ガールズバンドとシチュ別で関わっていく話   作:れのあ♪♪

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 今回は4000文字、ちょっと短め。



82.チュチュに見つかるシチュ

 

 江戸川楽器店、この店は楽器店という看板を掲げてはいるが、売っているのは楽器だけという訳でもない。

 音楽関係の雑誌や、音楽に関するグッズなら大抵は揃っている。

 そして俺は、ギターの弦を見に来たついでに他のコーナーを見ていた折、そこでとんでもないものを見つけてしまった。

 

「ネコ耳が付いた……ちょっと良さげなヘッドホン……」

 

 マズい。学校帰りにちょっと寄っただけなのに、とんでもねぇモノが売られていやがった。

 

「まぁ、流石に買わないけどな……」

 

 だって見るからに上質なやつだし、値段を見てみたら麻弥さんがコラムでおススメしてたヘッドホンよりも高い。

 俺も貯金はある方だが、あまり無駄遣いは出来ない。

 

「うん。買わない買わない……」

 

 そもそもネコ耳が付いたヘッドホンが俺に似合う訳がない。

 男がつけたって仕方ないのだ。

 こいうのは、もっと可愛い感じの女の子がつけてこそのものなのだから。

 それこそ、チュチュみたいな……。

 

「チュチュ……みたいな……」

 

 ある意味、俺の憧れで、俺の恩人。

 誰よりも小さくて、誰よりもカッコいいあの人……。

 

「気にはなるな……」

 

 もとより男子という生き物は、ヒーロー帽みたいなグッズには目がないのだ。

 憧れの人が身に着けているものと同じものがそこにあれば、やっぱり惹かれるものがある。

 しかも多分これ、チュチュが使っているやつの最新モデルだ。本人が使ってるヘッドホンとは色が違うが、形状はかなり似通っている。

 こんなものが店頭に並んでいる光景は珍しい。

 この機を逃したら、知らない内にお目にかかれなく……なんてこともあり得る。

 

「(チラッ……?)」

 

 商品のサンプルはある。

 棚の横には小さな鏡もある。

 

「つけるだけ……一瞬つけてみるだけだから……」

 

 ネコ耳ヘッドホンのサンプルを手に取り、頭につけて小さな鏡を覗き見る。

 

「……」

 

 鏡の中に映っていたのは、似合いもしないネコ耳ヘッドホンをつけている男子高校生の恥ずかしそうな表情。

 そしてその後ろから面白そうに様子を眺めている小柄な少女。

 

「なっ、お前!!」

「Hi.レン。元気そうね」

 

 振り返ると俺の恩人がすぐそこまで近寄っていた。

 ズンズン、ズンズン歩いてくる。

 急いでヘッドホンを外す頃には目と鼻の先にいて。

 あれっ、近くない?

 

「それにしても……」

 

 まだ近付いてくる。

 後ずさっているのにまだ近付いてくる。

 棚に背中が当たって俺はもう逃げ場が無いというのにまだ近付いてくる。

 

「随分と可愛いことをしていたわね?レン」

「……なんのことだよ?」

「そのヘッドホンの前でドギマギしてる現場ならバッチリ目撃してるけど?」

「うっ……」

 

 一番見られたくないやつに見られた。

 

「そうだったのか。じゃあ忙しいから俺はここで──」

 

 ドンッ

 

「(これは、壁ドンならぬ棚ドン……!?)」

 

 逃げられなくなった。

 

「ダメじゃない。目的も無くワタシから逃げるなんて」

 

 チュチュが俺の上着の襟首を掴み、無理やり引き寄せて目線を合わせてくる。

 マズい。こんなことされたら夢女子になる……!

 

「アナタって本当にワタシのこと好きよね」

「そうだよRASの中では最推しだよ。分かってるならからかうのやめろよ」

「良いのかしら?RASのメンバーから壁ドンされるなんて貴重なシチュエーションだと思うけど?」

「くっ、うるさいぞ……!」

 

 正直、満更でもない。

 チュチュの眼光がすぐ近くで俺を射抜いているというだけでもなんか色々とヤバい。

 なんで上目遣いなのにこんなにカッコいいんだよコイツ。

 近いし、なんか顔も熱くなってきたし……。

 

「アナタ、いつもライブに来てくれてるわよね。感想だって送ってくれるし、これでも感謝してるのよ」

「感謝してるなら離せよ」

「ダメよ。今からやるのはお礼も兼ねたファンサービスなんだから」

「ファンサ……?」

「えぇ。たっぷり可愛がってあげるわ」

 

 このドS、俺が屈んでいるのをいいことに耳元で囁き始めた。

 

「ワタシ、ライブ中でもアナタのことちゃんと見えてるのよ?」

「嘘だ。あんなに観客がいるのに、そんな……」

「DJって観客席がよく見えるのよ。この前『チュチュ命』って書かれたTシャツ着てたでしょ?」

「くっ……。そっ、それがなんだよ?変態だとでも言いたいのか?」

「こんなに愛してくれてアリガト♡」

「(トゥンク……♡)」

 

 マズい。耳元で最推しに囁かれる破壊力を見くびっていた。

 そこらのASMRなんて比較にならない。ヘッドホン越しなんかじゃなく、リアルで、細やかな吐息まで感じ取れてしまう。

 あぁ、自分の性別が男でよかった。女だったら間違いなく陥落して夢女子にされてしまっていたことだろう。

 あと認知されてて嬉しい。

 

「そういえば、棚に戻しちゃったさっきのヘッドホン、買わないの?ほら、ワタシが使ってるヘッドホンあるでしょ?アレはそれを作った会社が出した最新モデルなのよ?」

「買わないよ。高いし、俺には似合わないし」

「ふぅん。素直じゃないんだから」

「こら、耳を攻めるな──」

「買い終わったらサインしてあげようと思ったのに♡」

「買います」

 

 あぁ、いけませんチュチュ様。

 これ以上ファンの脳内を破壊するのはおやめ下さい……。

 あと、襟首を掴まれて強制的に逃げ道を塞がれている感じがハッキリ言って最高です……。

 

「聞いたけどアナタ、ギターの練習もちゃんと続けてるみたいじゃない?」

「そりゃあ、好きだからやってるけど、それが何だよ?」

「ふぅん……」

 

 ・・・

 

「まだ頑張ってるのね」

 

 嬉しくない。嬉しくないんだ。

 いくら誉め言葉に弱いからって絆されるな今井レン。

 

「レン……」

 

 屈しない。俺は決して屈しな──

 

「応援してるわよ♡」

「アッ──」

 

 そこからはもう、あまりにも強烈過ぎて覚えていない。

 

 

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 一悶着あった後、俺はチュチュと一緒に店の外へ出た。

 ギターの弦と、チュチュのサイン入りヘッドホンを携えながら。

 お陰で財布が軽い軽い。

 

「それにしても、せっかく買ったのにサインなんか書かれたらもったいなくて使えないだろ。どうすんだコレ……」

「ちゃんと使いなさいよ。サインが掻き消えてしまうぐらいに使い込んだら、その時はまた書いてあげるから」

「チュチュ……」

「ギターの練習でも使いまくるんでしょ?それ」

「男なのにネコ耳なのも抵抗あるし……」

「あら。せっかくワタシとお揃いなのに。似合ってたわよ?」

「似合ってないから」

 

 でもお揃いは嬉しい。

 音楽へのモチベがブチ上がりそうだ。

 似合うかどうかは知らないが。

 

「ありがとな。チュチュ。大事にするよ。音楽の師匠から、こんなにいいものを貰えるなんて嬉しいよ」

「別に師匠じゃないでしょ。ギターを教えたのはマリナじゃない」

「そうだな。確かにギターの師匠はマリナさんだけど、でも音楽の師匠はやっぱりチュチュなんだよ俺の中ではさ」

「レン……」

「ギター弾くようになってから世界が更に広がった気がするんだよ。やる側に立たなきゃ話せない話題があって、やる側に立たなきゃ見えなかった景色があって……」

 

 取材に役立つ知識やバイトに活かせる経験も生まれたし、バンドマンと楽器について語り合う楽しさを知ることも出来た。

 そしてそれが出来るのは、過去の鎖に縛られた俺を音楽の世界へ引っ張り込んでくれたチュチュのお陰だ。

 

「だから、チュチュ。本当にありがとう」

「何よ。ヘッドホンのコーナーであんなに面白いことになってたくせに……」

「それはお前のせいだろうが。なんだよ素直に感謝してやったのに」

「それに、ワタシだけが感謝されるのも、なんか違う気がするのよね。アナタはもっと多くの人に支えられる存在だったでしょう?多くの人を支えようと奮闘してきた結果として得られたその人徳こそがアナタの武器じゃない」

「まぁ、確かにな」

 

 人徳、と言われても実感は持ちにくいが。

 

「師匠だってチュチュやまりなさんだけじゃないからな。勉強の師匠は紗夜さんだし、タイピングの師匠は燐子さんだったりするし」

「師匠、多いのね……」

「ちなみに彩さんは人生の師匠☆」

「大きく出たわね」

「ふふーん。俺の人徳はそういうカッコいい人達が作ってくれたもんなのさ。当然、お前も含めてな」

「変なこと言うのね。ワタシなんて、『カッコいい』よりも、『チビ』とか『可愛い』の方がよく言われるのに」

「分かってないな。そういう可愛い系の小っちゃいヤツがデッカいことやろうとしてるその姿がカッコよくてシビれるんだろうが」

「ちょっと理想ばっかり見過ぎじゃない?ワタシだってカッコいいだけの人間じゃないわよ?」

「それでいいんだよ。勘違いしちゃいけないが、誰だってカッコ悪いことをやらかすことはあるんだ。心が迷ったり、決断が出来なかったり、だから大事なのは、そこから巻きなおせるかどうかだろ。チュチュが、今までそうしてきたように」

「それは、アナタにも言える部分があると思うけど?」

「そうか?じゃあやっぱりお前が師匠で良かったよ。俺はチュチュのそういう所を本当に尊敬しているんだ。ステージでカッコよくラップパートで観客を煽ってるチュチュも好きだけど、上手くいってない時に解決策を模索してるチュチュも好きだからさ。だから俺は……いや、俺以外のファンだって、お前の小さな背中に夢を見るんだよ」

 

 そうだ。本当にチュチュが『小っちゃくて可愛い』だけの少女であったなら、俺はこんなに焦がれる想いを抱きはしなかっただろう。

 

「だから、重ねて言うけど、本当にありがとう。俺に夢を見せてくれて……俺の師匠でいてくれて、本当にありがとう」

「好き勝手言うわね。そもそもワタシ、アナタを弟子に取った覚えは無いわよ?」

「それでいいんだよ。俺が勝手に憧れてるだけだからさ。だから少なくとも俺の中では師匠だよ」

「はぁぁ~~~~……」

 

 大きなため息。迷惑だったか?

 そう思った頃にはチュチュは既に歩き出していて、そのまま俺の肩を叩いてきた。

 

 ドンッ

 

「うどん食べに行くわよ」

「アイコピー!!」

 

 この後の支払いは、チュチュの奢りだった。

 ヘッドホンのせいで空っぽになった財布を気遣ってくれたらしい。

 

 やっぱりチュチュは俺の憧れで、ヒーローで……。

 

 そして、ずば抜けてカッコいい師匠なのだ。

 




 
 やっぱり書き始めとオチの付け方が未だに難しいね。
 誰か、コツ教えてください。

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