き合ってることまだ隠してるんでしょ?その秘密が白日の下に晒されることになっても知らないよ?アタシ友達いっぱい居るから拡散も早いよ?」
「くっ……!」
「いつもガールズバンドを追っかけてる新聞部のお兄さんが、ガールズバンドの女の子とスキャンダルとはねぇぇ?」
「やめろ……」
「玄関先でチューしちゃうぐらいにラブラブなんだもんねぇ~?」
「姉さん、頼むよ。これ以上の追求はダメージがデカすぎる」
「やだね。死ぬほどイジリ倒して、一生涯おもちゃにしてやる☆」
「人の心とか無いんか?」
「あ~、早く拡散した~い♡」
「もうやめてくれえええぇぇぇぇぇ!!!!」
結局、深夜の4時頃に姉弟仲良く寝落ちし、その日はお開きとなった。
姉さん、本当に拡散をやらかさなきゃいいのだが……。
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『ねぇ、つくし』
『はい』
『レンのこと、よろしくね。あんなのでも、大事なアタシの弟なんだ。世話かけるとは思うけど、悪いやつじゃないから』
『大丈夫です。お互い、真剣にお付き合いするつもりです』
『それなら良かった。じゃあ、弟の彼女の真剣さも分かったし、アレをやってもらおうかな』
『アレ?』
『「お義姉さん、弟さんを私にください」って言ってもらえる?』
『嫌ですよ。なんでいきなり』
『面白いじゃん。1回だけでいいから』
『そういうのは、ちゃんと然るべき時に、直接会って言わせていただきます』
『おっ、上手いこと逃げたね。じゃあその時を楽しみにしてるよ』
『はい。それでは、もう遅いので私はこれで』
『そうだね。じゃあお休み☆』
『はい。おやすみなさい。お義姉さん♡』
『えっ、待って!今のって──』
プツッ──
「切れてる……」
・・・
「くそっ、なんか負けた……弟の彼女に」
あぁ?就活?終わってねーよ。
中毒症状でとめどなく溢れた思考は放置すると日常生活での集中力を乱して面倒やからこうして出力しないとやってられなくなるのです。
現実逃避と言われれば、それまでですがね。
さて、今回は濃い目に書いたし、しばらくは大丈夫かな。
またしばらくは消えることにします。
次の更新をする頃には、就活が終わってるといいのだけれど。
くそっ、運動してないのに疲れる……。
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