《竜》の満ちる世界 作:UNKNOWNと戦いたい
城塞都市、エ・ランテル。
「戦士長!」
「蒼薔薇の方々も、よくぞ生きて!」
門へと接近するや否や、兵団が総出で出迎える。
森に近い村々からの避難を行っていた、エ・ランテルの兵団と王国戦士団の二つだ。
「随分と慕われているのですな、皆様は」
「モモンガ殿には劣りますよ」
はははと笑い合い、しかし直ぐに、ガゼフは意識を切り替える。
「皆、ありがとう。だが、私たちが生きているのは、この御方々のお陰だ」
と、ガゼフは堂々とした振る舞いで、モモンガたちを部下たちに紹介。
口々に感謝の言葉を述べる彼らにデミウルゴスたちが気を良くする中、モモンガは背後の者たちへと振り返る。ガガーランと、蘇生兼回復役として残っていた神官戦士、ラキュースが左右に退けば、大仰な台車とそれを引くアンデッドに運ばれるクシャルダオラの姿が。
「な!?こ、古龍を!?」
「ああ。凄まじい方々だよ、本当に」
「しかも、特異個体の剛種ときた。私たちだけなら、全滅は避けられなかっただろうな」
イビルアイの言葉に、王国戦士団の顔色が青くなる。
「も、モモンガ殿………本当に、本当にありがとうございます!」
「貴殿が居なければどうなっていたか………想像もしたくありません」
打算ありきなので大丈夫です、と馬鹿正直に口にできる程、モモンガも無神経ではない。だが、同時に心からの感謝に対し、そんな自身への恥じらいや罪悪感を抱かない程厚顔無恥でもなく、一言一言がその心に突き刺さっていく。
「そ、それよりもだな!今回の件、早急に報告するべき事態なのだろう?」
強引に話題を変えにかかれば、イビルアイの纏う空気が一変。
「そうだ。特異個体というだけでも問題なのに、その上剛種ときた」
「それほどまでに、希少なのか?」
「希少というのもそうだが、危険なんだ。特に剛種は、見た目で判別がつかないから、尚更」
違いが判らない彼らでも、あのクシャルダオラの強さは理解できた。
「成程………強弱の区別が難しい、というのは問題だな」
「ああ。何より、古龍自体強力なせいで、尚更に難しいんだ………歴戦王は、また別なんだがな」
不穏な単語にモモンガが凍り付き、ラキュースたちが呆れる。
「それは大陸南東の話でしょう?」
「だが、滅尽龍は古龍を喰らう古龍だ。行動圏も広い以上、油断は出来ん」
猛烈に嫌な予感を覚え、モモンガはその話題を無視して話を続ける。
「王都まで、案内できる者は居るか?居るのなら、私が先行して転移魔法でこちらと繋ぐが」
「そんなことが出来るのですか!?」
ガゼフたちが驚く中、沈黙を保っていたデミウルゴスが大きく頷く。
「当然です。至高なる御方ならば、その程度造作もない」
「よせ、デミウルゴス………それで、出来る者は?」
「私が転移魔法で送ろう。それが一番確実だ」
と、イビルアイが名乗りを上げれば、モモンガも同意。共に転移してから、数秒程してから漆黒の靄が生じ、そこからイビルアイが飛び出してくる。
「これは凄いな………と、ついて来てくれ!」
その指示に従い、王国戦士団はエ・ランテルの者たちに礼を述べてから、過半数がデミウルゴスたちと共に続く。そこにあるのは、荘厳ながらも、それ以上に確かな実用性を併せ持つ見事な宮殿であり、分厚い城門、城壁を含む諸々を駆使すれば、空からの敵襲以外であれば大きく抑えることが出来るだろう。
その出来栄えには、人間にしては素晴らしい、とデミウルゴスが笑みを浮かべる程だ。
「お前たちは、ここで古龍の警備を。私は蒼の薔薇の方々と共に、陛下に報告に向かう」
そう告げ、ガゼフたちの顔パスで城内に踏み入った四人は、彼らの先導の下奥へと通される。
ガゼフが会議室の扉を開けば、視線が一気に集まるのを視覚と雰囲気の双方で察知できた。
「ガゼフ・ストロノーフ、只今帰還いたしました!」
「『蒼の薔薇』、同じく依頼を完了、帰還致しました」
瞬間、貴族たちから歓声が上がり、最奥の老王は思わず立ち上がり、体勢を崩す。
「よくぞ無事で………おおっ!?」
「父上!?無茶はなさらないでください!」
慌てて諫めるのは、屈強な体格の第一王子、バルブロ。
老王には、左膝から下が無かった。
「それで、そちらのアンデッドは………」
「我らの恩人、モモンガ殿でございます」
「異常気象の原因がクシャルダオラ、というのは当たっていたが、錆びていた上特異個体の剛種、と最悪のオンパレードでな。私たちと、現地で共闘した陽光聖典だけでは、確実に全滅していた。彼らが居なければ、そのままエ・ランテルが滅びていたやもしれない」
イビルアイの言葉を、疑う者は居ない。
「イビルアイ殿が仰るのならば、その通りなのだろう。改めて、礼を言いたい」
「このような場で、満足なもてなしも出来ずに申し訳ない。終わり次第、改めて準備を」
「いえ、そのような気遣いは必要ありません。今私に必要なのは、この周囲の情報ですので」
それは、幸運であり、不運でもあった。
幸いなのは、過酷極まる環境の最中にある彼らは、真っ当な人間であるということか。
「そうだ、それを忘れる訳にはいかなかったな………ガゼフよ、モモンガ殿の席を」
「それなら、ご心配なく。《
と、モモンガが人数分の椅子を用意。驚嘆が場を支配する中、促された者たちが腰を下ろしてからすぐに、謎の大マジックキャスターについて何を言うでもなく、会議が再開される。それにデミウルゴスたちが不快感を示すも、彼らを軽視しているのではなく、それだけ重大な事態が起きている、ということなのだが―――
「ではまず、我がリ・ボウロロールの南東………最悪に近い報せとなりますが」
「構わぬ。教えてくれ」
暫しの躊躇いを見せ、意を決した隻腕隻眼の貴族、ボウロロープ侯が口を開く。
「砦蟹が、目撃されました。しかも、報告が正しいならば剛種であります」
「なんと………!?」
「私からも、申し上げねばならないことが」
険しい表情を向けるのは、ボウロロープ侯と並ぶ大貴族のブルムラシュー侯。
「アゼルリシア山脈近郊にて、多数の爆発が確認されました。砕竜、或いは爆鱗竜と思われ、現在採掘作業を全面的に停止中。我が領地の選りすぐりの冒険者による調査の準備を進めておりますが、最悪数年は閉鎖となるかと」
「むぅ………」
リ・ブルムラシュールの鉱山の主産物は、金とミスリル。剛種相手に心許ないとはいえ、一般的な冒険者たちには貴重な武具の原料ともなる。それを採掘できないとなれば、それだけ軍に次ぐ対モンスター戦力である冒険者にとって、苦しい事となる。
「悪いことは重なる、と言うが………リンデ海で、海竜の影だ。しかも、
騒然となる会議の中、モモンガはおずおずと手を挙げ、疑問を投げかける。
「申し訳ない。こちらについて、大分疎いものでな。出来る事なら、それぞれ教えて貰いたい」
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥という。何より、情報は重要なのだ。
「これは失礼した。砦蟹というのは、その名の通り砦の如き巨躯を誇る甲殻種モンスターだ。またの名を、シェンガオレンとも呼んでいるが、厄介なのは単純に大きなことと、アダマンタイトを大きく凌駕するその甲殻の強度、そして比類なき強酸のブレスだ」
アダマンタイトは柔らかいんだけどなぁ、と思うモモンガだが、馬鹿正直に言いはしない。
何より、それで侮ることが出来る訳ではない、というのは、剛種との交戦経験で学んでいる。
「目撃例は非常に少ないが………もしや、山に隠れていたのやもしれんな」
「何より、撃退しか出来ていなかったのが痛いな………まさか、剛種にまでなられるとは」
イビルアイが苦々しく表情を歪め、続けて他のモンスターについて語る。
「次に、砕竜だな。こいつはブラキディオスとも呼ばれて、爆発により胞子を散す特殊な粘菌との共生を成し遂げている獣竜種だ。こいつらの前足は腕同然に発達していて、他の獣竜種より攻撃に特化した形状だ。どの程度の個体かによるが、大都市でも危うい」
「爆発とはまた………」
「で、これ以上に厄介なのが爆鱗竜、バゼルギウス。名の通り、爆発する液体を固めた特殊な鱗を形成する能力を持っていて、狩りや攻撃の際にこれを撒き散らし、攻撃に転用する。飛竜種と呼ばれる、かつて存在していたワイバーンに近いモンスターで、飛行能力もかなり高い。この二種に共通しているのは、灼熱から寒冷まで適応できる生命力だな」
成程、聞くだけでも頭が痛くなりそうなほどに、面倒な能力を持っている。
「で、次に海竜。名の通り海竜種を代表するモンスターで、ラギアクルスとも呼ばれるが」
そこで言葉を切り、ウロヴァーナ辺境伯、ナイウーア伯爵へと目を向ける。
「確かなんだな?」
「うむ。現場に残された鱗も、持ち寄っている」
と、テーブルに白い鱗を置く。
「………亜種までか。肥沃な土地というのも考え物だな」
「亜種とは?」
「その名の通りだ。体色や攻撃手段が通常と異なる連中だが、白海竜は別の意味で厄介だ」
と、付近の貴族から会議用の地図を拝借し、リンデ海を指さす。
「まず第一に、海竜の多くは名の通り、海を含む水辺に生息している」
「ふむ」
「この時点で、水中での戦闘に長けた者でなければ対処が難しい場合が殆どだが、充分な実力さえあれば、地上に居る間に仕留めることも出来る程度には、地上での活動が苦手な者が多い。無論、例外は居るが………中でも厄介なのが、ラギアクルスの亜種、白海竜。こいつは地上でも高い戦闘力を発揮できる上、原種同様水中でも凶悪だ。その異名は、『双界の覇者』」
たった二百年といえど、蓄積された知識は莫大であるし、大陸中央部に居た為、こちらには無い知識なども多い。だからこそ、
「双界の、覇者………」
「ただのラギアクルスなら、水揚げして空から攻撃すれば終わるんだが、亜種はそうはいかない」
「それは、確かに厄介だな………」
「ああ。恐らく、漁業は当面できないし、港も閉鎖だろう」
「………我々なら、勝てるか?」
イビルアイにモモンガが問えば、期待の視線が集まる。
「恐らくは。だが、どれ程の相手か不明瞭である以上、単独は避けるべきだ」
彼は知らないが、この世界に無効耐性というものは殆ど消えている。アンデッド固有の一部耐性は兎に角として、基本属性や物理、魔法への無効耐性は単純な防御力強化としてしか機能しておらず、炎や電気、冷気への無効耐性があったところで、それが齎す副次効果を打ち消せるのみだ。
「成程。この中で最たる脅威は、シェンガオレンとやら、ということでいいんだな?」
モモンガの確認に、イビルアイの表情が一気に暗くなる。
「ああ、そうだ………剛種、古龍級生物の剛種、それも二体目………ああ、最悪だ」
頭を抱える彼女に、ラキュースとガガーランの二人が顔色を変える。
「まさか、とは思うけど」
「そのまさかが、実現しかねないんだ。ヤツは古龍以外にも、強力なモンスターを狙う存在だ」
これについて、王国側は緊張する以上の反応が出来ない。
なにせ
「おいおい、そのヤツってのは」
「滅尽龍、ネルギガンテ………私の故郷インベリアを滅ぼした、真なる竜王を
インベリアが何なのか、知る者は皆無。だが、これまでと違い、年頃の少女のようにか弱く儚いイビルアイの様子から、緊急事態であることだけは、モモンガですら理解できた。気になる単語の山であるが、モモンガが優先するべきは、その滅尽龍の詳細だ。
「嫌な事を思い出させるようですまないが………私たちでも、勝てないか?」
がばりと顔を上げたイビルアイは、白骨の顔を見上げ、静かに語る。
「クシャルダオラを仕留めた奥の手を使えば、或いは。だが、そこまで凌ぎ切れるかが問題だ」
「私たちでは、不足と?」
セバスの声は、しかし覇気に乏しい。クシャルダオラに不覚を取り、モモンガを護り切ることが出来なかった事実が重くのしかかっており、デミウルゴスもそれを弱気とは言えず、コキュートスも神妙な空気を纏い沈黙している。
「奴は歴戦王、と私たちの国で称されていた個体だ。全身に輝きを帯び、黒銀の金剛棘を持つ古龍で、災害規模の影響力を持たない代わりに、身体能力と再生能力を極限まで高めた古龍だ。危険なのはこの再生能力と、それが主に発揮される棘が肉弾戦での脅威になる事と、奴自身の機動力も侮れないことだ」
「………そこまでか」
「あの光景を見せることが出来れば、納得もしてくれるさ」
巨大なドラゴンを相手に、体格差を物ともせずその剛腕一つで組み伏せ、その爪牙と腕力のみで一方的にねじ伏せ、叩き潰し、その末に殺害、捕食し尽くした怪物。この世界における究極の力である、始原の魔法による悍ましい
「あれに並び得るのは、王国と帝国を割る原因となった、刻竜くらいなものだ」
「その来襲を抑える為にも、早々にシェンガオレンを討伐しなければなりませんな」
強引にそう纏めたレエブン侯へと、視線が集まる。
「かの超巨大モンスターを相手に、近接戦は無意味だ。遠距離武器の使い手を集めるぞ!」
「魔法はどうする?マジックキャスターなら、空からも攻撃できるのではないか?」
「奴の剛種は理論上予想されていたが、耐性含め未知が多い。数を集める他ないだろう」
「過去の移動ルートを洗い出すぞ。レエブン侯、ブルムラシュー侯、手を貸して欲しい」
第一目標が決まり次第、会議の方向性も定まる。
「モモンガ殿、どうか手を貸して欲しい。我らに可能な範囲であれば、如何なる報酬も出そう」
「水臭いですな、王よ。これは我が国未曽有の危機、我らもまた、財を惜しみませんぞ!」
「私も、愛する妻と我が子の為、叶う限りの報酬を用意いたしましょう」
そして、その結びつきも非常に強固だ。
「では、そうですな………私が仕留めた、あの古龍の亡骸を頂きたい」
そんな彼が吹っ掛けた条件は、普通に考えれば、絶大にも程があるものであった。
★設定
・冒険者『蒼の薔薇』
女三人で構成された冒険者チーム。この世情である為、暗殺未遂が起きていない。
・ランポッサⅢ世
過去の戦いで左足を喪った王。全盛期は強かった。
・ボウロロープ侯
領地を護るべく奮戦した若き日に、とあるモンスターに敗れ左の腕と目を喪った。
・耐性スキル
物理、魔法への無効耐性は、純粋な防御強化に。
属性の無効耐性は、その属性ダメージの減衰に関与。また、その属性の副次効果を無効化。
毒、麻痺、眠り等への無効耐性、アンデッドの固有耐性は健在。
・歴戦王
大陸中央付近で確認された、一部の強力な古龍。剛種と異なり、視認でも判別は可能。
辺境では確認されていない。また、この呼称が用いられるある古龍が、真なる竜王を滅ぼした。
・刻竜
伝説の古龍と同じ発音で呼称されるモンスター。
王国と帝国が別たれた元凶。二百年前に来襲し、何かがあった様子。