全開に引き続き、リクエストのシチュです。
【作戦決行日の夜、弦巻家の中庭】
ミッシェルロケットの開発は順調に進んだらしい。
まぁ、ただのキグルミにジェットエンジン搭載してカッ飛ばすぐらいの技術力があるのだから最早驚くまでもない。
そして、作戦決行の30分前に、有咲以外のメンバーが集まった。
時刻が夜なのは当然、有咲を星にするため。
星は夜空でこそ輝く。
立案者のこころ、参謀の俺、巻き込まれた美咲、そして新メンバーに……。
「有咲相手にドッキリ大作戦、レン君も面白いこと考えるね~!誘ってくれてありがとう!」
「そりゃあ、有咲はお前のために星になるって言ったんだから、お前が見届けなきゃいけないだろ」
戸山香澄。
ポピパのリーダーであり、今日の作戦の仕掛け人。
友人を罠に嵌めようというかなり邪悪な誘いではあったし、協力してもらえるかどうかも怪しかったが、『すっごく面白そう!』の一言で快諾してくれた。
「有咲は、まだ来てないんだよね?」
「あぁ、サプライズのために集合時間は有咲にだけ遅い時間を伝えてある。こころ。まだ有咲は来ないだろうし、最後に1回だけ段取りの確認をしようか」
「えぇ!絶対に有咲を笑顔にしましょう!」
「市ヶ谷さん、本っ当にごめん。愚痴なら今度いくらでも聞いてあげるから……」
作戦決行まであと僅か。
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段取りの最終確認も終わり、それからしばらくすると有咲が弦巻家の門をくぐり、俺たちの元までやってきた。
ついでにこころは離脱中。
「有咲~!やっほー!」
「よう香澄。あと、レンと奥沢さんも。このメンバー的に、私で最後か。みんな早いんだな。まだ集合時間10分前なのに」
「いや、あたしたちも今来たところだよ」
「そうそう。今まさに集まって、何の用で俺たちがこころの家に呼び出されたのかって話してたんだよ。有咲は何か聞いた?」
「いや、私も『見せたいものがあるから』って、ここに集まるように連絡が来ただけだし。この感じだと、みんなも何も知らない感じ?」
「「「うん」」」
無論、嘘である。
「そっか。でも、その肝心の弦巻さんがいないのはどういうことだ?全員集まったって連絡しとくか?」
「いや市ヶ谷さん、その必要は無さそうだよ。ほら、あっちの方に」
「あ、こころんだ!お~~い!」
「香澄~~!みんな~~!」
「おい、こころのやつが押してる台車、随分デカいのが乗ってないか?謎の布で隠されてるから全貌は見えねえけど……」
「ホントだ。私らと同じぐらいの大きさじゃないか?アレ」
「一体なんだろう?」
「分かんない。あたしには見当もつかないよ」
大嘘。有咲以外みんな分かってる。
「みんな、今日は集まってくれてありがとう!会えて嬉しいわ!」
挨拶を交わすこころを余所に台車に置かれた物体は黒服さんたちに降ろされ、後は布が被っているだけとなった。
「えっと……弦巻さん」
「チャットで言ってた『見せたいもの』って」
「もしかしなくてもこの物体だよな……?」
「近くで見るとホントに大きいね」
「えぇ!この布を剥がしたらもっと迫力があるわよ!」
こころは遠慮なく、布の端を掴む。
どうやらもったいぶったりはしないらしい。
「それじゃあ、せーーのっ!!」
バサッ!
という小気味よい音と共に、ベールからソレは現れた。
「見てちょうだい!これが黄金の等身大ミッシェル像よ!」
「「「「おおぉぉぉぉ……!」」」」
中身がどのような物かは知っていたが、やはりいざ見てみると迫力に圧倒される。
あくまで像であるという前提がプッシュできるように、そして夜空の流星を輝かせるために見た目を黄金にした甲斐もあって、夜中の暗さをものともせず、ミッシェルはもうそこに居るだけで威光を放っていた。
「こんなものまで……やっぱ弦巻さんすげーな」
「しかもこれ、ただの像じゃないのよ!なんと……!」
こころが『ミッシェル像』のスイッチを押すと像の後方がドアのように開いた。
「このミッシェル像、中に入ることもできるのよ!」
「黄金なだけでも迫力あるのにこんな仕掛けまであるのかよ!すげーな!」
「確かに凄いよね!流石こころん!(知ってる)」
「ほんとマジすげーよな(知ってる)」
「そうだよねぇ(こういう発想はあるのに、私がミッシェルに入ってるって発想は無いんだもんなぁ……)」
そして、ミッシェルが開いたということは……。
「ねぇ有咲!この中に入ってみない?」
「えっ、私が最初かよ」
「有咲いいな~!ねぇこころん!後で私も入っていい?」
「じゃあ折角だし俺も香澄の後に」
「みんなが行くならあたしも行こうかな。黄金ミッシェルに入る機会なんて滅多に無いだろうし」
作戦は順調に進んでいるが、油断はしない。こうやって外堀を埋めて、着実に有咲が断る確率を減らしていく。
「じゃあ、折角だし入ってみようかな」
「一名様ご案内よ~!」
綿密な打ち合わせの甲斐あって、有咲は怪しむことなく黄金ミッシェル像の中に入っていく。
そう何も知らずに。
ミッシェル像がミッシェル像ではなく、ミッシェルロケットであることなど、想像もしないで。
ガチャンッ!!
「!?!?」
勢いよく黄金ミッシェルがその体を閉じる。
まるでアイアンメイデンが、新しい獲物を捕らえたかのように。
「なぁ、弦巻さん。もういいんだけど?さっきから押してもミッシェルが開かないんだけど?なんか内側から『発射シークエンス』がどうとかって訳わかんないアナウンスが流れてるんだけど?ちょっ、弦巻さん!?弦巻さん!?」
「「「「……」」」」
掛かった。
慌てふためく有咲の表情や言動は、黒服さんが持ってきてくれたモニターに全て映っている。
そしてモニターに繋がったマイクでこころが語りかける。
「やっほー有咲。楽しんでる?」
『楽しんでねー!!なんか大変なことになってんぞ!早くどうにか──』
「しないわよ?だってこれは有咲が望んだことなのだもの」
『いきなり呼び出されて黄金ミッシェルの中身を覗こうとしたらいきなり閉じ込められたこの状況のどこが私の望みなんだよ!』
「ううん。違うよ有咲。これは確かに有咲が望んだことなんだよ。正確には、これからその望みが叶うの」
『はぁ!?』
マイク越しに伝わる香澄の声にも、有咲はまだ理解を示せていない。
「おい有咲。よーく思い出せ。答えは俺のインタビューで答えたことだよ」
『インタビュー?あ、インタビューといえばお前!よくもカットするように頼んだところまで使ってくれたな!私が「星になりたい」とか香澄みたいなメルヘン台詞をやらかしたところまで……おい、ちょっと待って。この状況って──』
「市ヶ谷さん。落ち着いて聞いてね。あなたは今から星になるの。自分でやらかした不用意な発言をこころが知ってしまったばっかりに」
「喜べ少女よ。君の願いはようやく叶う」
『おい待て!こんなの絶対おかしい──』
「もう遅いぜ。スイッチは既にこころが黒服さんから受け取った」
『ふざけんな!早くここから出せ!』
そう言われて俺たちが出す訳もなく、既にスイッチはこころから香澄へと渡った。
「スイッチ、私が押しちゃっていいの?一番の盛り上がりだよね?」
「当たり前じゃない!」
「有咲は『香澄の星になる』って言ったんだからな」
「寧ろこの役目は戸山さん以外ありえないでしょ」
「え~、折角だから全員で押そうよ!ほら息を合わせてさ」
「いいわねそれ!そっちの方が面白そうだわ!」
「俺も賛成」
「じゃあ、あたしも賛成かな」
『おい!なに私をほったらかして楽しそうにしてやがるんだ!』
「大丈夫よ有咲!あなたもすぐに打ち上げてあげるから!」
『出せっつってんだろうがぁ!!』
有咲の怒号を笑って受け流しながら、俺たち4人は円陣を組むようにスイッチに手を掛ける。
4人分の手が重なる。
「じゃあ、市ヶ谷さん。良い空の旅を」
「有咲!帰ってきたら後で感想を聞かせてちょうだい!」
優しい顔の美咲と、屈託のない笑みのこころが別れの挨拶を済ませる。
「おい有咲」
『なんだ!?』
「ボラーレ・ヴィ―ア(飛んで行きな)」
『こいつ、後で絶対に──』
「星になれ~☆」
『おいこら香澄!なにふざけたこと言って──』
「「「「せーの!」」」」
『香澄~~~~~~ッ!!!!』
カチッ
ゴオオオオオォォォォォォォォ!!!!
『ぎにゃああああああぁぁぁぁ!!!』
唸る風圧、有咲の悲鳴、俺たちの笑い声。
それだけを残して、黄金ミッシェルは盛大に打ち上げられた。
『おい!なんだよコレ!マジで飛び上がってるぞ!うっわもうこんなに離れてるよ高っけぇ!訳わかんねえよ怖えよ!なんでもう街中を見下ろせるところまで来ちまってんだよ!おいふざけんな!おい!誰か何とか言えよ!おい!聞いてんのか!?』
モニターが少々うるさいが、黄金ミッシェルは無事に夜空の彼方へ飛んで行った。
しかしミッシェルは夜闇に消えることはなく、ミッシェルの放つ黄金の輝きは、ジェットエンジンの炎と相まって、どんな一等星よりも強い光を俺たちに見せてくれた。
流星一条。
輝きは弧を描き、夜を照らし、空を裂いた。
この日、市ヶ谷有咲は『星』になった。
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流れ星になった有咲を眺めてちょっぴり感動したり、モニターに映る有咲のリアクションに一しきり笑い転げてしばらく、俺たちのもとに黄金ミッシェルが帰ってきた。
煙を上げるミッシェルを開け放ち、疲れ果てた表情で俺達の方へ歩いてくる姿は、なんかカッコよかった。アルマ〇ドンの主題歌でも流してやりたい。
「有咲お疲れ~。楽しかった?」
「楽しいわけあるか!何の説明もなく空までぶっ飛ばされたんだぞ!楽しむ余裕なんてあるか!」
「あら?でも有咲ったら、途中で慣れてからは街の景色とか楽しんでなかった?『街って真上から見るとこんな感じなのか~』って」
「慣れてきたのホントに最後の最後だったんだけど……!さっきのとは違う意味で星になるかと思ったぞ」
「なんだよ有咲。『星になる』って最初に言い出したのはお前だろうが」
「こんな物理的な意味でガッツリ星にされるなんて誰が想像できるか!空までかっ飛ばして星にするとか訳分かんねえだろ!」
「いや、でも市ヶ谷さん凄かったんだよ?すごい速さで飛んで行ってキラーンってなったんだよ?キラーンって」
「奥沢さん。私、奥沢さんだけは信じてたのに。奥沢さんさえいれば取り敢えず最悪なことにはならないだろうって信じてたのに」
「はい。その信頼までしっかり隣の男に利用されました」
「まぁ、何はともあれ!」
香澄が後ろ手に持ったフリップを持って、話の締めにかかる。
『香澄の星になる』と有咲は誓い、そして今日、見事に香澄の目の前で有咲は星になった。
作戦も問題なく進んだ。みんなハッピー。つまり……。
「「「「ドッキリ大成功~~~!!」」」」
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ドッキリも成功に終わり、後は有咲に怒られながらの雑談タイムとなった。
「なぁ有咲。ミッシェルの中ってどんな感じだったんだ?」
「ビックリするぐらい快適だったよ。普通に居心地よかったし」
「へぇ~」
有咲の言葉を聞いてミッシェルの中を覗いてみても、居心地の良さはよく分からない。
「ほら、もっと奥の方とか見てみろよ」
「奥?」
有咲の言った通り、ミッシェルの中の方に入って細部まで見ようとしたその時だった。
ガチャンッ!!
「!?!?」
勢いよく、俺の後ろで大きな金属音が鳴り響いた。
まるでアイアンメイデンが、新しい獲物を捕らえたかのように。
「おい、有咲!?なんだよいきなり!どういうことだ!」
慌てていると、ミッシェルの顔の裏側に当たる部分が光り始め、画面となって起動する。
なんか発射シークエンスがどうとか訳わかんないことを機械音声がほざき始めた。
『やっほ~。オタク君、驚いてる?』
「おい美咲。これは何の冗談だ?」
『今からオタク君が入ってるミッシェルを~、空の彼方へ打ち上げちゃいま~す』
「……なんて?」
『人間って不思議だよね。どんなに強い人間でも、自分の優位を確信したら途端に脇が甘くなる』
「あの、美咲さん?」
『レン君、実は私たち、有咲へのドッキリを考えてる傍らで、レン君への逆ドッキリも計画してたの』
「嘘ぉ……」
『まぁ、この企画をドッキリにすることを言いだしたのはレンだしね。このぐらいの罰則は無いとさ』
「おいこころ!お前も知ってたのか」
『えぇ!バレないかどうかドキドキしたわ!』
「お前らぁ……!!」
『じゃあ、後の役目は丸投げしようかな。あんたに復讐する権利がある人にさ』
「へっ?」
『おいレン……!』
あぁ、このままだと俺も星にされる。恐らく、さっき4人で押したスイッチを、今は有咲が1人で握ってるんだ。
「なぁ、有咲!頼むから考え直してくれよ!俺たち友達だろ?まさか友達であるこの俺を騙し討ちで今から空へ打ち上げるなんて、そんな酷ぇことはしねえよなぁ?そんなのは外道の極みってやつだよなぁ?おい有咲!?おい!!」
『さっきは随分と楽しそうだったなぁ……!』
「ヒイィィィ!!!」
『もっと楽しんでくれよ!』
「おい美咲!香澄!こころ!誰でもいい!『スイッチ』を押させるな──ッ!」
『いいや限界だ押すね!今だッ!』
『ごめんレン。面白いから却下で』
「この裏切りもんがあああああぁぁぁ!!」
カチッ
ゴオオオオオォォォォォォォォ!!!!
「覚えとけお前ら!絶対に許さねえからな!」
『アリーヴェデルチ(さよならだ)』
そんな有咲の言葉を最後に、俺は空へと打ち上げられた。
ミッシェルの中は狭くて、自分の悲鳴がよく響く。
「ぎにゃああああああぁぁぁぁ!!!」
正面の画面には、真上から見下ろす街並みがあった。
あまりもの高さに最初は震えあがっていたが、どんどん小さくなる街並みを見ているうちに、感覚も変わっていった。
「(ここまで高いと、『高い』というか、『遠い』って感覚だな……)」
暗くなった街並み、その中で灯る街灯や住宅から漏れる光。その中を歩く、あまりにもちっぽけな人々。
そんな人々の一つひとつ営みが、この夜景を築いていた。
俺は満点の夜空を泳ぎながら、そんな当たり前のことへの感動を覚えた。
この日、今井レンは『星』になった。
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【とある2人組の自主練の帰り道】
「あ、見て友希那!流れ星!」
「本当ね。…………でも、ちょっと近くないかしら?」
「気にしない気にしない!折角だし何かお願いしようよ。Roseliaの活躍とかさ」
「リサ。それは私たちが自力で勝ち取るものでしょう?」
「それもそうか。じゃあ、アタシたちがみんな仲良しでいられますようにって感じでいいか」
「そうね。あの一条の流星に誓いましょう。私たちの絆を」
この日、街の中ではあまりにも距離が近い流れ星が2回ほど観測されたという。
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【花咲川学園、掲示板前】
『宣言達成!市ヶ谷有咲、星になる』の見出しで書かれた記事はかなりの注目を集めた。
有咲のリアクションもしっかり画像のデータを黒服さんから頂いたので、しっかり使わせて頂いた。
今は人が少なくなったので、有咲と一緒に記事の確認をしている。
「好き勝手に書きやがって」
「星になったのは事実だろうが」
「あんなの数に入るかよ」
「有咲」
「ん?」
「……あの時は、騙してごめん。流石に調子乗りすぎた」
「お前って、ホント悪に染まりきれないやつだよな。いちいち謝るなよ。なんだかんだ最後は楽しかったし」
「そっか」
「なんか奢れよ。今日の帰り」
「ん」
「ならいい。んじゃそろそろ教室行こうぜ」
「おう」
そんな他愛もない会話と共に、俺は前で揺れるツインテールの後ろ姿を追いかけながら、騒がしい日常から、また穏やかな日常へと戻っていくのだった。
今回のリクエストは『キャラはおまかせ。新聞にするためにドッキリ企画を行って、レン君に仕返しがあると尚良し』でした。
『takassaky』さん。対戦ありがとうございました。
今年の正月に送られてきたリクエストなので、もしかしたらリク主さんは覚えてないかもですがね。
それにしても『仕返し』って。みなさん、もしかしてレン君が痛い目に遭うのが好きやったりとかします?
あと、つくしちゃんの話を書いた時に、『2人とも可愛い』って感想が届くんですけど、レン君が可愛い時とか、ありましたっけ?
そして、リクエストを見てみると、やっぱり甘々なシチュやデート的な話の要望が殆どなんですけど、この話みたいに友人とバカやる系シチュって求められてなかったりします?
【ガルシチュこそこそ裏話】
料理する系のシチュを書く時は書く前に作者がちゃんと話に出す料理を作っている。
そうした方が料理音痴あるあるの解像度が上がる気がするから。
【作者のヒミツ】
実はそこそこの料理音痴。
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