ガールズバンドとシチュ別で関わっていく話   作:れのあ♪♪

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 就活終わって気が大きくなってるというか、調子に乗ってるので、ここでまた投稿。


74.奥沢美咲とミッシェルなシチュ

 

 ライブハウスCiRCLEの受け付けは入口のすぐそこにあることもあり、外の空気に当てられることが多いせいで冷房がついていてもあまり涼めなかったりする。

 灼熱とまではいかないが、汗は滴るばかり。

 お客さんが多くて人の出入りが多いと猶更だ。

 そして、今回もそんな客人が1人……いや、客グマが1体か

 

「こんにちは~!あ、レン君。やっほー!」

「おぉ、みさ──、じゃない。ミッシェルじゃねえか。どうしたんだよ。もしかして自主練?」

「今日はそんなんじゃないよ~。今は1人で町の笑顔パトロール中なんだ。そして通りかかったからCiRCLEにも寄ったの。ずっと外は暑かったからね」

「なんだ、涼みに来ただけかよ。客じゃないなら長居すんなよ?」

「分かってるよ~。あ、そういえばレン君、ちょっと笑顔足りてなくない?疲れてるの?」

「疲れてるというか、単純に涼みきれてないだけだよ。入口近いからさ」

「そっかぁ。レン君も頑張ってるんだね」

「そうなんだよ。あ~、暑っつい……」

「なーどーと言っているバイト少年の首筋には保冷剤をドーン!!!」

「うおぃ!!」

 

 あまりにも唐突な運動部のノリについつい望まれそうなリアクションを取ってしまう。

 受け付けまで身を乗り出したミッシェルと、すげービクッとした店員の姿が、そこにはあった。

 

「おまっ、ははっ、やーめろよいきなり。何すんだ」

「あぁ、ごめんごめん。いきなりやっちゃったもんね。大丈夫だったかな?」

「……?」

「どうかした?」

「いや、なんでもない。大丈夫だよ」

「じゃあ、そろそろパトロールに戻ろうかな。保冷材はあげるよ。室内でも熱中症は油断できないからね。結構いいやつだから、しばらくは冷たいと思うよ」

「……おう」

「それじゃあ、またね~!」

 

 そう言って、急遽訪れた町のマスコットは、この店を後に──

 

「いや、やっぱ待てミッシェル」

「なーに?もしかして大事な用事でも──」

「お前、美咲じゃないな」

「……!」

 

 受け付けから出てそう言うと、ピンクのクマが、確かにその動きを止めた。

 

「そりゃあ、そうだよ~。だってミッシェルはミッシェルで、美咲ちゃんは美咲ちゃんなんだから──」

「そういうこと言ってんじゃねえよタコ。俺が言ってんのは中身の話だ」

「何言ってるか分からないけど、取り敢えずミッシェルはタコじゃなくてクマだよ?」

「そういうのもいいんだよ。そう言えば最初から変だったんだ。それこそ、お前がここに来た時からな」

 

『今は1人で町の笑顔パトロール中なんだ』

 

「こころやはぐみならいざ知らず、あの美咲が、ましてやこんなバカみてーに暑い日にミッシェルになって、『1人で』笑顔パトロール?」

「それは……」

「まぁ、それだけならまだいい。こころに触発されたと考えれば、まだ妥当だ。お前が犯した最大のミスは俺に保冷剤をぶち当てた時だ」

 

『あぁ、ごめんごめん。いきなりやっちゃったもんね。大丈夫だったかな?』

 

「あいつが俺相手にイタズラして謝る訳ないだろうが。本物のアイツだったら『いやー、相変わらず面白いリアクションだね。なに?悔しかったらやり返してみなよ。ま、今のあたしにはキグルミという最強の鎧がついてるけどね。ははっ』みたいな返しぐらいしてくるもんなんだよ。謝ったり心配したりするのはあのリアクションよりもヤバいことになった時だけだ」

「レン君、『謝る訳ない』って認識はそれはそれでしつれ──」

「その『レン君』って呼び方とその他の喋り方もだ。確かにあいつがミッシェルに入ってる時は、俺もミッシェルをミッシェルとして扱うようにってスタンスではいるがな。そこに2人しかいない時はそこまでキツく縛ってないんだよ。『ミッシェル』って呼び方は変えなくても、あいつのノリは『美咲』のものになるんだ。ミッシェルに入っていても、あいつは2人きりの時、俺のこと『レン』って呼ぶんだよ」

「……」

「なんつーかお前、ちょっと『ミッシェル』すぎなんだよ。それとも何か?ミッシェルの明るい声は出せても、美咲のダウナーボイスは真似できなかったか?どっちも声そのものは同じはずだけどな。じゃあクマ公、そろそろ聞こうか」

 

 ミッシェルの無機質な表情は、一切の動きを見せない。

 コイツは誰なのか。

 商店街の別のバイトの人?弦巻家の黒服さん?どれも違う。どちらだったとしても、単独行動で笑顔パトロールをして、CiRCLEに寄った理由が見えてこない。

 

「テメェ、何者だ……?」

「……」

 

 ミッシェルは何も答えない。

 しばらく沈黙が続いて、そしてその沈黙を破るように、俺のスマホが通知音を鳴らした。

 

「そう言えば言い忘れてたけど、お前の言動が怪しいと思った時点でこのことは伝えといたんだよ。ほら、これ見てみな」

 

『なぁ美咲。今CiRCLEにミッシェル来てんだけど、なんかのイベントだったりする?』

『イベントじゃない!すぐ向かう!そいつはニセモノ!』

 

「だとよ。直感だけどそろそろ来るんじゃないか?ご本人様がよ」

 

 なんて言ってから2秒、CiRCLEの扉が開かれた。

 

「はぁ……はぁ……やーっと見つけた」

「っておい。美咲!大丈夫かお前……」

「この暑い中走り回ってたんだから大丈夫な訳ないでしょ。全部、そのミッシェルのせいだけどさ……!」

 

 じりじりとミッシェルを指さしながら距離を詰める美咲。

 すげぇ、めっちゃ汗だく。

 

「レン、このまま挟み撃ちでいこう。入口側はあたしが抑えてるから──」

「わかってるよ。ほっといていい奴じゃないんだろ?」

「うん。おまけに逃げ足も速いし」

 

 今日はまだ美咲と会って1分も経っていないが、不思議と向こうの意思は分かる。

 

「そんじゃあミッシェル!」

「覚悟!」

 

 同時。

 息を合わせた完璧な挟撃だった。

 しかしミッシェルの動きは、その動きをも凌駕した。

 

「!!」(バッ!!)

「何だと!?」

「跳んだ!?」

 

 横の動きを封じられたミッシェルは、俺たちが迫る寸前で跳躍し、そのまま美咲の体を飛び越えたのだ。

 

「!」(シュタッ!)

 

 華麗に美咲を飛び越えたミッシェルは見事に着地。

 ……入り口側を取られた。

 この状況から予想される動きは──

 

「!」(ダッ!)

 

 ミッシェル、逃走。

 

「くっ、今度こそいけると思ったのに!こうなったらレン!」

「わかってるよ!まったく、お前らといると退屈しねえなホント!」

 

 美咲、追跡続行

 レン、バイト放棄して美咲と合流

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 CiRCLEを飛び出し、俺たちは暑い中ミッシェルを追いかけまわしていた。

 逃げ足はキグルミとは思えないぐらい速い。

 状況説明も走りながら求めているので結構大変だ。

 お互いにバイトで体力がついてるので、まだマシではあるが。

 

「つまり、美咲が最初に外でミッシェルを見つけて、何か不自然に思って声かけたら逃げられたと?」

「そうなの。それで追いかけながら商店街にも弦巻家にも確認取ったけど、みんな知らないって言ってた。それで1回見失って、あんたから連絡が来たって訳」

「なんで弦巻家も『知らない』って言ってんだよ。管理はどうなってんだ管理は?」

「知らないよ。でも、やましいことが無いならこんな風に逃げたりしないでしょ」

「違いねえな。もしも俺たちの街のマスコットが悪用されるってんなら、黙ってる訳にはいかねえ」

 

 という訳で、状況は俺も理解した。

 だが、肝心の俺たちはミッシェルとの距離を縮められていない。なんなら油断したら引き離されそうですらある。

 

「おい美咲、なんか作戦とか無いのかよ?お前、そういうの得意だろ?」

「あんたが苦手過ぎるだけでしょうが。まぁ、無いことはないけどさ」

「説明」

「簡単だよ。あんたが先に商店街まで回り込んで、あたしがそのままミッシェルを追い回して、もう1回挟撃のチャンスを作る」

「挟撃のチャンスを作る、か。確かにいい作戦だな。そもそもあいつが商店街へ逃げてくれるか分からないって点を除けばの話だが」

「ま、バカなあんたにもそのぐらいは分かるか」

「あいつが商店街に逃げるって根拠はあるのか?なんかそういうデータがあるのか?数字で示された確証は?」

「欠片も無い」

「はぁ?」

「でも、直感で分かる。この近くの老人ホームや保育園を経由したぐらいで、あいつは間違いなく商店街を目指すの。信じて」

「……」

「って言ったら乗る?まぁ、流石に無理だよね。直感なんて曖昧なものをベースにして考えるとか、こんなバカな作戦であんたを振り回すような真似──」

「いや、乗った!」

「はぁ!?なんで……!?」

 

 ミッシェル追ってるせいで横を向くことは出来ないが、驚いた表情をしてることは分かる。

 何故かって、そんなもん……

 

親友(ダチ)が『信じて』って言ってんのに、俺がそれを信じない訳にはいかないだろ」

「でも、こんなのただの直感だよ?数字や根拠がある訳でもなくて──」

「うるせぇ!俺みたいなバカにとっちゃ、訳の分からねえ数字の羅列なんかより、お前の直感の方が信用できるんだよ!だからお前の言う通りに動いてやるって言ってんだ!」

「はっ、そうだった。なんであたしは、あんたがこんな頭の悪い作戦にも乗ってくれるような大馬鹿だってことを忘れてたんだろうね!」

 

 どうやら、方針は決まったようだ。

 

「そんじゃ、見失うなよ?」

「あんたこそ、着いたら警戒MAXで頼むよ?」

「応ッ!」

 

 作戦開始っと。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 美咲と離れて俺は商店街で待機となった。

 ここは中心部で、どの方向から入ってきても美咲との挟撃に繋げられる。

 美咲の指示通り、警戒MAXで八方睨みを利かせていた訳だが……。

 

「マジで来やがったぞ。予言的中じゃねえか」

 

 大した時間も待たずに……というか、着いてからほぼすぐにミッシェルと美咲が走ってくるのが見えた。

 ちょっとは休憩できると思ったのに。

 

「!!」

 

 すぐに走って詰め寄り、ミッシェルの動線を塞ぐ。

 走ることをやめたミッシェルをじりじりと追い詰める。

 

「!!」(ダッ!)

 

 しかし、ミッシェルは俺たちが塞いだ道ではなく、また別の狭い横道へと逃れた。

 急いで追いかける

 

「ああもう、諦めの悪い!」

「あぁ。でもここから先は行き止まりだ!もうあいつの末路はホールドアップで決定だぜ!」

 

 2人でミッシェルを追いかけると、狭い横道を抜けた、人通りの無い行き止まりの空間が見えてくる。

 長方形で3階建てぐらいのボロい小さな建物が壁のように立ちはだかり、無機質な室外機だけが規則正しく置かれている。

 

「おいミッシェル!もう諦め──」

「!!」(ダッ!)

 

 行き止まりだった筈の場所でミッシェルは止まらなかった。

 それどころか、ミッシェルはパルクールの要領でボロい建物の室外機を足場にして器用に登っていった。

 このまま屋上まで登られたら、また逃げられて振り出しだ。

 

「レン、足場」

「結構高いぞ。いけるか?」

「舐めんな」

「了解」

 

 当然、俺たちがそれを放っておく筈もなく、俺は建物のすぐ横まで寄って両手を組み、手のひらを上にして踏ん張る。

 美咲も既にぴょんぴょん跳んで準備を済ませている。

 後はダッシュで駆け寄ってくるこいつをタイミング良くカチ上げるだけの楽なお仕事だ。

 

「ふっ!」

「オラァ!!」

 

 美咲は自分のことを『どこにでもいる平凡な女子高校生』などとのたまっているが、こいつはキグルミを着ながらバク転を決めたり、キグルミを着ながらこころやはぐみのオバケ体力についていったり、キグルミを着ながら片足で玉乗りしながらジャグリングまでこなすような体幹まで兼ね備えた、正真正銘の化け物だ。

 そんな美咲の大ジャンプは当然──

 

「ふうっ……!」

 

 バッタのような跳躍力を見せる。そして──

 

「ふっ、はっ……!」

 

 タンッ、タンッ、トンッ、トンッ、クルッ、シュタッ!

 

 三角飛びみたいな要領でさっきのミッシェルよりも器用に室外機を足場にして、あっという間に屋上へと着地した。

 

「多分、潜在能力だけの話をするならこころ以上にトチ狂ってるよな。あいつ」

 

 そう言いながら、俺も後を追うように室外機を伝っていく。

 

「1、 2の、よっと……」

 

 安全重視で危なげなく登っていく。

 時間をかけたので、既に誰もいないということも考えていたが、屋上まで登り切って手すりを飛び越えた時に見えた光景は、美咲とミッシェルの睨み合いだった。

 

「追いかけっこは終わりか?」

「まぁ、流石にミッシェルもこの高さで走り回りたくないのかな」

「本人が言ってたのか?」

「いーや、これも直感」

「そうか。じゃあ、ミッシェルよぉ」

「!」(↑、↑、↓、↓……)

 

 話し合いに持ち込もうとした直後、ミッシェルが妙な動きを始めた。

 これは、なんだ?ダンス?

 

「くそっ、こんだけ引っ掻き回しといてまだふざけた態度取ろうってか」

「いや、レン待って。あの動きどこかで……」

「待たねえよ。あのふざけた踊り、さっさと止めなきゃ気が済まねえ。俺は行くぞ」

「(上、上、下、下、左、右、左、右……マズい!やっぱりこれ、ハッピーフライトモードの特殊コマンド!)」

「!!」

「このっ、さっさと捕まえて──」

「レン!ダメ!伏せて!」

 

 ガッ!

 

「なっ!?」

 

 ゴオオオオオォォォォォォォォォォォォ!!!

 

「こっ、この風圧はッ!?」

 

 前方から押し寄せる爆風に煽られそうになったところを、美咲に押さえつけられてなんとか耐える。

 しかし、俺たち2人は耐えるのに精一杯で、ミッシェルに近づけない。

 

 ゴオオオオオォォォォォォォォォォォォ!!!

 

 そして、風圧が弱まったと思う頃には、もうミッシェルは空の彼方へ飛んだ後だった。

 

「ごめんレン。ここまで追い詰めたのに」

「いやいや美咲は悪くないだろ。寧ろあんな裏技まで使ってくるやつ相手にいったい何が出来たよ?忘れちゃいけないが俺たちは人類だ」

「そうだね。でも、逃げた場所は分かると思う」

「え?マジ?」

「うん。飛んで行った方角、そしてこれまでのミッシェルの行動経路、そして、さっきも使った直感、この3つの要素を鑑みたあたしの脳内CPUが弾き出した結論は……」

 

 ・・・

 

「ふぅ……」

「美咲?」

「いや、うん。ちゃんと分かったよ。大丈夫」

 

 さっきまであんなに走り回っていた美咲が、手すりに体重を預けて、随分リラックスした状態で呟いた。

 

「レン、今から自販機でスポーツドリンクでも買って、目的地まではゆっくり歩いて向かおうか。多分、もう逃げないだろうし」

「……?」

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 言われた通り、美咲に合わせてゆっくり歩いてるうちに着いた先は……。

 

「病院の中庭?」

「うん。たまにハロハピがライブさせてもらったりするんだよね」

「なるほど、確かにここにいるとしたら、もう逃げる心配は無いか。流石に病院の敷地内で走り回ったりはしないだろうし。さっきみたいなジェットエンジンなんか論外だ」

「その通り。それにミッシェルも見つかったよ。ほら、あそこのベンチで小さい女の子と話してる」

「あ、ホントだ」

 

 ようやく見つけた相手。しかし、どうもさっきみたいに追い詰めてとっ捕まえてやろうという気にはなれなかった。

 それは美咲も一緒だったのか。俺たち2人はそのままミッシェルの近くのベンチに座って、2人の会話を盗み聞くことにした。

 

「そっか。手術か……。やっぱり怖いよね」

「うん。おそとでお友達とあそべるようになりたいのに、こわくて勇気がでないの……」

 

 ・・・

 

「勇気がないから、なにもできない……」

「違うよ。勇気はみんな元から持ってるんだよ。今の君は、その出し方が分からなくなってるだけ。できないことなんて無いんだよ」

「そう、なの……?」

「よーし!じゃあ、そんな今の君のために、ミッシェルがとっておきのおまじないを教えてあげる!それじゃあいくよ?」

 

『ハピネスっ!ハピィーマジカルっ♪』

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 ミッシェルと話していた少女に、勇気が戻ってきたかは分からない。

 しかし、彼女は笑顔になった。誰が見てもそれだけは明らかだった。

 そして少女と別れて1人になったミッシェルと、俺たちはやっと接触した。

 今はミッシェルの要望で場所を変え、俺たち3人は人通りの少ない場所で突っ立って話すことになった。

 

「わざわざ待ってくれてありがとね。あの子を笑顔にできて良かったよ」

「俺たちもそこまで空気が読めない訳じゃないさ」

「あの雰囲気は、流石にね」

「うん。本当にありがとう」

 

 そして、俺は早速本題に移った。

 

「さっきから呼び方に困ってたんで地の文で『ミッシェル』と言い続けてはきたが、もう聞いていい頃合いだろ。さて……お前は何者だ?」

「それは……」

「いや、もう答えなくてもいいよ。あたしはなんとなく分かった」

「「!?」」

「美咲、本当か?」

「うん」

 

 それで、美咲の答えはこうだった。

 

「あんた、ミッシェルなんでしょ?」

「……?どういうことだ?」

「信じられないかもしれないけどさ。今あたしたちの目の前にいるのは、『ミッシェルそのもの』なんだよ」

「冗談だろ」

「あたしだって、そう思いたいよ。でも根拠はある。このミッシェルが逃げてた場所、CiRCLE、老人ホーム、保育園、商店街、そして病院、みんなミッシェル及びハロハピと縁が深い場所なんだよ。そして、このミッシェルが向かう場所を予想した時の直感が妙に当たるのも、あたしが一番ミッシェルとの繋がりが強いから、どこかでリンクしてたんだと考えれば納得できる。ねぇ、そうなんでしょ?」

 

 しばらくの沈黙の後、ミッシェルは答える。

 

「そうだよ」

「!」

「よく分かったね。まだ言ってなかったのに。やっぱり美咲ちゃんとは縁が深いからかな?」

「さぁね。でも、ミッシェルがなんでこんなことしたのかまでは分からないの。教えてくれる?」

「理由は簡単だよ。ハロハピのメンバーとして、ミッシェルも世界を笑顔にしたくなったんだ」

「ミッシェル……」

「でも、この状態はいつまでも続かない。一時だけに許された夢。だから、せめてハロハピが笑顔にしてきたものの一部分だけでも見届けたくて、そして笑顔が無い場所を見つけたら、そこを笑顔でいっぱいにしたくて……」

「そっか……」

「それで、今のミッシェルが『ありえない存在』だってことがみんなに知られちゃったら、この不思議な魔法が解けちゃいそうな気がして、だから2人から逃げちゃった。お騒がせしちゃったね」

「気にすんなよ。今日は俺も保冷剤で笑顔にしてもらっちゃったし」

「それに、ミッシェルが笑顔にした人は今日以外でもたくさんいるんだから。胸張っていいんだよ」

「2人とも……」

「ねぇミッシェル。1つ、いいかな?もしミッシェルと話せるようなことがあったら、ずっと言いたかったことがあるんだ」

「何?」

「ミッシェル。ハロハピのメンバーでいてくれて、本当にありがとう。今のあたしが笑顔でいられるのは、ミッシェルのお陰だよ。これからも、一緒に頑張ろうね」

「当たり前だよ。なんたって一心同体なんだからさ」

 

 そう言ったミッシェルの表情は不思議なことに、いつもより少しだけ微笑んでいるように見えた。

 微笑んだように見えて、ミッシェルの体から光の粒が見え始めた。

 

「夢の終わりだね。流石に好き勝手しすぎたよ」

「ミッシェル!?待ってよ!やだよ!やっとお礼も言えたのに!やっと会うことができたのに!こんなのってないよ!まだあたし、ミッシェルと話したいことが──」

「やめろ美咲!」

「……!」

「ミッシェルの前で……そんな顔見せるんじゃない」

「レン君……」

「なぁミッシェル、かく言う俺も言いたいこととか色々あるんだけどさ。……楽しかったぜ。今日の鬼ごっこ」

「うん。こっちも楽しかったよ。また遊ぼうね」

「また、会えるのか?」

「会えるよ。ミッシェルはいつも、みんなと共にいるんだから」

「……そっか」

「ねぇミッシェル!」

「美咲ちゃん……」

「さっきはごめん。ミッシェルとの時間に、悲しい顔なんて似合わないもんね」

「……」

「言葉、もうまとまる気しないから、直球で言うね」

 

 ・・・

 

「大好きだよ。あたしは、ミッシェルのことが、大好き!」

 

 笑顔で、スッキリとした感情表現だった。

 

「ありがとう。ミッシェルも、美咲ちゃんのことが……みんなのことが、本当に大好きだよ」

 

 動きもしない筈のミッシェルの表情は、やはり笑いかけているように見えた。

 ミッシェルの体から徐々に光の粒が消えていく。

 

「……」(ぽてっ)

 

 街中を駆け回り、この場所でも饒舌に俺たちと語った一体のキグルミは、この瞬間、糸を切った操り人形のように、随分あっさり倒れて、そのままピクリとも動かなくなった。

 遊び疲れて眠ってしまったのだろうか。なんだか満足げに見えるのは、俺と美咲の気のせいなのか。

 

 キグルミの中には、誰もいなかった。

 さっきまで動いていたくせに、空っぽの中身だった。

 

 しかしそれに対して、俺たちには恐怖も驚愕も無かった。

 あったのは、圧倒的な感謝。そして、あらゆる人々を笑顔にして、それでもなお世界の笑顔を願い続ける、その心意気への敬意。

 

 帰り道、美咲はキグルミを着て帰った。

 その帰り道で、『ミッシェル』は人々に囲まれ、その愛情を一身に受けた。

 

 ミッシェルは、これからも世界を笑顔にし続けるのだ。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

【後日談、とあるアトリエにて行われた、少年とホラー専門少女の会話】

「っていうことがあってさ。まぁ、ホラーな思いはしてないんだけど、なんか不思議だったなって」

「なるほど~。多分それは、付喪神の一種ですね」

「ツクモガミ……ってあの、から傘オバケの?でも、あれって物を100年使ったから生まれるもんだろ?ミッシェルの歴史なんてたかが1年とかだぞ」

「レンさん、この場合で大事なのは100年『使い続けたこと』ではなく、100年も使い続けるぐらいに『大切に扱われたこと』の方です。そりゃあ、年季が入ったものの方が神秘が増すのも事実ですが、年数だけで決まってしまう訳じゃないんです」

「要は、気持ちが大事ってことか。……でも、それを差し引いても1年そこら使われた程度のキグルミにそんなの宿るかな?」

「そうですね。私はさっき安易に『付喪神』と言ってしまいましたが、この場合のミッシェル先輩は割と複雑な要素が絡み合ってるんです」

「複雑な事情?」

「まずはキグルミがある種の『人形』であることです」

「それが、関係あるのか?」

「人形って、時たま自我を持つ子たちがいたりするでしょう?」

「しないだろ。怖いこと言うなよ」

「そして自我を持ってしまう条件として、『名前をつけること』そして、『「人形」としてではなく、名付けたその子個人として人形に接すること』が挙げられます。『名前』は魔術や呪術においても重要な意味合いを持ちますからね」

「……ミッシェルという名前はある。ミッシェルそのものとして接してる人間もいる。場合によっては、俺もミッシェルとはそう接する」

「キグルミという特色上、そんな機会は多かったんでしょう。でも、これでもまだ弱いです。これらのコミュニケーションは、あくまでミッシェルを通して、中の人と繋がってるだけですからね。中身が無くて返事も無いのに、それでも喋りかける、なんてことをすると強いかもしれませんね。もしかしたら中の人が仕事終わりにそんなことをしたのかも……?」

「それは美咲に聞いてみなきゃ分からないけど……」

「そして、それだけの条件を揃えても、レンさんから聞いた感じにはなりません。せいぜい呪いの人形みたいにガタガタ動いたりするのがやっとでしょう」

「だから怖いこと言うなって……」

「でも、これだけだと人間に害のある呪具になる可能性の方が高いです。ほら、藁人形だってにくい相手の名前をつけて、対象との縁を強制的に結んで、儀式によって効果を高めることで呪いとして成立させて、結果として藁の人形が呪具になるんです」

「人形……確かに呪いやホラーのイメージが強いけど、その理由はこれか」

「あとはメリーさんなんかも有名ですよね。メリーと名付けて、メリーとして扱い、自我が芽生えて、捨てられた恨みによる『負の感情』がトリガーとなって持ち主を襲う呪具となった。古来より人形と呪いって相性が良いんです」

「じゃあ、それならミッシェルが無害だったのはどうしてだ?あいつは呪具になるような環境にいたわけだろ?」

「それは、呪いになる要素と同時に、神様になる要素も含まれていたからですよ」

「神様だと?」

「はい。確かに神社で奉られこそしてないですが、ミッシェルは人々から愛されるだけじゃなく、感謝されるという信仰の集め方をしています。それでこの街には像まで立っている」

「マスコットにしちゃ偉業だと思うが、それだけで神扱いか?」

「神格化の初歩なんて、案外そんなものです。それに、日本を動かす有力者にも知られているというのもひょっとしたら大きいかもですね」

「有力者か……」

 

 そういやハロハピって、弦巻家の関係でナントカ大臣がいるようなパーティーにも呼ばれたりしたことあるとか言ってたっけ?

 

「そして、3つ目の事情が、中の人への浸食」

「美咲への?」

「はい。例えば、キグルミを着ていないのに、キグルミの『ミッシェル』として振舞った言動をしてしまったり、自分の夢に『ミッシェル』が出て来たり、『存在しないもの』が、『存在するもの』によって実態を持ち始めて、その結果として、向こうは中の人を通して、境界を超えやすくなるんですよ」

「……なるほど」

「ミッシェル先輩の歴史は1年ほどしかなく、またこれらの要因も1つ1つは大して強いものではありません。ただ、この弱い要素の1つ1つが上手く重なり合って、なんとか1つの形になった。恐らくそんな感じだったんでしょう」

「それで、付喪神が……」

「この場合なら『神』という言い方も難しいかもしれませんね。すぐに消えてしまったことを考えると、神秘の強度もかなり弱かったんだと思います。ここまで儚い存在ともなると、『怪異』とすら言い難いですね」

「儚いって言っても、だいぶこっちに干渉して喋りかけてきたけどな」

「それは結びつきの強い『中の人』がいたからですよ。頭の奥で直感がリンクしていたことも考えると、存在の固定も先輩に依存してたんでしょう。あとはレンさんも向こうとの『境界を越えた』人間だから、アンカー代わりの先輩と深い縁があったことも都合が良かったり?」

「境界?」

「ほら、広町と仲良くおっかない駅まで旅行したでしょ?」

「あー、なるほど。なんかそういうのって引き寄せ合うって言うもんな。スタンド使いみたいに」

「とにかく今回の異変は、それぞれの人々の想いという、1つ1つの小さく弱い要素が偶然重なり合って、結果的に付喪神に近い姿を取ることになった『幻霊』。これが今回のミッシェル先輩の正体かと」

「なるほどねぇ。弱く儚い存在だったなら、もう会うことも難しいのかな」

「そうとも限りませんよ。怪異も幻霊も、結局は人間の認識に依存する存在です。忘れられれば死に、覚えられてるうちは生き続ける」

「認識の影響って、そんなにデカいのか」

「当然です。レンさんの前に現れた幻霊の性格がミッシェル先輩そのものであった理由は、ミッシェル先輩を知る人々の認識があってこそです。人々がミッシェルに抱く理想、そしてその理想に応えるミッシェル、そんな人々の温かい交流と関りがあったからこそ、ミッシェルは人々の中で少しずつ明確な形を持って、儚い自我が生まれ、その自我が一時の幻霊となった」

「なるほど。だったら、これからも大事にしてやらないとな」

「ですね」

 

 そう軽く言葉を交わし、窓の外を眺めながら紅茶を飲んだ。

 

「ところでレンさん、広町は『恐怖体験を聞かせてやる』と言われた筈ですけど、結局あれはホラーじゃなかったですよね?」

「当たり前だろ。だって俺が味わった恐怖体験は、無断でバイト抜けたことにガチギレしてたまりなさんのお説教タイムなんだからな☆」

「あぁ……それはそれは……」

「まずスマホ開いたらめちゃくちゃバイト先からの着信履歴があるだろ~?」

「待ってください。想像しただけでお腹が……!」

 





 夏らしく、ちょびっと怪異系の話をば。

 美咲ちゃんとミッシェルの話は、別枠で書いて、ハーメルンの巷で盛り上がってるらしい『夏のバンドリ祭』にでも投稿してやろうかと思ったのですが、美咲ちゃん書くならレン君も書きたくなって、結局こっちで書きました。やっぱりあの手の集団でやるタイプのノリはついていけないですし、私は気ままにやる方が楽で好きです。

 そしてその夏のバンドリ祭に参加しようと意気込んでた美咲ちゃん推しの読者様が執筆データ消えて絶望しちゃってたので、ちょっとでもこの話で元気になってくれたらいいなと思って、書き切りました。

 この話、11000字ぐらい書いてて思ったけど、やっぱ美咲ちゃん書きやすい。書いてて楽しい。
 あと2.3話ぐらい連続で書けって言われても多分書ける。

 逆につくしちゃんはガチで3話ぶっ通しで書いたのでちょっと休みたい。
 妄想力をフルバーストして燃え尽きた。……超楽しかった。

【ガルシチュこそこそ裏話】
 作者のPCでは「みたけ」と打っても「美竹」が出てこないので、キーボード上では「びたけ」と打っている。


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